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  • 特許-遅発相アレルギー反応抑制剤 図1
  • 特許-遅発相アレルギー反応抑制剤 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】遅発相アレルギー反応抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20230106BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230106BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230106BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230106BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20230106BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20230106BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20230106BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230106BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20230106BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
A61K31/192
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/48
A61K31/137
A61K47/38
A61P11/02
A61P37/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018242321
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020105081
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000102496
【氏名又は名称】エスエス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 宰
(72)【発明者】
【氏名】石川 泰久
(72)【発明者】
【氏名】吉村 理
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-063962(JP,A)
【文献】特開2002-348240(JP,A)
【文献】特開2001-089375(JP,A)
【文献】耳鼻咽喉科展望,1997年,Vol.40, No.5,pp.587-591
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イブプロフェン若しくはその塩を有効成分として含有する遅発相アレルギー反応抑制剤。
【請求項2】
遅発相のアレルギー反応が鼻づまりである請求項1に記載の遅発相アレルギー抑制剤。
【請求項3】
大人1人1日当たりの投与量が、1~1200mgである請求項1又は2記載の遅発相アレルギー反応抑制剤。
【請求項4】
剤型が錠剤、カプセル剤、顆粒、散剤、経口液剤、シロップ剤および経口ゼリー剤からなる群から選択される請求項1~に記載の遅発相アレルギー反応抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遅発相アレルギー反応抑制剤に関し、さらに詳細には、I型アレルギー反応において、抗原暴露後、ある程度の時間経過後に生じる、遅発相アレルギー反応を有効に抑制することのできる遅発相アレルギー反応抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー性鼻炎は、くしゃみ、鼻水(鼻汁過多)、鼻づまり(鼻閉)といった症状を特徴とする疾患で、I型アレルギーに分類されるものである。
【0003】
このI型アレルギーには、抗原暴露後すみやかにくしゃみや鼻水といった症状を誘発する即時相反応と、抗原暴露後6~10時間後に鼻閉等を引き起こす遅発相反応の二相性を有する病態であることが知られている。そして、この遅発相反応の発症には、二次的に浸潤した炎症細胞、特に好酸球由来のロイコトリエン(LTs)、トロンボキサンA2(TXA2)、血小板活性化因子(PAF)によるものと考えられている。
【0004】
このようなアレルギー性疾患の治療には、作用機序の異なる様々な製品が使用されており、主にヒスタミンH1受容体拮抗薬が使われているが、そのほか、ケミカルメディエーター遊離抑制薬、トロンボキサンA2阻害・拮抗薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬なども使用されている。
【0005】
アレルギー性疾患の治療については、新規成分の開発は行われているものの、代表的なアレルギー疾患である花粉症の症状が、しばらく前までは即時相反応のみと考えられていたこともあり、遅発相反応に有効な成分の検索が十分になされたとは言えなかった。
【0006】
実際、遅発相アレルギー反応あるいは、これに関連する鼻炎に有効な成分としては、シンイ(辛夷)、ケイガイ(荊芥)といった生薬成分が報告されているものの(特許文献1)、その他の成分について、検討した報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-26813
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来ほとんど行われていなかった遅発相アレルギー反応を抑制する物質を探索し、特に鼻閉等の遅発相アレルギー反応に起因する疾患を治療ないしその症状を軽減する医薬の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、いままで等閑視されてきた、遅発相アレルギー反応に着目し、当該反応を有効に抑制する物質に関し、鋭意検討を行っていたところ、そのような性質を有する物質を見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、イブプロフェン若しくはその塩又はメチルエフェドリン若しくはその塩を有効成分として含有する遅発相アレルギー反応抑制剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の遅発相アレルギー反応抑制剤によれば、抗原暴露後6~10時間後に症状が出る、遅発相アレルギー反応を有効に抑制することができ、例えば、鼻閉等の症状の改善等に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】モルモットの抗原誘発反応について試験した結果を示すグラフである。
図2】モルモットの抗原誘発即時型反応について試験した結果を示すヒストグラムである。
図3】モルモットの抗原誘発遅発型反応について試験した結果を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の遅発相アレルギー反応抑制剤は、イブプロフェン若しくはその塩またはメチルエフェドリン若しくはその塩を有効成分として含有するものである。
【0014】
本発明の遅発相アレルギー反応抑制剤(以下、「遅発反応抑制剤」と略称することがある)の成分であるイブプロフェンは、既に公知の化合物であり、プロピオン酸系に分類される非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAID) の1種である。このものは、医療用だけでなく一般医薬品としても広く流通しており、関節炎、生理痛および発熱の症状を緩和し、また炎症炎部位の鎮痛にも用いられている。
【0015】
また、メチルエフェドリンも公知化合物であり、エフェドリン(麻黄に含まれるアルカロイドのアドレナリン作用薬)のアミノ基にさらに1個のメチル基が入ったもので、エフェドリンに比べてβ2作用は強いが、他の作用は弱いため、気管支喘息、感冒、急性気管支炎等の治療に使用されているものである。
【0016】
本発明の遅発反応抑制剤は、公知の方法に従って、イブプロフェン若しくはその塩(以下、「イブプロフェン」と略称することがある)、メチルエフェドリン若しくはその塩(以下、「メチルエフェドリン」と略称することがある)又はこれらを薬学的に許容される成分とともに配合し、製剤化することにより製造される。
【0017】
イブプロフェンの塩としては、そのアルカリ金属塩が挙げられ、メチルエフェドリンの塩としては、その酸付加塩が挙げられる。
【0018】
本発明の遅発反応抑制剤は、錠剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、カプセル剤等の経口固形剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、リモナーデ剤等の経口液剤、シロップ剤、経口ゼリー剤等とすることができる。
【0019】
本発明の医薬組成物を前記剤型に調製するには、薬理成分に加え、基剤及び添加剤等を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。例えば、経口用固形製剤である散剤を調製する場合であれば、均一混合物をそのまま製剤とすれば良い。また、細粒剤や顆粒剤とする場合は、均一混合物に、必要であれば水等の溶媒を加え、公知の方法で細粒、顆粒化すればよい。また、錠剤の場合は、前記均一混合物または顆粒化物を常法に従って打錠すればよく、カプセル剤のうち硬カプセル剤は、前記均一混合物または顆粒化物を常法に従ってカプセルに充填すればよく、軟カプセル剤であれば、乳化剤等を加え得られた混合溶解物を高分子基材に可塑剤を加えた被膜中に常法に従い充填すればよい。また、経口液剤を製造する場合には、精製水等の基材に加え必要に応じて矯味剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤、矯味剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。経口ゼリー剤を製造する場合には、水及びゲル化剤を加えて混和し、更に必要に応じて安定化剤、界面活性剤、可溶化剤、緩衝剤、矯味剤等を加え常法に従って一定の形状に成形することで製造することができる。
【0020】
製剤化にあたって使用される、薬学的に許容される成分としては、担体としての乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトール等の糖類;結晶セルロース等の賦形剤;ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース等の結合剤;カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、炭酸カルシウム等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑択剤、硬化ヒマシ油等の水素添加植物油が挙げられ、さらに必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、保存剤、香料、色素、矯味剤等を使用することができる。
【0021】
以上のようにして得られる本発明の遅発反応抑制剤は、使用目的や年齢により異なるが、有効成分としてイブプロフェンを使用する経口固形剤の場合は、通常、大人1人1日当たり、1~1200mg、好ましくは、360~600mgとなる量を1日2ないし3回に分けて服用すればよい。また、有効成分としてメチルエフェドリンを使用する経口固形剤の場合は、通常、大人1人1日当たり、1~150mg、好ましくは、12~110mgとなる量を1日2ないし3回に分けて服用すればよい。
【実施例
【0022】
次に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0023】
実施例 1
オボアルブミン(OVA)で能動感作したモルモット(Slc:Hartley系,SPF)に、抗原(OVA)を鼻腔内投与して即時型及び遅発型の鼻炎反応を誘発するアレルギー性鼻炎モデルを作成した。このモデルを用いて、鼻腔抵抗の増加に対するイブプロフェン、アセトアミノフェン及びdl-メチルエフェドリン塩酸塩の抑制効果を検討した。
【0024】
対照群、イブプロフェン45mg/kg群、アセトアミノフェン90mg/kg群及びdl-メチルエフェドリン塩酸塩6mg/kg群の計4群(各群6匹)を設定し、抗原誘発の1時間前に、各薬物を各々単回経口投与した。各薬物は、カルボキシメチルセルロースナトリウムの5%水溶液に溶解させて投与した。
【0025】
各モルモットの鼻炎反応は、下記のようにして鼻腔抵抗(nasal airway resistance,nRaw)を測定し、これから抗原誘発0.25時間(15分)~1時間(60分)後の時間-鼻腔抵抗増加率曲線の曲線下面積(AUC0.25-1hr)及び誘発4~6時間後の同曲線下面積(AUC4-6hr)を求め評価した。なお、前者が即時型鼻腔抵抗増加に、後者が遅発型鼻腔抵抗増加に対応する。また、参考として鼻炎症状も評価した。
【0026】
[ 鼻腔抵抗測定法 ]
測定機器:総合呼吸機能測定システム(Pulmos-I,M.I.P.S.社)
測定時点:OVA誘発(1~3時間)前、0.25(15分)、0.5(30分)、
1(60分)、2、4、5及び6時間後
なお、測定開始時間の許容幅は、OVA誘発0.25、0.5及び1時間
後については±3分,その他の時点については±15分とした。
測定方法:各測定時点に1回,それぞれ100呼吸以上の鼻腔抵抗(nasal airway
resistance,nRaw)を測定し、100呼吸分の平均値を各測定時間にお
ける個体のnRawとした。nRawの増加率を算出する計算式を以下
に示した。
【0027】
【数1】
【0028】
この結果を図1に示す。対照群の鼻腔抵抗の増加率は、抗原誘発15分後に734.5%まで上昇し、その後、緩やかな低下を示し、即時型鼻腔抵抗の増加がみられた。抗原誘発4~6時間後において鼻腔抵抗増加率は98.9~208.5%を推移し、遅発型鼻腔抵抗の増加が認められた。また、鼻音、鼻汁分泌、くしゃみなどの鼻炎症状が観察され、ヒトのアレルギー性鼻炎と類似していることが確認された。
【0029】
これに対し、イブプロフェン群では、対照群と比較して即時型鼻腔抵抗増加に対する作用を示さなかったが、遅発型鼻腔抵抗増加を有意に抑制した。鼻炎症状は、対照群と同様の反応が観察された。
【0030】
更に、dl-メチルエフェドリン塩酸塩群では、対照群と比較して即時型鼻腔抵抗増加に対しては作用を示さなかったが、遅発型鼻腔抵抗増加を有意に抑制した。鼻炎症状は対照群と同様の反応が出現した。
【0031】
一方、アセトアミノフェン群では、即時型鼻腔抵抗増加及び遅発型鼻腔抵抗増加に対する有意な抑制作用はみられなかった。鼻炎症状も、対照群と同様の反応が出現した。
【0032】
各薬剤での即時型鼻腔抵抗増加を図2に、遅発型鼻腔抵抗増加を図3に、それぞれ示す。以上のことから、モルモットを用いたアレルギー性鼻炎モデルにおいて、アセトアミノフェンの90mg/kg用量は作用を示さなかったが、イブプロフェンの45mg/kg用量及びdl-メチルエフェドリン塩酸塩の6mg/kg用量は遅発型鼻腔抵抗増加を抑制することが確認された。
図1
図2
図3