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特許7204604原子力プラントの健全性評価装置、方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】原子力プラントの健全性評価装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/00 20060101AFI20230106BHJP
【FI】
G21C17/00 110
G21C17/00 050
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019131089
(22)【出願日】2019-07-16
(65)【公開番号】P2021015085
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲村 岳
(72)【発明者】
【氏名】藁科 正彦
(72)【発明者】
【氏名】片山 洋
(72)【発明者】
【氏名】樋口 智一
(72)【発明者】
【氏名】大熊 俊司
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-177085(JP,A)
【文献】特開2002-340726(JP,A)
【文献】特開昭62-285172(JP,A)
【文献】特開平4-313195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00-17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の基礎に支持された建屋の振動応答を解析する建屋モデルを格納するデータベースと、
前記建屋に支持された設備の振動応答を解析する第1設備モデル及びこの第1設備モデルよりも高精度な第2設備モデルを格納するデータベースと、
少なくとも前記建屋に設けられている複数の振動センサが検出した振動検出データを受信する受信部と、
前記振動センサの位置データ及び前記振動検出データを前記建屋モデルに入力し、前記建屋の任意位置における建屋振動解析データを出力する建屋振動解析部と、
前記第1設備モデルに前記建屋振動解析データを入力し、前記設備の任意位置における第1設備振動解析データを出力する第1設備振動解析部と、
前記第1設備振動解析データに基づいて前記設備の任意位置における第1損傷度を演算する第1演算部と、
前記第1損傷度とその許容度との比が閾値を超えている前記設備の任意位置を注目位置として判定する判定部と、
前記第2設備モデルに前記建屋振動解析データを入力し、前記注目位置における第2設備振動解析データを出力する第2設備振動解析部と、
前記第2設備振動解析データに基づいて前記注目位置における第2損傷度を演算する第2演算部と、
前記第2損傷度とその許容度との比が閾値を超えている前記注目位置を選択して表示する表示部と、を備える原子力プラントの健全性評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の原子力プラントの健全性評価装置において、
前記建屋モデルは、弾性ばね質点モデル、弾塑性ばね質点モデル及び有限要素モデルのいずれかであり、
第1設備モデルは、弾性ばね質点モデルであり、
第2設備モデルは、弾塑性ばね質点モデル及び有限要素モデルのいずれかである原子力プラントの健全性評価装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の原子力プラントの健全性評価装置において、
前記第1損傷度及び第2損傷度の各々は、前記第1設備振動解析データ及び前記第2設備振動解析データで表される負荷の、繰り返し数、最大加速度、最大応力及び最大歪みの少なくとも一つに基づいて演算される原子力プラントの健全性評価装置。
【請求項4】
請求項3に記載の原子力プラントの健全性評価装置において、
前記第1損傷度及び前記第2損傷度の各々が前記繰り返し数に基づいて演算される場合、過去に演算された前記第1損傷度及び前記第2損傷度の各々を前記設備の任意位置毎に積算する処理も併せて実施される原子力プラントの健全性評価装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の原子力プラントの健全性評価装置において、
過去に演算された前記第1損傷度を時系列に外挿して前記閾値を超える耐用期限を推定する推定部を備える原子力プラントの健全性評価装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の原子力プラントの健全性評価装置において、
前記位置データにおける前記建屋振動解析データが、対応する前記振動検出データに同化するように、前記建屋モデル及び前記建屋振動解析部の少なくとも一方を調整するデータ同化部を備える原子力プラントの健全性評価装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の原子力プラントの健全性評価装置において、
複数の前記位置データの各々における前記振動検出データの最大値が表された振動空間分布を形成する形成部と、
発生要因の異なる複数の前記振動空間分布のパターンを格納するデータベースと、
いずれの前記パターンに前記振動空間分布が合致するかに基づいて前記振動検出データが由来する発生要因を判定する判定部と、
前記発生要因が物体の衝突と判定された場合、前記建屋の外に設けられた複数のカメラが撮影した画像データに写っている前記物体を特徴点として追跡する追跡部と、
追跡した前記特徴点が前記建屋に衝突するときの衝突位置及び衝突速度を推定する位置・速度推定部と、
予め登録されている前記物体の属性及びその重量のデータベースに基づいて、前記画像データに写る前記物体の属性を特定し前記特徴点の重量を推定する重量推定部と、を備え、
前記特徴点の前記衝突位置、前記衝突速度及び前記重量を前記建屋振動解析部に入力させる原子力プラントの健全性評価装置。
【請求項8】
請求項7に記載の原子力プラントの健全性評価装置において、
前記建屋の外に設けられた距離センサから発信される距離データにより前記特徴点の前記衝突位置及び前記衝突速度を補正する原子力プラントの健全性評価装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の原子力プラントの健全性評価装置において、
前記特徴点の前記重量、前記衝突位置及び前記衝突速度を組み合わせた複数のパターンの各々を予め前記建屋振動解析部に入力して出力させておいた前記建屋振動解析データを登録しておく原子力プラントの健全性評価装置。
【請求項10】
地盤の基礎に支持された建屋の振動応答を解析する建屋モデルを格納するステップと、
前記建屋に支持された設備の振動応答を解析する第1設備モデル及びこの第1設備モデルよりも高精度な第2設備モデルを格納するステップと、
少なくとも前記建屋に設けられている複数の振動センサが検出した振動検出データを受信するステップと、
前記振動センサの位置データ及び前記振動検出データを前記建屋モデルに入力し、前記建屋の任意位置における建屋振動解析データを出力するステップと、
前記第1設備モデルに前記建屋振動解析データを入力し、前記設備の任意位置における第1設備振動解析データを出力するステップと、
前記第1設備振動解析データに基づいて前記設備の任意位置における第1損傷度を演算するステップと、
前記第1損傷度とその許容度との比が閾値を超えている前記設備の任意位置を注目位置として判定するステップと、
前記第2設備モデルに前記建屋振動解析データを入力し、前記注目位置における第2設備振動解析データを出力するステップと、
前記第2設備振動解析データに基づいて前記注目位置における第2損傷度を演算するステップと、
前記第2損傷度とその許容度との比が閾値を超えている前記注目位置を選択して表示するステップとを、含む原子力プラントの健全性評価方法。
【請求項11】
コンピュータに、
地盤の基礎に支持された建屋の振動応答を解析する建屋モデルを格納するステップ、
前記建屋に支持された設備の振動応答を解析する第1設備モデル及びこの第1設備モデルよりも高精度な第2設備モデルを格納するステップ、
少なくとも前記建屋に設けられている複数の振動センサが検出した振動検出データを受信するステップ、
前記振動センサの位置データ及び前記振動検出データを前記建屋モデルに入力し、前記建屋の任意位置における建屋振動解析データを出力するステップ、
前記第1設備モデルに前記建屋振動解析データを入力し、前記設備の任意位置における第1設備振動解析データを出力するステップ、
前記第1設備振動解析データに基づいて前記設備の任意位置における第1損傷度を演算するステップ、
前記第1損傷度とその許容度との比が閾値を超えている前記設備の任意位置を注目位置として判定するステップ、
前記第2設備モデルに前記建屋振動解析データを入力し、前記注目位置における第2設備振動解析データを出力するステップ、
前記第2設備振動解析データに基づいて前記注目位置における第2損傷度を演算するステップ、
前記第2損傷度とその許容度との比が閾値を超えている前記注目位置を選択して表示するステップを、実行させる原子力プラントの健全性評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、外部負荷が作用した原子力プラントの健全性評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
洪水、風(台風)、竜巻、火山等の自然現象や、飛来物、爆発、船舶等衝突等の人為現象によって、原子力プラントに外部負荷が作用する場合が想定される。このような場合、原子力プラントに、認識容易な損傷以外に、認識困難な損傷も発生している可能性がある。そこで、原子力プラントを安全に停止させるため、そのような損傷部位を正確に把握し、その上で事故対応を適切に実施することが求められる。関連性のある公知技術として、地震により停止した原子力プラントの健全性を、地震計で取得した信号を用いて評価する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-227298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の公知技術は、原子力プラントに作用する外部負荷が地震力に限定され、外部負荷を一般化して取り扱っていない。つまり上述の公知技術は、原子力プラントの構造物全体に一様に作用する外部負荷のみが考慮されている。このため上述の公知技術は、局所的に作用した外部負荷による破損や高振動数成分による応答に、対応することができない。
【0005】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、外部負荷の作用が局所的であっても信頼性の高い健全性評価が可能な原子力プラントの健全性評価技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る原子力プラントの健全性評価装置において、地盤の基礎に支持された建屋の振動応答を解析する建屋モデルを格納するデータベースと、前記建屋に支持された設備の振動応答を解析する第1設備モデル及びこの第1設備モデルよりも高精度な第2設備モデルを格納するデータベースと、少なくとも前記建屋に設けられている複数の振動センサが検出した振動検出データを受信する受信部と、前記振動センサの位置データ及び前記振動検出データを前記建屋モデルに入力し、前記建屋の任意位置における建屋振動解析データを出力する建屋振動解析部と、前記第1設備モデルに前記建屋振動解析データを入力し前記設備の任意位置における第1設備振動解析データを出力する第1設備振動解析部と、前記第1設備振動解析データに基づいて前記設備の任意位置における第1損傷度を演算する第1演算部と、前記第1損傷度とその許容度との比が閾値を超えている前記設備の任意位置を注目位置として判定する判定部と、前記第2設備モデルに前記建屋振動解析データを入力し前記注目位置における第2設備振動解析データを出力する第2設備振動解析部と、前記第2設備振動解析データに基づいて前記注目位置における第2損傷度を演算する第2演算部と、前記第2損傷度とその許容度との比が閾値を超えている前記注目位置を選択して表示する表示部と、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態により、外部負荷の作用が局所的であっても信頼性の高い健全性評価が可能な原子力プラントの健全性評価技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態が適用される原子力プラントの概略図。
図2】第1実施形態に係る原子力プラントの健全性評価装置(一部)のブロック図。
図3】第1実施形態に係る原子力プラントの健全性評価装置(他の部分)のブロック図。
図4】第1実施形態に係る原子力プラントの健全性評価方法及び健全性評価プログラムのフローチャート。
図5】第2実施形態に係る原子力プラントの健全性評価装置のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態が適用される原子力プラント10の概略図である。この原子力プラント10は、地盤11に基礎12が形成され、この基礎12の上に建屋が支持されている。この建屋は、原子炉建屋、タービン建屋及びその他付帯設備の建屋等に分類される。それぞれの建屋は、外界との境界を成す外壁、隣接する区域を区画する床壁や縦壁等で構成されている。図1においては、斜線でハッチングされた構造物が建屋である。
【0010】
そして、この原子力プラント10の内部には、この建屋に支持された多数の設備18が設置されている。この設備18としては、矢示される原子炉圧力容器18以外に、図示が省略されるタービン、各種配管、ポンプ等の機器が例示されているが、これらに限定されるものではない。
【0011】
そして、この建屋の壁面には、振動を検出する振動センサ15、原子力プラント10に接近する物体19を動画撮影するカメラ17、この物体19との距離を検出する距離センサ(図示略)が設けられている。なお原子力プラント10に接近する物体19として、空からの飛翔体を例示しているが、海または陸からの移動体である場合もある。またこれらセンサは、地震、津波漂流物、竜巻など自然事象をとらえることもできる。また、これらセンサは、建屋の壁面に限らず、この建屋に支持された設備18に設けられる場合もある。
【0012】
この原子力プラント10に物体19が接近して衝突すると、図2に示すように、振動センサ15が出力する振動検出データ16(16a,16b…)は、受信部26aで受信され、その位置データ27aとともに蓄積部28aに蓄積される。そして、この接近した物体19を撮影したカメラ17が出力する画像データ13(13a,13b…)は、受信部26bで受信され、その位置データ27bとともに蓄積部28bに蓄積される。この接近した物体19との距離を検出した距離センサが出力する距離データ14(14a,14b…)は、受信部26cで受信され、その位置データ27cとともに蓄積部28cに蓄積される。
【0013】
図2及び図3は第1実施形態に係る原子力プラントの健全性評価装置20A(以下、単に「健全性評価装置20A」という)のブロック図である。このように健全性評価装置20Aは、地盤11(図1)の基礎12に支持された建屋の振動応答を解析する建屋モデル25(25a,25b,25c)を格納するデータベースと、この建屋に支持された設備18の振動応答を解析する第1設備モデル21(弾性ばね質点モデル)及びこの第1設備モデル21よりも高精度な第2設備モデル22(22a,22b)(弾塑性ばね質点モデル又は有限要素モデル)を格納するデータベースと、少なくとも建屋に設けられている複数の振動センサ15が検出した振動検出データ16(16a,16b…)を受信する受信部26と、これら振動センサ15の位置データ27及び振動検出データ16を建屋モデル25に入力し建屋の任意位置における建屋振動解析データ29を出力する建屋振動解析部24と、第1設備モデル21に建屋振動解析データ29を入力し設備18の任意位置における第1設備振動解析データ35aを出力する第1設備振動解析部31と、この第1設備振動解析データ35aに基づいて設備18の任意位置における第1損傷度36aを演算する第1演算部37aと、この第1損傷度36aとその許容度45との比(第1算出部41aで求められる「裕度49a」)が閾値46を超えている設備18の任意位置を注目位置(第1注目位置43a)として判定する判定部42と、第2設備モデル22に建屋振動解析データ29を入力し注目位置(第1注目位置43a)における第2設備振動解析データ35bを出力する第2設備振動解析部32と、この第2設備振動解析データ35bに基づいて注目位置(第1注目位置43a)における第2損傷度36bを演算する第2演算部37bと、この第2損傷度36bとその許容度45との比(第2算出部41bで求められる「裕度49b」)が閾値46を超えている注目位置(第2注目位置43b)を選択して表示する表示部47と、を備えている。
【0014】
建屋モデル25(25a,25b,25c)は、弾性ばね質点モデル25a、弾塑性ばね質点モデル25b及び有限要素モデル25cのいずれかが採用されている。そして第1設備モデル21は弾性ばね質点モデルが採用され、第2設備モデル22は、弾塑性ばね質点モデル22a及び有限要素モデル22bのいずれかが採用される。なおこれらモデルのデータベースは、データ記憶部に記憶されている。
【0015】
損傷度演算部37は、第1演算部37a及び第2演算部37bから成るが、入力した設備振動解析データ35(35a,35b)に対し、共通の演算処理を実行して損傷度36(36a,36b)を出力する。第1演算部37aは、第1設備振動解析データ35aに基づいて設備18の任意位置における第1損傷度36aを演算する。そして第2演算部37bは、この第2設備振動解析データ35bに基づいて第1注目位置43aにおける第2損傷度36bを演算する。これら損傷度36(36a,36b)は、設備振動解析データ35(35a,35b)で表される負荷の、繰り返し数、最大加速度、最大応力及び最大歪みに基づいて演算されるものである。
【0016】
このうち損傷度36(36a,36b)が設備振動解析データ35(35a,35b)の最大加速度、最大応力及び最大歪みに基づいて演算される場合は、その瞬間値で健全性を評価することができる。よってこの場合、損傷度36(36a,36b)は、裕度の算出部41(41a,41b)に直接送られる。
【0017】
一方において損傷度36(36a,36b)が、設備振動解析データ35(35a,35b)の繰り返し数に基づいて演算される場合は、過去に蓄積された損傷度36(36a,36b)も加味して健全性を評価する必要がある。このため、繰り返し数に基づいて演算された損傷度36(36a,36b)は、設備18の設置当初にさかのぼって過去に演算された値が累積疲労損傷度39としてデータベースに蓄積されている。そして加算部38(38a,38b)において、設備18の任意位置毎に入力された損傷度36(36a,36b)に対し、累積疲労損傷度39が積算処理される。そして、このように積算処理されたうえで疲労損傷度36(36a,36b)は、裕度の算出部41(41a,41b)に送られる。
【0018】
さらに健全性評価装置20は、耐用期限の推定部48を備えている。この推定部48は、過去に演算された第1損傷度36aを時系列に外挿し、未来において閾値46を超える耐用期限を推定するものである。この推定された耐用期限に基づいて、対応する位置データ27に設置されている設備18の交換並びに修繕の時期を見極めることができる。
【0019】
さらに健全性評価装置20は、データ同化部(図示略)を備えている。このデータ同化部は、建屋モデル25及び建屋振動解析部24の少なくとも一方を調整することにより、振動センサ15の位置データ27における建屋振動解析データ29を、対応する振動検出データ16に同化させるものである。これにより、建屋の振動応答の解析精度を向上させ、原子力プラント10の健全性評価の信頼性を向上させることができる。
【0020】
建屋振動解析部24は、複数の振動センサ15の位置データ27及び振動検出データ16を建屋モデル25に入力し建屋の任意位置における建屋振動解析データ29を出力する。ここで建屋モデル25は、弾性ばね質点モデル、弾塑性ばね質点モデル及び有限要素モデルを例示しているが特に限定されない。建屋の振動応用の解析は、それぞれの場所に応じて適切なモデルを採用して実施される。なおこの建屋振動解析データ29に対し、設備18の振動解析と同様に損傷度を演算し、裕度を算出し、閾値を超える注目位置を認定してもよい。
【0021】
第1設備振動解析部31は、第1設備モデル21を取得し建屋振動解析データ29を入力して、設備18の任意位置における第1設備振動解析データ35a出力する。ここで第1設備モデル21として例示される弾性ばね質点モデルは、建屋に接続されている各々の設備18を、弾性ばねと質点で表現したものである。この弾性ばね質点モデルは、簡易な演算式で高速演算が可能なために設備全体の振動特性をシミュレーションするスクリーニングに適している。なお、高速で全体をスクリーニングできるものであれば、第1設備モデル21として適宜採用される。
【0022】
裕度の算出部41は、第1算出部41a及び第2算出部41bから成るが、入力した損傷度36(36a,36b)に対し、共通の計算処理を実行してそれぞれの裕度49(49a,49b)を出力する。この裕度49は、損傷度36の逆数を、その許容値で乗算したものである。この裕度49が大きい値をとるほど健全性が高く、小さい値をとるほど健全性が悪化していることを示す。
【0023】
判定部42は、第1判定部42a及び第2判定部42bから成るが、入力した裕度49(49a,49b)に対し、共通の判定処理を実行してそれぞれの注目位置43(43a,43b)を出力する。つまり判定部42は、裕度が閾値46を下側に超えた設備18の位置は健全性が低下しているために交換又は修理が必要な注目位置43としてフラグを立てる。なお、第1判定部42a及び第2判定部42bにおいて、適用する閾値46の値を変えてもよい。
【0024】
第2設備振動解析部32は、第2設備モデル22を取得し建屋振動解析データ29を入力して、第1注目位置43aにおける第2設備振動解析データ35bを出力する。ここで第2設備モデル22は弾塑性ばね質点モデル及び有限要素モデルのいずれかもしくは両方である。ここで弾塑性ばね質点モデルは、塑性変形の要素を加味したもので、弾性ばね質点モデル(第1設備モデル21)よりも高精度で設備18の振動特性をシミュレーションすることができる。また有限要素モデルは、建屋に接続されている各々の設備18を、小領域の要素に分割して、各要素毎にたてた方程式を補完関数で近似して振動特性をシミュレーションするものである。この有限要素モデルも、弾性ばね質点モデル(第1設備モデル21)よりも高精度で設備18の振動特性をシミュレーションすることができる。なお、第1設備モデル21よりも、高精度で設備18の振動特性をシミュレーションできるものであれば、第2設備モデル22として適宜採用される。
【0025】
表示部47は、第2設備モデル22で振動応答を解析した結果、損傷度36の大きいことが疑われる第2注目位置43bを選択して表示する。さらにそれ以外に表示部47は、第1設備モデル21で認定された第1注目位置43aを表示したり、第1設備モデル21及び第2設備モデル22の各々で算出された損傷度36や裕度49を表示したり、推定部48で推定された耐用期限を表示したりする。
【0026】
さらに表示部47は、損傷度36や裕度49をその大きさに応じて色彩や色の濃淡でマップ上に表示することもできる。さらに表示部47は、物体19の衝突位置を表示することもできる。さらに表示部47は、カメラ17が出力した画像データ13から推定される建屋周辺の温度分布を表示することもできる。これにより、物体衝突などの外的な事象により負荷が作用した原子力発電プラントの健全性評価結果を即座に周知することができ、事故対応に資することができる。
【0027】
図4は実施形態に係る原子力プラントの健全性評価方法及び健全性評価プログラムのフローチャートである(適宜、図1図3参照)。まず、建屋の振動応答を解析する建屋モデル25(25a,25b,25c)、設備18の振動応答を解析する第1設備モデル21及び第2設備モデル22(22a,22b)をデータベースに格納する(S11)。
【0028】
建屋に設けられている複数の振動センサ15が検出した振動検出データ16(16a,16b…)を受信部26で受信する(S12)。そして、建屋モデル25を取得し、これに振動センサ15の位置データ27及び振動検出データ16を入力し(S13)、建屋の任意位置における建屋振動解析データ29を出力する(S14)。
【0029】
次に、第1設備モデル21を取得し、これに建屋振動解析データ29を入力し(S15)、設備18の任意位置における第1設備振動解析データ35aを出力する(S16)。そして、この第1設備振動解析データ35aに基づいて設備18の任意位置における第1損傷度36aを演算する(S17)。
【0030】
次に、第1損傷度36aが、第1設備振動解析データ35aで表される負荷の繰り返し数に基づいて演算された疲労損傷度である場合(S18 Yes)、過去に演算された第1損傷度36aの各々を設備18の任意位置毎に積算する(S19)。なお、第1損傷度36aが、第1設備振動解析データ35aで表される負荷の最大加速度、最大応力及び最大歪みで基づいて演算された損傷度である場合(S18 No)、ステップ(S19)をジャンプする。
【0031】
次に、第1損傷度36aとその許容度45との比で求められる裕度49を設備18の任意位置に対して算出する(S20)。そしてこの裕度49が閾値46を下側に超えた設備18の任意位置を判定し(S21 Yes)、第1注目位置43aとして認定される(S22 Yes,S23)。そして、裕度49が閾値46を下側に超える設備18の任意位置が存在しなければ(S21 No)、プラントは健全性が保たれていると判定され、フローは終了する(END)。
【0032】
次に、第2設備モデル22を取得し、これに建屋振動解析データ29を入力し(S15)、設備18の第1注目位置43aにおける第2設備振動解析データ35bを出力する(S16)。そして、この第2設備振動解析データ35bに基づいて第1注目位置43aにおける第2損傷度36bを演算する(S17)。
【0033】
次に、第2損傷度36bが、第2設備振動解析データ35bで表される負荷の繰り返し数に基づいて演算された疲労損傷度である場合(S18 Yes)、過去に演算された損傷度36の各々を設備18の任意位置毎に積算する(S19)。ここで、今回演算で求めた第2損傷度36bが、対応する第1損傷度36aに置き換えられて積算される。つまり、第1設備モデルを用いた解析の結果で第1注目位置43aとして認定された箇所については、第2設備モデルを用いた解析によって、累積疲労損傷度が再計算される。なお、第2損傷度36bが、第2設備振動解析データ35bで表される負荷の最大加速度、最大応力及び最大歪みで基づいて演算された損傷度である場合(S18 No)、ステップ(S19)をジャンプする。
【0034】
次に、第2損傷度36bとその許容度45との比で求められる裕度49を設備18の第1注目位置43aに対して算出する(S20)。そしてこれら第1注目位置43aのうち裕度49が閾値46を下側に超えた第2注目位置43bを選択して表示部47に表示する(S21 Yes,S22 No,S24)。そして、裕度49が閾値46を下側に超える第1注目位置43aが存在しなければ(S21 No)、プラントは健全性が保たれていると判定され、フローは終了する(END)。
【0035】
(第2実施形態)
次に図5を参照して本発明における第2実施形態について説明する。図5は、第2実施形態に係る原子力プラントの健全性評価装置20B(以下、単に「健全性評価装置20B」という)のブロック図である。なお、図5において図3と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。第2実施形態の健全性評価装置20Bは、第1実施形態で説明した健全性評価装置20Aの構成に加え、さらに次の構成を備えている。
【0036】
すなわち健全性評価装置20Bは、複数の位置データ27の各々における振動検出データ16(16a,16b…)の最大値が表された振動空間分布(図示略)を形成する形成部51と、発生要因の異なる複数の振動空間分布のパターン53を格納するデータベースと、いずれのパターン53に振動空間分布が合致するかに基づいて振動検出データ16(16a,16b…)が由来する発生要因を判定する判定部52と、この発生要因が物体19(図1)の衝突と判定された場合に建屋の外に設けられた複数のカメラ17が撮影した画像データ13に写っている物体19を特徴点として追跡する追跡部54と、追跡した特徴点が建屋に衝突するときの衝突位置及び衝突速度を推定する位置・速度推定部57と、予め登録されている物体19の属性及びその重量56のデータベースに基づいて、画像データ13に写る物体19の属性を特定し特徴点の重量を推定する重量推定部55と、をさらに備えている。
【0037】
そしてこれら特徴点の衝突位置、衝突速度及び重量は、建屋振動解析部24において建屋モデル25に入力され、建屋の任意位置における建屋振動解析データ29が出力される。これ以降の処理は、既に説明した図3で表される健全性評価装置20A(第1実施形態)と同じである。
【0038】
形成部51は、過去に地震、暴風雨、落雷、竜巻等の発生要因で、建屋内に分散配置されている複数の振動センサ15が出力した振動検出データ16(16a,16b…)を取得する。この取得した振動検出データ16(16a,16b…)の最大値を、位置データ27に基づき原子力プラント10を表したマップに掲載し、振動空間分布として示す。
【0039】
このように発生要因の異なる複数の振動空間分布のパターン53がデータベースに格納されている。なおこのパターン53には、過去に経験した発生要因の実データで得られた振動空間分布以外にも、物体19の衝突といったような仮想的な発生要因に基づいてシミュレーションされた振動空間分布も含まれている。
【0040】
そして判定部52において、データベースに格納されている複数のパターン53の振動空間分布と、今回事象で検出された振動検出データ16(16a,16b…)から形成された振動空間分布と、のマッチングが行われる。そして、一致性の最も高い結果に基づいて、今回事象の発生要因が判定される。
【0041】
今回事象の発生要因が物体19(図1)の衝突と判定された場合は、カメラ17で撮影した画像データ13が、追跡部54に取得される。そしてこの画像データ13に写っている物体19を特徴点として、画像解析によりその軌跡が追跡される。
【0042】
そして位置・速度推定部57において、特徴点が建屋に衝突するときの衝突位置及び衝突速度が推定される。さらに重量推定部55において、予め登録されている物体19の属性及びその重量56のデータベースに基づいて、画像データ13に写る物体19の属性を特定し特徴点の重量が推定される。これら画像データ13に対する処理は、事前に登録された衝突物の画像データを用いてニューラルネットワークやサポートベクターマシンなどの機械学習を用いて解析することができる。
【0043】
ここで、衝突位置及び衝突速度の推定に関する機械学習の教師データは、飛翔体を原子力発電プラントに衝突させるシミュレーションによって得たものを用いる。より具体的には、飛翔体が原子力発電プラントへ衝突するシミュレーションによって、飛翔体の原子力発電プラントへの衝突位置および速度と、当該飛翔体をカメラ17で撮影した画像(CG)とを得る。複数のカメラ17それぞれによる撮影可否(撮影範囲に含まれるか)、撮影画像における飛翔体の位置、大きさ、1フレーム間における移動距離、等は、飛翔体の大きさ、原子力発電プラントへ飛来する方向、飛来速度等と関連性がある。そして、飛翔体の大きさ、飛来する角度、飛来速度は当然に原子力発電プラントへの衝突位置、衝突速度に関連する。なお、飛翔体そのものの種類、大きさ、重量、画像における向き等は、一般的な特徴点検出を用いた画像処理で得ることができる。
【0044】
このように、カメラ17によって撮影される画像と、飛翔体の衝突位置および衝突速度の関係をシミュレーションによって多数得て学習させることで、実際に複数のカメラ17で飛翔体を撮影したときに素早く高精度に衝突位置と衝突速度を推定することができる。
【0045】
さらに健全性評価装置20Bは、建屋の外に設けられた距離センサ(図示略)から発信される距離データ14(14a,14b…)により特徴点の衝突位置及び衝突速度を補正することができる。この距離センサとしては、レーザ等の電磁波を照射して物体19からの反射波を検出する計測原理を持つものが挙げられる。これにより、飛来物衝突などの外的な事象による荷重を受けた原子力発電プラントの健全性評価結果の信頼性を向上させることができる。
【0046】
さらに健全性評価装置20Bは、特徴点の重量、衝突位置及び衝突速度を組み合わせた複数のパターンの各々を予め建屋振動解析部24に入力して出力させておいた建屋振動解析データ29を登録しておくことができる。これにより、飛来物衝突などの外的な事象による負荷が作用した原子力発電プラントの健全性を即座に評価し事故対応に資することができる。
【0047】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の原子力プラントの健全性評価装置によれば、設備全体をスクリーニングする振動応答解析を第1設備モデルで実施し、損傷度が大きいと認定された位置の振動応答解析を第2設備モデルで精密に実施することにより、外部負荷の作用が局所的であっても信頼性の高い健全性評価が可能となる。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0049】
以上説明した原子力プラントの健全性評価装置は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。また、原子力プラントの健全性評価装置の構成要素は、コンピュータのプロセッサで実現することも可能であり、原子力プラントの健全性評価プログラムにより動作させることが可能である。
【符号の説明】
【0050】
10…原子力プラント、11…地盤、12…基礎、13…画像データ、14…距離データ、15…振動センサ、16…振動検出データ、17…カメラ、18…設備、18a…原子炉圧力容器(設備)、18b…タービン(設備)、18c…各種配管(設備)、18d…ポンプ(設備)、19…物体、20(20A,20B)…原子力プラントの健全性評価装置、21…第1設備モデル(弾性ばね質点モデル)、22…第2設備モデル、22a…弾塑性ばね質点モデル、22b…有限要素モデル、24…建屋振動解析部、25…建屋モデル、25a…弾性ばね質点モデル、25b…弾塑性ばね質点モデル、25c…有限要素モデル、26…受信部、27…位置データ、28…蓄積部、29…建屋振動解析データ、31…第1設備振動解析部、32…第2設備振動解析部、35(35a,35b)…設備振動解析データ(第1設備振動解析データ,第2設備振動解析データ)、36(36a,36b)…損傷度(第1損傷度,第2損傷度)、37(37a,37b)…演算部(第1演算部,第2演算部)、38…加算部、39…累積疲労損傷度、41(41a,41b)…算出部(第1算出部,第2算出部)、42a…判定部、42(42a,42b)…判定部(第1判定部,第2判定部)、43(43a,43)…注目位置(第1注目位置,第2注目位置)、45…許容度、46…閾値、47…表示部、48…推定部、49(49a,49b)…裕度、51…形成部、52…判定部、53…パターン、54…追跡部、55…重量推定部、56…重量、57…速度推定部。
図1
図2
図3
図4
図5