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特許7204725事前リチウム化溶液及びこれを用いた事前リチウム化された負極の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】事前リチウム化溶液及びこれを用いた事前リチウム化された負極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20230106BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230106BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230106BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230106BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20230106BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20230106BHJP
   H01G 11/42 20130101ALI20230106BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20230106BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/587
H01M4/48
H01M4/38 Z
H01G11/06
H01G11/30
H01G11/42
H01G11/50
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020208985
(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公開番号】P2021180171
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】10-2020-0055643
(32)【優先日】2020-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】304039548
【氏名又は名称】コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】イ,ミンア
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ジヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,キョン ユン
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ジン-ユ
(72)【発明者】
【氏名】キム,サン オク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョンソク
(72)【発明者】
【氏名】カン,インヨン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ジュ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジン クァン
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-526106(JP,A)
【文献】特開2018-026497(JP,A)
【文献】特開2019-160400(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107946574(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 4/587
H01M 4/48
H01M 4/38
H01G 11/06
H01G 11/30
H01G 11/42
H01G 11/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン及び水素以外の置換基を持つベンゼン環を少なくとも一つ含有する芳香族炭化水素誘導体の複合体を含む事前リチウム化溶液であり、
前記芳香族炭化水素誘導体は、下記化学式2-1~2-3のいずれか一つ、または、下記化学式1-1~1-3のいずれか一つで表示される化合物であることを特徴とする事前リチウム化溶液
[化学式2-1
【化1】
[化学式2-2]
【化2】
[化学式2-3]
【化3】
[化学式1-1]
【化4】
[化学式1-2]
【化5】
[化学式1-3]
【化6】
【請求項2】
前記事前リチウム化溶液の溶媒は、環状エーテル及び線形エーテルからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の事前リチウム化溶液。
【請求項3】
前記事前リチウム化溶液中の前記複合体の濃度は、0.01~5Mである、請求項1に記載の事前リチウム化溶液。
【請求項4】
前記複合体の酸化還元電位は、0.25V未満である、請求項1に記載の事前リチウム化溶液。
【請求項5】
請求項1に記載の事前リチウム化溶液を用いた事前リチウム化された負極。
【請求項6】
請求項5に記載の(a)前記事前リチウム化された負極と、(b)正極と、(c)電解質とを含むリチウムイオン電池。
【請求項7】
請求項5に記載の(a)前記事前リチウム化された負極と、(b)正極と、(c)電解質とを含むリチウムイオンキャパシタ。
【請求項8】
(a)集電体の一側又は両側の表面に形成された負極活物質層を含む負極を準備する段階;及び
(b)前記負極をリチウムイオン及び水素以外の置換基を持つベンゼン環を少なくとも一つ含有する芳香族炭化水素誘導体の複合体を含む事前リチウム化溶液に浸漬し、事前リチウム化された負極を製造する段階;を含む事前リチウム化された負極の製造方法であり、
前記芳香族炭化水素誘導体は、下記化学式2-1~2-3のいずれか一つ、または、下記化学式1-1~1-3のいずれか一つで表示される化合物であることを特徴とする事前リチウム化された負極の製造方法
[化学式2-1
【化7】
[化学式2-2]
【化8】
[化学式2-3]
【化9】
[化学式1-1]
【化10】
[化学式1-2]
【化11】
[化学式1-3]
【化12】
【請求項9】
前記負極活物質は、黒鉛、ハードカーボン、活性炭素、炭素ナノチューブ、非晶質炭素、シリコン、シリコン酸化物(SiOx)、シリサイド、シリコン合金、シリコンカーバイド、シリコンニトリド、Ge、Sn、Sb、Al、Ag、Au及びTiOからなる群から選ばれる1種以上である、請求項8に記載の事前リチウム化された負極の製造方法。
【請求項10】
前記(b)段階の浸漬は、-10~80℃の温度で行われる、請求項8に記載の事前リチウム化された負極の製造方法。
【請求項11】
前記(b)段階の浸漬は、0.01~1440分間行われる、請求項8に記載の事前リチウム化された負極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事前リチウム化溶液及びこれを用いた事前リチウム化された負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンバッテリーのエネルギー密度は、セルの電圧とセル体積(又は、質量)当たりに電気化学反応に伝達されたLiイオンの数によって決定される。実の電池では、最初サイクルにおいて負極上に固体電解質界面(solid-electrolyte interphase,SEI)を形成する電解質の非可逆的な電気化学的還元反応が発生するが、これは、サイクリング前に正極に本来にローディングされている活性リチウムイオンを消費し、バッテリー作動のクーロン効率を低下させる不具合があった。
【0003】
このように減った活性リチウムイオンにより、次のサイクルにおいてバッテリーの可用エネルギー密度が大きく制限される。リチウムイオンバッテリーの負極として商用されるグラファイトは、一般に初期クーロン効率の約90%を示すが、次世代高容量負極材であるシリコン及びシリコン酸化物(SiOx)は一般に、初期80%未満のクーロン効率を示し、商用化を妨げている実情である。
【0004】
初期高いクーロン効率及びエネルギー密度の極大化を達成するために、バッテリー組立に当たって事前リチウム化によって活性リチウムイオンの損失を余分のリチウムイオンで補償しようと試みられており、その試みの一環として、電極の製造過程において固相のリチウム粒子又はリチウム化合物を犠牲リチウムソースとして添加する方法が提示された。しかし、ナノサイズの添加剤は、大規模に合成し難く、既存の電極の製造に用いられる典型的な溶媒とは異なる溶媒及びこれによる新しい工程を必要とし、電極内に不純物の生成が不回避で、純エネルギー密度を低下させる問題があった。
【0005】
代案として、リチウム金属を製造された電極に物理的に接触させて事前リチウム化することがあるが、リチウム金属を物理的に接触させることは、リチウムドープ量が高精度に制御に難いという問題があった。リチウム金属を負極とする臨時のセルを作り、電気化学的に電極を事前リチウム化する方法も提示されたが、これは電池の再組立て段階がさらに必要であり、商用化に不適である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Holtstiege,F.,Barmann,P.,Nolle,R.,Winter,M.& Placke,T.Pre-lithiation strategies for rechargeable energy storage technologies:Concepts,promises and challenges.Batteries 4,4(2018)。
【文献】Sun,Y.et al.High-capacity battery cathode prelithiation to offset initial lithium loss.Nat.Energy1,1-7(2016)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする技術的課題は、化学的な方法により、0.3V未満の低い電圧を有するリチウムイオンバッテリー用高容量負極の事前リチウム化が可能な高還元性事前リチウム化溶液及びこれを用いた事前リチウム化された負極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、リチウムイオン及び水素以外の置換基を持つベンゼン環を少なくとも一つ含有する芳香族炭化水素誘導体の複合体を含む事前リチウム化溶液を提供する。
【0009】
本発明の他の側面は、(a)集電体の一側又は両側の表面に形成された負極活物質層を含む負極を準備する段階;及び(b)前記負極を、リチウムイオン及び水素以外の置換基を持つベンゼン環を少なくとも一つ含有する芳香族炭化水素誘導体の複合体を含む事前リチウム化溶液に浸漬し、事前リチウム化された負極を製造する段階;を含む事前リチウム化された負極の製造方法を提供する。
【0010】
本発明のさらに他の側面は、前記事前リチウム化溶液を用いた事前リチウム化された負極を提供する。
本発明のさらに他の側面は、(a)前記事前リチウム化された負極と、(b)正極と、(c)電解質とを含むリチウムイオン電池を提供する。
【0011】
本発明のさらに他の側面は、(a)前記事前リチウム化された負極と、(b)正極と、(c)電解質とを含むリチウムイオンキャパシタを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る事前リチウム化溶液及びこれを用いた事前リチウム化された負極の製造方法は、負極活物質に比べて十分に低い酸化還元電位を有する事前リチウム化溶液を用いて負極を溶液に浸漬する単純な過程によって、溶液中で化学的にリチウムイオンを負極全体にわたって均一に挿入できる。前記方法で製造された事前リチウム化された負極は、100%に近い理想的な初期クーロン効率を有し、これに基づいて理想的なエネルギー密度を有するリチウムイオン電池を製造することができる。また、製造された負極は乾燥大気においても優れた安定性を有し、大量生産への適用に適している長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1a】本発明の一実施例によって事前リチウム化溶液の製造に用いられた芳香族炭化水素化合物のサイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetry)分析結果である。
図1b】本発明の一実施例によって事前リチウム化溶液の製造に用いられた芳香族炭化水素化合物の計算されたLUMOエネルギーと酸化還元電位(E1/2)間の相関関係を示すグラフである。
図1c】本発明の一実施例によって事前リチウム化溶液の製造に用いられた芳香族炭化水素化合物の初期クーロン効率と酸化還元電位(E1/2)間の相関関係を示すグラフである。
図1d】本発明の一実施例によって製造された事前リチウム化されたSiOx負極及び純粋SiOx電極の最初充放電サイクルの電圧プロファイルである。
図1e】事前リチウム化後にSiOx電極に保持された活性リチウムイオンの量を電気化学的に滴定して示すグラフである。
図2a】4,4’-DMBPの酸化還元電位及び温度の関係を示すグラフである。
図2b】本発明の一実施例によって事前リチウム化温度を異にして製造されたSiOx負極の初期電圧プロファイルである。
図2c】本発明の一実施例によって沈殿時間を異にして製造した電極の初期クーロン効率及びOCV(open circuit voltage)測定結果である。
図2d】初期電圧プロファイルである。
図3a】本発明の一実施例によって純粋電極及び事前リチウム化電極のLi 1sスペクトルXPS分析結果である。
図3b】Si 2pスペクトル分析結果である。
図3c】DME、4,4’-DMBP、Li-4,4’-DMBP(LAC)、及びローディング量をLi:Si=3:1及び1:1に異ならせてSiOx電極と反応した後のLi-4,4’-DMBP(LAC)溶液のFT-IRスペクトルである。
図3d】4,4’-DMBPの予想振動周波数をDFT計算を用いて示した4,4’-DMBPの中性及びラジカル陰イオン予想FT-IRスペクトルである。
図3e】前記図3cで用いたリチウム-芳香族炭化水素誘導体複合体溶液の写真である。
図3f】本発明の一実施例によって事前リチウム化された電極の気孔サイズ分布ヒストグラムである。
図3g】本発明の一実施例に係る純粋SiOx負極(pristine SiOx)及び事前リチウム化されたSiOx負極(prelithiated SiOx)の断面SEMイメージである。
図3h】100nmサイズのSi粒子を含む純粋Si負極及び事前リチウム化されたSi負極の断面SEMイメージである。
図4a】本発明の一実施例に係るLiNi0.5Mn0.3Co0.2(NMC532)||ベア(bare)SiOx完全セル(NBFC)及びNMC532||事前リチウム化された(prelithiated)SiOx完全セル(NPFC)の初期電気化学的サイクル電圧プロファイルである。
図4b】本発明の一実施例に係る事前リチウム化されたSiOx負極を有する完全セル及び既存のグラファイト負極を含む完全セルの初期サイクルの電圧プロファイルである。
図4c】本発明の一実施例に係るNBFCの正極及び負極電圧プロファイルである。
図4d】NPFCの正極及び負極電圧プロファイルである。
図4e】本発明の一実施例に係る事前リチウム化されたSiOx負極の乾燥大気露出時間による初期クーロン効率、OCV及び電極プロファイルを測定した結果である。
図4f】本発明に係る事前リチウム化された負極の製造方法のロールツーロール工程を説明する図である。
図5】本発明の一実施例に係る事前リチウム化された負極のOCVを測定した結果である。
図6】本発明の一実施例に係るナフタレン(Naphthalene)誘導体を含む事前リチウム化溶液で事前リチウム化された負極の電圧プロファイル及びクーロン効率を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の様々な側面及び様々な具現例についてより具体的に説明する。
【0015】
本発明の一側面は、リチウムイオン及び水素以外の置換基を持つベンゼン環を少なくとも一つ含有する芳香族炭化水素誘導体の複合体を含む事前リチウム化溶液を提供する。
【0016】
化学的事前リチウム化は、他の事前リチウム化方法とは違い、特有の反応均一性を有し、工程が単純であるため、量産工程への適用に有利である。既存では化学的事前リチウム化は、リチウムを含む還元性化合物を用いて初期クーロン効率を向上させたり、保護膜を形成することによって、前処理中にSEIを形成してクーロン効率を一部向上させることはできたが、十分に高い還元力を(十分に低い酸化還元電位を)有するこができず、理想的な活性リチウム含有量を達成することができなかった。特に、低い酸化還元電位を有するシリコン系電極(Si/SiOx)は、化学的リチウム化によって100%のクーロン効率達成に成功したことがない。しかし、本発明に係る事前リチウム化溶液は、電子供与置換基で分子を改質して0.25V以下の低い酸化還元電位を有し、事前リチウム化のための十分の還元力を有することを確認した。本発明に係る事前リチウム化溶液は、シリコン系電極にも成功的な化学的事前リチウム化が可能であり、電極全体にわたって均一にリチウムを挿入することができる。
【0017】
より詳細には、置換基が結合しているベンゼン環を含まない芳香族炭化水素(ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセル、アズレン、フルオランテン、フェニルアントラセン、ジフェニルアントラセン、ペリレン、ピレン、トリフェニレン、ビアントリル、ビフェニル、テルフェニル、クォーターフェニル、スチルベンなど)とリチウムイオンの複合体は、シリコン系負極(0.25V以下)に比べて高い還元電位(0.33V vs Li/Li以上)を有するため、シリコン系負極に化学的なリチウム挿入が不可能であり、SEIだけを形成するため、シリコン系負極の事前リチウム化に不都合がある。したがって、負極の理想的な化学的リチウム化のためには、事前リチウム化溶液の電気化学的電位を負極の電位よりも低く調整することが必要である。したがって、本発明に係る事前リチウム化溶液は、芳香族炭化水素のベンゼン環に結合する置換基を適切に変更した芳香族炭化水素誘導体とリチウムイオンの複合体を適用することによって、酸化還元電位を下げ、これによってリチウムイオンを負極、特にシリコン系負極にリチウムを化学的に挿入させることができる。前記複合体を含む事前リチウム化溶液によって事前リチウム化反応を経たシリコン系負極は、電気化学的可逆性が向上し、シリコン系負極の慢性的な問題とされる固体電解質界面(SEI)形成と体積膨脹を緩和させることができる。
【0018】
前記芳香族炭化水素誘導体は、前記置換基以外の炭素数が10~22の多環芳香族化合物であり得る。炭素数10未満の芳香族炭化水素は、還元電位がLiよりも低いため、Liイオンと芳香族炭化水素誘導体の複合体溶液の形成が不可能であり、炭素数22超では、酸化還元電位が高いため、十分の還元力を有しない問題があり、好ましくない。
【0019】
具体的に、前記芳香族炭化水素誘導体は、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセル誘導体、アズレン誘導体、フルオランテン誘導体、フェニルアントラセン誘導体、ペリレン誘導体、ピレン誘導体、トリフェニレン誘導体、ビフェニル誘導体、テルフェニル誘導体及びスチルベン誘導体からなる群から選ばれる1種以上であり得、好ましくは、ナフタレン誘導体及びビフェニル誘導体から選ばれる1種以上であり得る。
【0020】
前記芳香族炭化水素誘導体は、炭素数1~6のアルキル、炭素数6~20のアリール、炭素数1~10のアルコキシ及び炭素数1~6のアルキルハライドから選ばれる1種以上の置換基を含有でき、好ましくは、炭素数1~4のアルキルを置換基として含有することができる。
【0021】
前記芳香族炭化水素誘導体の置換基は、前記芳香族炭化水素の本来分子と同じ構造である場合を含むことができる。例えば、アントラセン誘導体の場合、アントリル基を置換基として含むことができ、ビフェニル誘導体の場合、ビフェニルを置換基として含むことができる。
【0022】
前記芳香族炭化水素誘導体は、下記化学式1及び化学式2のいずれか一つで表示される化合物からなる群から選ばれる1種以上であり得る。
【0023】
[化学式1]
【0024】
【化1】
【0025】
前記化学式1で、R及びRは互いに同一か又は異なり、炭素数1~6のアルキル、炭素数6~20のアリール、炭素数1~10のアルコキシ又は炭素数1~6のアルキルハライドであり、a及びbは、それぞれ独立して0~5の整数であり、少なくともいずれか一つは0でなく、aが2以上の場合、2以上のRは互いに同一か又は異なり、bが2以上の場合、2以上のRは互いに同一か又は異なり、
[化学式2]
【0026】
【化2】
【0027】
前記化学式2で、R及びRは互いに同一か又は異なり、炭素数1~6のアルキル、炭素数6~20のアリール、炭素数1~10のアルコキシ又は炭素数1~6のアルキルハライドであり、c及びdは、それぞれ独立して0~5の整数であり、少なくともいずれか一つは0でなく、cが2以上の場合、2以上のRは互いに同一か又は異なり、dが2以上の場合、2以上のRは互いに同一か又は異なる。
【0028】
前記条件を満たす事前リチウム化溶液は、電極の表面に保護層を形成し、形成された保護層は乾燥大気においても事前リチウム化された電極の安定性を付与するため、製造工程に有利である。
【0029】
好ましい具現例によれば、前記化学式1で、R及びRは互いに同一か又は異なり、炭素数1~4のアルキルであり、a及びbは、それぞれ独立して0~2の整数であり、少なくともいずれか一つは0でなく、aが2以上の場合、2以上のRは互いに同一か又は異なり、bが2以上の場合、2以上のRは互いに同一か又は異なる。また、前記化学式2で、R及びRは互いに同一か又は異なり、炭素数1~4のアルキルであり、c及びdは、それぞれ独立して0~2の整数であり、少なくともいずれか一つは0でなく、cが2以上の場合、2以上のRは互いに同一か又は異なり、dが2以上の場合、2以上のRは互いに同一か又は異なる。
【0030】
前記条件において、リチウムイオン及び芳香族炭化水素誘導体の複合体は、シリコン系負極に比べて十分に低い酸化還元電位を有するので、シリコン系負極の化学的事前リチウム化に適用でき、純粋シリコン系負極に比べて初期クーロン効率が向上する。
【0031】
好ましい具現例によれば、前記芳香族炭化水素誘導体は、下記化学式1-1~1-3及び2-1~2-3のいずれか一つで表示される化合物からなる群から選ばれる1種以上であり得る。
【0032】
[化学式1-1]
【0033】
【化3】
【0034】
[化学式1-2]
【0035】
【化4】
【0036】
[化学式1-3]
【0037】
【化5】
【0038】
[化学式2-1]
【0039】
【化6】
【0040】
[化学式2-2]
【0041】
【化7】
【0042】
[化学式2-3]
【0043】
【化8】
【0044】
前記化学式で表示される芳香族炭化水素誘導体を含む事前リチウム化溶液は、0.2V以下の酸化還元電位を示し、シリコン系負極の化学的事前リチウム化のための十分の還元力を有するだけでなく、100%を上回る初期クーロン効率を有することができた。すなわち、純粋SiOx負極の非可逆的なリチウム損失を成功的に補償し、充電容量と放電容量がほぼ同じ値を有する。
【0045】
前記事前リチウム化溶液の溶媒は、環状エーテル及び線形エーテルからなる群から選ばれる1種以上であり得、好ましくは、線形エーテルであり得る。前記環状エーテルは、ジオキソラン、メチルジオキソラン、ジメチルジオキソラン、ビニルジオキソラン、メトキシジオキソラン、エチルメチルジオキソラン、オキサン、ジオキサン、トリオキサン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジメチルテトラヒドロフラン、ジメトキシテトラヒドロフラン、エトキシテトラヒドロフラン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、ヘキサメチレンオキシド(Hexamethylene oxide)、フラン(Furan)、ジヒドロフラン(dihydrofuran)、ジメトキシベンゼン(dimethoxybenzene)、ジメチルオキセタン(dimethyloxetane)からなる群から選ばれる1種以上であり得、前記線形エーテルは、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、エチルtert-ブチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジメトキシプロパン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールtert-ブチルエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルメチルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、及びトリエチレングリコールジビニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上であり得るが、これに制限されるものではない。
【0046】
前記事前リチウム化溶液中の前記複合体の濃度は、0.01~5Mであり得、好ましくは0.1~2M、より好ましくは0.2~1Mであり得る。
【0047】
前記複合体の酸化還元電位は、0.25V未満であり得る。前記範囲未満の酸化還元電位を有する場合、Si/SiOx負極に比べて低い酸化還元電位を有するので十分の還元力を有し、事前リチウム化に好適に使用可能である。
【0048】
本発明の他の側面は、(a)集電体の一側又は両側の表面に形成された負極活物質層を含む負極を準備する段階;及び(b)前記負極をリチウムイオン及び水素以外の置換基を持つベンゼン環を少なくとも一つ含有する芳香族炭化水素誘導体の複合体を含む事前リチウム化溶液に浸漬し、事前リチウム化された負極を製造する段階;を含む事前リチウム化された負極の製造方法を提供する。本発明の事前リチウム化された負極の製造方法は、負極を事前リチウム化溶液に浸漬して事前リチウム化された負極を製造するので、工程が単純であり、製造された事前リチウム化された負極は電極の表面に保護層が形成され、乾燥大気においでも長時間安定であるため、事前リチウム化のために複雑な条件を満たさなければならない既存の方法とは違い、リチウムイオン電池の大量生産に適用可能である。
【0049】
好ましくは、前記複合体の酸化還元電位は、前記負極活物質の酸化還元電位よりも低くすることができるが、十分の還元力に基づいて、電池組立後に、電解質分解と不所望のSEI形成反応を抑制し、負極内活性リチウムが挿入される事前リチウム化反応が促進され、負極内に均一にリチウムイオンが挿入され得るためである。
【0050】
前記芳香族炭化水素誘導体は、炭素数10~22の多環芳香族化合物であり得る。
【0051】
前記芳香族炭化水素誘導体は、下記化学式1及び化学式2のいずれか一つで表示される化合物からなる群から選ばれる1種以上であり得る。
【0052】
[化学式1]
【0053】
【化9】
【0054】
前記化学式1で、R及びRは互いに同一か又は異なり、炭素数1~6のアルキル、炭素数6~20のアリール、炭素数1~10のアルコキシ又は炭素数1~6のアルキルハライドであり、a及びbは、それぞれ独立して0~5の整数であり、少なくともいずれか一つは0でなく、aが2以上の場合、2以上のRは互いに同一か又は異なり、bが2以上の場合、2以上のRは互いに同一か又は異なり、
[化学式2]
【0055】
【化10】
【0056】
前記化学式2で、R及びRは互いに同一か又は異なり、炭素数1~6のアルキル、炭素数6~20のアリール、炭素数1~10のアルコキシ又は炭素数1~6のアルキルハライドであり、c及びdは、それぞれ独立して0~5の整数であり、少なくともいずれか一つは0でなく、cが2以上の場合、2以上のRは互いに同一か又は異なり、dが2以上の場合、2以上のRは互いに同一か又は異なる。
【0057】
前記芳香族炭化水素誘導体は、下記化学式1-1~1-3及び2-1~2-3のいずれか一つで表示される化合物からなる群から選ばれる1種以上であり得る。
【0058】
[化学式1-1]
【0059】
【化11】
【0060】
[化学式1-2]
【0061】
【化12】
【0062】
[化学式1-3]
【0063】
【化13】
【0064】
[化学式2-1]
【0065】
【化14】
【0066】
[化学式2-2]
【0067】
【化15】
【0068】
[化学式2-3]
【0069】
【化16】
【0070】
前記複合体の酸化還元電位は、0.25V未満であり得る。
【0071】
前記リチウムイオン及び芳香族炭化水素誘導体の複合体を含む事前リチウム化溶液に関する説明は、事前リチウム化溶液部分で上述した通りであるので、省略する。
【0072】
前記負極活物質は、黒鉛、ハードカーボン、活性炭素、炭素ナノチューブ、非晶質炭素、シリコン、シリコン酸化物(SiOx)、シリサイド、シリコン合金、シリコンカーバイド、シリコンニトリド、Ge、Sn、Sb、Al、Ag、Au及びTiOからなる群から選ばれる1種以上であり得、好ましくは、炭素、シリコン及びシリコン酸化物からなる群から選ばれる1種以上であり得る。前記シリコン合金は、Fe、Co、Ni、Ca、Mg、Cu、Al、Ti及びMnから選ばれる1種以上の金属元素とシリコン元素の合金であり得る。前記負極活物質は、負極添加剤及び支持体の役割として用いる場合を含むことができる。
【0073】
前記(b)段階の浸漬は、-10~80℃の温度で行うことができる。好ましくは、10~50℃の温度で行うことができる。-10~80℃の温度範囲で前記複合体の酸化還元電位は典型的に減少し、向上した還元力は、初期クーロン効率を向上させることができる。-10℃未満の温度で行われる場合は、酸化還元電位が過度に高くなり、事前リチウム化反応が起きないことがあり、80℃超の温度で行われる場合は、リチウム金属の沈殿が発生することがあるため、好ましくない。
【0074】
前記(b)段階の浸漬は、0.01~1440分間行うことができ、好ましくは、1分~600分、より好ましくは5~240分間行うことができる。浸漬して5分までは、製造される負極の初期クーロン効率が急激に増加し、30分経過した時点から徐々にその増加速度が減少し、120分経過すると、初期クーロン効率はそれ以上向上せずに維持される傾向を示す。また、セルの開放回路電圧(open circuit voltage,OCV)は、初期クーロン効率とは反対の傾向を示す。したがって、前記浸漬時間が0.01分未満の場合は、事前リチウム化による負極性能向上の効果を期待し難く、1440分を超える場合は、それ以上の初期クーロン効率向上又はOCV減少などの効果が期待できないため、適切な範囲で上限を決める。
【0075】
前記(b)段階で前記事前リチウム化溶液に浸漬される前記負極活物質は、前記負極活物質及び前記リチウムイオン及び芳香族炭化水素誘導体の複合体が1:0.1~1:10のモル比を有することができ、好ましくは1:1~1:5のモル比、より好ましくは1:2~1:3のモル比を有することができる。前記1:0.1~1:10のモル比で製造される負極が完全に事前リチウム化可能であり、1:1~1:5のモル比で最も理想的な初期クーロン効率が達成できた。
【0076】
前記(b)段階は、ロールツーロール(roll-to-roll)工程によって連続して行うことができる。図4の(f)は、前記ロールツーロール工程を説明する図である。より詳細には、前記ロールツーロール工程は、ロールツーロール設備によって行われ、前記ロールツーロール設備は、アンワインダーとリワインダーを含む。前記アンワインダーは、前記負極を連続して解く部分を意味し、リワインダーは、工程を終えた後、供給される負極を連続して巻き取る部分を意味する。前記アンワインダー及びリワインダーは、前記リチウムイオン電池用負極に所定の張力を付与する。前記負極は、前記アンワインダー及びリワインダーによって連続して供給され、供給された負極は、前記事前リチウム化溶液を収容する事前リチウム化溶液収容部を通過し、前記収容部に収容された事前リチウム化溶液に浸漬されて事前リチウム化が進行される。事前リチウム化溶液収容部を通過した負極は、リワインダーが巻く。前記事前リチウム化溶液に浸漬される時間は、ロールツーロール工程の速度を調節したり、又はロールの個数及び位置などを変更して調節できる。前記事前リチウム化が施された負極は、洗浄のために追加の溶液収容部を通過でき、残留溶液の除去のために乾燥装置を通過できる。本発明の製造方法で用いられる事前リチウム化溶液は、負極の表面に保護層を形成し、乾燥大気上においても長時間安定性を維持できるため、大量生産が可能なロールツーロール工程に適用できるという長所がある。
【0077】
本発明のさらに他の側面は、 前記事前リチウム化溶液を用いた事前リチウム化された負極を提供する。
【0078】
本発明のさらに他の側面は、(a)前記事前リチウム化された負極と、(b)正極と、(c)電解質とを含むリチウムイオン二次電池を提供する。
【0079】
本発明のさらに他の側面は、(a)前記事前リチウム化された負極と、(b)正極と、(c)電解質とを含むリチウムイオンキャパシタを提供する。
【0080】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかし、これらの実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がそれによって制限されず、本発明の範ちゅう及び技術思想範囲内で様々な変更及び修正が可能であることは、当業界における通常の知識を有する者に自明であろう。
【実施例
【0081】
[電気化学的分析]
SiOx(Hansol chemical,Korea)、カーボンブラック(Super-P,Timcal,Switzerland)、バインダー(AST-9005,Aekyung chemical Co.,Ltd.Korea)を5:3:2の重量比に遠心分離機(THINKY corporation,Japan)で混合し、電極水溶性スラリーを製造した。前記スラリーをCu箔集電体にキャスティングした後、80℃で1時間乾燥させ、ロールプレス後に直径11.3mm(面積1.003cm)となるように切って120℃真空オーブンで一晩乾燥させた。各電極にローディングされた活物質の量は0.6±0.05mg/cmとなるようにした。100nmサイズのシリコン負極は100nm Si、カーボンブラック(Super P)、バインダーを70:18:12の重量比で構成した。CR2032コインセルは、アルゴン雰囲気のグローブボックス中でPP/PE/PP分離膜として、1M LiPFをエチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)(1:1v/v)に混合して電解質として用いて製造した。
【0082】
以下、電気化学的分析は、WBCS-3000バッテリーサイクラー(Wonatech Co.Ltd.,Korea)及びVMP3 potentio/galvanostat(Bio-logic Scientific Instruments,France)を用いて行われた。全ての電気化学的分析は、30℃の温度で行われた。
【0083】
半分セル実験において、コインセルは、一定の電流(30mV vs Li)、一定の電圧で電流密度が一定電流密度の10%に減少するまで放電し、1.2Vに再充電した。一番目のサイクル、二番目のサイクル及び続くサイクルにおいて、電流密度はそれぞれ、300mA/g、600mA/g及び1500mA/gの段階で行われた。
【0084】
完全セル実験において、正極は、Li(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O(NCM111)又はLi(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O(NCM523)(Wellcos Corporation,Korea)、Super P及びポリビニリデンフルオリド(polyvinylidene fluoride,PvdF)バインダーを84:8:8の重量比にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒に混合したスラリーを、炭素がコーティングされたアルミニウムホイールにキャスティングして製造された。正極及び負極の直径はそれぞれ、11.3mm及び12mmにした。完全セルは、N/P比率(実際の負極対正極の容量比)が1.2となるように設計された。コインセルはWhatman GFD分離膜を追加した以外は、前記半分セルを製造した方法と同一に製造した。
【0085】
各芳香族炭化水素(又は、芳香族炭化水素誘導体)化合物に対するサイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetry)は、50mV/sの走査速度に指定された温度で銅箔(作業電極)、リチウム金属(相対電極)及び0.5M LiPF DME溶液に0.2M酸化還元活性炭化水素を電解質として用いて測定した。
【0086】
[事前リチウム化溶液の製造]
リチウム金属スライスを、それぞれ異なる芳香族炭化水素(又は、芳香族炭化水素誘導体)化合物を0.5M含むジメトキシエタン溶液に溶解し、30℃の温度及びアルゴン雰囲気のグローブボックスで1時間撹拌し、リチウム-芳香族炭化水素(又は、芳香族炭化水素誘導体)化合物複合体を含む事前リチウム化溶液を製造した。十分なリチウムの供給のためにリチウム:芳香族炭化水素(又は、芳香族炭化水素誘導体)化合物のモル比は、4:1に固定した。前記用いられた芳香族炭化水素(又は、芳香族炭化水素誘導体)化合物の種類は、次の通りである。
【0087】
ナフタレン(Naphthalene,NP)、ビフェニル(biphenyl,BP)、3,3’-ジメチルビフェニル(3,3’-dimethylbiphenyl,3,3’-DMBP)、2-メチルビフェニル(2-methylbiphenyl,2-MBP)、4,4’-ジメチルビフェニル(4,4’-dimethylbiphenyl,4,4’-DMBP)、3,3’4,4’-テトラメチルビフェニル(3,3’,4,4’-tetramethylbiphenyl,3,3’,4,4’-TMBP)、
[事前リチウム化されたシリコン負極の製造]
前記製造した事前リチウム化溶液にSiOx負極をそれぞれ調節された時間及び温度で浸漬した。その後、1M LiPF EC/DEC(1:1v/v)電解質で洗浄して事前リチウム化溶液及び負極の追加反応をクエンチング(quenching)し、事前リチウム化された負極を製造した。事前リチウム化溶液のリチウム-芳香族炭化水素(又は、芳香族炭化水素誘導体)複合体とSiOxのモル比は6:1に固定した。
【0088】
<実験例1.事前リチウム化分析>
図1aは、前記実施例によって事前リチウム化溶液の製造に用いられたナフタレン、ビフェニル、メチル置換されたビフェニルのサイクリックボルタンメトリー分析結果である。図1aに見られるように、前記事前リチウム化溶液に用いられた芳香族炭化水素化合物の循環電圧電流分析から、官能基が置換されたビフェニル誘導体が、ビフェニルに比べて酸化還元電位が低いことが確認できた。また、ナフタレンは、酸化還元電位が0.37Vで、SiOxをリチウム化するに不適であることが確認できた。
【0089】
また、酸化還元電位の変化の程度は、置換基の位置によって変わることが確認できた。オルト位置の一つのメチル基が置換された場合(E1/2=131mV、2-MBP)は、メタ位置に2個のメチル基が置換された場合(E1/2=294mV、3,3’-DMBP)又はパラ位置に2個のメチル基が置換された場合(E1/2=186mV、4,4’-DMBP)に比べて、より大きい電位変化があることが確認できた。メタ及びパラ位置に4個のメチル基が置換された場合(3,3’,4,4’-TMBP)の酸化還元電位は129mVに減少し、2-MBPの場合と類似であった。
【0090】
オルト位置に2個のメチル基が置換された(2,2’-DMBP)の場合、0V vs Li/Li以下の還元電位を有することを確認し、リチウム金属が2,2’-DMBP事前リチウム化溶液で安定化されることが分かった。
【0091】
前記還元電位の減少は、化学官能基の置換に伴う結果による境界分子軌道(frontier molecular orbital)エネルギーレベルの増加と関連する。
【0092】
図1bは、計算されたLUMOエネルギーと酸化還元電位(redox potential,E1/2)間の相関関係を示すグラフである。図1bに見られるように、官能基が置換されたビフェニル誘導体のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)エネルギーレベルは、密度関数理論計算(density functional theory calculation,DFT calculation)結果が実験的に観察された酸化還元電位の勾配-1.01V eV-1であり、線形的に一致した。2,2’-DMBPの-0.11eVのLUMOエネルギーを用いて、-0.25V vs Li/Liの酸化還元電位を外挿法に基づいて計算したが、これは、このような複合体がリチウム金属に比べて安定的でないことを意味する。
【0093】
図1cは、前記実施例によって製造された電極の酸化還元電位と初期クーロン効率の相関関係を分析した結果である。官能基が置換されたビフェニル誘導体である4,4’-DMBP、2-MBP及び3,3’,4,4’-TMBPの還元電位は、0.2V以下であり、それぞれ100%を超える107%、124%及び118%の初期クーロン効率を達成した。これに対し、高い還元電位を有する他の電極は向上が制限的であった。官能基が置換されたビフェニル誘導体の初期クーロン効率はE1/2の減少に比例し、これは、事前リチウム化程度をリチウム-芳香族炭化水素化合物複合体の分子式によって変化させることができることを証明した。また、図1dに示すように、0.19VのE1/2を有する4,4’-DMBPは、放電容量が充電容量と同じ1483mAh/gを示し、事前リチウム化されたSiOx負極の初期放電中に発生する非可逆的なリチウム損失を成功的に補償したことが確認できた。図1dは、4,4’-DMBPによって事前リチウム化されたSiOx負極及び純粋SiOx電極の最初の充放電サイクルの電圧プロファイルである。
【0094】
SiOxの事前リチウム化後に、活性リチウム含有量を決定するために、脱リチウム化(delithiation)容量を、事前リチウム化-SiOx||Li電池を直接充電して測定した(図1e)。図1eは、事前リチウム後にSiOx電極に保持された活性リチウムイオンの量を電気化学的に滴定して示すグラフである。図1eに見られるように、4,4’-DMBP、2-MBP、及び3,3’,4,4’-TMBP事前リチウム化溶液に浸漬された電極の充電容量はそれぞれ、312mAh g-1、518mAh g-1及び560mAh g-1であり、SiOxの可逆的な容量の21~37%に該当している。一方、NP-、BP-及び3,3’-DMBP-事前リチウム化された電極は、リチウムをSiOxに追加する還元性が不足するため、非常に小さい充電容量を有している。したがって、図1cに示したNP、BP及び3,3’-DMBP事前リチウム化溶液処理による初期クーロン効率の向上は、SiOxの表面にSEI層が形成され、不所望の副反応を抑制したためであることが分かった。したがって、前記結果から、SiOxが活性リチウムを収容するようにして理想的なクーロン効率を達成するためには、不足する還元力を持つリチウム-芳香族炭化水素化合物複合体によって、SEIの予備形成とは対照的に、官能基が置換された芳香族炭化水素化合物を含むリチウム-芳香族炭化水素誘導体複合体が必須である事実が確認できた。
【0095】
<実験例2.事前リチウム化温度及び時間の調節>
4,4’-DMBP事前リチウム化溶液を用いて事前リチウム化反応の温度及び時間を調節して事前リチウム化電極を製造した。
【0096】
まず、サイクリックボルタンメトリーを行って4,4’-DMBP事前リチウム化溶液の温度係数(temperature coefficient,α=dE1/2/dT)を測定し、温度変化を用いて熱力学的に4,4’-DMBP事前リチウム化溶液の還元力を調節した。図2aは、4,4’-DMBPの酸化還元電位及び温度の関係を示すグラフである。図2aに示すように、4,4’-DMBP事前リチウム化溶液のE1/2は、温度が10℃から50℃に増加するにつれて-2.6mV/Kの勾配で231mVから129mVまで線形的に変化した。計算された酸化還元反応のエントロピー及びエンタルピーはそれぞれ、-248.9J mol-1-1及び-92.5KJ mol-1であった。したがって、事前リチウム化溶液は理論的に、E1/2値が0V(vs Li/Li)に到達する95.7℃以下の温度ではリチウム金属が沈殿されない。30℃から50℃への温度上昇によって還元力が向上することによって、事前リチウム化されたSiOxの初期クーロン効率は、103%から142%に向上したことを、図2bから確認できる。図2bは、事前リチウム化時間を異にして製造されたSiOx負極の初期電圧プロファイルである。
【0097】
図2c及び図2dは、事前リチウム化時間による初期クーロン効率、開放回路電圧及び電圧プロファイルを測定した結果である。沈殿時間もSiOx電極の事前リチウム化程度に大きい影響を及ぼすことが確認できた。数分内のリチウム化反応は、SiOx電極の初期クーロン効率を顕著に向上させた。5分の沈殿時間後、初期クーロン効率は57%から91%に上昇したが、この値は、商用負極と類似なレベルである。30分後に初期クーロン効率は100%に到達し、事前リチウム化の反応速度は減り、最終的に2時間経過後にほぼ平衡状態に到達した。
【0098】
この結果から、事前リチウム化温度及び時間の調整を用いて、事前リチウム化程度の精巧な調節が可能であり、これから、産業スケールの適用を容易に実現できるという点を確認した。
【0099】
SiOx||Liセルの開放回路電圧(open circuit voltage,OCV)は、サイクリング以前の事前リチウム化程度を予測するために、セル組立が完了すると直ちに測定し、図2cにその結果を示した。OCVは、10時間の事前リチウム化反応時間変化によって20mVしか差を示さず、これは、溶液ベースの事前リチウム化の間にSiOxにリチウムが均一に収容されることを意味する。
【0100】
<実験例3.事前リチウム化反応中におけるSiOx電極の化学的変化及び微細構造の変化>
[化学的変化分析]
事前リチウム化反応中にSiOxの化学的変化を確認するために、XPS(X-ray photoelectron spectroscopy)分析を行った。図3aは、純粋電極及び事前リチウム化電極のLi 1sスペクトルXPS分析結果である。図3aにおいて、事前リチウム化電極は56eVで明確なピークを示すが、これは、LiSiO/LiSiに存在するLiドーパント及び形成されたSEI層のLiによる。C 1sスペクトルも、C-O及びO-C=Oを含むSEI成分を検出し、部分的に電極に事前リチウム化されたカーボンブラックが観測される。図3bのSi 2pスペクトルにおいて、純粋SiOxは、Si及びSiOxにそれぞれ対応する99.5eV及び103eVピークを有することが確認できる。事前リチウム化後に更なるピークが98.5eV及び101.8eVで観察されるが、これはそれぞれ、事前リチウム化されたSi及びSiOxによるピークである。
【0101】
また、SiOx負極を浸漬する前後のリチウム-芳香族炭化水素誘導体化合物複合体溶液の化学的状態を分析した。室温でリチウム-芳香族炭化水素誘導体化合物複合体溶液に存在する主な化学種は、各官能基が置換されたビフェニル誘導体ラジカルイオンであり、事前リチウム化が進行される間にLi-[4,4’-DMBP]複合体は、リチウムイオンの電子がSiOx電極に移動し、中性の4,4’-DMBPで再酸化されると予想された。このような仮設を証明するために、4,4’-DMBP溶液、Li-[4,4’-DMBP]複合体溶液及びSiOx電極を浸漬した後の複合体溶液のFT-IRスペクトルを比較した(図3c)。図3cは、DME、4,4’-DMBP、Li-4,4’-DMBP(LAC)、ローディング量をLi:Si=3:1a及び1:1のように異にしてSiOx電極と反応した後のLi-4,4’-DMBP(LAC+SiOx)溶液、のFT-IRスペクトルである。前記FT-IRスペクトルから、4,4’-DMBPはまず還元された後、リチウム金属とSiOx電極が成功的に反応した時、再酸化されることが明確に観測された(4,4’-DMBPの特徴的なピークである806及び1502cm-1がリチウムを投入した後に消え、SiOxとの反応後に再び生成された。)このような結果は、4,4’-DMBPの可逆的な酸化還元反応を立証し、リチウム-芳香族炭化水素誘導体化合物複合体の事前リチウム化反応再使用可能性を意味する。
【0102】
図3dは、4,4’-DMBPの予想振動周波数をDFT計算を用いて示す、4,4’-DMBPの中性及びラジカル陰イオン予想FT-IRスペクトルである。806及び1502cm-1ピークはそれぞれ、4,4’-DMBPで平面外C-H曲げ及びベンゼン環C-Cの伸張を示す。737、758及び1580cm-1の新しいピークはそれぞれ、平面内C-C曲げ、平面外C-C曲げ及びベンゼン環のC-C伸張を示し、計算されたLi-4,4’-DMBP複合体ラジカル陰イオンの振動周波数と一致した。前記DFT計算による結果は、4,4’-DMBPが複合体の形成及び続く事前リチウム化においてフェニルの可逆的な形成が可能であることを立証する。
【0103】
リチウム-芳香族炭化水素誘導体化合物複合体を1/3モル当量でSiOxと反応させた場合、Li-4,4’-DMBP複合体溶液及び4,4’-DMBP溶液の特徴が混じて観察され、これは、中性及び陰イオン形態の4,4’-DMBPが存在することを意味する。これと逆に、同じモル当量で反応させた場合、スペクトルは4,4’-DMBP溶液と同一であり、事前リチウム化が完全にリチウム-芳香族炭化水素誘導体化合物複合体を完全に酸化させたことを意味する。この場合、事前リチウム化されたSiOx負極の初期クーロン効率が部分的に向上したが、これは、リチウム-芳香族炭化水素誘導体化合物複合体が理想的な初期クーロン効率を達成するには足りなかったためである。初期クーロン効率とリチウム-芳香族炭化水素誘導体化合物複合体:SiOxモル比が線形的な比例関係を有するので、2.5モル当量のリチウム-芳香族炭化水素誘導体化合物複合体が電極に最も理想的であることが確認できた。また、図3eに見られるように、リチウム-芳香族炭化水素誘導体化合物溶液が同一当量のSiOxに比べて多く反応する場合、青色を経て緑緑に色の変化が起きることが確認できた。
【0104】
[微細構造変化分析]
図3gは、本発明の一実施例に係る純粋SiOx負極及び事前リチウム化されたSiOx負極の断面SEMイメージであり、図3hは、100nmサイズのSi粒子を含む純粋Si負極及び事前リチウム化されたSi負極の断面SEMイメージである。SiOxの化学的リチウム化による結果として、活性粒子の体積が膨脹し、元来存在していた気孔を満たすという事実を、図3gのSEMイメージから確認できた。SiOxナノフレークの独特の特徴が、隣接した他の粒子と合わせられながら消えており、指定観測した面積で20.1%の面積を占めていた気孔は、事前リチウム化後、11.1%に急に減少した。図3fのヒストグラムに見られるように、主に少ない数の小さい気孔が減少した。また、図3hから確認できるように、100nmサイズのSi粒子を含む電極においても、電極全粒子の均一な膨脹によって気孔の縮小が観察され、これと同時に電極の厚さは事前リチウム化によって7.85増加したことが確認できた。
【0105】
物理的/機械的方法に比べて溶液ベースの事前リチウム化が有する利点は、空間的に均一な反応が起きるという点である。100nmサイズのシリコン粒子は空間的に均一なリチウム化が起き、事前リチウム化後に同一の体積膨脹を示した。リチウム-芳香族炭化水素誘導体化合物溶液の浸透が効果的に起こるかを確認するために、広い面積容量(2.46mAh cm-2)を有する厚いSiOx電極の事前リチウム化を行ったが、初期クーロン効率の104%を達成した。同じ条件で薄い電極は初期クーロン効率の108%を示したが、これは、本発明の方法では事前リチウム化作業がバッテリー内部圧力問題を緩和させることができるという点を意味する。
【0106】
<実験例4.リチウムイオンバッテリー生産適用可能性実験>
[完全セルテスト]
SiOx負極の初期クーロン効率が向上することによって、事前リチウム化された負極を含む完全セルのエネルギー密度が向上した。
【0107】
図4aは、LiNi0.5Mn0.3Co0.2(以下、NMC532)||ベアSiOx完全セル(以下、NBFC)及びNMC532||事前リチウム化されたSiOx完全セル(以下、NPFC)の初期電気化学的サイクル電圧プロファイルである。図4aに見られるように、NPFCの充電プロファイルは、NBFCに比べて高い電圧及び低い容量を示した。NPFCの放電プロファイルはNBFCに比べて顕著なエネルギー密度向上を示したが、事前リチウム化によって存在する剰余活性リチウムによって可逆的な容量が増加したためである。NBFCが75.6mAh g-1の放電容量と4.2~2.0Vサイクルで37.8%の初期クーロン効率を示したが、NPFCは163mAh g-1及び86.4%初期効率を示した。また、図4aでNPFC及びNBFCのエネルギー密度はそれぞれ504.1及び233.6Wh kg-1であり、事前リチウム化された負極は、完全セルのエネルギー密度を116%向上させたことが確認できた。
【0108】
図4bは、事前リチウム化されたSiOx負極を有する完全セル及び既存のグラファイト負極を含む完全セルの初期サイクルの電圧プロファイルである。図4bに見られるように、事前リチウム化されたSiOx負極を含む完全セルは、既存のグラファイト負極を含む完全セルに比べて98.2Wh kg-1向上したエネルギー密度を有することが確認できた。
【0109】
また、リチウム金属を基準電極として有する3電極セルを用いて、NBFC及びNPFCの正極及び負極のそれぞれの電圧プロファイルを測定した。図4cは、NBFCの正極及び負極の電圧プロファイルであり、図4dは、NPFCの正極及び負極の電圧プロファイルである。図4c及び図4dに見られるように、NBFCの充電時に、SiOx負極は0.5Vで初めてSEIを形成する電気化学的反応が起き、これはセル電圧(正極及び負極の電圧差)の低下につながった。充電の最後の段階でNBFC SiOx負極の電圧は0.14Vであり、NPFCの0.08Vに比べて高い電圧を有している。したがって、4.2Vのセル電圧によって、NBFCは、正極の電圧が4.34Vであったが、NPFCは4.26Vを示した。NPFCの高い正極電圧はNMC532の脱リチウム化を誘発し、高い充電電圧によってNMC532の過充電を誘発する。放電過程でNBFCのセル電圧は、SiOxの低いクーロン効率によって速く減少した。セル電圧がカットオフ電圧である2.0Vに到達した時、負極電圧は1.83Vで、正極電圧は3.83Vであった。この結果は、正極が相変らず3.6Vまで追加リチウム化が可能であるため、負極がNBFCの追加放電を制限するということを意味する。これに対し、NPFCの負極電位は0.55V未満に維持されたので、正極の容量は全部使用可能であった。したがって、前記結果から、事前リチウム化によって高容量化された負極は、リチウムイオンバッテリーの高いエネルギー密度達成のために必須であることが確認できた。
【0110】
[乾燥大気安定性評価]
本発明によって事前リチウム化された負極は、乾燥空気雰囲気で適正な安定性を示した。既存の化学的事前リチウム化は、事前リチウム化された負極が高い反応性を有し、不安定である問題があった。
【0111】
図4eは、本発明の一実施例に係る事前リチウム化されたSiOx負極の、乾燥大気露出時間による初期クーロン効率、OCV及び電極プロファイルを測定した結果である。
【0112】
乾燥大気安定性評価は、露点-86.6℃の乾燥室で行われた。SiOx負極はまず30℃で90分間事前リチウム化した後、3分間真空乾燥させた。乾燥大気に5、15、30及び60分間露出させた後、事前リチウム化された負極は、アルゴン雰囲気のグローブボックス中で電解質で洗浄した。
【0113】
図4eに示すように、本発明に係る事前リチウム化された負極は、乾燥大気に1時間露出された後にも初期クーロン効率が100%に近く、過電圧は極わずかに増加した。このような乾燥大気における優れた安定性は、事前リチウム化された負極の表面に保護層が形成されたためである。このような優れた乾燥大気安定性に基づいて本発明の溶液ベースの事前リチウム化方法は、図4fに示す連続したロールツーロール工程に容易に適用でき、これは、高いエネルギーのリチウムイオンバッテリーの大量生産が可能である。
【0114】
<実験例5.他の芳香族炭化水素誘導体適用>
ビフェニル以外の芳香族炭化水素適用の可否を確認するために、リチウムイオン及びナフタレン誘導体の複合体を含む事前リチウム化溶液を用いて、前記実施例と同一に事前リチウム化されたSiOx負極を製造した。用いられたナフタレン誘導体の種類は、次の通りである。
【0115】
2-メチルナフタレン(2-methylnaphthanlene,2-MNP)、1,2-ジメチルナフタレン(1,2-dimethylnaphthalene,1,2-DMNP)、1,4,6,7-テトラメチルナフタレン(1,4,6,7-tetramethylnaphthalene,1,4,6,7-TMNP)
また、前記製造した負極のクーロン効率及びOCVを測定した。図5はOCVを測定した結果であり、図6はクーロン効率を測定した結果である。
【0116】
図5に見られるように、事前リチウム化していない純粋SiO電極(Pristine SiO)に比べて事前リチウム化したSiO電極のOCVは顕著に減少し、リチウム-ナフタレン複合体(Prelithiated with NP)を用いた場合に比べて、リチウム-ナフタレン誘導体複合体事前リチウム化溶液を用いて事前リチウム化した負極(Prelithiated with 2-MNP、Prelithiated with 1,2-DMNP、Prelithiated with 1,4,6,7-TMNP)の場合、OCVがより減少することが確認できた。
【0117】
また、図6に見られるように、ナフタレン誘導体を使用した場合も同様に、前記実験例1~2のビフェニル誘導体の場合と類似の傾向を示すことが確認できた。リチウム-ナフタレン複合体事前リチウム化溶液を用いて事前リチウム化した負極は84%のクーロン効率を有したが、リチウム-ナフタレン誘導体複合体事前リチウム化溶液を用いて事前リチウム化した負極は、クーロン効率が向上することが確認できた。特に、リチウムイオンと1,4,6,7-TMNP複合体及びリチウムイオンと1,2-DMNP複合体ではクーロン効率が100%を超えるなど、クーロン効率が大きく上昇することが確認できた。
【0118】
したがって、本発明に係る事前リチウム化溶液及びこれを用いた事前リチウム化された負極の製造方法は、負極活物質に比べて十分に低い酸化還元電位を有する事前リチウム化溶液を用いて負極を溶液に浸漬する単純な過程によって溶液中で化学的にリチウムイオンを負極全体にわたって均一に挿入でき、高いレベルの事前リチウム化が達成できる。前記方法で製造された事前リチウム化された負極は、理想的な初期クーロン効率を有し、これに基づいて、高いエネルギー密度を有するリチウムイオン電池が製造できる。また、製造された負極は、乾燥大気においても優れた安定性に基づいて大量生産に好適に適用できる長所を有する。
【0119】
前述した実施例及び比較例は本発明を説明するための例示であり、これに本発明が限定されるものではない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、それらを様々に変形して本発明を実施可能であり、よって、本発明の技術的保護範囲は添付する特許請求の範囲によって定められるべきであろう。

図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図2a
図2b
図2c
図2d
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図3f
図3g
図3h
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図5
図6