(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】低融性スズリン酸塩系ガラスフリット
(51)【国際特許分類】
C03C 8/08 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
C03C8/08
(21)【出願番号】P 2019188405
(22)【出願日】2019-10-15
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000114927
【氏名又は名称】YEJガラス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520074527
【氏名又は名称】ワイイーケーガラスカンパニーリミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100154014
【氏名又は名称】正木 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100154520
【氏名又は名称】三上 祐子
(72)【発明者】
【氏名】吉永 浩士
(72)【発明者】
【氏名】高尾 良成
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-277076(JP,A)
【文献】特開2012-031001(JP,A)
【文献】特開2001-261374(JP,A)
【文献】特開2000-219536(JP,A)
【文献】特開2002-012442(JP,A)
【文献】特開2001-302279(JP,A)
【文献】国際公開第2013/141044(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/119131(WO,A1)
【文献】特開2003-183050(JP,A)
【文献】特開2001-139344(JP,A)
【文献】特開2002-255587(JP,A)
【文献】特開2005-097086(JP,A)
【文献】特開2011-178606(JP,A)
【文献】特開2009-256183(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0128141(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%として、15~75%のSnO、0~40%のSnF
2、10~50%のP
2O
5、0~30%のZnO、0~5%のAl
2O
3、0~30%のB
2O
3、0.1~5%のIn
2O
3、
1.2~5%のBaO、0~5%のSiO
2を含有してなり、
ガラス転移点からガラス軟化点までの温度差が50℃以下である低融性スズリン酸塩系ガラスフリット。
【請求項2】
Pbを含有していない請求項1に記載の低融性スズリン酸塩系ガラスフリット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛等の環境負荷物質を利用することなく、従来のガラス転移点の温度を維持した状態でガラス軟化点の温度を低下させることができる低融性スズリン酸塩系ガラスフリットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の低融性ガラスフリットとして、例えば、特許文献1~5に記載ものが知られている。これら発明は、組成系の調整による鉛の除去(特許文献1~3)や耐候性の改善(特許文献4~5)に重点が置かれているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-169183号公報
【文献】特開2001-48579号公報
【文献】特開2004-010405号公報
【文献】特開2008-037740号公報
【文献】特開2011-225404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ガラスフリットの主な用途は、ディスプレイなどの電子部材であるが、これら電子部材は、封止時の熱によりダメージを受けるため、低温で作業することが望ましい。しかしながら、上記発明らは、ガラス転移点の温度から焼成温度(作業温度)までの範囲が概ね100℃以上となっており、ガラス転移点の温度から焼成温度(作業温度)までの差が大きく十分な低融性を得られていないという問題があった。
【0005】
そこで、十分な低融性を得るために、ガラス転移点の熱特性を低下させることが考えられる。しかしながら、ガラス転移点の熱特性を低下させると、特許文献1,4に記載のように、ガラス転移点の温度が低下するに伴い耐候性や耐水性が低下しやすくなる傾向にあり、もって、ガラスの安定性が低下する傾向があるという問題があった。
【0006】
一方、低融性・高安定性のガラスとして有鉛ガラスが挙げられるが、これは環境への影響が大きく、規制されているという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、鉛等の環境負荷物質を利用することなく、従来のガラス転移点の温度を維持した状態でガラス軟化点の温度を低下させることができる低融性スズリン酸塩系ガラスフリットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の目的は、以下の手段によって達成される。
【0009】
すなわち、請求項1に係る低融性スズリン酸塩系ガラスフリットは、モル%として、15~75%のSnO、0~40%のSnF2、10~50%のP2O5、0~30%のZnO、0~5%のAl2O3、0~30%のB2O3、0.1~5%のIn2O3、1.2~5%のBaO、0~5%のSiO2を含有してなり、
ガラス転移点からガラス軟化点までの温度差が50℃以下であることを特徴としている。
【0011】
請求項2の発明は、上記請求項1に記載の低融性スズリン酸塩系ガラスフリットにおいて、Pbを含有していないことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係る低融性スズリン酸塩系ガラスフリットは、SnO、SnF2、P2O5、ZnO、Al2O3、B2O3、In2O3、BaO、SiO2を特定比率で含んでいることから、従来のガラス転移点の温度を維持した状態でガラス軟化点の温度を低下させることができる。
【0013】
さらに、請求項1の発明によれば、ガラス転移点からガラス軟化点までの温度差が50℃以下であるため、従来のガラス転移点の温度を維持した状態でガラス軟化点の温度を低下させることができる。
【0014】
そしてさらに、請求項2の発明によれば、Pbを含有していなくとも、従来のガラス転移点の温度を維持した状態でガラス軟化点の温度を低下させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る低融性スズリン酸塩系ガラスフリットは、基本的には、SnO-P2O5の2成分系のガラス組成を有し、その必須な2成分に加えて、SnF2、ZnO、Al2O3、B2O3、In2O3、BaO、SiO2を任意成分として含み得るものであるが、各成分を特定比率にすることで、従来のガラス転移点の温度を維持した状態でガラス軟化点を低下、具体的には、ガラス転移点〔Tg〕からガラス軟化点〔Tf〕までの温度差を50℃以下とすることができる。
【0016】
すなわち、このガラスフリットのガラス組成は、モル%として、15~75%のSnO、0~40%のSnF2、10~50%のP2O5、0~30%のZnO、0~5%のAl2O3、0~30%のB2O3、0.1~5%のIn2O3、1.2~5%のBaO、0~5%のSiO2を含有し、これによって、ガラス転移点〔Tg〕からガラス軟化点〔Tf〕までの温度差が50℃以下となる。
【0017】
上記ガラス組成において、SnOの比率が75モル%を超えると、ガラスを十分に形成することができなくなる。また、SnOの比率が15モル%未満では、ガラスを形成するものの、融液の粘性が高くなり、もって、後述するアルミナるつぼからの回収が困難となる。
【0018】
P2O5の比率が、50モル%を超えると、融液の粘度が高くなり、もって、後述するアルミナるつぼから回収することが困難となる。また、P2O5の比率が、10モル%未満では、骨格を形成する成分が不足するため、ガラスを十分に形成することができなくなる。
【0019】
SnF2は、ガラス転移点を低下させる成分であるが、40モル%を超えると、ガラスの形成を阻害することとなる。
【0020】
ZnOは、ガラスの安定性を高める成分であるが、30モル%を超えると、ガラスを白濁化させ透明性を損ない、もって、安定性を低下させることとなる。
【0021】
Al2O3は、ガラスの安定性を高める成分であるが、5モル%を超えると、溶融不良を生じさせ、もって、ガラスの形成を阻害することとなる。
【0022】
B2O3は、ガラスの熱膨張率を低下させ、耐久性を向上させる成分であるが、30モル%を超えると、ガラスを白濁化させ透明性を損ない、もって、安定性を低下させることとなる。
【0023】
In2O3は、ガラスの耐久性を向上させる成分であるが、5モル%を超えると、ガラス化を阻害するほか、低温加工性が悪化する。
【0024】
BaOは、ガラスの網目修飾酸化物として働く成分であるが、5モル%を超えると、溶融不良を生じさせ、もって、ガラスの形成を阻害することとなる。
【0025】
SiO2は、ガラスの網目形成酸化物として働く成分であるが、5モル%を超えると、溶融不良を起こし、もって、ガラスの均質性を低下させることとなる。
【0026】
なお、このガラスフリットのガラス組成では、上記の成分の他に、必要に応じて、他の種々の酸化物成分を含有させることができる。このような他の酸化物成分としては、ZrO2、CaO、MgO等が挙げられる。
【0027】
しかして、このようなガラスフリットのガラス組成は、Pb等の環境負荷物質を利用することなく、従来のガラス転移点の温度を維持した状態でガラス軟化点を低下させることができる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0029】
〔製造例1~21〕
ガラス原料として、SnO、SnF2、P2O5、ZnO、Al2O3、B2O3、In2O3、BaO、SiO2の各粉末を、後記、表1,2に記載の比率(モル%)となるように、秤量、混合し、容量50ccのアルミナるつぼに収容した。また、秤量の際、必要に応じて還元剤を添加した。そして、そのアルミナるつぼを、マッフル炉内に静置し、窒素を流した状態で、800~1000℃で60分間以上、加熱して溶融させた。その後、その融液をアルミナボートに流し込んで回収し、冷却後のガラスバーから縦横4mm,長さ11mmのガラス棒を切り出すと共に、その残部から粒径38μm以下に粉砕したガラスフリットを製造した。
【0030】
上記方法で製造した各ガラスフリット及びガラス棒を用い、熱膨張係数〔CTE〕、ガラス転移点〔Tg〕、軟化点〔Tf〕、焼成温度、色調を調べた。その結果を、後記、表1,2に示す。各項目の測定方法は次の通りである。
【0031】
〔熱膨張係数〕
熱機械分析装置(リガク社製TMA8310)により、熱膨張係数を測定した。この測定は、上記ガラス棒を測定試料として用い、常温~300℃まで15℃/分で昇温させ、平均熱膨張係数αを求めた。また、標準サンプルには石英ガラスを用いた。
【0032】
〔ガラス転移点、軟化点〕
示差熱分析装置(リガク社製TG-8120)により、リファレンス(標準サンプル)としてα-アルミナを用い、加熱速度15℃/分、温度範囲25℃(室温)~300℃の測定条件でガラスフリットのガラス転移点〔Tg〕及び軟化点〔Tf〕を測定した。
【0033】
〔色調、焼成温度〕
色調は、溶融後アルミナボートに取り出したガラスバーを目視にて確認し、焼成温度は上記ガラスフリットの0.55gのガラス粉末を、径10mmの大きさに成形、20分間焼成し、ガラス光沢が生じた温度を焼成(作業)温度〔Tw〕とした。
【0034】
【0035】
表1の結果から、製造例1~10で得られるガラスフリットは、SnO、SnF2、P2O5、ZnO、Al2O3、B2O3、In2O3、BaO、SiO2の各成分の比率が、本発明の規定範囲にあるため、ガラス転移点〔Tg〕からガラス軟化点〔Tf〕までの温度差が50℃以下となっている。そして、ガラス転移点〔Tg〕と作業温度〔Tw〕の温度差が、100℃を下回っており、十分な低融性を得られている。
【0036】
【0037】
表2の結果、製造例11で得られるガラスフリットのように、SnOの比率を本発明の規定より高くしたガラス組成では、アルミナるつぼの中で、セラミック状に固まってしまっており、融液をアルミナボートに流し込んで回収することができなかった。それゆえ、ガラス特性の測定は不能であった。
【0038】
また、製造例12で得られるガラスフリットのように、SiO2の比率を本発明の規定より高くしたガラス組成では、アルミナるつぼの中で、融液の一部が固化しており、それが融液にも混入し、十分な量を回収できなかった。それゆえ、ガラス特性の測定は不能であった。
【0039】
さらに、製造例13で得られるガラスフリットのように、Al2O3の比率を本発明の規定より高くしたガラス組成では、アルミナるつぼの中で、セラミック状に固まってしまっており、融液をアルミナボートに流し込んで回収することができなかった。それゆえ、ガラス特性の測定は不能であった。
【0040】
そしてさらに、製造例14で得られるガラスフリットのように、P2O5の比率を本発明の規定より低くしたガラス組成では、アルミナるつぼの中で、セラミックとして固まってしまっており、融液をアルミナボートに流し込んで回収することができず、製造例15で得られるガラスフリットのように、P2O5の比率を本発明の規定より高くしたガラス組成では、融液の粘度が高くなりすぎたため、十分な量をアルミナボートに回収することができなかった。それゆえ、ガラス特性の測定は不能であった。
【0041】
一方、製造例16で得られるガラスフリットのように、SnF2の比率を本発明の規定より高くしたガラス組成では、アルミナるつぼの中で、セラミック状に固まってしまっており、融液をアルミナボートに流し込んで回収することができなかった。それゆえ、ガラス特性の測定は不能であった。
【0042】
また一方、製造例17で得られるガラスフリットのように、SnOの比率を本発明の規定より低くし、SnF2の比率を本発明の規定より高くしたガラス組成では、融液の粘度が高くなり、十分な量をアルミナボートに流し込んで回収することができなかった。それゆえ、ガラス特性の測定は不能であった。
【0043】
他方、製造例18で得られるガラスフリットのように、ZnOの比率を本発明の規定より高くしたガラス組成では、ガラス転移点〔Tg〕からガラス軟化点〔Tf〕までの温度差が50℃以下となっておらず、さらに、ガラス中に結晶物を含んで白濁していたため、品質不良と判定して、他の測定は省略した。
【0044】
また、製造例19で得られるガラスフリットのように、B2O3の比率を本発明の規定より高くしたガラス組成では、ガラス転移点〔Tg〕からガラス軟化点〔Tf〕までの温度差が50℃以下となっているものの、ガラス中に原料の一部が残留し、白濁していると共に、溶け残りが発生していたため、品質不良と判定して、他の測定は省略した。
【0045】
一方、製造例20で得られるガラスフリットのように、In2O3の比率を本発明の規定より高くしたガラス組成では、アルミナるつぼの中で、セラミック状に固まってしまっており、融液をアルミナボートに流し込んで回収することができなかった。それゆえ、ガラス特性の測定は不能であった
【0046】
また、製造例21で得られるガラスフリットのように、BaOの比率を本発明の規定より高くしたガラス組成では、アルミナるつぼの中で、セラミック状に固まってしまっており、融液をアルミナボートに流し込んで回収することができなかった。それゆえ、ガラス特性の測定は不能であった
【0047】
しかして、製造例1~21により、ガラスフリットのガラス組成が、SnO、SnF2、P2O5、ZnO、Al2O3、B2O3、In2O3、BaO、SiO2の各成分の比率が、本発明の規定範囲にあることによって、ガラス転移点〔Tg〕からガラス軟化点〔Tf〕までの温度差が50℃以下となることが分かった。そしてさらに、Pb等の環境負荷物質を利用することなく、従来のガラス転移点の温度を維持した状態でガラス軟化点の温度を低下させることができることが分かった。