(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 5/00 20060101AFI20230110BHJP
B60C 19/12 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B60C5/00 F
B60C19/12 A
(21)【出願番号】P 2018217495
(22)【出願日】2018-11-20
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】湯川 直樹
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/163219(WO,A1)
【文献】特表2018-532637(JP,A)
【文献】特表2017-509528(JP,A)
【文献】特表2018-508401(JP,A)
【文献】特表2013-513524(JP,A)
【文献】特開2008-168648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00- 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有する空気入りタイヤであって、
前記トレッド部のタイヤ内腔側には、タイヤ軸方向の第1端から第2端に亘って延在するシーラント層と、前記シーラント層のタイヤ半径方向内側に接着されたスポンジ材からなる吸音層とが設けられており、
前記シーラント層の少なくとも前記第1端側は、前記吸音層に覆われることなく、タイヤ内腔に露出してタイヤ軸方向に延びる第1露出部が形成され、
前記吸音層は、前記第1露出部の側に、25mm以上の厚さでタイヤ半径方向に延びる第1側面を有し、
前記第1側面には、前記吸音層又は前記トレッド部が変形して、前記第1側面と前記第1露出部とが接触したときに、両者の接着を防止するための接着防止部が設けられている、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
トレッド部を有する空気入りタイヤであって、
前記トレッド部のタイヤ内腔側には、タイヤ軸方向の第1端から第2端に亘って延在するシーラント層と、前記シーラント層のタイヤ半径方向内側に接着されたスポンジ材からなる吸音層とが設けられており、
前記シーラント層の少なくとも前記第1端側は、前記吸音層に覆われることなく、タイヤ内腔に露出してタイヤ軸方向に延びる第1露出部が形成され、
前記シーラント層は、前記吸音層に覆われた被覆部を含み、
前記吸音層は、前記第1露出部の側に、25mm以上の厚さでタイヤ半径方向に延びる第1側面を有し、
前記第1露出部には、前記吸音層又は前記トレッド部が変形して、前記第1側面と前記第1露出部とが接触したときに、両者の接着を防止するための接着防止部が設けられて
おり、
前記被覆部には、前記接着防止部が設けられていない、
空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記接着防止部は、前記第1側面のタイヤ半径方向の内端から前記第1側面の前記厚さの20%以上の範囲に設けられる、請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記接着防止部は、前記第1側面が、前記第1側面のタイヤ半径方向の外端を支点として前記第1端側に回転して前記第1露出部に接触する変形時、前記第1側面のタイヤ半径方向の内端から前記第1側面の前記厚さの20%以上の範囲が前記第1露出部に接触する領域に設けられる、請求項2記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記接着防止部は、離型材料からなる層を含む、請求項1ないし4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記接着防止部は、前記第1側面と前記第1露出部との接触面積を小さくするための凹凸部を含む、請求項1ないし4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記第1露出部には、前記吸音層又は前記トレッド部が変形して、前記第1側面と前記第1露出部とが接触したときに、両者の接着を防止するための接着防止部が設けられている、請求項1又は3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記第1側面の前記厚さは30mm以上であり、
前記第1露出部のタイヤ軸方向の幅は、15mm以下である、請求項1ないし7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
トレッド部を有する空気入りタイヤであって、
前記トレッド部のタイヤ内腔側には、タイヤ軸方向の第1端から第2端に亘って延在するシーラント層と、前記シーラント層のタイヤ半径方向内側に接着されたスポンジ材からなる吸音層とが設けられており、
前記シーラント層の少なくとも前記第1端側は、前記吸音層に覆われることなく、タイヤ内腔に露出してタイヤ軸方向に延びる第1露出部が形成され、
前記吸音層は、前記第1露出部の側に、25mm以上の厚さでタイヤ半径方向に延びる第1側面を有し、
前記第1露出部には、前記吸音層又は前記トレッド部が変形して、前記第1側面と前記第1露出部とが接触したときに、両者の接着を防止するための接着防止部が設けられており、
前記接着防止部は、前記第1側面と前記第1露出部との接触面積を小さくするための凹凸部を含む、
空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部にシーラント層及び吸音層が設けられた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トレッドの内面に、シーラント層と、前記シーラント層のタイヤ半径方向内側に貼り付けられた吸音材とを含む空気入りタイヤが記載されている。前記シーラント層は、トレッドのパンク穴を塞ぐのに役立つ。また、前記吸音材は、ロードノイズを低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような空気入りタイヤでは、トレッドに異物が突き刺さった場合、異物が吸音材を貫通すると、前記吸音材を部分的に破砕することがある。破砕された吸音材の欠片(破断)片は、異物をトレッドから引き抜いた際、シーラント材料とともに異物によって開けられた穴に入り込んで残存し、シーラント層によるパンク穴補修作用を低下させる傾向がある。このような現象が生じると、一般に、約30~40%程度のタイヤ内圧が失われてしまい、十分なエアシール性能が得られないという問題があった。
【0005】
発明者らは、このような課題に対して、吸音材の厚さを十分に大きくすることを試みた。吸音材の厚さを大きくすると、異物が吸音材を貫通しにくく、ひいては、その部分的な破砕が抑制されるからである。しかしながら、厚さの大きい吸音材は、タイヤ走行時のトレッド部及び/又は吸音材の変形により、吸音材の側面が、シーラント層に接触しやすく、かつ、以後そのままシーラント層に接着されてしまうという傾向があった。このような接着が生じると、吸音材の厚さが再び減少するため(吸音材の扁平化)、やはり、十分なエアシール性能が得られないという問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出されたもので、ロードノイズ性能を維持しながら、十分なエアシール性能を発揮しうる空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、トレッド部を有する空気入りタイヤであって、前記トレッド部のタイヤ内腔側には、タイヤ軸方向の第1端から第2端に亘って延在するシーラント層と、前記シーラント層のタイヤ半径方向内側に接着されたスポンジ材からなる吸音層とが設けられており、前記シーラント層の少なくとも前記第1端側は、前記吸音層に覆われることなく、タイヤ内腔に露出してタイヤ軸方向に延びる第1露出部が形成され、前記吸音層は、前記第1露出部の側に、25mm以上の厚さでタイヤ半径方向に延びる第1側面を有し、前記第1側面には、前記吸音層又は前記トレッド部が変形して、前記第1側面と前記第1露出部とが接触したときに、両者の接着を防止するための接着防止部が設けられている。
【0008】
本発明は、トレッド部を有する空気入りタイヤであって、前記トレッド部のタイヤ内腔側には、タイヤ軸方向の第1端から第2端に亘って延在するシーラント層と、前記シーラント層のタイヤ半径方向内側に接着されたスポンジ材からなる吸音層とが設けられており、前記シーラント層の少なくとも前記第1端側は、前記吸音層に覆われることなく、タイヤ内腔に露出してタイヤ軸方向に延びる第1露出部が形成され、前記吸音層は、前記第1露出部の側に、25mm以上の厚さでタイヤ半径方向に延びる第1側面を有し、前記第1露出部には、前記吸音層又は前記トレッド部が変形して、前記第1側面と前記第1露出部とが接触したときに、両者の接着を防止するための接着防止部が設けられている。
【0009】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記接着防止部が、前記第1側面のタイヤ半径方向の内端から前記第1側面の前記厚さの20%以上の範囲に設けられるのが望ましい。
【0010】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記接着防止部が、前記第1側面が、前記第1側面のタイヤ半径方向の外端を支点として前記第1端側に回転して前記第1露出部に接触する変形時、前記第1側面のタイヤ半径方向の内端から前記第1側面の前記厚さの20%以上の範囲が前記第1露出部に接触する領域に設けられるのが望ましい。
【0011】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記接着防止部が、離型材料からなる層を含むのが望ましい。
【0012】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記接着防止部が、前記第1側面と前記第1露出部との接触面積を小さくするための凹凸部を含むのが望ましい。
【0013】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記第1露出部には、前記吸音層又は前記トレッド部が変形して、前記第1側面と前記第1露出部とが接触したときに、両者の接着を防止するための接着防止部が設けられているのが望ましい。
【0014】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記第1側面の前記厚さが30mm以上であり、前記第1露出部のタイヤ軸方向の幅は、15mm以下であるのが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の空気入りタイヤは、吸音層の第1側面又はシーラント層の第1露出部に、前記吸音層又はトレッド部が変形して、前記第1側面と前記第1露出部とが接触したときに、両者の接着を防止するための接着防止部が設けられている。このような空気入りタイヤは、前記トレッド部に、タイヤ走行中の様々な衝撃や力が作用した場合でも、前記吸音層の前記第1側面と前記シーラント層との接着が抑制される。この結果、前記吸音層は、十分な厚さが維持されるので、異物の貫通機会が減少し、ひいては、吸音層の破砕による破断片等の生成が抑制される。したがって、本発明の空気入りタイヤは、前記吸音層の破断片がシールすべき穴に入り込むことが抑制され、ひいては十分なエアシール性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示すタイヤ子午線断面図である。
【
図4】(A)及び(B)は、他の実施形態の凹凸部の拡大図である。
【
図5】(A)ないし(C)は、さらに他の実施形態の凹凸部の拡大図である。
【
図7】さらに他の実施形態の第1端側の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本発明の一実施形態を示す空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」という場合がある。)1の正規状態におけるタイヤ子午線断面図である。本実施形態では、好ましい態様として、乗用車用の空気入りタイヤ1が示される。但し、本発明は、例えば、自動二輪車用や重荷重用の空気入りタイヤ1として採用されても良い。
【0018】
前記「正規状態」とは、タイヤ1が正規リム(図示省略)にリム組みされ、かつ、正規内圧が充填され、しかも無負荷の状態である。以下、特に言及されない場合、タイヤ1の各部の寸法等はこの正規状態で測定された値である。
【0019】
「正規リム」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0020】
「正規内圧」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITSAT VARIOUSCOLD INFLATION PRESSURES"に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0021】
本実施形態のタイヤ1の内部には、カーカス6、ベルト層7及び空気非透過性のゴム材からなるインナーライナー9等のタイヤ構成部材が配されている。これらタイヤ構成部材には、公知の態様が適宜採用される。
【0022】
タイヤ1は、本実施形態では、トレッド部2のタイヤ内腔i側に、シーラント層10とスポンジ材11aからなる吸音層11とが設けられている。シーラント層10は、本実施形態では、インナーライナー9のタイヤ半径方向内側を向く面9aに接着されている。吸音層11は、本実施形態では、シーラント層10のタイヤ半径方向内側に接着されている。
【0023】
シーラント層10は、パンク時に形成された穴を埋めるための粘性を有したシーラント材10Aからなる。このようなシーラント層10は、例えば、走行中の釘踏み等によって、トレッド部2にパンク穴が形成された場合、その穴を閉じるように変形して空気の漏出を抑制する。
【0024】
本実施形態のシーラント層10は、タイヤ軸方向の第1端10e(図では右側)と第2端10i(図では左側)とを有し、第1端10eから第2端10iに亘って延在している。シーラント層10は、本実施形態では、タイヤ周方向に1周分連続して延びている。
【0025】
シーラント層10の第1端10e側は、吸音層11に覆われることなく、タイヤ内腔iに露出してタイヤ軸方向に延びる第1露出部13Aが形成されている。シーラント層10は、本実施形態では、第2端10i側も、吸音層11に覆われることなく、タイヤ内腔iに露出してタイヤ軸方向に延びる第2露出部13Bを有している。さらに、シーラント層10は、吸音層11に覆われた被覆部14を有している。被覆部14は、本実施形態では、第1露出部13Aと第2露出部13Bとの間に配されている。被覆部14は、例えば、第1露出部13Aと第2露出部13Bとの間をタイヤ軸方向に連続して延びている。第1露出部13A、第2露出部13B及び被覆部14は、本実施形態では、シーラント層10のタイヤ軸方向の内側を向く内側面10aに形成されている。
【0026】
シーラント層10のタイヤ軸方向の幅Waは、トレッド幅TWの80%~120%であるのが望ましい。これにより、トレッド部2の広い範囲でパンク穴を効果的に閉じることができる。
【0027】
前記「トレッド幅TW」は、前記正規状態のタイヤ1に、正規荷重を負荷してキャンバー角0°で平面に接地させた状態での最もタイヤ軸方向両外側の接地位置であるトレッド端Te、Te間のタイヤ軸方向の長さである。
【0028】
「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0029】
吸音層11は、本実施形態では、シーラント層10側を向く外向面15、外向面15とは逆側のタイヤ半径方向内側を向く内向面16、外向面15と内向面16とを継ぐ一対の側面17を含む、タイヤ子午線断面視、略矩形状をなしている。本実施形態の外向面15は、シーラント層10と接触している。本実施形態の内向面16は、タイヤ内腔iに露出している。一対の側面17は、例えば、第1端10e側の第1側面17eと、第2端10i側の第2側面17iとを含んでいる。
【0030】
シーラント層10及び吸音層11は、本実施形態では、第1端10e側及び第2端10i側ともに、同様に形成されている。このため、本明細書では、第1端10e側についてされた説明が、第2端10i側についての説明を兼ねてされたものとする。即ち、第1側面17eに形成された要素は、第2側面17iにも形成され得る。同様に、第1露出部13Aに形成された要素は、第2露出部13Bにも形成され得る。また、第2端10i側については、第1端10e側と異なる点のみが説明される。
【0031】
図2は、
図1のシーラント層10の第1端10e側の拡大図である。
図2に示されるように、第1側面17eは、例えば、25mm以上の厚さtaでタイヤ半径方向に延びている。吸音層11は、本実施形態では略矩形状で形成されているので、吸音層11の厚さt1は、タイヤ軸方向に亘って25mm以上で形成されているのが望ましい。
【0032】
第1側面17eには、吸音層11又はトレッド部2が変形して、第1側面17eと第1露出部13Aとが接触したときに、両者の接着を防止するための接着防止部19が設けられている。このようなタイヤ1は、トレッド部2に、タイヤ走行中の様々な衝撃や力が作用した場合でも、吸音層11の第1側面17eとシーラント層10との接着が抑制される。この結果、吸音層11は、さらなる扁平化が抑制されて、十分な厚さt1が維持されるので、パンクによる異物の貫通機会が減少し、ひいては、吸音層11の破砕による破断片(図示省略)等の生成が抑制される。したがって、タイヤ1は、スポンジ材11aの破断片がシールすべきパンク穴に入り込むことが抑制され、ひいては十分なエアシール性能を発揮することができる。また、このように吸音層11の厚さt1が十分に確保されるので、スポンジ材11aが潰れることなく、吸音効果が確保されてロードノイズ性能が高く維持される。
【0033】
上述の作用を効果的に発揮させるために、第1側面17eの厚さtaは、30mm以上が望ましい。なお、厚さtaが40mmを超える場合、異物の貫通機会が減少する効果が飽和する一方、その剛性が小さくなり、破断しやすくなるおそれがある。このため、第1側面17eの厚さtaは、40mm以下が望ましい。
【0034】
接着防止部19は、第1側面17eのタイヤ半径方向の内端21から第1側面17eの厚さtaの20%以上の範囲Aに設けられていれば良い。このような範囲Aは、上述の衝撃や力が作用した場合、シーラント層10と最も接触しやすい範囲である。したがって、この範囲Aに接着防止部19を設けることによって、接着防止部19を過度に大きく設けることなく、エアシール性能を発揮することができる。
【0035】
本実施形態の接着防止部19は、例えば、離型材料(図示省略)からなる層20を含んでいる。離型材料からなる層20は、例えば、離型材料を第1側面17eに塗布することによって形成される塗布層でも良い。離型材料の塗布層としては、特に限定されるものではないが、刷毛、ローラー、噴霧等による皮膜層や、含浸などによる含浸層など種々な層が採用される。また、前記層20は、例えば、シリコーンやポリエチレン等を含む膜状のフィルムにより形成されるフィルム層でも良い。
【0036】
このような離型材料からなる層20の厚さ(図示省略)は、均一にされることが望ましい。前記層20の厚さは、例えば、5~100μm程度が望ましい。前記厚さは、本明細書では、離型材料の乾燥後の厚さである。
【0037】
離型材料としては、例えば、シリコーンやポリエチレンなどが望ましい。離型材料は、とりわけ、信越化学工業株式会社製のKFシリーズのオイル型(KF96)やスプレー型(KF96SP)のものが好適である。
【0038】
シーラント層10は、例えば、略紐形状のシーラント材10Aを連続して螺旋状にタイヤ1のインナーライナー9のタイヤ半径方向の内側に塗布して貼り付けることにより形成される。本明細書において、略紐状形状とは、幅よりも長さの方が長く、ある程度の幅及び厚さを有する形状を意味する。なお、シーラント層10の形成方法は、このような態様に限定されるものではなく、種々の周知の形成方法が採用される。
【0039】
シーラント材10Aとしては、粘着性を有するものであれば特に限定されず、タイヤ1のパンクシールに用いられる通常のゴム組成物を使用することができる。ゴム組成物の主成分を構成するゴム成分として、例えば、ブチル系ゴムが用いられる。ブチル系ゴムとしては、本実施形態では、ブチルゴム(IIR)の他、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)などのハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)等も挙げられる。なかでも、流動性等の観点から、ブチルゴム、若しくはハロゲン化ブチルゴムのどちらか一方、又は両方を使用するのが望ましい。
【0040】
シーラント材10Aの粘度μ1は、特に限定されるものではないが、15~40kPa・sであるのが望ましい。粘度μ1が15kPa・s未満の場合、シーラント材10Aが最も大きな遠心力の作用するタイヤ赤道C付近に流動して、トレッド端Te付近のパンク穴に流れ込まないおそれがある。粘度μ1が40kPa・sを超える場合、シーラント材10Aの流動性が悪化して、同様にパンク穴に流れ込まないおそれがある。同様の観点より、シーラント材10Aの粘度μ2は、特に限定されるものではないが、1~10kPa・sであるのが望ましい。粘度μ1は、本明細書では、JIS K 6833に準拠し、0℃の条件で、回転式粘度計により測定される値である。また、粘度μ2は、本明細書では、JIS K 6833に準拠し、100℃の条件で、回転式粘度計により測定される値である。
【0041】
シーラント層10の厚さt2は、例えば、1~10mm、より好ましくは、1.5~5.0mmである。シーラント層10の厚さt2は、実質的に一定であることが好ましい。これにより、優れたエアシール性能と好適な流動性とがバランス良く発揮される。
【0042】
第1露出部13Aのタイヤ軸方向の幅w1は、15mm以下であるのが望ましい。これにより、吸音層11の第1側面17eのタイヤ半径方向の内端21が第1露出部13Aに接着する機会が減少するので、一層、第1露出部13Aと第1側面17eとの接着が防止される。
【0043】
吸音層11のスポンジ材11aは、内部に細かな孔が無数に空いた多孔質の物質で形成され、例えば、スポンジ、ポリエステル系不織布、ポリスチレン系不織布等が望ましい。スポンジとしては、例えば、ポリウレタンスポンジが望ましく、ポリエーテルポリオールを原料とするエーテル系ポリウレタンスポンジ、ポリエステルポリオールを原料とするエステル系ポリウレタンスポンジが特に望ましい。また、スポンジ材11aは、ポリエステルポリエーテルポリオールを原料とするエーテル・エステル系ポリウレタンスポンジでも良い。さらに、スポンジ材11aは、ポリエチレンスポンジなどの合成樹脂スポンジ、クロロプレンゴムスポンジ(CRスポンジ)、エチレンプロピレンゴムスポンジ(EPDMスポンジ)、ニトリルゴムスポンジ(NBRスポンジ)などでも良い。このようなスポンジ材11aは、ロードノイズ性能を高く維持する。
【0044】
図3は、他の実施形態の第1端10e側の接着防止部19を示す斜視図である。この実施形態と本実施形態とで同じ構成には、同じ符号が付されてその説明が省略される。この実施形態の接着防止部19は、吸音層11の第1側面17eに形成される。接着防止部19は、この実施形態では、第1側面17eと第1露出部(図示省略)との接触面積を小さくするための凹凸部23を含んで形成されている。このような凹凸部23も第1側面17eと第1露出部13Aとの接着を防止し得る。
【0045】
凹凸部23は、本実施形態では、エンボス状で形成されている。凹凸部23は、例えば、タイヤ軸方向の外側へ突出する凸部23aと、タイヤ軸方向の内側へ窪む凹部23bとが繰り返して形成される。凸部23aは、本実施形態では、円錐状で形成されている。凹部23bは、本実施形態では、凸部23aを反転させた逆円錐状で形成されている。この実施形態の凹凸部23は、凸部23aと凹部23bとが連続するうねり状で形成されている。
【0046】
図4(A)及び(B)は、他の実施形態の凹凸部23の拡大図である。
図4(A)に示されるように、凹凸部23は、平面状に延びる平面部24に凸部23aを点在させたもの(この時、平面部24が凹部23bに相当する。)でも良い。また、
図4(B)に示されるように、凹凸部23は、平面部24に逆円錐状の凹部23bを点在させたもの(この時、平面部24が凸部23aに相当する。)でも良い。
【0047】
図5(A)~(C)は、さらに他の実施形態の凹凸部23の拡大図である。
図5(A)~(C)に示されるように、この実施形態の凹凸部23は、リブ状体で形成される。具体的には、
図5(A)に示されるように、凹凸部23は、平面部24にタイヤ半径方向に延びるリブ状の凸部23aを配したもの(この時、平面部24が凹部23bに相当する。)でも良い。また、
図5(B)に示されるように、凹凸部23は、平面部24にタイヤ半径方向に延びる溝状の凹部23bを配したもの(この時、平面部24が凸部23aに相当する。)でも良い。さらに、
図5(C)に示されるように、凹凸部23は、平面部24を有することなくタイヤ半径方向に延びるリブ状の凸部23aと溝状の凹部23bとを滑らかに繰り返したものでも良い。
【0048】
凹凸部23は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、平面部24に凸部23aと凹部23bとが交互に形成されるものでも良い(図示省略)。また、凸部23a及び凹部23bは、円錐状やリブ状のものに限定されるものではなく、例えば、円柱状や四角柱状、四角錐状など、種々の形状が採用される。さらに、第1側面17eには、接着防止部19として、離型材料からなる層20と、凹凸部23とが設けられても良い(図示省略)。
図3に示されるように、凹凸部23の高さhは、1~7mmが望ましい。高さhは、凸部23aと凹部23bとの間の吸音層11の幅方向fの離間距離である。
【0049】
図6は、他の実施形態のタイヤ1の第1端10e側の断面図である。この実施形態と本実施形態とで同じ構成には、同じ符号が付されてその説明が省略される。
図6に示されるように、この実施形態では、接着防止部19が第1露出部13Aに設けられている。これにより、第1露出部13A側においても、第1側面17eとの接着が防止される。
【0050】
この実施形態の接着防止部19は、例えば、離型材料からなる層20を含んでいる。層20は、離型材料が塗布されて形成されている。離型材料の塗布方法としては、特に限定されるものではないが、刷毛、ローラー、噴霧など種々な手段が採用しうる。また、例えば、前記層20は、シリコーンやポリエチレン等を含む膜状のフィルムにより形成することができる。さらに、接着防止部19は、シーラント層10の粘着性を小さくする材料を塗布することで形成しても良い。前記粘着性を小さくする材料としては、タルク等が好適である。前記層20は、その厚さが均一にされることが望ましく、例えば、5~100μm程度の厚さが望ましい。
【0051】
接着防止部19は、接触変形時、第1側面17eのタイヤ半径方向の内端21から第1側面17eの厚さta(
図3に示す)の20%以上の範囲が第1露出部13Aに接触する領域Bに設けられていれば良い。前記接触変形は、第1側面17eが、第1側面17eのタイヤ半径方向の外端22を支点として第1端10e側に回転して第1露出部13Aに接触する変形のことをいう。
【0052】
図7は、さらに他の実施形態のタイヤ1の第1端10e側の断面図である。この実施形態と本実施形態とで同じ構成には、同じ符号が付されてその説明が省略される。
図7に示されるように、この実施形態では、接着防止部19が第1側面17e及び第1露出部13Aに設けられている。これにより、さらに、第1側面17eと第1露出部13Aとの接着が防止されるので、優れたエアシール性能を発揮することができる。第1側面17eに設けられた接着防止部19は、離型材料からなる層20又は凹凸部23の少なくとも1つであるのが望ましい。第1露出部13Aに設けられた接着防止部19は、離型材料からなる層20であるのが望ましい。
【0053】
以上、本発明の実施形態について、詳述したが、本発明は例示の実施形態に限定されるものではなく、種々の態様に変形して実施し得るのは言うまでもない。
【実施例】
【0054】
図1の基本構造を有しかつ表1の仕様に基づいた空気入りタイヤが製造され、各空気入りタイヤについてのエアシール性能がテストされた。各タイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
シーラント層の厚さt2:3mm
シーラント層の製造方法:二軸連続混練機を用いた略紐形状のシーラント材の貼り付け
シーラント材の配合(ブチルゴム100質量部中)
・液状ポリブテン(HV-1900) :100質量部
・液状ポリブテン(HV-300) :100質量部
・カーボンブラック(N330) :50質量部
・オイル(DOS) :20質量部
・架橋剤(BPO) :10質量部
・架橋助剤(p-ベンゾキノンオキシム) :10質量部
シーラント層の粘度μ1 :35(kPa・s)
離型材料:信越化学工業株式会社製のKF96、又は、KF96SP
スポンジ材:エーテル系ポリウレタンスポンジ(比重:0.04)
吸音層のタイヤ軸方向の幅Wbは、
図1に示される。
【0055】
<エアシール性能>
下記条件下で、タイヤを直径1.7mのドラム上で走行させた後、被覆部に突き刺さるように胴径5mmの釘を50本打ち込み、3分後に釘を抜いた。この後、石鹸水を吹き付けてエア漏れがないかどうかが目視により確認された。結果は、エア漏れの箇所数で示される。数値が小さい方が優れている。
タイヤサイズ:215/55R17
リム:17×7.5J
内圧:250kPa
荷重:4.6kN
走行時間:1時間
速度:200km/h
シーラント層の幅Wa:186mm
テストの結果などが表1に示される。
【0056】
【0057】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比べてエアシール性能が優れていることが確認できた。また、吸音層やシーラント層、離型材料又は凹凸部を好ましい態様の範囲で変化させた場合でも、同様の結果が得られた。また、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比して吸音層が扁平化されないので、優れたロードノイズ性能を維持することが理解される。
【符号の説明】
【0058】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
10 シーラント層
10e 第1端
11 吸音層
11a スポンジ材
13A 第1露出部
17e 第1側面
19 接着防止部
i タイヤ内腔