(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】がんを処置するためのクローディン18.2に対する抗体を伴う併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230106BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20230106BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20230106BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20230106BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20230106BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20230106BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20230106BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230106BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230106BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20230106BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230106BHJP
【FI】
A61K39/395 E ZNA
A61K31/282
A61K31/337
A61K31/4745
A61K31/513
A61K31/519
A61K31/704
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P43/00 105
C07K16/30
C12N15/13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021015688
(22)【出願日】2021-02-03
(62)【分割の表示】P 2019034057の分割
【原出願日】2013-05-21
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2012/002211
(32)【優先日】2012-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(73)【特許権者】
【識別番号】514243531
【氏名又は名称】トロン-トランスラティオナレ・オンコロギー・アン・デア・ウニヴェルシテートスメディツィーン・デア・ヨハネス・グーテンベルク-ウニヴェルシテート・マインツ・ゲマインニュッツィゲ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ウグール・シャヒン
(72)【発明者】
【氏名】ウツレム・テューレチ
(72)【発明者】
【氏名】リタ・ミットナハト-クラウス
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・デニス・ヤコブス
(72)【発明者】
【氏名】マグダレナ・ヤドヴィガ・ウッシュ
(72)【発明者】
【氏名】コルネリア・アドリアナ・マリア・ハインツ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアーネ・レジーナ・シュタッドラー
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特許第6833885(JP,B2)
【文献】特許第6490764(JP,B2)
【文献】特許第6203831(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61K 31/282
A61K 31/337
A61K 31/4745
A61K 31/513
A61K 31/519
A61K 31/704
A61P 35/00
A61P 43/00
C07K 16/30
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クローディン18スプライスバリアント2(CLDN18.2)の発現を安定化または増大させる作用物質との併用療法において、がん疾患を処置または予防するための医薬の調製のための、CLDN18.2に特異的に結合する能力を有する抗体の使用であって、
前記抗体は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)または補体依存性細胞傷害(CDC)によって、CLDN18.2を発現する細胞を殺傷することができ、
CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質が、
(i)オキサリプラチン、および、5-フルオロウラシル、
(ii)エピルビシン、オキサリプラチン、および、5-フルオロウラシル、
(iii)5-フルオロウラシル、フォリン酸、および、オキサリプラチン、
(iv)イリノテカン、
(v)ドセタキセル、
(vi)エピルビシン、
(vii)オキサリプラチン、
(viii)シスプラチン、ならびに、
(ix)5-フルオロウラシル、
ならびにそれらのプロドラッグ
からなる群から選択される、使用。
【請求項2】
抗体との併用療法において、がん疾患を処置または予防するための医薬の調製のための、作用物質の使用であって、
前記抗体は、クローディン18スプライスバリアント2(CLDN18.2)に特異的に結合する能力を有する抗体であり、前記抗体は、ADCCまたはCDCによって、CLDN18.2を発現する細胞を殺傷することができ、
前記作用物質が、
(i)オキサリプラチン、および、5-フルオロウラシル、
(ii)エピルビシン、オキサリプラチン、および、5-フルオロウラシル、
(iii)5-フルオロウラシル、フォリン酸、および、オキサリプラチン、
(iv)イリノテカン、
(v)ドセタキセル、
(vi)エピルビシン、
(vii)オキサリプラチン
、
(viii)シスプラチン、
ならびに、
(ix)5-フルオロウラシル、
ならびにそれらのプロドラッグ
からなる群から選択される、CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質である、使用。
【請求項3】
CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、抗体、または、CDRに改変を有するそのバリアントであり、前記抗体は、以下の(i)~(
ix)
の態様から選択される相補性決定領域CDR1、CDR2、およびCDR3のセットをそれぞれ含むVHおよびVLの組合わせを含む、請求項1または2に記載の使用。
(i)VH:CDR1:配列番号14の45位~52位、CDR2:配列番号14の70位~77位、CDR3:配列番号14の116位~125位、VL:CDR1:配列番号21の49位~53位、CDR2:配列番号21の71位~73位、CDR3:配列番号21の110位~118位、
(ii)VH:CDR1:配列番号15の45位~52位、CDR2:配列番号15の70位~77位、CDR3:配列番号15の116位~126位、VL:CDR1:配列番号20の47位~58位、CDR2:配列番号20の76位~78位、CDR3:配列番号20の115位~123位、
(iii)VH:CDR1:配列番号16の45位~52位、CDR2:配列番号16の70位~77位、CDR3:配列番号16の116位~124位、VL:CDR1:配列番号22の47位~52位、CDR2:配列番号22の70位~72位、CDR3:配列番号22の109位~117位、
(iv)VH:CDR1:配列番号18の44位~51位、CDR2:配列番号18の69位~76位、CDR3:配列番号18の115位~125位、VL:CDR1:配列番号25の47位~58位、CDR2:配列番号25の76位~78位、CDR3:配列番号25の115位~122位、
(v)VH:CDR1:配列番号17の45位~52位、CDR2:配列番号17の70位~77位、CDR3:配列番号17の116位~126位、VL:CDR1:配列番号24の47位~58位、CDR2:配列番号24の76位~78位、CDR3:配列番号24の115位~123位、
(vi)VH:CDR1:配列番号19の45位~53位、CDR2:配列番号19の71位~78位、CDR3:配列番号19の117位~128位、VL:CDR1:配列番号23の47位~58位、CDR2:配列番号23の76位~78位、CDR3:配列番号23の115位~123位、
(vii)VH:CDR1:配列番号19の45位~53位、CDR2:配列番号19の71位~78位、CDR3:配列番号19の117位~128位、VL:CDR1:配列番号26の47位~58位、CDR2:配列番号26の76位~78位、CDR3:配列番号26の115位~123位、
(viii)VH:CDR1:配列番号19の45位~53位、CDR2:配列番号19の71位~78位、CDR3:配列番号19の117位~128位、VL:CDR1:配列番号27の47位~58位、CDR2:配列番号27の76位~78位、CDR3:配列番号27の115位~123位、ならびに、
(ix)VH:CDR1:配列番号19の45位~53位、CDR2:配列番号19の71位~78位、CDR3:配列番号19の117位~128位、VL:CDR1:配列番号28の47位~52位、CDR2:配列番号28の70位~72位、CDR3:配列番号28の109位~117位
【請求項4】
前記改変が、前記CDRにおいて1-5個の置換を含む、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記併用療法が、最大1000mg/m
2の用量で、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体を投与する工程を含む、請求項1から
4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記併用療法が、300~600mg/m
2の用量で、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体を繰り返して投与する工程を含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記がんがCLDN18.2陽性である、請求項1から
6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記がんが、腺癌、特に、進行した腺癌である、請求項1から
7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記がんが、胃のがん、食道、特に、下部食道のがん、食道胃接合部のがん、および胃食道がんからなる群から選択される、請求項1から
8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
患者が、HER2/neu陰性患者、またはHER2/neu陽性状態を有するがトラスツズマブ療法に適格でない患者である、請求項1から
9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
CLDN18.2が、配列番号1によるアミノ酸配列を有する、請求項1から
10のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
胃および食道(胃食道;GE)のがんは、未だ対処されていない医療上の最も高い必要性を有する悪性腫瘍の1つである。胃がんは、世界中のがん死の第2の主要原因である。食道がんの発生率は、組織型および原発性腫瘍位置のシフトと一致して、最近の10年で増大している。米国および西欧において、食道の腺癌は、現在、扁平上皮癌より蔓延しており、ほとんどの腫瘍は、食道下部に位置している。GEがんの5年全生存率は、実質的な副作用を伴う確立された標準的処置の積極性にもかかわらず、20~25%である。
【背景技術】
【0002】
患者の大部分は、局所的に進行した疾患または転移性疾患を提示し、初回化学療法に付されなければならない。治療レジメンは、ほとんどが第3の化合物(例えば、タキサンまたはアントラサイクリン)と組み合わされた白金誘導体およびフルオロピリミジン誘導体というバックボーンに基づく。それでもなお、5~7カ月の無増悪生存期間中央値および9~11カ月の全生存期間中央値が予期され得る最良である。
【0003】
これらのがんに対する様々なより新しい世代の組合せ化学療法レジメンからの大きなメリットがないことは、標的化剤の使用についての研究を刺激した。最近、Her2/neu陽性胃食道がんに関して、トラスツズマブが認可された。しかし、患者の約20%のみがこの標的を発現し、この処置に適格であるので、医療上の必要性は、依然として高い。
【0004】
タイトジャンクション分子クローディン18スプライスバリアント2(クローディン18.2(CLDN18.2))は、タイトジャンクションタンパク質のクローディンファミリーのメンバーである。CLDN18.2は、2つの小細胞外ループとともに4つの膜スパニングドメインを含む27.8kDaの膜貫通タンパク質である。
【0005】
正常組織では、胃を例外として、RT-PCRによるCLDN18.2の検出可能な発現はまったくない。CLDN18.2特異的抗体を用いた免疫組織化学検査は、胃を唯一の陽性組織として明らかにする。
【0006】
CLDN18.2は、短命の分化した胃上皮細胞上でもっぱら発現される高度に選択的な胃の系統抗原である。CLDN18.2は、悪性形質転換の過程で維持され、したがって、ヒト胃がん細胞の表面上にしばしばディスプレイされる。さらに、この汎腫瘍抗原は、食道、膵臓、および肺の腺癌においてかなりのレベルで異所性に活性化されている。CLDN18.2タンパク質は、胃がん腺癌のリンパ節転移、および特に卵巣内への遠位転移(いわゆるクルーケンベルク腫瘍)においても局在化している。
【0007】
CLDN18.2に向けられたキメラIgG1抗体IMAB362が、Ganymed Pharmaceuticals AGによって開発された。IMAB362は、高い親和性および特異性でCLDN18.2の第1の細胞外ドメイン(ECD1)を認識する。IMAB362は、クローディン18の密接に関係したスプライスバリアント1(CLDN18.1)を含めた任意の他のクローディンファミリーメンバーに結合しない。IMAB362は、正確な腫瘍細胞特異性を示し、4つの独立した高度に強力な作用機序を束ねる。標的に結合すると、IMAB362は、ADCC、CDC、および腫瘍細胞表面で標的を架橋し、増殖を直接阻害することによって誘導されるアポトーシス誘導によって細胞殺傷を媒介する。したがって、IMAB362は、in vitroおよびin vivoで、ヒト胃がん細胞株を含めて、CLDN18.2陽性細胞を効率的に溶解する。CLDN18.2陽性がん細胞株を持つマウスは、生存利益を有し、IMAB362で処置されたとき、マウスの最大40%がその腫瘍の退縮を示す。
【0008】
IMAB362の毒性およびPK/TKプロファイルは、用量範囲発見試験、カニクイザルにおける28日間反復投与毒性試験、およびマウスにおける3カ月間反復投与毒性試験を含めてマウスおよびカニクイザルにおいて完全に検査されている。マウス(3カ月間の最長処置継続時間毎週投与、最高用量レベル400mg/kg)およびカニクイザル(最大100mg/kgの最大週5回の適用)の両方において、IMAB362 i.v.の反復投与は、耐容性良好である。全身性毒性または局所的毒性の徴候はまったく誘導されない。具体的には、胃毒性は、いずれの毒性試験においてもまったく観察されていない。IMAB362は、免疫活性化およびサイトカイン放出を誘導しない。男性または女性の生殖器に対する有害作用は、まったく記録されなかった。IMAB362は、標的を欠く組織に結合しない。マウスにおける生体内分布試験は、胃毒性の欠如の理由が、健康な胃上皮中の管腔部位におけるタイトジャンクションの区画化である可能性が最も高く、それにより、IMAB362エピトープのアクセシビリティが大いに損なわれると思われることを示す。この区画化は、IMAB362によってエピトープを薬物性にする悪性形質転換の際に失われる。
【0009】
IMAB362は、初期の臨床試験中にある。第I相臨床試験がヒトにおいて行われている。それぞれ3患者の5用量コホート(33mg/m2、100mg/m2、300mg/m2、600mg/m2、1000mg/m2)が、IMAB362の単回静脈内投与を受け、28日間観察された。IMAB362は、非常に耐容性良好であり、患者における関連した安全性の知見をまったく伴わなかった。1人の患者において、すべての測定した腫瘍マーカーが、処置後4週間以内に有意に減少した。進行中の第IIa相臨床試験では、IMAB362が繰り返し与えられる。
【0010】
本明細書に提示のデータは、ゾレドロン酸(ZA)などのビスホスホネートは、特に、組換えインターロイキン-2(IL-2)と併せて投与される場合、IMAB362などの抗CLDN18.2抗体の活性を増強することを示す。基本的な機構は、高度に細胞傷害性の免疫細胞集団(γ9δ2T細胞)の活性化および拡大である。
【0011】
さらに、ここで本発明者らは、化学療法剤は、がん細胞の表面上のCLDN18.2の発現を安定化または増大させることができ、IMAB362などの抗CLDN18.2抗体によってCLDN18.2の薬物らしさが増強されることを実証するデータを提示する。IMAB362などの抗CLDN18.2抗体の、特定の化学療法剤レジメン、特に、胃がん処置またはヒト固形がんの処置に使用される化学療法剤レジメンとの相乗効果が観察された。化学療法で予め処置されたヒトがん細胞は、抗体誘導標的特異的殺傷により感受性である。マウス腫瘍モデルでは、抗CLDN18.2抗体と化学療法を用いる腫瘍制御は、単剤として抗CLDN18.2抗体を用いるものより優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】US2003/0118592
【文献】US2003/0133939
【文献】WO02/43478
【文献】WO2004 035607
【文献】WO87/04462
【文献】WO89/01036
【文献】EP338841
【非特許文献】
【0013】
【文献】「A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)」、H.G.W. Leuenberger、B. Nagel
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【文献】「Epitope Mapping Protocols」(Methods in Molecular Biology)、Glenn E. Morris、ISBN-089603-375-9
【文献】「Epitope Mapping: A Practical Approach」Practical Approach Series、248、Olwyn M. R. Westwood、Frank C. Hay.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は一般に、がん疾患、例えば、胃がん、食道がん、膵がん、非小細胞肺がん(NSCLC)などの肺がん、卵巣がん、大腸がん、肝がん、頭頸部がん、および胆嚢のがん、ならびにこれらの転移、特に、胃がん転移、例えば、クルーケンベルク腫瘍、腹膜転移、およびリンパ節転移を含めた、CLDN18.2を発現する細胞と関連した疾患を有効に処置および/または予防するための併用療法を提供する。特に好適ながん疾患は、胃、食道、膵管、胆管、肺、および卵巣の腺癌である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一態様では、本発明は、がん疾患を処置または予防する方法であって、γδT細胞を刺激する作用物質と組み合わせて、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体を患者に投与する工程を含む、方法を提供する。γδT細胞を刺激する作用物質は、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体の投与の前、同時、もしくは後、またはこれらの組合せで投与することができる。
【0016】
一実施形態では、γδT細胞は、Vγ9Vδ2T細胞である。一実施形態では、γδT細胞を刺激する作用物質は、窒素含有ビスホスホネート(アミノビスホスホネート)などのビスホスホネートである。一実施形態では、γδT細胞を刺激する作用物質は、ゾレドロン酸、クロドロン酸、イバンドロン酸、パミドロン酸、リセドロン酸、ミノドロン酸、オルパドロン酸、アレンドロン酸、インカドロン酸、およびこれらの塩からなる群から選択される。一実施形態では、γδT細胞を刺激する作用物質は、インターロイキン-2と組み合わせて投与される。
【0017】
一実施形態では、本発明の方法は、CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質を投与する工程をさらに含む。CLDN18.2の発現は、好ましくはがん細胞の細胞表面におけるものである。
【0018】
CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質は、細胞傷害性剤および/または細胞増殖抑制剤であり得る。一実施形態では、CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質は、細胞周期の1つまたは複数の期において、好ましくは、G1期以外の細胞周期の1つまたは複数の期において細胞周期停止または細胞の蓄積を誘導する作用物質を含む。CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質は、アントラサイクリン、白金化合物、ヌクレオシド類似体、タキサン、およびカンプトテシン類似体、またはこれらのプロドラッグ、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される作用物質を含み得る。CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質は、エピルビシン、オキサリプラチン、シスプラチン、5-フルオロウラシルまたはそのプロドラッグ、例えば、カペシタビン、ドセタキセル、イリノテカン、およびこれらの組合せからなる群から選択される作用物質を含み得る。CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質は、オキサリプラチンおよび5-フルオロウラシルもしくはそのプロドラッグの組合せ、シスプラチンおよび5-フルオロウラシルもしくはそのプロドラッグの組合せ、少なくとも1種のアントラサイクリンおよびオキサリプラチンの組合せ、少なくとも1種のアントラサイクリンおよびシスプラチンの組合せ、少なくとも1種のアントラサイクリンおよび5-フルオロウラシルもしくはそのプロドラッグの組合せ、少なくとも1種のタキサンおよびオキサリプラチンの組合せ、少なくとも1種のタキサンおよびシスプラチンの組合せ、少なくとも1種のタキサンおよび5-フルオロウラシルもしくはそのプロドラッグの組合せ、または少なくとも1種のカンプトテシン類似体および5-フルオロウラシルまたはそのプロドラッグの組合せを含み得る。CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質は、免疫原性細胞死を誘導する作用物質であり得る。免疫原性細胞死を誘導する作用物質は、アントラサイクリン、オキサリプラチン、およびこれらの組合せからなる群から選択される作用物質を含み得る。CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質は、エピルビシンおよびオキサリプラチンの組合せを含み得る。一実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1種のアントラサイクリン、少なくと
も1種の白金化合物、ならびに5-フルオロウラシルおよびそのプロドラッグの少なくとも1種を投与する工程を含む。アントラサイクリンは、エピルビシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、およびバルルビシンからなる群から選択することができる。好ましくは、アントラサイクリンは、エピルビシンである。白金化合物は、オキサリプラチンおよびシスプラチンからなる群から選択することができる。ヌクレオシド類似体は、5-フルオロウラシルおよびそのプロドラッグからなる群から選択することができる。タキサンは、ドセタキセルおよびパクリタキセルからなる群から選択することができる。カンプトテシン類似体は、イリノテカンおよびトポテカンからなる群から選択することができる。一実施形態では、本発明の方法は、(i)エピルビシン、オキサリプラチン、および5-フルオロウラシル、(ii)エピルビシン、オキサリプラチン、およびカペシタビン、(iii)エピルビシン、シスプラチン、および5-フルオロウラシル、(iv)エピルビシン、シスプラチン、およびカペシタビン、または(v)フォリン酸、オキサリプラチン、および5-フルオロウラシルを投与する工程を含む。
【0019】
本発明の方法は、細胞傷害性剤であり得る少なくとも1種のさらなる化学療法剤を投与する工程をさらに含み得る。
【0020】
CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、生細胞の表面上に存在するCLDN18.2の天然エピトープに結合することができる。一実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、CLDN18.2の第1の細胞外ループに結合する。一実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)媒介溶解、抗体依存性細胞傷害(ADCC)媒介溶解、アポトーシスの誘導、および増殖の阻害の1つまたは複数によって細胞殺傷を媒介する。一実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、もしくはヒト化抗体、または抗体の断片である。一実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、受託番号DSM ACC2737、DSM ACC2738、DSM ACC2739、DSM ACC2740、DSM ACC2741、DSM ACC2742、DSM ACC2743、DSM ACC2745、DSM ACC2746、DSM ACC2747、DSM ACC2748、DSM ACC2808、DSM ACC2809、またはDSM ACC2810の下で寄託されたクローンによって産生され、かつ/またはそのクローンから得られる抗体、(ii)(i)に属する抗体のキメラ化形態またはヒト化形態である抗体、(iii)(i)に属する抗体の特異性を有する抗体、および(iv)(i)に属し、かつ好ましくは(i)に属する抗体の特異性を有する抗体の抗原結合性部分または抗原結合性部位、特に可変領域を含む抗体からなる群から選択される抗体である。一実施形態では、抗体は、治療剤、例えば、毒素、放射性同位体、薬物、または細胞傷害性剤にカップリングされている。
【0021】
一実施形態では、本発明の方法は、最大1000mg/m2の用量で、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体を投与する工程を含む。一実施形態では、本発明の方法は、300~600mg/m2の用量で、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体を繰り返して投与する工程を含む。
【0022】
一実施形態では、がんは、CLDN18.2陽性である。一実施形態では、がん疾患は、胃がん、食道がん、膵がん、肺がん、卵巣がん、大腸がん、肝がん、頭頸部がん、胆嚢のがん、およびこれらの転移からなる群から選択される。がん疾患は、クルーケンベルク腫瘍、腹膜転移、および/またはリンパ節転移であり得る。一実施形態では、がんは、腺癌、特に、進行した腺癌である。一実施形態では、がんは、胃のがん、食道、特に、下部食道のがん、食道胃(eso-gastric)接合部のがん、および胃食道がんからなる群から選択される。患者は、HER2/neu陰性患者、またはHER2/neu陽性状態を有するがトラスツズマブ療法に適格でない患者であり得る。
【0023】
本発明によれば、CLDN18.2は、好ましくは、配列番号1によるアミノ酸配列を有する。
【0024】
さらなる態様では、本発明は、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体およびγδT細胞を刺激する作用物質を含む医薬製剤を提供する。本発明の医薬製剤は、CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質をさらに含み得る。CLDN18.2に結合する能力を有する抗体およびγδT細胞を刺激する作用物質、ならびに任意選択のCLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質は、混合物で、または互いに別個に医薬製剤中に存在することができる。医薬製剤は、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体を含む第1の容器、およびγδT細胞を刺激する作用物質を含む容器、ならびに任意選択で、CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質を含む容器を含むキットであり得る。医薬製剤は、がんの処置用製剤を使用するため、特に、本発明の方法で製剤を使用するための印刷された指示書をさらに含み得る。医薬製剤、および特に、γδT細胞を刺激する作用物質およびCLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質の異なる実施形態は、本発明の方法について上述した通りである。
【0025】
本発明は、本明細書に記載の方法で使用するため、例えば、γδT細胞を刺激する作用物質、および任意選択でCLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質と組み合わせて投与するための、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体などの本明細書に記載の作用物質も提供する。
【0026】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1-1】胃がん細胞に対する化学療法の効果を示すグラフである。KatoIII細胞を96時間培養すると、G0/G1期で細胞周期が停止し、CLDN18.2が下方調節される。細胞周期の異なる期(S期(5-FU)またはG2期(エピルビシン))での細胞周期停止をもたらす細胞分裂停止化合物により、CLDN18.2発現を安定化させる。
【
図1-2】胃がん細胞に対する化学療法の効果を示すグラフである。KatoIII細胞を96時間培養すると、G0/G1期で細胞周期が停止し、CLDN18.2が下方調節される。細胞周期の異なる期(S期(5-FU)またはG2期(エピルビシン))での細胞周期停止をもたらす細胞分裂停止化合物により、CLDN18.2発現を安定化させる。
【
図2-1】胃がん細胞に対する化学療法の効果を示すグラフと図である。a/b:胃がん細胞におけるCLDN18.2の転写物およびタンパク質レベルに対する化学療法の効果。c:化学療法剤で処置された胃がん細胞上で結合している細胞外IMAB362のフローサイトメトリー。
【
図2-2】胃がん細胞に対する化学療法の効果を示すグラフと図である。a/b:胃がん細胞におけるCLDN18.2の転写物およびタンパク質レベルに対する化学療法の効果。c:化学療法剤で処置された胃がん細胞上で結合している細胞外IMAB362のフローサイトメトリー。
【
図3】胃がん細胞に対する化学療法の効果を示すグラフである。細胞分裂停止化合物は細胞周期の異なる期(S/G2期(イリノテカン)またはG2期(ドセタキセル)での細胞周期停止をもたらす。
【
図4】化学療法薬での前処置後の胃がん細胞のIMAB362誘導ADCC媒介殺傷を示すグラフである。
【
図5-1】胃がん細胞に対する化学療法の効果を示すグラフである。a:イリノテカン、ドセタキセルまたはシスプラチンで処置された細胞は、培地培養された標的細胞と比べるとより低いレベルの生存細胞を示す。b:イリノテカン、ドセタキセルまたはシスプラチンで処置された細胞におけるCLDN18.2発現は、培地培養された細胞と比べると増大している。c/d:イリノテカン、ドセタキセルまたはシスプラチンでの細胞の処置により、ADCCを誘導するIMAB362の効能が増大する。
【
図5-2】胃がん細胞に対する化学療法の効果を示すグラフである。a:イリノテカン、ドセタキセルまたはシスプラチンで処置された細胞は、培地培養された標的細胞と比べるとより低いレベルの生存細胞を示す。b:イリノテカン、ドセタキセルまたはシスプラチンで処置された細胞におけるCLDN18.2発現は、培地培養された細胞と比べると増大している。c/d:イリノテカン、ドセタキセルまたはシスプラチンでの細胞の処置により、ADCCを誘導するIMAB362の効能が増大する。
【
図6】IMAB362誘導CDCに対する化学療法の効果を示すグラフである。
【
図7】エフェクター細胞に対する化学療法の効果を示すグラフである。
【
図8】ZA/IL-2補充された培養物におけるPBMCの拡大を示すグラフである。
【
図9】ZA/IL-2補充されたPBMC培養物におけるVγ9Vδ2 T細胞の濃縮を示すグラフである。
【
図10】ZAおよび増加するIL-2用量を補充された培地におけるVγ9Vδ2 T細胞の濃縮を示すグラフである。
【
図11】ZAパルス単球とヒトがん細胞との共インキュベーションした場合のVγ9Vδ2 T細胞の拡大および細胞傷害活性を示すグラフである。
【
図12】PBMC培養物における異なる細胞型のZA依存性発生を示すグラフである。
【
図13】ZA/IL-2処置後のVγ9Vδ2 T細胞上の表面マーカーの提示を示すグラフである。
【
図14】CLDN18.2陽性NUGC-4胃がん細胞上のIMAB362を有するVγ9Vδ2 T細胞のADCC活性を示すグラフである。
【
図15】エフェクター細胞としてVγ9Vδ2 T細胞を使用するIMAB362のADCCを示すグラフである。
【
図16】標的細胞上のCLDN18.2の表面局在化に対するZAの効果を示すグラフである。
【
図17】エフェクター細胞に対する化学療法とZA/IL-2処置の効果を示すグラフである。
【
図18】マウスにおけるコンジュゲート抗体を用いた体内分布研究を示す写真である。
【
図19】HEK293~CLDN18.2腫瘍異種移植片の初期処置を示すグラフである。
【
図20】進行性HEK293~CLDN18.2腫瘍異種移植片の処置を示すグラフである。
【
図21】胃がん異種移植片の皮下腫瘍成長に対するIMAB362の効果を示すグラフである。
【
図22】NCI-N87~CLDN18.2胃癌異種移植片に対するIMAB362での免疫療法の効果を示すグラフである。
【
図23】NCI-N87~CLDN18.2異種移植片に対するIMAB362とEOFレジメンを用いた併用療法の効果を示すグラフである。
【
図24】NUGC-4~CLDN18.2異種移植片に対するIMAB362とEOFレジメンを用いた併用療法の効果を示すグラフである。
【
図25】NSGマウスにおけるIMAB362による肉眼で見える腫瘍の制御に対するZA/IL-2誘導Vγ9Vδ2 T細胞の効果を示すグラフである。
【
図26】CLS-103~cldn18.2同種移植腫瘍に対するIMAB362とEOFレジメンを用いた併用療法の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を以下で詳細に記載するが、本発明は、本発明に記載の特定の方法論、プロトコール、および試薬が多様であり得るので、これらに限定されないことが理解されるべきである。本明細書で使用する専門用語は、特定の実施形態を記載する目的のためだけであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることになる本発明の範囲を限定するように意図されていないことも理解されるべきである。別段に定義されていない限り、本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。
【0029】
以下において、本発明の要素を記載する。これらの要素は、特定の実施形態とともに列挙されているが、これらは、追加の実施形態を作るために任意の様式で、かつ任意の数で組み合わせることができることが理解されるべきである。様々に記載される実施例および好適な実施形態は、明示的に記載される実施形態のみに本発明を限定するように解釈されるべきでない。本記載は、明示的に記載される実施形態を、開示され、かつ/または好適な要素の任意の数と組み合わせる実施形態を支持および包含することが理解されるべきである。さらに、本願におけるすべての記載される要素の任意の並び換えおよび組合せは、脈絡により別段に示されていない限り、本願の記載によって開示されているとみなされるべきである。
【0030】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、「A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)」、H.G.W. Leuenberger、B. Nagel、およびH. Kolbl編、Helvetica Chimica Acta、CH-4010 Basel、Switzerland、(1995)に記載されているように定義される。
【0031】
本発明の実行には、別段に示されてない限り、本分野の文献(例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、2版、J. Sambrookら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor 1989を参照)に説明されている化学、生化学、細胞生物学、免疫学、および組換えDNA技法の従来法を使用する。
【0032】
本明細書、および以下に続く特許請求の範囲全体にわたって、脈絡により別段に要求されない限り、単語「含む(comprise)」、ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変形は、述べたメンバー、整数、もしくは工程、またはメンバー、整数、もしくは工程の群を含めることを暗示するが、任意の他のメンバー、整数、もしくは工程、またはメンバー、整数、もしくは工程の群を除外せず、とはいえ、いくつかの実施形態では、このような他のメンバー、整数、もしくは工程、またはメンバー、整数、もしくは工程の群が除外される場合があり、すなわち、主題は、述べたメンバー、整数、もしくは工程、またはメンバー、整数、もしくは工程の群を含めることにあることが理解される。本発明を記載することとの関連で(特に、特許請求の範囲との関連で)使用される用語「a」および「an」および「the」、ならびに同様の言及は、本明細書で別段に示されていない限り、または脈絡によって明らかに矛盾しない限り、単数形および複数形の両方に及ぶと解釈されるべきである。本明細書の値の範囲の記述は、その範囲内に入る各別個の値を個々に指す簡便な方法として機能を果たすように単に意図されている。本明細書で別段に示されていない限り、各個々の値は、それが本明細書で個々に列挙されているように明細書に組み込まれている。本明細書に記載のすべての方法は、本明細書で別段に示されていない限り、または脈絡により別段に明らかに矛盾しない限り、任意の適当な順序で実施することができる。本明細書に提供される任意かつすべての例、または例示的な言い回し(例えば、「など」)の使用は、本発明をより良好に例示するように単に意図されており、別段に主張される本発明の範囲を限定しない。本明細書中の言い回しは、本発明の実行に本質的な任意の主張されていない要素を示すものとして解釈されるべきでない。
【0033】
いくつかの文献が、本明細書の本文全体にわたって引用されている。本明細書で引用される文献(すべての特許、特許出願、科学刊行物、製造者の仕様書、指示書などを含む)のそれぞれは、上記のものであれ、以下のものであれ、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。本明細書中のいずれも、先行発明によって本発明がそのような開示に先行する権利がないことを承認するものとして解釈されるべきでない。
【0034】
用語「CLDN18」は、クローディン18を指し、クローディン18スプライスバリアント1(クローディン18.1(CLDN18.1))およびクローディン18スプライスバリアント2(クローディン18.2(CLDN18.2))を含めた任意のバリアントを含む。
【0035】
用語「CLDN18.2」は、好ましくは、ヒトCLDN18.2、特に、配列表の配列番号1によるアミノ酸配列、または前記アミノ酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなるタンパク質を指す。
【0036】
用語「CLDN18.1」は、好ましくは、ヒトCLDN18.1、特に、配列表の配列番号2によるアミノ酸配列、または前記アミノ酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなるタンパク質を指す。
【0037】
本発明による用語「バリアント」は、特に、突然変異体、スプライスバリアント、コンホメーション、アイソフォーム、対立遺伝子バリアント、種バリアント、および種同族体、特に、天然に存在するものを指す。対立遺伝子バリアントは、遺伝子の正常な配列の変化に関し、その重要性は、不明確であることが多い。完全な遺伝子配列決定は、多くの場合、所与の遺伝子に対して多数の対立遺伝子バリアントを同定する。種同族体は、所与の核酸またはアミノ酸配列のものと異なる起源の種に対する核酸またはアミノ酸配列である。用語「バリアント」は、任意の翻訳後修飾されたバリアントおよびコンホメーションバリアントを包含するものとする。
【0038】
本発明によれば、用語「CLDN18.2陽性がん」は、がん細胞であって、好ましくは前記がん細胞の表面上で、CLDN18.2を発現するがん細胞を伴うがんを意味する。
【0039】
「細胞表面」は、当技術分野でその通常の意味に従って使用され、したがって、タンパク質および他の分子による結合にアクセス可能である細胞の外側を含む。
【0040】
CLDN18.2は、それが細胞の表面に位置している場合、前記細胞の表面上で発現され、細胞に添加されるCLDN18.2特異的抗体による結合にアクセス可能である。
【0041】
本発明によれば、CLDN18.2は、発現のレベルが胃細胞または胃組織内の発現と比較してより低い場合、細胞内で実質的に発現されない。好ましくは、発現のレベルは、胃細胞または胃組織内の発現の10%未満、好ましくは、5%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、もしくは0.05%未満、またはさらにより低い。好ましくは、CLDN18.2は、発現のレベルが、2倍以下、好ましくは1.5倍以下で胃以外の非がん性組織内の発現のレベルを超え、好ましくは、前記非がん性組織内の発現のレベルを超えない場合、細胞内で実質的に発現されない。好ましくは、CLDN18.2は、発現のレベルが検出限界未満であり、かつ/または発現のレベルが低すぎて細胞に添加されるCLDN18.2特異的抗体による結合を可能にすることができない場合、細胞内で実質的に発現されない。
【0042】
本発明によれば、CLDN18.2は、発現のレベルが、2倍超、好ましくは、10倍超、100倍超、1000超倍、または10000倍超、胃以外の非がん性組織内の発現のレベルを超える場合、細胞内で発現される。好ましくは、CLDN18.2は、発現のレベルが検出限界を超える場合、かつ/または発現のレベルが細胞に添加されるCLDN18.2特異的抗体による結合を可能にするのに十分高い場合、細胞内で発現される。好ましくは、細胞内で発現されるCLDN18.2は、前記細胞の表面上で発現され、または曝露される。
【0043】
本発明によれば、用語「疾患」は、がん、特に、本明細書に記載のがんの形態を含めた、任意の病理状態を指す。がん、またはがんの特定の形態への本明細書での任意の言及は、そのがん転移も含む。好適な実施形態では、本願によって処置される疾患は、CLDN18.2を発現する細胞を伴う。
【0044】
「CLDN18.2を発現する細胞に関連した疾患」または同様の表現は、本発明によれば、CLDN18.2が患部組織または患部臓器の細胞内で発現されることを意味する。一実施形態では、患部組織または患部臓器の細胞内のCLDN18.2の発現は、健康な組織または臓器内の状態と比較して増大している。増大は、少なくとも10%、特に、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%、少なくとも10000%、またはそれ以上の増大を指す。一実施形態では、発現は、患部組織内でのみ見つかり、一方、健康な組織内の発現は抑圧されている。本発明によれば、CLDN18.2を発現する細胞に関連した疾患は、がん疾患を含む。さらに、本発明によれば、がん疾患は、好ましくは、がん細胞がCLDN18.2を発現するものである。
【0045】
本明細書において使用する場合、「がん疾患」または「がん」は、異常に制御された細胞の増殖(growth)、増殖(proliferation)、分化、癒着、および/または遊走によって特徴付けられる疾患を含む。「がん細胞」とは、急速な、制御されない細胞増殖(cellular proliferation)によって増殖し、新しい増殖(growth)を開始した刺激が終わった後、増殖し続ける異常な細胞を意味する。好ましくは、「がん疾患」は、CLDN18.2を発現する細胞によって特徴付けられ、がん細胞は、CLDN18.2を発現する。CLDN18.2を発現する細胞は、好ましくは本明細書に記載のがんのがん細胞であることが好ましい。
【0046】
「腺癌」は、腺組織に由来するがんである。この組織は、上皮組織として知られるより大きい組織カテゴリーの一部でもある。上皮組織は、皮膚、腺、および体の腔および臓器を裏打ちする様々な他の組織を含む。上皮は、外胚葉、内胚葉、および中胚葉に発生学的に由来する。腺癌として分類されるために、細胞は、分泌性を有する限り、必ずしも腺の一部である必要はない。この形態の癌は、ヒトを含めたいくつかの高等哺乳動物において起こり得る。十分に分化した腺癌は、これらが由来する腺組織に類似する傾向がある一方、不十分に分化した腺癌は、類似しない場合がある。生検からの細胞を染色することによって、病理学者は、腫瘍が腺癌であるか、またはいくつかの他のタイプのがんであるかを判定する。腺癌は、体内の腺のユビキタスな性質に起因して、体の多くの組織内で生じ得る。各腺は、同じ物質を分泌しない場合があるが、細胞への外分泌機能がある限り、それは、腺とみなされ、したがってその悪性形態は、腺癌と呼ばれる。悪性腺癌は、他の組織に浸入し、転移する十分な時間が与えられると転移することが多い。卵巣腺癌は、卵巣癌の最も一般的なタイプである。これには、漿液性腺癌および粘液腺癌、明細胞腺癌、ならびに類内膜腺癌が含まれる。
【0047】
「転移」とは、その元の部位から体の別の部分へのがん細胞の拡散を意味する。転移の形成は、非常に複雑なプロセスであり、原発性腫瘍からの悪性細胞の脱離、細胞外マトリックスの侵襲、体腔および血管に入るための内皮基底膜の浸透、ならびに次いで、血液によって輸送された後、標的臓器の浸潤に依存する。最後に、標的部位での新しい腫瘍の増殖は、血管新生に依存する。腫瘍細胞または腫瘍成分が残存し、転移能を発生させる場合があるので、腫瘍転移は、原発性腫瘍が除去された後でさえ起こることが多い。一実施形態では、本発明による用語「転移」は、「遠隔転移」に関し、これは、原発性腫瘍および局所リンパ節系から離れた転移に関する。一実施形態では、本発明による用語「転移」は、リンパ節転移に関する。本発明の療法を使用して処置可能である転移の一特定の形態は、主要な部位として胃がんに由来する転移である。好適な実施形態では、このような胃がん転移は、クルーケンベルク腫瘍、腹膜転移、および/またはリンパ節転移である。
【0048】
クルーケンベルク腫瘍は、すべての卵巣腫瘍の1%~2%を占める卵巣の珍しい転移性腫瘍である。クルーケンベルク腫瘍の予後は、依然として非常に芳しくなく、クルーケンベルク腫瘍の確立された処置はまったくない。クルーケンベルク腫瘍は、卵巣の転移性印環細胞腺癌である。胃は、ほとんどのクルーケンベルク腫瘍症例(70%)における原発部位である。大腸、虫垂、および乳房(主に侵襲性小葉癌)の癌は、次に最も一般的な原発部位である。胆嚢、胆道、膵臓、小腸、ファーター膨大部、子宮頸、および膀胱/尿膜管の癌に由来するクルーケンベルク腫瘍の稀有な症例が報告されている。原発癌の診断と引き続く卵巣関与の発見との間隔は、通常6カ月以下であるが、より長い期間が報告されている。多くの場合では、原発性腫瘍は、非常に小さく、検出を逃れ得る。胃または別の臓器の従前の癌の履歴は、症例の20%~30%のみで得ることができる。
【0049】
クルーケンベルク腫瘍は、最も一般には胃-卵巣軸における選択的ながんの拡散の一例である。腫瘍拡散のこの軸は、特に、胃新生物が他の組織の関与を伴うことなく卵巣に選択的に転移することが見つかったとき、多くの病理学者の関心を歴史的に引いてきた。胃癌の卵巣への転移の経路は、長い時間にわたって謎であったが、逆行性リンパ節拡散が転移の最も可能性の高い経路であることが現在では明白である。
【0050】
クルーケンベルク腫瘍を有する女性は、一般に彼女らの人生の50年内にあり、平均年齢は45歳であるので、転移性癌を有する患者に関して異常に若い傾向がある。この若い年齢の分布は、若い女性における胃印環細胞癌の頻度の増大に部分的に関係付けることができる。一般的な主症状は通常、卵巣関与に関係があり、その最も一般的なものは、腹痛および膨満である(主に、通常両側性の、多くの場合大きい卵巣腫瘤のために)。残りの患者は、非特異的な胃腸症状を有し、または無症候性である。さらに、クルーケンベルク腫瘍は、報告によれば、卵巣間質によるホルモン産生から生じる男性化に関連している。腹水は、症例の50%において存在し、通常、悪性細胞を現す。
【0051】
クルーケンベルク腫瘍は、報告された症例の80%超において両側性である。卵巣は通常、隆起輪郭を伴って非対称に拡大している。切片の表面は、黄色または白色であり、通常、固体であるが、場合によっては嚢胞性である。重要なことに、クルーケンベルク腫瘍を有する卵巣の莢膜表面は、一般に滑らかであり、癒着または腹膜沈着物がない。注目すべきことに、卵巣への他の転移性腫瘍は、表面インプラントに関連する傾向がある。これは、クルーケンベルク腫瘍の肉眼的モルフォロジーが、原発性卵巣腫瘍として一見思われ得る理由を説明することができる。しかし、クルーケンベルク腫瘍における左右相称は、その転移性と一致する。
【0052】
クルーケンベルク腫瘍を有する患者は、著しく高い全体的な死亡率を有する。ほとんどの患者は、2年以内に死亡する(生存時間中央値、14カ月)。いくつかの研究により、予後は、卵巣への転移が発見された後に原発性腫瘍が同定されるとき、芳しくなく、予後は、原発性腫瘍が隠れたままである場合悪化することが示されている。
【0053】
クルーケンベルク腫瘍の最適な処置ストラテジーは、まったく文献において明らかに確立されていない。外科的切除が実施されるべきか否かは、十分に対処されていない。化学療法または放射線療法は、クルーケンベルク腫瘍を有する患者の予後に対して有意な効果がまったくない。
【0054】
「処置する」とは、対象における腫瘍のサイズまたは腫瘍の数を低減することを含めて、疾患を予防もしくは排除し;対象における疾患を停止もしくは減速し;対象における新しい疾患の発生を阻害もしくは減速し;疾患を現在有する、もしくは以前に有していたことがある対象における症状および/もしくは再発の頻度もしくは重症度を減少させ;かつ/または対象の寿命を延長する、すなわち増大させるために、対象に、化合物もしくは組成物、または化合物もしくは組成物の組合せを投与することを意味する。
【0055】
特に、用語「疾患の処置」は、治癒、持続時間の短縮、進行もしくは悪化の寛解、予防、減速、もしくは阻害、または疾患の発病もしくはその症状の予防もしくは遅延を含む。
【0056】
用語「患者」は、本発明によれば、ヒト、非ヒト霊長類、または別の動物、特に、哺乳動物、例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、またはげっ歯類、例えば、マウスおよびラットを含めた、処置の対象、特に病気の対象を意味する。特に好適な実施形態では、患者は、ヒトである。
【0057】
γδT細胞(ガンマデルタT細胞)は、その表面上に異なるT細胞受容体(TCR)を有するT細胞の小サブセットを表す。T細胞の大部分は、α-およびβ-TCR鎖と呼ばれる2つの糖タンパク質鎖で構成されたTCRを有する。対照的に、γδT細胞では、TCRは、1本のγ-鎖および1本のδ-鎖で構成される。T細胞のこの群は、通常、αβT細胞よりはるかに一般的でない。ヒトγδT細胞は、感染疾患および自己免疫のようなストレス-監視応答において重要な役割を果たす。腫瘍のトランスフォーメーション誘導変化も、γδT細胞によって媒介されるストレス-監視応答を引き起こし、抗腫瘍性免疫を増強することが示唆されている。重要なことに、抗原が係合した後、病変部位における活性化されたγδ細胞は、他の効果細胞の動員を媒介するサイトカイン(例えば、INFγ、TNFα)および/またはケモカインを提供し、細胞傷害性(細胞死受容体および細胞溶解顆粒経路を介した)およびADCCなどの即時のエフェクター機能を示す。
【0058】
末梢血中のγδT細胞の大部分は、Vγ9Vδ2 T細胞受容体(TCRγδ)を発現する。Vγ9Vδ2 T細胞は、ヒトおよび霊長類に独特であり、病原体に侵入することによって「危険」を検知することにおいて早期のかつ本質的な役割を果たすと仮定されており、その理由は、これらが多くの急性感染症において劇的に拡大し、例えば、結核、サルモネラ症、エーリキア症、ブルセラ症、野兎病、リステリア症、トキソプラスマ症、およびマラリアにおいて、数日以内にすべての他のリンパ球を超え得るためである。
【0059】
γδT細胞は、小さい非ペプチド性リン酸化抗原(ホスホアンチゲン)、例えば、細菌内で合成されるピロリン酸、およびメバロン酸経路によって哺乳動物細胞内で産生されるイソペンテニルピロリン酸(IPP)に対して応答する。正常細胞内のIPP産生は、γδT細胞の活性化に十分でないが、腫瘍細胞内でメバロン酸経路が異常調節されると、IPPが蓄積され、γδT細胞が活性化される。IPPはまた、アミノビスホスホネートによって治療的に増大される場合があり、それによりメバロン酸経路酵素ファルネシルピロリン酸シンターゼ(FPPS)が阻害される。とりわけ、ゾレドロン酸(ZA、ゾレドロネート、Zometa(商標)、Novartis)は、このようなアミノビスホスホネート(aminobiphosphonate)を代表し、これはすでに、骨粗鬆症および転移性骨疾患を処置するために患者に臨床的に投与されている。in vitroでPBMCが処理された後、ZAは、特に単球によって取り込まれる。IPPは、単球内に蓄積し、これらの単球は、分化してγδT細胞の発生を刺激する抗原提示細胞になる。この設定において、インターロイキン-2(IL-2)の添加は、活性化されたγδT細胞の増殖および生存因子として好適である。最後に、ある特定のアルキル化アミンは、in vitroでVγ9Vδ2 T細胞を活性化することが記載されているが、わずかミリモル濃度においてである。
【0060】
本発明によれば、用語「γδT細胞を刺激する作用物質」は、特にγδT細胞の活性化および拡大を誘導することによって、in vitroおよび/またはin vivoで、γδT細胞、特にVγ9Vδ2 T細胞の発生を刺激する化合物に関する。好ましくは、この用語は、in vitroおよび/またはin vivoで、好ましくは、メバロン酸経路酵素ファルネシルピロリン酸シンターゼ(FPPS)を阻害することによって、哺乳動物細胞内で産生されるイソペンテニルピロリン酸(IPP)を増加させる化合物に関する。
【0061】
γδT細胞を刺激する化合物の一特定の群は、ビスホスホネート、特に、窒素含有ビスホスホネート(N-ビスホスホネート;アミノビスホスホネート)である。
【0062】
例えば、本発明で使用するのに適したビスホスホネートとして、以下の化合物の類似体、および誘導体、医薬用塩、水和物、エステル、コンジュゲート、およびプロドラッグを含めた、以下の化合物の1種または複数を挙げることができる:
[1-ヒドロキシ-2-(1H-イミダゾール-1-イル)エタン-1,1-ジイル]ビス(ホスホン酸)、ゾレドロン酸、例えば、ゾレドロネート;
(ジクロロ-ホスホノ-メチル)ホスホン酸、例えば、クロドロネート
{1-ヒドロキシ-3-[メチル(ペンチル)アミノ]プロパン-1,1-ジイル}ビス(ホスホン酸)、イバンドロン酸、例えば、イバンドロネート
(3-アミノ-1-ヒドロキシプロパン-1,1-ジイル)ビス(ホスホン酸)、パミドロン酸、例えば、パミドロネート;
(1-ヒドロキシ-1-ホスホノ-2-ピリジン-3-イル-エチル)ホスホン酸、リセドロン酸、例えば、リセドロネート;
(1-ヒドロキシ-2-イミダゾ[1,2-a]ピリジン-3-イル-1-ホスホノエチル)ホスホン酸、ミノドロン酸;
[3-(ジメチルアミノ)-1-ヒドロキシプロパン-1,1-ジイル]ビス(ホスホン酸)、オルパドロン酸;
[4-アミノ-1-ヒドロキシ-1-(ヒドロキシ-オキシド-ホスホリル)-ブチル]ホスホン酸、アレンドロン酸、例えば、アレンドロネート;
[(シクロヘプチルアミノ)メチレン]ビス(ホスホン酸)、インカドロン酸;
(1-ヒドロキシエタン-1,1-ジイル)ビス(ホスホン酸)、エチドロン酸、例えば、エチドロネート;および
{[(4-クロロフェニル)チオ]メチレン}ビス(ホスホン酸)、チルドロン酸。
【0063】
本発明によれば、ゾレドロン酸(INN)またはゾレドロネート(商標名Zometa、Zomera、Aclasta、およびReclastの下でNovartisによって販売されている)は、特に好適なビスホスホネートである。Zometaは、多発性骨髄腫および前立腺がんなどのがんを有する患者における骨格の破損を予防するため、ならびに骨粗鬆症を処置するために使用される。これは、悪性腫瘍の高カルシウム血症を処置するのにも使用することができ、骨転移からの痛みを処置するのに有用であり得る。
【0064】
特に好適な一実施形態では、本発明によるγδT細胞を刺激する作用物質は、IL-2と組み合わせて投与される。このような組合せは、γ9δ2T細胞の拡大および活性化を媒介することにおいて特に有用であることが示されている。
【0065】
インターロイキン-2(IL-2)は、免疫系内のサイトカインシグナル伝達分子の一タイプであるインターロイキンである。これは、リンパ球を引き寄せるタンパク質であり、微生物感染に対する、かつ異質(非自己)と自己とを判別することにおける体の自然応答の一部である。IL-2は、リンパ球によって発現されるIL-2受容体に結合することによってその効果を媒介する。
【0066】
本発明によって使用されるIL-2は、γδT細胞の刺激を支持し、または可能にする任意のIL-2であり得、任意の種、好ましくはヒトに由来し得る。Il-2は、単離された、組換え生成された、または合成のIL-2であってもよく、天然に存在する、または修飾されたIL-2であってもよい。
【0067】
用語「CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質」は、作用物質または作用物質の組合せであって、細胞にそれを供給すると、細胞が作用物質または作用物質の組合せを供給されない状況と比較して、CLDN18.2のRNAおよび/またはタンパク質レベルが増大し、好ましくは、細胞表面上のCLDN18.2タンパク質のレベルが増大する、作用物質または作用物質の組合せを指す。好ましくは、細胞は、がん細胞、特に、本明細書に記載のがんタイプの細胞などのCLDN18.2を発現するがん細胞である。用語「CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質」は、特に、作用物質または作用物質の組合せであって、細胞にそれを供給すると、細胞が作用物質または作用物質の組合せを供給されない状況と比較して、前記細胞の表面上のCLDN18.2の密度がより高くなる、作用物質または作用物質の組合せを指す。「CLDN18.2の発現を安定化させること」は、特に、作用物質または作用物質の組合せが、CLDN18.2の発現の減少を予防し、または減少を低減する、例えば、CLDN18.2の発現が、作用物質または作用物質の組合せを供給しないと減少し、作用物質または作用物質の組合せを供給すると、CLDN18.2発現の前記減少が予防され、または前記減少が低減する状況を含む。「CLDN18.2の発現を増大させること」は、特に、作用物質または作用物質の組合せが、CLDN18.2の発現を増大させ、例えば、CLDN18.2の発現が、作用物質または作用物質の組合せを供給しないと減少し、本質的に一定のままであり、または増大し、作用物質または作用物質の組合せを供給すると、作用物質または作用物質の組合せを供給しない状況と比較して、CLDN18.2の発現が増大し、その結果、得られる発現が、CLDN18.2の発現が、作用物質または作用物質の組合せを供給しないと減少し、本質的に一定のままであり、または増大する状況と比較してより高い状況を含む。
【0068】
本発明によれば、用語「CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質」は、細胞増殖抑制剤などの化学療法剤または化学療法剤の組合せを含む。化学療法剤は、以下の方法の1つで細胞に影響し得る:(1)細胞がもはや再生することができないように細胞のDNAを損傷させ、(2)細胞複製がまったく可能でないように新しいDNA鎖の合成を阻害し、(3)細胞が2つの細胞に分割することができないように細胞の有糸分裂過程を停止する。
【0069】
本発明によれば、用語「CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質」は、好ましくは、細胞増殖抑制化合物または細胞増殖抑制化合物の組合せなどの作用物質または作用物質の組合せであって、細胞、特に、がん細胞にそれを供給すると細胞周期の1つまたは複数の期において、好ましくはG1およびG0期以外、好ましくはG1期以外の細胞周期の1つまたは複数の期において、好ましくは細胞周期のG2またはS期、例えば、細胞周期のG1/G2、S/G2、G2、またはS期などの1つまたは複数において細胞が停止され、または蓄積する、作用物質または作用物質の組合せを指す。用語「細胞周期の1つまたは複数の期において細胞が停止され、または蓄積する」は、細胞周期の前記1つまたは複数の期内にある細胞の百分率が増大することを意味する。各細胞は、それ自体複製するために4つの期を含むサイクルを通過する。G1と呼ばれる第1の期は、細胞がその染色体を複製する準備をするときである。第2の段階は、Sと呼ばれ、この期では、DNA合成が行われ、DNAが複製される。次の期は、G2期であり、このときRNAおよびタンパク質が複製する。最終ステージはM期であり、これは、実際の細胞分裂の段階である。この最終段階では、複製されたDNAおよびRNAが分裂し、細胞の離れた両端に移動し、細胞は実際に、2つの同一の機能細胞に分割する。DNA損傷剤である化学療法剤は、通常、G1期および/またはG2期において細胞を蓄積する。代謝拮抗剤などの、DNA合成を妨害することによって細胞増殖を遮断する化学療法剤は、通常、S期において細胞を蓄積する。これらの薬物の例は、6-メルカプトプリンおよび5-フルオロウラシルである。
【0070】
本発明によれば、用語「CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質」は、エピルビシンなどのアントラサイクリン、オキサリプラチンおよびシスプラチンなどの白金化合物、5-フルオロウラシルまたはそのプロドラッグなどのヌクレオシド類似体、ドセタキセルなどのタキサン、イリノテカンおよびトポテカンなどのカンプトテシン類似体、ならびに薬物の組合せ、例えば、オキサリプラチンおよび5-フルオロウラシルを含む薬物の組合せなどの、エピルビシンなどのアントラサイクリン、オキサリプラチンおよび5-フルオロウラシルの1種もしくは複数を含む薬物の組合せ、または本明細書に記載の他の薬物の組合せを含む。
【0071】
好適な一実施形態では、「CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質」は、「免疫原性細胞死を誘導する作用物質」である。
【0072】
特定の状況では、がん細胞は、免疫系によって解読されて腫瘍特異的免疫応答を活性化するシグナルの空間時間的に画定された組合せの放出に連結した致死性ストレス経路に入ることができる(Zitvogel L.ら、(2010) Cell 140: 798~804)。このようなシナリオでは、がん細胞は、樹状細胞などの先天性免疫エフェクターによって検知されてCD8+T細胞およびIFN-γシグナル伝達を伴う同族免疫応答を誘因するシグナルを発するように誘因され、その結果、腫瘍細胞死は、生産的抗がん免疫応答を誘発することができる。これらのシグナルは、細胞表面における小胞体(ER)シャペロンカルレティキュリン(CRT)のアポトーシス前の曝露、ATPのアポトーシス前の分泌、および核タンパク質HMGB1のアポトーシス後の放出を含む。総合すると、これらのプロセスは、免疫原性細胞死(ICD)の分子決定基を構成する。アントラサイクリン、オキサリプラチン、およびγ照射は、ICDを規定するすべてのシグナルを誘導することができ、一方、例えば、ERから死にかけている細胞の表面へのCRTトランスロケーション、すなわち、ERストレスを必要とするプロセスを誘導することに欠けているシスプラチンは、タプシガルジン、ERストレス誘導因子による補完を必要とする。
【0073】
本発明によれば、用語「免疫原性細胞死を誘導する作用物質」は、細胞、特に、がん細胞に供給されると、最終的に腫瘍特異的免疫応答をもたらす致死性ストレス経路に入るように細胞を誘導することができる作用物質または作用物質の組合せを指す。特に、細胞に供給されると免疫原性細胞死を誘導する作用物質は、特に、細胞表面における小胞体(ER)シャペロンカルレティキュリン(CRT)のアポトーシス前の曝露、ATPのアポトーシス前の分泌、および核タンパク質HMGB1のアポトーシス後の放出を含む、シグナルの空間時間的に画定された組合せを発するように細胞を誘導する。
【0074】
本発明によれば、用語「免疫原性細胞死を誘導する作用物質」は、アントラサイクリンおよびオキサリプラチンを含む。
【0075】
アントラサイクリンは、抗生物質でもあるがん化学療法で一般に使用される薬物の一クラスである。構造的に、すべてのアントラサイクリンは、一般的な4環状7,8,9,10-テトラヒドロテトラセン-5,12-キノン構造を共有し、通常、特異的部位でのグリコシル化を必要とする。
【0076】
アントラサイクリンは、以下の作用機序の1つまたは複数をもたらす:1.DNA/RNA鎖の塩基対間にインターカレートすることによってDNA合成およびRNA合成を阻害し、したがって急速に増殖中のがん細胞の複製を防止すること。2.トポイソメラーゼII酵素を阻害し、スーパーコイルDNAの弛緩を防止し、したがってDNAの転写および複製を遮断すること。3.DNAおよび細胞膜を損傷させる鉄媒介遊離酸素ラジカルを作ること。
【0077】
本発明によれば、用語「アントラサイクリン」は、好ましくは、トポイソメラーゼII中のDNAの再結合を阻害することによってアポトーシスを誘導するための作用物質、好ましくは抗がん剤を好ましくは指す。
【0078】
好ましくは、本発明によれば、用語「アントラサイクリン」は一般に、以下の環状構造を有する化合物の一クラスを指し、
【0079】
【0080】
これらの類似体、および誘導体、医薬用塩、水和物、エステル、コンジュゲート、およびプロドラッグを含む。
【0081】
アントラサイクリンおよびアントラサイクリン類似体の例としては、それだけに限らないが、ダウノルビシン(ダウノマイシン)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、エピルビシン、イダルビシン、ロドマイシン、ピラルビシン(pyrarubicin)、バルルビシン、N-トリフルオロ-アセチルドキソルビシン-14-バレレート、アクラシノマイシン、モルホリノドキソルビシン(モルホリノ-DOX)、シアノモルホリノ-ドキソルビシン(シアノモルホリノ-DOX)、2-ピロリノ-ドキソルビシン(2-PDOX)、5-イミノダウノマイシン、ミトキサントロン、およびアクラシノマイシンA(アクラルビシン)がある。ミトキサントロンは、アントラサイクリンの糖部分を欠くが、DNAへのインターカレーションを許容する平面多環(polycylic)式芳香族環構造を保持するアントラサイクリン類似体である化合物のアントラセンジオンクラスのメンバーである。
【0082】
本発明によるアントラサイクリン(anthracyline)として特に好適なのは、以下の式の化合物である:
【0083】
【0084】
式中、
R1は、HおよびOHからなる群から選択され、R2は、HおよびOMeからなる群から選択され、R3は、HおよびOHからなる群から選択され、R4は、HおよびOHからなる群から選択される。
【0085】
一実施形態では、R1はHであり、R2はOMeであり、R3はHであり、R4はOHである。別の実施形態では、R1はOHであり、R2はOMeであり、R3はHであり、R4はOHである。別の実施形態では、R1はOHであり、R2はOMeであり、R3はOHであり、R4はHである。別の実施形態では、R1はHであり、R2はHであり、R3はHであり、R4はOHである。
【0086】
本発明との関連でアントラサイクリンとして特に企図されているのは、エピルビシンである。エピルビシンは、以下の式を有するアントラサイクリン薬であり:
【0087】
【0088】
米国内で商標名Ellence、および他でPharmorubicinまたはEpirubicin Ebeweの下で販売されている。特に、用語「エピルビシン」は、化合物(8R,10S)-10-[(2S,4S,5R,6S)-4-アミノ-5-ヒドロキシ-6-メチル-オキサン-2-イル]オキシ-6,11-ジヒドロキシ-8-(2-ヒドロキシアセチル)-1-メトキシ-8-メチル-9,10-ジヒドロ-7H-テトラセン-5,12-ジオンを指す。エピルビシンは、より少ない副作用を引き起こすと思われるので、いくつかの化学療法レジメンでは、最も普及しているアントラサイクリンであるドキソルビシンより好都合である。
【0089】
本発明によれば、用語「白金化合物」は、白金錯体などの、その構造中に白金を含有する化合物を指し、シスプラチン、カルボプラチン、およびオキサリプラチンなどの化合物を含む。
【0090】
用語「シスプラチン」または「シスプラチナム」は、以下の式の化合物cis-ジアンミンジクロロ白金(II)(CDDP)を指す:
【0091】
【0092】
用語「カルボプラチン」は、以下の式の化合物cis-ジアンミン(1,1-シクロブタンジカルボキシラト)白金(II)を指す:
【0093】
【0094】
用語「オキサリプラチン」は、以下の式の、ジアミノシクロヘキサンキャリア配位子に錯体形成した白金化合物である化合物を指す:
【0095】
【0096】
特に、用語「オキサリプラチン」は、化合物[(1R,2R)-シクロヘキサン-1,2-ジアミン](エタンジオアト-O,O')白金(II)を指す。注射用オキサリプラチンはまた、商標名Eloxatineの下で販売されている。
【0097】
用語「ヌクレオシド類似体」は、ヌクレオシドの構造類似体、すなわち、プリン類似体およびピリミジン類似体の両方を含むカテゴリーを指す。特に、用語「ヌクレオシド類似体」は、フルオロウラシルおよびそのプロドラッグを含むフルオロピリミジン誘導体を指す。
【0098】
用語「フルオロウラシル」または「5-フルオロウラシル」(5-FUまたはf5U)(ブランド名Adrucil、Carac、Efudix、Efudex、およびFluoroplexの下で販売されている)は、以下の式のピリミジン類似体である化合物である:
【0099】
【0100】
特に、この用語は、化合物5-フルオロ-1H-ピリミジン-2,4-ジオンを指す。
【0101】
用語「カペシタビン」(Xeloda、Roche)は、組織内で5-FUに変換されるプロドラッグである化学療法剤を指す。経口投与され得るカペシタビンは、以下の式を有する:
【0102】
【0103】
特に、この用語は、化合物ペンチル[1-(3,4-ジヒドロキシ-5-メチルテトラヒドロフラン-2-イル)-5-フルオロ-2-オキソ-1H-ピリミジン-4-イル]カルバメートを指す。
【0104】
タキサンは、Taxus属の植物などの天然源から最初に導出されたジテルペン化合物の一クラスであるが、いくつかは、人工的に合成されている。薬物のタキサンクラスの主な作用機序は、微小管機能の破壊であり、それによって細胞分裂のプロセスを阻害する。タキサンとしては、ドセタキセル(タキソテル)およびパクリタキセル(タキソール)がある。
【0105】
本発明によれば、用語「ドセタキセル」は、以下の式を有する化合物を指す:
【0106】
【0107】
本発明によれば、用語「パクリタキセル」は、以下の式を有する化合物を指す:
【0108】
【0109】
本発明によれば、用語「カンプトテシン類似体」は、化合物カンプトテシン(CPT;(S)-4-エチル-4-ヒドロキシ-1H-ピラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-3,14-(4H,12H)-ジオン)の誘導体を指す。好ましくは、用語「カンプトテシン類似体」は、以下の構造を含む化合物を指す:
【0110】
【0111】
本発明によれば、好適なカンプトテシン類似体は、DNA酵素トポイソメラーゼI(topo I)の阻害剤である。本発明による好適なカンプトテシン類似体は、イリノテカンおよびトポテカンである。
【0112】
イリノテカンはトポイソメラーゼIの阻害によって、巻き戻しからDNAを防止する薬物である。化学的には、以下の式を有する天然アルカロイドカンプトテシンの半合成類似体である:
【0113】
【0114】
特に、用語「イリノテカン」は、化合物(S)-4,11-ジエチル-3,4,12,14-テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-3,14-ジオキソ1H-ピラノ[3',4':6,7]-インドリジノ[1,2-b]キノリン-9-イル-[1,4'ビピペリジン]-1'-カルボキシレートを指す。
【0115】
トポテカンは、式:
【0116】
【0117】
のトポイソメラーゼ阻害剤である。
【0118】
特に、用語「トポテカン」は、化合物(S)-10-[(ジメチルアミノ)メチル]-4-エチル-4,9-ジヒドロキシ-1H-ピラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-3,14(4H,12H)-ジオンモノヒドロクロリドを指す。
【0119】
本発明によれば、CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質は、化学療法剤、特に、がん処置で確立された化学療法剤とすることができ、がん処置で使用するために確立された薬物の組合せなどの薬物の組合せの一部であり得る。このような薬物の組合せは、化学療法で使用される薬物の組合せとすることができ、EOX化学療法、ECF化学療法、ECX化学療法、EOF化学療法、FLO化学療法、FOLFOX化学療法、FOLFIRI化学療法、DCF化学療法、およびFLOT化学療法からなる群から選択される化学療法剤レジメンで使用される薬物の組合せであり得る。
【0120】
EOX化学療法で使用される薬物の組合せは、エピルビシン、オキサリプラチン、およびカペシタビンで構成されている。ECF化学療法で使用される薬物の組合せは、エピルビシン、シスプラチン、および5-フルオロウラシルで構成されている。ECX化学療法で使用される薬物の組合せは、エピルビシン、シスプラチン、およびカペシタビンで構成されている。EOF化学療法で使用される薬物の組合せは、エピルビシン、オキサリプラチン、および5-フルオロウラシルで構成されている。
【0121】
合計8回の3週間サイクルにわたって、エピルビシンは通常、50mg/m2の用量で、シスプラチンは60mg/m2で、オキサリプラチンは130mg/m2で、5-フルオロウラシルの持続的静脈注入は、200mg/m2/日で、経口カペシタビンは、625mg/m2、毎日2回で投与される。
【0122】
FLO化学療法で使用される薬物の組合せは、5-フルオロウラシル、フォリン酸、およびオキサリプラチンで構成されている(通常、5-フルオロウラシル2,600mg/m2 24時間注入、フォリン酸200mg/m2、およびオキサリプラチン85mg/m2、2週間毎)。
【0123】
FOLFOXは、フォリン酸(ロイコボリン)、5-フルオロウラシル、およびオキサリプラチンで構成される化学療法レジメンである。2週間毎に投与される推奨投薬スケジュールは、以下の通りである:1日目:オキサリプラチン85mg/m2 IV注入およびロイコボリン200mg/m2 IV注入、その後の5-FU 400mg/m2 IV大量瞬時投与、その後の22時間の持続注入としての5-FU 600mg/m2 IV注入;2日目:ロイコボリン200mg/m2 120分にわたるIV注入、その後の2~4分にわたって投与される5-FU 400mg/m2 IV大量瞬時投与、その後の22時間の持続注入としての5-FU 600mg/m2 IV注入。
【0124】
FOLFIRI化学療法で使用される薬物の組合せは、5-フルオロウラシル、ロイコボリン、およびイリノテカンで構成されている。
【0125】
DCF化学療法で使用される薬物の組合せは、ドセタキセル、シスプラチン、および5-フルオロウラシルで構成されている。
【0126】
FLOT化学療法で使用される薬物の組合せは、ドセタキセル、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、およびフォリン酸で構成されている。
【0127】
用語「フォリン酸」または「ロイコボリン」は、化学療法剤5-フルオロウラシルとの相乗的組合せで有用な化合物を指す。フォリン酸は、以下の式を有する:
【0128】
【0129】
特に、この用語は、化合物(2S)-2-{[4-[(2-アミノ-5-ホルミル-4-オキソ-5,6,7,8-テトラヒドロ-1H-プテリジン-6-イル)メチルアミノ]ベンゾイル]アミノ}ペンタン二酸を指す。
【0130】
CLDN18.2の発現を安定化または増大させる作用物質を投与するために、一実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体、特に、IMAB362と組み合わせた、EOXレジメンによる標準的な化学療法は、最大8サイクルにわたって投与される。用量およびスケジュールは、以下の通りとすることができる:
・ EOX期中の各サイクルの1日目に、50mg/m2のエピルビシンを、15分の注入としてi.v.投与する。
・ EOX期中の各サイクルの1日目に、130mg/m2のオキサリプラチンを、2時間の注入としてi.v.投与する。
・ EOX期中の各サイクルの1日目の夕方に開始して、午前および夕方に21日間、625mg/m2のカペシタビンを毎日2回p.o.で服用する。
・ サイクル1の1日目に1000mg/m2の抗体を、2時間の注入としてi.v.投与する。その後、オキサリプラチンの注入が完了した後に、互いのサイクルの1日目に、600mg/m2の抗体を、2時間の注入としてi.v.投与する。
・ 化学療法が終わった後、患者は、3週間または4週間毎に2時間の注入としての600mg/m2の抗体を継続する。
【0131】
本発明の一実施形態では、ZA/IL-2、およびCLDN18.2に結合する能力を有する抗体、特に、IMAB362と組み合わせたEOXレジメンによる標準的な化学療法は、最大8サイクル(24週間)にわたって投与される。
【0132】
用語「抗原」は、免疫応答が向けられている、かつ/または向けられるエピトープを含むタンパク質またはペプチドなどの作用物質に関する。好適な実施形態では、抗原は、CLDN18.2などの腫瘍関連抗原、すなわち、細胞質、細胞表面、および細胞核に由来し得るがん細胞の構成要素、特に、細胞内で、またはがん細胞の表面抗原として、好ましくは大量に産生される抗原である。
【0133】
本発明との関連で、用語「腫瘍関連抗原」は、好ましくは、正常状態下で、限られた数の組織および/もしくは臓器において、または特定の発生段階において特異的に発現され、1つまたは複数の腫瘍組織またはがん組織において発現または異常に発現されるタンパク質に関する。本発明との関連で、腫瘍関連抗原は、好ましくはがん細胞の細胞表面に関連し、好ましくは、正常組織内で発現されないか、またはまれにしか発現されない。
【0134】
用語「エピトープ」は、分子内の抗原決定基、すなわち、免疫系によって認識される、例えば、抗体によって認識される分子の一部を指す。例えば、エピトープは、免疫系によって認識される、抗原上の別個の3次元の部位である。エピトープは通常、アミノ酸または糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面基からなり、通常、特定の3次元の構造的特徴、および特定の帯電特性を有する。立体構造エピトープおよび非立体構造エピトープは、後者へではなく前者への結合が、変性溶媒の存在下で失われる点で区別される。CLDN18.2などのタンパク質のエピトープは、好ましくは、前記タンパク質の連続部分または不連続部分を含み、好ましくは5から100の間、好ましくは5から50の間、より好ましくは8から30の間、最も好ましくは、10から25の間のアミノ酸長であり、例えば、エピトープは、好ましくは、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25アミノ酸長であり得る。
【0135】
用語「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含む糖タンパク質を指し、その抗原結合部分を含む任意の分子を含む。用語「抗体」は、限定することなく、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、例えば、scFv、ならびに抗原結合性抗体断片、例えば、Fab断片およびFab'断片を含めた、モノクローナル抗体、ならびに抗体の断片または誘導体を含み、抗体、例えば、原核生物内で発現される抗体、非グリコシル化抗体、ならびに本明細書に記載の任意の抗原結合性抗体断片および誘導体のすべての組換え形態も含む。各重鎖は、重鎖可変領域(VHと本明細書で省略する)および重鎖定常領域で構成されている。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VLと本明細書で省略する)および軽鎖定常領域で構成されている。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域とともに散在した相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分することができる。各VHおよびVLは、以下の順序、すなわち、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端に配置された3つのCDRおよび4つのFRから構成されている。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合性ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、効果細胞)、および古典的補体系の第1の成分(Clq)を含めた、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。
【0136】
本明細書に記載の抗体は、ヒト抗体とすることができる。用語「ヒト抗体」は、本明細書において使用する場合、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むように意図されている。本明細書に記載のヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroでのランダムもしくは部位特異的な突然変異誘発によって、またはin vivoでの体細胞突然変異によって導入された突然変異)を含み得る。
【0137】
用語「ヒト化抗体」は、非ヒト種からの免疫グロブリンに実質的に由来する抗原結合性部位を有する分子であって、分子の残りの免疫グロブリン構造は、ヒト免疫グロブリンの構造および/または配列に基づく、分子を指す。抗原結合性部位は、定常ドメイン上に融合した完全な可変ドメインを含み、または可変ドメイン中の適切なフレームワーク領域上にグラフトされた相補性決定領域(CDR)のみを含むことができる。抗原結合性部位は、野生型であっても、1つまたは複数のアミノ酸置換によって修飾されていても、例えば、ヒト免疫グロブリンにより密接に類似するように修飾されていてもよい。ヒト化抗体のいくつかの形態は、すべてのCDR配列を保存する(例えば、マウス抗体由来の6つすべてのCDRを含有するヒト化マウス抗体)。他の形態は、元の抗体に対して変更された1つまたは複数のCDRを有する。
【0138】
用語「キメラ抗体」は、重鎖および軽鎖のアミノ酸配列のそれぞれの1つの部分が、特定の種に由来する、または特定のクラスに属する抗体中の対応する配列と相同であり、一方、鎖の残りのセグメントは、別のものにおける対応する配列と相同である抗体を指す。一般に、軽鎖および重鎖の両方の可変領域は、哺乳動物の1つの種に由来する抗体の可変領域を模倣し、一方、定常部分は、別の種に由来する抗体の配列と相同である。このようなキメラ形態の1つの明らかな利点は、可変領域を、好都合なことには、例えば、ヒト細胞標本に由来する定常領域と組み合わせて、非ヒト宿主生物体からの容易に入手可能なB細胞またはハイブリドーマを使用して現在分かっている源から導出することができることである。可変領域は、調製の容易さという利点を有し、特異性は、源によって影響されないが、ヒトである定常領域は、非ヒト源由来の定常領域が誘発するより、抗体が注射される場合、ヒト対象から免疫応答を誘発しにくい。しかし、定義は、この特定の例に限定されない。
【0139】
用語の抗体の「抗原結合性部分」(もしくは単に「結合性部分」)、または抗体の「抗原結合性断片」(もしくは単に「結合性断片」)、または同様の用語は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1種または複数の断片を指す。抗体の抗原結合性機能は、全長抗体の断片によって遂行され得ることが示されている。用語の抗体の「抗原結合性部分」の中に包含される結合性断片の例としては、(i)Fab断片、VL、VH、CL、およびCHのドメインからなる一価の断片;(ii)F(ab')2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片;(iii)VHドメインおよびCHドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLドメインおよびVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Wardら、(1989) Nature、341: 544~546);(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、および(vii)合成リンカーによって任意選択で接合され得る2つ以上の単離されたCDRの組合せがある。さらに、Fv断片の2つのドメイン、VLおよびVHは、別個の遺伝子によってコートされるが、これらは、VL領域およびVH領域が対になって一価の分子を形成する単一タンパク質鎖としてこれらが作製されることを可能にする合成リンカーによって、組換え法を使用して接合することができる(単鎖Fv(scFv)として公知;例えば、Birdら、(1988) Science、242: 423~426;およびHustonら、(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85: 5879~5883を参照)。このような単鎖抗体も、用語の抗体の「抗原結合性断片」の中に包含されることが意図されている。さらなる例は、(i)免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドに融合されている結合性ドメインポリペプチド、(ii)ヒンジ領域に融合した免疫グロブリン重鎖CH2定常領域、および(iii)CH2定常領域に融合した免疫グロブリン重鎖CH3定常領域を含む結合性ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質である。結合性ドメインポリペプチドは、重鎖可変領域または軽鎖可変領域であり得る。結合性ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質は、US2003/0118592およびUS2003/0133939にさらに開示されている。これらの抗体断片は、当業者に公知の慣例的な技法を使用して得られ、断片は、インタクト抗体と同じ様式で有用性についてスクリーニングされる。
【0140】
用語「二重特異性分子」は、2つの異なる結合特異性を有する任意の作用物質、例えば、タンパク質、ペプチド、またはタンパク質複合体もしくはペプチド複合体を含むように意図されている。例えば、この分子は、(a)細胞表面抗原、および(b)効果細胞の表面上のFc受容体に結合し、またはこれらと相互作用することができる。用語「多重特異性分子」または「異種特異性分子」は、2つを超える異なる結合特異性を有する任意の作用物質、例えば、タンパク質、ペプチド、またはタンパク質複合体もしくはペプチド複合体を含むように意図されている。例えば、この分子は、(a)細胞表面抗原、(b)効果細胞の表面上のFc受容体、および(c)少なくとも1種の他の成分に結合し、またはこれらと相互作用することができる。したがって、本発明は、それだけに限らないが、CLDN18.2、および効果細胞上のFc受容体などの他の標的に向けられた、二重特異性、三重特異性、四重特異性、および他の多重特異性分子を含む。用語「二重特異性抗体」は、ダイアボディも含む。ダイアボディは、VHドメインおよびVLドメインが単一ポリペプチド鎖上であるが、リンカーを使用して発現され、リンカーは、短すぎて同じ鎖上の2つのドメインの間で対形成を可能にすることができず、それによってこれらのドメインを別の鎖の相補的なドメインと強制的に対を形成させ、2つの抗原結合性部位を作る二価の二重特異性抗体である(例えば、Holliger, P.ら、(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90: 6444~6448; Poljak, R. J.ら、(1994) Structure、2: 1121~1123を参照)。
【0141】
抗体は、細胞毒などの治療部分もしくは治療剤、薬物(例えば、免疫抑制剤)、または放射性同位体にコンジュゲートすることができる。細胞毒または細胞傷害性剤には、細胞に有害であり、特に細胞を殺す任意の作用物質が含まれる。例としては、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン(colchicin)、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、およびピューロマイシン、ならびにこれらの類似体または同族体がある。抗体コンジュゲートを形成するのに適した治療剤としては、それだけに限らないが、代謝拮抗剤(例えば、メトトレキセート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、フルダラビン(fludarabin)、5-フルオロウラシル、ダカルバジン(decarbazine))、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオテパ(thioepa)、クロランブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、およびロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、およびcis-ジクロロジアミン白金(II)(DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(以前はダウノマイシン)およびドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前はアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、およびアントラマイシン(AMC))、ならびに有糸分裂阻害剤(例えば、ビンクリスチンおよびビンブラスチン)がある。好適な実施形態では、治療剤は、細胞傷害性剤または放射性毒性薬剤(radiotoxic agent)である。別の実施形態では、治療剤は、免疫抑制剤である。さらに別の実施形態では、治療剤は、GM-CSFである。好適な実施形態では、治療剤は、ドキソルビシン、シスプラチン、ブレオマイシン硫酸塩、カルムスチン、クロランブシル、シクロホスファミド、またはリシンAである。
【0142】
抗体はまた、細胞傷害性放射性医薬品を生成するために、放射性同位体、例えば、ヨウ素-131、イットリウム-90、またはインジウム-111にコンジュゲートすることができる。
【0143】
本発明の抗体コンジュゲートは、所与の生物学的応答を改変するのに使用することができ、薬物部分は、古典的な化学治療剤に限定されると解釈されるべきでない。例えば、薬物部分は、所望の生物活性を有するタンパク質またはポリペプチドであってもよい。このようなタンパク質として、例えば、酵素的に活性な毒素、もしくはその活性断片、例えば、アブリン、リシンA、シュードモナス外毒素、もしくはジフテリア毒素など;腫瘍壊死因子もしくはインターフェロン-γなどのタンパク質;または生物学的応答調節剤、例えば、リンホカイン、インターロイキン-1(「IL-1」)、インターロイキン-2(「IL-2」)、インターロイキン-6(「IL-6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM-CSF」)、顆粒球コロニー刺激因子(「G-CSF」)、もしくは他の増殖因子などを挙げることができる。
【0144】
このような治療部分を抗体にコンジュゲートするための技法は周知であり、例えば、Arnonら、「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」、Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy、Reisfeldら(編)、243~56頁(Alan R. Liss, Inc. 1985); Hellstromら、「Antibodies For Drug Delivery」、Controlled Drug Delivery (2版)、Robinsonら(編)、623~53頁(Marcel Dekker, Inc. 1987); Thorpe、「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review」、Monoclonal Antibodies '84: Biological And Clinical Applications、Pincheraetら(編)、475~506頁(1985);「Analysis, Results, And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy」、Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy、Baldwinら(編)、303~16頁(Academic Press 1985)、およびThorpeら、「The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody-Toxin Conjugates」、Immunol. Rev.、62: 119~58 (1982)を参照。
【0145】
本明細書において使用する場合、抗体が、動物を免疫することによって、または免疫グロブリン遺伝子ライブラリーをスクリーニングすることによって1つの系から得られ、選択された抗体が、生殖系列免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列と、アミノ酸配列において少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは、少なくとも96%、97%、98%、または99%同一である場合、抗体は、特定の生殖系列配列に「由来する」。一般に、特定の生殖系列配列に由来する抗体は、生殖系列免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列と10以下のアミノ酸差異、より好ましくは5以下、またはさらにより好ましくは、4、3、2、もしくは1以下のアミノ酸差異を示すことになる。
【0146】
本明細書において使用する場合、用語「ヘテロ抗体」は、2種以上の抗体、それらの誘導体、または一緒に連結された抗原結合性領域であって、これらのうちの少なくとも2種が異なる特異性を有するものを指す。これらの異なる特異性は、効果細胞上のFc受容体に対する結合特異性、および標的細胞、例えば、腫瘍細胞上の抗原またはエピトープに対する結合特異性を含む。
【0147】
本明細書に記載の抗体は、モノクローナル抗体とすることができる。用語「モノクローナル抗体」は、本明細書において使用する場合、単一分子組成の抗体分子の製剤を指す。モノクローナル抗体は、単一の結合特異性および親和性を示す。一実施形態では、モノクローナル抗体は、不死化細胞に融合された非ヒト動物、例えば、マウスから得られるB細胞を含むハイブリドーマによって生成される。
【0148】
本明細書に記載の抗体は、組換え抗体とすることができる。用語「組換え抗体」は、本明細書において使用する場合、組換え手段によって調製、発現、創製、または単離されるすべての抗体、例えば、(a)自己から調製される免疫グロブリン遺伝子またはハイブリドーマに関してトランスジェニックまたはトランスクロモソーマル(transchromosomal)である動物(例えば、マウス)から単離される抗体、(b)抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から、例えば、トランスフェクトーマから単離される抗体、(c)組換えコンビナトリアル抗体ライブラリーから単離される抗体、および(d)他のDNA配列に免疫グロブリン遺伝子配列をスプライシングする任意の他の手段によって調製、発現、創製、または単離される抗体などを含む。
【0149】
本明細書に記載の抗体は、それだけに限らないが、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、およびヒトを含めた様々な種に由来し得る。
【0150】
本明細書に記載の抗体としては、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体があり、IgA、例えば、IgA1またはIgA2、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgE、IgM、およびIgDの抗体がある。様々な実施形態では、抗体は、IgG1抗体、より具体的には、IgG1、カッパ、もしくはIgG1、ラムダアイソタイプ(すなわち、IgG1、κ、λ)、IgG2a抗体(例えば、IgG2a、κ、λ)、IgG2b抗体(例えば、IgG2b、κ、λ)、IgG3抗体(例えば、IgG3、κ、λ)、またはIgG4抗体(例えば、IgG4、κ、λ)である。
【0151】
用語「トランスフェクトーマ」は、本明細書において使用する場合、抗体を発現する組換え真核生物宿主細胞、例えば、CHO細胞、NS/0細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、植物細胞、または酵母細胞を含めた真菌などを含む。
【0152】
本明細書において使用する場合、「異種抗体」は、このような抗体を産生するトランスジェニック生物に関して定義される。この用語は、トランスジェニック生物からならない生物において見つかるものに対応するアミノ酸配列またはコード核酸配列を有し、一般にトランスジェニック生物以外の種に由来する抗体を指す。
【0153】
本明細書において使用する場合、「ヘテロハイブリッド抗体」は、異なる生物起源の軽鎖および重鎖を有する抗体を指す。例えば、マウス軽鎖に付随したヒト重鎖を有する抗体は、ヘテロハイブリッド抗体である。
【0154】
本発明は、本発明の目的に関して、用語「抗体」によって包含される、本明細書に記載のすべての抗体および抗体の誘導体を含む。用語「抗体誘導体」は、抗体の任意の修飾体、例えば、抗体と別の作用物質もしくは抗体とのコンジュゲート、または抗体断片を指す。
【0155】
本明細書に記載の抗体は、好ましくは単離されている。「単離抗体」は、本明細書において使用する場合、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体(例えば、CLDN18.2に特異的に結合する単離抗体は、CLDN18.2以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)を指すことが意図されている。しかし、ヒトCLDN18.2のエピトープ、アイソフォーム、またはバリアントに特異的に結合する単離抗体は、例えば、他の種からの他の関連抗原(例えば、CLDN18.2種同族体)と交差反応性を有する場合がある。さらに、単離抗体は、他の細胞物質および/または化学物質を実質的に含まない場合がある。本発明の一実施形態では、「単離」モノクローナル抗体の組合せは、異なる特異性を有し、特定の組成物または混合物中に組み合わされた抗体に関する。
【0156】
本発明による用語「結合性」は、好ましくは、特異的結合性に関する。
【0157】
本発明によれば、抗体は、これが所定の標的に対して有意な親和性を有し、標準的なアッセイで前記所定の標的に結合する場合、前記所定の標的に結合することができる。「親和性」または「結合親和性」は、平衡解離定数(KD)によって測定されることが多い。好ましくは、用語「有意な親和性」は、10-5M以下、10-6M以下、10-7M以下、10-8M以下、10-9M以下、10-10M以下、10-11M以下、または10-12M以下の解離定数(KD)で所定の標的に結合することを指す。
【0158】
抗体は、これが、標的に対して有意な親和性を有さず、標準的なアッセイで前記標的に有意に結合しない、特に検出可能な程度に結合しない場合、前記標的に(実質的に)結合することができない。好ましくは、抗体は、最大2、好ましくは10、より好ましくは20、特に、50、もしくは100μg/ml、またはそれ以上の濃度で存在する場合、前記標的に検出可能な程度に結合しない。好ましくは、抗体は、これが、抗体が結合することができる所定の標的への結合性についてのKDより、少なくとも10倍、100倍、103倍、104倍、105倍、または106倍高いKDで一標的に結合する場合、前記標的に対して有意な親和性をまったく有さない。例えば、抗体の、該抗体が結合することができる標的への結合性についてのKDが10-7Mである場合、抗体が有意な親和性をまったく有さない一標的への結合性についてのKDは、少なくとも10-6M、10-5M、10-4M、10-3M、10-2M、または10-1Mである。
【0159】
抗体は、これが、所定の標的に結合することができる一方、他の標的に結合することができず、すなわち、他の標的に対して有意な親和性を有さず、標準的なアッセイで他の標的に有意に結合しない場合、前記所定の標的に特異的である。本発明によれば、抗体は、これが、CLDN18.2に結合することができるが、他の標的に(実質的に)結合することができない場合、CLDN18.2に特異的である。好ましくは、このような他の標的に対する親和性およびこれらへの結合性が、CLDN18.2-無関係のタンパク質、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、ヒト血清アルブミン(HSA)、またはMHC分子もしくはトランスフェリン受容体などの非クローディン膜貫通タンパク質、または任意の他の指定されたポリペプチドなどに対する親和性またはこれらへの結合性を有意に超えない場合、抗体は、CLDN18.2に特異的である。好ましくは、抗体は、これが、特異的でない標的への結合性についてのKDより、少なくとも10分の1、100分の1、103分の1、104分の1、105分の1、または106分の1低いKDで所定の前記標的に結合する場合、所定の標的に特異的である。例えば、抗体の、これが特異的である標的への結合性についてのKDが10-7Mである場合、これが特異的でない標的への結合性についてのKDは、少なくとも10-6M、10-5M、10-4M、10-3M、10-2M、または10-1Mであるはずである。
【0160】
抗体の標的への結合性は、任意の適当な方法を使用して実験的に判定することができ、例えば、Berzofskyら「Antibody-Antigen Interactions」、Fundamental Immunology、Paul, W. E.編、Raven Press New York、N Y (1984)、Kuby、Janis Immunology、W. H. Freeman and Company New York、N Y (1992)、および本明細書に記載の方法を参照。親和性は、平衡透析によって;製造者が概説した一般的な手順を使用してBIAcore 2000計測器を使用することによって;放射標識された標的抗原を使用するラジオイムノアッセイによって;または当業者に公知の別の方法によってなど、慣例的な技法を使用して容易に判定することができる。親和性データは、例えば、Scatchardら、Ann N.Y. Acad. ScL、51:660 (1949)の方法によって分析することができる。特定の抗体-抗原相互作用の測定される親和性は、異なる条件、例えば、塩濃度、pH下で測定される場合、変動し得る。したがって、親和性ならびに他の抗原結合性パラメータ、例えば、KD、IC50の測定は、抗体および抗原の標準化された溶液、ならびに標準化された緩衝液を用いて行われることが好ましい。
【0161】
本明細書において使用する場合、「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えば、IgMまたはIgG1)を指す。
【0162】
本明細書において使用する場合、「アイソタイプスイッチング」は、抗体のクラスまたはアイソタイプが、1つのIgクラスから他のIgクラスの1つに変化する現象を指す。
【0163】
用語「天然に存在する」は、本明細書において使用する場合、物体に適用する場合、物体が自然において見つかり得る事実を指す。例えば、天然源から単離することができ、実験室で人によって意図的に改変されていない、生物(ウイルスを含む)中に存在するポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列は、天然に存在する。
【0164】
用語「再配列された」は、本明細書において使用する場合、Vセグメントが、それぞれ完全なVHドメインまたはVLドメインを本質的にコードするコンホメーション内でD-JセグメントまたはJセグメントに直接隣接して位置している重鎖または軽鎖の免疫グロブリン座位の構成を指す。再配列された免疫グロブリン(抗体)遺伝子座は、生殖系列DNAと比較することによって同定することができ、再配列された遺伝子座は、少なくとも1つの組換えられた七量体/九量体相同性エレメントを有することになる。
【0165】
用語「再配列されていない」または「生殖系列構成」は、Vセグメントを参照して本明細書で使用する場合、VセグメントがDセグメントまたはJセグメントに直接隣接しているように組換えられていない構成を指す。
【0166】
本発明によれば、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、CLDN18.2中に存在するエピトープ、好ましくは、CLDN18.2の細胞外ドメイン、特に、第1の細胞外ドメイン、好ましくは、CLDN18.2のアミノ酸29位~78位内に位置したエピトープに結合することができる抗体である。特定の実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、(i)CLDN18.1上に存在しないCLDN18.2上のエピトープ、好ましくは配列番号3、4、および5、(ii)CLDN18.2-ループ1上に局在化したエピトープ、好ましくは配列番号8、(iii)CLDN18.2-ループ2上に局在化したエピトープ、好ましくは配列番号10、(iv)CLDN18.2-ループD3上に局在化したエピトープ、好ましくは配列番号11、(v)CLDN18.2-ループ1およびCLDN18.2-ループD3を包含するエピトープ、または(vi)CLDN18.2-ループD3上に局在化した非グリコシル化エピトープ、好ましくは、配列番号9に結合することができる抗体である。
【0167】
本発明によれば、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、好ましくはCLDN18.2に結合する能力を有するが、CLDN18.1に結合する能力を有さない抗体である。好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、CLDN18.2に特異的である。好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、好ましくは細胞表面上で発現されるCLDN18.2に結合する能力を有する抗体である。特定の好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、生細胞の表面上に存在するCLDN18.2の天然エピトープに結合する。好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、配列番号1、3~11、44、46、および48~50からなる群から選択される1種または複数のペプチドに結合する。好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、上述のタンパク質、ペプチド、またはこれらの免疫原性断片もしくは誘導体に特異的である。CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、配列番号1、3~11、44、46、および48~50からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むタンパク質もしくはペプチド、または前記タンパク質もしくはペプチドを発現する核酸もしくは宿主細胞で動物を免疫する工程を含む方法によって得ることができる。好ましくは、抗体は、がん細胞、特に、上述したがんタイプの細胞に結合し、好ましくは、非がん性細胞に結合しない。
【0168】
好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体がCLDN18.2を発現する細胞に結合すると、CLDN18.2を発現する細胞の殺傷が誘導または媒介される。CLDN18.2を発現する細胞は、好ましくはがん細胞であり、特に、腫瘍形成性の胃、食道、膵臓、肺、卵巣、大腸、肝臓、頭頸部、および胆嚢のがん細胞からなる群から選択される。好ましくは、抗体は、CLDN18.2を発現する細胞の補体依存性細胞傷害(CDC)媒介溶解、抗体依存性細胞傷害(ADCC)媒介溶解、アポトーシス、および増殖の阻害の1つまたは複数を誘導することによって細胞の殺傷を誘導または媒介する。好ましくは、細胞のADCC媒介溶解は、効果細胞の存在下で起こり、効果細胞は、特定の実施形態では、単球、単核細胞、NK細胞、およびPMNからなる群から選択される。細胞の増殖の阻害は、ブロモデオキシウリジン(5-ブロモ-2-デオキシウリジン、BrdU)を使用するアッセイにおいて細胞の増殖を判定することによって、in vitroで測定することができる。BrdUは、チミジンの類似体であり、複製中の細胞(細胞周期のS期の間)の新しく合成されるDNA中に組み込むことができる合成ヌクレオシドであり、DNA複製中にチミジンを置換する。例えば、BrdUに特異的な抗体を使用して組み込まれた化学物質を検出すると、自己のDNAを活発に複製していた細胞が示される。
【0169】
好適な実施形態では、本明細書に記載の抗体は、以下の性質の1つまたは複数によって特徴付けることができる:
a)CLDN18.2に対する特異性;
b)約100nM以下、好ましくは約5~10nM以下、より好ましくは約1~3nM以下のCLDN18.2への結合親和性、
c)CLDN18.2陽性細胞上でCDCを誘導または媒介する能力;
d)CLDN18.2陽性細胞上でADCCを誘導または媒介する能力;
e)CLDN18.2陽性細胞の増殖を阻害する能力;
f)CLDN18.2陽性細胞のアポトーシスを誘導する能力。
【0170】
特に好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、DSMZ(Mascheroder Weg 1b、31824 Braunschweig、ドイツ;新規住所: Inhoffenstr. 7B、31824 Braunschweig、ドイツ)で寄託され、以下の名称および受託番号を有するハイブリドーマによって生成される:
a.182-D1106-055、受託番号DSM ACC2737、2005年10月19日に寄託
b.182-D1106-056、受託番号DSM ACC2738、2005年10月19日に寄託
c.182-D1106-057、受託番号DSM ACC2739、2005年10月19日に寄託
d.182-D1106-058、受託番号DSM ACC2740、2005年10月19日に寄託
e.182-D1106-059、受託番号DSM ACC2741、2005年10月19日に寄託
f.182-D1106-062、受託番号DSM ACC2742、2005年10月19日に寄託、
g.182-D1106-067、受託番号DSM ACC2743、2005年10月19日に寄託
h.182-D758-035、受託番号DSM ACC2745、2005年11月17日に寄託
i.182-D758-036、受託番号DSM ACC2746、2005年11月17日に寄託
j.182-D758-040、受託番号DSM ACC2747、2005年11月17日に寄託
k.182-D1106-061、受託番号DSM ACC2748、2005年11月17日に寄託
l.182-D1106-279、受託番号DSM ACC2808、2006年10月26日に寄託
m.182-D1106-294、受託番号DSM ACC2809、2006年10月26日に寄託、
n.182-D1106-362、受託番号DSM ACC2810、2006年10月26日に寄託。
【0171】
本発明による好適な抗体は、上述したハイブリドーマ、すなわち、182-D1106-055の場合では37G11、182-D1106-056の場合では37H8、182-D1106-057の場合では38G5、182-D1106-058の場合では38H3、182-D1106-059の場合では39F11、182-D1106-062の場合では43A11、182-D1106-067の場合では61C2、182-D758-035の場合では26B5、182-D758-036の場合では26D12、182-D758-040の場合では28D10、182-D1106-061の場合では42E12、182-D1106-279の場合では125E1、182-D1106-294の場合では163E12、および182-D1106-362の場合では175D10;によって生成されるもの、およびこれらから得られるもの、ならびにそれらのキメラ化形態およびヒト化形態である。
【0172】
好適なキメラ化抗体およびこれらの配列を、以下の表に示す。
【0173】
【0174】
好適な実施形態では、抗体、特に、本発明による抗体のキメラ化形態は、配列番号13によって表されるアミノ酸配列またはその断片などのヒト重鎖定常領域に由来するアミノ酸配列を含む重鎖定常領域(CH)を含む抗体を含む。さらなる好適な実施形態では、抗体、特に、本発明による抗体のキメラ化形態は、配列番号12によって表されるアミノ酸配列またはその断片などのヒト軽鎖定常領域に由来するアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域(CL)を含む抗体を含む。特定の好適な実施形態では、抗体、特に、本発明による抗体のキメラ化形態は、配列番号13によって表されるアミノ酸配列またはその断片などのヒトCHに由来するアミノ酸配列を含むCHを含み、配列番号12によって表されるアミノ酸配列またはその断片などのヒトCLに由来するアミノ酸配列を含むCLを含む抗体を含む。
【0175】
一実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、カッパマウス可変軽鎖、ヒトカッパ軽鎖定常領域アロタイプKm(3)、マウス重鎖可変領域、ヒトIgG1定常領域アロタイプG1m(3)を含む、キメラマウス/ヒトIgG1モノクローナル抗体である。
【0176】
ある特定の好適な実施形態では、抗体のキメラ化形態は、配列番号14、15、16、17、18、19からなる群から選択されるアミノ酸配列、およびその断片を含む重鎖を含み、かつ/または配列番号20、21、22、23、24、25、26、27、28からなる群から選択されるアミノ酸配列、およびその断片を含む軽鎖を含む抗体を含む。
【0177】
ある特定の好適な実施形態では、抗体のキメラ化形態は、以下の可能性(i)~(ix)から選択される重鎖と軽鎖の組合せを含む抗体を含む:
(i)配列番号14によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む重鎖、および配列番号21によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む軽鎖、
(ii)配列番号15によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む重鎖、および配列番号20によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む軽鎖、
(iii)配列番号16によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む重鎖、および配列番号22によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む軽鎖、
(iv)配列番号18によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む重鎖、および配列番号25によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む軽鎖、
(v)配列番号17によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む重鎖、および配列番号24によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む軽鎖、
(vi)配列番号19によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む重鎖、および配列番号23によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む軽鎖、
(vii)配列番号19によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む重鎖、および配列番号26によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む軽鎖、
(viii)配列番号19によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む重鎖、および配列番号27によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む軽鎖、および
(ix)配列番号19によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む重鎖、および配列番号28によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含む軽鎖。
【0178】
上記で使用した「断片」または「アミノ酸配列の断片」は、抗体配列の一部、すなわち、N末端および/またはC末端で短縮された抗体配列を表し、それが抗体中で前記抗体配列と入れ替わるとき、前記抗体のCLDN18.2への結合性、および好ましくは、本明細書に記載の前記抗体の機能、例えば、CDC媒介溶解またはADCC媒介溶解を保持する配列に関する。好ましくは、アミノ酸配列の断片は、前記アミノ酸配列に由来するアミノ酸残基の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%を含む。配列番号14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、および28からなる群から選択されるアミノ酸配列の断片は、好ましくはN末端の17、18、19、20、21、22、または23アミノ酸が除去されている前記配列に関する。
【0179】
好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、配列番号29、30、31、32、33、34からなる群から選択されるアミノ酸配列、およびその断片を含む重鎖可変領域(VH)を含む。
【0180】
好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、配列番号35、36、37、38、39、40、41、42、43からなる群から選択されるアミノ酸配列、およびその断片を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0181】
ある特定の好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、以下の可能性(i)~(ix)から選択される重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の組合せを含む:
(i)配列番号29によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVH、および配列番号36によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVL、
(ii)配列番号30によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVH、および配列番号35によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVL、
(iii)配列番号31によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVH、および配列番号37によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVL、
(iv)配列番号33によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVH、および配列番号40によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVL、
(v)配列番号32によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVH、および配列番号39によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVL、
(vi)配列番号34によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVH、および配列番号38によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVL、
(vii)配列番号34によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVH、および配列番号41によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVL、
(viii)配列番号34によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVH、および配列番号42によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVL、
(ix)配列番号34によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVH、および配列番号43によって表されるアミノ酸配列またはその断片を含むVL。
【0182】
好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、以下の実施形態(i)~(vi)から選択される相補性決定領域CDR1、CDR2、およびCDR3のセットを含むVHを含む:
(i)CDR1:配列番号14の45位~52位、CDR2:配列番号14の70位~77位、CDR3:配列番号14の116位~125位、
(ii)CDR1:配列番号15の45位~52位、CDR2:配列番号15の70位~77位、CDR3:配列番号15の116位~126位、
(iii)CDR1:配列番号16の45位~52位、CDR2:配列番号16の70位~77位、CDR3:配列番号16の116位~124位、
(iv)CDR1:配列番号17の45位~52位、CDR2:配列番号17の70位~77位、CDR3:配列番号17の116位~126位、
(v)CDR1:配列番号18の44位~51位、CDR2:配列番号18の69位~76位、CDR3:配列番号18の115位~125位、および
(vi)CDR1:配列番号19の45位~53位、CDR2:配列番号19の71位~78位、CDR3:配列番号19の117位~128位。
【0183】
好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、以下の実施形態(i)~(ix)から選択される相補性決定領域CDR1、CDR2、およびCDR3のセットを含むVLを含む:
(i)CDR1:配列番号20の47位~58位、CDR2:配列番号20の76位~78位、CDR3:配列番号20の115位~123位、
(ii)CDR1:配列番号21の49位~53位、CDR2:配列番号21の71位~73位、CDR3:配列番号21の110位~118位、
(iii)CDR1:配列番号22の47位~52位、CDR2:配列番号22の70位~72位、CDR3:配列番号22の109位~117位、
(iv)CDR1:配列番号23の47位~58位、CDR2:配列番号23の76位~78位、CDR3:配列番号23の115位~123位、
(v)CDR1:配列番号24の47位~58位、CDR2:配列番号24の76位~78位、CDR3:配列番号24の115位~123位、
(vi)CDR1:配列番号25の47位~58位、CDR2:配列番号25の76位~78位、CDR3:配列番号25の115位~122位、
(vii)CDR1:配列番号26の47位~58位、CDR2:配列番号26の76位~78位、CDR3:配列番号26の115位~123位、
(viii)CDR1:配列番号27の47位~58位、CDR2:配列番号27の76位~78位、CDR3:配列番号27の115位~123位、および
(ix)CDR1:配列番号28の47位~52位、CDR2:配列番号28の70位~72位、CDR3:配列番号28の109位~117位。
【0184】
好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、以下の実施形態(i)~(ix)から選択される相補性決定領域CDR1、CDR2、およびCDR3のセットをそれぞれ含むVHとVLの組合せを含む:
(i)VH:CDR1:配列番号14の45位~52位、CDR2:配列番号14の70位~77位、CDR3:配列番号14の116位~125位、VL: CDR1:配列番号21の49位~53位、CDR2:配列番号21の71位~73位、CDR3: 配列番号21の110位~118位、
(ii)VH:CDR1:配列番号15の45位~52位、CDR2:配列番号15の70位~77位、CDR3:配列番号15の116位~126位、VL:CDR1:配列番号20の47位~58位、CDR2:配列番号20の76位~78位、CDR3:配列番号20の115位~123位、
(iii)VH:CDR1:配列番号16の45位~52位、CDR2:配列番号16の70位~77位、CDR3:配列番号16の116位~124位、VL:CDR1:配列番号22の47位~52位、CDR2:配列番号22の70位~72位、CDR3:配列番号22の109位~117位、
(iv)VH:CDR1:配列番号18の44位~51位、CDR2:配列番号18の69位~76位、CDR3:配列番号18の115位~125位、VL:CDR1:配列番号25の47位~58位、CDR2:配列番号25の76位~78位、CDR3:配列番号25の115位~122位、
(v)VH:CDR1:配列番号17の45位~52位、CDR2:配列番号17の70位~77位、CDR3:配列番号17の116位~126位、VL:CDR1:配列番号24の47位~58位、CDR2:配列番号24の76位~78位、CDR3:配列番号24の115位~123位、
(vi)VH:CDR1:配列番号19の45位~53位、CDR2:配列番号19の71位~78位、CDR3:配列番号19の117位~128位、VL:CDR1:配列番号23の47位~58位、CDR2:配列番号23の76位~78位、CDR3:配列番号23の115位~123位、
(vii)VH:CDR1:配列番号19の45位~53位、CDR2:配列番号19の71位~78位、CDR3:配列番号19の117位~128位、VL:CDR1:配列番号26の47位~58位、CDR2:配列番号26の76位~78位、CDR3:配列番号26の115位~123位、
(viii)VH:CDR1:配列番号19の45位~53位、CDR2:配列番号19の71位~78位、CDR3:配列番号19の117位~128位、VL:CDR1:配列番号27の47位~58位、CDR2:配列番号27の76位~78位、CDR3: 配列番号27の115位~123位、および
(ix)VH:CDR1:配列番号19の45位~53位、CDR2:配列番号19の71位~78位、CDR3:配列番号19の117位~128位、VL:CDR1:配列番号28の47位~52位、CDR2:配列番号28の70位~72位、CDR3:配列番号28の109位~117位。
【0185】
さらなる好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、好ましくは、CLDN18.2に対するモノクローナル抗体の、好ましくは本明細書に記載のCLDN18.2に対するモノクローナル抗体の重鎖可変領域(VH)および/または軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域(CDR)の1つまたは複数、好ましくは少なくともCDR3可変領域を含み、好ましくは本明細書に記載の重鎖可変領域(VH)および/または軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域(CDR)の1つまたは複数、好ましくは少なくともCDR3可変領域を含む。一実施形態では、相補性決定領域(CDR)の前記1つまたは複数は、本明細書に記載の相補性決定領域CDR1、CDR2、およびCDR3のセットから選択される。特に好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、好ましくは、CLDN18.2に対するモノクローナル抗体の、好ましくは本明細書に記載のCLDN18.2に対するモノクローナル抗体の重鎖可変領域(VH)および/または軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域CDR1、CDR2、およびCDR3を含み、好ましくは本明細書に記載の重鎖可変領域(VH)および/または軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域CDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0186】
一実施形態では、本明細書に記載の1つまたは複数のCDR、CDRのセット、またはCDRのセットの組合せを含む抗体は、これらの介在性のフレームワーク領域と一緒に前記CDRを含む。好ましくは、この部分は、第1および第4のフレームワーク領域のいずれかまたは両方の少なくとも約50%も含み、この50%は、第1のフレームワーク領域のC末端の50%、および第4のフレームワーク領域のN末端の50%である。組換えDNA技法によって作製される抗体を構築すると、免疫グロブリン重鎖、他の可変ドメイン(例えば、ダイアボディの生成における)、またはタンパク質標識を含めたさらなるタンパク質配列に本発明の可変領域を接合するリンカーの導入を含めた、クローニングまたは他の操作工程を促進するために導入されるリンカーによってコードされる可変領域に残基N末端またはC末端を導入することができる。
【0187】
一実施形態では、本明細書に記載の1つまたは複数のCDR、CDRのセット、またはCDRのセットの組合せを含む抗体は、ヒト抗体フレームワーク内に前記CDRを含む。
【0188】
自己の重鎖に関して、特定の鎖、または特定の領域もしくは配列を含む抗体への本明細書での言及は、好ましくは、前記抗体のすべての重鎖が前記特定の鎖、領域、または配列を含む状況に関する。このことは、抗体の軽鎖に対応して当てはまる。
【0189】
用語「核酸」は、本明細書において使用する場合、DNAおよびRNAを含むことが意図されている。核酸は、一本鎖であっても二本鎖であってもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0190】
本発明によれば、用語「発現」は、その最も一般的な意味で使用され、RNAの、またはRNAおよびタンパク質/ペプチドの生成を含む。これは、核酸の部分的な発現も含む。さらに、発現は、一過性に、または安定に実施され得る。
【0191】
特異的なアミノ酸配列、例えば、配列表に示したものに関して本明細書で与える教示は、前記特異的配列と機能的に等価である配列、例えば、特異的なアミノ酸配列の性質と同一または同様の性質を呈するアミノ酸配列をもたらす前記特異的配列のバリアントにも関するように解釈されるべきである。1つの重要な性質は、抗体のその標的への結合性を保持すること、または抗体のエフェクター機能を維持することである。好ましくは、特異的配列に関してバリアントである配列は、それが抗体中で特異的配列と入れ替わるとき、前記抗体のCLDN18.2への結合性、および好ましくは、本明細書に記載の前記抗体の機能、例えば、CDC媒介溶解またはADCC媒介溶解を保持する。
【0192】
特に、CDR、超可変領域および可変領域の配列は、CLDN18.2に結合する能力を失うことなく修飾され得ることが当業者によって理解される。例えば、CDR領域は、本明細書で指定される抗体の領域と同一または高度に相同になる。「高度に相同の」によって、1~5、好ましくは1~4、例えば、1~3または1もしくは2などの置換が、CDR中で行われ得ることが企図されている。さらに、超可変領域および可変領域は、これらが本明細書に具体的に開示されている抗体の領域と実質的な相同性を示すように修飾することができる。
【0193】
本発明の目的に関して、アミノ酸配列の「バリアント」は、アミノ酸挿入バリアント、アミノ酸付加バリアント、アミノ酸欠失バリアント、および/またはアミノ酸置換バリアントを含む。タンパク質のN末端および/またはC末端で欠失を含むアミノ酸欠失バリアントは、N末端および/またはC末端トランケーションバリアントとも呼ばれる。
【0194】
アミノ酸挿入バリアントは、特定のアミノ酸配列中に単一または2つ以上のアミノ酸の挿入を含む。挿入を有するアミノ酸配列バリアントの場合では、1つまたは複数のアミノ酸残基がアミノ酸配列中の特定の部位内に挿入されるが、得られる産物の適切なスクリーニングを用いてランダムに挿入することも可能である。
【0195】
アミノ酸付加バリアントは、1つまたは複数のアミノ酸、例えば、1、2、3、5、10、20、30、50、またはそれ以上のアミノ酸などのアミノおよび/またはカルボキシ末端融合を含む。
【0196】
アミノ酸欠失バリアントは、配列からの1つまたは複数のアミノ酸の除去によって、例えば、1、2、3、5、10、20、30、50、またはそれ以上アミノ酸の除去などによって特徴付けられる。欠失は、タンパク質の任意の位置内とすることができる。
【0197】
アミノ酸置換バリアントは、配列中の少なくとも1種の残基が除去され、別の残基がその場所に挿入されることによって特徴付けられる。相同タンパク質またはペプチド同士間で保存されていないアミノ酸配列中の位置内にある修飾、および/またはアミノ酸を同様の性質を有する他のアミノ酸と置き換えることが好ましい。好ましくは、タンパク質バリアント中のアミノ酸変化は、保存的アミノ酸変化、すなわち、同様に帯電したアミノ酸または無荷電のアミノ酸の置換である。保存的アミノ酸変化は、自己の側鎖に関係しているアミノ酸のファミリーの1つの置換を伴う。天然に存在するアミノ酸は一般に、4つのファミリー、すなわち、酸性(アスパラギン酸、グルタミン酸)、塩基性(リシン、アルギニン、ヒスチジン)、非極性(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、および無荷電極性(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン)のアミノ酸に分類される。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは時折、芳香族アミノ酸として合同で分類される。
【0198】
所与のアミノ酸配列と前記所与のアミノ酸配列のバリアントであるアミノ酸配列との間の類似性、好ましくは同一性の程度は、少なくとも約60%、65%、70%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%になる。類似性または同一性の程度は、参照アミノ酸配列の全長の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または約100%であるアミノ酸領域について好ましくは与えられる。例えば、参照アミノ酸配列が200アミノ酸からなる場合、類似性または同一性の程度は、少なくとも約20、少なくとも約40、少なくとも約60、少なくとも約80、少なくとも約100、少なくとも約120、少なくとも約140、少なくとも約160、少なくとも約180、または約200のアミノ酸、好ましくは連続アミノ酸について好ましくは与えられる。好適な実施形態では、類似性または同一性の程度は、参照アミノ酸配列の全長について与えられる。配列類似性、好ましくは配列同一性を決定するための整列は、当技術分野で公知のツールを用いて、好ましくは最良配列整列を使用して、例えば、標準的な設定、好ましくはEMBOSS::needle、Matrix: Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5を使用するAlignを使用して行うことができる。
【0199】
「配列類似性」は、同一であるか、または保存的アミノ酸置換を表すアミノ酸のパーセンテージを示す。2つのアミノ酸配列間の「配列同一性」は、配列同士間で同一であるアミノ酸のパーセンテージを示す。
【0200】
用語「パーセンテージ同一性」は、最良整列をした後に得られる、比較される2つの配列間で同一であるアミノ酸残基のパーセンテージを表すように意図されており、このパーセンテージは、純粋に統計的であり、2つの配列間の差異は、ランダムに、かつこれらの全長にわたって分布している。2つのアミノ酸配列間の配列比較は、これらの配列を最適に整列した後にこれらを比較することによって慣例的に実施され、前記比較は、配列類似性の局所領域を同定および比較するために、セグメントによって、または「比較のウインドウ」によって実施される。比較のための配列の最適な整列は、手作業に加えて、SmithおよびWaterman、1981、Ads App. Math.、2、482の局所相同性アルゴリズムによって、NeddlemanおよびWunsch、1970、J. Mol. Biol.、48、443の局所相同性アルゴリズムによって、PearsonおよびLipman、1988、Proc. Natl Acad. Sci. USA、85、2444の類似性検索法によって、またはコンピュータープログラムであって、これらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575 Science Drive、Madison、Wis.におけるGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST N、およびTFASTA)を使用する、プログラムによって、生成することができる。
【0201】
パーセンテージ同一性は、比較されている2つの配列間の同一の位置の数を判定し、この数を比較された位置の数で除し、得られた結果に100を乗じ、その結果、これらの2つの配列間のパーセンテージ同一性を得ることによって計算される。
【0202】
用語「トランスジェニック動物」は、1つまたは複数の導入遺伝子、好ましくは重鎖導入遺伝子および/もしくは軽鎖導入遺伝子、またはトランス染色体(動物の天然ゲノムDNA中に組み込まれた、もしくは組み込まれていない)を含むゲノムを有し、好ましくは導入遺伝子を発現することができる動物を指す。例えば、トランスジェニックマウスは、ヒト軽鎖導入遺伝子、およびヒト重鎖導入遺伝子またはヒト重鎖トランス染色体を有することができ、その結果このマウスは、CLDN18.2抗原および/またはCLDN18.2を発現する細胞で免疫されたとき、ヒト抗CLDN18.2抗体を産生する。ヒト重鎖導入遺伝子を、トランスジェニックマウス、例えば、HuMAbマウス、例えば、HCo7マウスもしくはHCol2マウスなどの場合と同様に、マウスの染色体DNA中に組み込むことができ、またはヒト重鎖導入遺伝子を、WO02/43478に記載のトランスクロモソーマル(例えば、KM)マウスの場合と同様に染色体外で維持することができる。このようなトランスジェニックマウスおよびトランスクロモソーマルマウスは、V-D-J組換えおよびアイソタイプスイッチングを経ることによって、CLDN18.2に対するヒトモノクローナル抗体の複数のアイソタイプ(例えば、IgG、IgA、および/またはIgE)を産生することができる。
【0203】
「低減する」、「減少する」、または「阻害する」は、本明細書において使用する場合、レベルの、例えば、発現のレベルの、または細胞の増殖のレベルの、好ましくは5%以上、10%以上、20%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは75%以上の全体的な減少、または全体的な減少を引き起こす能力を意味する。
【0204】
「増大させる」または「増強する」などの用語は、好ましくは、約少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%、少なくとも10000%、または、さらにそれ以上の増大または増強に関する。
【0205】
mAb作用の機構
以下のことは、本発明の抗体の治療有効性の基礎をなす機構に関する考察を提供するが、決して本発明を限定するものとしてみなされるべきでない。
【0206】
本明細書に記載の抗体は、好ましくはADCCまたはCDCによって、免疫系の成分と好ましくは相互作用する。本明細書に記載の抗体は、腫瘍細胞を直接殺すために、ペイロード(例えば、放射性同位体、薬物、もしくは毒素)を標的に向けるのにも使用することができ、または従来の化学療法剤と相乗的に使用し、Tリンパ球に対する化学療法剤の細胞傷害性副作用のために損なわれた場合のある抗腫瘍免疫応答を含み得る相補的作用機序によって腫瘍を攻撃することができる。しかし、本明細書に記載の抗体は、単に細胞表面上のCLDN18.2に結合し、したがって例えば、細胞の増殖を遮断することによって効果を発揮することもできる。
【0207】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害
ADCCは、抗体によってマークされている標的細胞を好ましくは必要とする本明細書に記載の効果細胞、特にリンパ球の細胞殺傷能力を記述するものである。
【0208】
ADCCは、好ましくは、抗体が腫瘍細胞上の抗原に結合し、抗体Fcドメインが免疫効果細胞の表面上のFc受容体(FcR)と係合するとき起こる。Fc受容体のいくつかのファミリーが同定されており、特定の細胞集団は、規定されたFc受容体を特徴的に発現する。ADCCは、抗原提示をし、腫瘍指向性T-細胞応答を誘導する多様な程度の即時の腫瘍破壊を直接誘導する機構として見ることができる。好ましくは、ADCCをin vivoで誘導すると、腫瘍指向性T-細胞応答および宿主由来抗体応答に至ることになる。
【0209】
補体依存性細胞傷害
CDCは、抗体によって向けることができる別の細胞殺傷方法である。IgMは、補体活性化の最も有効なアイソタイプである。IgG1およびIgG3もともに、古典的な補体活性化経路を介してCDCを向けることに非常に有効である。好ましくは、このカスケードにおいて、抗原抗体複合体の形成が、IgG分子などの参加抗体分子のCH2ドメイン上で近接近している複数のClq結合性部位のクローク解除(uncloaking)をもたらす(C1qは、補体C1の3つの小成分の1つである)。好ましくは、これらのクローク解除されたC1q結合性部位は、以前は低親和性であったC1q-IgG相互作用を、高い結合活性の1つに変換し、それは、一連の他の補体タンパク質を伴うイベントのカスケードを誘因し、効果細胞走化性物質/活性化剤C3aおよびC5aのタンパク質分解放出をもたらす。好ましくは、補体カスケードは、細胞膜傷害複合体の形成で終わり、それにより細胞膜内に孔が作られ、孔は、細胞内外への水および溶質の自由通過を促進する。
【0210】
本明細書に記載の抗体は、慣例的なモノクローナル抗体の方法、例えば、KohlerおよびMilstein、Nature、256: 495 (1975)の標準的な体細胞ハイブリダイゼーション技法を含めた、様々な技法によって生成することができる。体細胞ハイブリダイゼーション手順が好適であるが、原理上は、モノクローナル抗体を生成するための他の技法、例えば、B-リンパ球のウイルス形質転換もしくは癌化、または抗体遺伝子のライブラリーを使用するファージディスプレイ技法も使用することができる。
【0211】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを調製するための好適な動物系は、マウス系である。マウスにおけるハイブリドーマ生成は、非常によく確立された手順である。融合のために免疫された脾細胞を単離するための免疫化プロトコールおよび技法は、当技術分野で公知である。融合パートナー(例えば、マウス骨髄腫細胞)、および融合手順も公知である。
【0212】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを調製するための他の好適な動物系は、ラット系およびウサギ系である(例えば、Spieker-Poletら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、92:9348 (1995)に記載されており、Rossiら、Am. J. Clin. Pathol.、124: 295 (2005)も参照)。
【0213】
さらに別の好適な実施形態では、ヒトモノクローナル抗体を、マウス系ではなくヒト免疫系の一部を担持するトランスジェニックマウスまたはトランスクロモソーマルマウスを使用して生成することができる。これらのトランスジェニックマウスおよびトランス染色体マウスは、それぞれ、HuMAbマウスおよびKMマウスとして公知のマウスを含み、「トランスジェニックマウス」と本明細書で総称される。このようなトランスジェニックマウスにおけるヒト抗体の生成は、WO2004 035607でCD20について詳細に記載されているように実施することができる。
【0214】
モノクローナル抗体を生成するためのさらに別のストラテジーは、明確な特異性の抗体を産生するリンパ球から抗体をコードする遺伝子を直接単離することであり、例えば、Babcockら、1996; A novel strategy for generating monoclonal antibodies from single, isolated lymphocytes producing antibodies of defined specificitiesを参照。組換え抗体操作の詳細については、WelschofおよびKraus、Recombinant antibodes for cancer therapy、ISBN-0-89603-918-8、ならびにBenny K.C. Lo、Antibody Engineering、ISBN 1-58829-092-1も参照。
【0215】
抗体を生成するために、記載したように、マウスを、抗原配列、すなわち、抗体が向けられる配列に由来する担体コンジュゲートペプチド、組換えで発現された抗原もしくはその断片の濃縮製剤、および/または抗原を発現する細胞で免疫することができる。代わりに、マウスを、抗原またはその断片をコードするDNAで免疫することができる。抗原の精製または濃縮された製剤を使用して免疫化しても、抗体がもたらされない場合には、マウスを、抗原を発現する細胞、例えば、細胞株で免疫して、免疫応答を促進することもできる。
【0216】
免疫応答は、尾静脈採血または眼窩後方採血によって得られる血漿試料および血清試料を用いて免疫化プロトコールの過程にわたって監視することができる。十分な力価の免疫グロブリンを有するマウスを、融合に使用することができる。特異的抗体分泌ハイブリドーマの割合を増大させるために、マウスを、屠殺および脾臓の取り出しの3日前に、抗原発現細胞で腹腔内または静脈内に追加免疫することができる。
【0217】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを生成するために、免疫化マウスからの脾細胞およびリンパ節細胞を単離し、マウス骨髄腫細胞株などの適切な不死化細胞株に融合することができる。次いで得られたハイブリドーマを、抗原特異的抗体を生成するためにスクリーニングすることができる。次いで個々のウェルを、抗体分泌ハイブリドーマについてELISAによってスクリーニングすることができる。抗原発現細胞を使用する免疫蛍光およびFACS分析によって、抗原に対して特異性を有する抗体が同定され得る。抗体分泌ハイブリドーマを再び蒔き、再びスクリーニングすることができ、モノクローナル抗体について依然として陽性である場合、希釈を制限することによってサブクローニングすることができる。次いで安定なサブクローンをin vitroで培養して組織培養基中で抗体を生成し、特徴付けることができる。
【0218】
抗体は、当技術分野で周知であるように、例えば、組換えDNA技法と遺伝子トランスフェクション法の組合せを使用して、宿主細胞トランスフェクトーマ内で生成することもできる(Morrison, S. (1985) Science、229: 1202)。
【0219】
例えば、一実施形態では、対象の遺伝子(複数可)、例えば、抗体遺伝子を、WO87/04462、WO89/01036、およびEP338841に開示されたGS遺伝子発現系、または当技術分野で周知の他の発現系によって使用されているものなどの真核生物発現プラスミドなどの発現ベクター内にライゲーションすることができる。クローン化抗体遺伝子を含む精製プラスミドを、真核生物宿主細胞、例えば、CHO細胞、NS/0細胞、HEK293T細胞、またはHEK293細胞など、または代わりに他の真核細胞様植物由来細胞、真菌細胞または酵母細胞内に導入することができる。これらの遺伝子を導入するのに使用される方法は、当技術分野で記載されている方法、例えば、電気穿孔、リポフェクチン(lipofectine)、リポフェクタミンなどであり得る。宿主細胞内にこれらの抗体遺伝子を導入した後、抗体を発現する細胞を同定および選択することができる。これらの細胞は、トランスフェクトーマを代表し、次いでこれらを、その発現レベルのために増幅し、抗体を生成するためにアップスケールすることができる。組換え抗体は、これらの培養上清および/または細胞から単離および精製することができる。
【0220】
代わりに、クローン化抗体遺伝子を、微生物、例えば、大腸菌(E. coli)などの原核細胞を含めた他の発現系内で発現させることができる。さらに、抗体を、トランスジェニック非ヒト動物内、例えば、ヒツジおよびウサギ由来の乳内、雌鶏由来の卵子内、またはトランスジェニック植物内などで生成することができる。例えば、Verma, R.ら、(1998) J. Immunol. Meth.、216: 165~181; Pollockら、(1999) J. Immunol. Meth.、231: 147~157;およびFischer, R.ら、(1999) Biol. Chem.、380: 825~839を参照。
【0221】
キメラ化
マウスモノクローナル抗体は、毒素または放射性同位体で標識される場合、ヒトにおける治療抗体として使用することができる。非標識マウス抗体は、繰り返し適用される場合、人において高度に免疫原性であり、治療効果を低減する。主な免疫原性は、重鎖定常領域によって媒介される。人におけるマウス抗体の免疫原性は、それぞれの抗体がキメラ化またはヒト化されている場合、低減または完全に回避され得る。キメラ抗体は、異なる部分が異なる動物種に由来する抗体、例えば、マウス抗体に由来する可変領域およびヒト免疫グロブリン定常領域を有するものなどである。抗体のキメラ化は、マウス抗体重鎖および軽鎖の可変領域を、ヒト重鎖および軽鎖の定常領域と接合することによって実現される(例えば、Krausら、Methods in Molecular Biology series, Recombinant antibodies for cancer therapy、ISBN-0-89603-918-8によって記載されているように)。好適な実施形態では、キメラ抗体は、ヒトカッパ-軽鎖定常領域をマウス軽鎖可変領域に接合することによって生成される。やはり好適な実施形態では、キメラ抗体は、ヒトラムダ-軽鎖定常領域をマウス軽鎖可変領域に接合することによって生成され得る。キメラ抗体を生成するのに好適な重鎖定常領域は、IgG1、IgG3、およびIgG4である。キメラ抗体を生成するための他の好適な重鎖定常領域は、IgG2、IgA、IgD、およびIgMである。
【0222】
ヒト化
抗体は、主に6つの重鎖および軽鎖相補性決定領域(CDR)内に位置したアミノ酸残基によって標的抗原と相互作用する。この理由で、CDR内のアミノ酸配列は、CDRの外側の配列より、個々の抗体同士間で多様である。CDR配列は、ほとんどの抗体-抗原相互作用に関与するので、異なる性質を有する異なる抗体由来のフレームワーク配列上にグラフトされた特定の天然に存在する抗体由来のCDR配列を含む発現ベクターを構築することによって、特定の天然に存在する抗体の性質を模倣する組換え抗体を発現させることが可能である(例えば、Riechmann, L.ら、(1998) Nature、332: 323~327; Jones, P.ら、(1986) Nature、321: 522~525;およびQueen, C.ら、(1989) Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A.、86: 10029~10033を参照)。このようなフレームワーク配列は、生殖系列抗体遺伝子配列を含む公共のDNAデータベースから得ることができる。これらの生殖系列配列は、B細胞成熟の間のV(D)J接合によって形成される完全にアセンブルされた可変遺伝子を含まないので、成熟抗体遺伝子配列と異なることになる。生殖系列遺伝子配列は、可変領域に均等にわたる個々の場所で高親和性二次レパートリー抗体の配列とも異なることになる。
【0223】
抗原に結合する抗体の能力は、標準的な結合アッセイ(例えば、ELISA、ウェスタンブロット、免疫蛍光、およびフローサイトメトリー分析)を使用して判定することができる。
【0224】
抗体を精製するために、選択されたハイブリドーマを、モノクローナル抗体精製用2リットルスピナーフラスコ内で増殖させることができる。代わりに、抗体を透析ベースバイオリアクター内で生成することができる。プロテインG-セファロースまたはプロテインA-セファロースを用いた親和性クロマトグラフィーの前に、上清を濾過し、必要であれば濃縮することができる。溶出したIgGをゲル電気泳動および高速液体クロマトグラフィーによって確認して純度を保証することができる。緩衝液をPBSに交換することができ、濃度は、1.43の吸光係数を使用してOD280によって決定され得る。モノクローナル抗体は、アリコートし、-80℃で貯蔵することができる。
【0225】
選択されたモノクローナル抗体が独特のエピトープに結合するか否かを判定するために、部位特異的または多部位特異的突然変異誘発を使用することができる。
【0226】
抗体のアイソタイプを判定するために、様々な市販のキット(例えば、Zymed、Roche Diagnostics)を用いたアイソタイプELISAを実施することができる。マイクロタイタープレートのウェルを、抗マウスIgでコーティングすることができる。遮断した後、プレートをモノクローナル抗体または精製されたアイソタイプ対照と、周囲温度で2時間反応させる。次いでウェルを、マウスIgG1、IgG2a、IgG2b、もしくはIgG3、IgA、またはマウスIgM特異的ペルオキシダーゼコンジュゲートプローブと反応させることができる。洗浄後、プレートをABTS基質(1mg/ml)で展開し、405~650のODで分析することができる。代わりに、IsoStrip Mouse Monoclonal Antibody Isotyping Kit(Roche、カタログ番号1493027)を、製造者によって説明されているように使用してもよい。
【0227】
免疫化マウスの血清中の抗体の存在、または抗原を発現する生細胞へのモノクローナル抗体の結合を実証するために、フローサイトメトリーを使用することができる。天然に、またはトランスフェクション後に抗原を発現する細胞株、および抗原発現を欠く陰性対照(標準的な増殖条件下で増殖させた)を、ハイブリドーマ上清中、または1%のFBSを含有するPBS中で様々な濃度のモノクローナル抗体と混合することができ、4℃で30分間インキュベートすることができる。洗浄後、APCまたはアレクサ647標識抗IgG抗体を、一次抗体染色と同じ条件下で、抗原結合モノクローナル抗体に結合させることができる。単一の生細胞をゲートするために光特性および側方散乱特性を使用して、FACS計測器を用いてフローサイトメトリーによって試料を分析することができる。単回測定で抗原特異的モノクローナル抗体を非特異的バインダーと区別するために、同時トランスフェクションの方法を使用することができる。抗原をコードするプラスミドを一過性にトランスフェクトした細胞、および蛍光マーカーを、上述したように染色することができる。トランスフェクション細胞は、抗体染色された細胞と異なる蛍光チャネルで検出することができる。トランスフェクション細胞の大部分は、両方の導入遺伝子を発現するので、抗原特異的モノクローナル抗体は、蛍光マーカー発現細胞に優先的に結合し、一方、非特異的な抗体は、非トランスフェクション細胞に同等の比で結合する。フローサイトメトリーアッセイに加えて、またはその代わりに、蛍光顕微鏡観察を使用する代替のアッセイを使用してもよい。細胞を上述したように正確に染色し、蛍光顕微鏡観察によって検査することができる。
【0228】
免疫化マウスの血清中の抗体の存在、または抗原を発現する生細胞へのモノクローナル抗体の結合を実証するために、免疫蛍光顕微鏡観察分析を使用することができる。例えば、自発的に、またはトランスフェクション後に抗原を発現する細胞株、および抗原発現を欠く陰性対照を、10%のウシ胎児血清(FCS)、2mMのL-グルタミン、100IU/mlのペニシリン、およびl00μg/mlのストレプトマイシンを補充したDMEM/F12培地中で、標準的な増殖条件下で、チャンバースライド内で増殖させる。次いで細胞を、メタノールまたはパラホルムアルデヒドで固定し、または未処理で放置することができる。次いで細胞を、25℃で30分間、抗原に対するモノクローナル抗体と反応させることができる。洗浄後、細胞を、同じ条件下でアレクサ555標識抗マウスIgG二次抗体(Molecular Probes)と反応させることができる。次いで細胞を、蛍光顕微鏡観察によって検査することができる。
【0229】
抗原を発現する細胞および適切な陰性対照から細胞抽出物を調製し、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけることできる。電気泳動後、分離した抗原をニトロセルロース膜に移し、遮断し、試験されるモノクローナル抗体でプローブする。IgG結合は、抗マウスIgGペルオキシダーゼを使用して検出し、ECL基質で展開することができる。
【0230】
抗体は、当業者に周知の様式で、例えば、慣例的な外科手術の間に患者から、または自発的に、またはトランスフェクション後に抗原を発現する細胞株を接種した異種移植腫瘍を担持するマウスから得られる非がん組織またはがん組織試料に由来するパラホルムアルデヒドもしくはアセトン固定凍結切片、またはパラホルムアルデヒドで固定したパラフィン包埋組織切片を使用して、免疫組織化学検査によって抗原との反応性についてさらに試験することができる。免疫染色するために、抗原に対して反応性の抗体を、供給業者の指示に従って、インキュベートし、その後、西洋わさびペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗マウスまたはヤギ抗ウサギ抗体(DAKO)をインキュベートすることができる。
【0231】
抗体を、CLDN18.2を発現する細胞の食作用および殺傷を媒介するこれらの能力について試験することができる。in vitroでモノクローナル抗体活性を試験すると、in vivoモデルにおいて試験する前の初期スクリーニングがもたらされる。
【0232】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC):
簡単に言えば、健康なドナーからの多形核細胞(PMN)、NK細胞、単球、単核細胞、または他の効果細胞を、フィコールハイパック密度遠心分離によって精製し、その後、夾雑赤血球を溶解することができる。洗浄した効果細胞を、10%の熱不活化ウシ胎児血清、または代わりに5%の熱不活化ヒト血清を補充したRPMI中に懸濁させ、効果細胞と標的細胞の様々な比で、CLDN18.2を発現する51Cr標識標的細胞と混合することができる。代わりに、標的細胞を、蛍光強化リガンド(BATDA)で標識してもよい。死細胞から放出される強化リガンドを含むユウロピウムの高度に蛍光性のキレートを、蛍光光度計によって測定することができる。別の代替の技法では、ルシフェラーゼによる標的細胞のトランスフェクションを利用してもよい。次いで添加したルシファーイエローを、生存細胞のみによって酸化させることができる。次いで精製抗CLDN18.2 IgGを、様々な濃度で添加することができる。無関係のヒトIgGは、陰性対照として使用され得る。アッセイは、使用される効果細胞タイプに応じて、37℃で4~20時間にわたって実施することができる。培養上清中の51Cr放出またはEuTDAキレートの存在を測定することによって、細胞溶解について試料をアッセイすることができる。代わりに、ルシファーイエローの酸化から生じる蛍光が、生存細胞の尺度であり得る。
【0233】
細胞溶解が複数のモノクローナル抗体で増強されるか否かを判定するために、抗CLDN18.2モノクローナル抗体を様々な組合せで試験することもできる。
【0234】
補体依存性細胞傷害(CDC):
モノクローナル抗CLDN18.2抗体を、様々な公知の技法を使用して、CDCを媒介するこれらの能力について試験することができる。例えば、補体用血清を、当業者に公知の様式で血液から得ることができる。mAbのCDC活性を判定するために、様々な方法を使用することができる。51Cr放出を、例えば測定することができ、膜透過性の上昇を、ヨウ化プロピジウム(PI)排除アッセイを使用して評価することができる。簡単に言えば、標的細胞を洗浄し、5×105個/mlを、室温または37℃で10~30分間、様々な濃度のmAbとともにインキュベートすることができる。次いで血清または血漿を20%(v/v)の最終濃度まで添加し、細胞を37℃で20~30分間インキュベートすることができる。各試料からのすべての細胞を、FACSチューブ内のPI溶液に添加することができる。次いで混合物を、FACSArrayを使用してフローサイトメトリー分析によって直ちに分析することができる。
【0235】
代替のアッセイでは、CDCの誘導を、接着細胞で判定することができる。このアッセイの一実施形態では、組織培養平底マイクロタイタープレート内で、3×104個/ウェルの密度で、アッセイの24時間前に細胞を播種する。翌日、増殖培地を取り出し、細胞を抗体とともに三連でインキュベートする。対照細胞を増殖培地または0.2%のサポニンを含有する増殖培地とともにインキュベートし、それぞれバックグラウンド溶解および最大溶解を判定する。室温で20分間インキュベートした後、上清を取り出し、DMEM(37℃に予熱した)中の20%(v/v)のヒト血漿または血清を細胞に添加し、37℃でさらに20分間インキュベートする。各試料からのすべての細胞をヨウ化プロピジウム溶液(10μg/ml)に添加する。次いで上清を2.5μg/mlの臭化エチジウムを含有するPBSで置き換え、520nmで励起した際の蛍光発光を、Tecan Safireを使用して600nmで測定する。パーセンテージ特異的溶解を以下の通り計算する:%特異的溶解=(試料の蛍光-バックグラウンドの蛍光)/(最大溶解の蛍光-バックグラウンドの蛍光)×100。
【0236】
モノクローナル抗体によるアポトーシスの誘導および細胞増殖の阻害:
アポトーシスを開始する能力を試験するために、モノクローナル抗CLDN18.2抗体を、例えば、CLDN18.2陽性腫瘍細胞、例えば、SNU-16、DAN-G、KATO-III、またはCLDN18.2をトランスフェクトされた腫瘍細胞とともに、37℃で約20時間インキュベートすることができる。細胞を回収し、アネキシン-V結合緩衝液(BD biosciences)中で洗浄し、FITCまたはAPCとコンジュゲートされたアネキシンV(BD biosciences)とともに暗所で15分間インキュベートすることができる。各試料からのすべての細胞を、FACSチューブ内のPI溶液(PBS中10μg/ml)に添加し、フローサイトメトリーによって直ちに評価することができる(上記の通り)。代わりに、モノクローナル抗体による細胞増殖の一般的な阻害は、市販のキットで検出され得る。DELFIA Cell Proliferation Kit(Perkin-Elmer、カタログ番号AD0200)は、マイクロプレート内の増殖中の細胞のDNA合成の間の5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)取込みの測定に基づく非同位体イムノアッセイである。取り込まれたBrdUは、ユウロピウム標識モノクローナル抗体を使用して検出する。抗体検出を可能にするために、細胞を固定し、Fix溶液を使用してDNAを変性させる。非結合抗体を洗い流し、DELFIA誘導因子を添加して、標識抗体から溶液中にユウロピウムイオンを解離させ、この場合、これらは、DELFIA誘導因子の成分と高度に蛍光性のキレートを形成する。検出において時間分解蛍光測定を利用して測定される蛍光は、各ウェルの細胞内のDNA合成に比例する。
【0237】
前臨床試験
CLDN18.2に結合するモノクローナル抗体はまた、CLDN18.2発現腫瘍細胞の増殖の制御におけるこれらの効力を判定するために、in vivoモデルで(例えば、CLDN18.2を発現する細胞株、例えば、DAN-G、SNU-16、もしくはKATO-III、またはトランスフェクション後にCLDN18.2を発現する細胞株、例えば、HEK293が接種された異種移植腫瘍を担持する免疫欠損マウスで)試験することができる。
【0238】
CLDN18.2発現腫瘍細胞を免疫不全マウスまたは他の動物内に異種移植した後のin vivo試験は、本明細書に記載の抗体を使用して実施することができる。抗体を無腫瘍マウスに投与し、その後腫瘍細胞を注射して、腫瘍の形成または腫瘍関連症状を予防する抗体の効果を測定することができる。抗体を担腫瘍マウスに投与して、腫瘍増殖、転移、または腫瘍関連症状を低減する、それぞれの抗体の治療有効性を判定することができる。抗体適用を、他の物質、例えば、細胞増殖抑制薬(cystostatic drug)、増殖因子阻害剤、細胞周期遮断薬、血管新生阻害剤、または他の抗体の適用と組み合わせて、組合せの相乗的効力および潜在的毒性を判定することができる。抗体によって媒介される有毒な副作用を分析するために、動物に抗体または対照試薬を接種し、CLDN18.2-抗体療法におそらく関連した症状を完全に調査することができる。CLDN18.2抗体のin vivo適用の可能性がある副作用として、特に、胃を含めたCLDN18.2発現組織における毒性が挙げられる。ヒトにおいて、および他の種、例えば、マウスにおいてCLDN18.2を認識する抗体は、ヒトにおけるモノクローナルCLDN18.2-抗体の適用によって媒介される潜在的な副作用を予測するのに特に有用である。
【0239】
抗体が認識するエピトープのマッピングは、「Epitope Mapping Protocols」(Methods in Molecular Biology)、Glenn E. Morris、ISBN-089603-375-9、および「Epitope Mapping: A Practical Approach」Practical Approach Series、248、Olwyn M. R. Westwood、Frank C. Hay.に詳細に記載されているように実施することができる。
【0240】
本明細書に記載の化合物および作用物質は、任意の適当な医薬組成物の形態で投与され得る。
【0241】
医薬組成物は通常、均一な剤形で提供され、それ自体は公知の様式で調製することができる。医薬組成物は、例えば、溶液または懸濁液の形態であり得る。
【0242】
医薬組成物は、塩、緩衝物質、防腐剤、担体、希釈剤、および/または賦形剤を含むことができ、これらのすべては、好ましくは薬学的に許容される。用語「薬学的に許容される」は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない材料の無毒性を指す。
【0243】
薬学的に許容されない塩は、薬学的に許容される塩を調製するのに使用してもよく、本発明の中に含まれる。この種類の薬学的に許容される塩は、非制限的な様式で、以下の酸から調製されるものを含む:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸など。薬学的に許容される塩は、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、またはカルシウム塩などとしても調製することができる。
【0244】
医薬組成物中に使用するのに適した緩衝物質としては、塩での酢酸、塩でのクエン酸、塩でのホウ酸、および塩でのリン酸がある。
【0245】
医薬組成物中に使用するのに適した防腐剤としては、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベン、およびチメロサールがある。
【0246】
注射製剤は、リンガー乳酸塩などの薬学的に許容される賦形剤を含み得る。
【0247】
用語「担体」は、適用を促進し、増強し、または可能にするために活性成分が組み合わされる、天然または合成の性質の有機または無機成分を指す。本発明によれば、用語「担体」は、患者への投与に適している1種または複数の適合性の固体フィラーもしくは液体フィラー、希釈剤、または封入物質も含む。
【0248】
非経口投与に可能な担体物質は、例えば、滅菌水、リンガー、リンガー乳酸塩、滅菌塩化ナトリウム溶液、ポリアルキレングリコール、水素化ナフタレン、特に、生体適合性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、またはポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンコポリマーである。
【0249】
用語「賦形剤」は、本明細書で使用する場合、医薬組成物中に存在することができ、活性成分でないすべての物質、例えば、担体、バインダー、滑剤、増粘剤、表面活性剤、防腐剤、乳化剤、緩衝液、香味剤、または着色剤などを示すことが意図されている。
【0250】
本明細書に記載の作用物質および組成物は、任意の慣例的な経路を介して、例えば、注射または注入によるものを含めた非経口投与などによって投与され得る。投与は、好ましくは非経口的、例えば、静脈内、動脈内、皮下、皮内、または筋肉内である。
【0251】
非経口投与に適した組成物は通常、好ましくはレシピエントの血液に対して等張性である、活性化合物の滅菌した水性または非水性製剤を含む。適合性の担体および溶媒の例は、リンガー液および等張性塩化ナトリウム溶液である。さらに、通常、滅菌固定油が溶液または懸濁培地として使用される。
【0252】
本明細書に記載の作用物質および組成物は、有効量で投与される。「有効量」は、単独で、またはさらなる用量と一緒に所望の反応または所望の効果を実現する量を指す。特定の疾患または特定の状態の処置の場合では、所望の反応は、好ましくは疾患の過程の阻害に関する。これは、疾患の進行の減速、および特に、疾患の進行の中断または逆転を含む。疾患または状態の処置における所望の反応は、前記疾患または前記状態の発病の遅延または発病の予防でもあり得る。
【0253】
本明細書に記載の作用物質または組成物の有効量は、処置される状態、疾患の重症度、年齢、生理的条件、サイズ、および体重を含めた患者の個々のパラメータ、処置の継続時間、付随療法のタイプ(存在する場合)、特定の投与経路、ならびに同様の要因に依存することになる。したがって、本明細書に記載の作用物質の投与される用量は、様々なこのようなパラメータに依存し得る。患者の反応が初期用量で不十分である場合には、より高い用量(または異なるより局在的な投与経路によって実現される有効により高い用量)を使用することができる。
【0254】
本明細書に記載の作用物質および組成物は、本明細書に記載したものなどの様々な障害を処置または予防するために、例えば、in vivoで患者に投与することができる。好適な患者には、本明細書に記載の作用物質および組成物を投与することによって矯正または改善され得る障害を有するヒト患者が含まれる。これは、CLDN18.2の発現パターンの変更によって特徴付けられる細胞を伴う障害を含む。
【0255】
例えば、一実施形態では、本明細書に記載の抗体は、がん疾患、例えば、CLDN18.2を発現するがん細胞の存在によって特徴付けられる本明細書に記載のものなどのがん疾患を有する患者を処置するのに使用することができる。
【0256】
本発明によって記載された医薬組成物および処置の方法は、本明細書に記載の疾患を予防するための免疫化またはワクチン接種にも使用され得る。
【0257】
本発明を、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでない以下の実施例によってさらに例示する。
【実施例】
【0258】
(実施例1)
ヒト胃がん細胞株のCLDN18.2発現は化学療法剤を用いたin vitro処置により安定化される
ヒト胃腫瘍細胞株であるKatoIII細胞を、20% FCS(Perbio)と2mMグルタマックス(Invitrogen)を含有するRPMI 1640培地(Invitrogen)において37℃および5%CO2で、細胞分裂停止化合物と一緒にまたはこれなしで培養した。エピルビシン(Pfizer)は10または100ng/mlの濃度で試験し、5-FU(NeoCorp AG社製のネオフルオア(NeoFluor))は10または100ng/mlの濃度で試験し、オキサリプラチン(Hospira)は50または500ng/mlの濃度で試験した。3種類の化合物すべての組合せ(EOF;エピルビシン10ng/ml、オキサリプラチン500ng/ml、5-FU 10ng/ml)も使用した。8×105個のKatoIII細胞は、培地交換なしで96時間または72時間培養し、続いて標準培地で24時間培養して、6ウェル組織培養プレートにおいて37℃、5%CO2で細胞を細胞周期停止から解き放った。細胞はEDTA/トリプシンを用いて収穫し、洗浄し分析した。
【0259】
CLDN18.2の細胞外検出のために、細胞をモノクローナル抗CLDN18.2抗体IMAB362(Ganymed)またはアイソタイプ適合コントロール抗体(Ganymed)で染色した。Dianova社製の二次試薬ヤギ抗huIgG-APCを使用した。
【0260】
細胞周期段階は、細胞DNA含有量の測定に基づいて決定した。これにより、細胞周期のG1期、S期またはG2期の細胞を識別することができる。S期では、DNA複製が起こり、G2期では細胞が成長して有糸分裂の準備をする。細胞周期分析は、BD Biosciences社製のCycleTEST PLUS DNA試薬キットを、製造元のプロトコールに従って使用して行った。フローサイトメトリー取得および分析は、BD FACS CantoII(BD Biosciences)とFlowJo(Tree Star)ソフトウェアを使用することにより実施した。
【0261】
図1aおよび
図1bのカラムは、細胞周期のG1期、S期またはG2期の細胞のそれぞれの百分率を示している。培地培養されたKatoIII細胞は、主にG1期での細胞周期停止を示している。5-FUで処置された細胞は、主にS期でブロックされている。エピルビシンまたはEOF処置されたKatoIII細胞は、主にG2期での細胞周期停止を示している。オキサリプラチン処置されたKatoIII細胞は、主にG1期とG2期での細胞の濃縮を示している。
図1cに見えるように、S期またはG2期での細胞周期停止により、CLDN18.2は安定化するまたは上方調節される。細胞が細胞周期のどの期から解き放たれてもすぐに(
図1b)、KatoIII細胞の細胞表面上のCLDN18.2の発現が上方調節される(
図1d)。
【0262】
NUGC-4およびKATO III細胞は、5-FU+OX(10ng/mlの5-FUおよび500ng/mlのオキサリプラチン)、EOF(10ng/mlのエピルビシン、500ng/mlのオキサリプラチンおよび10ng/mlの5-FU)またはFLO(10ng/mlの5-FU、50ng/mlのフォリン酸および500ng/mlのオキサリプラチン)で96時間処置した。化学療法前処置NUGC-4およびKATO III細胞のRNAを単離しcDNAに変換した。CLDN18.2転写物レベルを定量的リアルタイムPCRにおいて分析した。結果は、ハウスキーピング遺伝子HPRTの転写物レベルと比べた相対的発現として
図2aに示している。
図2bは、非処置および処置NUGC-4細胞のCLDN18.2およびアクチン負荷対照のウェスタンブロットを示している。発光シグナルの強度はアクチンに対してパーセントで示している。
【0263】
EOF、FLOならびに5-FU+OX組合せ化学療法を用いてNUGC-4およびKATO III細胞を前処置すると、定量的リアルタイムPCR(
図2a)およびウェスタンブロット(
図2b)により示されるように、CLDN18.2のRNAおよびタンパク質レベルが増大する。
【0264】
フローサイトメトリーによりEOF(10ng/mlのエピルビシン、500ng/mlのオキサリプラチンおよび10ng/mlの5-FU)またはFLO(10ng/mlの5-FU、50ng/mlのフォリン酸および500ng/mlのオキサリプラチン)で96時間処置したNUGC-4およびKATO III胃がん細胞上のIMAB362の結合を分析した。胃がん細胞株の表面上でIMAB362により標的可能なCLDN18.2タンパク質の量は
図2cに示される通りに増大する。この効果は、EOFまたはFLOで前処置した細胞で最も顕著であった。
【0265】
KatoIII細胞をイリノテカンまたはドセタキセルで4日間前処置し、CLDN18.2発現および細胞周期停止について分析した。イリノテカンで細胞を処置すると、細胞増殖の用量依存性阻害およびS/G2期での細胞周期停止が生じた(
図3)。ドセタキセルで細胞を処置すると、細胞増殖の用量依存性阻害およびG2期での細胞周期停止が生じた(
図3)。
【0266】
(実施例2)
ヒト胃がん細胞を化学療法薬で前処置するとIMAB362媒介ADCCの効率が高くなる
IMAB361媒介ADCCをNUGC-4胃がん細胞を標的として使用して調べ、胃がん細胞は、10ng/mlの5-FUおよび500ng/mlのオキサリプラチン(5-FU+OX)、10ng/mlのエピルビシン、500ng/mlのオキサリプラチンおよび10ng/mlの5-FU(EOF)もしくは10ng/mlの5-FU、50ng/mlのフォリン酸および500ng/mlのオキサリプラチン(FLO)のいずれかで96時間(エフェクター対標的比40対1)前処置したまたは非処置にした。EC50値は、非処置では7人の健康ドナーからおよびEOF、FLOまたは5-FU+OX前処置NUGC-4細胞から得た。
【0267】
図4aに示すように、前処置細胞の用量/応答曲線は、非処置標的細胞と比べて上方および左側に移動した。これにより最大溶解は高くなり、EC
50値は非処置細胞の3分の1まで減少した(
図4b)。
【0268】
健康なヒトドナー由来のNK細胞、単球、単核細胞または他のエフェクター細胞を含む、末梢血単核球(PBMC)は、フィコールハイパック密度遠心分離により精製した。洗浄したエフェクター細胞はX-Vivo培地に播種した。CLDN18.2を内因的に発現し胃起源であるKatoIII細胞は、この設定では標的細胞として使用した。標的細胞はルシフェラーゼ、生細胞のみにより酸化されるルシファーイエローを安定的に発現した。精製した抗CLDN18.2抗体IMAB362を様々な濃度で添加し、アイソタイプコントロール抗体として無関係なchim huIgG1抗体を使用した。試料は、IMAB362誘導細胞傷害性後に残される生細胞の量を表す値であるルシファーイエローの酸化から生じる発光を測定することにより細胞溶解についてアッセイした。イリノテカン(1000ng/ml)、ドセタキセル(5ng/ml)またはシスプラチン(2000ng/ml)で3日間前処置されたKatoIIIは非処置の培地培養標的細胞と比較し、IMAB362誘導ADCCを定量した。
【0269】
イリノテカン、ドセタキセルまたはシスプラチンで3日間前処置されたKatoIIIは、培地培養標的細胞と比べて低いレベルの生細胞を示し(
図5a)、イリノテカン、ドセタキセルまたはシスプラチンで前処置された細胞中のクローディン18.2発現は培地培養標的細胞と比べて増大していた(
図5b)。
【0270】
さらに、KatoIII細胞をイリノテカン、ドセタキセルまたはシスプラチンで前処置すると、ADCCを誘導するIMAB362の効力を増大させた(
図5c、
図5d)。
【0271】
(実施例3)
化学療法によりIMAB362誘導CDCの効率は高くなる
IMAB362誘導CDCに対する化学療法剤の効果を、KATO III胃がん細胞を10ng/mlの5-FUおよび500ng/mlのオキサリプラチン(5-FU+OX)で48時間前処置することにより分析した。化学療法薬により前処置したKATO III細胞を使用するIMAB362誘導CDCの代表的用量応答曲線は
図6に示している。腫瘍細胞を48時間前処置すると、CDCを誘導するIMAB362の効力が増大し、非処置細胞と比べると前処置腫瘍細胞の最大細胞溶解は高くなった。
【0272】
(実施例4)
IMAB362誘導ADCCを行う免疫エフェクター細胞の能力は、化学療法薬での処置により損なわれることはない
EOFまたはFLOレジメンで使用する化学療法剤は、標的細胞増殖を阻害するのに高度に強力である。エフェクター細胞に対する化学療法の有害作用を調べるため、健康なドナー由来のPBMCを10ng/mlのエピルビシン、500ng/mlのオキサリプラチンおよび10ng/mlの5-FU(EOF)または10ng/mlの5-FU、50ng/mlのフォリン酸および500ng/mlのオキサリプラチン(FLO)でADCCアッセイにおける適用前に72時間処置した。
図7aは4人の健康なドナーのEC
50値を示し、
図7bはEOFまたはFLO前処置エフェクター細胞を使用するIMAB362誘導ADCCの代表的用量/応答曲線を示している。NUGC-4胃癌細胞のIMAB362誘導ADCCはEOFまたはFLO化学療法により損なわれることはない。
【0273】
(実施例5)
ZA/IL-2処置の組合せにより、末梢血単核球(PBMC)培養物の最適化された拡大を生じる
PBMC培養物の増殖に対するZA/IL-2の効果をin vitroで評価した。PBMCは健康なヒトドナーから収穫し、培養物は単一用量のZAで処置した。IL-2は3~4日ごとに添加した。具体的には、3つの異なる健康なヒトドナー(#1、#2、#3)由来のPBMCは、1μMのZAプラス高(300U/ml)または低(25U/ml)用量のIL-2と一緒に14日間RPMI培地で培養した(細胞1×10
6個/ml)(
図8a参照)。同じドナーのPBMCは、300U/mlのIL-2プラスZAまたはZAなしと一緒に14日間RPMI培地でさらに培養した(
図8b参照)。細胞数の増加は、6、8、11および14日目に生きた細胞を計測することにより決定した。
【0274】
高用量のIL-2を供給された培地では、低IL-2用量を供給された培養物と比べた場合、約2~5倍の細胞が拡大した(
図8a)。ZAのない培地での細胞の拡大は、ZAのある培地で成長させた細胞と比べた場合のおよそ2分の1であった(
図8b)。これらのデータから、細胞の適切な拡大を確保するためにはZAとIL-2化合物の両方を組み合わせて適用する必要性が明らかにされている。
【0275】
(実施例6)
ZA/IL-2処置によりPBMC培養物において多量のVγ9Vδ2 T細胞が拡大する
PBMCは、300U/ml IL-2をおよび1μMのZAをまたはこれなしで補充されたRPMI培地で14日間培養した。CD3+リンパ球集団内のVγ9+Vδ2+ T細胞の百分率(
図9a)およびCD3+Vγ9+Vδ2+ T細胞集団内のCD16+細胞の百分率(
図9b)は、0日目と14日目の多色FACSにより決定した。結果はドナーごとに散布図にスコアー化した。
図9cは、リンパ球集団内のCD3+Vγ9+Vδ2+とCD3+CD16+Vγ9+Vδ2+ T細胞の数の時間をかけた増加(濃縮)を表示する散布図を示している。0日目に播種された細胞の量と14日目に収穫された細胞の量を考慮に入れた。
【0276】
PBMC培養物におけるIL-2添加はリンパ球の生存および成長に必要である。リンパ球は300U/mlのIL-2を供給された培養物において効率的に拡大した。Vγ9とVδ2特異的抗体を使用するFACS分析により、ZA/IL-2の添加はVγ9Vδ2 T細胞の蓄積を特異的に誘導することが明らかにされている(
図9a)。14日後、CD3+リンパ球集団は最大80%のVγ9Vδ2 T細胞を含むことができる。Vγ9Vδ2 T細胞の一部はCD16を発現し、CD3+リンパ球集団内のこれらの細胞の濃縮はドナーに応じて10~700倍である(
図9bおよび9c)。培養物内のCD16+Vγ9+Vδ2+ T細胞の濃縮は、ZAなしで成長させた培養物と比べた場合、10~600倍である(
図9c)。PBMCのin vitroでのZA/IL-2処置によりかなりの割合のγδT細胞においてADCC媒介FcγIII受容体CD16が上方調節されると我々は結論付ける。
【0277】
(実施例7)
IL-2は用量依存の形でVγ9Vδ2 T細胞の拡大に影響を与える
培養物中のZAの添加はVγ9Vδ2 T細胞の発達を誘導する最も重要な因子である。IL-2がT細胞の成長と生存に必要であることは周知である。
【0278】
PBMCは、1μMのZAおよび増加するIL-2濃度を補充されたRPMI培地において14日間培養した。IL-2は0日目と4日目に添加した。CD3+リンパ球集団内のCD16+Vγ9+Vδ2+ T細胞の濃縮は、0日目と14日目に多色FACS染色により決定した。異なるドナーを比較するため、600U/mlのIL-2を用いた培養後に収穫したCD16+Vγ9+Vδ2+ T細胞の量を100%に設定した(
図10、左参照)。さらに、増加する濃度のIL-2で14日間成長させた単離された培養物のADCC活性を試験した(
図10、右参照)。
【0279】
用量応答分析により、IL-2はVγ9Vδ2 T細胞サブセットの成長と生存も刺激することを確かめた。培地に低IL-2濃度を添加することにより、IL-2用量とCD3+リンパ球集団内のCD16+Vγ9Vδ2 T細胞の百分率の間に相関関係を見出した(
図10、左)。さらに高いIL-2濃度(150~600U/ml)で成長させた細胞のADCC活性は、低IL-2濃度で成長させた細胞と比べて改善されている(
図10、右)。
【0280】
(実施例8)
ZAは単球およびがん細胞においてIPP産生を誘導しVγ9Vδ2 T細胞の両方の拡大を刺激する
新鮮なPBMC(実験#1)または14日ZA/IL-2刺激Vγ9Vδ2 T細胞培養物(実験#2~5)を、単球なし(エフェクター対単球比1対0)で、0.2倍(4対1)または5倍(比1対4)の単球量±1μM ZAのいずれかと一緒にインキュベートした。14日後の共培養物におけるVγ9Vδ2 T細胞の濃縮は多色FACSにより決定し、培養物の拡大は計算において検討した。単球と一緒に1対4比で培養したVγ9Vδ2 T細胞の濃縮係数は実験ごとに100%に設定した。培養物中の単球の増加により、Vγ9Vδ2 T細胞は10倍を超えて濃縮した。この効果は明らかにZA依存性であった(
図11a参照)。
【0281】
さらに、ヒト胃がん細胞(NUGC-4-ルシフェラーゼ)およびマウス胃がん細胞(CLS103-カルセイン染色)を5μMのZAでまたはZAなしで2日間前処置した。ヒトVγ9Vδ2 T細胞をMACS精製し(14日目)、がん細胞と24時間共培養した。非処置およびZA処置標的細胞に対するVγ9Vδ2 T細胞の細胞傷害性は、残っているルシフェラーゼ活性またはカルセイン蛍光を測定することにより決定した(
図11b参照)。標的細胞(NUGC-4およびCLS103)は5μMのZAでまたはZAなしで2日間前処置し、それに続いてマイトマイシンc(50MI)と一緒に4時間インキュベートして増殖を停止させた。MACS精製ヒト14日目休止Vγ9Vδ2 T細胞および
3Hチミジンを標的細胞に添加し、共培養物は37℃で48時間インキュベートした。増殖は、MicroBetaシンチレーション計数器を使用してDNA中への
3Hチミジン取込みを測定することにより決定した。ZAで処置されていないおよびVγ9Vδ2 T細胞なしの標的細胞の増殖を100%に設定した(
図11c参照)。
【0282】
図11bおよび11cに示すように、ZAパルスヒトがん細胞は細胞傷害性(5~10倍)および増殖(1.4~1.8倍)の点からVγ9Vδ2 T細胞を活性化し、マウスがん細胞株CLS103は、Vγ9Vδ2 T細胞に対するこれらの効果を誘発しなかった。
【0283】
(実施例9)
ZA/IL-2処置はPBMC培養物の組成に影響を及ぼす
PBMC培養物中の特定の細胞型の成長および分化はサイトカインの存在に依存している。これらの成分は培地に添加される(例えば、血清中に存在している増殖因子、IL-2)または免疫細胞それ自体により分泌される。どの型の細胞が進化するかも、PBMCの最初の組成におよび遺伝的資質に依存している。エフェクター細胞(NK細胞およびVγ9Vδ2 T細胞)の全体的増加を分析するため、10人の異なるドナーのPBMCを、300U/ml IL-2の存在下、1μMのZAと一緒にまたはZAなしで14日間成長させた。リンパ球集団内のエフェクター細胞の量は、CD3、CD16、CD56、Vγ9およびVδ2抗体を使用して多色FACS染色により確認した。CD3-CD56+CD16+細胞はNK細胞を表し、CD3+Vγ9+Vδ2+はVγ9Vδ2 T細胞を表す。
【0284】
多色FACS分析により、IL-2処置すると主にNK細胞が発達し、ZA/IL-2処置した培養物では、Vγ9Vδ2 T細胞が主に拡大する(
図12)。
【0285】
(実施例10)
ZA/IL-2処置はVγ9Vδ2+エフェクター記憶T細胞を産生する
Tリンパ球の亜集団は、2つの表面マーカーである共通リンパ球抗原CD45RAの高分子量アイソフォームおよびケモカイン受容体CCR7の助けを借りて記述することができる。CCR7+未処置および中心記憶(CM)T細胞は、リンパ節中に繰り返し循環し抗原に遭遇する能力に特徴がある。これとは対照的に、エフェクター記憶(EM)およびエフェクターTリンパ球RA+(TEMRA)はCCR7を下方調節し、周辺非リンパ系組織への、例えば、感染または腫瘍部位への移動を専門にしているように思われる。EM細胞は、差次的CD27とCD28発現に基づいてさらに細分することができる。CD28とCD27表面発現の進行性の喪失は、細胞の細胞溶解力の上方調節と同時に起こる。さらに、CD57のレベルは、グランザイムおよびパーフォリンの発現と相関しており、したがって、細胞傷害性/細胞成熟を示す第3のマーカーを表す。
【0286】
PBMCを、1μMのZAとまたはZAなしでおよび300U/ml IL-2と一緒に14日間培養した。異なる表面マーカーの発現は0日目(PBMC)と14日目に多色FACS分析により判定した。未処置細胞はCD45RA+CCR7+であり、中心記憶細胞(CM)はCD45RA-CCR7+であり、TEMRAはCD45RA+CCR7-であり、エフェクター記憶細胞(EM)は両マーカーに陰性である(
図13a参照)。さらに、Vγ9Vδ2 T細胞の細胞溶解活性は、CD27およびCD57マーカーについて染色することにより判定した(
図13b、
図13c参照)。さらに、ADCC活性に重要であるNK細胞様特徴の発達は、CD3+細胞をCD16(抗体結合)およびCD56(接着)で染色することにより分析した(
図13d参照)。
【0287】
Vγ9Vδ2 T細胞の多色FACS分析により、ZA/IL-2処置はCD27-およびCD57+であるEM型のVγ9Vδ2 T細胞の発達をはっきりと刺激することが明らかになった(
図13b~
図13c)。増強された細胞溶解活性に加えて、ADCCに関与していることがNK細胞(CD3-CD16+CD56+)から知られているCD16およびCD56のレベルの増加がCD3+集団において観察された(
図13d)。
【0288】
総合すると、これらのデータは、PBMCのZA処置によりCD16+Vγ9+Vδ2+エフェクター記憶T細胞が発達し、このT細胞は周辺非リンパ系組織に移動することができ、高細胞溶解活性のマーカーを表示することを暗示している。IMAB362腫瘍ターゲティング抗体と組み合わせて、これらの細胞は極めてよく利用されて腫瘍細胞に移動し、これを標的にして殺傷する。
【0289】
(実施例11)
ZA/IL-2拡大Vγ9Vδ2 T細胞はIMAB362媒介CLDN18.2依存性ADCCの強力なエフェクターである
NK細胞に類似して、ZA/IL-2拡大Vγ9Vδ2 T細胞は、細胞結合抗体がADCCを始動させるのに経由するFcγRIII受容体であるCD16に陽性である(
図9および
図13参照)。Vγ9Vδ2 T細胞がIMAB362と併せて強力なADCCを誘導することができるかどうかを評価するため、一連の実験を実施した。
【0290】
2人の異なるドナー(#1および#2)由来のPBMCを、300U/ml IL-2を有するおよび1μMのZAを有するまたはZAなしの培地において培養した。14日後、細胞を収穫し、CLDN18.2を発現しているNUGC-4細胞に増えていく濃度(0.26ng/ml~200μg/ml)のIMAB362と一緒に添加した。特異的殺傷はルシフェラーゼアッセイにおいて判定した(
図14a参照)。
図14b、
図14cは、300U/ml IL-2およびZAありまたはZAなしのいずれかにおいて成長させた27のドナーを用いて実施したADCCアッセイの概略を与えている。NUGC-4は標的細胞としての働きをした。ドナーごとに、用量-応答曲線から計算したEC
50値(b)および200μg/ml IMAB362(c)の用量での最大特異的殺傷率を散布図にスコアー化した。
【0291】
ZA/IL-2と一緒に14日間培養したPBMCを使用するCLDN18.2陽性NUGC-4細胞に対して、強いIMAB362依存性ADCC活性が観察された(
図14a)。ZA/IL-2処置PBMC培養物を使用すると、ADCCはVγ9Vδ2 T細胞の存在に依存する(
図12および
図15)。細胞がZAなしで培養される場合、ADCC活性は大半のドナーで減少する。これらの培養物において、残留するADCC活性はNK細胞依存性である(
図11および
図14)。20を超えるドナーを試験することにより、ADCCアッセイは、PBMCをZA/IL-2処置することで、IL-2単独で培養したPBMCと比べた場合、EC
50値および最大特異的殺傷率が改善されることを明らかにしている。
【0292】
さらに、2人の異なるドナー(#1および#2)のPBMCを、1μMのZAおよび300U/ml IL-2で培養した。これらのエフェクター細胞培養物をADCCアッセイにおいて、CLDN18.2陽性(NUGC-4、KATO III)および陰性(SK-BR-3)ヒト標的細胞株と一緒に使用した(E対T比40対1)。IMAB362抗体の量を増加しながら(0.26ng/ml~200μg/ml)添加した。ADCCはルシフェラーゼアッセイにおいて測定した(
図15a参照)。(a)に記載されている同じ実験を、様々な時点でZA/IL-2で処置した培養物から収穫したNUGC-4標的細胞およびエフェクター細胞を用いて実施した(
図15b参照)。(a)に記載されている同じ実験を、NUGC-4を標的細胞として使用して実施した(
図15c参照)。ZA/IL-2拡大細胞を直接使用するか、またはVγ9Vδ2 T細胞はTCRγδ MACSソーティング(Miltenyi Biotech)を使用して培養物から精製した。リンパ球中の97.0%を超える純度のVγ9Vδ2 T細胞が得られた。
【0293】
CLDN18.2陽性ヒト腫瘍細胞株に対して強いADCC活性が観察されたが、CLDN18.2陰性ヒト腫瘍細胞株では見られなかった(
図15a)。さらに、アイソタイプコントロール抗体ではADCC活性は得られない(示されていない)。ZA/IL-2処置の経過中、ADCC溶解活性は一部のドナーで時間をかけて増加する(
図15b)。IMAB362の用量/効果曲線は上方および左に移動し、EC
50値および最大溶解率が時間をかけて改善されたことを示している。無条件のPBMCと比べると、ZA/IL-2処置により濃縮されたVγ9Vδ2エフェクターT細胞は、CLDN18.2陽性標的細胞のさらに高い最大殺傷率に到達することができ、同じ殺傷率では必要とするIMAB362の濃度はもっと低くてすむ。
【0294】
Vγ9Vδ2 T細胞が溶解活性の貯蔵場所であることを確かめるため、これらの細胞を、14日目にZA/IL-2培養PBMC集団から磁気細胞ソーティングにより97%を超える純度で単離した。IMAB362と併せたADCC活性は保持され、純度が高くなったせいで一部改善される。これらのデータから、Vγ9Vδ2 T細胞が14日目のPBMC培養物で観察されるADCC活性の主な原因であることが確かめられる(
図15c)。
【0295】
(実施例12)
ZA/IL-2用量で標的細胞株を処置してもCLDN18.2の表面発現に影響を及ぼさない
IMAB362始動作用機序は細胞外検出可能なCLDN18.2の存在と量に厳密に依存している。したがって、CLDN18.2表面密度に対するZA/IL-2処置の影響を、NUGC-4を発現している内在性CLDN18.2およびKATO III細胞株を使用してフローサイトメトリーにより分析してきた。具体的には、ZA/IL-2またはZA/IL-2+EOFまたはZA/IL-2+5-FU/OXで72時間前処置した透過非処理NUGC-4胃がん細胞上でのIMAB362結合のフローサイトメトリー分析を実施した。
【0296】
ZA/IL-2 in vitro処置により、CLDN18.2表面局在化の量の変化はないことが明らかにされている(
図16参照)。
【0297】
(実施例13)
PBMCのZA/IL-2処置によるIMAB362媒介ADCCの増大はEOF前処置により損なわれることはない
化学療法剤は細胞増殖を損なう。これとは対照的に、ZA/IL-2処置はVγ9Vδ2 T細胞の拡大を始動させる。エフェクター細胞に対するこれら正反対の相互作用の影響を分析するため、6人の健康なドナーのPBMCをADCCアッセイにおける適用前の8日間、ZA/IL-2またはZA/IL-2+EOFと一緒に培養した(E対T比15対1)。非処置のNUGC-4標的細胞の50%ADCC媒介溶解(EC50)をもたらすIMAB362濃度を決定した。
【0298】
ZA/IL-2でのPBMC処置に起因するNUGC-4細胞のIMAB362誘導ADCCの増大はEOFでのPBMCの組合せ処置により著しく変わることはない(
図17)。
【0299】
(実施例14)
ヌードマウスにおけるCLDN18.2陽性腫瘍へのIMAB362のin vivoターゲティングおよびヒト腫瘍細胞異種移植片に対するIMAB362の抗腫瘍効果
IMAB362のin vivo腫瘍細胞ターゲティングを調べるため、80μgのDyelight(登録商標)680標識抗体を、ヒト胃がん細胞株NUGC-4を皮下に異種移植したヌードマウスに静脈内投与した。NUGC-4細胞は、CLDN18.2のならびにHER2/Neu(トラスツズマブの標的)の表面発現を示すが、CD20には陰性である。対照研究は、NUGC-4移植したマウス群にDyelight680標識トラスツズマブ(正の対照群)またはDyelight(登録商標)680標識リツキシマブ(陰性対照)のいずれかを注射して行った。抗体の静脈内注射の24時間後、Xenogen(登録商標)蛍光画像システムを使用してマウスのライブ撮像により示されるように、IMAB362は強くもっぱら腫瘍異種移植片において蓄積する(
図18)。IMAB362は標的陽性腫瘍において効率的に保持され、120時間後でも比較可能な強度で検出可能である(
図18)。トラスツズマブも注射24時間後にもっぱら腫瘍異種移植片において検出される。トラスツズマブシグナルは注射後120時間以内に急速に洗い流される。リツキシマブではシグナルは検出されない。
【0300】
さらに、IMAB362を使用してCLDN18.2陽性異種移植腫瘍を抱えたヌードマウスを処置した。早期処置モデル研究(腫瘍細胞接種のわずか3日後にIMAB362を投与する)を行った。さらに、進行腫瘍処置実験は、腫瘍が約60~120mm3の体積に到達した腫瘍細胞接種後9日までに開始した。
【0301】
ヌードマウスには、1×10
7個のHEK293~CLDN18.2トランスフェクタントを皮下に接種した。群あたり10匹のマウスの処置は腫瘍接種の3日後に開始した。マウスは、6週間週あたり2回、200μg IMAB362、アイソタイプコントロールとしてインフリキシマブおよびPBSで処置し、静脈と腹腔内経路で交互に適用した。PBSまたはアイソタイプコントロールのいずれかで処置した群のマウスはすべてが70~80日以内に死亡したが、IMAB362で処置した動物には延命効果があった(
図19)。死亡までの時間が延びただけではなく、10匹のマウス中4匹が210日の全観察期間生き延びた。
【0302】
群あたり9から10匹のマウスの処置は、平均腫瘍体積が88mm
3(62~126mm
3)に達すると開始した。処置に先立って、マウスは試験群に分類して、すべての群において比較可能な腫瘍サイズを確保した。マウスは、6週間週あたり2回、200μg IMAB362、アイソタイプコントロールまたはPBSで処置し、静脈内と腹腔内経路で交互に適用した。PBSまたはアイソタイプコントロールのいずれかで処置した群のマウスはすべてが50~100日以内に死亡した。IMAB362で処置した動物には延命効果があり、平均生存期間はほぼ倍化した(47対25日)。これらのマウスのうちの3匹は全観察期間生き延びた(
図20)。重要なのは、in vivoでの抗腫瘍効力は腫瘍細胞上に標的が存在することに依存していることである。IMAB362処置の抗腫瘍効果は、CLDN18.2陰性HEK293腫瘍細胞を移植したマウスでは見られなかった。
【0303】
NUGC-4胃腫瘍モデルを使用して、CLDN18.2を内因的に発現しているがん細胞に対するIMAB362の効力を調べた。NUGC-4細胞はヌードマウスにおいて侵襲的に成長する。
【0304】
1×10
7個のNUGC-4胃がん細胞を胸腺欠損ヌードマウスの左側腹部の皮下に注射した(IMAB362群ではn=9、対照群ではn=8)。IMAB362(注射あたり200μg)および対照は、静脈内注射での腫瘍接種の6日後に開始して、週2回静脈内および腹腔内に交互に適用した。腫瘍サイズは週2回モニターした。
図21aに提示されているデータはSEM付の平均である。IMAB362で処置した腫瘍成長は、対照で処置したマウスと比べて有意に阻害されていた(*p<0.05)。
図21bは腫瘍接種後21日目の腫瘍体積を示す。IMAB362処置マウスの腫瘍体積は対照マウスの腫瘍より有意に小さかった(*p<0.05)。
【0305】
1×10
7個の腫瘍細胞をマウスに接種すると、非処置マウスの平均生存期間は25日よりも長くなることはない。腫瘍体積が平均サイズ約109mm
3(63~135mm
3)に達すると、IMAB362、セツキシマブ、トラスツズマブまたはアイソタイプおよびバッファー対照での処置を開始した。マウスは処置群にサイズ依存的に分類した(
図21)。IMAB362は腫瘍成長速度を著しく減少させることを明らかにした。この侵襲的に成長する腫瘍モデルでは、生理食塩水または抗体対照と比べた場合、腫瘍成長の有意な減少は観察されなかった。腫瘍成長の遅延は、IMAB362処置マウスの生存期間中央値の増加が著しくないことと関連していた(31日対25日)。
【0306】
IMAB362の抗腫瘍活性は、IMAB362標的CLDN18.2をレンチウイルス形質導入したNCI-N87またはNUGC-4細胞を使用して2つのヒト胃癌異種移植モデルで調べた(NCI-N87~CLDN18.2およびNUGC-4~CLDN18.2)。
【0307】
NCI-N87~CLDN18.2異種移植腫瘍は、1×10
7個のNCI-N87~CLDN18.2細胞を処置群あたり8匹のヌードマウス(雌、生後6週間)の側腹部に注射することにより皮下に接種した。800μgのIMAB362の静脈内注射によるまたは生理食塩水対照群では200μlの0.9% NaClを用いた腫瘍接種の5日後に処置は開始した。静脈内投与は全観察期間中毎週続けた。腫瘍サイズおよび動物健康は週2回モニターした。
図22aは腫瘍成長に対するIMAB362処置の効果を示している。皮下注射腫瘍のサイズは毎週2回測定した(平均+SEM、***p<0.001)。
図22bはカプランマイヤー生存プロットを示している。マウスは腫瘍が体積で1400mm
3に達すると、屠殺した。
【0308】
このように、連続したIMAB362処置により、NCI-N87~CLDN18.2胃癌異種移植片の腫瘍成長は極めて有意に(p<0.001)阻害された(
図22a)。腫瘍成長の遅延は、IMAB362処置マウスの有意に(p<0.05)長い生存期間と関連があった(
図22b)。
【0309】
急速成長しているNUGC-4~CLDN18.2異種移植片のIMAB362免疫療法により、処置の14日目に腫瘍サイズは有意に(p<0.05)小さくなった。IMAB362処置の最初の2週間後、NUGC-4~CLDN18.2の腫瘍進行は非常に侵襲的であった。しかし、処置の14日目までのNUGC-4~CLDN18.2腫瘍成長の阻害により、IMAB362処置マウスの生存期間は有意に(p<0.05)長くなった。
【0310】
要約すると、IMAB362は胃癌異種移植片の処置に高度に有効であり、内因性CLDN18.2陽性腫瘍モデルにおける腫瘍進行の著しい遅延および長期の生存を示した。極めて侵襲的腫瘍モデル系では、IMAB362のこれらの抗腫瘍効果はそれほど卓越してはいないがにもかかわらず著しく、IMAB362の強力な抗腫瘍能力を際立たせている。
【0311】
(実施例15)
マウス腫瘍モデルにおける化学療法と組み合わせたIMAB362の抗腫瘍効果
in vitroでは、IMAB362媒介ADCCは、EOFおよび5-FU+OXを含む化学療法薬と組み合わせて前処置されたヒト胃がん細胞上ではより効率的である。したがって、これらの化合物をIMAB362と組み合わせる抗腫瘍的影響をマウス腫瘍モデルにおいてin vivoで調べた。
【0312】
NCI-N87~CLDN18.2異種移植腫瘍は、1×10
7個のNCI-N87~CLDN18.2細胞を処置群ごとに9匹のマウスの側腹部に皮下に注射することにより接種した。坦腫瘍マウスは、EOFレジメンに従って腫瘍接種後4、11、18および25日目に1.25mg/kgのエピルビシン、3.25mg/kgのオキサリプラチンおよび56.25mg/kgの5-フルオロウラシルで腹腔内に処置し、続いて化学療法施与24時間後に800μgのIMAB362を静脈内注射した。IMAB362処置は毎週続けた。腫瘍サイズおよび動物健康は週2回モニターした。
図23aは腫瘍成長に対する併用処置の効果を示している。皮下注射腫瘍のサイズは毎週2回測定した(平均+SEM、*p<0.05)。
図23bはカプランマイヤー生存プロットを示している。マウスは腫瘍が体積で1400mm
3に達すると、屠殺した。
【0313】
IMAB362またはEOFレジメンで処置した坦NCI-N87~CLDN18.2腫瘍ヌードマウスは、対照マウスと比べて腫瘍成長が極めて有意に抑制されていることを示した。EOF化学療法と組み合わせた追加のIMAB362処置により、EOFレジメン単独での処置よりも有意に(p<0.05)高く腫瘍成長が阻害された(
図23a)。生理食塩水対照群のマウスの生存期間中央値は59日であった。生存期間中央値が76日のEOG群のマウスの生存とも類似して、マウスの毎週のIMAB362処置により生存期間中央値を76日まで有意に延ばした。しかし、IMAB362とEOFの併用処置では生存期間中央値を81日まで増加した(
図23b)。
【0314】
異種移植腫瘍は1×10
7個のNUGC-4~CLDN18.2細胞を処置群あたり10匹のヌードマウス(雌、生後6週間)の側腹部の皮下に注射することにより接種した。マウスは3、10、17および24日目に化学療法剤で処置した。IMAB362処置は毎週続けた。
図24aは皮下NUGC-4~CLDN18.2異種移植片の腫瘍成長曲線を示している(平均+SEM)。
図24bはカプランマイヤー生存プロットを示している(ログランク(Mantel-Cox)検定、**p<0.01)。
【0315】
皮下NUGC-4~CLDN18.2異種移植腫瘍は極めて侵襲的に成長する。それにもかかわらず、坦腫瘍ヌードマウスのIMAB362処置により、生理食塩水処置対照群と比べて腫瘍成長は有意に阻害された。EOFとの併用療法では、NUGC-4~CLDN18.2腫瘍成長に対するIMAB362効果はEOF処置に起因する成長阻害により遮蔽され、EOF単独での処置と比べて腫瘍成長阻害の増大は示さなかった(
図24a)。しかし、IMAB362とEOFで処置されたマウスの生存期間中央値は、EOF単独で処置されたマウスの生存と比べて極めて有意に(p<0.01)延びていた(
図24b)。
【0316】
(実施例16)
ZA/IL-2拡大Vγ9Vδ2 T細胞は進行性腫瘍のIMAB362媒介制御をin vivoで改善する
マウス系におけるIMAB362とZA/IL-2産生γδT細胞の複合活性を調べるため、NSGマウスを用いた。NSGマウスは成熟T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、複数のサイトカインシグナル伝達経路を欠き、自然免疫に多くの欠損を抱えており、一次と二次免疫学的組織中のニッチはヒト免疫細胞によるコロニー形成に許容的である。
【0317】
NSGマウスに1×10
7個のCLDN18.2トランスフェクトHEK293細胞を皮下に接種した。同日、ZA補充培地で14日間培養されたVγ9Vδ2 T細胞を濃縮された8×10
6個のヒトPBMCをマウスに施した。さらに、マウスに50μg/kg ZAおよび5000 U IL-2(プロロイキン(Proleukin))を注射した。ヒトT細胞を機能的なまま維持するため、IL-2を週2回、ZAを毎週投与した。HEK293~CLDN18.2腫瘍が巨視的に見えるようになると、200μgのIMAB362を用いた週2回処置を開始した。記載した通りに処置した9匹のマウスに加えて、マウスの2つの対照群を確立した。1つの群にはヒトγδT細胞を施さず、他方の群はIMAB362の代わりにアイソタイプコントロール抗体で処置した。ヒトγδT細胞およびZAの存在下IMAB362で処置したマウスにおけるCLDN18.2陽性腫瘍の増殖は著しく阻害されほぼ抑止されており、アイソタイプコントロール抗体で処置されたまたはヒトT細胞エフェクターを欠くのいずれかのマウスでは、腫瘍は侵襲的に成長しマウスは時期を早めて終了させなければならなかった(
図25)。
【0318】
(実施例17)
マウス腫瘍モデルにおける化学療法と組み合わせたIMAB362の抗腫瘍効果
化学療法と組み合わせたIMAB362の抗腫瘍活性は、マウスcldn18.2をレンチウイルス形質導入したCLS-103細胞を使用して免疫適格性非近交系NMRIマウスの皮下胃癌同種移植片において調べた(CLS-103~cldn18.2)。
【0319】
CLS-103~cldn18.2同種移植腫瘍は、1×106個のCLS-103~cldn18.2細胞を処置群ごとに10匹のNMRIマウスの側腹部に皮下に注射することにより接種した。坦腫瘍マウスは、腫瘍接種後3、10、17および24日目に1.25mg/kgのエピルビシン、3.25mg/kgのオキサリプラチンおよび56.25mg/kgの5-フルオロウラシル(EOF)で腹腔内に処置し、続いてそれぞれの化学療法施与24時間後に800μgのIMAB362を静脈内注射した。IL-2は3000 IEの皮下注射により週2回投与した。化学療法の終了後、IMAB362およびIL-2処置は全観察期間中続けた。腫瘍サイズおよび動物健康は毎週2回モニターした。マウスは腫瘍が体積で1400mm3に達するまたは腫瘍が潰瘍状になると屠殺した。
【0320】
図26で見ることができるように、IMAB362またはEOF単独で処置した坦CLS-103~cldn18.2腫瘍NMRIマウスは、生理食塩水対照群と比べると有意の腫瘍成長阻害は示さなかった。これとは対照的に、EOF化学療法とIMAB362処置を組み合わせると、腫瘍成長は有意に高く阻害され、坦腫瘍マウスの生存は延長された。これらの所見により、EOF化学療法とIMAB362免疫療法の組合せにより相加的治療効果または相乗的治療効果でさえあることが示される。IL-2処置は腫瘍成長に対して何の効果も示さなかった。
【0321】
【0322】
新規国際特許出願
Ganymed Pharmaceuticals AGら
「がんを処置するためのクローディン18.2に対する抗体を伴う併用療法」
当社のリファレンス: 342-75 PCT
生体物質についての追加のシート
さらなる寄託の識別:
1)寄託物(DSM ACC2738、DSM ACC2739、DSM ACC2740、DSM ACC2741、DSM ACC2742、DSM ACC2743、DSM ACC-2745、DSM ACC2746、DSM ACC2747、DSM ACC2748)の寄託機関の名称および住所:
DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH
Mascheroder Weg 1b
38124 Braunschweig
DE
2)寄託物(DSM ACC2808、DSM ACC2809、DSM ACC2810)の受託機関の名称および住所:
DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH
Inhoffenstr. 7 B
38124 Braunschweig
DE
【0323】
【0324】
すべての上述した寄託物についての追加の表示:
- マウス(Mus musculus)脾細胞に融合したマウス(Mus musculus)骨髄腫P3X63Ag8U.1
- ヒトクローディン-18A2に対するハイブリドーマ分泌抗体
3)寄託者:
すべての上述した寄託は下記によって行われた。
Ganymed Pharmaceuticals AG
Freiligrathstrasse 12
55131 Mainz
DE
【配列表】