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特許7204745負荷された懸濁液を繊維状組織内に射出する方法及び複合材料製の部品を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】負荷された懸濁液を繊維状組織内に射出する方法及び複合材料製の部品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/80 20060101AFI20230106BHJP
   B29C 70/48 20060101ALN20230106BHJP
【FI】
C04B35/80
B29C70/48
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020516435
(86)(22)【出願日】2018-09-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 FR2018052283
(87)【国際公開番号】W WO2019058050
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】1758658
(32)【優先日】2017-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512162432
【氏名又は名称】サフラン セラミクス
【住所又は居所原語表記】Rue de Touban Les Cinq Chemins 33185 LE HAILLAN FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】パスカル ディス
(72)【発明者】
【氏名】エリク ラバッセリー
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-076891(JP,A)
【文献】特開平11-032730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
C04B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緯糸の少なくともいくつかが経糸の数個の層上の経糸を結び付けかつ経糸の少なくともいくつかが緯糸の数個の層上の緯糸を結び付ける、3次元又は多層製織を有する繊維状組織(10)内に負荷された懸濁液を射出する方法であって、固体粒子粉末を含有する懸濁液(150)を繊維状組織体積内へ射出することを含む、方法において、
前記負荷された懸濁液(150)の射出が、負荷された懸濁液の供給装置(100)と連通状態にある少なくとも1本の中空針(120)を用いて実施され、各針が、前記繊維状組織内の1つ以上の規定の深さにおいて前記負荷された懸濁液を射出するために、前記繊維状組織の厚みを横断しかつ前記繊維状組織(10)の第1の面(10b)と第2の反対側の面(10a)との間移動可能であるように構成されていることを特徴とする、方法。
【請求項2】
各中空針(120)が0.4mm~0.8mmの外径(d120)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各中空針(120)が斜切端部(121)を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記針(120)は、前記繊維状組織(10)の第1の面(10b)と第2の反対側の面(10a)との間を逐次的に移動させられ、前記針はこれら2つの面の間の中間位置で停止させられており、各々の中間位置で前記繊維状組織内に規定用量の負荷された懸濁液(150)が射出される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記針(120)は、前記繊維状組織(10)の第1の面(10b)と第2の反対側の面(10a)との間で連続的に移動させられ、前記負荷された懸濁液(150)が前記繊維状組織内に規定の流速で連続的に射出される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記負荷された懸濁液(450)の射出の間、前記繊維状組織(30)は、前記針(420)のための1つ以上の穴(310)を少なくとも1つの面(300a)上に含む圧密工具(300)内に設置される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
複合材料製の部品を製造する方法において、
前記方法は、
複数のヤーンの間での3次元又は多層製織による繊維状組織(10)の形成のステップと、
請求項1~6のいずれか1項に記載の前記繊維状組織内への負荷された懸濁液(150)の射出のステップであって、前記負荷された懸濁液が、マトリックスの少なくとも1つの液体又は固体前駆物質を含んでいる、射出のステップと、
前記射出された繊維状組織の圧密のステップと、
前記少なくとも1つの前駆物質の、マトリックスへの変換のステップとを含む方法。
【請求項8】
前記繊維状組織(10)の前記複数のヤーンが耐火セラミック繊維で形成されており、前記負荷された懸濁液(150)がセラミックマトリックスの固体前駆物質として耐火セラミック粒子を含有している、前記繊維状組織内で耐火セラミックマトリックスを形成するための前記繊維状組織内に存在する前記耐火セラミック粒子の熱処理を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記繊維状組織(10)の前記複数のヤーンが、アルミナ、ムライト、シリカ、アルミノケイ酸塩、ホウケイ酸塩、炭化ケイ素及び炭素といった材料のうちの1つ以上で構成された繊維で形成されている、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記耐火セラミック粒子が、アルミナ、ムライト、シリカ、アルミノケイ酸塩、アルミノリン酸塩、ジルコニア、炭化物、ホウ化物、及び窒化物の中から選択された材料でできていることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体プロセスによる複合材料製部品の製造のために負荷された懸濁液を繊維状組織内に射出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体プロセスによる複合材料の調製の分野において、最終多孔性を可能なかぎり低くするために充分に負荷された懸濁液を繊維状プリフォーム内の利用可能な体積全体に充填することを共通の目的として、多くの代替的方法が開発されてきた。
【0003】
液体プロセスでの解決法のうちの1つは、負荷された懸濁液が予め含侵された繊維層を使用すること及び整形工具上でこれらの層をドレープ加工することからなる。しかしながら、この技術は、3次元(3D)又は多層(2.5D)製織を有する組織とは両立しない。これらの組織は実際、組織の厚み全体を通した負荷された懸濁液均質な浸透を阻む組織の「フィルタ」効果に起因して、従来の手段によって含侵するのが困難である。このタイプの調製方法は、小さな厚み及び2次元(2D)繊維強化材を有する複合材料製の部品の生産しか可能にしない。これらのタイプの複合材料の機械的特性は、いくつかの方向において制限されたものであり続けている。特に、これらの材料は、層間剥離耐性が低く、せん断力に耐えることができない。
【0004】
最終段階で所望のレベルの多孔性を得るために濃縮させるように現場で希釈され(組織内の均質な浸透に適応された粘度を有する)かつ濾過された負荷された懸濁液を導入することに基づく射出、浸出又は沈降タイプの方法も同様に存在する。このような方法は、特に、特許文献1(国際公開第2016/102839号)中に記載されている。
【0005】
しかしながら、3D又は2.5D製織組織の場合、繊維状組織の含侵は、形状が複雑であり組織の厚みが大きいことに起因して時間がかかり細心の注意を要するものである。したがって、負荷された懸濁液を繊維状組織に射出又は充填する段階は制御されず、これにより最終部品内に多孔性が存在することになる。
【0006】
したがって、これらの方法には、
好適な懸濁液の開発、
プリフォーム内部の流れのモデリング、
所与の幾何形状(特に射出及び濾過点の場所を伴う)及び付随する方法パラメータ(圧力、温度、持続時間、流速・・・)に特定的な特殊工具の開発に基づいて多大な開発研究作業を実施することが求められる。
【0007】
これらの実装制約条件は、開発及び実装コストに多大な影響を及ぼす。さらに、製造すべき部品の異なる幾何形状に適応する射出工具を設計するのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/102839号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述の欠点を克服し、3D又は2.5D繊維状組織に負荷された懸濁液を射出又は充填する段階をよりうまく制御して、企図された部品の異なる幾何形状に容易に適応できる一方でマクロ多孔率が非常に低い材料又は部品を得ることができるようにする解決法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため、本発明は、固体粒子粉末を含有する懸濁液を繊維状組織体積内へ射出することを含む、負荷された懸濁液を3次元又は多層製織を有する繊維状組織内に射出する方法において、負荷された懸濁液の射出が、負荷された懸濁液の供給装置と連通状態にある少なくとも1本の中空針を用いて実施され、各針が、繊維状組織内の1つ以上の規定の深さにおいて負荷された懸濁液を射出するために繊維状組織の第1の面と第2の反対側の面との間に延在する少なくとも1つの方向で移動可能であることを特徴とする方法を提供する。
【0011】
1本以上の針を使用することによって、繊維状組織のコア内に直接負荷された懸濁液を射出することが可能である。3D又は2.5Dの組織内での射出の持続時間及びその制御は、組織の厚みを局所的に横断しこの組織内で針を移動させるだけで充分であることから、従来の液体プロセス方法に比べて著しく改善される。
【0012】
さらに、本発明の方法では、負荷された懸濁液が各針において限られた量で射出されることから、圧力損失(及び組織の「フィルタ」効果)は極めてわずかしか存在しない。したがって、高レベルで粒子が負荷された懸濁液を射出すること、ひいては、1つの面から組織全体を通した浸透を可能にするために液相が優勢でなければならない先行の方法では概して必要とされる液相の排出ステップを抑制することが可能である。
【0013】
本発明の方法は同様に、幾何形状の如何に関わらず繊維状組織内への各針の進入深さ及び位置を調整することが可能であるため、幾何形状の変動に対する多大な適応性を有する。
【0014】
本発明の射出方法の特定の特徴によると、各中空針は好ましくは0.4mm~0.8mmの外径を有し、これにより、射出すべき懸濁液内に存在する固体充填材の寸法と適合性を有しながら、そのアーキテクチャ、特にその製織を混乱させることなく繊維状組織への進入が可能になる。
【0015】
本発明の射出方法の別の特定の特徴によると、中空針は好ましくは、繊維状組織内、特にストランド内、すなわちヤーン内空間への針の進入をさらに容易にするための斜切端部を有する。
【0016】
本発明の射出方法の別の特定の特徴によると、針は、繊維状組織の第1の面と第2の反対側の面との間を逐次的に移動させられ、針はこれら2つの面間の中間位置で停止させられており、各々の中間位置で組織内に規定用量の負荷された懸濁液が射出される。こうして、組織内への負荷された懸濁液の射出位置及びその送出量を局所的に制御することによって繊維状組織の均質な充填が保証される。
【0017】
本発明の射出方法のさらに別の特定の特徴によると、針は、繊維状組織の第1の面と第2の反対側の面との間で連続的に移動させられ、負荷された懸濁液は繊維状組織内に規定の流速で連続的に射出される。こうして、繊維状組織の漸進的かつ均質な充填が保証される。
【0018】
繊維状組織は、目標の繊維比に達するように負荷された懸濁液の射出の前又は後に圧密され得る。最初のケースでは、負荷された懸濁液の射出の間、繊維状組織は、針のための1つ以上の穴を少なくとも1つの面上に含む圧密工具内に設置される。
【0019】
本発明は同様に、複合材料製の部品を製造する方法において、
複数のヤーン間での3次元又は多層製織による繊維状組織の形成、
本発明に係る繊維状組織内への負荷された懸濁液の射出であって、負荷された懸濁液が、マトリックスの少なくとも1つの液体又は固体前駆物質を含んでいる、射出、
射出された繊維状組織の圧密、
前記少なくとも1つの前駆物質の、マトリックスへの変換、を含む方法にも関する。
【0020】
本発明の製造方法の特定の特徴によると、繊維状組織のヤーンは耐火セラミック繊維で形成されており、負荷された懸濁液はセラミックマトリックスの固体前駆物質として耐火セラミック粒子を含有しており、該方法は前記組織内で耐火セラミックマトリックスを形成するための繊維状組織内に存在する耐火セラミック粒子の熱処理を含む。
【0021】
繊維状組織のヤーンは、特に、ただし非排他的に、アルミナ、ムライト、シリカ、アルミノケイ酸塩、ホウケイ酸塩、炭化ケイ素及び炭素といった材料のうちの1つ以上で構成された繊維で形成され得る。
【0022】
耐火セラミック粒子は、特に、ただし非排他的に、アルミナ、ムライト、シリカ、アルミノケイ酸塩、アルミノリン酸塩、ジルコニア、炭化物、ホウ化物、及び窒化物の中から選択された材料でできていてよい。
【0023】
本発明の他の特徴及び利点は、添付図面を参照して、非限定的な実施例を用いて示されている本発明の特定の実施形態についての以下の説明から明らかとなるものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る射出工具の概略的断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る図1の射出工具を用いた、繊維状組織内への負荷された懸濁液の漸進的射出を示す。
図3】本発明の一実施形態に係る図1の射出工具を用いた、繊維状組織内への負荷された懸濁液の漸進的射出を示す。
図4】本発明の一実施形態に係る図1の射出工具を用いた、繊維状組織内への負荷された懸濁液の漸進的射出を示す。
図5】本発明の一実施形態に係る図1の射出工具を用いた、繊維状組織内への負荷された懸濁液の漸進的射出を示す。
図6】別の実施形態に係る圧密工具内に維持された繊維状組織内への負荷された懸濁液の射出を示す概略的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の射出方法は、3次元(3D)又は多層(2.5D)製織により得られる繊維状組織内、すなわち、組織の厚み全体を通した負荷された懸濁液の均質な浸透を阻む組織の「フィルタ」効果に起因して、例えば「RTM」と呼ばれる射出成形又は「SPA」と呼ばれるサブミクロン粉末吸引などの先行技術の方法で懸濁された固体粒子を導入し均質に分布させることが困難である複雑な幾何形状を有する組織内への負荷された懸濁液の射出に適用される。
【0026】
繊維状組織は、経糸の束つまりストランドが上に複数の層の形で配置され、ここで経糸は緯糸により結び付けられ逆もまた同様であるジャカードタイプの繊維を用いた製織により公知の方法で達成される。以上で記した通り繊維状組織は、3次元(3D)又は多層(2.5D)製織によって達成される。
【0027】
「3次元製織」又は「3D製織」さらに「多層製織」又は「2.5D製織」とは、ここでは、特にインタロック、マルチキャンバス、マルチサテン及びマルチツイルなどの織りのうちの1つから選択されてよい製織パターンに対応する製織にしたがって緯糸の少なくともいくつかが経糸の数個の層上の経糸を結び付け、その逆も同様である製織モードを意味する。
【0028】
「インタロック織り又は織物」とはここでは、同じ経糸縦列の全てのヤーンがその織物の平面内で同じ動きを有している状態で、経糸の各層が緯糸の数個の層を結び付けている3D製織パターンを意味する。2.5D製織の場合には、重ね合わされた層間の結び付きが経糸によって保証されている多層織物の形をしている「インタロック経糸」である。使用される製織技法は、3D製織とは異なりその間杼口の開口が一方向である経糸及び緯糸織機上の多重経糸製織の1つである。
【0029】
「マルチキャンバス織り又は織物」とは、ここでは、各層の基本的織りが従来のキャンバスタイプの織りと同等であるものの、織りのいくつかの点が緯糸の層を共に結び付けている、数個の緯糸層を伴う3D製織を意味する。
【0030】
「マルチサテン織り又は織物」とは、ここでは、各層の基本的織りが従来のサテンタイプの織りと同等であるものの、織りのいくつかの点が緯糸の層を共に結び付けている、数個の緯糸層を伴う3D製織を意味する。
【0031】
「マルチツイル織り又は織物」とは、ここでは、各層の基本的織りが従来のツイルタイプの織りと同等であるものの、織りのいくつかの点が緯糸層を共に結び付けている、数個の緯糸層を伴う3D製織を意味する。
【0032】
本発明の射出方法は、特に、ただし非排他的に、酸化物/酸化物複合材料又はセラミックマトリックス複合(CMC)材料、すなわち、同様に耐火セラミック材料製のマトリックスによって高密度化された耐火セラミック材料製の繊維から形成された繊維強化材を含む材料でできた部品の生産に適用される。
【0033】
複合材料製の部品の繊維強化材を形成するように意図された繊維状組織を製織するのに使用されるヤーンは、特にアルミナ、ムライト、シリカ、アルミノケイ酸塩、ホウケイ酸塩、炭化ケイ素、炭素又はこれらの材料のうちの複数のものの混合物といった材料のうちの1つで構成された繊維で形成され得る。繊維状組織内に射出すべき懸濁液中に存在する固体粒子は、特に、アルミナ、ムライト、シリカ、アルミノケイ酸塩、アルミノリン酸塩、炭化物、ホウ化物、窒化物及びこのような材料の混合物から選択された材料で構成され得る。
【0034】
図1は、本発明の一実施形態に係る負荷された懸濁液を射出する方法の開始を例示している。3D又は2.5D製織によって得られる繊維状組織10が、射出工具100に面する露呈面10aを提示するように支持プレート20上に設置される。射出工具100は、図1に示されている二方向Dvに沿って移動することのできるケーシング110を含む。ケーシング110の下縁部110bは、ケーシング110の内部でケーシングの下縁部110bとピストン140によって境界画定されている射出チャンバ130と連通状態にある複数の中空針120を含む。負荷された懸濁液150がポート131を通って射出チャンバ130内に導入される。各中空針120は好ましくは、斜切され0.4mm~0.8mmの直径d120を有する一方の端部121を含む。ここで説明されている実施例において、中空針120の位置、より厳密には繊維状組織内のこれらの中空針の位置は、二方向Dvに沿ったケーシング110の変位によって制御される。
【0035】
図2に例示されているように、射出は、支持プレート20と接触した状態で繊維状組織10の下部面10bに可能なかぎり近くに中空針120の端部121を位置付けることで始まり、この後、繊維状組織10内の規定の厚み全体にわたる第1の量の負荷された懸濁液150の射出を可能にするピストン140の始動によって、組織10内に懸濁液が射出される。繊維状組織10内への負荷された懸濁液150の射出は、組織の下部面10bから繊維状組織10の上部面10aの近傍まで中空針120の端部121を移動させて、繊維状組織の厚み全体を通して繊維状組織に負荷された懸濁液150を充填することによって、図3~5に例示されている通りに続行する。
【0036】
繊維状組織10内への負荷された懸濁液150の射出は、2つの方法で実施可能である。負荷された懸濁液150は、繊維状組織10の2つの相対する面10b及び10aの間、すなわち図2に例示された位置から図5に例示された位置まで、針が漸進的に移動させられている間、連続的に射出され得る。同様に、負荷された懸濁液150を逐次的に射出することも可能である。この場合、針は、繊維状組織10の2つの相対する面10b及び10aの間を逐次的に移動させられ、針は、ここでは図2~5に例示された位置に対応するこれら2つの面の間の中間位置で停止させられ、規定用量の負荷された懸濁液が、各々の中間位置において組織内に射出される。
【0037】
負荷された懸濁液は、繊維状組織内にその圧密の前に射出され得、この圧密は、特に目標繊維比に到達するためにその後実施される。同様に、図6に例示されているように、繊維状組織がすでに圧密されている間に、この繊維状組織内に負荷された懸濁液を射出することもできる。図6では、3D又は2.5D製織された繊維状組織30が、これに対して規定の圧密速度で適用できる圧密工具300の中に維持されている。工具300は、射出工具400に面するその面300aの上に、射出工具の針420の通過を可能にするように意図された複数の穿孔310を含む。射出工具400は、上述の射出工具100と類似のものである。すなわちこれは、図6に標示されているように、二方向Dvに沿って移動することができる。ケーシング410の下縁部410bは、ケーシング410の内部でケーシングの下縁部410b及びピストン440によって境界画定されている射出チャンバ430と連通状態にある複数の中空針420を含む。負荷された懸濁液450がポート431を通して射出チャンバ430内に導入される。各中空針420は好ましくは、斜切され0.4mm~0.8mmの直径を有する一方の端部421を含む。
【0038】
繊維状組織30内への負荷された懸濁液450の射出は、図2~5に関連して以上ですでに説明された通りに、すなわち組織の下部面30bから繊維状組織30の上部面30aの近傍まで中空針420の端部421を移動させ、こうして繊維状組織の厚み全体にわたって負荷された懸濁液を繊維状組織に充填することによって実施される。繊維状組織30内への負荷された懸濁液450の射出は、連続的に又は逐次的に実施可能である。
【0039】
上述の実施例において、負荷された懸濁液の射出は、組織の寸法のうちの1つ、例えばその幅と整列させられた同じ横列に沿って延在する複数の中空針を用いて実施される。この場合、繊維状組織の厚み全体を通した各々の射出の後、針は、負荷された懸濁液の局所的射出で組織全体を網羅するため規定のピッチにしたがって組織の長さ方向に移動させられる。一変形実施形態によると、射出工具は、繊維状組織の幅方向及び長さ方向の両方に延在する中空針のマトリックスを含むことができ、針のマトリックスは、それが繊維状組織の露呈された全表面を網羅していない場合、組織の幅及び/又は長さの方向に移動させることができる。
【0040】
別の変形実施形態によると、射出方法は、繊維状組織の体積全体を通して負荷された懸濁液を射出するため繊維状組織との関係において異なる方向に移動させられる単一の針を伴って実装される。
【0041】
ひとたび繊維状組織に負荷された懸濁液が射出されたならば、この負荷された懸濁液は、場合によって規定の繊維比を得ることができるようにする圧密比にしたがって圧密されることによって整形される。
【0042】
特に水溶液の場合がそうであるように、懸濁液の液相がマトリックス前駆物質に対応しない場合、先行技術の方法とは異なり、プリフォームからそれを除去する必要はない。実際、1本以上の中空針を用いた組織のコア内への負荷された懸濁液の射出によって、高い粘度を有する懸濁液、すなわち固体充填材の割合に比べて小さい割合の液相を含む懸濁液を使用することが可能となっている。本発明によると、射出成形(RTM)又はサブミクロン粉末吸引(SPA)タイプの方法などの先行技術の射出方法については多くても400mPa・sにすぎないのに対して、10,000mPa・sに達し得る粘度を有する負荷された懸濁液を実装することが可能になる。実際には、このことはすなわち、最高85質量%の充填材の質量分率を含有する懸濁液の実装が可能であることを意味している。本発明の方法は、このような濃縮された懸濁液を実装できることから、懸濁液の射出作業の持続時間は極めて著しく短縮される。この場合、少量の液相は、固体充填材をマトリックスへと変換するための熱処理の間に自然に除去される。しかしながら、必要な場合には、固体充填材の変換の前にプリフォームを乾燥させることができる。
【0043】
その後、プリフォームは、射出された負荷された懸濁液内に存在するマトリックス前駆物質を変換させるため熱処理に付される。
【0044】
酸化物/酸化物又はCMC複合材料製の部品を生産する場合、熱処理は、固体粒子を焼結させてプリフォーム内にマトリックスを形成することからなる。
【0045】
本発明は、酸化物/酸化物又はCMC複合材料製の部品の生産に限定されるものではない。本発明は同様に、有機マトリックス複合材料製の部品の製造にも適用され得、この場合マトリックスには固体粒子が負荷される。一例として、繊維状構造は、炭素ヤーン間の3D又は2.5D製織により達成され得、本発明の方法にしたがって、エポキシタイプの樹脂及び黒色炭素、炭化物又は酸化物で構成される固体充填材を含む負荷された懸濁液をこの構造に射出することができる。この場合、マトリックス前駆物質を変換させるための熱処理は、樹脂を重合させることからなる。
【0046】
本発明に係る方法を実装するためのテストが実施された。これは、ヤーン8本/cmのスレッド計数でNextel 610(商標)のアルミナヤーンをインタロック製織することによって得られる繊維状組織に射出を行なうことからなる。射出対象組織の寸法は、長さ120mm、幅100mm、厚み5mmであり、負荷された懸濁液は、SM8という名称でBaikowski社により市販されているアルファアルミナ粉末(D50=およそ0.3μm)60質量%と、モノリン酸アルミニウムAl(HPO50%を伴う水溶液40質量%とを含む。
【0047】
負荷された懸濁液は、直径0.8mmで斜切端部を有する単一の中空針で射出され、針は、射出用シリンジに連結されている。各々の射出位置において、針は、懸濁液を連続的に射出しながら、6cm/分の速度で繊維状組織の厚みを通って漸進的に移動させられる(組織の2つの相対する面の間の針の漸進的引抜き)。針による射出点を拡大することで組織全体に射出が行われ、この針は、組織の2つの寸法(幅及び長さ)において各射出位置間1cmを1ピッチとして移動させられている。上述の条件下での組織の体積全体における射出は、10分以内で実施された。比較すると、射出成形(RTM)又はサブミクロン粉末吸引(SPA)タイプの方法などの先行技術の射出方法を用いたこの組織の同じ射出には数時間が必要である。
【0048】
ひとたび射出が完了すると、組織の成形が、0.5MPa(5バール)の圧力下で350℃の温度で実施される。その後、アルミナ粒子を焼結させるための熱処理が、周囲雰囲気下において850℃で実施される。
【0049】
45%の繊維体積比及び24%の多孔比を有する酸化物/酸化物複合材料製の部品が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6