(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】人工股関節用部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/32 20060101AFI20230106BHJP
【FI】
A61F2/32
(21)【出願番号】P 2018156665
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501478296
【氏名又は名称】株式会社デルコ
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【氏名又は名称】安藤 敏之
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】國本 和代
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04904262(US,A)
【文献】特開平01-265955(JP,A)
【文献】特開昭63-043657(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0118243(US,A1)
【文献】米国特許第04595393(US,A)
【文献】中国特許出願公開第105559947(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0228613(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0258606(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
別体もしくは一体で形成された骨頭ボールを支持する本体部と、
該本体部と一体に形成され、該本体部よりも細径の挿入部と、を備え、
該挿入部の外面には、大腿骨の内部に挿入された際に対向する髄腔の内面形状と略一致する形状の嵌合面が周方向に亘って設けられており、
前記本体部及び/又は挿入部の少なくとも一部が、前記挿入部の先端に形成された開口を通じて外部と連通する空隙を多数備えたポーラス構造体で構成され
、
前記ポーラス構造体は、複数の棒状もしくは板状の小片が相互に連結され、これら小片以外の部分に前記空隙が形成されていることを特徴とする人工股関節用部品。
【請求項2】
前記本体部及び前記挿入部が前記ポーラス構造体で構成され、前記本体部及び前記挿入部の中心部には、周囲を前記ポーラス構造体で囲まれた空洞部が形成されている請求項1に記載の人工股関節用部品。
【請求項3】
複数の貫通孔を備えた薄肉の表皮層が、前記ポーラス構造体の外周を覆うように、該ポーラス構造体と一体に形成されていることを特徴とする請求項
1,2の何れかに記載の人工股関節用部品。
【請求項4】
請求項1
~3の何れかに記載の人工股関節用部品の製造方法であって、
前記人工股関節用部品に置換される大腿骨から取得したCT断面撮影データもしくはMRI断面撮影データの重ね合せにより再現された前記大腿骨の3次元形状に基づいて、前記人工股関節用部品の形状を決定し、
金属粉末材料を用いた積層造形法により、前記人工股関節用部品を造形することを特徴とする人工股関節用部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大腿骨の人工関節置換術に用いられる人工股関節用部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図7(A)は、大腿骨を模式化して示した図である。同図において、50は大腿骨、52は骨頭、53は頸部、54は大転子である。大腿骨50の外面は皮質骨56で覆われ、その内部は、骨端側が小孔と網目状の骨梁からなる海綿質58で形成され、骨幹側には髄腔60が広がっている。この髄腔60の内部は骨髄細胞で満たされている。かかる大腿骨50では、骨頭52が図示を省略する骨盤の寛骨臼に嵌り合って骨盤からの荷重を支持している。
【0003】
ここで、大腿骨の一部が損傷した場合、大腿骨の一部を、人工関節に置換する人工関節置換術が行われている。人工関節における大腿骨側の部品としては、大腿骨に挿入・固定されるステムと、骨頭の機能を果たす別体の骨頭ボールと、が用いられている(例えば下記特許文献1参照)。
【0004】
これらステムおよび骨頭ボールを用いた人工関節置換術の一例を、
図7(B)に示す。人工関節置換術では、大腿骨50の一部(損傷部を含む骨端側の部位)を切除した後、残存する大腿骨50の中央部を掘削し、ステム62を挿入可能な大きさ・形状の挿入孔64を形成する。そして挿入孔64内にステム62を挿入したのち、ステム62と挿入孔64との間の隙間に医療用セメント66を充填して、ステム62を固定する。なお、
図7(B)において、63は骨頭の機能を果たす骨頭ボールである。
【0005】
しかしながら上記のような人工関節置換術では、挿入孔64を形成するための掘削により髄腔60周りが大きく削り取られてしまうため、大腿骨50の髄腔60内に存在していた骨髄細胞もそのほとんどが破壊されてしまっていた。かかる髄腔60内の骨髄細胞からは血圧や血糖値に影響を与えるホルモンが分泌されており、人工関節置換術で失われた骨髄細胞を早期に再生させることが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような事情を背景とし、大腿骨内の骨髄細胞の破壊を抑制し、術後において早期に骨髄細胞の再生を図ることが可能な人工関節置換術に好適に用いることができる人工股関節用部品およびその製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
而して本発明の人工股関節用部品は、別体もしくは一体で形成された骨頭ボールを支持する本体部と、
該本体部と一体に形成され、該本体部よりも細径の挿入部と、を備え、
該挿入部の外面には、大腿骨の内部に挿入された際に対向する髄腔の内面形状と略一致する形状の嵌合面が周方向に亘って設けられており、
前記本体部及び/又は挿入部の少なくとも一部が、前記挿入部の先端に形成された開口を通じて外部と連通する空隙を多数備えたポーラス構造体で構成され、
前記ポーラス構造体は、複数の棒状もしくは板状の小片が相互に連結され、これら小片以外の部分に前記空隙が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の人工股関節用部品では、挿入部の外面に、大腿骨の内部に挿入された際に対向する髄腔の内面形状と略一致する形状の嵌合面が周方向に亘って設けられているため、本来的に大腿骨の内部に形成されている空洞部である髄腔を利用して、人工股関節用部品を位置固定することができる。このため本発明の人工股関節用部品を用いた人工関節置換術では、人工股関節用部品を患者の大腿骨内に挿入するに際し、改めて人工股関節用部品の挿入部の外面形状に合わせて大腿骨の内部を掘削する作業を廃止もしくは最小限に留めることができ、髄腔内の骨髄細胞が掘削作業により破壊されてしまうのを防止することができる。従って、本発明の人工股関節用部品を用いた人工関節置換術では、多くの骨髄細胞を残存させることができる。
また、本発明の人工股関節用部品を用いた人工関節置換術では、大腿骨の内部を掘削する作業を実質的に廃止することで、手術時間の大幅な削減を図ることができる。
【0010】
また本発明では、本体部及び/又は挿入部の少なくとも一部を、多数の空隙を備えたポーラス構造体で構成しているため、挿入部の先端に形成された開口を通じて人工股関節用部品の内部に進入した骨髄細胞を、かかるポーラス構造体に定着させることで、骨髄細胞を早期に再生させることができる。また、多数の空隙を備えたポーラス構造体は、人工股関節用部品の軽量化にも有効である。
【0011】
ここで本発明では、複数の貫通孔を備えた薄肉の表皮層を、前記ポーラス構造体の外周を覆うように、該ポーラス構造体と一体に形成することができる。
【0012】
人工股関節用部品の一部をポーラス構造体とした場合であっても、その外周を覆うように表皮層を設けることで、所定の強度を確保することが容易となる。また、人工股関節用部品を積層造形法で造形する場合の製造性を向上させることができる。
ここで、表皮層に形成された貫通孔は、人工股関節用部品を積層造形法で造形した際、人工股関節用部品内に残存する未溶融の金属粉末を外部に排出するための排出孔として用いられる。また、本発明の人工股関節用部品が患者の大腿骨に固定された後は、かかる貫通孔を通じて表皮層を内外に貫通する血管が形成される。
【0013】
次に、本発明の人工股関節用部品の製造方法は、人工股関節用部品に置換される大腿骨から取得したCT断面撮影データもしくはMRI断面撮影データの重ね合せにより再現された大腿骨の3次元形状に基づいて、前記人工股関節用部品の形状を決定し、
金属粉末材料を用いた積層造形法により、前記人工股関節用部品を造形することを特徴とする。
【0014】
本発明の製造方法によれば、CT断面撮影データもしくはMRI断面撮影データの重ね合せにより再現された大腿骨の3次元形状に基づいて、患者ごとに最適な形状の人工股関節用部品を提供することができる。このような製造方法によれば、本発明の特徴を備えた人工股関節用部品、即ち、挿入部の外面に、患者の髄腔の内面形状と略一致する形状の嵌合面が設けられた人工股関節用部品を容易に製造することができる。また、本発明の製造方法にて採用する積層造形法によれば、形状において高い自由度が得られるため、複雑な形状を有するポーラス構造体にも対応することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のような本発明によれば、大腿骨内の骨髄細胞の破壊を抑制し、術後において早期に骨髄細胞の再生を図ることが可能な人工関節置換術に好適に用いることができる人工股関節用部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(A)は本発明の一実施形態の人工股関節用部品を別体の骨頭ボールとともに示した側面図、(B)は同人工股関節用部品の挿入部側の部位を底面側から示した図である。
【
図3】
図1の人工股関節用部品の製造手順を示したフローである。
【
図4】(A)は
図1の人工股関節用部品の挿入部を拡大して示した図、(B)は挿入部の嵌合面領域を異ならせた変形例の図である。
【
図5】
図1の人工股関節用部品を用いた人工関節置換術の説明図である。
【
図6】
図1の人工股関節用部品の効果を説明するための図である。
【
図7】(A)は大腿骨を模式化して示した図、(B)は従来のステムを用いた人工関節置換術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1(A)は、本実施形態の人工股関節用部品10を別体の骨頭ボール12とともに示した図である。人工股関節用部品10は、骨頭ボール12を支持する本体部14と、本体部14の底面から下向きに延びる挿入部16と、を備えている。
【0018】
本体部14は、人工関節置換術において、大腿骨50の切断面68よりも上方に位置する部位で、その上端部には、先端側に向かうにつれて細くなる円錐形状のネック部18が一体に形成されている。本体部14では、かかるネック部18を別体の骨頭ボール12の連結孔12aに圧入させて、骨頭ボール12を支持している。
【0019】
挿入部16は、人工関節置換術において、大腿骨50の切断面68よりも下方に位置し、大腿骨50の内部に挿入される部位である。挿入部16は、本体部14よりも細径、すなわち周長が短かく、本体部14に段差部20を介して一体的に形成されている。
図1(B)に示すように、段差部20は、挿入部16の周方向に亘って形成されており、挿入部16が大腿骨50の内部に挿入された際、段差部20の下向きの面が大腿骨50の上面(切断面68)に当接する。
【0020】
挿入部16は、基端側から先端側に向かって漸次周長が短くなった先細りの形状で、大腿骨50の切断面68より下方に位置する患者の大腿骨50の髄腔60に挿入可能とされている。挿入部16の外面には、大腿骨50の内部に挿入された際に対向する髄腔60の内面形状と略一致する形状の嵌合面17が周方向に亘って設けられている。ここで、略一致する形状とは、対向する髄腔60の内面形状と完全に一致することを意味するだけでなく、実質的に一致することも意味する。すなわち、髄腔60内に挿入可能で且つ挿入後にがたつき無く嵌り合い可能な形状も含まれる。
【0021】
図2は、人工股関節用部品10の縦断面を示している。人工股関節用部品10では、本体部14がポーラス構造体14aとその外周を覆う表皮層14bとで構成され、また挿入部16がポーラス構造体16aとその外周を覆う表皮層16bとで構成されている。また、本体部14および挿入部16の中心部には、周囲をポーラス構造体14aおよび16aで囲まれた空洞部30が形成されている。空洞部30は、挿入部16の先端に形成された図中下向きの開口32を通じて人工股関節用部品10の外部と連通するように構成されている。
【0022】
ポーラス構造体14aおよび16aは、
図2の部分拡大図で示すように、複数の棒状もしくは板状の小片26が相互に接合され、かかる小片26以外の部分に空隙28が形成されている。このようなポーラス構造体14a,16aを設けることで、人工股関節用部品の軽量化を図ることができる。また、挿入部16の先端に形成された開口32を通じて人工股関節用部品10の内部に進入した骨髄細胞は、ポーラス構造体14a,16aの空隙28に定着して、その周囲にある小片26を足場に成長することができる。
ポーラス構造体14a,16aの具体的な形状は、その製造性や強度を考慮して適宜決定することができる。
【0023】
表皮層14b,16bは、ポーラス構造体14a,16aよりも薄肉で、ポーラス構造体14a,16aを覆うように形成されている。表皮層14b,16bは、ポーラス構造体14a,16aの外面近傍に位置する小片26の径方向外向きの端部と一体に接合されており、人工股関節用部品10の強度を高めることができる。またポーラス構造体14a,16aを覆うように表皮層14b,16bを設けておくことで、積層造形法を用いて人工股関節用部品10を造形する場合の製造性を向上させることができる。
【0024】
図1に示すように、本例の表皮層14b,16bには、厚み方向に貫通する複数の貫通孔34が形成されている。貫通孔34は、人工股関節用部品10を積層造形法で作成した際、人工股関節用部品10内に残存する未溶融の金属粉末を外部に排出するための排出孔としての機能を有する。
【0025】
本実施形態の人工股関節用部品10は、生体親和性に優れたTi-6Al-4Vなどのチタン合金の粉末用い、積層造形法により形成される。
図3は、この人工股関節用部品10の製造手順を示すフローである。
【0026】
まず、人工股関節用部品10が取り付けられる患者の大腿骨50を、CT装置、MRI装置などの非破壊断面撮影装置40により、例えば100μmなどの所定間隔で順次撮影し、大腿骨50の各断面ごとの断面撮影データを取得する(ステップS101)。そして、得られた各断面の撮影データを、ワークステーションに送信可能なDICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)形式で出力する(ステップS102)。
【0027】
次に、ワークステーション42にて、上記DICOM形式の断面撮影データを、STL(Standard Trianglation language)形式に変換し(ステップS103)、その後ワークステーション42にインストールされている3次元CADソフトウェアにて読み込み、これらのデータを重ね合わせて大腿骨50の3次元形状を再現する(ステップS104)。
【0028】
次に、得られた大腿骨50の3次元形状に基づいて、人工股関節用部品10の形状を決定する(ステップS105)。具体的には、3次元CADソフトウェア上で再現された大腿骨50の3次元形状から、骨切り予定の位置36(
図5(A)参照)よりも下方に位置する大腿骨50の髄腔60の内面形状を抽出して、これを人工股関節用部品10の挿入部16の外面に設けられる嵌合面17の面形状とする。なお、嵌合面17は、
図4(A)において破線のハッチングで示すように、挿入部16の軸方向全体の領域に設けても良いし、
図4(B)に示すように挿入部16の軸方向の一部の領域に限定して設けることも可能である。
【0029】
また、切断面68よりも上方に位置する大腿骨50の外面形状を抽出して、これを人工股関節用部品10の本体部14の外面形状とする。なお、本体部14および挿入部16の外殻を構成する表皮層14b,16bとポーラス構造体14a,16aのそれぞれの厚み、ポーラス構造体14a,16aの具体的な形状、挿入部16の軸方向長さ等は、断面撮影データから得られる皮質骨56の密度や、構造解析ソフトを使用して求められる応力分布等を考慮して適宜決定する。
【0030】
次に、所定の金属粉末材料(ここではTi-6Al-4V合金粉末)を用い、積層造形可能な3Dプリンタ44により人工股関節用部品10を造形する(ステップS106)。3Dプリンタ44では、3次元CADソフトウェアにて作成した人工股関節用部品10のスライスデータに基づき、金属粉末を所定の厚みに敷き均した粉末層に、レーザ光を走査して、所定の位置にある金属粉末を溶融・凝固させる。この操作を、1断面(1スライスデータ)ごと繰り返して、所定の形状の構造体を得る。
【0031】
積層造形後、不要な部分を切り取って、その後、滅菌して所定形状の人工股関節用部品10を得る(ステップS107)。
【0032】
このようにして得られた人工股関節用部品10は、人工関節置換術において、骨切りされた大腿骨50の切断面68にて開口する髄腔60内の空洞部に挿入される(
図5(B)参照)。このとき、人工股関節用部品10における段差部20の下向きの面が大腿骨50の切断面68と当接するとともに、挿入部16の嵌合面17が大腿骨50の髄腔60の内に実質隙間無く嵌め合わされて位置固定される。人工股関節用部品10を位置固定するための接着剤としての医療用セメントは不要である。なお、場合によっては、大腿骨50の皮質骨56及び人工股関節用部品10の挿入部16を径方向に貫通する固定用のピン(図示省略)を設け、軸方向の固定力を高めることも可能である。
そして、生体親和性に優れたチタン合金からなる人工股関節用部品10は、患者の大腿骨に挿入されて一定期間が経過すると、骨組織と一体化する。
【0033】
なお、人工関節置換術では、骨盤側に、骨頭ボール12と嵌合する人工の骨臼カップ(図示省略)が固定され、本例における人工股関節用部品10のほか、骨頭ボール12、骨臼カップ等の部品により人口股関節が構成される。
【0034】
以上のように本実施形態の人工股関節用部品10は、挿入部16の外面に、大腿骨50の内部に挿入された際に対向する髄腔60の内面形状と略一致する形状の嵌合面17が周方向に亘って設けられているため、本来的に大腿骨50の内部に形成されている空洞部である髄腔60を利用して、人工股関節用部品10を位置固定することができる。
このため本実施形態の人工股関節用部品10を用いた人工関節置換術では、人工股関節用部品10を患者の大腿骨50内に挿入するに際し、改めて人工股関節用部品10の挿入部16の外面形状に合わせて大腿骨50の内部を掘削する作業を廃止もしくは最小限に留めることができ、髄腔60内の骨髄細胞が掘削作業により破壊されてしまうのを防止することができる。従って、本実施形態の人工股関節用部品10を用いた人工関節置換術では、多くの骨髄細胞を残存させることができ、術後において早期に骨髄細胞の再生を図ることができる。また、本実施形態の人工股関節用部品10を用いた人工関節置換術では、大腿骨50の内部を掘削する作業を実質的に廃止することで、手術時間の大幅な削減を図ることができる。
【0035】
また、本実施形態の人工股関節用部品10では、本体部14および挿入部16を、それぞれポーラス構造体14a,16aで構成しており、人工股関節用部品の軽量化を図ることができる。ポーラス構造体14a,16aは、挿入部16の先端に形成された開口32を通じて人工股関節用部品10の外部と連通する空隙28を多数備えており、本実施形態の人工股関節用部品10が患者の大腿骨に固定された後は、
図6で示すように挿入部16の先端に形成された開口32を通じて人工股関節用部品10の内部に進入した骨髄細胞を、ポーラス構造体14a,16aに定着させることで、骨髄細胞を早期に再生させることができる。
【0036】
また、本実施形態の人工股関節用部品10では、ポーラス構造体14a,16aの外周を覆うように、薄肉の表皮層14b,16bが形成されているため、人工股関節用部品の一部をポーラス構造体とした場合であっても、表皮層14b,16bにより所定の強度を確保することが容易となる。また、表皮層14b,16bを設けておくことで、ポーラス構造体を備えた人工股関節用部品10を積層造形法で造形する場合の製造性を向上させることができる。
【0037】
また、表皮層14b,16bには複数の貫通孔34が形成されており、人工股関節用部品10を積層造形法で造形した際、貫通孔34は人工股関節用部品内に残存する未溶融の金属粉末の排出孔として機能する。そして、本実施形態の人工股関節用部品10が患者の大腿骨50に固定された後は、貫通孔34を通じて表皮層14b,16bを内外に貫通する血管が形成される。
【0038】
本実施形態の人工股関節用部品10は、人工股関節用部品に置換される大腿骨50から取得したCT断面撮影データもしくはMRI断面撮影データの重ね合せにより再現された大腿骨50の3次元形状に基づいて、その形状を決定し、金属粉末材料を用いた積層造形法により造形する。
【0039】
このような製造方法によれば、CT断面撮影データもしくはMRI断面撮影データの重ね合せにより再現された大腿骨50の3次元形状に基づいて、患者ごとに最適な形状の人工股関節用部品10を提供することができる。従って、挿入部16の外面に、患者の髄腔60の内面形状と略一致する形状の嵌合面17が設けられた人工股関節用部品10を容易に製造することができる。また、積層造形法によれば、形状において高い自由度が得られるため、複雑な形状を有するポーラス構造体14a,16aにも対応することができる。
【0040】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれらはあくまでも一例示である。上記実施形態では、骨頭ボールと人工股関節用部品とを別体で構成した例を示したが、骨頭ボールを一体に備えた人工股関節用部品を積層造形により作製することも可能である。また、人工股関節用部品10内部の空洞部30を縮小または廃止して、ポーラス構造体14a,16aの領域を更に拡げた構成を採用することも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 人工股関節用部品
12 骨頭ボール
14 本体部
14a,16a ポーラス構造体
14b,16b 表皮層
16 挿入部
17 嵌合面
28 空隙
32 開口
34 貫通孔
50 大腿骨
60 髄腔