(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20230110BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C16/40
(21)【出願番号】P 2021536180
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2021011650
【審査請求日】2022-03-29
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】引地 将仁
(72)【発明者】
【氏名】奥野 晋
(72)【発明者】
【氏名】山西 貴翔
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0298232(US,A1)
【文献】特開2016-137564(JP,A)
【文献】特開2013-129030(JP,A)
【文献】国際公開第2020/170571(WO,A1)
【文献】特開2013-094853(JP,A)
【文献】国際公開第2019/004018(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/037797(WO,A1)
【文献】特開2013-188833(JP,A)
【文献】特開2007-136666(JP,A)
【文献】特開2002-205205(JP,A)
【文献】特開2004-291162(JP,A)
【文献】特開2012-061538(JP,A)
【文献】特開2013-111720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
C23C 16/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、α-Al
2O
3層を含み、
前記α-Al
2O
3層は、複数のα-Al
2O
3粒子からなり、
前記α-Al
2O
3層は、第1領域、第2領域及び第3領域を含み、
前記第1領域は、前記α-Al
2O
3層の前記基材側の界面P1と、前記界面P1から前記被膜の表面側への距離が0.5μmである仮想面S1とに挟まれる領域であり、
前記第2領域は、前記仮想面S1と、前記仮想面S1から前記被膜の表面側への距離が1.0μmである仮想面S2とに挟まれる領域であり、
前記第3領域は、前記α-Al
2O
3層の表面P2、又は、前記α-Al
2O
3層の前記被膜の表面側の界面P3と、前記表面P2又は前記界面P3から前記基材側への距離が1.0μmである仮想面S3とに挟まれる領域であり、
前記第1領域における前記α-Al
2O
3粒子の平均粒径aは、0.10μm以上0.30μm以下であり、
前記第2領域における前記α-Al
2O
3粒子の平均粒径bは、0.30μm以上0.50μm以下であり、
前記第3領域における前記α-Al
2O
3粒子の平均粒径cは、0.50μm以上1.50μm以下であり、
前記aと前記bとの比b/aは、1.5以上5.0以下であり、
前記平均粒径aは、前記切削工具の前記基材のすくい面に沿う法線の断面において、前記界面P1の前記基材側の谷底B1と前記基材と反対側の山頂T1との中間の位置に設定される基準線LS1から、前記被膜の表面側への距離が0.2μmである線L1上における前記α-Al
2O
3粒子の平均粒径であり、
前記平均粒径bは、前記断面における前記基準線LS1から前記被膜の表面側への距離が1.1μmである線L2上における前記α-Al
2O
3粒子の平均粒径であり、
前記平均粒径cは、前記断面における前記表面P2又は前記界面P3から前記基材側への距離が0.6μmである線L3上における前記α-Al
2O
3粒子の平均粒径であ
り、
前記断面において、
前記基準線LS1から、前記被膜の表面側への距離が、それぞれ0.1μm、0.2μm、0.3μm又は0.4μmである、線La1上、線Lb1上、線Lc1上及び線Ld1上のそれぞれにおいて、前記α-Al
2
O
3
粒子の平均粒径は、0.10μm以上0.30μm以下であり、
前記基準線LS1から、前記被膜の表面側への距離が、それぞれ0.5μm、0.7μm、0.9μm、1.1μm、1.3μm又は1.5μmである線La2上、線Lb2上、線Lc2上、線Ld2上、線Le2上及び線Lf2上のそれぞれにおいて、前記α-Al
2
O
3
粒子の平均粒径は、0.30μm以上0.50μm以下である、切削工具。
【請求項2】
前記平均粒径cは、0.50μm以上1.20μm以下である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記b/aは、1.5以上2.5以下である、請求項1又は請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記α-Al
2O
3層の平均厚さは、3μm以上15μm以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項5】
前記α-Al
2O
3層は、配向性指数TC(hkl)においてTC(0 0 12)が3以上である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材上に被膜を形成した切削工具が用いられている。α型結晶構造を有する酸化アルミニウム(以下「α-Al2O3」とも記す。)は、機械的特性に優れるため、被膜材料として用いられている(特開平6-316758号公報(特許文献1)、特開2013-111720号公報(特許文献2))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-316758号公報
【文献】特開2013-111720号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の切削工具は、
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、α-Al2O3層を含み、
前記α-Al2O3層は、複数のα-Al2O3粒子からなり、
前記α-Al2O3層は、第1領域、第2領域及び第3領域を含み、
前記第1領域は、前記α-Al2O3層の前記基材側の界面P1と、前記界面P1から前記被膜の表面側への距離が0.5μmである仮想面S1とに挟まれる領域であり、
前記第2領域は、前記仮想面S1と、前記仮想面S1から前記被膜の表面側への距離が1.0μmである仮想面S2とに挟まれる領域であり、
前記第3領域は、前記α-Al2O3層の表面P2、又は、前記α-Al2O3層の前記被膜の表面側の界面P3と、前記表面P2又は前記界面P3から前記基材側への距離が1.0μmである仮想面S3とに挟まれる領域であり、
前記第1領域における前記α-Al2O3粒子の平均粒径aは、0.10μm以上0.30μm以下であり、
前記第2領域における前記α-Al2O3粒子の平均粒径bは、0.30μm以上0.50μm以下であり、
前記第3領域における前記α-Al2O3粒子の平均粒径cは、0.50μm以上1.50μm以下であり、
前記aと前記bとの比b/aは、1.5以上5.0以下である、切削工具である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る切削工具の断面の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る切削工具の断面の他の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る切削工具の断面の他の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る切削工具の断面の他の一例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、α-Al
2O
3層の後方散乱電子像の一例を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、α-Al
2O
3層の平均粒径の測定方法を説明する図である。
【
図7】
図7は、α-Al
2O
3層の平均粒径の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、被削材の難削化や高能率加工の要求から、工具刃先にかかる負荷は増大する傾向にある。よって、合金鋼の高能率加工においても、長い工具寿命を有する工具が求められている。
【0007】
そこで、本開示は合金鋼の高能率加工においても、長い工具寿命を有する工具を提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示の切削工具は、合金鋼の高能率加工においても、長い工具寿命を有することができる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の切削工具は、
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、α-Al2O3層を含み、
前記α-Al2O3層は、複数のα-Al2O3粒子からなり、
前記α-Al2O3層は、第1領域、第2領域及び第3領域を含み、
前記第1領域は、前記α-Al2O3層の前記基材側の界面P1と、前記界面P1から前記被膜の表面側への距離が0.5μmである仮想面S1とに挟まれる領域であり、
前記第2領域は、前記仮想面S1と、前記仮想面S1から前記被膜の表面側への距離が1.0μmである仮想面S2とに挟まれる領域であり、
前記第3領域は、前記α-Al2O3層の表面P2、又は、前記α-Al2O3層の前記被膜の表面側の界面P3と、前記表面P2又は前記界面P3から前記基材側への距離が1.0μmである仮想面S3とに挟まれる領域であり、
前記第1領域における前記α-Al2O3粒子の平均粒径aは、0.10μm以上0.30μm以下であり、
前記第2領域における前記α-Al2O3粒子の平均粒径bは、0.30μm以上0.50μm以下であり、
前記第3領域における前記α-Al2O3粒子の平均粒径cは、0.50μm以上1.50μm以下であり、
前記aと前記bとの比b/aは、1.5以上5.0以下である、切削工具である。
【0010】
本開示の切削工具は、合金鋼の高能率加工においても、長い工具寿命を有することができる。
【0011】
(2)前記平均粒径cは、0.50μm以上1.20μm以下であることが好ましい。これによると、切削工具の耐摩耗性が向上する。
【0012】
(3)前記b/aは、1.5以上2.5以下であることが好ましい。これによると、第1領域と第2領域との密着力が向上し、耐欠損性が向上する。
【0013】
(4)前記α-Al2O3層の平均厚さは、3μm以上15μm以下であることが好ましい。これによると、優れた耐摩耗性と耐欠損性とを両立させることができる。
【0014】
(5)前記α-Al2O3層は、配向性指数TC(hkl)においてTC(0 0 12)が3以上であることが好ましい。これによると、切削工具の耐摩耗性が向上する。
【0015】
[本開示の実施形態の詳細]
【0016】
本発明者等は、合金鋼の高能率加工においても、長い工具寿命を有することができる工具の開発にあたり、特許文献1及び特許文献2に記載の従来の切削工具を用いて合金鋼の高能率加工を行い、加工後の工具の状態を観察した。
【0017】
特許文献1では、摩耗量が大きかった。この理由は、特許文献1ではアルミナ層の粒径が0.5μm~3μmと比較的大きいためと推察された。
【0018】
特許文献2の工具では、欠損が生じやすい傾向があった。この理由は、特許文献2では、アルミナ層の下部側の粒径と、表面側の粒径との差が大きく、下部側と上部側との境界で結晶粒同士の界面が生じ、該界面が亀裂進展の起点となるためと推察された。
【0019】
本発明者等は、上記の知見を基に鋭意検討の結果、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有し、長い工具寿命を有する本開示の切削工具を完成させた。本開示の切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0020】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0021】
本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。たとえば「TiCN」と記載されている場合、TiCNを構成する原子数の比は、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。
【0022】
[実施形態1:切削工具]
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)の切削工具は、
基材と、該基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
該被膜は、α-Al2O3層を含み、
該α-Al2O3層は、複数のα-Al2O3粒子からなり、
該α-Al2O3層は、第1領域、第2領域及び第3領域を含み、
該第1領域は、該α-Al2O3層の該基材側の界面P1と、該界面P1から該被膜の表面側への距離が0.5μmである仮想面S1とに挟まれる領域であり、
該第2領域は、該仮想面S1と、該仮想面S1から該被膜の表面側への距離が1.0μmである仮想面S2とに挟まれる領域であり、
該第3領域は、該α-Al2O3層の表面P2、又は、該α-Al2O3層の該被膜の表面側の界面P3と、該表面P2又は該界面P3から該基材側への距離が1.0μmである仮想面S3とに挟まれる領域であり、
該第1領域における該α-Al2O3粒子の平均粒径aは、0.10μm以上0.30μm以下であり、
該第2領域における該α-Al2O3粒子の平均粒径bは、0.30μm以上0.50μm以下であり、
該第3領域における該α-Al2O3粒子の平均粒径cは、0.50μm以上1.50μm以下であり、
該aと該bとの比b/aは、1.5以上5.0以下である、切削工具である。
【0023】
本実施形態の切削工具は、合金鋼の高能率加工においても、長い工具寿命を有することができる。その理由は明らかではないが、以下(i)~(iii)の通りと推察される。
【0024】
(i)本実施形態の切削工具では、α-Al2O3層の第1領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径a(以下、「第1領域の平均粒径a」とも記す。)が0.10μm以上0.30μm以下と小さい。このため、α-Al2O3層と、該α-Al2O3層の基材側に接する層(以下、「下地層」とも記す。)、又は、該α-Al2O3層に接する基材との密着力が大きい。このため、切削時において、α-Al2O3層と、下地層又は基材との界面を起点とする亀裂進展が生じ難く、切削工具が優れた耐欠損性を有する。また、第1領域の平均粒径aが上記の範囲であると、耐溶着剥離性が向上する。
【0025】
(ii)本実施形態の切削工具では、α-Al2O3層の第1領域の平均粒径aと、第2領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径b(以下、「第2領域の平均粒径b」とも記す。)との差が小さく、かつ、第2領域の平均粒径bと、第3領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径c(以下、「第3領域の平均粒径c」とも記す。)との差が小さい。このため、第1領域と第2領域との間、及び、第2領域と第3領域との間に粒径差に起因する界面の発生が抑制される。該α-Al2O3層では、亀裂の起点となる界面の発生が抑制されているため、第1領域、第2領域及び第3領域間の密着力が大きく、切削工具は優れた耐欠損性を有する。
【0026】
(iii)本実施形態の切削工具では、α-Al2O3層内で、基材側から工具表面側に向かって、α-Al2O3粒子の粒径が段階的に増加している。このため、工具表面からの亀裂伝搬距離が長く、α-Al2O3層の基材側における亀裂の進展が抑制される。更に、α-Al2O3層の工具表面側の第3領域の粒径が0.50μm以上1.50μm以下のため、工具表面からの亀裂の進展が抑制される。よって、切削工具は優れた耐欠損性を有する。
【0027】
(iv)本実施形態の切削工具では、α-Al2O3層の第3領域の平均粒径cが0.50μm以上1.50μm以下のため、切削工具は優れた耐摩耗性を有する。
【0028】
(v)本実施形態の切削工具では、α-Al2O3層の第1領域の平均粒径aと、第2領域の平均粒径bとの比b/aが1.5以上であり、平均粒径aに対して平均粒径bが大きいため、第1領域及び第2領域において、被膜の厚み方向に対して亀裂が進展しにくく、切削工具は優れた耐欠損性を有する。また、b/aが5以下であり、平均粒径aと平均粒径bとの差が小さいため、粒径差に起因する界面の発生が抑制される。該α-Al2O3層では、亀裂の起点となる界面の発生が抑制されているため、第1領域と第2領域との密着力が大きく、切削工具は優れた耐欠損性を有する。
【0029】
(vi)本実施形態の切削工具は、上記(i)~(v)の通り、優れた耐欠損性及び耐摩耗性を有し、合金鋼の高能率加工においても、長い工具寿命を有することができる。
【0030】
<切削工具の構成>
図1に示されるように、本実施形態の切削工具1は、基材10と、該基材10上に配置された被膜15とを備え、該被膜15は、α-Al
2O
3層11を含む。被膜15は、基材のすくい面の切削に関与する部分の少なくとも一部を被覆することが好ましく、基材の切削に関与する部分の少なくとも一部を被覆することが好ましく、基材の全面を被覆することが更に好ましい。基材の切削に関与する部分とは、基材表面において、刃先稜線からの距離が1.5mm以内の領域を意味する。基材の一部がこの被膜で被覆されていなかったり被膜の構成が部分的に異なっていたりしていたとしても、本開示の範囲を逸脱するものではない。
【0031】
<切削工具の用途>
本開示の切削工具は、例えば、ドリル、エンドミル(例えば、ボールエンドミル)、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ等であり得る。
【0032】
<基材>
基材10は、すくい面と逃げ面とを含み、この種の基材として従来公知のものであればいずれも使用することができる。例えば、超硬合金(例えば、WC-Co系超硬合金等のWC基超硬合金、該超硬合金はTi、Ta、Nbなどの炭窒化物を含むことができる)、サーメット(TiC、TiN、TiCNなどを主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、立方晶型窒化ホウ素焼結体またはダイヤモンド焼結体のいずれかであることが好ましい。
【0033】
これらの各種基材の中でも超硬合金(特にWC基超硬合金)またはサーメット(特にTiCN基サーメット)を選択することが好ましい。これらの基材は、高温における硬度と強度のバランスに優れ、上記用途の切削工具の基材として優れた特性を有している。基材としてWC基超硬合金を用いる場合、その組織中に遊離炭素、ならびにη相またはε相と呼ばれる異常層などを含んでいてもよい。
【0034】
さらに基材は、その表面が改質されていてもよい。例えば超硬合金の場合、その表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合に表面硬化層が形成されていてもよい。基材は、その表面が改質されていても所望の効果が示される。
【0035】
切削工具が刃先交換型切削チップなどである場合、基材は、チップブレーカーを有しても、有さなくてもよい。刃先稜線部の形状は、シャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与したもの)、ネガランド(面取りをしたもの)、又は、ホーニングとネガランドを組み合わせたもの等、いずれも採用できる。
【0036】
<被膜>
被膜は、α-Al2O3層を含む。たとえば被膜は、α-Al2O3層を1層以上含み、さらに他の層を含んだ複数の層から構成することができる。
【0037】
被膜15は、α-Al
2O
3層11に加えて、他の層を含むことができる。例えば、
図2の切削工具21に示されるように、被膜25は、基材10とα-Al
2O
3層11との間に配置される下地層12を更に含むことができる。
【0038】
図3の切削工具31に示されるように、被膜35は、下地層12に加えて、α-Al
2O
3層11上に配置される表面層13を含むことができる。
【0039】
図4の切削工具41に示されるように、被膜45は、下地層12及び表面層13に加えて、下地層12とα-Al
2O
3層11との間に配置される中間層14を更に含むことができる。下地層、表面層及び中間層の詳細は後述する。
【0040】
基材上に配置される被膜全体の平均厚さは、3μm以上30μm以下が好ましい。これによると、被膜は優れた耐摩耗性及び耐剥離性を有することが出来る。被膜の平均厚さは、5μm以上25μm以下がより好ましく、8μm以上20μm以下が更に好ましい。
【0041】
上記被膜の厚さは、例えば基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルを得て、このサンプルを走査透過型電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscopy)で観察することにより測定される。走査透過型電子顕微鏡としては、例えば、日本電子株式会社製のJEM-2100F(商品名)が挙げられる。
【0042】
本明細書において「厚さ」といった場合、その厚さは平均厚さを意味する。具体的には、断面サンプルの観察倍率を5000倍とし、電子顕微鏡像中に(基材表面に平行な方向30μm)×(被膜の厚さ全体を含む距離)の矩形の測定視野を設定し、該視野において10箇所の厚み幅を測定し、その平均値を「厚さ」とする。下記に記載される下地層、中間層及び表面層の厚さ及び平均厚さについても、同様に測定し、算出される。
【0043】
なお、同一の試料において、すくい面上の被膜又は逃げ面上の被膜を含む複数の測定視野を任意に選択し、該測定視野において上記の測定を行い、上記の平均厚さを算出しても、同様の結果が得られることが確認された。
【0044】
<α-Al2O3層>
(α-Al2O3層の構成)
本実施形態において、α-Al2O3層は、複数のα-Al2O3(結晶構造がα型である酸化アルミニウム)粒子からなる。すなわち、α-Al2O3層は、多結晶のα-Al2O3から構成される。α-Al2O3層は、本実施形態の効果を奏する限り、不可避不純物等を含むことができる。すなわち、本開示の効果を損なわない限りにおいて、α-Al2O3層に他の成分が含まれることが許容される。
【0045】
本実施形態において、基材10のすくい面上に配置されたα-Al2O3層11は、第1領域A1、第2領域A2及び第3領域A3を含む。本明細書において、第1領域A1、第2領域A2及び第3領域A3は、以下の領域と定義される。
【0046】
第1領域A1は、α-Al2O3層11の基材10側の界面P1と、該界面P1から被膜15の表面P2側への距離が0.5μmである仮想面S1とに挟まれる領域である。ここで、界面P1は第1領域A1に含まれ、仮想面S1は第1領域A1に含まれない。
【0047】
第2領域A2は、仮想面S1と、該仮想面S1から被膜15の表面P2側への距離が1.0μmである仮想面S2とに挟まれる領域である。ここで、仮想面S1及び仮想面S2は、第2領域A2に含まれる。
【0048】
α-Al
2O
3層11が被膜の最表面に配置されている場合(例えば、
図1及び
図2)、第3領域A3は、α-Al
2O
3層11の表面P2と、該表面P2から基材側への距離が1.0μmである仮想面S3とに挟まれる領域である。ここで、表面P2及び仮想面S3は第3領域A3に含まれる。
【0049】
α-Al
2O
3層11上に他の層(表面層)が配置されている場合(例えば、
図3及び
図4)、第3領域A3は、α-Al
2O
3層11の被膜の表面側の界面P3と、該界面P3から基材10側への距離が1.0μmである仮想面S3とに挟まれる領域である。ここで、界面P3及び仮想面S3は第3領域A3に含まれる。
【0050】
第2領域と第3領域とは、接することができる。また、第2領域と第3領域との間に他の領域が配置されていてもよい。この場合、他の領域は、上記仮想面S2と上記仮想面S3とに挟まれる領域である。
【0051】
(α-Al2O3粒子の平均粒径)
【0052】
本実施形態において、第1領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径aは、0.10μm以上0.30μm以下であり、第2領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径bは、0.30μm以上0.50μm以下であり、第3領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径cは、0.50μm以上1.50μm以下であり、aとbとの比b/aは、1.5以上5.0以下である。
【0053】
第1領域のα-Al2O3粒子の平均粒径aが0.10μm以上0.30μm以下であると、α-Al2O3層と、該α-Al2O3層の基材側に接する層、又は、該α-Al2O3層に接する基材との密着力が大きい。このため、切削時において、α-Al2O3層と、下地層又は基材との界面を起点とする亀裂進展が生じ難く、切削工具が優れた耐欠損性を有する。平均粒径aは、密着力及び耐欠損性の向上の観点から、0.12μm以上0.28μm以下が好ましく、0.14μm以上0.26μm以下がより好ましく、0.16μm以上0.24μm以下が更に好ましい。
【0054】
第2領域のα-Al2O3粒子の平均粒径bが0.30μm以上であると、工具表面からの亀裂進展を抑制することができ、耐欠損性が向上する。一方、平均粒径bが0.50μm以下であると、第1領域のα-Al2O3粒子の平均粒径aとの差が小さいため、第1領域と第2領域との粒径差に起因する界面の発生が抑制される。よって該界面を起点とする亀裂進展が生じ難く、第1領域と第2領域との密着力の低下が抑制され、切削工具は優れた耐欠損性を有することができる。更に、第2領域のα-Al2O3粒子の平均粒径bと、第3領域のα-Al2O3粒子の平均粒径cとの差が小さいため、第2領域と第3領域との粒径差に起因する界面の発生が抑制される。よって、該界面を起点とする亀裂進展が生じ難く、第2領域と第3領域との密着力の低下が抑制され、切削工具が優れた耐欠損性を有することができる。平均粒径bは、密着力及び耐欠損性の向上の観点から、0.32μm以上0.48μm以下が好ましく、0.34μm以上0.46μm以下がより好ましく、0.36μm以上0.44μm以下が更に好ましい。
【0055】
第3領域のα-Al2O3粒子の平均粒径cが0.50μm以上であると、工具表面からの亀裂進展が抑制され、切削工具が優れた耐欠損性を有することができる。平均粒径cが1.50μm以下であると、切削工具の耐摩耗性が向上する。平均粒径cは、0.50μm以上1.20μm以下が好ましく、0.70μm以上1.20μm以下がより好ましく、0.90μm以上1.10μm以下が更に好ましい。
【0056】
平均粒径aと平均粒径bとの比b/aは、1.5以上5.0以下である。比b/aが1.5以上であると、平均粒径aに対して平均粒径bが大きいため、第1領域及び第2領域において厚み方向に対して亀裂が進展しにくく、切削工具は優れた耐欠損性を有する。また、b/aが5.0以下であると、平均粒径aと平均粒径bとの差が小さいため、第1領域と第2領域との密着力が向上し、第1領域及び第2領域での亀裂の発生が抑制される。よって、切削工具は優れた耐摩耗性を有する。
【0057】
本明細書において、平均粒径a、平均粒径b、及び、平均粒径cは以下(A1)~(A8)の手順で測定される。
【0058】
(A1)基材のすくい面の法線に沿って切削工具をダイヤモンドワイヤーで切り出し、α―Al2O3層の断面を露出させる。露出された断面に対してArイオンによるイオンミーリングを行い、断面を鏡面状態とする。該イオンミーリングの条件は以下の通りである。
加速電圧:6kV
照射角度:α―Al2O3層の断面におけるα―Al2O3層の厚み方向に平行となる直線方向から0°
照射時間:6時間
【0059】
(A2)鏡面状態の断面を、電解放出型走査電子顕微鏡(EF-SEM)で5000倍で観察し、後方散乱電子像(EBSD)を得る。
図5は、EBSDの一例を模式的に示す図である。
【0060】
(A3)上記EBSD中で、α―Al2O3層の基材側の界面P1の凹凸の谷底B1と山頂T1とのすくい面の法線方向に沿う距離の差D1が0.5μm以下の領域を特定し、該領域を含むように測定範囲を設定する。該測定範囲は、(横方向(すくい面と平行な方向):30μm)×(縦方向(すくい面の法線方向):被膜全体を含む長さ)の矩形とする。
【0061】
(A4)上記測定範囲内で、界面P1の谷底B1と山頂T1との中間の位置に基準線LS1を設定する。
【0062】
(A5)上記基準線LS1から切削工具の表面方向に0.2μm離れた線L1上で、α-Al2O3粒子の横方向の粒径を測定する。測定範囲中の全てのα-Al2O3粒子の粒径を測定し、これらの平均値を第1領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径aとする。
【0063】
(A6)上記基準線LS1から切削工具の表面方向に1.1μm離れた線L2上で、α-Al2O3粒子の横方向の粒径を測定する。測定範囲中の全てのα-Al2O3粒子の粒径を測定し、これらの平均値を第2領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径bとする。
【0064】
(A7)上記測定範囲内で、α-Al2O3層が被膜の最表面に配置されている場合はα-Al2O3層の表面P2、又は、α-Al2O3層の上に表面層が配置されている場合はα-Al2O3層の被膜の表面側の界面P3(α-Al2O3層と表面層との界面)から基材方向に0.6μm離れた線L3上で、α-Al2O3粒子の横方向の粒径を測定する。測定範囲中の全てのα-Al2O3粒子の粒径を測定し、これらの平均値を第3領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径cとする。なお、表面P2及び界面P3が凹凸を有する場合は、測定範囲内の最も基材側に位置する谷底を通過し、上記基準線LS1に平行な線から、基材方向に0.6μm離れた位置に上記線L3を設定する。
【0065】
(A8)上記測定範囲内で、第4領域のすくい面の法線方向の中間点を通り、かつ、すくい面に平行な線L4上で、α-Al2O3粒子の横方向の粒径を測定する。測定範囲中の全てのα-Al2O3粒子の粒径を測定し、これらの平均値を第4領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径dとする。
【0066】
上記(A5)において、界面の谷底B1と山頂T1との差が大きく(例えば0.5μm)、
図6に示されるように、線L1が基材内部に存在する場合、基材内部(例えば
図6のXで示される領域)の線L1上ではα-Al
2O
3粒子の粒径の測定を行わず、α-Al
2O
3層内についてのみα-Al
2O
3粒子の粒径の測定を行い、平均粒径aを算出する。
【0067】
上記の線L1を設定するに当たり、本発明者らは、
図7に示されるように、第1領域において、基準線LS1からのすくい面の法線方向に沿った距離が0.1μm以上0.5μm未満の範囲で、0.1μm間隔の位置を通る線La1~線Ld1を設定し、それぞれの線上及び界面S1上で、測定範囲中の全てのα-Al
2O
3粒子の粒径を測定し、これらの平均値を算出した。この結果、線L1に相当する線Lb1上の平均粒径が0.10μm以上0.30μm以下の場合、線La1~線Ld1及び界面S1上の平均粒径も0.10μm以上0.30μm以下となることが確認された。この理由は、核生成の初期の段階では下地の配向や凹凸の影響を大きく受けるため、Al
2O
3結晶は柱状(もしくは表面に向かって断面粒径が大きくなる状態)ではなく、粒状(界面に対し垂直・平行にある程度均等)に成長するためと推察される。
【0068】
同一の切削工具において、異なる測定範囲を任意に選択し、該測定範囲において上記の測定を行っても同様の結果が得られることが確認された。更に、異なる切削工具において、異なる測定範囲を任意に選択し、該測定範囲において上記の測定を行っても同様の結果が得られることが確認された。従って、線L1上の平均粒径が0.10μm以上0.30μm以下であることは、第1領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径aが0.10μm以上0.30μm以下であることを意味する。
【0069】
上記の線L2を設定するに当たり、本発明者らは、
図7に示されるように、第2領域において、基準線LS1からのすくい面の法線方向に沿った距離が0.5μm以上1.5μm以下の範囲で、0.2μm間隔の位置を通る線La2~線Lf2を設定し、それぞれの線上で、測定範囲中の全てのα-Al
2O
3粒子の粒径を測定し、これらの平均値を算出した。この結果、線L2に相当する線Ld2上の平均粒径が0.30μm以上0.50μm以下の場合、線La2~線Lf2上の平均粒径も0.30μm以上0.50μm以下となることが確認された。この理由は、以下の通りと推察される。第2領域は核生成から結晶成長への遷移領域である。第1領域ではガス条件に加え、下地の配向、凹凸等の影響を受けて核生成が起きていたが、第2領域ではガス条件の影響が優位になり、第1領域とは異なった核(配向、形状等)が優位となる。核生成で生まれた結晶が淘汰される一方で、新たなガス条件で安定な核が生成されるため、全体の粒子数に大きな変化は起こらず粒径の変化は大きくないと推察される。また、本開示では、第1領域及び第2領域形成時のガス条件を調整して、結晶の淘汰と核生成を穏やかに遷移させることにより、第2領域を厚み方向に広げ、粒径を維持している。
【0070】
同一の切削工具において、異なる測定範囲を任意に選択し、該測定範囲において上記の測定を行っても同様の結果が得られることが確認された。更に、異なる切削工具において、異なる測定範囲を任意に選択し、該測定範囲において上記の測定を行っても同様の結果が得られることが確認された。従って、線L2上の平均粒径が0.30μm以上0.50μm以下であることは、第2領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径bが0.30μm以上0.50μm以下であることを意味する。
【0071】
上記の線L3を設定するに当たり、本発明者らは、
図7に示されるように、第3領域において、α-Al
2O
3層の表面P2、又は、α-Al
2O
3層の被膜の表面側の界面P3からすくい面の法線方向に沿った距離が0μm以上1.0μm以下の範囲で、0.2μm間隔の位置を通る線La3~線Lf3を設定し、それぞれの線上で、測定範囲中の全てのα-Al
2O
3粒子の粒径を測定し、これらの平均値を算出した。この結果、線L3に相当する線Ld3上の平均粒径が0.50μm以上1.50μm以下の場合、線La3~線Lf3上の平均粒径も0.50μm以上1.50μm以下となることが確認された。この理由は、第3領域は完全に結晶成長領域であり、結晶の数の変化が少ないためと推察される。
【0072】
同一の切削工具において、異なる測定範囲を任意に選択し、該測定範囲において上記の測定を行っても同様の結果が得られることが確認された。更に、異なる切削工具において、異なる測定範囲を任意に選択し、該測定範囲において上記の測定を行っても同様の結果が得られることが確認された。従って、線L3上の平均粒径が0.50μm以上1.50μm以下であることは、第3領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径cが0.50μm以上1.50μm以下であることを意味する。
【0073】
切削工具において、第1領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径aが0.10μm以上0.30μm以下、第2領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径bが0.30μm以上0.50μm以下、第3領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径cが0.50μm以上1.50μm以下、かつ、aとbとの比b/aが1.5以上5.0以下である場合、線L2と線L3との距離が変化しても、効果への影響がないことが確認されている。
【0074】
上記を踏まえると、本実施形態の切削工具について、以下の通り表現することもできる。
本開示の切削工具は、
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
該被膜は、α-Al2O3層を含み、
該α-Al2O3層は、複数のα-Al2O3粒子からなり、
該被膜の表面の法線に沿う断面において、
該基材と該α-Al2O3層との界面に基づく基準線LS1から該α-Al2O3層側への距離が0.2μmである線L1上での該α-Al2O3粒子の平均粒径は、0.10μm以上0.30μm以下であり、
該基準線LS1から該α-Al2O3層側への距離が1.1μmである線L2上での該α-Al2O3粒子の平均粒径は、0.30μm以上0.50μm以下であり、
該α-Al2O3層の表面P2、又は、該α-Al2O3層の該被膜の表面側の界面P3から該α-Al2O3層側への距離が0.6μmである線L3上でのα-Al2O3粒子の平均粒径は、0.50μm以上1.50μm以下であり、
該aと該bとの比b/aは、1.5以上5.0以下である、切削工具である。
【0075】
(b/a)
本実施形態の切削工具において、α-Al2O3層の第1領域の平均粒径aと、第2領域の平均粒径bとの比b/aは、1.5以上5.0以下である。b/aが1.5以上であり、平均粒径aに対して平均粒径bが大きいため、第1領域及び第2領域において厚み方向に対して亀裂が進展しにくく、切削工具は優れた耐欠損性を有する。また、b/aが5以下であり、平均粒径aと平均粒径bとの差異が小さいため、第1領域と第2領域との密着力が向上し、第1領域及び第2領域での亀裂の発生が抑制される。よって、切削工具は優れた耐摩耗性を有する。
【0076】
b/aは、b/aは、第1領域と第2領域との密着力の向上、及び、耐欠損性向上の観点から、1.5以上5.0以下であり、1.5以上2.5以下が好ましく、1.7以上2.3以下がより好ましく、1.9以上2.1以下が更に好ましい。
【0077】
(配向性指数)
本開示において、α-Al2O3層は、下記式(1)で示される配向性指数TC(hkl)においてTC(0 0 12)が3以上であることが好ましい。これによるとα-Al2O3層は、優れた耐摩耗性を有することができる。よって、切削工具は長い工具寿命を有することができる。
【0078】
【0079】
式(1)中、I(hkl)は、(hkl)反射面のX線回折強度を示し、I0(hkl)は、ICDDのPDFカード番号00-010-0173による標準強度を示す。また式(1)中のnは、計算に用いた反射数を示し、本実施形態では8である。反射に用いた(hkl)面は、(012)、(104)、(110)、(0 0 12)、(113)、(024)、(116)および(300)である。
【0080】
ICDD(登録商標)とは、International Centre for Diffraction Data(国際回折データセンター)の略称である。また、PDF(登録商標)とは、Powder Diffraction Fileの略称である。
【0081】
なお、本実施形態のα-Al2O3層のTC(0 0 12)は、下記式(2)で示すことができる。
【0082】
【0083】
したがって、「配向性指数TC(hkl)においてTC(0 0 12)が3以上」とは、上記式(1)にTC(0 0 12)を代入してなる上記式(2)により求まる数値が3以上であることを意味する。
【0084】
上記TC(0 0 12)の値は、4以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。TC(0 0 12)の値が大きいほど、耐摩耗性を効果的に向上させることができる。TC(0 0 12)の値の上限は制限されないが、計算に用いた反射面が8つであるから、8以下とすればよい。TC(0 0 12)の値は、3以上8以下、4以上8以下、5以上8以下とすることができる。
【0085】
本開示において、α-Al2O3層は、上記式(1)で示される配向性指数TC(hkl)においてTC(110)が2以上であることが好ましい。これによると、α-Al2O3層は、優れた耐欠損性を有することができる。よって、切削工具は長い工具寿命を有することができる。
【0086】
なお、本実施形態のα-Al2O3層のTC(110)は、下記式(3)で示すことができる。
【0087】
【0088】
したがって、「配向性指数TC(hkl)においてTC(110)が2以上」とは、上記式(1)にTC(110)を代入してなる上記式(3)により求まる数値が2以上であることを意味する。
【0089】
上記TC(110)の値は、2.5上がより好ましく、3以上が更に好ましい。TC(110)の値が大きいほど、耐欠損性を効果的に向上させることができる。TC(110)の値の上限は制限されないが、計算に用いた反射面が8つであるから、8以下とすればよい。TC(110)の値は、2以上8以下、2.5以上8以下、又は、3以上8以下とすることができる。
【0090】
以上のようなTC(hkl)の測定は、X線回折装置を用いた分析により可能となる。TC(hkl)は、たとえば、リガク株式会社製SmartLab(登録商標)(スキャンスピード:21.7°/分、ステップ:0.01°、スキャン範囲:15~140°)を用いて以下のような条件で測定することができる。なお、本実施形態において、X線回折装置を用いたTC(hkl)の測定の結果を「XRD結果」と称する。
【0091】
特性X線: Cu-Kα
管電圧: 45kV
管電流: 200mA
フィルター: 多層ミラー
光学系: 集中法
X線回折法: θ-2θ法
X線回折装置を用いるに際して、切削工具の逃げ面にX線を照射する。通常、すくい面には凹凸が形成され、これに対して逃げ面は平坦になっていることから、外乱因子を排除するため、X線を逃げ面に照射することが好ましい。特に、刃先稜線部から2~4mm程度の範囲に広がる逃げ面上の箇所にX線を照射する。これによると、結果の再現性が高くなる。なお、本実施形態では、基材の逃げ面上のα-Al2O3層のTC(hkl)の値は、基材のすくい面上のα-Al2O3層のTC(hkl)の値と同一である。
【0092】
なお、同一の試料において、複数の測定箇所を任意に選択し、各測定箇所について上記の測定を行っても、同様の結果が得られることが確認された。
【0093】
(厚さ)
α-Al2O3層の平均厚さは3μm以上15μm以下が好ましい。これによると、優れた耐摩耗性と耐欠損性とを両立させることができる。該α-Al2O3層の平均厚さの下限は、耐摩耗性向上の観点から、3μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましい。該α-Al2O3層の平均厚さが3μm未満であると、厚さが不十分であるため、上記のα-Al2O3の平均粒径a、平均粒径b、平均粒径c並びにb/aを規定することが不可能となる。該α-Al2O3層の平均厚さの上限は、耐欠損性向上の観点から、15μm以下が好ましく、10μm以下が好ましく、9μm以下がより好ましく、8μm以下が更に好ましい。該α-Al2O3層の平均厚さは、3μm以上10μm以下が好ましく、4μm以上9μm以下がより好ましく、5μm以上8μm以下が更に好ましい。
【0094】
α-Al2O3層の厚さは、上記の通り、走査透過型電子顕微鏡(STEM)等を用いて、切削工具の断面サンプルを観察することにより確認することができる。ここで、観察視野は、上記のα-Al2O3粒子の粒径を測定する際に設定した測定範囲とする。
【0095】
なお、同一の試料において、すくい面上の被膜又は逃げ面上の被膜を含む複数の測定範囲を任意に選択し、各測定範囲について上記の測定を行っても、同様の結果が得られることが確認された。
【0096】
<他の層>
被膜は上述のとおり、α-Al
2O
3層以外に他の層を含むことができる。
図2~
図4に示されるように、他の層としては、下地層12、表面層13、中間層14等が挙げられる。
【0097】
(下地層)
下地層は、基材とα-Al2O3層との間に配置される。下地層としては、例えば、TiN層を挙げることができる。TiN層は、平均厚さが0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。これによると、被膜は優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することができる。
【0098】
(表面層)
表面層としては、例えば、Ti(チタン)の炭化物、窒化物または硼化物のいずれかを主成分とすることが好ましい。表面層は、被膜において最も表面側に配置される層である。ただし、刃先稜線部においては形成されない場合もある。表面層は、例えば、α-Al2O3層の直上に配置される。
【0099】
「Tiの炭化物、窒化物または硼化物のいずれかを主成分とする」とは、Tiの炭化物、窒化物および硼化物のいずれかを90質量%以上含むことを意味する。また、好ましくは不可避不純物を除きTiの炭化物、窒化物および硼化物のいずれかからなることを意味する。
【0100】
Tiの炭化物、窒化物および炭窒化物のいずれかのうち、特に好ましいのはTiの窒化物(すなわちTiNで表される化合物)を主成分として表面層を構成することである。TiNはこれらの化合物のうち色彩が最も明瞭(金色を呈する)であるため、切削使用後の切削チップのコーナー識別(使用済み部位の識別)が容易であるという利点がある。表面層はTiN層からなることが好ましい。
【0101】
表面層は、平均厚さが0.05μm以上1μm以下であることが好ましい。これによると、表面層と、隣接する層との密着性が向上する。表面層の平均厚さの上限は0.8μm以下、0.6μm以下とすることができる。平均厚さの下限は0.1μm以上、0.2μm以上とすることができる。
【0102】
<中間層>
中間層は、下地層とα-Al2O3層との間に配置される。中間層としては、例えば、TiCN層及びTiCNO層を挙げることができる。TiCN層及びTiCNO層は耐摩耗性に優れるため、被膜により好適な耐摩耗性を付与することができる。中間層は、平均厚さが1μm以上20μm以下であることが好ましい。ここで、中間層の平均厚さとは、中間層が2層以上から形成される場合は、該2層以上の合計厚さの平均を意味する。
【0103】
[実施形態2:切削工具の製造方法]
実施形態1の切削工具は、基材上に被膜を化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法により形成することによって製造することができる。被膜のうち、α-Al2O3層以外の他の層が形成される場合、他の層は化学気相蒸着装置を用いて従来公知の条件で形成することができる。一方、α-Al2O3層は、例えば、以下のようにして形成することができる。なお、実施形態1の切削工具は、下記の製造方法で作製されたものに限定されず、他の製造方法で作製されてもよい。
【0104】
α-Al2O3層の成膜条件は、例えば、温度950~1050℃、圧力10~50hPa、ガス流量(全ガス流量)50~100L/minとすることができる。「総ガス流量」とは、標準状態(0℃、1気圧)における気体を理想気体とし、単位時間当たりにCVD炉に導入された全容積流量を示す。
【0105】
原料ガスとして、AlCl3、HCl、CO2、H2S及びH2を用いる。成膜開始から、形成されたα-Al2O3層の厚さの変化に応じて、原料ガス中のHCl配合量を変化させる。具体的には、以下の通りとする。
【0106】
成膜開始から、α-Al2O3層の厚さが0.5μm未満までは、原料ガスの配合を、HCl:7.5体積%以上9体積%以下、AlCl3:2体積%以上5体積%以下、CO2:0.1体積%以上6体積%以下、H2S:0.1体積%以上1体積%以下及びH2:原料ガス全体を100体積%としたときの残りの体積%とする。これにより第1領域が形成される。
【0107】
続いて、α-Al2O3層の厚さが0.5μm以上1.5μm以下までは、原料ガスの配合を、HCl:6体積%以上7.5体積%未満とし、第1領域形成時に比べて原料ガス中のHClの減少分だけH2を増加させ、他のガスの配合は第1領域形成時と同一とする。これにより第2領域が形成される。
【0108】
続いて、α-Al2O3層の最終の厚さから1.0μm減じた厚さまで、上記の第2領域と同一の原料ガスを用いる。
【0109】
続いて、α-Al2O3層の最終の厚さから1.0μm減じた厚さからα-Al2O3層の表面までは、原料ガスの配合を、HCl:2.8体積%以上6体積%未満とし、第2領域形成時に比べて、原料ガス中のHClの減少分だけH2を増加させ、他のガスの配合は第2領域形成時と同一とする。これにより第3領域が形成される。
【0110】
従来、HClは、成膜中にα-Al2O3が過剰に生成し、気相中でα-Al2O3粒子が形成されることを抑制するために用いられていた。気相中でα-Al2O3粒子が形成されると、基材上にα-Al2O3層が形成されにくくなる。一方、原料ガス中のHClの配合量が多いと、成膜速度が落ちると考えられていた。従って、原料ガス中のHClの配合量を必要最小限とすることは技術常識であり、当業者は原料ガス中のHClの配合量を増加させるという技術的思想を有しなかった。
【0111】
従来の技術常識に対して、本実施形態では上述の通り、α-Al2O3粒子の粒径の制御のためにHCl量を変化させている。中でも、第1領域及び第2領域形成時の原料ガス中のHClの配合量は、従来のα-Al2O3層の形成時に用いられていた原料ガス中のHClの配合量(例えば、2.8堆積%以上6体積%未満)よりも多い。これにより、第1領域及び第2領域のα-Al2O3粒子の平均粒径が小さくなる。これは、本発明者らが、新たに見出した知見である。本発明者等は当該新規の知見に基づき、本実施形態の切削工具を完成させた。
【0112】
[付記1]
本開示の切削工具は、
基材と、該基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
該被膜は、α-Al2O3層を含み、
該α-Al2O3層は、複数のα-Al2O3粒子からなり、
該被膜の表面の法線に沿う断面において、
該基材と該α-Al2O3層との界面に基づく基準線LS1から該α-Al2O3層側への距離が0.2μmである線L1上での該α-Al2O3粒子の平均粒径は、0.10μm以上0.30μm以下であり、
該基準線LS1から該α-Al2O3層側への距離が1.1μmである線L2上での該α-Al2O3粒子の平均粒径は、0.30μm以上0.50μm以下であり、
該α-Al2O3層の表面P2、又は、該α-Al2O3層の該被膜の表面側の界面P3から該α-Al2O3層側への距離が0.6μmである線L3上でのα-Al2O3粒子の平均粒径は、0.50μm以上1.50μm以下であり、
該aと該bとの比b/aは、1.5以上5.0以下である、切削工具である。
【実施例】
【0113】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0114】
[試料1~試料27、試料1-1~試料1-9]
表1に記載の配合組成からなる原料粉末を均一に混合し、所定の形状に加圧成形した後、1300~1500℃で1~2時間焼結することにより、超硬合金製(形状:型番CNMG120408N-UX(住友電工ハードメタル製))の基材を得た。表1中の「残り」とは、WCが配合組成(質量%)の残部を占めることを示している。
【0115】
【0116】
<被膜の形成>
上記で得られた基材の表面に被膜を形成して切削工具を作製した。具体的には、基材を化学気相蒸着装置内にセットし、基材上に化学気相蒸着法により被膜を形成した。各試料の被膜の構成は表2の通りである。
【0117】
【0118】
基材上に、TiN層(下地層)、TiCN層(中間層)、TiCNO層(中間層)、α-Al2O3層、TiN層(表面層)を前記の順で形成する。TiN層(下地層)の厚さは0.4μmであり、TiCN層(中間層)の厚さは6.5μmであり、TiCNO層(中間層)の厚さは0.7μmであり、TiN(表面層)の厚さは0.7μmである。表1において「無し」とは、該試料においては、該層が形成されないことを示す。
【0119】
TiN層(下地層)、TiCN層(中間層)、TiCNO層(中間層)及びTiN層(表面層)の成膜条件を表3に示す。
【0120】
【0121】
各試料のα-Al2O3層の成膜条件、原料ガス組成及びα-Al2O3層の平均厚さを表4に示す。表4中の「残り」とは、H2ガスが原料ガス組成(体積%)の残部を占めることを示している。α-Al2O3層の形成条件は、温度1000℃、圧力70hPa、原料ガスの導入速度(全ガス流量)は60L/minとし、基材を固定しつつ、原料ガスを噴出させるためのガス管を2rpmで回転させた。
【0122】
【0123】
例えば、試料1の成膜条件は次の通りである。α-Al2O3層の成膜開始からα-Al2O3層の厚さが0.5μmとなるまでは、2.2体積%のAlCl3、8.3体積%のHCl、3.0体積%のCO2、0.6体積%のH2S及び残部H2からなる組成の原料ガスを用いた。これにより、第1領域が形成された。
【0124】
次に、α-Al2O3層の厚さが0.5μm超からα-Al2O3層の平均厚さ(8μm)から1μmを引いた厚さ(7μm)までは、原料ガス中のHCl量を6.7体積%とし、これに合わせて残部H2の量を変更した以外は、上記の第1領域形成時と同一の配合の原料ガスを用いた。これにより、第2領域が形成された。
【0125】
次に、α-Al2O3層の表面側1μmでは、原料ガス中のHCl量を3.5体積%とし、これに合わせて残部H2の量を変更した以外は、上記の第2領域成膜時と同一の配合の原料ガスを用いた。これにより、第3領域が形成された。
【0126】
<α-Al2O3層の評価>
各試料のα-Al2O3層について、第1領域の平均粒径a、第2領域の平均粒径b、第3領域の平均粒径c、TC(0 0 12)及びTC(110)を測定した。これらの測定方法は、実施形態1に示されるとおりであるため、その説明は繰り返さない。結果を表5の「粒径a」、「粒径b」、「粒径c」、「TC(0 0 12)」及び「TC(110)」欄に示す。
【0127】
更に、平均粒径a及び平均粒径bとに基づき、b/aの値を算出した。結果を表5の「b/a」欄に示す。
【0128】
【0129】
<切削評価1>
上記で得られた切削工具を用いて、下記の切削条件1で切削試験を行った。異なる20の切れ刃を用いて、それぞれの切れ刃で20秒間切削を行い、破損の有無を確認した。ここで「破損」とは、500μm以上の欠けを意味する。20の切れ刃のうち、破損の生じた切れ刃の割合を算出して破損率(%)を得た。すなわち、破損率(%)=(破損した切れ刃の数/20)×100である。破損率が30%以下の場合、切削工具は優れた耐欠損性を有し、工具寿命が長いと判断される。結果を表5の「切削評価1 破損率(%)」欄に示す。
【0130】
(切削条件1)
被削材:SCM440(溝付き丸棒)
加工:溝付き丸棒外径断続旋削
切削速度:120m/min
送り量:0.2mm/rev
切込み量:2.0mm
切削液:なし
上記の切削条件は、高硬度合金鋼の高能率加工に該当する。
【0131】
<切削評価2>
上記で得られた切削工具を用いて、下記の切削条件2で切削試験を行った。15分間切削後の切削工具の逃げ面側の平均摩耗量Vb(mm)を測定した。ここで「平均摩耗量」とは、稜線から逃げ面摩耗の端までの距離を平均した長さを意味する。平均摩耗量Vbが0.25mm以下の場合、切削工具は優れた耐摩耗性を有し、工具寿命が長いと判断される。結果を表5の「切削評価2 Vb(mm)」欄に示す。
【0132】
(切削条件2)
被削材:SCr420H
加工:丸棒外径旋削
切削速度:280m/min
送り量:0.2mm/rev
切込み量:2.0mm
切削液:水溶性切削油
上記の切削条件は、合金鋼の高能率加工に該当する。
【0133】
<考察>
試料1~試料3、試料5、試料7、試料9、試料12、試料13、試料15、試料17、試料19~試料27の切削工具は実施例に該当する。これらの試料は、優れた耐欠損性及び耐摩耗性を有し、工具寿命が長いことが確認された。
【0134】
試料1と試料2とは、α-Al2O3層の厚さが同一である。試料1の平均粒径a、平均粒径b及び平均粒径cは、試料2の平均粒径a、平均粒径b及び平均粒径cと同一である。試料1では、TC(0 0 12)がTC(110)より大きい。試料2では、TC(110)がTC(0 0 12)より大きい。試料1は、試料2よりも耐摩耗性が優れていることが確認された。一方、試料2は試料1よりも、耐欠損性が優れていることが確認された。上記より、α-Al2O3層の厚さ、並びに、第1領域の平均粒径a、第2領域の平均粒径b及び第3領域の平均粒径cとが同一の場合、TC(0 0 12)が大きいほど耐摩耗性が向上し、TC(110)が大きいほど耐欠損性が向上することが確認された。この傾向は、試料10と試料11との比較からも確認される。
【0135】
試料4、試料6、試料8、試料10、試料11、試料14、試料16、試料18、試料1-1~試料1-9は比較例に該当する。試料4、試料6、試料8、試料10、試料11、試料14、試料18、試料1-1~試料1-9は、耐欠損性が不十分であり、工具寿命が短かった。試料16は、耐摩耗性が不十分であり、工具寿命が短かった。
【0136】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0137】
1,21,31,41 切削工具、10 基材、11 α-Al2O3層、12 下地層、13 表面層、14 中間層、15,25,35,45 被膜、A1 第1領域、A2 第2領域、A3 第3領域、A4 第4領域、P1,P3 界面、P2 表面、S1,S2,S3 仮想面、B1 P1の山頂、T1 P1の谷底、LS1 基準線、L1,L2 線
【要約】
基材と、基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、被膜は、複数のα-Al2O3粒子からなるα-Al2O3層を含み、α-Al2O3層の第1領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径aは、0.10μm以上0.30μm以下であり、第2領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径bは、0.30μm以上0.50μm以下であり、第3領域におけるα-Al2O3粒子の平均粒径cは、0.50μm以上1.50μm以下であり、b/aは、1.5以上5.0以下である。