(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】混合物の分離方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B01D 1/28 20060101AFI20230110BHJP
B01D 5/00 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B01D1/28
B01D5/00 E
(21)【出願番号】P 2018035134
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2021-02-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000176763
【氏名又は名称】三菱ケミカルエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】山崎 幸一
(72)【発明者】
【氏名】唐 渊
(72)【発明者】
【氏名】那須 正康
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203071(JP,A)
【文献】特開2012-045449(JP,A)
【文献】国際公開第2013/114936(WO,A1)
【文献】特開2015-221411(JP,A)
【文献】特開2015-205248(JP,A)
【文献】特開昭58-159803(JP,A)
【文献】実開昭63-133397(JP,U)
【文献】国際公開第2015/174840(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合物よりなる原料フィード液を蒸発缶(5)にて分離する分離工程と、
蒸発缶(5)からの蒸気を配管(8)で
膜分離器を介することなく熱交換器(9)に導入し熱交換器(9)で伝熱媒体と熱交換させて
凝縮させて凝縮液とし、この凝縮液を還流槽(11)
に導入し、還流槽(11)からの凝縮液の一部を、ポンプ(12)及び配管(13)を経て取り出す工程と、
還流槽(11)からの凝縮液の残部を配管(13)から分岐した配管(13a)によって蒸発缶(5)の上部に返送する工程と、
該熱交換器(9)で熱交換した伝熱媒体をコンプレッサ(20)で加圧昇温させる工程と、
該コンプレッサ(20)からの伝熱媒体の蒸気を原料フィード液加熱用熱交換器(3)に通して原料フィード液を加熱する工程と、
該原料フィード液加熱用熱交換器(3)を通過した伝熱媒体を熱交換器(9)に戻す工程と
を有する混合物の分離方法。
【請求項2】
前記蒸発缶(5)の缶底液の一部を缶底液用熱交換器(6)で加熱することを特徴とする請求項1の混合物の分離方法。
【請求項3】
前記缶底液の残部を原料フィード液加熱用熱交換器(2)に通して原料フィード液を加熱することを特徴とする請求項2の混合物の分離方法。
【請求項4】
前記原料フィード液の一部を前記熱交換器(3)からの伝熱媒体が通される熱交換器(2A)によって加熱し、
前記原料フィード液の残部を、前記缶底液の残部が通される熱交換器(2B)によって加熱することを特徴とする請求項2の混合物の分離方法。
【請求項5】
前記混合物は、メタノール・水、エタノール・水、イソプロパノール・水、ブタノール・水、酢酸・水、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)・水、DMF(ジメチルホルムアミド)・水、DMAC(ジメチルアセトアミド)・水、アセトン・水、トルエン・水、THF(テトラヒドロフラン)・水、又は酢酸エチル・水の混合液であり、前記伝熱媒体は水であることを特徴とする請求項1~
4のいずれかの混合物の分離方法。
【請求項6】
混合物よりなる原料フィード液を分離する蒸発缶(5)と、
蒸発缶(5)からの蒸気が配管(8)を介して
且つ膜分離器を介することなく導入され、該蒸気を伝熱媒体と熱交換させ
て凝縮させて凝縮液とする熱交換器(9)と、
熱交換器(9)からの凝縮液が導入される還流槽(11)と、
還流槽(11)からの凝縮液の一部を取り出すためのポンプ(12)及び配管(13)と、
還流槽(11)からの凝縮液の残部を蒸発缶(5)の上部に返送するための、配管(13)から分岐した配管(13a)と、
該熱交換器(9)で熱交換した伝熱媒体を加圧昇温させるコンプレッサ(20)と、
該コンプレッサ(20)からの伝熱媒体の蒸気によって原料フィード液を加熱する原料フィード液加熱用熱交換器(3)と
を有する混合物の分離装置。
【請求項7】
前記蒸発缶(5)の缶底液の一部を加熱する熱交換器(6)を有することを特徴とする請求項
6の混合物の分離装置。
【請求項8】
前記缶底液の残部によって原料フィード液を加熱する原料フィード液加熱用熱交換器(2)を備えたことを特徴とする請求項
7の混合物の分離装置。
【請求項9】
前記熱交換器(3)からの伝熱媒体によって原料フィード液の一部を加熱する熱交換器(2A)と、
前記缶底液の残部によって原料フィード液の残部を加熱する熱交換器(2B)と
を備えることを特徴とする請求項
7の混合物の分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエタノールと水、イソプロパノールと水などの、沸点の異なる複数成分の混合物を分離処理するための方法及び装置に関するものであり、好適には、混合物を蒸発缶で蒸発させた後、蒸発物から熱を回収する工程を有する混合物の分離方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノール等のアルコールと水との混合物を蒸発させた後、膜等によってエタノール等と水とに分離する方法及び装置が特許文献1,2に記載されている。
【0003】
特許文献1では、エタノールおよび水の混合物をエバポレータに供給してエタノールおよび水の該混合物を蒸発させ、エタノールおよび水の気化混合物をコンプレッサにて加圧した後、膜ユニットに供給し、エタノールとエタノール・水混合物とに分離する。
【0004】
特許文献2には、アルコール等と水との混合物を蒸留塔に供給し、留出物を第2圧縮機にて加圧・昇温した後、膜分離器によりアルコール等と、アルコール・水混合物とに分離し、この混合物を蒸留塔に戻すことが記載されている。蒸留塔にはリボイラが設けられている。特許文献2では、蒸留塔留出物の一部を分取して第1圧縮機にて加熱加圧し、このリボイラに加熱源流体として供給し、その後、蒸留塔塔頂に返送する。
【0005】
特許文献3には、ベンゼンとトルエンなどの混合液を熱交換器で加熱した後、蒸留塔で蒸留し、塔頂留出分をコンプレッサで加圧昇温した後、その一部を該混合液加熱用熱交換器に熱源流体として流通させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2011-513056号公報
【文献】特開2012-110832号公報
【文献】特開2012-45449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2のように、エタノール等を含んだ蒸気をコンプレッサ(圧縮機)で加圧すると、コンプレッサにおいてオイル、グリース等の不純物が蒸気に混入し、製品の純度が低下するおそれがある。また、アルコール等の蒸気を加圧するコンプレッサには十分な防火、防爆機構が必要であると共に、コンプレッサに十分な防食性が必要となりコスト高となる。同様の課題は特許文献3でも生じる。特に塔頂留出分を回収目的成分とする場合に不純物混入が問題となる。
【0008】
本発明は、混合物の加熱コストが安価であり、また製品への不純物混入を回避することができる混合物の分離方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の混合物の分離方法は、混合物よりなる原料フィード液を分離器(5)にて分離する分離工程と、分離器(5)からの蒸気を熱交換器(9)で伝熱媒体と熱交換させた後、取り出す工程と、該熱交換器(9)で熱交換した伝熱媒体をコンプレッサ(20)で加圧昇温させる工程と、該コンプレッサ(20)からの伝熱媒体の蒸気を原料フィード液加熱用熱交換器(3)に通して原料フィード液を加熱する工程と、該原料フィード液加熱用熱交換器(3)を通過した伝熱媒体を熱交換器(9)に戻す工程とを有するものである。
【0010】
本発明の混合物の分離装置は、混合物よりなる原料フィード液を蒸発させる分離器(5)と、分離器(5)からの蒸気を伝熱媒体と熱交換させる熱交換器(9)と、該熱交換器(9)で熱交換した伝熱媒体を加圧昇温させるコンプレッサ(20)と、該コンプレッサ(20)からの伝熱媒体の蒸気によって原料フィード液を加熱する原料フィード液加熱用熱交換器(3)とを有するものである。
【0011】
本発明の一態様では、前記分離器は蒸発缶(5)であり、該蒸発缶(5)の缶底液の一部を缶底液用熱交換器(6)で加熱する。
【0012】
本発明の一態様では、前記缶底液の残部を原料フィード液加熱用熱交換器(2)に通して原料フィード液を加熱する。
【0013】
本発明の一態様では、前記原料フィード液の一部を前記熱交換器(3)からの伝熱媒体が通される熱交換器(2A)によって加熱し、前記原料フィード液の残部を、前記缶底液の残部が通される熱交換器(2B)によって加熱することを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様では、前記蒸発缶(5)からの蒸気を熱交換器(9)で降温させた後、その一部を蒸発缶(5)に供給する。
【0015】
本発明の一態様では、前記混合物は、メタノール・水、エタノール・水、イソプロパノール・水、ブタノール・水、酢酸・水、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)・水、DMF(ジメチルホルムアミド)・水、DMAC(ジメチルアセトアミド)・水、アセトン・水、トルエン・水、THF(テトラヒドロフラン)・水、又は酢酸エチル・水の混合液であり、前記伝熱媒体は水であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、原料フィード液を原料フィード液加熱用熱交換器で加熱後、蒸発缶や膜分離器等の分離器で分離処理して目的成分の蒸気と、水蒸気等の他成分とに分離する。そして、この目的成分蒸気の保有熱でヒートポンプの伝熱媒体を加熱して気化させ、生じた伝熱媒体の蒸気をコンプレッサで加圧昇温させて、原料フィード液加熱用の熱交換器に循環供給するようにしている。本発明は、伝熱媒体の蒸気をコンプレッサで加圧昇温させるようにしたものであり、特許文献1,2のようにエタノール・水等の混合蒸気をコンプレッサで加圧昇温するものではない。そのため、目的成分への不純物の混入を回避できる。また、原料フィード液の加熱をヒートポンプ方式としているので、原料フィード液の加熱コストを低くすることができる。
【0017】
また、本発明の一態様では、蒸発缶の缶底液を加熱する熱交換器の加熱源流体をコンプレッサで加圧昇温させるヒートポンプ方式としているため、蒸発缶の加熱コストを低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0020】
図1は本発明の一実施の形態を示す系統図であり、混合物(この実施の形態ではエタノール・水混合物)よりなる原料フィード液がポンプから配管1を介して熱交換器2,3に導入され、加熱された後、配管4を介して蒸発缶(エバポレータ)5に供給され、蒸発する。蒸発缶5の缶底液の一部が配管5a,5bを介して熱交換器6に導入され、加熱後、配管5cを介して蒸発缶5に戻される。また、缶底液の残部は、ポンプ5P、配管16を介して熱交換器2に導入され、混合物を加熱後、配管17を介して熱交換器18で冷却され、系外に取り出される。
【0021】
蒸発缶5からの留出分であるエタノール、水の混合蒸気は、配管8から熱交換器9に導入され、凝縮された後、配管10を介して還流槽11に導入され、還流槽11からポンプ12、配管13及び熱交換器14を経て、液体エタノールとして取り出される。ポンプ12から送り出されたエタノール及び水の一部は、配管13から分岐した配管13aに分流された後、熱交換器15で冷却され、蒸発缶5の上部に返送される。
【0022】
熱交換器9へは、気液分離器25内の伝熱媒体としての水が配管31、ポンプ32、配管33を介して導入される。この水が熱交換器9で加熱されて水蒸気が発生し、この水蒸気が気液分離器25に導入される。気液分離器25からの水蒸気は、配管26を介してコンプレッサ20に送られ、加圧昇温した水蒸気が、配管22を介して前述の混合物加熱用熱交換器3に供給される。熱交換器3で降温した水蒸気(及び生じた凝縮水)は、配管23、減圧弁24を介して気液分離器25に循環される。
【0023】
コンプレッサ20からの高温水蒸気の一部は、配管21から分岐した配管27を介して、前述の缶底液加熱用の熱交換器6に供給される。熱交換器6で降温した水蒸気(及び生じた凝縮水)は、配管28、減圧弁29を介して気液分離器25に循環される。
【0024】
この実施の形態では、上記の通り、原料フィード液(エタノール・水混合物)を熱交換器2,3で加熱後、蒸発缶5で蒸発させ、生じた蒸気の保有熱で熱交換器9にてヒートポンプの加熱媒体である水を加熱して気化させ、生じた水蒸気を気液分離器25及び配管26を介してコンプレッサ20で加圧昇温させ、配管21,22で混合物加熱用の熱交換器3に供給し、熱交換器3の流出水及び水蒸気を配管23、減圧弁24、気液分離器25を介して熱交換器9に循環供給するようにしている。
【0025】
このように、この実施の形態では、蒸発缶5で生じたエタノール蒸気と水蒸気との混合蒸気によって熱交換器9でヒートポンプの伝熱媒体(この実施の形態では水)を加熱した後、コンプレッサ20で加圧昇温し、熱交換器3に導入するようにしており、特許文献1,2のようにエタノール・水の混合蒸気をコンプレッサで加圧昇温しない。そのため、コンプレッサでの不純物混入がなく、得られるエタノールが高純度のものとなる。また、このヒートポンプ方式は加熱コストが低いと共に、コンプレッサ20は水蒸気を加圧するものであるため、防火、防爆機構が不要ないし簡易化される。
【0026】
この実施の形態では、熱交換器6で缶底液を加熱するように、コンプレッサ20で加圧昇温させた伝熱媒体(水蒸気)の一部を配管27で熱交換器6に供給し、熱交換器6からの伝熱媒体を配管28及び減圧弁29を介して気液分離器25に循環させている。
【0027】
このように、蒸発缶5の缶底液を加熱する熱交換器6の加熱源流体である水蒸気をコンプレッサ20で加圧昇温させるヒートポンプ方式としているため、蒸発缶5の加熱コストを低くすることができる。
【0028】
図2,3を参照して別の実施の形態について説明する。
【0029】
図2では、原料フィード液の供給用配管1を途中で配管1A,1Bに並列状に分岐させ、各配管1A,1Bに熱交換器2A,2Bを設置し、各配管1A,1Bの末端を合流させて熱交換器3に接続している。熱交換器2Aには熱交換器3の流出伝熱媒体が配管3aを介して導入される。熱交換器2Aから流出した伝熱媒体は配管23及び減圧弁24を介して気液分離器25へ循環される。熱交換器2Bには、前記配管16から缶底液の一部が導入される。熱交換器2Bから流出した缶底液は、配管17、熱交換器18の順に流れる。
【0030】
図2のその他の構成は
図1と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0031】
図3では、蒸発缶5がフラッシュドラムとなっている。
図3では、
図2において、熱交換器9及び熱交換器(凝縮器)14で冷却されて生じた液体エタノールを凝縮液槽35に導入し、ポンプ36で送り出すようにしている。
図3では缶底液を加熱するための熱交換器6は省略され、熱交換器6用の配管27,28も省略されている。また、フラッシュドラム5上部へのエタノール還流用の配管13a及び熱交換器15も省略されている。
【0032】
図3のその他の構成は
図2と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0033】
上記実施の形態では分離器として蒸発缶又はフラッシュドラムが用いられているが、膜分離器、吸着分離器等であってもよい。
【符号の説明】
【0034】
5 蒸発缶又はフラッシュドラム
20 コンプレッサ
25 気液分離器