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特許7204132プラスミンにより切断可能な抗不溶性フィブリン抗体と薬物とのコンジュゲート
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  • 特許-プラスミンにより切断可能な抗不溶性フィブリン抗体と薬物とのコンジュゲート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】プラスミンにより切断可能な抗不溶性フィブリン抗体と薬物とのコンジュゲート
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/36 20060101AFI20230106BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230106BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230106BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230106BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20230106BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230106BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230106BHJP
   C07K 5/083 20060101ALN20230106BHJP
【FI】
C07K16/36 ZNA
A61P35/00
A61K45/00
A61K39/395 L
A61K47/65
A61K47/68
C12N15/13
C07K5/083
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019515717
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2018017123
(87)【国際公開番号】W WO2018203517
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2017091639
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】516070667
【氏名又は名称】株式会社凜研究所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】松村 保広
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 史乃
(72)【発明者】
【氏名】渕上 弥史
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/055950(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/158973(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/133093(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/167227(WO,A1)
【文献】国際公開第2000/064946(WO,A2)
【文献】国際公開第2003/000736(WO,A1)
【文献】国際公開第1989/012690(WO,A1)
【文献】CAVALLARO, G., et al.,"Polymeric prodrug for release of an antirumoral agent by specific enzymes.",BIOCONJUGATE CHEM.,2001年06月03日,Vol.12, No.2,pp.143-151,doi:10.1021/bc9901649
【文献】DE GROOT, F.M.H., et al.,"Design, synthesis, and biological evaluation of a dual tumor-specific motive containing integrin-targeted plasmin-cleavable doxorubicin prodrug.",MOLECULAR CANCER THERAPEUTICS,2002年09月,Vol.1,pp.901-911,ISSN 1535-7163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体-薬物コンジュゲート(ADC)であって、
抗体は、配列番号25に記載のアミノ酸配列の231位~246位に対応するフィブリンBβ鎖の部分ペプチド、または配列番号26もしくは27に記載のアミノ酸配列からなるペプチドに結合し、かつ、フィブリンに結合する抗体であり、不溶性フィブリンに対する親和性がフィブリノーゲンに対する親和性よりも高く、
薬物は、細胞傷害剤であり、
抗体と薬物とは、プラスミンにより切断可能なようにプラスミン切断部位を有するリンカーにより連結されており、これにより抗がん作用を奏する、ADC。
【請求項2】
請求項1に記載のADCであって、
リンカーが、プラスミン切断部位として、バリン-ロイシン-リジンのペプチド配列を有する、ADC。
【請求項3】
請求項1または2に記載のADCを含む、がんを治療することに用いるための医薬組成物。
【請求項4】
がんが、浸潤性がんである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
フィブリンに結合する抗体であって、
配列番号1に示されるCDR1と、配列番号2に示されるCDR2と、配列番号3に示されるCDR3とを有する重鎖可変領域と、
配列番号5に示されるCDR1と、配列番号6に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3とを有する軽鎖可変領域と、
を有する、抗体;若しくは、該抗体とフィブリンへの結合に関して競合する抗体;または、これらの抗原結合性断片。
【請求項6】
フィブリンに結合する抗体であって、
配列番号4に示される重鎖可変領域と、配列番号8に示される軽鎖可変領域とを有する、抗体、またはその抗原結合性断片。
【請求項7】
フィブリンに結合する抗体であって、
配列番号9に示されるCDR1と、配列番号10に示されるCDR2と、配列番号11に示されるCDR3とを有する重鎖可変領域と、
配列番号13に示されるCDR1と、配列番号14に示されるCDR2と、配列番号15に示されるCDR3とを有する軽鎖可変領域と、
を有する、抗体;若しくは、該抗体とフィブリンへの結合に関して競合する抗体;または、これらの抗原結合性断片。
【請求項8】
フィブリンに結合する抗体であって、
配列番号12に示される重鎖可変領域と、配列番号16に示される軽鎖可変領域とを有する、抗体、またはその抗原結合性断片。
【請求項9】
抗体が、請求項5~8のいずれか一項に記載の抗体である、請求項1または2に記載のADC。
【請求項10】
請求項9に記載のADCを含む、医薬組成物。
【請求項11】
がんを治療することに用いるための請求項10に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体薬物コンジュゲートおよび当該コンジュゲートを含む、がんを治療することに用いるための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管が傷つき、血液が傷害血管壁や血管内皮下組織に接触したり、組織因子の血中流入があると、血液凝固反応が開始され、血液中のフィブリノーゲンが不溶性フィブリンに変わり、フィブリンの網が強固な止血栓として傷口を固めることが明らかになっている。
【0003】
血液凝固は、癌と密接な関係があることが古くから示唆されている(1800年代のフランスの外科医トルソーの「胃癌患者における四肢の血栓による浮腫」に記載)。最近の臨床疫学データでも、膵臓癌、胃癌、脳腫瘍をはじめとして、殆どの癌において凝固亢進による血栓症の頻度が健常人より有意に高いことが明らかとなっている(非特許文献1)。また、癌組織の内部においても凝固異常に伴う、不溶性フィブリンの蓄積、凝固壊死、血管新生が癌の進展とともに繰り返し起こっているものと考えられている。
【0004】
不溶性フィブリンは、前駆体のフィブリノーゲンが生体に広く認められるのとは異なり、正常な生理的条件下の組織には存在しない。血管外に漏れ出て活性化されたトロンビンがフィブリノーゲンを切断することにより、フィブリンモノマーが形成されて、そのフィブリンモノマーが重合、架橋してフィブリン繊維が形成されることによって生じる。そのため、不溶性フィブリンは、出血や炎症など病理的状態の組織に特異的な存在であり、癌や心筋梗塞、脳梗塞等の凝固を伴う病態が起きたときに形成される。従って、不溶性フィブリンは、かかる血栓関連疾患のマーカー分子であり、特に心筋梗塞や脳梗塞等の脳循環器疾患がない状況における癌組織中に存在する不溶性フィブリンは、まさに癌特異的分子といえる。
【0005】
このような技術的背景の下、不溶性フィブリンに特異的な抗体および当該抗体を用いた抗体薬物コンジュゲート(ADC)が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2014/133093
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、不溶性フィブリンに特異的な抗体と薬物とのADCにおいて、抗体と薬物とを連結するリンカーがプラスミン切断配列を有するADCを開発した。本発明者らは、得られたADCが不溶性フィブリンに送達されること、および、送達された箇所でプラスミンにより切断され、薬物をその場で放出することを見出した。さらに、本発明者らは、腫瘍モデル動物を用いて、得られたADCが腫瘍周辺の不溶性フィブリンの蓄積箇所を標的化でき、かつ、その場で薬物を放出し、腫瘍に対して抗がん作用を発揮することを見出した。また、本発明者らは、新たな不溶性フィブリン特異的抗体を取得した。本発明はこれらの知見に基づく発明である。
【0008】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)抗体-薬物コンジュゲート(ADC)であって、
抗体は、フィブリンに結合する抗体であり、不溶性フィブリンに対する親和性がフィブリノーゲンに対する親和性よりも高く、
薬物は、細胞傷害剤であり、
抗体と薬物とは、プラスミンにより切断可能なようにプラスミン切断部位を有するリンカーにより連結されている、ADC。
(2)上記(1)に記載のADCであって、
リンカーが、プラスミン切断部位として、バリン-ロイシン-リジンのペプチド配列を有する、ADC。
(3)上記(1)または(2)に記載のADCを含む、がんを治療することに用いるための医薬組成物。
(4)がんが、浸潤性がんである、上記(3)に記載の医薬組成物。
(5)フィブリンに結合する抗体であって、
配列番号1に示されるCDR1と、配列番号2に示されるCDR2と、配列番号3に示されるCDR3とを有する重鎖可変領域と、
配列番号5に示されるCDR1と、配列番号6に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3とを有する軽鎖可変領域と、
を有する、抗体;若しくは、該抗体とフィブリンへの結合に関して競合する抗体;または、これらの抗原結合性断片。
(6)フィブリンに結合する抗体であって、
配列番号4に示される重鎖可変領域と、配列番号8に示される軽鎖可変領域とを有する、抗体、またはその抗原結合性断片。
(7)フィブリンに結合する抗体であって、
配列番号9に示されるCDR1と、配列番号10に示されるCDR2と、配列番号11に示されるCDR3とを有する重鎖可変領域と、
配列番号13に示されるCDR1と、配列番号14に示されるCDR2と、配列番号15に示されるCDR3とを有する軽鎖可変領域と、
を有する、抗体;若しくは、該抗体とフィブリンへの結合に関して競合する抗体;または、これらの抗原結合性断片。
(8)フィブリンに結合する抗体であって、
配列番号12に示される重鎖可変領域と、配列番号16に示される軽鎖可変領域とを有する、抗体、またはその抗原結合性断片。
(9)抗体が、上記(5)~(8)のいずれかに記載の抗体である、上記(1)または(2)に記載のADC。
(10)上記(9)に記載のADCを含む、医薬組成物。
(11)がんを治療することに用いるための上記(10)に記載の医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明で得られた抗体が不溶性フィブリン特異的な抗体であることを示す。
図2図2は、本発明で得られた不溶性フィブリン特異的なモノクローナル抗体が、腫瘍形成部に蓄積することを示す。
図3図3は、本発明で作製した抗体薬物コンジュゲートの、特に薬物部位およびリンカー部位を示す。
図4図4は、本発明で作製した抗体薬物コンジュゲートを用いたインビトロでの抗がん作用の検証結果を示す。
図5図5は、膵がん自然発生モデルに対する本発明で作製した抗体薬物コンジュゲートのカプランマイヤー曲線を示す。
図6A図6Aは、腫瘍の皮下移植マウスの腫瘍体積の増加に対する本発明で作製した抗体薬物コンジュゲートの抑制効果を示す。
図6B図6Bは、図6Aで観察されたマウスの体重の経時的変化を示す。
図7図7は、プラスミン切断部位を有するプラスミンリンカーとプラスミン切断部位を有さず、代わりにカテプシン切断部位を有するカテプシンリンカーを有するADCの細胞増殖抑制作用を示す。
図8図8は、本発明で作製した抗体薬物コンジュゲートの推定される作用機序を示す。
【発明の具体的説明】
【0010】
本発明では、「対象」とは、哺乳動物を意味し、特にヒトであり得る。
【0011】
本明細書では、「処置」とは、治療(治療的処置)と予防(予防的処置)とを含む意味で用いられる。本明細書では、「治療」とは、疾患若しくは障害の治療、治癒、防止若しくは、寛解の改善、または、疾患若しくは障害の進行速度の低減を意味する。本明細書では、「予防」とは、疾患もしくは病態の発症の可能性を低下させる、または疾患もしくは病態の発症を遅らせることを意味する。
【0012】
本明細書では、「疾患」とは、治療が有益な症状を意味する。本明細書では、「がん」とは悪性腫瘍を意味する。
【0013】
本明細書では、「抗体」は、免疫グロブリンを意味し、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を含む。好ましい抗体は、モノクローナル抗体である。抗体の由来は、特に限定されないが例えば、非ヒト動物の抗体、非ヒト哺乳動物の抗体、およびヒト抗体が挙げられる。また、抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であってもよい。また、抗体は、二重特異性抗体であってもよい。
【0014】
本明細書では、「治療上有効量」とは、疾患や状態を処置(予防または治療)するために有効な薬剤の量を意味する。治療上有効量の薬剤は、疾患または状態の症状の悪化速度を低下させること、前記症状の悪化を止めること、前記症状を改善すること、前記症状を治癒すること、または前記症状の発症または発展を抑制することが可能である。
【0015】
本明細書では、「不溶性フィブリン」とは、第XIII因子により架橋されたフィブリンを意味する。生体では、例えば出血が生じると、フィブリノーゲンがトロンビンの作用によってフィブリンモノマーに変換され、フィブリノーゲンモノマーが重合して難溶性のフィブリンポリマーが形成される。フィブリンポリマーは、第XIII因子により架橋され、不溶性フィブリンとなる。
【0016】
本明細書では、「不溶性フィブリン特異的抗体」とは、不溶性フィブリンに結合する抗体であって、フィブリノーゲンに対するよりも不溶性フィブリンに対して高い親和性を有する抗体をいう。このような不溶性フィブリン特異的抗体は、不溶性フィブリンに対する親和性とフィブリノーゲンに対する親和性とでスクリーニングして得ることが容易にできる。フィブリンは不溶性フィブリン中で立体構造変換が生じ、不溶性になることで初めて露出するエピトープ部位を有する。従って、「不溶性フィブリン特異的抗体」は、この露出したドメイン、すなわちDドメイン(以下、「D-domain」ともいう)を免疫原として免疫することで得ることができる。また、線形ペプチドを用いて得ることも可能である。例えば、フィブリンBβ鎖(例えば、ヒトフィブリンBβ鎖は、配列番号25で表されるアミノ酸配列を有し得る)のアミノ酸配列の231~246位に対応するフィブリンBβ鎖の部分ペプチドを免疫すると、「不溶性フィブリン特異的抗体」を得ることができる。その他、配列番号26または配列番号27のペプチドを免疫原として免疫しても、「不溶性フィブリン特異的抗体」を得ることができる。このような不溶性フィブリン特異的抗体は、フィブリノーゲン、フィブリンモノマーおよびフィブリンポリマーのいずれに対するよりも、不溶性フィブリンへの親和性が高い抗体であり得る。不溶性フィブリンに対する親和性とフィブリノーゲンに対する親和性の比が、例えば、1を超える、1.5以上、2以上、3以上、4以上、または5以上の抗体を不溶性フィブリン特異的抗体として得ることができる。親和性は結合親和性(KD)を意味し、ELISAや結合平衡除外法等の周知の方法で決定することができる。
【0017】
本明細書では、「競合する」とは、抗原への結合に関して、他の結合抗体と結合を奪い合うことを意味する。競合は、ある抗原に対して2つの抗体の結合部位が重複する場合に生じ得る。このような抗体は、上記のようにエピトープを用いた免疫によって得ることができ、および/または、競合アッセイにより抗原に対する一方の抗体の結合が他方の抗体により減少するか否かを確認することでも得ることができる。
【0018】
本明細書では、「抗体-薬物コンジュゲート」(以下、「ADC」ともいう)とは、抗体と細胞傷害剤とが連結した物質を意味する。ADCでは、抗体と細胞傷害剤とは適切なリンカーを介して連結させることができる。細胞傷害剤としては、化学療法剤、放射性同位体、および毒素を用いることができる。ADCには、抗体の抗原結合性断片と薬物とのコンジュゲートも含まれる。
【0019】
本明細書では、「抗原結合性断片」とは、抗原への結合性が維持された抗体の一部を意味する。抗原結合性断片は、本発明の抗体の重鎖可変領域若しくは軽鎖可変領域またはその両方を含みうる。抗原結合性断片は、キメラ化またはヒト化されていてもよい。抗原結合性断片としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv(単鎖Fv)、ダイアボディー、sc(Fv)2(単鎖(Fv)2)が挙げられる。このような抗体の断片は、特に限定されないが例えば、抗体を酵素で処理して得ることができる。例えば、抗体をパパインで消化すると、Fabを得ることができる。あるいは、抗体をペプシンで消化すると、F(ab’)2を得ることができ、これをさらに還元するとFab’を得ることができる。本発明ではこのような抗体の抗原結合性断片を用いることができる。
【0020】
本発明では、抗体-薬物コンジュゲートにおいて抗体と細胞傷害剤とは、リンカーを介して連結している。細胞傷害剤としては、化学療法剤(例えば、市販の抗がん剤などの抗がん剤、例えば、オーリスタチン(オーリスタチンE、オーリスタチンFフェニレンジアミン(AFP)、モノメチルオーリスタチンE、モノメチルオーリスタチンFとそれらの誘導体)、メイタンシノイドDM1およびDM4とそれらの誘導体)、カンプトテシン(SN-38、イリノテカン、ルートテカン、DB67、BMP1350、ST1481、CKD602、トポテカンおよびエキサテカン、並びにそれらの誘導体)、DNA副溝結合剤(エンジイン、レキシトロプシン、デュオカルマイシンとそれらの誘導体)、タキサン(パクリタキセルおよびドセタキセルとそれらの誘導体)、ポリケチド(ディスコデルモライドとその誘導体)、アントラキノン系(ミトキサントロンとその誘導体)、ベンゾジアゼピン(ピロロベンゾジアゼピン、インドリノベンゾジアゼピン、およびオキサゾリジノベンゾジアゼピンとそれらの誘導体)、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、およびビノレルビンとそれらの誘導体)、ドキソルビシン類(ドキソルビシン、モルホリノ-ドキソルビシン、およびシアノモルホリノ-ドキソルビシンとそれらの誘導体)、強心配糖体(ジギトキシンやその誘導体)、カレキアマイシン、エポチロン、クリプトフィシン、セマドチン、セマドチン、リゾキシン、ネトロプシン、コンブレタスタチン、エリュテロビン、エトポシド、T67(チュラリク)、およびノコダゾール)、放射性同位体(例えば、32P、60C、90Y、111In、131I、125I、153Sm、186Re、188Re、および212Bi)、および毒素(例えば、ジフテリアトキシンA、シュードモナスエンドトキシン、リシン、サポリン等)が挙げられ、本発明のADCにおける細胞傷害剤として用いることができる。本発明のADCにおける細胞傷害剤としては、好ましくは例えば、カンプトテシン、特にSN-38、またはエキサテカンを用いることができる。細胞傷害剤はいずれも、がんの治療に用いられるものを用いることができる。細胞傷害剤としては、上記細胞傷害剤の薬学上許容可能な塩、溶媒和物(例えば、水和物)、エステル、またはプロドラッグを用いてもよい。
【0021】
本発明では、ADCのリンカーはプラスミン切断配列を含み、プラスミン存在下で切断可能である。本発明では、ADCのリンカーは、プラスミン切断配列以外の部位は、投与後不溶性フィブリンに送達されるまでの過程で安定な化学結合からなる。このような構成とすることで本発明のADCは、投与後不溶性フィブリンに送達されるまで安定であり、かつ、不溶性フィブリンに結合した後にプラスミンにより切断され、不溶性フィブリン近傍でのみ細胞傷害剤を放出することとなる。プラスミン切断配列は、アミノ酸配列であり、具体的には、バリン-ロイシン-リジン、グリシン-プロリン-リジン、グルタミン酸-リジン-リジン、リジン-フェニルアラニン-リジン、ノルバリン-クロロヘキシルアラニル-リジン、およびノルロイシン-ヘキサヒドロチロシン-リジンからなる群から選択されるプラスミン切断配列などのアミノ酸配列を含むペプチド鎖であり得る。このようなリンカーは、ADCの作製において当業者であれば適宜選択し、合成することができる。ある態様では、リンカーは、例えば、抗体とプラスミン切断配列との間には第1のスペーサーが導入されていてもよく、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、例えば、1分子あたり繰り返し単位5~40程度のPEGを第1のスペーサーとして用いることができる。プラスミン切断配列と細胞傷害剤との間には第2のスペーサーが導入されていてもよく、例えば、p-アミノベンジルオキシカルボニル(PABC)を第2のスペーサーとして用いることができる。
ある態様では、リンカーは、第1のスペーサーおよびプラスミン切断配列を含む。ある態様では、リンカーは、第1のスペーサー、プラスミン切断配列、および第2のスペーサーを含む。ある特定の対象では、リンカーは、PEG、プラスミン切断配列、およびPABCを含む。
ある態様では、リンカーは、プラスミン切断配列以外の開裂性部分を含まない。
抗体とリンカーとの結合は、例えば抗体のスルフヒドリル基にマレイミド基を介して連結することができる。
ある態様では、抗体は、そのスルフヒドリル基を介して、マレイミド-PEG-プラスミン切断配列を有するリンカーで抗がん剤と連結されている。ある態様では、抗体は、そのスルフヒドリル基を介して、マレイミド-PEG-プラスミン切断配列-PABCを有するリンカーで抗がん剤と連結されている。
いずれにしても、本発明のADCでは、抗がん剤は、プラスミンにより切断可能なプラスミン切断部位を有するリンカーで抗がん剤と連結されており、当該ADCが不溶性フィブリンが蓄積した箇所に到達すると、その周囲に存在するプラスミンにより、リンカーがプラスミン切断部位で切断され、不溶性フィブリンの周辺に抗がん剤を放出する。がん組織の周辺には、がんの浸潤による出血に基づいて不溶性フィブリンが蓄積した箇所が多数存在していると考えられ(図8参照)、本発明の抗体(すなわち、不溶性フィブリン特異的抗体)は、薬物デリバリーシステムにおけるがんの標的化に有用であり、本発明のADCはがんの治療薬として有用であると考えられる。
【0022】
本発明では、以下の抗体が提供される:
フィブリンに結合する抗体であって、
配列番号1に示されるCDR1と、配列番号2に示されるCDR2と、配列番号3に示されるCDR3とを有する重鎖可変領域と、
配列番号5に示されるCDR1と、配列番号6に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3とを有する軽鎖可変領域と、
を有する、抗体;および、該抗体とフィブリンへの結合に関して競合する抗体。これらの抗体は、不溶性フィブリン特異的抗体として用いることができる。
【0023】
本発明ではまた、以下の抗体が提供される:
フィブリンに結合する抗体であって、
配列番号4に示される重鎖可変領域と、配列番号8に示される軽鎖可変領域とを有する、抗体。この抗体は、不溶性フィブリン特異的抗体として用いることができる。
この抗体は、
配列番号1に示されるCDR1と、配列番号2に示されるCDR2と、配列番号3に示されるCDR3とを有する重鎖可変領域と、
配列番号5に示されるCDR1と、配列番号6に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3とを有する軽鎖可変領域と、
を有する抗体とも言える。
【0024】
本発明では、以下の抗体が提供される:
フィブリンに結合する抗体であって、
配列番号9に示されるCDR1と、配列番号10に示されるCDR2と、配列番号11に示されるCDR3とを有する重鎖可変領域と、
配列番号13に示されるCDR1と、配列番号14に示されるCDR2と、配列番号15に示されるCDR3とを有する軽鎖可変領域と、
を有する、抗体;および、該抗体とフィブリンへの結合に関して競合する抗体。これらの抗体は、不溶性フィブリン特異的抗体として用いることができる。
【0025】
本発明ではまた、以下の抗体が提供される:
フィブリンに結合する抗体であって、
配列番号12に示される重鎖可変領域と、配列番号16に示される軽鎖可変領域とを有する、抗体。この抗体は、不溶性フィブリン特異的抗体として用いることができる。
この抗体は、
配列番号9に示されるCDR1と、配列番号10に示されるCDR2と、配列番号11に示されるCDR3とを有する重鎖可変領域と、
配列番号13に示されるCDR1と、配列番号14に示されるCDR2と、配列番号15に示されるCDR3とを有する軽鎖可変領域と、
を有する抗体とも言える。
【0026】
上記抗体、および不溶性フィブリン特異的抗体、並びにこれらの抗原結合性断片は、本発明のADCにおいて抗体部分として用いることができる。
【0027】
本発明によれば、治療上有効量の上記ADC(「本発明のADC」ともいう)を含む、医薬組成物が提供される。本発明によれば、本発明のADCおよび上記医薬組成物はそれぞれ、がんを治療することに用いることができる。
【0028】
本発明のADCまたは医薬組成物の治療対象となるがんとしては、特に限定されないが、がん、例えば、肺がん、膵臓がん、頭頸部がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、食道がん、胃がん、大腸がん、子宮がん、卵巣がん、皮膚がん、甲状腺がん、胸腺がん、腎臓がん、精巣がん、陰茎がん、肝臓がん、胆道がん、脳腫瘍、骨軟部腫瘍、後腹膜腫瘍、血管・リンパ管肉腫、およびこれらの転移性のがんが挙げられる。
【0029】
本発明の対象としては、血栓性障害若しくは血栓性障害を伴う疾患に罹患していない対象、または血栓性障害若しくは血栓性障害を伴う疾患であるとの診断がなされていない対象であり得る。これにより、がん以外の組織での副作用を軽減することが期待できる。従って、がんを有する対象が血栓性障害若しくは血栓性障害を伴う疾患に罹患しているか否かを決定し、その後、血栓性障害若しくは血栓性障害を伴う疾患に罹患していない対象に対して本発明のADCを投与してもよい。血栓性障害または血栓性障害を伴う疾患に罹患しているか否かは、医師により適宜判断することができる。
【0030】
本発明のある態様では、医薬組成物は、本発明のADCと賦形剤とを含む。本発明の医薬組成物は、静脈内投与、皮下投与、腫瘍内投与、腹腔内投与、脳室内投与、筋肉内投与等の投与方法により投与され得る。用量は、患者の年齢、性別、体重、疾患の重症度などを考慮して医師が適宜決定することができる。
【0031】
本発明のADCは、これらのがんの間質に蓄積する不溶性フィブリンを標的化し、細胞傷害剤を当該標的化部位に蓄積させるが、それだけではなく、さらに不溶性フィブリンの存在する箇所で活性化されるプラスミンにより切断可能なリンカーを有し、標的化部位で細胞傷害剤を遊離させる。これにより、遊離部位周辺のがんを部位特異的に傷害することができる。
【0032】
本発明によれば、がんを治療することに用いるための医薬の製造における、不溶性フィブリン特異的抗体の使用が提供される。本発明によれば、がんを治療することに用いるための医薬の製造における、不溶性フィブリン特異的抗体と細胞傷害剤とのADCであって、抗体と細胞傷害剤がプラスミン切断可能なプラスミン切断部位を有する、ADCの使用が提供される。
【0033】
本発明によれば、がんをその必要のある対象において治療する方法であって、前記対象に治療上有効量の本発明のADCを投与することを含む、方法が提供される。本発明によれば、がんをその必要のある対象において治療する方法であって、がんを有する対象が血栓性障害若しくは血栓性障害を伴う疾患に罹患しているか否かを決定し、その後、血栓性障害若しくは血栓性障害を伴う疾患に罹患していない対象に対して治療上有効量の本発明のADCを投与することを含む方法が提供される。
【0034】
本発明によれば、がんを治療する方法に用いるための、本発明のADCの使用が提供される。
【実施例
【0035】
実施例1:不溶性フィブリン特異的抗体の作製
本実施例では、フィブリノーゲンに対するよりも不溶性フィブリンに対する親和性が選択的に高い抗体(以下、「不溶性フィブリン特異的抗体」とよぶ)を作製した。
【0036】
(1)免疫原の説明
本実施例では、配列番号26のアミノ酸配列を有するペプチドおよび配列番号27のアミノ酸配列を有するペプチドを免疫原として動物に免疫して抗体を得た。
【0037】
(2)免疫方法
マウスに対する免疫は以下の通り行った。マウスに対する免疫は2週間おきに6回行った。
免疫1回目と4回目の免疫原の調製は以下の通りであった。配列番号26のアミノ酸配列を有するペプチドおよび配列番号27のアミノ酸配列を有するペプチドをそれぞれ免疫原として用いた。滅菌したPBSで0.5 mg/mlに調整した免疫原を作製し、1 mlのシリンジに入れた。その免疫原と等量のFreund’s Complete Adjuvant (Difco社)を別の1 mlのシリンジに入れ、それぞれのシリンジをアダプターで繋ぎ合わせ、抵抗を感じるまで互いに押し出した。免疫1回目と4回目では、免疫原は腹腔に200 μl投与した。
免疫2, 3, 5, 6回目の免疫原の調製は以下の通りであった。滅菌したPBSで0.5 mg/mlに調整した免疫原を作製し、その免疫原と等量のGERBU ADJUVANT 100 (ナカライテスク社)を1.5 ml tube内で混合し、1 mlのシリンジに入れた。免疫2, 3, 5, 6回目では、免疫原は腹腔に100 μl投与した。最終免疫は滅菌したPBSで0.1 mg/mlに調整した免疫原を作製
し、1 mlのシリンジに入れた。免疫原はまず腹腔に100 μl投与し、10分後に尾静脈に400μl投与した。
【0038】
(3)抗体価の測定
マウスは最終免疫の1週間前に尾静脈から採血を行った。4,000 ×g、10分、4℃で遠心し、上清を回収し、サンプルとした。抗体価測定は100倍希釈から12800倍希釈まで2倍ずつ段階的に希釈したサンプルを用いてELISAで行った。ELISAを行うにあたり、事前に抗原固相化プレートの準備を行った。TBS (pH8.5)でFibrinogen from human plasma (SIGMA社)を溶解し、20 μg/mlのフィブリノーゲン溶解液を作製した。96 wellイムノプレートに50 μl/wellずつ添加し4℃で一晩静止したものをフィブリノーゲンプレートとした。このフィブリノーゲンプレートにトロンビン希釈液 [7 mM L-Cystein (Wako社), 1 mM CaCl2 (Wako社), TBS (pH 8.5)]で0.05 NIH U/mlに希釈したトロンビンを各wellに100 μlずつ添加し、37°Cで2時間インキュベートしたものをフィブリンプレートとした。各抗原を固相化したプレートを200 μlのPBS-T (PBS, 0.5% (v/v) Tween20)で3回洗浄し、各wellに200 μLのブロッキング溶液 [PBS-T, 1% (w/v)BSA]を加え、室温で1時間静置してブロッキングを行った。段階希釈したサンプルを50 μl/wellずつ添加し室温で1時間静止した。溶液を捨てPBS-Tで3回洗浄し、ブロッキング溶液で0.3 μg/mlに希釈した二次抗体を各wellに50 μlずつ添加し室温で30分間静止した。二次抗体はPolyclonal Rabbit Anti-Mouse Immunoglobulins/HRP (Dako社)とPolyclonal Rabbit Anti-Rat Immunoglobulins /HRP (Dako社)をサンプルに応じて使い分けた。溶液を捨てPBS-Tで3回洗浄し、発色基質溶液 (1-StepTM Slow TMB-ELISA Substrate Solution, Thermo Fisher Scientific社)を各wellに100 μlずつ添加し、室温で10分間反応させた。2N H2SO4を各wellに30 μlずつ添加し反応を停止させた。450 nmの波長の吸光度をSpectra Max paradigm (Molecular Devices社)で測定した。
【0039】
(4)ハイブリドーマの調製
マウスから脾臓を外科的に摘出し、RPMI 1640に200 units/ml Penicillin-200 μg/ml Streptomycin-500 ng/ml Amphotericin Bを添加した培地に浸した。シリンジ 10 ml (TERUMO社)と注射針 22G (TERUMO社)を用いてRPMI1640を脾臓に注入し、脾細胞を取り出し、EASY strainer 70 μm メッシュ (greiner 社)を通した。回収した細胞懸濁液は270 ×g、5 min、室温の条件で遠心して、上清を除去後、10 mlのRPMI 1640に懸濁した。このRPMI 1640による洗浄を2回繰り返し、5 mlのRPMI 1640に懸濁し、マウスの腸骨リンパ節を用いた細胞融合のように細胞融合を行った。
【0040】
(5)ハイブリドーマのスクリーニング
細胞融合を行って10日後からELISAでスクリーニングを開始した。1次スクリーニングでは全てのwellから培養上清を50 μl分注し、1次抗体として用いた。免疫に使用したペプチドを固相化したプレートを準備した。ペプチドをリン酸緩衝液で20 μg/mlに希釈し、96 wellイムノプレート (MAXI BREAKAPART NUNC-IMMUNO MODULE, nunc社)の各wellに50μlずつ加え、室温で1時間静置して固相化を行った。固相化後は抗体価測定と同じような方法でELISAを行った。これにより抗体を産生している細胞があるwellを確認した。
2次スクリーニングでは1次スクリーニングで陽性だったwellのみから培養上清を50 μl分注し、1次抗体として用いた。フィブリンプレートおよびフィブリノーゲンプレートを用いて抗体価測定と同じような方法でELISAを行った。これにより不溶性フィブリン特異的な抗体を産生している細胞があるwellを確認した。2次スクリーニングで陽性だったwellに関しては200 μl目盛付チップ イエロー (Watson社)を用いてコロニーピッキングを行った。コロニーにチップを押し当て5 μl吸い取り、新しいCostar 96-Well Cell Culture Platesに播種した。
3次スクリーニングではコロニーを播種したwellから培養上清を50 μl分注し、1次抗体として用いた。フィブリンプレートおよびフィブリノーゲンプレートを用いて抗体価測定と同じような方法でELISAを行った。3次スクリーニングで陽性だったwellの細胞を限界希釈した。
4次スクリーニングでは単一細胞のwellのみから培養上清を50 μl分注し、1次抗体として用いた。フィブリンプレートおよびフィブリノーゲンプレートを用いて抗体価測定と同じような方法でELISAを行った。これにより不溶性フィブリン特異的な抗体を産生する細胞を選択した。
配列番号26のアミノ酸配列を有するペプチドを免疫したマウスから99-5クローンが得られた。また、配列番号27のアミノ酸配列を有するペプチドを免疫したマウスから1101クローンが得られた。以下、この「99-5クローン」を単に「99クローン」と呼ぶことがある。
【0041】
実施例2:得られたモノクローナル抗体の特性解析
本実施例では、ELISAおよび表面プラズモン共鳴(SPR)により抗体の親和性を検証した。
【0042】
(1)ELISAによる親和性の検証
ELISAを行うにあたり、事前に抗原固相化プレートの準備を行った。TBS (pH8.5)でFibrinogen from human plasma (SIGMA社)を溶解し、20 μg/mlのフィブリノーゲン溶解液を作製した。96 wellイムノプレートに50 μl/wellずつ添加し4℃で一晩静止したものをフィブリノーゲンプレートとした。このフィブリノーゲンプレートにトロンビン希釈液 [7 mM L-Cystein (Wako社), 1 mM CaCl2 (Wako社), TBS (pH 8.5)]で0.05 NIH U/mlに希釈したトロンビンを各wellに100 μlずつ添加し、37°Cで2時間インキュベートしたものをフィブリンプレートとした。各抗原を固相化したプレートを200 μlのPBS-T (PBS, 0.5% (v/v) Tween20)で3回洗浄し、各wellに200 μLのブロッキング溶液 [PBS-T, 1% (w/v)BSA]を加え、室温で1時間静置してブロッキングを行った。PBSで段階希釈したサンプルを50 μl/wellずつ添加し室温で1時間静止した。溶液を捨てPBS-Tで3回洗浄し、ブロッキング溶液で0.3 μg/mlに希釈した二次抗体を各wellに50 μlずつ添加し室温で30分間静止した。二次抗体はPolyclonal Rabbit Anti-Mouse Immunoglobulins/HRP (Dako社)とPolyclonal Rabbit Anti-Rat Immunoglobulins /HRP (Dako社)をサンプルに応じて使い分けた。溶液を捨てPBS-Tで3回洗浄し、発色基質溶液を各wellに100 μlずつ添加し、室温で10分間反応させた。2N H2SO4を各wellに30 μlずつ添加し反応を停止させた。450 nmの波長の吸光度をSpectra Max paradigm (Molecular Devices社)で測定した。
【0043】
結果は、図1に示される通りであった。図1に示されるように、上記実施例で新たに得られた99クローンおよび1101クローンから得られた抗体は、不溶性フィブリンに対してフィブリノーゲンに対するよりも強く結合する、不溶性フィブリン特異的抗体であった。また、WO2016/167227で得られた102-10クローンから得られた抗体よりもフィブリンに対して強く反応した。
【0044】
(2)SPRによる親和性の検証
抗原が不溶性である場合には、SPRによる親和性の検証には適していないが、抗体同士の相対的な親和性の強さを比較するため参考として測定した。
抗体の不溶性フィブリンに対する親和性をBiacore T200 (GE Healthcare社)を用いて表面プラズモン共鳴 (Surface plasmon resonance: SPR)解析から算出し、抗体の分子間相互作用の評価を行った。流路で使用するbufferにはHBS-N buffer (GE Healthcare社)を用いた。10 mM sodium acetate, pH 5.5 (GE Healthcare社)で102-10のエピトープ部分のペプチド(WO2016/167227参照)を1 μg/mlに希釈し、センサーチップ (Biacore sensor chip CM5, GE Healthcare社)に固定化した。固定化はamine coupling kit (BR-1000-50, GEHeathcare社)を用いて、固定化量を90 RUに設定して行った。次に1×HBS-N bufferで48.875、93.75、187.5、375、750、1500 nMに希釈した抗体を用いて、マルチサイクルカイネティクス法にて表1の条件で抗原抗体反応を行った。測定後はKD値、kd値、ka値を求めるためにBIAevaluation (GE Healthcare社)を用いて解析を行った。
【0045】
【表1】
【0046】
結果は、表2に示される通りであった。
【0047】
【表2】
【0048】
実施例3:膵臓がんの皮下移植モデルを用いた抗体のがんへの蓄積性の検証
本実施例では、Y. Kawaguchi、C. Wright、D. Tuvesonから提供されたLSL-KrasG12D/+とPtf1a-Cre、National Cancer Institute at Frederickから提供されたLSL-Trp53R172H/+をかけ合わせてp53、p48、およびK-Rasの三重変異マウス (膵臓がんモデルマウス)を作製し、三重変異マウス由来の膵臓がん細胞株を樹立することができたため、その細胞株を用いてin vivo imagingを行った。この三重変異マウスはヒト膵がんの発生を模倣すると報告されている。膵臓がん細胞株は500 mlのRPMI 1640 (Wako社) に非働化した100 ml Fetal Bovine Serum (FBS, gibco社)と10 mlの100 units/ml Penicillin- 100 μg/ml Streptomycin -250 ng/ml Amphotericin B (Wako社)を添加した培地で培養した。そして、培養上清を除去し、PBS (Invitrogen社)を用いて洗浄し、2 mlの Trypsin-EDTA [0.25% (w/v) Trypsin-1.0 mmol/l thylenediaminetetraacetic acid ・4Na Solution with Phenol Red, 和光純薬工業社]を添加し、細胞をピペッティングで剥がし、15 ml tube (corning社)に入れた。270 ×g、3 min、4℃の条件で遠心機 (ユニバーサル遠心機5800, KUBOTA社)を用いて遠心し、上清を除去した。10 mlのPBSで再懸濁し、270 ×g、3 min、4℃の条件で遠心した。これを三回繰り返し、PBSで2×106 cells/50 μlに調整し、5週齢のBALB/c Slc nu/nuマウス (日本SLC社)の左足の付け根に1匹当たり50 μlずつ皮下注射した。1か月後、Alexa647標識した抗不溶性フィブリン抗体とコントロール抗体を1匹当たり300 μg尾静脈投与した。コントロールにはInVivoMAb Mouse IgG1 Isotype control (BioXCell社)を使用した。投与後1時間後、1日目、3日目、5日目、7日目にin vivo生体観察システム OV110 (olympus社)で撮影を行った。
【0049】
結果は、図2に示される通りであった。図2に示されるように、得られた不溶性抗不溶性フィブリン抗体(特に1101および99)は、がんへの蓄積性が高いことがイメージングから明らかとなった。
【0050】
次いで、外科的に摘出した腫瘍をOCT compound (サクラファインテックジャパン社)に包埋して凍結し、6 μmの薄層切片を作製した。ドライヤーで45分風乾後、冷アセトン (Wako社)で10分固定した。PBSで洗浄後、マイヤーヘマトキシリン (武藤化学社)で2分間核染色した。流水で10分間洗浄を行った後、100%エタノールで3倍希釈したエオジンアルコール (武藤化学社) で細胞質を染色した。流水で洗浄後、100%エタノールに3分ずつ3回浸し、キシレン (Wako社)に3分ずつ3回浸して、脱水と透徹を行った。最後にMount-Quick (大道産業社)で封入した。
【0051】
外科的に摘出した腫瘍をOCT compound (サクラファインテックジャパン社)に包埋して凍結し、6 μmの薄層切片を作製した。ドライヤーで45分風乾後、冷アセトン (Wako社)で10分固定した。PBSで洗浄後、0.3% (v/v) H2O2に20分間浸し、内因性ペルオキシダーゼ阻害を行った。PBSで5分間の洗浄を3回行った後に、ブロッキング溶液 [5% (w/v)スキムミルク (Difco社), PBS]で30分間ブロッキングした。ブロッキング溶液で1 μg/mlに希釈したHRP標識抗体を200 μl滴下し、4℃で一晩反応させた。PBSで5分間3回洗浄した後、3,3'-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド (Dako社)で酵素基質反応を行った。その後、滅菌蒸留水で3分間洗浄を行い、マイヤーヘマトキシリン (武藤化学社)で2分間核染色した。流水で10分間洗浄を行った後、100%エタノールに3分ずつ3回浸し、キシレン (Wako社)に3分ずつ3回浸して、脱水と透徹を行った。最後にMount-Quick (大道産業社)で封入した。
【0052】
実施例4:in vitro抗がん作用
本実施例では、得られた不溶性フィブリン特異的抗体にモノメチルオーリスタチンE(MMAE)を連結した抗体薬物コンジュゲート(ADC)を作製し、その抗がん作用を検証した。
【0053】
ADCとしては、図3に示される構造を有するADCを合成して用いた。このADCは、抗がん剤としてMMAEを、モノクローナル抗体(mAb)に連結させたものである。このADCでは、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサーとプラスミン切断部位でありVal-Leu-Lysを介して、抗体とMMAEとが連結されており、プラスミンが存在する環境下で切断され、MMAEが抗体から遊離される。
【0054】
上記ADCは、具体的には以下の通り合成した。
【化1】
Fmoc-Val-Leu-Lys(Mmt)-aminobenzylalcohol (0.74 g, 0.773 mmol) のDMF (2 mL) 溶液にDIPEA (0.54 mL, 3.10 mmol) とp-nitrophenyl chloroformate (472 mg, 1.55 mmol) を0度にて加え、室温にて12 時間撹拌した。反応液を飽和塩化アンモニウム水溶液で停止し、クロロホルムで抽出した。抽出層を飽和食塩水にて洗浄し、Na2SO4 で乾燥後、減圧下濃縮した。残さをシリカゲルクロマトグラフィー (CHCl3/MeOH 95/5 - 9/1) にて精製した。Fmoc-Val-Leu-Lys(Mmt)-OPABC-p-nitrophenyl carbonate を無色アモルファスとして得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): d 8.01 (br, 1H), 7.76 (br, 1H), 7.05-7.60 (m, 13H), 6.78 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 5.49 (br, 1H), 5.25 (br, 1H), 4.94 (br, 1H), 4.77 (s, 2H), 4.04 (s, 3H), 4.00-4.85 (m, 3H), 3.75 (s, 3H), 3.55-3.90 (m, 2H), 3.26 (d, J =19.6 Hz, 1H), 3.00 (d, J = 19.6 Hz, 1H), 2.32 (br, 1H), 1.26 (s, 3H), 1.05-2.25(m, 15H), 0.70-1.05 (m, 12H); HRMS (ESI-MS) : calcd for C72H85N6O17: 1305.5971 [M+H]+; found 1305.5935.
【0055】
【化2】
【0056】
p-ニトロフェニルカーボネート体 (33.2 mg, 0.0296 mmol), HOBt (0.5 mg, 0.0039 mmol) のピリジン (80 mL) - DMF (0.4 mL)溶液にMMAE (14.1 mg, 0.0197 mmol) を0度にて加えた。反応液を室温にて10時間撹拌後、反応液を直接LH20 (クロロホルム/メタノール 1/1)により精製し、Fmoc-Val-Leu-Lys(Mmt)- OPABC-MMAE (22.7 mg, 68%) を無色アモルファスとして得た。
MS (MALDI-TOFMS) calcd for [C99H132N10O15+K]+ 1739.95; found 1741.37.
【0057】
【化3】
【0058】
Fmoc-Val-Leu-Lys(Mmt)- OPABC-MMAE (626 mg, 0.368 mmol) のDMF (3 mL) 溶液にピペリジン(110 mL, 1.10 mmol) を加え、室温にて40分撹拌した。反応液をLH20 (クロロホルム/メタノール 1/1) とHPLC (YMC T4000 10.0 mL/min, CHCl3:MeOH 4:1, 254nm)にて精製し、H-Val-Leu-Lys(Mmt)- OPABC-MMAE (458 mg, 84%) を無色アモルファスとして得た。
MS (MALDI-TOFMS) calcd for [C94H122N10O13+K]+ 1519.02; found 1519.65.
【0059】
【化4】
【0060】
H-Val-Leu-Lys(Mmt)- OPABC-MMAE (458 mg, 0.309 mmol) の塩化メチレン溶液 (2 mL) にDIPEA (160 mL, 0.927 mmol) とMal-PEG12-OSu (295 mg, 0.340 mmol) の塩化メチレン溶液 (1 mL) を0度にて加えた。反応液を室温にて22時間撹拌した後、LH20 (クロロホルム/メタノール 1/1) と分子ふるいリサイクルHPLC (YMC T4000 10.0 mL/min, CHCl3, 254nm) により精製し、Mal-PEG12-Val-Leu-Lys(Mmt)-OPABC-MMAE (498 mg, 72%) を無色アモルファスとして得た。
MS (MALDI-TOFMS) calcd for [C118H180N12O29+K-Mmt]+ 1997.51; found 1999.49.
【0061】
【化5】
【0062】
Mal-PEG12-Val-Leu-Lys(Mmt)- OPABC-MMAE (498 mg, 0.223 mmol) を5% TFA 塩化メチレン溶液 (2 mL) に溶解し、メタノール (50 mL) を加え、室温にて1時間撹拌した。反応液を直接LH20 (クロロホルム/メタノール 1/1)、続いて、 HPLC (YMC T4000 10.0 mL/min, CHCl3, 254nm) ) により精製し、Mal-PEG12-Val-Leu-Lys- OPABC-MMAE (440 mg, 90%) を無色アモルファスとして得た。
MS (MALDI-TOFMS) calcd for [C98H164N12O28+K]+ 1997.51; found 1998.31.
【0063】
次に、フィブリンプレートを作製した。細胞培養用96wellプレートに25 mg/mlフィブリノーゲン溶液5μLを壁面に添加した。トロンビン溶液1μlを各wellに添加し、40 ×g, 4℃の条件下で、1分間遠心した。37℃で2時間反応させ、その後、使用するまで4℃で保存した。
【0064】
5-11細胞株(TGマウス由来膵がん細胞)を2000 cells/wellで得られたフィブリンコートプレートに播種し、37℃で一晩培養した。培養液としては、10%FBSを含むRPMI培地とした。
【0065】
ADCを終濃度で0~25nM(MMAE換算)となるように希釈系列を調整した。
【0066】
プラスミノーゲン、tPA、α2-抗プラスミンの終濃度が、正常血漿中の濃度と同程度、すなわち、それぞれ約1500nM、約0.3nM、約1000nMとなるように調整した。
フィブリンプレートから培養液を除去し、プラスミノーゲン、tPA、α2-抗プラスミンを含む上記溶液を90μl添加し、その後、ADC(図中、「Fbn-ADC」と称する)の希釈系列を10μl添加した。対照として、不溶性フィブリン抗体単体(図中、「IgG」と称する)および図3の抗体として抗4M-Tag抗体(対照IgG)を用いたADC(図中、「Control-ADC」と称する)を用いた。37℃で72時間インキュベートし、その後、培養液を除去して、CCK-8(同仁化学):培養液=1:10の割合で混合した反応液を添加して、37℃で3時間インキュベートした。A450により求めた光学密度曲線からIC50を算出した。
【0067】
結果は、図4に示される通りであった。不溶性フィブリン特異的抗体のADCは、がん細胞の増殖抑制効果を示したが、対照では、有意な腫瘍の増殖抑制効果は観察されなかった。このことは、不溶性フィブリン特異的抗体-ADCが、プレートをコーティングするフィブリンに結合したこと、および、その後、プラスミンによりリンカーが切断されてMMAEが放出され、腫瘍を殺傷したことを示すものである。不溶性フィブリン特異的抗体-ADCのIC50は、19nMであった。
【0068】
実施例5:インビボにおける上記不溶性フィブリン特異的抗体-ADCの抗がん作用
本発明者らは、体内でがんが増殖するとがんを取り巻く血管を損傷し、出血を生じること、これによって止血のために不溶性フィブリンが腫瘍付近に蓄積し、蓄積した不溶性フィブリンに結合する抗体を用いればがん周辺に抗がん剤を送達できると仮説した。本発明者らはまた、ADCのリンカーにプラスミン切断部位を導入することにより、不溶性フィブリンに到達したADCが切断され、さらに不溶性フィブリン上で活性化したプラスミンにより、不溶性フィブリン依存的に抗がん剤を放出する、新しい抗がん剤の概念を創出した。本発明者らは、これにより不溶性フィブリン依存的にADCが蓄積し、かつ抗がん剤が放出されることにより、がん特異性を高めることができると仮説した。
【0069】
上記のP53、K-ras、P48の3重変異マウスにおいて自然発生した膵がんを有するモデル(膵がん自然発生モデル)に対して上記ADCによる治療効果を検証した。不溶性フィブリン特異的抗体-ADCを0.3mg(MMAE換算)/kg体重/3~4日(すなわち、20mg(ADC換算)/kg体重/3~4日でADCをモデルに投与し、カプランマイヤー曲線を求めた。ログランク検定での有意水準を0.05とした。対照ADC(図中、「Control-ADC」と称される)としては、抗4M-Tag抗体を用いた。
【0070】
結果は、図5に示される通りであった。図5に示されるように、ADC(図中、「αFbn-ADC」と称される)は、対照に対して有意に膵がん自然発生モデルの生存率を改善した。これにより上記仮説が正しいことが実証された。
【0071】
実施例6:フィブリン沈着を有する皮下腫瘍モデルにおける上記不溶性フィブリン特異的抗体-ADCの抗がん作用
本実施例では、上記3重変異体から自然発生した膵がんから細胞株を樹立し、当該細胞株を皮下移植して得られた皮下腫瘍モデルを用いて、不溶性フィブリン特異的抗体-ADCの抗がん作用を検証した。
【0072】
上記3重変異体から自然発生した膵がんから細胞株を樹立して5-11と命名した。5-11をBALB/Cヌードマウスの皮下に5×105個移植して皮下移植モデルを作製した。この皮下移植モデルは、皮下にフィブリンの沈着を有していた。得られた皮下腫瘍モデルに対して、不溶性フィブリン特異的抗体-ADCを0.3mg(MMEA換算)/kg体重/3~4日(すなわち、20mg(ADC換算)/kg体重/3~4日で投与し、腫瘍体積増加率の推移を観察した。ANOVAでの比較の有意水準を0.01とした。
【0073】
結果は、図6Aに示される通りであった。図6Aに示されるように、ADC(図中、「αFbn-ADC」と称される)は、対照に対して有意に腫瘍体積の増加を抑制した。
【0074】
皮下移植モデルの体重変化の経時的推移は、図6Bに示される通りであった。図6Bに示されるように、体重については有意な増減がなく、本発明のADCは副作用の少ない治療薬たり得ることが明らかになった。
【0075】
次にリンカーがプラスミン切断配列を有しない場合と抗腫瘍効果を比較した。
44As3を3000 cells/wellで得られたフィブリンコート及び非コートプレートに播種し、37℃で一晩培養した。培養液としては、10%FBSを含むRPMI培地とした。
カテプシンリンカー(バリン-シトルリンを有する)を用いたADC並びにプラスミンリンカーを用いたADCをそれぞれ終濃度で0~3 nM(MMAE換算)となるように希釈系列を調整した。
プラスミノーゲン、tPA、α2-抗プラスミンの終濃度が、正常血漿中の濃度と同比程度、すなわち、それぞれ約150nM、約0.03nM、約100nMとなるように調整した。
各プレートから培養液を除去し、プラスミノーゲン、tPA、α2-抗プラスミンを含む上記溶液を90μl添加し、その後、ADCの希釈系列をそれぞれのプレートに10 μl添加した。37℃で72時間インキュベートし、その後、培養液を除去して、CCK-8(同仁化学):培養液=1:10の割合で混合した反応液を添加して、37℃で2時間インキュベートした。A450により求めた光学密度曲線からIC50を算出した。
【0076】
結果は図7に示される通りであった。図7に示されるように、プラスミン切断部位を有する上記ADC(図中、「プラスミンリンカー」と称する)では、腫瘍細胞に対する細胞増殖抑制効果が明確に示されたのに対して、プラスミン切断部位を有するリンカーの代わりにカテプシン切断部位を有するリンカーに置き換えたADC(図中、「カテプシンリンカー」と称する)では、腫瘍細胞に対する細胞増殖抑制効果がほとんどみられなかった。
【0077】
上記結果から、図8に示されるように、プラスミン切断部位有するリンカーを備えた抗不溶性フィブリン抗体-細胞傷害剤コンジュゲートは、血行から不溶性フィブリンが蓄積するがん周辺部に送達され、フィブリン付近でプラスミンでリンカー部分が切断されて、細胞傷害剤をがん周辺に放出する。これにより、がんは、細胞傷害剤と接触することとなる。これが、本願発明のADCの作用機序であると考えられる。
【0078】
がんは、悪性度が高いほど組織に浸潤性が高い。血管に浸潤した場合には出血が生じ、そうすると出血部位で不溶性フィブリンが形成される。本発明のADCは、このような悪性度が高いがんに対して特に有効性が高いと考えられる。また、不溶性フィブリン特異的抗体であれば、他の抗体を用いた場合でもADCは、同様に抗がん作用を発揮すると考えられた。
【0079】
実施例7:抗体の配列解読
5×105 個の細胞を100 mm dish (Corning社)から15 ml tubeに移し、270 ×g、3分、4°Cの条件で遠心する。上清を除去後、RNAiso Plus (タカラバイオ社) を1 ml加えて、エッペンに移し、vortexを行った。その後、室温で5分間静置した。この細胞懸濁液から、RNeasy Mini Kit (Qiagen社) を用いてtotal RNAを抽出した。細胞懸濁液にクロロホルム (Wako社) を200 μl加え、30秒間vortexし、3分間静置した。その後20,400 ×g、15分、4°Cの条件で遠心して、500 μlの上清を回収した。回収した上清に500 μlの70% EtOHを加えて、その溶液をRNeasy Mini spin column へ移した。15,000 ×g、1 min、室温の条件で遠心し、フロースルーを捨て、700 μlのBuffer RW1 (Qiagen社)を加え、8,000 ×g、1 min、室温の条件で遠心した。フロースルーを捨て、500 μlのBuffer RPE (Qiagen社)を加え、8,000 ×g、1 min、室温の条件で遠心した。この洗浄を3回繰り返し、最後に50μlの滅菌蒸留水を加え、20,400 ×g、1 min、室温の条件で遠心し、RNAを抽出した。
SMARTer RACE cDNA Amplification Kit (タカラバイオ社)を用いて、抽出したRNAからcDNAを合成した。あらかじめBuffer Mix(5×First-Strand buffer 2 μl, 20 mM DTT 1 μl, 10 mM dNTP Mix 1 μl)を調整し、室温に置いた。PCR用8連tube (Thermo Scientific社) に5'-CDS primer-A を1 μl取り、total RNA 300 ng を加えた後、Nuclease-free Waterを用いて3.75 μlにメスアップした。そのサンプルをProFlex PCR systemを用いて、72°Cで3分間反応を行った後、42°Cで2分間反応を行った。スピンダウン後、SMARTerIIAオリゴを1 μl加えた。このサンプルに4 μlのBuffer Mix、0.25 μlの RNase inhibitor、1 μlのSMART Scribe Reverse Transcriptaseを混合した溶液を加えた。ProFlex PCR systemを用いて、42°Cで90分間反応を行った後、72°Cで10分間反応を行い、cDNAを合成し、その後、cDNAの配列を解読した。得られた抗体の配列は以下の通りであった。
【0080】
99クローン(99-5クローン)から得られるmAb(マウスIgG1)の重鎖可変領域
【化6】
【0081】
99クローン(99-5クローン)から得られるmAb(マウスIgG1)の軽鎖可変領域
【化7】
【0082】
1101クローンから得られるmAb(マウスIgG1)の重鎖可変領域
【化8】
【0083】
1101クローンから得られるmAb(マウスIgG1)の軽鎖可変領域
【化9】
【0084】
0211クローンから得られるmAb(マウスIgG2b)の重鎖可変領域
【化10】
【0085】
0211クローンから得られるmAb(マウスIgG2b)の軽鎖可変領域
【化11】
【0086】
配列表
配列番号1~3 99抗体の重鎖CDR1~3にそれぞれ対応
配列番号4 99抗体の重鎖可変領域に対応(アミノ酸番号1~19がシグナル配列である)
配列番号5~7 99抗体の軽鎖CDR1~3にそれぞれ対応
配列番号8 99抗体の軽鎖可変領域に対応(アミノ酸番号1~19がシグナル配列である)
配列番号9~11 1101抗体の重鎖CDR1~3にそれぞれ対応
配列番号12 1101抗体の重鎖可変領域に対応(アミノ酸番号1~19がシグナル配列である)
配列番号13~15 1101抗体の軽鎖CDR1~3にそれぞれ対応
配列番号16 1101抗体の軽鎖可変領域に対応(アミノ酸番号1~27がシグナル配列である)
配列番号17~19 0211抗体の重鎖CDR1~3にそれぞれ対応
配列番号20 0211抗体の重鎖可変領域に対応(アミノ酸番号1~19がシグナル配列である)
配列番号21~23 0211抗体の軽鎖CDR1~3にそれぞれ対応
配列番号24 0211抗体の軽鎖可変領域に対応(アミノ酸番号1~20がシグナル配列である)
配列番号25 ヒトフィブリンBβ鎖
配列番号26 99の免疫原として使用したヒトフィブリンBβ鎖断片
配列番号27 1101の免疫原として使用したヒトフィブリンBβ鎖断片
配列番号28 免疫原として利用できるヒトフィブリンBβ鎖断片(No.2ペプチド)
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
【配列表】
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