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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】水性グラビアインキおよびその利用
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/102 20140101AFI20230110BHJP
   C09D 11/106 20140101ALI20230110BHJP
   B41M 1/10 20060101ALI20230110BHJP
   C09B 61/00 20060101ALN20230110BHJP
【FI】
C09D11/102
C09D11/106
B41M1/10
C09B61/00 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019008321
(22)【出願日】2019-01-22
(65)【公開番号】P2020117589
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 紀人
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-179971(JP,A)
【文献】特開2011-226047(JP,A)
【文献】特開2002-249696(JP,A)
【文献】特開2011-225863(JP,A)
【文献】特開2005-298770(JP,A)
【文献】特開2006-335922(JP,A)
【文献】特開平06-080930(JP,A)
【文献】国際公開第18/199085(WO,A1)
【文献】特開2018-095831(JP,A)
【文献】国際公開第17/021040(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/102
C09D 11/106
B41M 1/10
C09B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然染料(A)および水性バインダー樹脂(B)を含む水性グラビアインキであり、
当該インキの不揮発成分総質量中のバイオマス度が40質量%以上であり、
前記水性バインダー樹脂(B)が、水性ポリウレタン樹脂(B1)および/または水性ビニル系樹脂(B2)を含み、
前記水性ポリウレタン樹脂(B1)の酸価が、10~60mgKOH/gである、水性グラビアインキ。
【請求項2】
水性バインダー樹脂(B)水性ポリウレタン樹脂(B1)が、セバシン酸および/またはコハク酸由来の構造を有する、請求項に記載の水性グラビアインキ。
【請求項3】
天然染料(A)が、ベニコウジ由来の染料を含む、請求項1又は2に記載の水性グラビアインキ。
【請求項4】
グラビアインキが、更に、紫外線吸収剤を含む、請求項1~3いずれかに記載のグラビアインキ。
【請求項5】
基材上に、請求項1~いずれかに記載の水性グラビアインキからなる印刷層を具備した印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然染料を用いた水性グラビアインキに関する。
【背景技術】
【0002】
環境保全、法規制への適合、印刷等の作業環境の改善といった課題を解決するために、有機溶剤系印刷インキの水性印刷インキへの転換が提案されている。水性印刷インキは水を媒体とするので印刷工程で乾燥しにくいが、印刷基材に紙基材を使用した場合にはその浸透効果によって乾燥性がより向上されるため、従来は一般包装紙や段ボール等の紙基材への印刷に広く用いられていた。包装用途を中心としたプラスチックパッケージの分野で使用される水性グラビアインキにも水性印刷インキは推奨され、非浸透性であるプラスチック基材に適合する水性印刷インキが期待されている。
【0003】
一方で、印刷物にもカーボンニュートラルへの関心が高まっており、印刷インキを構成する成分のバイオマス化に加え、基材や接着剤も含めた軟包装包材のバイオマス化により環境保全を行う動きが活発である。
【0004】
例えば、特許文献1には、石油原料を使用した合成顔料と石油原料を使用したバインダー樹脂とから構成される水性グラビア印刷インキが開示されているが、水性グラビア印刷インキ成分における顔料は水に分散されて存在しているために、印刷時における版上のインキの再溶解性が不十分なことから、版詰まりが起きやすく、しばしば印刷不良を引き起こすという問題もある。また、環境保全の観点からインキに期待されているバイオマス化によるカーボンニュートラルを達成するものではない。
【0005】
また、バイオマスインキとして、特許文献2に、植物由来のひまし油を原料としたウレタン樹脂を用いてグラビアインキを提供する技術が開示されているが、植物由来のひまし油を原料としたウレタン樹脂は、ポリエステルポリオールを原料としたウレタン樹脂と比較してエステル系溶剤に対する溶解性が劣り、印刷時における版上のインキの再溶解性が不十分なことから、版詰まりが起きやすく、しばしば印刷不良を引き起こすという問題もある。また、石油原料を使用した合成顔料を色素成分とするため、インキ乾燥被膜のバイオマス度としては、20質量%未満でありバイオマス化によるカーボンニュートラルに十分に貢献するものではない。
【0006】
染料系水性グラビアインキとして、特許文献3に、染料を用いる印刷インキが開示されている。しかしこの印刷インキは、繊維材料等の捺染に使用するインキであり、繊維材料以外の非浸透性のプラスチック基材に対してインキを固着可能なバインダーが配合されておらず、プラスチック基材を対象としたインキには使用することはできない。
【0007】
このように、非浸透性のプラスチック基材への印刷適性に優れ、更に着色剤として天然染料を有する水性グラビアインキは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-067818号公報
【文献】特開2018-109131号公報
【文献】特開2017-2266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、非浸透性であるプラスチック基材に適用でき、印刷適性が良好であるバイオマス由来成分を含む水性グラビアインキを提供する事を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は前記課題に対して鋭意研究を重ねた結果、以下に記載の水性グラビアインキを用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0011】
すなわち本発明は天然染料(A)および水性バインダー樹脂(B)を含む水性グラビアインキであり、当該インキの不揮発成分総質量中のバイオマス度が40質量%以上である、水性グラビアインキに関する。
【0012】
また本発明は、水性バインダー樹脂(B)が、水性ポリウレタン樹脂(B1)および/または水性ビニル系樹脂(B2)を含む、前記水性グラビアインキに関する。
【0013】
また本発明は、水性ポリウレタン樹脂(B1)が、セバシン酸および/またはコハク酸由来の構造を有する、前記いずれかに記載の水性グラビアインキに関する。
【0014】
また本発明は、天然染料(A)が、ベニコウジ由来の染料を含む、前記いずれかに記載の水性グラビアインキに関する。
【0015】
また本発明は、基材上に、前記いずれかに記載の水性グラビアインキからなる印刷層を具備した印刷物に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、非浸透性であるプラスチック基材に適用でき、印刷適性が良好であるバイオマス由来成分を含む水性グラビアインキを提供する事ができた。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
【0018】
以下の説明において、「水性グラビアインキ」は「インキ」または「インキ組成物」と表記する場合があるが同義である。また、以下の説明において不揮発成分とは組成物において水や有機溶剤などの揮発成分を除いた成分をいい、また、水性グラビアインキの印刷層は水性グラビアインキにおける不揮発成分からなる。当該印刷層は「インキ層」または「インキ被膜」と称呼する場合があるが同義である。
【0019】
以下の説明においてバイオマス度とは、植物由来、生物由来その他の非石油由来化合物の成分で構成される質量比をいう。
【0020】
本発明は、天然染料(A)および水性バインダー樹脂(B)を含む水性グラビアインキにより印刷適性に優れ、かつインキ不揮発成分中のバイオマス度が40質量%以上である水性グラビアインキに関する。ここで天然染料(A)は色材として機能し、更に以下に説明の水性バインダー樹脂(B)を使用することで顔料を使用した場合と比較してインキの再溶解性および分散性が向上する作用を奏し、結果として非浸透性であるプラスチック基材に対する基材転移性に優れ、また版かぶりを抑制する効果が得られる。
【0021】
<天然染料(A)>
本発明において使用する天然染料(A)は以下の例には限定されないが、例えば、慣習的に食品として用いられた天然のものから抽出された染料が好ましく、カロチノイド系のクチナシ黄色素(クロシン、クロセチン)、アトナー色素(ビキシン、ノルビキシン)、パプリカ抽出色素(カプサンチン)、ニンジン色素(β-カロチン)、トマト色素(リコピン)、マリーゴールド色素(カロチノイド、フラボノイド)、β-アポー8-カロチナール、カンタキサンチン、トウガラシ色素、フラボノイド系の、タマネギ色素、シアナット色素、ペカンナッツ色素、チコリ色素、カルコン系のベニバナ黄色素(サフロミン)、ベニバナン赤色素(カルタミン)、アントシアニン系のシソ色素(シソニン、マロニルシソニン)、アカキャベツ色素(シアニジンアシルグリコシド)、アカダイコン色素(ペラルゴニジンアシルグリコシド)、ムラサキイモ色素(シアニジンアシルグルコシド、ペオニジンアシルグルコシド)、ムラサキトウモロコシ色素、ブドウ果皮色素(エノシアニン)、エルダーベリー色素(シアニジングリコシド、デルフィニジングリコシド)、ブドウ果汁色素、ブルーベリー色素、ハイビスカス色素、フラボン系のココア色素、カキ色素(フラボノイド)、タマリンド色素、コウリャン色素(アピゲニニジン、ルテオリニジン)フラボノール系のカロブ色素、甘草抽出色素、ポルフィリン系のクロロフィル、アントラキノン系のコチニール色素(カルミン酸)、ラック色素(ラッカイン酸類)、アカネ色素(アリザリン、ルベリトリン酸)、その他、ウコン色素(クルクミン)、ベニコウジ黄色素(キサントモナシン類)、ベニコウジ色素(モナスコルブリン、アンカフラビン)、クチナシ色素、ビートレット(ベタイン系のベタニン、イソベタニン)、銅クロロフィリンナトリウム、クチナシ青色素、スピルリナ色素(フィコシアニン)、植物炭末色素、カラメル色素等が挙げられ、ベニコウジ由来の染料である色素が好ましい。インキ中の染料(色素原体)の含有量は、要求される色柄の濃淡によって変動し特に限定されないが、インキ被膜総質量中、1~80質量%であることが好ましく、10質量%~70質量%であることがなお好ましい。発色性およびプラスチック基材に対する接着性が良好となるためである。
【0022】
<水性バインダー樹脂(B)>
本発明において水性バインダー樹脂(B)とは、インキにおける主たる樹脂成分をいう。当該水性バインダー樹脂(B)は、水溶性またはエマルジョン状の樹脂であることが好ましく、天然染料(A)と併用した際にインキの発色の特性を維持・良化させるため、例えば、水性ポリウレタン樹脂(B1)、水性ビニル系樹脂(B2)、水性ポリエステル樹脂、水性ポリアミド樹脂、水性ロジン樹脂等が好適に使用できる。更に、天然染料(A)を併用した場合のプラスチック基材に対する接着性の観点から、水性ポリウレタン樹脂(B1)および/または水性ビニル系樹脂(B2)を含むことが好ましい。これら樹脂はバインダー樹脂総質量中に、70~100質量%含むことが好ましい。
インキ被膜中の水性バインダー樹脂(B)の含有量は、プラスチック基材に対する接着性の観点と染料の発色性の観点から、インキ被膜全体の10質量%~80質量%が好ましく、40質量%~60質量%がより好ましい。
【0023】
(水性ポリウレタン樹脂(B1))
本発明における水性ポリウレタン樹脂(B1)の重量平均分子量は、5000~100000の範囲内とすることが好ましい。重量平均分子量は、GPCで測定されたポリスチレン換算値である。重量平均分子量が5000~100000の場合には、プラスチック基材に対する接着性が向上する作用がある。更には得られる水性印刷インキの粘度が好適であるため水-アルコール混合溶剤への溶解性が向上し、インキの再溶解性が良好となる傾向がある。また、酸価(中和前の酸価)としては10~60mgKOH/gであることが好ましく、25~45mgKOH/gであることであることがなお好ましい。水性媒体や、水とアルコールの混合溶剤からなる媒体への溶解性が向上し、インキの再溶解性および耐光性が良好となるためである。
【0024】
本発明に用いる水性ポリウレタン樹脂は、その製造方法により限定されるものではないが、例えば、ポリイソシアネートと、ヒドロキシ酸と、ポリオール(ただしヒドロキシ酸を除く)とを反応させてなる水性ポリウレタン樹脂であることが好ましく、
またポリイソシアネートと、ヒドロキシ酸と、ポリオール(ただしヒドロキシ酸を除く)とを反応させてなるウレタンプレポリマーを、ポリアミンと反応させて得られる水性ポリウレタン樹脂である場合も好ましい。
【0025】
(ポリイソシアネート)
上記ポリイソシアネートとしては、芳香族、脂肪族または脂環族の各種公知のジイソシアネート類を使用することができる。例えば、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4、4’-ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネートやダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等が代表例として挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。耐候性が向上するため、脂肪族または脂環族ポリイソシネートが好適に用いられ、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネートから選ばれるポリイソシアネートを原料とすることが好ましい。
【0026】
(ヒドロキシ酸)
上記ヒドロキシ酸のうち、酸を構成する官能基は、スルホン酸(スルホン基)、カルボン酸(カルボキシル基)などの酸性官能基が挙げられるが、カルボン酸を有することが好ましい。なお、ヒドロキシ酸としては、以下に限定されないが、例えば2,2-ジメチロールプロパン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロールペンタン酸等のジメチロールアルカン酸などが好適に挙げられ、これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。ヒドロキシ酸は通常、ポリイソシアネートとの反応ではおよその酸性官能基は未反応として残存し、水性ポリウレタン樹脂に所定の酸価を含有させることができる。
【0027】
(ポリオール)
上記ポリオールは、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等を使用することにより該当するポリオール由来の構成単位を水性ポリウレタン樹脂(B1)に含有させることが可能である。当該ポリオールは、中でもポリエーテルポリオールおよび/またはポリエステルポリオールを含有することが好ましい。ポリエステルポリオールを含有させることがなお好ましく、ポリエステルポリオールを使用することでプラスチック基材への密着性に加え、印刷時の再溶解性、版かぶり性が向上するためである。
【0028】
上記ポリエステルポリオールは、多塩基酸と低分子ポリオールの縮合物からなるポリエステルポリオールであることが好ましい。
【0029】
上記多塩基酸としては二塩基酸であることが好ましく、例えばアジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、こはく酸、しゅう酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、2,5-フランジカルボン酸などが好適に挙げられる。
コハク酸、セバシン酸、アジピン酸、バイオ2,5-フランジカルボン酸等の使用が好ましい。中でもコハク酸および/またはセバシン酸を使用することがなお好ましく、コハク酸および/またはセバシン酸に由来する構造単位を含むことが好ましい。コハク酸および/またはセバシン酸由来の構造単位は水性ポリウレタン樹脂(B1)中に10~40質量%含有することが好ましく、15~35質量%含有することがなお好ましく、20~35質量%含有することが更に好ましい。
なお、コハク酸および/またはセバシン酸などの原料はバイオマス原料と呼ばれ、環境保全の観点からも好ましい。バイオマス原料を好適に用いてバイオマス度を高めることが可能であることから、水性ポリウレタン樹脂(B1)のバイオマス度は当該水性ポリウレタン樹脂(B1)全量中30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
【0030】
低分子ポリオールは低分子ジオールであることが好ましく、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等が好適に挙げられる。より好ましくは分岐構造を有する低分子ジオールであり、分岐構造を有する低分子ジオールとはアルキレングリコールの少なくとも1の水素がアルキル基などに置換されたジオールをいう。例えば、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,4-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、ジプロピレングリコールなどが好適に挙げられる。フィルムへの密着性、再溶解性、版かぶり性をさらに向上させることができるためである。
また、ポリエステルポリオールは、二塩基酸と、分岐構造を有する低分子ジオールからなるポリエステルポリオールであることが、フィルムへの密着性、印刷適性の面から好ましい。
更に、補助的に水酸基を2個以上持ち、かつ分岐構造を有する低分子ポリオール類を含有することが好ましい。当該低分子ポリオールはグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等が好適に挙げられる。
【0031】
また、ポリエーテルポリオールとしては、酸化メチレン、酸化エチレン、酸化プロピレン、テトラヒドロフランなどの重合体または共重合体である、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、およびポリテトラメチレングリコール、並びにこれらの共重合体からなるポリエーテルポリオールが好適に挙げられる。特に、ポリエチレングリコールを原料として使用することが好ましい。ポリエチレングリコールを用いた場合には、水性媒体や、水とアルコールの混合溶剤からなる媒体への再溶解性が良好となるためである。
【0032】
また、上記ポリオールはエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールから選ばれる低分子ジオールを含むことが好ましい。これらのなかで、1,3-プロパンジオールを含むことがより好ましい。かかる低分子ジオールを含む形態としては、上記の如くポリエステルポリオールその他のポリオール中の構造単位として含まれる場合、または水性ポリウレタン樹脂(B1)の構造単位として含まれる場合(ポリオール中に構造単位として含まれる場合を除く)であることが好ましい。当該低分子ジオールは環境保全の観点からバイオマス由来のものであることが好ましい。
【0033】
上記ポリカーボネートポリオールとは炭酸エステル結合基を主として有するポリオールをいい、製造法により限定されるものではないが、例えば、上記低分子ポリオールと、ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ホスゲン等のカーボネート化合物との反応によって得ることが可能である。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0034】
さらに、ポリオール中、0質量%~30質量%の範囲であれば、ウレタン化反応における過剰反応を防止するための重合停止剤としてモノアルコールを使用してもよい。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール等が挙げられる。
【0035】
本発明における水性ポリウレタン樹脂(B1)で用いるポリオールの数平均分子量は500~5000であることが好ましい。数平均分子量は水酸基価から算出されるものであり、水酸基価は、樹脂中の水酸基をエステル化またはアセチル化し、残存する酸をアルカリで逆滴定して算出した樹脂1g中の水酸基量を、水酸化カリウムのmg数に換算した値で、JISK0070に従って行った値である。数平均分子量が500~5000となると水溶化のために組み込むカルボキシル基を水性ポリウレタン樹脂中に点在化させることできるため、水性媒体や、水とアルコールの混合溶剤からなる媒体に対する再溶解性が向上する。数平均分子量として、さらに好ましくは1000~3000である。
【0036】
(ポリアミン)
本発明における水性ポリウレタン樹脂(B1)の構成成分として用いることのできるポリアミンは、例えば、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミンなどの水酸基を有するジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4‘-ジアミン、さらにダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダイマージアミンなどのジアミン、また、グルタミン、アスパラギン、リジン、ジアミノプロピオン酸、オルニチン、ジアミノ安息香酸、ジアミノベンゼンスルホン酸等のアミノ酸が好適に挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。好ましくは、水酸基を有するジアミンである。水性媒体や、水とアルコールの混合溶剤からなる媒体への再溶解性・印刷適性が良好となる傾向があるためである。
【0037】
(水性ポリウレタン樹脂(B1)の製造)
本発明における水性ポリウレタン樹脂(B1)は、イソシアネートに対して不活性でかつ親水性の有機溶剤(例えばアセトンやメチルエチルケトン)を用いて合成しておいて、更に水を加えたのちに当該有機溶剤を減圧留去するアセトン法、または、当該有機溶剤を全く使用しない無溶剤合成法等により得ることができる。本発明においては有機溶剤を使用し粘度を低下させ、合成反応を均一にスムーズに行うことができるアセトン法を用いることが望ましい。
【0038】
合成手順としては、ポリイソシアネート並びに、ヒドロキシ酸およびポリオールを反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造(以下、プレポリマー反応ともいう)しておき、必要に応じてポリアミンで鎖延長反応を行う事が好ましい。プレポリマー反応は50~100℃で10分~10時間行うのが好ましい。反応の終点は、粘度測定、IR測定によるNCOピ-ク、滴定によるNCO%測定等により判断される。鎖延長反応は20~80℃で10分~10時間行うのが好ましい。反応の終点は、粘度測定、IR測定によるNCOピ-ク、滴定によるアミン価測定等により判断される。
【0039】
また、プレポリマー反応には、触媒を用いることもできる。使用できる触媒としては、公知の金属系触媒、アミン系触媒が使用できる。金属系触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジ(2-エチルヘキソエート)、2-エチルヘキソエート鉛、チタン酸2-エチルヘキシル、2-エチルヘキソエート鉄、2-エチルヘキソエートコバルト、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、テトラ-n-ブチル錫等が挙げられる。アミン系触媒としてはテトラメチルブタンジアミン等の3級アミン等が挙げられる。これらの触媒はポリマーポリオールに対して0.001~1モル%の範囲で使用される。
【0040】
上記鎖延長反応には、過剰な分子量の増加を抑えるためなどの目的で、反応停止剤を使用してもよい。かかる反応停止剤としては、例えばジ-n-ブチルアミンなどのジアルキルアミン類などの他、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、トリ(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、等の水酸基を有するアミン類も用いることができる。更に、グリシン、アラニン、グルタミン酸、タウリン、アスパラギン酸、アミノ酪酸、バリン、アミノカプロン酸、アミノ安息香酸、アミノイソフタル酸、スルファミン酸などのモノアミン型アミノ酸類も挙げられる。
【0041】
水性ポリウレタン樹脂(B1)が有するカルボキシル基は、塩基性化合物で中和することで水性ポリウレタン樹脂(B1)の水溶性が良好となる効果を奏し、結果としてインキの印刷適性が良好となる。当該塩基性化合物としては、アンモニア、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール等の有機アミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ類等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いられるが、印刷物の耐水性、残留臭気等の点から、水溶性であり、かつ乾燥時の熱によって容易に脱離可能な揮発性の高いものが好ましく、特にアンモニアが好ましい。
【0042】
本発明における水性ポリウレタン樹脂(B1)の合成に用いる有機溶剤としては、イソシアネートに対して不活性でかつ親水性の有機溶剤が好ましい。例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類等が挙げられるが、ポリウレタンの水性化は通常減圧蒸留(脱溶剤)により除去されるため、また、脱溶剤しないで使用する場合でも乾燥速度を早めるため、水より低沸点の溶剤の使用が好ましい。脱溶剤する場合には、例えば反応溶液に水及び中和剤である塩基性化合物を添加した後、温度を上げて常圧下、又は減圧下で溶剤を必要量溜去する方法で行うことができる。
【0043】
以下の説明において、「(メタ)アクリル」とは「メタクリルおよび/またはアクリル」の意味を表す。
【0044】
(水性ビニル系樹脂(B2))
本発明における水性ビニル系樹脂(B2)とは、モノマーとしてビニル化合物を重合して得られる水性樹脂をいい、水溶性であってもよいし、水性エマルジョンであってもよい。重合方法としてはラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合等が挙げられる。水性ビニル系樹脂(B2)は直鎖状の高分子化合物であることが好ましく、熱可塑性樹脂であることが好ましい。当該ビニル系樹脂としては、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレン-アクリル共重合樹脂、スチレン-マレイン酸共重合樹脂、およびこれらの変性樹脂が好適に挙げられる。水性ビニル系樹脂(B2)は中和酸価が30~500mgKOH/gであることが好ましく、50~300mgKOH/gであることがより好ましい。
なお当該ビニル系樹脂を構成するモノマーは、(メタ)アクリル酸エステル、およびスチレン系モノマー、酸性モノマーから選ばれる少なくとも1種が好適に挙げられる。
【0045】
(モノマー)
水性ビニル系樹脂(B2)を構成する(メタ)アクリル酸エステルとは、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸-2-(ジエチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル等を好適に挙げられる。
水性ビニル系樹脂(B2)を構成するスチレン系モノマーとは、スチレン、α-メチルスチレンあるいはスチレン誘導体等を好適に挙げられる。
水性ビニル系樹脂(B2)を構成する酸性モノマーは、例えば、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、p-カルボキシベンジル(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性(付加モル数:2~18)フタル酸(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリル酸β-カルボキシエチル、2-メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸などのモノカルボン酸含有モノマー、また、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びフマル酸等のジカルボン酸含有モノマーが挙げられる。中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸等が好適に挙げられる。これら酸性モノマーはビニル系樹脂を構成したのち一部あるいは全部が中和されて水性化される。
【0046】
本発明における水性ビニル系樹脂(B2)が水性エマルジョンである場合、公知の乳化重合法により得ることができる。上記モノマーを一括して仕込み乳化重合する方法、前記モノマーを各々連続供給しながら乳化重合する方法、上記モノマーの一部をあらかじめ溶液重合しオリゴマーとし、得られたオリゴマーの水溶液中でその他のモノマーを乳化重合する方法等、各種の方法が適用できる。なお、乳化重合の際の重合助剤として、乳化剤、重合開始剤、メルカプタン類等の連鎖移動剤、pH調整剤、消泡剤を利用してもよい。
【0047】
上記モノマーの重合に使用する重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスアミジノプロパンの塩酸塩等の水溶性タイプ、ベンゾイルパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート、アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性タイプなどが例示される。さらに必要に応じ、N,N-ジメチルアニリン、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L-アスコルビン酸等の還元剤を併用したレドックス系も使用することができる。重合開始剤の使用量は単量体の合計量100質量部に対して通常は0.01~5質量部とすればよいが、より好ましくは0.05~2質量部である。
【0048】
水性ビニル系樹脂(B2)は、その水溶性またはエマルジョン状態の安定性(重合安定性、凍結安定性、機械的安定性、化学的安定性等)を向上させるために、ビニル系樹脂溶液におけるpHを6~11となるように調整することが好ましい。pHを調整するための調整剤としてはアンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を好適に使用できる。
【0049】
(補助樹脂)
本発明における水性グラビアインキには、上記バインダー樹脂(B)のほかに、必要に応じて補助樹脂を併用することができる。併用される樹脂の例としては、シェラック、塩素化ポリオレフィン樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂などを挙げることができる。併用樹脂は、本発明の目的を妨げない範囲内で、単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0050】
(その他添加剤)
本発明の水性グラビアインキは添加剤を含有してもよく、かかる添加剤としては、硬化剤、ブロッキング防止剤、増粘剤、レオロジー調整剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、表面張力調整剤、pH調整剤およびポリエチレン粒子、紫外線吸収剤などが好適に挙げられる。
【0051】
本発明では天然染料(A)の耐久性を向上させるために、紫外線吸収剤を添加することが好ましい。紫外線吸収剤としては多くの有機化合物、無機化合物が知られているが、例えばベンゾトリアゾール系、具体的には、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、ポリエチレングリコールの3-[3-(ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオン酸エステルなどが挙げられる。
【0052】
(水性グラビアインキの製造)
本発明における水性グラビアインキは、水性バインダー樹脂(B)、天然染料(A)などを水性溶液中に溶解および/または分散することにより製造することができる。具体的には、天然染料を水性バインダー樹脂(B)および上記併用樹脂により水性溶液中に溶解および/または分散させ、得られた混合物に、ワックス類、消泡剤、増粘剤、硬化剤等、他の化合物を配合することにより水性グラビアインキを製造することができる。
【0053】
上記の混合において分散が必要な場合には分散機を使用してもよく、かかる分散機としては、一般に使用される、例えば、ローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルなどを用いることができる。
【0054】
前記方法で製造された水性グラビアインキのインキ粘度は、染料の沈降を防ぎ、適度に分散させる観点から好ましくは10mPa・s以上、より好ましくは30mPa・s以上であり、インキ製造時や印刷時の作業性効率の観点から好ましくは1000mPa・s以下、より好ましくは500mPa・s以下である。尚、上記粘度はB型粘度計で25℃において測定された粘度である。
【0055】
水性グラビアインキの粘度は、使用される原材料の種類や量、例えばポリウレタン樹脂、着色剤、水性溶液などを適宜選択することにより調整することができる。
【0056】
(水性グラビアインキの印刷)
本発明の水性グラビアインキは、公知のグラビア印刷機を用いたグラビア印刷方式でプラスチック基材または紙上に印刷できる。印刷する際は、グラビア印刷方式に適した粘度及び濃度にまで、水性溶液、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコールなどのアルコール系有機溶剤と水を混合した希釈溶剤で希釈され、単独でまたは混合されて各印刷ユニットに供給される。印刷は凹版を輪転させ、余分なインキをドクターブレードにより掻き取り、当該基材へ連続的に転移させて印刷される。基材は巻取り方式で供給され、印刷速度としては50~300m/分であることが好ましい。
【0057】
(基材)
本発明の印刷物作製に使用できる基材としては紙基材でもよいしプラスチック基材でもよいが、プラスチック基材を好適に使用できる。かかる基材は例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸などのポリエステル、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂などのポリスチレン系樹脂、ナイロン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セロハン、紙、アルミなど、もしくはこれらの複合材料からなるフィルム状の基材が挙げられる。また、シリカ、アルミナ、アルミニウムなどの無機化合物をポリエチレンテレフタレート、ナイロンフィルムに蒸着した蒸着基材も用いることができ、更に蒸着処理面がポリビニルアルコールなどによるコート処理を施されていても良い。プラスチック基材は、印刷される面(印刷層と接する面)が易接着処理されていることが好ましく、易接着処理とは、例えば、コロナ放電処理、紫外線/オゾン処理、プラズマ処理、酸素プラズマ処理、プライマー処理等が挙げられる。例えばコロナ放電処理では基材上に水酸基、カルボキシル基、カルボニル基等が発現する。水素結合を利用できるためインキ中には水酸基やアミノ基といった官能基を有する化合物を含むことが好ましい。
【0058】
紙基材としては通常の紙や段ボールなどであり膜厚としては特に指定は無いが、例えば、0.2mm~1.0mm、20~150g/m2のものが使用でき、印刷表面がコロナ処理されていても良い。また紙基材は意匠性を付与させる目的で表面がアルミなどの金属で蒸着処理されていても良く、また、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂やその他の樹脂などで表面コート処理を施されていても良く、さらにコロナ処理などの表面処理が施されていても良い。例えばコート紙やアート紙などが挙げられる。
【0059】
本発明における水性グラビアインキをプラスチック基材上に印刷し、その印刷物の印刷層上に接着剤を介して更に上記基材等を貼りあわせることによりラミネート積層体を得ることができる。
ラミネート加工法としては、1)得られた印刷物の印刷層上に、必要に応じてアンカーコート剤を塗布後、溶融樹脂を積層する押し出しラミネート法、2)接着剤を塗布後、必要に応じて乾燥させ更に接着剤層上にプラスチックフィルムを積層するドライラミネート法等が挙げられる。アンカーコート剤(AC剤)としてはイミン系AC剤、イソシアネート系AC剤、ポリブタジエン系AC剤、チタン系AC剤が挙げられ、ウレタン系ラミネート接着剤としてはポリエーテルウレタン系ラミネート接着剤、ポリエステル系ラミネート接着剤などが挙げられ、有機溶剤を含むものと、無溶剤のものとがある。また、溶融樹脂としては、溶融ポリエチレン等が挙げられる。積層体の製造方法としては、例えば、印刷層上に、イミン系、イソシアネート系、ポリブタジエン系、チタン系等の各種アンカーコート剤を介して、溶融ポリエチレン樹脂を積層する通常のエクストルジョンラミネート(押し出しラミネート)法、印刷層上にウレタン系等の接着剤を塗工し、その上にプラスチックフィルムを積層するドライラミネート法やノンソルベントラミネート法、また印刷面に直接溶融ポリプロピレンを圧着して積層するダイレクトラミネート法等、公知のラミネート工程により得られる。
【実施例
【0060】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、以下は本発明における実施形態の一例であり、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、部および%は、特に注釈の無い場合、それぞれ質量部および質量%を表わす。
【0061】
(水酸基価)
JISK0070に従って求めた。
(酸価)
JISK0070に従って求めた。
【0062】
(重量平均分子量)
重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)装置(東ソー株式会社製HLC-8220)を用いて分子量分布を測定し、ポリスチレンを標準物質に用いた換算分子量として求めた。下記に測定条件を示す。
カラム:下記カラムを直列に連結して使用した。
東ソー株式会社製ガードカラムHXL-H
東ソー株式会社製TSKgelG5000HXL
東ソー株式会社製TSKgelG4000HXL
東ソー株式会社製TSKgelG3000HXL
東ソー株式会社製TSKgelG2000HXL
検出器:RI(示差屈折計)
測定条件:カラム温度40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
【0063】
(バイオマス度およびセバシン酸由来構造単位の質量%)
ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)において、クロマトグラフィで分離した成分の検出に質量分析計を用いることで、質量情報から成分の定性及び定量を行った。ガスクロマトグラフィーはSHIMAZU社製 GCMS-QP2010を用いた。
【0064】
<ポリオールの合成>
[ポリエステルポリオール合成例E-1]
撹拌機、分溜管、温度計、窒素吹き込み管およびマンホールを備えた反応容器を窒素ガ
スで置換した後、セバシン酸(ひまし油由来)2800部と、1,3-プロパンジオール(植物由来)633部とネオペンチルグリコール865部を仕込み、窒素雰囲気下において、130℃まで加熱して溶解させた。その後、テトラブトキシチタン0.06部を添加し、230℃まで昇温して、発生する水を溜出させながら反応させ、水の溜出がほとんどなくなるまで反応させた。減圧して水をさらに溜去させながら酸価が0.5mgKOH/g以下になるまで加熱減圧を続けた。このようにして、水酸基価が51.0mgKOH/g、数平均分子量2200、酸価が0.2mgKOH/g、バイオマス度が82.2% セバシン酸由来の構造単位を63.1%含むポリエステルポリオールE-1を得た。
【0065】
<合成例1>[水性ポリウレタン樹脂P1]
温度計、撹拌機、還流冷却管および窒素ガス導入管を備えた四ツ口フラスコで窒素ガスを導入しながら、数平均分子量2200のポリエステルポリオールE-1を143.9部、数平均分子量2000のポリエチレングリコール(PEG2000)を14.7部、1,3プロパンジオールを1.0部、2,2-ジメチロールブタン酸(DMBA)27.2部、およびイソホロンジイソシアネート94.4部を仕込みメチルエチルケトン(MEK)163部中で6時間沸点反応させて末端イソシアネートプレポリマーとし、40℃まで冷却してからMEK64部を加えて、末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液を得た。次に、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン(AEA)13.35部およびイソプロピルアルコール(IPA)34部を混合したものを得られた末端イソシアネートプレポリマー溶液に室温で徐々に添加して50℃で3時間反応させ、溶剤型ポリウレタン樹脂溶液を得た。次に、10%のアンモニア水31.3部および脱イオン水807部を上記溶剤型ポリウレタン樹脂溶液に徐々に添加して中和することにより水溶化し、さらに共沸下でMEKの全量を留去した後、水を加えて粘度調整を行ない、酸価35mgKOH/g、固形分24%、粘度2000mPa・s、重量平均分子量25000、樹脂全質量中のバイオマス度が40.5%、セバシン酸由来の構造単位を30.8%含む水性ポリウレタン樹脂(P1)を得た。水性ポリウレタン樹脂(P1)はポリエステルポリオール由来の構造単位およびポリエーテルポリオール由来の構造単位を有する。
【0066】
<合成例2>[水性ポリウレタン樹脂P2]
温度計、撹拌機、還流冷却管および窒素ガス導入管を備えた四ツ口フラスコで窒素ガスを導入しながら、数平均分子量2000のPMPA2000を144.3部、数平均分子量2000のポリエチレングリコール(PEG2000)を14.7部、1,4ブタンジオールを0.63部、2,2-ジメチロールブタン酸(DMBA)27.2部、およびイソホロンジイソシアネート94.4部を仕込みメチルエチルケトン(MEK)163部中で6時間沸点反応させて末端イソシアネートプレポリマーとし、40℃まで冷却してからMEK64部を加えて、末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液を得た。次に、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン(AEA)13.35部およびイソプロピルアルコール(IPA)34部を混合したものを得られた末端イソシアネートプレポリマー溶液に室温で徐々に添加して50℃で3時間反応させ、溶剤型ポリウレタン樹脂溶液を得た。次に、10%アンモニア水31.3部および脱イオン水807部を上記溶剤型ポリウレタン樹脂溶液に徐々に添加して中和することにより水溶化し、さらに共沸下でMEKの全量を留去した後、水を加えて粘度調整を行ない、酸価35mgKOH/g、固形分24%、粘度2200mPa・s、重量平均分子量26000、溶剤を除く樹脂全質量中のバイオマス度が0%の水性ポリウレタン樹脂(P2)を得た。水性ポリウレタン樹脂(P2)はポリエステルポリオール由来の構造単位およびポリエーテルポリオール由来の構造単位を有する。
【0067】
<比較合成例1>[有機溶剤系ポリウレタン樹脂PP1]
撹拌機、温度計、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えた四ツ口フラスコに数平均分子量2200のポリエステルポリオールE-1を231.9部、1,3プロパンジオール21.6部、イソホロンジイソシアネート108.4部、2-エチルヘキシル酸第一錫0.04部及び酢酸エチル79.0部を仕込み、窒素気流下に90℃で3時間反応させ、酢酸エチル218.8部を加え冷却し、末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液670.3部を得た。次いでイソホロンジアミン20.4部、ジ-n-ブチルアミン1.49部、酢酸エチル349.3部、イソプロピルアルコール160.8部の混合物に、得られた末端イソシアネートプレポリマー618.7部を室温で徐々に添加、次に50℃で1時間反応させた。その後、イソホロンジイソシアネート4.00部を加えて粘度調整した後、酢酸エチル/イソプロピルアルコール(以下「IPA」と略記する)を質量比で8/2の割合で混合した溶剤で固形分を30%に調整し、質量平均分子量35000、溶剤を除く樹脂全量中のバイオマス度が54.6%の有機溶剤系ポリウレタン樹脂(PP1)を得た。
【0068】
上記の合成例において、用いた原料の略称を示す。
PEG2000:ポリエチレングリコール(数平均分子量2000)
PMPA2000:3-メチル-1,5-ペンタンジオールとアジピン酸からなるポリエステルジオール(数平均分子量2000)
DMBA:2,2-ジメチロールブタン酸
IPDI:イソホロンジイソシアネート
AEA:2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン
MEK:メチルエチルケトン
【0069】
[水性アクリルエマルジョン]
以下の実施例において水性ビニル系樹脂(B2)として、市販のPDX-7630a(ジョンソンポリマー社製 水性エマルジョン スチレン-アクリル共重合樹脂 酸価200mgKOH/g 不揮発分32%)を使用した。
【0070】
(実施例1)[インキS1の作製]
スーパーモナスP20000(ベニコウジ色素(ヤヱガキ醗酵技研社製))10.7部、水性ポリウレタン樹脂(P1)44.5部、イソプロピルアルコール22.4部、水22.4部を撹拌混合し、天然染料を用いた水性グラビアインキ(S1)を得た。
【0071】
(実施例2)[インキS2の作製]
スーパーモナスP20000(ベニコウジ色素(ヤヱガキ醗酵技研社製))10.7部、水性ポリウレタン樹脂(P2)44.5部、イソプロピルアルコール22.4部、水22.4部を撹拌混合し、天然染料を用いた水性グラビアインキ(S2)を得た。
【0072】
(実施例3)[インキS3の作製]
スーパーモナスP20000(ベニコウジ色素(ヤヱガキ醗酵技研社製))13.4部、PDX-7630a(ジョンソンポリマー株式会社製;酸価200mgKOH/gのスチレン-アクリル系共重合体水性分散液,不揮発分32%)41.8部、イソプロピルアルコール22.4部、水22.4部を撹拌混合し、天然染料を用いた水性グラビアインキ(S3)を得た。
【0073】
(比較例1)[インキSS1の作製]
スーパーモナスP20000(ベニコウジ色素(ヤヱガキ醗酵技研社製))10.0部、
有機溶剤系ポリウレタン樹脂(PP1)40.0部、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合樹脂(ソルバインTAO:日信化学社製 塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコール=91/2/7(質量比)の共重合樹脂、固形分30%酢酸エチル溶液))を5部、酢酸n-プロピル37.0部、IPA5部、メチルプロピレングリコール3.0部混合し、アイガーミルで30分間分散し、天然染料を用いた有機溶剤系グラビアインキSS1を得た。
【0074】
(比較例2および3)[インキSS2およびSS3の作製]
表1に記載した原料および比率を用いた以外は比較例1と同様の方法にて水性グラビアインキSS2および有機溶剤系グラビアインキSS3を得た。なお、表中の略称は以下を示す。
F-783:大日精化社製 有機顔料 C.I.ピグメントレッド146
【0075】
(印刷物の作成)[インキS1の印刷]
上記で得られた水性グラビアインキS1を、水/イソプロピルアルコール混合溶剤(質量比1/1)の混合溶剤を用いて、ザーンカップ#3(離合社製)で16秒になるように調整し、ヘリオ175線グラデーション版(版式コンプレストグラデーション100%~3%)を備えたグラビア印刷機により、片面コロナ放電処理されたセロファンフィルム(フタムラ化学社製 PL 厚さ20μm バイオマス度90%)基材のコロナ処理面に、印刷速度80m/分で行い、水性グラビアインキS1を用いた印刷物を得た。
【0076】
(印刷物の作成)[S2、S3(実施例)およびSS1~SS3(比較例)の印刷]
インキS2、S3(実施例)およびインキSS1~SS3(比較例)を用いた以外は実施例1と同様の方法でインキS2およびS3(実施例)およびインキSS1~SS3(比較例)を用いた印刷物を得た。なお、有機溶剤系グラビアインキの希釈にはMEK:酢酸n-プロピル:IPA=40:40:20(質量比)からなる混合溶剤を用いて印刷粘度を調整した。
【0077】
<評価>
グラビアインキS1~S3(実施例)、SS1~SS3(比較例)およびその印刷物を用いて、以下の評価を行った。
【0078】
<外観>
S1~S3(実施例)、SS1~SS3(比較例)を用いた印刷物について、200mm×200mmサイズの試験片に切り出し、目視によって外観を以下の5段階で評価した。なお、以下においてムラとは印刷部分の濃淡部位をいい、欠陥とは印刷部分のピンホールやハジキなどをいう。
(評価基準)
A.印刷物のムラまたは欠陥が目視で確認できない(良好)
B.印刷物のムラまたは欠陥が1個目視で確認できる(実用可)
C.印刷物のムラまたは欠陥が目視で2個以上5個以下確認できる(やや不良)
D.印刷物にムラまたは欠陥が目視で6個以上10個以下確認できる(不良)
E.印刷物にムラまたは欠陥が目視で11個以上確認できる(極めて不良)
なお、A、Bは実用上問題がない範囲である。
【0079】
<基材転移性>
S1~S3(実施例)、SS1~SS3(比較例)を用いた印刷物について、グラデーション5%部分についてインキの転移した面積%で基材転移性評価を行った。
A.インキ転移面積が100%である(良好)
B.インキ転移面積が80%以上100%未満である(実用可)
C.インキ転移面積が60%以上80%未満である(やや不良)
D.インキ転移面積が30%以上60%未満である(不良)
E.インキ転移面積が30%未満である。(極めて不良)
なお、A、Bは実用上問題がない範囲である。
【0080】
<版かぶり性>
グラビアインキS1~S3(実施例)、SS1~SS3(比較例)について版かぶり性評価を行った。なお、評価は、印刷機における版の空転60分後の、版かぶり部分の面積を目視判定した。
A.版かぶり面積が5%未満である(良好)
B.版かぶり面積が5%以上10%未満である(実用可)
C.版かぶり面積が10%以上30%未満である(やや不良)
D.版かぶり面積が30%以上~50%未満である(不良)
E.かぶり面積が50%以上である(極めて不良)
なお、A、Bは実用上問題がない範囲である。
【0081】
【表1】
【0082】
本発明により、天然染料を使用したバイオマス水性染料系印刷インキが、非浸透性のプラスチックフィルム基材に対して、基材転移性、版詰まり性、版かぶり性に優れることを確認できた。さらに、従来の顔料系グラビアインキと比較して、インキの乾燥被膜におけるバイオマス度が40%以上と非常に高く、環境保全の観点からインキに期待されているバイオマス化によるカーボンニュートラルを達成することができた。