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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】嵩高糸
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/643 20060101AFI20230110BHJP
   D02G 3/34 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
D06M15/643
D02G3/34
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018221086
(22)【出願日】2018-11-27
(65)【公開番号】P2020084377
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柴田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】船津 義嗣
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/051983(WO,A1)
【文献】特開2013-209788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 - 15/715
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ループを形成する鞘糸と、鞘糸との交錯により実質的に鞘糸を固定する芯糸から構成され、鞘糸が部分的に切断することなく連続的なループを形成している嵩高糸であり、洗濯後において、鞘糸および芯糸を構成する繊維の繊維表面の80%以上が皮膜で被覆されており、該皮膜が、Si元素を含むシリコーンからなり、該皮膜においてC、O元素の合計割合に対するSi元素の割合が2~15%、該皮膜の皮膜厚みが30nm以上500nm以下であることを特徴とする嵩高糸。
【請求項2】
繊維表面に形成された皮膜の厚みが、50nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の嵩高糸。
【請求項3】
請求項1または2記載の嵩高糸を少なくとも一部に含む繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽毛に類似する風合いを有した嵩高糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維の新技術は、天然素材の模倣をモチベーションのひとつとして技術革新がなされてきたといっても過言でなく、天然素材の複雑な構造形態に由来した機能を発現させるために、様々な技術的提案がなされている。
【0003】
天然羽毛は、そのバランスに優れた特性から布団や枕などの寝装寝具や防寒具等の衣料品などといった幅広い製品に用いられており、高機能中綿としての確固たる地位を築いている。
【0004】
一方、合成繊維ならではの機能性や安定供給が訴求点となる合繊中綿に関しても、多くの技術提案がある。しかしながら、嵩高性や圧縮回復性といった力学特性と、羽毛独特の柔軟な風合いを両立することの難度は高く、天然羽毛と見間違う程度の模倣を達成した例は数少ない。
【0005】
例えば、羽毛独特の柔軟な風合いは、素材特性や構造に起因しており、合繊中綿においては、各種皮膜を形成させることで繊維間の摩擦係数を低減させ、滑りを促進することによって柔軟な風合いを付与する方法が採用されている。
【0006】
これら合繊中綿を用いることにより、天然羽毛では困難であった家庭洗濯が容易な製品の提供が可能となり、合繊中綿製品の優れた点として訴求されるようになってきた。
【0007】
しかしながら、柔軟な風合いを得るために付与される皮膜は、洗濯を繰り返すことによって徐々に剥がれ、柔軟な風合いが経時的に失われていくことが課題となっていた。
【0008】
特許文献1では、供給速度を変更した2種類の糸条をノズル内で直接高圧エアーを吹き付けることより、2種類の糸条を単糸毎に開繊・撹乱して交絡処理を施し、供給速度の高い側の糸条からなるループを形成させた嵩高糸が開示されている。特許文献1では、風合い付与のために、バルキーシリコーン化合物とソフトシリコーン化合物2種を混合したシリコーン処理剤を付与し、皮膜を形成している。
【0009】
しかしながら、特許文献1では、自立ループの根元が混繊交絡によって固定されており、当該固定点が中綿としたときの異物感や硬い触感の原因となりやすく、柔軟でしなやかな風合いの両立という点で不十分なものである。加えて、シリコーン組成物の皮膜の状態については開示されておらず、繰り返し洗濯を施した場合にも風合いを持続的に発揮させることは困難であった。
【0010】
特許文献2では、芯糸でループ状繊維(鞘糸)を撚り、熱処理等により熱融着させた後に、開撚することでループが固定された詰め綿が開示されており、特許文献2でも風合い付与のために、特許文献1と同様のシリコーン処理剤を付与し、皮膜を形成している。
【0011】
しかしながら、特許文献2においては、芯糸とループ繊維の合計重量に対するシリコーン処理剤の付着重量が特許文献1よりも少なく、繰り返し洗濯を施した場合の風合いの持続性の点では、特許文献1より劣るものであった。
【0012】
特許文献3では、エアー交絡用ユニット内のエアーの散乱雰囲気中でのエアー交絡で、軸糸・浮糸のフィラメント同士を結束させ、絡み合い繋がってダウンボール状の塊を有しつつ一体化され、一列に連なった形態(ダウンボール状塊が所定直径を有し、この塊が軸糸の長さ方向に所定間隔で連続的に配列)の綿状長繊維である羽毛状綿素材が開示されており、特許文献3にも風合い付与のため、シリコーン剤による皮膜形成が記載されている。
【0013】
しかしながら、特許文献3では、シリコーン剤を付与した後、第1回加熱工程で、シリコーン剤の水分を除去し、第2回加熱工程で、シリコーン剤をキュアリングして皮膜形成を行っているが、やはり皮膜の状態については開示されておらず、ダウンボール状塊部分とそれ以外のフィラメント状部分の風合いが異なり、中綿とした場合の風合いにムラがあるものであった。
【0014】
また、本発明者らは特許文献4において、3次元的な捲縮構造を有する鞘糸、および該鞘糸との交錯で鞘糸を固定している芯糸からなり、前記鞘糸が、実質的に破断しておらず、連続的にループを形成している、合成繊維からなる嵩高糸を提案している。特許文献4は、特許文献1よりも大ループ形状を有しながらも嵩高糸間での絡み合い等が抑制され、嵩高性および圧縮回復性に優れ、かつ中綿素材として用いた場合に異物感が少なく、柔軟な風合いを有したものである。繊維の3次元捲縮による風合いに加えて、シリコーン化合物の皮膜を形成することで、風合いをさらに高める効果を得ている。
【0015】
特許文献4における嵩高糸は前述したように、大ループ形状を有しながらも嵩高糸間での絡み合い等が抑制され、嵩高性および圧縮後の復元性(圧縮回復性)に優れ、かつ中綿素材として用いた場合に異物感が少なく、柔軟な風合いを有したものである。しかしながら、繰り返し洗濯をした場合の風合い持続性という点では不十分であり、皮膜の耐久性をさらに高めることが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2012-67430号公報
【文献】特開2009-52183号公報
【文献】特開2016-27213号公報
【文献】特許第6103157公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
合繊中綿の特長である洗濯容易性を活かすため、繰り返し洗濯を行った後にも、初期の特性を持続して発揮できる、洗濯耐久性に優れた素材が求められており、特に、風合いを維持するための皮膜の耐久性向上が課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、洗濯を繰り返した場合にも風合いを持続的に発揮できる、洗濯耐久性に優れた素材とするために鋭意検討を行い、これを可能とする皮膜の形態特性を見出したものである。
【0019】
また、上記従来技術おいては、一般家庭の洗濯を想定した洗濯評価法(JIS L0217(1995年) 103法)による洗濯2~3回で柔らかい皮膜が脱落し、5回以降では皮膜の脱落がほとんど無くなることが分かった。このことから、長期的に効果を持続するためには、前述の洗濯で少なくとも5回洗濯後における皮膜形態が、特定の状態となることが必要であることを見出し、本発明に至ったものである。
【0020】
すなわち、本発明は以下の手段による。
(1)ループを形成する鞘糸と、鞘糸との交錯により実質的に鞘糸を固定する芯糸から構成され、鞘糸が部分的に切断することなく連続的なループを形成している嵩高糸であり、洗濯後において、鞘糸および芯糸を構成する繊維の繊維表面の80%以上が皮膜で被覆されており、該皮膜が、Si元素を含むシリコーンからなり、該皮膜においてC、O元素の合計割合に対するSi元素の割合が2~15%、該皮膜の皮膜厚みが30nm以上500nm以下であることを特徴とする嵩高糸。
(2)繊維表面に形成された皮膜の厚みが、50nm以上であることを特徴とする前記(1)記載の嵩高糸。
(3前記(1)または(2)に記載の嵩高糸を少なくとも一部に含む繊維製品。
【発明の効果】
【0021】
本発明の嵩高糸は、一般衣類と同様、家庭用洗濯機で繰り返し洗濯を行った後においても、脱落が極めて少なく、十分な厚みを有した皮膜を長期的に維持可能となる。
【0022】
このため、従来の課題である繰り返し洗濯によるソフトでしなやかな風合い特性の経時的な低下を抑制し、手軽に洗濯することを可能としつつも、優れた嵩高性や圧縮回復性といった特性を長期にわたって発揮することができ、保温用詰め物体に適した嵩高糸を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の嵩高糸の一例の概略側面図。
図2】加工糸中心線測定方法を説明するための模擬図。
図3】本発明の嵩高糸の製造方法の一例を模式的に示す概略工程図。
図4】本発明の製造方法に用いるサクションノズルを説明するための概略側面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を望ましい実施形態とともに詳述する。
【0025】
本発明の嵩高糸はマルチフィラメントを加工して得られるものであり、嵩高糸および嵩高糸製造途中の材料を「加工糸」と表現することがある。
【0026】
本発明の嵩高糸は合成繊維により構成されていることが好適である。
【0027】
ここで言う合成繊維とは、高分子ポリマーからなる繊維であり、溶融紡糸や溶液紡糸などで製造した熱可塑性ポリマーからなる繊維を採用することができる。該繊維は、単独繊維であっても繊維断面に2成分以上ポリマーが配置された複合繊維であっても良い。
【0028】
これ等の繊維を構成する熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートあるいはその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ乳酸、熱可塑性ポリウレタンなどの溶融成形可能なポリマーが挙げられる。これ等の熱可塑性ポリマーの中でも、ポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは、結晶性を有し、比較的高い融点を有しているため、後加工等における熱処理工程及び実使用(クリーニングなど)の際に比較的高い温度で加熱された場合でも嵩高糸が劣化やヘタリを起こすことなく好適な例として挙げられる。この耐熱性という観点では、特にポリマーの融点が165℃以上であると好ましい。
【0029】
これらの熱可塑性ポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲で酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機物質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤を含んでいても良い。
【0030】
本発明の嵩高糸は、ループを形成している鞘糸(図1の1)と、当該鞘糸と交錯することで鞘糸を固定している芯糸(図1の2)から構成される。
【0031】
本発明の嵩高糸の構造を図1及び図2に示された加工糸の例示を用いて説明する。
【0032】
本発明の芯糸は、鞘糸と交錯することにより鞘糸からなるループを固定する軸となるため、加工糸の中心に存在する。すなわち、図2に示した一対の糸道ガイド4の間に定長で加工糸を糸かけした場合の糸道ガイド4を結んだ直線を加工糸中心線3とした場合に、この加工糸中心線3からの距離5が0.6mmまでの範囲に存在するものである。
【0033】
本発明の鞘糸は、加工糸の中心から外層に向けて放射状にループを形成して存在するものであり、芯糸と交錯することによってループが自立し、加工糸の嵩高性を担う嵩高構造部を構成するものである。鞘糸からなるループが自立して外層に突出しているほど加工糸の嵩高性が高まることは言うまでもないが、本発明においては、図2に示した加工糸中心線3から鞘糸からなるループの頂点までの距離5、すなわちループの大きさは1.0mm以上であることが好適である。
【0034】
ここで言うループの大きさとは、一対の糸道ガイド4に定長で糸掛けした嵩高糸を側面から観察し、この観察した画像から測定する。無作為に選んだ1本の嵩高糸について、嵩高糸に形成されている10個以上のループが観察できるように撮影し、画像中のループ10個で加工糸中心線3からループ頂点までの距離5を測定する。この作業を嵩高糸1本について画像撮影を計10箇所行い、嵩高糸1本あたり合計100個のループの大きさを、ミリメートル単位で小数点第2位までを測定する。この数値の平均値を算出し、小数点第2位以下を四捨五入した値を嵩高糸におけるループの大きさとした。
【0035】
本発明において、ループを形成する鞘糸は実質的に破断されていない、特にループの途中で実質破断していないことが好ましい。本発明の目的である繰り返し洗濯を可能とする観点から、嵩高性を担うループが途中で破断せずに、不要な絡み合いを起こさないことで洗濯による嵩高性や風合いの低下を抑制するとともに、洗濯することで側地の目が開いた場合にも、側地からの繊維の飛び出しを抑制することが可能となる。また、側地から突出した繊維に引っかかる等の使用時の不快感を抑制するとともに、中綿の充填量を維持し、嵩高性保持に対しても有効に作用する。
【0036】
ここで言うループの破断の判定は、鞘糸および芯糸からなる加工糸1本から無作為に選出した10箇所において、それぞれ芯糸と鞘糸の交錯点から次の交錯点まで(すなわちひとつのループ)が加工糸の長手方向に10箇所以上確認できる倍率で撮影、観察して判定する。該撮影画像10枚において、各々10個のループについて嵩高糸1ミリメートル当たりの鞘糸の破断点をカウントする。カウントされたループの破断点を平均し、小数点第2位を四捨五入することでループの破断点(個/mm)とした。ここで計100個のループの平均で、破断点が0.2個/mm以下であることが本発明の言う鞘糸が実質的に破断していない状態を指す。係る範囲であれば、糸端が自由になった鞘糸が加工糸内に存在しないため、本発明の効果を良好に発揮することができる。
【0037】
本発明の目的を達成するためには、洗濯後において、嵩高糸を構成する繊維表面の70%以上に皮膜が形成され、被覆されていることが必要である。
【0038】
ここで言う洗濯後とは、一般家庭の洗濯を想定した洗濯評価法(JIS L0217(1995年) 103法)で、5回洗濯を実施した後における値であり、本発明においては、本発明の嵩高糸を充填した座布団を作製し、これを洗濯した後に嵩高糸を取り出して評価する。
【0039】
本発明の嵩高糸における皮膜の割合は、以下(I)~(III)に記載の方法により繊維表面の皮膜を観察することで求められる。
【0040】
(I)繊維表面の皮膜形成確認
観察試料をカーボンテープに転写後、Ptコートを施し、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM;日立ハイテクノロジーズ製S-4800)、ブルカー・エイエックスエス QUANTAX Flat QUADシステムXflash5060FQを用いて観察することにより得られたSEM像および元素マップ像で、繊維表面に皮膜が形成されていることを確認した。
【0041】
(II)繊維表面の皮膜観察および元素分析
(I)で皮膜形成を確認した試料について、超薄切片法(Cuメッシュ使用)により断面試料を作製し、該断面試料を透過型電子顕微鏡(JEOL製JEM-1400plus)で繊維断面の面像を取得した後、以下設備で繊維表面の皮膜の位置確認および元素分析を行った。
電界放出型電子顕微鏡 JEOL製 JEM-2100F
EDX;JEOL製 JED-2300T(Si<Li>半導体検出器,UTW型)
システム;Analysis Station
画像取得;Digital Micrograph
(III)皮膜の割合の算出
(II)の電解放出型電子顕微鏡で観察した画像において、繊維表面の元素マッピングを行い、ターゲットとなる皮膜の主元素分布を見ることで、皮膜の位置を確認する。続いて、透過型電子顕微鏡で1つの繊維断面を8画像以上に分割して観察した画像を重ね合わせて、1つの繊維断面とした後、繊維断面の外接円から中心を設定し、ターゲットとなる皮膜の主元素が検出されていない区間について、繊維中心との角度を計測(数区間ある場合は合計)し、以下式から皮膜割合を算出した。皮膜割合は、小数点以下1桁目を四捨五入して整数値とした。
(1-(皮膜主元素の非検出区間合計角度/360°))×100=皮膜の割合(%)
上記(I)~(III)に記載の方法により繊維表面の皮膜を観察できるが、本発明においては嵩高糸を構成する繊維表面の70%以上に皮膜が形成されている。本発明の目的とする繰り返し洗濯への耐久性を発現させるためには、皮膜の割合が高いほど、皮膜の脱落の起点となる皮膜と繊維の界面部が洗濯時水流にさらされることが少なく、繰り返し洗濯への耐久性を高めることができる。このため、皮膜の割合は80%以上であることがより好ましく、実質的に100%であることがさらに好ましい。
【0042】
本発明の嵩高糸は、上記繊維表面の70%以上を被覆する皮膜の厚み(皮膜厚み)が30nm以上であることが必要である。
ここで言う皮膜厚みは、皮膜の割合を求めた画像を用い、繊維表層の一画像において、元素分析で検出された皮膜を構成する主元素の密度差による相分離が無い領域で、厚みの均一な領域が最も広くとれる部分で皮膜厚みを計測して、合計8画像以上で計測した値の平均値である。皮膜厚みは単位をnmとして、小数点以下1桁目を四捨五入して整数値とした。
【0043】
本発明の目的とする洗濯耐久効果を発現させるためには、皮膜の厚みが高いほど、繊維間の擦過による皮膜表面から剥離の進行を遅らせることができ、繰り返し洗濯への耐久性を高めることができる。このため、皮膜の厚みが50nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましい。本発明の嵩高糸において、単位重量当たりの体積(例えば、cm/30g)で現される値を嵩高性の指標としており、繊維重量を抑制することが嵩高性につながる。この観点から、本発明の効果が得られる範囲で、皮膜の重量は可能な限り少ないほうが好ましく、皮膜の厚みは最大でも500nmあれば十分である。
【0044】
本発明の嵩高糸において、皮膜はSi元素を含む、シリコーンからなるものであることが好ましい。
【0045】
シリコーンを用いることにより、Si架橋による強固な構造を形成し易く、溶液調整や溶液の安定性、また加工条件の調整が容易という点でも好ましい。
【0046】
本発明の嵩高糸において、単繊維表面に形成された皮膜において、C、O、Siの3元素の各割合を算出し、C、O元素の合計割合に対する皮膜のSi元素割合が1~20%であることが必要である。
【0047】
ここで言う皮膜のSi元素割合は、皮膜厚みを計測した部分について、皮膜厚みの中央部にスポットを当てて元素分析することにより検出したC、O、Siの元素割合を用い、C、Oの合計割合に対するSiの割合を以下式にて算出した。皮膜のSi元素割合は、小数点以下1桁目を四捨五入して整数値とした。
Si/(C+O)×100=皮膜のSi元素割合(%)
皮膜を形成する主成分であるSiの密度が高いことで、皮膜強度として十分な強さが得られ、洗濯時に脱落が抑制される。また、本発明の目的とする効果を発揮する皮膜を残存させるためには、Si密度差が小さく、過大な密度差による相分離の無い均質な皮膜であるほうが好ましく、より好ましくは2~15%、さらに好ましくは3~10%の範囲である。
【0048】
また、皮膜の元素割合からは、架橋反応の進行程度を推察することもでき、この場合、O元素とSi元素の比(O/Si)を確認する。架橋反応が十分に進んで強固な皮膜を形成しながらも、過剰反応による皮膜の脆化がない範囲として、O/Siが1.0~3.0の範囲にあることが好ましい。そのため、O/Siを上記の範囲となるように、後述するシリコーン系油剤および皮膜形成のための処理条件を適宜調整することが好ましい。
【0049】
本発明の嵩高糸に用いる繊維は、丸、扁平、三角、Y、多葉等のいずれの断面形状でも良いが、均一な皮膜を繊維表面に形成させ、かつ耐久性の高い皮膜を得るという点で、丸断面形状が好ましく、嵩高性の観点から中空断面繊維がより好ましく採用される。
【0050】
本発明の嵩高糸において、芯糸および鞘糸が中空断面繊維の場合、中空率10%以上の中空断面繊維であることが好ましい。軽量性という観点から、中空断面繊維が好適であることは言うまでもないが、芯糸による嵩高糸の形態保持性や鞘糸が形成するループの突出という観点で剛性に優れる中空断面繊維が好適なのである。
【0051】
ここで言う中空率とは、繊維中に材料が存在していない部分の体積率であり、以下の方法で測定することができる。すなわち、鞘糸または芯糸の横断面が観察できるように切削した後、その繊維断面を走査電子顕微鏡(SEM)にて10本以上の中空断面繊維の断面が観察できる倍率で撮影する。撮影した画像から無作為に選定した10本の中空断面繊維を抽出し、画像処理ソフトを用いて繊維及び中空部分の円相当径を測定し、そこから中空部の面積比率を算出して求める。
【0052】
ここで、1画像で観察できる中空断面繊維が10本未満の場合は、観察される中空断面繊維の全数を抽出し、中空部の面積比率を算出して求める。以上の操作を撮影した10画像について行い、10画像の平均値を本発明の中空断面繊維の中空率とする。
【0053】
中空断面繊維が丸断面の場合には、簡便な中空率の評価方法として以下の方法がある。
中空断面繊維の側面を顕微鏡等の拡大手段で観察し、その画像から丸断面換算の繊維径を測定する。この繊維径と繊維の素材の密度から、中空でない繊維としたときの繊度に対する実測した繊度との比率を中空率として算出することも可能である。
【0054】
中空率は、本発明の目的である軽量・保温性という観点では、本発明の嵩高糸がより空気を含んでいることが好適であり、中空率が20%以上であることがより好ましい。係る範囲であれば、嵩高糸を束で持った際により良好な軽量性を実感することもできる。また、熱伝導率が低い空気を内部に、より多く有していることを意味するため、更に保温性を高めることができる。この中空率の値は高いほど保温性が高まる傾向にあるが、中空部が潰れることなく安定的に本発明の嵩高糸を取り扱うことのできる範囲として、本発明の中空率の実質的な上限は50%である。
【0055】
本発明の嵩高糸は、芯糸および鞘糸が適度な剛性を有した繊維により構成されていることが好適であり、嵩高糸を構成する合成繊維の単繊維繊度は3.0dtex以上であることが好ましい。
【0056】
ここで言う繊度とは、求めた繊維径、フィラメント数および密度から算出した値、または繊維の単位長さの重量を複数回測定した単純な平均値から、10000m当たりの質量を算出した値を意味する。
【0057】
本発明の嵩高糸を中綿として用いる場合には、繰り返し圧縮および回復等の変形を加えられることとなるため、構成するフィラメントは適度な剛性を有することがよく、単繊維繊度が6.0dtex以上であることがより好ましい。鞘糸の単繊維繊度に関しては、本発明の特徴に寄与する圧縮変形量を大きくするために、鞘糸ループを大きくして圧縮される前の初期嵩高を高めることが有効であり、上記の観点を推し進めると、鞘糸に用いる原糸の単繊維繊度に関しては、9.0dtex以上とすることがさらに好ましい。
【0058】
本発明の嵩高糸の形態効果をより顕著にさせるためには、芯糸及び鞘糸の糸長差を考慮することが好適であり、芯糸に対する鞘糸の糸長差は、10~100倍であることが好ましい範囲として挙げることができる。
【0059】
ここで言う糸長差は、デジタルマイクロスコープ等によって嵩高糸を2次元的に観察できる倍率で撮影した画像を用い、評価することができる。嵩高糸から無作為に選出した10箇所において、各々の芯糸及び鞘糸の長さをミリメートル単位で小数点第2位までを測定する。それぞれの画像において、鞘糸長さを芯糸長さで除することでそれぞれの糸長差を算出し、嵩高糸の10箇所の単純平均の小数点第2位以下を四捨五入した値を糸長差とする。なお、該糸長差は後述する製造方法において、芯糸及び鞘糸のサクションノズルへの供給速度比に相当し、この速度を調整することで所望の糸長差で嵩高構造を設計することが可能であり、簡易的にはこれを各糸長差と見なすこともできる。
【0060】
ここで、嵩高性は、一般的に単位質量あたりの糸束体積にて判定されるため、嵩高糸の質量の小さいほうが有利となる。本発明の嵩高糸においては、ループを形成する鞘糸が嵩高糸としての質量の大半を占めるため、鞘糸の質量を小さくしながらも嵩高構造を維持できることが良い。この点で、芯糸に対する鞘糸の糸長差は10~70倍であることがより好ましい。また、流体加工に引き続いて実施する後加工の工程通過性等の観点から、ループの大きさが揃っているほうが、工程ロール等への引っ掛かりを抑制できる。このため、芯糸に対する鞘糸の糸長差は、20~50倍とすることがさらに好ましい。
【0061】
本発明の嵩高糸において、鞘糸ループの耐ヘタリ性、嵩高性の維持という観点では、鞘糸ループの基点となる芯糸との交錯点は、繊維軸方向に適度な周期で存在することが好適である。このため、本発明においては、芯糸と鞘糸の交錯点は、芯糸の繊維軸方向1mmあたり1.0個/mmから30.0個/mmで存在することが好ましい。係る範囲であれば、鞘糸からなるループがそれぞれ自立した構造を形成し、嵩高構造の形態安定を担保する周期でループが存在していることを意味する。この観点を推し進めると、該交錯点は5.0個/mmから15.0個/mmで存在することがより好ましい。ここで、芯糸および鞘糸の判別、交錯点や単位長さあたりのループの個数を嵩高糸の糸長手方向に連続的に評価するには、光電型の毛羽検知装置を活用することができる。例えば、光電型毛羽測定機(TORAY FRAY COUNTER)を用い、糸速度10m/分、走行糸張力0.1cN/dtexの条件で、加工糸中心線からの距離0.6mmならびに1.0mmを評価することにより可能である。
【0062】
本発明の嵩高糸において、嵩高糸を合糸した際の嵩高糸間の絡み合いを抑制する観点から、繊維間静摩擦係数が0.3以下であることが好ましい。ここで言う繊維間静摩擦係数とは、レーダー式摩擦係数試験機により、JIS L1015(2010年)「化学繊維ステープル試験方法」の「摩擦係数」に記載された方法に準じて測定するものである。なお、当該JISはステープルを目的としているため、測定にあたっては開繊等の前作業を行うことを規定しているが、本発明での測定では、開繊等の処理は行わず、嵩高糸を円筒スライバーに平行に並べることで評価できる。
【0063】
本発明の嵩高糸の効果を高めるためには、圧縮および回復の繰り返しによる鞘糸ループの絡み合いの発生、中綿として用いた場合の洗濯による中綿の偏り発生を抑制するという観点から、繊維間静摩擦係数は低い方が好適であり、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることが特に好ましい。
【0064】
本発明の嵩高糸は、洗濯後にも風合いを維持していることが特徴であり、JIS L0217(1995年) 103法により5回洗濯後においても、前述の繊維間摩擦係数を維持するものである。このことにより、繰り返し洗濯を行った場合でも、鞘糸ループの絡み合いの発生や洗濯による中綿の偏り発生を抑制する効果が持続し、嵩高性や圧縮および回復性についても初期特性に近い高いレベルで維持することが可能となる。
【0065】
本発明の嵩高糸は、繊維巻き取りパッケージやトウ、カットファイバー、わた、ファイバーボール、コード、パイル、織編、不織布など多様な繊維構造体とし、様々な繊維製品とすることが可能である。ここで言う繊維製品は、一般衣料から、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、化粧品、化粧品マスク、ワイピングクロス、健康用品などの生活用途やフィルター、有害物質除去製品などの環境・産業資材用途に使用することができる。特に本発明の嵩高糸は、優れた嵩高性や圧縮回復性と、ソフト(柔軟)でしなやかな風合いを兼ね備え、繰り返しの洗濯耐久性に優れたものであり、特に、一般衣料と同様に、家庭洗濯する機会の多い製品の中綿として使用することが好適である。中綿は側地に充填されることから、本発明の嵩高糸を数本から数十本合糸した糸束とすることや、不織布などのシート状物にすることにより、充填時のハンドリング性に優れた素材を提供することができる。
【0066】
以下、本発明の嵩高糸の製造方法の一例を説明する。
【0067】
本発明の嵩高糸に用いられる繊維は、熱可塑性ポリマーを公知の方法により溶融紡糸して繊維化した合成繊維を用いればよい。
【0068】
本発明の嵩高糸において、芯糸や鞘糸に用いる合成繊維の断面形状に関して、いずれの形状を有するものであっても良い。紡糸口金における吐出孔の形状を変更することで、一般的な丸断面、三角断面、Y型、八葉型、偏平型などや多葉型や中空型など不定形なものにすることもでき、単独のポリマーからなる単成分繊維や、2種類以上のポリマーからなる複合繊維であっても良い。
【0069】
次に、紡糸して得られた繊維から嵩高糸を製造する方法の一例を説明する。
ここで例示する嵩高糸の製造方法は、大きく2つの工程からなる。第1工程が流体により芯糸と鞘糸とを交錯させ、鞘糸からなるループを形成させる嵩高加工工程である。第2工程が嵩高加工された糸条を熱処理することにより、嵩高糸の構造を固定する熱処理工程である。
【0070】
本発明の嵩高糸の製造方法の一例を、図3の概略工程図および図4のサクションノズルの概略側面図に基づいて説明する。この第1工程では、原料となる合成繊維14、15はニップローラなどを有した供給ローラ13により規定量引き出され、圧空の噴射が可能なサクションノズル6によって、芯糸及び鞘糸として吸引される。
【0071】
このサクションノズルでは、ノズルから噴射する圧縮空気の流量は、供給ローラからノズルに挿入する糸条が必要最低限の張力を有し、供給ローラからノズルの間及びノズル内で糸揺れ等を起こさず安定的に走行する流量を噴射することが好適である。この流量は、使用するサクションノズルの孔径により最適量が変化するが、糸張力を付与でき、後述するループの形成が円滑にできる範囲としては、ノズル内での気流速度が100m/s以上であることが目安となる。この気流速度の上限値の目安は、700m/s以下とすることであり、係る範囲であれば、過剰に噴射された圧空により、走行糸条が糸揺れ等を起こすことなく、安定的にノズル内を走行することになる。
【0072】
また、このサクションノズル内での加工糸の撹乱、開繊を予防するという観点から、圧縮空気の噴射角度16は、走行糸条に対して60°未満で噴射する推進ジェット流とすることが好ましい。これは高い生産性で、鞘糸によるループ形成を均質に行うことができるからである。当然、走行糸条に対して90°に流体を噴射する垂直ジェット流による加工でも本発明の嵩高糸を製造することは不可能ではないが、垂直方向からのジェット流噴射によるノズル内での走行糸条の開繊、及び単糸同士の絡み合いを抑制するという観点から推進ジェット流による加工が好ましい。この推進ジェット流による加工は、垂直ジェット流の場合に形成しやすいアーチ型の小ループが短周期で形成することも抑制できる。
【0073】
本発明の嵩高糸の繊維構成においては、垂直ジェット流で加工した場合、芯糸および鞘糸が混繊交絡することとなり、本発明の嵩高糸に近い形態を形成することは不可能ではないが、ループの糸切れや折れ曲がりを防ぐことが非常に困難である。そのため、本発明においては、推進ジェット流を用いた加工が適しており、中綿として使用した場合の製品欠陥や嵩高性不足につながる鞘糸ループの糸切れや折れ曲がりが抑制された嵩高糸を形成することが可能となるものである。
【0074】
本発明の嵩高糸に必要となる鞘糸ループを安定して形成するには、サクションノズル内で撹乱や開繊を施さないことが好適である。一桁本数から二桁本数の糸からなるマルチフィラメントをノズル内では開繊させずに走行させるという観点では、圧縮空気の噴射角度が、走行糸条に対して45°以下であることがより好ましい。また、ノズル外でループを形成させる点では、ノズル直後の噴射気流の安定性及び推進力が高いことが好適であり、この観点から、噴射角度が走行糸条に対して20°以下であることが特に好ましい。
【0075】
本発明の嵩高糸の製造に用いる上記サクションノズル条件は、糸条を開繊させることなくノズル内を走行させることが可能であり、導入する糸条の本数を増やした場合にもノズル内で糸条の絡まりは抑制できる。
【0076】
本発明の目的を達成する嵩高糸の嵩高加工工程を多錘化し、合糸まで連続して製造するにあたり、多数存在するパラメータを緻密に制御する必要が生じる。嵩高加工工程を多錘化した場合には、錘毎に嵩高糸の嵩高性が異なるものになるという可能性があるため、後述するノズル外の気流制御を活用した手法を採用することが、品質の安定性を確保し易くなるため好適である。
【0077】
次に、圧縮空気が付与された糸条をノズル外で旋回させ、鞘糸ループを形成させる工程となる。これはノズルから噴射されたある位置で供給された糸を旋回させることで、本発明の目的を達成するループを形成するというコンセプトを着想したものであり、気流速度と糸速度の比(気流速度/糸速度)が100~5000にある場合に、前記嵩高構造の形成が達成されやすくなる。
【0078】
ここでの気流速度とは、サクションノズル出口から走行糸条とともに噴射された気流の速度を意味する。気流速度はノズル吐出口の断面積と圧縮空気の流量により制御可能である。また、糸速度は、サクションノズルを出た後に、糸を引き取る引取ローラ9の周回速度等により制御することが可能である。
【0079】
鞘糸の旋回力は、気流速度と糸速度の速度比に依存して増減するため、芯糸との交錯点による鞘糸ループの固定を強固にする場合には、この速度比を5000に近づければよいし、交錯点を緩慢にしたい場合には逆に100に近づければよく、本発明の嵩高糸を用いる用途に合わせて適宜調整すればよい。この速度比は、例えば、圧縮空気の流量を間歇的に変化させ、あるいは引取ローラの速度を変動させることで、交錯点の周期に変化を持たせることも可能である。
【0080】
この旋回力が発現するのは、随伴していた気流が走行糸条を離脱したところである。そこで糸道を変更する旋回点7を配置する。具体的には、バーガイド等で糸道を変更することで良く、糸条を規定の速度で引き取ることにより、芯糸に旋回した鞘糸が芯糸との交錯点を起点にループを形成する。この旋回を起こすためのスペースとノズルから噴射された気流の拡散を利用した鞘糸の振動によるほぐれを得るという観点から、走行糸条の旋回点は、ノズル吐出口から離れた位置にあることが好適である。ただし、本発明の嵩高糸を製造するために適したノズル-旋回点間の距離は噴出した気流速度により変化するものである。気流の拡散とのバランスで適度な周期で芯糸と鞘糸との交錯点を形成させるために、ノズル-旋回点間の距離は、噴出気流が適度な旋回力を保つことができる1.0×10-5~1.0×10-3秒間走行する間に旋回点7が存在することが好ましく、2.0×10-5~5.0×10-4秒間走行する間に旋回点7が存在することがより好ましい。
【0081】
この旋回点の位置を調整することで、芯糸に対する鞘糸の旋回数、及び交錯点の周期を制御することもできる。
【0082】
鞘糸からなるループが形成された嵩高糸8は、引取ローラ9で引き取られ、形態固定や3次元的な捲縮を発現させる等の目的で、一旦巻き取った後あるいは嵩高加工に引き続いて熱処理を施すことが好ましい。図3においては、嵩高加工に引き続き熱処理を行う加工工程を例示している。この熱処理は、例えばヒータ10によって行うものである。熱処理温度は、加工糸を構成する繊維に使用するポリマーのうち、結晶化温度が最も低いポリマーの結晶化温度±30℃がその目安となる。この温度範囲での処理であれば、ポリマーの融点から処理温度が離れているため、加工糸を構成する繊維間で融着して硬化した箇所はなく、異物感がなく、良好な触感を損ねることはない。この熱処理工程に用いるヒータは一般的な接触式あるいは非接触式のヒータを採用することができ、熱処理前の嵩高性や鞘糸の劣化抑制という観点では、非接触式のヒータの使用が好ましい。ここで言う非接触式のヒータとは、スリット型ヒータやチューブ型ヒータ等の空気加熱式ヒータ、高温蒸気により加熱するスチームヒータ、輻射加熱を利用したハロゲンヒータやカーボンヒータ、マイクロ波ヒータ等が該当する。
【0083】
ここで加熱効率という観点から、輻射加熱を利用したヒータが好ましい。加熱時間に関しては、例えば、結晶化が進み加工糸を構成する繊維の繊維構造の固定、加工糸の形態固定及び鞘糸の捲縮発現が完了するための時間等を考慮することになり、処理温度及び時間を求められる特性に応じて調整するのがよい。熱処理工程が完了した加工糸はデリバリーローラ11を介して速度を規制し、張力制御機能を具備したワインダ12で巻き取ればよい。この巻き形状に関しては、特に限定されるものではなく、いわゆるチーズ巻きやボビン巻きとすることが可能である。また、最終的な製品への加工を考慮して、複数本を予め合糸し、トウとすることや、そのままシート化することも可能である。
【0084】
本発明の嵩高糸は、熱処理工程前および/または後で風合い処理剤を付与することが好ましく、風合い処理剤としては、シリコーン系油剤を均一に付着させ、本発明の特徴となる皮膜を形成させることが特に好ましい。本発明の嵩高糸においては、ここで付着させたシリコーンを熱処理などによって速やかに架橋させることで、適度な厚みを有し、かつ、相分離が無い均質な皮膜を、繊維表面に均一に形成させることができる。そのため、本発明の効果を発現する皮膜を形成させるには、前述の熱処理工程の温度設定目安に加え、過加熱によるシリコーンの黄変が認められる温度-5℃以下の範囲で、処理時間1~5分で皮膜形成できる熱処理条件を採用することが好ましい。ここで、本発明の嵩高糸においては、シリコーンと、これを架橋させるための架橋剤の割合も重要となる。
【0085】
ここで言うシリコーン系油剤の主剤となるシリコーンは、ジメチルポリシロキサン、ハイドロジエンメチルポリシロキサン、アミノポリシロキサン、エポキシポリシロキサン等が例示され、これらを単独または混合して使用できる。本発明の目的を達成する皮膜を形成するためには、繊維付着後に架橋反応を速やかに進行させることが好ましく、末端がヒドロキシル基で変性されたジメチルポリシロキサンが好ましい。本発明の嵩高糸においては、シリコーンの数平均分子量の小さいほうが、後述の架橋剤との調整や反応時間の制御が行い易くなるため、単独のシリコーンであることが好ましい。当該シリコーンは、本発明の目的を損なわない範囲で、油剤としての溶液安定性や皮膜形成の架橋反応性を調整するために、末端および側鎖を各種官能基で置換しても良い。
【0086】
一方の架橋剤としては、二官能のシランカップリング剤が好ましく採用される。これによってシリコーンの二次元的な架橋を促進し、三次元架橋による過大な架橋物を生じることを抑制し、本発明の目的とする皮膜を効率良く形成することができる。また、架橋剤の官能基を適宜変更することによっても、架橋反応性を適宜調整することができる。
【0087】
上記の架橋剤は、架橋反応を速やかに進める観点から、シリコーンと架橋剤の有効成分の合計重量に対する架橋剤の重量割合として、10%以上となるように含有していることが好ましく、架橋に必要とする熱処理時間を短縮する観点から20%以上とすることがより好ましい。一方で、架橋剤の含有量が高くなるほどシリコーン系油剤としての溶液安定性が不安定化し、形成される皮膜においては架橋密度の均一性が低下し、脱落し易い皮膜が増加することから、上限は40%程度である
本発明の嵩高糸において、繊維表面に均一に皮膜を形成するために、シリコーンの付着の目的を損なわない範囲で、前述架橋剤の他に、分散剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防燃剤及び静電防止剤を含有させることができる。このシリコーン系油剤は無溶剤でも、溶液や水性エマルジョンの状態でも使用することもできる。油剤の均一付着という観点では、水性エマルジョンを使用することが好ましい。シリコーン系油剤は、浴槽浸漬、油剤ガイド、オイリングローラまたはスプレーによる散布を利用して、重量比で嵩高糸に対して0.1~5.0%付着できるように処理することが好適である。また、シリコーン系油剤を水系エマルジョンとして使用する場合、油剤の溶液安定性の観点では、前記シリコーンと架橋剤の有効成分の合計重量がシリコーン系油剤の全量に対して0.1~10.0%となるように調整することが好ましい。
【0088】
本発明の嵩高糸について、シリコーン系油剤を付着させた後、任意の温度及び時間で乾燥し、架橋反応させることが好ましい。このシリコーン系油剤は、複数回に分けて付着させることも可能であり、同じ種類のシリコーンあるいは種類の異なるシリコーンを分けて付着させ、強固なシリコーン皮膜を積層させることも好適である。前述した処理により、嵩高糸にシリコーンの皮膜を形成させることで、嵩高糸の滑り性、風合いが増し、本発明の効果を更に引き立たせることができる。
【実施例
【0089】
以下実施例を挙げて、本発明の嵩高糸およびその効果について具体的に説明する。
実施例および比較例では、下記の評価を行った。
【0090】
A.繊度
繊維の100mの質量を測定し、100倍することで繊度を算出した。これを10回繰り返し、その単純平均値の小数点第2位を四捨五入した値をその繊維の繊度(dtex)とした。単繊維繊度とは、繊度をその繊維を構成するフィラメント数で除することにより、算出した。この場合も、小数点第2位を四捨五入した値を単繊維繊度とした。
【0091】
B.ループの破断点
試料となる糸にたるみが出ないように0.01cN/dtexの荷重をかけ、図2に例示されるように定長で一対の糸道ガイド4に糸掛けする。糸掛けした嵩高糸の側面を(株)キーエンス製マイクロスコープVHX-2000にて糸束の全幅を観察できる倍率で撮影した。加工糸1本について画像を計10箇所撮影し、各々10個のループについて加工糸1ミリメートル当たりのループの破断点をカウントし、平均値の小数点第2位を四捨五入した値をループの破断点(個/mm)とした。
【0092】
C.皮膜の割合、厚み、皮膜のSi元素割合、O/Si比
本発明の嵩高糸を、寸法50cm×50cmで、通気度5.0cm/cm/secであり、糸条の繊度10dtexのナイロン6繊維で構成された織物である側地に、一方向に配列させて充填量60g/mで充填し、嵩高糸の配列方向に対して垂直方向に縫製(縫製間隔5cm)された座布団を作製し、JIS L0217(1995年) 103法に従い、5回洗濯を行った。
【0093】
この洗濯後の座布団を切開し、任意の位置から嵩高糸を取り出して、以下(I)~(III)の方法で観察することで、皮膜の割合を求めた。
【0094】
(I)繊維表面の皮膜形成確認
観察試料をカーボンテープに転写後、Ptコートを施し、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM;日立ハイテクノロジーズ製S-4800)、ブルカー・エイエックスエス QUANTAX Flat QUADシステムXflash5060FQを用い、加速電圧4kV、計測時間20分の条件で観察することにより得られたSEM像および元素マップ像で、繊維表面に皮膜が形成されていることを確認した。
【0095】
(II)繊維表面の皮膜観察および元素分析
先に皮膜形成を確認した試料について、超薄切片法(Cuメッシュ使用)により断面試料を作製し、該断面試料を透過型電子顕微鏡(JEOL製JEM-1400plus)で加速電圧100kVにて繊維断面の面像を取得した後、以下設備および条件で繊維表面の皮膜の位置確認および元素分析を行った。
電界放出型電子顕微鏡 JEOL製 JEM-2100F
EDX;JEOL製 JED-2300T(Si<Li>半導体検出器,UTW型)
システム;Analysis Station
画像取得;Digital Micrograph
加速電圧200kV
ビーム径約1.0nmφ
(III)皮膜の割合の算出
(II)の電解放出型電子顕微鏡で観察した画像で皮膜の位置を確認し、透過型電子顕微鏡で1つの繊維断面を8画像以上に分割して観察した画像を重ね合わせて、1つの繊維断面とした後、繊維断面の外接円から中心を設定し、ターゲットとなる皮膜の主元素が検出されていない区間について、繊維中心との角度を計測(数区間ある場合は合計)し、以下式から皮膜割合を算出した。皮膜割合は、小数点以下1桁目を四捨五入して整数値とした。
(1-(皮膜主元素の非検出区間合計角度/360°))×100=皮膜の割合(%)
皮膜厚みについても皮膜の割合を求めた画像を用い、繊維表面の一画像において、元素分析で検出された皮膜を構成する主元素の密度差による相分離が無い領域において、厚みの均一な領域が最も広くとれる部分で皮膜厚みを計測して、合計8画像以上で計測した値の平均値を皮膜厚みとした。皮膜厚みは、小数点以下1桁目を四捨五入して整数値とした。
【0096】
皮膜のSi元素割合は、皮膜厚みを計測した部分について、皮膜厚みの中央部にスポットを当てて元素分析することにより検出したC、O、Siの元素割合を用い、C、O元素の合計割合に対するSi元素の割合を以下式にて算出した。皮膜のSi元素割合は、小数点以下1桁目を四捨五入して整数値とした。
Si/(C+O)×100=皮膜のSi元素割合(%)
O/Si比についても前記Si元素割合と同様、元素分析により検出したOおよびSi元素割合を用いて算出し、小数点以下2桁目を四捨五入して小数点1桁の値とした。
【0097】
D.嵩高性
洗濯後の座布団を切開して取り出した嵩高糸について、電子天秤上に設置した容器で10gを計量した。計量した嵩高糸を内径が15cmの円筒容器に入れ、円筒内の断面積に対して0.15g/cmとなるよう重量調整した円形板を嵩高糸の上に載せ、1分間放置した後の嵩高糸の高さを測定し、小数点以下1桁目までを読み取って嵩高糸の高さL0とした。この高さから下記の式より、単位重量当たりの嵩高糸の体積(=嵩高性)を算出し、小数点以下1桁目を四捨五入して整数値とした。
嵩高性(cm/g)=円筒内の断面積×L0/嵩高糸の重量
E.圧縮率および圧縮後の回復率(回復率)
嵩高性評価と同様に、取り出した嵩高糸の高さL0を測定し、これを初期高さとした。次いで、3.0g/cmとなるよう円形板上に荷重を追加し、この荷重を負荷してから1分後の高さを圧縮高さL1とした。さらに、追加荷重を外して0.15g/cmの荷重に戻してから5分後の高さを圧縮回復高さL2とした。これらの測定高さは、いずれも小数点以下1桁目まで読み取り、下記の式より嵩高糸の圧縮率および圧縮後の回復率を算出した。
圧縮率(%)=(L0-L1)/(L0)×100
回復率(%)=(L2-L1)/(L0-L1)×100
圧縮率および回復率は小数点以下1桁目を四捨五入して整数値とした。
【0098】
F.風合い評価(しなやかで柔軟な風合い評価)
洗濯5回後の座布団を手で握った時の滑らかさと、ゆっくりと手を開いた時の回復時の戻りのスムーズさから、下記の4段階で風合い評価作業者が評価した。
◎(優) :しなやかで柔軟性に優れた風合い(滑らかな感触で、スムーズに戻る)
○(良) :しなやかで柔軟性が良好な風合い
△(可) :しなやかで柔軟性を感知できる風合い
×(不可):しなやかで柔軟性に乏しい風合い(ギシギシした感触があり、戻りが悪い)。
【0099】
実施例1
ポリエチレンテレフタレート(PET:IV=0.65dl/g、結晶化温度=150℃)を290℃で溶融後、ギアポンプで計量し、紡糸パックに流入させ、孔径φ0.30mmの吐出孔が同心円状に配置された紡糸口金から吐出した。吐出された糸条に20℃の冷却風を20m/minの流れで片側から吹き付けて冷却固化後、紡糸油剤を付与し、紡糸速度1500m/minで未延伸糸を巻き取った。引き続き、巻き取った未延伸糸を90℃と140℃に加熱したローラ間で延伸速度800m/minで延伸した単繊維繊度7.0dtexの繊維を芯糸および鞘糸とした。
【0100】
前記芯糸および鞘糸を図3に例示される工程にて、芯糸を供給ローラ速度50m/min、鞘糸を供給ローラ速度1000m/minとして、サクションノズルに供給した。サクションノズルでは走行糸条に対して20°で気流速度400m/sとなるように圧空を噴射し、芯糸と鞘糸がノズル内で交錯しないように随伴気流とともにノズルから噴出させた。ノズルから噴射した糸条を気流と共に1.0×10-4秒間走行させ、セラミックガイドを利用して糸道を変更し、鞘糸からなるループを形成した嵩高糸を50m/minのローラで引き取った。連続して、ローラを介して該加工糸をチューブヒータに導き、150℃の加熱空気で10秒間熱処理し、嵩高糸の形態をセットした。該嵩高糸は、チューブヒータ後に設置された張力制御式巻取り機により、50m/minでドラムに巻き取った。
【0101】
実施例1でドラムに巻き取った嵩高糸は、芯糸に鞘糸が旋回して巻き付いており、芯糸を軸として芯糸との交錯点を起点に鞘糸からなるループが形成された旋回加工糸であり、鞘糸からなる大ループが平均で23.0mm突出した嵩高い構造を有していた。また、該大ループが13個/mmの頻度で形成されており、ループサイズ、周期の均一性に優れるものであった。
【0102】
引き続き、ドラムに巻き取った嵩高糸に、シリコーン(竹本油脂社製“デリオン SFT-726”)と架橋剤(竹本油脂社製“デリオン SFT-005”)を有効成分の合計重量に対して、架橋剤の重量が20%となるように混合し、水に分散させることでシリコーンおよび架橋剤の有効成分濃度が4%となるように水系エマルジョン溶液としたシリコーン系油剤を、最終的なシリコーンの付着量が嵩高糸の重量に対して1.0%となるようにスプレーで均一に散布し、温度160℃、処理時間5分の条件で熱処理を施して、本発明の嵩高糸を採取した。
【0103】
この嵩高糸を充填して座布団を作製し、洗濯評価を実施した。洗濯後の座布団を切開して取り出した実施例1の嵩高糸は、鞘糸に破断箇所が見られない連続したループを形成したものであった。(破断箇所:0.0個/mm)
該嵩高糸は、繊維表面の皮膜の割合が96%、皮膜の厚みが50nm、Si元素の割合は5%であり、相分離が無く、均質な皮膜を形成したものであった。
【0104】
また、該嵩高糸の特性は、嵩高性が365cm/g、圧縮率が93%、回復率が89%であり、大きな変形量を有し、基本特性として嵩高部の回復性にも優れるものであった。また、握った際の触感は非常に滑らかで、スムーズな回復挙動を有しており、しなやかで柔軟な風合いに優れたものであった(風合い:◎)。結果を表1に示す。
【0105】
実施例2、3
シリコーン系油剤に含有する架橋剤の割合を表1に示すように変更したこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
【0106】
実施例2は、架橋剤の割合を10%としたものであり、実施例1と比較して皮膜厚みが薄くなったものの、繊維表面の皮膜の割合は実施例1と同等であった。また、嵩高性等の基本特性は実施例1とほぼ同等であり、しなやかで柔軟な風合いが良好なものであった(風合い:○)。結果を表1に示す。
【0107】
実施例3は、架橋剤の割合を40%としたものであり、皮膜の厚みムラは大きくなったものの、平均的に厚い皮膜を形成していた。繊維表面の皮膜が無い部分が比較的多く見られ、皮膜の割合は実施例1より低くなった。洗濯前の皮膜を観察した結果、Si密度差による相分離が多く、密度の高い部分が固まって脱落したことにより、繊維表面の皮膜の割合が低くなったと推測される。実施例3は、圧縮および回復時の挙動が少し硬めで、嵩高性等の基本特性が実施例1より低くなった。しかしながら、糸間は比較的滑らかに動き、しなやかで柔軟な風合いを感知できるものであった(風合い:△)。結果を表1に示す。
【0108】
実施例4、5
シリコーン系油剤を散布した後の熱処理温度を表1に示すように変更したこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
【0109】
実施例4は、熱処理温度を140℃としたものであり、実施例1に比較して、皮膜の厚みは薄くなった。Si元素の割合も低くなったが、嵩高性等の基本特性は実施例1とほぼ同等であり、しなやかで柔軟な風合いに優れたものであった(風合い:◎)。結果を表1に示す。
【0110】
実施例5は、熱処理温度を180℃としたものであり、実施例1に比較して、皮膜の厚みは厚く、Si元素の割合が高くなった。また、嵩高性等の基本特性は実施例1とほぼ同等であり、しなやかで柔軟な風合いに優れたものであった(風合い:◎)。結果を表1に示す。
【0111】
実施例6
実施例1に従って採取した嵩高糸に、再度、シリコーン系油剤を実施例1と同条件でスプレー散布し、熱処理を実施した。
【0112】
実施例6は、実施例1に比較して繊維表面の皮膜の割合が高く、皮膜の厚みは厚くなった。また、嵩高性等の基本特性は実施例1とほぼ同等であり、しなやかで柔軟な風合いに優れたものであった(風合い:◎)。結果を表1に示す。
【0113】
実施例7
シリコーン系油剤を満たした浸漬槽に嵩高糸を浸漬させて、シリコーン系油剤を付着させ、引き続き、マングルで絞って過剰分の油剤を除去したこと以外は、全て実施例1と同様に実施した。
【0114】
実施例7の皮膜の特徴は、実施例1とほぼ同様であった。嵩高性は、実施例1に比較して低めとなったが、圧縮性および回復性はほぼ同等であり、しなやかで柔軟な風合いに優れたものであった(風合い:◎)。結果を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
比較例1、2
シリコーン系油剤に含有する架橋剤の割合を表2に示すように変更したこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
【0117】
比較例1は、架橋剤の割合を5%としたものであり、実施例1と比較して繊維表面の皮膜の割合が少なく、また皮膜厚みが薄いものであった。嵩高性等の基本特性は、実施例1より劣っており、ギシギシとした触感で回復性に乏しいものであった。そのため、しなやかで柔軟な風合いに乏しいものであった(風合い:×)。結果を表2に示す。
【0118】
比較例2は、架橋剤の割合を45%としたものであり、シリコーン系油剤の安定性が低く、分散成分の凝集が見られた。比較例2の皮膜の厚みムラは大きく、平均的に見ると実施例1より低くなった。繊維表面の皮膜が無い部分が多く見られ、皮膜の割合は低くなった。洗濯前の皮膜を観察した結果、Si密度差による相分離が非常に多く、密度の高い部分が広く脱落したと推測される。比較例2は、圧縮および回復時の挙動が硬めで、嵩高性等の基本特性が実施例1より劣るものであった。また、ギシギシとした触感は比較例1より強く、しなやかで柔軟な風合いに乏しいものであった(風合い:×)。結果を表2に示す。
【0119】
比較例3
シリコーン系油剤のシリコーンを表2に示す2成分(竹本油脂社製“デリオン SFT-725”、“デリオン SFT-730”)として、架橋剤の割合を変更したこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
【0120】
比較例3は、実施例1と比較して繊維表面の皮膜の割合が少なく、また皮膜厚みが薄いものであった。嵩高性等の基本特性は実施例1より劣っており、ギシギシとした触感が認められ、回復性に乏しいものであった。そのため、しなやかで柔軟な風合いに乏しいものであった(風合い:×)。結果を表2に示す。
【0121】
比較例4
シリコーン系油剤として松本油脂製薬社製“TERON E-731”、架橋剤として松本油脂製薬社製“TERON E-722”を用い、架橋剤の割合を10%としたこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
【0122】
比較例4は、実施例1と比較して繊維表面の皮膜の割合が少なく、また皮膜厚みが薄いものであり、Si元素の割合も低い皮膜となった。嵩高性等の基本特性は実施例1より劣っており、ギシギシとした触感が認められ、回復性に乏しいものであった。そのため、しなやかで柔軟な風合いに乏しいものであった(風合い:×)。結果を表2に示す。
【0123】
【表2】
【符号の説明】
【0124】
1 鞘糸
2 芯糸
3 加工糸中心線
4 糸道ガイド
5 加工糸中心線からループ頂点までの距離
6 サクションノズル
7 旋回点
8 嵩高糸
9 引取ローラ
10 ヒーター
11 デリバリーローラ
12 ワインダ
13 供給ローラ
14 芯糸
15 鞘糸
16 圧空の噴射角度
図1
図2
図3
図4