(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】反射防止構造体付き光学素子、その製造方法、製造用金型の製造方法及び撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 1/118 20150101AFI20230106BHJP
C03B 11/00 20060101ALI20230106BHJP
C03B 11/08 20060101ALI20230106BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20230106BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
G02B1/118
C03B11/00 A
C03B11/08
G02B1/00
G02B3/00 Z
(21)【出願番号】P 2018243891
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【氏名又は名称】吉村 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】福井 俊矢
(72)【発明者】
【氏名】細谷 成紀
(72)【発明者】
【氏名】國定 照房
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-281876(JP,A)
【文献】特開2005-330152(JP,A)
【文献】特開2010-275169(JP,A)
【文献】特開平8-133764(JP,A)
【文献】特開2013-105054(JP,A)
【文献】特開2016-4096(JP,A)
【文献】特開2014-145868(JP,A)
【文献】特開2018-2553(JP,A)
【文献】特開2001-180946(JP,A)
【文献】特開2013-105140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/00- 1/18
G02B 3/00- 3/14
C03B11/00
C03B11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ面に反射防止構造体を備える反射防止構造体付き光学素子であって、
光学素子の2つのレンズ面のうち、少なくとも一面側が反射防止構造体を備える曲面であり、
当該反射防止構造体は複数の微細柱状突起からなり、
当該微細柱状突起の底面径を前記レンズ面の接平面に表れる断面の径としたとき、
光軸とレンズ面とが交差するレンズ中心に最も近い位置にある微細柱状突起を基準微細柱状突起とし、当該基準微細柱状突起の底面径を基準底面径d
0とし、当該基準微細柱状突起以外の任意の位置にある微細柱状突起の底面径を底面径dとしたとき、
当該dが0.75d
0≦d≦1.25d
0の範囲に含まれ、
前記基準微細柱状突起の光軸方向の突出距離h
0
と、前記任意の位置にある微細柱状突起の光軸方向の突出距離hとが、0.90h
0
≦h≦1.10h
0
の関係を満たし、
前記レンズ面の外周全体を取り囲み、且つ、その外周先端が光学素子硝材が流動して形成した自由端面を備える環状板部を備え、
前記環状板部は、前記光軸方向に垂直な2つの面が共に平面であることを特徴とする反射防止構造体付き光学素子。
【請求項2】
使用平均波長をλとしたとき、前記基準底面径d
0が0.2λ≦d
0≦0.6λである請求項1に記載の反射防止構造体付き光学素子。
【請求項3】
使用平均波長をλとした場合、前記任意の位置にある微細柱状突起の光軸方向の前記突出距離hが、0.24λ≦hの条件を満たすものである
請求項1又は請求項2に記載の反射防止構造体付き光学素子。
【請求項4】
使用平均波長をλとした場合、前記反射防止構造体を構成する複数の微細柱状突起において、
隣接する微細柱状突起同士の平均離間距離が0.1λ以上0.5λ以下である請求項1から
請求項3のいずれか一項に記載の反射防止構造体付き光学素子。
【請求項5】
使用平均波長をλとした場合、前記反射防止構造体を構成する複数の微細柱状突起において、
当該微細柱状突起が周期性を備えて配列したものであり、その配列ピッチが0.2λ以上0.6λ以下の範囲にある請求項1から
請求項4のいずれか一項に記載の反射防止構造体付き光学素子。
【請求項6】
前記微細柱状突起は、ガラス転移点を有する光学素子基材と同一の材質を用いたものである請求項1から
請求項5のいずれか一項に記載の反射防止構造体付き光学素子。
【請求項7】
光学素子の2つのレンズ面のうち、
前記一面側が反射防止構造体を備える曲面で、他面側が反射防止構造体を備える平面である請求項1から
請求項6のいずれか一項に記載の反射防止構造体付き光学素子。
【請求項8】
光学素子の2つのレンズ面のうち、
前記一面側が反射防止構造体を備える曲面で、他面側が反射防止構造体のない単純平面である請求項1から
請求項6のいずれか一項に記載の反射防止構造体付き光学素子。
【請求項9】
前記請求項1から
請求項8のいずれか一項に記載の反射防止構造体付き光学素子の製造方法であって、
以下の予備プレス工程及び本プレス工程を備えることを特徴とする反射防止構造体付き光学素子の製造方法。
予備プレス工程: 得ようとする反射防止構造体付き光学素子の概略形状を形成するため、滑らかなプレス成形面を備える第1予備成形用金型と第2予備成形用金型との間に原料硝材を配して、最終製品である反射防止構造体付き光学素子より肉厚な状態までプレス成形し、滑らかな表面を備える中間プレス体を得る。
本プレス工程: 第1本プレス成形用金型及び第2本プレス成形用金型の両金型のプレス成形面、又は、第1本プレス成形用金型及び第2本プレス成形用金型の片方のプレス成形面に、反射防止構造体を構成する微細柱状突起を形成するための凹部を備えたものを準備し、当該第1本プレス成形用金型と第2本プレス成形用金型との間に当該中間プレス体を配して所定の製品厚さとなるまでプレス成形し、レンズ面に微細柱状突起を形成して反射防止構造体付き光学素子を得る。
【請求項10】
前記第1本プレス成形用金型と前記第2本プレス成形用金型との内面形状は、前記中間プレス体の外周形状に略沿った形状を備えており、
当該第1本プレス成形用金型と当該第2本プレス成形用金型との間に当該中間プレス体を挟み込んだとき、前記微細柱状突起を形成するための前記凹部を備えたものに当該中間プレス体を載置した断面において、前記微細柱状突起を形成するためのプレス面高さから当該中間プレス体に向けて水平に延ばした点を基準として、当該中間プレス体と前記微細柱状突起を形成するための前記凹部を備えたものにおけるレンズ領域形成面との光軸方向の距離を光軸方向ギャップSとすると、当該光軸方向ギャップSが、使用平均波長をλとした場合、λ+1.6mm≧Sの関係を満たすものである
請求項9に記載の反射防止構造体付き光学素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1から
請求項8のいずれか一項に記載の反射防止構造体付き光学素子を用いたことを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、光学機器に用いる反射防止構造体付き光学素子、その製造方法、製造用金型の製造方法及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガラス、プラスチック等の光透過性材料を用いた光学素子は、表面反射による透過光の損失を低減させるため、光入射面及び光出射面に反射防止膜を設ける等の表面処理が施されている。この反射防止膜は、光学素子を構成する基材より低屈折率の物質からなる単層膜、又は、低屈折率の物質と高屈折率の物質とが交互に積層した多層膜であり、蒸着法、スパッタリング法、塗装法等により形成されている。
【0003】
このような反射防止膜は、反射防止効果を向上させるために、精密な膜厚の制御が必要で、製造においては高精度なプロセスが要求される場合があり、製造コストが上昇する要因となっている。また、反射防止膜は、各膜の表面及び界面で発生する反射光の干渉を利用して反射防止を行うため、波長依存性がある。このため、デジタルカメラやプロジェクター装置など広い波長帯域を用いる光学機器に対し、良好な反射防止効果を得ることは困難である。また、反射防止膜は、光の入射角度依存性を備えるため、レンズ等の曲率を持つ光学素子に対しては、光入射面及び光出射面の全体で良好な反射防止効果を得ることが困難である。
【0004】
そこで、以上に述べた反射防止膜に代わる反射防止手段として、入射光の波長以下の大きさを持つ微細凹凸構造を光学素子表面に設ける方法が検討されてきた。この方法において、微細凹凸構造の突起形状として円錐や四角錐等の錐形状を採用すると、界面における急激な屈折率の変化を抑制でき、波長帯域特性や入射角度特性に優れた反射防止性能が期待できる。一方、レンズ等の曲率を持つ光学素子を製造する方法として、プレス成形法がある。このプレス成型法は、同じ形状の光学素子を大量、且つ、安価に生産可能な製造方法である。
【0005】
上述の反射防止のための微細凹凸構造とプレス成型法とを組み合わせた反射防止構造体付き光学素子の製造方法として、以下のような先行技術が存在する。例えば、特許文献1には、赤外光に対し表面での反射を抑制した光学素子を得る方法として、プレス成型法を用いて、光学素子基材の表面に微細凹凸を形成するために、金型側に微細凹凸構造のレプリカ形状を備える成形型でカルコゲナイドガラスをプレス成形する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示のプレス成型法は、成形の偏りを抑制するため、被成形物を金型の中心部に設置した状態からプレス成形を開始するものである。このような場合、プレスの開始時から金型と硝材原料とが接している金型の中心部(=得られる光学素子の中心部に相当)でのプレス時間が長く、金型の外周側に向かうほどプレス時間が短くなるのが一般的である。従って、従来のプレス成型方法の場合、金型の場所による局所的なプレス成形時間の差が生じている。このような状況下で得られた反射防止構造体付き光学素子の中心部と外周部との間で、凹凸形状の突出距離(高さ)に差が生じ、中心部と外周部とで光の反射率に差が生じ、反射防止構造体が本来備える良好な入射角度特性を生かせないという問題があった。
【0008】
以上のことから、本件出願は、プレス成形によって得られる反射防止構造体付き光学素子のレンズ面(=有効光学面)が、良好な入射角度特性を備える反射防止構造体付き光学素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、鋭意研究を行った結果、以下に述べる光学素子、製造に用いる金型等に想到した。
【0010】
A.本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子
本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子は、レンズ面に反射防止構造体を備え、 反射防止構造体は複数の微細柱状突起からなり、当該微細柱状突起の底面径を前記レンズ面の接平面に表れる断面の径としたとき、光軸とレンズ面とが交差するレンズ中心に最も近い位置にある微細柱状突起を基準微細柱状突起とし、当該基準微細柱状突起の底面径を基準底面径d0とし、その他の任意の位置にある微細柱状突起の底面径dとしたとき、
当該dが0.75d0≦d≦1.25d0の範囲に含まれることを特徴とする。
【0011】
B.本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の製造方法
本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の製造方法は、上述の反射防止構造体付き光学素子の製造方法であって、以下の予備プレス工程及び本プレス工程を備えることを特徴とする。
【0012】
予備プレス工程: 得ようとする反射防止構造体付き光学素子の概略形状を形成するため、滑らかなプレス成形面を備える第1予備成形用金型と第2予備成形用金型との間に原料硝材を配して、最終製品である反射防止構造体付き光学素子より肉厚な状態までプレス成形し、滑らかな表面を備える中間プレス体を得る。
本プレス工程: 第1本プレス成形用金型及び第2本プレス成形用金型の両金型のプレス成形面、又は、第1本プレス成形用金型及び第2本プレス成形用金型の片方のプレス成形面に、反射防止構造体を構成する微細柱状突起を形成するための凹部を備えたものを準備し、当該第1本プレス成形用金型と第2本プレス成形用金型との間に当該中間プレス体を配して所定の製品厚さとなるまでプレス成形し、レンズ面に微細柱状突起を形成して反射防止構造体付き光学素子を得る。
【0013】
C.本件出願に係る撮像装置
本件出願に係る撮像装置は、上述の反射防止構造体付き光学素子を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子は、そのレンズ面が備える反射防止構造体を構成する微細柱状突起(=微細凹凸形状)の接平面における底面径のばらつきが少なく、微細柱状突起の光軸方向の突出距離のばらつきも小さくなる。その結果として、反射防止構造体付き光学素子の中心部と外周部との間で、光の反射率に差が小さくなり、反射防止構造体が本来備える良好な入射角度特性を発揮できるようになった。従って、本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子を用いた撮像装置は、高品質の撮像性能を発揮して、高品質の画像を得ることが可能となる。
【0015】
また、本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子を得る方法としては、原料硝材を光学素子としての概略形状に成形する「予備プレス工程」と、微細柱状突起を形成し目的の反射防止構造体付き光学素子とする「本プレス工程」との2段階プレス法を採用する。この方法を採用することで、本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子を効率良く生産可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の模式断面図である。
【
図2】反射防止構造体を構成する微細柱状突起の底面径を説明するための概念模式図である。
【
図3】微細柱状突起の突出距離を説明するための概念図である。
【
図4】微細柱状突起同士の離間距離を説明するための微細柱状突起の上面から見たときの配列イメージを示した模式図である。
【
図5】予備プレス工程を説明するためのイメージ図である。
【
図6】本プレス工程を説明するためのイメージ図である。
【
図7】中間プレス体と金型のレンズ領域形成面との光軸方向ギャップを説明するための模式図である。
【
図8】実施例及び比較例に係る反射防止構造体付き光学素子の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子、反射防止構造体付き光学素子の製造方法、本件出願に係る撮像装置の形態に関して詳説する。
【0018】
A.反射防止構造体付き光学素子の形態
図1には両面のレンズ面に対し、反射防止構造体を備える形態を示している。本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子1は、レンズ面5,5’に反射防止構造体2a,2bを備え、反射防止構造体2a,2bは複数の微細柱状突起からなり、微細柱状突起の底面径をレンズ面5,5’の接平面に表れる断面の径としたとき、レンズ面5,5’の最も中心近くに位置する微細柱状突起を基準微細柱状突起とし、この底面径を基準底面径d
0とし、その他の任意の位置にある微細柱状突起の底面径dとしたとき、0.75d
0≦d≦1.25d
0の範囲にあるという条件を満たすことを特徴とする。
【0019】
図1に模式図として示すように、本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子1は、レンズ面5,5’に反射防止構造体2a,2bを備えている。このときの反射防止構造体2a,2bは、複数の略光軸方向に峻立する微細柱状突起7からなっている。そして、
図2にレンズ面5,5’上にある一つの微細柱状突起7を拡大して示したイメージ図を示している。この微細柱状突起4の底面径dは、レンズ面5,5’の接平面CPに表れる断面の径を意味するものである。ここで、「接平面」とは、底面径の計測を行おうとする微細柱状突起4のレンズ面2との接続部の略中心部分に点接触する仮想平面のことである。そして、接平面が、この仮想平面が微細柱状突起7を切断した際に、接平面上に表れる微細柱状突起7の断面形状の外接円の直径を「底面径」と称している。
【0020】
(1)微細柱状突起の底面径
図2に示すように、本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子1は、レンズ面の中心部を通る光軸とレンズ面とが交差する位置をレンズ中心と想定したとき、このレンズ中心に最も近い微細柱状突起を「基準微細柱状突起」と称し、この底面径を「基準底面径d
0」と称している。この
図2から理解できるように、基準底面径d
0は、接平面が基準微細柱状突起を切断した部分の断面径のことである。一方、「基準微細柱状突起」以外の他の任意の位置にある微細柱状突起の底面径dは、微細柱状突起の接平面が基準微細柱状突起を切断した部分の断面径のことである。
【0021】
そして、この「基準微細柱状突起」以外の他の任意の位置にある微細柱状突起の底面径dが0.75d0≦d≦1.25d0の範囲に含まれることを特徴としている。このようにレンズ面に存在する微細柱状突起の底面径が、所定の範囲に収まることで、レンズ面の全域において、局所的な偏在性のない反射防止効果が得られ、後述する微細柱状突起の突出距離も安定化して、高品質の反射防止効果が得られるようになる。ここで、dが0.75d0未満の場合には、波長帯域特性及び入射角度特性が低下するため良好な反射防止効果を得られなくなり好ましくない。一方、微細柱状突起の底面径dが1.25λを超えると、反射防止効果が得られ難くなり好ましくない。以上に述べた底面径は、ガリウム(Ga)イオン(イオン源:ガリウム液体金属ニードル型)を電界で加速したビームを細く絞った集束イオンビームを用いるFIB-SIM装置(セイコーインスツル株式会社製のSMI-3200)で、光学素子の側面からスパッタリングエッチングして、微細柱状突起の中心部を通るエッチング表面に出現する断面をSIM像(二次イオン像)として観察して測定した。なお、FIBを用いた断面調製条件は、高額素子の構成成分・形状等によって変動させているが「加速電圧:10kV~30kV、照射電流:2nAから3nA、フィード:1nmから10nm(スライス面の間隔)」の範囲で行った。なお、後述する微細柱状突起の突出距離に関しても、FIB-SIM装置を用いて測定している。
【0022】
そして、基準底面径d0は、使用平均波長をλとしたとき、0.2λ≦d0≦0.6λの範囲であることが好ましい。微細柱状突起の基準底面径d0が0.2λ未満の場合には、波長帯域特性及び入射角度特性が低下するため、良好な反射防止効果を得られなくなり好ましくない。一方、微細柱状突起の基準底面径d0が0.6λを超えると、微細柱状突起による反射防止効果が得られず好ましくない。また、入射した光の回折が撮像品質に大きく影響を与える光学装置の場合には、さらに0.5λ以下にすることで安定した反射防止効果を得ることが望ましい。
【0023】
(2)微細柱状突起の突出距離
本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の反射防止体を構成する微細柱状突起7は、基準微細柱状突起の光軸方向OPの突出距離h
0と、任意の位置の微細柱状突起の光軸方向の突出距離hとが、0.55h
0≦h≦1.45h
0の関係を満たすことが好ましい。ここで、微細柱状突起の突出距離hとは、次のような概念を適用したものである。
図3には、レンズ面に存在する微細柱状突起のイメージを示しており、突出距離hの説明を行うためのものである。よって、
図3には反射防止構造体を構成する微細柱状突起を抽出して模式的に示している。そして、この
図3の中には、光軸方向を表す光軸平行線Op(=光軸と捉えて良い。)を示している。接平面が微細柱状突起の底部で接触する点から微細柱状突起の先端側までの距離を「微細柱状突起の光軸に沿った突出距離h」としている。ここで、「h
0」は、上述の「基準微細柱状突起の光軸に沿った突出距離」のことであり、必ずしも光軸上に存在する必要は無い。
【0024】
以上のように規定した微細柱状突起の突出距離hが0.55h0≦h≦1.45h0の関係を満たすとは、基準微細柱状突起の突出距離h0を基準として、レンズ面上の何れの位置に形成された微細柱状突起の突出距離h(=高さ)がh0±0.45h0の範囲に収まっており、基準微細柱状突起の突出距離h0の半分以上の高さを備えていることを意味している。即ち、従来の反射防止構造体付き光学素子が備える微細柱状突起はh0±0.60h0程度の大きなバラツキを備えていた。これに対し、本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の微細柱状突起は、レンズ面全体において高さバラツキが抑制されているため、同一レンズ面内における局所的な反射率のバラツキが削減できる。よって、入射角度特性に優れる反射防止性能を備えた光学素子を実現することができる。
【0025】
以上に述べた突出距離hが0.55h0≦h≦1.45h0の範囲に含まれる場合において、より効率良く反射率のバラツキの低減効果を得るには、下限値を0.60h0、0.80h0、0.90h0と段階的に増加させることが好ましい。微細柱状突起の突出距離が高いほど、反射防止効果が高くなるためである。従って、本来であれば、特に上限を規定する必要はない。ところが、後述する金型を用いてプレス成形する方法で得られる射防止構造体付き光学素子の場合、その製造方法の中で得られる微細柱状突起の高さのバラツキを抑制するという観点から、上限値は1.45h0であることが好ましい。そして、この上限値を1.36h0、1.25h0、1.10h0と段階的に低く設定するにつれて、微細柱状突起の突出距離のバラツキが少なくなり好ましい。
【0026】
そして、微細柱状突起の突出距離hは、0.24λ≦h(λは使用平均波長)の条件をを満たすことが好ましい。微細柱状突起の突出距離hが0.24λ未満の場合には、微細柱状突起の高さが不足することで、十分な反射防止効果が得られなくなり、良好な反射防止効果を発揮する反射防止構造体付き光学素子が得られなくなるため好ましくない。
【0027】
(3)微細柱状突起同士の離間距離
図4は、微細柱状突起同士の離間距離を説明するため、レンズ面5にある微細柱状突起7を上面から見たときの配列イメージを示した模式図である。本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子1の反射防止体を構成する微細柱状突起7は、
図4(a)に示すようにレンズ面5の表面に一定の規則性をもって配列しても、
図4(b)に示すようにランダムに配置しても構わない。
【0028】
しかしながら、この微細柱状突起は、使用平均波長の波長以下の間隔周期性を備えて配置することが好ましい。使用平均波長をλとした場合、反射防止構造体を構成する複数の微細柱状突起7は、
図4に示すように、隣接する微細柱状突起同士の平均離間距離が0.1λ以上0.6λ以下の範囲にあることが好ましい。この配置間隔は、使用平均波長(λ)以下であれば一定の反射防止効果を得ることが可能であるが、λ/2以下であることが好ましい。微細柱状突起の配置間隔がλ/2を超えると、回折による有害光が発生しやすくなる傾向があるからである。配置間隔が0.2λ未満の場合には、反射防止構造体の微細柱状突起の存在密度が過剰に高くなり、反射防止構造体内で無用な回折光が増加するため、波長帯域特性及び入射角度特性に優れた反射防止効果を得られなくなるため好ましくない。一方、当該配置間隔が0.6λを超える場合には、反射防止構造体の微細柱状突起の存在密度が低くなりすぎて、十分な反射防止効果が得られなくなるため好ましくない。
【0029】
図4(a)に示すように、微細柱状突起が周期性を備えて配列している場合、微細柱状突起の配置間隔(p1からp6)は一定であり、配列ピッチPと捉えることができる。そして、
図4(a)に示す配列ピッチPが0.2λ以上0.6λ以下の範囲にあると、安定した反射防止効果を発揮する傾向が高く好ましい。なお、配列ピッチPを備える場合、微細柱状突起の配置間隔が一定であればよい。従って、隣接する3つの微細柱状突起が
図4(a)に示すようなトライアングル配置であっても、隣接する4つの微細柱状突起がスクエア配置を採用しても構わない。
【0030】
一方、
図4(b)に示すように、レンズ面にランダムに設けた微細柱状突起の場合、一つの測定対象とする微細柱状突起を無作為に抽出し、その外周に存在する隣接する複数の微細柱状突起までの各距離(p1からp6)を測定し、その離間距離(「一次配置間隔」と称する。)を求める。これと同様に、同一レンズ面内の10箇所以上の異なる箇所における一次配置間隔を測定し、測定した一次配置間隔の平均値を求めて微細柱状突起同士の平均離間距離とする。レンズ面にランダムに設けた微細柱状突起の場合、隣接する微細柱状突起同士の平均離間距離が0.1λ以上0.5λ以下の範囲にあると、安定した反射防止効果を発揮する傾向が高く好ましい。
【0031】
そして、微細柱状突起7の配置間隔と底面径dとの関係は、[底面径]/[配置間隔]の値が1以下であり、0.8以上であることが望ましい。0.8以下の場合には、反射防止構造体の微細柱状突起7の存在密度が過剰に低下することになり、十分な反射防止効果が得られないため好ましくない。
【0032】
なお、本発明に係る反射防止構造体の微細柱状突起7は、レンズ面5の接平面における断面を微細柱状突起7の底面としたときに、レンズ面5の中心部から縁端部にかけて存在する微細柱状突起7の底面径d(底面積と捉えることもできる。)が所定の範囲に含まれるよう均一であればよい。底面の形状としては、円や楕円の他に、例えば多角形(三角形、四角形、六角形など)の形状を採用することもできる。
【0033】
(4)微細柱状突起の構成材
本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子1は、後述する金型を用いたプレス成形によって製造されるものであり、ガラス、プラスチック等のガラス転移点を持つ素材の使用が可能である。そして、本件出願における微細柱状突起7は、光学素子硝材と同一の材質で構成されることが好ましい。本件出願にかかる反射防止構造体付き光学素子1は、金型を用いたプレス成型法で製造するものであるから、微細柱状突起7を含む反射防止構造体付き光学素子1を同一の素材とすることで、生産効率を高めることができ、レンズ面に対する微細柱状突起の密着性を高めることも容易だからである。
【0034】
(5)環状板部
以上に述べた反射防止構造体付き光学素子1は、枠体に取り付けるときの組み付け性を容易とするための「環状板部4」を備えることが好ましい。この環状板部4は、レンズ面5,5’の外周全体を取り囲み、且つ、その外周先端は、プレス加工の際に、流動する光学素子硝材が形状規制を受けることなく形成されたものであるため、この先端を自由端面6と称している。
【0035】
この環状板部4は、レンズ面径D(数値として表示する場合はDmmと表示する。)を基準として、レンズ面5,5’の外周から自由端面6までの距離を「環状板部長さ」と称する。そして、この環状板部長さが0.5mm以上Dmm以下であることが好ましい。物理的観点からみて、環状板部長さが0.5mm未満の場合には、枠体に対する組み付け性が改善できないため好ましくない。一方、環状板部長さがDmmを超える場合には、レンズ面径Dに対して、環状板部長さが過剰となり、光学素子としての小型化が図れず、市場要求も無いため、単なる資源の無駄使いとなり好ましくない。
【0036】
また、環状板部4は、レンズ厚さTを基準としたとき、厚さが0.5mm以上0.8Tmm以下であることが好ましい。環状板部4の厚さが0.5mm未満の場合、組み付け面としての要求強度が不足する場合があり好ましくない。一方、環状板部4の厚さが0.8Tmmを超える場合、過剰な強度を得る必要もなく、枠体への取り付け性も低下するため好ましくない。なお、ここでいう「レンズ厚さ」とは、
図1に示すように反射防止構造体付き光学素子1の符号「T」で表した部位のことである。
【0037】
(6)本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の適用範囲
本件出願にいう反射防止構造体付き光学素子1は、後述するプレス成形によって形成できる平面、球面、非球面、自由曲面等のいかなるレンズ面形状を備えていても良い。また、反射防止構造体付き光学素子の外観形状としても特段の限定は無く、円形レンズ、矩形レンズ、三角レンズ等の任意のレンズ形状を採用することが可能である。
【0038】
また、本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の場合、光学素子の2つのレンズ面に対し反射防止構造体を備えるにあたり、「光学素子の2つのレンズ面のうち、少なくとも一面側が反射防止構造体を備える曲面である場合」、「光学素子の2つのレンズ面のうち、一面側が反射防止構造体を備える曲面で、他面側が反射防止構造体を備える平面である場合」、「光学素子の2つのレンズ面のうち、一面側が反射防止構造体を備える曲面で、他面側が反射防止構造体のない単純平面である場合」の3パターンを採用することが可能である。
図1に示す片面が凸面、他面が凹面であるレンズも、上記パターン(レンズ面が、反射防止構造体を備える曲面である。)に含まれるものである。なお、本件出願において、単にレンズ面において「平面」と称する場合、「反射防止構造体を備える平面」又は「反射防止構造体を備えていない平面」のいずれかを意味しており、「反射防止構造体を備えていない平面」であることを明確化する必要性がある場合には「単純平面」と称している。
【0039】
そして、図示を省略しているが、2面のレンズ面のうち、一面側のみが平面である形態を必要とする場合には、その平面に反射防止構造体が存在しても、しなくても良い。しかしながら、本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の場合、一面側にあるレンズ面が曲面であることが必須であり、且つ、反射防止構造体を備えるものを対象とする。両面が平面のレンズ面の場合には、後述する製造方法を採用する意義が没却するからである。また、本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子において、光学素子の2つのレンズ面のうち、一面側が反射防止構造体を備える曲面で、他面側が単純平面である形態を採用することが好ましい。平面側にのみ反射防止構造体を設けても、波長帯域特性及び入射角度特性を改善する効果が低い傾向にあるからである。
【0040】
B.本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の製造方法
本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の製造方法は、上述の反射防止構造体付き光学素子の製造方法であって、以下の予備プレス工程及び本プレス工程を備えることを特徴とする。このような2段階プレス法を採用することで、金型の微細構造部と原料硝材との間に生じるエア溜まりや、原料硝材の流動に伴う衝突跡を逃がすことで、これらの欠陥の発生を軽減しつつ光学有効面全体へ分散させる。その結果、光学素子の外観や光学性能の劣化を回避出来るようになる。本プレス工程では、成形対象の後述する中間プレス体と、金型のプレス面の曲率を近似させることが可能になる。その結果、光学素子の表面全体における金型との接触時間を一定にすることが可能となり、微細柱状突起の底面径及び突出高さを略同一にすることが可能となり、高い反射防止効果を備える光学素子の安定的な生産が可能となる。以下、図面を参照しつつ、工程毎に説明する。
【0041】
予備プレス工程: この予備プレス工程は、得ようとする反射防止構造体付き光学素子の概略形状を形成するためのものである。このときの概略形状とは、反射防止構造体を構成する微細柱状突起が未形成の段階にあるものである。そのため、第1予備成形用金型10と第2予備成形用金型20との両予備プレス用金型は、滑らかなレンズ面を得るため、レンズ面型10aとして「平滑で滑らかなプレス成形面」を備えるものを用いる。
【0042】
この
図5(A)に示した第1予備成形用金型10は、レンズ面型10a、外径規制型10b、収容型10cで構成されたものを示している。ここで、レンズ面型10aの原料硝材と接する面が第1レンズ領域予備形成面11、光学素子の外周壁面3を予備的な形態にするための第1外径規制壁面12、光学素子の環状板部4を予備的な形態にするための第1水平規制面13である。そして、
図5(A)に示した第2予備成形用金型20は、レンズ面型20a、収容型20cで構成されたものを示している。ここで、レンズ面型20aの原料硝材と接する面が第2レンズ領域予備形成面11’、光学素子の環状板部4を予備的な形態にするための第2水平規制面13’である。
【0043】
図5(A)に示すように、第1予備成形用金型10と第2予備成形用金型20との間に原料硝材40を配し、原料硝材をガラス転移点以上の温度に加熱し軟化させる。そして、
図5(B)に示すように、第1予備成形用金型10と第2予備成形用金型20とが接触しない状態までプレス成形し、「中間プレス体60」を得る。この中間プレス体60は、最終製品である反射防止構造体付き光学素子1より肉厚で、且つ、滑らかな表面を備える。また、このときの加熱条件、プレス圧力等は、原料硝材50の種類により適宜定められる。更に、
図5に示すように、第1予備成形用金型10と第2予備成形用金型20とが接触しないように、プレス板15で加圧し成形したときに、第1予備成形用金型10と第2予備成形用金型20との間に位置決めスリーブ14を介して、第1予備成形用金型10と第2予備成形用金型20との適正な離間距離を確保することが好ましい。
【0044】
以上に述べた第1予備成形用金型10と第2予備成形用金型20とは、一体化した金型でも、複数にブロック化した金型であっても構わない。
図5に示す第1予備成形用金型と第2予備成形用金型は、複数にブロック化したものを示している。なお、
図5には、プレス成形のイメージが理解できるように、プレス板も示している。
【0045】
この第1予備成形用金型10及び第2予備成形用金型20を構成する材質は、タングステンカーバイドを代表とする超硬合金、サーメット、炭化ケイ素、その他セラミックス、耐熱系金属などであることが好ましい。また、第1予備成形用金型10及び第2予備成形用金型20の材質を検討する場合、より線膨張係数が小さい材質を使用することが、より好ましい。これにより、室温で型を組み立てる際には、両者のクリアランスを確保し、プレス成形温度帯ではクリアランスが狭まり、成形品にバリが発生し難くなるからである。また、第1予備成形用金型10及び第2予備成形用金型20の厚さは、機械的強度を考慮し、最低3mmであることが好ましい。
【0046】
本プレス工程: この本プレス工程で使用する金型は、そのプレス成形面に「反射防止構造体を構成する微細柱状突起」を形成するための凹部を備えたものである。具体的には、「第1本プレス成形用金型及び第2本プレス成形用金型の両金型のプレス成形面に反射防止構造体を構成する微細柱状突起を形成するための凹部を備えたもの」、又は、「第1本プレス成形用金型及び第2本プレス成形用金型の片方のプレス成形面に、反射防止構造体を構成する微細柱状突起を形成するための凹部を備えたもの」を準備する。そして、当該第1本プレス成形用金型30と第2本プレス成形用金型40との間に「中間プレス体60」を配し、所定の製品厚さとなるまでプレス成形し、レンズ面に微細柱状突起7を形成して反射防止構造体付き光学素子1を得る。
【0047】
本プレス工程で用いる第1本プレス成形用金型30及び/又は第2本プレス成形用金型40との内面形状は、中間プレス体60の外周形状に近い形状を備えている。このとき、第1本プレス成形用金型と第2本プレス成形用金型との間に中間プレス体60を挟み込んだ場合において、
図7から理解できるように、中間プレス体60を微細柱状突起形成用レンズ面型30a,40aに載置した断面において、微細柱状突起を形成するためのプレス面高さから中間プレス体60に向けて水平に延ばした点を基準として、中間プレス体60と金型のレンズ領域形成面との光軸方向の距離を「光軸方向ギャップS」とする。この光軸方向ギャップSは、使用平均波長をλとした場合、λ+1.6mm≧Sの関係を満たす事が好ましい。この光軸方向ギャップSが、この範囲にあると本プレスの際に、レンズ面中心部と外縁部とのプレス成形時間差も小さくなり、形成する微小柱状突起のサイズも均一化することが容易となるからである。
【0048】
本プレス工程では、
図6(C)に示すように、第1本プレス成形用金型30の第1レンズ領域形成面(粗面形成面)31と、第2本プレス成形用金型40の第2レンズ領域形成面(粗面形成面)31’との間に「中間プレス体60」を載置して、ガラス転移点以上の温度に加熱し軟化させる。そして、
図6(D)に示すように、本プレス成形を行う。この本プレス成形では、第1本プレス成形用金型30と第2本プレス成形用金型40との外周部にある対向面(
図6の場合には、第1水平規制面33と第2水平規制面33’である。)が、0.5mm以上0.8Tmm以下(T≧1)離間した状態となるまで加圧し、プレス状態を維持して反射防止構造体付き光学素子1を得ることが好ましい。その結果、軟化した原料硝材が、第1本プレス成形用金型30と第2本プレス成形用金型40との外周にある第1水平規制面33と第2水平規制面33’との隙間に侵入し、得られた反射防止構造体付き光学素子1のレンズ面の外周全体に、先端に自由端面6を備える環状板部4が形成できる。
【0049】
C.本件出願に係る撮像装置の形態
本件出願に係る撮像装置は、上述の反射防止構造体付き光学素子を用いたことを特徴とする。ここでいう撮像装置に関して、特段の限定はない。反射防止効果を必要とするデジタルカメラ、ビデオカメラ等のあらゆる撮像装置に好適である。
【実施例1】
【0050】
この実施例1では、
図8(A)に断面図として示した反射防止構造体付き光学素子1を製造した。よって、反射防止構造体付き光学素子1は、一面側にのみ反射防止構造体を備える両凹レンズであり、反射防止構造体2b、外周壁面3、環状板部4、レンズ面5,5’、自由端面6、微細柱状突起7を備えている。そして、この反射防止構造体付き光学素子1を製造するにあたり、
図5及び
図6に示すと同様の2段階のプレス工程(予備プレス工程と本プレス工程)を採用している。
【0051】
予備プレス工程:
図8(A)に断面図として示した反射防止構造体付き光学素子1の概略形状を形成するため、
図5に示すように、レンズ面型10aとして「平滑で滑らかなプレス成形面」を備える第1予備成形用金型10及び第2予備成形用金型20の間に原料硝材(ガラス転異点288℃の硝種K-PG325)を挟み込み、中心肉厚約2.8mmの状態までプレスを行って、中間プレス体60を得た。
【0052】
本プレス工程:
図7に示す第1本プレス成形用金型30と第2本プレス成形用金型40との間に中間プレス体60を配し、中心肉厚1.3mmになるようにプレス成形した。その結果、レンズ面径が約14.1mm、Sagが約2.5mmの反射防止構造体付き光学素子1を得た。なお、第2本プレス成形用金型40の微細柱状突起形成用レンズ面型40aは配列ピッチが350nm、底面径が310nmの微細柱状穴加工を施した。一方、第1本プレス成形用金型30の微細柱状突起形成用レンズ面型40aには、微細穴加工を行わず滑らかな表面とした。
【0053】
この実施例1の反射防止構造体付き光学素子1の微細柱状突起の配列ピッチは350nmである。そして、基準微細柱状突起の基準底面径d0が310nm、レンズ面の外周部の微細柱状突起の基準底面径dが 300nmであった。そして、基準微細柱状突起の基準突出距離h0が365nm、レンズ面の外周部の突出距離が360nmであった。さらに、大塚電子株式会社製の反射分光膜厚計(FE-3000)を用いて、使用平均波長905nmのときの反射率を測定した結果、基準微細柱状突起付近の反射率が0.95%、レンズ面の外周部の反射率が0.93%であり、得られた反射防止構造体付き光学素子1のレンズ面全体において反射率が低く、バラツキも抑制されていることが分かる。
【実施例2】
【0054】
この実施例2では、
図8(B)に断面図として示した反射防止構造体付き光学素子1を製造した。よって、反射防止構造体付き光学素子1は、一面側にのみ反射防止構造体を備える両凸レンズであり、反射防止構造体2a、外周壁面3、環状板部4、レンズ面5,5’、自由端面6、微細柱状突起7を備えている。そして、この反射防止構造体付き光学素子1を製造するにあたり、
図5及び
図6に示すと同様の2段階のプレス工程(予備プレス工程と本プレス工程)を採用している。
【0055】
予備プレス工程:
図8(A)に断面図として示した反射防止構造体付き光学素子1の概略形状を形成するため、
図5に示すように、レンズ面型10aとして「平滑で滑らかなプレス成形面」を備える第1予備成形用金型10及び第2予備成形用金型20の間に原料硝材(ガラス転異点180℃のカルコゲナイドガラスIRG206)を挟み込み、中心肉厚約2.8mmの状態までプレスを行って、中間プレス体60を得た。
【0056】
本プレス工程:
図7に示す第1本プレス成形用金型30と第2本プレス成形用金型40との間に中間プレス体60を配し、中心肉厚1.3mmになるようにプレス成形した。その結果、レンズ面径が約14.2mm、Sagが約2.5mmの反射防止構造体付き光学素子1を得た。なお、第2本プレス成形用金型40の微細柱状突起形成用レンズ面型40aは配列ピッチが3μm、底面径が2.5μmの微細柱状穴加工を施した。一方、第1本プレス成形用金型30の微細柱状突起形成用レンズ面型40bには、微細穴加工を行わず滑らかな表面とした。
【0057】
この実施例2の反射防止構造体付き光学素子1の微細柱状突起は、その基準微細柱状突起の基準底面径d0、及び、レンズ面の外周部の微細柱状突起の底面径dは、共に役2.5μmであった。そして、基準微細柱状突起の基準突出距離h0が2.7μm、レンズ面の外周部の突出距離が2.8μmであった。さらに、実施例1と同様に、使用平均波長8μm以上12μm以下のときの反射率を測定した結果、基準微細柱状突起付近の反射率が0.30%、レンズ面の外周部の反射率が0.29%であり、得られた反射防止構造体付き光学素子1のレンズ面全体において反射率が低く、バラツキも抑制されていることが分かる。
【比較例】
【0058】
比較例の反射防止構造体付き光学素子は、実施例1の予備プレス工程を省略し、本プレス工程のみで製造したものである。このようにして得られた反射防止構造体付き光学素子の、基準微細柱状突起の基準突出距離h0が365nm、レンズ面の外周部の突出距離が160nmであった。また、実施例1と同様にして測定した反射率は、基準微細柱状突起付近の反射率が0.95%、レンズ面の外周部の反射率が4.30%であり、得られた反射防止構造体付き光学素子のレンズ面全体における反射率が高く、レンズ面内における局所的なバラツキが大きくなっていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子は、反射防止構造体を構成する微細柱状突起の底面径、突出距離のばらつきが小さく、反射防止構造体付き光学素子の中心部と外周部との間で、光の反射率に差が小さくなり、バラツキのない入射角度特性を発揮できる。そのため、本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子を用いた撮像装置は、高品質の撮像性能を発揮することが可能となる。また、本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子を得る方法は、既存設備を使用できるものであり、新たな設備投資を要さない点で有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 反射防止構造体付き光学素子
2a,2b 反射防止構造体
3 外周壁面
4 環状板部
5,5’ レンズ面
6 自由端面
7 微細柱状突起
10 第1予備成形用金型
10a レンズ面型
10b 外径規制型
10c 収容型
11 第1レンズ領域予備形成面
11’ 第2レンズ領域予備形成面
12 第1外径規制壁面
13 第1水平規制面
13’ 第2水平規制面
14 位置決めスリーブ
15 プレス板
20 第2予備成形用金型
20a レンズ面型
20c 収容型
30 第1本プレス用金型
30a 微細柱状突起形成用レンズ面型
30b 外径規制型
30c 収容型
31 第1レンズ領域形成面(粗面形成面)
31’ 第2レンズ領域形成面(粗面形成面)
32 第1外径規制壁面
33 第1水平規制面
33’ 第2水平規制面
40 第2本プレス用金型
40a 微細柱状突起形成用レンズ面型
50 原料硝材
60 中間プレス体
T レンズ厚さ
D,D’ レンズ面径
OP 光軸方向
CP 接平面
h0,h 突出高さ