(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】ゴム組成物および免振ゴム
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20230106BHJP
C08L 45/02 20060101ALI20230106BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230106BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230106BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L45/02
C08K3/04
C08K3/36
F16F15/08 D
(21)【出願番号】P 2018215033
(22)【出願日】2018-11-15
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】箕内 則夫
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-138053(JP,A)
【文献】特開2013-043912(JP,A)
【文献】特開2003-003014(JP,A)
【文献】特開2013-028718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
F16F 15/00-15/36
F16F 1/00-6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも合成イソプレンゴムを80質量部以上含有するゴム成分100質量部に対し、クマロン樹脂30~50質量部、ならびに窒素比表面積が20~50m
2/gであるカーボンブラックおよびシリカを合計で50~80質量部含有
し、
前記カーボンブラックと前記シリカとの質量部比率が1:1~4:1であることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記クマロン樹脂の軟化点が60~100℃である請求項
1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のゴム組成物を加硫成形してなる免振ゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物に関し、特に加硫した状態で、低温状態でも高減衰性を発揮し得るゴム組成物に関する。かかるゴム組成物は免振ゴムの原料として特に有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、地震への備えとして建築物に免震構造や防振構造を設置することが多くなっており、免振ゴムや防振ゴムを備える免振装置や防振装置が広く普及している。
【0003】
下記特許文献1には、天然ゴム100重量部に、軟化点333K~373Kのクマロン樹脂15~45重量部を配合した免震ゴム用高減衰ゴム組成物が記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムを50重量部以上含有するゴム100重量部に対して、石油樹脂を15~60重量部、微粒子カーボンブラックとシリカを合計で60~95重量部含有する高減衰ゴム組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-214165号公報
【文献】特許2949671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者が鋭意検討したところ、前記特許文献1および2に記載の技術では、得られる加硫ゴムの高減衰性、特に低温での高減衰性が十分に発揮できないことが判明した。
【0007】
本発明は上記実情を鑑みて開発されたものであり、特に低温時にも高減衰性を発揮し得る加硫ゴムの原料となるゴム組成物、および該ゴム組成物を加硫成形してなる免振ゴムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下に示すゴム組成物により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、少なくとも合成イソプレンゴムを80質量部以上含有するゴム成分100質量部に対し、クマロン樹脂30~50質量部、ならびに窒素比表面積が20~50m2/gであるカーボンブラックおよびシリカを合計で50~80質量部含有することを特徴とするゴム組成物に関する。
【0010】
本発明に係るゴム組成物は、特定のゴム成分、具体的には(1)合成イソプレンゴム80質量部以上含有するゴム成分100質量部に対し、(2)クマロン樹脂30~50質量部、ならびに(3)窒素比表面積が20~50m2/gであるカーボンブラックおよびシリカを合計で50~80質量部含有する。本発明では、前記構成(1)~(3)が組み合わさることにより、最終的に得られる加硫ゴムは低温時にも高減衰性を発揮し得る。この効果が得られる具体的な理由は明らかではないが、窒素比表面積が大きいハード系カーボンブラックやシリカは、ゴム成分を構成するポリマーを取り込みやすく、低温時のポリマー運動性が低下するため、加硫ゴムの低温時減衰性が悪化する(変化が大きくなる)ところ、前記(1)および(2)が組み合わせることにより、ゴム/樹脂相溶性のバランスが向上し、前記(1)および(3)が組み合わさることにより、カーボンブラックとシリカとがゴム成分を構成するポリマーを取り込みにくくすることができる。これにより、最終的に得られる加硫ゴムの高減衰性が低温時でも向上する。
【0011】
上記ゴム組成物において、前記カーボンブラックと前記シリカとの質量部比率が1:1~4:1である場合、さらには前記クマロン樹脂の軟化点が60~100℃である場合、最終的に得られる加硫ゴムは低温時にもより高減衰性を発揮し得るため好ましい。
【0012】
本発明に係る免振ゴムは、前記ゴム組成物を加硫成形してなる。かかる免振ゴムは低温時にも優れた高減衰性を発揮し得るため、自動車用、車両用、建築物用、および一般産業用などに好適に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】減衰性評価の際に得られる応力-歪み曲線の一例
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るゴム組成物は、少なくとも合成イソプレンゴム80質量部以上含有するゴム成分、クマロン樹脂、ならびに窒素比表面積が20~50m2/gであるカーボンブラックおよびシリカを含有する。
【0015】
(1)ゴム成分
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分として、少なくとも合成イソプレンゴム80質量部以上含有する。ただし、低温時の高減衰性を十分に確保するためには、合成イソプレンの比率が高い方が好ましく、具体的にはゴム成分の全量を100質量部としたとき、合成イソプレンゴムの含有量が90質量部であることが好ましく、100質量部であることが特に好ましい。
【0016】
本発明において、合成イソプレンゴム以外に含有されてもよいゴム成分としては、ジエン系ゴムが挙げられ、具体的には例えば天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、およびアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。
【0017】
(2)クマロン樹脂
クマロン樹脂は、一般にクマロン、インデン、スチレンを主成分とする共重合樹脂を意味する。各成分の平均重合度を調整することにより、種々の軟化点を有するクマロン樹脂を製造可能であるが、加硫ゴムの低温時の高減衰性確保の観点から、本発明においては軟化点が60~100℃のクマロン樹脂を使用することが好ましい。なお、加硫ゴムの低温時の高減衰性確保の観点から、ゴム成分100質量部に対するクマロン樹脂の配合量は30~50質量部とすることが好ましい。
【0018】
(3)カーボンブラックおよびシリカ
本発明に係るゴム組成物は、特定のカーボンブラックとシリカを特定量、具体的には窒素比表面積が20~50m2/gであるカーボンブラックおよびシリカを合計で50~80質量部含有する。窒素比表面積が20~50m2/gであるカーボンブラックとしては、FEF級(同N500番台)、GPF級(同N600番台)、SRF級(同N700番台)など、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。シリカとしては、たとえば、湿式シリカ、乾式シリカを用いることができる。なかでも、含水ケイ酸を主成分とする湿式シリカを用いることが好ましい。また、シリカと共に、当業者に公知のシランカップリング剤を併用してもよい。
【0019】
本発明に係るゴム組成物には、前記カーボンブラックおよびシリカを合計で50~80質量部配合するが、好適には、カーボンブラックとシリカとの質量部比率を1:1~4:1とした場合、最終的に得られる加硫ゴムは低温時にもより高減衰性を発揮し得るため好ましい。
【0020】
本発明のゴム組成物は、上記ゴム成分、クマロン樹脂、カーボンブラックおよびシリカと共に、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、シランカップリング剤、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲において適宜配合し用いることができる。
【0021】
本発明に係るゴム組成物では、硫黄系加硫剤を含有することが好ましい。かかる硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。本発明に係るゴム組成物における硫黄の含有量は、製造される加硫ゴムの減衰性を考慮した場合、ゴム成分100重量部に対して0.2~5質量部であることが好ましく、0.5~3質量部であることがより好ましい。
【0022】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。加硫促進剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対して0.1~5質量部であることが好ましく、0.2~3質量部であることがより好ましい。
【0023】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0024】
本発明のゴム組成物は、上記ゴム成分、クマロン樹脂、カーボンブラックおよびシリカと共に、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、シランカップリング剤、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0025】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄系加硫剤、および加硫促進剤などの加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。加硫温度としては、例えば120~200℃が例示可能であり、140~180℃が好ましい。
【0026】
上記各成分を混練し、成形加工した後、加硫を行うことで、低温時にも高減衰性を発揮し得る免振ゴムを製造することができる。かかる免振ゴムは、自動車用、車両用、建築物用、および一般産業用などに好適に使用可能である。
【実施例】
【0027】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。
【0028】
(ゴム組成物の調製)
ゴム成分100重量部に対して、表1の配合処方に従い、実施例1~4、比較例1~6のゴム組成物を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を調整した。表1に記載の各配合剤を以下に示す。
【0029】
・NR(天然ゴム):「RSS#3」
・IR(ポリイソプレン): JSR社製「IR2200」
・クマロン樹脂(1):ノバレス・ルトガース社製「クマロン樹脂C70」(軟化点70℃)
・クマロン樹脂(2):ノバレス・ルトガース社製「クマロン樹脂C100」(軟化点100℃)
・脂肪族系炭化水素樹脂:日本ゼオン社製「QuintoneB170」
・カーボンブラックISAF:東海カーボン社製「シースト6」(窒素比表面積119m2/g)
・カーボンブラックFEF:東海カーボン社製「シーストSO」(窒素比表面積42m2/g)
・カーボンブラックSRF:東海カーボン社製「シーストS」(窒素比表面積27m2/g)
・シリカ:エボニック社製「Ultrasil7000GR」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業社製「酸化亜鉛1種」
・ステアリン酸:花王社製「ルナックS-20」
・オイル:JX日航日石エネルギー社製「NC140」
・老化防止剤6C(N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン):大内新興化学工業社製「ノクラック6C」
・老化防止剤RD(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体):精工化学社製「ノンフレックスRD」
・硫黄:鶴見化学工業社製「5%オイル処理硫黄」
・加硫促進剤CZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド):大内新興化学工業社製「ノクセラーCZ-G(CZ)」
・加硫促進剤TBZTD(テトラベンジルメチルチウラムジスルフィド):三新化学工業社製「サンセラーTBZTD」
【0030】
実施例1~4、比較例1~6
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、硫黄と加硫促進剤と加硫遅延剤を除く成分を添加混合し(混合時の排出温度は160℃)、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で硫黄と加硫促進剤を添加混合して、ゴム組成物を調製した。各ゴム組成物について、それぞれ加硫ゴムを作製して特性を評価した。
【0031】
得られた加硫ゴムを下記評価基準により評価した。
【0032】
<減衰性(せん断弾性率、等価減衰定数)>
図1に示す「2ブロック・ラップ・シェア型」試験体(ゴム部:幅25mm、長さ25mm、厚み5mm)を各加硫ゴムを用いて作成し、油圧式振動試験機を用いて周波数0.5Hzで、下記3シリーズの歪み条件でせん断加振を与え、
図2に示すような応力-歪み曲線を求める。測定温度は20℃とした。
(歪み加振条件)
第1シリーズ:歪み100%で10回加振する。
第2シリーズ:歪み200%で10回加振する。
第3シリーズ:歪み100%で2回加振する。
第1シリーズにおける加振10回目と第3シリーズにおける加振2回目について、
図2に示す応力-歪み曲線から、せん断弾性率(Geq)と等価減衰定数(Heq)をそれぞれ下記式(1)、(2)から算出し、両者の平均値をそのゴムのせん断弾性率および等価減衰定数とした。
Geq(N/mm
2)=F/2 …(1)
Heq(%)=(ΔW/(W1+W2))×1/2π×100 …(2)
ここで、ΔWは
図2における応力-歪み曲線のループ内の面積であり、W1,W2はそれぞれ
図3における三角形領域の面積である。なお、減衰性の評価は、Heq(%)の値に基づいて評価した。Heqが大きいほど、減衰性能が高いことを意味する。20℃で測定したHeqをHeq(20℃)とする。
【0033】
<低温時の減衰性>
-10℃に調製した恒温槽内に試験片を2時間静置した後、Heq(-10℃)を測定した。低温時の減衰性は前記で測定したHeq(20℃)で除した値((Heq(-10℃))/(Heq(20℃)))で評価し、かかる値が1.15以下である場合、低温時の減衰性に優れる(低温時でも高減衰性が維持されている)ことを意味する。
【0034】
【0035】
表1の結果から、実施例1~4に係るゴム組成物の加硫ゴムでは、比較例1に係る加硫ゴムに比べて、低温時であっても高減衰性が向上することがわかる。一方、比較例2に係るゴム組成物は窒素比表面積が大きいカーボンブラックを使用するため、その加硫ゴムでは、低温時の減衰性が悪化することがわかる。また、比較例3に係るゴム組成物はクマロン樹脂の配合量が多いため、合成イソプレンゴムの分子運動性を阻害する。その結果、その加硫ゴムでは、低温時の減衰性が悪化することがわかる。また、比較例4に係るゴム組成物はクマロン樹脂以外の樹脂を使用するため、その加硫ゴムでは、低温時の減衰性が悪化することがわかる。また、比較例5に係るゴム組成物はカーボンブラック量およびシリカ量が多いため、ゴム量が相対的に少なくなる結果、その加硫ゴムでは、低温時の減衰性が悪化することがわかる。さらに比較例6に係るゴム組成物はカーボンブラック量およびシリカ量が少ないため、その加硫ゴムでは、低温時の減衰性が悪化することがわかる。