(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】酸性ガス吸収剤、酸性ガスの除去方法及び酸性ガス除去装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20230106BHJP
B01D 53/52 20060101ALI20230106BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20230106BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
B01D53/52 220
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
(21)【出願番号】P 2018148789
(22)【出願日】2018-08-07
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭子
(72)【発明者】
【氏名】中野 義彦
(72)【発明者】
【氏名】吉村 玲子
(72)【発明者】
【氏名】今田 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】久保木 貴志
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健二
(72)【発明者】
【氏名】村井 伸次
(72)【発明者】
【氏名】宇田津 満
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-104775(JP,A)
【文献】米国特許第04104220(US,A)
【文献】米国特許第04111877(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0273965(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0023667(US,A1)
【文献】特開2017-121610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14-53/18、
53/34-53/84、
53/92、53/96
C01B 32/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1-1】
【化1-2】
からなる群から選択される少なくとも一つのアミン化合物を含む水溶液である酸性ガス吸収剤であって、前記酸性ガス吸収剤の全量を100質量%として、式(1)で表されるアミン化合物の含有量が3~80質量%である、酸性ガス吸収剤。
【請求項2】
前記酸性ガス吸収剤が、二酸化炭素を吸収するものである、請求項1に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項3】
前記アミン化合物が、
1-(2-アミノエチル)-イミダゾリジン-2-オン、
1-(3-アミノプロピル)-イミダゾリジン-2-オン、
1-(2-アミノエチル)-ヘキサヒドロピリミジン-2-オン、
1-(3-アミノプロピル)-ヘキサヒドロピリミジン-2-オン、
1,3-ジ(2-アミノエチル)-イミダゾリジン-2-オン、
1,3-ジ(3-アミノプロピル)-イミダゾリジン-2-オン、
1,3-ジ(2-アミノエチル)-ヘキサヒドロピリミジン-2-オン、及び
1,3-ジ(3-アミノプロピル)-ヘキサヒドロピリミジン-2-オン
からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1
または2に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項4】
前記アミン化合物が、
1-(2-アミノエチル)-イミダゾリジン-2-オン、
1-(3-アミノプロピル)-イミダゾリジン-2-オン、
1-(2-アミノエチル)-ヘキサヒドロピリミジン-2-オン、
1-(3-アミノプロピル)-ヘキサヒドロピリミジン-2-オン、および
1,3-ジ(2-アミノエチル)-イミダゾリジン-2-オン
からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1~3のいずれか1項に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項5】
アミノアルコール又はピペラジン誘導体をさらに含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項6】
酸化防止剤、pH調整剤、消泡剤、及び防食剤からなる群から選択される少なくとも一つの追加添加剤をさらに含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項7】
酸性ガスを含有するガスと、請求項1~
6のいずれか1項記載の酸性ガス吸収剤とを接触させて、酸性ガスを含むガスから酸性ガスを除去することを含む、酸性ガスの除去方法。
【請求項8】
酸性ガスを含有するガスと請求項1~
7のいずれか1項に記載の酸性ガス吸収剤との接触によって、この酸性ガス吸収剤に酸性ガスを吸収させることにより酸性ガスを含むガスから酸性ガスを除去する吸収器と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収剤を再生する再生器とを有し、
再生器で再生した酸性ガス吸収剤を前記吸収器にて再利用する酸性ガス除去装置である、酸性ガス除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、酸性ガス吸収剤、酸性ガスの除去方法及び酸性ガス除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化現象の一因として二酸化炭素(CO2)濃度の上昇による温室効果が指摘され、地球規模で環境を守る国際的な対策が急務となっている。CO2の発生は産業活動によるところが大きく、その環境への排出抑制の機運が高まっている。特に、石炭火力発電所や工場からのCO2排出量の削減は急務となっている。またCO2以外に硫化水素(H2S)等の酸性ガスについても、排出量を削減することも臨まれている。
【0003】
そこで、CO2等の酸性ガス排出量の削減方法として火力発電所等の高効率化による排出量の低減と共に、化学吸収剤による二酸化炭素の回収が大きな注目を浴びている。具体的な吸収剤としては、アミン化合物による吸収が古くから研究されている。しかし、化学吸収剤によるCO2吸放出工程において、化学吸収剤を再生するために、吸収剤を加熱することがあり、それによって吸収剤に含まれるアミン化合物が放散することが知られている。大量のアミン化合物が大気中に放散すると、プラント周辺環境への影響が懸念されるため、一般的には水や酸などによるアミントラップが設けられ、放散が抑制されている。しかし、アミントラップを設ける必要が生じる上、アミントラップによって吸収剤放散の抑制が不十分である場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実施形態は、酸性ガスの吸収量が多く、かつ放散性が低い酸性ガス吸収剤、並びにその酸性ガス吸収剤を用いた酸性ガスの除去方法及び酸性ガス除去装置を提供する
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態による酸性ガス吸収剤は、下記の式(1):
【化1】
[式中、
R
1はそれぞれ独立に、水素、アルキル、又は1級アミノ若しくは2級アミノを有するアミノアルキルであり、
前記R
1の少なくとも一つはアミノアルキルであり、
R
2は、それぞれ独立に、水素、アルキル、ヒドロキシ、アミノ、ヒドロキシアミノ、又は1級アミノ若しくは2級アミノを有するアミノアルキルであり、
前記R
1又は前記R
2に含まれるアルキル又はアミノアルキルは、直鎖状又は分岐鎖状であり、ヒドロキシ又はカルボニルによって置換されていてもよく、
pは2~4である。]
で表されるアミン化合物を含む。
【0007】
さらに実施形態による酸性ガスの除去方法は、酸性ガスを含有するガスと、前記酸性ガス吸収剤とを接触させて、酸性ガスを含むガスから酸性ガスを除去することを含む。
【0008】
さらに実施形態による酸性ガス除去装置は、酸性ガスを含有するガスと前記酸性ガス吸収剤との接触によって、この酸性ガス吸収剤に酸性ガスを吸収させることにより酸性ガスを含有するガスから酸性ガスを除去する吸収器と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収剤を再生する再生器とを有し、
再生器で再生した酸性ガス吸収剤を前記吸収器にて再利用する酸性ガス除去装置である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0011】
以下の実施態形態は、主として、酸性ガスが二酸化炭素である場合を例に説明するが、実施形態に係る酸性ガス吸収剤は、硫化水素等、その他の酸性ガスに関しても同様の効果を得ることができる。実施態形態よる酸性ガス吸収剤は、二酸化炭素、硫化水素等の酸化性ガスの吸収に特に適している。
【0012】
実施形態による酸性ガス吸収剤は、下記の式(1)で表される特定のアミン化合物を含む。
【化2】
式中、R
1はそれぞれ独立に、水素、アルキル、又は1級アミノ若しくは2級アミノを有するアミノアルキルである。アルキル又はアミノアルキルの炭素数は特に限定されないが、一般に1~10,好ましくは2~6、より好ましくは2又は3である。これらのアルキル又はアミノアルキルは、ヒドロキシ又はカルボニルによって置換されていてもよい。
【0013】
実施形態において、R1の少なくとも一つはアミノアルキルであることが必要である。すなわち、式(1)の化合物は、少なくとも一つの1級アミノ又は2級アミノを含んでいる。酸性ガス吸収剤中で、これらアミノが酸性ガスと反応する。
【0014】
R2は、それぞれ独立に、水素、アルキル、ヒドロキシ、アミノ、ヒドロキシアミノ、又は1級アミノ若しくは2級アミノを有するアミノアルキルである。R2は、式(1)中に2個以上含まれることがあるが、それらがすべて同じであってもよいし、全てが異なっていてもよい。前記アルキル又はアミノアルキルは、直鎖状又は分岐鎖状であり、ヒドロキシ又はカルボニルによって置換されていてもよい。なお、R2はすべてが水素であることが好ましい。
【0015】
pは2~4であり、2又は3であることが好ましい。従って、式(1)の化合物は、好ましくはイミダゾリジン-2-オン骨格又はヘキサヒドロピリミジン-2-オン骨格を有することが好ましい。
【0016】
なお、実施形態において、1級アミノとは-NH2であり、2級アミノとは-NHR’(ここで、R’はアルキル又はアミノアルキルである)を意味する。
【0017】
なお、ヒドロキシは、化合物の溶解度を改善する効果を有するので、実施形態による効果を損なわない範囲で含まれていてもよいが、化合物の安定性を低下させることがあるので、アミン化合物はヒドロキシを含まないことが好ましい。カルボキシ(-C(=O)OH)やスルホ(-SO3H)などの酸基は、吸収剤のpHを下げ、酸性ガスの吸収を妨害するので、アミン化合物はこれらを含まないことが好ましい。
【0018】
このような化合物のうち、下記式(1-a)で表される化合物が好ましい。
【化3】
式中、
R
aはそれぞれ独立に、水素、又は
-(C
mH
2m)-NH-(C
nH
2n+1)
(ここで、mは1~3,nは0~3である)
で表される基である。-(C
mH
2m)-及び(C
nH
2n+1)は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。また、二つのR
aが同時に水素であることはない。
【0019】
式(1)で表される化合物としては、以下のようなものを例示することができる。
【化4-1】
【化4-2】
【0020】
式(1)で表されるアミン化合物のうち、好ましいものとして
1-(2-アミノエチル)-イミダゾリジン-2-オン、
1-(3-アミノプロピル)-イミダゾリジン-2-オン、
1-(2-アミノエチル)-ヘキサヒドロピリミジン-2-オン、
1-(3-アミノプロピル)-ヘキサヒドロピリミジン-2-オン、
1,3-ジ(2-アミノエチル)-イミダゾリジン-2-オン、
1,3-ジ(3-アミノプロピル)-イミダゾリジン-2-オン、
1,3-ジ(2-アミノエチル)-ヘキサヒドロピリミジン-2-オン、及び
1,3-ジ(3-アミノプロピル)-ヘキサヒドロピリミジン-2-オン
が挙げられる。
【0021】
本実施形態に用いられるアミン化合物は、酸性ガスと反応して、酸性ガスを吸収し、必要に応じて吸収した酸素を放出することができる。アミン化合物が酸性ガスと反応するには、pKaが高いことが好ましい。具体的には、アミン化合物のpKaが7より大きいことが好ましく、pKaが8より大きいことがより好ましい。
【0022】
これらの化合物は、ジエチレントリアミンなどのポリアミンを尿素等と反応させることによって容易に製造することができる。このように反応させて得られた化合物は精製してから吸収剤に用いることができるが、不純物としてポリアミン等を含んでいても、酸性ガス吸収能力を損なうものではない。
【0023】
これらの化合物の一種を単独で、又は2種以上を併用することができる。酸性ガス吸収剤に含まれる式(1)で表される特定のアミン化合物の含有量は、3~80質量%であることが好ましく、5~75質量%であることがより好ましい。
【0024】
一般に、アミン成分の濃度が高い方が単位容量当たりの二酸化炭素の吸収量、脱離量が多く、また二酸化炭素の吸収速度、脱離速度が速いため、エネルギー消費の面やプラント設備の大きさ、処理効率の面においては好ましい。
【0025】
しかし、アミン成分の濃度が高すぎると、吸収剤の粘度の上昇などが起こることがある。式(1)のアミン化合物の含有量が75質量%以下の場合、そのような傾向は見られない。また、式(1)のアミン化合物の含有量を5質量%以上とすることで、十分な二酸化炭素の吸収量、吸収速度を得ることができ、優れた処理効率を得ることができる。
【0026】
式(1)のアミン化合物の含有量が上記の範囲にある酸性ガス吸収剤は、二酸化炭素回収用として用いた場合、二酸化炭素吸収量及び二酸化炭素吸収速度が高いだけでなく、二酸化炭素脱離量が多く、かつ二酸化炭素脱離速度も高いため、二酸化炭素の回収を効率的に行える点で有利である。また、放散性が低いので、環境に放出される化合物も少ないので好ましい。
【0027】
本実施形態では、好ましくは、例えばアミン化合物(1)を含む水溶液を、酸性ガス吸収剤として用いることができる。このような酸性ガス吸収剤は、単位モル当たりの二酸化炭素吸収量や、酸性ガス吸収剤の単位体積当たりの二酸化炭素吸収量及び二酸化炭素吸収速度の点で特に好ましい。二酸化炭素吸収後に酸性ガスを分離するエネルギー(酸性ガス脱離エネルギー)も低下し、酸性ガス吸収剤を再生させる際のエネルギーを低減させることができる。
<任意成分>
実施形態による酸性ガス吸収剤は、式(1)のアミン化合物を含むが、必要に応じて任意成分を含むことができる。
【0028】
任意成分の一つとして、アミノアルコールが挙げられる。アミノアルコールの使用によって、酸性ガス吸収剤の例えば吸収量、放出量、吸収速度等の改良ないし向上を図ることが可能となる。
【0029】
好適なアミノアルコールとしては、例えば、モノエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-ジプロパノール、ジエタノールアミン、ビス(2-ヒドロキシ-1-メチルエチル)アミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノ-1-メチルエタノール、2-メチルアミノエタノール、2-エチルアミノエタノール、2-プロピルアミノエタノール、n-ブチルアミノエタノール、2-(イソプロピルアミノ)エタノール、3-エチルアミノプロパノール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等が挙げられる。これらの化合物の一種を単独で用いることができ、又は二種以上を併用することができる。
【0030】
これらの中でも、アルカノールアミン類としては、式(1)で表されるアミン化合物と酸性ガスとの反応性をより向上させる観点から、2-(イソプロピルアミノ)エタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0031】
これらのアミノアルコールを用いる場合、その使用量は、式(1)で表されるアミン化合物の100体積%に対して、1~30体積%が好ましい。
【0032】
また、環状アミン化合物をさらに含むことができる。環状アミン化合物としてはアゼチジン、1-メチルアゼチジン、1-エチルアゼチジン、2-メチルアゼチジン、2-アゼチジルメタノール、2-(2-アミノエチル)アゼチジン、ピロリジン、1-メチルピロリジン、2-メチルピロリジン、2-ブチルピロリジン、ピペリジン、1-メチルピペリジン、2-エチルピペリジン、3-プロピルピペリジン、4-エチルピペリジン、ヘキサヒドロ-1H-アゼピン、ピペラジン、ピぺラジン誘導体等が挙げられる。
【0033】
これらの中でも、特にピぺラジン誘導体は、酸性ガス吸収剤の二酸化炭素吸収量及び吸収速度向上の観点から望ましい。
【0034】
ピペラジン誘導体は第2級アミン化合物であり、一般に、第2級アミノ基の窒素原子が二酸化炭素と結合し、カルバメートイオンを形成することで、反応初期段階における吸収速度の向上に寄与する。さらに第二級アミノ基の窒素原子は、これに結合した二酸化炭素を重炭酸イオン(HCO3
-)に転換する役割を担っており、反応後半段階の速度向上に寄与する。
【0035】
ピぺラジン誘導体としては、2-メチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2,6-ジメチルピペラジンのうちの少なくとも1種類であることがより好ましい。また、ヘキサメチレンテトラミンも式(1)で表されるアミン化合物と併用して用いることができる。
【0036】
実施形態による吸収剤は、例えば、水等の溶媒を含んでいてもよい。溶媒として水を用いる時、その含有量は、好ましくは20~60質量%、特に好ましくは30~60質量%、である(酸性ガス吸収剤の全量を100質量%とする)。水の含有量がこの範囲内である場合、吸収剤の粘度の上昇を抑制し、また二酸化炭素を吸収する際における泡立ちを抑制する点で好ましい。
【0037】
また、任意成分には、例えば、酸化防止剤、pH調整剤、消泡剤、防食剤等が包含される。
【0038】
酸化防止剤の好ましい具体例としては、例えばジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、エリソルビン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、二酸化硫黄、2-メルカプトイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール等を挙げることができる。酸化防止剤を用いる場合、その含有量は、好ましくは0.01~1質量%、特に好ましくは0.1~0.5質量%、である(酸性ガス吸収剤の全量を100質量%とする)。酸化防止剤は、酸性ガス吸収剤の劣化を防止し、その寿命を向上させることができる。
【0039】
消泡剤の好ましい具体例としては、例えばシリコーン系消泡剤、有機系消泡剤を挙げることができる。消泡剤を用いる場合、その含有量は、好ましくは0.00001~0.001質量%、特に好ましくは0.0005~0.001質量%、である(酸性ガス吸収剤の全量を100質量%とする)。消泡剤は、酸性ガス吸収剤の泡立ちを防止し、酸性ガスの吸収効率や離脱効率の低下を抑制し、酸性ガス吸収剤の流動性ないし循環効率の低下等を防止することができる。
【0040】
防食剤の好ましい具体例としては、例えばリン酸エステル類、トリルトリアゾール類、ベンゾトリアゾール類を挙げることができる。防食剤を用いる場合、その含有量は、好ましくは0.00003~0.0008質量%、特に好ましくは0.00005~0.005質量%、である(酸性ガス吸収剤の全量を100質量%とする)。このような防食剤は、プラント設備の腐蝕を防止し、その寿命を向上させることができる。
【0041】
以上のとおり、本実施形態の酸性ガス吸収剤によれば、二酸化炭素等の酸性ガスの吸収量を高くすることができ、また反応促進剤の放散性を小さくすることができる。そして、酸性ガスの回収に必要とするエネルギーが少ない。さらに、極性基である水酸基を分子中に複数個有するアミン化合物を用いており、放散性が抑制されているので、反応装置外への放散が抑制されている。このことから、蒸気圧が低い反応促進剤を組み合わせて用いた際にも、長期間にわたって安定的に酸性ガスの処理を行うことができる。そして、酸性ガス(例えば、二酸化炭素(CO2)、硫化水素(H2S)、硫化カルボニル(COS)に対して高い反応性を有しており、かつ水に対する溶解性に優れていることから、酸性ガス吸収時に析出しにくい。
【0042】
化合物と含む実施形態の酸性ガス吸収剤は、単位モル当たり酸性ガス(特に、二酸化炭素)の吸収量や、酸性ガス吸収剤の単位体積当たりの酸性ガス吸収量及び酸性ガス吸収速度がより一層向上したものである。かつ、吸収塔や再生塔から放出されるアミンの量を少なくすることができる。
【0043】
<酸性ガスの除去方法>
実施形態による酸性ガスの除去方法は、酸性ガスを含有するガスと、第一又は第二の酸性ガス吸収剤とを接触させ、酸性ガスを含むガスから酸性ガスを除去する。
【0044】
実施形態による酸性ガスの除去方法は、上述の実施形態による酸性ガス吸収剤へ対して酸性ガスを吸収させる工程(吸収工程)、及びこの酸性ガスを吸収した上述の実施形態による酸性ガス吸収剤から酸性ガスを脱離させる工程を、基本的な構成とする。
【0045】
即ち、実施形態による酸性ガスの除去方法の基本的な構成は、酸性ガス吸収剤に、酸性ガスを含有するガス(例えば、排ガス等)を接触させて、酸性ガス吸収剤に、酸性ガスを吸収させる工程(酸性ガス吸収工程)と、上記の酸性ガス吸収工程で得られた、酸性ガスが吸収された酸性ガス吸収剤を加熱して、酸性ガスを脱離して、除去する工程(酸性ガス分離工程)とを含む。
【0046】
酸性ガスを含むガスを、上記の酸性ガス吸収剤を含む水溶液に接触させる方法は、特に限定されないが、例えば、酸性ガス吸収剤中に酸性ガスを含むガスをバブリングさせて、吸収剤に酸性ガスを吸収させる方法、酸性ガスを含むガス気流中に酸性ガス吸収剤を霧状に降らす方法(噴霧ないしスプレー方式)、又は磁製や金属網製の充填材の入った吸収器内で酸性ガスを含むガスと酸性ガス吸収剤とを向流接触させる方法などによって行うことができる。
【0047】
酸性ガスを含むガスを水溶液に吸収させる時の酸性ガス吸収剤の温度は、通常、室温から60℃以下が好ましい。より好ましくは50℃以下、特に好ましくは20~45℃、である。低温度で行うほど、酸性ガスの吸収量は増加するが、処理温度の下限値は、プロセス上のガス温度や熱回収目標等によって決定することができる。酸性ガス吸収時の圧力は、通常、ほぼ大気圧である。吸収性能を高めるためより高い圧力まで加圧することもできるが、圧縮のために要するエネルギー消費を抑えるため大気圧下で行うのが好ましい。
【0048】
酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを分離し、純粋な又は高濃度の二酸化炭素を回収する方法としては、蒸留と同じく酸性ガス吸収剤を加熱して釜で泡立てて脱離する方法、棚段塔、スプレー塔、磁製や金属網製の充填材の入った再生塔内で液界面を広げて加熱する方法などが挙げられる。これにより、カルバミン酸アニオンや重炭酸イオンから酸性ガスが遊離して放出される。
【0049】
酸性ガス分離時の酸性ガス吸収剤の温度は、通常70℃以上であり、好ましくは80℃以上、より好ましくは90~120℃、である。温度が高いほど、酸性ガスの脱離量は増加するが、温度を上げると吸収剤の加熱に要するエネルギーが増すため、その温度はプロセス上のガス温度や熱回収目標等によって決定することができる。酸性ガス脱離時の圧力は、通常、1~3気圧程度とすることができる。脱離性能を高めるためより低い圧力まで減圧することもできるが、減圧のために要するエネルギー消費を抑えるためこの範囲で行うのが好ましい。
【0050】
酸性ガスを分離した後の酸性ガス吸収剤は、再び酸性ガス吸収工程に送られて循環使用(リサイクル)することができる。また、酸性ガス吸収の際に生じた熱は、一般的には水溶液のリサイクル過程において再生器に注入される水溶液の予熱のために熱交換器で熱交換されて冷却される。
【0051】
このようにして回収された酸性ガスの純度は、通常、95~99体積%程度と極めて純度が高い。この純粋な酸性ガス又は高濃度の酸性ガスは、化学品、又は高分子物質の合成原料、食品冷凍用の冷剤等として用いることができる。その他、回収した酸性ガスを、現在技術開発されつつある地下等へ隔離貯蔵することも可能である。
【0052】
上述した工程のうち、酸性ガス吸収剤から酸性ガスを分離して酸性ガス吸収剤を再生する工程が最も多量のエネルギーを消費する部分であり、この工程で、全体工程の約50~80%程度のエネルギーが消費されることがある。従って、酸性ガス吸収剤の再生工程における消費エネルギーを低減することにより、酸性ガスの吸収分離工程のコストを低減でき、排気ガスからの酸性ガス除去を、経済的に有利に効率良く行うことができる。
【0053】
本実施形態によれば、上記の実施形態の酸性ガス吸収剤を用いることで、酸性ガス脱離(再生工程)のために必要なエネルギーを低減することができる。このため、二酸化炭素の吸収分離工程を、経済的に有利な条件で効率良く行うことができる。
【0054】
また、上述した実施形態に係るアミン化合物は、従来より酸性ガス吸収剤として用いられてきた2-アミノエタノール等のアルカノールアミン類と比較して、炭素鋼などの金属材料に対し、著しく高い腐食防止性を有している。したがって、このような酸性ガス吸収剤を用いた酸性ガス除去方法とすることで、例えばプラント建設において、高コストの高級耐食鋼を用いる必要がなくなり、コスト面で有利である。
【0055】
<酸性ガス除去装置>
実施形態による酸性ガス除去装置は、酸性ガスを含有するガスと、第一又は第二の酸性ガス吸収剤とを接触させ、この酸性ガス吸収剤に酸性ガスを吸収させることにより酸性ガスを含有するガスから酸性ガスを除去する吸収器と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収剤を再生する再生器とを有し、
再生器で再生した酸性ガス吸収剤を前記吸収器にて再利用する酸性ガス除去装置である。
【0056】
図1は、実施形態の酸性ガス除去装置の概略図である。
この酸性ガス除去装置1は、酸性ガスを含むガス(例えば、排気ガス)と酸性ガス吸収剤とを接触させ、この酸性ガスを含むガスから酸性ガスを吸収させて除去する吸収器2と、酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを分離し、酸性ガス吸収剤を再生する再生器3と、を備えている。以下、酸性ガスが二酸化炭素である場合を例に説明する。
【0057】
図1に示すように、火力発電所等から排出される燃焼排ガス等の、二酸化炭素を含む排気ガスが、ガス供給口4を通って吸収器2下部へ導かれる。この排気ガスは、吸収器2に押し込められ、吸収器2上部の酸性ガス吸収剤供給口5から供給された酸性ガス吸収剤と接触する。酸性ガス吸収剤としては、上述した実施形態に係る酸性ガス吸収剤を使用する。
【0058】
酸性ガス吸収剤のpH値は、少なくとも9以上に調整すればよいが、排気ガス中に含まれる有害ガスの種類、濃度、流量等によって、適宜最適条件を選択することがよい。
【0059】
また、この酸性ガス吸収剤には、上記のアミン系化合物、及び水などの溶媒の他に、二酸化炭素の吸収性能を向上させる含窒素化合物、酸化防止剤、pH調整剤等、その他化合物を任意の割合で含有していてもよい。
【0060】
このように、排気ガスが酸性ガス吸収剤と接触することで、この排気ガス中の二酸化炭素が酸性ガス吸収剤に吸収され除去される。二酸化炭素が除去された後の排気ガスは、ガス排出口6から吸収器2外部に排出される。
【0061】
二酸化炭素を吸収した酸性ガス吸収剤は、熱交換器7、加熱器8に送液され、加熱された後、再生器3に送液される。再生器3内部に送液された酸性ガス吸収剤は、再生器3の上部から下部に移動し、この間に、酸性ガス吸収剤中の酸性ガスが脱離し、酸性ガス吸収剤が再生される。
【0062】
再生器3で再生した酸性ガス吸収剤は、ポンプ9によって熱交換器7、吸収剤冷却器10に送液され、酸性ガス吸収剤供給口5から吸収器2に戻される。
【0063】
一方、酸性ガス吸収剤から分離された酸性ガスは、再生器3上部において、還流ドラム11から供給された還流水と接触し、再生器3外部に排出される。
【0064】
二酸化炭素が溶解した還流水は、還流冷却器12で冷却された後、還流ドラム11において、二酸化炭素を伴う水蒸気が凝縮した液体成分と分離される。この液体成分は、回収酸性ガスライン13により酸性ガス回収工程に導かれる。一方、酸性ガスが分離された還流水は、還流水ポンプ14で再生器3に送液される。
【0065】
本実施形態の酸性ガス除去装置1によれば、酸性ガスの吸収特性及び脱離特性に優れた酸性ガス吸収剤を用いることで、効率の高い酸性ガスの吸収除去を行うことが可能となる。
【実施例】
【0066】
<実施例1>
1-(2-アミノエチル)-イミダゾリジン-2-オンを30質量%となるように水に溶解させ、水溶液(以下、吸収剤と示す。)とした。この吸収剤を試験管に充填して40℃に加熱し、二酸化炭素(CO2)10体積%、窒素(N2)ガス90体積%含む混合ガスを流速500mL/minで通気して、試験管出口でのガス中の二酸化炭素(CO2)濃度を赤外線式ガス濃度測定装置(CARBOCAP(登録商標) GMM111 CO2モジュール(0~20%)、ヴァイサラ社製)を用いて測定し、吸収性能を評価した。
【0067】
放散性は上記アミン水溶液に1%CO2を40℃で通気した際に放散されたアミンを回収して求めた。
【0068】
吸収剤の二酸化炭素吸収量は、吸収剤中のアミン化合物1mol当り0.5molであった。一方、放散性は、窒素ガスを吸収剤に流通した際に窒素ガスに同伴されてくる吸収剤を採取して濃度を測定した。その結果、放散性は1ppm(v/v)程度であった。
【0069】
<実施例2~5>
1-(2-アミノエチル)-イミダゾリジン-2-オンの代わりに
1-(3-アミノプロピル)-イミダゾリジン-2-オン(実施例2)、
1-(2-アミノエチル)-ヘキサヒドロピリミジン-2-オン(実施例3)、
1-(3-アミノプロピル)-ヘキサヒドロピリミジン-2-オン(実施例4)、又は
1,3-ジ(2-アミノエチル)-イミダゾリジン-2-オン(実施例5)、
を用いたこと以外は、実施例1と同様にして吸収剤を調製し、実施例1と同様の装置を用い、同条件下で二酸化炭素吸収量、アミン化合物の回収量、放散量を測定した。
【0070】
実施例2~4の吸収剤の二酸化炭素吸収量及び放散性は、実施例1と同等である。また実施例5の吸収剤の二酸化炭素吸収量は実施例1の約2倍であり、放散性は実施例1よりも低い。
<比較例1>
モノエタノールアミンを30質量%となるように水に溶解させ、水溶液(とした。その後、実施例1と同様の装置を用い、実施例1と同様の装置を用い、同条件下で二酸化炭素吸収量、アミン化合物の回収量、放散量を測定した。
【0071】
吸収剤の二酸化炭素吸収量は、吸収剤中のアミン化合物1mol当り0.5molで同等であったが、放散性は18ppm(v/v)程度であった。
<結果>
以上の結果から明らかなように、実施形態の実施例の吸収剤では、比較例に比べて二酸化炭素吸収量が同等以上であり、放散性は比較例に対して著しく改良されていた。
【0072】
以上述べた少なくとも一つの実施形態の酸性ガス吸収剤、酸性ガス除去方法及び酸性ガス除去装置によれば、二酸化炭素等の酸性ガスの高い吸収量と低い放散性とを両立することができる。
【0073】
以上の通り、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1…酸性ガス除去装置、2…吸収器、3…再生器、4…ガス供給口、5…酸性ガス吸収剤供給口、6…ガス排出口、7…熱交換器、8…加熱器、9…ポンプ、10…吸収剤冷却器、11…還流ドラム、12…還流冷却器、13…回収酸性ガス炭素ライン、14…還流水ポンプ