(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】高分子モデルの一軸伸長をシミュレーションする方法、システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 55/04 20060101AFI20230106BHJP
【FI】
B29C55/04
(21)【出願番号】P 2018237059
(22)【出願日】2018-12-19
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】狩野 康人
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-32077(JP,A)
【文献】特開2017-97841(JP,A)
【文献】特開2013-2013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、
複数の粒子を有し、一部の粒子と他の粒子とが結合ポテンシャルで結合している高分子モデルを、立体の計算領域に配置し、
前記計算領域に対して外部から作用するx軸、y軸及びz軸の圧力値が所定圧力であり及び所定温度を含む所定解析条件にて分子動力学計算を実行し、
前記
x軸を法線とする面を通る前記計算領域の断面積を算出し、
前記y軸及び前記z軸の圧力値を前記所定圧力とし、前記x軸の圧力値を、一定値の張力を前記断面積で割った値を前記所定圧力から差し引いた値に設定し、
所定ステップ分子動力学計算を実行し、
前記断面積の算出と、前記x軸の圧力値の更新と、前記所定ステップの分子動力学計算とを繰り返し実行する、高分子モデルの一軸伸長をシミュレーションする方法。
【請求項2】
前記高分子モデルは、複数のポリマー粒子が直鎖状又は分岐状に連なる複数のポリマーモデルと、複数の架橋剤粒子と、を有し、前記ポリマーモデルと前記架橋剤粒子とが結合した架橋高分子モデルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数の粒子を有し、一部の粒子と他の粒子とが結合ポテンシャルで結合している高分子モデルを、立体の計算領域に配置するモデル配置部と、
前記計算領域に対して外部から作用するx軸、y軸及びz軸の圧力値が所定圧力であり及び所定温度を含む所定解析条件にて分子動力学計算を実行する分子動力学計算実行部と、
前記
x軸を法線とする面を通る前記計算領域の断面積を算出する断面積算出部と、
前記y軸及び前記z軸の圧力値を前記所定圧力とし、前記x軸の圧力値を、一定値の張力を前記断面積で割った値を前記所定圧力から差し引いた値に設定する圧力値設定部と、を備え、
前記断面積算出部による前記断面積の算出と、前記圧力値設定部による前記x軸の圧力値の更新と、前記分子動力学計算実行部による所定ステップの分子動力学計算とを繰り返し実行するように構成されている、高分子モデルの一軸伸長をシミュレーションするシステム。
【請求項4】
前記高分子モデルは、複数のポリマー粒子が直鎖状又は分岐状に連なる複数のポリマーモデルと、複数の架橋剤粒子と、を有し、前記ポリマーモデルと前記架橋剤粒子とが結合した架橋高分子モデルである、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の方法
をプロセッサに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ゴム等の高分子モデルの一軸伸長をシミュレーションする方法、システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば未加硫ゴムに硫黄などの架橋剤を加えて分子同士を結合(架橋)させた架橋高分子(いわゆる架橋ゴム)について一軸伸長試験が行われている。CAE(Computer Aided Engineering)を用いたコンピュータシミュレーションにおいても一軸伸長試験をシミュレーションできることが望まれる。架橋ゴムを一軸伸長するにあたり、一定の張力で引っ張れば、クリープ現象が生じ、やがて破断することは知られている。
【0003】
ゴムに限らず、分子シミュレーションにおいて、複数の粒子を含む高分子モデルは立体の計算領域に配置され、環境に応じた所定圧力及び所定温度の解析条件のもと分子動力学計算が実行される。計算領域の体積が高分子の体積となる。一軸伸長を模擬するための一つの手段として、計算領域をx軸に少しずつ拡張し、計算領域のy軸及びz軸については体積が一定となるようにx軸の拡張に併せて縮小させることが考えられる。
【0004】
しかしながら、体積を一定に制御する方法では、高分子モデルが破断を始めるであろう伸長比に到達しても応力が0にならず、破断が模擬できないことが分かった。
【0005】
破断を模擬するための方法として、特許文献1に記載の方法は、結合している粒子同士の距離が閾値よりも大きいときに結合を切断する切断処理を設けるようである。しかし、閾値の適切な設定が必要であり、また、距離に応じて切断する方法が妥当であるかを検討する必要があり、クリープ現象が再現可能であるかの言及がない。
【0006】
破断を模擬するための別の方法として、特許文献2に記載の方法は、ゴム要素の歪又は応力が閾値を超えていることを条件として、ポアソン比を変更し、破断を模擬するようである。しかし、ポアソン比を変化させることが妥当であるかを検討する必要があり、クリープ現象が再現可能であるかの言及がない。
【0007】
破断をも模擬するための別の方法として、非特許文献1に記載の方法は、計算領域のy軸及びy軸の大きさを固定したまま、x軸を少しずつ拡張させるようである。しかし、太さ(y軸及びz軸)が変化せず、ポアソン比0にてx軸に伸長することが現実におけるゴム等の高分子の破断現象を模擬できているとは言い難い。また、クリープ現象が再現可能であるかの言及がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-97841号公報
【文献】特許第6405183号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】平成25年度「京」産業利用報告書、大規模粗視化分子動力学法を用いたゴム破壊現象の解明による高性能・長寿命タイヤの開発、岸本浩通、課題番号hp120032、一般財団法人高度情報科学技術研究機構
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、高分子モデルのクリープ現象及び破断を再現可能な高分子モデルの一軸伸長をシミュレーションする方法、システム及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の高分子モデルの一軸伸長をシミュレーションする方法は、
1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、
複数の粒子を有し、一部の粒子と他の粒子とが結合ポテンシャルで結合している高分子モデルを、立体の計算領域に配置し、
前記計算領域に対して外部から作用するx軸、y軸及びz軸の圧力値が所定圧力であり及び所定温度を含む所定解析条件にて分子動力学計算を実行し、
前記y軸及び前記z軸を通る前記計算領域の断面積を算出し、
前記y軸及び前記z軸の圧力値を前記所定圧力とし、前記x軸の圧力値を、一定値の張力を前記断面積で割った値を前記所定圧力から差し引いた値に設定し、
所定ステップ分子動力学計算を実行し、
前記断面積の算出と、前記x軸の圧力値の更新と、前記所定ステップの分子動力学計算とを繰り返し実行する。
【0012】
このように、y軸及びz軸を通る計算領域の断面積の算出と、x軸の圧力値の更新と、所定ステップの分子動力学計算とを繰り返し実行することで、高分子モデルをx軸方向に一定値の張力で引っ張るシミュレーションを実現でき、クリープ現象及びクリープ破壊を再現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の高分子モデルの一軸伸長をシミュレーションするシステムを示す図
【
図4】FENE-LJと、切断可能ポテンシャル(quartic)と、を示す図
【
図5】一軸伸長のクリープ現象のシミュレーションにおける計算領域の変化及び設定圧力値を示す図
【
図6】実施例について経過時間と初期状態に対する伸長比を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
[高分子モデルの一軸伸長をシミュレーションするシステム]
本実施形態のシステム1は、ゴムなどの高分子モデルの一軸伸長をシミュレーションし、クリープ現象及び破断現象が再現可能に構成されている。
【0016】
図1に示すように、システム1は、高分子モデル取得部10と、設定部11と、モデル配置部12と、分子動力学計算実行部13と、断面積算出部14と、圧力値設定部15と、を有する。これら各部10~15は、プロセッサ、メモリ、各種インターフェイス等を備えたコンピュータにおいて予め記憶されている
図2に示す処理ルーチンをプロセッサが実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。本実施形態では、1つの装置におけるプロセッサが各部の処理を実行しているが、これに限定されない。例えば、ネットワークを用いて分散させ、複数のプロセッサが各部の処理を実行するように構成してもよい。すなわち、1又は複数のプロセッサが処理を実行する。
【0017】
高分子モデル取得部10は、複数の粒子を有し、一部の粒子と他の粒子が結合ポテンシャルで結合している高分子モデルD1(データ)を取得する。高分子モデル取得部10は、高分子モデルD1を外部から取得してもよいし、高分子モデルD1を生成してもよい。本実施形態の高分子モデルD1は、
図3に示すように、複数のポリマー粒子20が直鎖状又は分岐状に連なる複数のポリマーモデル2と、複数の架橋剤粒子3と、を有し、ポリマーモデル2と架橋剤粒子3とが結合している。ポリマー粒子20には、他の粒子との間に非結合ポテンシャルが設定されていると共に、結合関係にあるポリマー粒子20との間に結合ポテンシャルが設定されている。架橋剤粒子3には、他の粒子の間に非結合ポテンシャルが設定されていると共に、結合関係にあるポリマー粒子20との間に結合ポテンシャルが設定されている。非結合ポテンシャルとして、FENE-LJ(レナードジョーンズ)やWCA(斥力のみのLJポテンシャル)が採用可能である。結合ポテンシャルとしては、遠距離側にてポテンシャルが無限大とならない切断可能ポテンシャルが設定されている。
図4は、FENE-LJと、切断可能ポテンシャル(quarticと表記する)と、を示す。横軸が粒子間距離rを示し、縦軸がポテンシャル[V
bond(r)]を示す。
図4に示すようにNENE-LJは、近距離側及び遠距離側のいずれ側においてもポテンシャルが無限大となる。一方、切断可能ポテンシャル(quartic)は、近距離側にてポテンシャルが無限大となるが、遠距離側にてポテンシャルが無限大とならず、粒子間距離rがある程度大きくなると、ポテンシャル(引力)がそれほど大きくないため、切断が許容される。本実施形態において、切断可能ポテンシャルは、ポリマー粒子20とポリマー粒子20の間の結合ポテンシャルと、架橋剤粒子3とポリマー粒子20との間の結合ポテンシャルとの双方に設定されているが、これに限定されない。例えば、切断可能ポテンシャルを、ポリマー粒子20とポリマー粒子20の間の結合ポテンシャルのみに設定してもよいし、架橋剤粒子3とポリマー粒子20との間の結合ポテンシャルのみに設定してもよい。すなわち、2以上の結合ポテンシャルが存在する場合には、少なくともいずれかの結合ポテンシャルに設定すればよい。勿論、これらのポテンシャルは一例であって、その他の設定が可能である。
【0018】
設定部11は、高分子モデルD1の一軸伸長シミュレーションに用いる解析条件を設定する。解析条件としては、所定圧力P、所定温度、計算領域の初期形状、一定である張力Fの大きさ等が挙げられる。所定圧力は大気圧、所定温度は大気温度が挙げられる。計算領域Ar1は、高分子モデルD1が配置される立体空間である。計算領域Ar1は、制約条件がない限り、内部の高分子モデルD1が収まる最小形状となるように常に変形する。それゆえ、計算領域Ar1の体積は、高分子モデルD1の体積を意味する。本実施形態における計算領域Ar1は、直方体をなしているが、これに限定されず、種々の形状を採用可能である。本実施形態では計算領域Ar1は周期境界条件が設定されているが、境界条件は定義変更可能である。
【0019】
モデル配置部12は、
図3に示すように、初期形状の計算領域Ar1に対して高分子モデルD1を配置する。ワーキングメモリD2で行う。
【0020】
分子動力学計算実行部13は、所定圧力P及び所定温度を含む解析条件にて分子動力学計算を実行する。本実施形態では、LAMMPS(Large-scale Atomic/Molecular Massively Parallel Simulator)を使用しているが、これに限定されない。分子動力学計算実行部13は、平衡化処理が実行可能である。平衡化処理は、所定圧力及び所定温度において高分子モデルD1のエネルギーが最小化するまで高分子モデルD1の分子動力学計算を繰り返し実行する処理である。最小化するとは、高分子モデルD1のエネルギーがほぼ一定になる(エネルギー変動が閾値以下となる)まで各粒子30の挙動を計算する。高分子モデルD1の配置直後、後述する計算領域Ar1の変更直後は、分子動力学計算において安定状態であるとは必ずしもいえないためである。具体的には、計算領域Ar1に外から作用するx軸方向の圧力値Pxと、y軸方向の圧力値Pyと、z軸方向の圧力値Pzとは全て同一値であり、これらの圧力値Px、Py、Pzは所定圧力Pと同値である。
【0021】
断面積算出部14は、
図5に示すように、y軸及びz軸を通る計算領域Ar1の断面積Sを算出する。図中において、断面積Sを斜線で示している。
【0022】
圧力値設定部15は、計算領域Ar1に対して外部から作用する圧力値を、x軸、y軸及びz軸毎に個別に設定する。圧力値設定部15は、y軸の圧力値Pyを所定圧力Pに設定する。圧力値設定部15は、z軸の圧力値Pzを所定圧力Pに設定する。圧力値設定部15は、断面積算出部14が算出した断面積Sを用いてx軸の圧力値Pxを設定する。具体的には、x軸の圧力値Pxを、一定の張力Fを断面積Sで割った値を所定圧力Pから差し引いた値に設定する。式で表現すれば、Px=P-F/Sである。このように圧力値Px、Py、Pzを設定すれば、Py及びPzに比べてPxのみ外部からの圧力が(F/S)低くなる。これは、x軸に一定の張力Fで引っ張ることを意味する。
【0023】
図5に示すように、x軸の圧力値PxをP-F/Sとし、y軸及びz軸の圧力値Py、PzをPに設定して、分子動力学計算実行部13が分子動力学計算を実行すれば、x軸の圧力がy軸及びz軸の圧力よりも弱いので、計算領域Ar1における高分子モデルD1がx軸に一定値の張力Fで引っ張られていることになる。そうすれば、計算領域Ar1における高分子モデルD1がx軸に伸びるように動き、高分子モデルD1がy軸及びz軸に縮小するように移動し、計算領域Ar1が追従して変形する。分子動力学計算実行部13が所定ステップ分子動力学計算を実行し、計算領域Ar1の変形により断面積Sも変化する。断面積算出部14が断面積Sを算出し、圧力値設定部15が最新の断面積Sに基づき圧力値Pxを設定(更新)する。このように、断面積算出部14による計算領域Ar1の断面積Sの算出と、圧力値設定部15による断面積Sに基づきx軸の圧力値Pxの更新と、分子動力学計算実行部13による所定ステップの分子動力学計算とを繰り返し実行する。そうすれば、
図5に示すように、高分子モデルD1をx軸方向に一定値の張力Fで引っ張るシミュレーションを実現でき、クリープ現象及びクリープ破壊を再現可能となる。上記の繰り返しは、所定終了条件が成立すれば、終了する。所定終了条件は、例えば、分子動力学計算の実行するタイムステップが閾値を超えたことなどが挙げられる。
【0024】
[高分子モデルの一軸伸長をシミュレーションする方法]
図1に示すシステム1における1又は複数のプロセッサが実行する、高分子モデルの一軸伸長をシミュレーションする方法について、
図2を用いて説明する。
【0025】
まず、ステップST1において、高分子モデル取得部10は、複数の粒子(2、3)を有し、一部の粒子と他の粒子とが結合ポテンシャルで結合している高分子モデルD1であって、結合ポテンシャルとして、遠距離側にてポテンシャルが無限大とならない切断可能ポテンシャルが設定されている高分子モデルD1を取得する。次のステップST2において、設定部11は、高分子モデルD1の一軸伸長シミュレーションに用いる解析条件を設定する。ステップST1と2は順不同である。
【0026】
次のステップST3において、モデル配置部12は、高分子モデルD1を、立体の計算領域Ar1に配置する。
【0027】
次のステップST4において、分子動力学計算実行部13は、計算領域Ar1に対して外部から作用するx軸、y軸及びz軸の圧力値Px、Py、Pzが所定圧力Pであり及び所定温度を含む所定解析条件にて分子動力学計算を実行する。この処理において平衡化処理を行っていることが好ましい。
【0028】
次のステップST5において、所定終了条件が成立しているかを判定し、所定終了条件が成立していないと判定された場合には、ステップST6の実行に移行する。所定終了条件が成立したと判定された場合には、処理の実行を終了する。所定終了条件は適宜設定可能であるが、例えば、分子動力学計算の実行するタイムステップが閾値を超えたことが挙げられる。
【0029】
次のステップST6において、断面積算出部14は、y軸及びz軸を通る計算領域Ar1の断面積Sを算出する。
【0030】
次のステップST7において、圧力値設定部15は、y軸及びz軸の圧力値Py、Pzを所定圧力Pとし、x軸の圧力値Pxを、一定値の張力Fを断面積Sで割った値(F/S)を所定圧力Pから差し引いた値(P-F/S)に設定する。
【0031】
次のステップST8において、分子動力学計算実行部13が、所定ステップ、分子動力学計算を実行する。
【0032】
本発明のシミュレーション方法の結果を説明する。
図6は、横軸が経過時間を示し、縦軸が初期状態に対する伸長比を示す。本発明のシミュレーション方法によれば、クリープ現象を再現できていることがわかる。
図7は、
図6を更に長時間行った結果である。最後にクレープ破断が生じて言うことがわかる。
【0033】
以上のように、本実施形態の高分子モデルの一軸伸長をシミュレーションする方法は、
1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、
複数の粒子(ポリマー粒子20、架橋剤粒子3)を有し、一部の粒子と他の粒子とが結合ポテンシャルで結合している高分子モデルD1を、立体の計算領域Ar1に配置し(ST3)、
計算領域Ar1に対して外部から作用するx軸、y軸及びz軸の圧力値Px、Py、Pzが所定圧力Pであり及び所定温度を含む所定解析条件にて分子動力学計算を実行し(ST4)、
y軸及びz軸を通る計算領域Ar1の断面積Sを算出し(ST6)、
y軸及びz軸の圧力値Py、Pzを所定圧力Pとし、x軸の圧力値Pxを、一定値の張力Fを断面積Sで割った値(F/S)を所定圧力Pから差し引いた値(P-F/S)に設定し(ST7)、
所定ステップ分子動力学計算を実行し(ST8)、
断面積の算出(ST6)と、x軸の圧力値Pxの更新(ST7)と、所定ステップの分子動力学計算(ST8)とを繰り返し実行する。
【0034】
本実施形態の高分子モデルの一軸伸長をシミュレーションするシステムは、
複数の粒子(ポリマー粒子20、架橋剤粒子3)を有し、一部の粒子と他の粒子とが結合ポテンシャルで結合している高分子モデルD1を、立体の計算領域Ar1に配置するモデル配置部12と、
計算領域Ar1に対して外部から作用するx軸、y軸及びz軸の圧力値Px、Py、Pzが所定圧力Pであり及び所定温度を含む所定解析条件にて分子動力学計算を実行する分子動力学計算実行部13と、
y軸及びz軸を通る計算領域Ar1の断面積Sを算出する断面積算出部14と、
y軸及びz軸の圧力値Py、Pzを所定圧力Pとし、x軸の圧力値Pxを、一定値の張力Fを断面積Sで割った値(F/S)を所定圧力Pから差し引いた値(P-F/S)に設定する圧力値設定部15と、
を備え、
断面積算出部14による断面積Sの算出と、圧力値設定部15によるx軸の圧力値Pxの更新と、分子動力学計算実行部13による所定ステップの分子動力学計算とを繰り返し実行するように構成されている。
【0035】
このように、y軸及びz軸を通る計算領域Ar1の断面積Sの算出と、x軸の圧力値Pxの更新と、所定ステップの分子動力学計算とを繰り返し実行することで、高分子モデルD1をx軸方向に一定値の張力Fで引っ張るシミュレーションを実現でき、クリープ現象及びクリープ破壊を再現可能となる。
【0036】
本実施形態のように、高分子モデルD1は、複数のポリマー粒子20が直鎖状又は分岐状に連なる複数のポリマーモデル2と、複数の架橋剤粒子3と、を有し、ポリマーモデル2と架橋剤粒子3とが結合した架橋高分子モデルであることが好ましい。
【0037】
本発明の好ましい適用例である。
【0038】
本実施形態に係るプログラムは、上記方法をコンピュータに実行させるプログラムである。このプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0040】
例えば、
図1に示す各部10~15は、所定プログラムをコンピュータのプロセッサで実行することで実現しているが、各部を専用回路で構成してもよい。また、本実施形態では1つのコンピュータにおけるプロセッサが各部10~15を実装しているが、少なくとも1又は複数のプロセッサに分散して実装してもよい。
【0041】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0042】
本実施形態では、高分子モデルD1が、ポリマーモデル2と架橋剤粒子3とで構成されるモデルを例として挙げているが、結合ポテンシャル(結合相互作用)で結合された粒子を有する高分子であれば、適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
12 モデル配置部
13 分子動力学計算実行部
14 断面積算出部
15 圧力値設定部
2 ポリマーモデル
20 ポリマー粒子
3 架橋剤粒子
D1 高分子モデル
Ar1 計算領域