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特許7204890電極の製造方法および光電変換素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】電極の製造方法および光電変換素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20230106BHJP
   H01L 31/0224 20060101ALI20230106BHJP
   H01L 21/288 20060101ALI20230106BHJP
   H05B 33/28 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
H01L31/04 130
H01L31/04 260
H01L21/288 M
H05B33/28
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021510482
(86)(22)【出願日】2019-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2019035558
(87)【国際公開番号】W WO2021048923
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】内藤 勝之
(72)【発明者】
【氏名】信田 直美
(72)【発明者】
【氏名】齊田 穣
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-029035(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0272172(US,A1)
【文献】国際公開第2019/176078(WO,A1)
【文献】特表2016-524517(JP,A)
【文献】特開2019-050106(JP,A)
【文献】特開2015-173260(JP,A)
【文献】特開2017-091875(JP,A)
【文献】特表2012-523359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/078
H01L 31/18-31/20
H01L 51/00-51/56
H01L 21/288
H01B 13/00
H05B 33/28
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性基材の表面に金属ナノ材分散液を直接塗布して、金属ナノ材層を形成させる工程と、
前記金属ナノ材層の表面にカーボン材分散液を塗布して、カーボン材層を形成させることにより、金属ナノ材層とカーボン材層との積層体を含む電極層を形成させる工程と、
前記カーボン材層の表面と、親水性基材とを直接圧着する工程と、
前記疎水性基材を剥離させ、前記電極層を、前記親水性基材の表面に転写させる工程と、
を含む電極の製造方法であって、
水中におけるpH6での、前記金属ナノ材のゼータ電位が前記疎水性基材のゼータ電位より低い、方法。
【請求項2】
前記親水性基材が柔軟性基材である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属ナノ材が銀ナノワイヤである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
疎水性基材の表面粗さが0.2μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記カーボン材がグラフェンである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記カーボン材がポリエチレンイミン鎖が結合したグラフェンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記カーボン材がグラファイト剥離グラフェンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記疎水性基材が、ポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
カーボン材層の表面に、第3の物質を含む層をさらに形成させる、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記電極層をさらに加工する工程を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記カーボン材層の表面と、前記親水性基材とを直接圧着する工程と、前記疎水性基材を剥離させ、前記電極層を、前記親水性基材の表面に転写させる工程とをロールツーロール方式で行う、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
第1電極と、第2電極と、それらの間に挟持された光電変換層とを具備する光電変換素子の製造方法であって、
前記第2電極の表面に前記光電変換層が形成された複合体を準備する工程と、
疎水性基材の表面に金属ナノ材分散液を直接塗布して、金属ナノ材層を形成させる工程と、
前記金属ナノ材層の表面にカーボン材分散液を塗布して、カーボン材層を形成させることにより、金属ナノ材層とカーボン材層との積層体を含む電極層を形成させる工程と、
前記カーボン材層の表面と、前記光電変換層とを直接圧着する工程と、
前記疎水性基材を剥離させ、前記電極層を、前記光電変換層の表面に転写させて第1の電極を形成させる工程と、
を含み、
水中におけるpH6での、前記金属ナノ材のゼータ電位が前記疎水性基材のゼータ電位より低い、方法。
【請求項13】
前記複合体が柔軟である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
金属ナノ材が銀ナノワイヤである請求項12~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記カーボン材がグラフェンである、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
カーボン材層の表面に、第3の物質を含む層をさらに形成させる、請求項12~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記第1電極をさらに加工する工程を含む、請求項12~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記第1電極の上に補助金属配線を形成する工程をさらに含む、請求項12~17に記載の方法。
【請求項19】
光電変換素子が有機ELである、請求項12~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
光電変換素子が太陽電池である、請求項12~19のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電極の製造方法および光電変換素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年エネルギーの消費量が増加してきており、地球温暖化対策として従来の化石エネルギーに代わる代替エネルギーの需要が高まっている。このような代替エネルギーのソースとして太陽電池に着目が集まっており、その開発が進められている。太陽電池は、種々の用途への応用が検討されているが、多様な設置場所に対応するために太陽電池のフレキシブル化と耐久性の改良が特に重要となっている。しかし、最も基本的な単結晶シリコン系太陽電池はコストが高く、またフレキシブル化が困難である。また、昨今注目されている有機太陽電池や有機無機ハイブリッド太陽電池は耐久性の点で改良の余地がある。
【0003】
太陽電池だけではなく、有機EL素子、または光センサーなどの光電変換素子についても、フレキシブル化するための検討が行われている。フレキシルな素子製造にはフレキシブルなポリマー基材を用いることが好ましいが、ポリマー基材は一般に耐熱性が不十分であるので、塗布法により素子を製造することが好ましい。従って、素子を構成する電極材料も塗布できる材料が好ましく、例えば金属ナノ材分散液が用いられている。金属ナノ材には種々の形状が知られており、ナノワイヤ状金属ナノ材は透明電極にも好適に適用できるものとして知られている。ナノワイヤ状金属ナノ材は塗布量により光透過性や電気抵抗を制御できるという特徴がある。一方、粒状や板状の金属ナノ材は、不透明な電極として利用されることが多く、特に低抵抗が必要な場合に用いられる。しかしながら、金属ナノ材として、銀を含む材料を用いた場合には、銀原子の拡散や、銀と酸素、ハロゲン、硫黄等との反応による素子劣化が問題となることがある。
【0004】
これに対してカーボン材料を用いて形成された電極は、炭素原子の拡散や反応による劣化は非常に少ないという特徴がある。しかしカーボン材料を用いて形成された電極は一般に電気抵抗が高い傾向にある。カーボン材料を用いて形成された電極もカーボン材の分散液を下地基材に塗布することにより製造できる。しかしこの場合には分散剤の影響により下地基材や素子が劣化する場合がある。銀ナノワイヤとグラフェン、ポリマーなどのカーボン材を組み合わせて透明電極フィルムを製造し、それをラミネートして素子製造をする方法も知られているが、下地基材として用いられるポリマーの種類などによって更なる加工が困難になることがある。またCVD法で作製したグラフェン膜を転写することにより電極を製造する方法も知られているが、一般に工程数が多く、また銅箔犠牲層の形成が必要になるなどコストが高い傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-200926公報
【0006】
【文献】S. Bae et.al.,Roll-to-roll production of 30-inch graphene films for transparent electrodes, Nature Nanotechnology, vol.5, No.8, 2010,pp574-578.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本実施形態は、上記のような課題に鑑みて、抵抗が低く、後加工の容易な電極を、素子の劣化が少ない、簡便な方法で製造する方法、およびそれを利用した光電変換素子の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態による電極の製造方法は、
疎水性基材の表面に金属ナノ材分散液を直接塗布して、金属ナノ材層を形成させる工程と、
前記金属ナノ粒子層の表面にカーボン材分散液を塗布して、カーボン材層を形成させることにより、金属ナノ材層とカーボン材層との積層体を含む電極層を形成させる工程と、
前記カーボン材層の表面と、親水性基材とを直接圧着する工程と、
前記疎水性基材を剥離させ、前記電極層を、前記親水性基材の表面に転写させる工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0009】
また、実施形態による光電変換素子の製造方法は、
第1電極と、第2電極と、それらの間に挟持された光電変換層とを具備する光電変換素子の製造方法であって、
前記第2電極の表面に前記光電変換層が形成された複合体を準備する工程と、
疎水性基材の表面に金属ナノ材分散液を直接塗布して、金属ナノ材層を形成させる工程と、
前記金属ナノ粒子層の表面にカーボン材分散液を塗布して、カーボン材層を形成させることにより、金属ナノ材層とカーボン材層との積層体を含む電極層を形成させる工程と、
前記カーボン材層の表面と、前記光電変換層とを直接圧着する工程と、
前記疎水性基材を剥離させ、前記電極層を、前記光電変換層の表面に転写させて第1の電極を形成させる工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(A)~(D)は実施形態による電極の製造方法を説明するための概念図である。
図2図2は、実施形態による転写された金属ナノ材層とカーボン材層を加工する工程を示す概念図である。
図3図3は、実施形態で製造する太陽電池の構造を示す概念図である。
図4図4は、実施形態で製造する有機EL素子の構造を示す概念図である。
図5図5は、実施例3で製造する太陽電池の構造を示す概念図である。
図6図6は、実施例5で製造する有機EL素子の構造を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下実施形態を詳細に説明する。
【0012】
[実施形態1]
まず、図1を用いて、第1の実施形態に係る透明電極の製造方法について説明する。図1(A)~(D)は、本実施形態に係る電極100の製造方法の説明するための概念図である。この電極の製造方法は、
疎水性のポリマー膜(疎水性基材)101の表面に金属ナノ材を含有する分散液102を直接塗布して金属ナノ材層103を形成させる工程A(図1(A))と、
上記ポリマー膜101の表面に形成された金属ナノ材層103の表面にカーボン材を含有する分散液104を塗布してカーボン材層105を形成させ、金属ナノ材層103とカーボン材層105とを含む電極層107を形成させる工程B(図1(B))と、
親水性基材106をカーボン材層の表面に直接圧着する工程C(図1(C))と、
ポリマー膜101と電極層107を剥離して、基材106に電極層107を転写する工程D(図1(D))を含む。
【0013】
(工程A)
まず、疎水性基材を準備する。疎水性基材は、基材全体が疎水性を示す必要は無く、金属ナノ材層を設ける面が疎水性であればよい。したがって、支持体の表面に疎水性層が形成されたものであってもよい。図1(A)において、疎水性基材は疎水性ポリマーからなるポリマー膜101を用いている。この疎水性基材の疎水性表面に金属ナノ材を含有する分散液102を直接塗布して金属ナノ材層103を形成させる。
【0014】
分散液102は、疎水性ポリマー膜101上に直接塗布される。実施形態においては、ポリマー膜と後述する親水性基材との親水性の差を利用して転写を行うため、分散液はポリマー膜101上に直接塗布される。実施形態においては、一般的に用いられる剥離層などは必要としない。
【0015】
分散液102を塗布する方法は特に限定されないが、例えば、図1(A)に示されているように、ポリマー膜101と離間し、かつ平行に配置された塗布バー102dとの間に分散液102を坦持し、バーもしくはポリマー膜を移動させる方法が挙げられる。 ポリマー膜とバーとの間隔はポリマー膜の材質、塗布液の材質、バーの種類によって調整することができる。分散液は、例えば分散液タンク102aから配管102bを介してポリマー膜とバーとの隙間にノズル102cで供給することができる。ここで、ポンプなどの供給量制御装置102eを設けることもできる。また、バー102dがノズルの機能を併せ持っていてもよい。
【0016】
そのほか、分散液102をポリマー膜101上にスプレー塗布してもよい。この方法を採用する場合、スプレーは複数の固定ノズルから行ってよいし、単一のノズルを往復移動させて行ってもよい。
【0017】
塗布して金属ナノ材層103を形成させた後、必要に応じて層の乾燥をすることができる。具体的には、加熱処理や減圧処理によって、分散媒の一部または全てを留去することもできる。
【0018】
ポリマー膜101は疎水性である。実施形態において疎水性であるとは、例えば純水の30℃での接触角が80度以上であり、好ましくは90度以上である。このようなポリマー膜を構成する材質としてはフッ素含有ポリマーが好ましい。フッ素含有ポリマーとして、炭化水素に含まれる水素の一部またはすべてがフッ素で置換されたフッ化炭化水素が典型例としてあげられる。このような炭化水素のうち、テトラフルオロエチレンの重合体が耐熱性や耐溶剤性、離型性から最も好ましい。またテトラフルオロエチレンの重合体から構成されるポリマー膜は洗浄しやすく、繰り返し使用が容易であることからも好ましい。その他フッ素含有ポリマーとしては、フッ素含有モノマー、例えばビニリデンフルオライド、パーフルオロアルキルビニルエーテル等、の単重合体、共重合体、およびフッ素含有モノマーと炭化水素、例えばエチレンやポリプロピレンとの共重合体がある。その他の疎水性ポリマーの材料としてはシリコーン樹脂などがある。ポリマー膜の内部にはガラス繊維や炭素繊維、その他フィラーなど機械的な強度を増すための素材が含有されていてもよい。
【0019】
これらのポリマーは負に帯電しやすい。したがって金属ナノ材も負に帯電していると剥離しやすくなり転写しやすくなる。帯電しやすさは水中もしくは有機溶媒中でのゼータ電位の測定により見積もることができ、金属ナノ材の電位はポリマー膜の電位より低いことが好ましい。水中においてはpH6でのゼータ電位が二酸化炭素を含む大気中の環境から好ましい。
【0020】
金属ナノ材を含有する分散液のゼータ電位は分散液に含まれる分散剤や金属ナノ材の表面処理剤によって制御することができ、負に帯電しやすいものが好ましい。ゼータ電位は電気泳動光散乱法でマルバーン社製ゼータサイザーナノZSを用いキャピラリーセルにより測定することができる。水中でのpHは分散液を少量滴下した純水に希塩酸と希水酸化カリウム水溶液を添加して調整する。
【0021】
ポリマー膜のゼータ電位は電気泳動光散乱法でマルバーン社製ゼータサイザーナノZSを用い平板ゼータ電位測定用セルによりポリスチレンラテックスをトレーサー粒子として測定することができる。水中でのpHは純水に希塩酸または希水酸化カリウム水溶液を添加して調整する。
【0022】
金属ナノ材の形状は粒状、板状、ワイヤ状、ロッド状など種々の形状をとり得る。この中でワイヤ状金属ナノ材は少量でも電気抵抗を低くできることから好適である上、形成される電極を透明電極とすることもできる。一方、粒状や板状の金属ナノ材は製造が簡単であるため低コストである。このため、透明性が重要ではない場合には、粒状や板状の金属ナノ材を多量に用いて、抵抗が極めて低い電極を形成することができる。
【0023】
本実施形態においては、金属ナノ材に含まれる金属の種類は特に限定されないが、価格、導電性などの観点から、銀、銀合金、銅、および銅合金からなる群から選択される金属からなるナノ材が好ましく、銀合金からなるナノ材が特に好ましい。
【0024】
金属ナノ材を含む分散液に含まれる分散媒としては、水、アルコール類、またはこれらの混合物が用いられる。これらの中では水は環境的に最も好ましく、安価である。ただし、分散媒が水のみであると疎水性ポリマー膜上への塗布は一般に難しい。塗布を容易にするためには、疎水性ポリマーを高温にした上で、ノズル塗布に代えてスプレー塗布することが好ましい。
【0025】
また、分散媒としてアルコール類を用いると、分散液の表面張力が小さいため疎水性ポリマー上にも塗布しやすくなる。アルコール類のうち比較的低温で蒸発するものがより好ましく、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、またはこれらの混合分散媒が好ましい。水とこれらアルコールとの混合分散媒も使用することができる。分散媒中には分散剤が混合されていてもよい。分散剤としてはポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールやこれらの誘導体などの高分子化合物、t-ブトキシエタノール、ジエチレングリコールモノt-ブチルエーテルなどの低分子化合物が挙げられる。
【0026】
金属ナノ材がワイヤ状である場合には、複数のナノワイヤは金属ナノ材層中において、互いに一部が接触または融合して、網目状や格子状等のネットワーク状構造を形成する。こうして複数の導電性パスが形成され、全体が連なった導電クラスターが形成される(パーコレーション導電理論)。そのような導電クラスターが形成されるためには、ナノワイヤにある程度の数密度が必要とされる。一般的には、導電クラスターが形成されやすいのは、より長いナノワイヤであり、導電性が大きいのは、直径のより大きなナノワイヤである。このように、ナノワイヤを用いることによってネットワーク状構造が形成されるため、金属の量は少ないものの全体として高い導電性を示す。具体的には、実施形態におけるナノワイヤの塗設量は、一般に、0.05~50g/m、好ましくは、0.1~10g/mである。さらに好ましくは0.15~1g/mである。この程度の密度で金属ナノワイヤが塗設されても、得られるナノワイヤ層はフレキシブルであるという利点を有している。
【0027】
金属ナノワイヤは、通常、直径10~500nm、長さ0.1~50μmの金属ナノワイヤから構成されている。なお、金属ナノワイヤの直径および長さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)によって選られるSEM画像の解析により測定することができる。
【0028】
ナノワイヤの直径が小さすぎる場合には、ナノワイヤ自体の電気抵抗が大きくなる傾向があり、一方、直径が大きすぎる場合には、光散乱等が増大して透明性が低下するおそれがある。このような観点から、ナノワイヤの直径が20~150nmであることが好ましく、30~120nmであることがより好ましい。
【0029】
ナノワイヤの長さが短すぎる場合には、十分な導電クラスターが形成されず電気抵抗が高くなる傾向にある。一方、ナノワイヤの長さが長すぎる場合には、電極等を製造する際の溶媒への分散が不安定になる傾向にある。このような観点から、ナノワイヤの長さが1~40μmであることが好ましく、5~30μmであることがより好ましい。
【0030】
ナノワイヤは、任意の方法で製造することができる。例えば銀ナノワイヤは、銀イオンの水溶液を種々の還元剤を用いて還元することによって、製造することができる。用いる還元剤の種類、保護ポリマーまたは分散剤、共存イオンを選択することによって、銀ナノワイヤの形状やサイズを制御できる。銀ナノワイヤの製造には、還元剤としてはエチレングリコールなどの多価アルコールを用い、保護ポリマーとしてはポリビニルピロリドンを用いることが好ましい。こうした原料を用いることによって、ナノオーダーのいわゆるナノワイヤが得られる。実施形態において、銀ナノワイヤは銀合金からなるナノワイヤを包含する。
【0031】
なお、金属ナノワイヤの分散液中に、金属ナノ粒子を含ませることもできる。例えば、銀ナノワイヤ分散液中には、銀ナノ粒子が含まれていてもよい。銀ナノワイヤと銀ナノ粒子とは凝集しやすく、銀ナノ粒子は接着材として作用して、銀ナノワイヤ同士を良好に接合する。その結果、導電フィルムとしての電気抵抗を下げることができる。
【0032】
(工程B)
次に、工程Aで形成された金属ナノ材層103の表面に、カーボン材を含有する分散液104を直接塗布してカーボン材層105を形成させて、金属ナノ材層とカーボンナノ材層とが積層された電極層107を得る。
【0033】
カーボン材としてはグラフェン、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、およびケッチェンブラックからなる群から選択される材料が好ましい。この中でグラフェンが光電変換層等から発生する物質の透過を防ぎ、金属ナノ材や下地の劣化を起こしにくくすることから特に好ましい。グラフェンとしてはグラファイト剥離グラフェンや還元型酸化グラフェンが好ましい。製造する電極の透明性が低くてもよい場合、グラフェンとしてはグラファイト剥離の多層グラフェンを用いるが好ましい。多層グラフェン層の膜厚は5~1000nmが好ましい。一方、透明性が高い電極を製造する場合には、還元型酸化グラフェンを用いることが好ましい。ポリエチレンイミン鎖が結合した還元型酸化グラフェンは分散性に優れているのでより好ましい。還元型酸化グラフェンに代えて酸化グラフェンを塗布製膜した後、水和ヒドラジン蒸気で還元して、還元型酸化グラフェンに転換させてもよい。また、透明性が高い電極を製造する場合に、グラフェンに代えてカーボンナノチューブを用いることができる。カーボンナノチューブは、グラフェンよりも低抵抗の電極を実現できるので好ましい。ただし、物質の透過遮蔽性を高く維持するためには、グラフェンを用いることが適当である。
【0034】
透明性の高い電極をグラフェンを用いて製造する場合、カーボン材層は、グラフェンの単分子層(以下、単層グラフェン層という)が、平均で1~4層積層された構造を有することが好ましい。グラフェンは無置換グラフェン、グラフェン骨格の炭素原子が一部窒素原子に置換された窒素ドープグラフェン、またはグラフェン骨格の炭素原子が一部ホウ素原子に置換されたホウ素ドープグラフェンが好ましい。グラフェン骨格はそのほとんどが炭素6員環で構成されるが、一部に5員環や7員環も有してもよい。このうち、無置換グラフェンおよびホウ素ドープグラフェンは陽極に好ましく、窒素ドープグラフェンは陰極に好ましい。窒素ドープ量(N/C原子比)はXPSで測定することができ、0.1~30atom%であることが好ましく、1~10atom%であることがより好ましい。窒素ドープグラフェン層は窒素原子を含んでいることから酸や金属イオンに対するトラップ能も高いので、遮蔽性はより高いものとなっている。
【0035】
カーボン材を含有する分散液104に含まれる分散媒としては、水、アルコール類、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、クロルベンゼン、またはこれらの混合物など、幅広い溶剤が用いられる。金属ナノ材層上への塗布においては選択できる溶剤は広い。これらの中では水は環境的に最も好ましく、安価である。
【0036】
カーボン材を含有する分散液104を塗布する方法として、例えば、金属ナノ材層と離間し、かつ平行に配置されたバー104dとの間に分散液104を坦持し、バーもしくはポリマー膜を移動させる方法が挙げられる。ポリマー膜とバーとの間隔はポリマー膜の材質、塗布液の材質、バーの種類によって調整することができる。分散液は、例えば分散液タンク104aから配管104bを介してポリマー膜とバーとの隙間にノズル104cで供給することができる。ここで、ポンプなどの供給量制御装置104eを設けることもできる。また、バー104dがノズルの機能を併せ持っていてもよい。分散液はポリマー膜とバーとの隙間にノズルで供給して塗布したり、ノズルの機能を併せ持つバーを用いて塗布したりすることができる。疎水性基材上に直接塗布することが困難な分散液でも金属ナノ材層上には塗布しやすい場合が多い。
【0037】
塗布してカーボン材層105を形成させた後、必要に応じて層の乾燥をすることができる。具体的には、加熱処理や減圧処理によって、分散媒の一部または全てを留去することもできる。
【0038】
必要に応じて、カーボン材層の上にさらに第3の物質の膜を形成させてもよい。第3の物質としては転写される親水性基材との密着性を上げる物質や、電子的な機能を有する物質、例えば電子輸送物質やホール輸送物質等がある。
【0039】
(工程C)
次に、工程Bで形成されたカーボン材層105の表面に、親水性基材106を直接圧着する。圧着によって、疎水性基材、金属ナノ材層、カーボン材層、および親水性基材のスタックが一時的に形成される。ここで、親水性基材の表面は、疎水性基材であるポリマー膜よりも親水性が高いことが必要である。そのため親水性基材および疎水性基材という表現は相対的な表現であり、一般的に疎水性材料と考えられているPETフィルムのような、撥水性基材も親水性基材として用いることができることがある。実施形態において、金属ナノ材層103およびカーボン材層105を含む電極層107は、ポリマー膜と親水性基材の親水性の差を利用して転写を行うため、親水性基材の表面には、転写方法において一般的に用いられる接着層は不要である。
【0040】
圧着する場合の圧力は特に限定されない。ただし、この圧着は金属ナノ材層と導電性基材が隙間なく密着させてスタックとすることが目的であるので、過度の圧力は不要である。
【0041】
親水性基材106としては、種々のポリマーやセラミックス等を含む絶縁性基材を用いることができる。また絶縁性基材の上にインジウム-スズ酸化物(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、酸化スズ、バナジウムドープ酸化チタン等の透明導電金属酸化物、PEDOT:PSS等の導電性ポリマーなどの導電膜が表面に形成された基材を用いてもよい。ここで、製造される電極または、その電極を具備した素子に柔軟性を持たせるために、親水性基材として柔軟性基材、例えばポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0042】
図1(C)に示される工程において、基材に直接圧着する方法は、例えば平板プレスによって行うことができる。具体的には、プレス機のポルスタプレートに、金属ナノ材層およびカーボン材層を形成した疎水性基材を固定し、スライドに親水性基材を固定することで、カーボン材層に親水性基材を圧着することができる。
【0043】
(工程D)
次に、カーボン材層をポリマー膜から剥離させ、基材に転写させる。この工程は、図1(D)に示した方法では、圧着のために印加した圧力と逆方向の力を印加することで達成する。
【0044】
具体的には、前記したようにプレス機で圧着を行った場合には、スライドをポルスタプレートから引き離す方向に移動させればよい。
その結果、電極層は相対的に親水性の高い親水性基材の表面に転写されて電極が製造される。疎水性基材の表面にカーボン材層のみが形成された場合、剥離しにくいこともあるが、金属ナノ材層が存在することで剥離しやすくなる場合が多い。
図1(C)および(D)では平板での圧着と剥離を示したが、例えば2つのロールで挟んで、圧着と剥離を行うと連続的に処理することができるロールツーロール方式を適用することもできる。
【0045】
(任意の追加工程)
電極層を親水性基材に転写した後、転写された電極層の表面に補助金属配線を製造する工程をさらに組み合わせることもできる。補助金属配線は、一般に素子における集電に使用されるものである。この補助金属の形成に用いられる材料は、銀、金、銅、モリブデン、アルミニウムおよびこれらの合金からなる群から選択される材料であることが好ましい。補助金属配線の一部が金属ナノ材層や親水性基材と接していることも可能であり、補助金属配線との接合をより強固にすることができる。補助金属配線層の形状は、線状、くし状、網目状などの形状を取り得る。
【0046】
また図2で示すように、金属ナノ材層103やカーボン材層105をパターニングしてもよい。このようなパターニングには機械的なスクライブやレーザースクライブが適している。これにより種々の素子に応用できる電極を作製することができる。
【0047】
[実施形態2]
第2の実施形態は、第1電極と、第2電極と、それらの間に挟持された光電変換層とを具備する光電変換素子の製造方法に関する。この方法では、
第2電極の表面に前記光電変換層が形成された複合体を準備する工程と、
疎水性基材の表面に金属ナノ材分散液を直接塗布して、金属ナノ材層を形成させる工程と、
前記金属ナノ粒子層の表面にカーボン材分散液を塗布して、カーボン材層を形成させることにより、金属ナノ材層とカーボン材層との積層体を含む電極層を形成させる工程と、
前記カーボン材層の表面と、前記光電変換層とを直接圧着する工程と、
前記疎水性基材を剥離させ、前記電極層を、前記光電変換層の表面に転写させて第1の電極を形成させる工程と、
を含んでいる。
【0048】
実施形態1では電極層を親水性基材に転写するが、実施形態2では光電変換層に転写させることを特徴とする。第1電極の形成に関して、電極層を転写する対象が光電変換層であること以外は、実施形態1と同様の方法を採用することができる。
【0049】
なお、第2電極を実施形態1の方法で作成することもできる。この場合には、第2電極を実施形態1の方法で作成する場合に基材として、光電変換素子を支持するのに適当な支持体を用いることが好ましい。具体的には、ガラス、シリコン基板、ポリマーフィルムなどが挙げられる。
【0050】
また、第2電極として、任意の電極を用いることができる。例えば、銀、銅、アルミニウム、またはそれらの合金からなる金属電極や、インジウム-スズ酸化物(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、酸化スズ、バナジウムドープ酸化チタン等の金属酸化物電極、PEDOT:PSS等の導電性ポリマーなどの有機導電膜を用いることもできる。
【0051】
さらに光電変換層は、光を吸収して電力を発生するものであっても、電力を消費して光を放射するものであってもよい。以下に、それらの実施形態について説明する。
【0052】
[実施形態2-1]
図3を用いて、実施形態の一つに係る製造方法によって製造される光電変換素子である太陽電池300の構成概略について説明する。太陽電池セル300は、このセルに入射してきた太陽光L等の光エネルギーを電力に変換する太陽電池としての機能を有する素子である。太陽電池セル300は、透明電極301と対極302と光電変換層303を有する。ここで透明電極もしくは対極の少なくとも一方は本実施形態で製造される金属ナノ材層とカーボン層の積層構造を有する。対極は不透明であってもよいし透明であってもよい。
【0053】
光電変換層303は、入射してきた光の光エネルギーを電力に変換して電流を発生させる半導体を含む層である。光電変換層303は、一般に、p型の半導体層とn型の半導体層とを具備している。光電変換層としてはp型ポリマーとn型材料との積層体、ABXで示されるペロブスカイト型(ここでAは一価のカチオン、Bは二価のカチオン、Xはハロゲンイオンである)、シリコン半導体、InGaAsやGaAsやカルコパイライト系やCdTe系やInP系やSiGe系などの無機化合物半導体、量子ドット含有型、さらには色素増感型の透明半導体を用いてもよい。いずれの場合も効率が高く、より出力の劣化を小さくできる。
【0054】
光電変換層303と電極の間には電荷注入を促進もしくはブロックするためにさらにバッファ層等が挿入されていてもよい。
【0055】
陽極用バッファ層や電荷輸送層としては、例えばバナジウム酸化物、PEDOT/PSS、p型ポリマー、五酸化バナジウム(V)、2,2’,7,7’-Tetrakis[N,N-di(4-methoxyphenyl)amino]-9,9’- spirobifluorene(以下、Spiro-OMeTADという)、酸化ニッケル(NiO)、三酸化モリブデン(MoO)等からなる層を用いることができる。
【0056】
一方、陰極用のバッファ層や電荷輸送層としてはフッ化リチウム(LiF)、カルシウム(Ca)、6,6’-フェニル-C61-ブチル酸メチルエステル(6,6’-phenyl-C61-butyric acid methyl ester、C60-PCBM)、6,6’-フェニル-C71-ブチル酸メチルエステル(6,6’-phenyl-C71-butyric acid methyl ester、以下C70-PCBMという)、インデン-C60ビス付加体(Indene-C60 bisadduct、以下、ICBAという)、炭酸セシウム(CsCO)、二酸化チタン(TiO2)、poly[(9,9-bis(3’-(N,N-dimethylamino)propyl)-2,7-fluorene)-alt-2,7-(9,9-dioctyl- fluorene)](以下、PFNということがある)、バソクプロイン(Bathocuproine、以下BCPということがある)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化亜鉛(ZnO)、三酸化タングステン(WO)、ポリエチンイミン等からなる層を用いることができる。
【0057】
本実施形態の製造方法により製造される光電変換素子は、光電池、太陽電池セルなどのほか、光センサーとしても使用できる。ここで光としては赤外線から紫外線、γ線まで広い波長の光を選択することができる。
【0058】
実施形態による光電変換素子の製造方法には、紫外線カット層、またはガスバリア層を形成させる工程をさらに有することができる。紫外線カット層に含まれる紫外線吸収剤の具体例としては、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ第3ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-第3オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物;フェニルサリチレート、p-オクチルフェニルサリチレート等のサリチル酸エステル系化合物が挙げられる。これらは400nm以下の紫外線をカットするものであることが望ましい。
【0059】
ガスバリア層としては特に水蒸気と酸素を遮断するものが好ましく、特に水蒸気を通しにくいものが好ましい。例えば、SiN、SiO、SiC、SiO、TiO、Alの無機物からなる層、超薄板ガラス等を好適に利用することができる。ガスバリア層の厚みは特に制限されないが、0.01~3000μmの範囲であることが好ましく、0.1~100μmの範囲であることがより好ましい。0.01μm未満では十分なガスバリア性が得られない傾向にあり、他方、前記3000μmを超えると重厚化して、柔軟性等の特長が消失する傾向にある。ガスバリア層の水蒸気透過量(透湿度)としては、10g/m・d~10-6g/m・dが好ましく、より好ましくは10g/m・d~10-5g/m・dであり、さらに好ましくは1g/m・d~10-4g/m・dである。尚、透湿度はJIS Z0208等に基づいて測定することができる。ガスバリア層を形成するには、乾式法が好適である。乾式法によりガスバリア性のガスバリア層を形成する方法としては、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、誘導加熱蒸着、及びこれらにプラズマやイオンビームによるアシスト法などの真空蒸着法、反応性スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、ECR(電子サイクロトロン)スパッタリング法などのスパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的気相成長法(PVD法)、熱や光、プラズマなどを利用した化学的気相成長法(CVD法)などが挙げられる。中でも、真空下で蒸着法により膜形成する真空蒸着法が好ましい。
【0060】
実施形態による素子の製造に用いられる基材として、例えば、透明基材としては、ガラスなどの無機材料、PET、PEN、ポリカーボネート、PMMAなどの有機材料が用いられる。また基材としてアルミ箔やSUS箔なども用いることができる。柔軟性のある材料を用いると、実施形態による光電変換素子が柔軟性に富むものになるので好ましい。
【0061】
本実施形態では場合によりカーボン材層の上に光電変換層を形成させた後に、対極側に転写させることもできる。
【0062】
[実施形態2-2]
図4を用いて、実施形態に係る製造方法により製造される別の光電変換素子(有機EL素子400)の構成について説明する。有機EL素子400は、この素子に入力された電気エネルギーを光Lに変換する発光素子としての機能を有する素子である。
【0063】
有機EL素子400は、透明電極401と対極402と光電変換層403を有する。ここで透明電極もしくは対極の少なくとも一方は本実施形態で製造される金属ナノ材層とカーボン層の積層構造を有する。対極は不透明であってもよいし透明であってもよい。
【0064】
光電変換層403は、電力を変換して光を発生させる半導体層である。光電変換層403は、一般に、p型の半導体層とn型の半導体層とを具備している。光電変換層403と電極の間には電荷注入を促進もしくはブロックするためにさらにバッファ層が挿入されていてもよい。
【0065】
実施形態を諸例を用いて説明すると以下の通りである。
【0066】
(実施例1)
10cm角のポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)の表面にスパッタ法によりITO層を形成させて、表面抵抗が300Ω/□の導電フィルム(親水性基材)を製造する。
【0067】
直径70nmの銀ナノワイヤを水に分散させ0.3wt%の分散液を作製する。10cm角の厚さ100μmのポリテトラフルオロエチレンフィルム(PTFEフィルム、疎水性基材)を120℃の台の上に設置し、銀ナノワイヤ水性分散液をスプレー塗布して金属ナノ材層を形成させる。pH6の水中でのゼータ電位はPTFEフィルムが-17mV、銀ナノワイヤが-30mVである。
【0068】
銀ナノワイヤ層上にポリエチレンイミン鎖が結合した還元型酸化グラフェンのエタノール分散液をバー塗布により室温で塗布して、カーボン材層を形成させる。
【0069】
100℃の台の上に上記グラフェン層と、上記親水性基材のITO層とが対向するスタックとし、その上に金属板を乗せてプレスして直接圧着する。次に、PETフィルムを端から剥がしてITO層上に銀ナノワイヤ層とグラフェン層との積層体を転写する。
銀ナノワイヤ層およびグラフェン層はほぼ完全に転写され、表面抵抗が10Ω/□の透明電極が得られる。
【0070】
(実施例2)
直径30nmの銀ナノワイヤを2-プロパノールに分散させ1wt%の分散液を製造する。10cm角の厚さ100μmのPTFEフィルム(疎水性基材)を60℃の台の上に設置し、直径5mmの円柱状のバーとPTFEフィルムの間(ギャップ:500μm)に銀ナノワイヤ分散液を坦持させる。PTFEフィルムとバーの間にはメニスカスが形成する。バーを83mm/sの速度で移動させ、PTFEフィルムの表面に銀ナノワイヤ分散液を塗布して、銀ナノワイヤ層(金属ナノ材層)を形成させる。
【0071】
銀ナノワイヤ層上にグラファイトを剥離した多層グラフェンの2-プロパノール分散液をバー塗布により室温で塗布してカーボン材層を形成させる。
【0072】
120℃の台の上に上記グラフェン層と厚さ100μmのPETフィルムをスタックとし、その上に金属ローラーを端から転がして直接圧着し、引き続いて剥離を行うことによってPETフィルム上に銀ナノワイヤ層とグラフェン層を転写する。
銀ナノワイヤ層およびグラフェン層はほぼ完全に転写され、表面抵抗が0.3Ω/□の電極が得られる。
【0073】
(実施例3)
図5に示す半透明な太陽電池500を作成する。
【0074】
PETフィルム501上に形成されたITO層502の表面を、酸でパターニングして短冊状の透明電極を作製する。酸化グラフェンの水溶液をバーコーターで塗布して酸化グラフェン層を形成させ、次いで、90℃で20分乾燥した後、110℃で水和ヒドラジン蒸気で1時間処理して酸化グラフェンの炭素原子の一部が窒素原子に置換された平均2層N-グラフェン層からなる遮蔽層503に変化させる。
【0075】
遮蔽層503の上に、PEDOT・PSSの水溶液をバーコーターで塗布し、100℃で30分乾燥してPEDOT・PSSを含むバッファ層504(50nm厚)を形成させる。
【0076】
バッファ層503上にポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)とC60-PCBMとを含むクロルベンゼン溶液をバーコーターで塗布し、100℃で20分乾燥することにより光電変換層505を製造する。
【0077】
光電変換層505の上にバッファ層として酸化スズのナノ粒子のエタノール分散液をバーコーターで塗布して乾燥させ、バッファ層506を形成させる。
【0078】
直径70nmの銀ナノワイヤを水に分散させ0.3wt%の分散液を作製する。10cm角の厚さ100μmのPTFEフィルム(疎水性基材、図示せず)を120℃の台の上に設置し、銀ナノワイヤ水性分散液をスプレー塗布して銀ナノワイヤ層507を形成させる。
【0079】
銀ナノワイヤ層上にポリエチレンイミン鎖が結合した還元型酸化グラフェンのエタノール分散液をバー塗布により室温で塗布し、120℃で乾燥してグラフェン層508を形成させる。これにより電極層509が形成される。
【0080】
100℃の台の上にポリエチレンイミン鎖が結合した還元型酸化グラフェン層508が上になるように置き、酸化スズのバッファ層506と接するように金属ローラーを転がして端から圧着、剥離を行い銀ナノワイヤ層507およびグラフェン層508、すなわち電極層509を転写させる。
【0081】
次に短冊状に掲載されているITOパターンに従って、ITO上部の膜をメカニカルスクライブする。次に銅をスパッタして金属配線層510を形成させる。これにより短冊状のセルは直列に配線される。
【0082】
全体を熱硬化性のシリコーン樹脂でコートした後加熱して厚さ40μmの絶縁層(図示せず)を製造する。絶縁層の上に紫外線カットインクをスクリーン印刷して紫外線カット層(図示せず)を製造する。紫外線カット層の上にCVDでシリカ層を製膜しガスバリア層(図示せず)を製造する。さらに周りを封止することにより太陽電池モジュールを製造する。
得られる太陽電池モジュールは半透明であり、1SUNの擬似太陽光に対して4%以上のエネルギー変換効率を示す。また大気中、60℃、連続1000時間の擬似太陽光照射で効率の低下は2%以内である。
【0083】
(実施例4)
片側が透明な太陽電池を作製する。
PETフィルム上に形成されたITOの表面を、酸でパターニングして短冊状の透明電極を作製する。ポリエチレンイミン鎖が結合した還元型酸化グラフェンのエタノール分散液をバーコーターで塗布した後、酸化グラフェンの水分散液を塗布し、次いで、120℃で10分乾燥し、グラフェン層からなる遮蔽層を作製する。
【0084】
遮蔽グラフェン層上に、PEDOT・PSSの水溶液をバーコーターで塗布し、100℃で30分乾燥してPEDOT・PSSを含むバッファ層(50nm厚)を形成させる。
【0085】
バッファ層上にP3HTとC60-PCBMとを含むクロルベンゼン溶液をバーコーターで塗布し、100℃で20分乾燥することにより光電変換層を作製する。
【0086】
光電変換層の上にバッファ層として酸化スズのナノ粒子のエタノール分散液をバーコーターで塗布して乾燥させ、バッファ層を形成させる。
【0087】
直径30nmの銀ナノワイヤを2-プロパノールに分散させ1wt%の分散液を製造する。10cm角の厚さ100μmのPTFEフィルム(疎水性基材)を60℃の台の上に設置し、直径5mmの円柱状のバーPTFEフィルムの間(ギャップ:500μm)に銀ナノワイヤ分散液を坦持させる。PTFEフィルムとバーの間にはメニスカスが形成する。バーを83mm/sの速度で移動させ、銀ナノワイヤ分散液を塗布する。
【0088】
銀ナノワイヤ層上にグラファイトを剥離した多層グラフェンの2-プロパノール分散液をバー塗布により室温で塗布する。
【0089】
50℃の台の上に上記グラフェン層が上になるように置き、酸化スズのバッファ層と接するように金属ローラーを転がして端から圧着、剥離を行い銀ナノワイヤ層およびグラフェン層を転写させる。
【0090】
次に短冊状のITOパターンに従って、ITO上部の膜をメカニカルスクライブする。次に銅をスパッタして金属配線層を製造する。これにより短冊状のセルは直列に配線される。
【0091】
実施例3と同様にして後工程を行い、片側が透明な太陽電池モジュールを製造する。得られる太陽電池モジュールは1SUNの擬似太陽光に対して5%以上のエネルギー変換効率を示す。また大気中、60℃、連続1000時間の擬似太陽光照射で効率の低下は1%以内である。
【0092】
(実施例5)
図6に示す半透明な有機EL素子600を作成する。
【0093】
PETフィルム601上に形成されたITO/銀合金/ITOの積層透明電極602の表面にポリエチレンイミン鎖が結合した還元型酸化グラフェンのエタノール分散液をバーコーターで塗布した後、酸化グラフェンの水分散液を塗布し、次いで、120℃で10分乾燥し、グラフェン層からなる遮蔽層603を作製する。
【0094】
遮蔽グラフェン層上に、PEDOT・PSSの水溶液をバーコーターで塗布し、100℃で30分乾燥してPEDOT・PSSを含むバッファ層604(50nm厚)を形成させる。
【0095】
バッファ層上にp型半導体であるN,N’-ジ-1-ナフチル-N,N’-ジフェニル-1,1’-4,4’-ジアミンを30nmの厚さで蒸着し、その上にn型半導体として機能し、発光材でもあるトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウムを40nmの厚さで蒸着して光電変換層605を作製する。
【0096】
直径30nmの銀ナノワイヤを2-プロパノールに分散させ0.3wt%の分散液を製造する。10cm角の厚さ100μmのPTFEフィルムを60℃の台の上に設置し、直径5mmの円柱状のバーとPTFEフィルムの間(ギャップ:500μm)に銀ナノワイヤ分散液を坦持させる。PTFEフィルムとバーの間にはメニスカスが形成する。バーを8mm/sの速度で移動させ、銀ナノワイヤ分散液を塗布する。
【0097】
銀ナノワイヤ層上にポリエチレンイミン鎖が結合した還元型酸化グラフェンのエタノール分散液をバー塗布により室温で製膜し、120℃で乾燥してグラフェン層を形成させる。
【0098】
70℃の台の上にポリエチレンイミン鎖が結合した還元型酸化グラフェン層が上になるように置き、光電変換層605と接するように金属ローラーを転がして端から圧着、剥離を行いグラフェン層606と銀ナノワイヤ層607を転写させる。
【0099】
次にアルミニウムをスパッタして金属補助配線層(図示せず)を製造する。
【0100】
実施例3と同様にして後工程を行い、窓用の照明等に用いることが可能な半透明な有機EL素子を製造する。得られる有機EL素子は大気中、60℃、連続1000時間の駆動で出力の低下は2%以内である。
【0101】
(実施例6)
平均粒径が800nmの銀粒子とポリビニルピロリドンをエタノールに分散させ1wt%の分散液を製造する。10cm角の厚さ100μmのPTFEフィルム上にスクリーン印刷で銀粒子分散液を塗布させる。
【0102】
銀粒子層上にグラファイトを剥離した多層グラフェンの2-プロパノール分散液をバー塗布により室温で製膜する。
【0103】
120℃の台の上に上記グラフェン層と厚さ100μmのPETフィルムをスタックとし、その上に金属ローラーを端から転がして直接圧着し、引き続いて剥離を行うことによってPET上に銀粒子層とグラフェン層を転写する。
銀粒子層およびグラフェン層はほぼ完全に転写され、表面抵抗が0.1Ω/□の電極が得られる。
【0104】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0105】
101…ポリマー膜(疎水性基材)
102…金属ナノ材を含有する分散液
103…金属ナノ材層
104…カーボン材を含有する分散液
105…カーボン材層
106…親水性基材
107…電極層
300…太陽電池
301…透明電極
302…対極
303…光電変換層を含む層
400…有機EL素子
401…透明電極
402…対極
403…光電変換層
500…太陽電池
501…PETフィルム
502…ITO層
503…遮蔽層
504…バッファ層
505…光電変換層
506…バッファ層
507…銀ナノワイヤ層
508…グラフェン層
509…電極層
510…金属配線層
600…有機EL素子
601…PETフィルム
602…積層透明電極
603…遮蔽層
604…バッファ層
605…光電変換層
606…グラフェン層
607…銀ナノワイヤ層
608…電極層
図1
図2
図3
図4
図5
図6