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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】滑り軸受、内燃機関、及び自動車
(51)【国際特許分類】
   F16C 9/02 20060101AFI20230106BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20230106BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
F16C9/02
F16C17/02 Z
F16C33/10 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019099591
(22)【出願日】2019-05-28
(65)【公開番号】P2020193661
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100147810
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 浩
(72)【発明者】
【氏名】窪田 墾
(72)【発明者】
【氏名】村上 元一
(72)【発明者】
【氏名】森田 祐輔
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-058568(JP,A)
【文献】特開2015-152104(JP,A)
【文献】特開昭52-145654(JP,A)
【文献】特開2018-155355(JP,A)
【文献】特開2008-095858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 9/02
F16C 17/00-17/26
F16C 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1半割軸受と、
第2半割軸受と
を有し、
前記第1半割軸受の、シャフトが理想的な位置にあると仮定した場合に、軸方向に垂直な断面において当該シャフトと当該第1半割軸受との間に形成される隙間であってシャフトが移動可能な部分の面積である平均クリアランスが、前記第2半割軸受の、当該シャフトが理想的な位置にあると仮定した場合に、当該断面において当該シャフトと当該第2半割軸受との間に形成される隙間であってシャフトが移動可能な部分の面積である平均クリアランスよりも小さく、
前記第1半割軸受の内周面のうち、前記断面において周方向の中心を含む円弧部分である真円部が、当該第1半割軸受の軸方向から見て中心角が60°以上の円弧に相当する長さを有し、
前記真円部が、前記中心角が120°以下の円弧に相当する長さを有する
ジャーナル軸受である滑り軸受。
【請求項2】
前記真円部以外の部分が、前記真円部よりも半径の大きい円弧形状を有する
請求項に記載の滑り軸受。
【請求項3】
前記第2半割軸受は、前記軸方向から見て中心から合せ面に向けて徐々に肉厚が薄くなる形状を有する
請求項1又は2に記載の滑り軸受。
【請求項4】
内燃機関に組付けられたときにピストン側に位置するものを上側半割軸受、反対側に位置するものを下側半割軸受とするとき、
前記第1半割軸受が上側半割軸受であり、前記第2半割軸受が下側半割軸受である
請求項1乃至のいずれか一項に記載の滑り軸受。
【請求項5】
前記第1半割軸受の摺動面が、相手軸の回転方向下流側において溝が形成された第1領域、及び回転方向上流側において当該溝が形成されない第2領域を有する
請求項1乃至のいずれか一項に記載の滑り軸受。
【請求項6】
前記第1半割軸受が、前記摺動面から背面まで貫通する油孔を有し、
前記溝は、前記油孔に接続される
請求項に記載の滑り軸受。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の滑り軸受を用いた内燃機関。
【請求項8】
請求項に記載の内燃機関を有する自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り軸受、内燃機関、及び自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの半割軸受を組み合わせて用いる滑り軸受が知られている。特許文献1には、下側軸受10及び上側軸受20を組み合わせて用いる軸受において、振動及び騒音の悪化を抑制しつつ摩擦を低減するため、下側軸受10のオイルリリーフ量を上側軸受20のオイルリリーフ量よりも大きくする技術が記載されている(特に段落0029参照)。また。特許文献2には、剛性に差のあるハウジングに2つの半割軸受を組み付ける軸受において内周面の合せ面近傍に段差ができる問題に対処するため、下側軸受の合せ面近傍の肉厚を中央部よりも薄くする技術が記載されている(特に図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-155355号公報
【文献】特開2010-156373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術においては、上側軸受10にオイルリリーフが設けられており、このオイルリリーフのぶんだけシャフトが移動する余地があった。シャフトの移動はエンジンの振動及び騒音の原因となる可能性がある。また、特許文献2に記載の技術は、内周面の合せ面近傍にできる段差を解消することを課題とするものであって、エンジンの振動及び騒音を低減するものではない。
【0005】
これに対し本発明は、シャフトの軸心の移動を抑制するための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1半割軸受と、第2半割軸受とを有し、前記第1半割軸受の平均クリアランスが、前記第2半割軸受の平均クリアランスよりも小さく、前記第1半割軸受の真円部が、当該第1半割軸受の軸方向から見て中心角が60°以上の円弧に相当する長さを有する滑り軸受を提供する。
【0007】
前記真円部が、前記中心角が120°以下の円弧に相当する長さを有してもよい。
【0008】
前記真円部以外の部分が、前記真円部よりも半径の大きい円弧形状を有してもよい。
【0009】
前記第2半割軸受は、前記軸方向から見て中心から合せ面に向けて徐々に肉厚が薄くなる形状を有してもよい。
【0010】
前記第1半割軸受が上側半割軸受であり、前記第2半割軸受が下側半割軸受であってもよい。
【0011】
前記第1半割軸受の摺動面が、相手軸の回転方向下流側において溝が形成された第1領域、及び回転方向上流側において当該溝が形成されない第2領域を有してもよい。
【0012】
前記第1半割軸受が、前記摺動面から背面まで貫通する油孔を有し、
前記溝は、前記油孔に接続されてもよい。
【0013】
また、本発明は、上記いずれか一項に記載の滑り軸受を用いた内燃機関を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、上記の内燃機関を有する自動車を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シャフトの軸心の移動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】内燃機関におけるクランクシャフト1を例示する図。
図2】主軸受10の構造を例示する図。
図3】上側半割軸受11の形状を例示する図。
図4】下側半割軸受12の形状を例示する図。
図5】上側半割軸受11の摺動面112の構造を例示する図。
図6】内燃機関の運転中において軸心が移動する様子を例示する図。
図7】溝1125の意義を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、内燃機関(エンジン)におけるクランクシャフト1を例示する図である。クランクシャフト1においては、主軸受10、コンロッド軸受20、およびクランクワッシャ30が用いられる。主軸受10は、シリンダブロック(図示略)のハウジング(図示略)に装着してクランクシャフト1のジャーナルを把持し、クランクシャフト1を支える滑り軸受である。コンロッド軸受20は、コネクティングロッド2に装着してクランクシャフト1のピンを把持し、コネクティングロッド2を支える滑り軸受である。クランクワッシャ30は、主軸受10と組み合わせて用いられ、クランクシャフト1の軸方向の力を支える軸受である。クランクワッシャ30は、クランクシャフト1およびシリンダブロックの軸方向の位置決めをする機能も有する。
【0018】
図2は、主軸受10の構造を例示する図である。主軸受10は、上側(アッパ)半割軸受11及び下側(ロア)半割軸受12の2つの半割軸受を組み合わせたものである。上側半割軸受11及び下側半割軸受12は、それぞれ、第1半割軸受及び第2半割軸受の一例である。なお、「上側」及び「下側」はこれら2つの半割軸受の相対的な位置関係を示すものであり、必ずしも重力方向との関係を示すものではない。内燃機関に組付けられたときにピストン側に位置するものを「上側」、これと反対側に位置するものを「下側」という。
【0019】
図2は軸方向から見た外観を示す。図2において、クランクシャフト1は時計回りに回転する。「軸方向」とは、クランクシャフト1が延びる方向をいう。「軸方向から見る」とは、クランクシャフト1の軸心又はその延長線上にある視点から見ることをいう。なおこの例において、主軸受10は軸方向において均一な形状を有しているので、主軸受10の幅方向の中心を通る、軸方向に垂直な断面も図2と同じ形状を有する。
【0020】
上側半割軸受11は、軸受本体111.摺動面112、背面113、合せ面114、及び合せ面115を有する。軸受本体111は、上側半割軸受11の本体である。軸受本体111は、例えば、背面113から摺動面112に向かって、裏金、ライニング層、及びオーバレイ層の順で積層された積層構造を有する。裏金は、軸受本体111に機械的強度を与える構造であり、例えば、鋼、鋳鉄、又は樹脂で形成される。ライニング層は、滑り軸受としての機能を与える層であり、例えば、Cu系又はAl系のいわゆる軸受合金で形成される。オーバレイ層は、摺動面の特性を改善するための層であり、例えば、樹脂、個体潤滑材、及び金属の少なくとも1種で形成される。なお、裏金、ライニング層、及びオーバレイ層のうち少なくとも1層は省略されてもよい。また、ここで説明した材料あくまで例示であって、上側半割軸受11を形成する材料はこれらに限定されるものではない。
【0021】
摺動面112は、主軸受10の内周面であり、クランクシャフト1と摺動する面である。背面113は、主軸受10の外周面であり、ハウジング(図示略)に接する面である。合せ面114及び合せ面115は、下側半割軸受12と接する面である。
【0022】
下側半割軸受12は、軸受本体121、摺動面122、背面123、合せ面124、及び合せ面125を有する。軸受本体121は、下側半割軸受12の本体である。摺動面122は、主軸受10の内周面であり、クランクシャフト1と摺動する面である。背面123は、主軸受10の外周面であり、ハウジング(図示略)に接する面である。合せ面124及び合せ面125は、上側半割軸受11と接する面である。この例においては、合せ面124が合せ面115と、合せ面125が合せ面114と、それぞれ接する。
【0023】
図3は、上側半割軸受11の形状を例示する図である。図3は、上側半割軸受11の軸方向の中心を通り、かつ軸方向に垂直な断面を示す。図3においてクランクシャフト1は時計回りに回転する。説明の便宜上、図3では摺動面112の形状を誇張して描いている。この断面において、背面113は中心Caから半径Roの円弧を描く。この円弧の中心Ca及び合せ面114(クランクシャフト1の回転方向上流側の合せ面)を結ぶ線分L1を基準とする角度θを用いて摺動面112及び背面113上の位置を表す。
【0024】
摺動面112は、真円部1122、リリーフ部1121、及びリリーフ部1123を有する。真円部1122は、中心Caから半径Riの円弧を描く部分をいう。ここでいう「真円」とは、摺動面(内周面)の円弧の中心が、背面(外周面)の円弧の中心と同一であることを意味する。中心Caは背面113が描く円弧の中心であるので、軸受本体111のうち真円部1122に相当する部分は、肉厚(軸受本体111の径方向の厚さ)が均一である。なお真円部1122の肉厚は(Ro-Ri)である。リリーフ部1121及びリリーフ部1123は、真円部1122よりも背面113側に凹んだ部分、すなわち真円部1122よりも軸受本体111の肉厚が薄い部分である。この例において、リリーフ部1121は、真円部1122との境界から合せ面114に向かうにつれて肉厚が薄くなる(真円からの乖離が大きくなる)。同様に、リリーフ部1123は、真円部1122との境界から合せ面115に向かうにつれて肉厚が徐々に薄くなる。この例において、摺動面112のプロファイル(形状)は左右対称である。
【0025】
この例において、リリーフ部1121及びリリーフ部1123は、中心Caと異なる中心D1から半径Rr1の円弧を描く。なお、Rr1>Riである。中心D1は、中心Caと軸受本体111の周方向の中心(θ=90°)とを結ぶ直線上において、中心Caよりも下側半割軸受12側に位置する。すなわち、リリーフ部1121及びリリーフ部1123が描く円弧の中心は、背面113が描く円弧の中心Caから偏心している。
【0026】
一例において、リリーフ部1121、真円部1122、及びリリーフ部1123の円弧の長さは、その中心角が以下の長さとなるように設計される。
リリーフ部1121: 中心角30°
真円部1122: 中心角120°
リリーフ部1123: 中心角30°
【0027】
図4は、下側半割軸受12の形状を例示する図である。図4は、下側半割軸受12の軸方向の中心を通り、かつ軸方向に垂直な断面を示す。図4においてクランクシャフト1は時計回りに回転する。説明の便宜上、図4では摺動面122の形状を誇張して描いている。この断面において、背面123は中心Caから半径Roの円弧を描く。下側半割軸受12における半径Roは、設計値としては、上側半割軸受11における半径Roと同一である。この円弧の中心Ca及び合せ面124(クランクシャフト1の回転方向上流側の合せ面)を結ぶ線分L2を基準とする角度θを用いて摺動面122及び背面123上の位置を表す。なお、上側半割軸受11における角度表現と整合させるため、基準位置(合せ面124)における角度をθ=180°と定義する。
【0028】
摺動面122は、リリーフ部1221及びリリーフ部1222を有する。摺動面122の形状は左右対称であり、リリーフ部1121は180°≦θ≦270°の範囲に、リリーフ部1222は270°≦θ≦360°の範囲に、それぞれ形成される。リリーフ部1221及びリリーフ部1222は、摺動面122の中心(θ=270°)を通る半径Riの仮想円弧よりも背面123側に凹んだ部分、すなわち軸受本体121の中心部よりも肉厚が薄い部分である。なお下側半割軸受12における半径Riは、設計値としては、上側半割軸受11における半径Riと同一である。この例において、リリーフ部1221は、摺動面122の中心から合せ面124に向かうにつれて肉厚が薄くなる(真円からの乖離が大きくなる)。同様に、リリーフ部1222は、中心から合せ面125に向かうにつれて肉厚が薄くなる。
【0029】
この例において、リリーフ部1221及びリリーフ部1222は、中心Caと異なる中心D2から半径Rr2の円弧を描く。なお、Rr2>Riである。中心D2は、中心Caと軸受本体121の周方向の中心(θ=270°)とを結ぶ直線上において、中心Caよりも上側半割軸受11側に位置する。すなわち、リリーフ部1221及びリリーフ部1222が描く円弧の中心は、背面123が描く円弧の中心Caから偏心している。リリーフ部1221及びリリーフ部1222は、いわゆるオイルリリーフとして当業者に知られているものである。
【0030】
図5は、上側半割軸受11の摺動面112の構造を例示する図である。図5は、クランクシャフト1の中心軸の位置から摺動面112を見た概略図である。図の左側がクランクシャフト1の回転方向上流側、右側が下流側である。摺動面112には、溝1125及び孔1126が形成される。孔1126は、ハウジングすなわち背面113側から供給される潤滑油を摺動面112に供給するための油孔である。溝1125は、孔1126から供給される潤滑油を保持し、また周方向に行き渡らせるための油溝である。溝1125は、孔1126に接続される。すなわち、溝1125は、孔1126と一部が重なる。溝1125は、摺動面112において周方向の中心Csを基準とし、上流側と下流側とで非対称である。より詳細には、下流側、すなわち中心Csから合せ面115までは半周すべてに渡って溝1125が形成されているが、上流側、すなわち中心Csから合せ面114までは周方向の一部のみに溝1125が形成されている。より詳細には、中心Csから合せ面114までにおいて、中心Cs寄り(すなわち下流側)の一部のみに溝1125が形成されている。一例において、回転方向の下流側の溝1125は60°≦θ≦180°の範囲に形成される。溝1125が形成される領域が第1領域の一例である。一方で、0°≦θ<60°の範囲に溝1125は形成されない。この領域が第2領域の一例である。なお、下側半割軸受12の摺動面122には、溝及び孔は形成されない。
【0031】
以上をまとめると、主軸受10においては、上側半割軸受11と下側半割軸受12とで摺動面のプロファイルが異なっている。すなわち摺動面のプロファイルが上下非対称である。摺動面プロファイルが上下非対称であることにより、上側半割軸受11の平均クリアランスは、下側半割軸受12の平均クリアランスよりも小さい。ここで、平均クリアランスとは、軸受の相手軸として想定されるシャフトが理想的な位置(シャフトの軸心が中心Caと同一である位置)と仮定した場合に、軸方向に垂直な断面においてシャフトと半割軸受との間に形成される隙間の面積をいう。正確にはこの面積を軸方向に積分して得られる体積が平均クリアランスであるが、軸方向において摺動面の形状が均一である場合には、特定の断面における面積を比較すれば十分である。なお従来は、上下とも下側半割軸受12のような摺動面の形状を有する半割軸受(上下対称)を用いることがほとんどであった。以下、主軸受10をこのように設計した理由を説明する。
【0032】
図6は、内燃機関の運転中において軸心が移動する様子を例示する図である。本願発明者らの研究によれば、ある種の内燃機関において、その運転中におけるクランクシャフト1の軸心は、主軸受10の摺動面のプロフィール(形状)に沿って移動する(例えば、円を描くように移動する)のではなく、特定の領域(この例では下側半割軸受12側の領域)に偏った移動をする。このような知見の下、内燃機関の振動及び騒音を低減したいという課題に対しては、軸心の移動を制限するというのが一つの解である。
【0033】
このような状況の下、本願の発明者らは、上側半割軸受11においては軸心の移動を制限するため、摺動面112において真円の部分をなるべく広くとるという着想に至った。しかし、摺動面112をすべて真円とすると、油膜圧力が形成されにくくなってしまうという問題がある。そこで本願の発明者らは、真円部に加えてリリーフ部を設ける着想に至った。本願発明者らの研究によれば、軸心の移動量を抑制する観点から、真円部1122の中心角は60°以上であることが好ましい。また、適正な油膜圧力を得る観点から、真円部1122の中心角は120°以下であることが好ましい。
【0034】
図7は、溝1125の意義を説明する図である。例えば、上側半割軸受11と下側半割軸受12とが軸方向に垂直な断面においてずれて取り付けられた場合、クランクシャフト1の回転方向に沿ってみると、下側半割軸受12から上側半割軸受11に移行する部分(図の破線丸部分)において、クランクシャフト1と摺動面とのクリアランスが急に広くなってしまう可能性がある(図6ではずれを誇張して描いてある)。本実施形態においては、特に上側半割軸受11側において軸心の移動を抑制する趣旨であるが、下側半割軸受12から上側半割軸受11に移行する部分においてクリアランスが広くなると、油膜圧力が低下し、軸心の移動を抑制する効果が低下してしまうおそれがある。そこで本実施形態では、上側半割軸受11の回転方向上流側においては、摺動面積を確保し油膜圧力の低下を抑制する目的で、溝1125が形成されない領域を設けている。これにより、例えば周方向の全周に渡って溝を形成する構成と比較すると、摺動面積が確保され油膜圧力の低下を抑制することが期待される。
【0035】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例のうち2つ以上のものが組み合わせて用いられてもよい。
【0036】
上述の実施形態においては、上側半割軸受11及び下側半割軸受12のいずれも、いわゆるクラッシリリーフを有さない例を説明した。しかし、上側半割軸受11及び下側半割軸受12の少なくともいずれか一方が、シャフトの回転方向上流側及び下流側の少なくともいずれか一方の合せ面近傍においてクラッシリリーフを有してもよい。
【0037】
上側半割軸受11及び下側半割軸受12の摺動面の形状はいずれも例示である。例えば、上側半割軸受11におけるリリーフ部1121及びリリーフ部1123の形状は、実施形態で説明したような円弧形状に限定されない。直線を描くもの、2次曲線を描くものなど、リリーフ部1121及びリリーフ部1123の形状はどのようなものであってもよい。
【0038】
上述の実施形態においては、上側半割軸受11の摺動面112のプロファイルが左右対称である例を説明した。しかし、摺動面112のプロファイルは左右非対称であってもよい。この場合において、リリーフ部1121及びリリーフ部1123の一方が省略されてもよい。
【0039】
上述の実施形態においては、上側半割軸受11の平均クリアランスが下側半割軸受12の平均クリアランスよりも小さい例を説明した。しかし、上側半割軸受と下側半割軸受とにおける平均クリアランスの大小関係が入れ替えられてもよい。すなわち、上側半割軸受の平均クリアランスが下側半割軸受の平均クリアランスよりも大きくてもよい。
【0040】
主軸受10の摺動面に形成される孔、溝、又は凹凸等の表面形状は、実施形態において例示されたものに限定されない。例えば、摺動面112は溝1125及び孔1126を有していなくてもよい。あるいは、下側半割軸受12の摺動面122に、孔、溝、及び凹凸の少なくとも1種の表面形状が形成されてもよい。
【0041】
本発明の滑り軸受は、自動車の内燃機関における主軸受として用いられるものに限定されない。内燃機関において主軸受以外の軸受として用いられたり、自動車において内燃機関以外の部分に用いられたり、自動車以外の装置において用いられてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…クランクシャフト、2…コネクティングロッド、10…主軸受、11…上側半割軸受、12…下側半割軸受、12…半割軸受、20…コンロッド軸受、30…クランクワッシャ、111…軸受本体、112…摺動面、113…背面、114…合せ面、115…合せ面、121…軸受本体、122…摺動面、123…背面、124…合せ面、125…合せ面、1121…リリーフ部、1122…真円部、1123…リリーフ部、1125…溝、1126…孔、1221…リリーフ部、1222…リリーフ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7