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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】細胞識別装置及び細胞識別方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20230106BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20230106BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230106BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
G01N21/27 A
G01N21/64 Z
C12M1/34 B
C12Q1/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019148586
(22)【出願日】2019-08-13
(65)【公開番号】P2020034551
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2018157575
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】山下 太郎
(72)【発明者】
【氏名】磯本 一
(72)【発明者】
【氏名】松本 和也
(72)【発明者】
【氏名】植木 賢
(72)【発明者】
【氏名】上原 一剛
(72)【発明者】
【氏名】矢野 学
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 博文
(72)【発明者】
【氏名】河原 直樹
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-203015(JP,A)
【文献】特開2017-203637(JP,A)
【文献】特開2016-99253(JP,A)
【文献】特開2013-213756(JP,A)
【文献】特開2015-225070(JP,A)
【文献】特開2012-8027(JP,A)
【文献】特開2016-186452(JP,A)
【文献】特許第5372137(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/74
G01J 3/00-G01J 4/04
G01J 7/00-G01J 9/04
G01N 33/48-G01N 33/98
C12M 1/00-C12M 3/10
C12Q 1/00-C12Q 3/00
A61B 9/00-A61B 10/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取した検体に白色光を照射して、前記検体からの反射光としての分光スペクトルを取得する分光スペクトル取得部と、
得られた前記分光スペクトルに基づいて、前記検体に含まれる細胞について、血液細胞と組織細胞とを識別する細胞判定部と、
を含み、
前記細胞判定部は、前記分光スペクトルを、血液細胞と組織細胞との波長500nm~800nmの範囲のスペクトルの各リファレンスデータと対比し、
前記分光スペクトルを前記各細胞のリファレンスデータの線形和として表し、最小絶対値法によって前記各細胞の割合を得る、細胞識別装置。
【請求項2】
前記細胞判定部において、赤血球と、腺管とについての波長500nm~800nmの範囲のスペクトルを前記分光スペクトルと対比するリファレンスデータとして用いる、請求項1に記載の細胞識別装置。
【請求項3】
前記リファレンスデータとして、さらに、脂肪又はフィブリンと、慢性炎症と、バックグラウンドとについての波長500nm~800nmの範囲のスペクトルを用いる、請求項2に記載の細胞識別装置。
【請求項4】
前記分光スペクトル取得部は、
前記検体に白色光を照射する光源と、
前記検体からの反射光を分光する分光器と、
前記検体からの反射光を撮影するカメラと、
を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞識別装置。
【請求項5】
前記検体からの反射光を撮影したデータは、2次元画像であり、
前記分光スペクトル取得部は、前記2次元画像の各画素ごとの分光スペクトルを取得し、
前記細胞判定部は、前記2次元画像の各画素に含まれる細胞について、血液細胞と組織細胞とを識別する、請求項4に記載の細胞識別装置。
【請求項6】
前記2次元画像の各画素に含まれる細胞ごとに区別して異なる色、模様又はキャラクタを割り当てる識別表示部と、
前記細胞ごとに割り当てられた色、模様又はキャラクタで、前記2次元画像を表示する表示装置と、
をさらに含む、請求項5に記載の細胞識別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体に含まれる細胞について血液細胞と組織細胞とを識別する細胞識別装置及び細胞識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌等の病変の疑いがある場合、生体から検体を採取して検査を行う。この場合に、採取した検体が目的としたものと異なる場合、その検体を用いて診断を行ってしまうと正しく治療の選択ができない可能性がある。そこで、採取した検体は、病理診断に先だって目的の組織細胞が含まれているか事前に確認される。この確認によって、採取した検体に病理診断の目的となる組織細胞が含まれていない場合には、組織細胞が得られるまで複数回にわたって検体を採取しなければならない場合がある。しかし、従来、検体に組織細胞が含まれているかの確認は専門の病理医が必要に応じて行っており、確認には一定の時間を要していた。このため、再度の検体採取まで日数を要する場合があり、時間的なロスと共に、患者及び医師への負担が大きかった。なお、検体には、赤血球等の血液細胞が含まれることが多く、組織細胞との識別が必要とされている。
【0003】
そこで、採取した検体について、病理医による確認によらず、簡易に組織細胞の有無の判定及び血液細胞と組織細胞とを識別できることが求められている。
【0004】
なお、生体表面に白色光を照射し、生体表面からの分光スペクトルの多変量解析から少なくとも第1、第2、第3主成分を求めて2次元マッピングすることが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、天然アミノ酸である5-アミノレブリン酸(以下、「5-ALA」と略する。)を用いた消化器系癌検出方法について、635nmと675nmとの分光ピーク強度により判定することが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
さらに、癌細胞を検出するためのスペクトル画像化方法において、染色した分析試料についてのスペクトルアルゴリズムの例として各ピクセルでの強度類似性を用いてマッピングすることが知られている(例えば、特許文献3参照。)。この場合、最小2乗誤差計算を使用して、そのピクセルが最も類似している対照スペクトルに従って予め選択した任意の色を与えている。
【0007】
またさらに、赤外線スペクトルパラメータのピーク高さや幅を比較することで、癌細胞とその状態を判断することが知られている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2005/079661号公報
【文献】WO2013/002350号公報
【文献】特表2001-525580号公報
【文献】特表平11-507133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1の方法では、皮膚等の生体表面にしか適用できず、採取した検体には適用できなかった。
また、上記特許文献2の5-ALAを用いた癌判定は有効な方法であるが、例えば、腺管のように癌細胞でなくても同様の蛍光ピークを有する場合があり、判定ができない検体がある。
さらに、上記特許文献3の場合、あらかじめ分析試料を複数の染料で染色しなければならず簡易に行うことができない。
またさらに、上記特許文献4の方法では、個別にスペクトルを対比して判断するのみであって複合的な状態を判断することができない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、採取した検体について、簡易に組織細胞の有無の判定及び血液細胞と組織細胞とを識別できる細胞識別装置及び細胞識別方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る細胞識別装置は、採取した検体の分光スペクトルを取得する分光スペクトル取得部と、
得られた前記分光スペクトルに基づいて、前記検体に含まれる細胞について、血液細胞と組織細胞とを識別する細胞判定部と、
を含む。
【0012】
本発明に係る細胞識別方法は、採取した検体に白色光を照射して前記検体の分光スペクトルを取得する分光スペクトル取得ステップと、
得られた前記分光スペクトルに基づいて、前記検体に含まれる細胞について、血液細胞と組織細胞とを識別する細胞判定ステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る細胞識別装置及び細胞識別方法によれば、採取した検体について、病理医による確認を必要とせず、簡易に組織細胞の有無の判定及び血液細胞と組織細胞とを識別できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1に係る細胞識別装置の構成を示す概略図である。
図2】実施の形態1に係る細胞識別装置のブロック図である。
図3】実施の形態1に係る細胞識別方法のフローチャートである。
図4】実施の形態1に係る細胞識別装置の細胞判定部を実現するプログラム及び細胞識別方法の細胞判定ステップのフローチャートである。
図5】実施の形態1に係る細胞識別装置の腫瘍判定部を実現するプログラム及び細胞識別方法の腫瘍判定ステップのフローチャートである。
図6】実施の形態1に係る細胞識別装置における腫瘍判定のフローチャートである。
図7】実施の形態1に係る細胞識別装置の細胞割り当て部及び表示装置での表示を実現するプログラム、並びに、細胞識別方法における細胞割り当てステップ及び表示ステップのフローチャートである。
図8】血液細胞と組織細胞との波長500nm~800nmの範囲のスペクトルの各リファレンスデータを示す図である。
図9】腫瘍である癌細胞を含む癌組織に該当する画素について、複数回の測定ごとの分光スペクトルを示すグラフである。
図10図9の分光スペクトルの波長ごとの強度、領域の平均強度、又はその比について、1回目の測定値を1として、測定回数ごとの測定値の1回目の測定値に対する比の変化を示すグラフである。
図11】癌細胞を含む3種類のサンプルの分光スペクトルの630nmの強度と、670nm-700nmの範囲の平均強度とについて、1回目の測定値を1として、測定回数ごとの測定値の1回目の測定値に対する比の変化を示すグラフである。
図12】非腫瘍(グループ1)と腫瘍のひとつである癌(グループ5)のサンプルの分光スペクトルの670nm-700nmの範囲の平均強度について600nmの強度を基準とした比の値の分布を示すグラフである。
図13図12でグループ5に属するサンプル3、4において、癌細胞の領域を斜め格子で示す概略図である。
図14】非腫瘍(グループ1)と腫瘍(グループ3)のサンプルの分光スペクトルの670nm-700nmの範囲の平均強度について600nmの強度を基準とした比の値の分布を示すグラフである。
図15図14でグループ3に属するサンプル3,4において、腫瘍の領域を斜め格子で示す概略図である。
図16図15のサンプル3、4の組織の可視光による写真である。
図17A図6の腫瘍判定ステップによって腫瘍であると判定された分光スペクトルである。
図17B図6の腫瘍判定ステップによって腫瘍でない(非腫瘍)と判定された分光スペクトルである。
図18】実施の形態1及び実施例1において、細胞ごとに割り当てられた色、模様又はキャラクタで表示した検体の2次元画像である。
図19A】実施例2において、可視光範囲の2次元画像と、励起光照射後の分光スペクトルに基づく腫瘍判定ステップで腫瘍と判定された箇所の2次元画像である。
図19B】実施例3において、可視光範囲の2次元画像と、励起光照射後の分光スペクトルに基づく腫瘍判定ステップで腫瘍と判定された箇所の2次元画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1の態様に係る細胞識別装置は、採取した検体の分光スペクトルを取得する分光スペクトル取得部と、
得られた前記分光スペクトルに基づいて、前記検体に含まれる細胞について、血液細胞と組織細胞とを識別する細胞判定部と、
を含む。
【0016】
第2の態様に係る細胞識別装置は、上記第1の態様において、前記細胞判定部は、前記分光スペクトルを、血液細胞と組織細胞との波長500nm~800nmの範囲のスペクトルの各リファレンスデータと対比し、
前記分光スペクトルを前記各細胞等のリファレンスデータの線形和として表し、例えば最小2乗法によって前記各細胞の割合を得てもよい。なお、最小2乗法に代えて最小絶対値法によって、前記各細胞の割合を得てもよい。
【0017】
第3の態様に係る細胞識別装置は、上記第2の態様において、前記細胞判定部において、赤血球と、腺管とについての波長500nm~800nmの範囲のスペクトルを前記分光スペクトルと対比するリファレンスデータとして用いてもよい。
【0018】
第4の態様に係る細胞識別装置は、上記第3の態様において、前記リファレンスデータとして、さらに、脂肪又はフィブリンと、慢性炎症と、バックグラウンドとについての波長500nm~800nmの範囲のスペクトルを用いてもよい。
【0019】
第5の態様に係る細胞識別装置は、上記第1から第4のいずれかの態様において、前記分光スペクトル取得部は、さらに、前記検体に波長400nm~430nmの範囲の励起光を照射する励起光源を含むと共に、前記励起光の照射後の前記検体の分光スペクトルを取得し、
前記細胞識別装置は、前記励起光の照射後の分光スペクトルに基づいて、前記検体に含まれる細胞が腫瘍であるか非腫瘍であるか判定する腫瘍判定部をさらに含んでもよい。
【0020】
第6の態様に係る細胞識別装置は、上記第5の態様において、前記腫瘍判定部は、前記励起光の照射後の分光スペクトルにおいて、
波長670nm~700nmの範囲の強度の積算値の平均強度が、波長600nmの強度の2.6倍を示す場合に、前記検体に含まれる細胞が腫瘍であると判定してもよい。
【0021】
第7の態様に係る細胞識別装置は、上記第5の態様において、前記分光スペクトル取得部は、さらに、前記検体に波長400nm~430nmの範囲の励起光を照射する励起光源を含むと共に、前記励起光の照射後の前記検体の分光スペクトルを取得し、
前記励起光の照射後の分光スペクトルにおいて、
i)波長630nmのピークの存在
ii)波長665nmの強度が波長604nmの強度の1.1倍以上であること
iii)波長630nmのピーク強度が波長665nmの強度より高いこと
の各条件を満たす場合に、前記検体に含まれる細胞が腫瘍であると判定してもよい。
【0022】
第8の態様に係る細胞識別装置は、上記第1から第7のいずれかの態様において、前記分光スペクトル取得部は、
前記検体に白色光を照射する光源と、
前記検体からの反射光を分光する分光器と、
前記検体からの反射光を撮影するカメラと、
を含んでもよい。
【0023】
第9の態様に係る細胞識別装置は、上記第8の態様において、前記検体からの反射光を撮影したデータは、2次元画像であり、
前記分光スペクトル取得部は、前記2次元画像の各画素ごとの分光スペクトルを取得し、
前記細胞判定部は、前記2次元画像の各画素に含まれる細胞について、血液細胞と組織細胞とを区別してもよい。
【0024】
第10の態様に係る細胞識別装置は、上記第9の態様において、前記2次元画像の各画素に含まれる細胞ごとに区別して異なる色、模様又はキャラクタを割り当てる細胞割り当て部と、
前記細胞ごとに割り当てられた色、模様又はキャラクタで、前記2次元画像を表示する表示装置と、
をさらに含んでもよい。
【0025】
第11の態様に係る細胞識別方法は、採取した検体に白色光を照射して前記検体の分光スペクトルを取得する分光スペクトル取得ステップと、
得られた前記分光スペクトルに基づいて、前記検体に含まれる細胞について、血液細胞と組織細胞とを識別する細胞判定ステップと、
を含む。
【0026】
第12の態様に係る細胞識別方法は、上記第11の態様において、前記細胞判定ステップは、前記分光スペクトルを、血液細胞と組織細胞との波長500nm~800nmの範囲のスペクトルの各リファレンスデータと対比するステップと、
前記分光スペクトルを前記各細胞等のリファレンスデータの線形和として表し、前記各細胞の割合を得るステップと、
を含んでもよい。
【0027】
第13の態様に係る細胞識別方法は、上記第12の態様において、前記細胞判定ステップにおいて、赤血球と、腺管とについての波長500nm~800nmの範囲のスペクトルを前記分光スペクトルと対比するリファレンスデータとして用いてもよい。
【0028】
第14の態様に係る細胞識別方法は、上記第13の態様において、前記リファレンスデータとして、さらに、脂肪又はフィブリンと、慢性炎症と、バックグラウンドとについての波長500nm~800nmの範囲のスペクトルを用いてもよい。
【0029】
第15の態様に係る細胞識別方法は、上記第11から第14のいずれかの態様において、前記分光スペクトル取得ステップは、さらに、前記検体に波長400nm~430nmの範囲の励起光を照射した後、前記励起光の照射後の前記検体の分光スペクトルを取得し、
前記励起光の照射後の分光スペクトルに基づいて、前記検体に含まれる細胞が腫瘍であるか非腫瘍であるか判定する腫瘍判定ステップをさらに含んでもよい。
【0030】
第16の態様に係る細胞識別方法は、上記第15の態様において、前記腫瘍判定ステップは、前記励起光の照射後の分光スペクトルにおいて、
波長670nm~700nmの範囲の強度の積算値の平均強度が、波長600nmの強度の2.6倍を示す場合に、前記検体に含まれる細胞が腫瘍であると判定してもよい。
【0031】
第17の態様に係る細胞識別方法は、上記第15の態様において、
前記励起光の照射後の分光スペクトルにおいて、
i)波長630nmのピークの存在
ii)波長665nmの強度が波長604nmの強度の1.1倍以上であること
iii)波長630nmのピーク強度が波長665nmの強度より高いこと
の各条件を満たす場合に、前記検体に含まれる細胞が腫瘍であると判定してもよい。
【0032】
第18の態様に係る細胞識別方法は、上記第11から第17のいずれかの態様において、前記分光スペクトル取得ステップでは、前記検体の2次元画像を取得してもよい。
【0033】
第19の態様に係る細胞識別方法は、上記第18の態様において、前記分光スペクトル取得ステップは、前記検体の2次元画像の各画素ごとの分光スペクトルを取得し、
前記細胞判定ステップは、前記検体の2次元画像の各画素に含まれる細胞について、血液細胞と組織細胞とを識別してもよい。
【0034】
第20の態様に係る細胞識別方法は、上記第19の態様において、前記検体の2次元画像の各画素に含まれる細胞ごとに区別して異なる色、模様又はキャラクタを割り当てる細胞割り当てステップと、
前記細胞ごとに割り当てられた色、模様又はキャラクタで、前記検体の2次元画像を表示する、表示ステップと、
をさらに含んでもよい。
【0035】
以下、実施の形態に係る細胞識別装置及び細胞識別方法について、添付図面を参照しながら説明する。なお、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。
【0036】
(実施の形態1)
<細胞識別装置>
図1は、実施の形態1に係る細胞識別装置40の構成を示す概略図である。図2は、実施の形態1に係る細胞識別装置40のブロック図である。図4は、実施の形態1に係る細胞識別装置40の細胞判定部31を実現するプログラムのフローチャートである。
実施の形態1に係る細胞識別装置40は、分光スペクトル取得部10と細胞判定部31とを含む。分光スペクトル取得部10によって、採取した検体2の分光スペクトルを取得する。また、細胞判定部31によって、得られた分光スペクトルに基づいて、検体2に含まれる細胞について、血液細胞と組織細胞とを識別する。分光スペクトル取得部10は、例えば、検体2に白色光3を照射する光源11と、検体の2次元画像を取得するカメラ13と、検体の2次元画像から分光スペクトルを取得する分光器14と、を含む。細胞判定部31は、コンピュータ装置20において実行されるプログラムとして実現されるものであり、例えば、図2のブロック図ではコンピュータ装置20のメモリ22上に存在する。
この細胞識別装置40によれば、病理医による確認の必要なく、検体2に含まれる細胞について、簡易に血液細胞と組織細胞とを識別することができる。
【0037】
以下に、この細胞識別装置40を構成する部材について説明する。
【0038】
<検体>
検体2は、生体等から採取されたものである。検体2は、例えば、シャーレ1に入れて、その分光スペクトルを取得する。なお、検体2を入れる容器はシャーレ1に限られず、例えば、2枚のスライドガラスの間に挟んで検体2を固定してもよい。あるいは、他の容器にいれてもよい。
【0039】
<分光スペクトル取得部>
分光スペクトル取得部10は、例えば、図1に示すように、光源11と、カメラ13と、分光器14と、を含む。例えば、検体とカメラとの間に特定波長の光だけを通過させる分光フィルタを配置して、カメラに入射する光を特定波長の光に限定する。この場合、分光フィルタで通過させる波長を切替えながらカメラで撮像を繰り返して、所定の波長範囲の分光スペクトルを得る。
【0040】
<光源>
光源11によってシャーレ1に入れた検体2に白色光3を照射する。光源11は、500nm~800nmの波長範囲の光を照射できるものであればよい。あるいは、400nm以上の波長の光を照射できるものであってもよい。また、700nm以下の波長の光を照射できるものであってもよい。
また、図1では、リング状の光源11によって、検体2の上方から白色光3を照射しているが、これに限られず、斜め方向から白色光を照射してもよい。また、光源11は、リング状光源に限られず、面光源、線光源であってもよい。なお、光源11は、後述する波長400nm~430nmの範囲の励起光を照射する励起光源12を兼ねるものであってもよい。さらに、光源は、ハロゲンランプ、キセノンランプ、HIDランプ、レーザー、またはLED等であってもよい。
【0041】
<分光器>
分光器14は検体からの反射光を分光する。分光器は、中心波長が1nmピッチで変わり、半値幅が15nm以下であり、400nm~800nmの範囲で測定できるものが好ましい。カメラ13によって得られた画像から分光スペクトルを取得する。分光スペクトル取得部は、500nm~800nmの波長範囲の分光スペクトルが得られればよい。この場合、画像の各画素ごとの分光スペクトルを取得してもよい。
【0042】
<カメラ>
カメラ13は、検体からの反射光を分光器により分光した後、当該分光後の反射光を撮影する。カメラ13は、検体2の少なくとも1箇所の画像を取得できるものであればよい。なお、ここで「1箇所」には、カメラ13で取得できる最小単位の1画素を含む。さらに、カメラ13は、検体2の「面」としての2次元画像を取得できるものであってもよい。例えば、CCDカメラ、CMOSカメラ等であってもよい。また、フォトダイオードであってもよい。カメラ13には、対物レンズ、接眼レンズ等を備えてもよい。なお、図1では、カメラ13によって、検体2からの反射光4による2次元画像を取得しているが、反射光4に限られず、例えば、検体2からの透過光による2次元画像を取得してもよい。また、光源11とカメラ13との配置関係は、図1の場合に限定されない。例えば、カメラ13は、鉛直上方(z軸方向)に限られず、鉛直方向(z軸方向)に対して傾斜した方向から2次元画像を取得してもよい。あるいは、鉛直上方(z軸方向)に設けた光源11に対して、カメラ13を鉛直下方(-z軸方向)に配置してもよい。
なお、カメラ13によって、直接に検体の2次元画像を取得してもよいが、これに限られず、例えば、顕微鏡の接眼レンズにカメラ13をセットしてもよい。この場合、顕微鏡の分解能としては、組織の細胞が100μmであるので、細胞が最低1画素(1px)になるように撮影できる分解能が望ましい。
【0043】
なお、カメラと分光器とに代えて、回折格子を用いて分光スペクトルを得てもよい。回折格子によれば、1回の計測で1箇所の分光スペクトルを得ることができる。この場合、回折格子を1次元スキャンすることでライン上の箇所の分光スペクトル、さらに2次元スキャンすることで、2次元画像上の各箇所の分光スペクトルを得ることができる。
さらに、分光スペクトル取得部は、RGBカラー画像から機械学習によって経験的にRGBの各波長の間を補間した分光スペクトルを推定してもよい。
【0044】
<コンピュータ装置>
コンピュータ装置20は、汎用的なコンピュータ装置を用いることができ、例えば、図2に示すように、メモリ22、処理装置24、表示装置26を含む。なお、さらに、入力装置、記憶装置、インタフェース等を含んでもよい。
<メモリ>
メモリ22は、例えば、ROM、EEPROM、RAM、フラッシュSSD、ハードディスク、USBメモリ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク等の少なくとも一つであってもよい。
メモリ22には、プログラム30とリファレンスデータ34を含む。
【0045】
<リファレンスデータ>
図8は、血液細胞と組織細胞との波長500nm~800nmの範囲のスペクトルの各リファレンスデータを示す図である。血液細胞としては、赤血球35の分光スペクトルがリファレンスデータとして挙げられている。また、組織細胞としては、腺管36の分光スペクトルがリファレンスデータとしてあげられている。その他、脂肪/フィブリン37、慢性炎症38、バックグラウンド39の分光スペクトルがリファレンスデータとして挙げられている。なお、バックグラウンド39は、検体のない領域である。
なお、これらのリファレンスデータは、あらかじめ、個別の赤血球、腺管、脂肪/フィブリン、慢性炎症、バックグラウンドのそれぞれについて得られた分光スペクトルを規格化したものである。
【0046】
<プログラム>
プログラム30としては、例えば、細胞判定部31、腫瘍判定部32、細胞割り当て部33を含む。プログラム30は、コンピュータ装置20において実行され、所定の機能を実現するものである。
【0047】
<細胞判定部>
細胞判定部31によって、得られた分光スペクトルに基づいて、検体2に含まれる細胞について、血液細胞と組織細胞とを識別する。この細胞判定部31は、コンピュータ装置20において実行されるプログラムとして実現されるものであり、例えば、図2のブロック図ではコンピュータ装置20のメモリ22上に存在する。コンピュータ装置20の処理装置24において、メモリ22上の細胞判定部31を読み出して、処理装置24において実行することで細胞判定部31としての機能を実現できる。この細胞判定部31のプログラムは、図4のフローチャートに示すように、以下の2つのステップからなる。
(1)分光スペクトルを、血液細胞と組織細胞との波長500nm~800nmの範囲のスペクトルのリファレンスデータと対比する(S11)。
(2)分光スペクトルを各細胞等のリファレンスデータの線形和として表し、最小2乗法によって各細胞の割合を得る(S12)。
【0048】
上記細胞判定部31では、得られた分光スペクトルの強度I(λ)について、各細胞等(脂肪/フィブリン(i=1)、赤血球(i=2)、慢性炎症(i=3)、腺管(i=4)、バックグラウンド(i=5))のリファレンスデータの強度Ii(λ)(i=1~5)の線形和として、例えば、以下のように表す。なお、各係数の和を1としておく。
I(λ)=a1×I1(λ)+a2×I2(λ)+a3×I3(λ)+a4×I4(λ)+a5×I5(λ) (1)
a1+a2+a3+a4+a5=1 (2)
上記各細胞等のリファレンスデータの強度の線形和について、最小2乗法によって誤差が最小となるように各係数a1~a5を求める。これによって、各係数a1~a5の値から各細胞等の割合を算出することができる。なお、最小2乗法に代えて最小絶対値法によって各細胞等の割合を算出してもよい。
なお、得られた分光スペクトルは、検体の一定の大きさの範囲のものであり、具体的には画素ごとの分光スペクトルである。一つの画素には複数の赤血球(a2)、組織細胞である腺管(a4)、脂肪/フィブリン(a1)、慢性炎症等(a3)が含まれている場合がある。つまり、ここでは、一つの画素に含まれる細胞等の割合を得ることができる。
【0049】
<腫瘍判定部>
図5は、実施の形態1に係る細胞識別装置40の腫瘍判定部32を実現するプログラムのフローチャートである。
腫瘍判定部32によって、励起光の照射後の分光スペクトルに基づいて、検体に含まれる細胞が腫瘍であるか非腫瘍であるか判定する。腫瘍とは、癌、腺腫、腺管(悪性)が含まれる。一方、脂肪、フィブリン、慢性炎症、腺管(良性)等は腫瘍に含まれない。すなわち非腫瘍である。この腫瘍判定部32は、コンピュータ装置20において実行されるプログラムとして実現されるものであり、例えば、図2のブロック図ではコンピュータ装置20のメモリ22上に存在する。コンピュータ装置20の処理装置24において、メモリ22上の腫瘍判定部32を読み出して、処理装置24において実行することで腫瘍判定部32としての機能を実現できる。この腫瘍判定部32のプログラムは、図5のフローチャートに示すように、以下の2つのステップからなる。
(3)検体に波長400nm~430nmの範囲の励起光を照射した後、励起光の照射後の前記検体の分光スペクトルを取得する(S21)。
(4)励起光の照射後の分光スペクトルにおいて、波長670nm~700nmの範囲の強度の積算値の平均強度が、波長600nmの強度の2.6倍を示す場合に、検体に含まれる細胞が腫瘍であると判定する(S22)。
【0050】
腫瘍判定部32における上記条件について説明する。
まず、前提条件として、検体の採取の前に、生体において、5-アミノレブリン酸(以下、「5-ALA」と略する。)を腫瘍検出のために用いている。この5-ALAは、生体内で代謝を受けて他の物質に変化する。このとき、通常の生体の細胞と、腫瘍とでは代謝酵素の活性が異なるため、腫瘍の場合のほうがより代謝が進行しやすいことが知られている。服用した5-ALAが代謝酵素の働きで生成するプロトポルフィリンIXは、波長400nm~430nmの励起光の照射後に、およそ波長630nmに蛍光のピークを有する。さらに、このプロトポルフィリンIXは、代謝酵素の働きでフォトプロトポルフィリンに変化する。フォトプロトポルフィリンは、波長400nm~430nmの励起光の照射後に、およそ波長665nmに蛍光のピークを有する。このフォトプロトポルフィリンへの変化には腫瘍と通常細胞との間で顕著な差異が見られると考えられる。
【0051】
図9は、腫瘍のひとつである癌細胞を含む癌組織に該当する画素について、複数回の測定ごとの分光スペクトルを示すグラフである。図10は、図9の分光スペクトルの波長ごとの強度、領域の平均強度、又はその比について、1回目の測定値を1として、測定回数ごとの測定値の1回目の測定値に対する比の変化を示すグラフである。図11は、癌細胞を含む3種類のサンプルの分光スペクトルの630nmの強度と、670nm-700nmの範囲の平均強度とについて、600nmの強度を基準とした値について、1回目の測定値を1として、測定回数ごとの測定値の1回目の測定値に対する比の変化を示すグラフである。
【0052】
図9及び図10に示すように、測定回数を重ねるごと(1st、2nd、3rd、4th)、つまり時間経過と共に630nmのピークは弱まっていく。上述のように、癌の場合には波長630nmのところにピークが出る傾向があるものの、630nmのピークだけに頼っていては安定した癌判定が行えないことがある。同様に波長600nmの強度、波長670nm-700nmの範囲の平均強度も、図10に示すように、1回目の測定値を1として、測定回数ごとの測定値の1回目の測定値に対する比は、2回目、3回目と測定回数を重ねるごとに減少することがわかる。
一方、図10及び図11に示すように、670nm-700nmの範囲の平均強度について600nmの強度を基準とした値について、1回目の測定値を1として、測定回数ごとの測定値の1回目の測定値に対する比は、2回目以降もほとんど低下しないことを本発明者は見出した。したがって、630nm付近のピークの有無で癌判定を行うよりも、670nm-700nmの範囲の平均強度と600nmの強度との比率で癌判定を安定して行える。
なお、波長670nm~700nmの範囲の平均強度における「平均強度」とは、例えば、フィルタリングで分光スペクトルに乗ったノイズを省いたのち、波長5nmピッチで和をとってその平均値として得ることができる。もちろん、波長ピッチは5nmに限られず、任意の波長ピッチを選択すればよい。
【0053】
図12は、非腫瘍(グループ1)と腫瘍のひとつである癌(グループ5)のサンプルの分光スペクトルの670nm-700nmの範囲の平均強度について600nmの強度を基準とした比の値の領域の密度分布を示すグラフである。図13は、図12でグループ5に属するサンプル3、4において、癌細胞の領域を斜め格子で示す概略図である。
図12からわかるように、非腫瘍のグループ1に属するサンプル1及びサンプル2では、670nm-700nmの範囲の平均強度について600nmの強度を基準とした比の値が2.6より低い範囲に多く分布している。より詳細には、比の値が2以下にほとんど分布している。一方、腫瘍のひとつである癌のグループ5に属するサンプル3及びサンプル4では、670nm-700nmの範囲の平均強度について600nmの強度を基準とした比の値が2.6以上に多く分布している。腫瘍のひとつである癌のグループ5に属するサンプル3及びサンプル4では、670nm-700nmの範囲の平均強度について600nmの強度を基準とした比の値が2.6以上3.3以下のときにピークを有するのに対し、非腫瘍のグループ1に属するサンプル1及びサンプル2では、2.6以上3.3以下のときにこのようなピークは見られない。したがって、この比の値が2.6であるときの度数(密度)をみることにより癌判定を行うことができる。図13に示されるように、図12の腫瘍のひとつである癌のグループ5に属するサンプル3、4において、斜め格子で表される癌細胞の領域が比較的多いことがわかる。
【0054】
図14は、非腫瘍(グループ1)と腫瘍(グループ3)のサンプルの分光スペクトルの670nm-700nmの範囲の平均強度について600nmの強度を基準とした比の値の領域の密度分布を示すグラフである。図15は、図14でグループ3に属するサンプル3,4において、腫瘍の領域を斜め格子で示す概略図である。図16は、図15のサンプル3、4の組織の可視光による写真である。
図14からわかるように、非腫瘍のグループ1に属するサンプル1及びサンプル2では、670nm-700nmの範囲の平均強度について600nmの強度を基準とした比の値が2.6より低い範囲に多く分布している。より詳細には、比の値が2以下にほとんど分布している。一方、腫瘍のグループ3に属するサンプル3及びサンプル4では、670nm-700nmの範囲の平均強度について600nmの強度を基準とした比の値が2.6以上に分布している割合がやや多くなっている。図15に示されるように、図14の腫瘍のグループ3に属するサンプル3、4において、斜め格子で表される腫瘍の領域は、わずかしかないことがわかる。したがって、この比の値が2.6であるときの度数(密度)をみることにより腫瘍判定を行うことができる。なお、図15の分光スペクトルによって検出される腫瘍の領域と、図16の可視光による写真とを対比することで、可視光の写真において腫瘍の領域に対応する箇所を見出すことができる。
上記のように、腫瘍判定部32は、励起光の照射後の分光スペクトルにおいて、波長670nm~700nmの範囲の強度の積算値の平均強度が、波長600nmの強度を基準として2.6倍を示す場合に、検体(サンプル)に含まれる細胞が腫瘍であると判定する。さらに、この腫瘍判定によれば腫瘍が癌であるか非癌であるかについても判定することが可能となる。
【0055】
<腫瘍判定について>
図6は、実施の形態1に係る細胞識別装置における腫瘍判定のフローチャートである。
上記の通り、本発明者は、分光スペクトルにおいて、670nm-700nmの範囲の平均強度について600nmの強度を基準とした比の値を判断することで腫瘍判定および癌判定が行えることを見出した。一方、本発明者は、平均強度の算出を行うことなく簡易に、5-ALAの代謝を促進する癌細胞等を含む腫瘍について、以下の方法によって腫瘍判定を行うことができることを見出した。
(a)検体に波長400nm~430nmの範囲の励起光を照射した後、励起光の照射後の検体の分光スペクトルを取得する(S31)。
(b)励起光の照射後の分光スペクトルに基づいて、検体に含まれる細胞が腫瘍であるか非腫瘍であるか判定する。具体的には、励起光の照射後の分光スペクトルにおいて、
i)波長630nmのピークの存在
ii)波長665nmの強度が波長604nmの強度の1.1倍以上であること
iii)波長630nmのピーク強度が波長665nmの強度より高いこと
の各条件を満たす場合に、前記検体に含まれる細胞が腫瘍であると判定する(S32)。
【0056】
図17Aは、上記腫瘍判定によって腫瘍と判定された分光スペクトルである。図17Bは、非腫瘍(例えば、非癌細胞)と判定された分光スペクトルである。
まず、条件i)波長630nmのピークの存在は、5-ALAが代謝されて生成したプロトポルフィリンIXの存在を示していると考えられる(図17A図17B)。なお、条件i)だけでは同じ波長範囲で蛍光を示す組織細胞等がある。
次に、条件ii)波長665nmの強度が波長604nmの強度の1.1倍以上であることとは、通常細胞に比べて癌細胞のような腫瘍において多く生成されるフォトプロトポルフィリンの存在を示していると考えられる(図17A)。
そして、条件iii)波長630nmのピーク強度が波長665nmの強度より高いこととは、5-ALAからプロトポルフィリンIXへの代謝、さらに、フォトプロトポルフィリンへの変化には非常に長時間を要する。このことから、通常の服用から検体採取までの時間を考慮すれば、波長665nmの強度が波長630nmの強度より高いことはなく、iii)の条件を満たす(図17A図17B)。つまり、iii)の条件を満たさない場合にはイレギュラーな状態と判断される。
そこで、条件i)乃至iii)を満たす場合(図17A)には、比較的高い確率で癌細胞等の腫瘍であると判断できる。なお、腫瘍と判定されても癌細胞であるとは限らない。一方、条件ii)を満たさない図17Bは、非腫瘍であると判断される。
【0057】
<細胞割り当て部>
図7は、実施の形態1に係る細胞識別装置の細胞割り当て部及び表示装置での表示を実現するプログラムのフローチャートである。
細胞割り当て部33によって、検体の2次元画像の各画素に含まれる細胞ごとに区別して異なる色、模様又はキャラクタを割り当てる。その後、表示装置26において、細胞ごとに割り当てられた色、模様又はキャラクタで、検体の2次元画像を表示する。この細胞割り当て部33は、コンピュータ装置20において実行されるプログラムとして実現されるものであり、例えば、図2のブロック図ではコンピュータ装置20のメモリ22上に存在する。コンピュータ装置20の処理装置24において、メモリ22上の細胞割り当て部33を読み出して、処理装置24において実行することで細胞割り当て部33としての機能を実現できる。この細胞割り当て部33は、図7のフローチャートに示すように、以下の2つのステップからなる。
(5)検体の2次元画像の各画素に含まれる細胞ごとに区別して異なる色、模様又はキャラクタを割り当てる(S41)。
(6)細胞ごとに割り当てられた色、模様又はキャラクタで、検体の2次元画像を表示する(S42)。
【0058】
図18は、実施の形態1において、細胞ごとに割り当てられた色、模様又はキャラクタで表示した検体の2次元画像である。
上述のように、細胞判定部31において、一つの画素に含まれる細胞等の割合を得ることができる。一つの画素には複数の細胞等(細胞及び成分等)が含まれるので、いずれかの細胞又は成分のみの色、模様、キャラクタで表すことはできない、しかし、その割合に応じた色配分、模様、キャラクタの大きさ等で優位な細胞又は成分を表すことができる。なお、優位とは、例えば成分が最も多いもの、又は色配分で重みづけをして成分量を各点で表示したものを指す。色、模様、キャラクタは、それぞれ組み合わせて用いてもよい。色は減法混色、加法混色のいずれであってもよい。また、模様はハッチング等であってもよい。キャラクタは、円形、三角形、四角形等の多角形、星形等を用いてもよい。なお、上記のうち、より視覚的に見易い色表示することによって各領域を区別してもよい。例えば、赤血球(a2)が優位な領域は「赤」で表示し、腺管(a4)が優位な領域は「青」で表示し、その他の成分(a1、a3)の領域を「緑」で表示し、検体のないバックグラウンド(a5)を「黒」で表示してもよい。図18では、色表示できないので、便宜上、検体の2次元画像において、各画素で優位な細胞又は成分の共通する領域を共通するハッチングで示している。具体的には、便宜的に、赤血球(a2)が優位な領域を縦線のハッチングで表している。また、腺管(a4)が優位な領域を斜め格子のハッチングで表している。さらに、その他の成分(a1、a3)の領域をハッチングなしで示している。なお、図18では、脂肪/フィブリン(a1)及び慢性炎症(a3)は、単独で優位な領域としては示しておらず、他の成分の領域に含められている。また、検体のないバックグラウンド(a5)は、検体の輪郭の外側の箇所に対応する。
これによって、検体の中に組織細胞である腺管(a4:斜め格子ハッチング)が含まれているか否かが視覚的に明確に確認できる。そこで、再度の検体採取が必要か否かを直ちに判断できる。
【0059】
<処理装置>
処理装置24は、例えば、中央処理演算子(CPU)、マイクロコンピュータ、又は、コンピュータで実行可能な命令を実行できる処理装置であればよい。
【0060】
<表示装置>
表示装置26は、検体の画像、さらに、2次元画像を表示できるものであればよい。なお、カラー表示であると視覚的にわかりやすいが、これに限定されず、モノクロ表示であってもよい。
【0061】
<細胞識別方法>
次に、実施の形態1に係る細胞識別方法について説明する。
図3は、実施の形態1に係る細胞識別方法のフローチャートである。
実施の形態1に係る細胞識別方法は、以下の(a)分光スペクトル取得ステップと(b)細胞判定ステップとの2つのステップを含む。
(a)採取した検体に白色光を照射して検体の分光スペクトルを取得する(S01)。
(b)得られた分光スペクトルに基づいて、検体に含まれる細胞について、血液細胞と組織細胞とを識別する(S02)。
この細胞識別方法によって、病理医による確認の必要なく、検体に含まれる細胞について、簡易に血液細胞と組織細胞とを識別できる。そこで、再度の検体採取が必要か否か容易に判断できる。
【0062】
図4は、実施の形態1に係る細胞識別方法の上記(b)細胞判定ステップのフローチャートである。この細胞判定ステップは、以下の2つのステップを含む。
(c)分光スペクトルを、血液細胞と組織細胞との波長500nm~800nmの範囲のスペクトルのリファレンスデータと対比する(S11)。
(d)分光スペクトルを各細胞等のリファレンスデータの線形和として表し、各細胞の割合を得る(S12)。
なお、この細胞判定ステップの動作は、上述の細胞識別装置の細胞判定部の動作と実質的に同じであるので重複する説明を省略する。
これによって、検体に含まれる細胞について、赤血球、組織細胞である腺管、脂肪/フィブリン、慢性炎症等の割合を得ることができる。
【0063】
図5は、実施の形態1に係る細胞識別方法の腫瘍判定ステップのフローチャートである。
この腫瘍判定ステップは、以下の2つのステップを含む。
(e)検体に波長400nm~430nmの範囲の励起光を照射した後、励起光の照射後の前記検体の分光スペクトルを取得する(S21)。
(f)励起光の照射後の分光スペクトルにおいて、波長670nm~700nmの範囲の強度の積算値の平均強度が、波長600nmの強度の2.6倍を示す場合に、検体に含まれる細胞が腫瘍であると判定する(S22)。
【0064】
図6は、実施の形態1に係る細胞識別装置における腫瘍判定のフローチャートである。
この腫瘍判定は、以下の2つのステップを含む。
(g)検体に波長400nm~430nmの範囲の励起光を照射した後、励起光の照射後の検体の分光スペクトルを取得する(S31)。
(h)励起光の照射後の分光スペクトルに基づいて、検体に含まれる細胞が腫瘍であるか非腫瘍であるか判定する。具体的には、励起光の照射後の分光スペクトルにおいて、
i)波長630nmのピークの存在
ii)波長665nmの強度が波長604nmの強度の1.1倍以上であること
iii)波長630nmのピーク強度が波長665nmの強度より高いこと
の各条件を満たす場合に、前記検体に含まれる細胞が腫瘍であると判定する(S32)。
なお、この腫瘍判定ステップの動作は、上述の細胞識別装置における腫瘍判定と実質的に同じであるので重複する説明を省略する。
【0065】
図7は、実施の形態1に係る細胞識別方法における細胞割り当てステップ及び表示ステップのフローチャートである。
細胞割り当てステップによって、検体の2次元画像の各画素に含まれる細胞ごとに区別して異なる色、模様又はキャラクタを割り当てる。その後、表示ステップにおいて、細胞ごとに割り当てられた色、模様又はキャラクタで、検体の2次元画像を表示する。この細胞割り当てステップ及び表示ステップは、図7のフローチャートに示すように、以下の2つのステップからなる。
(g)検体の2次元画像の各画素に含まれる細胞ごとに区別して異なる色、模様又はキャラクタを割り当てる(S41)。
(h)細胞ごとに割り当てられた色、模様又はキャラクタで、検体の2次元画像を表示する(S42)。
なお、この細胞割り当てステップ及び表示ステップの動作は、上述の細胞識別装置の細胞割り当て部及び表示装置の動作と実質的に同じであるので重複する説明を省略する。
これによって、検体の中に組織細胞である腺管が含まれているか否かが視覚的に明確に確認できる。そこで、再度の検体採取が必要か否かを直ちに判断できる。
【0066】
(実施例1)
図18は、実施例1において、細胞ごとに割り当てられた色、模様又はキャラクタで表示した検体の2次元画像である。
膵癌が疑われる患者の膵腫瘤に対してEUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺針生検)を行なった。生体から採取した病理検体をシャーレに入れ、試料ステージ上に置き、白色光下での分光観察・撮影を行った。分光撮影時は、細胞を撮影するのに適した倍率に設定し、1nmピッチで分光スペクトルのデータを取得した。事前に同様の方法でいくつも取得した検体の500nm~800nmの範囲の分光スペクトルのリファレンスデータと比較し、取得した分光スペクトルのデータのフィッティングを最小2乗法を用いて行った。各点における各成分((イ)脂肪もしくはフィブリン、(ロ)赤血球、(ハ)腺管、(ニ)慢性炎症、(ホ)バックグラウンド(検体のない領域))の割合を求めた。図18は、赤血球成分を縦線のハッチング、腺管成分を青、その他の成分を白色とし、重みづけをして表示した。
図18に示すように、腺管に相当すると考えられる位置が横腺のハッチングで表示され、明確に可視化されている。
【0067】
(実施例2)
図19Aは、実施例2において、可視光範囲の2次元画像と、励起光照射後の分光スペクトルに基づく腫瘍判定ステップで腫瘍と判定された箇所の2次元画像である。
事前に患者に薬剤の5-ALAを投与し、病理検体を取得する。取得した検体は試料ステージ上に置き、400nm-430nmの励起光を当てて、分光観察・撮影を行った。分光撮影時は、細胞を撮影するのに適した倍率に設定し、1nmピッチで分光スペクトルデータを取得した。事前に同様の方法でいくつも取得した検体の500nm~800nmの範囲の分光スペクトルのリファレンスデータと比較して、上述の腫瘍判定部及び腫瘍判定ステップに基づいて、腫瘍・非腫瘍の判定を行った。図19A(a)及び(b)は、上記実施の形態1における検体の2次元画像である。図19A(c)は、上記腫瘍判定部及び腫瘍判定ステップによって高確率で腫瘍細胞を含むと判定された画素42の2次元配置を示す図である。図19A(c)では、腫瘍細胞を含むと判定された画素42が複数箇所存在している。
図19Aの(a)及び(b)と(c)とを対比することで、検体における腫瘍細胞の存在する位置を視覚的に明確化することができる。
【0068】
(実施例3)
図19Bは、実施例3において、可視光範囲の2次元画像と、励起光照射後の分光スペクトルに基づく腫瘍判定ステップで腫瘍と判定された箇所の2次元画像である。
別症例について、実施例2と同様に上述の腫瘍判定部及び腫瘍判定ステップに基づいて、腫瘍・非腫瘍の判定を行った。図19B(a)及び(b)は、検体の2次元画像である。図19B(c)は、上記腫瘍判定部及び腫瘍判定ステップによって高確率で腫瘍を含むと判定された画素の2次元配置を示す図である。図19B(c)では、腫瘍を含むと判定された画素が実質的にない。つまり、腫瘍は存在しなかったと考えられる。
なお、通常の5-ALAによる腫瘍判定であれば、例えば、630nmの蛍光ピークの存在のみで腫瘍の判定を行うが、本開示によれば、複数の条件によって腫瘍判定を行うので、より確実に腫瘍判定を行うことができる。
【0069】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る細胞識別装置及び細胞識別方法によれば、採取した検体について、病理医による確認を必要とせず、簡易に組織細胞の有無の判定及び血液細胞と組織細胞とを識別できる。
【符号の説明】
【0071】
1 シャーレ
2 検体
3 白色光
4 反射光
10 分光スペクトル取得部
11 光源
12 励起光源
13 カメラ
14 分光器
20 コンピュータ装置
22 メモリ
24 処理装置
26 表示装置
30 プログラム
31 細胞判定部
32 腫瘍判定部
33 細胞割り当て部
34 リファレンスデータ
35 赤血球
36 腺管
37 脂肪/フィブリン
38 慢性炎症
39 バックグラウンド
40 細胞識別装置
42 癌細胞を含む画素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18
図19A
図19B