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  • 特許-塊成物の製造方法および塊成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】塊成物の製造方法および塊成物
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/244 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
C22B1/244
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019023680
(22)【出願日】2019-02-13
(65)【公開番号】P2020132901
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】弘中 諭
(72)【発明者】
【氏名】谷田 晃
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-119178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄含有原料とバインダーとを混合する工程を含む、塊成物の製造方法であって、
前記鉄含有原料として、pHが10以上のものを用い、
エーテル化澱粉および非エステル化澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一つであり、炭素数1以上10以下のヒドロキシアルキル基を有する前記エーテル化澱粉を含んだ前記バインダーを選択する、塊成物の製造方法。
【請求項2】
前記ヒドロキシアルキル基の含有量が乾燥物換算で1重量%以上である前記エーテル化澱粉を含んだ前記バインダーを選択する、請求項に記載の塊成物の製造方法。
【請求項3】
アセチル基およびカルボキシル基の含有量がいずれも乾燥物換算で0.1重量%以下である前記非エステル化澱粉を含んだ前記バインダーを選択する、請求項1または2に記載の塊成物の製造方法。
【請求項4】
前記非エステル化澱粉および前記エーテル化澱粉は、α化されている、請求項1からの何れか1項に記載の塊成物の製造方法。
【請求項5】
鉄含有原料とバインダーとを有する塊成物であって、
前記鉄含有原料は、pHが10以上のものであり、
前記バインダーは、非エステル化澱粉およびエーテル化澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一つであり、炭素数1以上10以下のヒドロキシアルキル基を有する前記エーテル化澱粉を含む、塊成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塊成物の製造方法、および前記製造方法によって製造された塊成物に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄プロセスで発生するダストまたはスラッジ等の鉄分を含有する鉄含有物は、資源の有効活用および環境問題等の観点から、製鉄所内で鉄源として再利用することが進められている。この鉄含有物は、焼結工程で再利用することが多いが、金属鉄を多く含むもの等はペレットまたはブリケットに加工して得られた塊成物(「造粒物」とも称される)として、製銑工程(高炉等)、製鋼工程(転炉等)で再利用することもある。
【0003】
このような鉄含有物は、その種類によってpH等の特性が大きく異なる。バインダーとして澱粉等の有機系バインダーを用いる場合、バインダーとしての性能は鉄含有物のpHに大きく左右されることが知られている。そのため、特許文献1には、鉄含有物を含む原料のpHが10.5未満の場合はバインダーとしてα澱粉およびデキストリンを用い、当該原料のpHが10.5以上の場合はデキストリンを用いる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-119178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、原料がpH10.5以上等の高pHの場合に用いるバインダーとして、デキストリンのみ記載されている。そのため、原料が高pHの場合に、バインダーとしてデキストリン以外にどのような澱粉を用いれば、高強度の塊成物を製造できるかは不明である。
【0006】
本発明の一態様は、鉄含有物のpHが10以上の場合に、バインダーとして澱粉を用いた高強度の塊成物の製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る塊成物の製造方法は、鉄含有原料とバインダーとを混合する工程を含む、塊成物の製造方法であって、前記鉄含有原料として、pHが10以上のものを用い、エーテル化澱粉および非エステル化澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一つを前記バインダーとして選択する。
【0008】
本発明の一態様に係る塊成物の製造方法は、炭素数1以上10以下のヒドロキシアルキル基を有する前記エーテル化澱粉を含んだ前記バインダーを選択してもよい。
【0009】
本発明の一態様に係る塊成物の製造方法は、前記ヒドロキシアルキル基の含有量が乾燥物換算で1重量%以上である前記エーテル化澱粉を含んだ前記バインダーを選択してもよい。
【0010】
本発明の一態様に係る塊成物の製造方法は、アセチル基およびカルボキシル基の含有量がいずれも乾燥物換算で0.1重量%以下である前記非エステル化澱粉を含んだ前記バインダーを選択してもよい。
【0011】
本発明の一態様に係る塊成物の製造方法は、前記非エステル化澱粉および前記エーテル化澱粉は、α化されていてもよい。
【0012】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る塊成物は、鉄含有原料とバインダーとを有する塊成物であって、前記鉄含有原料は、pHが10以上のものであり、前記バインダーは、非エステル化澱粉およびエーテル化澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一つである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、鉄含有物のpHが10以上の場合に、バインダーとして澱粉を用いた高強度の塊成物の製造方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施例に係る原料の粒径を示す図である。
図2】本発明の一実施例に係るバインダーの粒径を示す図である。
図3】(a)および(b)は、本発明の一実施例に係る塊成物の圧潰強度と造粒水分との関係を示す図である。
図4】本発明の一実施例に係るバインダーにおける、pHと粘度との関係を示す図である。
図5】本発明の一実施例に係るバインダーに含まれる官能基の分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意味する。
【0016】
(製造方法)
本発明の一実施形態に係る塊成物の製造方法は、鉄含有物を原料として用い、前記原料(鉄含有原料)とバインダーとを混合する工程により混合物を調整した後、前記混合物をペレットまたはブリケットに加工して塊成物とする。なお、前記混合物にはさらに、水などを混合してもよい。当該塊成物は、製銑工程および製鋼工程等において用いられてよい。
【0017】
なお、混合方法および加工方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法に準じて行えばよい。また、ペレットまたはブリケットに加工した後、乾燥処理を行ってもよい。
【0018】
鉄含有物としては、特に限定されないが、資源の有効活用および環境問題等の観点から、製鉄プロセスで発生する鉄含有副産物を用いることが好ましい。製鉄プロセスで発生する鉄含有副産物としては、特に限定されないが、例えば、ダスト、スラッジ、スケール、および地金等が挙げられる。これらは、単独または複数種を組み合わせて、前記原料として用いることができる。
【0019】
バインダーは、SiOおよびAl等のスラグ含有量が比較的低い、有機系バインダーを用いることが好ましい。このような有機系バインダーの一種である澱粉は、入手の容易性等の観点からバインダーとして一般に使用されるが、そのままでは冷水に溶解しない。そのため、酵素や熱などで変性した化工澱粉をバインダーとして選択することが好ましい。
【0020】
(澱粉の種類)
本実施形態に係る澱粉としては、エーテル化澱粉または非エステル化澱粉であることが好ましく、エーテル化澱粉かつ非エステル化澱粉である澱粉(以下、「エーテル化/非エステル化澱粉」と称する)がより好ましい。言い換えれば、前記化工澱粉としては、エーテル化澱粉および非エステル化澱粉からなる群より選ばれる少なくとも一つである澱粉が好ましい。
【0021】
エーテル化澱粉とは、グルコース残基の水酸基に、エーテル結合によって官能基が結合している澱粉である。このようなエーテル化澱粉に結合している官能基として、例えば、炭素数1以上10以下のヒドロキシアルキル基が挙げられる。なお、前記ヒドロキシアルキル基の炭素数は、1以上であって、9以下であってもよく、8以下であってもよく、7以下であってもよく、6以下であってもよく、5以下であってもよく、4以下であってもよく、3以下であってもよい。
【0022】
前記ヒドロキシアルキル基として、具体的には、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシブチル基、およびヒドロキシペンチル基からなる群より選ばれる少なくとも一つの官能基が挙げられるが、これらに限られない。なお、エーテル化澱粉はこれに限られず、いかなる官能基がエーテル結合により結合している澱粉であってもよい。
【0023】
また、エーテル化澱粉にヒドロキシアルキル基が含まれている場合、当該エーテル化澱粉におけるヒドロキシアルキル基の含有量は、乾燥物換算で1重量%以上であることが好ましく、1.5重量%以上であることがより好ましく、2.0重量%以上であることがより好ましく、2.5重量%以上であることがより好ましく、3.0重量%以上であることがより好ましく、3.5重量%以上であることがより好ましく、4.0重量%以上であることがより好ましく、4.5重量%以上であることがより好ましく、5.0重量%以上であることがより好ましい。
【0024】
なお、前記ヒドロキシアルキル基の含有量は滴定法により測定する。後述する実施例において、ヒドロキシプロピル基の含有量を測定する法を例として、ヒドロキシアルキル基の含有量を滴定法によって測定する方法について詳しく説明する。
【0025】
非エステル化澱粉とは、グルコース残基の水酸基に、エステル結合による官能基が結合していない、またはエステル結合による官能基の割合が極めて少ない(測定限界以下であることが好ましい)澱粉である。エステル結合により前記水酸基に結合する官能基としては、例えば、アセチル基およびカルボキシル基等が挙げられるが、これに限られない。
【0026】
本実施形態に係る非エステル化澱粉は、例えば、アセチル基およびカルボキシル基の含有量がいずれも、乾燥物換算で0.3重量%未満であることが好ましく、0.2重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以下であることがより好ましい。なお、エステル化澱粉におけるアセチル基およびカルボキシル基の含有量は滴定法により測定する。滴定法の方法については、後述する実施例において詳しく説明する。
【0027】
澱粉は一般的に、高pH条件下(例えば、pH10以上の条件下)において粘度が低下しやすい。ここで、澱粉の粘度が低い場合にはバインダーとしての性能も低下するため、高pH条件下において粘度が低下する澱粉は、バインダーとしては好ましくない。
【0028】
一方、エーテル化澱粉、非エステル化澱粉、およびエーテル化/非エステル化澱粉は、高pH条件下において粘度が低下しにくい。これは、高pH条件下において、エステル結合よりもエーテル結合の方が安定な結合であるためである。すなわち、高pH条件下では、エステル結合により結合された官能基は不安定となるが、エーテル結合によって結合された官能基は安定に存在できる。したがって、エーテル化澱粉、非エステル化澱粉、またはエーテル化/非エステル化澱粉であれば、pHの上昇に関わらず化工澱粉としての性質を維持できるため、高pH条件下でも粘度が低下しにくい。
【0029】
塊成物の原料は、製鉄プロセスで発生する鉄含有副産物を用いる場合には、当該製鉄プロセスの種類によって様々な性質を有している。前記原料が高pHである場合、バインダーにおける粘度等の性能は、当該原料のpHにより影響される。
【0030】
したがって、原料が高pHである場合でも、バインダーとしてエーテル化澱粉、非エステル化澱粉、またはエーテル化/非エステル化澱粉を用いれば粘度が低下しにくいため、問題なく塊成物の製造に使用できる。
【0031】
ここで、原料が高pHである場合とは、純水100mLに原料1gを投入し、市販のpHメーターでpHを測定したときに、当該pHが12.5以上の場合であってもよく、12以上の場合であってもよく、11.5以上の場合であってもよく、11以上の場合であってもよく、10.5以上の場合であってもよく、10以上の場合であってもよい。原料がこのような高pHの場合でも、本実施形態に係る澱粉によれば、バインダーとして問題なく塊成物の製造に使用できる。
【0032】
また、バインダーは、エーテル化澱粉、非エステル化澱粉、またはエーテル化/非エステル化澱粉を、さらにα化したα澱粉とすることが好ましく、または、さらにデキストリン化したデキストリン等であってもよい。なお、デキストリンには、澱粉を100~200℃で加熱して製造される焙焼デキストリンおよび、酸や酵素でデキストリン化したもの等のように数種類があるが、いずれを用いてもよい。
【0033】
バインダーの添加量は、原料をペレットまたはブリケットに加工して塊成化が可能な範囲であれば特に限定されず、バインダーの種類に応じて適宜調整すればよい。化工澱粉をバインダーとして用いる場合、その添加量は、原料100質量部に対して、好ましくは0.5~5質量部、より好ましくは1~3質量部である。
【実施例
【0034】
本発明の一実施例について以下に説明する。本発明の効果を確認するため、以下の造粒実験を実施した。
【0035】
(原料pHとバインダーとの関係)
原料として、製鉄プロセスで発生する鉄含有副産物である原料Xおよび原料Yを用いて、塊成物(以下、「サンプル」と称することがある)の製造を行った。以下の表1に、原料Xおよび原料Yの化学成分組成を示す。
【0036】
【表1】
【0037】
原料XのpHは9.2であり、原料YのpHは12.8であった。なお、それぞれの原料のpHは、純水100mLに原料1gを投入し、市販のpHメーターでpHを測定した。また、図1に示すように、原料の粒径は原料Xの方が原料Yと比べて小さかった。
【0038】
次に、バインダーは、3種類の異なるα澱粉であるα澱粉A、α澱粉B、およびα澱粉Cを用いた。以下の表2に、これらのα澱粉の物性を示す。
【0039】
【表2】
【0040】
3種類のα澱粉は、市販の食品用化工澱粉をイングレディオン・ジャパンより購入したものである。各α澱粉は、いずれもタピオカを原料としているが、α化前の化学処理方法がそれぞれ異なるものである。各α澱粉の間に、化学成分および分子量分散度の観点からは、顕著な差は見られなかった。また、図2に示すように、各α澱粉の粒径にも特に差は見られなかった。
【0041】
これらの原料およびバインダーについて、混練機により以下の表3に示す配合の原料等を混練した後、ポケットサイズが28×26×6.5mmとなるように製団し、105℃で12時間以上の乾燥を行った。得られた各サンプルの圧潰強度および造粒水分の関係を、図3の(a)および(b)に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
高pH原料である原料Yは、サンプルNo.1~3には含まれていないが、サンプルNo.4~6には20質量%含まれる。また、いずれの条件においても、いずれかのバインダーが外数で2質量%含まれる。造粒水分については、表中に記載した数値範囲内に収まるように、複数の条件にて実施した。
【0044】
図3の(a)に示すように、原料Yが含まれないサンプルNo.1~3については、いずれも同等の圧潰強度を示した。一方、図3の(b)に示すように、原料Yが20質量%含まれるサンプルNo.4~6については、α澱粉Cをバインダーとして使用したサンプルNo.6において、圧潰強度が顕著に低下した。なお、サンプルNo.6については、造粒水分の割合が4.5質量%以下では造粒できなかった。
【0045】
以上の結果より、バインダーとしてα澱粉Cを用いた場合に、原料のpHによる影響を大きく受け、高pHでは造粒後のサンプルの圧潰強度が低下することが示された。
【0046】
(澱粉の構造と性能との関係)
α澱粉A、α澱粉B、およびα澱粉Cをバインダーとして使用した場合、α澱粉Cのみが原料が高pHである影響を顕著に受けたため、その原因を検討した。
【0047】
まず、α澱粉A、α澱粉B、およびα澱粉Cをそれぞれ、純水(pH7.0)またはアルカリ水(pH11.8)に溶解し、粘度を測定した。なお、アルカリ水は、pH11.8となるように、純水にNaOH試薬を投入して調製した。また、澱粉は、α澱粉Aが40質量%、α澱粉Bが17質量%、α澱粉Cが15質量%となるように溶解した。粘度は、英弘精機製ブルックフィールド型粘度計を用い、スピンドルにLV3を用い、スピンドル回転数20rpm、溶媒温度20~25℃の条件下にて測定した。
【0048】
図4に示すように、いずれのα澱粉でも、純水に溶解した場合と比較して、アルカリ水に溶解した場合に粘度が低下したが、粘度低下はα澱粉Cにおいて特に顕著であった。この結果から、サンプルNo.6の圧潰強度が他のサンプルよりも顕著に低下したのは、原料のpHがα澱粉Cのバインダーとしての性能(すなわち、粘度)に大きく影響した結果であることが示唆された。
【0049】
(FT-IR分析)
ここで、α澱粉A、α澱粉B、およびα澱粉Cはα化される前の化学処理方法が異なることから、それぞれ付加されている官能基が異なると考えられる。それぞれのα澱粉に付加されている官能基の違いが、高pH条件下における粘度に影響していると仮定し、FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)による各α澱粉の官能基分析を行った。当該分析の結果について、図5に示す。
【0050】
図5に示すように、いずれのα澱粉においても、(a)OH基を示すO-H伸縮、(b)アルキル基を示すC-H伸縮、および(c)エーテル結合を示すC-O伸縮が認められた。一方、(d)エステル結合を示すC=O伸縮、および(e)カルボン酸塩を示すCOO伸縮は、α澱粉Cにのみ認められ、α澱粉Aおよびα澱粉Bには認められなかった。
【0051】
(滴定法による測定)
次に、滴定法によって各α澱粉のアセチル基、カルボキシル基、およびヒドロキシプロピル基の含有量を測定した。
【0052】
アセチル基の測定は以下の通り実施した。乾燥α澱粉5gを純水100mLに加えて懸濁した。フェノールフタレイン試液数滴を加え、液が微紅色を呈するまで水酸化ナトリウム溶液を滴下した。次に、0.45mol/L水酸化ナトリウム溶液25mLを加え、栓をして、30分間激しく振り混ぜて検液とした。当該検液中における過量の水酸化ナトリウムを0.2mol/L塩酸により滴定し、その消費量を「S」mLとした。滴定の終点は、液の微紅色が消える時点とした。また、参照データ取得のため、0.45mol/L水酸化ナトリウム25mLを0.2mol/L塩酸で滴定し、その消費量を「B」mLとした。そして、次式(1)により、各α澱粉に含まれるアセチル基の含有量を求めた。
【0053】
【数1】
【0054】
カルボキシル基の測定は以下の通り実施した。乾燥α澱粉3gに塩酸の80体積%エタノール溶液(塩酸:80体積%エタノール溶液=9:1000)を加え、時々混和しながら30分間放置した後、吸引濾過した。濾紙上の残留物を、洗液が塩化物の反応を呈さなくなるまで80体積%エタノール溶液で洗浄した。濾紙上の残留物に80体積%エタノール溶液300mLを加えて懸濁し、攪拌しながら浴中で加熱して糊化させ、さらに15分間加熱した。糊化した試料を浴中から取り出し、熱いうちに0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液により滴定し、その消費量を「S」mLとした。このときの指示薬は、フェノールフタレイン試液3滴とした。また、参照データ取得のため、乾燥α澱粉3gを80体積%エタノール溶液10mLに加えて懸濁し、30分間攪拌した懸濁液を吸引濾過し、濾紙上の残留物を80体積%エタノール溶液200mLで洗った。残留物に80体積%エタノール溶液300mLを加えて懸濁し、以下本試験と同様に操作し、その消費量を「B」mLとした。そして、次式(2)により、各α澱粉に含まれるカルボキシル基の含有量を求めた。
【0055】
【数2】
【0056】
ヒドロキシプロピル基の測定は以下の通り実施した。乾燥α澱粉0.1gに36倍希釈した硫酸25mLを加えて水浴中で加熱して溶解し、冷却後、純水で100mLにして試料液とした。なお、試料液は、必要に応じてヒドロキシプロピル基の濃度が4mg/100mL以上とならないように希釈した。試料液1mLを冷却しながら硫酸8mLを滴下した。攪拌後、水浴中で3分間加熱し、氷冷した。氷冷後、化工澱粉用ニンヒドリン試液0.6mLを加え、直ちに振り混ぜ、25℃の水浴中に100分間静置した。硫酸を加えて25mLとし、懸濁したものを検液とし、対照液に対する590nmの吸光度を測定した。ここで、対照液は、試料のα澱粉と同じ植物を基原とする未化工澱粉を用いて、検液の場合と同様に操作し調製した。
【0057】
次に、標準液を調製するため、プロピレングリコール0.025gに純水を加えて100mLとし、この液を2、4、6、8、10mLにそれぞれ分注して、それぞれに純水を加えて各50mLとした。これらの液1mLずつに、冷却しながら硫酸8mLを滴下し、以下検液の場合と同様に操作して標準液とし、検量線を作成した。得られた検量線から、検液中のプロピレングリコール濃度(μg/mL)を求め、次式(3)によりヒロドキシプロピル基の含有量を求めた。
【0058】
【数3】
【0059】
これらの測定法に従って、各α澱粉における各官能基の乾燥物換算での含有量(重量%)を測定した結果を、以下の表4に示す。
【0060】
【表4】
【0061】
α澱粉Aおよびα澱粉Bはアセチル基およびカルボキシル基がいずれも検出されなかった(測定限界値以下であった)のに対し、α澱粉Cはアセチル基およびカルボキシル基がいずれも0.3重量%含まれていた。以上より、アセチル基およびカルボキシル基の含有量から、α澱粉Aおよびα澱粉Bは非エステル化澱粉であり、α澱粉Cはエステル化澱粉であることを確認した。また、カルボキシル基の含有量から、α澱粉Aおよびα澱粉Bは非酸化澱粉であり、α澱粉Cは酸化澱粉であることを確認した。
【0062】
次に、α澱粉Aおよびα澱粉Bはヒドロキシプロピル基がいずれも5重量%以上含まれていたのに対し、α澱粉Cはヒドロキシプロピル基が検出されなかった(検出限界値以下であった)。この結果から、α澱粉Aおよびα澱粉Bはヒドロキシアルキル基を有するエーテル化澱粉であり、より詳細にはヒドロキシプロピル化澱粉であることを確認した。
【0063】
(まとめ)
塊成物の製造において、高pH原料である原料Yが含まれる原料を用いた場合でも、バインダーとしてα澱粉Aおよびα澱粉Bを用いれば、α澱粉Cを用いた場合と比較して、得られたサンプルの圧潰強度は良好であった。これは、α澱粉Aおよびα澱粉Bが非エステル化澱粉であること、非酸化澱粉であること、またはエーテル化澱粉であることに起因していることが、前記のα澱粉A、α澱粉B、およびα澱粉Cの官能基含有量測定結果により示された。
【0064】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5