(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】生体振動信号検出装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20230106BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20230106BHJP
A61B 5/113 20060101ALN20230106BHJP
【FI】
A61B5/11 100
A61B5/02 310K
A61B5/113
(21)【出願番号】P 2020501766
(86)(22)【出願日】2019-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2019005990
(87)【国際公開番号】W WO2019163740
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】P 2018027818
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514118321
【氏名又は名称】ヘルスセンシング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123858
【氏名又は名称】磯田 志郎
(72)【発明者】
【氏名】鐘ヶ江 正巳
(72)【発明者】
【氏名】池田 修
【審査官】山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/141976(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/185397(WO,A1)
【文献】実開平05-063196(JP,U)
【文献】米国特許第06146332(US,A)
【文献】中国実用新案第204862228(CN,U)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0012569(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0101022(US,A1)
【文献】特開2010-069021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/11
A61B 5/02
A61B 5/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電効果を有する材料を含むセンサ素材層と、前記センサ素材層の上面に形成された第1の電極層と、前記センサ素材層の下面に形成された第2の電極層と、前記第1の電極層の上面に形成された絶縁層と、前記絶縁層の上面に形成された導電性の遮蔽層と、を含むシート状の振動センサ本体と、
前記振動センサ本体を覆う外装保護層と、
前記振動センサ本体の接続部に配置され、前記第1の電極層に接続された第1の取出し電極と、
前記振動センサ本体の前記接続部に配置され、前記第2の電極層に接続された第2の取出し電極と
、
少なくとも前記遮蔽層の開口部を覆って前記遮蔽層とは別の導電性の遮蔽部材とを備え、
前記絶縁層及び前記遮蔽層は、前記接続部において、前記第1の電極層の表面を露出させる開口部を有し、
前記第1の取出し電極の一端は、前記開口部を介して、前記第1の電極層を貫通することなく前記第1の電極層の表面に接続され、前記第1の取出し電極の他端は前記外装保護層の外側に配置され、
前記第2の取出し電極の一端は、前記第2の電極層を貫通することなく前記第2の電極層の表面に接続され、前記第
2の取出し電極の他端は前記外装保護層の外側に配置され
、
前記遮蔽部材は、前記第1の取出し電極とは短絡しないように構成されていることを特徴とする生体振動信号検出装置。
【請求項2】
前記遮蔽部材は、前記第2の取出し電極と前記遮蔽層とを電気的に接続することを特徴とする請求項
1に記載の生体振動信号検出装置。
【請求項3】
前記外装保護層は、前記接続部において、前記第1の電極層又は前記第2の電極層の少なくとも一方の表面を露出させる開口部を有することを特徴とする請求項1
又は2に記載の生体振動信号検出装置。
【請求項4】
前記振動センサ本体を内包した前記外装保護層の一表面を下面に貼付した振動収集部材と、
前記振動収集部材の下面に、前記接続部を覆うように、前記振動センサ本体から離間して配置された保護部材とを備えたことを特徴とする請求項1乃至
3の何れか1項に記載の生体振動信号検出装置。
【請求項5】
前記保護部材の下面から前記外装保護層の下面までの段差の高さが10mm以下であることを特徴とする請求項
4に記載の生体振動信号検出装置。
【請求項6】
前記保護部材は弾性部材を介して前記振動収集部材の下面に結合されていることを特徴とする請求項4又は5に記載の生体振動信号検出装置。
【請求項7】
前記弾性部材の前記振動収集部材の下面から前記保護部材までの高さは、前記振動センサ本体の厚さよりも大きく、
前記弾性部材は、前記振動センサ本体を内包した前記外装保護層とは接触していないことを特徴とする請求項
6に記載の生体振動信号検出装置。
【請求項8】
前記振動収集部材の下面、前記保護部材及び前記弾性部材で囲まれた空間内に前記振動センサ本体と電気的に接続された半導体素子が配置されていることを特徴とする請求項
6又は7に記載の生体振動信号検出装置。
【請求項9】
前記半導体素子の少なくとも一部を覆う導電性の遮蔽部材を備えたことを特徴とする請求項8に記載の生体振動信号検出装置。
【請求項10】
前記第1の取出し電極及び前記第2の取出し電極は、導電性のテープであり、それぞれ前記第1の電極層及び前記第2の電極層に導電性の接着剤で接着されていることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の生体振動信号検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の心拍数、呼吸、体動などの生体振動信号を検出する生体振動信号検出装置に関し、特に、シート状の振動センサを備えた生体振動信号検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベッド及び床に敷く寝床において、人の肺の呼吸活動及び心臓の拍動による振動等を振動センサで検出し、人の健康状態を24時間検出できるようにした人の健康状態検出装置が知られている(特許文献1)。例えば、介護業務において、ベッドで睡眠中の患者の状態を把握することが必要であったが、介護者の負担を軽減するために患者の状態を自動的に監視して、異常があった時、外部に通知するシステムが望まれている。従来、睡眠中の患者の動きを束縛せずに、睡眠状態を把握するために指先に血圧計を取り付けたり、振動計を腰に巻くといった患者の身体に密着した方法を用いていた。これらの方法でも、身体にセンサを密着させるため、信号が常に得られる点で信頼性が高いが、患者が嫌がること、センサが外れると状態を把握できないことなどの問題があった。このため、非拘束タイプのシステムが提案されてきている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、非拘束タイプの振動センサを用いた人の存在不在を検出する人存在不在検出装置が開示されている。特許文献1の方法では、ベッドパッド又はマットレスの上部や下部に、人の身体から発生する振動を検出するシート状の振動センサ手段を設置し、振動センサによって検出した身体振動信号の有無で人の存在及び不在検を判定している。さらに、検出した身体振動信号をフィルタリング処理して呼吸振動、心拍振動、いびき、及び体動信号などの生体振動信号を取得している。
【0004】
特許文献1の振動センサ手段202は、
図8(A)に示すように、振動センサ本体210の上に振動収集板221を配置し、振動センサ本体210の下にクッション部材222を介して底板223を配置した構造であり、振動センサ本体210には外部の信号処理装置(図示せず)と接続するための配線224が接続されている。振動センサ本体210は、
図8(B)に示すように、フィルム状の振動センサ素材211の上下にフィルム状の正電極層212及び負電極層213(下部遮蔽層を兼ねる)が形成され、正電極層212の上を覆ってフィルム状の絶縁層214が形成され、絶縁層214の上に上部遮蔽層(電磁シールド用フィルム)215が形成されている。振動センサ素材211は、振動によって電荷を発生させる圧電材料であり、発生した電荷を上下に形成された正電極層212及び負電極層213によって取り出して振動を検出する。また、上部遮蔽層215は、外部からのノイズを防止するための導電体であり、定電位に保持されており、絶縁層214は、正電極層212と上部遮蔽層215とを絶縁している。
【0005】
振動センサ本体210の正電極層212、負電極層213及び上部遮蔽層215は、外部と電気的に接続させる必要があり、従来、シート状の振動センサ本体210においては、各層を厚さ方向に貫通する電極端子、例えばハトメ端子216、217が取出し電極の一部として使用されていた。
図8(B)及び(C)に示すように、正電極層212の接続部には、負電極層213、絶縁層214及び上部遮蔽層215に開口が形成されており、ハトメ端子216が、正の取出し電極218とともに振動センサ素材211及び正電極層212を貫通し、正の取出し電極218を振動センサ本体とかしめて、正電極層212をハトメ端子216及び正の取出し電極218を介して外部と接続させている。また、負電極層213の接続部には、正電極層212に開口が形成されており、ハトメ端子217が、負の取出し電極219とともに負電極層213、振動センサ素材211、絶縁層214及び上部遮蔽層215を貫通し、負の取出し電極219を振動センサ本体210とかしめて、負電極層213及び上部遮蔽層215をハトメ端子217及び負の取出し電極219を介して外部と接続させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1によれば、ハトメ端子216、217等が複数の層を貫通することにより、かしめ部に外力がかかっても、複数の層が全体としてストレスを受けるので、電極層の切断に対しては十分な強度がとれるとされていた。しかしながら、実際に、振動センサ手段220をベッドパッド又はマットレスの上部や下部に配置して生体振動信号を検出しようと試みると、振動センサ本体の接続部における接続不良が多発した。これは、ハトメ端子等が貫通することによって各層には孔が形成されており、この孔が振動センサ手段220に加わる振動や、引き出し配線224を介して加わる機械的なストレスなどによって広げられ、ハトメ端子と各層との接続不良が発生したり、ハトメ端子によるかしめが緩んで接触不良が発生したりするためと考えられる。
【0008】
また、特許文献1には記載されていないが、振動センサ本体210を実際に使用する際には、外部との接触、摩擦、摩耗による損傷を防止し、また、水分、ほこり、光などの外部環境から保護するための絶縁性の外装保護層によって全体が覆うことが好ましい。シート状の振動センサ本体の製造方法としては、一般的に、一連の長尺のフィルムを長手方向に搬送しつつ連続的に振動センサ本体を構成する各層を積層形成した後に、製品として所定寸法に裁断され、その後、接続部において取出し電極が接続される。これは、シート状の振動センサ本体が取り扱いにくく、振動センサ本体を構成する各層を積層形成する前に裁断したり、取出し電極を接続したりすると、製造効率が著しく低下し、また不良の原因ともなるため、全層を積層形成した後に裁断され、取出し電極が接続されていた。この点は、外装保護層で振動センサ本体210の全体を覆う場合においても、少なくとも搬送方向に対して幅方向について包んだ状態まで連続的に製造することが効率的である。外装保護層で覆われた状態で取出し電極を接続する場合、貫通式の接続構造は、外装保護層も貫通して接続することができるため簡便であるが、外装保護層の外側に配置された取出し電極と、外装保護層の内側に配置された正電極層、負電極層及び上部遮蔽層とが、貫通させたハトメ端子216、217等によって接続されることになり、ハトメ端子216、217等が正電極層212、負電極層213及び上部遮蔽層215を貫通した部分のハトメ端子216、217の外周面で接触することになり、接触面積が非常に狭く接続不良が発生しやすい構造となる。そして、このような貫通式の接続構造では、各層の孔が機械的なストレスなどにより広がることによって各層との接触不良が多発する。本発明は、上述した問題に鑑みて、より信頼性の高い接続部を備えた生体振動信号検出装置を提供することを課題とする。
【0009】
また、
図8(B)に示すように、上部遮蔽層215を設け、負電極層213と上部遮蔽層215とを設置し、定電位としたシールドで信号を検出する正電極層212を囲った構造としても、実際に使用すると、取得した信号に様々なノイズが重なっていた。本発明は、ノイズを低減し、より正確な信号を検出できる生体振動信号検出装置を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の生体振動信号検出装置は、圧電効果を有する材料を含むセンサ素材層と、前記センサ素材層の上面に形成された第1の電極層と、前記センサ素材層の下面に形成された第2の電極層と、を含むシート状の振動センサ本体と、前記振動センサ本体を覆う外装保護層と、前記振動センサ本体の接続部に配置され、前記第1の電極層に接続された第1の取出し電極と、前記振動センサ本体の前記接続部に配置され、前記第2の電極層に接続された第2の取出し電極とを備え、前記第1の取出し電極の一端は、前記第1の電極層を貫通することなく前記第1の電極層の表面に接続され、前記第1の取出し電極の他端は前記外装保護層の外側に配置され、前記第2の取出し電極の一端は、前記第2の電極層を貫通することなく前記第2の電極層の表面に接続され、前記第1の取出し電極の他端は前記外装保護層の外側に配置されていることを特徴とする。
【0011】
さらに、上記生体振動信号検出装置において、前記振動センサ本体は、さらに、前記第1の電極層の上面に形成された絶縁層と、前記絶縁層の上面に形成された導電性の遮蔽層とを含み、前記絶縁層及び前記遮蔽層は、前記接続部において、前記第1の電極層の表面を露出させる開口部を有することが好ましく、さらに、上記生体振動信号検出装置において、前記接続部を覆って前記遮蔽層とは別の導電性の遮蔽部材を備えていることが好ましい。
【0012】
さらに、上記生体振動信号検出装置において、前記外装保護層は、前記接続部において、前記第1の電極層又は前記第2の電極層の少なくとも一方の表面を露出させる開口部を有することが好ましい。
【0013】
さらに、上記生体振動信号検出装置において、前記振動センサ本体を内包した前記外装保護層の一表面を下面に貼付した振動収集部材と、前記振動収集部材の下面に、前記接続部を覆うように、前記振動センサ本体から離間して配置された保護部材とを備えたことが好ましい。さらに、前記保護部材は弾性部材を介して前記振動収集部材の下面に結合されており、前記弾性部材の前記振動収集部材の下面から前記保護部材までの高さは、前記振動センサ本体の厚さよりも大きく、前記弾性部材は、前記振動センサ本体を内包した前記外装保護層とは接触していないことが好ましい。 これらの生体振動信号検出装置において、前記保護部材の下面から前記外装保護層の下面までの段差の高さが10mm以下であることが好ましい。
【0014】
さらに、上記生体振動信号検出装置において、前記振動収集部材の下面、前記保護部材及び前記弾性部材で囲まれた空間内に前記振動センサ本体と電気的に接続された半導体素子が配置されていてもよく、さらに、前記半導体素子の少なくとも一部を覆う導電性の遮蔽部材を備えることが好ましい。
【0015】
さらに、上記生体振動信号検出装置において、前記第1の取出し電極及び前記第2の取出し電極は、導電性のテープであり、それぞれ前記第1の電極層及び前記第2の電極層に導電性の接着剤で接着されていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、振動センサ本体の全体が外装保護層に覆われており、振動センサ本体が外部との接触、摩擦、摩耗による損傷を防止し、また、水分、酸素、ほこり、光などの外部環境から内部を保護することができ、第1の取出し電極の一端が、シート状の振動センサ本体の第1の電極層を貫通することなく第1の電極層の表面に接続され、第2の取出し電極の一端が、振動センサ本体の第2の電極層を貫通することなく第2の電極層の表面に接続されており、振動センサ本体の電極層の表面と取出し電極の表面とで面接合しており、接触不良を減らすことができ信頼性を高めることができ、さらに第1及び第2の取出し電極の他端が、外装保護層の外側に配置され、振動センサ本体と外部との電気的接続を可能としている。
【0017】
また、振動センサ本体が、第1の電極層の上面に形成された絶縁層と、前記絶縁層の上面に形成された導電性の遮蔽層とを含み、絶縁層及び遮蔽層が第1の電極層の表面を露出させる開口部を有する場合、遮蔽層が外部からの電磁シールドとなりノイズを低減することができ、絶縁層及び遮蔽層の開口部を介して第1の電極層と第1の取出し電極の一端とを接続させることができる。また、接続部を覆って導電性の遮蔽部材を備えることにより、接続部においても外部からの電磁場を遮蔽することができノイズを低減することができる。その他の作用効果については、以下の実施形態において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の生体振動信号検出装置の概略ブロック図。
【
図2】本発明の生体振動信号検出手段の分解概略構成図。
【
図3】本発明の生体振動信号検出手段の下面図(A)、断面図(B)、一部透過下面図(C)。
【
図4】本発明の生体振動信号検出手段の製造工程を示す図。
【
図6】本発明の生体振動信号検出手段の他の実施形態。
【
図7】本発明の生体振動信号検出手段の製造工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の「生体振動信号検出装置」は、少なくとも振動センサ本体と、振動センサ本体の各電極層を外部と接続するための取出し電極とを含む生体振動信号検出手段を備えたものである。生体振動信号検出装置は、必要に応じて、情報処理手段、電力供給手段、記憶手段、通信手段、表示出力手段、操作手段などの一つ又は複数を備えていてもよく、これらと、取出し電極を介して、例えば配線によって接続させる。また、生体振動信号検出手段は、振動センサ本体の全体を包む外装保護層、振動センサ本体が接着される振動収集部材、振動センサ本体の接続部を保護する保護部材などの振動センサ本体を含む生体振動信号検出手段の他の構成を含んでもよい。
【0020】
本発明の「振動センサ本体」は、少なくともセンサ素材層と、第1の電極層と、第2の電極層とを含むものであり、振動に応じてセンサ素材層で発生した電荷を第1の電極層及び第2の電極層によって取り出し可能としたものである。振動センサ本体は、さらに外部の電磁場、静電気等によるノイズを低減するための遮蔽層及び遮蔽層と第1又は第2の電極層とを絶縁する絶縁層を含んでいてもよい。さらに、振動センサ本体は、最外層に保護層を設けてもよい。振動センサ本体は、基材となるフィルム(各層の一つでもよいし、別のものでもよい)上に各層を一体的に積層したものを含み、厚さに比べて平面寸法が広いシート状のものである。遮蔽層は定電位(例えば接地)とし、センサ素材層、第1の電極層及び第2の電極層の全体を囲うことが好ましい。振動センサ本体は、第1又は第2の電極層の一方を定電位(例えば接地)とし、他方の電極層の電位で信号を取り出す構成とすることが好ましく、この場合、一方の定電位の電極層を遮蔽層として利用することができ、他方の電極層についてのみ遮蔽層で覆えば足りる。なお、本明細書において上下は、厚さ方向の相対的な位置を示すものであり、絶対的なものではなく、例えば、実際に製造又は使用する際に上下を逆にすることを妨げるものではない。本発明の生体振動信号検出装置及びそれに使用される振動センサ本体は、生体振動信号を検出するために非常に微小な信号(例えばμVの電圧)についても検出できる高感度のものを採用することが好ましい。このように、生体振動信号検出装置のセンサは、高感度に信号を検出できることから、ノイズに非常に弱く、わずかなノイズでもμV単位の信号にとっては大きな影響があった。このため、生体振動信号検出装置において信号の精度を確保するために、ノイズを低減できる様々な解決手段を本明細書に開示した。また、生体振動信号検出装置及びそれに使用される振動センサ本体は、生体の近傍に配置され、様々な物理的な衝撃が加わる状況も想定される。このため、生体振動信号検出装置において機械的な強度を高め、壊れにくい装置を提供する様々な解決手段を本明細書に開示した。本明細書に開示した解決手段は、装置に求められる特性に応じて、適宜選択して採用することができる。例えば、強度よりも精度が求められる場合には、機械的な強度を高める解決手段ではなく、ノイズ低減の解決手段をより優先的に採用すればよく、反対に強度が求められる場合には、機械的な強度を高める解決手段を優先的に採用し、必要に応じてノイズ低減の解決手段を採用すればよい。
【0021】
本発明の「取出し電極」は、振動センサ本体の第1又は第2の電極層と接続させる導電性部材であり、第1又は第2の電極層の信号を外部に取り出す端子となる。取出し電極は、第1又は第2の電極層とは別の部材であり、第1又は第2の電極層を貫通することなく、取出し電極の表面を第1又は第2の電極層の表面と対面させて接続させる。取出し電極としては、導電性接着剤が塗布された導電性接着テープ、または銅箔、アルミ箔、銀箔、金箔等の導電性を有する金属材料薄膜、あるいは印刷法等により形成された金属薄膜でもよいし、ITO等の透明導電材料でもよい。取出し電極は、数10nm~数100μmの厚さを有する薄膜であることが好ましい。取出し電極としては、導電性のテープ又は薄片とすることが接続する面積が広いため好ましいが、導線であってもよい。あるいは、印刷法、スパッタ法、蒸着法などにより導電性を有する配線を併せて形成してもよい。また、接続には、導電性の接着剤によって第1又は第2の電極層の表面に接着させることが簡便で且つ影響が少ないため好ましいが、取出し電極の表面と第1又は第2の電極層の表面とを超音波、熱、圧力などによって接合してもよい。ただし、超音波、熱、圧力などが、電極層及び取出し電極自体を変質、損傷するだけではなく、周囲の層や外装保護層へも影響することから、使用に問題のない範囲の条件とする必要がある。これに対し、導電性の接着剤による接続は周囲への影響は少ないので好ましい。また、第1又は第2の電極層の表面と第1又は第2の取出し電極との間にMo、Ti、TiO2等のバリアメタル層を形成し、第1又は第2の電極層の表面との接続性を高めてもよい。さらに接続部に半田を用いることにより、接続をより強固にすることができる。なお、取出し電極を長く延在させて他の部材(情報処理手段等)と接続するための配線としてもよいし、振動センサ本体の近傍において、取出し電極を他の配線や、電気回路部を含む半導体素子等に接続してもよい。半導体素子の電気回路部としては、例えば、増幅器、信号処理回路、通信回路、電力供給回路、表示回路等であり、取出し電極の周辺に実装されていることが好ましい。
【0022】
図1は、本発明の生体振動信号検出装置1の概略ブロック図である。生体振動信号検出装置1は、生体10の生体振動信号を検出可能な生体振動信号検出手段2(振動センサ本体を含む)を備え、生体振動信号検出手段2で取得した生体振動信号は配線3を介して情報処理装置4に入力される。情報処理装置4は、取得した生体振動信号に基づいて、様々な生体情報を取得する。例えば、生体情報として生体の存在・不存在を検出したり、生体の脈拍、呼吸数、いびき、体動などの生体情報を信号処理によって算出したりしてもよい。生体振動信号検出装置1は、必要に応じて、電力供給手段5、記憶手段6、通信手段7、表示出力手段8、操作手段9などの一つ又は複数を備えていてもよい。なお、生体10として、ヒトの例を示すが、ヒトに限定されず、他の動物にも利用可能である。さらに、生体以外でも、振動信号検出装置として、振動センサ本体によってモータなどの駆動体の回転状態の検出や建築物などの耐久消費財の経年劣化の検出手段にも利用可能である。
【0023】
図2は、本発明の生体振動信号検出手段2の分解概略構成図であり、
図3は、保護カバーを除いた生体振動信号検出手段2の構成図であり、
図3(A)は生体振動信号検出手段2(保護カバー20を除いたもの)の下面図であり、
図3(B)は
図2(A)のB-B断面であり、
図3(C)は一部の構成を透過させた下面図である。なお、図面における寸法は、各層の構成等を説明するために誇張したものであり、実際の寸法を示すものではない。
【0024】
図2に示すように、本実施形態の生体振動信号検出手段2は、保護カバー20内に、振動収集部材21、振動センサ本体10(
図3(B)参照)を内包した外装保護層22、保護部材23及び弾性部材24を備え、外装保護層22内の振動センサ本体10に取出し電極を介して接続された配線3が伸びている。ただし、
図1に示すような情報処理手段4が振動センサ本体10の近傍に形成されるような場合、例えば、振動収集部材21や、保護部材23上に形成されるような場合には、配線3は必ずしも必要はなく、情報処理手段4によって処理された生体情報等は無線通信手段を用いることによって伝送されてもよい。
【0025】
保護カバー20は、生体振動信号検出手段2の外側に全体を覆って設けられたフレキシブルなフィルム状の部材であり、外部との接触、摩擦、摩耗による損傷を防止し、また、水分、ほこり、光などの外部環境から内部を保護する。保護カバー20の材質は特に限定されないが、高分子プラスチック素材(例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ABS、AS、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリウレタン(PUR)、ポリエチレンナフタレート(PEN))でもよいし、これらに金属層を積層した積層素材でもよい。金属層を積層した場合は、金属層を定電位(例えば接地)とすることにより、一番外側の遮蔽層(シールド層)として振動センサ本体10のノイズを低減させる機能を持たせることできる。一実施態様において、保護カバー20として、三層構造を有するプラスチック材料、具体的には、表面が塩化ビニル層で、中間層がポリエステルレーヨン層、及び 裏面がアクリル樹脂から構成された、三層合計の厚みが1mm以下の絶縁材料を用いた。これ以外にも、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン等の単層膜や多層膜を用いても良い。
【0026】
振動収集部材21は、生体で発生した振動を振動センサ本体に伝達する部材であり、振動センサ本体に比べて硬度の高い部材である。振動収集部材21としては、ヤング率が高く、振動を伝達しやすいものがよく、プラスチックの板(例えばPET板、発砲スチロール板、PP板、アクリル板、硬化塩化ビニル板、発泡塩化ビニル板等)や、金属板(例えばアルミ板、ジュラルミン板、銅板、鉄板等)又はこれらの幾つかを組み合わせた多層膜板を用いることができる。振動収集部材21の下面には、振動センサ本体10又は振動センサ本体10を内包した外装保護層22、弾性部材24が固定されるが、さらに、情報処理装置4、電力供給手段5、記憶手段6、通信手段7、表示出力手段8、操作手段9、その他の電気回路部を含む半導体素子などの一つ又は複数を実装してもよい。また、振動収集部材21の下面の少なくとも一部をプリント基板としてもよく、例えば、振動収集部材21の下面又は内部に配線をプリントしてもよいし、配線がプリントされたプリント基板を振動収集部材21の下面に取り付けてもよい。なお、ベッド用センサのような大面積のセンサにおいては、各エリアから生体信号を取得するために振動収集部材21を設けることが好ましいが、椅子に内蔵させるような小型センサの場合は、必ずしも振動収集部材21は必要ではない。振動収集部材21を設けない場合、外装保護層22の少なくとも一面を厚くすることにより、外装保護層22の厚い面を振動収集部材21として機能させ、振動を伝達しやすくしてもよい。
【0027】
外装保護層22は、内側に振動センサ本体10を内包するものであり、フレキシブルなフィルム状の部材であり、外部との接触、摩擦、摩耗による損傷を防止し、また、水分、酸素、ほこり、光などの外部環境から内部を保護することが好ましい。外装保護層22の材質は特に限定されないが、防水機能を有し、水分や酸素を透過し難い材料が好ましい。外装保護層22として、高分子プラスチック素材(例えば、PVC、PE、PP、PS、ABS、AS、PET、PMMAポリエステル、PC、PUR、PEN)でもよいし、これらに金属層、バリア層等を積層した積層素材でもよい。金属層を積層した場合は、金属層を定電位(例えば接地)とすることにより、遮蔽層(シールド層)として振動センサ本体10のノイズを低減させる機能を持たせることできる。外装保護層22は、
図2(C)の接着領域22aにおいて振動収集部材21の下面に接着固定されている。接着領域22aは、例えば、両面テープを貼ってもよいし、接着剤を塗布してもよい。外装保護層22の一部(接続部)は、保護部材23で覆われている。外装保護層22の厚さは数μm~数100μmとすることが好ましい。
【0028】
保護部材23は、弾性部材24によって振動収集部材21の下面に結合されており、弾性部材24の高さ分だけ振動収集部材21の下面から離間して配置されている。保護部材23は、振動センサ本体10の接続部を保護するためのものであり、振動センサ本体に比べて硬度の高い部材である。振動センサ本体10の接続部は、振動センサ本体の周縁部に形成されることが多く、周縁部は、ベッドや椅子のフレームなど硬い部分に接触することが多く、保護部材23を設けないと接続部が損傷を受け、故障の原因となっていた。保護部材23は、
図2及び
図3においては、接続部を覆うように設けられ、センサ部には設けられていないが、センサ部に設けてもよい。保護部材23としては、プラスチックの板(例えばPET板、発砲スチロール板、PP板、アクリル板、硬化塩化ビニル板、発泡塩化ビニル板等)や、金属板(例えばアルミ板、ジュラルミン板、銅板、鉄板等)又はこれらの幾つかを組み合わせた多層膜板を用いることができる。保護部材23の厚さは数μm~数mmとすることが好ましい。
【0029】
弾性部材24は、ある程度の絶縁性を有する弾性体によって形成され、弾性部材24の高さ分だけ保護部材23を浮かせている。弾性部材24としては、例えばゴム系材料、ウレタン系材料又はこれらの積層膜が好ましい。弾性部材24の厚さは数mm~数10mmとすることが好ましい。弾性部材24は、保護部材23の周縁部に沿って設けられているが、振動センサ本体10及び外装保護層22の部分は除かれており、振動センサ本体10には荷重が加わらないように構成されている。また、配線3を通す部分についても弾性部材24は除かれている。保護部材23に外力が加わると、弾性部材24は若干変形するが、振動センサ本体10の接続部に保護部材23が接触しないように弾性部材24によって保護部材23が支持されている。また、弾性部材24は、保護部材23と一体成型して作成することもできる。例えば、硬化塩化ビニル板や炭素材にゴム系の材料を積層することにより弾性部材24を備えた保護部材23を形成できる。
【0030】
振動収集部材21の下面において、弾性部材24と保護部材23とによって囲まれた空間には、少なくとも振動センサ本体10の接続部が配置されるが、かかる空間内に情報処理装置4、電力供給手段5、記憶手段6、通信手段7、表示出力手段8、操作手段9、その他の電気回路部を含む半導体素子を実装してもよい。また、接続部の物理的な強度を高めるために、振動収集部材21の下面において、弾性部材24と保護部材23とによって囲まれた空間内を樹脂で充填して接続部内の各構成を動けないようにしてもよい。
【0031】
振動収集部材21の下面には、振動センサ本体10を内包した外装保護層22、保護部材23及び弾性部材24が取り付けられているが、保護部材23及び弾性部材24が配置された接続部と、保護部材23及び弾性部材24が配置されていないセンサ部との間に段差が生じている。この状態で保護カバー20によって覆われると、段差に起因して保護カバー20に遊び(浮いた部分)が生じ、この遊びが外力によって微振動することが判明した。この微振動は、振動センサ本体に対し機械的なノイズを発生させる原因となる。よって、段差を小さくし、遊びを少なくし、微振動及びノイズを低減することが好ましい。保護部材23の下面から外装保護層22の下面までの高さ(すなわち、段差)を10mm以下とすることが好ましく、8mm以下とすることがさらに好ましく、5mm以下とすることがさらに好ましい。BBI(本センサで得られる心弾動脈波の二つのピークの間の時間)とRRI(心電図から得られる二つのR波ピーク間の時間)の連続計測時間3分間におけるBBI・RRIの一致度が、段差が20mm以上の場合は50%以下となり、20~10mmの場合は80%を割り、10~8mmの場合は80%以上となり、8~5mmの場合は90%以上となり、5~0mmの場合は平均95%となった。また、接続部を覆う保護部材23及び弾性部材24に代えて、接続部を覆って絶縁性テープを接着して接続部を物理的及び電気的に保護する構成を採用してもよい。この場合には接続部とセンサ部との間に段差はほとんど生じないため、保護カバー20の遊びもなく、ノイズを抑えることができた。
【0032】
ここで、BBI・RRIの一致度について簡単に述べる。周知のように心電図(ECG)は体に電極を張り付けて、電極間の電位の変化を直接測定する手法であり、技術的に確立した技法である。その際、RRIは心拍間変動を表す指標であり、心電図のR波とR波の時間を示しており、RRIをフーリエ展開することにより、周波数で分類し、自律神経活動指標(LF, LF/HF)として用いられている。HFは副交感神経活動を表し、LFは交感神経活動を表している。他方、心弾動図(BCG)は、心臓の血液が心臓から押し出される際に生じる心臓の震えに起因する振動であり、体に接触させたり、拘束したりしなくても本センサを用いることにより測定できる。そして、RRIに相当する指標としてBBI(Beat by Beat Interval)を定義した。理論上、BBIはRRIに比べて、測定する時間差は0.2秒程度の遅れが生じるが、心拍間時間は一致するものである。しかし、現実的には、BBIは測定が極めて難しく、あらゆる微小なノイズが入るために、100%一致することはない。BBIとRRIの一致度は、同時に測定した心電図(ECG)と心弾動図(BCG)とからBBI及びRRIをそれぞれ求め、BBIを縦軸とし、RRIを横軸とした相関図から相関係数を求め、一致率を計算することができる。心電図(ECG)及び心弾動図(BCG)の測定時間としては100秒以上とすることが好ましく、180秒以上とすることがより好ましい。この一致率を高めることが、センサ開発においては最も重要な課題であり、本特許では、段差と一致度との関係性を見出し、段差を10mm以下にすることにより、一致率を実用可能なレベルである80%以上の高い一致率を実現させることに成功した。
【0033】
振動センサ本体10は、
図3(B)に示すように、フィルム状の振動センサ素材層11の上下にフィルム状の第1の電極層12及び第2の電極層13が形成され、第1の電極層12の上を覆ってフィルム状の絶縁層14が形成され、絶縁層14の上に遮蔽層15が形成されている。さらに、遮蔽層15の一部には開口部15aが形成されており、遮蔽層15の開口部15a内において、絶縁層14にも開口部14aが形成され、第1の電極層12を露出させている。露出した第1の電極層12の表面に第1の取出し電極16を接合させている。また、第2の電極層13の下面に第2の取出し電極17を接合させており、遮蔽層15の表面に第3の取出し電極18を接合させている。これらの接続部はノイズに極めて敏感であり、ノイズ誘発の原因となるため、さらに、遮蔽部材19で接続部を覆っている。
【0034】
振動センサ素材層11は、振動によって電荷を発生させる圧電材料であり、ピエゾ素子(圧電素子)が好適に用いられるが、振動を電気信号に変換するマイクロフォンを用いてもよい。ピエゾ素子材料としては、セラミックス系であっても、有機ポリマー系であってもよく、セラミックス系としては、PZTやBST等の高ε材料である強誘電体材料を用いることが好ましい。また、有機ポリマー系として、例えばポリオレフィン系材料を用いてもよく、具体的には、例えば、多孔性ポリプロピレンエレクトレットフィルム(Electro Mechanical Film(EMFI))、PVDF(ポリフッ化ビニリデンフィルム)、フッ化ビニリデンと三フッ化エチレン共重合体(P(VDF-TrFE))、又はフッ化ビニリデンと四フッ化エチレン共重合体(P(VDF-TFE))を用いてもよい。振動センサ素材層11としては、フィルム状(例えば、厚さ1mm以下、好ましくは、10~200μm厚)であることが好ましく、さらにフレキシブルであることが好ましい。さらに、振動センサ素材層11として圧電センサを使用すると、生体を拘束せずに生体振動信号を取得することが可能であり、よりストレスフリーで測定できるので好ましい。ただし、圧電センサは、リストバンド、ベルト、腕時計、指輪、ヘッドバンド等に取り付けて、動物に装着してウェアラブルセンサとして利用することもできる。さらに、生体以外でも、振動信号検出装置として、振動センサ本体によってモータなどの駆動体の回転状態の検出や建築物などの耐久消費財の経年劣化の検出手段にも利用可能である。また、マイクロフォンとしては、例えば直径10mmφ程度やそれ以下の数mm程度の大きさの小型のものを用いることが好ましい。
【0035】
第1の電極層12及び第2の電極層13は、振動センサ素材層11に隣接して形成されており、金属(銅、アルミニウム、銀、金など)、導電性カーボン膜、透明導電材料(ITO、IZOなど)などの導電性材料が使用される。第1の電極層12及び第2の電極層13としては、フィルム状であることが好ましく、さらにフレキシブルであることが好ましい。特に、従来のアルミニウムではなく、薄い導電性カーボン膜、銀電極等の柔らかい素材を使用すると、振動センサ本体10自体を柔らかくすることができ、好ましい。本実施の形態においては、振動センサ本体10の下面に形成された第2の電極層13を接地して第1の電極層12から信号を取り出すようにしているため、第2の電極層13が下部遮蔽層としても機能する。これらの電極層は、印刷技術や接着剤を用いた薄膜貼り合わせ法、蒸着法やスパッタ法等の様々な方法で形成することができる。電極層の厚さは、数nm~数100nmの厚みとすることが好ましい。
【0036】
絶縁層14は、第1の電極層12と遮蔽層15とを絶縁するものであり、有機又は無機の絶縁性の被膜が使用される。例えば、絶縁層14の素材としては、PET、PEN、ポリカーボネート、塩化ビニル、二酸化ケイ素、シリコンナイトライド等、又は複数種類の絶縁層を組み合わせた積層構造を使用してもよい。絶縁層14としては、フィルム状であることが好ましく、さらにフレキシブルであることが好ましい。絶縁層14の厚さは、数μm~数100μmの厚みとすることが好ましい。絶縁層は、印刷技術や接着剤を用いた薄膜貼り合わせ法、蒸着法やスパッタ法等の様々な方法で形成することができる。絶縁層14は、第1の電極層12と遮蔽層15とに挟まれ、容量となるが、その静電容量は、鼾とか寝言の信号といった100乃至500Hz付近の周波数の振動を検出する場合には、振動センサ素材層11、第1の電極層12及び第2の電極層13の静電容量に比べて、10分の1以下とすることが好ましい。また、絶縁層14には、開口部14aが形成されているが、開口部14aが形成された絶縁層14を第1の電極層12の上に形成してもよいし、第1の電極層12の上に絶縁層14を形成した後に、開口部14aを形成してもよい。
【0037】
遮蔽層15は、絶縁層14の上に形成されており、金属(アルミニウム、銀、金)、導電性カーボン膜などの導電性材料又は導電性材料と絶縁性材料の積層膜などが使用される。遮蔽層15としては、フィルム状であることが好ましく、さらにフレキシブルであることが好ましい。特に、従来のアルミニウムではなく、薄い導電性カーボン膜、銀電極等の柔らかい素材を使用すると、振動センサ本体10自体を柔らかくすることができ、好ましい。遮蔽層15は定電位(例えば接地)とすることにより、信号を取り出す第1の電極層に対する外部からの電磁場などの影響を遮蔽することができる。遮蔽層15には、開口部15aが形成されているが、開口部15aが形成された遮蔽層15を絶縁層14の上に形成してもよいし、絶縁層14の上に遮蔽層15を形成した後に、開口部15aを形成してもよい。後から開口部15aを設ける場合は、絶縁層14の開口部14aも続けて形成することが好ましい。遮蔽層15として、例えば、厚さ25μmのPET上に形成された厚さ10μmのアルミニウムを使用し、PET層を絶縁層14又はその一部とし、アルミニウム層を遮蔽層15として用いてもよい。
【0038】
第1の取出し電極16、第2の取出し電極17及び第3の取出し電極18は、導電性の材料である。取出し電極16、17、18としては、導電性テープを導電性接着剤で各層の表面に接着して接合させている。取出し電極としては、導電性接着剤が塗布された導電性接着テープ、または銅箔、アルミ箔、銀箔、金箔等の導電性を有する金属材料薄膜、あるいは印刷法等により形成された金属薄膜でもよいし、ITO等の透明導電材料でもよい。取出し電極の厚さは、数10nm~数100μmまで幅広く選択することができる。取出し電極16、17、18は、電極層及び遮蔽層と面で接合させる。第1の取出し電極16は、遮蔽層15及び絶縁層14の開口部15a、14aにおいて、第1の電極層12と接合している。第2の取出し電極17は、第2の電極層13の下面と接合している。第3の取出し電極18は、遮蔽層15の上面と接合している。
図3(C)に示すように、第3の取出し電極18は、第2の取出し電極17と配線で接続されており、同電位(接地)となっている。
【0039】
遮蔽部材19は、導電性のフィルム又は導電性接着フィルムであり、接続部を覆っている。遮蔽部材19としては、例えば、銅箔又はAl箔等の導電性テープを使用することができる。第1の取出し電極16は、遮蔽層15の開口部15a内に配置されていることから、そのままでは、外部の電磁場から遮蔽されておらず、肝心の信号を取り出す接続部においてノイズが第1の取出し電極16に発生してしまう。このため、遮蔽層15とは別の遮蔽部材19で少なくとも遮蔽層15の開口部15aを覆う。
図3では、遮蔽部材19は、上面及び下面に設けられており、第1の取出し電極16だけではなく、第2の取出し電極17及び第3の取出し電極18も覆っている。遮蔽部材19は、第1の取出し電極16とは短絡しないように構成されている。遮蔽部材19は、導電性であることから、第2の取出し電極17及び第3の取出し電極18を接続するために使用してもよい。また、遮蔽部材19を設けることにより、例えば、生体振動信号検出装置の情報処理手段、記憶手段、通信手段などを振動センサ本体の近傍(例えば振動収集部材21上や、保護部材23上)に実装した際に、これらの回路から発生する電磁場を遮蔽することができ、ノイズを減らす効果がある。遮蔽部材19として、例えば、厚さ25μmのPETの上に形成された厚さ10μmのAl薄膜を使用したり、銅箔シートを使用してもよい。これらは、薄いシート膜で構成されるので、柔軟性が高く、半田付けされた接続部領域を安定に被覆し保護することができた。さらに、接続部だけではなく、振動センサ本体の近傍に情報処理手段を同一面内に形成する場合は、情報処理手段に用いられる半導体チップや受動素子やそれらの接続部も遮蔽部材で覆い、電磁場等を遮蔽し、ノイズを低減することが好ましい。前述したとおり、生体振動信号検出装置はμV単位の信号を扱うことから、振動センサ本体及びその接続部だけではなく、振動センサ本体からの振動信号が入力される情報処理手段についてもノイズの発生を防止することが好ましい。
【0040】
配線3は、固定ピン32によって振動収集部材21又は保護部材23に固定されており、配線3に力を加えても振動センサ本体10には伝わらないようにしている。配線3の一端は、取出し電極16、17に接続されており、他端は、プラグ31に接続されている。配線3と取出し電極とは、例えば結線用の基板を用いて接続してもよいし、導電性接着剤で接着してもよいし、半田等で接続してもよい。配線3と取出し電極との接続する部分も遮蔽部材19によって電磁場等を遮蔽し、ノイズを低減することが好ましい。例えば、厚さ25μmのPETの上に形成された厚さ10μmのAl薄膜を配線3と取出し電極との接続する部分の上にかぶせてもよい。固定ピン32は、例えば、コの字型の絶縁ステップルなどのように別部品でもよいし、振動収集部材21又は保護部材23に一体的に成形されたものでもよい。
【0041】
振動センサ本体10及び生体振動信号検出手段2の製造工程の一例は以下のとおりである。まず、薄いシートフィルム状のピエゾ素子材料11(例えば厚さ40μm程度又は110μm程度のPVDF)を準備し、このピエゾ素子材料11の表裏両面に電極層(例えば厚さ10μm程度の導電性カーボン膜)を全面に被着させることにより、第1及び第2の電極層12、13をピエゾ素子材料の表裏両面上に形成した。電極層形成には、接着剤を用いて導電性カーボン膜を被着させても良いし、インクジェット印刷方式や凸版反転方式を用いた印刷技術を用いて電極層を形成しても良い。
【0042】
電極層を形成した後、第1の電極層12の上に開口部14aがパターン形成されている絶縁層(例えば厚さ20μm程度のPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム)14をラミネート処理し、絶縁層14を第1の電極層12の上に形成した。さらに、絶縁層14の上に開口部15aがパターン形成されている導電性の遮蔽層15(例えば厚さ10μm程度の導電性カーボン膜や厚さ10μm程度の導電性カーボン膜に25μm程度のPETの厚さ積層シートフィルム)を被着し、表面に電磁シールド層を形成し、振動センサ本体10を完成した。さらに、1枚の外装保護層22を折り返して、その間に振動センサ本体10を配置し、振動センサ本体10の上下両面に外装保護層22を被着させた。外装保護層22は袋状の筒でもよく、振動センサ本体10を袋状の外装保護層22に挿入した後、振動センサ本体10と外装保護層22とを熱、接着剤等で接着してもよい。また、2枚の外装保護層22を上下別々に振動センサ本体両面に接着剤を使って被着させても良いし、振動センサ本体両面にラミネート処理して被着してもよい。上記構成の振動センサ本体10は、電極層及び電磁シールド層を構成する材料として柔らかい導電性カーボン膜を使用しているため、センサ自体を柔らかくすることができ、リストバンド、ベルト、腕時計、指輪、ヘッドバンド、モータ回転体外装部の湾曲した部分、建築物の外壁等に違和感なく取り付けることができる。なお、カーボン材料のほか、数10~200nmの厚さの銀電極又はAl系材料の電極を印刷技術等を用いて被着してもよいし、各層の材料及び形成方法は上記例に限定されるものではない。情報処理手段を形成する場合は、印刷技術を用いることにより、電極形成と同時に、情報処理手段を構成する半導体チップ等を配線する電気配線を外装保護層上に同時に形成することができる。
【0043】
図4は、生体振動信号検出手段2の製造工程の途中の段階を説明するための図であり、
図3と同じ構成には同じ符号を付した。
図4(A)に示すように、この振動センサ本体10を内包した外装保護層22の接着領域22aを振動収集部材21に接着し、外装保護層22の袋の入り口を開いて振動センサ本体10の端部を露出させる。端部には、絶縁層14の開口部14a及び遮蔽層15の開口部15aが配置されており、開口部14a、15aを介して第1の電極層12が露出している。そして、
図4(B)に示すように、配線3が接続された第1の取出し電極16、第2の取出し電極17及び第3の取出し電極18をそれぞれ第1の電極層12、第2の電極層13及び遮蔽層15に導電性接着剤で接着する。配線3は、必要に応じてピン32で固定する。配線3と取出し電極との接続が振動センサ本体10に対して影響しない又は影響が少ない場合は、振動センサ本体10の各層と取出し電極とを先に接続した後に取出し電極と配線3とを接続してもよいが、配線3と取出し電極との接続が振動センサ本体10に対して影響する場合には、予め配線3が接続された取出し電極を振動センサ本体10の各層と接続させることが好ましい。なお、振動センサ本体10の端部はフレキシブルであり、上面側の第1の電極層12及び遮蔽層15との接着は、端部をめくって取出し電極を接着すればよい。その後、
図4(C)に示すように、接続部を遮蔽部材19によって電磁シールドする。情報処理手段4が接続部近傍に形成されている場合は、情報処理手段4についても遮蔽部材19によって電磁シールドしてもよい。
【0044】
そして、外装保護層22の入り口を閉じ、弾性部材24を保護部材23の周囲に沿って略コの字状に両面テープで振動収集部材21の下面に接着し、さらに弾性部材24の下面を両面テープで保護部材23に接着して固定する。最後に、振動収集部材21、振動センサ本体10及び保護部材23を含めて全体を保護カバーで包み込み生体振動信号検出手段2を完成させた。
【0045】
図5は、振動センサ本体10の変形例である。
図5(A)は、振動センサ本体10及び外装保護層22の断面図であり、(B)は外装保護層22の下面図である。
図5の振動センサ本体10では、外装保護層22に3つの開口部22b、22c、22dが形成されており、外装保護層22の外側から取出し電極が振動センサ本体10の各層と開口部22b、22c、22dを介して接合されている。第1の取出し電極16は、外装保護層22の上面に形成された第1の開口部22bを介し、さらに遮蔽層15の開口部15a及び絶縁層14の開口部14aを介して第1の電極層12と接合している。第2の取出し電極17は、外装保護層22の下面に形成された第2の開口部22cを介して第2の電極層13と接合している。第3の取出し電極18は、外装保護層22の上面に形成された第3の開口部22dを介して遮蔽層14と接合している。さらに、接続部において、遮蔽部材19が外装保護層22の上面及び下面を覆っている。
【0046】
図6は、本発明の生体振動信号検出手段2の他の実施形態である。
図6(A)は、生体振動信号検出手段2の分解概略構成図であり、
図6(B)は断面図である。
図6に示すように、本実施形態の生体振動信号検出手段2は、保護カバー40内に、振動収集部材41、振動センサ本体50を内包した外装保護層42、保護部材43及び弾性部材44を備え、さらに、振動収集部材41から保護部材43までを包むように、遮蔽部材45を有し、その下面側にクッション材46が配置されている。また、外装保護層42内の振動センサ本体50に取出し電極を介して接続された配線3が伸びている。
【0047】
本実施形態における振動センサ本体50は、
図6(B)に示すように、フィルム状の振動センサ素材層51の上下にフィルム状の第1の電極層52及び第2の電極層53が形成されている。そして、振動センサ本体50を覆う外装保護層42には、第1の開口部42a及び第2の開口部42bが形成されており、第1の開口部42aを介して、第1の取出し電極54が第1の電極層52に接合され、第2の開口部42bを介して、第2の取出し電極55が第2の電極層53に接合されている。振動センサ本体50を内包した外装保護層42は、振動収集部材41の下面に接着されており、振動センサ本体50の少なくとも接続部を覆うように保護部材43が弾性部材44によって振動収集部材41の下面に固定されている。
【0048】
遮蔽部材45は、導電性のフレキシブルなフィルム状の部材であり、定電位に保持され、外部からの電磁場などの影響を遮蔽することができる。本実施の形態では、振動センサ本体50には遮蔽層が形成されておらず、別途設けられた遮蔽部材45によって第1の電極層52及び第2の電極層53について外部からの電磁場の影響を遮蔽している。また、遮蔽部材45は、接続部についても覆っているため、第1の取出し電極54及び第2の取出し電極55についても外部からの電磁場の影響が遮蔽される。なお、図示していないが、遮蔽部材45は例えば、導電性のテープや導電性の接着剤などによって、配線3の定電位線(例えば、接地)と直接又は間接的に接続される。間接的に接続されるとは、配線3の定電位線に接続した他の導電部材(第2の電極層など)を介して接続される。
【0049】
クッション部材46は、振動センサ本体50よりも下面側に配置される弾力性の高いスポンジ等であり、振動センサ本体50が検出する振動を振動収集部材41の配置されている上方からの振動を検知させるため、下方からの振動を吸収、除去するために設けることが好ましいが、必須のものではない。クッション部材46は、保護カバー40の外側に配置してもよい。
【0050】
図7は、
図6の生体振動信号検出手段2の製造工程の途中の段階を説明するための下面図であり、
図6と同じ構成には同じ符号を付した。
図7(A)は、振動収集部材41の下面に振動センサ本体50を内包した外装保護層42が接着された状態である。外装保護層42の上面側に形成された第1の開口部42a(点線で示す)は、下面側に形成された開口部42bとは平面視で異なる位置に形成されている。このため、上面側の第1の取出し電極54と下面側の第2の取出し電極55を外装保護層42の外側まで同じ方向に延在させても短絡せずにそれぞれ取り出すことができる。第1の開口部42aにおいて振動センサ本体50の第1の電極層52が露出しており、第2の開口部42bにおいて振動センサ本体50の第2の電極層53が露出している。
【0051】
ここに、
図7(B)で示すように、配線3が結線用基板33を介して信号用導線34が半田接続された導電性テープ54を第1の取出し電極として上面側に露出した第1の電極層52と導電性接着剤で接着した。また、配線3が結線用基板33を介して接地用導線35が半田接続された導電性テープ55を第2の取出し電極として下面側に露出した第2の電極層53と導電性接着剤で接着した。このように、予め半田接続されている導電性テープを使用して導電性接着剤で接着することにより取出し電極を接合させたので、振動センサ本体50、外装保護層42及び振動収集部材41への熱ダメージを防ぐことができた。さらに、結線用基板33からは、遮蔽部材用の接地用導線36が延びている。
【0052】
次に、弾性部材44(
図7では図示せず)を保護部材43の周縁に沿って配置し、振動収集部材41の下面に接着し、弾性部材44の下面に保護部材43を接着する。保護部材43の下面には、遮蔽部材用の接地用導線36が半田接続された導電性テープ37が接着され、導電性テープ37の中央付近に導電性両面テープ38が接着されている。導電性両面テープ38は、遮蔽部材45と保護部材43とを接着して固定し、さらに導電性テープ37及び接地用導線36を介して遮蔽部材45を確実に接地させる。
【0053】
そして、導電性の遮蔽部材45を導電性両面テープ38に接着させつつ、振動収集部材41、振動センサ本体50を内包した外装保護層42、保護部材43及び弾性部材44の外側を遮蔽部材45によって覆った後、下面側にクッション部材を配置して全体を保護カバー40で包んで
図6の生体振動信号検出手段2を完成させた。
【0054】
本実施の形態においては、振動収集部材41の下面には、振動センサ本体50を内包した外装保護層42、保護部材43及び弾性部材44が取り付けられているが、保護部材43及び弾性部材44が配置された接続部と、保護部材43及び弾性部材44が配置されていないセンサ部との間に段差が生じている。この状態で遮蔽部材45によって覆われているので、段差に起因して遮蔽部材45に遊び(浮いた部分)が生じ、この遊びが外力によって微振動するためノイズを発生させる原因となる。よって、本実施の形態においても段差を小さくし、遊びを少なくし、微振動及びノイズを低減することが好ましく、保護部材43の下面から外装保護層42の下面までの高さ(すなわち、段差)を10mm以下とすることが好ましく、8mm以下とすることがさらに好ましく、5mm以下とすることがさらに好ましい。また、接続部を覆う保護部材43及び弾性部材44に代えて、接続部を覆って絶縁性テープを接着して接続部を物理的及び電気的に保護する構成を採用してもよい。この場合には接続部とセンサ部との間に段差はほとんど生じないため、遮蔽部材45の遊びもなく、ノイズを抑えることができた。さらに、
図6のようにクッション部材46を設けることで、保護部材43及び弾性部材44ではなく絶縁性テープを覆っただけでも接続部を機械的な衝撃から保護することが期待される。
【0055】
なお、本実施の形態において、振動収集部材41の下面において、弾性部材44と保護部材43とによって囲まれた空間内に情報処理装置4、電力供給手段5、記憶手段6、通信手段7、表示出力手段8、操作手段9、その他の電気回路部を含む半導体素子を実装した場合には、かかる半導体素子からの電磁場を遮蔽するため、弾性部材44と保護部材43とによって囲まれた空間内において、別の遮蔽部材(例えば、
図4(C)の遮蔽部材19)によって接続部を覆って電磁シールドすることが好ましく、さらに周辺に実装した半導体素子も別の遮蔽部材で覆って電磁シールドすることが好ましい。
【符号の説明】
【0056】
1 生体振動信号検出装置
2 生体振動信号検出手段
3 配線
10 振動センサ本体
11 センサ素材層
12 第1の電極層
13 第2の電極層
14 絶縁層
15 遮蔽層
16 第1の取出し電極
17 第2の取出し電極
18 第3の取出し電極
19 遮蔽部材
21 振動収集部材
22 外装保護層
23 保護部材
24 弾性部材