(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】エアフィルター用濾材及びエアフィルター用濾材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/14 20060101AFI20230110BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20230110BHJP
A61L 9/16 20060101ALI20230110BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20230110BHJP
A01N 47/12 20060101ALI20230110BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230110BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230110BHJP
A01N 63/50 20200101ALI20230110BHJP
【FI】
B01D39/14 G
A61L9/01 K
A61L9/01 M
A61L9/01 P
A61L9/16 F
A01N25/34 B
A01N47/12 Z
A01P1/00
A01P3/00
A01N63/50 100
(21)【出願番号】P 2020558085
(86)(22)【出願日】2019-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2019030473
(87)【国際公開番号】W WO2020105227
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2018219208
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018219210
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226219
【氏名又は名称】日揮ユニバーサル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】成行 あかね
(72)【発明者】
【氏名】石田 光弘
(72)【発明者】
【氏名】梨子田 敏也
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 香織
(72)【発明者】
【氏名】伊奈 加奈子
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-007346(JP,A)
【文献】国際公開第2011/062259(WO,A1)
【文献】特開2001-029730(JP,A)
【文献】特開2000-117025(JP,A)
【文献】特開平03-220376(JP,A)
【文献】特開2005-211810(JP,A)
【文献】国際公開第2012/050156(WO,A1)
【文献】国際公開第98/004334(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0201911(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-20、46/00-54
A61L 9/00-22
A01N 25/34、47/12、63/50
A01P 1/00、3/00
A41D 13/11
A62B 18/02
F24F 8/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
該基材に担持された、酵素を含む抗菌性素材、無機系の抗アレルゲン性素材、及びカビ抑制剤と、
を備え
、
前記抗菌性素材が、リゾチーム、キチナーゼ、プロテアーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルカナ-ゼ、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ及びエンドリシンからなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記抗アレルゲン性素材が、リン酸ジルコニウム、リン酸チタニウム及びケイ酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記カビ抑制剤が、有機ヨウ素化合物、有機窒素化合物、有機硫黄化合物、有機酸エステル類、ベンザゾール化合物及びピロン系化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、エアフィルター用濾材。
【請求項2】
前記酵素がリゾチームを含む、請求項
1に記載のエアフィルター用濾材。
【請求項3】
前記抗アレルゲン性素材の担持量が3g/m
2未満である、請求項1
又は2に記載のエアフィルター用濾材。
【請求項4】
前記抗アレルゲン性素材の担持量が0.05g/m
2以上である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のエアフィルター用濾材。
【請求項5】
前記カビ抑制剤の担持量に対する前記抗アレルゲン性素材の担持量の比(抗アレルゲン性素材の担持量/カビ抑制剤の担持量)が100未満である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のエアフィルター用濾材。
【請求項6】
前記カビ抑制剤が、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル、ポリアミノプロピルビグアナイド、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、及びデヒドロ酢酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載のエアフィルター用濾材。
【請求項7】
さらに基材に担持された着色剤を備える、請求項1~
6のいずれか一項に記載のエアフィルター用濾材。
【請求項8】
基材に着色剤を担持させる第一の担持工程と、
着色剤を担持した前記基材に、酵素を含む抗菌性素材、無機系の抗アレルゲン性素材、及びカビ抑制剤を担持させる第二の担持工程と、
を備え
、
前記抗菌性素材が、リゾチーム、キチナーゼ、プロテアーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルカナ-ゼ、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ及びエンドリシンからなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記抗アレルゲン性素材が、リン酸ジルコニウム、リン酸チタニウム及びケイ酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記カビ抑制剤が、有機ヨウ素化合物、有機窒素化合物、有機硫黄化合物、有機酸エステル類、ベンザゾール化合物及びピロン系化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、エアフィルター用濾材の製造方法。
【請求項9】
前記着色剤が有機顔料を含む、請求項
8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記酵素がリゾチームを含む、請求項
8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記抗アレルゲン性素材の担持量が3g/m
2未満である、請求項
8~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記抗アレルゲン性素材の担持量が0.05g/m
2以上である、請求項
8~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記カビ抑制剤の担持量に対する前記抗アレルゲン性素材の担持量の比(抗アレルゲン性素材の担持量/カビ抑制剤の担持量)が100未満である、請求項
8~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記カビ抑制剤が、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル、ポリアミノプロピルビグアナイド、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、及びデヒドロ酢酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項
8~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエアフィルター用濾材及びエアフィルター用濾材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中には、ダニ、花粉、細菌等の有害物質が浮遊している。これらの浮遊有害物質を捕集し、不活性化するべく、空気清浄機や換気装置にはエアフィルター用濾材が取り付けられる(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-7345号公報
【文献】特開2011-206683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来技術に従い製造したエアフィルター用濾材を用いると、場合により抗菌性が低下する虞があることが分かった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた抗菌性を発現することができる、エアフィルター用濾材を提供することを目的とする。本発明はまた、エアフィルター用濾材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材と、該基材に担持された、酵素を含む抗菌性素材、無機系の抗アレルゲン性素材、及びカビ抑制剤と、を備えるエアフィルター用濾材を提供する。本発明は、さらに基材に担持された着色剤を備えていてもよい。
【0007】
また、本発明は、基材に着色剤を担持させる第一の担持工程と、着色剤を担持した基材に、酵素を含む抗菌性素材、無機系の抗アレルゲン性素材、及びカビ抑制剤を担持させる第二の担持工程と、を備える、エアフィルター用濾材の製造方法を提供する。
【0008】
本発明において、無機系の抗アレルゲン性素材は、無機固体酸及び金属無機塩からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0009】
本発明において、着色剤は有機顔料を含むことが好ましい。
【0010】
本発明において、酵素はリゾチームを含むことが好ましい。
【0011】
本発明において、抗アレルゲン性素材の担持量は3g/m2未満であることが好ましい。
【0012】
本発明において、抗アレルゲン性素材の担持量は0.05g/m2以上であることが好ましい。
【0013】
本発明において、カビ抑制剤の担持量に対する抗アレルゲン性素材の担持量の比(抗アレルゲン性素材の担持量/カビ抑制剤の担持量)は100未満であることが好ましい。
【0014】
本発明において、カビ抑制剤は、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル、ポリアミノプロピルビグアナイド、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、及びデヒドロ酢酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、(高温・高湿環境であっても)優れた抗菌性を発現することができる、エアフィルター用濾材を提供することができる。また、本発明によれば、エアフィルター用濾材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】抗アレルゲン性素材の担持量と抗アレルゲン性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[エアフィルター用濾材]
本実施形態のエアフィルター用濾材は、基材と、該基材に担持された、酵素を含む抗菌性素材、無機系の抗アレルゲン性素材、及びカビ抑制剤と、を備える。
【0018】
本実施形態において、酵素を含む抗菌性素材と共に用いるべきは、無機系の抗アレルゲン性素材である。本発明者らの知見によると、酵素を含む抗菌性素材と有機系の抗アレルゲン性素材とを併用すると、場合により抗菌性が大きく低下してしまうことが分かった。この理由は定かではないが、恐らく酵素と有機系の抗アレルゲン性素材とが反応あるいは相互作用してしまい、有機系の抗アレルゲン性素材により酵素が分解されてしまう(失活してしまう)ためであると推察される。
【0019】
(基材)
基材の材質は有機繊維であっても無機繊維であってもよい。有機繊維としては、セルロース、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド等の繊維が挙げられ、無機繊維としては、ガラス、ケイ酸マグネシウム、シリカ、アルミナ、アルミノシリケート、ジルコニア等の繊維が挙げられる。基材の形態としては、不織布状、濾紙状、ハニカム状、粒状、網状などを採用することができ、特に制限はない。
【0020】
基材には難燃剤が含まれていてもよい。難燃剤としては、ペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカン等臭素化合物、塩素化合物、リン酸アンモニウム、リン酸グアニジン、リン酸メラミン等のリン酸系化合物などの有機系難燃剤、アンチモン化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物などの無機系難燃剤が挙げられる。
【0021】
(抗菌性素材)
抗菌性素材としては、銀、銅、亜鉛等の金属イオンを溶出する無機化合物、銀、銅、亜鉛等の金属微粒子、ヨウ素化合物、フェノール類、第4アンモニウム塩、イミダゾール類、安息香酸類、過酸化水素、クレゾール、クロルヘキシジン、イルガサン、アルデヒド類、ソルビン酸等の薬剤、酵素、カテキン類、竹抽出物、ヒノキ抽出物、わさび抽出物、からし抽出物等の天然成分抽出物などが挙げられる。これらの中でも、溶菌作用を有することから酵素を必須として用いることができる。
【0022】
酵素としては、リゾチーム、キチナーゼ、プロテアーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルカナ-ゼ、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ、エンドリシン等が、好ましい溶菌作用を有する酵素として挙げられる。これらの酵素は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの酵素を、殺菌作用を有する蛋白質(酵素を除く)やペプチド、あるいは多糖類などの他の素材と組み合わせて用いてもよい。これらの他の素材は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
蛋白質やペプチドとしては、プロタミン、ラクトフェリン、ポリリジン等を挙げることができる。
【0024】
酵素、特にリゾチ-ムは、多糖類と効率的にグリコシル化して化学的共有結合し、顕著な抗菌作用を発現する。多糖類としては、グルカン、デキストラン、マンナン、ガラクトマンナン、ラミナラン、カラギ-ナン、アガロ-ス等が挙げられる。
【0025】
酵素と、蛋白質やペプチドとの組み合わせの例としては、リゾチームとプロタミン、リゾチームとアポラクトフェリン等が挙げられる。酵素と多糖類との組み合わせの例としては、リゾチームとグルカン、リゾチームとガラクトマンナン等が挙げられる。
【0026】
(抗アレルゲン性素材)
無機系の抗アレルゲン性素材としては、無機固体酸、金属無機塩等が挙げられ、より具体的には、リン酸ジルコニウム、リン酸チタニウム、ケイ酸マグネシウム等の無機固体酸;亜鉛塩、ジルコニウム塩、アルミニウム塩、アルカリ土類金属塩、希土類塩等の金属無機塩などが挙げられる。これらの中でも、結晶系が層状構造を持つリン酸ジルコニウム(層状リン酸ジルコニウム)が好ましい。
【0027】
なお、抗菌性素材と無機系の抗アレルゲン性素材とを併用することで、特に高温・高湿環境における抗菌性の低下を抑制することができる。この理由は定かではないが、抗菌性素材と無機系抗アレルゲン性素材とが相互作用することにより、安定性が向上し、耐久性が向上したためであると推察する。
【0028】
(カビ抑制剤)
カビ抑制剤としては、有機ヨウ素化合物、有機窒素化合物、有機窒素ハロゲン化合物、有機硫黄化合物、有機酸エステル類、有機ヨウ素系イミダゾール化合物、ベンザゾール化合物、ピロン系化合物等が挙げられる。カビ抑制剤としては、より具体的には、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル、ポリアミノプロピルビグアナイド、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、デヒドロ酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0029】
なお、抗菌性素材とカビ抑制剤とを併用することで、特に高温・高湿環境における抗菌性の低下を抑制することができる。この理由は定かではないが、抗菌性素材とカビ抑制剤とが相互作用することにより、安定性が向上し、耐久性が向上したためであると推察する。
【0030】
(その他の素材)
基材は、上記以外の素材を担持していてもよい。そのような素材としては着色剤等が挙げられる。
【0031】
着色剤として用いられる素材としては、公知の顔料や染料が挙げられる。顔料としては、アゾ系、ポリアゾ系、アントラキノン系、キナクリドン系、イソインドリン系、イソインドリノン系、フタロシアニン系、ペリレン系、DPP系、蛍光顔料等の有機顔料、カーボンブラック、合成シリカ、酸化クロム、酸化鉄、酸化チタン、焼成顔料、硫化亜鉛等の無機顔料が挙げられる。染料としては、アルコール可溶性染料、油溶性染料、蛍光染料、集光性染料等が挙げられる。これらの着色剤のうち、リゾチームの失活作用が特に強いものとしては、有機顔料、油溶性染料、蛍光染料等が挙げられる。これらのうち、好適な着色剤としては有機顔料が挙げられ、具体的には、金属フタロシアニン系色素、金属ナフタロシアニン系色素、金属ポルフィリン系色素、金属アザポルフィリン系色素、ビピリジル金属錯体、ターピリジル金属錯体、フェナントロリン金属錯体、ビシンコニン酸金属錯体、アゾ金属錯体、キノリノール金属錯体等の有機金属錯体が挙げられる。
【0032】
(各素材の担持量)
抗菌性素材の担持量は、0.01~1g/m2であることが好ましい。これにより、抗菌性を良好に保つことができる。この観点から、担持量は0.025~0.6g/m2であることがより好ましく、0.05~0.4g/m2であることがさらに好ましい。
【0033】
抗アレルゲン性素材の担持量は3g/m2未満であることが好ましい。抗アレルゲン性素材とカビ抑制剤とを併用する場合、相互作用により抗アレルゲン性及び防カビ性が低下する虞がある。しかしながら上記担持量の範囲であれば、抗アレルゲン性及び防カビ性をより良好に保つことができる。この観点から、担持量は2g/m2以下であることがより好ましく、1.5g/m2以下であることがさらに好ましく、1g/m2以下であることが極めて好ましい。
【0034】
また、抗アレルゲン性素材の担持量は0.05g/m2以上であることが好ましい。これにより、抗アレルゲン性をより良好に保つことができる。この観点から、担持量は0.075g/m2以上であることがより好ましく、0.1g/m2以上であることがさらに好ましい。
【0035】
カビ抑制剤の担持量は0.001~1g/m2であることが好ましい。これにより、防カビ性を良好に保つことができる。この観点から、担持量は0.005~0.5g/m2であることがより好ましく、0.01~0.1g/m2であることがさらに好ましい。
【0036】
カビ抑制剤の担持量に対する抗アレルゲン性素材の担持量の比(抗アレルゲン性素材の担持量/カビ抑制剤の担持量)は100未満であることが好ましい。これにより、抗アレルゲン性及び防カビ性を良好に保つことができる。また、カビ抑制剤と抗アレルゲン性素材とを併用する場合において、担持量の比が100未満であることにより、抗アレルゲン性素材のみを用いる場合に比して抗アレルゲン性をより向上させることができる。この理由は定かではないが、カビ抑制剤が抗アレルゲン性素材を活性化しているためではないかと推察する。上記の観点から、担持量の比は75以下であることがより好ましく、50以下であることがさらに好ましい。なお、担持量の比の下限は0超とすることができる。カビ抑制剤の担持量及び抗アレルゲン性素材の担持量は、担持量の比に応じて適宜調整すればよい。
【0037】
上記のとおり、発明者らは、上記エアフィルター用濾材において、カビ抑制剤と抗アレルゲン性素材とを併用することで、抗アレルゲン性素材のみを用いる場合に比して抗アレルゲン性をより向上させることができる場合があることを見出した。このことは、抗アレルゲン性素材の担持量が少ない場合において特に顕著である。すなわち、基材と、該基材に担持された、少なくとも無機系の抗アレルゲン性素材、及びカビ抑制剤と、を備えるエアフィルター用濾材の抗アレルゲン性向上方法であって、抗アレルゲン性素材の担持量を3g/m2未満とし、上記担持量の比を100未満とする、抗アレルゲン性向上方法が見出されたということができる。
【0038】
着色剤の担持量は、0.01~10g/m2であることが好ましい。これにより、基材を好適に着色することができる。この観点から、担持量は0.03~5g/m2であることがより好ましく、0.05~1g/m2であることがさらに好ましい。
【0039】
[エアフィルター用濾材の製造方法]
着色剤を用いない場合、エアフィルター用濾材の製造方法は、例えば、酵素を含む抗菌性素材、無機系の抗アレルゲン性素材、カビ抑制剤、必要に応じその他の素材、及び液状成分を含む処理液を調製する処理液調製工程と、調製した処理液を基材に接触させる接触工程と、処理液が付着した基材を乾燥する乾燥工程と、を備えることができる。
【0040】
処理液調製工程では、酵素を含む抗菌性素材、無機系の抗アレルゲン性素材、及びカビ抑制剤を液状成分と混合する。液状成分は水系の成分でも、アルコール、アセトン、ヘキサン等の非水系の成分でも、あるいはこれらの混合系の成分でもよい。ただし、各素材の分散性の観点からは水系の成分であることが好ましい。液状成分への抗菌性素材等の添加量は、基材への担持量が所望の量となるように適宜調整すればよい。
【0041】
接触工程では、得られた処理液を、ディップ法、スプレー法、グラビア印刷法等を用いて基材と接触させる。いずれの方法を用いるかは、対象とする基材の材質、厚み、表面の濡れ性等に応じて適宜選択することができる。
【0042】
乾燥工程では、処理液が付着した基材を、100~140℃にて乾燥させ、処理液から液状成分を除去する。乾燥には多筒式ドライヤー等を用いることができる。
【0043】
着色剤を用いる場合、エアフィルター用濾材の製造方法は、基材に着色剤を担持させる第一の担持工程と、着色剤を担持した基材に、酵素を含む抗菌性素材、無機系の抗アレルゲン性素材、及びカビ抑制剤を担持させる第二の担持工程と、を備える。
【0044】
着色剤を用いる場合、着色剤と酵素を含む抗菌性素材とは、別々の担持工程にて基材に担持させる。本発明者らの知見によると、着色剤と酵素を含む抗菌性素材とを単一の担持工程により担持させた場合、高温・高湿環境において抗菌性が大きく低下してしまうことが分かった。この理由は定かではないが、処理液調製時、あるいは処理液乾燥時に着色剤と酵素とが反応してしまい、着色剤により酵素が分解されてしまう(失活してしまう)ためであると推察される。
【0045】
第一の担持工程は、より具体的には、着色剤、バインダー樹脂及び液状成分を含む第一の処理液を調製する第一の処理液調製工程と、調製した第一の処理液を基材に接触させる第一の接触工程と、第一の処理液が付着した基材を乾燥する第一の乾燥工程と、を備えることができる。バインダー樹脂としては特に制限されず、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、SBR樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。
【0046】
第二の担持工程は、より具体的には、酵素を含む抗菌性素材、無機系の抗アレルゲン性素材、カビ抑制剤、必要に応じその他の素材、及び液状成分を含む第二の処理液を調製する第二の処理液調製工程と、調製した第二の処理液を、第一の担持工程を経て着色剤を担持した基材に接触させる第二の接触工程と、第二の処理液が付着した基材を乾燥する第二の乾燥工程と、を備えることができる。
【0047】
処理液調製工程では、担持対象と液状成分と混合する。液状成分は水系の成分でも、アルコール、アセトン、ヘキサン等の非水系の成分でも、あるいはこれらの混合系の成分でもよい。ただし、各素材の分散性の観点からは水系の成分であることが好ましい。液状成分への抗菌性素材等の添加量は、基材への担持量が所望の量となるように適宜調整すればよい。
【0048】
接触工程及び乾燥工程は、着色剤を用いない場合と同様に実施すればよい。
【実施例】
【0049】
<実験1:抗菌性試験>
(実施例1)
着色剤(顔料)としてFASTOGEN GreenG-58(DIC株式会社製)と、アクリルバインダーと、水と、を混合し、混合液を調製した。当該混合液を、目付200g/m2、厚み1mmからなるポリエステル不織布に含浸させ、その後吸引脱水して、120℃の多筒式ドライヤーで乾燥した。これにより、着色ポリエステル不織布を得た。
【0050】
次に、抗菌性素材としてリゾチームを1質量%含む酵素抗菌剤液と、カビ抑制剤としてブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニルを0.02質量%含むカビ抑制剤液と、無機系の抗アレルゲン性素材としてリン酸ジルコニウム粉末と、水と、を混合し、混合液を調製した。当該混合液を、上記で得られた着色ポリエステル不織布に含浸させ、その後吸引脱水して、120℃の多筒式ドライヤーで乾燥した。これにより濾材を得た。
【0051】
乾燥後の濾材における各成分の担持量を表1に示す。各成分の担持量は、バインダー5g/m2、顔料0.1g/m2、リゾチーム0.1g/m2、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル0.01g/m2、リン酸ジルコニウム2g/m2であった。
【0052】
(比較例1)
カビ抑制剤を用いなかったこと以外は、実質的に実施例1と同様にして濾材を得た。
【0053】
(比較例2)
無機系の抗アレルゲン性素材を用いなかったこと以外は、実質的に実施例1と同様にして濾材を得た。
【0054】
(比較例3)
着色ポリエステル不織布に代えて未着色のポリエステル不織布を用いたこと、カビ抑制剤を用いなかったこと、及び無機系の抗アレルゲン性素材であるリン酸ジルコニウム粉末に代えて有機系の抗アレルゲン性素材であるポリパラビニルフェノール(製品名:マルカリンカーM、丸善石油化学株式会社製)を用いたこと以外は、実質的に実施例1と同様にして濾材を得た。
【0055】
(比較例4)
無機系の抗アレルゲン性素材であるリン酸ジルコニウム粉末に代えて有機系の抗アレルゲン性素材であるポリパラビニルフェノールを用いたこと以外は、実質的に実施例1と同様にして濾材を得た。
【0056】
(比較例5)
FASTOGEN GreenG-58(DIC株式会社製)、アクリルバインダー、リゾチームを1質量%含む酵素抗菌剤液、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニルを0.02質量%含むカビ抑制剤液、リン酸ジルコニウム粉末、及び水を混合し、混合液を調製した。当該混合液を、目付200g/m2、厚み1mmからなるポリエステル不織布に含浸させ、その後吸引脱水して、120℃の多筒式ドライヤーで乾燥した。これにより濾材を得た。
【0057】
(参考例1)
着色ポリエステル不織布に代えて未着色のポリエステル不織布を用いたこと以外は、実質的に実施例1と同様にして濾材を得た。
【0058】
各例で得られたエアフィルター用濾材に対し、以下の試験を行った。
(抗菌性試験)
抗菌性試験として細菌気相液滴下試験方法を採用した。具体的には、ハートインフュージョン液体培地で培養し、遠心分離・洗浄して調製したM.luteus菌体水溶液(濃度:105~107 CFU/filter)を準備した。これを、評価に供する必要枚数すべての濾材上に0.3mL滴下した後、バイオセフティキャビネット内で所定時間自然放置した(未処理濾材)。その後、振動ミキサーを用いて、濾材上の菌をリン酸緩衝溶液中に抽出した。抽出した原液及び希釈液をトリンプトソーヤ寒天固体培地に移植し、30℃×48時間培養後、コロニー数を計測し生存菌数を算出した。また、抗菌性の指標として菌の除去率を算出した。結果(未処理)を表1に示す。
【0059】
上記の未処理濾材を所定の環境下で処理した後に、上記と同様にして菌の除菌率を算出した。結果を表1に示す。なお、比較例3及び4については、未処理の時点で抗菌性が充分でなかったため、環境を変えての実験は行わなかった。
【0060】
【0061】
<実験2:抗アレルゲン性試験>
無機系抗アレルゲン性素材の担持量を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてエアフィルター用濾材を作製した。
【0062】
また、無機系抗アレルゲン性素材の担持量を表3に示すように変更したこと以外は、比較例1と同様にしてエアフィルター用濾材を作製した。
【0063】
得られたエアフィルター用濾材に対し、以下の試験を行った。それぞれ結果を表2及び3に示す。
【0064】
(抗アレルゲン性試験)
得られた濾材からランダムに面積25cm2をカッティングし、これを試験片とした。この試験片を、アレルゲンとしてCryj1(スギ花粉アレルゲン)の13ng/mlの溶液に浸した後、取り出した。取り出してから4時間経過後に、濾材に付着するアレルゲン(Cryj1)の低減率の程度を、酵素免疫測定法(ELISA法)により測定した。試験法の概要を以下に説明する。
(1)アレルゲン測定法(ELISA法)
96穴マイクロプレートの各ウェルに一次抗体を固相し、アレルゲンを捕捉させた。次に予め標識化した2次抗体を反応させ、酵素、基質を順に反応させた。発色した各ウェルの吸光度を測定し、標準曲線から検体の抗原量を求めた。
(2)低減率算出方法
試料を反応させたアレルゲン溶液のアレルゲン濃度を測定し、試料を反応させないアレルゲン溶液の濃度と比較した低減率を下記の式にて求めた。
低減率(%)=(B-A)/B×100
A:試料反応後のアレルゲン溶液中のアレルゲン濃度
B:初期溶液のアレルゲン溶液中のアレルゲン濃度
【0065】
(抗菌性試験)
実験1と同様に実施した。
【0066】
(防カビ性試験)
防カビ性試験として、JIS2911(2010)付属書Aプラスチック製品の試験方法Aを採用した。肉眼及び顕微鏡下でカビの発生が認められない場合を合格、確認できた場合を不合格と判定した。
【表2】
【0067】
【0068】
図1は、抗アレルゲン性素材の担持量と抗アレルゲン性との関係を示すグラフである。すなわち、表2及び表3の結果をグラフ化したものである。
図1によると、カビ抑制剤の有無により、抗アレルゲン性の挙動に違いが出ていることが理解される。特に、抗アレルゲン性素材の担持量が少ない領域において、カビ抑制剤と抗アレルゲン性素材とを併用することで、抗アレルゲン性素材のみを用いる場合に比して抗アレルゲン性をより向上させることができたことが見て取れる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
この発明は、病院、工場(製薬や食品)、キャビン、家庭等において、空気中に浮遊する細菌、カビ、アレルゲン等を捕集し不活化するためのエアフィルター用濾材として有効に活用することができる。