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特許7205215多孔質繊維複合体、および多孔質繊維複合体が内蔵された浄化カラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】多孔質繊維複合体、および多孔質繊維複合体が内蔵された浄化カラム
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20230110BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230110BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230110BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20230110BHJP
   A61M 1/16 20060101ALI20230110BHJP
   A61M 1/36 20060101ALI20230110BHJP
   C07K 1/22 20060101ALN20230110BHJP
【FI】
B01J20/22 B
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01D15/00 P
A61M1/16 101
A61M1/36 165
C07K1/22
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018240797
(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2019136696
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2018022769
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 友明
(72)【発明者】
【氏名】韓 愛善
(72)【発明者】
【氏名】上野 良之
【審査官】谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-104852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/34
B01D 15/00
A61M 1/16
A61M 1/36
C07K 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キレート性官能基を有する化合物および金属化合物が多孔質繊維に含まれてなる多孔質繊維複合体であって、
前記キレート性官能基が、窒素、酸素、硫黄およびリンから選ばれる1種類以上の元素を含み、
前記金属化合物が、ランタン、セリウム、プラセオジム、サマリウムおよびネオジムから選ばれる1種類以上の希土類元素を含み、
前記キレート性官能基を有する化合物が、少なくとも前記多孔質繊維の表面に含まれてなるものである、リン吸着性能を示す多孔質繊維複合体。
【請求項2】
前記多孔質繊維の表面の開孔率が0.1%以上30.0%以下の範囲内である、請求項1に記載の多孔質繊維複合体。
【請求項3】
前記金属化合物が、前記希土類元素の炭酸塩を含む、請求項1または2に記載の多孔質繊維複合体。
【請求項4】
前記金属化合物の平均粒径が1μm以上1000μm以下の範囲内である、請求項1~のいずれかに記載の多孔質繊維複合体。
【請求項5】
前記多孔質繊維の横断面における、前記金属化合物の面積占有率が3%以上である、請求項1~のいずれかに記載の金属化合物を含有してなる多孔質繊維複合体。
【請求項6】
前記多孔質繊維が、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、およびセルロースから選ばれる1種以上の化合物を含む、請求項1~のいずれかに記載の多孔質繊維複合体。
【請求項7】
前記金属化合物に含まれる金属イオンの溶出量が0.1mg/cm以下である、請求項1~のいずれかに記載の多孔質繊維複合体。
【請求項8】
リン吸着性能を1mg/cmとしたときの前記金属化合物に含まれる金属イオンの溶出量が、0.01mg/cm以下の範囲内である、請求項1~のいずれかに記載の多孔質繊維複合体。
【請求項9】
前記キレート性官能基を有する化合物が、5mmol/g以上30mmol/g以下の範囲内で含まれてなる、請求項1~のいずれかに記載の多孔質繊維複合体。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載の多孔質繊維複合体を製造する方法であって、
前記金属化合物と、前記多孔質繊維と、前記キレート性官能基を有する化合物と、を含有する溶液に、放射線照射を行う工程を含む、多孔質繊維複合体の製造方法。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載の多孔質繊維複合体を製造する方法であって、
前記金属化合物を含有する多孔質繊維と、前記キレート性官能基を有する化合物を含有する溶液とを混和した後に、放射線照射を行う工程を含む、多孔質繊維複合体の製造方法。
【請求項12】
請求項1~のいずれかに記載の多孔質繊維複合体が内蔵された浄化カラム。
【請求項13】
医療用である、請求項1に記載の浄化カラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質繊維複合体、および多孔質繊維複合体が内蔵された浄化カラムに関する。
【背景技術】
【0002】
水処理や医療の分野等においては、被処理液である流体を浄化することを目的として、原水や血液などの流体中に含まれる不要なイオン、有機物、およびタンパク質、すなわち被除去物質を効率的に除去することが求められてきた。流体に含まれる物質を除去する方法としては、膜を利用した濾過や拡散による手法の他に吸着による方法が挙げられる。一般的に、吸着による除去の場合、濾過や拡散に比べて、被除去物質、すなわち被吸着物質の選択性が高いという特徴がある。
【0003】
吸着による除去に用いられる、吸着能を有する物質は、多々挙げられる。中でも金属は、流体中の被吸着物質と、例えば錯体や難溶性塩を形成する。それにより、金属は、被吸着物質を効率良く吸着し、除去することができる。
【0004】
一方、金属などの吸着能を有する物質を単独で用いると、流体中に吸着能を有する物質が溶出する場合や、流体との接触により微粒子が発生する場合がある。このため、特定の担体に吸着能を有する物質を担持させる方法が考えられてきた。特に、医療用途では、血液中に吸着能を有する物質が溶出すると、生体環境を著しく乱す場合がある。従って、医療用途では、担体に吸着能を有する物質を安定的に担持することがより重要である。
【0005】
例えば特許文献1には、多孔質粒子に金属化合物が含有されている例が開示されている。担体を多孔質とすることで、体積あたりの表面積を増加させ、吸着性能の向上を望むことができる。
【0006】
特許文献2には、被吸着物質である毒性物質を除去するための基材が開示されている。この基材は吸着能を有する物質としてナノ構造材料を含む。ナノ構造材料の担体は、多孔性の粒状であると記載されている。担体は、その細孔の構造が、ナノ構造材料と静電相互作用が得られるように調整されている。それによりナノ構造材料は担体から溶出しないとされている。
【0007】
特許文献3には、選択性を有するタンパク質捕捉材料の基材が記載されている。この基材は吸着能を有する物質として金属イオンを含む。金属イオンを担持するための担体形状は多孔質シートである。金属イオンは、シート上のキレート官能基を介して担持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開2017/082423号
【文献】特表2010-512939号公報
【文献】特開2009-101289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、例えば特許文献1には、担体に含有される金属の溶出を低減する構造は特に見受けられない。
【0010】
また、特許文献2に記載の担体は、ナノ構造体が溶出しないよう考慮はされているものの、ナノ構造体と金属の相互作用を利用するため、金属の吸着性能が低下する虞があった。
【0011】
また、特許文献3に記載の担体は、血液浄化を目的にしていない。従って、特許文献1と同様に金属溶出を積極的に防ぐ思想は見当たらない。また、金属と担体がキレートを形成しており、金属の吸着性能が低下する虞があった。
【0012】
そこで本発明は、吸着能を有する物質が安定して担持された多孔質繊維複合体および多孔質繊維複合体が内蔵された浄化カラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は次の構成を有する。
【0014】
すなわち、キレート性官能基を有する化合物および金属化合物が多孔質繊維に含まれてなる多孔質繊維複合体であって、
前記キレート性官能基を有する化合物が、少なくとも前記多孔質繊維の表面に含まれてなるものである、多孔質繊維複合体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、吸着能を有する物質が安定的に担持された多孔質繊維複合体および多孔質繊維複合体が内蔵された浄化カラムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、キレート性官能基を有する化合物および金属化合物が多孔質繊維に含まれてなる多孔質繊維複合体であって、前記キレート性官能基を有する化合物が、少なくとも前記多孔質繊維の表面に含まれてなるものである、多孔質繊維複合体に関する。また本発明の浄化カラムは前記多孔質繊維複合体が内蔵されたものである。
【0017】
本発明の多孔質繊維複合体および多孔質繊維複合体が内蔵された浄化カラムについて、以下、具体的に説明する。
【0018】
<多孔質繊維および多孔質繊維複合体>
本発明に用いられる多孔質繊維は、3次元細孔構造を有する。3次元細孔構造とは、3次元的に広がった連続孔を有する構造を指す。
【0019】
本発明では、上記の多孔質繊維に少なくとも次に述べる物質を含有するものを多孔質繊維複合体と称する。すなわち、本発明では、キレート性官能基を有する化合物を少なくとも前記多孔質繊維の表面に有し、さらに金属化合物を含有してなるものを、多孔質繊維複合体と呼称する。本発明における多孔質繊維複合体は、上記の物質を少なくとも含有しているものであるが、さらに本発明により得られる効果を妨げない範囲においてその他の物質を含有していてもよい。
【0020】
本発明において、吸着能を有する物質を担持するとの意味について、吸着能を有する物質が金属化合物である場合を例として説明する。本発明における多孔質繊維が金属化合物を担持するとは、多孔質繊維内部に物理的に保持されている状態を主に指す。ただし、必ずしも金属化合物が多孔質繊維内部に物理的に保持された状態に限られるものではなく、化学的に多孔質繊維内部の構成分子と結合していてもよい。
【0021】
本発明に用いられる金属化合物は、希土類元素の炭酸塩、および第4族酸化物から選ばれる1種類以上を含むことが好ましい。これらの金属化合物は、高い吸着性能を有し、水への溶解性が低く、また、生体内におけるpH変化が小さく、血液と接触した際にも無機イオンが遊離し難く、血液浄化用途に適するという特徴を有する。
【0022】
第4族酸化物のうち、特に好ましいものとしては酸化チタンが挙げられる。酸化チタンは希土類元素の炭酸塩と同様に高い吸着性能を有するものであり、かつ、水への溶解度は低く、pH変化も小さいことから、血液浄化用途に適している。
【0023】
ここで、本発明における血液浄化とは、生体内の血液を体外に誘導し、所定の物質の除去を行った後、再び体内に戻すことをいう。また、血液浄化に用いられる医療デバイスとしては、人工透析で使用する透析膜、あるいは、直接血液と接触し、血液中の有害な物質を吸着する用途で使用する吸着カラムなどがあげられる。
【0024】
本発明に用いられる多孔質繊維の繊維形状は中実形状である。中実形状とすることで、また、繊維内部の形態を吸着に適した多孔質とすることで吸着面積を十分に確保しやすくなり、ひいては血液中に含まれる被吸着物質を効率的に吸着除去しやすくなる。中実繊維の場合、繊維断面の形状は必ずしも真円に限定するものではなく、異形断面でもよい。異形断面形状としては、楕円形、三角形、多葉系などが挙げられる。異形断面とすることで、中実繊維体積当たりの表面積を向上させることができ、吸着性能向上が見込める。一方、中空繊維の場合には、中空繊維の内側と外側で圧力損失が異なる場合などでは、中空繊維内外で被処理液の流量に差が生じ、結果としてカラムの吸着効率の低下を引き起こすことが懸念される。また、中空繊維の内側と外側の圧力損失を同等にするためには、中空繊維の内径およびカラム充填率に大きな制約が生じる。さらに、中空繊維を充填したカラムに血液を流した場合、中空繊維の中空部は、カラム内における中空繊維外部の環境に比べて固定された閉鎖的な環境であり(中空繊維外部の隙間は、繊維がカラム内で動くことで変形する)血栓などが形成しやすい。
【0025】
本発明の多孔質繊維複合体は、キレート性官能基を有する化合物を少なくとも表面に有する。本発明におけるキレート性官能基とは、特定の金属イオンと相互作用して選択的に吸着することができる官能基のことである。キレート性官能基に含まれる窒素、酸素、硫黄、リンなどの電子供与性原子が金属イオンに配位し5員環や6員環のような安定なキレートを形成することで特定の金属イオンを選択的に吸着する。キレート性官能基と除去対象となる金属イオンを下記項目で例示するが、本発明においては、それらの組み合わせに限定されるものではなく、除去対象である金属イオンとの相性を元に適宜選択して用いることができる。本発明に好ましく用いられる金属に対しては、アミノ基、カルボキシル基、ホスフィノ基、チオール基を含む化合物が好んで用いられる。ただし、本発明ではこれらの官能基に限らず、キレート性官能基由来元素を含む官能基はキレート性官能基を指すものとする。
【0026】
このように、金属イオンとキレートを形成する化合物を繊維中に含むことで金属イオンの溶出量を低減することができる。化合物の分子量としては、特に限定されるものではなく低分子、高分子どちらも用いられるが、繊維へ担持し、化合物が溶出しにくいという観点を考慮すると、高分子が好適に用いられる。ここで、高分子とは、重量平均分子量が1,000以上である化合物を指す。重量平均分子量はGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)を用いて測定することができる。低分子や高分子の形状としては、直鎖、分岐、樹状、環状等から適宜選択可能である。多孔質繊維素材、金属イオンの種類に応じて適宜選択されるが、一般的に、エチレンイミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のアミン類およびその高分子量体、アクリル酸等のカルボン酸類およびその高分子量体が好ましく使用される。
【0027】
本発明に用いられる多孔質繊維への、キレート性官能基を有する化合物を含有せしめる方法としては、共有結合、イオン結合などの化学結合を付与することによって行っても良いし、物理的な吸着によって付与してもよい。具体的な方法としては、放射線の照射により表面修飾をすることが好ましい。さらに、放射線の照射によって架橋させることが好ましい。放射線の照射によって架橋させるためには、例えば、金属化合物と、多孔質繊維と、キレート性官能基を有する化合物と、を含有する溶液に放射線照射を行い、多孔質繊維へ化合物を架橋する方法が挙げられる。
【0028】
ここで用いられる放射線は電磁放射線、粒子放射線等、材料によって適宜選択されるが、滅菌も兼ねることができるため、特にγ線が好ましい。
【0029】
また、金属化合物と、多孔質繊維と、キレート性官能基を有する化合物を混和するために用いられる液は、ラジカル生成の観点で、好ましくは極性溶媒が用いられ、より好ましくは水が用いられる。
【0030】
また、キレート性官能基を有する化合物、多孔質繊維、および金属化合物を溶液に混和する順番は特に問わないが、多孔質繊維複合体の少なくとも表面にキレート性官能基有する化合物を有せしめるためには、金属化合物を含有する多孔質繊維を先に作製しておき、これと、キレート性官能基を有す化合物を含む溶液を混和する方法が好ましい。その上で、放射線を照射することにより、少なくとも表面にキレート性官能基を有する化合物を有する多孔質繊維複合体を効率的に得ることができる。
【0031】
ここで、キレート性官能基を有する化合物を液に先に混和する場合、この液は水を用いることがより好ましいことは上述のとおりである。この際、キレート性官能基を有する化合物の水溶液濃度は、得られた多孔質繊維複合体から金属化合物の金属イオンの溶出を低減するために、0.01%以上であることが好ましく、0.1%以上であることがより好ましく、0.5%以上であることがさらに好ましい。一方で、多孔質繊維複合体が望ましい吸着性能を発揮するためは、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
放射線照射時の線量は、化合物の架橋による固定化が十分に行われるように、10KGy以上であることが好ましく、15KGy以上であることがより好ましく、20KGy以上であることがさらに好ましい。一方、繊維の破壊を抑制するために、100KGy以下であることが好ましく、50KGy以下であることがより好ましく、40KGy以下であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明に用いられる多孔質繊維の表面の開孔率は、0.1%以上30.0%以下の範囲内であることが好ましい。
【0034】
多孔質繊維の表面の開孔率は、被処理液中の被吸着物質が多孔質繊維複合体の内部にまで拡散しやすいため、0.1%以上であることが好ましく、0.5%以上であることがより好ましく、1.0%以上であることがさらに好ましい。一方で、多孔質繊維の表面の開孔率は、繊維強度や適切な表面粗さを維持し、多孔質繊維複合体の外への金属の溶出や、多孔質繊維複合体の細孔内部で発生した微粒子などが外部へ流出することを低減するため、30%以下であることが好ましく、16%以下であることがより好ましく、12%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明に用いられる多孔質繊維の表面の開孔率は、次の方法により測定できる。まず、多孔質繊維を十分に湿らせた後に液体窒素に浸し、細孔内の水分を液体窒素で瞬間的に凍結させる。その後、速やかに多孔質繊維を折り、多孔質繊維の断面を露出させた状態で、0.1torr以下の真空乾燥機内で凍結させた水分を除去して乾燥試料を得る。その後、スパッタリングにより、白金(Pt)や白金-パラジウム(Pt-Pd)などの薄膜を多孔質繊維の表面に形成して、観察試料とする。該試料の断面を走査型電子顕微鏡(たとえば株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、S-5500)にて50,000倍で観察し、像をコンピュータに取り込む。取り込んだ画像のサイズは640ピクセル×480ピクセルがよい。SEM像を任意の位置で6μm×6μmの範囲に切り取り、画像処理ソフトにて画像解析を行う。二値化処理によって構造体部分を明輝度に、それ以外の部分が暗輝度となるように閾値を決め、明輝度部分を白、暗輝度部分を黒とした画像を得る。画像内のコントラストの差が小さいために、構造体部分とそれ以外の部分を分けられない場合、コントラストの範囲が同程度の部分で画像を切り分けてそれぞれ二値化処理をした後に、元のとおりに繋ぎ合わせて一枚の画像に戻す。または、構造体部分以外を黒で塗りつぶして画像解析をしてもよい。画像にはノイズが含まれ、連続したピクセル数が5個以下の暗輝度部分については、ノイズと孔の区別がつかないため、構造体として明輝度部分として扱う。ノイズを消す方法としては、連続したピクセル数が5以下の暗輝度部分をピクセル数の計測時に除外する。または、ノイズ部分を白く塗りつぶしてもよい。暗輝度部分のピクセル数を計測し、解析画像の総ピクセル数に対する百分率を算出して開孔率とする。30枚の画像で同じ測定を行い、平均値を算出する。
【0036】
本発明に用いられる金属化合物は、平均粒径が1μm以上1,000μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0037】
前記金属化合物の平均粒径は、金属化合物が細孔を通過して血液等の被処理液中に溶出することを防ぐため、細孔径より大きい方が好ましく、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。
【0038】
一方、金属化合物の平均粒径は小さいほど、カラムなどに紛粒体を多く充填でき、全比表面積を大きく取れるため吸着効率を向上できる。また、紡糸する際、口金が詰まりにくく、紡糸性能が低下しにくくなる。このため、金属化合物の平均粒径は1,000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。
【0039】
なお、金属化合物が一次粒子の凝集体である場合、一次粒子自体は上記範囲よりも小さい粒径を有していてもよく、凝集体が上記範囲内にあればよい。
【0040】
平均粒径の測定方法としては、まず、多孔質繊維表面の開孔率の測定方法と同様の方法で、多孔質繊維複合体を用いて観察試料を作製する。該試料の断面を走査型電子顕微鏡(たとえば株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、S-5500)にて観察する。走査型電子顕微鏡(400倍)で任意の繊維断面の電子顕微鏡像を印刷したものの上に透明シートを重ね、黒いペンなどを用いて金属化合物を黒く塗りつぶす。また、定規と黒いペンを用いて、スケールバーも正確に写す。その後、透明シートを白紙にコピーすることにより、金属化合物は黒、非金属化合物部分は白と明確に区別することができる。その後、画像解析ソフト「Image J」を用いてスケールバーを取り付け、金属化合物の粒径を求める。粒径は直交する2方向の最大径を求め、その平均値を粒径として算出する。なお、多孔質繊維複合体断面の電子顕微鏡像は任意の多孔質繊維複合体断面を30個撮影し、平均値で算出するものとする。
【0041】
本発明において、多孔質繊維複合体内部に担持された金属化合物について、多孔質繊維複合体の繊維横断面における、前記金属化合物の面積占有率は、カラム体積の観点で、3%以上であることが好ましい。5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることがさらにより好ましい。金属化合物の面積占有率が3%以上であれば、カラム化した際、十分な吸着性能を発揮するために必要な多孔質繊維複合体の量を少なくすることができる。その結果、カラム体積を小さくすることが可能となる。
一方、金属化合物の面積占有率は、繊維強度の観点で、80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、60%以下であることがさらに好ましい。金属化合物の面積占有率が80%以下であれば、十分な多孔質繊維複合体の繊維強度が得られる。その結果、紡糸をし易くなる。また、金属化合物は繊維素材に担持されているために、外部圧力により繊維が破損した際、繊維断面から金属化合物が剥離することを抑制しやすい。
【0042】
金属化合物の多孔質繊維複合体横断面における面積占有率は以下の方法で測定することができる。
【0043】
まず、表面開孔率測定方法と同様の方法で観察試料を作製する。該試料の断面を走査型電子顕微鏡(たとえば株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、S-5500)にて観察する。走査型電子顕微鏡(400倍)で任意の繊維断面の電子顕微鏡像を印刷したものの上に透明シートを重ね、黒いペンなどを用いて金属化合物を黒く塗りつぶす。また、定規と黒いペンを用いて、スケールバーも正確に写す。その後、透明シートを白紙にコピーすることにより、金属化合物は黒、非金属化合物部分は白と明確に区別することができる。その後、画像解析ソフト「Image J」を用いてスケールバーを取り付け、Analyze Particlesにて金属化合物の総面積を求める。その後、金属化合物が占める面積割合を以下式1にて求める。なお、多孔質繊維複合体断面の電子顕微鏡像は任意の多孔質繊維複合体断面を30個撮影し、平均値で算出するものとする。
式1 金属化合物の面積占有率(%)=金属化合物総面積/繊維断面積×100%
本発明に用いられる多孔質繊維の素材としては、特に限定されるものではないが、成形加工のし易さやコストなどの観点から有機物が好適に用いられる。従って、本発明に用いられる多孔質繊維は、ポリメチルメタクリレート(以下、PMMAという)、ポリアクリロニトリル(以下、PANという)ポリスルホン(以下、PSfという)、ポリエーテルスルホン(以下、PESという)、およびセルロースから選ばれる1種以上の化合物を含むことが好ましい。より具体的には、PMMA、PAN、PSf、PES、ポリアリールエーテルスルホン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、セルロース、セルローストリアセテート、エチレン-ビニルアルコール共重合体等が好適に用いられる。中でも、非晶性の高分子であり、タンパク質を吸着できる特性を有する素材を含むことが好ましく、例えば、PMMA、PAN等が挙げられる。PMMA、PANは、また、厚み方向に均一構造を有する繊維の代表例であり、均質構造で孔径分布がシャープな構造を得やすいため好ましい。特にPMMAは、生体適合性に優れ、血液浄化に用いられた際に各種ショックを引き起こす虞が少ないため好ましい。また、成形加工性やコストに優れ、透明性も高いため、多孔質繊維を外部から見た際に、繊維内部も比較的観察しやすく、ファウリング状態を評価しやすく好ましい。ここでファウリングとは、タンパク質や有機化合物が繊維表面、もしくは内部に付着することを指す。
【0044】
本発明の多孔質繊維複合体は、金属イオンの溶出量が0.1mg/cm以下であることが好ましい。本単位の意味するところは、多孔質繊維複合体1cmあたりの金属イオンの溶出量が0.1mg以下であることである。本発明での金属イオンの溶出量は後述のとおり測定した際の値と定義する。金属イオンの溶出量は0.5mg/cm以下であることがより好ましく、0.3mg/cm以下であることがさらに好ましく、0.2mg/cm以下であることがさらにより好ましく、0.1mg/cm以下であることが特に好ましい。多孔質繊維複合体からの金属イオンの溶出量が0.1mg/cm以下であることにより、浄化カラムなどの医療用とした際、多孔質繊維複合体からの金属イオンの溶出により生体環境が乱される虞を低減できる。
【0045】
本発明における多孔質繊維複合体の金属イオンの溶出量の測定方法は、以下の通りである。エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを添加した牛血液から、遠心分離によって牛血漿を調整する。該牛血漿について、総タンパク量(TP)が6.5±0.5g/dLとなるように調整した。尚、牛血漿は、採血後5日以内のものを用いた。上記牛血漿400mLあたりに、31.4mgのリン酸一水素ナトリウム(NaHPO)および13.8mgのリン酸二水素カリウム(KHPO)を溶解し、溶液を調製した。
【0046】
多孔質繊維複合体を11cmにカットし、200本を透析液入口および透析液出口を有する円筒状のプラスチックケースに挿入した。両端部をエポキシ樹脂で封止して、ミニモジュールを作成し、後述の各種方法でγ線処理を行った。得られたミニモジュールに上記の方法で調製した牛血漿30mLを、2mL/minの流速で37℃、4時間循環させた。4時間循環後、循環した牛血漿を回収し、撹拌した。その後、牛血漿を(株)東レリサーチセンターへ送付し、血漿中のネオジムイオン濃度測定を委託した。誘導結合プラズマ-質量分析(ICP-MS)により算出された血漿中の金属イオン濃度を用いて、下記式1にて単位体積あたりの溶出ネオジム量(溶出量金属イオン量)を計算した。
式1: 多孔質繊維複合体の溶出金属イオン量〔mg/cm〕=血漿中の金属イオン濃度〔mg/L〕×血漿体積〔L〕/多孔質繊維複合体体積〔cm
また、本発明の多孔質繊維複合体は、被吸着物質の吸着性能が3.0mg/cm以上であることが好ましく、3.5mg/cm以上であることがより好ましく、4.0mg/cm以上であることがさらに好ましく、7.0mg/cm以上であることがさらにより好ましく、15.0mg/cm以上であることが特に好ましい。多孔質繊維複合体の吸着性能が3.0mg/cm以上であることにより十分な被吸着物質の除去が可能となり、浄化カラムに充填する多孔質繊維複合体の量を低減できる。そのため、医療用においては、体外に持ち出す血液の量を減らしやすくなる。
【0047】
本発明における多孔質繊維複合体の吸着性能の測定方法は以下のとおりである。適量の多孔質繊維複合体を、37℃で4時間振とうし、反応させる。かかる4時間の反応の後、反応液を9000rpmで5分間遠心分離し、上澄みを回収する。上澄みをモリブデン酸直接法により測定する。モリブデン酸直接法とは、血漿中のリンとモリブデン酸塩が結合し、紫外吸収を有するリンモリブデン酸となることを利用し、吸収量から血漿中のリン濃度を算出する手法である。このように、上澄み中のリン濃度を測定し、終濃度Ce(mg/dL)とする。実験開始時の溶液も同様にリン濃度を測定する。その後、下記式2にて多孔質繊維複合体1cmあたりのリン吸着性能を計算する。なお、本式から求めたリン吸着性能は吸着飽和してない場合の値となる。
式2: 多孔質繊維複合体のリン吸着性能〔mg/cm〕=〔(Cs(mg/dL)-Ce(mg/dL))×0.5(dL)〕/多孔質繊維複合体体積(cm
ここで被吸着物質は、医療用途を一例にあげた場合、血液内に存在する物質であって、物質の性質そのものが有害である物質および過剰量存在することにより有害な作用を示す物質を言う。低分子化合物としては、リン酸、尿素、クレアチニン等が挙げられる。また、高分子化合物としては、サイトカイン、HMGB1、腫瘍産生タンパク質、βミクログロブリン(β2MG)、α1ミクログロブリン(α1MG)等を挙げることができる。本発明の多孔質繊維複合体は、特に血液中のリンの吸着除去に好適に用いられる。
【0048】
本発明の多孔質繊維複合体をリンの吸着除去に用いる場合、次の関係を満たすことが好ましい。すなわち、本発明の多孔質繊維複合体は、リン吸着性能を1mg/cmとしたときの前記金属イオンの溶出量が、0.01mg/cm以下の範囲内であることが好ましい。本発明ではリン吸着性能を後述のとおり測定した際の値と定義する。
【0049】
溶出金属イオン量とリン吸着性能の比(溶出金属イオン量/リン吸着性能)は、0.1以下であり、より好ましくは0.05以下であり、さらに好ましくは0.01以下である。多孔質繊維複合体の溶出金属イオン量とリン吸着性能の比が0.05以下であることにより、本発明の多孔質繊維複合体が内蔵された浄化用カラムとした際、多孔質繊維複合体からの金属イオンの溶出により生態環境が乱される虞が少なく、かつ多孔質繊維複合体を多く充填しなくても十分なリン吸着除去の効果が得られやすくなる。そのため、血液浄化に使用可能かつ、十分なリン除去のために体外に持ち出す血液量を減らしやすくなり、血液浄化に好適なカラムを作製することができる。本発明における多孔質繊維複合体のリン吸着性能の測定方法は上記のとおりである。
【0050】
本発明において、多孔質繊維複合体に含まれるキレート性官能基量は、負電荷もしくは正電荷の官能基を有する色素を用いた染色法により定量可能である。当該方法は、再表2014/168198号公報、再表2016/190407において確認できる。
【0051】
用いられる負電荷の官能基を有する色素の種類は、特に限定されるものではないが、水溶性であることが好ましく、オレンジII、メチルオレンジ、メチルレッド、チモールブルー、ダイサルフィンブルー、ルモガリオン、ヒドロキシナフトールブルー及びクマシーブリリアントブルー等があげられる。
【0052】
用いられる正電荷の官能基を有する色素の種類は、特に限定されるものではないが、水溶性であることが好ましく、トルイジンブルーO、マラカイトグリーン、メチレンブルー、クリスタルバイオレット及びメチルバイオレット等があげられる。
【0053】
具体的に、本発明における、負電荷の官能基を有する色素としてオレンジIIを用いた染色方法を以下に記す。
サンプル質量10mgに対し、0.5mLのオレンジII酢酸干渉溶液(pH4.0)で37℃、1時間染色した。余分なオレンジII溶液を拭き取り、1mLの酢酸干渉溶液(pH4.0)で37℃、10分間洗浄した。1mLの水で37℃、10分間洗浄を2回行った。30mM水酸化ナトリウム水溶液で37℃、30分処理して、正電荷の官能基にイオン結合した負電荷の官能基を有する色素を抽出した。抽出液を35mM塩酸で中和し、482nmと550nmの吸光度を紫外・可視分光光度計(U-3900、日立ハイテクサイエンス)にて測定し、482nmと550nmの吸光度を差し引いた。別に作製した検量線を用いて、吸光度からサンプルの正電荷の官能基量を定量した。希釈が必要な場合は抽出液と同量の35mM塩酸を加えた後、30mM水酸化ナトリウム水溶液/35mM塩酸=1:1の混合液を加えた。ここで、正電荷の官能基が1molに対して、オレンジIIが1mol結合するとして、本発明では、オレンジIIの定量モル数を正電荷の官能基量とした。
【0054】
多孔質繊維複合体に含まれるキレート性官能基量は、得られた多孔質繊維複合体から金属化合物の金属イオンの溶出を低減するために、5mmol/g以上であることが好ましく、10mmol/g以上であることがより好ましく、15mmol/g以上であることがさらに好ましい。一方、浄化カラムに充填する多孔質繊維複合体の量を低減し、医療用においては、体外に持ち出す血液の量を減らしやすくするため30mmol/g以下であることが好ましく、25mmol/g以下であることがより好ましく、20mmol/g以下であることがさらに好ましい。
【0055】
本発明の多孔質繊維複合体は、金属化合物をポリマーと混合された形態とすることが物理的に安定であり、かつ簡便に製造できるため好ましい。この場合の金属化合物の添加率は、混合等されるポリマーに対し5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上である。また、金属化合物の添加率は、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。金属化合物の添加率が5質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であると、カラム化した際、十分なリン吸着のために必要な多孔質繊維複合体の量を少なくすることができ、その結果、カラム体積を小さくすることができ、体外に持ち出す血液量を減らすことができる。一方、金属化合物の添加率が80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下であると、十分な多孔質繊維複合体の繊維強度を得ることができ、紡糸性が良好となりやすい。金属の添加率は下記式3にて計算することができる。
式3: 添加率%:[添加した金属化合物質量]/(添加した金属化合物質量+原料ポリマー質量)×100
本発明に用いられる多孔質繊維複合体は、吸着効率上昇のため、多孔質繊維の内部に金属化合物を担持することが好ましいが、多孔質繊維表面に担持していてもよい。本発明の多孔質繊維複合体が、血液浄化用途に用いられる場合、使用時の血圧低下を防ぐため、可能な限り体外で循環する血液量を減少させることが必要である。そのため、多孔質繊維の単位体積あたりの吸着性能が高い方が好ましい。多孔質繊維の表面に加えて、内部にも金属化合物を担持させることで、被吸着物質を含む血液と金属化合物が効率的に接触するため、単位体積あたりの吸着性能を増大し、効率的に除去することが可能となる。
【0056】
多孔質繊維の内部に金属化合物を担持させる方法としては、所定濃度に調製したポリマー液中に金属化合物を添加し、一定の回転速度で混合させる方法が挙げられる。あるいは、最初からポリマー原料、金属化合物、およびポリマー原料を溶解する溶媒を同じ容器にいれ、回転子を回転しながら混合する方法が挙げられる。あるいは、すでに所定濃度に溶解したポリマー溶液に金属化合物を吹きつけながら添加する方法が挙げられる。金属化合物を均一にポリマー中に分散することができさえすれば、上記方法に限ることはない。また、室温でゲル化するポリマーの場合には、ポリマーの溶解効率をあげるために、ゲル化を抑制する温度範囲において加熱するほうが好ましい。
【0057】
本発明の多孔質繊維複合体に用いられる中実繊維は、中実繊維1本の直径(繊維径)が50~1000μmであることが好ましい。前記繊維径は、50μm以上が好ましく、より好ましいのは100μm以上、さらに好ましいのは150μm以上である。また、前記繊維径は、1000μm以下が好ましく、より好ましいのは800μm以下、さらに好ましいのは500μm以下である。前記繊維径が50μm以上、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは150μm以上の場合、粒子添加率を高くしても繊維強度が低下しにくくなり、生産性が向上しやすくなる。一方、前記繊維径が1000μm以下、より好ましくは800μm以下、さらに好ましくは500μm以下の場合、カラム内に充填する多孔質繊維複合体の充填率を高めやすく、吸着性能が向上しやすくなる。
【0058】
本発明の多孔質繊維複合体に用いられる中実繊維の繊維径の測定方法は次のとおりである。すなわち、カラム内に充填された中実繊維のうち、任意に50本を抽出し、洗浄する。洗浄した後、洗浄液を純水で完全に置換する。中実繊維をスライドグラスとカバーガラスの間に挟む。投影機(たとえば株式会社ニコン製V-10A)を用いて同一の中実繊維について任意に2箇所ずつ中実繊維の外径(最外周の直径)を測定する。その2箇所の外径の平均値を採り、小数点以下第1位を四捨五入する。尚、充填された中実繊維の本数が50本未満である場合には、その全ての繊維を測定して、同様に平均値を採る。また、多孔質繊維の中実繊維の断面が真円以外の場合には、その中実繊維の断面の形状に内接する円の直径をa、外接する円の直径をbとして、(a×b)0.5をその繊維の直径とする。
【0059】
<金属化合物>
本発明の金属化合物とは、金属元素を有していればよく、例えば酸化物、水酸化物、炭酸化合物などが含まれる。前記希土類元素の炭酸塩又は第4族酸化物以外の成分として、希土類の酸化物、希土類の水和酸化物などを含んでもよい。これらの金属は単独で用いてもよいし、二種類以上の混合物として用いてもよい。
【0060】
本発明の金属化合物は、前記希土類元素が、ランタン、セリウム、プラセオジム、サマリウム、およびネオジムから選ばれる1種類以上の元素を含むことが好ましい。この場合、希土類元素の炭酸塩は炭酸ランタン、炭酸セリウム、炭酸プラセオジム、炭酸ネオジムおよび炭酸サマリウムである。さらに好ましいのは吸着性能が高い炭酸ネオジムおよび炭酸サマリウムである。
【0061】
本発明の金属化合物は、20℃の水100gへの溶解度が10mg以下であることが好ましい。前記溶解度は、好ましくは5mg以下であり、より好ましくは2mg以下であり、さらに好ましくは1mg以下である。
【0062】
本発明の金属化合物は、平均粒径が1μmを超え1000μm以下であることが好ましい。前記平均粒径は、金属化合物が可能な限り小さな粒子であることが好ましいことから、1000μm以下が好ましく、800μm以下がより好ましく、500μm以下が特に好ましい。前記平均粒径が1000μm以下であると、例えば、金属を多孔質繊維の内部に担持して用いる場合、紡糸の際に口金が詰まりにくく、紡糸性能が低下しにくくなるため好ましい。また、前記平均粒径が小さいほど比表面積が大きく、吸着効率が高くなりやすい。しかし、前記平均粒径が多孔質繊維の細孔より小さい場合、金属が細孔を通過して血液等の被処理液中に溶出する可能性があるため、細孔径より大きい方が好ましく、1μmを超えることが好ましいといえる。しかし、金属化合物が一次粒子の凝集体の場合、一次粒子はこれに限ることはない。
【0063】
本発明における粒径は、上述した測定方法と同様の方法で求めることができる。
【0064】
本発明の金属化合物は、特に、血液浄化用途においては、血液中からのリン酸除去を目的した場合等に吸着剤として好んで使用される。ここで、吸着剤とは吸着性能を有する化合物、すなわち、後述する吸着性能の測定において、溶液中の被吸着物質濃度の減少が認められるものが好ましい。
【0065】
また、かかる金属化合物が混合されたポリマーを繊維形状に加工するときの加工法としては、乾式紡糸法、湿式紡糸法、もしくは乾式と湿式を組み合わせた乾湿式紡糸法があり、特に限定するものではない。凝固により形成された繊維の形状は、使用する口金形状によって定まり、主な形状としては中空繊維状や中実繊維状がある。
【0066】
本発明の金属化合物は、前述の多孔質繊維の内部に担持して用いられることが好ましい。
【0067】
<吸着カラム>
本発明の吸着カラムは、本発明の多孔質繊維複合体が内蔵されたものである。特に、血液中からのリン酸の除去に好適に用いられる。
【0068】
次に本発明の用いられる多孔質繊維複合体の作製例を挙げる。
【0069】
<紡糸方法>
多孔質繊維の原料となるポリマーを適当な溶媒に溶かした後、選定した金属の粒子を所定量添加し、紡糸原液を調製する。溶媒は、溶解するポリマーに応じて適宜選択されるが、一般的に、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサノン、キシレン、テトラリン、シクロヘキサノン、四塩化炭素などが使用されている。例えばポリマーとしてPMMAを用いる場合は、ジメチルスルホキシド(DMSO)が好ましく使用される。
【0070】
紡糸原液の粘度は、低すぎると、原液の流動性が高く目的の形状を維持しにくい場合がある。そのため、紡出口金部の温度での原液粘度の下限としては、好ましくは10poise、より好ましくは90poise、さらに好ましくは400poise、特に好ましくは800poiseとなる。一方で、紡糸原液の粘度が高すぎる場合には、原液吐出時の圧力損失の増大によって吐出の安定性が低下しやすくなったり、原液の混合が困難になる場合があったりする。そのため、紡糸口金部の温度での原液粘度の上限としては、好ましくは100000poise、より好ましくは50000poiseとなる。
【0071】
紡糸原液は、円形の原液吐出口をもつ口金、もしくは、異形断面繊維を紡糸する場合はその断面形状に合わせた形状の原液吐出口をもつ口金から吐出され、凝固浴にて中実の繊維形状に凝固される。凝固浴は通常、水やアルコールなどの凝固剤、または紡糸原液を構成している溶媒と凝固剤との混合物からなる。また、凝固浴の温度をコントロールすることにより、多孔質繊維の空隙率を変化させることができる。空隙率は紡糸原液の種類等によって影響を受け得るために、凝固浴の温度も適宜選択されるものであるが、一般に凝固浴温度を高くすることにより、空隙率を高くすることが出来る。この機序は正確には明らかではないが、原液からの脱溶媒と凝固収縮との競争反応で、高温浴では脱溶媒が速く、収縮する前に凝固固定されるからではないかと考えられる。しかしながら、凝固浴温度が高くなりすぎると、細孔径が過大になるため、例えば、基材としてPMMAを含む中実繊維で、かつ内管に気体を入れる場合の凝固浴温度は39℃以上が好ましく、42℃以上がより好ましい。一方で、前記凝固浴温度は50℃以下が好ましく、より好ましくは46℃以下である。
【0072】
次いで、凝固した中実繊維に付着している溶媒を洗浄する工程を通過させる。中実繊維を洗浄する手段は特に限定されないが、多段の水を張った浴(水洗浴という)中に中実繊維を通過させる方法が好ましく用いられる。水洗浴中の水の温度は、繊維を構成するポリマーの性質に応じて決めればよい。例えばPMMAを含む繊維である場合、30~50℃が用いられる。
【0073】
また、水洗浴を通過した後の中実繊維における細孔径を保持するために、保湿成分を付与する工程を入れても良い。ここでいう保湿成分とは、中実繊維の湿度を保つことが可能な成分、または、空気中にて、中実繊維の湿度低下を防止することが可能な成分をいう。保湿成分の代表例としてはグリセリンやその水溶液などがある。
【0074】
水洗や保湿成分付与の終わった後、収縮性の高い中実繊維の寸法安定性を高めるため、加熱した保湿成分の水溶液が満たされた浴(熱処理浴という)の工程を通過させることも可能である。熱処理浴には加熱した保湿成分の水溶液が満たされており、中実繊維がこの熱処理浴を通過することで、熱的な作用を受けて収縮し、以後の工程で収縮しにくくなり、繊維構造を安定させることが出来る。このときの熱処理温度は、多孔質繊維の素材によって異なるが、PMMAを含む繊維の場合には75℃以上が好ましく、82℃以上がより好ましい。また、90℃以下が好ましく、86℃以下がより好ましい温度として設定される。
【実施例
【0075】
本発明の実施態様の一例を以下実施例において示す。
【0076】
(1)吸着能を有する物質の溶出量の測定方法
本発明では次のようにして吸着能を有する物質である金属イオンの溶出量を測定した。本実施例では、金属イオンの溶出量として、溶出したネオジムイオンの量(溶質ネオジム量)を次の方法により求めた。
【0077】
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを添加した牛血液から、遠心分離によって牛血漿を得た。該牛血漿について、総タンパク量(TP)が6.5±0.5g/dLとなるように調整した。尚、牛血漿は、採血後5日以内のものを用いた。
【0078】
上記牛血漿400mLあたりに、31.4mgのリン酸一水素ナトリウム(NaHPO)および13.8mgのリン酸二水素カリウム(KHPO)を溶解し、溶液を調製した。実施例1、比較例1、2に示す各種の多孔質繊維複合体、及び多孔質繊維を11cmにカットし、200本を透析液入口および透析液出口を有する円筒状のプラスチックケースに挿入した。両端部をエポキシ樹脂で封止して、ミニモジュールを作成し、後述の各種方法でγ線処理を行った。得られたミニモジュールに上記の方法で調製した牛血漿30mLを、2mL/minの流速で37℃、4時間循環させた。4時間循環後、循環した牛血漿を回収し、撹拌した。その後、牛血漿中のネオジムイオン濃度を測定した。誘導結合プラズマ-質量分析(ICP-MS)により算出された血漿中の金属イオン濃度を用いて、下記式4にて単位体積あたりの溶出ネオジム量(金属イオンの溶出量)を計算した。
式4: 多孔質繊維複合体の溶出金属イオン量〔mg/cm〕=血漿中の金属イオン濃度〔mg/L〕×血漿体積〔L〕/多孔質繊維複合体体積〔cm
(2)多孔質繊維複合体の吸着性能の評価(リン吸着性能の測定方法)
本発明の多孔質繊維複合体の吸着性能を評価するため、被吸着物質としてリンを選び、リン吸着性能を次の方法により測定した。リン吸着性能は3.0mg/cm以上であることが好ましく、3.5mg/cm以上であることがより好ましく、4.0mg/cm以上であることがさらに好ましく、7.0mg/cm以上であることがさらにより好ましく、15.0mg/cm以上であることが特に好ましい。多孔質繊維複合体の吸着性能が3.0mg/cm以上であることにより十分な被吸着物質の除去が可能となり、浄化カラムに充填する多孔質繊維複合体の量を低減できる。
【0079】
実施例1、比較例1、2に示す各種の多孔質繊維複合体及び多孔質繊維50cmを、上記の方法で調製した牛血漿中で37℃、4時間振とうし、反応させた。かかる4時間の反応の後、反応液を9000rpmで5分間遠心分離し、上澄みを回収した。上澄みをモリブデン酸直接法により測定した。上澄み中のリン濃度を測定し、終濃度Ce(mg/dL)とする。実験開始時の溶液も同様にリン濃度を測定した。実際の測定は、長浜ライフサイエンスラボラトリーに委託した。
その後、下記式5にて多孔質繊維複合体1cmあたりのリン吸着性能を計算した。なお、本式から求めたリン吸着性能は吸着飽和してない場合の値となる。
式5: 多孔質繊維複合体のリン吸着性能〔mg/cm〕=〔(Cs(mg/dL)-Ce(mg/dL))×0.5(dL)〕/多孔質繊維複合体体積(cm
(3)多孔質繊維複合体に含まれるキレート性官能基量の測定方法
サンプル質量10mgに対し、0.5mLのオレンジII酢酸干渉溶液(富士フイルム和光純薬株式会社)(pH4.0)で37℃、1時間染色した。余分なオレンジII溶液を拭き取り、1mLの酢酸干渉溶液(pH4.0)で37℃、10分間洗浄した。1mLの水で37℃、10分間の洗浄を2回行った。30mM水酸化ナトリウム水溶液で37℃、30分処理して、正電荷の官能基にイオン結合した負電荷の官能基を有する色素を抽出した。抽出液を35mM塩酸で中和し、482nmと550nmの吸光度を紫外・可視分光光度計(U-3900、日立ハイテクサイエンス)にて測定し、482nmと550nmの吸光度を差し引いた。別に作製した検量線を用いて、吸光度からサンプルの正電荷の官能基量を定量した。希釈が必要な場合は抽出液と同量の35mM塩酸を加えた後、30mM水酸化ナトリウム水溶液/35mM塩酸=1:1の混合液を加えた。ここで、正電荷の官能基が1molに対して、オレンジIIが1mol結合するとして、本発明では、オレンジIIの定量モル数を正電荷の官能基量とした。
【0080】
[実施例1]
<芯液紡糸原液調製>
まず、18質量%PMMA原液の調製を行った。質量平均分子量が40万のシンジオタクティック-PMMA(syn-PMMA、三菱レイヨン株式会社製、“ダイヤナール”(登録商標)BR-85)を40.7質量部、質量平均分子量が140万のsyn-PMMA(住友化学株式会社製、“スミペックス”(登録商標)AK-150)を25.9質量部、質量平均分子量が50万のアイソタクティック-PMMA(iso-PMMA、東レ株式会社製)を13.4質量部をジメチルスルホキシド(DMSO)420質量部と混合した。上記得られた紡糸原液500gに、炭酸ネオジムを250g添加し、該金属化合物が33.3質量%含まれた炭酸ネオジム/PMMA原液を調製し、110℃で5時間撹拌し、芯液とした。
【0081】
<鞘液紡糸原液調製>
重量平均分子量が40万のsyn-PMMAを122.1質量部、重量平均分子量が140万のsyn-PMMAを77.8質量部、重量平均分子量が50万のiso-PMMA40.1質量部をジメチルスルホキシド760質量部と混合し、110℃で8時間撹拌し紡糸原液を調製した。
【0082】
<紡糸>
外径/内径=2.1/1.95mmφの環状スリット型口金を用いた。口金は100℃に加温し、スリット部から鞘液を1.65g/minの割合で、中心部から、芯液を2.76g/minの割合で吐出した。吐出した原液を、空中部分を500mm走行させた後、凝固浴に導いた。凝固浴には水を用いており、水温(凝固浴温度)は42℃であった。繊維は、水洗浴にて洗浄し、保湿剤としてグリセリンを70質量%含む水溶液から成る浴槽に導いた後、温度を84℃とした熱処理浴内を通過させて30m/minでカセに巻き取った。
【0083】
得られた芯鞘型繊維を洗浄した後、洗浄液を純水で完全に置換し、スライドグラスとカバーガラスの間に挟み、投影機(たとえばNikon社製V-10A)を用いて同一の繊維について任意に2箇所ずつ繊維の外径(最外周の直径)を測定してその平均値を採り、小数点以下第1位を四捨五入し、繊維径とした。断面外径がφ185μmであって、金属化合物として、炭酸ネオジムを含有する、中実形状の多孔質繊維が得られた。
【0084】
上記で得られた多孔質繊維複合体により上記の方法で、ミニモジュールを作製した。その後、1質量%のポリエチレンイミン(PEI、質量平均分子量1万、和光純薬株式会社製)水溶液を充填して、25kGyにてγ線照射した。放射線処理した膜は、再度蒸留水で洗浄した。上記で得られた多孔質繊維複合体を内蔵したミニモジュールを用いて溶出イオン量評価を実施した。上記に示した(1)と同様の方法でネオジムイオン濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0085】
上記で得られた多孔質繊維複合体のリン吸着性能評価を実施した。上記に示した(2)と同様の方法でリン吸着性能を測定した。結果を表1に示す。
【0086】
上記で得られた多孔質繊維複合体のキレート性官能基量評価を実施した。上記に示した(3)と同様の方法でキレート性官能基量を測定した。結果を表1に示す。
【0087】
[比較例1]
実施例1と同様な原液組成および口金で紡糸した。金属化合物として、炭酸ネオジムを含有する、中実形状の多孔質繊維を内蔵したミニモジュールを作製し、純水を充填して、25kGyにてγ線照射した。放射線処理した膜は、再度蒸留水で洗浄した。
【0088】
上記で得られたミニモジュールについて、実施例1同様に、測定例で示した(1)と同様の方法でネオジムイオン濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0089】
また、上記に示した(2)と同様の方法でリン吸着性能を、(3)と同様の方法でキレート性官能基量を測定した。結果を表1に示す。
【0090】
[比較例2]
実施例1と同様な原液組成および口金で紡糸した。その際、口金スリット部から吐出する芯の吐出量を0g/minとした。得られた多孔質繊維を、実施例1と同様の方法でγ線処理した。
【0091】
得られたPMMA繊維について、上記に示した(2)と同様の方法でリン吸着性能を測定した。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】