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特許7205036金属多孔体、燃料電池および金属多孔体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】金属多孔体、燃料電池および金属多孔体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20230110BHJP
   C21D 1/74 20060101ALI20230110BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20230110BHJP
   C23C 10/54 20060101ALI20230110BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230110BHJP
   C22C 19/05 20060101ALN20230110BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230110BHJP
【FI】
C25D7/00 R
C21D1/74 J
C22C1/08 D
C23C10/54
H01M4/86 B
H01M4/86 Z
C22C19/05 J
H01M8/10 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019569856
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2019022336
(87)【国際公開番号】W WO2020049815
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2018168091
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591174368
【氏名又は名称】富山住友電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】土田 斉
(72)【発明者】
【氏名】西村 淳一
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 精治
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-173079(JP,A)
【文献】特開2017-033917(JP,A)
【文献】特開2011-149049(JP,A)
【文献】特開2015-027268(JP,A)
【文献】国際公開第2010/131536(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/00
C21D 1/74
C23C 10/54
H01M 4/86
C22C 1/08
C22C 19/05
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体であって、
前記金属多孔体は、その外観がシート状であり、
前記骨格は、少なくともニッケルとクロムとを含む合金で、かつ、鉄が固溶しており、
前記骨格の表面に付着した酸化アルミニウム粉末の付着数は、前記金属多孔体の外観におけるみかけの面積1cm当たり10個以下であ
前記骨格は、酸化クロム層と炭化クロム層とを有し、
前記酸化クロム層の厚みは、0.1μm以上、3μm以下であり、
前記炭化クロム層の厚みは、1μm以上、20μm以下である、
金属多孔体。
【請求項2】
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体であって、
前記金属多孔体は、その外観がシート状であり、
前記骨格は、少なくともニッケルとクロムとを含む合金で、かつ、鉄が固溶しており、
前記骨格の表面に付着した酸化アルミニウム粉末の付着数は、前記金属多孔体の外観におけるみかけの面積1cm 当たり10個以下であり、
前記骨格は、最表層が酸化クロム層であり、前記酸化クロム層の下に炭化クロム層を有し、
前記酸化クロム層の厚みは、0.1μm以上、3μm以下であり、
前記炭化クロム層の厚みは、0.1μm以上、1μm未満である
属多孔体。
【請求項3】
前記金属多孔体は、気孔率が60%以上、98%以下である、請求項1または請求項2に記載の金属多孔体。
【請求項4】
前記金属多孔体は、平均気孔径が50μm以上、5000μm以下である、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の金属多孔体。
【請求項5】
ガス拡散層を備えている燃料電池であって、
前記ガス拡散層は、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の金属多孔体である、
燃料電池。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の金属多孔体の製造方法であって、
三次元網目状構造の骨格を有し、前記骨格がニッケルを主成分とする多孔体を用意する工程と、
前記多孔体を、少なくとも、クロム、酸化アルミニウム粉末、および塩化アンモニウムを含む粉末中に埋めて熱処理することにより、前記クロムを前記骨格に拡散浸透させて少なくともニッケルとクロムとを合金化させた金属多孔体を得る工程と、
前記金属多孔体の骨格の表面に付着している前記酸化アルミニウム粉末を、前記金属多孔体の外観におけるみかけの面積1cm当たり、10個以下となるように除去する工程と、
を有する、金属多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記金属多孔体の骨格の表面に付着している前記酸化アルミニウム粉末を除去する工程は、前記金属多孔体に高圧の水を噴射することにより行う、請求項に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項8】
前記金属多孔体の骨格の表面に付着している前記酸化アルミニウム粉末を除去する工程は、前記金属多孔体を酸処理することにより行う、請求項に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項9】
前記多孔体は、
三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体の前記骨格の表面に、炭素粉末を塗布することにより、前記樹脂成形体の前記骨格の表面を導電化処理する工程と、
前記導電化処理する工程後に、前記樹脂成形体の前記骨格の表面にニッケルをめっきする工程と、
前記めっきする工程後に、酸化性雰囲気下で熱処理することにより前記樹脂成形体を除去する工程と、
前記樹脂成形体を除去する工程後に、水蒸気を含む還元性雰囲気下で熱処理することにより前記ニッケル中に残留する炭素を低減させる工程と、
を経ることにより得られたものである、
請求項から請求項のいずれか一項に記載の金属多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は金属多孔体、燃料電池および金属多孔体の製造方法に関する。本出願は、2018年9月7日に出願した日本特許出願である特願2018-168091号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来、気孔率が高く表面積の大きな金属多孔体の製造法として、発泡樹脂等の樹脂多孔体の表面に金属層を形成する方法が知られている。例えば、三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体の骨格の表面を導電化処理し、この骨格の上に金属からなる電気めっき層を形成し、必要に応じて樹脂成形体を焼却して除去することにより金属多孔体を製造することが出来る。
金属多孔体は種々の用途に利用されており、用途によっては骨格が高い耐食性を有していることが要求される場合がある。高い耐食性を有する金属多孔体としては、例えば、骨格がニッケル-クロム合金によって形成されている金属多孔体が知られている。
【0003】
特開2012-149282号公報(特許文献1)には、骨格がニッケルによって構成されている金属多孔体(以下、「ニッケル多孔体」とも記載する)の骨格の表面にクロム層をめっきによって形成してから、熱処理によってクロムを拡散させることによって、ニッケルとクロムとが合金化した金属多孔体を製造する方法が記載されている。
また、特開平08-013129号公報(特許文献2)には、ニッケル多孔体をAl、Cr、およびNHClまたはその化合物を含む粉末中に埋めて、Arガス又はHガス等の雰囲気中で熱処理をする拡散浸透法によって、ニッケルとクロムとが合金化した金属多孔体を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-149282号公報
【文献】特開平08-013129号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る金属多孔体は、
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体であって、
前記金属多孔体は、その外観がシート状であり、
前記骨格は、少なくともニッケル(Ni)とクロム(Cr)とを含む合金で、かつ、鉄(Fe)が固溶しており、
前記骨格の表面に付着した酸化アルミニウム(Al)粉末の付着数は、前記金属多孔体の外観におけるみかけの面積1cm当たり10個以下であ
前記骨格は、酸化クロム層と炭化クロム層とを有し、
前記酸化クロム層の厚みは、0.1μm以上、3μm以下であり、
前記炭化クロム層の厚みは、1μm以上、20μm以下である、
金属多孔体、である。
本開示の別の態様に係る金属多孔体は、
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体であって、
前記金属多孔体は、その外観がシート状であり、
前記骨格は、少なくともニッケル(Ni)とクロム(Cr)とを含む合金で、かつ、鉄(Fe)が固溶しており、
前記骨格の表面に付着した酸化アルミニウム(Al )粉末の付着数は、前記金属多孔体の外観におけるみかけの面積1cm 当たり10個以下であり、
前記骨格は、最表層が酸化クロム層であり、前記酸化クロム層の下に炭化クロム層を有し、
前記酸化クロム層の厚みは、0.1μm以上、3μm以下であり、
前記炭化クロム層の厚みは、0.1μm以上、1μm未満である、
金属多孔体、である。
【0006】
本開示の一態様に係る燃料電池は、
ガス拡散層を備えている燃料電池であって、
前記ガス拡散層は、上記金属多孔体である、燃料電池である。
【0007】
本開示の一態様に係る金属多孔体の製造方法は、
上記本開示の一態様に係る金属多孔体を製造する方法であって、
三次元網目状構造の骨格を有し、前記骨格がニッケルを主成分とする多孔体を用意する工程と、
前記多孔体を、少なくとも、クロム(Cr)、酸化アルミニウム(Al)粉末、および塩化アンモニウム(NHCl)を含む粉末中に埋めて熱処理することにより、前記クロムを前記骨格に拡散浸透させて少なくともニッケルとクロムとを合金化させた金属多孔体を得る工程と、
前記金属多孔体の骨格の表面に付着している前記酸化アルミニウム粉末を、前記金属多孔体の外観におけるみかけの面積1cm当たり、10個以下となるように除去する工程と、
を有する、金属多孔体の製造方法、である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の実施形態に係る金属多孔体の一例の概略を表す図である。
図2図2は、本開示の実施形態に係る金属多孔体の一例の断面写真である。
図3図3は、本開示の実施形態に係る金属多孔体の一例の、部分断面の概略を表す拡大図である。
図4図4は、三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体の一例の、発泡ウレタン樹脂の写真である。
図5図5は、金属多孔体の骨格の表面に付着した酸化アルミニウム粉末の数を測定する方法において、金属多孔体上に測定箇所A~Iを定めた状態の一例を表す概略図である。
図6図6は、金属多孔体にガスを供給した場合の圧力損失を測定する装置の概略を表した図である。
図7図7は、実施例における金属多孔体No.1の断面写真である。
図8図8は、比較例における金属多孔体No.Aの断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、燃料電池を含む各種電池、キャパシタ等の蓄電デバイスに対してますます高出力化、高容量化(小型化)が望まれている。
燃料電池のガス拡散層には、一般に、カーボン構造体又はステンレス鋼(SUS)構造体が利用されている。カーボン構造体又はSUS構造体にはガス流路となる溝が形成されている。溝の幅は約500μm程度であり、一繋がりの線状になっている。溝は、カーボン構造体又はSUS構造体が電解質と接触する面の面積の約1/2程度に設けられているため、ガス拡散層の気孔率は50%程度である。このような従来の燃料電池におけるガス拡散層は、気孔率がそれほど高くなく、また、圧力損失も大きいため、燃料電池を小型化しつつ出力を大きくすることが出来ていなかった。
【0010】
そこで本発明者等は、燃料電池のガス拡散層としてカーボン構造体又はSUS構造体の代わりに三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体を用いることを検討した。気孔率が高い金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いることで、ガスの拡散性能を高くし、ガスの利用効率を上げることができる。金属多孔体を例えば、固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell;PEFC)のガス拡散層として用いる場合には、膜電極複合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)から発生する強酸に曝されるため、金属多孔体は高耐食性である必要がある。
【0011】
骨格がニッケル-クロム合金により構成されている金属多孔体は、高耐食性を有するため燃料電池のガス拡散層として用いることができる。
前記特許文献1に記載の方法のように、めっき法によって金属多孔体を製造するには、環境への配慮から3価のクロムめっき液を使用する必要がある。しかしながら、3価のクロムめっき液を用いた場合には成膜速度が0.3μm/h程度と遅いため、クロムの合金比率が20%以上である金属多孔体を製造するためには時間がかかり、生産性を高くするという点で改良の余地があった。
【0012】
そこで本発明者らは、前記特許文献2に記載の方法のように拡散浸透法によって製造した金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いるために、骨格の表面状態を詳細に調べた。その結果、骨格の表面には微量ではあるが拡散していないCr粉末、酸化アルミニウム粉末、炭化ケイ素粉末等が残留していることが見出された。微量ではあってもこのような粉末が骨格の表面に残留していると、燃料電池を作動させた場合に、ガスの圧力損失に影響を与える可能性が懸念される。
【0013】
本開示は上記事情に鑑みて、耐食性に優れ、かつ、骨格の表面に付着している微粒子がより少ない金属多孔体を安価に提供することを課題とする。
【0014】
[本開示の効果]
本開示によれば、耐食性に優れ、かつ、骨格の表面に付着している微粒子がより少ない金属多孔体を安価に提供することができる。
【0015】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係る金属多孔体は、
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体であって、
前記金属多孔体は、その外観がシート状であり、
前記骨格は、少なくともニッケル(Ni)とクロム(Cr)とを含む合金で、かつ、鉄(Fe)が固溶しており、
前記骨格の表面に付着した酸化アルミニウム(Al)粉末の付着数は、前記金属多孔体の外観におけるみかけの面積1cm当たり10個以下である、
金属多孔体、である。
上記(1)に記載の態様によれば、耐食性に優れ、かつ、骨格の表面に付着している微粒子がより少ない金属多孔体を安価に提供することができる。
【0016】
(2)上記(1)に記載の金属多孔体は、
前記骨格が、酸化クロム(Cr)層と炭化クロム層とを有し、
前記酸化クロム層の厚みは、0.1μm以上、3μm以下であり、
前記炭化クロム層の厚みは、1μm以上、20μm以下である、
ことが好ましい。
上記(2)に記載の態様によれば、骨格の表面に酸化クロムを有していることにより撥水性が高い金属多孔体を提供することができる。
【0017】
(3)上記(1)に記載の金属多孔体は、
前記骨格が、最表層が酸化クロム(Cr)層であり、前記酸化クロム層の下に炭化クロム層を有し、
前記酸化クロム層の厚みは、0.1μm以上、3μm以下であり、
前記炭化クロム層の厚みは、0.1μm以上、1μm未満である、
ことが好ましい。
上記(3)に記載の態様によれば、骨格の靭性が優れ、かつ撥水性が高い金属多孔体を提供することができる。
【0018】
(4)上記(1)から上記(3)のいずれか一項に記載の金属多孔体は、
気孔率が60%以上、98%以下であることが好ましい。
上記(4)に記載の態様によれば、気孔率が非常に高い金属多孔体を提供することができる。
【0019】
(5)上記(1)から上記(4)のいずれか一項に記載の金属多孔体は、
平均気孔径が50μm以上、5000μm以下であることが好ましい。
上記(5)に記載の態様によれば、燃料電池のガス拡散層として用いた場合に、ガスの拡散性能が高く、かつ、発電により発生した水の排出性が高い金属多孔体を提供することができる。
【0020】
(6)本開示の一態様に係る燃料電池は、
ガス拡散層を備えている燃料電池であって、
前記ガス拡散層は、上記(1)から上記(5)のいずれかに記載の金属多孔体である、燃料電池、である。
上記(6)に記載の態様によれば、小型でかつ高出力の燃料電池を提供することができる。
【0021】
(7)本開示の一態様に係る金属多孔体の製造方法は、
上記(1)から上記(5)のいずれかに記載の金属多孔体を製造する方法であって、
三次元網目状構造の骨格を有し、前記骨格がニッケルを主成分とする多孔体を用意する工程と、
前記多孔体を、少なくとも、クロム(Cr)、酸化アルミニウム(Al)粉末、および塩化アンモニウム(NHCl)を含む粉末中に埋めて熱処理することにより、前記クロムを前記骨格に拡散浸透させて少なくともニッケルとクロムとを合金化させた金属多孔体を得る工程と、
前記金属多孔体の骨格の表面に付着している前記酸化アルミニウム粉末を、前記金属多孔体の外観におけるみかけの面積1cm当たり、10個以下となるように除去する工程と、
を有する、金属多孔体の製造方法、である。
上記(7)に記載の態様によれば、耐食性に優れ、かつ、骨格の表面に付着している微粒子がより少ない金属多孔体を安価に製造することが可能な金属多孔体の製造方法を提供することができる。
【0022】
(8)上記(7)に記載の金属多孔体の製造方法は、
前記金属多孔体の骨格の表面に付着している前記酸化アルミニウム粉末を除去する工程は、前記金属多孔体に高圧の水を噴射することにより行うことが好ましい。
(9)上記(7)に記載の金属多孔体の製造方法は、
前記金属多孔体の骨格の表面に付着している前記酸化アルミニウム粉末を除去する工程は、前記金属多孔体を酸処理することにより行うことが好ましい。
上記(8)および上記(9)に記載の金属多孔体の製造方法によれば、骨格の表面に付着している微粒子がより少ない金属多孔体をより簡便に製造することが可能な金属多孔体の製造方法を提供することができる。
【0023】
(10)上記(7)から上記(9)のいずれかに記載の金属多孔体の製造方法は、
前記多孔体が、
三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体の前記骨格の表面に、炭素粉末を塗布することにより、前記樹脂成形体の前記骨格の表面を導電化処理する工程と、
前記導電化処理する工程後に、前記樹脂成形体の前記骨格の表面にニッケルをめっきする工程と、
前記めっきする工程後に、酸化性雰囲気下で熱処理することにより前記樹脂成形体を除去する工程と、
前記樹脂成形体を除去する工程後に、水蒸気(HO)を含む還元性雰囲気下で熱処理することにより前記ニッケル中に残留する炭素を低減させる工程と、
を経ることにより得られたものであることが好ましい。
上記(10)に記載の態様によれば、骨格の表面の撥水性が高い金属多孔体を提供することができる。
【0024】
[本開示の実施態様の詳細]
本開示の実施態様に係る金属多孔体、燃料電池、および金属多孔体の製造方法の具体例を、以下に、より詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0025】
<金属多孔体>
図1に本開示の実施形態に係る金属多孔体の一例の概略図を示す。本開示の実施形態に係る金属多孔体10は、図1に示すように、三次元網目状構造の骨格11を有しており、全体としてシート状の外観を有している。また、前記骨格11によって形成されている気孔部は、金属多孔体10の表面から内部まで連なるように形成された連通気孔となっている。
図2に、本開示の実施形態に係る金属多孔体10の、三次元網目状構造の骨格11を写した断面写真を示す。また、図2に示す金属多孔体10の断面を拡大視した拡大模式図を図3に示す。骨格11の形状が三次元網目状構造を有する場合には、典型的には図3に示すように、金属多孔体10の骨格11の内部13は中空になっている。そして、骨格11は合金膜12によって形成されている。また、前記骨格11は、気孔部14を形成している。
【0026】
前記骨格11は、少なくともニッケル(Ni)とクロム(Cr)とを含む合金で、かつ、鉄(Fe)が固溶している膜によって構成されていればよい。ニッケルは骨格11において含有比率が一番多い成分であり、主成分となっている。クロムは、前記骨格11において、ニッケルと合金化してCrNiとなっているか、酸化クロム(Cr)の状態で存在していればよく、もちろん他の金属成分と合金化していても構わない。鉄は、骨格11を構成する合金成分または金属成分中に固溶していればよい。
【0027】
前記骨格11におけるクロムの含有率は、5質量%以上、50質量%以下程度であることが好ましい。前記骨格11におけるクロムの含有率が5質量%以上であることにより、耐食性に優れ、強酸性下でニッケルが溶出し難い金属多孔体を提供することができる。また、前記骨格11におけるクロムの含有率が50質量%以下であることにより、製造コストを抑えつつ、引張強度に優れた金属多孔体を提供することができる。これらの観点から、前記骨格11におけるクロムの含有率は、10質量%以上、45質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上、40質量%以下程度であることが更に好ましい。
【0028】
前記骨格11における鉄の含有率は、50ppm以上、5000ppm以下程度であることが好ましく、100ppm以上、3000ppm以下程度であることがより好ましく、200ppm以上、2000ppm以下程度であることが更に好ましい。前記骨格11における鉄の含有率が50ppm以上であることにより、FeO層の下にスピネル型の複酸化物FeCrが生成し、前記酸化クロムが骨格11の表面から脱離することを抑制することができる。また、前記骨格11における鉄の含有率が5000ppm以下であることにより、金属多孔体の電気抵抗が大きくなることを抑制することができる。
【0029】
前記骨格11には、ニッケル、クロム、および鉄以外の成分が意図的または不可避的に含まれていても構わない。他の成分としては、例えば、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)などを挙げることができる。言い換えると、前記骨格は、マンガン、ケイ素、アルミニウム、及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含んでいてもよい。特に、ケイ素がSiOとして骨格11中に含まれている場合には、当該SiOは、前記酸化クロムが骨格11の表面から脱離するのを抑制する効果があるため、撥水性に優れた金属多孔体となる。
【0030】
本開示の実施形態に係る金属多孔体10は、前記骨格11の表面に付着している酸化アルミニウム(Al)粉末の量(付着数)が、金属多孔体10のみかけの面積1cm当たり、10個以下である。当該付着数の下限は、例えば、0個以上であってもよいし、1個以上であってもよい。本実施形態において、上述の「酸化アルミニウム粉末の量」は、酸化アルミニウムの粒子の数と把握することもできる。金属多孔体10の使用用途によっては、使用中に前記骨格11の表面から酸化アルミニウム粉末が脱離して周囲に飛散する場合があるため、前記骨格11の表面に付着している酸化アルミニウムの量は少なければ少ないほど好ましい。このため、前記骨格11の表面に付着している酸化アルミニウム(Al)粉末の量(付着数)は金属多孔体10の外観におけるみかけの面積1cm当たり、5個以下であることがより好ましく、1個以下であることが更に好ましい。また、上記酸化アルミニウム粉末の付着数が10個以下であると、上記金属多孔体をガス拡散層として備えている燃料電池において、作動時にガスの圧力損失が抑制される傾向がある。
【0031】
前記骨格11の表面に付着している酸化アルミニウム粉末の量は、以下のようにして測定することができる。
平板状の金属多孔体10の外観におけるみかけの面積1cmの範囲において、図5に示すように、長手方向X、短手方向Yのそれぞれについて、両端部と中央部の9箇所を測定箇所A~Iとする。なお、両端部とは、最端部から5cm程度内側の箇所とする。そして、測定箇所A~Iの骨格11の表面を、10倍ルーペを用いて観察する。骨格11の表面をルーペで観察する際には、測定箇所A~Iのそれぞれにおいて10視野を観察し、各視野に観察される酸化アルミニウム粉末の数をカウントする。なお、前記ルーペで観察する際には、金属多孔体の一方の面から観察し、表面部分の焦点が合う部分の骨格のみを観察するものとする。各視野の酸化アルミニウム粉末の数を平均したものを、その測定箇所(例えば、測定箇所A)での酸化アルミニウム粉末の付着数とする。同様に、他の測定箇所(残りの測定箇所B~I)における酸化アルミニウム粉末の付着数を決定する。測定箇所A~Iにおける酸化アルミニウム粉末の付着数の平均を、金属多孔体10の外観におけるみかけの面積1cm当たりの酸化アルミニウム粉末の付着数とする。
【0032】
前記骨格11は酸化クロム(Cr)層と炭化クロム層とを有することが好ましい。前記骨格11は、最表層が酸化クロム(Cr)層によって形成されており、かつその酸化クロム層の下には炭化クロム層が形成されていることが好ましい。骨格11の最表層が酸化クロム層であることにより、撥水性に優れた金属多孔体となる。また、骨格11に炭化クロム層が含まれていることにより、硬度に優れた金属多孔体となる。なお、炭化クロム層の厚みが厚い場合には、前記骨格11の一部分において、最表層が炭化クロム層によって形成されており、その炭化クロム層の下に酸化クロム層が形成されていても構わない。骨格11に含まれる前記酸化クロム層および前記炭化クロム層の厚みは、金属多孔体の使用用途に応じて適宜選択すればよい。
【0033】
前記骨格11の最表層の酸化クロム層の厚みは0.1μm以上、3μm以下であることが好ましい。酸化クロム層の厚みが0.1μm以上であることにより、金属多孔体の撥水性を高くすることができる。骨格11の表面の撥水性が高いことにより、例えば、金属多孔体を燃料電池のガス拡散層に用いた場合に、発電時に発生する水を効率よく排出できるようになる。なお、酸化クロム層による撥水性の効果は、酸化クロム層の厚みが3μm程度で飽和するため、前記酸化クロム層の厚みは3μm以下であればよい。また、前記酸化クロム層の厚みを3μm以下程度とすることで金属多孔体の製造コストが高くなることを抑制できる。
【0034】
炭化クロムは硬度が高いため、骨格11中に炭化クロム層があることで、骨格11の硬度が大きくなる。一方、炭化クロムが多すぎると骨格11が脆くなる場合がある。前記炭化クロム層中の炭化クロムは、Crと、Cr23の2種類の状態で存在し得る。また、炭化クロムは、前記酸化クロム層における酸化クロム結晶の粒界にも存在し得る。
【0035】
金属多孔体を、例えば、フィルターのように骨格の硬度が大きいことが要求される用途に用いる場合には、前記炭化クロム層の厚みは、1μm以上、20μm以下であることが好ましい。
【0036】
また、骨格11中の炭化クロム層の厚みが薄い場合には、最表層の酸化クロム層の厚みが厚くなる傾向にあり、また、炭化クロム層は、最表層の酸化クロム層の下(骨格の内部側)に形成されるようになる。このため、金属多孔体を例えば、燃料電池のガス拡散層のように骨格の表面の撥水性が高いことが要求される用途に用いる場合には、前記炭化クロム層の厚みは、0.1μm以上、1μm以下であることが好ましく、0.1μm以上、0.5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上、0.3μm以下であることが更に好ましい。
【0037】
骨格11中の前記酸化クロム層および前記炭化クロム層は、金属多孔体の骨格をエネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive X-ray Spectrometry:EDX)、蛍光X線分析(X-ray Fluorescence:XRF)、又はX線回折法(X-ray Diffraction:XRD)によって分析することにより確認することができる。
【0038】
本開示の実施形態に係る金属多孔体10の気孔率は、金属多孔体の使用用途に応じて適宜選択すればよい。金属多孔体10の気孔率は次式で定義される。
気孔率(%)=[1-{Mp/(Vp×dp)}]×100
Mp:金属多孔体の質量[g]
Vp:金属多孔体における外観の形状の体積[cm
dp:金属多孔体を構成する金属又は合金の密度[g/cm
例えば、金属多孔体10を燃料電池のガス拡散層として用いる場合には、ガス拡散性能に優れる、かつ、圧力損失が少ないことが好ましい。そのため、前記気孔率は、60%以上、98%以下であることが好ましく、70%以上、98%以下とすることがより好ましく、90%以上、98%以下とすることが更に好ましい。
【0039】
本開示の実施形態に係る金属多孔体10の平均気孔径は、金属多孔体の使用用途に応じて適宜選択すればよい。なお、金属多孔体10の平均気孔径とは、金属多孔体10の表面を顕微鏡等で少なくとも10視野観察し、1インチ(25.4mm=25400μm)あたりのセル部の平均の数(nc)を求め、次式で算出されるものをいうものとする。
平均気孔径(μm)=25400μm/nc
【0040】
例えば、金属多孔体10を燃料電池のガス拡散層として用いる場合には、金属多孔体10の平均気孔径は、気孔部14を通気するガスの拡散性と圧力損失とを勘案して選択すればよい。具体的には、金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いる場合には、平均気孔径を50μm以上、5000μm以下とすることが好ましく、100μm以上、1000μm以下とすることがより好ましく、200μm以上、700μm以下とすることが更に好ましい。
【0041】
本開示の実施形態に係る金属多孔体10の外観における厚みは特に限定されるものではなく、金属多孔体の使用用途に応じて適宜選択すればよい。金属多孔体10の外観における厚みは、例えば、デジタルシックネスゲージによって測定が可能である。
多くの場合、金属多孔体の外観における厚みを0.1mm以上、3.0mm以下とすることで、軽量でかつ強度が高い金属多孔体とすることができる。これらの観点から、金属多孔体10の外観における厚みは、0.3mm以上、2.5mm以下とすることがより好ましく、0.4mm以上、2.0mm以下とすることが更に好ましい。
【0042】
<燃料電池>
本開示の実施形態に係る燃料電池は、上記の本開示の実施形態に係る金属多孔体をガス拡散層として備えていればよく、他の構成は従来の燃料電池と同様の構成を採用することができる。燃料電池の種類は特に限定されるものではなく、固体高分子型燃料電池であってもよいし、固体酸化物型燃料電池であってもよい。また、金属多孔体10は導電性を有するため、燃料電池においては、ガス拡散層兼集電体として用いることもできる。
本開示の実施形態に係る燃料電池は、ガス拡散層においてガスの拡散性が高くガスの利用効率が高いため、燃料電池を小型化しつつ出力を大きくすることが出来る。更に、本開示の実施形態に係る燃料電池は、金属多孔体の骨格の表面に付着している酸化アルミニウム粉末の量が少ないため、燃料電池の使用時において酸化アルミニウム粉末が飛散せず、また、ガス拡散層での圧力損失が少ない。
【0043】
<金属多孔体の製造方法>
本開示の実施形態に係る金属多孔体の製造方法は、上記の本開示の実施形態に係る金属多孔体を製造する方法であり、少なくとも、ニッケルを主成分とする多孔体を用意する工程(用意工程)と、前記多孔体のニッケルをクロムと合金化させて金属多孔体を得る工程(合金化工程)と、前記金属多孔体の骨格の表面に付着している酸化アルミニウムを除去する工程(除去工程)と、を有する。更に、必要に応じて、前記多孔体に残留する炭素を低減させる工程(炭素除去工程)を有する。以下に各工程を詳述する。
【0044】
(用意工程)
用意工程は、三次元網目状構造の骨格を有し、前記骨格がニッケルを主成分とする多孔体を用意する工程である。前記多孔体は、全体としてシート状の外観形状を有している。本開示の実施形態に係る金属多孔体は前記多孔体のニッケルをクロムと合金化して得られるものであるため、前記多孔体の構造(気孔率、平均気孔径等)は、金属多孔体に要求される構造と同じものを用意すればよい。前記多孔体は、金属多孔体と同様に、典型的には骨格の内部が中空になっており、前記骨格によって気孔部が形成されているものを用意すればよい。多孔体の気孔率および平均気孔径は、前記金属多孔体の気孔率および平均気孔径と同様に定義される。
なお、前記骨格がニッケルを主成分とするとは、多孔体の骨格が、ニッケルを一番多く含むことをいう。
【0045】
三次元網目状構造の骨格を有する多孔体としては、例えば、住友電気工業株式会社製のセルメット(Niを主成分とする金属多孔体。「セルメット」は登録商標)を好ましく用いることができる。所望の多孔体を市場から入手することが出来ない場合には、以下の方法によって製造してもよい。
-導電化処理工程-
まず、三次元網目状構造の骨格を有するシート状の樹脂成形体(以下、単に「樹脂成形体」とも記す)を用意する。樹脂成形体としては、ポリウレタン樹脂又はメラミン樹脂等を用いることができる。図4に三次元網目状構造の骨格を有する発泡ウレタン樹脂の写真を示す。
続いて、樹脂成形体の骨格の表面に炭素粉末を塗布することにより前記樹脂成形体の前記骨格の表面を導電化処理する工程(導電化処理工程)を行なう。導電化処理に用いる炭素粉末としては、例えば、カーボンブラック等の非晶質炭素粉末、黒鉛等のカーボン粉末が挙げられる。
【0046】
-めっき工程-
めっき工程では、骨格の表面を導電化処理した樹脂成形体を基材として用いて、ニッケルの電気めっきを行う。なお、電気めっきでなくともニッケルにスパッタリング又は無電解めっきによってニッケル膜を形成することは可能であるが、生産性およびコストの観点から電気めっきを採用することが好ましい。
ニッケルの電気めっきは公知の手法によって行なえばよい。めっき浴としては、公知または市販のものを使用することができ、例えば、ワット浴、塩化浴、スルファミン酸浴等を用いることができる。上記の導電化処理をした樹脂成形体をめっき浴に浸し、樹脂成形体を陰極に、ニッケルの対極板を陽極に接続して、直流又はパルス断続電流を通電させることにより、ニッケルの電気めっきを行うことができる。
【0047】
-樹脂成形体除去工程-
前記めっき工程後に、骨格の表面にニッケルのめっき膜を有する樹脂成形体を酸化性雰囲気下で熱処理することにより、基材として用いた前記樹脂成形体を除去する。この樹脂成形体の除去処理は、例えば、大気等の酸化性雰囲気下で、600℃以上、800℃以下程度、好ましくは600℃以上、700℃以下程度に昇温することにより行うことができる。これにより、基材として用いた樹脂成形体が燃焼除去されて、ニッケルを主成分とする多孔体が得られる。
【0048】
-炭素除去工程-
上記の樹脂成形体除去工程により、基材として用いた樹脂成形体を除去することができるが、ニッケルを主成分とする多孔体の骨格(ニッケルのめっき膜)の内部(中空部)には導電化処理に用いた非晶質炭素粉末やカーボン粉末が残留してしまう場合がある。これらの炭素粉末は、後述するニッケルとクロムとの合金化工程において炭化クロムの発生源となる。このため、本開示の実施形態に係る金属多孔体の骨格に含まれる炭化クロムの量を減らしたい場合には、炭素粉末を除去しておくことが好ましい。なお、ニッケルを主成分とする多孔体の骨格に残留する炭素量が0.7質量%以上であると、後述する合金化工程(クロマイズ処理)においてCrが生成する。更に、クロムが多く供給されることでCr23が生成する。
【0049】
炭素除去工程は、前記ニッケルを主成分とする多孔体を、水蒸気(HO)を含む還元性雰囲気下で熱処理することにより行えばよい。熱処理は750℃以上で行えばよい。熱処理温度はより高い方が好ましいが、コスト的に不利となること及び還元炉の炉体材質の面から1000℃以下とすればよい。
還元性ガスとしては、水素ガス、または水素と、二酸化炭素又は不活性ガスとの混合ガスを用いたり、必要に応じてこれらを組み合わせて用いたりすることもできる。特に、水素ガスを還元性ガスに必ず加えるようにすれば、酸化還元性の効率が良くなる点で好ましい。この還元性ガスに水蒸気(HO)を添加しておくことにより、前記ニッケルを主成分とする多孔体の骨格の内部に残留する炭素を除去することができる。
【0050】
なお、炭素除去工程は、還元性雰囲気下での処理のため、前記樹脂成形体除去工程によって酸化されたニッケルを還元して緻密な金属膜にすることができる。ニッケルを主成分とする多孔体の骨格の内部に残留する炭素の除去を望まない場合には、還元性ガスに水蒸気を含ませないで熱処理を行えばよい。
【0051】
(合金化工程)
合金化工程は、前記ニッケルを主成分とする多孔体の骨格にクロムを拡散浸透させることで、ニッケルとクロムを合金化する工程である。クロムを拡散浸透させる方法は、公知の手法を採用することができる。例えば、少なくとも、クロム、酸化アルミニウム粉末、および塩化アンモニウムを含む粉末中に、前記ニッケルを主成分とする多孔体を埋めて、Arガス等の不活性ガス雰囲気または熱処理により生成するガスと同一成分ガスの雰囲気中で800℃以上、1100℃以下程度に加熱する方法を採用することができる。
なお、上記のクロムの拡散浸透を鉄製またはステンレス製の炉を用いて行うことで、前記多孔体の骨格中に鉄又はマンガンを固溶させることができる。
【0052】
(粉末除去工程)
前記合金化工程を経ることで、少なくともニッケルとクロムとを含む合金で、かつ、鉄が固溶した骨格を有する金属多孔体を得ることができるが、本発明者等が詳細に検討したところ、前記骨格の表面にはわずかではあるが酸化アルミニウム粉末が付着していることが見出された。このため、本開示の実施形態に係る金属多孔体の製造方法においては、前記合金化工程後に、酸化アルミニウム粉末を除去する工程(粉末除去工程)を行なう。粉末除去工程では、前記金属多孔体の骨格の表面に付着している酸化アルミニウム粉末を、前記金属多孔体の外観におけるみかけの面積1cm当たり、10個以下となるようにする。
【0053】
前記骨格の表面から酸化アルミニウム粉末を除去する方法としては、例えば、高圧洗浄、酸処理、超音波照射、振動による方法が挙げられる。
高圧洗浄は、前記金属多孔体の骨格に高圧の水を噴射することにより行う方法である。例えば、高圧洗浄機を用いて、5MPa以上、10MPa以下程度の圧力の水を、5L/min以上、10L/min以下程度の水量で金属多孔体の骨格に噴射すればよい。水温が高い方が、洗浄効果が高いため、55℃以上、70℃以下程度の温度の水を使用することが好ましい。
【0054】
酸処理による方法は、前記金属多孔体を、NiCrが溶解しにくい酸に浸漬することにより行うことができる。前記酸としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸等を使用することができる。浸漬する時間は、使用する酸の種類及び濃度に応じて適宜変更すればよい。
【0055】
超音波照射による方法は、前記金属多孔体を水中に浸漬し、超音波を照射することにより行うことができる。
振動による方法は、前記金属多孔体に物理的な振動を与えて酸化アルミニウム粉末を前記骨格から脱離させる方法である。例えば、金属多孔体を振動板上に載置し、振動板を振動させる方法等が挙げられる。
【0056】
上記の方法によって骨格の表面から酸化アルミニウム粉末を除去したら、水切りおよび乾燥を行い、骨格の表面に付着している酸化アルミニウム粉末の数を測定する。測定方法は、上述の本開示の実施形態に係る金属多孔体の説明において記載した方法と同じ方法とすればよい。
金属多孔体の骨格の表面に付着している酸化アルミニウム粉末の数が金属多孔体の外観におけるみかけの面積1cm当たり、11個以上である場合には、更に洗浄を行なって酸化アルミニウム粉末を除去し、10個以下となるようにする。
【0057】
<付記>
以上の説明は、以下に付記する特徴を含む。
(付記1)
三次元網目状構造の骨格を有するシート状の金属多孔体であって、
前記骨格は、少なくともニッケル(Ni)とクロム(Cr)とを含む合金で、かつ、鉄(Fe)が固溶しており、
前記骨格の表面に付着した酸化アルミニウム(Al)粉末の付着量は、前記金属多孔体のみかけの面積1cm当たり10個以下である、
金属多孔体。
(付記2)
前記骨格は、酸化クロム(Cr)層と炭化クロム層とを有し、
前記酸化クロム層の厚みは、0.1μm以上、3μm以下であり、
前記炭化クロム層の厚みは、1μm以上、20μm以下である、
付記1に記載の金属多孔体。
(付記3)
前記骨格は、最表層が酸化クロム(Cr)層であり、前記酸化クロム層の下に炭化クロム層を有し、
前記酸化クロム層の厚みは、0.1μm以上、3μm以下であり、
前記炭化クロム層の厚みは、0.1μm以上、1μm未満である、
付記1に記載の金属多孔体。
(付記4)
前記金属多孔体は、気孔率が60%以上、98%以下である、付記1から付記3のいずれかに記載の金属多孔体。
(付記5)
前記金属多孔体は、平均気孔径が50μm以上、5000μm以下である、付記1から付記4のいずれかに記載の金属多孔体。
(付記6)
付記1から付記5のいずれかに記載の金属多孔体をガス拡散層として用いた燃料電池。
(付記7)
付記1に記載の金属多孔体を製造する方法であって、
三次元網目状構造の骨格を有し、前記骨格がニッケルを主成分とする多孔体を用意する用意工程と、
前記多孔体を、少なくとも、クロム(Cr)、酸化アルミニウム(Al)、および塩化アンモニウム(NHCl)を含む粉末中に埋めて熱処理することにより、前記クロムを前記骨格に拡散浸透させて少なくともニッケルとクロムとを合金化させた金属多孔体を得る合金化工程と、
前記金属多孔体の骨格の表面に付着している酸化アルミニウム粉末を、前記金属多孔体のみかけの面積1cm当たり、10個以下となるようにする、粉末除去工程と、
を有する、金属多孔体の製造方法。
(付記8)
前記粉末除去工程は、前記金属多孔体に高圧の水を噴射することにより行う、付記7に記載の金属多孔体の製造方法。
(付記9)
前記粉末除去工程は、前記金属多孔体を酸処理することにより行う、付記7に記載の金属多孔体の製造方法。
(付記10)
前記多孔体は、
三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体の前記骨格の表面に炭素粉末を塗布するこ
とにより前記樹脂成形体の前記骨格の表面を導電化処理する導電化処理工程と、
前記導電化処理工程後に、前記樹脂成形体の前記骨格の表面にニッケルをめっきするめ
っき工程と、
前記めっき工程後に、酸化性雰囲気下で熱処理することにより前記樹脂成形体を除去する樹脂成形体除去工程と、
前記樹脂多孔体除去工程後に、水蒸気(HO)を含む還元性雰囲気下で熱処理することにより前記ニッケル中に残留する炭素を低減させる炭素除去工程と、
を経ることにより得られたものである、
付記7から付記9のいずれか一項に記載の金属多孔体の製造方法。
【0058】
(付記11)
前記少なくともニッケルとクロムとを含む合金がCrNiである、付記1に記載の金属多孔体。
(付記12)
前記骨格におけるクロムの含有率は、5質量%以上、50質量%以下である、付記1に記載の金属多孔体。
(付記13)
前記骨格における鉄の含有率は、50ppm以上、5000ppm以下である、付記1に記載の金属多孔体。
(付記14)
前記骨格は、マンガン、ケイ素、アルミニウム、及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含む、付記1に記載の金属多孔体。
【実施例
【0059】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は例示であって、本発明の金属多孔体等はこれらに限定されるものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲の記載によって示され、請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0060】
(実施例1)
<用意工程>
次のようにして三次元網目状構造の骨格を有する多孔体を用意した。
-導電化処理工程-
三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体として1m幅で厚みが1.0mmのポリウレタンシートを用いた。樹脂成形体の気孔率は96%であり、平均気孔径は450μmであった。
粒径が0.01μmから0.20μmの非晶性炭素であるカーボンブラック100gを0.5Lの10%アクリル酸エステル系樹脂水溶液に分散し、この比率で粘着塗料を作製した。
次に、前記樹脂成形体を前記粘着塗料に連続的に漬け、ロールで絞った。その後乾燥させて樹脂成形体の骨格の表面に導電層を形成することにより樹脂成形体を導電化処理した。
-めっき工程-
導電化処理を施した前記樹脂成形体の骨格の表面に、ニッケルを電気めっきにより500g/m付着させ、骨格の表面にニッケルのめっき膜を有する樹脂構造体を作製した。
-樹脂成形体除去工程-
次いで、上記により得られた樹脂構造体から樹脂成形体を除去するため、前記樹脂構造体を大気下(酸化性雰囲気下)で700℃に加熱した。これにより、樹脂成形体が除去されたニッケルを主成分とする多孔体が得られた。
-還元工程-
次いで、上記により得られた多孔体のニッケルを還元するために、前記多孔体を、HとNの混合気体(アンモニア分解ガス)を用いた還元性ガスからなる還元性雰囲気中で1000℃に加熱した。
これにより、ニッケルが還元され、かつアニールされた多孔体が得られた。
【0061】
<合金化工程>
ステンレス製の炉に、Al粉末が1質量%、Cr粉末が50質量%、NHClが0.5質量%、Al粉末が残部となるように配合した混合粉末を用意し、その中に前記多孔体を埋めた。そして、1000℃で10時間の熱処理を行った。
【0062】
<粉末除去工程>
合金化工程後に得られた金属多孔体に、高圧洗浄機(アサダ株式会社製、ホビー80)を用いて、8MPaの圧力で水量を6L/minとして水を噴射し、骨格の表面に残留している粉末を除去した。噴射する水の温度は65℃とした。金属多孔体とノズルとの距離は200mmから300mmとし、約60秒間洗浄した後、反対側の面も同様にして洗浄した。高圧水による洗浄後、乾燥させて金属多孔体No.1を得た。
【0063】
(実施例2)
粉末除去工程を以下のようにして行なったこと以外は、実施例1と同様にして金属多孔体No.2を得た。
<粉末除去工程>
合金化工程後に得られた金属多孔体を、1mol/Lの硝酸に1時間浸漬した。浸漬している間、金属多孔体をかるく揺すった。硝酸による処理後に、水洗し、金属多孔体No.2を得た。
【0064】
(実施例3)
実施例1の用意工程において、還元工程を以下の炭素除去工程に替えたこと以外は、実施例1と同様にして金属多孔体No.3を得た。
-炭素除去工程-
実施例1で行った還元工程において、HとNの混合気体(アンモニア分解ガス)に、水蒸気(HO)を添加したガスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱処理をし、残留カーボンを除去した多孔体を得た。
【0065】
(比較例1)
実施例1において粉末除去工程を行なわなかったこと以外は実施例1と同様にして金属多孔体No.Aを得た。
【0066】
(比較例2)
実施例3において粉末除去工程を行なわなかったこと以外は実施例3と同様にして金属多孔体No.Bを得た。
【0067】
(評価)
<骨格の表面に付着した酸化アルミニウム粉末の計測>
金属多孔体No.1~No.3および金属多孔体No.A、No.Bの骨格の表面に付着している酸化アルミニウム粉末の数を、上述のようにして測定した。
その結果、金属多孔体の外観におけるみかけの面積1cm当たり、金属多孔体No.1は0個であり、金属多孔体No.2は1個であり、金属多孔体No.3は1個であり、金属多孔体No.Aは20個であり、金属多孔体No.Bは25個であった。
これにより、本開示の実施形態に係る金属多孔体No.1~No.3は、従来の金属多孔体No.A、No.Bに比べて、骨格の表面に付着している酸化アルミニウム粉末の数が非常に少ないことが確認できた。
測定結果を表1にまとめた。
【0068】
<骨格の表面の拡大写真>
金属多孔体No.1および金属多孔体No.Aの骨格の表面を、光学顕微鏡で観察した写真を図7および図8に示す。光学顕微鏡の倍率は40倍とした。
図7に示すように、金属多孔体No.1の骨格の表面には酸化アルミニウム粉末が殆ど確認できなかった。一方、図8に示すように、金属多孔体No.Bの骨格の表面には酸化アルミニウム粉末がところどころに確認された。
【0069】
<骨格の成分の測定>
金属多孔体No.1~No.3および金属多孔体No.A、No.Bの各骨格をEDX、XRDによって分析することにより、組成および合金成分を調べた。また、各金属多孔体の骨格の断面をSEMによって観察した。さらに、各金属多孔体の骨格の表面を硝酸によりエッチングしてから骨格の断面をSEMによって観察し、炭化クロム層の有無を確認した。
測定結果を表1にまとめた。
【0070】
<撥水性>
各金属多孔体を静置し、それぞれの外観における主面にスポイトで1滴の純水(約0.03~0.05ml)を滴下した。金属多孔体を側面から目視により観察し、上面の辺から水滴がなくなるまで(気孔部に浸み込むまで)の時間を測定した。
その結果を表1にまとめた。
【0071】
<圧力損失>
各金属多孔体の気孔部の長軸方向にガスを通流して、流量-圧力損失試験を行なうことにより、圧力損失を測定した。具体的には、図6に示す回路図の装置のように、ポンプ73から流量が0.5L/minとなるようにガスを試験試料(金属多孔体)70に供給し、試験試料(金属多孔体)70を透過する前の圧力P1と、透過した後の圧力P2を圧力計測器72によって測定した。そして、各試験試料(金属多孔体)70における圧力損失ΔPをP1-P2として算出した。ガスの流量は流量計71により測定した。
その結果を表1にまとめた。
【0072】
【表1】
【符号の説明】
【0073】
10 金属多孔体、 11 骨格、 12 骨格を構成する合金膜、 13 骨格の内部、 14 気孔部、 A ガスの通流方向、 70 試験試料(金属多孔体)、 71 流量計、 72 圧力計測器、 73 ポンプ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8