(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】改変型HSV gDタンパク質及びこれを含むワクチン
(51)【国際特許分類】
C07K 14/035 20060101AFI20230106BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230106BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230106BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20230106BHJP
A61K 39/245 20060101ALI20230106BHJP
C12N 15/38 20060101ALN20230106BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20230106BHJP
【FI】
C07K14/035 ZNA
C07K19/00
A61P37/04
A61P31/22
A61K39/245
C12N15/38
C12N15/62 Z
(21)【出願番号】P 2019539594
(86)(22)【出願日】2018-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2018032018
(87)【国際公開番号】W WO2019044925
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2017165681
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】森 泰亮
(72)【発明者】
【氏名】西村 知裕
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕之
(72)【発明者】
【氏名】河邉 昭博
(72)【発明者】
【氏名】片山 貴裕
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-057054(JP,A)
【文献】特表2003-517042(JP,A)
【文献】国際公開第2010/078518(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0172906(US,A1)
【文献】Vaccine,2016年,Vol.34, No.50,pp.6358-6366
【文献】Virology,2000年,Vol.266, No.1,pp.66-78
【文献】PLoS Biol.,2010年,Vol.8, No.12,e1000571
【文献】J. Virol.,2013年,Vol.87,pp.12656-12666
【文献】J. Virol.,2015年,Vol.89,pp.6619-6632
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単純ヘルペスウイルス(HSV)のエンベロープ糖タンパク質D(gD)の改変タンパク質(改変型HSV gDタンパク質)であって、野生型HSV gDのエクトドメイン(ectodomain)
の、配列番号1に記載のアミノ酸配列における50番目のプロリン残基に相当するアミノ酸残基への糖鎖導入よって行われる改変を含む、改変型HSV gDタンパク質。
【請求項2】
野生型HSV gDのエクトドメインの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における74番目のプロリン残基に相当するアミノ酸残基への糖鎖導入によって行われる改変
、及び/又は、
野生型HSV gDのエクトドメインの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における186番目のアルギニン残基に相当するアミノ酸残基への糖鎖導入によって行われる改変
を
さらに含む、請求項
1に記載の改変型HSV gDタンパク質。
【請求項3】
前記野生型HSV gDのエクトドメインは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなり、
前記
改変型HSV gDタンパク質は、
配列番号1に記載のアミノ酸配列における50番目のプロリン残基をアスパラギン残基に置換し、51番目のプロリン残基をプロリン残基以外のアミノ酸残基に置換することによって糖鎖導入されることによって行われる改変、
並びに
配列番号1に記載のアミノ酸配列における74番目のプロリン残基をアスパラギン残基に置換し、76番目のグルタミン酸残基をセリン残基に置換することによって糖鎖導入されることによって行われる改変、及び
/又は
配列番号1に記載のアミノ酸配列における186番目のアルギニン残基をアスパラギン残基に置換することによって糖鎖導入されることによって行われる改
変
を含む、
請求項
1に記載の改変型HSV gDタンパク質。
【請求項4】
前記糖鎖がN型糖鎖である、請求項
1~
3のいずれか一項に記載の改変型HSV gDタンパク質。
【請求項5】
前記改変型HSV gDタンパク質はさらに、HSV gDのエクトドメインのC末端側に少なくとも1つのプロミスキュアスT細胞エピトープが連結されている、請求項1~
4のいずれか一項に記載の改変型HSV gDタンパク質。
【請求項6】
前記プロミスキュアスT細胞エピトープは、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、又は、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるプロミスキュアスT細胞エピトープである、請求項
5に記載の改変型HSV gDタンパク質。
【請求項7】
前記プロミスキュアスT細胞エピトープは、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるプロミスキュアスT細胞エピトープである、請求項
6に記載の改変型HSV gDタンパク質。
【請求項8】
前記改変型HSV gDタンパク質はさらに、前記野生型HSV gDの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における251~315番目のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基の少なくとも一部の欠損を含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の改変型HSV gDタンパク質。
【請求項9】
前記改変型HSV gDタンパク質はさらに、野生型HSV gDのエクトドメインの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における231番目のバリン残基に相当するアミノ酸残基が、他のアミノ酸残基に置換されることによって行われる改変を含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の改変型HSV gDタンパク質。
【請求項10】
前記HSVが、HSV-1又はHSV-2である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の改変型HSV gDタンパク質。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の改変型HSV gDタンパク質を含む、HSVワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変型HSV gDタンパク質及びこれを含むワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus、HSV)はヒトに広く蔓延している病原体である。dsDNA virusであるHSVはアルファヘルペスウイルス亜科に属し、HSV-1とHSV-2という二つの血清型が存在する。HSVはヒトに脳炎、髄膜炎、口唇ヘルペス、性器ヘルペス、皮膚疾患、角膜ヘルペス、全身性の新生児ヘルペス等多様な疾患を引き起こす。このようにHSVは医療衛生上極めて重要なウイルスであり、実際にアシクロビルやバラシクロビル等の効果的な抗ウイルス剤が開発されている。
【0003】
しかしながら、これまでに開発されている抗HSV剤は感染細胞内で増殖中のウイルスDNAの複製を阻害するものであるため、DNAの状態で神経節内部に潜伏感染しているHSVには効果を示さない。つまり、HSVに感染してしまった場合、潜伏感染部位からHSVを除去することは既存の抗HSV剤では不可能である。このような状況を打破するためには、初感染防御及び再発防御に共に有効な新規ワクチンの開発が必要である。
【0004】
感染症を引き起こす病原体は、従来型ワクチンで十分な効果を得ることができるClass I群病原体と、従来型ワクチンや病原体感染歴では十分な防御免疫を獲得できないClass II群病原体とに大別される。Class II群病原体の防御が難しい理由として、それらが有する巧妙な免疫逃避機構が指摘されている。HSVはClass II群病原体に分類されるが、これはHSVが免疫逃避機構を有し、宿主の免疫反応を巧妙にくぐり抜けているからであると考えられている。HSVワクチン開発に関しては、これまで弱毒生ワクチンやアジュバント不活化ワクチンを用いた検討が試みられてきたが、いずれもT細胞免疫、及びB細胞免疫共に応答が不十分であり、自然感染後に得られる不十分な免疫応答のレベルと大差無いものであった。
【0005】
HSVは細胞表面への吸着、ウイルスレセプターとの会合、細胞膜とウイルスエンベロープの膜融合といったステップを通じて宿主細胞への侵入を達成する。このシステムは複数のウイルスエンベロープタンパク質が宿主細胞膜タンパク質と会合することによって引き起こされる。これまで、エンベロープ糖タンパク質B(gB)、エンベロープ糖タンパク質C(gC)、エンベロープ糖タンパク質D(gD)、エンベロープ糖タンパク質H(gH)、エンベロープ糖タンパク質L(gL)が知られており、これらのウイルスエンベロープタンパク質のうち、初めにgDが宿主細胞膜レセプターであるherpesvirus entry mediator(HVEM)、Nectin-1、又はNectin-2と複合体を形成する。複合体については結晶構造が報告されている(非特許文献1、2)。構造変化したgDはgH/gLと相互作用し、活性化されたgH/gLはさらにgBを活性化させる(非特許文献3)。gBはレセプターである3-O-sulfonated heparan sulfate (3-OS HS)又はPILRαを通じて膜融合の主な機能を担っていると考えられている(非特許文献4、5)。このように、HSV gDのレセプターへの結合がウイルス侵入のトリガーとなっていることが示唆されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】S. A. Connollyら、“Structure-Based Analysis of the Herpes Simplex Virus Glycoprotein D Binding Site Present on Herpesvirus Entry Mediator HveA (HVEM)”, JOURNAL OF VIROLOGY, Vol. 76, No. 21, Nov. 2002, pages 10894-10904, ISSN: 0022-538X
【文献】P. Di Giovineら、“Structure of Herpes Simplex Virus Glycoprotein D Bound to the Human Receptor Nectin-1”, PLoS Pathogens, Vol. 9, No. 7, Sep. 2011
【文献】S. D. Stampferら、“Stuck in the middle: structural insights into the role of gH/gL heterodimer in herpesvirus entry”, Curr Opin Virol, Vol. 3, No. 1, Feb. 2013, pages 13-19
【文献】E. Trybalaら、“Herpes Simplex Virus Types 1 and 2 Differ in Their Interaction with Heparan Sulfate”, JOURNAL OF VIROLOGY, Vol. 74, No. 19, Oct. 2000, pages 9106-9114, ISSN: 0022-538X
【文献】J. Wangら、“Binding of Herpes Simplex Virus Glycoprotein B (gB) to Paired Immunoglobulin-Like Type 2 Receptor α Depends on Specific Sialylated O-Linked Glycans on gB”, JOURNAL OF VIROLOGY, Vol. 83, No. 24, Dec. 2009, pages 13042-13045, ISSN: 0022-538X
【文献】A. Carfiら、“Herpes Simplex Virus Glycoprotein D Bound to the Human Receptor HveA”, Molecular Cell, Vol. 8, No. 1, July. 2001, pages 169-179
【文献】C. Krummenacherら、“Structure of unliganded HSV gD reveals a mechanism for receptor-mediated activation of virus entry”, The EMBO Journal, Vol. 24, 2005, pages 4144-4153
【文献】N. Farleyら、“Recurrent vaginal shedding of herpes simplex type 2 virus in the mouse and effects of antiviral therapy”, Antiviral Res. 2010 May; 86(2): 188-195.
【文献】J. R. Gallagherら、“Displacement of the C terminus of herpes simplex virus gD is sufficient to expose the fusion-activating interfaces on gD”, JOURNAL OF VIROLOGY, Vol. 87, No. 23, Dec. 2013, pages 12656-12666, ISSN: 0022-538X
【文献】D. Eggink ら、“Guiding the immune response against influenza virus hemagglutinin toward the conserved stalk domain by hyper glycosylation of the globular head domain”, JOURNAL OF VIROLOGY, Vol. 88, No. 1, Jan. 2014, pages 699-704, ISSN: 0022-538X
【文献】Lu. Gら、“Crystal structure of herpes simplex virus 2 gD bound to nectin-1 reveals a conserved mode of receptor recognition”, JOURNAL OF VIROLOGY, Vol. 88, No. 23, Dec. 2014, pages 13678-13688
【文献】Lee. CC ら、“Structural basis for the antibody neutralization of herpes simplex virus.”, Acta Crystallogr D Biol Crystallogr, Vol. 69, Oct. 2013, pages 1935-45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、HSVの治療にはアシクロビル等の抗ウイルス薬が用いられている。しかし、これらの抗ウイルス薬は、ウイルスを完全に除去することはできず、また服用を中止するとウイルスが再活性化する。そのため、HSVの感染そのものを防御する予防用ワクチン或いは再発症状を軽減緩和する治療用ワクチンの開発が望まれるが、現在、有効なワクチンは存在せず、そのアンメットニーズは高い。
【0008】
本発明は、免疫誘導に際して、野生型HSV gDに比べて、HSV gDに対する高い中和活性を示す中和抗体の含有割合が高い免疫血清を誘導でき、HSV感染症の予防及び/又は治療に利用し得る、改変型HSV gDタンパク質及びこれを含むワクチンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、HSVの主要な防御抗原の一つとして知られているgDタンパク質に関して、網羅的なB細胞エピトープ解析及びT細胞エピトープ解析を行い、防御活性発現において有益なエピトープと無益又は有害なエピトープとに分類することを試みた。そして、無益又は有害なエピトープを脱エピトープ化し、有益なエピトープを免疫的に際立たせることによって、或いはプロミスキュアスT細胞エピトープ等の有益なエピトープを付加することによって、イムノ・リフォーカス(Immune refocusing)を誘導し、その中和抗体誘導能や細胞性免疫を増強させ、その結果として感染防御能を増強させた改変型HSV gDワクチンを完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の各発明に関する。
(1)単純ヘルペスウイルス(HSV)のエンベロープ糖タンパク質D(gD)の改変タンパク質(改変型HSV gDタンパク質)であって、野生型HSV gDのエクトドメイン(ectodomain)において、レセプター結合ドメイン(RBD)に存在するB細胞エピトープと比較して、中和抗体誘導活性が低い又は無いB細胞エピトープ(デコトープ)の少なくとも1つがエピトープとして機能しないように改変された、改変型HSV gDタンパク質。
(2)RBDに存在するB細胞エピトープが、配列番号1に記載のアミノ酸配列における134番目のアルギニン残基、139番目のアスパラギン酸残基、及び222番目のアルギニン残基からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基を含むエピトープである、(1)の改変型HSV gDタンパク質。
(3)デコトープは、gDエクトドメインのN末端プロリン・リッチ領域(PRR)に存在するB細胞エピトープである、(1)又は(2)の改変型HSV gDタンパク質。
(4)デコトープは、
野生型HSV gDのエクトドメインの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における50番目のプロリン残基に相当するアミノ酸残基を含むエピトープ、又は、
野生型HSV gDのエクトドメインの結晶構造の表面において、上記50番目のプロリン残基に相当するアミノ酸からの距離が1.5nm以下の領域に存在する少なくとも1つのアミノ酸残基を含むエピトープ
である、(3)の改変型HSV gDタンパク質。
(5)デコトープの改変は、アミノ酸残基の置換、アミノ酸残基の欠損、及び/又はアミノ酸残基の置換又は欠損によって糖鎖導入されることによって行われる、(1)~(4)のいずれかの改変型HSV gDタンパク質。
(6)デコトープの改変は、デコトープの改変は、野生型HSV gDのエクトドメインの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における50番目のプロリン残基に相当するアミノ酸残基への糖鎖導入よって行われる改変を含む、(5)の改変型HSV gDタンパク質。
(7)デコトープの改変は、野生型HSV gDのエクトドメインの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における74番目のプロリンに相当するアミノ酸残基への糖鎖導入によって行われる改変を含む、(5)又は(6)の改変型HSV gDタンパク質。
(8)デコトープの改変は、野生型HSV gDのエクトドメインの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における186番目のアルギニンに相当するアミノ酸残基への糖鎖導入によって行われる改変を含む、(5)~(7)のいずれかの改変型HSV gDタンパク質。
(9)野生型HSV gDのエクトドメインは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなり、
デコトープの改変は、
配列番号1に記載のアミノ酸配列における50番目のプロリン残基をアスパラギン残基に置換し、51番目のプロリン残基をプロリン残基以外のアミノ酸残基に置換することによって糖鎖導入されることによって行われる改変、
配列番号1に記載のアミノ酸配列における74番目のプロリン残基をアスパラギン残基に置換し、76番目のグルタミン酸残基をセリン残基に置換することによって糖鎖導入されることによって行われる改変、及び
配列番号1に記載のアミノ酸配列における186番目のアルギニン残基をアスパラギン残基に置換することによって糖鎖導入されることによって行われる改変、
からなる群より選択される少なくとも1つの改変を含む、(5)の改変型HSV gDタンパク質。
(10)糖鎖がN型糖鎖である、(5)~(9)のいずれかの改変型HSV gDタンパク質。
(11)改変型HSV gDタンパク質はさらに、HSV gDのエクトドメインのC末端側に少なくとも1つのプロミスキュアスT細胞エピトープが連結されている、(1)~(10)のいずれかの改変型HSV gDタンパク質。
(12)プロミスキュアスT細胞エピトープは、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、又は、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるプロミスキュアスT細胞エピトープである、(11)の改変型HSV gDタンパク質。
(13)プロミスキュアスT細胞エピトープは、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるプロミスキュアスT細胞エピトープである、(12)の改変型HSV gDタンパク質。
(14)改変型HSV gDタンパク質はさらに、野生型HSV gDの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における251~315番目のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基の少なくとも一部の欠損を含む、(1)~(13)のいずれかの改変型HSV gDタンパク質。
(15)改変型HSV gDタンパク質はさらに、野生型HSV gDのエクトドメインの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における231番目のバリン残基に相当するアミノ酸残基が、他のアミノ酸残基に置換されることによって行われる改変を含む、(1)~(14)のいずれかの改変型HSV gDタンパク質。
(16)HSVが、HSV-1又はHSV-2である、(1)~(15)のいずれかの改変型HSV gDタンパク質。
(17)(1)~(16)のいずれかの改変型HSV gDタンパク質を含む、HSVワクチン。
(18)単純ヘルペスウイルス(HSV)のエンベロープ糖タンパク質D(gD)の改変タンパク質(改変型HSV gDタンパク質)であって、野生型HSV gDのエクトドメイン(ectodomain)において、gDエクトドメインのN末端プロリン・リッチ領域(PRR)に存在するB細胞エピトープの少なくとも1つがエピトープとして機能しないように改変された、改変型HSV gDタンパク質。
(19)PRRに存在するB細胞エピトープは、
野生型HSV gDのエクトドメインの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における50番目のプロリン残基に相当するアミノ酸残基を含むエピトープ、又は、
野生型HSV gDのエクトドメインの結晶構造の表面において、上記50番目のプロリン残基に相当するアミノ酸からの距離が1.5nm以下の領域に存在する少なくとも1つのアミノ酸残基を含むエピトープ
である、(18)の改変型HSV gDタンパク質。
(20)改変は、アミノ酸残基の置換又は欠損によって糖鎖導入されることによって行われる、(18)又は(19)の改変型HSV gDタンパク質。
(21)改変は、野生型HSV gDのエクトドメインの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における50番目のプロリン残基に相当するアミノ酸残基への糖鎖導入よって行われる改変を含む、(20)の改変型HSV gDタンパク質。
(22)改変は、野生型HSV gDのエクトドメインの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における74番目のプロリン残基に相当するアミノ酸残基への糖鎖導入によって行われる改変を含む、(20)又は(21)の改変型HSV gDタンパク質。
(23)改変は、野生型HSV gDのエクトドメインの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における186番目のアルギニンに相当するアミノ酸残基への糖鎖導入によって行われる改変を含む、(20)~(22)のいずれかの改変型HSV gDタンパク質。
(24)野生型HSV gDのエクトドメインは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなり、
改変は、
配列番号1に記載のアミノ酸配列における50番目のプロリン残基をアスパラギン残基に置換し、51番目のプロリン残基をプロリン残基以外のアミノ酸残基に置換することによって糖鎖導入されることによって行われる改変、
配列番号1に記載のアミノ酸配列における74番目のプロリン残基をアスパラギン残基に置換し、76番目のグルタミン酸残基をセリン残基に置換することによって糖鎖導入されることによって行われる改変、及び
配列番号1に記載のアミノ酸配列における186番目のアルギニン残基をアスパラギン残基に置換することによって糖鎖導入されることによって行われる改変、
からなる群より選択される少なくとも1つの改変を含む、
(20)の改変型HSV gDタンパク質。
(25)改変型HSV gDタンパク質はさらに、HSV gDのエクトドメインのC末端側に少なくとも1つのプロミスキュアスT細胞エピトープが連結されている、(19)~(24)のいずれかの改変型HSV gDタンパク質。
(26)プロミスキュアスT細胞エピトープは、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、又は、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるプロミスキュアスT細胞エピトープである、(25)に記載の改変型HSV gDタンパク質。
(27)プロミスキュアスT細胞エピトープは、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるプロミスキュアスT細胞エピトープである、(26)の改変型HSV gDタンパク質。
【発明の効果】
【0011】
本発明の改変型HSV gDタンパク質及びこれを含むワクチンによって免疫誘導した場合、野生型HSV gDで免疫誘導した場合に比べて、血清中に中和活性の高い中和抗体が相対的に多く含まれ得る。すなわち、本発明の改変型HSV gDタンパク質及びこれを含むワクチンはイムノ・リフォーカスを誘導し、HSVに対する強い防御効果をもたらすことが可能である。したがって、HSV感染症に対して高い予防・治療効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】HSV gDの一次構造の模式図を示す図である。
【
図2】実施例2の抗gD2抗体No.82とアラニン置換したgD改変体との反応性を競合ELISAで解析した結果を示す図である。
【
図3】HSV gD結晶構造上のgDレセプター結合ドメイン(RBD)周辺領域及びP50周辺領域のMOE図を示す図である。
【
図4】実施例5の抗gD抗体のマウスへの予防的投与後の生存率を示す図である。
【
図5】実施例5の抗gD抗体のマウスへの予防的投与後の症状スコアを示す図である。
【
図6】実施例5の抗gD抗体のマウスへの治療的投与後の生存率を示す図である。
【
図7】実施例5の抗gD抗体のマウスへの治療的投与後の症状スコアを示す図である。
【
図8】実施例6の抗gD抗体のモルモットへの予防的投与後の症状スコアを示す図である。
【
図9】実施例6の抗gD抗体のモルモットへの治療的投与後の症状スコアを示す図である。
【
図10】実施例6の抗gD抗体のモルモットへの治療的投与後の膣拭い液中のHSV放出量を示す図である。
【
図11】実施例7の合成ペプチドのマウスのT細胞刺激活性解析を示す図であり、(A)はIFN-γ産生ELISpot解析の結果を示し、(B)はIL-2産生ELISpot解析の結果を示す。
【
図12】改変型gDタンパク質の設計戦略の模式図を示す図である。
【
図13】実施例9の作出した各種gD改変体と抗gD2抗体No.82との反応強度を示す図である。
【
図14】実施例9の作出した各種gD改変体とHVEMとの反応性を示す図である。
【
図15】実施例9のマウスを用いた中和抗体誘導活性の解析結果を示す図である。
【
図16】実施例9のマウスを用いた中和抗体誘導活性の解析結果を示す図である。
【
図17】実施例9のマウスを用いた中和抗体誘導活性の解析結果を示す図である。
【
図18】実施例9のマウスを用いた中和抗体誘導活性の解析結果を示す図である。
【
図19】実施例9のマウスを用いた中和抗体誘導活性の解析結果を示す図である。
【
図20】実施例9のELISA法による抗gD結合抗体誘導活性の解析結果を示す図である。
【
図21】実施例9のELISA法による抗gD結合抗体誘導活性の解析結果を示す図である。
【
図22】実施例9のELISA法による抗gD結合抗体誘導活性の解析結果を示す図である。
【
図23】実施例9のELISA法による抗gD結合抗体誘導活性の解析結果を示す図である。
【
図24】実施例9のELISA法による抗gD結合抗体誘導活性の解析結果を示す図である。
【
図25】実施例9の細胞性免疫(T細胞免疫)誘導活性の結果を示す図である。
【
図26】実施例9の改変型gDのマウス感染防御試験の実験1の生存率を示す図である。
【
図27】実施例9の改変型gDのマウス感染防御試験の実験1の生存率を示す図である。
【
図28】実施例9の改変型gDのマウス感染防御試験の実験1の生存率を示す図である。
【
図29】実施例9の改変型gDのマウス感染防御試験の実験2の生存率を示す図である。
【
図30】実施例9の改変型gDのマウス感染防御試験の実験3の生存率を示す図である。
【
図31】実施例9の改変型gDのマウス感染防御試験の実験4の生存率を示す図である。
【
図32】実施例9の改変型gDのマウス感染防御試験の実験4の生存率を示す図である。
【
図33】実施例9の免疫血清中の抗体ポピュレーションの解析結果を示す図である。
【
図34】実施例9の改変型gD免疫血清によるgD-HVEM相互作用に対する阻害の結果を示す図である。
【
図35】HSV-1由来gDのアミノ酸配列(配列番号2)及びHSV-2由来gDのアミノ酸配列(配列番号3)を多重整列した比較結果を示した図であり、斜体部はリーダー配列を示し、下線部はgDの50-54番目のアミノ酸残基(P50-P54)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明の改変型HSV gDタンパク質は、単純ヘルペスウイルス(HSV)のエンベロープ糖タンパク質D(gD)の改変タンパク質であって、野生型HSV gDのエクトドメイン(ectodomain)において、レセプター結合ドメイン(RBD)に存在するB細胞エピトープと比較して、中和抗体誘導活性が低い又は無いB細胞エピトープ(デコトープ)の少なくとも1つがエピトープとして機能しないように改変(脱エピトープ)されたタンパク質である。
【0015】
本発明は、本発明者らが提案する仮説、HSV gD抗原において「デコイ領域」が存在することに基づくものである。「デコイ領域」は、英語の「Decoy(おとり)」に由来し、病原体が宿主の免疫反応から逃れる免疫逃避機構の一つと考えられる。「デコイ領域」は、中和抗体活性の無い又は低い抗体を誘導する抗原領域であり、この欺瞞的刷り込み(Deceptive Inprinting;「免疫偏向」ともいう)によって、中和抗体が産生しないよう、又は産生量が少ないように、病原体が宿主の免疫反応から逃れる機構であると考えられる。
【0016】
これまで、HSVにおいてデコイ領域の存在は確認されておらず、デコイ領域の概念すらなかった。本発明者らは、ヒト抗体ライブラリーを用いて実施した抗HSV gD抗体の網羅的探索によって得られた抗gDモノクローナル抗体に対して、詳細なエピトープマッピング解析を行った。その結果、HSV gDのB細胞エピトープを、無益又は有害なエピトープと、中和抗体を誘導できる有益なエピトープとに分類することで、無益又は有害なエピトープが集中しているデコイ領域の存在を明らかにした。そして、デコイ領域の無益又は有害なエピトープを脱エピトープ化し、有益なエピトープを免疫的に際立たせることによって、中和活性の高い抗体を誘導できる改変型HSV gDタンパク質を得るに到った。
【0017】
「野生型HSV gD」とは、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するHSV-1由来のエンベロープ糖タンパク質D(gD)、又は配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するHSV-2由来のgD(GenBankの登録番号:ABU45433.1)の全長を指し、両者を多重整列して比較した結果、その配列同一性は84%である(
図35)。gDの立体構造も解析されており、例えば、HSV-1由来のgDにおいて、317-339番目のアミノ酸残基を有する膜貫通ドメイン、340-369番目のアミノ酸残基を有する細胞内ドメイン及び1-316番目のアミノ酸残基を有するエクトドメインからなることは知られている。HSV-1由来のgDの単結晶構造は非特許文献7に、共結晶構造は非特許文献2及び6によって報告されている。一方、HSV-2由来のgDの結晶構造は非特許文献11及び12に報告されている。「野生型HSV gDのエクトドメイン」は、可溶性の、抗原性を有する、野生型HSV gDの細胞外領域を意味する。野生型HSV gDのエクトドメインの一例は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるHSV-2の333株由来の野生型gDエクトドメイン1-315である。
【0018】
「改変型HSV gDタンパク質」(「HSV gDの改変タンパク質」又は「改変体」ともいう。)とは、野生型HSV gDに対して、少なくとも一つのアミノ酸残基又は連続したアミノ酸残基領域が、置換、欠失又は付加されたタンパク質をいい、アミノ酸残基の置換又は欠損によって糖鎖導入されたタンパク質等の野生型に存在しないタンパク質修飾がされたタンパク質も含む。
【0019】
「中和抗体誘導活性」とは、抗原タンパク質の中和抗体を誘導できる能力をいい、抗原タンパク質被検動物に接種することで得られる免疫血清中の中和抗体価(neutralizing antibody titer)で評価され得る。「中和抗体」とは、ウイルス粒子の感染性を失わせることができる抗体をいい、例えば被検ウイルスのプラーク数を50%減少させるのに必要な抗体の濃度(NT50)にてその抗体の中和活性の高さを評価する。
【0020】
野生型HSV gDのエクトドメイン(ectodomain)において、高い中和抗体誘導活性を有するB細胞エピトープを「有益なエピトープ」という。野生型HSV gDのエクトドメイン(ectodomain)における有益なエピトープとしては、典型的にレセプター結合ドメイン(RBD)に存在するB細胞エピトープである。特に、配列番号1に記載のアミノ酸配列における134番目のアルギニン残基、139番目のアスパラギン酸残基、及び222番目のアルギニン残基からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基を含むエピトープが挙げられる。
【0021】
「デコトープ」とは、野生型HSV gDのエクトドメイン(ectodomain)において、RBDに存在するB細胞エピトープと比較して、中和抗体誘導活性が低い又は無いB細胞エピトープをいい、本明細書において「無益又は有害なエピトープ」と分類する。「デコトープ」は、野生型HSV gDのエクトドメインにおいて、配列番号1に記載のアミノ酸配列における134番目のアルギニン残基、139番目のアスパラギン酸残基、及び222番目のアルギニン残基からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基を含むB細胞エピトープと比較して、中和抗体誘導活性が低い又は無いB細胞エピトープであることが好ましい。本実施形態におけるHSV gDのエクトドメインにおける「デコトープ」としては、gDエクトドメインのN末端プロリン・リッチ領域(PRR)に存在するエピトープが挙げられる。
【0022】
デコトープが集中する領域を「デコイ領域」という。本発明者らの解析結果によれば、例えば、HSV gDのPRRがデコイ領域である。PRRは、野生型HSV gDのエクトドメインの結晶構造において、RBDとは反対側に位置している(
図3)。PRRにおけるP50周辺領域は、特に典型的なデコイ領域である。「P50周辺領域」とは、野生型HSV gDのエクトドメインの結晶構造の表面において、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるHSV-2由来の野生型gDエクトドメイン1-315における50番目のプロリン残基に相当するアミノ酸残基からの距離が1.5nm以下の領域をいう。ここで「アミノ酸残基からの距離」とは、野生型HSV gDのエクトドメインの結晶構造の表面の形状に関わらず、上記50番目のプロリン残基に相当するアミノ酸残基からの直線距離をいう。
【0023】
デコトープの一例は、野生型HSV gDのエクトドメインの、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるHSV-2由来の野生型gDエクトドメイン1-315における50番目のプロリン残基に相当するアミノ酸残基を含むエピトープである。
【0024】
ここで「相当する」アミノ酸残基とは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるHSV-2由来の野生型gDエクトドメインのアミノ酸配列と他の類縁性のあるgDのアミノ酸配列とを多重整列(多重配列アラインメント)したときに、整列した配列において、所定の配列番号1に記載のアミノ酸残基に対応する位置にある他の類縁性のあるgDのアミノ酸残基を意味する。
【0025】
デコトープの別の一例は、HSV gDのエクトドメインの結晶構造の表面において、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるHSV-2由来の野生型gDエクトドメイン1-315における50番目のプロリン残基に相当するアミノ酸からの距離が1.5nm以下の領域(すなわち、P50周辺領域)に存在する少なくとも1つのアミノ酸残基を含むエピトープである。該デコトープは、野生型HSV gDの結晶構造から特定することができる。上記距離が1nm以下であることが好ましい。
【0026】
上記デコトープの脱エピトープによっては、免疫誘導に用いる際、無益又は有害の抗体の産生割合を低減でき、また、有益なエピトープを際立たせることで、中和活性の高い中和抗体の産生割合を増加できる。
【0027】
「脱エピトープ」とは、野生型HSV gDにおいてエピトープとして抗体産生に寄与していた部位をエピトープとして機能しないように改変することをいい、エピトープのマスキングともいう。脱エピトープの方法としては、エピトープの部位にあるアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へと置換する方法、エピトープの部位にあるアミノ酸残基を欠損(欠失)させる方法、及びエピトープの部位にあるアミノ酸残基の置換又は欠損によって糖鎖を導入する方法等が挙げられる。脱エピトープの方法としては、糖鎖を導入する方法、特にN型糖鎖(N-グリコシド結合糖鎖)を導入する方法が好ましい。これにより、糖鎖を導入した部分のみならず、その嵩高さによって周辺のデコトープをも同時にマスキング可能な点で有効である。gDと相互作用する抗体やレセプター等のタンパク質とのサイズ比を考えると、数アミノ酸程度のごく狭い範囲で結合が形成されるような、点と点の相互作用による可能性が低いと予想される。gDとレセプターとの結合においては、広範囲のアミノ酸が協調的に結合を形成するような面と面での相互作用網が形成されていると考えられる。糖鎖導入は、自身の嵩高さによって周辺残基を広範囲に隠し、同時に結合相手のアクセスを阻害するのに有効な脱エピトープの方法であると考えられる。また、糖鎖は抗糖鎖抗体が誘導され難いという報告(非特許文献10)もあり、改変による新たな免疫原性の出現可能性を低く抑えることが可能であると考えられる。
【0028】
アミノ酸残基への糖鎖導入とは、当該アミノ酸残基の位置においてアミノ酸の欠失、置換又は付加によって、当該アミノ酸残基の位置を含む3つの連続したアミノ酸残基への糖鎖導入をいう。糖鎖の導入方法は、通常の方法であればよく特に限定されないが、たとえば、N型糖鎖を導入する場合、野生型gDタンパク質エクトドメインのアミノ酸配列(配列番号1)をテンプレートとし、N型糖鎖を導入する目的部位の3つの連続したアミノ酸配列が、N-X-S/T(Xはプロリン以外の任意のアミノ酸)となるように、プライマーを設計し、PCRによって変異を導入する。目的の変異gDタンパク質の核酸配列、さらに必要あれば6×His等のタグを連結した核酸配列を適切なベクターにクローニングし、発現させることによってgD改変体を得ることができる。そして、gD改変体の目的部位のアスパラギンに通常の方法によってN型糖鎖を付加する。N型糖鎖としては、たとえばGlcNAcをベースとした高マンノース型、ハイブリッド型、複合型などが挙げられる。
【0029】
脱エピトープは、すなわち、デコトープの改変は、野生型HSV gDのエクトドメインの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における50番目のプロリン残基、74番目のプロリン、及び186番目のアルギニンに相当するアミノ酸残基のうち、少なくとも1つへの糖鎖導入よって行われる改変を含むことが好ましい。特に、野生型HSV gDのエクトドメインは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなり、デコトープの改変、配列番号1に記載のアミノ酸配列における50番目のプロリン残基をアスパラギン残基に置換し、51番目のプロリン残基をプロリン残基以外のアミノ酸残基に置換することによって糖鎖導入されることによって行われる改変、配列番号1に記載のアミノ酸配列における74番目のプロリン残基をアスパラギン残基に置換し、76番目のグルタミン酸残基をセリン残基に置換することによって糖鎖導入されることによって行われる改変、及び、配列番号1に記載のアミノ酸配列における186番目のアルギニン残基をアスパラギン残基に置換することによって糖鎖導入されることによって行われる改変、からなる群より選択される少なくとも1つの改変を含むことがより好ましい。
【0030】
改変型HSV gDタンパク質はさらに、野生型HSV gDの、配列番号1に記載のアミノ酸配列における251~315番目のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基の少なくとも一部の欠損を含む。配列番号1に記載のアミノ酸配列における251~315番目のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基は、野生型HSV gDのエクトドメインにおけるC末端ファンクション領域3(FR3)を形成している。この部分の少なくとも一部の欠損も、有益なエピトープへのイムノ・リフォーカスを誘導するために有効である。文献報告のあるHSV gD1の結晶構造解析(非特許文献7)から、FR3及びN末端側配列であるFR1はgD分子内のコアベータシート構造であるFR2の全く同じ面に、巻き付くように結合し得ることが示唆されている。FR1及びFR3は互いに干渉し合うため、FR2に対しどちらか一方しか結合できない。通常ウイルスエンベロープ上ではFR3が結合しており、レセプターとの結合時にはFR3が外れ、FR1が結合するように構造変化し、レセプター結合領域が露わになると推察されている。本発明者らが独自に得た中和抗体No.82のエピトープ解析から、抗体No.82はNectin-1結合領域と結合すること、FR1欠損体(gD34-315)との反応性が低下すること、gDとHVEM或いはNectin-1との結合を阻害することが分かっている。即ち、抗体No.82のエピトープ、すなわち、RBDを際立たせ、当該領域に対するイムノ・リフォーカスを誘導するためにはFR3を欠損させるか、又はFR3のFR2への結合を阻害することが有効であると考えられる。
【0031】
FR3の少なくとも一部の欠損は、FR3の全長の欠失、又はFR3の一部の連続した若しくは非連続の配列の欠失、さらに一部のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換も含まれている。FR3の一部欠損は、たとえば、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるHSV-2由来の野生型gDエクトドメイン1-315における276-315番目のアミノ酸残基に相当する部分が欠失することが好ましく、276-315番目のアミノ酸残基の全体又は一部の欠失であってよい。
【0032】
改変型HSV gDタンパク質はさらに、HSV gDのエクトドメインのC末端に少なくとも1つのプロミスキュアスT細胞エピトープが連結されていることが好ましい。膜貫通領域や細胞内領域にもT細胞エピトープが存在するが、ワクチンとしての使用を考慮すると、細胞外領域で構成される分泌発現型での設計が好ましいため、膜貫通領域や細胞内領域のT細胞エピトープを連結することで、細胞外領域には含まれないT細胞エピトープを有効に利用することができるため、好ましい。
【0033】
本発明者らが、gD2の細胞内ドメインも含めた全長についてHLA Class II拘束性プロミスキュアスT細胞エピトープクラスターを網羅的に探索した結果、下記のDP1-DP5までの5つのクラスターペプチドが見出された。プロミスキュアスT細胞エピトープとしては、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、又は、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるプロミスキュアスT細胞エピトープであることが好ましい。そのうち、実際にマウス及びヒトの両方のT細胞に対して共にプロミスキュアスな刺激活性を有するものはDP2、DP3、DP5の3ペプチドである。そのうち特に配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるDP5が好ましい。プロミスキュアスT細胞エピトープを複数連結してもよい。具体的には、例えば、プロミスキュアスT細胞エピトープの連結は、野生型HSV gDのエクトドメインのC末端に配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるプロミスキュアスT細胞エピトープが2つ以上連結されることを含むものであってよい。
【表1】
【0034】
一実施形態においては、HSV gDタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるHSV-2由来の野生型gDエクトドメイン1-315における231番目のバリン残基に相当するアミノ酸残基の他のアミノ酸残基(特にトリプトファン残基)への置換をさらに含む。V231W変異は、FR3のFR2への結合を阻害することが示唆されている(非特許文献9)ため、このさらなる変異を含む改変体は、FR3のFR2への結合を阻害するとの観点から好ましい。この変異によって、レセプター結合ドメインに存在するB細胞エピトープがより際立ち、免疫誘導に際して、中和抗体の産生割合を増加させることができる。
【0035】
本発明の改変型HSV gDタンパク質は、遺伝子工学の手法によって作製することができる。作製方法は特に限定されないが、たとえば、野生型gDタンパク質のcDNA(配列番号33)をテンプレートとし、目的の変異を導入するためのプライマーを設計して、PCRによって変異が導入された核酸を得て、発現プロモータと機能的に連結し、場合によってタグも連結し、適切な発現ベクターに導入し、発現させることによって得ることができる。また、糖鎖導入による改変体の場合は、上述のとおりに得ることができる。ベクター及びプロモータは特に限定されないが、例えば、pCAGベクター及びCAGプロモータがあげられる。
【0036】
作製された改変型HSV gDタンパク質は、必要に応じて精製してもよい。精製方法は特に限定されないが、アフィニティクロマトグラフィーカラム、ゲル濾過クロマトグラフィーカラム、及びイオン交換クロマトグラフィーカラムなどによる精製が挙げられる。
【0037】
HSV感染症は、HSV-1及びHSV-2による感染症を含み、例えば、口唇ヘルペス、角膜ヘルペス、性器ヘルペス、全身性の新生児ヘルペス、並びに、HSVに起因する口内炎、皮膚疾患、脳炎、髄膜炎、及び脊髄炎が挙げられる。
【0038】
本発明のHSVワクチンは、本発明の改変型HSV gDタンパク質を含む。
【0039】
本実施形態のHSVワクチンの剤形は、例えば、液状、粉末状(凍結乾燥粉末、乾燥粉末)、カプセル状、錠剤、凍結状態であってもよい。
【0040】
本実施形態のHSVワクチンは、医薬として許容されうる担体を含んでいてもよい。上記担体としては、ワクチン製造に通常用いられる担体を制限なく使用することができ、具体的には、食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、等張水性緩衝液及びそれらの組み合わせが挙げられる。ワクチンは、乳化剤、保存剤(例えば、チメロサール)、等張化剤、pH調整剤等が、さらに適宜配合されてもよい。
【0041】
本実施形態のHSVワクチンの免疫原性をさらに高めるために、アジュバントをさらに含むことも可能である。アジュバントとしては、例えば、アルミニウムアジュバント又はスクアレンを含む水中油型乳濁アジュバント(AS03、MF59等)、CpG及び3-O-脱アシル化-4’-モノホスホリル lipid A(MPL)等のToll様受容体のリガンド、サポニン系アジュバント、ポリγ-グルタミン酸等のポリマー系アジュバント、キトサン及びイヌリン等の多糖類が挙げられる。
【0042】
本実施形態のHSVワクチンは、本発明の改変型HSV gDタンパク質と、必要に応じて、担体、アジュバント等とを混合することにより得ることができる。アジュバントは、用時に混合するものであってもよい。
【0043】
本実施形態のHSVワクチンの投与経路は、例えば、経皮投与、舌下投与、点眼投与、皮内投与、筋肉内投与、経口投与、経腸投与、経鼻投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、口から肺への吸入投与であってもよい。
【0044】
本実施形態のHSVワクチンの投与方法は、例えば、シリンジ、経皮的パッチ、マイクロニードル、移植可能な徐放性デバイス、マイクロニードルを付けたシリンジ、無針装置、スプレーによって投与する方法であってもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
実施例1 抗HSV gDモノクローナル抗体の取得
<scFv-phageの取得>
HSV-2 gD(gD2)の網羅的エピトープ解析を実施するため、gD2を対象としたバイオパンニングによってgD2上の様々なエピトープと結合する様々な抗体を取得した。gD2としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する、HSV-2の333株に由来する野生型の可溶性エクトドメイン(ectodomain)であるgD1-315タンパク質を用いた。gD1-315タンパク質は宿主細胞にて発現させ、精製した。ライブラリーとしてはヒトB細胞由来のmRNAから作製されたヒトVH及びVL cDNAを使用して調製されたscFv-phageディスプレイライブラリーを用いた。scFv-phageディスプレイライブラリーは、ヒトB細胞由来のmRNAからヒトVH及びVL cDNAを使用して調製されたscFv-phageディスプレイライブラリーをスクリーニングすることによって、HSV-2 gDへの反応性を有するscFv-phageを得た。
【0047】
<phage ELISA>
パンニング実施後、単離したscFv-phageを発現させた。各scFv遺伝子がクローニングされているファージミドベクターを有する大腸菌TG1株を2×YTCG培地(37℃)で培養し、M13K07ヘルパーファージをmoi=20で感染させた後、2×YTCK培地(25℃)、オーバーナイトでファージの発現を行った。得られたscFv-phageは20%-PEG-2.5M塩酸ナトリウムによる濃縮を行った。
【0048】
発現させたscFv-phageについて、phage ELISAによってgD1-315に対する反応性を確認した。100μLのgD2(2μg/mL PBS)を96ウェルマイクロタイタープレート(MaxiSorp plate、NUNC)に、4℃にて一晩固相化した後、各ウェルをPBSで3回洗浄し、300μLの1%BSA/PBSで、室温にて1時間ブロッキングした。各ウェルをPBS-T(0.05%Tween/PBS)で3回洗浄し、scFv-phageを1%BSA/PBSで10倍希釈し、100μLで加え、37℃にて一時間反応させた。再度各ウェルをPBS-Tで洗浄し、HRP標識抗体(1%BSA PBSで希釈したHRP付加抗M13抗体:anti-M13/HRP/1%BSA PBS)を加え、37℃にて1時間反応させた。各ウェルをPBS-Tで洗浄し、酵素基質(TMB)で、室温にて30分発色させ、1N硫酸で反応を停止させた後、450nm/650nmの吸光度(発色値)を測定した。
【0049】
クローン毎のscFv-phageのgD1-315に対する反応性を解析したところ、回収した188クローン中101クローンが抗原との特異的な結合を示した。さらにこの101クローンについてVH鎖及びVL鎖遺伝子配列を解析したところ、配列のユニークな7種類のクローンを取得した。
【0050】
<scFv-hFcの作製>
取得された7種類のscFv-phageを基にscFv-hFcを作製した。単離したscFv遺伝子の可変領域をヒトFc遺伝子と連結し、pCAGベクターにクローニングし、scFv-hFc発現プラスミドを構築した。各発現用プラスミドはExpi293発現システム(Life technology)を用いて発現した。4~6日間の培養の後、その上清をProtain A アフィニティクロマトグラフィーカラム(HiTrap Protein A HP Columns、GE Healthcare)によって精製し、PBSで透析を行った。その純度についてはサイズ排除クロマトグラフィー(Superdex 200 5/150 GL、GE Healthcare)とSDS-PAGEによって確認した。
【0051】
<Nectin-1を使用した競合阻害試験>
作製したscFv-hFcについて、gDのレセプターであるNectin-1を使用した競合阻害試験を実施した。
【0052】
競合阻害試験は以下の競合ELISAによって実施した。100μLのgD2(2μg/mLPBS)を96ウェルマイクロタイタープレート(MaxiSorp plate、NUNC)に、室温にて2時間かけて固相化した。その後、各ウェルをPBSで3回洗浄し、300μLの1%BSA PBSで室温にて1時間ブロッキングした。各ウェルをPBS-T(0.05%Tween PBS)で5回洗浄し、20μg/mLのscFv-hFcを1%BSA PBSに任意の希釈倍率で希釈し、100μLで加え、37℃にて1時間反応させた。再度各ウェルをPBS-Tで洗浄し、scFv-phage若しくはNectin-1(Recombinant Human Nectin-1 Protein、R&D SYSTEMS)を1%BSA PBSに任意の希釈倍率で希釈し、100μLで加え、37℃にて一時間反応させた。再度各ウェルをPBS-Tで洗浄し、HRP標識抗体(anti-M13/HRP/1%BSA PBS、若しくは1%BSA PBSで希釈したHRP付加抗His-tag抗体:anti-His-tag/HRP/1%BSA PBS)を加え、37℃にて一時間反応させた。各ウェルをPBS-Tで洗浄し、TMBで室温にて30分発色させ、1N硫酸で反応を停止させた後、450nm/650nmの吸光度(OD値)を測定した。scFv-hFc非存在下でのOD値に対し、50%以上のOD値の低下を示した場合に競合有りとみなした。
【0053】
<結果>
結果を表2に示す。競合のパターンにより7種類のscFv-phageを3つのグループに分類した。グループAに属する抗体No.82はNectin-1と強く競合したため、Nectin-1結合領域にエピトープが存在すると示唆された。グループBにはNo.1のみ属し、他の抗体及びレセプターNectin-1と競合しなかった。グループCは残りの5クローン(No.5、No.13、No.72、No.75、No.78)から成り、互いに競合する一方で、レセプターNectin-1とは競合しなかった。
【表2】
各scFv遺伝子のVH鎖及びVL鎖遺伝子のDNA塩基配列はBig Dye Terminatorv3.1 Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems)を用いて決定した結果、抗体No.82は、配列番号9~11に記載のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1~重鎖CDR3を有し、配列番号12~14に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1~軽鎖CDR3を有する。
重鎖CDR1:GYAIN (配列番号9)
重鎖CDR2:GIMPIFGTSNYAQKFQ (配列番号10)
重鎖CDR3:DWGAPLEKGAGSPFDV (配列番号11)
軽鎖CDR1:RASQSVSSSYLA (配列番号12)
軽鎖CDR2:GASSRAT (配列番号13)
軽鎖CDR3:QQYGSSPRS (配列番号14)
【0054】
実施例2 抗gD2結合抗体のエピトープマッピング
<変性によるエピトープ解析>
変性状態のgD1-315を用いたWestern blottingによって、各抗体のエピトープがコンフォメーション(conformational)エピトープであるかリニア(linear)エピトープであるかを解析した。
【0055】
Western Blottingは、以下のように行われた。500ngの変性又は未変性のgD1-315を8-16%SDS-PAGEへLoadし電気泳動した。変性状態のgD1-315は、gD1-315に2% 2-メルカプトエタノールを加え、96℃で5分間煮沸することで得た。非変性状態のgD1-315はこれらの操作を行わず、直接Loadした。泳動完了後、ゲルをニトロセルロース膜(Immobilon-P、MILLIPORE)へ転写し、2%スキムミルク-PBS-Tを用いてブロッキングした。PBS-Tによる洗浄の後、膜を1μg/mL 2%スキムミルク-PBS-Tの濃度の各scFv-hFcと室温にて30分反応させた。再度の洗浄の後、anti-hFc/HRP/2%スキムミルク-PBS-Tと反応させ、Immobilon Western Detection Regent(Millipore)で発色させた。
【0056】
その結果、変性剤及びヒートショックによって変性されたgD1-315と反応を示した抗体はNo.1、及びNo.13の2つであり、これらのエピトープはlinearであることが示唆された。他の抗体はすべて非変性状態のgD1-315とのみ反応性を示したため、conformationalなエピトープであることが示唆された。
【0057】
<糖鎖の導入によるgD改変体を用いた抗体のエピトープマッピング>
N-結合型糖鎖の導入によるgD改変体を用いたエピトープマスキング法を検討した。糖鎖の導入部位の選定にあたっては既に報告されている結晶構造(非特許文献1、2及び6)に基づき、結晶構造表面に露出しており、二次構造を取っていないループ部位を対象とした。
図1にgDの一次構造の模式図を示しており、FR1(K1~H39)、FR2(I55~R184)、FR3(T251~G315)がそれぞれ示されている。また、本来gDに付加されている糖鎖は、N94、N121及びN262に結合している。糖鎖導入部位として、P50(SC-F)、P54(SC-K)、P74(SC-D)、S85(SC-L)、G103(SC-E)、D172(SC-M)、R186(SC-A)、L195(SC-H)、及びH242(SC-B)の9つを選定した。
【0058】
gD改変体の発現プラスミドを構築するにあたって、HSV-2の333株に由来する野生型gDタンパク質のcDNA(配列番号33)をテンプレートとした。N-結合型糖鎖は、N-X-S/T(Xはプロリン以外の任意のアミノ酸)のアスパラギンに結合するため、糖鎖を導入する際、以下のプライマーを使用し、目的部位のアミノ酸配列がNXT又はNXS(Xはプロリン以外の任意のアミノ酸)となるようにPCRによって変異させた。FwはForward、ReはReverseを表す。下線は変異させた部分。シグナル配列に続き、目的の変異gDタンパク質の核酸配列、さらに6×Hisの核酸配列となるように設計したDNAを遺伝子合成し、pUC19ベクターにクローニングした。
SC-A-Fw: 5’-CGGGCCAATGCCTCCTGCAAGTACGCT-3’(配列番号15)
SC-A-Re: 5’-GGAGGCATTGGCCCGGTGCTCCAGGAT-3’(配列番号16)
SC-B-Fw: 5’-GGGTGGAATGGCACCAAGCCCCCGTACACCAGC-3’(配列番号17)
SC-B-Re: 5’-GGGCTTGGTGCCATTCCACCCGGCGATTTTTAA-3’(配列番号18)
SC-D-Fw: 5’-CATGCCAATTCGACCGCCCCCCAGATCGTGCGC-3’(配列番号19)
SC-D-Re: 5’-GGGGGCGGTCGAATTGGCATGTAGGAGCACGCT-3’(配列番号20)
SC-E-Fw: 5’-CGCATGAATGACACCTGCGCTATCCCCATCACG-3’(配列番号21)
SC-E-Re: 5’-AGCGCAGGTGTCATTCATGCGATACCAGGCGAT-3’(配列番号22)
SC-F-Fw: 5’-TTCCAGAATGCAAGCATCCCGATCACTGTGTAC-3’(配列番号23)
SC-F-Re: 5’-CGGGATGCTTGCATTCTGGAACGGGTCCTCCAG-3’(配列番号24)
SC-H-Fw: 5’-CTCCCCAATCGCACGCCCCCGGCAGCGTGCCTC-3’(配列番号25)
SC-H-Re: 5’-CGGGGGCGTGCGATTGGGGAGAGCGTACTTGCA-3’(配列番号26)
SC-K-Fw: 5’-AGCATCAATATCACTGTGTACTACGCA-3’(配列番号27)
SC-K-Re: 5’-AGTGATATTGATGCTGGGGGGCTGGAA-3’(配列番号28)
SC-L-Fw: 5’-GGGGCTAATGACACCGCCCGAAAGCACACGTAC-3’(配列番号29)
SC-L-Re: 5’-TCGGGCGGTGTCATTAGCCCCGCGCACGATCTG-3’(配列番号30)
SC-M-Fw: 5’-ATAAACAATTGGACGGAGATCACACAA-3’(配列番号31)
SC-M-Re: 5’-CGTCCAATTGTTTATCTTCACTAGCCG-3’(配列番号32)
【0059】
完成した改変体配列をpCAGGS1-dhfr-neoベクターにクローニングし、発現用プラスミドを得た。各発現用プラスミドはExpi293発現システムを用いて発現した。4~6日間の培養の後、その上清をNi-NTA アフィニティクロマトグラフィーカラム(TALON superflow Metal Affinity Resin、TaKaRa)によって精製し、PBSで透析を行った。その純度についてはサイズ排除クロマトグラフィーとSDS-PAGEによって確認した。
【0060】
これら糖鎖導入変異体に対して各抗体の反応性解析を競合ELISAで実施した。100μLのgD改変体(2μg/mLPBS)を96ウェルマイクロタイタープレート(MaxiSorp plate、NUNC)に、4℃にて一晩かけて固相化した。各ウェルをPBSで3回洗浄し、300μLの1%BSA PBSで室温にて1時間ブロッキングした。各ウェルをPBS-T(0.05%Tween PBS)で3回洗浄し、各scFv-hFcを1%BSA PBSに任意の希釈倍率で希釈し、100μLで加え、37℃にて一時間反応させた。再度各ウェルをPBS-Tで洗浄し、HRP標識抗体(1%BSA PBSで希釈したHRP付加抗hFc抗体:anti-hFc/HRP/1%BSA PBS)を加え、37℃にて一時間反応させた。各ウェルをPBS-Tで洗浄し、TMBで室温にて30分発色させ、1N硫酸で反応を停止させた後、450nm/650nmの吸光度(OD値)を測定した。野生型のgD1-315の吸光度に対し、30%未満で阻害(-)、30%以上70%未満でパーシャル阻害(±)、70%以上(+)で阻害せずとみなした。結果を表3に示す。
【0061】
<欠損によるgD改変体を用いた抗体のエピトープマッピング>
gD1-275、gD25-253、gD34-315という3種類の欠損改変体を全合成によって作製した(
図1)。
【0062】
これらの欠損改変体と各抗体との反応性解析を、上記と同様に競合ELISAを用いて実施し、その結果を表3に示す。
【表3】
【0063】
表3の結果から、P50(SC-F)及びP54(SC-K)に糖鎖を導入したgD1-315では、競合阻害試験において同一のグループに分類された抗体No.5、No.72、No.75、No.78との反応性が完全に阻害された。また、H242(SC-B)ではNo.75、No.82との反応がパーシャルに阻害された。H242(SC-B)は抗体No.82が構造的に直接アクセスできない部位であると考えられるが、アミノ酸配列上では近傍であり、構造変化による影響を受けたものだと推察される。また、H242(SC-B)の導入位置はP50(SC-F)ともかなり離れた位置であるため、抗体No.75の反応性低下は何らかの間接的な影響によるものであると推察された。一方、SC-A、D、E、H、L、Mへの糖鎖導入による各抗体の結合性への影響はなかった。
【0064】
欠損体に関しては、C末端(FR3)欠損体であるgD1-275とgD25-253では抗体No.1の反応性が消失した。先の解析から抗体No.1はlinearエピトープを有することが示唆されているため、275~315の間に抗体No.1のエピトープが存在すると考えられた。
【0065】
またgD1-275との反応性に変化が見られなかった抗体No.72と抗体No.75に関しては、gD25-253を使用すると抗体No.72との反応は低下し、抗体No.75との反応は消失した。このことから抗体No.72と抗体No.75のエピトープの少なくとも一部がgD254-275の間に存在していることが示唆された。結晶構造において、gD254-275はP50(SC-F)の近傍に存在しており、これらの抗体がその両方を認識する可能性も考えられる。特にH242(SC-B)でも反応性が低下した抗体No.75については、gD254-275中のエピトープへの結合依存度が高いため、FR3近傍に存在するH242(SC-B)による影響を大きく受けた可能性があると推察される。
【0066】
一方、N末端(FR1)欠損体であるgD34-315を使用した場合も抗体No.72との反応性が低下した。しかし、ここまでの解析から抗体No.72のエピトープがFR1に存在するとは構造上考え難く、FR1を欠損させたことによるFR3への影響を考慮すべきと考えられた。結晶構造解析から、FR1及びFR3はgDのコアベータシート構造であるFR2の同じ面に、巻き付くように結合しうることが示唆されている(非特許文献6)。FR1及びFR3は互いに干渉しあうため、FR2に対しどちらか片方しか結合することはできない。gD254-275はFR3の「付け根」にあたるフレキシブルな領域であることから、FR3全体の構造に依存して抗体No.72と抗体No.75の結合の強さが変化すると推察される。つまり、FR1欠損体であるgD34-315ではFR3がFR2へ結合しており、その結果P50(SC-F)付近のエピトープとgD254-275中のエピトープが遠ざかってしまうことにより反応性が低下したのではないかと考えられる。同様に抗体No.75もP50(SC-F)付近のエピトープとgD254-275中のエピトープが遠ざかる影響を受けるはずだが、抗体No.75はgD254-275と強く結合するため、この影響を受けにくかったのではないかと推察される。
【0067】
N末端(FR1)欠損体であるgD34-315を使用した場合、抗体No.82の反応性も低下することが分かった。このことから1-33アミノ酸の間に抗体No.82のエピトープが存在している可能性と、FR3のFR2への結合が抗体No.82のアクセスを阻害している可能性が考えられた。また、gD25-253でも反応性の低下が見られなかったことから、25-33の間に抗体No.82のエピトープが存在していると考えるのが妥当である。
【0068】
<アラニン置換体を用いたアラニンスキャニング>
上記で得られた情報を基に、アラニン置換体を用いて、抗体No.82のエピトープが存在すると予測されたNectin-1結合領域であるレセプター結合ドメイン(RBD)、及びP50(SC-F)の周辺領域をアラニンスキャニングした。構造上表面に露出していると考えられるアミノ酸を中心に選出し、アミノ酸をアラニンに置換した変異体14個、中和抗体LP2のブロッキング変異体であるT213M、S216Nを作製した。各アラニンに改変した遺伝子をPCRによって構築し、pCAGGS1-dhfr-neoにクローニングした。発現には、FreeStyle293又はExpi293発現システムを用いた。
【0069】
抗体No.82抗体とアラニン置換したgD改変体との反応性を競合ELISAで解析した。その結果を
図2に示した。抗体No.82の反応性解析では、R134A、D139A、T213M、S216N、R222Aの5つの変異体で顕著に反応性が低下し、R196Aで反応性が低下した。これらのアミノ酸はすべて同じ界面の、非常に近傍に位置するアミノ酸であり、特にS216、R222についてはNectin-1の結合部位であることが報告されている。このことから、抗体No.82がNectin-1結合領域に結合することが改めて示唆された。
【0070】
一方、FR1のアラニン置換体ではD30Aにおいて反応性の低下が見られた。D30は25-33アミノ酸に存在するエピトープの一部であると考えられるが、R222周辺とD30周辺はFR1がFR2へと結合している状態では、FR1が邪魔となって同じ界面上に存在することができない。このため、抗体No.82が結合する際にはFR1とFR2の結合を解除しながら反応が進行すると考えられる。
【0071】
さらに抗体No.82以外の抗体に関しても、SC-F周辺アラニン置換体を用いた反応性解析において、表3に示した各種抗gD2抗体と各種gD変異体との反応性の結果とほぼ一致する傾向が見られた。抗体No.78についてはP51AとI55Aにて反応性が低下した。抗体No.72ではV57AとE256A、抗体No.75ではこの2つに加えてI55AとD259Aで反応性の低下が見られた。SC-Fとこれら全ての残基は同じ界面上の近傍に位置しており、特に抗体No.72と抗体No.75のエピトープの一部が254-275の間に存在するという仮説を支持する結果となった。抗体No.5については、抗体No.5との反応性が低下したアラニン置換体はI55、E76、I80の3つであり、抗体No.72、抗体No.75、抗体No.78の結合領域とはI55を中心として約120°程異なる方向に散在していた。抗体No.13についてはエピトープが不明であった。抗体No.13のエピトープはLinearであることが示唆されており、ここまでの変異体ではそのエピトープをダイレクトに変異させることができなかったためであると考えられる。
【0072】
エピトープマッピングの結果、7つの抗体クローンのエピトープは表4に示されたように推定される。
図3には、HSV gD構造上のgDレセプター結合ドメイン(RBD)周辺領域及びP50周辺領域のMOE図が示されている。
図3では、抗体No.82のエピトープ(R134、D139、及びR222)はRBD領域に存在することが確認できる。
【表4】
【0073】
実施例3 抗gD2抗体の中和活性
7つの抗体クローンのin vitroでのHSV中和活性解析を、プラーク数減少(プラークリダクション)試験及びCell to cell感染拡大抑制試験にて実施した。
【0074】
<細胞及びウイルスの培養>
対象とするウイルスはATCCから購入した、Human herpesvirus 2(HSV-2) MS株(VR-540)及びHuman herpesvirus 1(HSV-1)KOS株(VR-1493)の2種を用いた。ウイルスの培養、感染価測定、中和抗体価測定にはATCCから購入したVero細胞(CCL.81)を使用した。Vero細胞は、37℃、5%CO2条件下で培養する。拡張、維持、解析プレート作製時は、10%FBS含有MEM培地を使用し、感染価測定及び中和抗体価測定時は、2%FBS含有MEM培地を使用した。中和試験及び後述の感染防御能解析に用いるウイルスバンクは、以下の方法によって調製した。HSV-2 MS株及びHSV-1 KOS株をm.o.i=0.01~1でフルシートのVero細胞に接種し、2~3日間2%FBS含有MEM培地で培養した。回収した感染細胞培養ボトルを3回凍結融解して細胞を破砕後、TOMY遠心器で室温にて3500rpmで10分遠心し、上清をHSV-2ウイルスバンク及びHSV-1ウイルスバンクとした。
【0075】
<中和試験>
(プラーク数減少試験)
プラークリダクション活性測定は、被験抗体を所定の濃度になるように調製し約100PFUのHSV-2 MS株又はHSV-1 KOS株と混合後、37℃にて1時間反応させた。48ウェルプレートにフルシートになったVero細胞に反応液を播種し、30℃にて1時間吸着後に1%メチルセルロース含有MEM(2%FBS)培地で24時間培養後、メタノールとエタノールを1対1で混合した50%メタノール/50%エタノール(-20℃)で、-20℃にて30分間不活化及び固定を行った。その後、抗HSV gDモノクローナル抗体を37℃にて1時間反応させ、抗マウスIgG-HRP(Dako P0447)とTMBHで免疫染色し、ELISPOTアナライザー(ImmunoSpot S6 Analyzer、CTL社)で各ウェルの画像を取り込み、解析ソフト(BioSpot CTL社)でプラーク数をカウントした。
【0076】
(Cell to Cell感染拡大抑制試験)
Cell to Cell感染拡大抑制活性測定は、48ウェルプレートにフルシートになったVero細胞に約100PFUのHSV-2 MS株又はHSV-1 KOS株を接種し、30℃で1時間吸着した。その後、所定濃度の被験抗体を含有した1%メチルセルロース含有MEM(2%FBS)培地(抗体濃度は5μg/mL、25μg/mL及び125μg/mL)を添加し、HSV-2 MS株は約40時間培養後、HSV-1 KOS株は約48時間培養後、50%メタノール/50%エタノール(-20℃)で、-20℃にて30分間不活化及び固定を行った。その後、自家調製した抗HSV gDモノクローナル抗体を37℃にて1時間反応させ、抗マウスIgG-HRPとTMBHで免疫染色し、ELISPOTアナライザーで各ウェルの画像を取り込み、解析ソフトでプラークサイズの平均値を解析した。
【0077】
<結果>
実験結果を表5に示す。プラーク数減少活性については、MS株(HSV-2)及びKOS株(HSV-1)のそれぞれに対して各抗体の最終濃度を50μg/mL、10μg/mL及び2μg/mLに設定し、各濃度における測定は2ウェルずつ検出して平均値を取った。その結果、Aグループに分類されgDレセプター結合ドメイン(RBD)上(及びFR1上)にエピトープ領域を有する抗体No.82が、HSV-1及びHSV-2の両株に対して最も顕著なプラーク数減少活性を示した。これに対して、Bグループに分類されFR3にエピトープ領域を有する抗体No.1は両株に対するプラーク数減少活性を全く示さなかった。また、C1グループに分類されP50周辺或いはその他の不明な部分にエピトープ領域を有する抗体No.5及び抗体No.13のHSV-1及びHSV-2に対する中和活性はいずれも相対的に弱く、HSV-1に対してはパーシャル阻害のパターンを示した。ここで、「パーシャル阻害」とは、中和活性が相対的に弱く、また用量依存的な低下が明確に確認されていない場合をいう。さらに、C2グループに分類されP50周辺(及びFR3)にエピトープ領域を有する抗体No.72及び抗体No.75はいずれもHSV-1よりもHSV-2に対する中和活性が顕著に弱く、抗体No.72はHSV―2に対してはパーシャル阻害のパターンを示した。また同じくC2グループに分類される抗体No.78の両株に対する中和活性に然程偏りは認められないが、その強度は抗体No.82に比して見劣りのするものであった。抗体No.78は、用量依存的に阻害するが5倍段階希釈の傾きに対し、阻害効果の傾きがほかのものと比べて、緩やかなパターンを示した。
【0078】
Cell to cell感染拡大抑制活性については、MS株(HSV-2)に対して各抗体の最終濃度を20μg/mLに設定してduplicateで検討した結果、唯一抗体No.82が明確な抑制活性を示したが、それ以外の6抗体は明確な活性を示さなかった。本活性は、生体において既にウイルス感染が成立している状況下での治療的投与における感染拡大抑制効果、或いは再発症状に対する抑制効果にも繋がり得る重要な活性であると考えられる。
【0079】
以上から、抗体No.82はHSV-1及びHSV-2の両株に対して強力なプラーク数減少活性を有するのみならず、治療効果にも繋がり得るCell to cell感染拡大抑制活性をも有している点において、その他の抗gD結合抗体とは本質的に異なる優れた特徴を有するユニークな抗体であると考えられ、その優越性はエピトープ領域がgDレセプター結合ドメイン(RBD)上に存在していることと関連が有るものと考えられた。
【表5】
【0080】
実施例4 抗gD2抗体No.82のウイルス中和活性詳細解析
抗gD2抗体No.82のヒト型抗体scFv-hFcに加えて、Fc領域をマウス型にしたヒト-マウスキメラIgG、及びFc領域をモルモット型にしたヒト-モルモットキメラIgGを調製し、それぞれのHSV-2(MS株)及びHSV-1(KOS株)に対する中和活性(プラーク数減少活性)を検討した。
【0081】
<ヒト-マウスキメラIgG2a>
単離したscFv 遺伝子のVH領域をマウスIgG2aに由来するH鎖定常領域遺伝子(CH1-CH2-CH3)と連結し、pCAGベクターにクローニングし、H鎖発現プラスミドを構築した。また、scFv遺伝子のVL領域をマウスCL遺伝子と連結し、pCAGベクターにクローニングし、L鎖発現プラスミドを構築した。発現には、Expi293発現システムを用いた。発現プラスミドを細胞にトランスフェクションし、4~6日で培養上清を回収した。培養上清をHi Trap ProteinA HP Column(GEヘルスケア)を用いて精製し、PBSで透析を行った。その純度についてはサイズ排除クロマトグラフィーとSDS-PAGEによって確認した。以上の方法によりヒト-マウスキメラIgG2aを得た。
【0082】
<ヒト-モルモットキメラIgG2κ>
単離したscFv遺伝子のVH領域をモルモットIgG2に由来するH鎖定常領域遺伝子(CH1-CH2-CH3)と連結し、pCAGベクターにクローニングした。また、同様にscFv 遺伝子のVL領域をモルモットCK遺伝子と連結し、pCAGベクターにクローニングした。次に、クローニングされた抗体遺伝子をPCRにより増幅し、pXCベクター(ロンザ社)にクローニングし、H鎖及びL鎖の発現プラスミドを構築した。その後、両プラスミドを連結して、1つの発現プラスミドとした。発現にはCHO細胞を使用した。発現プラスミドをCHO細胞に安定導入させ、GS Xceed expression system(ロンザ社)を利用して、抗体高発現CHO細胞を取得した。高発現細胞を12日間Fed-Batch培養し、培養上清を回収した。培養上清をrProteinA sepharose Fast Flow(Cat#17127903/GEヘルスケア)を用いて精製し、ヒト‐モルモットキメラIgG2κ抗体を得た。
【0083】
<結果>
抗gD2抗体No.82のscFv-hFc、ヒト-マウスキメラIgG、及びヒト-モルモットキメラIgGを用いて、実施例4と同様にウイルス中和活性(プラーク数減少活性)について解析した。その結果を表6に示した。抗体No.82のscFv-hFc、ヒト-マウスキメラIgG、及びヒト-モルモットキメラIgGのいずれも、MS(HSV-2)及びKOS(HSV-1)の両株に対して0.05μg/mL又はそれ以上の濃度では50%プラーク数減少活性を示した。
【表6】
【0084】
実施例5 抗gD2抗体No.82のマウス感染防御能評価
マウス性器ヘルペス感染モデルを用いて、抗gD2抗体No.82の予防的投与及び治療的投与における感染防御能を評価した。
【0085】
<マウス感染防御試験>
マウス性器ヘルペス感染モデルを用いて、抗HSV gD2モノクローナル抗体の予防的投与及び治療的投与における感染防御試験を実施した。BALB/cマウス(5週齢、メス)を用いた。所定量の抗体を注射用生理食塩水(saline)に溶解し、予防的投与の場合にはウイルス接種24時間前に、また治療的投与の場合にはウイルス接種48時間後に、いずれも200μL/匹の容量にて腹腔内投与した。1群あたりN=10の例数を設定した。ウイルス接種時の感染効率を向上させるために、ウイルス接種6日前にDepo-Proveraを2mg/匹で皮下接種した。麻酔下で5×105PFU/20μLのHSV-2 MS株を経腟接種し、21日間経過観察を行った。生存日数(生存率)及び症状スコアを指標に感染防御能を評価した。症状スコアは、膣病変症状の有無及び程度によってスコアを定義し各群における平均値を示した。スコアの付け方として、0:変化なし、1:部分的な紅斑・腫脹、2:広範囲の腫脹・浮腫、3:潰瘍・出血、4:死亡、とした。回復の見込みのない重篤な全身症状(立毛、麻痺、震戦、痙攣等)が認められた場合、その日はスコアを3.5とし、犠牲死させ、次の日に死亡として扱いスコアを4とした。
【0086】
<結果>
予防的投与における、投与量別の生存日数を表7に、生存率を
図4に、症状スコアを
図5にそれぞれ示す。治療的投与における、投与量別の生存日数を表8に、生存率を
図6に、症状スコアを
図7にそれぞれ示す。
【0087】
予防的投与において、設定した全ての投与量(10mg/kg、3mg/kg、1mg/kg、0.5mg/kg、0.3mg/kg)において、陰性対照群として設定したsaline投与群に比して有意な生存日数延長効果を示した。特に高用量域である10mg/kg及び3mg/kgの2用量において、顕著な生存率及び症状スコアの改善効果を示した。
【表7】
【0088】
治療的投与において、HSVは感染局所から体内に侵入後48時間以内に神経節に移行するという報告(非特許文献8)がある。しかし、感染後48時間時点において抗体No.82を治療的投与した場合も、予防的投与の場合とほぼ同様に10mg/kg及び3mg/kgの2用量において顕著な生存率及び症状スコアの改善効果を示した。以上から、抗体No.82は予防的投与のみならず治療的投与においても強力な感染防御効果を示すことが確認された。
【表8】
【0089】
実施例6 抗gD2抗体No.82のモルモット感染防御能評価
モルモット性器ヘルペス感染モデル(急性期)を用いて、抗gD2抗体No.82の予防的投与及び治療的投与における感染防御能を評価した。
【0090】
<モルモット感染防御試験>
モルモット性器ヘルペス感染モデルを用いて、抗gD2抗体No.82(ヒト-モルモットキメラIgG2κ)の予防的投与及び治療的投与における感染防御試験を実施した。SLC社から購入したHartleyモルモット(3~5週齢、メス)を用いた。所定量の抗体を注射用生理食塩水(saline)に溶解し、予防的投与の場合にはウイルス接種24時間前に、また治療的投与の場合にはウイルス接種4日間後に、いずれも1mg~30mg/kg/匹の容量にて腹腔内投与した。治療的投与の場合は、投与前に症状観察を行い、膣症状を呈している個体を選別し、各群の平均スコアに偏りが生じないようにランダマイズした。1群あたりN=10~15の例数を設定した。ウイルス接種は麻酔下で5×105PFU/50μLのHSV-2 MS株を経腟接種し、急性期症状を接種後2~3週間観察した。症状スコアは、0:明確な病変なし、0.5-1:紅斑、1.5-2:限局的な水泡、2.5-3:限局的な潰瘍又は痂皮、3-5:広範に及ぶ水泡・潰瘍又は痂皮、3-7:失禁を伴う広範な潰瘍又は痂皮、7.5:重篤な症状による安楽殺、8:死亡とした。また、ウイルス接種後7日目において、膣拭い液(膣swab)を採取し、プラーク法によってウイルス放出量を測定した。膣Swabは、MEM培地で湿潤させた綿棒を膣内に挿入後、膣内壁の粘膜を拭い取るようにして採取した。採取した膣swabは、シリコナイズドチューブに1mLずつ分注したMEM培地にて懸濁し、使用時まで凍結保存した。膣swabを原液、10倍、100倍、1000倍希釈し、100uL/ウェルで96ウェル又は48ウェルにフルシートになったVero細胞に接種した。膣Swab接種後37℃で1時間ウイルス吸着を行い、1%メチルセルロース含有2%FBS MEM培地で24~72時間培養した後に、所定の方法でプラーク数を計測した。
【0091】
<結果>
予防的投与における症状スコアを
図8に示す。治療的投与の結果における、症状スコアを
図9に、膣拭い液中のHSV放出量を
図10にそれぞれ示す。
【0092】
予防的投与では、設定した投与量(30mg/kg、10mg/kg、3mg/kg、1mg/kg)のうち30mg/kg、10mg/kg、3mg/kgにおいて、陰性対照群として設定したsaline投与群に比して有意な症状スコアの改善効果を示した。
【0093】
治療的投与において、感染後4日時点において既に膣症状を呈しているモルモットに対して抗体No.82を30mg/kgにて治療的に投与した結果、陰性対照群として設定したsaline投与群に比して有意な症状スコアの軽減効果を示した。また、ウイルス接種後7日時点において膣swabを採取し、プラーク法によってウイルス放出量を測定した結果、陰性対照群に比して有意なウイルス放出量の減少が認められた。
【0094】
以上から、抗体No.82は予防的投与のみならず治療的投与においても有意な感染防御効果を示すことが確認された。
【0095】
実施例7 HSV gD上に存在するT細胞エピトープの網羅的解析
<HSV gD2上に存在するHLA Class II拘束性プロミスキュアスT細胞エピトープクラスター配列の探索>
GenBankに公開されているHSV-2 333株のgD2全長アミノ酸配列(ABU45433.1;配列番号3)に関して、EpiVax社のアルゴリズム(EpiMatrix)を用いて、HLA Class II拘束性プロミスキュアスT細胞エピトープクラスター配列を探索した。当該クラスター配列は、EpiMatrixが解析対象とする8種類の主要なHLA DR super type(DRB1*0101、DRB1*0301、DRB1*0401、DRB1*0701、DRB1*0801、DRB1*1101、DRB1*1301、DRB1*1501)のうちの大部分に対して結合する可能性が高い(Z-Score≧1.64)と予測される15~25アミノ酸からなるペプチド配列である。
【0096】
EpiVax社のアルゴリズム(EpiMatrix)を用いて探索した結果、表9に示す通り5箇所のクラスター配列が見出された。そのうち、EpiVax社のクライテリアを満たし陽性と判定されたものは星印の付いている3配列(DP1、DP3、DP4)であり、それ以外の2配列(DP2、DP5)は僅かにクライテリアを満たさないものの十分に可能性有りと判断された。
【0097】
この5配列についてペプチド合成を行った。ペプチドは安定性を高めるために、N末端側にアセチル化修飾、C末端側にアミド化修飾を付加した。合成純度を95%以上として2.5mg/チューブに分注し、凍結乾燥したペプチドを-20℃で保存した。凍結乾燥したペプチドの使用時にDMSO(Sigma D2650)で10mMになるように溶解又は懸濁した。合成したペプチドは、ヒト及びマウスのT細胞刺激活性解析に供した。
【表9】
【0098】
<合成ペプチドのヒトPBMCを用いたT細胞刺激活性解析>
C.T.L社から販売されているヒトPBMC提供者の血清を抗HSV IgG抗体検出ELISA kit(デンカ生研)を用いてスクリーニングし、HSV既感染(抗体陽性)ドナー由来のPBMCを購入した。EpiVax社のアルゴリズムに組み込まれている8種類の主要なHLA DR super type(DRB1*0101、DRB1*0301、DRB1*0401、DRB1*0701、DRB1*0801、DRB1*1101、DRB1*1301、DRB1*1501)遺伝子のいずれかのホモ接合体又はヘテロ接合体を有し、HSV暴露歴の有るドナーのPBMCの凍結サンプルを購入した。また、非特異的な応答を解析するために、抗HSV抗体陰性ドナー由来PBMCも購入した(Donor 14、67)。
【0099】
C.T.L社のプロトコルに従い、Thawing Medium(CTL WashTM Medium)にて凍結細胞を融解・洗浄後、培地(CTL TestTM Medium)にて所定濃度に調製し、ヒトIFN-γ ELISpot解析に供した。細胞をELISpot専用96ウェルプレートに0.5及び1×107細胞/mLの濃度で100μLずつ播種し、20μMに調製した各ペプチド溶液を100μLずつ添加(終濃度:10μM/0.1%DMSO入り培地)して、37℃でCO2インキュベーターにて5日間培養した。その後、所定のプロトコルに従い発色させ、ELISpotリーダーにて各ウェルの陽性細胞数(IFN-γ産生細胞数)を計測した。不活化HSV-1(10PFU/細胞)、Con A(終濃度:2μg/mL)を陰性対照(None)として0.1%DMSO入り培養培地で評価した。IFN-γ産生細胞数の検出はHuman IFN gamma ELISPOT Ready-SET-Go!(登録商標、ebioscience 88-7386-88)を用いて、ELISpot analyzer(CTL Immunospot S5 versa analyzer)にて画像を取り込み、スポット数をimmunospot softwareでカウントした。
【0100】
各サンプルの測定は全て3ウェルずつで実施した。実験結果を表10に示す。表10(A)はIFN-γ産生細胞数の平均スポット数を示し、グレーの網掛けはスポット数が少なすぎて判定不能であったことを示す。また、表10(B)はT細胞刺激活性の有無の判定を陰性対照(None)に対する刺激指数(SI:Stimulation Index)を指標として行なったものである。SIが3をPositive、SIが2以上3未満をMarginal、Siが2未満をNegativeと判定したその結果、5ペプチド全てがヒトT細胞刺激活性を有し、そのうち4ペプチドがHLA型の異なる複数のヒトPBMCのT細胞を刺激できることが明らかになった。
【表10】
【0101】
<合成ペプチドのマウスのT細胞刺激活性解析>
T細胞刺激活性解析は、合成ペプチドのマウス免疫原性試験によって行われた。合成ペプチドをDMSOにて10mMに溶解又は懸濁したstock solutionを調製した。また投与用の溶媒として、NIKKOL HCO-60(日光ケミカルズ株式会社製)を用いて10%HCO-60/saline(注射用生理食塩水)を調製した。合成ペプチド100μgをCpG10μg及びMPLA10μgと共に溶媒に混合し210μL/匹の容量に調製して、マウス(4~5週齢、雌)の背部皮下に投与した。マウスはBALB/c(I-Ad/I-Ed)、C57BL/6(I-Ab)、C3H/HeN(I-Ak/IEk)の3系統を用いた。初回免疫から21日後に追加免疫を行い、その2週間後に脾臓を回収し脾細胞を調製して、以下のサイトカイン産生応答解析(ELISpot解析)に供した。調製した脾細胞を1×106細胞/ウェルになるようにPVDF膜96ウェル(MSIPS4W10 Millipore)に播種し、各種ペプチド10μMと20時間培養した。培養は、RPMI1640培地を用いて10%FBS存在下で、37℃かつCO2濃度5%に設定したインキュベーターにて実施した。陽性対照としてCon A添加群を設定した。IFN-γ産生細胞の検出はmouse IFN gamma ELISPOT Ready-SET-Go!(登録商標、ebioscience 88-7384-88)を用いて行なった。ELISpot analyzer(CTL Immunospot S5 versa analyzer)で画像を取り込み、スポット数をimmunospot softwareでカウントした。
【0102】
DP1~DP5の5ペプチドのそれぞれをBALB/c(I-Ad/I-Ed)、C57BL/6(I-Ab)、C3H/HeN(I-Ak/IEk)の3系統のマウス(各群n=2)に免疫した後に、脾臓を採取し脾細胞を調製して、各ペプチドに対するT細胞応答性(IFN-γ及びIL-2産生刺激活性)をELISpot解析した。各サンプルの測定は全て2ウェルずつで実施した。実験結果を
図11に示す。IFN-γ産生ELISpot解析(
図11(A))及びIL-2産生ELISpot解析(
図11(B))のいずれにおいても、DP1以外の4ペプチドが2系統以上のマウス脾臓T細胞を刺激できることが確認された。
【0103】
実施例8 ヒト血清画分(免疫グロブリン)中に含まれる抗gD2抗体のポピュレーション解析
実際のヒト血清中に含まれる抗HSV gD抗体のポピュレーションを解析するために、ヒトガンマグロブリンカクテルであるベニロン(献血ベニロン(登録商標)-I静注用、一般財団法人化学及血清療法研究所)を用いて、取得された抗体との競合試験を行った。競合試験としてgD1-315とベニロンを反応させた後にモノクローナル抗体を反応させた。この系では、ベニロンに含まれる競合抗体の量が多いほど当該モノクローナル抗体(被検抗体)の結合量が少なくなり、競合率は高くなると考えられる。競合試験にはSPR(Biacore)を用いた。
【0104】
(SPRを用いたベニロン競合試験)
競合試験はBiacore 3000(GE Healthcare)を使用して行われた。すべての実験においてHBS-EP buffer(GE Healthcare)を使用し、温度は25℃、流速は10μL/分に設定した。Sensor chipはNTA(GE Healthcare)を使用した。推奨されたプロトコルに基づき、0.5mM NiCl2を10秒反応させた。次に、gD1-315-Hisを3μg/mLで60秒反応させ、約300 resonance units(RU)固相化した。Biacoreを表面プラズモン共鳴センサーとして用いて解析を行った場合、得られるシグナル値である「RU」は、1mm2あたり物質が1pg結合したときの単位として表される。また、chipの再生については350mM EDTAで10秒、2回、chip表面を処理し、Bufferで10秒洗浄した。新たな検体を測定するたびに固相化及び再生を同様の方法で実施した。競合率は次のように算出された。濃度20μg/mLの検討する抗体を流速20μL/分で120秒アプライし、増加したRUを(1)とし、濃度150μg/mLのベニロンを流速20μL/分で120秒アプライし続けて、その後、濃度20μg/mL抗体120秒アプライし、増加したRUを(2)とした時、(1-(2)/(1))×100の計算式によって競合率を計算した。すべてのサンプルは一回のみ測定した。
ベニロン競合試験の解析結果を表11に示す。最も高い競合率を示したのは弱中和抗体である抗体No.5であり、次いで抗体No.13、抗体No.75、抗体No.78、抗体No.72とP50周辺領域にエピトープを有する抗体群が上位を占めた。一方、抗体No.82は7クローン中、6番目であり相対的に低い競合率を示し、最も低いものは抗体No.1であった。
【0105】
以上の結果から、ヒト血清中に含まれる抗gD2抗体の中で、野生型gD抗原上のP50周辺領域のエピトープを認識する抗体の数は、RBD上又はその周辺のエピトープを認識する抗体の数よりも多いことが分かった。P50周辺領域は高い抗体誘導能を有するが、有益性の低い抗体を多く誘導し得るデコイ領域であると考えられた。
【表11】
【0106】
実施例9 ワクチン抗原のためのHSV gD改変体の設計
本発明者らは、中和抗体のエピトープが存在するRBDが有益なエピトープ領域とし、有益性の低い抗体群のエピトープが存在するP50周辺領域及びFR3をデコイ領域とし、中和抗体をより多く誘導できるgDタンパク質改変体の設計にあたって、有益なエピトープを際立たせること、デコイ領域中のエピトープを糖鎖導入や欠損変異等によって脱エピトープ化すること、さらに、プロミスキュアスT細胞エピトープクラスターペプチドを連結することによって、液性免疫応答、細胞性免疫応答の双方を効率的・効果的に惹起できること、の3つの観点から、以下のようにgD改変体を設計し、その中和抗体の誘導活性を調べた。
【0107】
<改変型gDの設計方針>
野生型HSV gD抗原上に存在する有益なエピトープとして、抗gD2抗体No.82のエピトープであるgDレセプター結合ドメイン(RBD)、及びT細胞エピトープ解析より予測されたプロミスキュアスT細胞エピトープクラスターDP5(配列番号8)を想定し、また相対的に有益性の低い抗体群のエピトープが集中しているデコイ領域としてP50周辺領域を想定した。
【0108】
前述の3つの観点に基づく改変型gDの設計において、(1)糖鎖導入による非中和エピトープのマスキング、(2)gD1-315のC末端側配列FR3の改変、(3)T細胞エピトープペプチドの連結、という3つの方針とした。
【0109】
(1)の糖鎖導入に当たっては、R186(SC-A)、P74(SC-D)、P50(SC-F)の三箇所を改変部位候補とした。特にSC-Fは非中和抗体群であるグループC1の結合を阻害するという結果が示されており、P50(SC-F)を中心とした糖鎖導入を実施した。
【0110】
(2)のgD1-315のC末端側配列FR3の改変に関しては、文献報告のあるHSV gD1の結晶構造解析(非特許文献7)から、FR3及びN末端側配列であるFR1はgD分子内のコアベータシート構造であるFR2の全く同じ面に、巻き付くように結合し得ることが示唆されている。FR1及びFR3は互いに干渉し合うため、FR2に対しどちらか一方しか結合できない。通常ウイルスエンベロープ上ではFR3が結合しており、レセプターとの結合時にはFR3が外れ、FR1が結合するように構造変化し、レセプター結合領域が露わになると推察されている。抗体No.82のエピトープ解析から、抗体No.82はNectin-1結合領域と結合すること、FR1欠損体(gD34-315)との反応性が低下すること、gDとHVEM或いはNectin-1との結合を阻害することが分かっている。即ち、抗体No.82のエピトープを際立たせ、当該領域に対するイムノ・リフォーカスを誘導するためにはFR3を欠損させるか、又はFR3のFR2への結合を阻害することが有効であると考えられた。FR3欠損体としては文献報告のあるgD1-275をベースとした(非特許文献12)。また、FR3上には抗体No.1のエピトープが存在することから、FR3の欠損によって一部の非中和抗体の誘導が抑制されるのではないかと期待された。またFR3のFR2への結合を阻害するという観点からは、同様に文献報告のあるgD1-315 V231W変異体(gD1-315V)をベースとした(非特許文献9)。V231W変異はFR3のFR2への結合を阻害することが示唆されている。こちらの改変体では抗体No.1等の非中和抗体の誘導を抑制することまでは期待できないが、抗体No.82のエピトープを際立たせることは可能であると考えられた。
【0111】
(3)のT細胞エピトープペプチドの連結に関しては、予測されたT細胞エピトープの配列を改変体のC末端等に連結することによりT細胞免疫応答を誘導することができる。膜貫通領域や細胞内領域にもT細胞エピトープが存在するが、ワクチンとしての使用を考慮すると、細胞外領域で構成される分泌発現型での設計が必要となるため、膜貫通領域や細胞内領域に存在するT細胞エピトープを連結することで、細胞外領域には含まれないT細胞エピトープを有効に利用することができる。gD2 エクトドメイン配列中には予測された5ペプチドのうちDP1-3までの3つの配列しか含まれていないため、細胞内領域のエピトープ配列であるDP5を連結する効果は大きいものと考えられた。よって、このDP5の二連結体を中心に改変を進めた。
【0112】
以上の改変型gDの設計戦略の模式図を
図12に示した。また、HSV gD2単量体の立体構造モデルに糖鎖導入箇所や予想される抗体No.82エピトープ等を加えたものが
図3に示されている。
【0113】
<改変型gDの設計、発現、反応性解析>
以上の三つの方針に基づき、gD2の改変を進め、計16種類の改変体を得た(表12)。改変体の作製は、以下に示す方法に従って行った。
【0114】
(プラスミドコンストラクト)
gD1-275、gD1-315のプラスミド構築、糖鎖を導入する際に使用したプライマーに関しては、前述の通りである。T細胞エピトープペプチドを導入する場合には、目的のgD配列のC末端残基(D275又はG315)に続けてリンカー(GPGPG)、各T細胞エピトープペプチド、6×His-tagの順で連結するようにDNAを設計し、全長を人工遺伝子合成し、pUC19ベクターにクローニングした。完成した改変体配列をpCAGGS1-dhfr-neoベクターにクローニングし、発現用プラスミドを得た。
【0115】
gD1-275をベースとした改変体は4種類作製した。これらはFR3を欠損した改変体であるので、FR3に影響を及ぼすV231W変異は検討しなかった。糖鎖の導入のみ(gD1-275v3、gD1-275v5)では性状に変化は見られなかったが、さらにDP5を連結した改変体のうちgD1-275v3-55で凝集体の存在を確認した。性状が良好であったgD1-275v5-55との違いはR186(SC-A)を導入したか否かであったため、構造上275aaの近傍に存在するR186(SC-A)の立体構造がDP5の本体部分への吸着等、凝集の引き金となる構造変化を阻止したのではないかと推察される。一方gD1-315をベースとした改変体は8種類作製され、全ての改変体で性状・発現量共に原体であるgD1-315を下回るものはなかった。
【0116】
<改変体と各種抗gD2モノクローナル抗体との反応性の解析>
(抗体及びgD改変体の発現、精製)
各抗gD2モノクローナル抗体及び各gD改変体はExpi293発現システムを用いて発現した。4~6日間の培養の後、その上清をProtain A アフィニティクロマトグラフィーカラム又はNi-NTA アフィニティクロマトグラフィーカラムによって精製し、PBSで透析を行った。その純度についてはサイズ排除クロマトグラフィーとSDS-PAGEによって確認した。
【0117】
(抗gD2抗体との競合ELISA)
リン酸緩衝生理食塩水で濃度2μg/mLに調整した100μLのgD改変体を96ウェルマイクロタイタープレートに、4℃にて一晩かけて固相化した。各ウェルをPBSで3回洗浄し、300μLの1%BSA PBSで室温にて1時間ブロッキングした。各ウェルをPBS-T(0.05%Tween PBS)で3回洗浄し、各抗gD2抗体を1%BSA PBSに任意の希釈倍率で希釈し、100μLで加え、37℃にて一時間反応させた。再度各ウェルをPBS-Tで洗浄し、HRP標識抗体(anti-hFc/HRP/1%BSA PBS)を加え、37℃にて一時間反応させた。各ウェルをPBS-Tで洗浄し、TMBで室温にて30分発色させ、1N硫酸で反応を停止させた後、450nm/650nmの吸光度を測定した。
【0118】
その結果を表12に示す。全ての改変体で抗体No.82との反応性を確認できたため、3つの方針による抗体No.82エピトープへの悪影響は無いものと判断された。一方、予想された通り、FR3上にエピトープが存在する抗体No.1はgD1-275ベースの改変体と反応性を示さなかった。また、これまでエピトープが不明であった抗体No.13に関しては、gD1-275ベースにP50(SC-F)を導入することで反応性が消失する(マスキングが可能である)ことが判明した。FR3の欠損若しくはP50(SC-F)の導入のどちらか片方のみの改変では抗体No.13の反応性は残存したままであった結果を考えると、P50(SC-F)とFR3が何らかの立体構造を協調的に形成しているのではないかと考えられるが、詳細なエピトープは不明のままである。他のCグループの抗体群については概ね想定通りの反応性を示した。P50(SC-F)の導入により抗体No.5、抗体No.78の結合は完全にブロックされ、FR3に一部エピトープが存在することが示唆されていた抗体No.72.及び抗体No.75は一部の改変体で弱い反応性を示した。弱中和抗体である抗体No.72、抗体No.75の反応性を残存させることができたことは、ワクチン抗原として望ましい結果であった。
【表12】
【0119】
抗体No.82との反応性についてはさらに詳細な解析を実施した(
図13)。
図13は、gD1-315(野生型)との反応性を「1」としたときの、各gD改変体の抗体No.82との反応性の相対値を示す。抗体No.82は作出した全てのgD改変体と結合したが、その反応性の強さは様々であった。gD1-315に対する抗体No.82の反応性を基準とすると、大半の改変体において抗体No.82との反応性が増強していた。糖鎖導入の観点からは、P50(SC-F)単体の導入よりもR186(SC-A)をも同時に導入した方がより効果が高かった(gD1-315v5-55、gD1-315v5-55V)。前述の通り、抗体No.82はgDレセプター結合領域とFR1の一部にエピトープが存在する。gD1-275v3-55の凝集体形成において言及した理由と同様に、R186(SC-A)がFR3のフレキシビリティを奪い、FR1がgDレセプター結合領域へより結合し易い状況が生み出されたのではないかと考えられる。また、DP5を連結した改変体においても顕著に抗体No.82との反応性が増強されており、特にgD1-315v5-55ではgD1-315原体に比して約12倍もの反応性を示した。C末端へのDP5のタンデム連結は、DP5の配列そのものがFR3のgDレセプター結合領域への結合を阻害する役割を果たすものと考えられる。V231W変異体(gD1-315v3-55V、gD1-315v5-55V)については変異のない改変体(gD1-315v3-55、gD1-315v5-55)と比較して抗体No.82の反応性がやや低下するという結果となった。V231Wが紹介された文献(非特許文献9)ではFR3の結合を阻害する効果があるとの報告であったが、実際にはその嵩高さによってFR1の結合をやや阻害するか、本来の結合構造を変化させてしまう効果があるのではないかと考えられる。
【0120】
以上の考察から、各改変体はFR1がレセプター結合領域へ結合している構造を取っているものと強く推察できる。そこでHVEMと各改変体の反応性を競合ELISAによって測定した。
【0121】
結果を
図14に示す。HVEMはFR1がレセプター結合領域へ結合し、特徴的なヘアピン構造を取った時に初めてgDに結合することができる。HVEMの相互作用サイトは全てFR1に存在することが示されており、HVEMとの反応性向上は前述の推察のとおりであった。原体であるgD1-315と比較して、最もHVEMとの反応性が高かったのはgD1-315v5-55であり、次いでgD1-315v5-55V或いはgD1-275v5-55、さらにはgD1-315v3-55の順でHVEMと反応しgD1-315及びgD1-315v5は殆ど反応が認められなかった。FR3を欠損させたgD1-275v5-55はFR3が存在する他のgD1-315ベースの改変体よりもFR1の結合、続いてHVEMの結合を推進した。抗体No.82の反応性解析において1-275v5と1-315v5はほぼ同様の反応性を示したことから、FR3欠損による効果はR186(SC-A)導入による効果とほぼ同程度であると推察できる。
【0122】
<改変型gDのマウス免疫原性試験>
(マウス免疫原性試験)
野生型gD抗原gD1-315(WT)を陽性対照、salineを陰性対照として、改変型gD抗原の免疫原性試験を実施した。MPLA(10μg/匹)及びCpG(1μg/匹)と共に、所定量の抗原を注射用生理食塩水(saline)に溶解し、200μL/匹の容量でマウスに免疫した。試験には、BALB/cマウス(5週齢、メス)を用い、2週間間隔で合計3回、背部皮下に免疫した(1群あたりN=4の例数で実施)。最終免疫(3回目)から2週間後に、個体毎に採血し血清を調製した。調製した血清を段階希釈し、HSV-2に対する中和抗体誘導活性(プラーク数50%減少活性)を評価した。
【0123】
中和抗体誘導活性に関する解析結果を
図15~
図19に示す。各グラフ中、改変型gDのデータを黒色実線、野生型gDのデータを灰色点線で示し、高用量投与群(3μg/匹)を黒丸、中用量投与群(0.3μg/匹)を黒三角、また低用量投与群(0.1μg/匹)を黒四角で示した。各群の動物例数をn=4として実験を行い、それらの平均値をプロットし±SEエラーバーを付記した。評価に供した13種類の改変型gDのうち(E)のgD1-315 V以外の12種類の免疫血清は、野生型gD(gD1-315)の免疫血清に比して概ね高い中和抗体活性を示した。即ち、同一投与量における同一希釈倍率のプラーク数減少率を比較すると、野生型gDよりも改変型gDの方が高い減少率を示す傾向にあった。
【0124】
次にELISA法による抗gD抗体誘導活性に関する解析結果を
図20~24に示す。各グラフ中のシンボルや折れ線に関する表記は前出の中和抗体誘導活性グラフと同様とした。中和抗体活性に関する結果とは逆に、評価に供した14種類の改変型gDのうち(C)のgD1-315v5、(F)のgD1-315V、(J)のgD1-275以外の11種類の免疫血清中の抗gD結合抗体活性は野生型gDのそれに比して、相対的に低い値を示す傾向にあった。即ち、改変型gDは野生型gDよりも少ない結合抗体価(抗体量)で高い中和抗体活性を誘導することが分かった。
【0125】
以上の結果は、野生型gD抗原上のP50周辺領域に多く存在する有害・無益なエピトープをN型糖鎖導入によって脱エピトープ化することによって、残存している有益性の高い中和エピトープに対する免疫応答をより効率的・効果的に誘導することができた結果であると考えられる。言い換えれば、野生型gD抗原に対する偏った免疫応答(免疫偏向)を、本発明者らのイムノ・リフォーカス戦略によって理想的な形に矯正(免疫矯正)することができたものと言える。
【0126】
さらに細胞性免疫(T細胞免疫)誘導活性に関して、改変型gD抗原の一例としてgD1-315v3-55と野生型gD(gD1-315)のそれぞれを免疫したマウス(3μg/匹投与群)から調製した脾細胞(4例分を纏めたプールサンプル)のIFN-γ産生応答活性(リコール活性)を比較解析した。具体的には、5週齢のBALB/cマウスに3μgの抗原を背部皮下に2週間間隔で3回免疫し、最終免疫の2週間後に脾臓細胞を回収した。底面がPVDF膜になっている96ウェルプレートに抗IFN-γを固相化し、1×10
6cells/100μL/ウェルで細胞を播種。刺激物質として免疫抗原を10mM添加し、20時間37℃、5%CO
2で培養した。上清を除去し、抗マウスIFNγ-HRP抗体を反応させた後に、AEC試薬によりHRPを染色することで、IFNγ産生細胞数を、Image Analyzer(CTL社)を用い、カウントした。結果を
図25に示す。gD1-315v3-55免疫群の方が野生型gD免疫群も高い応答活性を示すことが分かった。改変型gD抗原のC末端にHLA Class II拘束性プロミスキュアスT細胞エピトープクラスターDP5を2連結させることによって、細胞性免疫(T細胞免疫)誘導活性を増強させ得ることが分かった。
【0127】
<改変型gDのマウス感染防御試験>
(マウス感染防御試験)
マウス性器ヘルペス感染モデルを用いて、改変型gD抗原の予防的投与における感染防御試験を実施した。前述のマウス免疫原性試験と同様にして、1群あたりN=10の例数にてマウスを免疫した。最終免疫(3回目)から2週間後に行うウイルス接種時の感染効率を向上させるために、ウイルス接種6日前にDepo-Proveraを2mg/匹で皮下接種した。麻酔下で5×105PFU/20μLのHSV-2 MS株を経腟接種し、21日間経過観察を行った。生存日数(生存率)を指標に感染防御能を評価した。
【0128】
マウス性器ヘルペス感染モデル感染モデルを用いて、各種改変型gDの感染防御能を予防的投与にて評価した。各群の動物例数をn=10として、陽性対照として野生型gD(gD1-315)、陰性対照としてsalineを用いた。実験は計4回実施(実験1~4)し、陽性対照、陰性対照、及び被検改変型gD抗原については全て0.1μg/匹/回、0.03μg/匹/回、0.01μg/匹/回及び0.003μg/匹/回の4用量を設定した。最終免疫(3回目)から2週間後に行うウイルス接種時の感染効率を向上させるために、ウイルス接種6日前にDepo-Proveraを2mg/匹で皮下接種した。麻酔下で5×105PFU/20μLのHSV-2 MS株を経腟接種し、21日間経過観察を行った。生存日数(生存率)を指標に感染防御能を評価した。グラフ中にはそれらの平均値をプロットした。Kaplan-Meier法により陰性対照群に対する有意差検定を行うと共に、検定結果に基づく最小有効用量が野生型gDに比して3倍公比で2用量以上強いものを「++」、1用量強いものを「+」、同等のものを「±」と判定した。
【0129】
実験1の結果を表13、及び
図26~
図28に示す。評価した6種類全ての改変型gDは、野生型gDに対する優越性を示し、そのうち「++」と判定されたものはgD1-315v3-55、gD1-315v5-55V、gD1-275v5-55の3種類であり、「+」と判定されたものはgD1-315v5、gD1-315v4V、gD1-315v4-55Vの3種類であった。
【表13】
【0130】
実験2の結果を表14、及び
図29に示す。評価した2種類の改変体gD1-315v3-55、gD1-315v3-55V共に「+」と判定され、野生型gDに対する優越性を示した。
【表14】
【0131】
実験3の結果を表15、及び
図30に示す。評価した改変体gD1-315v3Vの判定は「±」であり、野生型gDに対する明確な優越性は認められなかった。
【表15】
【0132】
実験4の結果を表16、及び
図31~
図32に示す。評価した5種類全ての改変型gDが野生型gDに対する優越性を示し、そのうち「++」と判定されたものはgD1-315v4-55V、gD1-315v5-55Vの2種類であり、「+」と判定されたものはgD1-275v3-55、gD1-275v4-55、gD1-275v5-55の3種類であった。
【表16】
【0133】
以上、gD1-315v3V以外のほぼ全ての改変型gDに関して、中和抗体誘導能と同様に感染防御能においても野生型gDに対する優越性が確認された。
【0134】
<改変型gD免疫血清中の抗体ポピュレーション解析>
マウス免疫原性試験及びマウス感染防御試験において野生型gD(gD1-315)に比して優越性が認められた一連の改変型gDのうち、gD1-315v3-55及びgD1-315v5-55について、そのメカニズムを調べるために免疫血清の解析を行った。目的とする抗体No.82様抗体の効率的な誘導が実際に引き起こされているのか否かについて調べた。抗体量を揃えるために、血清からIgGを精製し、SPR(Biacore)を用いた競合法により解析した。
【0135】
(SPRを用いた抗gD2抗体競合試験)
抗gD2抗体競合試験は、Biacore 3000(GE Healthcare)を使用して行い、すべての実験においてHBS-EP buffer (GE Healthcare)を使用し、温度は25℃、流速は20μL分に設定した。Sensor chipはCM5 sensor chip(GE Healthcare)を使用し、推奨されたプロトコルに基づいて実験を行った。chip表面にはgD1-315-Hisを約300 RU固相化し、chipの再生には0.1MかつpH2.0のグリシン-塩酸緩衝液を用い、流速30μL/分で30秒、2回洗浄した。競合の手順、競合率の算出は次のように行った。各種抗gD2抗体10μg/mL又はbufferをchipに結合1分、解離2.5分の条件でアプライし、その後IgG精製した各種免疫血清20μg/mLを結合1分、解離5分の条件でアプライする。bufferアプライ後、免疫血清をアプライしたときに検出されたRUを100%とし、抗gD2抗体アプライによる免疫血清のレスポンスの低下を競合率として算出した。
【0136】
解析結果を
図33に示す。gD1-315v3-55免疫血清及びgD1-315v5-55免疫血清はいずれも、野生型gD免疫血清と比較して抗体No.82と競合する抗体の割合が上昇していることが確認できた。その一方で、N型糖鎖導入によってマスキングを受けたP50周辺領域にエピトープを有する抗体No.72と競合する抗体の割合は減少傾向にあることが確認された。また、エピトープが残存している非中和抗体No.1と競合する抗体の割合には殆ど変化が認められなかった。以上の結果から、野生型gD免疫血清に比して改変型gD免疫血清中には、良質な中和抗体である抗体No.82様抗体が相対的に多く存在しており、目的としたイムノ・リフォーカスを誘導できていることが示唆された。
【0137】
(gD レセプターとの競合ELISA)
さらに、改変型gD免疫血清によるgD-HVEM相互作用に対する阻害についても解析した。具体的には、リン酸緩衝生理食塩水で濃度5μg/mLに調整した100μLのgD1-305-cys-strep dimerを96ウェルマイクロタイタープレートに、4℃にて一晩かけて固相化した。その後、上記競合ELISAの方法と同様にブロッキング、洗浄を行い、各免疫血清から精製したIgGを任意の濃度で100μL添加し、室温にて一時間反応させた。その後、1μg/mLのHVEM(Recombinant Human HVEM/TNFRSF14 Fc Chimera Protein、R&D SYSTEMS)を1%BSA PBSに任意の希釈倍率で希釈し、100μLでそれぞれ添加し、さらに室温にて1時間反応させた。再度各ウェルをPBS-Tで洗浄し、HRP標識抗体(anti-hFc/HRP/1%BSA PBS)を反応させた。各ウェルをPBS-Tで洗浄し、発色させ、1N硫酸で反応を停止させた後、450nm/650nmの吸光度を測定した。
【0138】
結果を
図34に示す。gD-HVEM相互作用を阻害する抗体は野生型gD免疫血清中よりも改変型gD免疫血清中により多く含まれており、特にgD1-315v5-55免疫血清は強い阻害作用を示した。以上の結果から、改変型gDはgDとHVEMの相互作用を阻害できる良質の抗体を野生型gDよりも効率良く誘導させることによって、より強い防御効果をもたらしている可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の改変型HSV gDタンパク質は、HSV感染症の予防及び治療に効果的なワクチンの作製に使用できる。
【配列表】