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  • 特許-転炉上吹ランスチップ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】転炉上吹ランスチップ
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/46 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
C21C5/46 101
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019081656
(22)【出願日】2019-04-23
(65)【公開番号】P2020180310
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【氏名又は名称】来田 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】福山 博之
(72)【発明者】
【氏名】貞本 峻秀
(72)【発明者】
【氏名】松澤 玲洋
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-172712(JP,A)
【文献】特開2019-002045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/46
C21C 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉内の溶融金属へ酸素を吐出する複数のノズル孔を有し、仕切筒を挟んで対向する内筒と外筒の間の間隙が冷却水路とされた、転炉上吹ランスの先端に装着されるランスチップにおいて、
隣接する前記ノズル孔の内周面間の最短距離d(mm)が(1)式の条件を満足し、前記内筒の底部肉厚w(mm)が(2)式の条件を満足することを特徴とする転炉上吹ランスチップ。
d<2t/cos(θ/2)・(1-sin(θ/2)) (1)
w≧(2t-d・cos(θ/2))/(2sin(θ/2)) (2)
ここで、t:ノズル孔を画成する周壁の厚み(mm)、θ:隣接するノズル孔とノズル孔がなす角度(°)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉内の溶融金属に酸素を供給する転炉上吹ランスの先端に装着されるランスチップに関する。
【背景技術】
【0002】
転炉上吹ランスは、精錬反応に必要な酸素を転炉内の溶融金属に高速で供給する設備である。転炉上吹ランスの設計に当たっては、酸素の利用効率、ダスト発生量の抑制、精錬効率、耐火物への影響などの点が考慮される。
【0003】
ダスト発生量については、例えば非特許文献1のFig.3に記載されているように、酸素ジェットが溶融金属面に到達した際に発生する窪み(キャビティ)の深さL(キャビティ深さ)と径D(キャビティ径)からなる指標L/Dと負の線形相関を示すことが知られている。因って、ダスト発生量を抑制するためには、キャビティ深さを大きく、キャビティ径を小さくすることが有効である。実操業では、ランスチップ下面と溶融金属表面との間の距離(ランスギャップ)を短くして、酸素ジェットの広がりを抑制することによりキャビティ径を小さくすると共に、溶融金属表面到達時の酸素ジェット動圧を増加させることによりキャビティ深さを大きくしている。
【0004】
また、キャビティ径を小さくするため、酸素ジェットの吹出口(ノズル孔)を複数設ける、いわゆる多孔ランスが考案され実用化されている。ランスチップ下面におけるノズル孔の総面積が一定の条件下では、ノズル孔数が多いほどキャビティ径を小さくすることができるので、キャビティ数が増加してもダスト発生量を抑制することができる。このため、非特許文献2にも記載されているように、4孔以上のノズル孔を有するランスチップが一般に使用されている。
【0005】
他方、転炉内は溶融金属の輻射熱により炉内耐火物も1000℃以上に熱せられている。転炉上吹ランスは、周囲全方向から輻射熱を受けるという熱的に非常に過酷な環境下で使用されるため、熱変形や熱損傷を受けないように外周部に冷却水路が設けられている。例えば、特許文献1には、外管本体上端に固定用のフランジ継手を設け、該継手と仕切管本体との間を摺動自在にシールすると共に、該仕切管本体上端に固定用のフランジ継手を設け、該継手と内管本体との間を摺動自在にシールした水冷式上吹き酸素ランスが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、酸素供給部に接続した複数のノズル片のそれぞれに、少なくとも2つの同心円状に位置するように設けられた複数の流出開孔のそれぞれによってランスヘツド内に単独流を分布せしめる水冷ランスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-228911号公報
【文献】特開昭61-213312号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】嶋宏,外3名,「レススラグ吹錬における上吹き条件の最適化」,鉄と鋼,’87-S1018(282),1987年,p.282
【文献】後藤正夫,「鉄鋼業における高炉羽口,ランスノズルなどの純銅鋳物の変遷」,鉄と鋼,第10号,1986年,p.1-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、転炉上吹ランスは、熱変形や熱損傷を受けないよう水冷化されている。しかし、ノズル孔が増加するにつれてランスチップ下面の局所的な溶損による水漏れが頻発し、安定操業に大きな支障をきたしている。
特許文献1記載の発明は、ランスにかかる熱負荷を軽減しランスチップの寿命を改善することを目的としているが、ランスチップ下面の局所的な溶損を低減する構造を特許化したものではない。また、特許文献2も冷却水の流路について特に記載されていない。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、ランスチップ下面の局所的な溶損を抑制することにより長期間安定運用できる転炉上吹ランスチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、転炉内の溶融金属へ酸素を吐出する複数のノズル孔を有し、仕切筒を挟んで対向する内筒と外筒の間の間隙が冷却水路とされた、転炉上吹ランスの先端に装着されるランスチップにおいて、
隣接する前記ノズル孔の内周面間の最短距離d(mm)が(1)式の条件を満足し、前記内筒の底部肉厚w(mm)が(2)式の条件を満足することを特徴としている。
d<2t/cos(θ/2)・(1-sin(θ/2)) (1)
w≧(2t-d・cos(θ/2))/(2sin(θ/2)) (2)
ここで、
t:ノズル孔を画成する周壁の厚み(mm)、
θ:隣接するノズル孔とノズル孔がなす角度(°)
【0012】
本発明者らは、ランスチップ下面の溶損原因を調査した。その結果、従来のランスチップの場合、後述するように、隣接するノズル孔の間隔が狭小化すると、冷却水路に凸部が形成されることによって冷却水の流れによどみが発生し、冷却機能が低下することが判明した。
【0013】
そこで、本発明に係るランスチップでは、隣接するノズル孔の間隔が狭小化して冷却水路に凸部が形成される(1)式の条件下において、内筒の底部肉厚を(2)式で規定することにより冷却水の流れによどみが生じないようにする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る転炉上吹ランスチップでは、冷却水の流れによどみが生じないので冷却機能が低下せず、ランスチップ下面の溶損を抑制することができる。その結果、ランスチップの寿命が延びて、ランスチップの費用や交換時間を削減することができる。また、ランスチップ下面の溶損が抑制されるので、ランスギャップを小さくしてダスト発生量を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ランスチップ下部を上方から見た端面図である。
図2】隣接するノズル孔の周壁が離間しているランスチップのD-D端面図である。
図3】同ランスチップをA-B線及びA-C線で切断した端面図である。
図4】隣接するノズル孔の周壁が近接しているランスチップのD-D端面図である。
図5】同ランスチップをA-B線及びA-C線で切断した端面図である。
図6】隣接するノズル孔の内周面間の最短距離dを算出する式の導出過程を説明するための模式図である。
図7】内筒の底部肉厚wを算出する式の導出過程を説明するための模式図である。
図8】本発明の一実施の形態に係るランスチップのD-D端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。なお、以下の説明では、便宜上、転炉上吹ランスは転炉内に垂直に挿入されると想定し、ランス側をランスチップの上側、溶融金属側をランスチップの下側とする。また、本明細書及び図面において実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
転炉(図示省略)内の溶融金属に酸素を供給する転炉上吹ランス(図示省略)の先端にはランスチップが装着される。転炉内の溶融金属へ酸素を吐出するノズル孔13を複数(本例ではランスチップ10の中心軸の周囲に4孔、中心軸上に1孔配置)有するランスチップ10下部を上方から見た端面図を図1に示す。また、図1のD-D線で切断したランスチップ10の端面図を図2に、図1のA-B線及びA-C線で切断したランスチップ10の端面図を図3に示す。
【0018】
ランスチップ10は、同心円上に配置された内筒14及び外筒16と、内筒14と外筒16とを仕切る仕切筒15を備え、内筒底部18と外筒底部19には、それぞれノズル孔13が4孔形成されている。ランスチップ10の中心軸の周囲に形成されているノズル孔13は、内筒底部18のノズル孔13より外筒底部19のノズル孔13のほうが外方に配置され、内筒底部18のノズル孔13と外筒底部19のノズル孔13は管状の周壁17で連通している(図2参照)。
【0019】
内筒14内は酸素の供給路、仕切筒15を挟んで対向する内筒14と外筒16の間の間隙は冷却水路とされている。
内筒14内に供給された酸素はノズル孔13から溶融金属に向けて吐出される(図3参照)。また、冷却水は、内筒14と仕切筒15の間の間隙を下方に向けて流れた後、ランスチップ10の下部で反転し、仕切筒15と外筒16の間の間隙を上方に向けて流れる。
【0020】
図2及び図3は、隣接するノズル孔13の周壁17が離間しているランスチップ10を示したものである。次に、隣接するノズル孔13の周壁17が近接しているランスチップ11を図4及び図5に示す。
【0021】
隣接するノズル孔13の周壁17が近接していると、近接部位(冷却水路に面する内筒底部18)に、図5に示すような凸部20が形成される。これにより、冷却水がスムーズに流れなくなって、冷却水が渦を巻くよどみ部21が冷却水路内に発生し(図5参照)、冷却機能が低下する。
【0022】
そこで、本発明に係るランスチップでは、隣接するノズル孔13の間隔が狭小化して冷却水路に凸部20が形成される(3)式の条件下において、内筒底部18の肉厚を(4)式で規定することにより冷却水の流れによどみが生じないようにする。
【0023】
d<2t/cos(θ/2)・(1-sin(θ/2)) (3)
w≧(2t-d・cos(θ/2))/(2sin(θ/2)) (4)
ここで、
d:隣接するノズル孔13の内周面間の最短距離(mm)、
w:内筒底部18の肉厚(mm)、
t:ノズル孔13を画成する周壁17の厚み(mm)、
θ:隣接するノズル孔13とノズル孔13がなす角度(°)
【0024】
先ず、図6を用いて(3)式の導出について説明する。
図6は、隣接するノズル孔13の内周面間が最短距離となる位置を、当該ノズル孔13の中心軸を含む平面で切ったときの断面であり、内筒底部18付近を拡大した図である。
ノズル孔13の内周面間の最短距離dは(5)式で表される。
d=2×d/2=2(p-q) (5)
【0025】
pは、ノズル孔13の周壁17の厚みt(mm)と、隣接するノズル孔13がなす角θ(°)より(6)式で表される。
p=t/cos(θ/2) (6)
また、ノズル孔13が最短距離となる位置での内筒底部18の厚みをt(mm)とすると、qは(7)式で表される。
q=t・tan(θ/2)=t・sin(θ/2)/cos(θ/2) (7)
【0026】
(6)式と(7)式を(5)式に代入すると、dは(8)式で表される。
d=2/cos(θ/2)・(t-t・sin(θ/2)) (8)
【0027】
内筒底部18が取り得る最小厚みを、周壁17と同じ厚みt(mm)として、ノズル孔13が最短距離となる位置での厚みもt(mm)、即ち、t=tとなる場合、(8)式は(8’)式のように変形される。
d=2t/cos(θ/2)・(1-sin(θ/2)) (8’)
【0028】
即ち、隣接するノズル孔13の内周面間の最短距離dが(8’)式を満足するとき、その位置での内筒底部18の肉厚はtとなる。従って、(8)式で表されるdが(8’)式の右辺の値より小さいとき、即ち、dが(3)式の条件を満足するとき、tはtより大きくなり、冷却水路に凸部20が発生する。
【0029】
次に、図7を用いて(4)式の導出について説明する。なお、隣接するノズル孔13の内周面間の最短距離dは(3)式を満足している。
【0030】
図7において、ノズル孔13が最短距離となる位置での厚みtは(9)式で表される。
=y-z (9)
【0031】
yは、ノズル孔13の周壁17の厚みtと、隣接するノズル孔13がなす角θから(10)式で表される。
y=t/sin(θ/2) (10)
また、zは、隣接するノズル孔13の内周面間の最短距離dと、隣接するノズル孔13がなす角θから(11)式で表される。
z=d/(2tan(θ/2))
=d・cos(θ/2)/(2sin(θ/2)) (11)
【0032】
(10)式と(11)式を(9)式に代入すると、tは(12)式で表される。
=(2t-d・cos(θ/2))/(2sin(θ/2)) (12)
【0033】
内筒底部18の肉厚wが、ノズル孔13が最短距離となる位置での厚みt、即ち、(12)式の右辺の値よりも小さいと、冷却水炉内に凸部20が生じてしまう。従って、内筒底部18の肉厚wが(12)式の右辺の値以上のとき、即ち、wが(4)の条件を満足すれば、冷却水路内に凸部20が現れない。
【0034】
本発明の一実施の形態に係るランスチップ12のD-D端面図を図8に示す。
本実施の形態に係るランスチップ12では、内筒底部18の肉厚が、従来の内筒底部18の肉厚に比べて厚くなっており、隣接するノズル孔13の間隔が狭小化しても冷却水路に凸部20が生じることがない。
【0035】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、上記実施の形態では、ノズル孔の数を4孔としているが、これに限定されるものではなく、5孔以上でもよい。
【符号の説明】
【0036】
10、11、12:ランスチップ、13:ノズル孔、14:内筒、15:仕切筒、16:外筒、17:周壁、18:内筒底部、19:外筒底部、20:凸部、21:よどみ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8