IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

特許7204585表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法
<>
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図1
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図2
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図3
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図4
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図5
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図6
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図7
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図8
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図9
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図10
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図11
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図12
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図13
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図14
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図15
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図16
  • 特許-表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/356 20140101AFI20230106BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20230106BHJP
   B24C 1/10 20060101ALI20230106BHJP
   B23P 17/00 20060101ALI20230106BHJP
   C21D 7/06 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
B23K26/356
B23K26/00 M
B24C1/10 G
B23P17/00 A
C21D7/06 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019111700
(22)【出願日】2019-06-17
(65)【公開番号】P2020203298
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角谷 利恵
(72)【発明者】
【氏名】椎原 克典
(72)【発明者】
【氏名】辻 明宏
(72)【発明者】
【氏名】久保 達也
(72)【発明者】
【氏名】千田 格
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-102871(JP,A)
【文献】特開2018-168761(JP,A)
【文献】特開2008-36682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
B24C 1/00 - 11/00
B23P 5/00 - 17/06、23/00 - 25/00
C21D 7/00 - 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工対象の表面の表面処理を行う表面処理装置の施工条件を導出する表面処理条件導出装置であって、
前記表面処理による前記表面における圧縮残留応力とこれに起因する引張残留応力を含む応力分布を関係づける残留応力データを収納する残留応力データベースと、
前記施工対象の前記表面の圧縮残留応力および圧縮残留応力の深さと前記表面処理装置の前記施工条件とを関係づける施工条件残留応力データを収納する表面処理条件データベースと、
前記表面処理により前記施工対象の前記表面に付加する圧縮残留応力の値を設定する圧縮応力設定部と、
前記残留応力データベースに基づいて前記圧縮残留応力に起因して生ずる引張残留応力を導出する引張応力導出部と、
前記引張残留応力に基づいて前記施工対象の健全性が確保されるか否かを判定する判定部と、
前記判定部により前記施工対象の健全性が確保されると判定された場合に前記施工条件残留応力データを用いて表面処理条件を導く施工条件導出部と、
を具備することを特徴とする表面処理条件導出装置。
【請求項2】
前記残留応力データは、前記施工対象への前記表面処理により前記表面に前記圧縮残留応力を加えた場合の、前記圧縮残留応力の深さTと内部に生じる引張残留応力σの関係を示すデータを含むことを特徴とする請求項1に記載の表面処理条件導出装置。
【請求項3】
前記圧縮残留応力に起因する前記引張残留応力について、前記施工対象の健全性が維持可能な閾値に関する疲労データを収納する疲労データベースと、
前記疲労データベースを用いて、前記引張残留応力の前記閾値を導出する閾値導出部と、
をさらに備え、
前記判定部は、前記引張応力導出部が導出する前記引張残留応力が前記閾値導出部により導出される前記閾値未満であるか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面処理条件導出装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記引張応力導出部が導出する前記引張残留応力が前記施工対象の耐力に基づいて設定された閾値未満であるか否かを判定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面処理条件導出装置。
【請求項5】
前記耐力に基づいて設定された前記閾値は、前記耐力の0.5倍の値であることを特徴とする請求項4に記載の表面処理条件導出装置。
【請求項6】
前記表面処理は、レーザピーニングであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の表面処理条件導出装置。
【請求項7】
前記施工対象に前記表面処理を行う前記表面処理装置と、
前記表面処理装置の前記施工条件を導出する請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の表面処理条件導出装置と、
を備えることを特徴とする表面処理システム。
【請求項8】
圧縮応力設定部が、表面処理による表面の圧縮残留応力を設定する圧縮残留応力設定ステップと、
引張応力導出部が、残留応力データベースを用いて、前記圧縮残留応力に基づいて引張残留応力を導出する引張応力導出ステップと、
前記引張残留応力は、閾値未満であるか否かを判定する判定ステップと、
を有し、
前記判定ステップで健全性が確保されていないと判定された場合は、前記圧縮残留応力設定ステップ以下を繰り返し、前記判定ステップで健全性が確保されていると判定された場合は、表面処理条件データベースを用いて表面処理条件を導出する、ことを特徴とする表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、表面処理条件導出装置、表面処理システムおよび表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、疲労強度向上や応力腐食割れの発生予防方法として、ショットピーニング、レーザショックピーニング、レーザピーニング、ウォータジェットピーニング、超音波ピーニングなどの処理法があり、それらの技術は機器に適用されている。これらの処理法によって、機器の対象とする部材の表面に圧縮の残留応力を付与することができる。
【0003】
タービン動翼およびタービンロータの製造方法において、バニシング加工で圧縮残留応力を付与する技術が知られており、圧縮残留応力をより大きくより深く導入することを目的に、圧縮残留応力の絶対値を制御している。
【0004】
また、超音波打撃処理によって圧縮残留応力を付与して高強度機械部品の疲労特性を向上させる技術が知られている。ピーニング用のシステムを用いて超音波ピーニングを行い、被施工物に圧縮残留応力を付与するものであり、たとえば、切欠き部表層の圧縮残留応力を300ないし1500MPaと指定している。
【0005】
また、銅-亜鉛系合金のスライドファスナーの製造方法において、その過程における処理として、ショットピーニング、ショットブラスト、サンドブラストおよび鋼球ショットブラストを用いる技術が知られている。さらに、硬引きばねの製造方法の一工程としてショットピーニングを行う技術、引張残留応力の発生部分にショットピーニングを行うことを特徴としている複合磁性部材の製造方法などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5997937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の技術においては、いずれも残留応力が圧縮残留応力となるように制御しており、残留応力の値を制御して、圧縮残留応力を導入する例もあるが、深さについてはより深く導入することを目的としているものはあるものの、深さの値を制御するものではない。
【0008】
施工部位が十分大きい場合には、圧縮残留応力が大きく、深くまで圧縮残留応力が導入される方が有効である。すなわち、構造物の疲労や応力腐食割れなどの割れ発生を予防し、さらに、割れが生じた場合においても、割れの進展を妨げる等、効果がより大きく作用する。
【0009】
一方、施工部位の板厚が薄い場合、あるいは施工対象が小さい場合においては、圧縮残留応力を導入した場合に、その圧縮残留応力に釣り合うように内部に引張残留応力が生じるが、この引張残留応力が施工対象に亀裂を生ずる等の悪影響を及ぼす場合がある。
【0010】
そこで、本発明の実施形態は、表面処理の施工対象の内部の残留応力を適切に制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本実施形態に係る表面処理条件導出装置は、施工対象の表面の表面処理を行う表面処理装置の施工条件を導出する表面処理条件導出装置であって、前記表面処理による前記表面における圧縮残留応力とこれに起因する引張残留応力を含む応力分布を関係づける残留応力データを収納する残留応力データベースと、前記施工対象の前記表面の圧縮残留応力および圧縮残留応力の深さと前記表面処理装置の前記施工条件とを関係づける施工条件残留応力データを収納する表面処理条件データベースと、前記表面処理により前記施工対象の前記表面に付加する圧縮残留応力の値を設定する圧縮応力設定部と、前記残留応力データベースに基づいて前記圧縮残留応力に起因して生ずる引張残留応力を導出する引張応力導出部と、前記引張残留応力に基づいて前記施工対象の健全性が確保されるか否かを判定する判定部と、前記判定部により前記施工対象の健全性が確保されると判定された場合に前記施工条件残留応力データを用いて表面処理条件を導く施工条件導出部と、を具備することを特徴とする。
【0012】
また、本実施形態に係る表面処理システムは、前記施工対象に表面処理を行う表面処理装置と、前記表面処理装置の前記施工条件を導出する前述の表面処理条件導出装置と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本実施形態に係る表面処理方法は、圧縮応力設定部が、表面処理による表面の圧縮残留応力を設定する圧縮残留応力設定ステップと、引張応力導出部が、残留応力データベースを用いて、前記圧縮残留応力に基づいて引張残留応力を導出する引張応力導出ステップと、前記引張残留応力は、閾値未満であるか否かを判定する判定ステップと、を有し、前記判定ステップで健全性が確保されていないと判定された場合は、前記圧縮残留応力設定ステップ以下を繰り返し、前記判定ステップで健全性が確保されていると判定された場合は、表面処理条件データベースを用いて表面処理条件を導出する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、表面処理の施工対象の内部の残留応力を適切に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施形態に係る表面処理システムの構成を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態に係る表面処理方法の表面処理による残留応力の分布を示す説明図である。
図3】第1の実施形態に係る表面処理方法の表面処理による残留応力の分布について補足する比較図であり、(a)は板厚が厚い場合、(b)は板厚が薄い場合を示す。
図4】第1の実施形態に係る表面処理システムの表面処理条件導出装置の残留応力データベースに収納された残留応力データの例を示すTc/T-σ/σ関係図である。
図5】第1の実施形態に係る表面処理システムの表面処理条件導出装置の疲労データベースの疲労データ採取のための第1のサンプルグループを示す比較図であり、同一の厚みのサンプルで(a)、(b)、(c)の順に表面処理の程度が大きくなっている場合を示す比較図である。
図6】第1の実施形態に係る表面処理システムの表面処理条件導出装置の疲労データベースの疲労データ採取のための第2のサンプルグループを示す比較図であり、表面処理の程度が同一で(a)、(b)、(c)の順に厚みが薄くなっている場合を示す比較図である。
図7】第1の実施形態に係る表面処理システムの表面処理条件導出装置の表面処理条件データベースに収納されている表面処理条件データの例を示す表である。
図8】第1の実施形態に係る表面処理方法の手順を示すフロ―図である。
図9】第1の実施形態に係る表面処理方法の対象となる施工対象の一部を示す説明図である。
図10】第2の実施形態に係る表面処理システムの構成を示すブロック図である。
図11】第2の実施形態に係る表面処理方法の手順を示すフロ―図である。
図12】第2の実施形態に係る表面処理方法の対象となる第1の施工対象の一部を示す説明図である。
図13】第2の実施形態に係る表面処理方法において、第1の施工対象の場合のTc/T-σ/σ関係図を用いたTc/Tの導出の説明図である。
図14】第2の実施形態に係る表面処理方法の対象となる第2の施工対象の一部を示す説明図である。
図15】第2の実施形態に係る表面処理方法において、第2の施工対象の場合のTc/T-σ/σ関係図を用いたTc/Tの導出の説明図である。
図16】第2の実施形態に係る表面処理方法の対象となる第3の施工対象の一部を示す説明図である。
図17】第2の実施形態に係る表面処理システムの表面処理条件導出装置の残留応力データベースに収納された第3の施工対象の残留応力データの例を示すTc/D-σ/σ関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る表面処理システムおよび表面処理方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重畳説明は省略する。
【0017】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る表面処理システムの構成を示すブロック図である。
【0018】
表面処理システム300は、表面処理条件導出装置100および表面処理装置200を有する。以下、表面処理として、レーザピーニングによる場合を例にとって示す。
【0019】
表面処理条件導出装置100は、入力部110、記憶部120、演算部130、出力部140、およびこれらの処理プロセスの進行を統合的に制御する制御部150を有する。
【0020】
入力部110は、施工対象1の属性等の外部入力を読み込む。その他の入力としては、表面処理装置200の特性、表面処理装置200との取り合い条件等がある。また、後述する表面に付加する圧縮残留応力の初期値、あるいは圧縮残留応力を変更する必要がある場合のサーベイの方法に関する条件等を入力として受け入れてもよい。
【0021】
記憶部120は、残留応力データベース121、疲労データベース122、および表面処理条件データベース123を有する。
【0022】
演算部130は、圧縮応力設定部131、引張応力導出部132、閾値導出部133、判定部134、および施工条件導出部135を有する。
【0023】
圧縮応力設定部131は、表面処理による表面の圧縮残留応力σc(図2)の設定を行う。
【0024】
引張応力導出部132は、圧縮応力設定部131によって設定された表面の圧縮残留応力σc、深さTcおよび施工対象1の板厚T等に基づいて、残留応力データベース121を用いて、引張残留応力σを導出する。
【0025】
閾値導出部133は、疲労データベース122を用いて、施工対象1の材料、板厚、表面の圧縮残留応力σc等に応じて、圧縮残留応力σcに起因する引張残留応力σの閾値σTTを導出する。
【0026】
判定部134は、引張応力導出部132で導出された引張残留応力σが、閾値導出部133で導出された閾値σTTより小さいか否かを判定する。閾値σTTより小さいと判定された場合は、表面処理後の施工対象1の健全性は確保され、圧縮応力設定部131により設定された圧縮残留応力σcが妥当であると判断される。
【0027】
施工条件導出部135は、圧縮応力設定部131により設定された圧縮残留応力σcが妥当である、すなわち、健全性が確保されると判定部134が判定した場合に、表面の圧縮残留応力σcに基づいて、表面処理条件データベース123を用いて、表面処理の施工条件を導出する。
【0028】
出力部140は、施工条件導出部135が導出した表面処理の施工条件を、表面処理装置200に出力する。
【0029】
図2は、本実施形態に係る表面処理方法の表面処理による残留応力の分布を示す説明図である。図2は、施工対象1が板材である場合に、その両側の表面から表面処理を実施して、圧縮残留応力を導入した場合の施工対象1内の内部残留応力分布を模式的に示すものである。
【0030】
表面の圧縮残留応力の大きさがσ、圧縮残留応力が付加されている厚み方向の深さがTとなる表面処理を両側の表面から施工した場合、内部には、この圧縮残留応力にバランスするように、引張残留応力σが生じる。この引張残留応力の大きさσは、以下の式(1)が成り立つとして求めることができる。この式の左辺は、応力σに断面積dAを乗じて求められる力を全断面に対して積分したことを表しており、残留応力の場合、外力が作用しないため、この値は右辺に示すように0になる。
【0031】
【数1】
ここで、σは残留応力、Aは面積である。
この引張残留応力σは表面の圧縮残留応力σ、圧縮残留応力の深さTおよび施工対象の板厚Tまたは直径Dで異なる。
【0032】
図2では、引張残留応力の大きさσは、厚み方向に一定であると仮定している。
【0033】
図3は、表面処理方法の表面処理による残留応力の分布について補足する比較図であり、(a)は板厚が厚い場合、(b)は板厚が薄い場合を示す。(a)の板厚が厚い場合および(b)の板厚が薄い場合のいずれの場合においても、両側の表面に付加された圧縮残留応力σcの大きさおよび圧縮残留応力が付加されている板厚方向の深さTcの値も共通である。
【0034】
このように、板材の両側の表面に付加された圧縮残留応力σcの大きさが同じであっても、前述の式(1)から、(a)に示す板材の板厚Tが(b)に示す板材の板厚Tより大きな場合は、(a)に示す板材中の引張残留応力σT1より(b)に示す板材中の引張残留応力σT2の値が大きくなる。すなわち、T>Tの場合、σT1<σT2となる。
【0035】
図4は、表面処理条件導出装置の残留応力データベースに収納された残留応力データの例を示すTc/T-σ/σ関係図である。図4は、施工対象1としての平板の表面に表面処理で圧縮残留応力σcを加えた場合の、圧縮残留応力の深さTと内部に生じる引張残留応力σの関係を示す図である。
【0036】
図4の横軸は、板厚Tに対する圧縮残留応力が付加されている範囲の深さTの比T/Tであり、縦軸は表面の圧縮残留応力σとこれにより内部に生ずる引張残留応力σとの比を示すものである。圧縮残留応力を(-)、引張残留応力を(+)で表す。したがって、縦軸のσ/σの値はマイナスの値となる。
【0037】
図4の曲線Aは、両面施工、すなわち両側表面からレーザピーニング施工等の表面処理を行った場合、曲線Bは、片面施工、すなわち片側のみについて表面処理を行った場合を示す。
【0038】
今、まず、図3に示した両側表面からレーザピーニング施工等の表面処理を行った場合、を考える。図3の(a)の場合に対応する点をP、(b)の場合に対応する点をPとする。すなわち、Pは、板厚Tの値がTかつ引張残留応力σの値がσT1に対応し、Pは、板厚Tの値がTかつ引張残留応力σの値がσT2に対応するとする。図3に示すように、表面の圧縮残留応力σcの大きさおよびこれにより圧縮残留応力が付加されている板厚方向の深さTcの値が共通の場合は、T>Tなら、σT1<σT2となる。これを図4の座標軸に当てはめれば、横軸の値は、T/T<T/Tとなり、縦軸の値は、σT1/σ>σT1/σとなる。したがって、P(T/T、σT1/σ)はP(T/T、σT2/σ)に比べて、横軸の値および縦軸の値ともに小さな絶対値となる。ただし、前述のように、圧縮残留応力σcの符号をマイナスとしていることから、図4に示すように、グラフは右下がりの曲線となる。これに対応するのが、曲線Aである。
【0039】
次に、片面施工、すなわち施工対象1の片側の面のみについて表面処理を行った場合を考える。この場合、引張残留応力σを生ずる圧縮残留応力σcが一方の面側のみに付与されていることから、両面施工と同等の引張残留応力σが生ずるには、板厚Tを低減させる必要が生ずる。すなわち、より薄い板厚T11の場合に、曲線Aの条件の引張残留応力σは、これを生ずる一方の面側のみに付与された圧縮残留応力とバランスすることになる。
【0040】
したがって、図4の座標上では、曲線A上の点Pと、これと同じ値の引張残留応力σに対応する片側施工の場合の点P11とを比較すると、点P11に対応する板厚Tが小さい、すなわち、Tc/Tの値が大きいことになる。したがって、点P11の横軸の値および縦軸の値は、それぞれ点Pの横軸の値より大きくかつ縦軸とは等しいことになる。このように、曲線は、曲線Aを横軸方向に拡大した形状となる。
【0041】
図5は、表面処理条件導出装置の疲労データベースの疲労データ採取のための第1のサンプルグループを示す比較図であり、同一の厚みのサンプルで(a)、(b)、(c)の順に表面処理の程度が大きくなっている場合を示す比較図である。
【0042】
図5は、表面処理条件導出装置の疲労データベースの疲労データ採取のため、同一の厚みのサンプルで、表面処理の圧縮残留応力σcの絶対値が(a)、(b)、(c)の順に|σc|<|σc|<|σc|と順次大きくなっており、この結果、圧縮残留応力の深さTも(a)、(b)、(c)の順にTc<Tc<Tcと順次大きくなっている場合を示す比較図である。
【0043】
いずれも板厚Tであるが、圧縮残留応力の深さTも(a)、(b)、(c)の順にTc<Tc<Tcと順次大きくなっていることによって、圧縮残留応力が付加されていない領域の厚さTが、(a)、(b)、(c)の順にTT1>TT2>TT3と順次小さくなっている。このため、前述の式(1)により、圧縮残留応力による圧縮側の荷重とバランスするように、圧縮残留応力が付加されていない厚さTの領域に生ずる引張残留応力σは、(a)、(b)、(c)の順に、σT1<σT2<σT3と大きくなる。
【0044】
なお、図5では、サンプルが3つある場合を示しているが、これに限定されない。すなわち、サンプルの数が2つ、あるいは4つ以上であってもよい。
【0045】
このように、実際の施工対象1と同じ材料・同じ厚みで、表面処理条件、すなわち付与する圧縮残留応力σcを、σc1からσcm(|σc1|<・・・<|σcm|)まで変えた複数のサンプルを作成し、疲労試験を実施することにより、引張応力σの閾値σTTの値を確認する。具体的には、σc1、・・・、σcnについては、サンプルは疲労試験で破断せず、σcn+1、・・・、σcmについては、サンプルが疲労試験で破断したとすると、|σcn|<|σTT|<|σcn+1|と判断される。
【0046】
また、同様のサンプルについて、疲労試験により破断寿命を確認する。
【0047】
図6は、表面処理条件導出装置の疲労データベースの疲労データ採取のための第2のサンプルグループを示す比較図であり、表面処理の程度が同一で(a)、(b)、(c)の順に厚みが薄くなっている場合を示す。すなわち、表面処理の圧縮残留応力σcがσcと一定で、圧縮残留応力の深さTもTcと一定の場合に、施工対象1の板厚Tが、(a)、(b)、(c)の順にT>T>Tと順次小さくなっている場合を示す。
【0048】
この場合、圧縮残留応力が付加されていない領域の厚さTが、(a)、(b)、(c)の順にTT1>TT2>TT3と順次小さくなっている。このため、前述の式(1)により、圧縮残留応力による圧縮側の荷重とバランスするように、圧縮残留応力が付加されていない厚さTの領域に生ずる引張残留応力σは、(a)、(b)、(c)の順に、σT1<σT2<σT3と大きくなる。
【0049】
なお、図6では、サンプルが3つある場合を示しているが、これに限定されない。すなわち、サンプルの数が2つ、あるいは4つ以上であってもよい。
【0050】
このように、実際の施工対象1と同じ材料・同じ厚みで、表面処理条件、すなわち付与する圧縮残留応力σcを、σc0の一定値とし、施工対象1の板厚Tを変えた複数のサンプルを作成し、疲労試験を実施することにより、引張応力σの閾値σTTの値を確認する。具体的には、σc1、・・・、σcjについては、サンプルは疲労試験で破断せず、σcj+1、・・・、σckについては、サンプルが疲労試験で破断したとすると、|σcj|<|σTT|<|σcj+1|と判断される。
【0051】
また、同様のサンプルについて、疲労試験により破断寿命を確認する。
【0052】
これらのように、付与された引張残留応力が異なる試験材を用いた試験により設定したしきい値を定め、疲労データベースに収納する。または、疲労試験結果そのものを収納して、設定される条件(部材が実際に供される環境で受ける引張応力や、部品の交換サイクルに基づいて定めた破断寿命の下限値等)に基づいて、疲労試験結果のデータを参照してしきい値を呼び出す構成であってもよい。
【0053】
疲労試験は、部材に求める性能に応じた試験を実施すればよい。例えば、特定の引張応力σc1による疲労に対して所定の破断寿命を有すればよい場合は、各試験材に付与応力σc1による疲労試験を実施し、所定以上の破断寿命が得られた試験材に付与された引張残留応力をしきい値とする。より具体的には、試験材A~F(引張残留応力の大きさは試験材A>B>C・・・とする)について疲労試験を行い、試験材C、D、Eが所定の破断寿命を超えた場合は、試験材Cに付与された引張残留応力を上限値とする。ここで、引張残留応力が上限値よりも十分低ければ、一般的には表面近傍の圧縮残留応力が高いほど破断寿命の改善効果を期待できる。
【0054】
また、部材が供される環境で受ける応力に幅がある場合等の必要に応じ、各試験材を複数用意し、異なる付与応力σc1、σc2、σc3・・・で、それぞれ疲労試験を行い、破断寿命を記録してもよい。
【0055】
さらに、所定の疲労回数に対して健全か否かが分かれば十分な場合は、破断寿命ではなく所定の疲労回数において健全かき裂が生じたかを記録することでもよい。
【0056】
これらは一例であり、これらに限定されるものではない。また、多数の疲労データから、統計的に、あるいは安全側の余裕をとって、施工対象1の形状、寸法ごとに引張残留応力σの閾値σTTを対応させる表形式の疲労データとしてもよい。
【0057】
図7は、表面処理システムの表面処理条件導出装置の表面処理条件データベースに収納されている表面処理条件データの例を示す表である。
【0058】
レーザピーニングは、パルスレーザのエネルギ、照射径、パルス密度等の施工条件を調節することにより、表面の圧縮残留応力σcの大きさや圧縮残留応力の付加された深さTを制御することが可能である。そのため、それらの施工条件と表面の圧縮残留応力σc、圧縮残留応力の深さTの関係がわかる施工条件残留応力データを事前に作成し、表面処理条件データベース123に収納しておく。レーザピーニング以外の表面処理方法においても、表面の圧縮残留応力の大きさや圧縮残留応力の深さに対応する施工条件を施工条件残留応力データとして事前に作成し、表面処理条件データベース123に収納しておく。
【0059】
これは、施工対象1と同等の材料から加工した試験片に様々な条件の表面処理を施して、残留応力を測定して求めたものある。内部残留応力は、電解研磨とX線回折法による残留応力測定で逐次電解研磨をしてその表面の残留応力を測定することで求めることができる。あるいは、穿孔法やき裂コンプライアンス法、中性子回折法による測定等、ほかの方法で求めることでもよい。
【0060】
図7に示す表面処理条件データの例では、各行にそれぞれのデータが配置されている。具体的には、施工条件に関するデータおよび圧縮残留応力に関するデータである。
【0061】
施工条件に関するデータとしては、項目1から項目3の3つの項目があり、具体的には、それぞれ、レーザパルスのエネルギ、レーザパルスの照射径およびパルス密度である。なお、これら以外の項目を追加してもよい。また、レーザピーニング以外の方式の場合は、それぞれに対応する施工条件に対応する項目のデータとする。
【0062】
圧縮残留応力に関するデータとしては、圧縮残留応力σcおよび圧縮残留応力の深さTである。
【0063】
図8は、第1の実施形態に係る表面処理方法の手順を示すフロ―図である。表面処理方法は、大別して、表面処理条件導出装置100が表面処理条件を導出する表面処理条件導出ステップS10と、表面処理装置200が表面処理を実施する表面処理実施ステップS20を有する。
【0064】
以下に、表面処理条件導出ステップS10の詳細を説明する。
【0065】
まず、圧縮応力設定部131が、表面処理による表面の圧縮残留応力σcの値の設定を行う(ステップS11)。
【0066】
次に、ステップS11において設定された表面の圧縮残留応力σcに基づいて、引張応力導出部132が、残留応力データベース121を用いて、表面処理により生ずる圧縮残留応力が付加されている深さTc、および引張残留応力σを導出する(ステップS12)。
【0067】
次に、閾値導出部133が、疲労データベース122から対象とする疲労データにアクセスし、引張残留応力σの閾値σTTを導出する(ステップS13)。なお、疲労データベース122に、必要とする対象データ、すなわち施工対象1の形状、材料等に対応する表面処理後の疲労データのそのものが、存在しない場合は、関連する複数の疲労データから内挿してもよい。あるいは、必要な疲労データを疲労データベース122に追加して、それを用いてもよい。
【0068】
次に、判定部134が、表面処理後の施工対象1について健全性が確保されているか否かを判定する(ステップS14)。具体的には、判定部134が、圧縮応力設定部131が設定した表面の圧縮残留応力σcに基づいて引張応力導出部132が導出した引張残留応力σが、閾値導出部133が導出した引張残留応力σの閾値σTT未満であるか否か、すなわち表面処理後の施工対象1の健全性が確保されているか否かを判定する。
【0069】
判定部134が、表面処理後の施工対象1について健全性が確保されているとは判定しなかった場合(ステップS14 NO)には、ステップS11の表面処理による圧縮残留応力の設定に戻り、表面処理による圧縮残留応力の設定を変更した上で、ステップS14までを繰り返す。表面処理による圧縮残留応力の設定の変更の方法としては、所定の幅で、一方向に変化させる方法でもよい。あるいは、広い幅を設定し、その両側から、たとえば、幅を順次半分とし、かつ、望ましい側を選択する方法によってもよい。
【0070】
判定部134が、表面処理後の施工対象1について健全性が確保されていると判定した場合(ステップS14 YES)には、施工条件導出部135が表面処理条件を導出する(ステップS15)。すなわち、圧縮応力設定部131が設定した表面の圧縮残留応力σcと引張応力導出部132が導出した圧縮応力が付加される深さTcに基づいて、表面処理条件データベース123を用いて、表面処理の施工条件を導出する。
【0071】
ステップS15においては、施工条件導出部135は、圧縮応力設定部131が設定した表面の圧縮残留応力σcと引張応力導出部132が導出した圧縮残留応力が付加される深さTcに対応する表面処理条件データを選択する。
【0072】
しかしながら、対応する表面処理条件データがない場合は、設定された表面の圧縮残留応力σcおよび深さTcの条件に近い条件の表面処理条件データを摘出し、内挿を行う。
【0073】
たとえば、引張応力導出部132が導出した表面の圧縮残留応力σcおよび深さTcの値が、それぞれσc、Tcであるとする。一方、圧縮残留応力σcに関しては、|σc|<|σc|<|σc|となるσcに最も近いσc、σcに対応し、かつ、深さTcに関しては、Tc<Tc<TcとなるTcに最も近いTc,Tcに対応する表面処理条件データを摘出する。この場合、表面の圧縮残留応力σcに関してもこれに近いものを摘出する。
【0074】
このようにして得られた4つの表面処理条件データについて、表面の圧縮残留応力σcおよび深さTcの値について内挿することによって、圧縮残留応力σcおよび深さTcの表面処理条件データを導出する。このようにして内挿された表面処理の施工条件、すなわち、レーザピーニングの場合には、内挿されたパルスレーザのエネルギ、照射径、パルス密度等の施工条件が導出される。
【0075】
以上のように、表面処理条件導出装置100は、表面処理の施工条件を導出し、その結果を、出力部140から、表面処理装置200に出力する。
【0076】
表面処理装置200は、表面処理条件導出装置100の出力部140から受け入れた表面処理の施工条件、すなわち、たとえばレーザピーニングの場合には、パルスレーザのエネルギ、照射径、パルス密度等の施工条件に基づいて、施工対象1にレーザパルスを出力し、レーザピーニング施工を実施する。
【0077】
以上のように、本実施形態により内部の残留応力を適切に制御することができる。
【0078】
図9は、本実施形態に係る表面処理方法の対象となる施工対象の一部を示す説明図である。図9は、円孔10をもつ施工対象1を示す図であり、白抜き矢印方向すなわち引張方向に外力Fが負荷されると、x方向について引張応力σ(x)に分布が生ずる。すなわち、マクロには、引張応力σT0は、外力Fを断面積Sで除したF/Sとなるが、応力集中により、図の破線で示すように、円孔10の孔内表面11近傍の応力σTPが高くなる。このため、孔内表面11から割れが発生して破壊に至ることがある。
【0079】
そこで、孔内表面11に表面処理を実施して、応力集中部に、圧縮残留応力を付与する。
【0080】
図4に示した曲線Aおよび曲線Bは、同じ施工対象1の板厚Tに対して、圧縮残留応力を付与する場合、両面施工、片面施工のいずれの場合においても、圧縮残留応力の深さTが深くなると内部の引張残留応力σが高くなることを示している。また、表面の圧縮残留応力σでその深さがTの圧縮残留応力を付与する場合、施工対象の板厚Tが薄くなると内部の引張残留応力σが高くなることを示している。
【0081】
通常、引張応力を負荷されたときに割れが生じやすくなる。レーザピーニング等の表面処理を施すと表面に圧縮残留応力が生じ、その圧縮残留応力の重畳効果で、表面における正味の応力は圧縮残留応力となり、割れの発生を抑制することができる。また、仮に内表面から割れが発生した時に圧縮残留応力が作用し、割れの進展を抑制する効果もある。
【0082】
なお、孔内表面11に表面処理を施した場合に、隣り合う円孔10どうしの距離が短く、圧縮残留応力に釣り合うように生じる引張残留応力が悪影響を及ぼすことも予想できる。このため、残留応力データベース121を用いて、悪影響を及ぼさないように表面処理条件を決めることができる。
【0083】
[第2の実施形態]
図10は、第2の実施形態に係る表面処理システムの構成を示すブロック図である。本第2の実施形態に係る表面処理システムは、第1の実施形態における表面処理条件導出装置が有する閾値導出部133および疲労データベース122を有していない。なお、閾値は、判定部134aが内蔵している。
【0084】
図11は、第2の実施形態に係る表面処理方法の手順を示すフロ―図である。第1の実施形態においては、たとえば、閾値導出部133が疲労データベース122を用いて引張残留応力σの閾値σTTを導出するが、本実施形態では、疲労データベース122の疲労データによるのではなく、異なる判定基準を使用する。このため、本第2の実施形態に係る表面処理方法は、第1の実施形態における閾値導出部133による疲労データの読み出しステップを有しない。
【0085】
本実施形態に係る表面処理方法においては、健全性確保の有無の判定ステップ(ステップS24)では、内部の引張残留応力σの判定基準を所定の値として、判定を行う。以上の点以外は、第1の実施形態と同様である。
【0086】
したがって、本実施形態に係る表面処理方法における手順は、表面処理による表面の圧縮残留応力σcの値の設定(ステップS11)以下健全性判定(ステップS24)までのステップが続く。
【0087】
ステップS24の健全性確保の有無の判定ステップでは、引張残留応力σの閾値σTTとして、所定の値を用いる。
【0088】
所定の値としては、たとえば、耐力に基づく値を用いることができる。金属材料においては、一般的に疲労限度は引張強さの0.5倍と言われている。また、レーザピーニングを施工した場合、一般的に表面の圧縮残留応力σの絶対値は最大でも耐力レベルになると考えられる。そこで、本実施形態では、たとえば、引張強さよりも低い耐力を用いて、引張残留応力σの閾値σTTを耐力の0.5倍として判定基準として用いる。ここで、耐力としては、たとえば、0.2%耐力を用いることができる。
【0089】
以下、この判定方法に基づいた実施例を示す。
【0090】
図12は、第2の実施形態に係る表面処理方法の対象となる第1の施工対象の一部を示す説明図である。第1の施工対象1aは、板状の部材を、フルペネトレーションの突き合わせ溶接を行った部分である。レーザピーニング施工は、図12に断面形状を示すような溶接継手の突き合わせ溶接部2近傍の両面に実施した。図13は、第1の施工対象の場合のTc/T-σ/σ関係図を用いたTc/Tの導出の説明図である。
【0091】
図13に示すように、表面の残留圧縮応力σについてσ/σがマイナス0.5となるような、板厚Tに対する圧縮残留応力の深さT/Tを、曲線Aを用いて求めると、T/Tは約0.25となる。このため、圧縮残留応力の深さTが板厚Tの0.25倍より小さくなるようにレーザピーニング施工条件を決めて、施工を行った。
【0092】
図14は、第2の実施形態に係る表面処理方法の対象となる第2の施工対象の一部を示す説明図である。第2の施工対象1bは、板材であり、直交部材4が、フルペネトレーションの隅肉溶接部3で結合している。図15は、第2の施工対象の場合のTc/T-σ/σ関係図を用いたTc/Tの導出の説明図である。
【0093】
隅肉溶接部3の片側に表面処理がなされる。第1の施工対象1aの場合と同様に、表面残留応力の絶対値は耐力と同程度になると考えられるため、図15に示すように、σ/σがマイナス0.5となるような、板厚Tに対する圧縮残留応力の深さT/Tを、曲線Aを用いて求めると、T/Tは約0.5となる。したがって、圧縮残留応力の深さTが板厚Tの0.5倍より小さくなるように表面処理条件を決めて、施工を行った。
【0094】
図16は、第3の施工対象の一部を示す説明図である。第3の施工対象1cは直径Dの円形断面の構造物であり、深さTcの圧縮残留応力を施した場合を示す。また、図17は、第3の施工対象1cの残留応力データの例を示すTc/D-σ/σ関係図である。
【0095】
円形断面の場合には、外表面に全周にわたり表面処理を行うことと、外側の周長の方が、内側の周長よりも大きく、断面積が大きくなるため、同じ圧縮残留応力深さでも、これにバランスする引張応力は平板の場合よりも大きくなり、平板よりも厳しい条件となる。図17に示すように、σ/σがマイナス0.5となる第3の施工対象1cの直径Dに対する圧縮残留応力の深さの比T/Dを求めると、約0.14となる。したがって、圧縮残留応力の深さTが円形構造物の直径Dの0.14よりも小さくなるような表面処理条件を決めて、施工を行った。
【0096】
以上のように、本第2の実施形態においては、健全性の確保の判断を、耐力をベースとした適切な値とすることにより、疲労データを採取する必要がなく、より短期間でレーザ施工条件を設定することができる。
【0097】
[その他の実施形態]
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0098】
たとえば、第2の実施形態において、表面処理の対象とした第1ないし第3の施工対象は、第1の実施形態における対象として扱ってもよい。
【0099】
さらに、実施形態では、表面処理の方法としてレーザピーニングを用いた場合を例にとって示したが、これに限定されない。たとえば、ショットピーニング、ウォータジェットピーニング、超音波ピーニングを用いる場合であってもよい。
【0100】
また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。さらに、これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0101】
1…施工対象、1a…第1の施工対象、1b…第2の施工対象、1c…第3の施工対象、2…突き合わせ溶接部、3…隅肉溶接部、4…直交部材、10…円孔、11…孔内表面、100…表面処理条件導出装置、110…入力部、120…記憶部、121…残留応力データベース、122…疲労データベース、123…表面処理条件データベース、130…演算部、131…圧縮応力設定部、132…引張応力導出部、133…閾値導出部、134、134a…判定部、135…施工条件導出部、140…出力部、150…制御部、200…表面処理装置、300…表面処理システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17