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特許7204963記録方法及びその記録方法に用いられるインク組成物
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  • 特許-記録方法及びその記録方法に用いられるインク組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】記録方法及びその記録方法に用いられるインク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20230106BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230106BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20230106BHJP
   B41J 2/175 20060101ALI20230106BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
C09D11/38
B41J2/01 501
B41J2/14
B41J2/175 121
B41M5/00 120
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022001931
(22)【出願日】2022-01-07
(62)【分割の表示】P 2021160282の分割
【原出願日】2021-09-30
(65)【公開番号】P2022058324
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2022-01-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2020166606
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183923
【氏名又は名称】株式会社DNPファインケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】吉森 圭士郎
(72)【発明者】
【氏名】折笠 由佳
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴生
(72)【発明者】
【氏名】宇高 公淳
(72)【発明者】
【氏名】田村 充功
(72)【発明者】
【氏名】山崎 史絵
(72)【発明者】
【氏名】白石 直樹
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】川口 聖司
【審判官】里村 利光
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196731(JP,A)
【文献】特開2017-186505(JP,A)
【文献】特開2009-148965(JP,A)
【文献】特開2012-232418(JP,A)
【文献】特開昭60-232962(JP,A)
【文献】特開2018-154118(JP,A)
【文献】特開2006-168341(JP,A)
【文献】特開2009-113263(JP,A)
【文献】特開2015-182233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00-5/52
B41J 2/01
B41J 2/165-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ系接着剤を含有する接着剤の硬化物により接着された構成部材を備えるインクジェットヘッドにより有機溶剤を含有するインクジェット用の非水系インク組成物を基材の表面に吐出する記録方法であって、
前記非水系インク組成物を供給するインク供給部と、前記インクジェットヘッドと、の間には、インク貯蔵機構が備えられており、
前記非水系インク組成物に含有される水分の含有量は、非水系インク組成物全量中5.0質量%以下であり、
前記有機溶剤は、下記有機溶剤(a)を含有する
記録方法。
有機溶剤(a):アルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、及びラクトン系溶剤(a3)からなる群より選択される少なくとも1つであって、前記ラクトン系溶剤(a3)は、6員環以上のラクトン系溶剤を含有し、前記環状アミド系溶剤(a2)は、下記一般式(2)で表される環状アミド系溶剤を含有する。
【化1】
(式(2)中、R は、炭素数4以上5以下のアルキレン基であり、R は、水素若しくは炭素数1以上2以下のアルキル基または不飽和炭化水素基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録方法及びその記録方法に用いられるインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インク組成物として、水、又は水と有機溶剤との混合液に色材を溶解又は分散させた水性インク組成物や水を含有しない有機溶剤に色材を溶解又は分散させた非水系インク組成物が広く用いられている。
【0003】
例えば特許文献1には、色材と、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドのようなアルコキシアルキルアミド系溶剤を含有するインクジェット用の非水系あるいは水性のインク組成物が記載されている。特許文献1によれば、このインク組成物は、樹脂媒体等の媒体の表面に印刷するのに適していることが記載されている。
【0004】
また、このようなインクジェット用のインク組成物は、実際の記録時(印刷時)にインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出される。例えば特許文献2には、インクジェットヘッドの接着部に使用される接着剤が所定の接着剤であることを特徴とするインクジェットヘッドに関する技術が記載されている。特許文献2には、インク組成物で膨潤しないことや、圧電性素子の圧電性に影響を与えない温度で硬化でき、且つ、塗布膜厚のコントロールも容易に行えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-046671号公報
【文献】特開2001-301178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、上述したアルコキシアルキルアミド系溶剤を含有するインク組成物は、基材にインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出しても印字の滲みが少なく、良好な画質の記録物(印刷物)を得ることができる。
【0007】
ところが、この3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドを含有するインク組成物は印字の滲みが少ないものの、インクジェットヘッド内を通過するときにインク組成物が接着剤の硬化物と接触することで接着剤の硬化物が浸食されることがあった。すると、インク組成物の吐出安定性が低下して、基材の表面の所望の位置にインク組成物が吐出されなくなって、所望の記録物(印刷物)が得られなくなる。
【0008】
本発明は、アルコキシアルキルアミド系溶剤を含有するインク組成物と同様に印字の滲みが少なく、インクジェットヘッドの構成部材を接着する接着剤の硬化物を浸食することを効果的に抑制できる記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、所定の有機溶剤を含有するインク組成物をインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出する記録方法であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)エポキシ系接着剤を含有する接着剤の硬化物により接着された構成部材を備えるインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出されるインクジェット用のインク組成物であって、
インク組成物を供給するインク供給部と、前記インクジェットヘッドと、の間に、インク貯蔵機構が備えられているインクジェット記録装置に用いられるものであり、
前記インク組成物は有機溶剤を含有し、
前記有機溶剤は、下記有機溶剤(a)を含有する
インク組成物。
有機溶剤(a):アルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、及びラクトン系溶剤(a3)からなる群より選択される少なくとも1つ
【0011】
(2)前記有機溶剤(a)は、アルキルアミド系溶剤(a1)である
(1)に記載のインク組成物。
【0012】
(3) 前記アルキルアミド系溶剤(a1)は、下記一般式(1)で表される
(2)に記載のインク組成物。
【化1】
(式(1)中、Rは、水素若しくは炭素数1以上4以下のアルキル基であり、Rは、炭素数2以上4以下のアルキル基を表す。)
【0013】
(4) 前記アルキルアミド系溶剤(a1)は、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルプロパンアミド及びN,N-ジエチルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1つを含有する
(3)に記載のインク組成物。
【0014】
(5) 前記有機溶剤(a)は、環状アミド系溶剤(a2)である
(1)に記載のインク組成物。
【0015】
(6) 前記環状アミド系溶剤(a2)は、下記一般式(2)で表される
(5)に記載のインク組成物。
【化2】
(式(2)中、Rは、炭素数4以上5以下のアルキレン基であり、Rは、水素若しくは炭素数1以上2以下のアルキル基または不飽和炭化水素基を表す。)
【0016】
(7) 前記環状アミド系溶剤(a2)は、ε-カプロラクタム、N-メチルカプロラクタム、及びN-ビニルカプロラクタムからなる群より選択される少なくとも1つを含有する
(6)に記載のインク組成物。
【0017】
(8) 前記有機溶剤(a)は、ラクトン系溶剤(a3)である
(1)に記載のインク組成物。
【0018】
(9) 前記ラクトン系溶剤(a3)は、下記一般式(3)で表される
(8)に記載のインク組成物。
【化3】
(式(3)中、Rは、炭素数3以上5以下のアルキレン基であり、Rは、水素若しくは炭素数1以上2以下のアルキル基を表す。)
【0019】
(10)前記ラクトン系溶剤(a3)は、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-ヘキサノラクトン、及びε-カプロラクトンからなる群より選択される少なくとも1つを含有する
(9)に記載のインク組成物。
【0020】
(11)エポキシ系接着剤を含有する接着剤の硬化物により接着された構成部材を備えるインクジェットヘッドにより有機溶剤を含有するインクジェット用のインク組成物を基材の表面に吐出する記録方法であって、
前記インク組成物を供給するインク供給部と、前記インクジェットヘッドと、の間には、インク貯蔵機構が備えられており、
前記有機溶剤は、下記有機溶剤(a)を含有する
記録方法。
有機溶剤(a):アルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、及びラクトン系溶剤(a3)からなる群より選択される少なくとも1つ
【発明の効果】
【0021】
本発明の記録方法は、基材の表面に吐出しても印字の滲みが少なく、インク組成物がインクジェットヘッドに備えられる構成部材を接着する接着剤の硬化物を浸食することによるインク組成物の吐出安定性の低下を抑制して、基材の表面の所望の位置にインク組成物が吐出できなくなることを効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施の形態に係る記録方法に使用されるインクジェットヘッドの一例を示す模式図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0024】
<<記録方法>>
本実施の形態に係る記録方法は、接着剤の硬化物により接着された構成部材を備えるインクジェットヘッドにより有機溶剤を含有するインクジェット用のインク組成物を基材の表面に吐出する記録方法である。そして、このインク組成物は、有機溶剤としてアルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、及びラクトン系溶剤(a3)からなる群より選択される少なくとも1つの(有機溶剤(a))を含有することを特徴としている。
【0025】
このような記録方法であれば、基材の表面に吐出しても印字の滲みが少なく、インク組成物が接着剤の硬化物を浸食することによりインク組成物の吐出安定性の低下を抑制し、基材の表面の所望の位置にインク組成物が吐出できなくなることを効果的に抑制することができる。
【0026】
また、有機溶剤としてアルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、及びラクトン系溶剤(a3)からなる群より選択される少なくとも1つの(有機溶剤(a))を含有するインク組成物は、印字の滲みが少ないことから、記録媒体(基材)を高速で搬送させて記録することが可能である。
【0027】
具体的には、本実施の形態に係る記録方法における記録速度における最高速度は、基材の種類やインクジェット記録装置の種類等にもよるが、10m/h以上であることが好ましく、15m/h以上であることがより好ましく、20m/h以上であることがさらに好ましい。また、本実施の形態に係る記録方法における記録速度における最高速度は、70m/h以下であることが好ましく、65m/h以下であることがより好ましく、60m/h以下であることがさらに好ましい。
【0028】
また、記録媒体(基材)を高速で搬送させて記録する際には加温機構によって基材表面温度を制御することが好ましい。これにより基材(記録媒体)に着弾したインク組成物をより高速に乾燥させることが可能となって、印字の滲みを極めて少ないものにすることができる。
【0029】
加温機構により加温される基材の表面温度としては、インク組成物に含まれる有機溶剤を揮発させることができれば特に制限はされず、基材の表面温度の下限は、20℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、40℃以上であることがさらに好ましい。基材の表面温度の上限は、70℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましく、50℃以下であることがさらに好ましい。
【0030】
以下では、本実施の形態に係る記録方法を実施することのできるインクジェット記録装置の構成の一例について説明する。なお、インクジェット記録装置の構成の一例として、オンキャリッジタイプであってシリアルプリンタータイプのインクジェット記録装置を説明するが、本実施の形態に係る記録方法を実施することのできるインクジェット記録装置は、インクカートリッジが外部に固定されたオフキャリッジタイプのインクジェット記録装置であってもよく、インクジェットヘッドヘッドが移動せずに記録媒体(基材)上にインク組成物を吐出するラインプリンタータイプのインクジェット記録装置であってもよい。
【0031】
<<インクジェット記録装置>>
インクジェット記録装置は、キャリッジに搭載されたインクカートリッジ(インク供給部)と、カートリッジ内のインク組成物をインクジェットヘッドに供給する供給機構と、インクカートリッジ(インク供給部)とインクジェットヘッドとを接続する接続部と、を備えたオンキャリッジタイプのインクジェット記録装置である。
【0032】
このインクジェット記録装置は、所定の方向に移動するキャリッジにインクジェットヘッドが搭載されており、キャリッジの移動に伴ってインクジェットヘッドが移動することにより記録媒体(基材)上にインク組成物を吐出することができる。
【0033】
インクカートリッジ内のインク組成物は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックなどの各色のインクや、ライトマゼンタ、ライトシアン、ライトブラック、オレンジ、グリーン、レッド、ホワイトなどにも使用することができ、印刷する色の順序やヘッドの位置や構成は特に制限されない。
【0034】
以下、このインクジェット記録装置を構成する構成部材について説明する。
【0035】
[インクジェットヘッド]
インクジェットヘッドは、インク組成物を基材の表面に吐出するインクジェット記録装置の構成部材である。図1にインクジェットヘッドの一例を示す模式図を示す。このインクジェットヘッド1は、インクカートリッジ(インク供給部)から供給されたインク組成物を吐出孔面Dから基材(記録媒体)の表面に吐出する。
【0036】
インクジェットヘッド1は、圧電素子を用いたピエゾ方式のインクジェットヘッドであっても、発熱体を用いたサーマル方式のインクジェットヘッドであってもよく、特に制限はされない。
【0037】
このインクジェットヘッド1は、インク組成物の吐出孔面Dに覆う部材(例えば、ヘッドキャップなど)を備えることが好ましい。吐出孔面Dが乾燥することによる間欠吐出性の低下を抑制させることができるとともに、吐出孔面でインク組成物が吸水することによる吐出安定性の低下を抑制できるようになる。
【0038】
また、有機溶剤(a)は、流路内での揮発性が低いものであるので、吐出孔面を覆うことで流路内の揮発性を極めて小さいものにすることができる。このため、吐出孔面に覆う部材を備えたインクジェットヘッドにより有機溶剤(a)を含有するインク組成物を吐出することで間欠吐出性を向上させることができる。
【0039】
特に、加温機構によってインク組成物をより高速に乾燥させるような場合には、インクジェット吐出を行っていない待機中であっても、加温機構によって吐出孔付近に存在するインク組成物が乾燥しやすくなる。インクジェット吐出を行っていない待機中に吐出孔面Dを部材で覆うことで加温機構によって吐出孔付近に存在するインク組成物が乾燥することを抑制して間欠吐出性の低下を抑制することが可能となる。しかも、加温機構によって基材(記録媒体)に着弾したインク組成物をより高速に乾燥させることが可能となるので極めて高速で記録物の製造が可能となる。
【0040】
この間欠吐出性が向上する効果は、吐出孔面Dを覆う部材を備えるインクジェットヘッド1によりアルコキシアルキルアミド系溶剤を含有するような従来のインク組成物を基材の表面に吐出したのでは十分には得られない。つまり、有機溶剤(a)を含有するインク組成物を使用して基材の表面に吐出する場合において、吐出孔面を覆う部材を備えるインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出した場合に特に顕著に効果を発揮する。
【0041】
このインクジェットヘッドは、図1に示すように接着剤の硬化物Aにより接着された構成部材を備えており、インク組成物がこのインクジェットヘッド内を通過するときに接着剤の硬化物Aと接触することとなる。本実施の形態に係る記録方法は、所定のインク組成物を吐出して記録媒体(基材)に吐出させる工程を備えることで、インク組成物の吐出安定性の低下を抑制し、基材の表面の所望の位置にインク組成物が吐出できなくなることを効果的に抑制することができる。以下では、インクジェットヘッドを構成する接着剤について説明する。
【0042】
(接着剤)
接着剤は、圧電素子を用いたインクジェットヘッドや発熱体を用いたサーマルタイプのインクジェットヘッド等のインクジェットヘッドを構成する部材の少なくとも2つの部材を接合するのに適用可能な接着剤である。
【0043】
インクジェットヘッドの構成部材を接着する接着剤の種類は特に制限されず、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂を含むものであってもよい。その中でも、エポキシ系樹脂を含むものを使用することが好ましい。エポキシ系樹脂は接着力が強く、インクジェットヘッドの構成部材を強固に接着することが可能となる。さらに、有機溶剤(a)を含有するインク組成物は、エポキシ系樹脂の硬化物に対して浸食することがほとんどなく、エポキシ系樹脂の硬化物を膨潤させることもない。このため、構成部材を接着する接着剤がエポキシ系樹脂接着剤であるインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出することでインク組成物の吐出安定性を高めることが可能となる。以下では、インクジェットヘッドの構成部材を接着する接着剤として使用できるエポキシ系樹脂を含む接着剤について説明する。
【0044】
接着剤に含まれる代表的なエポキシ系樹脂は、例えば、下記構造式(4)に示されるようなビスフェノール型エポキシ樹脂、下記構造式(5)に示されるようなフェノールノボラック型エポキシ樹脂、または下記構造式(6)に示されるようなクレゾールノボラック型エポキシ樹脂である(ただしn=0~10)。
【0045】
【化4】
【0046】
【化5】
【0047】
【化6】
【0048】
構造式(4)のエポキシ系樹脂の骨格部分は、その構造式(4)に示したビスフェノールAのほか、テトラブロムビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールZなど、従来のエポキシ樹脂接着剤の主剤として知られている構造でもよい。
【0049】
接着剤に含まれるエポキシ系樹脂としては、上記に例示した代表的なエポキシ系樹脂に限定されず、側鎖にエポキシ基を有するものであればよい。
【0050】
エポキシ系樹脂とともにアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール類硬化剤等の硬化剤を使用することでエポキシ系樹脂を重合反応させて硬化物を得ることができる。
【0051】
接着剤がエポキシ系接着剤を含有する場合、接着剤の硬化物が含有するエポキシ系樹脂の割合は、接着剤の硬化物全量中10質量%以上であればよく、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上がさらになお好ましく、99質量%以上であることが最も好ましい。
【0052】
[インク貯蔵機構]
インクカートリッジと、インクジェットヘッドと、の間には、インクカートリッジとは異なるインク貯蔵機構が備えられていることが好ましい。インク貯蔵機構とは、インクカートリッジから供給されたインク組成物を一時的に貯蔵する機構である。インク貯蔵機構が備えられていることで、インク組成物での吐出安定性をさらに向上させることが可能となる。なお、本発明の記録方法は、インク貯蔵機構を備えていないインクジェット記録装置を使用してインク組成物を基材の表面に吐出してもよい。
【0053】
この有機溶剤(a)は、インクジェットヘッドや流路(チューブ)等の部材に対してある程度は浸透するため、それによりインク組成物をインクジェット吐出する際には、流路内の圧力が不安定となることがある。インク供給部と、インクジェットヘッドと、の間にインク貯蔵機構が備えられていることで、流路内の圧力を安定化することが可能となって、インク組成物での吐出安定性をさらに向上させることが可能となる。
【0054】
特に、記録媒体(基材)を高速で搬送させて記録したような場合であっても、本実施の形態の記録方法は印字の滲みを少なくすることができるが、高速印刷することにより、キャリッジの移動速度が速くなってインク吐出圧力が不安定になる傾向がある。そこで、インク供給部と、インクジェットヘッドと、の間にインク貯蔵機構が備えられたインクジェット記録装置を使用してインク組成物を基材の表面に吐出することで、インク吐出圧力を安定化することが可能となって、インク組成物での吐出安定性を維持させることが可能となる。
【0055】
インク貯蔵機構は、いわゆるインク組成物を貯蔵するサブタンクであっても、インクジェットヘッド内のインク組成物にかかる圧力変動を吸収するダンパー機構であってもよい。
【0056】
[加温機構]
インクジェット記録装置は加温機構(乾燥機構)を備えていることが好ましい。加温機構とは、基材表面温度や基材(記録媒体)に着弾したインク組成物を加温し、乾燥させる機構である。
【0057】
インクジェット記録装置に備えられる加温機構は、プレヒーター、プラテンヒーター、アフターヒーター等の基材に直接接することで加温するものであってもよく、記録物に温風を送風する機構や赤外線などを照射することで記録物を加温する機構であってもよい。また、これらの加温機構を複数組み合わせるものであってもよい。
[その他の機構]
インクジェット記録装置は、上記に記載した機構以外のものについては従来公知のものを使用することができる。例えば、記録媒体(基材)の巻き取り機構やインクの循環機構を備えていてもよく、備えていなくともよい。
【0058】
次に、本実施の形態に係る記録方法を実施することのできるインク組成物の一例について説明する。
【0059】
<<インク組成物>>
本実施の形態に係る記録方法で使用されるインク組成物は、有機溶剤を含有するインクジェット用のインク組成物であって、有機溶剤としてアルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、及びラクトン系溶剤(a3)からなる群より選択される少なくとも1つの(有機溶剤(a))を含有することを特徴としている。
【0060】
本実施の形態に係る記録方法で使用されるインク組成物は、水と有機溶剤との混合液に色材を溶解又は分散させた水性インク組成物であっても、重合性モノマーを含有する活性エネルギー線硬化型のインク組成物であっても、水を意図的に含有しない非水系インク組成物であってもよい。
【0061】
以下では、水を含有しない非水系インク組成物(油性インク組成物)及び水を主成分として含有する水性インク組成物を用いて本実施の形態に係る記録方法で使用されるインク組成物について説明する。水を含有しない非水系インク組成物は有機溶剤を主成分として含有するため、インクジェットヘッドに備えられる構成部材を接着する接着剤の硬化物をさらに侵食しやすいインク組成物であるといえる。そのように本発明の課題が発生しやすい非水系インク組成物において、上述した有機溶剤(a)を含有することにより、インクジェットヘッドに備えられる構成部材を接着する接着剤の硬化物が浸食することを効果的に抑制することができる。
【0062】
<非水系インク組成物>
本実施の形態に係る非水系インク組成物は、水を意図的に含有させずに液体の媒体として有機溶剤を含むインク組成物である。
【0063】
なお、本明細書において、「水を意図的に含有しない」との文言は、大気中の水分や、添加物等に由来するような不可避的に含まれる水は考慮しないことを意味する。本実施の形態に係る非水系インク組成物において、水分の含有量は、非水系インク組成物全量中5.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量以下であることがさらになお好ましい。インクジェットヘッド内でインク組成物がつまる等の不具合がなくなり、吐出安定性等を向上させることが可能となる。さらに、「非水系インク組成物」であることで、速乾性が高くなり、樹脂基材や金属基材等の非吸収性基材に対して印字(記録)が容易となる。
【0064】
以下、本実施の形態に係る非水系インク組成物に含まれる各成分について説明する。
【0065】
[有機溶剤]
有機溶媒は、有機溶剤(a)を含有する。
【0066】
有機溶剤(a):アルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、及びラクトン系溶剤(a3)からなる群より選択される少なくとも1つ
以下、有機溶剤(a)及び有機溶剤に含まれるその他の有機溶剤についてそれぞれより具体的に説明する。
【0067】
(有機溶剤(a))
有機溶剤(a)は、アルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、及びラクトン系溶剤(a3)からなる群より選択される少なくとも1つである。アルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、及びラクトン系溶剤(a3)からなる群より選択される少なくとも1つを含有する。このような有機溶剤(a)は樹脂に対して浸透性が高いものではないので、インクジェットヘッドに備えられる構成部材を接着する接着剤の硬化物を浸食しない。これにより、インク組成物の吐出安定性が向上して、基材の表面の所望の位置にインク組成物が吐出できるようになる。
【0068】
そして、この有機溶剤(a)は、基材に対してある程度は浸透するとともに、基材面上の乾燥性も早いものである。このため、有機溶剤(a)を含有するインク組成物により印刷(記録)することで印字の滲みが少ないことから印字が鮮明となる。このような印字の滲みが少ないという効果は、単純に乾燥性を向上させるために沸点の低い溶剤を選択したのでは達成することができない。
【0069】
以下、有機溶剤(a)に含有されるアルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、及びラクトン系溶剤(a3)についてそれぞれ説明する。
【0070】
(1)アルキルアミド系溶剤
アルキルアミド系溶剤とは、アルキル基(C2n+1-)と-C(=O)-N-基(アミド結合)を有する化合物であって、水素若しくはアルキル基と-C(=O)-N-基から構成された化合物からなる溶剤である。アルキルアミド系溶剤は、例えば以下の構造を有するものを好ましく用いることができる。
【0071】
【化7】
(式(1)中、Rは、水素若しくは炭素数1以上4以下のアルキル基であり、Rは、炭素数2以上4以下のアルキル基を表す。)
【0072】
アルキルアミド系溶剤としては、具体的には、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジプロピルホルムアミド、N,N-ジブチルホルムアミド、N,N-ジエチルプロパンアミド、N,N-ジプロピルプロパンアミド等が挙げられる。この中でも、本発明の効果を特に奏するという観点から、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルプロパンアミド及びN,N-ジエチルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1つを含有することが好ましい。
【0073】
なお、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドは、含有してもよいが、本発明の効果を特に奏するという観点から、含有しないことが好ましい。
【0074】
(2)環状アミド系溶剤
環状アミド系溶剤とは、環状構造を有し、その環状構造に-C(=O)-N-基を有する溶剤である。環状アミド系溶剤は、例えば以下の構造を有するものを好ましく用いることができる。
【0075】
【化8】
(式(2)中、Rは、炭素数4以上5以下のアルキレン基であり、Rは、水素若しくは炭素数1以上2以下のアルキル基または不飽和炭化水素基を表す。)
【0076】
環状アミド系溶剤としては、具体的には、N-メチルカプロラクタム、N-アセチルカプロラクタム、ε-カプロラクタム、N-ビニルカプロラクタム、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-プロピル-2-ピロリドン、N-エチル-ε-カプロラクタム、N-プロピル-ε-カプロラクタム、N-メチル-ε-カプロラクタム等が挙げられる。この中でも、ε-カプロラクタム、N-メチルカプロラクタム、及びN-ビニルカプロラクタム等が挙げられる。その中でも、ε-カプロラクタム、N-メチルカプロラクタム、及びN-ビニルカプロラクタムからなる群より選択される少なくとも1つを含有することが好ましい。
【0077】
なお、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルオキサゾリジノンは、含有してもよいが、本発明の効果を特に奏するという観点から、含有しないことが好ましい。
【0078】
(3)ラクトン系溶剤
ラクトン系溶剤とは、環状エステル構造を有する溶剤である。ラクトン系溶剤は、例えば以下の構造を有するものを好ましく用いることができる。
【0079】
【化9】
(式(3)中、Rは、炭素数3以上5以下のアルキレン基であり、Rは、水素若しくは炭素数1以上2以下のアルキル基を表す。)
【0080】
ラクトン系溶剤としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ヘキサノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、δ-バレロラクトン、δ-ヘキサノラクトン、δ-ヘプタラクトン、δ-オクタラクトン、δ-ノナラクトン、δ-デカラクトン、δ-ウンデカラクトン、ε-カプロラクトン等が挙げられる。
【0081】
ラクトン系溶剤の中でも6員環以上のラクトン系溶剤であることが好ましい。6員環以上のラクトン系溶剤としては、δ-バレロラクトン、δ-ヘキサノラクトン、ε-カプロラクトン等が挙げられる。
【0082】
上述した有機溶剤(a)としてアルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、及びのラクトン系溶剤(a3)からなる群より選択される少なくとも1つを含有する非水系インク組成物であれば、本発明の効果を奏する非水系インク組成物となる。その中でも、本発明の効果を特に奏するという観点から、有機溶剤(a)としてアルキルアミド系溶剤(a1)及び環状アミド系溶剤(a2)の少なくとも1つを含有することが好ましく、有機溶剤(a)としてアルキルアミド系溶剤(a1)を含有することが特に好ましい。
【0083】
有機溶剤(a)の含有量の上限は、特に制限されるものではないが、非水系インク組成物全量中30.0質量%以下含有されていることが好ましく、20.0質量%以下含有されていることがより好ましく、15.0質量%以下含有されていることがさらに好ましい。
【0084】
有機溶剤(a)の含有量の下限は、特に制限されるものではないが、非水系インク組成物全量中3.0質量%以上含有されていることが好ましく、5.0質量%以上含有されていることがより好ましく、5.0質量%超含有されていることがさらになお好ましい。
【0085】
なお、上記の有機溶剤(a)の含有量の上限及び下限の数値は、アルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、ラクトン系溶剤(a3)全てにおいて共通する。
【0086】
なお、有機溶剤(a)(アルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、及びラクトン系溶剤(a3)からなる群より選択される少なくとも1つ)他の構成成分と混合する前に有機溶剤(a)を予め有機溶剤(a)に由来する不純物の含有量が有機溶剤(a)全量中0.5質量%以下になるようにすることが好ましい。有機溶剤(a)に含まれる低沸点の不純物などによって、接着剤の硬化物に対して溶解や膨潤等の不具合が発生する場合がある。他の構成成分と混合する前に有機溶剤(a)を予め有機溶剤(a)に由来する不純物の含有量が有機溶剤(a)全量中0.5質量%以下になるようにすることで、本発明の効果を特に奏するインク組成物となる。さらに、有機溶剤(a)に含まれる高沸点の不純物によって記録乾燥性が低下することによる印字の滲みをより効果的に抑制することができる。
【0087】
有機溶剤(a)を精製する方法としては、有機溶剤(a)について蒸留を繰り返し行ったり、極力不純物が含有されないように蒸留の温度の刻み幅を小さくしたり、抽出を繰り返す等によって、又、工業的製造工程においては、上述の工程に加えて、更にコンタミネーションを抑制する処置を施す等によって、実現することができる。
【0088】
(その他の有機溶剤)
有機溶媒には、上記の有機溶剤(a)以外の有機溶剤を含有していてもよい。具体的には、グリコールの両末端のOH基がアルキル置換されたグリコールエーテルジアルキルやグリコールの片方のOH基がアルキル置換されたグリコールエーテルモノアルキルや炭酸エステルなどが挙げられる。
【0089】
グリコールエーテルジアルキルは、例えば、下記式(7)で表されるグリコールエーテルジアルキルを挙げることができる。
【化10】
(式(7)中、Rは、アルキル基であり、Rは、エチレン基又はプロピレン基を表す。nは2~4の整数を表す。)
【0090】
グリコールエーテルジアルキルとしては、具体的には、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチル-2-エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールメチルプロピルエーテル、プロピレングリコールメチルブチルエーテル、プロピレングリコールメチル-2-エチルヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルメチルエーテル等が挙げられる。
【0091】
グリコールエーテルジアルキルの中でも式(7)中のR及びRに含まれる炭素数の合計が2以上8以下であるグリコールエーテルジアルキルが好ましく、2以上6以下であるグリコールエーテルジアルキルがより好ましく、式(7)中のRがメチル基又はエチル基であってRがエチル基であるグリコールエーテルジアルキルか、及び/又は式(7)中のR及びRがメチル基であってRがプロピレン基であるグリコールエーテルジアルキルがさらに好ましい。
【0092】
及びRに含まれる炭素数の合計が2以上6以下であるグリコールエーテルジアルキルは、例えば、ジエチレングリコールジブチルエーテル(R及びRに含まれる炭素数の合計が8)と比較して揮発性が高いため、記録乾燥性に優れる非水系インク組成物となる。
【0093】
このようなR及びRに含まれる炭素数の合計が2以上6以下であるグリコールエーテルジアルキルとしては、具体的には、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0094】
そして、式(7)中のRがメチル基又はエチル基であってRがエチル基であるグリコールエーテルジアルキルか、及び/又は式(7)中のR及びRがメチル基であってRがプロピレン基であるグリコールエーテルジアルキルは、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル(R及びRがメチル基、Rがエチレン基)と比較して接着剤の硬化物が浸食することをより効果的に抑制することができる。
【0095】
このような式(7)中のRがメチル基又はエチル基であってRがエチル基であるグリコールエーテルジアルキルとしては、具体的には、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。式(7)中のR及びRがメチル基であってRがプロピレン基であるグリコールエーテルジアルキルとしてはジプロピレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。
【0096】
また、グリコールエーテルジアルキルは、製造の過程で多量体や副反応物、分解物等の不純物が発生しやすく、例えば市販品のグリコールエーテルジアルキルに含まれる不純物の含有量はグリコールエーテルジアルキル全量中10質量%程度となっていることもある。そこで、他の構成成分と混合する前にグリコールエーテルジアルキルを予めグリコールエーテルジアルキルに由来する不純物の含有量がグリコールエーテルジアルキル全量中0.5質量%以下になるようにすることが好ましい。グリコールエーテルジアルキルに含まれる低沸点の不純物によって臭気が悪化することがある。また、グリコールエーテルジアルキルに含まれる低沸点の不純物などによって、インクジェットヘッド等のプリンター部材に使用されているプラスチックや接着剤に対して溶解や膨潤等の不具合が発生する場合がある。また、グリコールエーテルジアルキルに含まれる不純物が高沸点である場合には、非水系インク組成物の記録乾燥性が低下して印字に滲みが生じる場合がある。他の構成成分と混合する前にグリコールエーテルジアルキルを予めグリコールエーテルジアルキルに由来する不純物の含有量がグリコールエーテルジアルキル全量中0.5質量%以下になるようにすることで、上記の問題を解決できるようになるので、本発明の効果をさらに奏する非水系インク組成物となる。
【0097】
グリコールエーテルジアルキルに含まれる不純物としては、トリエチレングリコール(沸点285℃)、テトラエチレングリコール(沸点327℃)、ポリエチレングリコール(沸点330℃以上)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)、エチレングリコールジエチルエーテル(沸点121℃)、エチレングリコールジメチルエーテル(沸点98℃)、ジエチルエーテル(沸点35℃)、エチルメチルエーテル(沸点12℃)、ジエチルケトン(沸点101℃)、ジメチルケトン(沸点57℃)、エチルメチルケトン(沸点80℃)、エトキシエタノール(沸点135℃)、エタノール(沸点78℃)、等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0098】
グリコールエーテルジアルキルを精製する方法としては、グリコールエーテルジアルキルについて蒸留を繰り返し行ったり、極力不純物が含有されないように蒸留の温度の刻み幅を小さくしたり、抽出を繰り返す等によって、又、工業的製造工程においては、上述の工程に加えて、更にコンタミネーションを抑制する処置を施す等によって、実現することができる。
【0099】
グリコールエーテルジアルキルを含有する場合、グリコールエーテルジアルキルの含有量の下限は、特に制限されるものではないが、非水系インク組成物全量中30.0質量%以上含有されていることが好ましく、40.0質量%以上含有されていることがより好ましく、50.0質量%以上含有されていることがさらに好ましい。
【0100】
グリコールエーテルジアルキルの含有量の上限は、特に制限されるものではないが、非水系インク組成物全量中90.0質量%以下含有されていることが好ましく、80.0質量%以下含有されていることがより好ましい。
【0101】
グリコールエーテルモノアルキルとしては、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-イソブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、2-エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、2-エチルヘキシル)エーテル、テトラエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、2-エチルヘキシル)エーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-イソブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル)エーテル、テトラプロピレングリコールモノメチルエーエル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、2-エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0102】
炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどが挙げられる。
【0103】
また、上記の有機溶剤以外の有機溶剤を含有していてもよい。具体的には、3-メチル-2-オキサゾリジノン、3-エチル-2-オキサゾリジノン、N-ビニルメチルオキサゾリジノン等のオキサゾリジノン系溶剤;トリエチレングリコールブチルエーテルアセテート、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1-メトキシ-2-プロピルアセテ-ト、2-メチルブチルアセテート、3-メトキシブチルエーテルアセテート、シクロヘキシルアセテート等のアセテート系溶剤;3-メトキシプロパンアミド、3-ブトキシプロパンアミド、N,N-ジメチル-3-メトキシプロパンアミド、N,N-ジブチル-3-メトキシプロパンアミド、N,N-ジブチル-3-ブトキシプロパンアミド、N,N-ジメチル-3-ブトキシプロパンアミド等のアルキルアミド系溶剤(b1)や環状アミド系溶剤(b2)とは異なるアミド系溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール等の炭素数1~5のアルキルアルコール類;3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-n-ブタノール等の1価のアルコール系溶剤;アセトン、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル-n-アミルケトン、メチルヘキシルケトン、メチルイソアミルケトン、ジエチルケトン、エチル-n-プロピルケトン、エチルイソプロピルケトン、エチル-n-ブチルケトン、エチルイソブチルケトン、ジ-n-プロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン、アセチルケトン等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ヘキシル、酢酸オクチル等の酢酸エステル類;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸プロピル、乳酸エチルヘキシル、乳酸アミル、乳酸イソアミル等の乳酸エステル類;n-ヘキサン、イソヘキサン、n-ノナン、イソノナン、ドデカン、イソドデカン等の飽和炭水素類、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等の不飽和炭化水素類;シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、1,1,3,5,7-シクロオクタテトラエン、シクロドデセン等の環状不飽和炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-ホルミルモルホリンなどのモルホリン類、テルペン系溶剤;シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジプロピル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチルなどの二塩基酸エステル類、等が挙げられる。組み合わせる樹脂や分散剤などに応じて、適切なHLB値の溶剤を選択することが好ましい。
【0104】
[色材]
本実施の形態に係る非水系インク組成物に含有される色材は、特に限定されるものではなく、染料系であってもよいし、顔料系であってもよいが、記録物の耐水性や耐光性等の耐性が良好であるという観点から顔料(顔料系色材)を使用することが好ましい。本実施の形態に係る非水系インク組成物において、用いることのできる顔料は特に限定されず、従来のインク組成物に使用されている有機顔料又は無機顔料等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
具体的な有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、染料からの誘導体、フタロシアニン系有機顔料、キナクリドン系有機顔料、ペリレン系有機顔料、ペリノン系有機顔料、アゾメチン系有機顔料、アントラキノン系有機顔料(アントロン系有機顔料)、キサンテン系有機顔料、ジケトピロロピロール系有機顔料、ジオキサジン系有機顔料、ニッケルアゾ系顔料、イソインドリノン系有機顔料、ピランスロン系有機顔料、チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロン系有機顔料、イソインドリン系有機顔料、キナクリドン系固溶体顔料、ペリレン系固溶体顔料等の有機固溶体顔料、その他の顔料として、レーキ顔料やカーボンブラック等が挙げられる。
【0106】
有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで例示すると、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、20、24、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、117、120、125、128、129、130、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185、213、214、C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48、49、52、53、57:1、97、112、122、123、146、149、150、168、177、180、184、192、202、206、208、209、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、269、291、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、64、71、73、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、58、59、62、63、C.I.ピグメントブラウン23、25、26、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0107】
本実施の形態に係る非水系インク組成物において、用いることのできる染料の具体例としては、アゾ系染料、ベンゾキノン系染料、ナフトキノン系染料、アントラキノン系染料、シアニン系染料、スクアリリウム系染料、クロコニウム系染料、メロシアニン系染料、スチルベン系染料、ジアリールメタン系染料、トリアリールメタン系染料、フルオラン系染料、スピロピラン系染料、フタロシアニン系染料、インジゴイド等のインジゴ系染料、フルギド系染料、ニッケル錯体系染料、及びアズレン系染料が挙げられる。
【0108】
本実施の形態に係る非水系インク組成物において、用いることのできる無機顔料の具体例としては、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、炭酸バリウム、シリカ、タルク、クレー、合成マイカ、アルミナ、亜鉛華、硫酸鉛、黄色鉛、亜鉛黄、べんがら(赤色酸化鉄(III))、カドミウム赤、群青、紺青、酸化クロム緑、コバルト緑、アンバー、チタンブラック、アルミニウム、チタン、インジウム、合成鉄黒、無機固溶体顔料等を挙げることができる。
【0109】
本実施の形態に係る非水系インク組成物において、含有することのできる顔料の平均分散粒径は、所望の発色が可能なものであればよく、特に限定されない。用いる顔料の種類によっても異なるが、顔料の分散性及び分散安定性が良好で、充分な着色力を得る点から、体積平均粒子径が5nm以上の範囲内であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることが更に好ましい。体積平均粒子径が上記の下限値以上であることで、非水系インク組成物の耐光性を向上させることができる。体積平均粒子径が300nm以下の範囲内であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることが更に好ましい。体積平均粒子径が上記の上限値以下であることで、インクジェットの吐出安定性を向上させることができる。なお、本実施形態において、顔料の体積平均粒子径は、粒子径分布測定装置(マイクロトラックベル(株)製粒度分析計NANOTRACWAVE)を用いて25℃の条件下で測定した平均粒子径(D50)である。
【0110】
また、本実施の形態に係る非水系インク組成物を含むインクセットである場合には、それぞれの非水系インク組成物に含まれる顔料の体積平均粒子径は同一であってもよいし、異なる関係であってもよい。
【0111】
本実施の形態に係る非水系インク組成物において、顔料の含有量としては、所望の画像を形成可能であれば特に限定されるものではなく適宜調整されるものである。具体的には、顔料の種類によっても異なるが、非水系インク組成物全量中0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。非水系インク組成物全量中20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。顔料の含有量が0.05質量%以上、又は20質量%以下の範囲内であることにより、顔料の分散安定性と着色力のバランスに優れたものとすることができる。
【0112】
また、本実施の形態に係る非水系インク組成物は記録(印刷)する色は特に制限はされず、目的に色に応じて色材を選択し、組み合わせて使用してもよい。色は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックなどの各色のインクや、ライトマゼンタ、ライトシアン、ライトブラック、オレンジ、グリーン、レッド、ホワイトなどにも使用することができる。
【0113】
[樹脂]
本実施の形態に係る非水系インク組成物は、非水系インク組成物により形成される加飾層の定着性、耐水性並びに延伸性を向上させる目的で樹脂を含有してもよい。樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステ系ル樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ロジン変性樹脂、フェノール系樹脂、テルペン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニルトルエン-α-メチルスチレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル系共重合体、セルロース系樹脂、シリコーン(シリコン)樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、あるいはこれらの共重合樹脂や混合物を用いることができる。この中でも、アクリル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂を含むものが好ましく、中でも、耐水性、耐溶剤性並びに延伸性を向上させることができることから、少なくとも、アクリル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂を1種以上含有するものであることがより好ましい。また、アクリル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂を1種以上含有するものであれば、インクジェット用の非水系インク組成物として用いたときに高速記録時の吐出応答性、及び、吐出安定性をさらに向上させることができる。
【0114】
アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを構成するモノマーの主成分として含むものであれば特に限定されるものではない。アクリル系樹脂は、1種のラジカル重合性モノマーの単独重合体であってもよいし、ラジカル重合性モノマーを2種以上選択して用いた共重合体のいずれであってもよく、特に、非水系インク組成物として好ましいアクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル単独の重合体、或いは、メタクリル酸メチルと、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エトキシエチル、及びメタクリル酸ベンジルよりなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の化合物との共重合体である。又、市販の(メタ)アクリル系樹脂としては、例えばロームアンドハース社の「パラロイドB99N」「パラロイドB60」「パラロイドB66」「パラロイドB82」等が例示される。
【0115】
塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルモノマーからなる単独重合体であっても重合性モノマーを2種以上選択して用いた共重合体のいずれであってもよい。塩化ビニル系樹脂の共重合体としては、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂が挙げられる。塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂は、塩化ビニル単量体及び酢酸ビニル単量体の重合物である。塩化ビニル酢酸ビニル系共重合樹脂としては、例えば、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル/ヒドロキシアルキルアクリレート共重合体など、及びそれらの混合物が挙げられる。上記の塩化ビニル酢酸ビニル系共重合樹脂としては、日信化学工業(株)社から「ソルバインC」、「ソルバインCL」、「ソルバインCNL」、「ソルバインCLL」、「ソルバインCLL2」、「ソルバインC5R」、「ソルバインTA2」、「ソルバインTA3」、「ソルバインA」、「ソルバインAL」、「ソルバインTA5R」、「ソルバインM5」等の商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0116】
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂は塩化ビニル単量体及び酢酸ビニル単量体の重合することにより得ることができる。重合する方法は、従来公知の重合方法であればよい。重合する方法は、乳化重合または懸濁重合であることが好ましく、懸濁重合であることがより好ましい。
【0117】
セルロース系樹脂とは、セルロースを原料として生物的または化学的に官能基を導入して得られるセルロース骨格を有する樹脂である。例えば、セルロース系樹脂としては、例えばセルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートプロピオネートブチレート樹脂などのセルロースアセテートアルキレート樹脂、セルロースアセテート樹脂、ニトロセルロース樹脂及びそれらの混合物が挙げられる。上記セルロース樹脂としてはEASTMAN社の「CAB551-0.01」「CAB551-0.2」「CAB553-0.4」「CAB531-1」「CAB381-0.1」「CAB381-0.5」「CAB381-2」「CAB381-20」「CAP504「CAP482-0.5」の商品名で入手して使用することができる。
【0118】
ポリエステル系樹脂とは、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させて得られる構成単位を少なくとも含むものである。ポリエステル系樹脂は、変性されたポリエステル系樹脂を含んでもよい。上記のポリエステル系樹脂としては、東洋紡社の「VYLON226」、「VYLON270」、「VYLON560」、「VYLON600」、「VYLON630」、「VYLON660」、「VYLON885」、「VYLONGK250」、「VYLONGK810」、「VYLON GK890」等やユニチカ社の「elitleUE-3200」「elitleUE-3285」、「elitleUE-3320」、「elitleUE-9800」、「elitleUE-9885」等の商品名で入手して使用することができる。
【0119】
ポリウレタン系樹脂とは、アルコール成分とイソシアネート成分を共重合させて得られる構成単位を少なくとも含むものである。ポリウレタン系樹脂は、ポリエステルやポリエーテルやカプロラクトンにより変性されたポリウレタン系樹脂を含んでもよい。上記のポリウレタン系樹脂としては、荒川化学工業社の「ユリアーノKL-424」、「ユリアーノKL-564」、「ユリアーノKL-593」、「ユリアーノ3262」等やDIC社の「パンデックス372E」、「パンデックス390E」、「パンデックス394E」、「パンデックス304」、「パンデックス305E」、「パンデックスP-870」、「パンデックスP-910」、「パンデックスP-895」、「パンデックス4030」、「パンデックス4110」等の商品名で入手して使用することができる。
【0120】
また、これらのアクリル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、およびポリウレタン系樹脂は、単独で使用してもよいが、2種を混合して使用することが好ましく、アクリル系樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂と、を混合した樹脂を使用することがより好ましい。アクリル系樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂との含有比率により、非水系インク組成物に要求される発色、乾燥性、塗膜物性、印字適性などの要求を満たすように制御することができる。アクリル系樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂と、を混合する場合、混合比は特に制限されるものではなく、適宜変更することができる。
【0121】
樹脂の重量平均分子量(相対分子質量)は、特に限定されるものではないが、5000以上であることが好ましく、15000以上であることがより好ましい。重量平均分子量(相対分子質量)は、100000以下であることが好ましく、50000以下であることがより好ましい。樹脂の相対分子量は、通常のGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定することができる。
【0122】
本実施の形態に係る非水系インク組成物全量中に含まれる樹脂の質量%は、特に限定されるものではないが、例えば、非水系インク組成物全量中に0.05質量%以上であることが好ましく、中でも、0.1質量%以上であることが好ましく、更に0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。非水系インク組成物全量中に含まれる樹脂の質量%は、特に限定されるものではないが、例えば、非水系インク組成物中に20質量%以下であることが好ましく、中でも、15質量%以下であることがより好ましい。
【0123】
[分散剤]
本実施の形態に係る非水系インク組成物において必要に応じて分散剤を用いてもよい。分散剤としては、非水系インク組成物において用いられている任意の分散剤を用いることができる。分散剤としては、高分子分散剤を用いるとよい。こうした分散剤としては、主鎖がポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプロラクトン系などからなり、側鎖としてアミノ基、カルボキシル基、スルホン基、ヒドロキシル基などの極性基を有するものである。ポリアクリル系分散剤では、例えば、Disperbyk-2000、2001、2008、2009、2010、2020、2020N、2022、2025、2050、2070、2095、2150、2151、2155、2163、2164、BYKJET-9130、9131,9132,9133,9151(ビック・ケミー社製)、EfkaPX4310、PX4320、PX4330、PA4401、4402、PA4403、4570、7411、7477、PX4700、PX4701(BASF社製)、TREPLUS D-1200、D-1410、D-1420、MD-1000(大塚化学社製)、フローレンDOPA-15BHFS、17HF、22、G-700、900、NC-500、GW-1500(共栄社化学(株)製)、などが用いられる。ポリカプロラクトン系分散剤では、例えば、アジスパーPB821、PB822、PB881(味の素ファインテクノ(株)製)、ヒノアクトKF-1000、T-6000、T-7000、T-8000、T-8000E、T-9050(川研ファインケミカル(株)製)、Solsperse20000、24000、32000、32500、32550、32600、33000、33500、34000、35200、36000、37500、39000、71000、76400、76500、86000、88000、J180、J200(ルーブリゾール社製)、TEGO Dispers652、655、685、688、690(エボニック・ジャパン社製)などが用いられる。好ましい分散剤としては、BYKJET-9130、9131,9132,9133,9151、EfkaPX4310、PX4320、PX4330、PX4700、PX4701、Solsperse20000、24000、32000、33000、33500、34000、35200、39000、71000、76500、86000、88000、J180、J200、TEGO Dispers655、685、688、690などが用いられる。これらの単独、又はそれらの混合物を用いることができる。
【0124】
上記の分散剤の中でもポリカプロラクトン系分散剤を使用することが好ましい。有機溶剤(a)を含む非水系インク組成物中での顔料の分散性を効果的に向上させることが可能となって、非水系インク組成物に固形物が発生することを効果的に抑制することができる。
【0125】
分散剤の含有量は、特に制限されないが、分散剤の含有量の下限は、非水系インク組成物全量中0.1質量%以上の範囲であることが好ましく、0.5質量%以上の範囲であることがより好ましく、0.8質量%以上の範囲であることがさらに好ましい。分散剤の含有量は、特に制限されないが、分散剤の含有量の下限は、非水系インク組成物全量中5.0質量%以上の範囲であることが好ましく、4.0質量%以上の範囲であることがより好ましく、3.0質量%以上の範囲であることがさらに好ましい。これにより、非水系インク組成物中での顔料の分散性を効果的に分散させることが可能となって、非水系インク組成物に固形物が発生することを効果的に抑制することができる。
【0126】
[分散助剤]
本実施の形態に係る非水系インク組成物において必要に応じて分散助剤を用いてもよい。分散助剤は色材(顔料)の表面に吸着し、官能基がインク組成物中の有機溶剤や分散剤との親和力を高め、分散安定性を向上させる。分散助剤としては、有機顔料残基に酸性基、塩基性基、中性基などの官能基を有する公知の顔料誘導体を用いることができる。
【0127】
[界面活性剤]
本実施の形態に係る非水系インク組成物においては、ノズル部やチューブ内等の機器内でのインク組成物の揮発抑制、固化防止、又、固化した際の再溶解性を目的として、又、表面張力を低下させ記録媒体との濡れ性を向上させる目的で、界面活性剤を添加してもよい。例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類であるノニオンP-208、P-210、P-213、E-202S、E-205S、E-215、K-204、K-220、S-207、S-215、A-10R、A-13P、NC-203、NC-207(日本油脂(株)製)、エマルゲン106、108、707、709、A-90、A-60(花王(株)製)、フローレンG-70、D-90、TG-740W(共栄社化学(株)製)、ポエムJ-0081HV(理研ビタミン(株)製)、アデカトールNP-620、NP-650、NP-660、NP-675、NP-683、NP-686、アデカコールCS-141E、TS-230E((株)アデカ製)等、ソルゲン30V、40、TW-20、TW-80、ノイゲンCX-100(第一工業製薬(株)製)等、フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK-340(ビックケミー・ジャパン社製)等、シリコン系界面活性剤としては、ポリエステル変性シリコンやポリエーテル変性シリコンを用いることが好ましく、具体例としては、BYK-313、315N、322、326、331、347、348、BYK-UV3500、3510、3530、3570(いずれもビックケミー・ジャパン社製)等、アセチレングリコール系界面活性剤としては、具体例として、サーフィノール(登録商標)82、104、465、485、TG(いずれもエアープロダクツジャパン社製)、オルフィン(登録商標)STG、E1010(いずれも日信化学株式会社製)等が例示される。
【0128】
界面活性剤としては、上記に限られずアニオン系、カチオン系、両性又は非イオン系のいずれの界面活性剤も用いることができ、添加目的に合わせて適宜選択されればよい。
【0129】
[その他の成分]
本実施の形態に係る非水系インク組成物は、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、エポキシ化物等、多価カルボン酸、表面調整剤、レベリング剤(アクリル系やシリコン系等)、消泡剤、pH調整剤、殺菌剤、防腐剤、防臭剤、電荷調整剤、湿潤剤等の公知の添加剤を任意成分として含んでもよい。酸化防止剤の具体例としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ヒドラジン系酸化防止剤等が挙げられる。具体的には、BHA(2,3-ブチル-4-オキシアニソール)、BHT(2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール)等が例示される。また、紫外線吸収剤としてはベンゾフェノン系化合物、又はベンゾトリアゾール系化合物を用いることができる。また、エポキシ化物の具体例としては、エポキシグリセリド、エポキシ脂肪酸モノエステル、およびエポキシヘキサヒドロフタレートなどが例示され、具体的にはアデカサイザーO-130P、アデカサイザーO-180A(ADEKA社製)等が例示される。多価カルボン酸の具体例としては、クエン酸、マレイン酸などが例示される。
【0130】
<水性インク組成物>
本実施の形態に係る水性インク組成物は、水を主成分とし、併せて上述した有機溶剤(a)をも含有する。水性インク組成物であることで、環境に対する影響が少なく、引火することがないため作業者に対して安全性が高い。また、紙基材等の吸収性基材に対して印字(記録)が容易となる。
【0131】
本実施の形態に係る水性インク組成物において、含有される水としては、種々のイオンを含有するものではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。水の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能な含有量であれば特に限定されるものではないが、水性インク組成物全量中に10質量%以上95質量%以下の範囲内であることが好ましく、中でもインク組成物全量中に20質量%以上95質量%以下の範囲内であることが好ましく、特にインク組成物全量中に30質量%以上90質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0132】
有機溶剤(a)(アルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、及びラクトン系溶剤(a3)からなる群より選択される少なくとも1つ)については、上述した非水系インク組成物に記載した有機溶剤(a)を好適に使用することができる。アルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、ラクトン系溶剤(a3)の好ましい具体例については上述した非水系インク組成物に記載した有機溶剤(a)と同様である。
【0133】
有機溶剤(a)の含有量の上限は、特に制限されるものではないが、水性インク組成物全量中30.0質量%以下含有されていることが好ましく、20.0質量%以下含有されていることがより好ましく、15.0質量%以下含有されていることがさらに好ましい。
【0134】
有機溶剤(a)の含有量の下限は、特に制限されるものではないが、水性インク組成物全量中3.0質量%以上含有されていることが好ましく、5.0質量%以上含有されていることがより好ましい。
【0135】
また、有機溶剤(a)以外のその他の有機溶剤を含有していてもよい。具体的には、沸点が150℃以上300℃以下の有機溶剤を挙げることができる。沸点が150℃以上の有機溶剤を含有することで溶剤の揮発性が高くなることによるインク組成物の臭気を抑制することができ、又、接着剤の膨潤あるいは溶解することによりインク組成物の吐出安定性の低下を抑制することができる。その他の溶媒の沸点が300℃以下であることにより、記録乾燥性が低下することによる印字の滲みをより効果的に抑制することができる。
【0136】
沸点が280℃以上300℃以下のその他の溶剤としては、例えば、トリエチレングリコール(沸点:285℃)、グリセリン(沸点:290℃)、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。沸点が250℃以上280℃未満のその他の溶剤としては、トリプロピレングリコール(沸点:268℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点:250℃)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(沸点:250℃)、等を挙げることができる。沸点が200℃以上250℃未満のその他の溶剤としては、ジプロピレングリコール(沸点:232℃)、ジエチレングリコール(沸点:244℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点:209℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点:247℃)、1,3-プロパンジオール(沸点:214℃)、1,3-ブタンジオール(沸点:208℃)、1,4-ブタンジオール(沸点:230℃)、1,2-ペンタンジオール(沸点:210℃)、1,2-ヘキサンジオール(沸点:223℃)、1,5-ペンタンジオール(沸点:242℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点:250℃)、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール(沸点:232℃)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(沸点:203℃)、2-メチル-1,3-ペンタンジオール(沸点:214℃)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(沸点:244℃)、等を挙げることができる。沸点が180℃以上200℃未満のその他の溶剤としては、エチレングリコール(沸点:197℃)、プロピレングリコール(沸点:187℃)、1,2-ブタンジオール(沸点:193℃)、2-メチル-2,4-ペンタンジオール(沸点:198℃)等を挙げることができる。
【0137】
本実施の形態に係る水性インク組成物に含有される色材は、特に限定されるものではなく、染料系であってもよいし、顔料系であってもよいが、記録物の耐水性や耐光性等の耐性が良好であるという観点から顔料(顔料系色材)を使用することが好ましい。顔料は、顔料を顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体、であっても、顔料の表面に直接に親水性基を修飾した自己分散型顔料とした顔料分散体であってもよい。本実施形態において、インクジェット記録用インクに用いることのできる顔料は、複数の先述した有機顔料や無機顔料を併用してもよく、先述した顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体と後述する自己分散型顔料を併用したものであってもよい。
【0138】
自己分散型顔料としては、例えば、親水性基として、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、及びリン含有基等で修飾されたものを挙げることができる。又、市販品としては、例えば、キャボット製の「CAB-O-JET200、CAB-O-JET250C、CAB-O-JET260M、CAB-O-JET270Y、CAB-O-JET740Y、CAB-O-JET300、CAB-O-JET400、CAB-O-JET450C、CAB-O-JET465M、CAB-O-JET470Y、CAB-O-JET480V、CAB-O-JET352K、CAB-O-JET554B、CAB-O-JET1027R」、オリエント化学工業(株)製の「Microjetblalack162、Aqua-Black001、BONJETBLACKCW-1、BONJETBLACKCW-2、BONJETBLACKCW-3」、東海カーボン(株)製の「Aqua-Black162、Aqua-Black001」、東洋インキ製造株式会社製のLIOJETWDBLACK002C、山陽色素(株)製「SFColor」、冨士色素(株)製「FujiSPColor」、クラリアント社製「Hostajet」等が挙げられる。
【0139】
また、本実施の形態に係る水性インク組成物は記録(印刷)する色は特に制限はされず、目的に色に応じて色材を選択し、組み合わせて使用してもよい。色は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックなどの各色のインクや、ライトマゼンタ、ライトシアン、ライトブラック、オレンジ、グリーン、レッド、ホワイトなどにも使用することができる。
【0140】
本実施の形態に係る水性インク組成物は印刷物(記録物)の耐水性を向上させる目的で樹脂を含有してもよい。樹脂を含有する場合、含有する樹脂の少なくとも一部は、樹脂エマルジョンとして含有することが好ましい。樹脂エマルジョンとは、連続相が水溶性溶媒であり、分散粒子が樹脂微粒子である水性分散液を意味する。樹脂エマルジョンを形成することによって、樹脂が静電反発力によって樹脂微粒子として水性インクジェット記録用インク組成物中に分散することができる。上記樹脂エマルジョンは、一般に連続相である水溶性溶媒が蒸発や浸透等により減少すると、増粘・凝集する性質を持ち、色材の記録媒体への定着を促進する効果を有する。
【0141】
本実施の形態に係る水性インク組成物に含有される樹脂は、所望の耐水性を示すことができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン(シリコン)系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、あるいはこれらの共重合樹脂や混合物を用いることができる。これらのものは耐水性に加えて耐溶剤性も向上させることができる点で好ましい。中でも、吐出安定性、耐水性及び耐溶剤性に優れたものとすることができることから、アクリル系樹脂を含むものであることが好ましい。
【0142】
アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを構成するモノマーの主成分として含むものであれば特に限定されるものではない。(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、公知の化合物を使用することができ、単官能の(メタ)アクリル酸エステルを好ましく用いることができる。例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アラルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等を挙げることができる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸-iso-プロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸-sec-ブチル、(メタ)アクリル酸-iso-ブチル、(メタ)アクリル酸-tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸-iso-オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸-iso-ノニル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸プロパギル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ナフチル、(メタ)アクリル酸アントラセニル、(メタ)アクリル酸アントラニノニル、(メタ)アクリル酸ピペロニル、(メタ)アクリル酸サリチル、(メタ)アクリル酸フリル、(メタ)アクリル酸フルフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ピラニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェネチル、(メタ)アクリル酸クレジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸-3,4-エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸-3,4-エポキシシクロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸-1,1,1-トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ-n-プロピル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ-iso-プロピル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、(メタ)アクリル酸トリフェニルメチル、(メタ)アクリル酸クミル、(メタ)アクリル酸-3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-シアノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリル酸エステル類、等が挙げられる。
【0143】
アクリル系樹脂を構成するモノマーとしては、酸基を有する酸基含有モノマーや水酸基を有する水酸基含有モノマー、及びアミノ基を有するアミノ基含有モノマーを含むものであってもよい。上記酸基を有する酸基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノブチルエステル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシル基末端カプロラクトン変性(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有脂肪族系単量体等のエチレン性不飽和二重結合及びカルボキシル基を有するカルボキシル基含有モノマーを挙げることができる。上記水酸基を含有する水酸基含有モノマーとしては、不飽和二重結合及び水酸基を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート、メチルα-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、エチルα-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、n-ブチルα-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。上記アミノ基含有モノマーとしては、不飽和二重結合及びアミノ基を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリルアミドN-モノメチル(メタ)アクリルアミド、N-モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、
N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド化合物、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリンのエチレンオキサイド付加(メタ)アクリレート等の窒素原子含有(メタ)アクリレート化合物、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルピロール、N-ビニルオキサゾリドン、N-ビニルサクシンイミド、N-ビニルメチルカルバメート、N,N-メチルビニルアセトアミド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-2-オキサゾリン、(メタ)アクリロニトリル等を挙げることができる。
【0144】
又、アクリル系樹脂を構成するモノマーとしては、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマー等以外に、必要に応じてその他のモノマーを有するものであってもよい。このようなその他のモノマーとしては、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーと共重合が可能であり、所望の耐水性及び耐溶剤性を有するものとすることができるものであれば特に限定されるものではなく、エチレン性不飽和二重結合の数が1つである単官能モノマーであっても、2以上である多官能モノマーであってもよい。例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、N-ビニルピロリドン、ビニルピリジン、N-ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニルモノマー;スチレン、スチレンのα-、o-、m-、p-アルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステル誘導体、ビニルトルエン、クロルスチレン等の芳香族ビニルモノマー;エチレン、プロピレン、イソプロピレン等のオレフィンモノマー;ブタジエン、クロロプレン等のジエンモノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物モノマー等を用いることができる。又、ポリエテレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3一ブチレングリコールジアクリレート等のジアクリレート化合物;トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート等のジメタクリレート化合物;トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物;ジビニルベンゼン等を用いることができる。なお、アクリル系樹脂は、これらのモノマーを用いて形成可能なものであるが、モノマーの共重合の形態については、特に限定されるものではなく、例えばブロックコポリマー、ランダムコポリマー、グラフトコポリマー等とすることができる。樹脂エマルジョンは、例えば、乳化重合反応させ、反応後に中和させて製造することができる。乳化剤としては、通常の高分子型界面活性剤を用いてもよく、不飽和結合を有する反応性界面活性剤を用いてもよい。合成方法については、特に限定されるものではないが、例えば、反応性界面活性剤、非反応性界面活性剤、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等の存在下で水と、モノマーと、乳化剤と、重合開始剤とを混合して乳化重合することができる。又、樹脂エマルジョンは、乳化重合反応させることなく、樹脂微粒子を、界面活性剤とともに、水と混合することによっても得ることができる。例えば、(メタ)アクリル酸エステル又はスチレンと(メタ)アクリル酸エステルからなる樹脂微粒子及び界面活性剤を水中に添加して混合することにより得ることができる。
【0145】
市販の樹脂エマルジョンとしては、例えば、アクリットWEM-031U、WEM-200U、WEM-321、WEM-3000、WEM-202U、WEM-3008、(大成ファインケミカル(株)製、アクリル-ウレタン樹脂エマルジョン)、アクリットUW-550CS、UW-223SX、AKW107、RKW-500(大成ファインケミカル(株)製、アクリル系樹脂エマルジョン)、LUBRIJETN240(ルーブリゾール製、アクリル系樹脂エマルジョン)、スーパーフレックス150、210、470、500M、620、650、E2000、E4800、R5002(第一工業製薬(株)製、ウレタン樹脂エマルジョン)、ビニブラン701FE35、701FE50、701FE65、700、701、711、737、747(日信化学(株)製、塩ビ-アクリル系樹脂エマルジョン)、ビニブラン2706、2685(日信化学(株)製、アクリル系樹脂エマルジョン)、モビニール743N、6600、7470、7720、(日本合成化学(株)製、アクリル系樹脂エマルジョン)、等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0146】
樹脂エマルジョンの体積平均粒子径は、インク組成物中での分散安定性と、インクジェット吐出性の観点から、30nm以上300nm以下が好ましく、50nm以上250nm以下がより好ましい。なお、本実施形態において、なお、本実施形態において、樹脂エマルジョンの体積平均粒子径は、粒子径分布測定装置(マイクロトラックベル(株)製粒度分析計NANOTRACWAVE)を用いて25℃の条件下で測定した体積平均粒子径(D50)である。
【0147】
本実施の形態に係る水性インク組成物において、その他の添加剤として界面活性剤が含有されていてもよい。本実施の形態に係る水性インク組成物において用いることのできる界面活性剤は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリシロキサン化合物、アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤、アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤等を挙げることができる。中でも、アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤、アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤、及びポリシロキサン化合物のいずれかを、表面張力調整剤として含むことが、水性インク組成物の記録媒体に対する濡れ広がり性をより優れたものとすることができるため、好ましい。
【0148】
アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤としては、具体的には、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3-ヘキシン-2,5-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール等が挙げられる。又、市販品としては、サーフィノール61、82、104(いずれも、エアープロダクツ社製)等を用いることができる。
【0149】
アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤としては、具体的には、サーフィノール420、440、465、485、TG、2502、ダイノール604、607(いずれも、エアープロダクツ社製)、サーフィノールSE、MD-20、オルフィンE1004、E1010、PD-004、EXP4300、PD-501、PD-502、SPC(いずれも、日信化学工業(株)製)、アセチレノールEH、E40、E60、E81、E100、E200(いずれも、川研ファインケミカル(株)製)等が挙げられる。
【0150】
ポリシロキサン化合物は、市販品としては、例えば、FZ-2122、FZ-2110、FZ-7006、FZ-2166、FZ-2164、FZ-7001、FZ-2120、SH8400、FZ-7002、FZ-2104、8029ADDITIVE、8032ADDITIVE、57ADDITIVE、67ADDITIVE、8616ADDITIVE(いずれも、東レ・ダウコーニング社製)、KF-6012、KF-6015、KF-6004、KF-6013、KF-6011、KF-6043、KP-104、110、112、323、341、(いずれも、信越化学(株)製)、BYK-300/302、BYK-301、BYK-306、BYK-307、BYK-320、BYK-325、BYK-330、BYK-331、BYK-333、BYK-337、BYK-341、BYK-342、BYK-344、BYK-345/346、BYK-347、BYK-348、BYK-349、BYK-375、BYK-377、BYK-378、BYK-UV3500、BYK-UV3510、BYK-310、BYK-315、BYK-370、BYK-UV3570、BYK-322、BYK-323、BYK-3455、BYK-Silclean3700(いずれも、ビックケミー社製)、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSJM-002、シルフェイスSJM-003(いずれも、日信化学工業(株)製)、TEGOTwin4000、TEGOTwin4100、TEGOWet240、TEGOWet250、TEGOWet240、(いずれも、エボニック社製)等を挙げることができる。これらの添加剤は、水性インク組成物及び非水系インク組成物の双方において用いることができる。本実施の形態に係る非水系インクにおいては、中でもポリエーテル基を有するポリエーテル基変性ポリシロキサン化合物を好ましく用いることができる。
【0151】
又、アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤についての具体例としては、エマール、ラテムル、ネオペレックス、デモール(いずれも、アニオン系界面活性剤;花王株式会社製)、サンノール、リポラン、ライポン、リパール(いずれも、アニオン系界面活性剤;ライオン株式会社製)、ノイゲン、エパン、ソルゲン(いずれも非イオン性界面活性剤;第一工業製薬株式会社製)エマルゲン、アミート、エマゾール(いずれも非イオン性界面活性剤;花王株式会社製)、ナロアクティー、エマルミン、サンノニック(いずれも非イオン性界面活性剤;三洋化成工業株式会社製)、メガファック(フッ素系界面活性剤;
DIC株式会社製)、サーフロン(フッ素系界面活性剤;AGCセイミケミカル社製)、日本サイテック・インダストリーズ(株)製AEROSOLTR-70、TR-70HG、OT-75、OT-N、MA-80、IB-45、EF-800、A-102、花王(株)製ペレックスOT-P、ペレックスCS、ペレックスTR、ペレックスTA、日本乳化剤(株)製ニューコール290-A、ニューコール290-KS、ニューコール291-M、ニューコール291-PG、ニューコール291-GL、ニューコール292-PG、ニューコール293、ニューコール297(いずれも、アニオン系界面活性剤)、花王株式会社製エマルゲン320P、エマルゲン350、エマルゲン430、エマルゲン130K、エマルゲン150第一工業製薬株式会社製ノイゲンTDS-120、ノイゲンTDS-200D、ノイゲンTDS-500F、青木油脂工業株式会社製ブラウノンSR-715、ブラウノンSR-720、ブラウノンSR-730、ブラウノンSR-750、ブラウノンEN-1520A、ブラウノンEN-1530、ブラウノンEN-1540、日本乳化剤株式会社製ニューコール2310、ニューコール2320、ニューコール2327、ニューコール1545、ニューコール1820、日光ケミカルズ株式会社製NIKKOLBPS20、NIKKOLBPS30(いずれも、非イオン性界面活性剤)等が挙げられる。これらの界面活性剤の含有量は、溶剤、樹脂、顔料や他の界面活性剤の含有量に応じて適宜調整される。又、これらの界面活性剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。界面活性剤の含有量は、インク混和性や洗浄性、流路内壁への濡れ性、インクジェット吐出性に合わせて適宜調整され、好ましくは0.05質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上3質量%以下含有される。尚、これらの界面活性剤は、水性インク組成物において好適に用いることができる。
【0152】
次に、本実施の形態に係る記録方法に用いることのできる基材(記録媒体)について説明する。
【0153】
[基材]
本実施の形態に係る非水系インク組成物に使用できる基材(記録媒体)としては、特に限定はされず、紙や布帛などの吸収性基材であっても、樹脂基材、金属板ガラスなどの非吸収性基材であっても、受容層を備える基材のような表面塗工が施された基材であってもよく、種々の基材を使用することができる。樹脂としては、ポリ塩化ビニル系重合体やアクリル、PET、ポリカーボネート、PE、PP等が用いられる。特に、有機溶剤(a)は塩化ビニル系重合体への浸透性が高い溶剤であるため、基材(記録媒体)として表面が硬質又は軟質ポリ塩化ビニル系重合体からなる基材(記録媒体)を用いることが特に好ましい。表面がポリ塩化ビニル重合体からなる基材(記録媒体)としては、ポリ塩化ビニル基材(フィルム又はシート)等が例示できる。
【0154】
<記録物の製造方法>
上述した有機溶剤(a)を含有するインクジェット用のインク組成物を基材の表面に吐出する記録方法は、記録物の製造方法として定義することもできる。
【0155】
このような記録物の製造方法であれば、基材の表面に吐出しても印字の滲みが少なく、インク組成物がインクジェットヘッドに備えられる構成部材を接着する接着剤の硬化物が浸食することによりインク組成物の吐出安定性が低下して、基材の表面の所望の位置にインク組成物が吐出できなくなることを効果的に抑制できる。
【実施例
【0156】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0157】
1.非水系インク組成物の作製
有機溶剤(a)、その他の溶剤、樹脂、分散剤、添加剤、顔料(色材)下記表の割合になるように各成分のように実施例及び比較例の非水系インク組成物を作製した。具体的には、ペイントシェイカーを用いてジルコニアビーズにて各成分を分散させて非水系インク組成物を調製した。単位は質量部である。有機溶剤(a)及びグリコールエーテルジアルキルについては混合する前にガスクロマトグラフィーにて不純物濃度を求めた。
【0158】
(1)アクリル系樹脂の作製
100℃に保たれたジエチレングリコールジエチルエーテル300g中に、メタクリル酸メチル150g及びメタクリル酸ブチル50gと所定量のt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(重合開始剤)1.2gとの混合物を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で2時間反応させた後冷却して、無色透明のメタクリル酸メチルの重合体溶液を得た。その後、この重合体溶液から溶媒を十分に留去して、重合平均分子量(ポリスチレン換算値)30000のメタクリル酸メチルの重合体を得た(表中、「アクリル系樹脂」と表記)。
【0159】
(2)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂の作製
撹拌装置を備えたオートクレーブに、窒素置換後、脱イオン水100部、メタノール40部、塩化ビニル32部、酢酸ビニル5部、グリシジルメタクリレート0.2部、ヒドロキシプロピルアクリレート3.55部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(懸濁剤)を0.1部、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート(重合開始剤)を0.026部、ジ-3,5,5-トリメチルヘキサノールパーオキサイド(重合開始剤)を0.57部仕込み、窒素ガス雰囲気下に撹拌しながら63℃に昇温し、63℃に到達直後に塩化ビニル48部を6時間で、グリシジルメタクリレート0.6部、ヒドロキシプロピルアクリレート10.65部を混合したものを5.4時間で連続圧入し、共重合反応させた。オートクレーブ内圧が0.3MPaになった時点で残圧を抜き、冷却して樹脂スラリーを取り出し、ろ過、乾燥して塩化ビニル系共重合樹脂を得た。このとき塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂の重合平均分子量(ポリスチレン換算値)は40000であった(表中、「塩酢ビ共重合体」と表記)。
【0160】
[評価1]
(部材適性)
実施例及び比較例の非水系インク組成物について部材適性(インクジェットヘッドの部材適性)を評価した。具体的には、インクジェットヘッドの部材に使用されるエポキシ系樹脂接着剤(2液硬化型エポキシ接着剤「1500」、セメダイン(株)製)を60℃1日乾燥させた硬化物、0.2gを、実施例及び比較例の非水系インク組成物に浸漬して、60℃で1週間放置して、浸漬試験を行い、硬化物の重量変化を測定した(表中、「部材適性」と表記)。
評価基準
評価5:重量変化率が3%未満で、エポキシ接着剤の材質の劣化がない。
評価4:重量変化率が3%以上5%未満で、エポキシ接着剤の材質の劣化がない。
評価3:重量変化率が5%以上10%未満で、エポキシ接着剤の材質の劣化がない。
評価2:重量変化率が10%以上15%未満で、エポキシ接着剤の材質の劣化がない。
評価1:重量変化率が15%以上及び/又は、エポキシ接着剤の材質の劣化がある。
【0161】
(直線形状の印字評価)
実施例及び比較例の非水系インク組成物について印字を評価した。具体的には、実施例及び比較例の非水系インク組成物をインクジェットプリンターを用いたインクジェット方式にて記録媒体(ポリ塩化ビニルフィルム(IMAGin JT5829R:MACtac社製))に高品質印刷モード(印刷速度10m/h)で、基材表面温度40℃でヘッドの副走査方向に延びる、200μm線幅の線を記録(印刷)して得られた記録物をルーペ(5倍)にて観察し、以下の評価基準にしたがって線幅の評価を行った(表中、「直線形状」と表記)。なお、このインクジェットプリンターに備えられるインクジェットヘッドの構成部材を接着する接着剤はエポキシ系樹脂接着剤であった。なお、本評価においては、構成部材を接着する接着剤はエポキシ系樹脂接着剤を含んでおり、非水系インク組成物の吐出孔面を覆う部材(ヘッドキャップ)を備えたインクジェットヘッドを備え、インク供給部(インクカートリッジ)と、インクジェットヘッドと、の間には、インク貯蔵機構(ダンパー)を備えたインクジェットプリンターを使用した。
評価5:線の輪郭が一定の形状で連続して形成されており、1cm長さ中に欠けや膨らみは無く直線である。
評価4:線の輪郭が一定の形状で連続して形成されており、1cm長さ中に欠けや膨らみが1~10箇所あるが直線である。
評価3:線の輪郭が一定の形状で連続して形成されているが、1cm長さ中に欠けや膨らみが11箇所以上あり直線に近い形状ではない。
評価2:線の輪郭が一定の形状になっていないが、途切れは見られない。
評価1:線が途切れている部分が見られる。
【0162】
(滲み性評価)
上記記録乾燥性評価と同様にして記録媒体(糊付きポリ塩化ビニルフィルム(IMAGin JT5829R:MACtac社製))に高品質印刷モード(印刷速度10m/h)で、基材表面温度40℃で各色のベタ部中にベタ部と異なる色の6ptの文字がある画像を印刷し、得られた記録物を60℃のオーブンで5分間乾燥後、当該記録物の滲みを目視で観察した。
評価基準
評価4:インクの滲みが観察されず、6ptの文字が鮮明である。
評価3:インクの滲みがわずかに観察されたが、意匠性は損なわれない。
評価2:インクの滲みが観察されたが、6ptの文字は識別可能である。
評価1:インクの滲みが顕著に観察され、6ptの文字は視認できなかった。
【0163】
【表1】
【0164】
【表2】
【0165】
上記表から分かるように、有機溶剤(a)を含有する実施例の非水系インク組成物は、滲みは少なく、接着剤の硬化物を浸食することによる非水系インク組成物の吐出安定性の低下を抑制して、基材の表面の所望の位置に非水系インク組成物が吐出できなくなることを効果的に抑制できることが分かる。さらに、例38~52に示すように、種々の色の色材を含有してもカーボンブラックを含有する例3と同等の結果であった。
【0166】
この中でも、例えば、有機溶剤(a)を非水系インク組成物全量中15.0質量%含有する例3、例7、例9(アルキルアミド系溶剤(a1)を含有)と、例12、例14、例15(環状アミド系溶剤(a2)を含有)と、例16~19、22(ラクトン系溶剤(a3)を含有)と、を比較すると、5員環のラクトン系溶剤を含有する例16、例17と比較して、有機溶剤(a)としてアルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、又は6員環以上のラクトン系溶剤を含有する例3、例7、例9、例12、例14、例15、例18、例19、22はより部材適性に優れていた。
【0167】
また、有機溶剤(a)を非水系インク組成物全量中15.0質量%含有する例3、例7、例9(アルキルアミド系溶剤(a1)を含有)と、例12、例14、例15(環状アミド系溶剤(a2)を含有)と、例16~19、22(ラクトン系溶剤(a3)を含有)と、を比較すると、6員環以上のラクトン系溶剤を含有する例18、例19、22と比較して、有機溶剤(a)としてアルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、又は5員環のラクトン系溶剤を含有する例3、例7、例9、例12、例14、例15、例16、例17はより直線形状の印字が良好とあって滲みもなかった。その中でも、アルキルアミド系溶剤(a1)を含有する例3、例7、例9が特に直線形状の印字が良好であった。
【0168】
さらに、例えば有機溶剤(a)として、ジエチルホルムアミド(アルキルアミド系溶剤(a1))を含有する例1~例4を比較すると、有機溶剤(a)を25.0質量%以下の割合で含有する例2、例3、例4は特に部材適性に優れ印字評価も良好であった。
【0169】
一方、有機溶剤(a)の代わりにアルコキシアルキルアミド系溶剤を含有する例53、54については例1~52と比較して、部材適性が劣っていた。
【0170】
また、有機溶剤(a)もアルコキシアルキルアミド系溶剤も含有しない例55~57は、部材適性は良好であるものの、例1~52と比較して、滲みが生じており、さらに直線形状の印字も悪化していた。
【0171】
[評価2]
例3、例16、例53、及び例55の非水系インク組成物について、上記のインクジェットプリンターにおいて、インク組成物の吐出孔面を覆う部材(ヘッドキャップ)、エポキシ系樹脂接着剤またはウレタン系樹脂接着剤の硬化物を含むインクジェットヘッド、インク貯蔵機構(ダンパー)を適宜装着・脱着して間欠吐出性及び吐出安定性、滲み性を評価した。
【0172】
(間欠吐出性)
例3、例16、例53、及び例55の非水系インク組成物について間欠吐出性を評価した。具体的には、インクジェットプリンターに例3、例16、例53、及び例55の非水系インク組成物を充填して、記録媒体(糊付きポリ塩化ビニルフィルム(IMAGin JT5829R:MACtac社製))に双方向の高品質印刷モード(印刷速度10m/h)又は高速印刷モード(印刷速度30m/h)で、基材表面温度30℃と40℃と50℃にて長期間に亘り、常温下で、上記記録媒体に断続的な印刷を実施し、ドット抜け、飛行曲がり及びインクの飛び散りの有無を観察し、発生回数を計数し評価した。このとき、構成部材を接着する接着剤はエポキシ系樹脂接着剤であるインクジェットヘッド(表中、ヘッド接着剤:エポキシと表記)と構成部材を接着する接着剤はウレタン系樹脂接着剤であるインクジェットヘッド(表中、ヘッド接着剤:ウレタンと表記)とを交換して間欠吐出性の評価を行った。
評価5:24時間の試験期間内で、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生が10回未満であった。
評価4:24時間の試験期間内で、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生が10回以上20回未満であった。
評価3:24時間の試験期間内で、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生が20回以上30回未満であった。
評価2:24時間の試験期間内で、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生が30回以上40回未満であった。
評価1:24時間の試験期間内で、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生が40回以上であった。
【0173】
(吐出安定性)
例3、例16、例53、及び例55の非水系インク組成物について吐出安定性を評価した。具体的には、インクジェットプリンターに例3、例16、例53、及び例55の非水系インク組成物を充填して、記録媒体(糊付きポリ塩化ビニルフィルム(IMAGin JT5829R:MACtac社製))に双方向の高品質印刷モード(印刷速度10m/h)又は高速印刷モード(印刷速度30m/h)で、基材表面温度40℃にて連続印刷でベタ及び細線を印刷し、ドット抜け、飛行曲がり、インクの飛び散りの有無を目視により観察し、発生回数を計測した。このとき、構成部材を接着する接着剤はエポキシ系樹脂接着剤であるインクジェットヘッド(表中、ヘッド接着剤:エポキシと表記)と構成部材を接着する接着剤はウレタン系樹脂接着剤であるインクジェットヘッド(表中、ヘッド接着剤:ウレタンと表記)とを交換して吐出安定性の評価を行った。
評価5:3時間の試験期間内で、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生が5回未満であった。
評価4:3時間の試験期間内で、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生が5回以上10回未満であった。
評価3:3時間の試験期間内で、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生が10回以上15回未満であった。
評価2:3時間の試験期間内で、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生が15回以上20回未満であった。
評価1:3時間の試験期間内で、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生20回以上であった。
【0174】
(滲み性評価)
例3、例16、例53、及び例55の非水系インク組成物について滲み性を評価した。具体的には、インクジェットプリンターに例3、例16、例53、及び例55の非水系インク組成物を充填して、記録媒体(糊付きポリ塩化ビニルフィルム(IMAGin JT5829R:MACtac社製))に高品質印刷モード(印刷速度10m/h)又は高速印刷モード(印刷速度30m/h)で、基材表面温度40℃で各色のベタ部中にベタ部と異なる色の6ptの文字がある画像を印刷し、得られた記録物を60℃のオーブンで5分間乾燥後、当該記録物の滲みを目視で観察した。このとき、構成部材を接着する接着剤はエポキシ系樹脂接着剤であるインクジェットヘッド(表中、ヘッド接着剤:エポキシと表記)と構成部材を接着する接着剤はウレタン系樹脂接着剤であるインクジェットヘッド(表中、ヘッド接着剤:ウレタンと表記)とを交換して滲み性の評価を行った。
評価基準
評価4:インクの滲みが観察されず、6ptの文字が鮮明である。
評価3:インクの滲みがわずかに観察されたが、意匠性は損なわれない。
評価2:インクの滲みが観察されたが、6ptの文字は識別可能である。
評価1:インクの滲みが顕著に観察され、6ptの文字は視認できなかった。
【0175】
【表3】
【0176】
表3から分かるように、有機溶剤(a)を含有する非水系インク組成物(例3、例16)を使用して基材の表面に吐出する場合において、吐出孔面を覆う部材を備えるインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出した場合に間欠吐出性が特に良好であることが分かる。一方、有機溶剤(a)の代わりにアルコキシアルキルアミド系溶剤を含有する例53は、吐出孔面を覆う部材を備えるインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出した場合でも間欠吐出性が十分ではなかった。
【0177】
また、有機溶剤(a)を含有する非水系インク組成物(例3、例16)を使用して基材の表面に吐出する場合において、インク貯蔵機構を備えるインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出した場合に吐出安定性が特に良好であることが分かる。一方、有機溶剤(a)の代わりにアルコキシアルキルアミド系溶剤を含有する例55は、吐出孔面を覆う部材を備えるインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出した場合でも吐出安定性が十分ではなかった。
【0178】
さらに、有機溶剤(a)を含有する非水系インク組成物(例3、例16)を使用して基材の表面に吐出する場合において、構成部材を接着する接着剤がウレタン系樹脂接着剤であるインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出した場合には間欠吐出性や吐出安定性が評価3であった。これは、有機溶剤(a)を含有する非水系インク組成物(例3、例16)によりウレタン系樹脂接着剤を膨潤等させた結果、吐出圧力が不安定となったためと考えられる。このことから、有機溶剤(a)を含有する非水系インク組成物(例3、例16)を使用して基材の表面に吐出する場合において、構成部材を接着する接着剤がエポキシ系樹脂接着剤であるインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出することでインク組成物の吐出安定性が特に向上することができることが分かる。
【0179】
なお、有機溶剤(a)を含有する非水系インク組成物(例3、例16)を使用して基材の表面に吐出することで、高速印刷モード(印刷速度30m/h)で搬送させて記録しても印字の滲みの評価が評価3となっており、高品質印刷モード(印刷速度10m/h)で搬送させて記録させた場合と比較して得られた記録物が若干滲みが生じるものとなっていたが意匠性は損なわれないものとなっており、記録媒体(基材)を高速で搬送させて記録に耐えることのできる非水系インク組成物であることが分かる。
【0180】
さらに、吐出孔面を覆う部材(ヘッドキャップ)を備えたインクジェットヘッドにより基材の表面に非水系インク組成物(例3、例16)を吐出することで、加温機構によって基材温度を50℃まで上昇させたとしても間欠吐出性が良好となっていた。このことから、吐出孔面を覆う部材を備えたインクジェットヘッドにより有機溶剤(a)を含有する非水系インク組成物を基材の表面に吐出する記録方法であれば、吐出孔付近に存在するインク組成物が乾燥することを抑制して間欠吐出性の低下を抑制することが可能となって、しかも基材(記録媒体)に着弾したインク組成物を迅速に乾燥させることが可能となるので、極めて高速で記録物の製造が可能となることが分かる。
【0181】
また、インク貯蔵機構が無い状態で高速印刷モード(印刷速度30m/h)により搬送させてインクジェットヘッドにより基材の表面に非水系インク組成物(例3、例16)を吐出すると、吐出安定性評価が評価3であった。これは、高速印刷することにより、キャリッジの移動速度が速くなってインク吐出圧力が不安定となったためと考えられる。一方、インク貯蔵機構がある状態で高速印刷モード(印刷速度30m/h)により搬送させてインクジェットヘッドにより基材の表面に非水系インク組成物(例3、例16)を吐出すると、吐出安定性評価が評価5であった。このことから、インク供給部と、インクジェットヘッドと、の間にインク貯蔵機構が備えられたインクジェット記録装置を使用してインク組成物を基材の表面に吐出することで、インク吐出圧力を安定化することが可能となって、インク組成物での吐出安定性を維持させることが可能となったことが分かる。
【0182】
2.水性インク組成物の作製
色材(顔料分散体)、樹脂(樹脂エマルジョン)、有機溶剤(a)、その他の溶剤、水(イオン交換水)を用いて下記表の割合になるように各成分のように実施例及び比較例の水性インク組成物を調製した。顔料分散体、樹脂(樹脂エマルジョン)、の作製方法を下記に示す。なお、有機溶剤(a)については混合する前にガスクロマトグラフィーにて不純物濃度を求めた。
【0183】
(1)顔料分散剤の作製
100℃に保たれたトルエン200g中にメタクリル酸メチル63g、アクリル酸ブチル27g、メタクリル酸ブチル30g、アクリル酸15g、メタクリル酸15g、とtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート3.6gとの混合物を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で2時間反応させた後冷却して、樹脂溶液を得た。樹脂溶液から樹脂をヘキサンにて精製して、重合平均分子量(ポリスチレン換算値)20000、酸価143mgKOH/gの顔料分散樹脂を得た。
【0184】
水(イオン交換水)80gに、上記で得られた顔料分散樹脂2.5gと、N,N-ジメチルアミノエタノール0.6gを溶解させ、C.I.ピグメント122を15gと消泡剤(エアープロダクツ社製「サーフィノール104PG」)を0.05g加え、ジルコニアビーズを用いてペイントシェーカーにて分散し、顔料分散体を得た。
【0185】
(2)樹脂エマルジョンの作製
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、反応性界面活性剤(花王(株)製、商品名:ラテムルPD-104)0.75g、過硫酸カリウム0.04g、メタクリル酸1.5gと純水150gを仕込み、25℃にて攪拌し混合した。これに、メタクリル酸メチル115.5g、アクリル酸2-エチルヘキシル18g、アクリル酸ブチル15gの混合物を滴下してプレエマルジョンを調製した。又、機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、反応性界面活性剤(花王(株)製、商品名:ラテムルPD-104)3g、過硫酸カリウム0.01gと純水200gを70℃にて攪拌し混合した。その後、調製した前記プレエマルジョンを3時間かけてフラスコ内に滴下した。70℃で更に3時間加熱熟成した後冷却し、N,N-ジメチルエタノールアミンでpHを8となるよう調整し、#150メッシュ(日本織物製)にて濾過し、固形分30質量%、500gの樹脂エマルジョン(ガラス転移温度64℃、酸価7mgKOH/g 体積平均粒子径:90nm)を得た。なお、樹脂エマルジョンの体積平均粒子径(D50)は、粒子径分布測定装置(マイクロトラックベル(株)製粒度分析計NANOTRACWAVE)を用いて25℃の条件下で測定した。
【0186】
[評価1]
実施例及び比較例の水性インク組成物について、上記の非水系インク組成物の評価1と同様に「部材適性」、「直線形状の印字評価」、「滲み性評価」を評価した。
【0187】
【表4】
【0188】
上記表から分かるように、有機溶剤(a)を含有する実施例の水性インク組成物は、水性インク組成物がインクジェットヘッドに備えられる構成部材を接着する接着剤の硬化物を浸食することによる水性インク組成物の吐出安定性の低下を抑制して、基材の表面の所望の位置に非水系インク組成物が吐出できなくなることを効果的に抑制できることが分かる。
【0189】
この中でも、有機溶剤(a)としてアルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)、又は6員環以上のラクトン系溶剤を含有する例58、例59、例62は5員環のラクトン系溶剤を含有する例61と比べてもより部材適性に優れており、特に有機溶剤(a)としてアルキルアミド系溶剤(a1)、環状アミド系溶剤(a2)含有する例58、例59は部材適性が特に優れていた。
【0190】
また、アルキルアミド系溶剤(a1)又は環状アミド系溶剤(a2)を含有する例58、例59が特に直線形状の印字が良好であった。
【0191】
なお、例59の非水系インク組成物は、同じ組成比の例60と比較しても、有機溶剤(a)に由来する不純物濃度が低く、部材適性、直線形状での印字は良好であって、滲みも少なかった。
【0192】
一方、有機溶剤(a)の代わりにアルコキシアルキルアミド系溶剤を含有する例63について滲みはなかったものの、例58~62と比較して、部材適性が劣っていた。
【0193】
また、有機溶剤(a)もアルコキシアルキルアミド系溶剤も含有しない例64は、部材適性は良好であるものの、例58~62と比較して、滲みが生じており、さらに直線形状の印字も悪化していた。
【0194】
[評価2]
例58、例61、例63、及び例64の水性インク組成物について、上記の非水系インク組成物の[評価2]と同様に間欠吐出性及び吐出安定性、滲み性を評価した。
【0195】
【表5】
【0196】
表5から分かるように、有機溶剤(a)を含有する水性インク組成物(例58、例61)を使用して基材の表面に吐出する場合において、吐出孔面を覆う部材を備えるインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出した場合に間欠吐出性が特に良好であることが分かる。一方、有機溶剤(a)の代わりにアルコキシアルキルアミド系溶剤を含有する例63や有機溶剤(a)もアルコキシアルキルアミド系溶剤も含有しない例64は、吐出孔面を覆う部材を備えるインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出した場合でも間欠吐出性が十分ではなかった。
【0197】
また、有機溶剤(a)を含有する水性インク組成物(例58、例61)を使用して基材の表面に吐出する場合において、インク貯蔵機構を備えるインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出た場合に吐出安定性が特に良好であることが分かる。一方、有機溶剤(a)の代わりにアルコキシアルキルアミド系溶剤を含有する例63や有機溶剤(a)もアルコキシアルキルアミド系溶剤も含有しない例64は、吐出孔面を覆う部材を備えるインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出した場合でも吐出安定性が十分ではなかった。
【0198】
さらに、有機溶剤(a)を含有する非水系インク組成物(例58、例61)を使用して基材の表面に吐出する場合において、構成部材を接着する接着剤がウレタン系樹脂接着剤であるインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出した場合には間欠吐出性や吐出安定性が評価3であった。これは、有機溶剤(a)を含有する水性インク組成物(例58、例61)によりウレタン系樹脂接着剤を膨潤等させた結果、吐出圧力が不安定となったためと考えられる。このことから、有機溶剤(a)を含有する水性インク組成物(例58、例61)を使用して基材の表面に吐出する場合において、構成部材を接着する接着剤がエポキシ系樹脂接着剤であるインクジェットヘッドにより基材の表面に吐出することでインク組成物の吐出安定性が特に向上することができることが分かる。
【0199】
なお、有機溶剤(a)を含有する水性インク組成物(例58、例61)を使用して基材の表面に吐出することで、高速印刷モード(印刷速度30m/h)で搬送させて記録しても印字の滲みの評価が評価3となっており、高品質印刷モード(印刷速度10m/h)で搬送させて記録させた場合と比較して得られた記録物が若干滲みが生じるものとなっていたが意匠性は損なわれないものとなっており、記録媒体(基材)を高速で搬送させて記録に耐えることのできる水性インク組成物であることが分かる。
【0200】
さらに、吐出孔面を覆う部材(ヘッドキャップ)を備えたインクジェットヘッドにより基材の表面に水性インク組成物(例58、例61)を吐出することで、加温機構によって基材温度を50℃まで上昇させたとしても間欠吐出性が良好となっていた。このことから、吐出孔面を覆う部材を備えたインクジェットヘッドにより有機溶剤(a)を含有する水性インク組成物を基材の表面に吐出する記録方法であれば、吐出孔付近に存在するインク組成物が乾燥することを抑制して間欠吐出性の低下を抑制することが可能となって、しかも基材(記録媒体)に着弾したインク組成物を迅速に乾燥させることが可能となるので、極めて高速で記録物の製造が可能となることが分かる。
【0201】
また、インク貯蔵機構が無い状態で高速印刷モード(印刷速度30m/h)により搬送させてインクジェットヘッドにより基材の表面に水性インク組成物(例58、例61)を吐出すると、吐出安定性評価が評価3であった。これは、高速印刷することにより、キャリッジの移動速度が速くなってインク吐出圧力が不安定となったためと考えられる。一方、インク貯蔵機構がある状態で高速印刷モード(印刷速度30m/h)により搬送させてインクジェットヘッドにより基材の表面に水性インク組成物(例58、例61)を吐出すると、吐出安定性評価が評価5であった。このことから、インク供給部と、インクジェットヘッドと、の間にインク貯蔵機構が備えられたインクジェット記録装置を使用してインク組成物を基材の表面に吐出することで、インク吐出圧力を安定化することが可能となって、インク組成物での吐出安定性を維持させることが可能となったことが分かる。
図1