(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】搬送装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20230106BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
C21D9/00 101J
C21D1/00 117
(21)【出願番号】P 2020104470
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】518126144
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】石井 毅
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-013521(JP,A)
【文献】特開昭57-137216(JP,A)
【文献】実開昭53-096006(JP,U)
【文献】特開昭53-088614(JP,A)
【文献】特公昭48-015765(JP,B1)
【文献】実開昭51-066541(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00-11/00
F27D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状のビレットの下面と接触しつつ回転することで前記ビレットの軸方向を搬送方向として前記ビレットを搬送するピンチローラを備える搬送装置において、
前記ピンチローラが周方向に沿って周面に形成される溝部を有していて、搬送方向に沿って延設されるとともに前記溝部に一部が配置されるガイド部材を有することを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
搬送方向を直角に横断する幅方向において前記ピンチローラの中央部となる位置に、前記ガイド部材が配置される構成を有する請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記ピンチローラの前記周面が、搬送方向を直角に横断する幅方向における両側から前記溝部に向かって互いに接近する一対の傾斜面で構成される請求項1または2に記載の搬送装置。
【請求項4】
搬送方向に沿って並べて配置される二つの前記ピンチローラを有していて、搬送方向において一方の前記ピンチローラの前記溝部から他方の前記ピンチローラの前記溝部に至る範囲の全体に配置される構成を前記ガイド部材が有する請求項1~3のいずれかに記載の搬送装置。
【請求項5】
前記ガイド部材を支持するとともに、前記ガイド部材の位置を搬送方向または上下方向の少なくとも一方に調整可能とする調整部を有する請求項1~4のいずれかに記載の搬送装置。
【請求項6】
棒状のビレットの下面にピンチローラを接触させつつ回転させることで前記ビレットの軸方向を搬送方向として前記ビレットを搬送する搬送方法において、
前記ピンチローラの周方向に沿って周面に溝部を予め形成して、この溝部に一部が配置されるとともに搬送方向に沿って延設されるガイド部材が予め配置されていて、
前記ピンチローラの搬送方向における前後の隙間に落ち込みそうになる前記ビレットを前記ガイド部材で支持しつつ搬送させることを特徴とする搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビレットをその軸方向に搬送するピンチローラを備える搬送装置および搬送方法に関するものであり、詳しくはピンチローラの搬送方向における前後の隙間へのビレットの落ち込みを防止することで搬送効率の低下を抑制できる搬送装置および搬送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
棒状のビレットをその軸方向を搬送方向として搬送する搬送装置が種々提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1には、上下方向に対向配置されるピンチローラを備えていて、ピンチローラによりビレットを誘導加熱炉に搬送する搬送装置の構成が開示されている。
【0003】
ビレットの搬送方向においてピンチローラの前後に隙間が形成されているため、この隙間にビレットが落ち込む不具合が発生していた。ビレットの前端または後端がピンチローラの隙間に落ち込み、ピンチローラによりビレットを送ることができなくなる不具合があった。特にビレットが軸方向に比較的短い場合、隙間に落ち込みやすかった。
【0004】
ビレットの前端がピンチローラの隙間に落ち込み、後端が浮き上がることがあった。ビレットが傾くので、ビレットの浮き上がった後端の下に後続のビレットが入り込む不具合があった。後続のビレットが衝突することで先行するビレットが搬送装置から落下する不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的はピンチローラの搬送方向における前後の隙間へのビレットの落ち込みを防止することで搬送効率の低下を抑制できる搬送装置および搬送方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための搬送装置は、棒状のビレットの下面と接触しつつ回転することで前記ビレットの軸方向を搬送方向として前記ビレットを搬送するピンチローラを備える搬送装置において、前記ピンチローラが周方向に沿って周面に形成される溝部を有していて、搬送方向に沿って延設されるとともに前記溝部に一部が配置されるガイド部材を有することを特徴とする。
【0008】
上記の目的を達成するための搬送方法は、棒状のビレットの下面にピンチローラを接触させつつ回転させることで前記ビレットの軸方向を搬送方向として前記ビレットを搬送する搬送方法において、前記ピンチローラの周方向に沿って周面に溝部を予め形成して、この溝部に一部が配置されるとともに搬送方向に沿って延設されるガイド部材が予め配置されていて、前記ピンチローラの搬送方向における前後の隙間に落ち込みそうになる前記ビレットを前記ガイド部材で支持しつつ搬送させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ピンチローラの搬送方向における前後の隙間に落ち込みそうになるビレットを、搬送装置はガイド部材で支持しつつ搬送することができる。そのため搬送装置はビレットの隙間への落ち込みを防止できる。ビレットの搬送効率の低下を抑制するには有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】ガイド部材の周辺を拡大して例示する説明図である。
【
図4】
図2のピンチローラをAA矢視で例示する説明図である。
【
図5】
図4のピンチローラにビレットが接触している状態を例示する説明図である。
【
図6】
図4のピンチローラの変形例を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、搬送装置および搬送方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。図中ではビレットの搬送方向を矢印x、この搬送方向を直角に横断する幅方向を矢印y、上下方向を矢印zで示している。
【0012】
図1に例示するように搬送装置1は、棒状のビレット2の下面と接触しつつ回転することでビレット2を軸方向に送り出すピンチローラ3を有している。ビレット2は例えば円柱形状や角柱形状に形成されている。この実施形態では上下方向zに間隔をあけて対置される一対のピンチローラ3を搬送装置1は有している。ピンチローラ3は図示しないモータ等を動力源として、幅方向yに延びる中心軸を中心に回転する構成を有している。
【0013】
この実施形態では搬送装置1は、ビレット2をピンチローラ3に向けて搬送するチェーンコンベア4を有している。チェーンコンベア4の他に、ベルトコンベアなど他の構成を搬送装置1が有していてもよい。搬送装置1はビレット2の下面側と接触するピンチローラ3を少なくとも有していればよく、チェーンコンベア4は必須要件ではない。搬送装置1はビレット2を誘導加熱炉5に搬送する構成を有している。図では説明のためビレット2が移動する方向を白抜き矢印で示している。
【0014】
誘導加熱炉5は、ビレット2の移動方向の後方側(
図1左方側)から内部にかけて搬送方向xに延設されるスキッドレール6を備えている。スキッドレール6は搬送方向xに延設されていて幅方向yに間隔をあけて配置される一対の棒状部材で構成されている。スキッドレールは例えば日本国特開2010-238647号公報にその構造が開示されている。
【0015】
搬送方向xにおけるピンチローラ3の前後には隙間7が形成されている。チェーンコンベア4とピンチローラ3との間およびピンチローラ3とスキッドレール6との間にそれぞれ隙間7が形成される。
【0016】
この隙間7を塞ぐ状態で配置されるガイド部材8を搬送装置1は有している。ガイド部材8は例えば円柱形状の棒状部材で構成される。ガイド部材8は角柱形状の棒状部材で構成されてもよく、平板状の部材で構成されてもよい。ガイド部材8は搬送方向xに延設されている。ガイド部材8はピンチローラ3の前後に延設されているともいえる。上下方向zにおいて下方側に配置されるピンチローラ3の上端よりも、ガイド部材8の上端が低い位置となる状態にガイド部材8は配置されている。
【0017】
図2および
図3に例示するようにガイド部材8は支持部材9により支持されている。支持部材9は例えば幅方向yに延設されていて、ガイド部材8を下方から支持する構成を有している。支持部材9は例えば搬送装置1を構成する壁状部材等にその端部を固定される。支持部材9の構成は上記に限らず、ガイド部材8を支持できる構成を有していればよい。
【0018】
ガイド部材8の後端はチェーンコンベア4に接触しない位置であり、且つ可能な限り接近した位置に配置されることが望ましい。ガイド部材8の搬送方向xにおける設置位置の調整またはガイド部材8の長さの調整でチェーンコンベア4への接近配置を実現できる。
【0019】
チェーンコンベア4に対してガイド部材8を接近させて配置できるので、ピンチローラ3の後方側(
図2左方側)の隙間7を容易に閉止させることができる。
【0020】
ガイド部材8の前端はスキッドレール6に接触しない位置であり、且つ可能な限り接近した位置に配置されることが望ましい。
図3に例示するようにこの実施形態では平面視において、幅方向yに間隔をあけて配置される一対のスキッドレール6の間となる位置にガイド部材8が配置される。搬送方向xにおいては、ガイド部材8の一部がスキッドレール6と重なる状態に配置されている。
【0021】
搬送方向xにおいてガイド部材8がスキッドレール6と重なる状態であるため、ピンチローラ3とスキッドレール6との間に形成される隙間7は完全に閉止されることになる。
【0022】
図4の左方に例示するようにピンチローラ3は、周方向に沿って周面に形成される溝部10を有している。この実施形態では幅方向yにおいてピンチローラ3の周面の略中央に溝部10が形成されている。つまり溝部10はピンチローラ3の軸方向における略中央に形成されている。説明のため
図4の右方には溝部10を有さない従来のピンチローラ3Xを示している。
【0023】
ガイド部材8は少なくとも一部が溝部10に収納される状態で配置されている。この実施形態では上下方向zにおいてガイド部材8の一部が溝部10に配置されている。また
図3に例示するように搬送方向xにおいてガイド部材8の一部が溝部10に配置されている。搬送方向xにおいてガイド部材8は溝部10を貫通する状態である。ガイド部材8はピンチローラ3と接触する状態で配置されてもよいが、接触しない状態で配置されることが望ましい。ピンチローラ3の回転により、ガイド部材8および溝部10が摩耗することを防止できる。
【0024】
ガイド部材8は、ピンチローラ3の幅方向yにおける中央部となる位置に配置されることが望ましい。中央部とは、幅方向yにおいてピンチローラ3の中心となる位置に加えて、この中心から幅方向yにずれる位置も含む概念である。幅方向yにおいて、ピンチローラ3の両端よりも内側のとなる位置にガイド部材8の全体が配置されていればよい。
【0025】
図4では幅方向yにおいてピンチローラ3の周面が、中央部から両側に向かって拡開する傾斜面11で構成されている。一対の傾斜面11は溝部10に向かって互いに接近する構成を有している。
図5に例示するように傾斜面11に接触する状態でビレット2は搬送される。このときビレット2がガイド部材8と接触しない状態とすることが望ましい。ガイド部材8との摩擦によりビレット2の搬送効率が低下することを抑制できる。
【0026】
この実施形態では、上下方向zおよび幅方向yで構成される面による溝部10の断面形状は四角形に形成されている。溝部10の断面形状はこれに限定されない。
図6に例示するように溝部10の断面形状は、ピンチローラ3の中心軸に向かって凸となる三角形に形成されてもよい。
【0027】
ピンチローラ3の搬送方向xにおける前後の隙間7に落ち込みそうになったビレット2はガイド部材8により支持される。隙間7へのビレット2の落ち込みを防止できるので、搬送装置1はビレット2の搬送効率の低下を抑制できる。
【0028】
ビレット2をガイド部材8で支持できるので、幅方向yを中心軸とするビレット2の傾きを搬送装置1は抑制できる。ビレット2の後端が浮き上がり、このビレット2に後続のビレット2が衝突して、搬送装置1からビレット2が落下する不具合を回避するには有利である。
【0029】
搬送方向xに比較的短いビレット2を搬送する場合、隙間7にビレット2が落ち込んだり、ビレット2の後端が浮き上がったりしてビレット2の搬送効率が低下する不具合が従来は特に多かった。このようなビレット2であっても搬送装置1は効率よく搬送できる。
【0030】
ピンチローラ3の前後の隙間7はガイド部材8により閉止されている。そのためピンチローラ3が摩耗して隙間7が拡大した場合であっても、隙間7へのビレット2の落ち込みを抑制できる。
【0031】
ガイド部材8はピンチローラ3と干渉しない棒状部材で構成されているため、チェーンコンベア4やスキッドレール6に対する位置合わせが容易である。搬送方向xにおける隙間7をガイド部材8でほとんど閉止できる。
【0032】
図7に例示するように搬送方向xに沿って並べて配置される二組のピンチローラ3を、搬送装置1が備える構成にしてもよい。この実施形態ではビレット2の下面を支持する二つのピンチローラ3を搬送方向xに貫通する状態でガイド部材8が配置されている。
【0033】
チェーンコンベア4とピンチローラ3との間の隙間7、二つのピンチローラ3の間の隙間7、ピンチローラ3とスキッドレール6との間の隙間7を、搬送方向xに延設されるガイド部材8が閉止している。
【0034】
この実施形態では上下方向zおよび搬送方向xで構成される面による支持部材9の断面形状は下方に凸となる三角形に形成されている。この支持部材9により二つのピンチローラ3の間の隙間7の大部分が閉止される。
【0035】
仮にこの支持部材9のみで二つのピンチローラ3の隙間7を閉止しようとすると、ピンチローラ3に対する支持部材9の位置合わせには高い精度が要求される。たとえ支持部材9の位置合わせを高い精度で行ったとしても、ピンチローラ3の摩耗にともない隙間7が新たに発生することがある。特にピンチローラ3が傾斜面11を有している場合は位置合わせにさらに高い精度が要求される。
【0036】
これに対して搬送装置1はピンチローラ3の溝部10を貫通する状態で配置されるガイド部材8を有しているので、ガイド部材8の位置合わせを容易に行うことができる。ピンチローラ3が傾斜面11を有している場合であっても、隙間7を確実にガイド部材8で閉止できる。ピンチローラ3が摩耗した場合であっても隙間7が新たに発生することをガイド部材8が防止できる。
【0037】
搬送方向xにおけるガイド部材8の位置を調整する調整部を支持部材9が備える構成にしてもよい。ガイド部材8の位置合わせによりチェーンコンベア4等にガイド部材8を接近させて配置させる際の調整がさらに容易になる。
【0038】
調整部が上下方向zにおいてガイド部材8の位置を調整する構成を有していてもよい。上下方向zの位置合わせにより隙間7を確実に閉止させることが容易となる。
【0039】
チェーンコンベア4のチェーンのたるみを調整するために、スプロケット4aを搬送方向xに移動させて調整することがある。この際に調整部によりガイド部材8の位置も同時に調整することで、チェーンコンベア4にガイド部材8を接触させることなく、隙間7を確実に閉止することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 搬送装置
2 ビレット
3 ピンチローラ
4 チェーンコンベア
4a スプロケット
5 誘導加熱炉
6 スキッドレール
7 隙間
8 ガイド部材
9 支持部材
10 溝部
11 傾斜面
x 搬送方向
y 幅方向
z 上下方向