(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】運動線維ニューロモジュレーション
(51)【国際特許分類】
A61B 5/389 20210101AFI20230106BHJP
A61B 5/05 20210101ALI20230106BHJP
A61N 1/36 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
A61B5/389
A61B5/05
A61N1/36
(21)【出願番号】P 2017553090
(86)(22)【出願日】2016-06-01
(86)【国際出願番号】 AU2016050439
(87)【国際公開番号】W WO2016191815
(87)【国際公開日】2016-12-08
【審査請求日】2019-05-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-26
(32)【優先日】2015-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】521018764
【氏名又は名称】クローズド・ループ・メディカル・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ルイス・パーカー
【合議体】
【審判長】樋口 宗彦
【審判官】渡戸 正義
【審判官】伊藤 幸仙
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-523261(JP,A)
【文献】特表2009-512505(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0224665(US,A1)
【文献】特表2014-522261(JP,A)
【文献】国際公開第2015/070281(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/05-5/0538
A61B5/24-5/398
A61N1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経経路に隣接して配置され、かつ前記神経経路に電気刺激を加えて遠心性神経反応を誘発するように構成された少なくとも1つの刺激電極と、
前記神経経路に隣接して配置され、かつ前記電気刺激によって誘発される前記神経経路における低速神経反応を測定するように構成された少なくとも1つの検知電極と、
前記低速神経反応に基づいて、前記刺激に対する少なくとも1つの筋肉の運動反応を評価するプロセッサと
を含み、さらに、前記プロセッサが、関連する筋線維集団の動員された部分を疲労させるのに十分な期間にわたって第1レベルで電気刺激を加え、その後、前記筋線維集団のさらなる部分を動員および評価するために、増大したレベルで刺激を加えるように構成された、神経刺激装置。
【請求項2】
前記低速神経反応を用いて神経経路の位置を特定しかつ電極を最適に位置決めするために術中に適用されるように構成された、請求項
1に記載の神経刺激装置。
【請求項3】
さらに、前記プロセッサが、前記筋線維集団の各部分の動員の特性を利用するために、さまざまな刺激レベルで筋線維を疲労させるように構成された、請求項
1または
2に記載の神経刺激装置。
【請求項4】
さらに、前記プロセッサが、いずれの筋肉群が前記刺激によって動員されているかを判断するために、前記低速神経反応のパターンまたは形態を評価するように構成された、請求項
1~3のいずれか一項に記載の神経刺激装置。
【請求項5】
さらに、前記プロセッサが、刺激に対する高速神経反応を測定するよう構成され、前記高速神経反応が、刺激後の0~2.5msの期間に観察される前記神経反応である、請求項
1~4のいずれか一項に記載の神経刺激装置。
【請求項6】
前記低速神経反応が、刺激後の2~15msの期間中に観察される前記神経反応を含む、請求項
1~5のいずれか一項に記載の神経刺激装置。
【請求項7】
さらに、前記プロセッサが、運動活動を刺激するかまたは運動活動を抑制するために運動反応を優先的に誘発するように前記刺激を加えるよう構成される、請求項
1~6のいずれか一項に記載の神経刺激装置。
【請求項8】
前記神経経路が仙骨神経を含む、請求項
1~7のいずれか一項に記載の神経刺激装置。
【請求項9】
前記神経経路が胃のペーシングに使用される、請求項
1~8のいずれか一項に記載の神経刺激装置。
【請求項10】
前記神経経路が機能的電気刺激(FES)に使用される、請求項
1~9のいずれか一項に記載の神経刺激装置。
【請求項11】
前記神経経路が多裂筋のペーシングに使用される、請求項
1~10のいずれか一項に記載の神経刺激装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2015年6月1日に出願されたオーストラリア仮特許出願第2015902393号明細書の利益を主張する。
【0002】
本発明は、運動線維に送達されるニューロモジュレーションに関し、特に、神経反応測定値から運動線維および筋動員(muscle recruitment)を評価する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
複合活動電位(CAP)を生じさせるために神経刺激を加えることが望ましいさまざまな状況がある。ニューロモジュレーションシステムは、治療効果をもたらすために組織に電気パルスを加える。こうしたシステムは、通常、植込み型電気パルス発生器と、経皮的な誘導伝達によって充電可能であり得るバッテリ等の電源とを含む。パルス発生器には電極アレイが接続され、それは、標的神経経路に隣接して位置決めされる。電極によって神経経路に加えられる電気パルスにより、ニューロンが脱分極し、伝播する活動電位が発生する。略すべてのニューロモジュレーション用途では、単一クラスの線維反応が望ましいが、採用される刺激波形は、他のクラスの線維に対して活動電位を動員する可能性があり、それにより望ましくない副作用がもたらされる。
【0004】
すべてのタイプのニューロモジュレーションシステムが直面する別の制御問題は、治療効果に必要な十分なレベルでの神経動員を、ただし最小限のエネルギー消費で達成することである。刺激パラダイムの電力消費は、バッテリ要件に直接の影響を及ぼし、それにより、デバイスの物理的なサイズおよび寿命が影響を受ける。充電式システムの場合、電力消費の増大によって充電がより頻繁になり、バッテリが限られた回数の充電サイクルのみ可能であるとすれば、最終的に、これによってデバイスの植込み寿命が短縮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2012155183号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ニューロモジュレーションは、選択された筋肉群を活性化するように適用することができる。こうしたニューロモジュレーションの一例は、仙骨神経刺激であり、そこでは、刺激周波数は通常低く(<20Hz)、電流は通常極めて高い(最大7mA)。理論によって限定されるように意図されず、一般に、仙骨神経刺激により、仙骨神経における求心性線維および遠心性線維を通して、膀胱の排尿筋に対して反射抑制効果が誘導されると考えられる。仙骨神経ニューロモジュレータの植込みに続き、電流刺激システムにおいて刺激の振幅および周波数を調整することは試行錯誤の手続きである。刺激振幅は、運動反応が記録されるか、または患者がプログラマに対して知覚異常が発生していると通知するまで調整される。したがって、振幅は知覚閾値未満に下げられ、そのレベルに設定されるが、適切な治療効果を依然として維持しながら、望ましくない運動反応または知覚異常を回避するためにどの程度の低下が適切であるかは十分に知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に含まれている文献、行為、材料、装置、物品等のいかなる考察も、単に本発明に対する背景を提供することを目的とするものである。これらの事項のいずれかまたはすべてが従来技術の基礎の一部を形成するか、または本出願の各請求項の優先日前に存在していたものとして本発明に関連する分野における共通の一般知識であったと認めるものとして解釈されるべきではない。
【0008】
本明細書を通して、「含む(comprise)」という用語または「含む(comprises)」もしくは「含んでいる(comprising)」等の変形は、述べられている要素、完全体もしくはステップ、または要素、完全体もしくはステップ群を包含することを意味し、他のあらゆる要素、完全体もしくはステップ、または要素、完全体もしくはステップ群を排除することを意味するものではないことが理解されるであろう。
【0009】
本明細書において、要素が選択肢のリストの「少なくとも1つ」であり得ると述べる場合、それは、その要素が列挙された選択肢のうちの任意の1つであり得るか、または列挙された選択肢のうちの2つ以上の任意の組合せであり得ると理解されるべきである。
【0010】
第1態様によれば、本発明は、神経刺激に対する運動反応を評価する方法であって、
選択された神経経路に第1電極から電気刺激を加えて遠心性神経反応を誘発するステップと、
電気刺激によって誘発される神経経路における低速神経反応を測定するステップと、
低速神経反応に基づいて、刺激に対する少なくとも1つの筋肉の運動反応を評価するステップと
を含む方法を提供する。
【0011】
第2態様によれば、本発明は、
神経経路に隣接して配置され、かつ神経経路に電気刺激を加えて遠心性神経反応を誘発するように構成された少なくとも1つの刺激電極と、
神経経路に隣接して配置され、かつ電気刺激によって誘発される神経経路における低速神経反応を測定するように構成された少なくとも1つの検知電極と、
低速神経反応に基づいて、刺激に対する少なくとも1つの筋肉の運動反応を評価するプロセッサと
を含む神経刺激装置を提供する。
【0012】
本発明は、選択された神経経路に第1電極から電気刺激を加えて遠心性神経反応を誘発するように構成され、電気刺激によって誘発される神経経路における低速神経反応を測定するようにさらに構成され、かつ低速神経反応に基づいて、刺激に対する少なくとも1つの筋肉の運動反応を評価するようにさらに構成されたコンピュータソフトウェア、またはコンピュータプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム製品、または非一時的コンピュータ可読媒体、または前記ソフトウェアもしくは製品の制御下で動作するコンピューティングデバイスをさらに提供する。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態は、観察された低速反応を用いて神経経路の位置を特定しかつ電極を最適に位置決めするために術中に適用され得る。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態は、関連する筋線維集団の動員された部分を疲労させるのに十分な期間にわたって第1レベルで刺激を加えるステップと、その後、筋線維集団のさらなる部分を動員および評価するために、増大したレベルで刺激を加えるステップとをさらに含むことができる。こうした実施形態は、筋線維集団の各部分の動員の特性を利用するために、さまざまな刺激レベルで筋線維を疲労させるステップをさらに含むことができる。
【0015】
いくつかの実施形態は、いずれの筋肉群が刺激によって動員されているかを判断するために、低速反応のパターンまたは形態を評価するステップをさらに含むことができる。
【0016】
好ましい実施形態は、刺激に対する高速神経反応をさらに測定する。高速反応は、刺激後の0~2msまたは0~2.5msの期間に観察される刺激反応として定義することができる。低速反応は、刺激後の2~15msまたは2.5~8msの期間中に観察される神経反応を含むことができる。
【0017】
いくつかの実施形態では、刺激は、運動活動を刺激するかまたは運動活動を抑制するために運動反応を優先的に誘発するように加えられる。したがって、本発明によって評価される、刺激に対する少なくとも1つの筋肉の運動反応は、筋肉反応の増大もしくは開始、または筋肉反応の低減もしくは欠如のいずれかまたは両方を含むことができる。
【0018】
複数の神経によって筋線維または筋肉群を支配することができ、「神経経路」は、本明細書ではこうした状況を包含するように定義されることが留意されるべきである。特に、いくつかの実施形態では、誘発される遠心性神経反応は、筋肉を支配する1つの神経で生じる可能性があり、遅発反応は、同じ筋肉に関連し、かつその筋肉から戻るその反応または遅発反応を伝達する別の神経で観察することができる。たとえば、身体の第1側の神経経路に刺激を加えることができ、身体の反対側の第2側における神経経路において遅発反応を観察することができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、神経経路は仙骨神経を含む。筋肉は、排尿筋を含むことができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、神経経路は胃のペーシングに使用され、筋肉は胃の筋肉を含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、神経経路は機能的電気刺激(FES)に使用される。
【0022】
いくつかの実施形態では、神経経路は多裂筋のペーシングに使用され、筋肉は多裂筋を含む。
【0023】
ここで、添付図面を参照して本発明の例について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図3】植込み型刺激器の神経との相互作用を示す概略図である。
【
図4】健康な対象の電気的誘発複合活動電位(ECAP)の典型的な形態を示す。
【
図5】ヒツジの脊髄から得られた高速反応および低速反応を示す。
【
図6】刺激から生じる高速反応および低速反応のプロットである。
【
図8】低速反応が筋線維集団の異なる部分において異なる形態を有することを示す。
【
図10】膀胱制御のための仙骨神経刺激の解剖学的構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、植込み型仙骨神経刺激器100を概略的に示す。刺激器100は、患者の下腹部または後臀部領域の好適な位置に植え込まれる電子機器モジュール110と、仙骨内に植え込まれ、好適なリードによってモジュール110に接続された電極アセンブリ150とを含む。植込み型神経デバイス100の動作の多くの態様は、外部制御装置192によって再構成可能である。さらに、植込み型神経デバイス100は、データ収集の役割を果たし、収集されたデータは外部装置192に通信される。
【0026】
図2は、植込み型神経刺激器100のブロック図である。モジュール110は、バッテリ112およびテレメトリモジュール114を含む。本発明の実施形態では、テレメトリモジュール114は、赤外線(IR)、電磁、容量性および誘導伝達等、任意の好適なタイプの経皮通信190を使用して、外部装置192と電子機器モジュール110との間で電力および/またはデータを移送することができる。
【0027】
モジュールコントローラ116は、患者設定120、制御プログラム122等を格納する関連付けられたメモリ118を有する。コントローラ116は、患者設定120および制御プログラム122に従って、電流パルスの形態で刺激を発生させるようにパルス発生器124を制御する。電極選択モジュール126は、生成されたパルスを電極アレイ150の適切な電極に切り替えて、選択された電極の周囲の組織に電流パルスが送達されるようにする。他の電極アレイを設けることも可能であり、たとえば、さらに後述する
図5および
図6の場合のように、電極選択モジュール126によって同様に対応することができる。測定回路128は、電極選択モジュール126によって選択される電極アレイの検知電極において検知される神経反応の測定値を捕捉するように構成されている。
【0028】
図3は、植込み型刺激器100の神経180との相互作用を示す概略図であり、この場合、神経は仙骨神経であるが、代替実施形態は、末梢神経、内臓神経、副交感神経または脳構造を含む任意の所望の神経組織に隣接して位置決めすることができる。電極選択モジュール126は、神経180を含む周囲の組織に電流パルスを送達するために電極アレイ150の刺激電極2を選択し、ゼロの正味電荷移動を維持するように刺激電流回復のためのアレイ150の戻り電極4も選択する。
【0029】
神経180に適切な刺激を送達することにより神経反応が誘発され、この神経反応は、仙骨神経刺激の場合、排尿筋の所望の筋線維の運動機能を刺激することであり得る治療目的で、図示するように神経180に沿って伝播する複合活動電位を含む。このために、刺激電極は、<20Hzで刺激を送達するように使用される。
【0030】
デバイス100は、神経180に沿って伝播する複合活動電位(CAP)の存在および強度を、こうしたCPAが電極2および4からの刺激によって誘発されるかまたは他の方法で誘発されるかに関わらず、検知するようにさらに構成されている。このために、電極選択モジュール126は、測定電極6および測定参照電極8としての役割を果たす、アレイ150の任意の電極を選択することができる。測定電極6および8によって検知される信号は測定回路128に渡され、測定回路128は、たとえば、参照により内容が本明細書に組み込まれる、本出願人による国際公開第2012155183号パンフレットの教示に従って動作することができる。
【0031】
図4は、健康な対象の電気的誘発複合活動電位(ECAP)の典型的な形態を示す。
図4に示す複合活動電位の形状および持続時間は予測可能であり、なぜなら、それは、刺激に反応して活動電位を発生させる軸索群によって生成されるイオン電流の結果であるためである。多数の線維間で発生する活動電位は、足し合わさって複合活動電位(CAP)を形成する。CAPは、多数の単一線維の活動電位からの反応の総和である。記録されたCAPは、多数の異なる線維が脱分極した結果である。各線維における活動電位の伝播速度は、主にその線維の直径によって決まる。同様の線維群の発火から発生するCAPは、正のピーク電位P1として、その後、負のピークN1として、次いで、第2の正のピークP2として測定される。これは、活動電位が個々の線維に沿って伝播する際に記録電極を通過する活性化領域によってもたらされる。観察されるように、電気的誘発CAP信号は、典型的には、マイクロボルトの範囲の最大振幅と2~3msの持続時間とを有する。
【0032】
CAPプロファイルは、典型的な形態をとり、
図4にいくつかを示す任意の好適なパラメータによって特徴付けることができる。記録の極性に応じて、通常の記録されたプロファイルは、
図4に示すものに対して逆の形態をとる、すなわち、2つの負のピークN1およびN2と1つの正のピークP1とを有する場合がある。
【0033】
本実施形態は、仙骨神経180で測定される神経反応が
図4に示す情報を提供するだけでなく、後に、誘発された運動反応に関する情報も明らかにすることを認める。すなわち、仙骨神経からのECAP記録は、高速反応および低速反応の両方を実証する。高速反応は、
図4に示すようなものであり、神経束における大径Aβ線維の刺激の結果である。低速反応は、刺激の送達後の約2.5~7msの時間枠で発生し、理論によって限定されるように意図されずに、運動線維の直接刺激を通してまたは脊髄反射弓の活性化を通して筋肉群が活性化することによるものであると考えられる。低速反応は、上記理論と一貫しており、すなわち、仙骨ニューロモジュレーションは、筋肉、恐らく排尿筋を活性化する。本発明は、いずれの筋肉群が低速反応のパターンから動員されるかを判断することがさらに可能であることを認める。
【0034】
このために、ヒツジの脊髄から低速反応が実験的に測定され、反応の起点に応じて、観察される反応に相違があることが示された。
図5は、ヒツジの脊髄からの高速伝播神経反応510および低速伝播神経反応520の両方を示す。
図5のX線は電極の位置を示し、動物の図面は皮膚分節を示し、皮膚分節は、それらの皮膚分節の各々から線維によって神経支配される。
【0035】
図6は、アレイの頂部において刺激することから生じるECAP(高速反応)および低速反応のプロットである。この場合、刺激および測定するために3つの電極リードが用いられた。
図6のX線では、上部の2つの電極リードは標準方向に配置され(吻側方向に挿入され)、底部電極リードは逆の方向に配置された。刺激はT13にあり、そのため、最下部電極リードは、刺激されている皮膚分節の後方で(尾側で)反応を測定する。これは、記録において、反応610および620に対する反応630の極性の反転として観察される。すなわち、電極E13~E16から得られる記録は正の振幅を示す一方で、脊髄のさらに上方からの反応610および620は負の反応を示す。
【0036】
これにより、
図6において3~5msの範囲のピークである低速反応の符号および形状を用いて、刺激に反応している筋肉群を特定し得ることが実証される。活性化の強度および発生源に関する情報を抽出するために、複数の異なる方法で信号を分析することができる。
【0037】
筋肉群に影響を与えようとするすべてのニューロモジュレーション用途において、特異性、すなわち、標的群およびその群のみの選択を達成することが非常に望ましい。仙骨神経刺激の場合、これは、理論によれば排尿筋である。現行の理論が正しくない場合であっても、他の筋肉群、たとえば骨盤底にも適用されることに留意されたい。
【0038】
本実施形態は、刺激電流の振幅を増大させ、低速反応を分析し、結果として得られる低速反応パターンを特定することにより、適切な筋肉群の特定をさらに提供する。これに関して、低速反応により、神経測定における遅発反応から筋線維活性化の理解を導出することができ、筋電図記録法(EMG)に同様の情報を提供し得ることが理解されるべきである。
【0039】
適切な筋肉群の特定において本実施形態が利用する別の特性は、反復する筋線維刺激により、筋肉が疲労し、低速反応信号が喪失されることになるという事実である。これに関して、
図7は、低速反応および高速反応の両方(左区画)、ならびに右区画における2つの無刺激チャネルに対する反応の振幅を示す。この実験では、振幅は増大し、その後、2分間にわたり9mAで保持された。反応の振幅は、2分間の筋肉疲労として右区画で見ることができるように、ゼロまで低下する。したがって、個々の筋肉群が固定振幅での反復刺激によって疲労することになる可能性がある。刺激(または
図7における「ショット」)の振幅がこの点からさらに増大する場合、追加の筋線維が動員され、疲労した筋肉群からの反応が観察可能でなくなっても、
図7に示すように振幅は9mAにおける第1疲労点および11mAにおける第2疲労点を超えて増大するため、新たな反応が誘発される。
図8において、低速反応は異なる形態を有し、線維のうちのいくつかが代替的な筋肉群位置から発生していることを示すことに留意されたい。
【0040】
刺激部位におけるまたはその近くの神経反応を測定することによる、筋肉群活性化に関連する低速反応パターンの特定は、経時的に振幅を増大させて刺激し、電流の次のステップの前に、この刺激レベルで動員された筋肉群が疲労するまで各選択された電流で待機するということである。刺激場所知覚または筋肉群活性化の他の基準を反応と相関させることができる。排尿筋の場合、これは、たとえば、膀胱圧を測定するカテーテルを用いることによって容易に検出し相関させることができる。膀胱は、最初に急速な萎縮で、次いで低速なより長時間の弛緩で神経刺激に反応する傾向がある。急速な萎縮は、刺激が排尿筋を活性化するために適切なレベルに達した場合にのみ発生するため、神経観察から導出される低速反応反応は、カテーテルを用いる圧力変化の測定によって求めることができる。このように、その筋肉群に対する低速反応の標的パターンは、観察された低速反応をカテーテル圧力結果と比較することによって求めることができる。
【0041】
反応をフィルタリングする上述した階段技法を用いて、個々の筋肉群からの反応を求めることができる。したがって、すべての線維からの寄与を、刺激の振幅が増大するに従って得られた反応の総和と比較することができる。
【0042】
この技法は、脊髄神経根を含む任意の神経構造に有用である。さらなる改善は、神経束の構造を考慮する場合に行うことができる。神経束における個々の小束は、
図9に示すように、束の長さを通して蛇行しているため、刺激に対する特定の小束の感度は、線維の長さに沿った位置に応じて変化する。上述した技法を用いて、標的とされることが望まれる筋肉群の特徴、次いで、その線維群を最もよく動員するために選択される電極および/または位置を求めることができる。
【0043】
仙骨神経刺激におけるフィードバック標的として、誘発された反応の連続的な測定を用いることができ、それにより、刺激は、筋肉を疲労させた後に低速反応の欠如または小さい低速反応を達成するように設定されるべきである。これを達成するために複数の方法がある。刺激頻度を調整し、フィードバックアルゴリズムを用いて、反応が発生しないように内部刺激間隔を制御することができる。これは、刺激して反応を測定し、低速反応が存在する場合、次の刺激までの時間を短縮することによって達成される。はるかに長い時間尺にわたり、刺激間の時間を漸増させることができ、それにより反応が現れ始め、このように最適な刺激頻度が達成される。このプロセスは、プログラミング時にまたはインプラントによりリアルタイムで連続的に行うことができる。
【0044】
図10を参照すると、神経の位置により、特に膀胱制御の治療の過程中、膀胱の充満が変化する可能性があり、腸または患者の動きにより仙骨孔内で神経が移動し、そのために神経が電極に対して移動することから、刺激の効力が変化する。
【0045】
高速反応510は、Aβ線維によって生成され、筋肉群からの反応と同様に刺激によって疲労しない。Aβ反応510はまた、電極からの反応する線維の距離に応じて振幅によっても変化する。したがって、最適な運動線維動員に対する刺激電流調整は、神経の移動を考慮するようにAβ反応の振幅に基づいて行うことができる。
【0046】
刺激電流のこの変化を用いて、膀胱の状態、すなわち充満または空を判断し、これを考慮して刺激に対してさらなる調整を行うことができる。
【0047】
広く記載されるような本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく、具体的な実施形態に示すような本発明に対する多数の変形形態および/または変更形態がなされ得ることが当業者に理解されるであろう。したがって、本実施形態は、すべての点で限定的または制限的ではなく例示的であるものとしてみなされるべきである。