(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】通気性塩中子を用いた鋳造製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 9/10 20060101AFI20230106BHJP
B22C 9/24 20060101ALI20230106BHJP
B22C 1/00 20060101ALI20230106BHJP
F02F 3/00 20060101ALI20230106BHJP
F02F 3/20 20060101ALI20230106BHJP
F16J 1/01 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
B22C9/10 K
B22C9/10 E
B22C9/24 A
B22C1/00 F
F02F3/00 G
F02F3/20
F16J1/01
(21)【出願番号】P 2021565279
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019050033
(87)【国際公開番号】W WO2021124542
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000243434
【氏名又は名称】本田金属技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正男
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 久記
(72)【発明者】
【氏名】阿部 顕太
(72)【発明者】
【氏名】関口 洋平
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】実用新案登録第2570422(JP,Y2)
【文献】特開昭60-3958(JP,A)
【文献】特開2005-131664(JP,A)
【文献】実開平6-19953(JP,U)
【文献】特開平7-195148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/10
B22C 9/24
B22C 1/00
F02F 3/00
F02F 3/20
F16J 1/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造製品の中空部を成形するために重力鋳造用金型(1)のキャビティ(2)に設置され、且つ重力鋳造後に溶解、除去される通気性塩中子(4)を用いた鋳造製品の製造方法であって、
無数の塩粒子(17)が前記中空部に対応した所定形状に圧粉成形されて成るとともに、鋳造過程で溶湯によって押し出された前記キャビティ(2)内の残留気体(10)を保持し得る隙間(18)が前記無数の塩粒子(17)の相互間に形成された通気性塩中子(4)を、未焼成状態で鋳造用金型(1)のキャビティ(2)内に設置し、
続く重力鋳造過程で、溶湯によって押し出された前記キャビティ(2)内の残留気体(10)を、前記通気性塩中子(4)の表面から前記隙間(18)に入り込ませて、前記通気性塩中子(4)内に保持することを特徴とする、通気性塩中子を用いた鋳造製品の製造方法。
【請求項2】
鋳造製品の中空部を成形するために鋳造用金型(1)のキャビティ(2)に設置され、且つ鋳造後に溶解、除去される通気性塩中子(4)を用いた鋳造製品の製造方法であって、
無数の塩粒子(17)が前記中空部に対応した所定形状に圧粉成形されて成るとともに、鋳造過程で溶湯によって押し出された前記キャビティ(2)内の残留気体(10)を保持し得る隙間(18)が前記無数の塩粒子(17)の相互間に形成された、圧粉成形後の充填密度が88~92%である通気性塩中子(4)を、未焼成状態で鋳造用金型(1)のキャビティ(2)内に設置し、
続く鋳造過程で、溶湯によって押し出された前記キャビティ(2)内の残留気体(10)を、前記通気性塩中子(4)の表面から前記隙間(18)に入り込ませて、前記通気性塩中子(4)内に保持することを特徴とする、通気性塩中子を用いた鋳造製品の製造方法。
【請求項3】
前記鋳造製品が内燃機関用のピストン(P)であり、前記中空部は、該ピストンの頂部におけるクーリングチャンネル(C)であることを特徴とする、請求項1に記載の通気性塩中子を用いた鋳造製品の製造方法。
【請求項5】
前記通気性塩中子(4)は、前記塩粒子(17)が80~130MPaの成形圧力で充填密度が88~92%となるように圧粉成形され、その圧粉成形後は、焼成工程と機械加工工程とが省略されることを特徴とする、請求項2に記載の通気性塩中子を用いた鋳造製品の製造方法。
【請求項6】
添加物を含まない前記塩粒子(17)が、それのみで直接圧粉成形されることを特徴とする、請求項5に記載の通気性塩中子を用いた鋳造製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に中空部を有する鋳造部品を製造する際に使用される通気性塩中子を用いた鋳造製品の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
内部に中空部を有する鋳造部品を製造する際に使用される中子として、砂中子や塩中子が知られている。これらの中子は、鋳造用金型のキャビティにおける鋳造部品の中空部に対応する位置にセットされ、キャビティへの溶湯の充填が行われた後、砂中子であればそれを崩壊させて原料砂を外部に排出し、塩中子であればそれに高圧水を当てて原料塩を溶解・除去するのであるが、なかでも塩中子は、特に内燃機関のピストンのような、砂の付着を嫌う環境において内部に中空部を有する鋳造部品を製造する際に多く用いられており、このような塩中子を用いた鋳造製品の製造方法として、下記特許文献1に開示されるようなものが既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されたような従来の塩中子を用いた鋳造製品の製造方法では、圧粉成形後の塩中子を鋳造用金型のキャビティにセットする前に、それを所定形状に成形するための機械加工を施しており、そのような機械加工に耐え得る強度を確保するために、通常は高圧のプレスで圧粉成形して充填密度を高め、更に強度を高めるための焼成を行っている。そのため従来の塩中子は、塩中子の塩粒子相互間にキャビティ中に残存する気体を保持することができなくて、注湯時に塩中子の内周側から上部に回り込んだ溶湯と、塩中子の外周側から上部に回り込んだ溶湯との合流箇所で、内周側および外周側から回り込んだそれぞれの溶湯によって押し出されたキャビティ内の残留気体が対面部でぶつかり合い、それにより溶湯の湯流れ性が阻害されて充填不良が起こり易いものである。
【0005】
それに対処するために、上記特許文献1のものでは塩中子の上面中央部に溝を設け、溶湯により押し出されたキャビティ内の残留気体をその溝から逃がすようにしているが、そのようにすると塩中子の製造工程が複雑化してコスト増も招いていた。
【0006】
そこで本発明は、キャビティ中に残存する気体を保持し得る隙間を塩中子の塩粒子相互間に形成し、その隙間に鋳造過程でキャビティ中に残存する気体を保持することで、溶湯により押し出されたキャビティ内の残留気体を逃がす溝を塩中子に設けなくても、該残留気体を前記隙間に入り込ませることで溶湯の流れが阻害されないようにして、溶湯の充填不良を起こり難くした、製造工程が簡単且つ低コストで作成可能な、通気性塩中子を用いた鋳造製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、鋳造製品の中空部を成形するために重力鋳造用金型のキャビティに設置され、且つ重力鋳造後に溶解、除去される通気性塩中子を用いた鋳造製品の製造方法であって、無数の塩粒子が前記中空部に対応した所定形状に圧粉成形されて成るとともに、鋳造過程で溶湯によって押し出された前記キャビティ内の残留気体を保持し得る隙間が前記無数の塩粒子の相互間に形成された通気性塩中子を、未焼成状態で鋳造用金型のキャビティ内に設置し、続く重力鋳造過程で、溶湯によって押し出された前記キャビティ内の残留気体を、前記通気性塩中子の表面から前記隙間に入り込ませて、前記通気性塩中子内に保持することを第1の特徴とする。
【0008】
また本発明は、鋳造製品の中空部を成形するために鋳造用金型のキャビティに設置され、且つ鋳造後に溶解、除去される通気性塩中子を用いた鋳造製品の製造方法であって、無数の塩粒子が前記中空部に対応した所定形状に圧粉成形されて成るとともに、鋳造過程で溶湯によって押し出された前記キャビティ内の残留気体を保持し得る隙間が前記無数の塩粒子の相互間に形成された、圧粉成形後の充填密度が88~92%である通気性塩中子を、未焼成状態で鋳造用金型のキャビティ内に設置し、続く鋳造過程で、溶湯によって押し出された前記キャビティ内の残留気体を、前記通気性塩中子の表面から前記隙間に入り込ませて、前記通気性塩中子内に保持することを第2の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記鋳造製品が内燃機関用のピストンであり、前記中空部は、該ピストンの頂部におけるクーリングチャンネルであることを第3の特徴とする。
【0011】
また本発明は、第2の特徴に加えて、前記通気性塩中子は、前記塩粒子が80~130MPaの成形圧力で充填密度が88~92%となるように圧粉成形され、その圧粉成形後は、焼成工程と機械加工工程とが省略されることを第4の特徴とする。
【0012】
また本発明は、第4の特徴に加えて、粒径が略一定で添加物を含まない前記塩粒子が、それのみで直接圧粉成形されることを第5の特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の特徴によれば、鋳造製品の中空部を成形するために重力鋳造用金型のキャビティに設置され、且つ重力鋳造後に溶解、除去される塩中子を用いた鋳造製品の製造方法において、無数の塩粒子が鋳造製品の中空部に対応した所定形状に圧粉成形されて成るとともに、鋳造過程で溶湯によって押し出されたキャビティ内の残留気体を保持し得る隙間が前記無数の塩粒子の相互間に形成された通気性塩中子を、未焼成状態で鋳造用金型のキャビティ内に設置した後、続く重力鋳造過程で、溶湯によって押し出された前記キャビティ内の残留気体を、前記通気性塩中子の表面から前記隙間に入り込ませて、前記通気性塩中子内に保持するようにしているので、溶湯により押し出されたキャビティ内の残留気体を逃がす溝を塩中子に設けなくても、鋳造過程でキャビティ中に残存する気体をその隙間に入り込ませて保持することができるから、該残留気体により溶湯の流れが阻害されることを防止できて、溶湯の充填不良を起こし難い、湯廻り性の良好な鋳造製品を形成することができる。
【0014】
また、前記通気性塩中子は未焼成状態で使用されるので、焼成に伴う塩粒子の溶融を避け得て、塩粒子相互間にキャビティ中に残存する気体を保持し得る隙間を確実に形成でき、しかもこの通気性塩中子は、溶湯により押し出されたキャビティ内の残留気体を逃がす溝を特に設ける必要がないので、製造工程が簡単で且つ低コストで作成することができる。
【0015】
また本発明の第2の特徴によれば、前記通気性塩中子は、充填密度が88~92%であるので、鋳造過程でキャビティ中に残存する気体を保持する隙間を十分に確保して湯廻り性が良好であると共に、キャビティ内にセットしたときにセット割れを生じない強度を保持できる。
【0016】
また本発明の第3の特徴によれば、前記鋳造製品が内燃機関用のピストンであり、前記中空部は、該ピストンの頂部におけるクーリングチャンネルであるので、湯廻り性が良好なクーリングチャンネル付きのピストンを、簡単且つ低コストで製造することができる。
【0018】
また本発明の第4の特徴によれば、前記通気性塩中子は、塩粒子が80~130MPaの成形圧力で充填密度が88~92%となるように圧粉成形され、その圧粉成形後は、焼成工程と機械加工工程とが省略されて製造される。このように80~130MPaの低圧で圧粉成形を行うことで、塩中子の成形機の金型に高い強度を必要としないため、該金型で塩中子の断面形状をそのまま成形できて機械加工工程が省略できる。しかもそのときの充填密度を88~92%とすることで、塩中子をそのままの状態でキャビティ内にセットしてもセット割れを生じることがなく、焼成工程を省略できるから、製造工程が簡単であると共に低コストで作成できる。しかも低圧で圧粉成形を行うことで、成形後の無数の塩粒子の相互間に、鋳造過程でキャビティ中に残存する気体を保持し得る隙間が形成されるので、この通気性塩中子を用いることで、鋳造過程でキャビティ中に残存する気体を前記隙間に入り込ませて溶湯の流れを阻害しないようにすることができて、湯廻り性の良好な鋳造製品を形成できる。
【0019】
また本発明の第5の特徴によれば、通気性塩中子は粒径が略一定で添加物を含まない塩粒子が、それのみで直接低圧圧粉成形されるので、粒径の異なる塩粒子をブレンドしたり、水ガラス等のバインダーや金属石けん等の潤滑剤などの添加物を添加する作業を無くして、塩粒子相互間に気体を保持し得る隙間を簡単且つ低コストで形成した通気性塩中子を、鋳造製品の製造に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1(A)は本発明の製造方法を適用してクーリングチャンネルを成形した内燃機関用ピストンの縦断面図(
図1(B)のA-A断面図)であり、
図1(B)は
図1(A)のB-B断面図である。(第1の実施の形態)
【
図2】
図2(A)は、
図1の内燃機関用ピストンPを製造する製造装置における金型のキャビティ内に通気性塩中子をセットした状態を示す縦断面図であり、
図2(B),(C)はそのB,C部の拡大図である。(第1の実施の形態)
【
図3】
図3は
図2(A)の製造装置にセットされる通気性塩中子とその支持ピンの斜視図である。(第1の実施の形態)
【
図4】
図4は
図2(A)の金型のキャビティ内に溶湯を流し込んだときの溶湯の流れを説明する図である。(第1の実施の形態)
【
図5】
図5(A)は、本発明の通気性塩中子を圧粉成形するための成形機およびその成形機の金型の構造を示し、
図5(B1)~(B3)は、塩中子の成形時の動作を段階的に示す
図5(A)のB部拡大図である。(第1の実施の形態)
【
図6】
図6は
図5(A)の成形機で成形するときの成形圧力を2段階に変えたときの塩中子表面の走査型電子顕微鏡画像である。(第1の実施の形態)
【
図7】
図7は塩中子の成形圧力と充填密度との関係を示す図である。(第1の実施の形態)
【
図8】
図8は塩中子の充填密度とクーリングチャンネルにおける湯廻り不良の割合との関係、及び充填密度とセット割れの割合との関係をそれぞれ示す図である。(第1の実施の形態)
【符号の説明】
【0021】
1・・・・鋳造用金型
2・・・・キャビティ
4・・・・塩中子
10・・・気体
17・・・塩粒子
18・・・隙間
C・・・・クーリングチャンネル
P・・・・内燃機関用のピストン
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の通気性塩中子を用いた鋳造製品の製造方法を内燃機関用のピストンの頂部におけるクーリングチャンネルの成形に適用した実施形態を、添付図面に基づいて以下に説明する。
【第1の実施の形態】
【0023】
なお、以下の説明では、便宜上
図2(A)における紙面上側の部分を上方と呼び、下側の部分を下方と呼ぶ。
【0024】
図1に示す内燃機関用のピストンPは、頂部にクーリングチャンネルCを有しており、そのクーリングチャンネルCの下方のピストンPの内部空間S側から噴射されたオイルジェットを、クーリングチャンネルCの下面に形成した2つの開口H1,H2のうちの一方の開口から導入すると共に他方の開口から排出してピストンPの頂部を冷却する。なお、
図1(A)において、ピストンPの中心軸線Lを挟んで右側の部分は、
図1(B)のA-A断面の右半部に示すように、前記開口H1を通る部分の縦断面図であり、左側の部分は、
図1(B)のA-A断面の左半部に示すように、後述するパーティングラインPLを含む部分の縦断面図である。
【0025】
図2(A)は、このようなクーリングチャンネルCを有するピストンPを鋳造する鋳造装置であり、
図1(B)に示すパーティングラインPLを合わせ面として分割可能な左右型1a,1bを有する金型1と、該金型1の内部に形成されたキャビティ2と、該キャビティ2内に配置されてピストンPの内部空間Sを成形する金属中子3と、該金属中子3上側の外周側に配置されて、クーリングチャンネルCを成形する通気性の塩中子4とを備えている。
【0026】
前記金型1には、図示せぬ取鍋から前記キャビティ2内に溶湯5を注湯する湯口6が形成されていると共に、前記キャビティ2の上方位置には、注湯された溶湯5の押し湯部や、溶湯5内のガスなどを排出するガス抜き孔7が形成されている。
【0027】
前記金属中子3は、ピストンPの前記内部空間Sを成形するもので、横断面ほぼ凸状に形成されてキャビティ2の底面に上下に可動に取り付けられており、下側の大径円筒部3aと、その上端から上方に延びる小径円筒部3bとで構成されている。また、大径円筒部3aの径方向外周側の前記中心軸線Lを挟んで対称な位置には、前記塩中子4を支持する一対の支持棒8を挿通する挿通孔9が上下方向に貫通形成されている。
【0028】
前記各支持棒8は、
図2(A),
図3に示すように細長い円柱状に形成されて、その上端部に小径の支持ピン8aを有しており、その上端部で前記塩中子4を支えると共に、その支持ピン8aが、前記塩中子4に形成された後述する支持孔4f内を該塩中子4の下端から上端近傍まで延びている。
【0029】
前記塩中子4は、
図3に示すように、後述する成形機11で圧粉成形された未焼成状態の塩粒子17によって円環状に形成されており、その横断面は、
図2(B),(C)に示すように、前記中心軸線Lと平行な径方向最外側の外側面4aと、その外側面4aの下端から径方向内方に延びる下面4bと、その下面4bの内端から前記中心軸線Lと平行に、前記外側面4aの長さよりも短い長さで上方に延びる内側面4cと、その内側面4cの上端から径方向外方に向けて斜め上方に延びる傾斜面4dと、その傾斜面4dの先端から前記外側面4aの上端まで径方向外方に延びる上面4eとで左右非対称に構成されていて、各面の接続部は滑らかな円弧状に形成されている。また、前記塩中子4の略直径方向の対向位置には、前記各支持棒8の支持ピン8aが下方から挿通される一対の支持孔4fが上下に貫通形成され、前記塩中子4の各支持孔4f以外の部位は、後述する鋳造過程で溶湯によって押し出されるキャビティ2内の残留気体10を保持可能な隙間18が、塩粒子17の相互間に形成されるようにして中実に形成されている。
【0030】
次に、このようなクーリングチャンネルCを有するピストンPの、本発明の製造方法を用いた鋳造方法を、
図2(A)に基づいて説明する。
【0031】
ピストンPを鋳造するには、金型1を型開きして、大径円筒部3aの挿通孔9内に予め挿通保持した支持棒8の支持ピン8aに前記塩中子4の支持孔4fを挿通して、前記塩中子4をキャビティ2内に支持させる。なおこの状態では、塩中子4の外面とキャビティ2の内壁面との間に、前記各支持棒8の突出する箇所を除き溶湯が通流可能な間隙が形成されている(後述するように、前記各支持棒8の突出する箇所が、鋳造後のピストンPにおける前記開口H1,H2となる。)。
【0032】
この状態で、金型1を型締めして、湯口6から前記キャビティ2内に溶湯5を注湯すると、溶湯5はキャビティ2内を金属中子3の外周面に沿って上昇して行き、金属中子3の大径円筒部3aの上端に到達すると、塩中子4の外側面4aに沿ってその外周側を上昇する流れと、塩中子4の下面4bから内側面4cに沿ってその内周側を上昇する流れとに分流する。
【0033】
図4(A)は、このように分流した溶湯5が塩中子4の上面に到達した状態を示している。この状態から溶湯5が前記キャビティ2内を更に上昇すると、塩中子4の内周側から上部に回り込んだ溶湯と、塩中子の外周側から上部に回り込んだ溶湯とが合流する箇所で、
図4(B)に示すように、内周側および外周側から回り込んだそれぞれの溶湯によって押し出されたキャビティ内の残留気体10が、それらの対面する部分でぶつかり合い、それにより溶湯5の流れが阻害されて充填不良が起こる虞があるが、本発明の製造方法によれば、後述する
図6に示すように、溶湯によって押し出されたキャビティ2内の残留気体10を保持し得る隙間18が、通気性のある通気性塩中子3の塩粒子17相互間に形成されて、その隙間18に、残存する残留気体10を塩中子4の表面から入り込ませて保持するようにしているので、該対面する部分の残留気体10で溶湯5の流れが阻害されて充填不良が起こることを防止できる。
【0034】
このようにして、溶湯5がキャビティ2内に充填されることでピストンPの粗材が成形された後は、前記各支持棒8を下降させてピストンPから引き抜くと共に、金型1を型開きしてピストンPを取り出し、クーリングチャンネルC内に残存する塩中子4に、前記各支持棒8の引き抜きによって形成されたピストンPの前記開口H1,H2から高圧水を当てることで、残存する塩中子4の原料塩を溶解・除去する。
【0035】
次に、キャビティ中に残存する気体を保持可能な隙間18を塩中子4の塩粒子17相互間に形成し得る本発明の通気性塩中子4の製造方法について以下に説明する。
【0036】
図5(A)は、本発明で用いられる通気性塩中子4を圧粉成形するための成形機11を示すもので、円環状に形成された押圧部12aを有する上パンチ12と、同じく円環状に形成された押圧部13aを有する下パンチ13と、該下パンチ13の押圧部13aを囲むダイ14とを有しており、下パンチ13の押圧部13aからは、前述した塩中子4の支持孔4fを形成するための一対の棒状体15が突出している。そしてこれら上パンチ12の押圧部12a、下パンチ13の押圧部13a、ダイ14および棒状体15は、通気性塩中子4を圧粉成形するための成形機11の金型を構成している。
【0037】
図5(B1)に示すように、上パンチ12の押圧部12aおよび下パンチ13の押圧部13aの対向面は、圧粉成形後の塩中子4に機械加工を施さなくても済むように成形後の塩中子4の形状に合致する形状とされており、塩中子4の成形にあたっては、先ず、下パンチ13の押圧部13a上面の下パンチ13の側壁13bとダイ14とで挟まれた溝部16内に、平均粒径が350μm程度で略一定な原料塩を充填した後、
図5(B2)に示すように上パンチ12を下降させ、その押圧部12aで溝部16内に充填された原料塩を80~130MPaの低圧の成形圧力で圧縮して塩中子4の圧粉成形を行う。圧粉成形後は、
図5(B3)に示すように上パンチ12の押圧部12aを上方に移動させ、下パンチ13の押圧部13aを上昇させることで、圧粉成形された通気性の塩中子4を、棒状体15を引き抜きつつ溝16内から引き上げることができる。
【0038】
本発明で用いられる通気性塩中子4は、このような80~130MPaの低圧で原料塩を圧縮するようにして形成されるので、成形機11の金型である上・下パンチの押圧部12a,13aの対向面に多大な荷重が加わることがなく、そのため、上・下パンチの押圧部12a,13aの対向面を予め圧粉成形後の塩中子4の形状に合致する形状にしておいても、上・下パンチの押圧部12a,13aが早期に破損することが無い。
【0039】
しかも上述したように、低圧で成形することで上・下パンチ12,13で塩中子4の断面形状をそのまま成形できることから成形精度が良く、圧粉成形後に機械加工を施す必要を無くすことができるので、圧粉成形後は下パンチ13の押圧部13aとダイ14とで挟まれた溝部16から、棒状体15を引き抜きつつ圧粉成形された塩中子4を取り出すだけで、焼成工程や機械加工工程を経ることなく支持孔4fを備えた通気性塩中子4を製造することができて、所謂ネットシェイプ化が可能となる。
【0040】
次に、このような80~130MPaの低圧で通気性塩中子4の原料塩を圧縮することで、原料塩の粒子の間に気体を保持し得る隙間18を充分に確保できるとともに、金型1のキャビティ2内にセットしてセット割れを生じないだけの強度を保持できることを以下に説明する。
【0041】
図6は成形圧力を90MPaとした本実施形態の通気性塩中子表面の電子顕微鏡写真と、成形圧力を210MPaとした従来形態の塩中子表面の電子顕微鏡写真を示すものであり、本実施形態の電子顕微鏡写真において符号17で示すものが塩粒子、符号18で示すものが隙間である。この電子顕微鏡写真から明らかなように、本実施形態では塩粒子17の間に気体を保持し得る隙間18が残存するが、従来の一般的な成形圧力である210MPaの成形圧力で成形した従来形態のものでは、気体を保持し得る隙間18が存在しない状態となってしまっていることが理解できる。
【0042】
しかも、成型圧力(MPa)を横軸にとり、充填密度(%)を縦軸に取ったときの成型圧力と充填密度との関係を示す
図7から明らかなように、このような80~130MPaの成形圧力で製造された通気性の塩中子4は、★で示すように、充填密度を88~92%の範囲に収めることができるため、鋳造過程でキャビティ2中に残存する気体10を保持し得る隙間18を塩粒子17の相互間に形成することができて鋳造時の湯廻り性が良く、またその塩中子4を金型1のキャビティ2内にセットしたときにセット割れを生じないだけの強度を保持できる。
【0043】
【0044】
図8は、充填密度を横軸に取り、クーリングチャンネルC内の湯廻り不良の割合及びセット割れの割合を縦軸に取ったときの充填密度と湯廻り不良の割合との関係、及び充填密度とセット割れの割合との関係を、それぞれ鎖線、及び実線でグラフに示したものであるが、このグラフから明らかなように、○で示すクーリングチャンネルC内の湯廻り不良の割合は、充填密度が92%を越えるまでは0%であるが充填密度が92%を越えた段階から次第に増大しており、また●で示すセット割れの発生割合は、充填密度が88%以上では0%であるが充填密度が88%未満では充填密度が下がるに従って次第に増大している(★は○と●とが重なる部分を示している。)。従って、充填密度を88~92%の範囲に収めた場合には、★で示すように湯廻り不良の割合やセット割れの割合を0%に抑えることができるので、このような80~130MPaの低圧で原料塩を圧縮することで、原料塩の粒子の間に気体を保持し得る隙間18を充分に確保することが可能となるとともに、金型1のキャビティ2内にセットしたときにセット割れを生じないだけの強度を保持することが可能となることが理解できる。
【0045】
それに対し従来の塩中子を用いた鋳造製品の製造方法では、鋳造用金型のキャビティに塩中子をセットする前に、それを所定形状に成形するための機械加工が施されるので、機械加工に耐え得る強度を確保すべく、通常は、充填密度を向上させるために粒径の異なる原料塩をブレンドし、ブレンド後の原料塩に水ガラス等のバインダーや金属石けん等の潤滑剤などの添加剤を添加して強度を高め、さらに高圧のプレスで圧粉成形して充填密度を高め、より強度を高めるために焼成を行うものであり、そのような工程を経た後、塩中子を所定形状に成形するための機械加工や支持ピン用の支持孔を形成するための孔加工を施すので、製造工程が複雑で、塩中子を低コストで作成することが困難である。しかもこのような従来の工程で製造された塩中子は、原料塩の充填密度が高く、キャビティ内の残留気体が塩中子の内部に入り難くて、溶湯の充填不良が起こり易いのであるが、本発明の通気性塩中子4を用いた鋳造製品の製造方法では、低圧で圧粉成形を行って圧粉成形された無数の塩粒子17の相互間に気体を保持し得る隙間18を形成するので、粒径が略一定で添加物を含まない塩粒子17を直接低圧圧粉成形できるから、焼成や機械加工作業を省けるばかりでなく、粒径の異なる塩粒子17をブレンドしたり、水ガラス等のバインダーや金属石けん等の潤滑剤などの添加剤を添加する必要も無くして、溶湯の充填不良が起こり難い通気性塩中子を簡単且つ低コストで製造することができる。
【0046】
次に、上記構成を備えた本発明の実施形態の作用を説明する。
【0047】
本実施形態では、ピストンPのクーリングチャンネルCを成形するために金型1のキャビティ2に設置され、且つ鋳造後に溶解、除去される塩中子を用いたピストンPの製造方法において、無数の塩粒子17がピストンPのクーリングチャンネルCに対応した所定形状に圧粉成形されて成るとともに、鋳造過程でキャビティ中に残存する残留気体10を保持し得る隙間18が前記無数の塩粒子17の相互間に形成された通気性塩中子4を、未焼成状態で鋳造用金型1のキャビティ2内に設置した後、続く鋳造過程で、溶湯によって押し出されたキャビティ2内の残留気体10を、前記通気性塩中子4の表面から前記隙間18に入り込ませて、前記通気性塩中子4内に保持するようにしているので、鋳造過程でキャビティ2中に残存する気体10をその隙間18に入り込ませて保持することで、該残留気体10により溶湯5の流れが阻害されることを防止できて、溶湯5の充填不良を起こし難い、湯廻り性の良好な鋳造製品を形成することができる。
【0048】
しかもこの通気性塩中子4は、溶湯5により押し出されたキャビティ2内の残留気体10を逃がす溝を特に設ける必要がないので、製造工程が簡単で且つ低コストで作成することができる。
【0049】
また前記通気性塩中子4は、充填密度が88~92%であるので、鋳造過程でキャビティ中に残存する気体10を保持する隙間18を十分に確保して湯廻り性が良好であると共に、キャビティ2内にセットしたときにセット割れを生じない強度を保持できる。
【0050】
また、湯廻り性が良好なクーリングチャンネルC付きのピストンPを、簡単且つ低コストで製造することができる。
【0051】
また、前記通気性塩中子4は未焼成状態で使用されるので、焼成に伴う塩粒子17の接触部の溶融を避け得て、塩粒子17相互間にキャビティ中に残存する気体を保持し得る隙間18を確実に形成できる。
【0052】
また通気性塩中子は、塩粒子17を80~130MPaの成形圧力で充填密度が88~92%となるように圧粉成形され、その圧粉成形後は、焼成工程と機械加工工程とが省略されて製造される。このように80~130MPaの低圧で圧粉成形を行うことで、塩中子の断面形状に合った成形機11の金型の使用が可能となるので機械加工工程が省略でき、しかもそのときの充填密度を88~92%とすることで、塩中子4をそのままの状態でキャビティ2内にセットしてもセット時にセット割れを生じることがなく焼成工程を省略できるから、製造工程が簡単であると共に低コストで作成できる。
【0053】
しかも低圧で圧粉成形を行うことで、成形後の無数の塩粒子17の相互間に、鋳造過程でキャビティ2中に残存する気体10を保持し得る隙間18が形成されるので、この通気性塩中子4を用いることで、鋳造過程でキャビティ2中に残存する気体10を前記隙間18に入り込ませて溶湯の流れを阻害しないようにすることができて、湯廻り性の良好な鋳造製品を形成できる。
【0054】
また更に、通気性塩中子4は粒径が略一定で、水ガラスや金属石けん等の添加物を含まない塩粒子17が、それのみで直接低圧圧粉成形されるので、粒径の異なる塩粒子17をブレンドしたり、水ガラス等のバインダーや金属石けん等の潤滑剤などの添加剤を添加することなく、塩粒子17相互間に気体を保持し得る隙間18を簡単且つ低コストで形成した通気性塩中子を、鋳造製品の製造に用いることができる。
【0055】
以上本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0056】
例えば、本発明の通気性塩中子4を用いた鋳造製品の製造方法は、クーリングチャンネルCを有するピストンPを形成する以外の、中空部を有する鋳造製品を成形するためにも効果的に用いることができる。