(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】バッチ式マイクロバブル液生成装置および生成方法
(51)【国際特許分類】
B01F 21/00 20220101AFI20230106BHJP
B01F 25/44 20220101ALI20230106BHJP
B01F 23/231 20220101ALI20230106BHJP
【FI】
B01F21/00
B01F25/44
B01F23/231
(21)【出願番号】P 2019215467
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2021-07-30
(73)【特許権者】
【識別番号】500372717
【氏名又は名称】学校法人福岡工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】江頭 竜
(72)【発明者】
【氏名】飯野 偉裕
(72)【発明者】
【氏名】吉村 悠汰
(72)【発明者】
【氏名】土居ノ内 遼
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-188668(JP,A)
【文献】特開2012-187516(JP,A)
【文献】特開2009-297476(JP,A)
【文献】特開2007-289492(JP,A)
【文献】特開2018-034147(JP,A)
【文献】特開2018-015726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 21/00-35/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に気体を溶解させる溶解タンクであり、前記液体を供給する給液口を有する溶解タンクと、
前記液体に溶解させる気体を前記溶解タンク内に供給する給気バルブと、
前記溶解タンク内の気体を排気する排気バルブであり、前記給液口から前記液体が供給される際には開かれ、前記溶解タンク内に所定量の前記液体が入れられたのち前記給気バルブから前記液体に溶解させる気体が供給されて前記溶解タンク内が0.25MPa~0.5MPaに加圧される際には閉じられる排気バルブと、
前記溶解タンク内に配設されるエアーストーンであり、前記給気バルブを通じて前記溶解タンク内に供給される気体を通過させるエアーストーンと、
前記溶解タンク内の気体溶解液を排出する排液バルブと、
前記排液バルブを介して前記気体溶解液を排出する排液ノズルであり、前記排液バルブを開くと、圧力解放により溶けきれなくなった
気体が微細気泡として析出し、溶存
気体が過飽和状態のマイクロバブル液となる排液ノズルと
を含むバッチ式マイクロバブル液生成装置。
【請求項2】
前記排液バルブは、前記溶解タンク内の気体溶解液を、前記エアーストーンを通じて排出するものである請求項1記載のバッチ式マイクロバブル液生成装置。
【請求項3】
前記エアーストーンの孔径は25~50μmである請求項1または2に記載のバッチ式マイクロバブル液生成装置。
【請求項4】
液体中に気体を溶解させる溶解タンクであり、前記液体を供給する給液口と、前記液体に溶解させる気体を供給する給気バルブと、前記溶解タンク内の気体を排気する排気バルブと、前記給気バルブを通じて前記溶解タンク内に供給される気体を通過させるエアーストーンとを有する溶解タンク内の気体を、前記排気バルブを開いて排気しつつ、前記給液口から前記溶解タンク内に液体を供給すること、
前記溶解タンク内に所定量の前記液体が入れられたのち前記排気バルブを閉じ、前記給気バルブを通じて前記エアーストーンを通過させた気体を前記溶解タンク内に供給して前記溶解タンク内を0.25MPa~0.5MPaに加圧すること、
前記溶解タンク内の気体溶解液を、排液バルブを介して排出する排液ノズルから、前記排液バルブを開いて排出することにより、圧力解放により溶けきれなくなった
気体が微細気泡として析出し、溶存
気体が過飽和状態のマイクロバブル液となること
を含むバッチ式マイクロバブル液生成方法。
【請求項5】
前記排液バルブは、前記溶解タンク内の気体溶解液を、前記エアーストーンを通じて排出する請求項4記載のバッチ式マイクロバブル液生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロバブル液を生成するバッチ式マイクロバブル液生成装置および生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水にマイクロバブルを発生させる装置として、例えば特許文献1には、吸込管からポンプにより吸い上げられた水が、自吸ケースおよびこの自吸ケースに接続された送水管を経て加圧タンクに送られ、加圧タンクから吐出管により排水されるポンプにおいて、吸込管および送水管のそれぞれに水中にマイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生ノズルを設け、送水管に設けられたマイクロバブル発生ノズルには、マイクロバブルを溶解する加圧タンク内に通じる通気管が接続されているマイクロバブル発生装置が開示されている。
【0003】
このマイクロバブル発生装置では、圧力調整弁を開けて吐出管から水を出し、加圧タンク内の圧力が下がると、ポンプ付属の圧力スイッチによりポンプが作動し、ポンプ作動により吸込管から水を吸い込むと同時に、マイクロバブル発生ノズルにより、通気管を通して空気がマイクロバブル発生ノズルに導入され、自動的にマイクロバブルとして装置内に供給される。また、加圧タンク上部に空気が溜まり、水位が低下すると定水位弁が作動し、余剰分は加圧タンク外へ排出され、水位が一定に保たれる。圧力調整弁は、吐出管の最大解放時の圧力が2.0~3.0kg/cm2程度となるよう調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のマイクロバブル発生装置は、連続運転を前提としたものであり、水の流量や加圧タンク内の圧力を自動制御する。そのため、装置構成が複雑となっており、高価である。
【0006】
そこで、本発明においては、簡単な装置構成により安価で手軽にマイクロバブル液を得ることが可能なバッチ式マイクロバブル液生成装置および生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のバッチ式マイクロバブル液生成装置は、液体中に気体を溶解させる溶解タンクであり、液体を供給する給液口を有する溶解タンクと、液体に溶解させる気体を溶解タンク内に供給する給気バルブと、溶解タンク内の気体を排気する排気バルブであり、給液口から液体が供給される際には開かれ、給気バルブから液体に溶解させる気体が供給される際には閉じられる排気バルブと、溶解タンク内に配設されるエアーストーンであり、給気バルブを通じて溶解タンク内に供給される気体を通過させるエアーストーンと、溶解タンク内の気体溶解液を排出する排液バルブとを含むものである。
【0008】
本発明のバッチ式マイクロバブル液生成方法は、液体中に気体を溶解させる溶解タンクであり、液体を供給する給液口と、液体に溶解させる気体を供給する給気バルブと、溶解タンク内の気体を排気する排気バルブと、給気バルブを通じて溶解タンク内に供給される気体を通過させるエアーストーンとを有する溶解タンク内の気体を、排気バルブを開いて排気しつつ、給液口から溶解タンク内に液体を供給すること、排気バルブを閉じ、給気バルブを通じてエアーストーンを通過させた気体を溶解タンク内に供給すること、溶解タンク内の気体溶解液を排液バルブから排出することを含むことを特徴とする。
【0009】
これらの発明によれば、溶解タンク内の気体を、排気バルブを開いて排気しつつ、給液口から溶解タンク内に液体を供給するため、液体に高い圧力を加えることなく溶解タンク内へ供給することができる。次に、排気バルブを閉じ、給気バルブを通じてエアーストーンを通過させた気体を溶解タンク内に供給する。このとき、溶解タンク内に供給される気体はエアーストーンを通過することにより小さな気泡となって液体中に放出されるため、気液界面面積が大きくなっており、低い圧力で多くの気体が液体中に溶解するようになり、溶存気体濃度を上げることができる。そして、この溶解タンク内の気体溶解液を排液バルブから排出すると、圧力解放により気泡が析出し、マイクロバブル液を得ることができる。
【0010】
排液バルブは、溶解タンク内の気体溶解液を、エアーストーンを通じて排出するものであることが望ましい。これにより、溶解タンク内の気体溶解液が排液バルブから排出される際にエアーストーンを通過することで、圧力解放により析出する気泡の径がより小さくなる。
【発明の効果】
【0011】
(1)溶解タンク内の気体を、排気バルブを開いて排気しつつ、給液口から溶解タンク内に液体を供給し、排気バルブを閉じ、給気バルブを通じてエアーストーンを通過させた気体を溶解タンク内に供給し、溶解タンク内の気体溶解液を排液バルブから排出する構成により、低い圧力でマイクロバブル液を得ることができるため、加圧給水ポンプやコンプレッサ等が不要であり、高価な機器を使用することなく、一般家庭でも安価かつ手軽にマイクロバブル液を得ることができる。
【0012】
(2)溶解タンク内の気体溶解液を、エアーストーンを通じて排出する構成により、気泡の径がより小さなマイクロバブル液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態におけるバッチ式マイクロバブル液生成装置の概略構成図である。
【
図2】ナノ粒子径分布測定装置による測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の実施の形態におけるバッチ式マイクロバブル液生成装置の概略構成図である。
【0015】
図1において、本発明の実施の形態におけるバッチ式マイクロバブル液生成装置1は、給液口2A、給気口兼排液口2Bおよび排気口2Cを有する溶解タンク2と、溶解タンク2内に配設され、給気口兼排液口2Bに接続されるエアーストーン3とを有する。エアーストーン3は、孔径25~50μmの多孔質体である。エアーストーン3は、連続空隙構造を有する。
【0016】
給液口2Aには、ホース11の一端が接続される。ホース11の他端は、液体供給源としての水道の蛇口10に接続される。給気口兼排液口2Bには、気体を供給するための供給配管20と、溶解タンク2内で生成された気体溶解液を排出するための排出配管30とが分岐管50を介して接続される。供給配管20には、給気バルブ21を介して自転車用の手動のエアーポンプ等の気体供給源22が接続される。排出配管30には、排液バルブ31を介して排液ノズル32が接続される。
【0017】
排気口2Cには、排気バルブ40、圧力計41およびリリーフバルブ42が接続される。排気バルブ40は分岐管51,52を介して排気口2Cに接続されている。排気バルブ40は、溶解タンク2内の気体を排出する弁である。圧力計41は、分岐管52に接続されている。圧力計41は、溶解タンク2内の圧力を表示する計器である。リリーフバルブ42は、溶解タンク2を保護するためのものであり、分岐管51に接続されている。リリーフバルブ42は、通常は閉じた状態であり、溶解タンク2内の圧力が所定の設定圧力を超えた場合に自動的に開く弁である。
【0018】
上記構成のバッチ式マイクロバブル液生成装置1は、以下の手順で使用する。なお、初期状態では、蛇口10、給気バルブ21、排液バルブ31および排気バルブ40は閉じているものとする。
【0019】
まず、排気バルブ40を開き、水道の蛇口10からホース11を通じて給液口2Aより液体としての水(水道水)を溶解タンク2内に供給し、溶解タンク2内に水と気体としての空気とを共存させる。このとき、排気バルブ40によって溶解タンク2内の圧力は大気圧に開放されているため、加圧給水ポンプ等を用いることなく、水道の圧力だけで溶解タンク2内に水を供給することができる。
【0020】
溶解タンク2内に所定量の水を入れたのち、排気バルブ40を閉じ、給気バルブ21を開いて気体供給源22より溶解タンク2内に空気を供給する。このとき、溶解タンク2内の圧力は0.25MPa~0.5MPaとする。気体供給源22より給気口兼排液口2Bへ供給される空気は、エアーストーン3を通過することにより直径1~5mmの小さな気泡となって水中に放出される。溶解タンク2内に放出された気泡は、気液界面面積、すなわち空気と水との接触面積が大きくなっており、この状態で0.25MPa~0.5MPaに加圧されることにより水中に溶け込みやすくなっている。
【0021】
溶解タンク2内の圧力が所定の圧力に達したら給気バルブ21を閉じる。このとき、溶解タンク2内の水は溶存酸素が過飽和状態となった気体溶解液となっている。そして、排液バルブ31を開くと、溶解タンク2内の気体溶解液はエアーストーン3を通じて排液ノズル32から排出される。この排液ノズル32から排出される気体溶解液は、圧力解放により溶けきれなくなった空気が微細気泡として析出し、溶存酸素が過飽和状態のマイクロバブル液(マイクロバブル水)となる。
【0022】
なお、上記実施形態においては、液体としての水に気体としての空気を溶解してマイクロバブル水を生成する例について説明したが、任意の液体に任意の気体を溶解してマイクロバブル液を生成することも可能である。例えば、給液口2Aより液体として下水を供給し、気体としてのオゾンを溶解したり、液体として海水を供給し、気体としての窒素を溶解したりすることも可能である。
【0023】
また、上記実施形態においては、気体供給源22として手動のエアーポンプを用いた例について説明したが、0.25MPa~0.5MPa程度の圧縮空気が得られる小型のコンプレッサを接続することも可能である。
【実施例】
【0024】
上記実施形態におけるバッチ式マイクロバブル液生成装置1を用いてマイクロバブル水(MB水)の生成実験を行った。実施例1では、実験に使用したバッチ式マイクロバブル液生成装置1の溶解タンク2の容量は1リットルである。エアーストーン3は、エアーレーションに用いられる市販の高温焼結エアーストーンバブルメイトS103-E(株式会社スドー)を用いた。このエアーストーン3の孔径は25~50μmである。
【0025】
表1は溶解タンク2内の圧力とバッチ式マイクロバブル液生成装置1の通過前後の溶存酸素濃度の飽和率を測定し、飽和率の上昇幅を算出したものである。表1から分かるように、実施例1では溶解タンク2内の圧力0.25MPa~0.5MPaの範囲において、飽和率の上昇幅が8%~16%となった。
【0026】
【0027】
また、実施例1のバッチ式マイクロバブル液生成装置1により得られたマイクロバブル水をナノ粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所SALD-7100)により測定したところ、平均気泡径(モード径(一番頻度の高い粒子径))70μmのマイクロバブルが生成されていたことが分かった。
図2はこのナノ粒子径分布測定装置による測定結果を示している。
【0028】
この平均気泡径70μmのマイクロバブルの浮上速度を測定したところ16.2cm/minであった。このようなマイクロバブルは長時間水中に留まるため、工業・化学分野においては水質浄化や脱脂洗浄等に、農業・水産分野においては水耕栽培や水産養殖等に、医療・福祉分野においては細菌分解やマイクロバブル風呂等に、好適に使用することができる。特に、このバッチ式マイクロバブル液生成装置1は、低い圧力でマイクロバブル水を得ることができるため、加圧給水ポンプやコンプレッサ等が不要であり、高価な機器を使用することなく、一般家庭でも安価かつ手軽にマイクロバブル水を得ることができるものであり、家庭菜園に好適である。
【0029】
なお、上記実施形態におけるバッチ式マイクロバブル液生成装置1では、給気口兼排液口2Bにエアーストーン3が接続されており、溶解タンク2内に空気を供給する際にエアーストーン3を通過させるだけでなく、溶解タンク2内の気体溶解液を排液ノズル32から排出する際にもエアーストーン3を通過させるものであるが、給気口と排液口とを別々に設けて給気口にのみエアーストーン3を接続し、排液口にはエアーストーン3を接続しない構成(実施例2)とすることもできる。この実施例2の場合について実験を行ったところ、マイクロバブルは得られるが、上記実施形態におけるバッチ式マイクロバブル液生成装置1と比較して気泡濃度は薄く、気泡径も100μm程度と大きなものであった。
【0030】
また、比較例1として、給気口兼排液口2Bにエアーストーン3を設けずに実験を行ったところ、排液ノズル32から排出される気体溶解液に含まれる気泡はすぐに浮上して消えた。したがって、マイクロバブルはできておらず、得られたものはミリバブルであったと思われる。
【0031】
さらに、比較例2として、給気口と排液口とを別々に設けて排液口にのみエアーストーン3を接続し、給気口にはエアーストーン3を接続しない構成として実験を行った。この場合、気泡の浮上速度が実施例1の場合よりもかなり速く、マイクロバブルと呼べるかどうか微妙であった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のバッチ式マイクロバブル液生成装置および生成方法は、工業・化学分野においては水質浄化や脱脂洗浄等に、農業・水産分野においては水耕栽培や水産養殖等に、医療・福祉分野においては細菌分解やマイクロバブル風呂等に、好適に使用することができ、特に、一般家庭でも安価かつ手軽にマイクロバブル水を得ることができ、家庭菜園に好適である。
【符号の説明】
【0033】
1 バッチ式マイクロバブル液生成装置
2 溶解タンク
2A 給液口
2B 給気口兼排液口
2C 排気口
3 エアーストーン
10 蛇口
11 ホース
20 供給配管
21 給気バルブ
22 気体供給源
30 排出配管
31 排液バルブ
32 排液ノズル
40 排気バルブ
41 圧力計
42 リリーフバルブ
50,51,52 分岐管