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特許7204735ポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂、および該樹脂を用いた光学部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂、および該樹脂を用いた光学部材
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/672 20060101AFI20230106BHJP
   C08G 63/189 20060101ALI20230106BHJP
   C08G 63/193 20060101ALI20230106BHJP
   C08G 63/197 20060101ALI20230106BHJP
   C08G 63/64 20060101ALI20230106BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
C08G63/672
C08G63/189
C08G63/193
C08G63/197
C08G63/64
G02B1/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020506521
(86)(22)【出願日】2019-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2019009776
(87)【国際公開番号】W WO2019176874
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-03-11
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018044226
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 恭輔
(72)【発明者】
【氏名】松井 学
(72)【発明者】
【氏名】柳田 高恒
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 一良
(72)【発明者】
【氏名】布目 和徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敬介
(72)【発明者】
【氏名】大山 達也
【合議体】
【審判長】杉江 渉
【審判官】藤代 亮
【審判官】小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/008483(WO,A1)
【文献】特開2017-179323(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016516(WO,A1)
【文献】特開2017-171885(JP,A)
【文献】特開2015-86265(JP,A)
【文献】国際公開第2014/073496(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/170691(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/672
C08G 63/189
C08G 63/193
C08G 63/197
C08G 63/64
G02B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)および(2)で表される繰り返し単位を含み、下記式(1)で表される繰り返し単位と下記式(2)で表される繰り返し単位の比が、15:85~85:15であり、ガラス転移温度が140~155℃であるポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
【化1】
(式中、環Z、Zはそれぞれ炭素原子数9~20の縮合多環式芳香族炭化水素基を示し、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に、炭素原子数1~12の芳香族基を含んでいても良い炭化水素基を示し、R~R、R~R16は水素原子、脂肪族または芳香族の置換基を示し、j、k、rおよびsはそれぞれ独立に0以上の整数を示し、m、n、pおよびqはそれぞれ独立に1または2を示す。)
【化2】
(式中、R、R、R17およびR18はそれぞれ独立に、炭素原子数1~12の芳香族基を含んでいても良い炭化水素基を示し、R~R16、R19~R26は水素原子、脂肪族または芳香族の置換基を示し、r、s、tおよびuはそれぞれ独立に0以上の整数を示す。)
【請求項2】
前記式(1)のZおよびZがナフタレンジイル基である請求項1に記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
【請求項3】
前記式(1)が、下記式(3)で表される単位からなる請求項1に記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
【化3】
(式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に、炭素原子数1~12の芳香族基を含んでいても良い炭化水素基を示し、R~R、R~R16は水素原子、脂肪族または芳香族の置換基を示し、j、k、rおよびsはそれぞれ独立に0以上の整数を示し、m、n、pおよびqはそれぞれ独立に1または2を示す。)
【請求項4】
前記式(3)中のR~R、R~R16が水素原子であり、j、k、r、s、m、n、pおよびqが1である請求項3に記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
【請求項5】
前記式(3)中のR、Rがエチレン基、RおよびRがメチレン基である請求項3または4に記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
【請求項6】
前記式(1)で表される繰り返し単位が、全繰り返し単位中20モル%以上である請求項1~5のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
【請求項7】
前記式(2)中のR~R16、R19~R26が水素原子であり、r、s、tおよびuが1である請求項1~6のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
【請求項8】
前記式(2)中のR、Rがメチレン基、R17およびR18がエチレン基である請求項1~7のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
【請求項9】
前記式(2)で表される繰り返し単位が、全繰り返し単位中20モル%以上である請求項1~8のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
【請求項10】
前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(2)で表される繰り返し単位の比が、25:75~75:25である請求項1~9のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
【請求項11】
屈折率が1.680~1.695である請求項1~10のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
【請求項12】
含有フルオレノン量が1~500ppm以下である請求項1~11のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂からなる光学部材。
【請求項14】
光学レンズである請求項13に記載の光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率、低複屈折および耐熱性と成形性のバランスに優れるポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ、ビデオカメラあるいはカメラ付携帯電話、テレビ電話あるいはカメラ付ドアホンなどには、撮像モジュールが用いられている。近年、この撮像モジュールに用いられる光学系では、特に小型化が求められている。光学系を小型化していくと光学系の色収差が大きな問題となる。そこで、光学レンズの屈折率を高く、かつアッベ数を小さくして高分散にした光学レンズ材料と、屈折率を低くかつアッベ数を大きくして低分散にした光学レンズ材料を組み合わせることで、色収差の補正を行うことができることが知られている。
【0003】
光学系の材料として従来用いられていたガラスは要求される様々な光学特性を実現することが可能であると共に、環境耐性に優れているが、加工性が悪いという問題があった。これに対し、ガラス材料に比べて安価であると共に加工性に優れる樹脂が光学部品に用いられてきている。特に、フルオレン骨格やビナフタレン骨格を有する樹脂が、高屈折率である等の理由から使用されている。例えば、特許文献1には2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフタレンを用いたポリカーボネートが記載されている。特許文献2には、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンを用いた熱可塑性樹脂が記載されている。特許文献3には、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンと2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフタレンとを用いた樹脂が記載されている。これらの樹脂の屈折率は1.64~1.67であり改善の余地がある。特許文献4には、2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルと9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンとを用いたポリエステル樹脂が、特許文献5、6には9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレンを用いたポリカーボネートが記載されており、屈折率1.65~1.69の樹脂が示されている。特許文献7には、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2,3-ベンゾフルオレン等を用いたポリカーボネートが記載されている。これらの文献の内容は、参照により、本願明細書に組み込まれる。しかしながら、これらの樹脂は屈折率は高いものの、複屈折と耐熱性・成形性とのバランスが不十分であり未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/073496号
【文献】特開2015-86265号公報
【文献】国際公開第2015/170691号
【文献】特開2017-171885号公報
【文献】特開2017-179323号公報
【文献】国際公開第2018/016516号
【文献】特開2018-177887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の目的は、高屈折率、低複屈折および耐熱性と成形性のバランスに優れたポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らはこの目的を達成せんとして鋭意研究を重ねた結果、特定の芳香族基を導入したフルオレン骨格とビナフチル骨格を有するポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂が高屈折率かつ低複屈折であり、耐熱性と成形性も高度にバランスさせることができることを見出し本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
1.下記式(1)および(2)で表される繰り返し単位を含み、下記式(1)で表される繰り返し単位と下記式(2)で表される繰り返し単位の比が、15:85~85:15であるポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
【化1】
(式中、環Z、Zはそれぞれ炭素原子数9~20の多環芳香族炭化水素基を示し、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に、炭素原子数1~12の芳香族基を含んでいても良い炭化水素基を示し、R~R、R~R16は水素原子、脂肪族または芳香族の置換基を示し、j、k、rおよびsはそれぞれ独立に0以上の整数を示し、m、n、pおよびqはそれぞれ独立に1または2を示す。)
【化2】
(式中、R、R、R17およびR18はそれぞれ独立に、炭素原子数1~12の芳香族基を含んでいても良い炭化水素基を示し、R~R16、R19~R26は水素原子、脂肪族または芳香族の置換基を示し、r、s、tおよびuはそれぞれ独立に0以上の整数を示す。)
2.前記式(1)のZおよびZがナフタレンジイル基である前記1に記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
3.前記式(1)が、下記式(3)で表される単位からなる前記1に記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
【化3】
(式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に、炭素原子数1~12の芳香族基を含んでいても良い炭化水素基を示し、R~R、R~R16は水素原子、脂肪族または芳香族の置換基を示し、j、k、rおよびsはそれぞれ独立に0以上の整数を示し、m、n、pおよびqはそれぞれ独立に1または2を示す。)
4.前記式(3)中のR~R、R~R16が水素原子であり、j、k、r、s、m、n、pおよびqが1である前記3に記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
5.前記式(3)中のR、Rがエチレン基、RおよびRがメチレン基である前記3または4に記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
6.前記式(1)で表される繰り返し単位が、全繰り返し単位中20モル%以上である前記1~5のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
7.前記式(2)中のR~R16、R19~R26が水素原子であり、r、s、tおよびuが1である前記1~6のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
8.前記式(2)中のR、Rがメチレン基、R17およびR18がエチレン基である前記1~7のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
9.前記式(2)で表される繰り返し単位が、全繰り返し単位中20モル%以上である前記1~8のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
10.前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(2)で表される繰り返し単位の比が、25:75~75:25である前記1~9のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
11.塩化メチレン中に0.53質量%で溶解した溶液について測定した比粘度が0.12~0.40である前記1~10のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
12.屈折率が1.680~1.695である前記1~11のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
13.ガラス転移温度が140~155℃である前記1~12のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
14.ガラス転移温度より10℃高い温度で2倍に延伸したフィルムにおける20℃、波長589nmでの複屈折の絶対値が0.001×10-3~5×10-3である前記1~13のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
15.末端カルボン酸量が10当量/トン以下である前記1~14のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
16.含有フルオレノン量が1~500ppm以下である前記1~15のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂。
17.含有フェノール量が1~500ppm以下である前記1~16のいずれかに記載のポリエステルカーボネート樹脂。
18.前記1~17のいずれかに記載のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂からなる光学部材。
19.光学レンズである前記18に記載の光学部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂は、高屈折率、低複屈折および耐熱性と成形性のバランスに優れるため、その奏する産業上の効果は格別である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は実施例6で得られたポリエステルカーボネート樹脂のH NMRである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明をさらに詳しく説明する。
<ポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂>
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂は、下記式(1)および(2)で表される繰り返し単位を含み、下記式(1)で表される繰り返し単位と下記式(2)で表される繰り返し単位の比が、15:85~85:15である。
【0011】
【化4】
(式中、環Z、Zはそれぞれ炭素原子数9~20の多環芳香族炭化水素基を示し、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に、炭素原子数1~12の芳香族基を含んでいても良い炭化水素基を示し、R~R、R~R16は水素原子、脂肪族または芳香族の置換基を示し、j、k、rおよびsはそれぞれ独立に0以上の整数を示し、m、n、pおよびqはそれぞれ独立に1または2を示す。)
【0012】
【化5】
(式中、R、R、R17およびR18はそれぞれ独立に、炭素原子数1~12の芳香族基を含んでいても良い炭化水素基を示し、R~R16、R19~R26は水素原子、脂肪族または芳香族の置換基を示し、r、s、tおよびuはそれぞれ独立に0以上の整数を示す。)
【0013】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の好ましい態様は、前記式(1)において環Z、Zで表される多環芳香族炭化水素基としては、少なくとも炭素原子数が9~20であれば良く、ベンゼン環骨格を有する縮合多環式芳香族炭化水素環が好ましく挙げられ、縮合二環式炭化水素環、縮合三環式炭化水素環などが好ましい。縮合二環式炭化水素環としては、インデン環、ナフタレン環等の炭素原子数9~20の芳香族炭化水素環が好ましく、炭素原子数10~16の縮合二環式炭化水素環がより好ましい。また、縮合三環式炭化水素環としては、アントラセン環、フェナントレン環等が好ましい。これらの多環芳香族炭化水素基は置換基を有していてもよい。
【0014】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の好ましい態様は、前記式(1)のZおよびZがナフタレンジイル基である。
【0015】
上記式(1)において環Z、Zで表される多環芳香族炭化水素基としては、ナフタレン-1,4-ジイル基またはナフタレン-2,6-ジイル基が好ましく、ナフタレン-2,6-ジイル基がより好ましい。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の好ましい態様は、前記式(1)が、下記式(3)で表される単位からなる。
【0017】
【化6】
(式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に、炭素原子数1~12の芳香族基を含んでいても良い炭化水素基を示し、R~R、R~R16は水素原子、脂肪族または芳香族の置換基を示し、j、k、rおよびsはそれぞれ独立に0以上の整数を示し、m、n、pおよびqはそれぞれ独立に1または2を示す。)
前記式(3)中のR~R、R~R16は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基などがより好ましく挙げられ、水素原子がさらに好ましく挙げられる。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の好ましい態様は、前記式(1)および(2)中のR、R、R、R、R17およびR18は、それぞれ独立に素原子数1~12の芳香族基を含んでいても良い炭化水素基を示し、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基や、フェニレン基、ナフタレンジイル基等のアリーレン基が好ましく挙げられる。中でも、メチレン基、エチレン基がより好ましい。特に、R、R、R17、R18は、エチレン基が好ましい。また、R7とR8は、メチレン基が好ましい。
【0019】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の好ましい態様は、上記式(1)および(2)において、R~Rは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基などが好ましく、その中でも水素原子がより好ましい。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の好ましい態様は、上記式(1)および(2)においてR~R、R~R16およびR19~R26は水素原子または置換基を示し、水素原子が好ましく、また具体的な置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基などが好ましく挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが好ましい。
【0021】
アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などが好ましく挙げられ、炭素原子数1~4のアルキル基がより好ましく、メチル基またはエチル基がさらに好ましい。
【0022】
シクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデカニル基、シクロドデカニル基、4-tert-ブチルシクロヘキシル基などが好ましく挙げられ、シクロヘキシル基がより好ましい。
【0023】
アリール基の具体例としては、フェニル基、アルキルフェニル基(トリル基、2-メチルフェニル基、キシリル基などのモノまたはジメチルフェニル基)、ナフチル基などが好ましく挙げられ、フェニル基、ナフチル基がより好ましく、フェニル基がさらに好ましい。
【0024】
アラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基などが好ましく挙げられ、ベンジル基がより好ましい。
【0025】
アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基などが好ましく挙げられ、炭素原子数1~4のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基またはエトキシ基がさらに好ましい。
【0026】
シクロアルキルオキシ基の具体例としては、シクロペンチルオキシ基、シクロへキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基などが好ましく挙げられ、シクロヘキシルオキシ基がより好ましい。
【0027】
アリールオキシ基の具体例としては、フェノキシ基、アルキルフェノキシ基(モノまたはジメチルフェノキシ基)、ナフチルオキシ基などが好ましく挙げられ、フェノキシ基、ナフチルオキシ基がより好ましく、フェノキシ基がさらに好ましい。
【0028】
アラルキルオキシ基の具体例としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などが好ましく挙げられ、ベンジルオキシ基がより好ましい。
【0029】
従来よりLorentz-Lorenz式として知られている分子構造と屈折率の関係式から、分子の電子密度を上げ、分子体積を減らすことによって物質の屈折率が高くなることが知られている。前記の特許文献1~6に示されているフルオレン骨格やビナフタレン骨格を有する樹脂はこの理論に基づき、分子内に多くの芳香族基を導入することで高屈折率化がなされている。しかしながら、これらの樹脂は屈折率は高いものの、複屈折と耐熱性・成形性とのバランスが不十分である。
【0030】
本発明の前記式(1)で示される特定のエステル構造は高屈折率かつ低複屈折率であり、高耐熱性に寄与し、前記式(2)で示される特定のエステル構造は前記式(1)よりは屈折率は下がるものの高屈折率かつ低複屈折で樹脂のガラス転移温度を下げ成形性に寄与する。よって、前記式(1)および前記式(2)で表される繰り返し単位を含むポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂は、高屈折率であり複屈折と耐熱性・成形性をバランスすることが出来る。
【0031】
本発明における樹脂の組成比とは、全モノマー単位のモル数を基準として、樹脂に導入されたモノマー構造のモル比で示す。なお、ここでいう全モノマー単位には、ポリエステルカーボネート樹脂の製造で使用される炭酸成分は含まない。
【0032】
本発明における繰り返し単位とは、エステル結合および/またはカーボネート結合で繋がった最小単位を意味する。エステル結合の繰り返し単位はジオール成分とジカルボン酸成分から形成される構造単位を指し、カーボネート結合の繰り返し単位はジオール誘導体と炭酸成分から形成される構造単位を指す。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(2)で表される繰り返し単位のモル比は、15:85~85:15である。
【0034】
前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(2)で表される繰り返し単位のモル比は、25:75~75:25が好ましく、さらに30:70~70:30が好ましい。上記範囲にあることで、高屈折率と複屈折のバランスに優れる。
【0035】
本発明の樹脂中で、前記式(1)及び前記式(2)で表される繰り返し単位は、それぞれ、10モル%以上、20モル%以上、30モル%以上、40モル%以上、又は50モル%以上存在していてもよく、90モル%以下、80モル%以下、70モル%以下、60モル%以下、50モル%以下、又は40モル%以下で存在していてもよい。例えば、それらの繰り返し単位は、その樹脂中に、それぞれ、20モル%以上80モル%以下、又は30モル%以上70モル%以下で存在していてもよい。
【0036】
特に、本発明の樹脂がポリエステルカーボネート樹脂である場合、前記式(1)で表される繰り返し単位及び前記式(2)で表される繰り返し単位に加えて、カーボネート結合による繰り返し単位をさらに含む。カーボネート結合による繰り返し単位は、前記式(1)~(3)で表される繰り返し単位のエステル結合の一部を、単にカーボネート結合に変更した繰り返し単位であってもよい。本発明のポリエステルカーボネート樹脂中に、カーボネート結合による繰り返し単位は、5モル%以上、10モル%以上、15モル%以上、又は20モル%以上存在していてもよく、50モル%以下、40モル%以下、30モル%以下、20モル%以下、又は10モル%以下で存在していてもよい。例えば、その繰り返し単位は、その樹脂中に、5モル%以上50モル%以下、又は10モル%以上30モル%以下で存在していてもよい。
【0037】
また、本発明の樹脂中で、前記式(1)及び前記式(2)で表される繰り返し単位、並びにそれらのエステル結合の一部をカーボネート結合に変更した繰り返し単位以外の繰り返し単位は、存在していなくてもよく、0モル%超、10モル%以上、20モル%以上、又は30モル%以上存在していてもよく、50モル%以下、40モル%以下、30モル%以下、20モル%以下、又は10モル%以下で存在していてもよい。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の好ましい態様は、比粘度が、0.12~0.40であることが好ましく、0.15~0.35であるとさらに好ましく、0.18~0.30であるとよりいっそう好ましい。比粘度が上記範囲内であると成形性と機械強度のバランスに優れるため好ましい。なお、比粘度は、塩化メチレン中に0.53質量%で溶解した溶液(樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液)を用いて、20℃で測定して得られる比粘度(ηsp)である。
【0039】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の好ましい態様は、25℃で測定した波長589nmの屈折率(以下nDと略すことがある)が、1.660~1.695であることが好ましく、1.670~1.695であるとより好ましく、1.680~1.695であるとさらに好ましく、1.685~1.695であるとよりさらに好ましく、1.688~1.695であると最も好ましい。屈折率が下限以上の場合、レンズの球面収差を低減でき、さらにレンズの焦点距離を短くすることができる。
【0040】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂は高屈折率であるが、さらに低アッベ数であることが好ましい。アッベ数(ν)は、15~21であることが好ましく、15~20であるとより好ましく、15~18であるとよりいっそう好ましい。アッベ数は25℃で測定した波長486nm、589nm、656nmの屈折率から下記式を用いて算出する。
ν=(nD-1)/(nF-nC)
なお、本発明においては、
nD:波長589nmでの屈折率、
nC:波長656nmでの屈折率、
nF:波長486nmでの屈折率を意味する。
【0041】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の好ましい態様は、ガラス転移温度(Tg)が140~160℃であることが好ましく、140~155℃であるとより好ましく、140~150℃であるとさらに好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であると、耐熱性と成形性のバランスに優れるため好ましい。
【0042】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の好ましい態様は配向複屈折の絶対値(|Δn|)が好ましくは、0.001×10-3~10×10-3、より好ましくは0.001×10-3~5×10-3、さらに好ましくは0.001×10-3~4×10-3の範囲である。
|Δn|は、本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂より得られる厚さ100μmのフィルムをTg+10℃の温度で2倍延伸し、波長589nmにおける位相差を測定して下記式による求める。|Δn|が上記範囲内であると、レンズの光学歪が小さくなるため好ましい。
|Δn|=|Re/d|
Δn:配向複屈折
Re:位相差(nm)
d:厚さ(nm)
【0043】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の好ましい態様は、1mm厚の全光線透過率が、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは88%以上である。全光線透過率が上記範囲内であると、光学部材として適している。なお、全光線透過率の測定は、1mm厚の成形片を日本電色工業(株)製NDH-300Aを用いて測定した。
【0044】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の好ましい態様は、着色の度合い、特に黄色味が薄いことが好ましい。具体的にはCIE1976(L)表色系のb値が、10.0以下、8.0以下、6.0以下、又は4.0以下が好ましい。b値は3.0以下がより好ましく、2.0以下であるとさらに好ましい。このb値は、塩化メチレン5mlに1.0gを溶解した溶液(塩化メチレン中に13質量%で溶解した溶液)について分光光度計で測定したCIE1976(L)表色系の値である。
【0045】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の好ましい態様は、23℃、24時間浸漬後の吸水率が0.25質量%以下であると好ましく、0.20質量%以下であるとより好ましい。吸水率が上記範囲内であると、吸水による光学特性の変化が小さいため好ましい。
【0046】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の好ましい態様は、末端カルボン酸量が、12当量/トン以下、10当量/トン以下、6当量/トン以下、又は3当量/トン以下であってもよく、好ましくは1当量/トン以下である。末端カルボン酸量が12当量/トンより多いと末端カルボン酸がエステル結合の加水分解の触媒として働き耐湿熱性が悪化することがある。末端カルボン酸量が12当量/トン以下であると耐湿熱性に優れるため好ましい。末端カルボン酸量は窒素雰囲気下、樹脂0.1gを20mlのベンジルアルコールに200℃で溶解した後、滴定法により測定することが出来る。
【0047】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の好ましい態様は、耐湿熱性が85℃・相対湿度85%環境で所定時間処理し、処理前後での樹脂の比粘度を比較することで評価することが出来る。具体的には下記式で耐湿熱性を算出することが出来る。
耐湿熱性(%)=[処理後の樹脂の比粘度]/[処理前の樹脂の比粘度]×100
耐湿熱性は500時間処理後で76%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましい。
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂に使用する具体的な原料について、以下で説明する。
【0048】
<原料モノマー>
(前記式(1)のジオール成分)
本発明の前記式(1)の原料となるジオール成分は、主として下記式(a)で表されるジオール成分であり、単独で使用してもよく、または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0049】
【化7】
前記式(a)において、Z、Z、R~R、j、k、m、n、p、qは、前記式(1)における各式と同じである。
以下、前記式(a)で表されるジオール成分の代表的具体例を示すが、本発明の前記式(1)に用いられる原料としては、それらによって限定されるものではない。
【0050】
具体的には、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシプロポキシ)-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン等が好ましく挙げられる。なかでも9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンがより好ましく、特に、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)フルオレンがより好ましい。
これらは単独で使用してもよく、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
(前記式(2)のジオール成分)
本発明の前記式(2)の原料となるジオール成分は、主として下記式(b)で表されるジオール成分であり、単独で使用してもよく、または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0052】
【化8】
前記式(b)において、R17~R26、t、uは、前記式(2)における各式と同じである。
【0053】
以下、前記式(b)で表されるジオール成分の代表的具体例を示すが、本発明の前記式(2)に用いられる原料としては、それらによって限定されるものではない。
具体的には、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-3,3’-ジフェニル-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ジフェニル-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-7,7’-ジフェニル-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-3,3’-ジメチル-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-6,6’-ジメチル-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-7,7’-ジメチル-1,1’-ビナフチル、1,1’-ビ-2-ナフトール、2,2’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニル-1,1’-ビナフチル、2,2’-ジヒドロキシ-6,6’-ジフェニル-1,1’-ビナフチル、2,2’-ジヒドロキシ-7,7’-ジフェニル-1,1’-ビナフチル等が好ましく挙げられる。なかでも、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフチル、1,1’-ビ-2-ナフトールがより好ましく、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフチルがさらに好ましい。
これらは単独で使用してもよく、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
(前記式(1)および前記式(2)以外のジオール成分)
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂は、本発明の特性を損なわない程度に他のジオール成分を共重合してもよい。他のジオール成分は、全繰り返し単位中30mol%未満が好ましい。
【0055】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂に使用できるその他のジオール成分としては、本分野で周知のジオール成分を用いることができ、例えば、上記特許文献7の[0040]に記載されているジオールに加えて、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、10,10-ビス(4-ヒドロキシフェニル)アントロン等が例示され、これらは単独または二種類以上組み合わせて用いても良い。
【0056】
(前記式(1)および前記式(2)のジカルボン酸成分)
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の前記式(1)および前記式(2)で表される単位に使用するジカルボン酸成分は主として、下記式(c)で表されるジカルボン酸、またはそのエステル形成性誘導体が好ましく用いられる。
【0057】
【化9】
前記式(c)において、R~R16、r、sは、前記式(1)における各式と同じである。
【0058】
以下、前記式(c)で表されるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の代表的具体例を示すが、本発明の前記式(c)に用いられる原料としては、それらによって限定されるものではない。
【0059】
具体的には、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、2,2’-ビス(カルボキシメトキシ)-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(2-カルボキシエトキシ)-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(3-カルボキシプロポキシ)-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(3-カルボキシ-2-メチルプロポキシ)-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(4-カルボキシフェニルメトキシ)-1,1’-ビナフチル等が好ましく挙げられ、2,2’-ビス(カルボキシメトキシ)-1,1’-ビナフチルがより好ましい。
【0060】
これらは単独で使用してもよく、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、エステル形成性誘導体としては酸クロライドや、メチルエステル、エチルエステル、フェニルエステル等のエステル類を用いてもよい。
【0061】
(前記式(1)および前記式(2)以外のジカルボン酸成分)
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂に使用するジカルボン酸成分としては、本発明の特性を損なわない程度に他のジカルボン酸成分を共重合しても良い。該他のジカルボン酸成分は、全繰り返し単位中30mol%未満が好ましい。
【0062】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂に使用するその他のジカルボン酸成分としては、本分野で周知のカルボン酸成分を用いることができ、例えば、上記特許文献7の[0043]に記載のようなカルボン酸成分を用いることができる。
【0063】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法については、本分野で周知の製造方法を用いることができ、例えば、上記特許文献7の[0051]~[0060]に記載の製造方法を用いることができる。
【0064】
<ポリエステルカーボネート樹脂の製造方法>
本発明のポリエステルカーボネート樹脂は、ジオール成分およびジカルボン酸成分またはそのエステル形成性誘導体と、ホスゲンや炭酸ジエステルなどのカーボネート形成性誘導体とを界面重合法または溶融重合法によって反応させて得ることができ、必要に応じて触媒、末端停止剤、酸化防止剤等を使用してもよい。
【0065】
界面重合法を用いる場合、芳香族ジオールおよび重合触媒を含むアルカリ水溶液(水相)に、ジカルボン酸クロリドを水と相溶しない有機溶媒に溶解させた溶液(有機相)を混合しさらにホスゲンを反応させる。反応温度は0~40℃、好ましくは25℃以下の温度で0.5~8時間撹拌しながら重合反応を行う方法が好ましく挙げられる。
【0066】
有機相に用いる溶媒としては、水と相溶せず本発明のポリエステル樹脂を溶解する溶媒が好ましい。そのような溶媒としては、例えば、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどの塩素系溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族系炭化水素系溶媒が好ましく挙げられ、製造上使用しやすいことから、塩化メチレンがより好ましい。
【0067】
水相に用いるアルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等の水溶液が好ましく挙げられる。
【0068】
反応促進のために例えばトリエチルアミン、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ-n-ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。
【0069】
溶融重合法による反応は、通常、ジオール成分と、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とカーボネート形成性誘導体とのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下にジオール成分とジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とカーボネート形成性誘導体とを加熱しながら混合して、生成する水、アルコールやフェノール等のヒドロキシ化合物を留出させる方法により行われる。
【0070】
特にジオール成分、ジカルボン酸成分およびカーボネート形成性誘導体を原料モノマーとする重合では、次のように進めるのが好ましい。先ず第一段階においてはジオール成分とジカルボン酸成分によるエステルの縮合反応を進行させる。この反応では、水が副生し、触媒なしでも進行させることができる。そして水を系外に除去した後に、第二段階の縮合重合において、カーボネート形成性誘導体とのエステル交換反応が進行し、アルコールやフェノール等のヒドロキシ化合物が副生しながらポリエステルカーボネートを生成させるのが好ましく、この反応は後述の触媒の存在下で進めるのが好ましい。
【0071】
反応温度は、用いるジオール成分によって異なるが、好ましくは120~350℃、より好ましくは150~300℃、さらに好ましくは180~270℃で反応させる。減圧度は段階的に変化させ、最終的には0.13kPa以下にして生成した水、アルコールやフェノール等のヒドロキシ化合物を系外に留去させる。反応時間は通常1~10時間程度が好ましい。
【0072】
カーボネート形成性誘導体としては、置換されていてもよい炭素原子数6~10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素原子数1~4のアルキル基などのエステルが好ましく挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが好ましく挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートがより好ましい。
【0073】
また、溶融重合法において重合速度を速めるために触媒を用いることができる。例えば酢酸リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、二価フェノールのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物、アルカリ金属やアルカリ土類金属のアルコキシド類、アルカリ金属やアルカリ土類金属の有機酸塩類、亜鉛化合物類、ホウ素化合物類、アルミニウム化合物類、珪素化合物類、ゲルマニウム化合物類、有機スズ化合物類、鉛化合物類、オスミウム化合物類、アンチモン化合物類、マンガン化合物類、マグネシウム化合物類、チタン化合物類、コバルト化合物類、ジルコニウム化合物類などの通常エステル化反応、エステル交換反応に使用される触媒を好ましく用いることができる。中でも、樹脂の溶融安定性、色相の観点からアルミニウム、スズ、チタン、ゲルマニウム化合物がより好ましく、アルミニウム化合物がさらに好ましい。
【0074】
触媒は単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよく、助触媒として別の化合物を併用しても良い。これらの重合触媒の使用量は、全モノマー単位の合計1モルに対して、1×10-8~1×10-3モルの範囲が好ましい。
【0075】
触媒として好ましく用いられるアルミニウムまたはその化合物は、エステル交換によってポリエステルカーボネート樹脂を重合させるための触媒としての活性を有している。特にジオール成分、ジカルボン酸成分およびカーボネート形成性誘導体を原料モノマーとする重合における、カーボネート形成反応の触媒として作用している。
【0076】
このようなアルミニウムまたはその化合物としては、例えば、金属アルミニウム、アルミニウム塩、アルミニウムキレート化合物、有機アルミニウム化合物、無機アルミニウム化合物等を好ましく挙げることができる。
【0077】
アルミニウム塩としては、アルミニウムの有機酸塩及び無機酸塩を好ましく挙げることができる。アルミニウムの有機酸塩としては、例えば、アルミニウムのカルボン酸塩を挙げることができ、具体的にはギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、及びサリチル酸アルミニウムを好ましく挙げることができる。アルミニウムの無機酸塩としては、例えば、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、及びホスホン酸アルミニウムを好ましく挙げることができる。
【0078】
アルミニウムキレート化合物としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート、及びアルミニウムエチルアセトアセテートジiso-プロポキシドを好ましく挙げることができる。
【0079】
有機アルミニウム化合物としては、アルミニウムアルコキシド、例えばトリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムアルコキシド、アルキルアルミニウムジアルコキシド、アルミニウムトリアルコキシド及びこれらの加水分解物等を好ましく挙げることができ、具体的には、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムn-プロポキシド、アルミニウムiso-プロポキシド、アルミニウムn-ブトキシド、アルミニウムtert-ブトキシドなどアルミニウムアルコキシド、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム及びこれらの加水分解物を好ましく挙げることができる。無機アルミニウム化合物としては、酸化アルミニウム等が好ましく挙げられる。
【0080】
特に、アルミニウムのカルボン酸塩、無機酸塩及びキレート化合物が好ましく、これらの中でも特に、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム及びアルミニウムアセチルアセトネートがより好ましい。
【0081】
これらアルミニウム化合物には助触媒として別の化合物を併用しても良く、特にリン化合物は、ポリエステルカーボネート樹脂の重合反応におけるアルミニウムまたはその化合物の触媒活性を向上させることができる。
【0082】
このようなリン化合物としては、例えば、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、及びホスフィン系化合物を挙げることができる。これらの中でも特に、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、及びホスフィンオキサイド系化合物を好ましく挙げることができ、特にホスホン酸系化合物をより好ましく挙げることができる。
【0083】
ホスホン酸系化合物としては、例えば、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、メチルホスホン酸ジへキシル、メチルホスホン酸ジオクチル、メチルホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジヘキシル、フェニルホスホン酸ジオクチル、フェニルホスホン酸ジフェニル、ベンジルホスホン酸ジメチル、ベンジルホスホン酸ジエチル、ベンジルホスホン酸ジヘキシル、ベンジルホスホン酸ジオクチル、ベンジルホスホン酸ジフェニル、p-メチルベンジルホスホン酸ジメチル、p-メチルベンジルホスホン酸ジエチル、p-メチルベンジルホスホン酸ジヘキシル、p-メチルベンジルホスホン酸ジオクチル、p-メチルベンジルホスホン酸ジフェニル、3,5-ジーtert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジメチル、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジヘキシル、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジオクチル、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジフェニルなどが好ましく挙げられ、3,5-ジーtert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジメチル、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジヘキシル、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジオクチル、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジフェニルがより好ましい。
【0084】
アルミニウムまたはその化合物の使用量に対するリン化合物の使用量の比はモル比で、好ましくは0.5~10の範囲であり、より好ましくは1~5の範囲であり、さらに好ましくは1.5~3の範囲である。
【0085】
触媒を添加する際の形態は特に限定されず、粉末状等の形態でモノマーに添加してもよく、溶媒中の分散体または溶液の形態でモノマーに添加してもよい。また、アルミニウムまたはその化合物とリン化合物とを予め混合したものを添加してもよいし、アルミニウムまたはその化合物とリン化合物とを別々に添加してもよい。
【0086】
本発明のポリエステルカーボネート樹脂は、その重合反応において、末端停止剤として通常使用される単官能ヒドロキシ化合物を使用しても良い。特にカーボネート前駆物質としてホスゲンを使用する反応の場合、単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られた樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。その他の末端封止剤としては、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、ケテンイミン化合物等が好ましく挙げられる。
【0087】
本発明のポリエステルカーボネート樹脂には、ジオール成分とジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体以外のジオール成分の共重合成分を含有させてもよい。
【0088】
<不純物>
(残存フェノール)
本発明のポリエステルカーボネート樹脂の残存フェノール含有量は、好ましくは1~500ppm、より好ましくは1~400ppm、さらに好ましくは1~300ppmである。
【0089】
フェノールの含有量は、圧力1.3kPa以下での反応時間により調整することが好ましい。1.3kPa以下の真空度での反応を行わない場合は、フェノールの含有量が多くなる。又、反応時間が長すぎると、樹脂中より留去しすぎてしまう。
【0090】
又、本発明のポリエステルカーボネート樹脂を得た後にフェノール含有量を調整しても良い。例えば、本発明のポリエステルカーボネート樹脂を有機溶媒に溶解させ、有機溶媒層を水で洗う方法や、一般に使用されている一軸または二軸の押出機、各種のニーダー等の混練装置を用い、133~13.3Paの圧力、200~320℃の温度で脱揮除去する方法を用いても良い。
【0091】
本発明のポリエステルカーボネート樹脂における残存フェノールの含有量は、耐熱性を損なうことなく、成形流動性を向上させる事ができる。しかし、500ppmより高くなると加熱溶融した際の熱安定性が乏しく、さらに樹脂射出成形時の金型汚染がひどくなり好ましくない。さらに、フェノールは、酸化されると着色する性質があり、ポリエステルカーボネート樹脂の色相が悪化する。また、1ppm未満では、成形流動性に劣り好ましくない。
【0092】
(残存フルオレノン)
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の残存フルオレノン含有量は、好ましくは1~500ppm、より好ましくは1~300ppm、さらに好ましくは1~100ppm、特に好ましくは1~50ppm又は1~40ppmである。
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂における残存フルオレノンの含有量が500ppmより高くなると樹脂が著しく着色するため好ましくない。
【0093】
<添加剤>
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂には、必要に応じて、離型剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、ブルーイング剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、充填剤などの添加剤を適宜添加して用いることができる。これらについては、本分野で周知の添加剤を周知の方法で添加させることができ、例えば、上記特許文献7の[0062]~[0081]に記載を参照することができる。
【0094】
<光学レンズ>
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂は、光学部材、特に光学レンズに好適である。本発明の樹脂を、光学部材、特に光学レンズに使用するための方法については、周知の使用方法を用いることができ、例えば、上記特許文献7の[0082]~[0086]に記載を参照することができる。
【実施例
【0095】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
(1)共重合比:重合終了後に得られた樹脂を日本電子(株)製JNM-ECZ400S/L1のH NMRを測定により求めた。
(2)比粘度:重合終了後に得られた樹脂を十分に乾燥し、該樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から、その溶液の20℃における比粘度(ηsp)を測定した。この測定では、20±0.01℃の恒温槽中でオストワルド粘度管の標線間の通過時間を計測し、下記式からその溶液の20℃における比粘度(ηsp)を求めた。
ηsp=(t-t)/t
:樹脂溶液の標線間通過時間
:塩化メチレンの標線間通過時間
(3)末端カルボン酸量
窒素雰囲気下、樹脂0.1gを20mlのベンジルアルコールに200℃で溶解した後、滴定法により樹脂重量1トン当りの当量数として、カルボン酸末端基数(当量/トン)を測定した。指示薬にはフェノールレッドを用いた。
(4)ガラス転移温度(Tg):溶融混練後に得られた樹脂を(株)島津製作所製DSC-60Aにより、昇温速度20℃/minで測定した。
(5)屈折率(nD):得られた樹脂3gを塩化メチレン50mlに溶解させ、ガラスシャーレ上にキャストし、室温にて十分に乾燥させた後、120℃以下の温度にて8時間乾燥して、厚さ約100μmのフィルムを作成した。このフィルムをATAGO製DR-M2アッベ屈折計を用いて、25℃における屈折率(波長:589nm)およびアッベ数(波長:486nm、589nm、656nmにおける屈折率から下記式を用いて算出)を測定した。
ν=(nD-1)/(nF-nC)
なお、本発明においては、
nD:波長589nmでの屈折率、
nC:波長656nmでの屈折率、
nF:波長486nmでの屈折率を意味する。
(6)配向複屈折の絶対値(|Δn|):(5)で作成した厚さ100μmのフィルムをTg+10℃で2倍延伸し、日本分光(株)製エリプソメーターM-220を用いて589nmにおける位相差(Re)を測定し、下記式より配向複屈折の絶対値を求めた。
|Δn|=|Re/d|
Δn:配向複屈折
Re:位相差(nm)
d:厚さ(nm)
(7)色相:得られた樹脂1.0gを分光分析用塩化メチレン5mlに溶解し、その溶液のb*値(黄色味)をHITACHI製分光光度計U-3310により測定した。
(8)耐湿熱性:得られた樹脂ペレットを85℃・相対湿度85%環境にて500時間処理し、下記式より耐湿熱性を評価した。
耐湿熱性(%)=[処理後の樹脂の比粘度]/[処理前の樹脂の比粘度]×100
(9)成形性:樹脂ペレットを120℃で8時間真空乾燥した後、成形温度Tg+110℃、金型温度Tg-10℃にて、住友重機械(株)製SE30DU射出成形機を用いて厚さ0.3mm、凸面曲率半径5mm、凹面曲率半径4mm、Φ5mmのレンズを射出成形した。500枚成形した際のレンズの充填不良、成形不良、金型付着物等を目視にて評価し、欠陥品の確率が5%未満の場合:成形性○、5%以上20%未満の場合:成形性△、20%以上の場合:成形性×と評価した。
(10)残存フルオレノン、残存フェノールの含有量
樹脂中の残存フルオレノン量、残存フェノール量を野村化学製Develosil ODS-7のカラムにて溶離液アセトニトリル/0.2%酢酸水とアセトニトリルとの混合液を用いて、カラム温度30℃、検出器253nm及び277nmでグラジエントプログラムにてHPLC分析した。フルオレノンおよび、フェノールは標品を用い、検量線を作成し定量した。測定は、樹脂1.5gを塩化メチレン15mlに溶解させた後、アセトニトリル135mlを加え攪拌し、エバポレーターで濃縮した後、0.2μmフィルターでろ過し、このアセトニトリル溶液10μlを注入して行った。
【0096】
[実施例1]
2,2’-ビス(カルボキシメトキシ)-1,1’-ビナフチル(以下、BCMBと省略することがある)を46.8質量部、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン(以下、BNEFと省略することがある)を31.4質量部、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフチル(以下、BHEBと省略することがある)を21.8質量部、及びテトラブトキシチタン(IV)4.0×10-3質量部を攪拌機および留出装置付きの反応釜に入れ、窒素置換を3度行った後、ジャケットを200℃に加熱し、原料を溶融させた。完全溶解後、20分かけて40kPaまで減圧した。その後、60℃/hrの速度でジャケットを260℃まで昇温し、エステル化反応を行った。その後、ジャケットを260℃に保持したまま、50分かけて0.13kPaまで減圧し、260℃、0.13kPa以下の条件下で所定の撹拌トルクに到達するまで重合反応を行った。反応終了後、生成した樹脂をペレタイズしながら抜き出し、ポリエステル樹脂のペレットを得た。得られたポリエステル樹脂をH NMRにより分析し、全モノマー成分に対して、BCMB成分が50mol%、BNEF成分が25mol%、BHEB成分が25mol%導入されていることを確認した。得られたポリエステル樹脂の比粘度は0.26、末端カルボン酸量は10当量/トン、Tgは149℃、屈折率は1.684、アッベ数は17.9、配向複屈折の絶対値は2.1×10-3、bは4.2、耐湿熱性は78%、成形性は○であった。残存フルオレノン量は50ppmであった。
【0097】
[実施例2]
BCMB50.5質量部、BNEF33.8質量部、BHEB14.1質量部、エチレングリコール(以下、EGと省略することがある)16.0質量部、テトラブトキシチタン(IV)4.3×10-3質量部を攪拌機および留出装置付きの反応釜に入れ、その後は実施例1と同様の方法を行いポリエステル樹脂のペレットを得た。得られたポリエステル樹脂にはBCMB成分が50mol%、BNEF成分が25mol%、BHEB成分が15mol%、EG成分が10mol%導入されていることを確認した。得られたポリエステル樹脂の比粘度は0.26、末端カルボン酸量は10当量/トン、Tgは147℃、屈折率は1.683、アッベ数は17.9、配向複屈折の絶対値は2.0×10-3、bは4.4、耐湿熱性は78%、成形性は○であった。
【0098】
[実施例3]
実施例1のBCMBを45.1質量部、BNEFを42.3質量部、BHEBを12.6質量部、テトラブトキシチタン(IV)を3.8×10-3質量部とする以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂のペレットを得た。得られたポリエステル樹脂にはBCMB成分が50mol%、BNEF成分が35mol%、BHEB成分が15mol%導入されていることを確認した。得られたポリエステル樹脂の比粘度は0.26、末端カルボン酸量は12当量/トン、Tgは154℃、屈折率は1.684、アッベ数は18.0、配向複屈折の絶対値は3.2×10-3、bは4.5、耐湿熱性は76%、成形性は○であった。
【0099】
[実施例4]
BCMB39.0質量部、BNEF36.0質量部、BHEB25.0質量部、及びジフェニルカーボネート(以下、DPCと省略することがある)8.7質量部を攪拌機および留出装置付きの反応釜に入れ、窒素置換を3度行った後、ジャケットを200℃に加熱し、原料を溶融させた。完全溶解後、20分かけて40kPaまで減圧した。60℃/hrの速度でジャケットを260℃まで昇温した後、ジャケットを260℃に保持したまま、20分かけて26kPaまで減圧した。その後、アルミニウムアセチルアセトネート(以下、Al(acac)と省略することがある)22.4×10-3質量部、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル(以下、DEBHBPと省略することがある)49.3×10-3質量部を反応釜に添加した。その後、ジャケットを260℃に保持したまま、70分かけて0.13kPaまで減圧し、260℃、0.13kPa以下の条件下で所定の撹拌トルクに到達するまで重合反応を行った。反応終了後、生成した樹脂をペレタイズしながら抜き出し、ポリエステルカーボネート樹脂のペレットを得た。得られたポリエステルカーボネート樹脂にはBCMB成分が42mol%、BNEF成分が29mol%、BHEB成分が29mol%導入されていることを確認した。得られたポリエステルカーボネート樹脂の比粘度は0.27、末端カルボン酸量は1当量/トン、Tgは148℃、屈折率は1.683、アッベ数は17.9、配向複屈折の絶対値は2.4×10-3、bは1.7、耐湿熱性は99%、成形性は○であった。残存フルオレノン量は40ppm、残存フェノール量は250ppmであった。
【0100】
[実施例5]
実施例4のBCMBを44.0質量部、BNEFを19.6質量部、BHEBを36.4質量部、DPCを5.7質量部、Al(acac)を23.6×10-3質量部、DEBHBPを52.0×10-3質量部とする以外は、実施例4と同様の方法でポリエステルカーボネート樹脂のペレットを得た。得られたポリエステルカーボネート樹脂にはBCMB成分が45mol%、BNEF成分が15mol%、BHEB成分が40mol%導入されていることを確認した。得られたポリエステルカーボネート樹脂の比粘度は0.27、末端カルボン酸量は1当量/トン、Tgは142℃、屈折率は1.685、アッベ数は18、配向複屈折の絶対値は1.6×10-3、bは1.5、耐湿熱性は98%、成形性は○であった。残存フルオレノン量は40ppm、残存フェノール量は220ppmであった。
【0101】
[実施例6]
実施例4のBCMBを42.3質量部、BNEFを31.5質量部、BHEBを26.2質量部、DPCを5.5質量部、Al(acac)を22.7×10-3質量部、DEBHBPを50.0×10-3質量部とする以外は、実施例4と同様の方法でポリエステルカーボネート樹脂のペレットを得た。得られたポリエステルカーボネート樹脂にはBCMB成分が45mol%、BNEF成分が25mol%、BHEB成分が30mol%導入されていることを確認した。得られたポリエステルカーボネート樹脂の比粘度は0.27、末端カルボン酸量は2当量/トン、Tgは148℃、屈折率は1.686、アッベ数は18、配向複屈折の絶対値は2.0×10-3、bは1.6、耐湿熱性は99%、成形性は○であった。残存フルオレノン量は50ppm、残存フェノール量は250ppmであった。
【0102】
[実施例7]
実施例1のBCMBを40.0質量部、BNEFを47.6質量部、BHEBを12.4質量部、DPCを5.2質量部、Al(acac)を21.5×10-3質量部、DEBHBPを47.2×10-3質量部とする以外は、実施例4と同様の方法でポリエステルカーボネート樹脂のペレットを得た。得られたポリエステルカーボネート樹脂にはBCMB成分が45mol%、BNEF成分が40mol%、BHEB成分が15mol%導入されていることを確認した。得られたポリエステルカーボネート樹脂の比粘度は0.27、末端カルボン酸量は2当量/トン、Tgは152℃、屈折率は1.690、アッベ数は17.8、配向複屈折の絶対値は3.3×10-3、bは1.8、耐湿熱性は99%、成形性は○であった。
【0103】
[比較例1]
実施例1のBCMBを51.8質量部、BHEBを48.2質量部、BNEFを0質量部、テトラブトキシチタン(IV)4.4×10-3質量部とする以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂のペレットを得た。得られたポリエステル樹脂の比粘度は0.24、末端カルボン酸量は13当量/トン、Tgは133℃、屈折率は1.679、アッベ数は18.3、配向複屈折の絶対値は0.2×10-3、bは4.4、耐湿熱性は75%であった。
【0104】
[比較例2]
比較例1のBCMBを47.9質量部、BHEBの代わりに9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(以下、BPEFと省略することがある)を52.1質量部、テトラブトキシチタン(IV)4.0×10-3質量部とする以外は、比較例1と同様の方法でポリエステル樹脂のペレットを得た。得られたポリエステル樹脂の比粘度は0.27、末端カルボン酸量は12当量/トン、Tgは148℃、屈折率は1.662、アッベ数は20.8、配向複屈折の絶対値は0.3×10-3、bは4.5、耐湿熱性は76%であった。残存フルオレノン量は5ppmであった。
【0105】
[比較例3]
実施例4のBCMBを44.9質量部、BHEBを27.9質量部、BNEFの代わりにBPEFを27.2質量部、DPCを5.8質量部、Al(acac)を24.1×10-3質量部、DEBHBPを53.1×10-3質量部とする以外は、実施例4と同様の方法でポリエステルカーボネート樹脂のペレットを得た。得られたポリエステルカーボネート樹脂の比粘度は0.27、末端カルボン酸量は2当量/トン、Tgは139℃、屈折率は1.671、アッベ数は19.5、配向複屈折の絶対値は0.1×10-3、bは1.6、耐湿熱性は98%であった。残存フルオレノン量は3ppm、残存フェノール量は240ppmであった。
【0106】
[比較例4]
比較例3のBCMBを41.1質量部、BHEBを25.5質量部、BPEFの代わりに9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンを33.5質量部、DPCを5.3質量部、Al(acac)を22.1×10-3質量部、DEBHBPを48.5×10-3質量部とする以外は、比較例3と同様の方法でポリエステルカーボネート樹脂のペレットを得た。得られたポリエステルカーボネート樹脂の比粘度は0.27、末端カルボン酸量は2当量/トン、Tgは141℃、屈折率は1.674、アッベ数は18.8、配向複屈折の絶対値は0.7×10-3、bは1.7、耐湿熱性は99%であった。
【0107】
[比較例5]
BNEF85.2質量部、BHEB14.8質量部、DPC46.6質量部、及びテトラブトキシチタン(IV)3.2×10-3質量部を攪拌機および留出装置付きの反応釜に入れ、窒素置換を3度行った後、ジャケットを200℃に加熱し、原料を溶融させた。完全溶解後、20分かけて40kPaまで減圧した。60℃/hrの速度でジャケットを260℃まで昇温した後、ジャケットを260℃に保持したまま、20分かけて26kPaまで減圧した。その後70分かけて0.13kPaまで減圧し、260℃、0.13kPa以下の条件下で所定の撹拌トルクに到達するまで重合反応を行った。反応終了後、生成した樹脂をペレタイズしながら抜き出し、ポリカーボネート樹脂のペレットを得た。得られたポリカーボネート樹脂にはBNEF成分が80mol%、BHEB成分が20mol%導入されていることを確認した。得られたポリカーボネート樹脂の比粘度は0.26、Tgは170℃、屈折率は1.681、アッベ数は18.4、配向複屈折の絶対値は6.1×10-3、bは1.8、耐湿熱性は99%、成形性は×であった。
【0108】
【表1】
【0109】
実施例1~7で得られたポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂は、高屈折率、かつ低アッベ数であり、さらに耐熱性と成形性のバランスに優れ、低複屈折であり光学レンズとして優れる。これに対して、比較例1~4のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂は屈折率が低く、アッベ数が高い。比較例5のポリカーボネート樹脂は屈折率、耐熱性も高いが、成形性に劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のポリエステル樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂は、光学材料に用いられ、レンズ、プリズム、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、フィルム、光ファイバー、光学膜、光学フィルター、ハードコート膜等の光学部材に用いることができ、特にレンズに極めて有用である。
図1