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特許7204392酸性ガス吸収剤、酸性ガスの除去方法及び酸性ガス除去装置
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  • 特許-酸性ガス吸収剤、酸性ガスの除去方法及び酸性ガス除去装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】酸性ガス吸収剤、酸性ガスの除去方法及び酸性ガス除去装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20230106BHJP
   B01D 53/52 20060101ALI20230106BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20230106BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20230106BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20230106BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20230106BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
B01D53/52 200
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
B01D53/96
C01B32/50
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018173955
(22)【出願日】2018-09-18
(65)【公開番号】P2020044492
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭子
(72)【発明者】
【氏名】中野 義彦
(72)【発明者】
【氏名】吉村 玲子
(72)【発明者】
【氏名】今田 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】久保木 貴志
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健二
(72)【発明者】
【氏名】宇田津 満
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0290580(US,A1)
【文献】国際公開第2013/081126(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14-53/18、
53/34-53/85、
53/92、53/96
C01B 32/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃における蒸気圧が0.001~10Paであるアミン化合物と、
質量平均分子量が900~200,000である水溶性高分子化合物であって、水酸基以外にpKaが7を超える官能基を含まない水溶性高分子化合物と、
水と
を含む、酸性ガス吸収剤であって、
前記水溶性高分子化合物がカルボキシビニルポリマー、カルボキシビニルポリマーのアルカリ金属塩、ポリビニルアルコール、セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、およびアルギン酸からなる群から選ばれる少なくとも一つであり、
前記酸性ガス吸収剤に含まれる前記アミン化合物の含有量は、前記酸性ガス吸収剤の総質量を基準として3~80質量%である
酸性ガス吸収剤。
【請求項2】
前記アミン化合物が、アミノアルコール又は第三級アミンである、請求項1に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項3】
前記アミン化合物の20℃における蒸気圧が、0.005~5Paである、請求項1または2に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項4】
酸性ガスに接触させる前の、25℃における粘度が、10~200mPa・sである、請求項1~3のいずれか1項に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項5】
前記水溶性高分子化合物の含有率が、前記酸性ガス吸収剤の総質量を基準として0.001~1質量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項6】
酸化防止剤、pH調整剤、消泡剤、及び防食剤からなる群から選択される少なくとも一つの追加添加剤をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項7】
酸性ガスを含有するガスと、請求項1~6のいずれか1項に記載の酸性ガス吸収剤とを接触させて、酸性ガスを含むガスから酸性ガスを除去することを含む、酸性ガスの除去方法。
【請求項8】
酸性ガスを含有するガスと請求項1~6のいずれか1項に記載の酸性ガス吸収剤との接触によって、この酸性ガス吸収剤に酸性ガスを吸収させることにより酸性ガスを含むガスから酸性ガスを除去する吸収器と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収剤を再生する再生器とを有し、
再生器で再生した酸性ガス吸収剤を前記吸収器にて再利用する、酸性ガス除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、酸性ガス吸収剤、酸性ガスの除去方法及び酸性ガス除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化現象の一因として二酸化炭素(CO)濃度の上昇による温室効果が指摘され、地球規模で環境を守る国際的な対策が急務となっている。COの発生は産業活動によるところが大きく、その環境への排出抑制の機運が高まっている。特に、石炭火力発電所や工場からのCO排出量の削減は急務となっている。またCO以外に硫化水素(HS)等の酸性ガスについても、排出量を削減することも臨まれている。
【0003】
そこで、CO等の酸性ガス排出量の削減方法として火力発電所等の高効率化による排出量の低減と共に、化学吸収剤による二酸化炭素の回収が大きな注目を浴びている。具体的な吸収剤としては、アミン化合物による吸収が古くから研究されている。しかし、化学吸収剤によるCO吸放出工程において、化学吸収剤を再生するために、吸収剤を加熱することがあり、それによって吸収剤に含まれるアミン化合物が放散することが知られている。大量のアミン化合物が大気中に放散すると、プラント周辺環境への影響が懸念されるため、一般的には水や酸などによるアミントラップが設けられ、放散が抑制されている。しかし、アミントラップを設ける必要が生じる上、アミントラップによって吸収剤放散の抑制が不十分である場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5701998号
【文献】特許第5688455号
【文献】特許第5646892号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
放散性が低い酸性ガス吸収剤、酸性ガスの除去方法及び酸性ガス除去装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態による酸性ガス吸収剤は、
20℃における蒸気圧が0.001~10Paであるアミン化合物と、
質量平均分子量が900~200,000である水溶性高分子化合物であって、水酸基以外にpKaが7を超える官能基を含まない水溶性高分子化合物と、
水と
を含む。
【0007】
さらに実施形態による酸性ガスの除去方法は、酸性ガスを含有するガスと、前記酸性ガス吸収剤とを接触させて、酸性ガスを含むガスから酸性ガスを除去することを含む。
【0008】
さらに実施形態による酸性ガス除去装置は、酸性ガスを含有するガスと前記酸性ガス吸収剤との接触によって、この酸性ガス吸収剤に酸性ガスを吸収させることにより酸性ガスを含有するガスから酸性ガスを除去する吸収器と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収剤を再生する再生器とを有し、
再生器で再生した酸性ガス吸収剤を前記吸収器にて再利用する酸性ガス除去装置である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の酸性ガス除去装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0011】
<酸性ガス吸収剤>
以下の実施態形態は、主として、酸性ガスが二酸化炭素である場合を例に説明するが、実施形態に係る酸性ガス吸収剤は、硫化水素等、その他の酸性ガスに関しても同様の効果を得ることができる。実施態形態よる酸性ガス吸収剤は、二酸化炭素、硫化水素等の酸化性ガスの吸収に適している。このうち、特に二酸化炭素の吸収に適しており、工場排ガスなどからの二酸化炭素回収システムに適している。
【0012】
実施形態による酸性ガス吸収剤は、酸性ガスを吸収する主剤としてアミン化合物を含む。このようなアミン化合物は、従来、酸性ガス吸収剤に一般的に用いられているものの中から適切な蒸気圧を有するものを選択して用いることができる。
【0013】
用いることができるアミン化合物として、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、及び第4級アンモニウムが挙げられる。また、ジアミン、トリアミンなどのポリアミン化合物を用いることができる。さらには、これらのアミン化合物の水素が、ヒドロキシ等で置換された誘導体、及びこれらのアミン化合物のメチレンがオキシ、カルボニル、スルホニル等で置き換えられた誘導体も用いることができる。また、アミン化合物は一般的に水溶性であるが、水溶性の高いものが好ましい。
【0014】
具体的には、以下のアミン化合物を用いることができる。
(i)アミノアルコール、
(ii)環状アミン、
(iii)第1級アミン、
(iv)第2級アミン類、
(v)第3級アミン類、
(vi)ポリアミン
(vii)ポリアルキレンポリアミン
(viii)アミノ酸。
【0015】
なお、上記の分類は便宜的なものであって、上記の分類のうち、二つ以上の分類に包含されるアミン化合物もある。例えば、メチルジエタノールアミンは、アミノアルコールであり、第3級アミンでもある。
【0016】
これらのうち、(i)アミノアルコールや(v)第3級アミンを用いると放散性を低くすることができるので好ましい。
【0017】
また、実施形態においてアミン化合物は、蒸気圧が低いものを用いる。アミン化合物が低い蒸気圧を有することによって、放散性を低く保つことができる。具体的にはアミン化合物の蒸気圧の範囲は、20℃において0.001 ~10Paであり、0.005~5Paであることが好ましく、0.0.01~1Paであることがより好ましい。蒸気圧が高いアミン化合物を用いた場合、後述する水溶性高分子化合物を組み合わせたときに、実施形態による効果が小さいことがある。
このような蒸気圧の条件を満たす好ましいアミン化合物としては、メチルジエタノールアミン(20℃における蒸気圧0.03Pa)、ジエタノールアミン(20℃における蒸気圧0.04Pa)、エチルジエタノールアミン(20℃における蒸気圧0.3Pa)などが挙げられる。
【0018】
さらに、酸性ガス吸収剤は繰り返し利用されるものであることから、化合物の安定性が高いことが好ましい。これらの観点から、アンモニア、メチルアミン、ヒドラジンなどは用いないことが好ましい。
【0019】
実施形態による酸性ガス吸収剤は、特定の水溶性高分子化合物も含む。この水溶性高分子化合物を上記したアミン化合物と組み合わせることで、放散性が顕著に改良される。
【0020】
実施形態において、水溶性高分子化合物の質量平均分子量は、900~200,000であり、1,000~180,000であることが好ましい。放散性改良の観点から質量平均分子量は大きいことが好ましく、コスト抑制の観点からは質量平均分子量は小さいことが好ましい。
【0021】
また、水溶性高分子化合物は、十分な水溶性を有するために水溶性基を含む。水溶性基としては、水酸基(-OH)が一般的であるが、そのほかにオキシ基(-O-)、カルボキシ基(-COOH)、カルボキシラト基(-COO)、スルホ基(-SOH)、スルホナト基(-SO )が挙げられる。ここで、カルボキシ基やスルホ基などの酸基は、アルカリ金属などと結合して-COOM、-SOM(ここでMは金属イオン)などの塩を形成するが、ここではこれらの基も便宜的にカルボキシラト基、スルホナト基に含める。実施形態に用いられる水溶性高分子化合物は、これらのうち、水酸基、オキシ基、カルボキシ基、カルボキシラト基を含むものが好ましく、これら以外の官能基を含まないものがより好ましい。
【0022】
そして、実施形態に用いられる水溶性高分子化合物はそれ以外の官能基をも含み得るが、pKaが高い官能基を含まない。具体的には、実施形態に用いられる水溶性高分子化合物は、pKaが7以下であるか、オキシ基のように解離しないのでpKaを有しない官能基を含む。その理由は、一般的にpKaが高い官能基は、酸性ガスと反応して、化合物の化学的特性や酸性ガス吸収液の物性を変化させたり、酸性ガス吸収剤の再生時に酸性ガスを放出したりするためである。水酸基はpKaが一般的に7を超えるが、このような問題が起こりにくいので、水溶性高分子化合物に含まれていてもよい。
【0023】
ここで、官能基のpKaは計算により求めることができる。具体的にはChemAxon社製品のCalculator Plugins(商品名)のProtonation バンドルを用いて、Partial charge distributionに基づいたpKaを容易に計算することができる。
【0024】
したがって、実施形態による水溶性高分子化合物は酸性ガス、特に二酸化炭素の吸収量が少ない。二酸化炭素の吸収量は、例えば水に溶解させた水溶性高分子化合物に100%COガスを導入した後に、定量13C-NMRスペクトルを測定し、160ppm付近にあらわれる、導入したCO由来のシグナルの積分値と化合物由来の積分値の比較から求めることができる。
実施形態に用いられる水溶性高分子化合物は、このような方法で測定される、水溶性高分子化合物1モルあたりの二酸化炭素の吸収量が0.01モル以下であることが好ましい。
【0025】
このような水溶性高分子化合物としては、水溶性ビニルポリマー又は水溶性多糖類であることが好ましい。水溶性ビニルポリマーとしては、カルボキシビニルポリマー、カルボキシビニルポリマーのアルカリ金属塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。そして、カルボキシビニルポリマーは、より具体的にはポリアクリル酸、メタアクリル酸、及びそれらのコポリマーを包含する。また、水溶性多糖類としては、合成物であっても天然物であってもよく、セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ペクチン、アラビアガム、アルギン酸、及びキサンタンガムからなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。水溶性多糖類の中ではセルロースが入手の容易性などの観点から好ましい。セルロースはセルロースナノファイバーを用いることもできる。
【0026】
実施形態による酸性ガス吸収剤は、溶媒として水を含み、前記したアミン化合物及び水溶性高分子化合物が溶解または分散した水溶液となっている。
【0027】
酸性ガス吸収剤に含まれるアミン化合物の含有量は、酸性ガス吸収剤の総質量を基準として3~80質量%であることが好ましく、5~75質量%であることがより好ましい。
【0028】
一般に、アミン成分の濃度が高い方が単位容量当たりの二酸化炭素の吸収量、脱離量が多く、また二酸化炭素の吸収速度、脱離速度が速いため、エネルギー消費の面やプラント設備の大きさ、処理効率の面においては好ましい。
【0029】
しかし、アミン成分の濃度が高すぎると、吸収剤の粘度の上昇などが起こることがある。また、アミン化合物の含有量を5質量%以上とすることで、十分な二酸化炭素の吸収量、吸収速度を得ることができ、優れた処理効率を得ることができる。
【0030】
アミン化合物の含有量が上記の範囲にある酸性ガス吸収剤は、二酸化炭素回収用として用いた場合、二酸化炭素吸収量及び二酸化炭素吸収速度が高いだけでなく、二酸化炭素脱離量が多く、かつ二酸化炭素脱離速度も高いため、二酸化炭素の回収を効率的に行える点で有利である。
【0031】
また、酸性ガス吸収剤に水溶性高分子化合物の含有量は、酸性ガス吸収剤の総質量を基準として0.001~1質量%であることが好ましい。水溶性高分子化合物の含有量が多い方が放散性改良の効果が大きいが、過度に多いと酸性ガス吸収剤の粘度が過大となって取り扱い性が悪くなることがある。
【0032】
酸性ガス吸収剤の粘度は特に限定されないが、25℃で1~200mPa・sであることが好ましく、10~100mPa・sであることがより好ましい。酸性ガス吸収剤が十分な性能を発揮するために水溶性高分子化合物を含むので、一般に粘度が高いが、過度に粘度が高いと取り扱い性が悪くなる。
【0033】
ここで、酸性ガス吸収剤の粘度は、BROOKFIELD社製VISCOMETER DV-II+Pro(商品名)によって測定することができる。
【0034】
実施形態による酸性ガス吸収剤は、前記アミン化合物と前記水溶性高分子化合物とを含むが、必要に応じてその他の任意成分を含むことができる。
【0035】
任意成分には、例えば、酸化防止剤、pH調整剤、消泡剤、防食剤等が包含される。
【0036】
酸化防止剤の好ましい具体例としては、例えばジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、エリソルビン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、二酸化硫黄、2-メルカプトイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール等を挙げることができる。酸化防止剤を用いる場合、その含有量は、好ましくは0.01~1質量%、特に好ましくは0.1~0.5質量%、である(酸性ガス吸収剤の全量を100質量%とする)。酸化防止剤は、酸性ガス吸収剤の劣化を防止し、その寿命を向上させることができる。
【0037】
消泡剤の好ましい具体例としては、例えばシリコーン系消泡剤、有機系消泡剤を挙げることができる。消泡剤を用いる場合、その含有量は、好ましくは0.00001~0.001質量%、特に好ましくは0.0005~0.001質量%、である(酸性ガス吸収剤の全量を100質量%とする)。消泡剤は、酸性ガス吸収剤の泡立ちを防止し、酸性ガスの吸収効率や離脱効率の低下を抑制し、酸性ガス吸収剤の流動性ないし循環効率の低下等を防止することができる。
【0038】
防食剤の好ましい具体例としては、例えばリン酸エステル類、トリルトリアゾール類、ベンゾトリアゾール類を挙げることができる。防食剤を用いる場合、その含有量は、好ましくは0.00003~0.0008質量%、特に好ましくは0.00005~0.005質量%、である(酸性ガス吸収剤の全量を100質量%とする)。このような防食剤は、プラント設備の腐蝕を防止し、その寿命を向上させることができる。
【0039】
以上のとおり、本実施形態の酸性ガス吸収剤によれば、二酸化炭素等の酸性ガスの吸収量を高くすることができる。そして、酸性ガスの回収に必要とするエネルギーが少ない。さらに、極性基である水酸基を分子中に複数個有するアミン化合物を用いており、放散性が抑制されているので、反応装置外への放散が抑制されている。そして、酸性ガス(例えば、二酸化炭素(CO)、硫化水素(H2S)、硫化カルボニル(COS)に対して高い反応性を有しており、かつ水に対する溶解性に優れていることから、酸性ガス吸収時に析出しにくい。
【0040】
化合物と含む実施形態の酸性ガス吸収剤は、単位モル当たり酸性ガス(特に、二酸化炭素)の吸収量や、酸性ガス吸収剤の単位体積当たりの酸性ガス吸収量及び酸性ガス吸収速度がより一層向上したものである。かつ、吸収塔や再生塔から放出されるアミンの量を少なくすることができる。
【0041】
<酸性ガスの除去方法>
実施形態による酸性ガスの除去方法は、酸性ガスを含有するガスと、第一又は第二の酸性ガス吸収剤とを接触させ、酸性ガスを含むガスから酸性ガスを除去する。
【0042】
実施形態による酸性ガスの除去方法は、上述の実施形態による酸性ガス吸収剤へ対して酸性ガスを吸収させる工程(吸収工程)、及びこの酸性ガスを吸収した上述の実施形態による酸性ガス吸収剤から酸性ガスを脱離させる工程を、基本的な構成とする。
【0043】
即ち、実施形態による酸性ガスの除去方法の基本的な構成は、酸性ガス吸収剤に、酸性ガスを含有するガス(例えば、排ガス等)を接触させて、酸性ガス吸収剤に、酸性ガスを吸収させる工程(酸性ガス吸収工程)と、上記の酸性ガス吸収工程で得られた、酸性ガスが吸収された酸性ガス吸収剤を加熱して、酸性ガスを脱離して、除去する工程(酸性ガス分離工程)とを含む。
【0044】
酸性ガスを含むガスを、上記の酸性ガス吸収剤を含む水溶液に接触させる方法は、特に限定されないが、例えば、酸性ガス吸収剤中に酸性ガスを含むガスをバブリングさせて、吸収剤に酸性ガスを吸収させる方法、酸性ガスを含むガス気流中に酸性ガス吸収剤を霧状に降らす方法(噴霧ないしスプレー方式)、又は磁製や金属網製の充填材の入った吸収器内で酸性ガスを含むガスと酸性ガス吸収剤とを向流接触させる方法などによって行うことができる。
【0045】
酸性ガスを含むガスを水溶液に吸収させる時の酸性ガス吸収剤の温度は、通常、室温から60℃以下が好ましい。より好ましくは50℃以下、特に好ましくは20~45℃、である。低温度で行うほど、酸性ガスの吸収量は増加するが、処理温度の下限値は、プロセス上のガス温度や熱回収目標等によって決定することができる。酸性ガス吸収時の圧力は、通常、ほぼ大気圧である。吸収性能を高めるためより高い圧力まで加圧することもできるが、圧縮のために要するエネルギー消費を抑えるため大気圧下で行うのが好ましい。
【0046】
酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを分離し、純粋な又は高濃度の二酸化炭素を回収する方法としては、棚段塔、スプレー塔、磁製や金属網製の充填材の入った再生塔内で液界面を広げて加熱する方法などが挙げられる。
【0047】
酸性ガス分離時の酸性ガス吸収剤の温度は、通常70℃以上であり、好ましくは80℃以上、より好ましくは90~120℃、である。温度が高いほど、酸性ガスの脱離量は増加するが、温度を上げると吸収剤の加熱に要するエネルギーが増すため、その温度はプロセス上のガス温度や熱回収目標等によって決定することができる。酸性ガス脱離時の圧力は、通常、1~3気圧程度とすることができる。
【0048】
酸性ガスを分離した後の酸性ガス吸収剤は、再び酸性ガス吸収工程に送られて循環使用(リサイクル)することができる。また、酸性ガス吸収の際に生じた熱は、一般的には水溶液のリサイクル過程において再生器に注入される水溶液の予熱のために熱交換器で熱交換されて冷却される。
【0049】
このようにして回収された酸性ガスの純度は、通常、95~99体積%程度と極めて純度が高い。この純粋な酸性ガス又は高濃度の酸性ガスは、化学品、又は高分子物質の合成原料、食品冷凍用の冷剤等として用いることができる。その他、回収した酸性ガスを、現在技術開発されつつある地下等へ隔離貯蔵することも可能である。
【0050】
上述した工程のうち、酸性ガス吸収剤から酸性ガスを分離して酸性ガス吸収剤を再生する工程が最も多量のエネルギーを消費する部分であり、この工程で、全体工程の約50~80%程度のエネルギーが消費されることがある。従って、酸性ガス吸収剤の再生工程における消費エネルギーを低減することにより、酸性ガスの吸収分離工程のコストを低減でき、排気ガスからの酸性ガス除去を、経済的に有利に効率良く行うことができる。
【0051】
本実施形態によれば、上記の実施形態の酸性ガス吸収剤を用いることで、酸性ガス脱離(再生工程)のために必要なエネルギーを低減することができる。このため、二酸化炭素の吸収分離工程を、経済的に有利な条件で効率良く行うことができる。
【0052】
<酸性ガス除去装置>
実施形態による酸性ガス除去装置は、酸性ガスを含有するガスと、第一又は第二の酸性ガス吸収剤とを接触させ、この酸性ガス吸収剤に酸性ガスを吸収させることにより酸性ガスを含有するガスから酸性ガスを除去する吸収器と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収剤を再生する再生器とを有し、
再生器で再生した酸性ガス吸収剤を前記吸収器にて再利用する酸性ガス除去装置である。
【0053】
図1は、実施形態の酸性ガス除去装置の概略図である。
この酸性ガス除去装置1は、酸性ガスを含むガス(例えば、排気ガス)と酸性ガス吸収剤とを接触させ、この酸性ガスを含むガスから酸性ガスを吸収させて除去する吸収器2と、酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを分離し、酸性ガス吸収剤を再生する再生器3と、を備えている。以下、酸性ガスが二酸化炭素である場合を例に説明する。
【0054】
図1に示すように、火力発電所等から排出される燃焼排ガス等の、二酸化炭素を含む排気ガスが、ガス供給口4を通って吸収器2下部へ導かれる。この排気ガスは、吸収器2に押し込められ、吸収器2上部の酸性ガス吸収剤供給口5から供給された酸性ガス吸収剤と接触する。酸性ガス吸収剤としては、上述した実施形態に係る酸性ガス吸収剤を使用する。
【0055】
また、この酸性ガス吸収剤には、上記のアミン系化合物、及び水などの溶媒の他に、二酸化炭素の吸収性能を向上させる含窒素化合物、酸化防止剤、pH調整剤等、その他化合物を任意の割合で含有していてもよい。
【0056】
このように、排気ガスが酸性ガス吸収剤と接触することで、この排気ガス中の二酸化炭素が酸性ガス吸収剤に吸収され除去される。二酸化炭素が除去された後の排気ガスは、ガス排出口6から吸収器2外部に排出される。
【0057】
二酸化炭素を吸収した酸性ガス吸収剤は、リッチ液ポンプ8により熱交換器7に送液され、さらに再生器3に送液される。再生器3内部に送液された酸性ガス吸収剤は、再生器3の上部から下部に移動し、この間に、酸性ガス吸収剤中の酸性ガスが脱離し、酸性ガス吸収剤が再生される。
【0058】
再生器3で再生した酸性ガス吸収剤は、リーン液ポンプ9によって熱交換器7、吸収剤冷却器10に送液され、酸性ガス吸収剤供給口5から吸収器2に戻される。
【0059】
一方、酸性ガス吸収剤から分離された酸性ガスは、再生器3上部において、還流ドラム11から供給された還流水と接触し、再生器3外部に排出される。
【0060】
二酸化炭素が溶解した還流水は、還流冷却器12で冷却された後、還流ドラム11において、二酸化炭素を伴う水蒸気が凝縮した液体成分と分離される。この液体成分は、回収酸性ガスライン13により酸性ガス回収工程に導かれる。一方、酸性ガスが分離された還流水は再生器3に送液される。
【0061】
本実施形態の酸性ガス除去装置1によれば、酸性ガスの吸収特性及び脱離特性に優れた酸性ガス吸収剤を用いることで、効率の高い酸性ガスの吸収除去を行うことが可能となる。
【実施例
【0062】
<実施例1>
メチルジエタノールアミン(20℃における蒸気圧0.03Pa)の含有量が45質量%、カルボキシメチルセルロースの含有量が0.07質量%となるように水に溶解させ、水溶液(以下、吸収剤と示す。)とした。この吸収剤の粘度は25mPa・sであった。この吸収剤に1%COを40℃で2時間通気した際に放散されたアミン化合物を回収して、放散性を評価した。その結果、放散性は1.2ppm(v/v)程度であった。
【0063】
吸収剤を試験管に充填して40℃に加熱し、二酸化炭素(CO)10体積%、窒素(N)ガス90体積%含む混合ガスを流速500mL/minで通気して、試験管出口でのガス中の二酸化炭素(CO)濃度を赤外線式ガス濃度測定装置を用いて測定し、吸収性能を評価した。吸収剤の二酸化炭素吸収量は、吸収剤中のアミン化合物1mol当り0.1molであった。
【0064】
<実施例2>
カルボキシメチルセルロースの含有量を0.05質量%に変更したほかは、実施例1と同様の評価を行った。
放散性は、1.0ppm(v/v)、吸収性はアミン化合物1molあたり0.1molであった。
【0065】
<比較例1>
カルボキシメチルセルロースを用いなかったほかは、実施例1と同様の評価を行った。
放散性は、2.7ppm(v/v)、吸収性はアミン化合物1molあたり0.1molであった。
【0066】
実施例1及び2並びに比較例1の結果より、放散性が劣る吸収剤に対して水溶性高分子化合物を組み合わせることで、二酸化炭素吸収量を低下させること無く、放散性を改良できることが分かった。
【0067】
<実施例3>
メチルジエタノールアミンの含有量が30質量%、カルボキシメチルセルロースの含有量が0.07質量%となるように水に溶解させ、水溶液(以下、吸収剤と示す。)とした。この吸収剤の粘度は10mPa・sであった。この吸収剤に1%COを40℃で2時間通気した際に放散されたアミン化合物を回収して、放散性を評価した。その結果、放散性は1.15ppm(v/v)程度であった。
【0068】
<比較例2>
メチルジエタノールアミンの含有量が30質量%となるように水に溶解させ、水溶液(以下、吸収剤と示す。)とした。この吸収剤の粘度は2mPa・s以下であった。この吸収剤に1%COを40℃で2時間通気した際に放散されたアミン化合物を回収して、放散性を評価した。その結果、放散性は15ppm(v/v)程度であった。
【0069】
<比較例3>
ピペラジン(20℃における蒸気圧21Pa)の含有量が15質量%となるように水に溶解させ、水溶液(以下、吸収剤と示す。)とした。この吸収剤の粘度は7mPa・sであった。この吸収剤に1%COを40℃で2時間通気した際に放散されたアミン化合物を回収して、放散性を評価した。その結果、放散性は2.0ppm(v/v)程度であった。
【0070】
<比較例4>
ピペラジンの含有量が15質量%、カルボキシメチルセルロースの含有量が0.07質量%となるように水に溶解させ、水溶液(以下、吸収剤と示す。)とした。この吸収剤の粘度は10mPa・sであった。この吸収剤に1%COを40℃で2時間通気した際に放散されたアミン化合物を回収して、放散性を評価した。その結果、放散性は2.1ppm(v/v)程度であった。
【0071】
以上述べた少なくとも一つの実施形態の酸性ガス吸収剤、酸性ガス除去方法及び酸性ガス除去装置によれば、低い放散性を実現することができる。
【0072】
以上の通り、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
1…酸性ガス除去装置、2…吸収器、3…再生器、4…ガス供給口、5…酸性ガス吸収剤供給口、6…ガス排出口、7…熱交換器、8…リッチ液ポンプ、9…リーン液ポンプ、10…吸収剤冷却器、11…還流ドラム、12…還流冷却器、13…回収酸性ガス炭素ライン
図1