(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】熱延鋼材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 38/00 20060101AFI20230110BHJP
B21B 1/00 20060101ALI20230110BHJP
B21B 45/00 20060101ALI20230110BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20230110BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20230110BHJP
C22C 38/16 20060101ALN20230110BHJP
【FI】
B21B38/00 F
B21B1/00 A
B21B45/00 A
B21C51/00 P
C22C38/00 301W
C22C38/16
(21)【出願番号】P 2019025227
(22)【出願日】2019-02-15
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105175
【氏名又は名称】山広 宗則
(74)【代理人】
【識別番号】100105197
【氏名又は名称】岩本 牧子
(72)【発明者】
【氏名】春名 雄太
(72)【発明者】
【氏名】藤原 勝
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-265537(JP,A)
【文献】特開昭54-074231(JP,A)
【文献】特開昭60-211014(JP,A)
【文献】特開平09-314204(JP,A)
【文献】特開平11-156421(JP,A)
【文献】特公昭61-025772(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 38/00-38/12
B21B 1/00-11/00
B21B 47/00-99/00
B21B 45/00-45/08
B21C 51/00
C22C 38/00
C22C 38/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材を、加熱帯とそれに続く均熱帯を有する加熱炉、粗圧延機、デスケール装置、仕上げ圧延機の順序で通して熱延鋼材を製造する方法であって、
加熱指標として、
前記加熱炉装入から抽出までの前記鋼材温度の積算値(時間積分)である熟熱度と、前記粗圧延温度との関係において、前記鋼材に焼疵が発生するか否かの検証をして、焼疵が発生しない領域と焼疵が発生する領域を検出し、
前記加熱指標において前記焼疵が発生しない領域の条件で、前記鋼材を製造することを特徴とする熱延鋼材の製造方法。
【請求項2】
鋼材を、加熱帯とそれに続く均熱帯を有する加熱炉、粗圧延機、デスケール装置、仕上げ圧延機の順序で通して熱延鋼材を製造する方法であって、
粗圧延荷重の総和として、
前記鋼材を前記粗圧延機の圧延ローラ間に往復して複数回通過させ、各通過の際に前記鋼材に加えられた前記圧延ローラからの圧力の総和を用いて、
前記鋼材に焼疵が発生するか否かの検証をして、焼疵が発生しない領域と焼疵が発生する領域を検出し、
前記粗圧延荷重の総和において前記焼疵が発生しない領域の条件で、前記鋼材を製造することを特徴とする熱延鋼材の製造方法。
【請求項3】
鋼材を、加熱帯とそれに続く均熱帯を有する加熱炉、粗圧延機、デスケール装置、仕上げ圧延機の順序で通して熱延鋼材を製造する方法であって、
加熱指標として、
前記加熱炉装入から抽出までの前記鋼材温度の積算値(時間積分)である熟熱度と、前記粗圧延温度との関係において、前記鋼材に焼疵が発生するか否かの検証をして、焼疵が発生しない領域と焼疵が発生する領域を検出するとともに、
粗圧延荷重の総和として、
前記鋼材を前記粗圧延機の圧延ローラ間に往復して複数回通過させ、各通過の際に前記鋼材に加えられた前記圧延ローラからの圧力の総和を用いて、
前記鋼材に焼疵が発生するか否かの検証をして、焼疵が発生しない領域と焼疵が発生する領域を検出し、
前記加熱指標において前記焼疵が発生する領域の条件になる場合、前記粗圧延荷重の総和において前記焼疵が発生しない領域の条件で、前記鋼材を製造することを特徴とする熱延鋼材の製造方法。
【請求項4】
前記鋼材は炭素鋼であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載の熱延鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼疵(スケール疵)の発生を防止する熱延鋼材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製品に使用される熱延鋼材は、通常、加熱炉、粗圧延機、デスケール装置、及び仕上げ圧延機を通して製造されるが、この製造過程において、加熱炉内での粒界酸化に起因して鋼材に焼疵が発生する場合がある。
焼疵の発生は、鋼材の製品価値を低下させ、歩留まりの低下にも直結するので確実に防止することが必要である。
【0003】
従来、こうした焼疵の発生を防止するための手段が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献に記載の手段は、対象とする鋼材の種類を限定し(例えば、質量%でC=0.0005~0.25%、Si≦0.5%、Mn=0.1~1.5%など)、鋼材を一定の数式によって求めた加熱時間で加熱することにより、焼疵の発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明は焼疵を防止するための操業指標を示しているが、仕上工程での設備又は操業トラブルにより在炉時間が規定値を超えた場合、焼疵が発生することがある。
【0006】
そこで、本発明の目的とするところは、焼疵の発生をより確実に防止できる熱延鋼材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の熱延鋼材の製造方法は、鋼材を、加熱帯(11、12、13)とそれに続く均熱帯(14)を有する加熱炉(10)、粗圧延機(20)、デスケール装置(30)、仕上げ圧延機(40)の順序で通して熱延鋼材を製造する方法であって、
加熱指標として、
前記加熱炉装入から抽出までの前記鋼材温度の積算値(時間積分)である熟熱度と、前記粗圧延温度との関係において、前記鋼材に焼疵が発生するか否かの検証をして、焼疵が発生しない領域と焼疵が発生する領域を検出し、
前記加熱指標において前記焼疵が発生しない領域の条件で、前記鋼材を製造することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の熱延鋼材の製造方法は、
鋼材を、加熱帯(11、12、13)とそれに続く均熱帯(14)を有する加熱炉(10)、粗圧延機(20)、デスケール装置(30)、仕上げ圧延機(40)の順序で通して熱延鋼材を製造する方法であって、
粗圧延荷重の総和として、
前記鋼材を前記粗圧延機(20)の圧延ローラ(21)間に往復して複数回通過させ、各通過の際に前記鋼材に加えられた前記圧延ローラ(21)からの圧力の総和を用いて、 前記鋼材に焼疵が発生するか否かの検証をして、焼疵が発生しない領域と焼疵が発生する領域を検出し、
前記粗圧延荷重の総和において前記焼疵が発生しない領域の条件で、前記鋼材を製造することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の熱延鋼材の製造方法は、
鋼材を、加熱帯(11、12、13)とそれに続く均熱帯(14)を有する加熱炉(10)、粗圧延機(20)、デスケール装置(30)、仕上げ圧延機(40)の順序で通して熱延鋼材を製造する方法であって、
加熱指標として、
前記加熱炉装入から抽出までの前記鋼材温度の積算値(時間積分)である熟熱度と、前記粗圧延温度との関係において、前記鋼材に焼疵が発生するか否かの検証をして、焼疵が発生しない領域と焼疵が発生する領域を検出するとともに、
粗圧延荷重の総和として、
前記鋼材を前記粗圧延機(20)の圧延ローラ(21)間に往復して複数回通過させ、各通過の際に前記鋼材に加えられた前記圧延ローラ(21)からの圧力の総和を用いて、 前記鋼材に焼疵が発生するか否かの検証をして、焼疵が発生しない領域と焼疵が発生する領域を検出し、
前記加熱指標において前記焼疵が発生する領域の条件になる場合、前記粗圧延荷重の総和において前記焼疵が発生しない領域の条件で、前記鋼材を製造することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の熱延鋼材の製造方法は、前記鋼材が炭素鋼であることを特徴とする。
【0011】
また、前記炭素鋼の炭素量が0.2質量%以下であることを特徴とする。
【0014】
ここで、上記括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に掲載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱延鋼材の製造方法によれば、加熱指標として、加熱炉装入から抽出までの鋼材温度の積算値(時間積分)である熟熱度と、粗圧延温度との関係において、鋼材に焼疵が発生するか否かの検証をして、焼疵が発生しない領域と焼疵が発生する領域を検出し、加熱指標において焼疵が発生しない領域の条件で鋼材を製造するので、加熱指標を利用することによって焼疵のない熱延鋼材を製造することができる。
【0016】
すなわち、加熱時間(在炉時間)のみでなく、鋼材の温度などを複合的に組み合わせた加熱指標および粗圧延条件を基本にして熱延鋼材を製造するので、操業の柔軟性が高くなり、焼疵の発生を確実に防止できる製造方法を提供することができる。
【0017】
また、本発明の熱延鋼材の製造方法によれば、粗圧延荷重の総和として、鋼材を粗圧延機の圧延ローラ間に往復して複数回通過させ、各通過の際に鋼材に加えられた圧延ローラからの圧力(圧延荷重)の総和を用いて、鋼材に焼疵が発生するか否かの検証をして、焼疵が発生しない領域と焼疵が発生する領域を検出し、粗圧延荷重の総和において発生した焼疵が消失する領域の条件で鋼材を製造するので、焼疵のない熱延鋼材を製造することができる。
これによれば、在炉時間が規定値を超えた場合でも、圧延荷重の総和を変更する事で、焼疵の発生を抑制することができる。
【0018】
また、本発明の熱延鋼材の製造方法によれば、加熱指標と粗圧延荷重の総和の双方を利用することによって、焼疵発生領域の条件になった場合でも、粗圧延荷重の総和において焼疵が発生しない領域の条件で、鋼材を製造するので、焼疵のない熱延鋼材を確実にかつ効率的に製造することができる。
【0019】
また、本発明の熱延鋼材の製造方法によれば、鋼材が炭素鋼であるので、焼疵のない炭素鋼の熱延鋼材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の熱延鋼材の製造方法および検査方法の対象となる鋼材製造ラインを示す。
【
図2】本発明の熱延鋼材の製造方法および検査方法における加熱指標を示すグラフである。
【
図3】本発明の熱延鋼材の製造方法および検査方法における粗圧延荷重の総和を示すグラフである。
【
図4】
図1に示す設備において、加熱炉の各加熱帯と均熱帯における在炉時間と焼疵発生率との関係を示すグラフであり、第1加熱帯、第2加熱帯、第3加熱帯、均熱帯におけるものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1乃至
図4を参照して、本発明の実施形態に係る熱延鋼材の製造方法を説明する。
本発明者らは、焼疵の発生が加熱炉10の炉内温度に関係するとの仮説を立て、加熱炉10の第1加熱帯11、第2加熱帯12、第3加熱帯13および均熱帯14のそれぞれにおいて、炉内時間と焼疵の発生率との関係を調べた。
その結果、
図4に示すように、第2加熱帯12、第3加熱帯13および均熱帯14のそれぞれにおいて、炉内時間が長くなるほど焼疵が発生し易いという結果を得た。
本実施形態ではこの結果を参考にし、鋼材の炉内時間が長くなると鋼材自体の温度も高くなるのでこの点を後述する熟熱度の算出に反映させた。
【0024】
本実施形態に係る熱延鋼材の製造方法は、低炭素鋼の熱延鋼材を、加熱炉10、粗圧延機20、デスケール装置30および仕上げ圧延機40を備えた鋼材の製造ライン1によって、焼疵の存在しない熱延鋼材を製造する方法である。
なお、この製造ライン1の加熱炉10は、前記したように、第1加熱帯11、第2加熱帯12、第3加熱帯13および均熱帯14をこの順で備え、粗圧延機20は、上下一対の一次圧延ローラ21(R2)及び、同じく上下一対の二次圧延ローラ22(R3)をこの順で備える。また、仕上げ圧延機40は、複数対の圧延ローラ(図示せず)を備える。
【0025】
本実施形態の熱延鋼材の製造方法は、加熱指標と粗圧延荷重の総和という本発明者らが独自に得た指標を使用して、焼疵のない熱延鋼材を製造するものである。
【0026】
加熱指標は、鋼材に対して焼疵が発生すると考えられる加熱炉10を対象とするものであり、いわゆる熟熱度と、粗圧延機20における一次圧延ローラ21から出力されるときの鋼材の温度との関係によって鋼材に対して焼疵が発生したか発生しなかったかという結果から、焼疵が発生しなかった領域と、焼疵が発生した領域を検出したものである。
熟熱度は、加熱炉10内の条件によって決定される値で、鋼材が加熱炉10に装入されてから抽出されるまでの間における鋼材温度の積算値(時間積分)である。
【0027】
図2に示すように、焼疵が発生しない領域は、熟熱度が215×10
3以下でありしかも粗圧延機20の一次圧延ローラ21出側の鋼材の温度が1133℃以下の範囲であり、それ以外(熟熱度が215×10
3を超えるかまたは一次圧延ローラ21出側の鋼材の温度)が、焼疵が発生する領域である。
この焼疵が発生しない領域となる条件で鋼材を加熱処理することにより、焼疵の発生しない熱延鋼材を製造することができる。
【0028】
次に、粗圧延荷重の総和は、粗圧延機20における一次圧延ローラ21による加圧を対象とするものであり、鋼材を粗圧延機20の上下に位置する一次圧延ローラ21間に往復して複数回通過させ、各通過の際に鋼材に加えられた一次圧延ローラ21からの圧力(圧延荷重)の総和と、粗圧延機20の一次圧延ローラ21出側の温度との関係において、鋼材に焼疵が発生するか否かの検証をして、焼疵が発生しない領域と焼疵が発生する領域を検出したものである。
ここで、鋼材を粗圧延機20の上下に位置する一次圧延ローラ21間に往復して複数回通過させ、各通過の際に鋼材に加えられた一次圧延ローラ21からの圧力(圧延荷重)の総和だけで、鋼材に焼疵が発生するか否かの検証をして、焼疵が発生しない領域と焼疵が発生する領域を検出することもできる。
【0029】
そして、上述した加熱指標において焼疵が発生する領域の条件になる場合、粗圧延荷重の総和において、焼疵が発生しない領域の条件で鋼材を製造するものである。
【0030】
図3に示すように、焼疵が発生しない領域の条件となる、本実施形態における圧力の総和(粗圧延荷重の総和)は、6200ton以上であり、粗圧延機20の一次圧延ローラ21出側の温度は少なくとも1160℃以下である。
この両数値で設定される範囲外については、「焼疵が発生する領域」である。
従って、この「焼疵が発生しない領域」で鋼材を圧延処理することにより、最終的に焼疵のない熱延鋼材を製造することができる。
【0031】
低炭素鋼の熱延鋼材としては、重量%において、その成分としてCが0.14~0.20,Si≦0.15,Mnが0.60~1.45,P≦0.030,S≦0.025,Cu≦0.23,Alが0.020~0.040を含有するアルミキルド鋼が適用される。
特に、本実施形態では、重量%において、その成分としてCが0.17,Si≦0.15,P≦0.030,S≦0.025,Cu≦0.23,Alが0.030で、Mnが低めの0.65の場合と、Mnが高めの1.40の場合に限定した二種類のアルミキルド鋼基づいて、
図2及び
図3に示すグラフの値を求めたものである。
【0032】
次に、本実施形態に係る熱延鋼材の検査方法については、上述した加熱指標において焼疵が発生する領域、または粗圧延荷重の総和において焼疵が発生する領域のうち少なくとも一方の条件で製造された鋼材には、焼疵が発生している可能性が高いので検査対象として抽出するものである。
これにより、全ての熱延鋼材を検査の対象とする場合と比較して、焼疵が発生している熱延鋼材を効率的に検出することができる。
【0033】
なお、本実施形態における製造方法および検査方法では、加熱指標と粗圧延荷重の総和の両方を利用して最終的に焼疵のない熱延鋼材を製造するようにしたが、加熱指標だけを利用して鋼材に焼疵が発生しないようにすることもできる。また、粗圧延荷重の総和だけを利用して鋼材に焼疵が発生しないようにすることもできる。
【0034】
また、粗圧延荷重の総和については、鋼材を粗圧延機20の一次圧延ローラ21間に往復して複数回通過させ、各通過の際に鋼材に加えられた一次圧延ローラ21からの圧力(圧延荷重)の総和と、粗圧延機20の一次圧延ローラ21出側の温度との関係において導き出したが、二次圧延ローラ22間に往復して複数回通過させ、各通過の際に鋼材に加えられた二次圧延ローラ22からの圧力の総和と、粗圧延機20の二次圧延ローラ22出側の温度との関係において導き出したり、あるいは、一次,二次圧延ローラ21,22間に往復して複数回通過させ、各通過の際に鋼材に加えられた一次,二次圧延ローラ21,22からの圧力(圧延荷重)の総和と、粗圧延機20の二次圧延ローラ22出側の温度との関係において導き出したりすることもできる。
また、上述したように、温度との関係については特に考慮することなく、二次圧延ローラ22からの圧力の総和において、あるいは、一次,二次圧延ローラ21,22からの圧力(圧延荷重)の総和において、焼疵が発生しない領域の条件で鋼材を製造することができる。
【0035】
また、本実施形態では、低炭素鋼材をその対象としているが、これに限定されず、それ以外の鋼材を対象とすることができる。その場合、熟熱度などの具体的な数値は上記実施形態に限定されない。
【符号の説明】
【0036】
1 製造ライン
10 加熱炉
11 第1加熱帯
12 第2加熱帯
13 第3加熱帯
14 均熱帯
20 粗圧延機
21 一次圧延ローラ
22 二次圧延ローラ
30 デスケール装置
40 仕上げ圧延機