(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20230110BHJP
A63B 60/02 20150101ALI20230110BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20230110BHJP
【FI】
A63B53/04 E
A63B60/02
A63B102:32
(21)【出願番号】P 2019084675
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120938
【氏名又は名称】住友 教郎
(72)【発明者】
【氏名】松永 聖史
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-118961(JP,A)
【文献】特開2008-279249(JP,A)
【文献】特開2002-000780(JP,A)
【文献】特開2005-034428(JP,A)
【文献】特開平11-206929(JP,A)
【文献】登録実用新案第3056415(JP,U)
【文献】特開2004-261450(JP,A)
【文献】特開2002-253712(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0247725(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00-53/06
A63B 60/02
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド本体と、前記ヘッド本体に固定されたフェースプレートと、前記ヘッド本体及び前記フェースプレートよりも大きな比重を有する錘部材とを備えており、
前記ヘッド本体が、フェース側に開口する本体凹み部と、前記開口の周囲に形成された開口縁部とを有しており、
前記本体凹み部に、前記錘部材が挿入されており、
前記錘部材の前面が、ヘッド外部に繋がる空間に面しており、
前記ヘッド本体に前記錘部材を固定する溶融部を更に備えており、
前記錘部材及び前記溶融部が、前記錘部材の上側における前記開口縁部よりもフェース側に突出していないゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
ヘッド本体と、前記ヘッド本体に固定されたフェースプレートと、前記ヘッド本体及び前記フェースプレートよりも大きな比重を有する錘部材とを備えており、
前記ヘッド本体が、フェース側に開口する本体凹み部と、前記開口の周囲に形成された開口縁部とを有しており、
前記本体凹み部に、前記錘部材が挿入されており、
前記錘部材の前面が、ヘッド外部に繋がる空間に面しており、
前記ヘッド本体に前記錘部材を固定する溶融部を更に備えており、
前記錘部材の上側における前記開口縁部が、前記錘部材及び前記溶融部よりもフェース側に突出しているゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記溶融部が、前記ヘッド本体及び前記錘部材と一体化した部分を含む溶接部である請求項1又は2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記溶融部が、前記ヘッド本体と一体化した部分を含み且つ前記錘部材のフェース側を覆う前方被覆部を有する請求項1から3のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記開口縁部の端面の上下方向幅が1.0mm以上である請求項1から4のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記錘部材の上側において、前記開口縁部が前記錘部材に対して0.3mm以上突出している請求項1から5のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記ヘッドがバックキャビティを有しており、
前記空間が前記バックキャビティの一部を構成している請求項1から6のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記ヘッド本体の比重が、前記フェースプレートの比重よりも大きい請求項1から7のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
錘部材が配置されたゴルフクラブヘッドが知られている。特開2019-17525号公報は、ヘッド本体と、ヘッド本体よりも大きい比重を有する錘部材と、前記錘部材を覆うように前記ヘッド本体に固定された固定用部材とを含むゴルフクラブヘッドを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、錘部材を有するゴルフクラブヘッドにおいて、新たな構造を見いだすに至った。本開示は、錘部材を有するヘッドにおいて、従来にない効果を有する新たな構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一つの態様では、ゴルフクラブヘッドは、ヘッド本体と、前記ヘッド本体に固定されたフェースプレートと、前記ヘッド本体及び前記フェースプレートよりも大きな比重を有する錘部材とを備えている。前記ヘッド本体が、フェース側に開口する本体凹み部と、前記開口の周囲に形成された開口縁部とを有している。前記本体凹み部に、前記錘部材が挿入されている。前記錘部材の前面が、ヘッド外部に繋がる空間に面している。このヘッドは、前記ヘッド本体に前記錘部材を固定する溶融部を更に備えている。前記錘部材及び前記溶融部が、前記錘部材の上側における前記開口縁部よりもフェース側に突出していない。
【0006】
一つの態様では、ゴルフクラブヘッドは、ヘッド本体と、前記ヘッド本体に固定されたフェースプレートと、前記ヘッド本体及び前記フェースプレートよりも大きな比重を有する錘部材とを備えている。前記ヘッド本体が、フェース側に開口する本体凹み部と、前記開口の周囲に形成された開口縁部とを有している。前記本体凹み部に、前記錘部材が挿入されている。前記錘部材の前面が、ヘッド外部に繋がる空間に面している。このヘッドは、前記ヘッド本体に前記錘部材を固定する溶融部を更に備えている。前記錘部材の上側における前記開口縁部が、前記錘部材及び前記溶融部よりもフェース側に突出している。
【発明の効果】
【0007】
一つの側面として、錘部材を有するヘッドにおいて、従来にない効果を有する新たな構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るゴルフクラブヘッドの正面図である。
【
図2】
図2は、
図1と同じ正面図である。
図2では、スコアラインが削除され、フェースプレートの輪郭線が実線で描かれている。
【
図5】
図5は、フェースプレートが除去された状態における、
図1のヘッドの正面図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係るゴルフクラブヘッドの断面図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態のヘッドにおける溶融部の一態様を示す断面図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態のヘッドにおける溶融部の他の態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本願において、以下の用語が定義される。
【0010】
[トウ-ヒール方向]
最長フェースラインの延在方向が、トウ-ヒール方向と定義される。本願における「トウ側」及び「ヒール側」との用語の意味は、このトウ-ヒール方向に基づいて解釈される。
【0011】
[上下方向]
打撃フェースに対して平行であり且つ前記トウ-ヒール方向に対して垂直である方向が、上下方向と定義される。本願において、「上側」及び「下側」との用語の意味は、この上下方向に基づいて解釈される。上側は、トップ面106の側である。下側は、ソール部108の側である。
【0012】
[フェース-バック方向]
打撃フェースに対して垂直な方向が、フェース-バック方向と定義される。打撃フェースが曲面である場合、フェースセンターにおける法線の方向が、フェース-バック方向と定義される。本願における「フェース側」及び「バック側」との用語の意味は、このフェース-バック方向に基づいて解釈される。フェース側とは、打撃フェース102の側という意味である。バック側は、フェース側とは反対側である。フェース側は、前側とも称される。
【0013】
[フェースセンター]
最長フェースラインのトウ-ヒール方向中心位置における、打撃フェースの上下方向中心位置が、フェースセンターである。
【0014】
以下、適宜図面が参照されつつ、実施形態が詳細に説明される。
【0015】
図1は、第1実施形態のヘッド100をフェース側から見た正面図である。
図1では、フェースプレート122とヘッド本体120との境界線k1が2点鎖線で示されている。完成されたヘッド100において、この境界線k1は、視認が困難であるほど目立たない。
図2は、前記境界線k1が実線で示されたヘッド100の正面図である。
図2では、スコアラインgvが除去されている。
図3はヘッド100をバック側から見た背面図である。
【0016】
ヘッド100は、打撃フェース102、ソール104、トップ面106及びホーゼル108を有する。ホーゼル108は、ホーゼル孔110を有する。ホーゼル孔110には、シャフト(図示されず)が装着される。
【0017】
図1が示すように、打撃フェース102は、複数のフェースラインgvを有する。複数のフェースラインは、最長フェースラインgv1を含む。全てのスコアラインgvは、フェースプレート122に形成されている。
【0018】
ヘッド100は、アイアン型ゴルフクラブヘッドである。打撃フェース102は平面である。
図3が示すように、ヘッド100は、バックキャビティ112を有する。バックキャビティ112は、ヘッド100のバックフェース側に形成されたキャビティである。バックキャビティ112を有するアイアンヘッドは、当業者においてキャビティバックアイアンヘッドと称されている。ヘッド100は、キャビティバックアイアンヘッドである。
【0019】
なお、ヘッド100は、アイアン型ヘッドでなくてもよい。ヘッド100は、ウッド型ヘッドであってもよいし、ユーティリティ型ヘッドであってもよいし、パター型ヘッドであってもよい。好ましくは、ヘッド100は、アイアン型ヘッドである。
【0020】
図4は、ヘッド100の分解斜視図である。
図5は、フェースプレート122が除去された状態におけるヘッド100の正面図である。
図6は、
図2のA-A線に沿った断面図である。
図2と同様に、
図6でも、スコアラインgvが省略されている。
【0021】
ヘッド100は、複数の部材により形成されている。ヘッド100は、ヘッド本体120と、フェースプレート122と、錘部材wt1とを有する。フェースプレート122はヘッド本体120に固定されている。ヘッド本体120は、第1部材130と、第2部材132とを有する。ヘッド本体120に、錘部材wt1が固定されている。本実施形態では、ヘッド本体120の第2部材132に、錘部材wt1が固定されている。
【0022】
本実施形態では、フェースプレート122はチタン合金より形成されており、ヘッド本体120(第1部材130及び第2部材132)は、ステンレス鋼により形成されている。ヘッド本体120は、例えば、軟鉄であってもよい。各部材の材質は限定されない。フェースプレート122及びヘッド本体120は金属であるのが好ましい。フェースプレート122の比重は、ヘッド本体120の比重より小さいのが好ましい。
【0023】
ヘッド本体120は、プレート開口134と、枠部136とを有する。本実施形態では、第1部材130が、プレート開口134と、枠部136とを有する。プレート開口134は、フェースプレート122に対応した形状を有する。プレート開口134がフェースプレート122で塞がれている。枠部136は、プレート開口134を形成している。枠部136は、フェースプレート122の周囲を囲んでいる。枠部136に、フェースプレート122が固定されている。
【0024】
第1部材130は、ホーゼル108の全体を構成している。第1部材130は、トップ面106の全体を構成している。第1部材130は、ソール104の一部(前方部)を構成している。第1部材130は、打撃フェース102の一部(周縁部)を構成している。
【0025】
第2部材132は、第1部材130のバック側に固定されている。第2部材132は、ソール104の一部(後方部)を構成している。第2部材132の重心は、ヘッド100の重心よりも下側に位置する。第2部材132の重心は、ヘッド100の重心よりもバック側に位置する。
【0026】
図4が示すように、第2部材132は、貫通孔138を有する。貫通孔138は、ヘッド100のバックキャビティ112を形成している。バックキャビティ112の底面は、フェースプレート122のプレート後面142である。
【0027】
第2部材132の材質は、第1部材130の材質と同じであってもよい。第2部材132の材質は、第1部材130の材質とは異なっていてもよい。第2部材132の比重が、第1部材130の比重よりも小さくされてもよい。接合強度の観点から、第2部材132は第1部材130に溶接可能であるのが好ましい。
【0028】
図6には、第1部材130と第2部材132との境界面k2が示されている。第2部材132は、第1部材130のバック側に固定されている。第2部材132は、第1部材130に溶接されている。ヘッド本体120は、全体として一体成形されていてもよい。
【0029】
フェースプレート122は、全体として板状である。フェースプレート122は、プレート前面140と、プレート後面142と、プレート側面144とを有する。
図1が示すように、プレートプレート前面140は、打撃フェース102の一部を構成している。プレート前面140は、打撃フェース102の大部分を構成している。プレート後面142は、プレート前面140とは反対側の面である。プレート側面144は、プレート前面140の外縁とプレート後面142の外縁との間に延びている。
【0030】
図4及び
図6が示すように、プレート後面142は、外周縁部146を有する。本実施形態では、外周縁部146が、凸部とされている。すなわち、
図4が示すように、プレート後面142の外周縁部146は、周縁凸部148である。周縁凸部148は、プレート後面142の外縁に沿って延びている。周縁凸部148は、プレート後面142の全周に亘って形成されている。
【0031】
図6が示すように、ヘッド本体120は、本体凹み部150を有する。本体凹み部150は、開口152を有する。本体凹み部150は、フェース側に開口している。錘部材wt1は、本体凹み部150に挿入されている。本体凹み部150の形状は、錘部材wt1の形状に対応している。本体凹み部150は、フェース側のみが開口している。本体凹み部150は、有底の凹部である。本体凹み部150のバック側は閉じている。ヘッド100のバックフェースにおいて、錘部材wt1は露出していない。
【0032】
錘部材wt1の比重は、ヘッド本体120の比重より大きい。錘部材wt1の比重は、フェースプレート122の比重よりも大きい。好ましい錘部材wt1として、タングステン及びニッケルを含む合金が挙げられる。ヘッド本体120との溶接を可能とする観点から、錘部材wt1は、タングステン、ニッケル及び鉄を含む合金であるのが好ましい。錘部材wt1の材質は、ヘッド本体120に溶接可能な材質であるのが好ましい。ただし、後述の通り、錘部材wt1の材質は、ヘッド本体120に溶接不能な材質であってもよい。
【0033】
ヘッド本体120は、開口縁部154を有する。開口縁部154は、開口152の周囲に形成されている。開口縁部154は、錘部材wt1の上側における開口縁部154aを含む。開口縁部154は、端面156を有する。端面156は、開口縁部154の前端面である。端面156は、プレート後面142に対向している。端面156とプレート後面142との間に空間160が形成されている。端面156の内縁158は、開口152の輪郭線である。端面156は、錘部材wt1の上側における端面156aを含む。
【0034】
錘部材wt1のフェース側に、空間160が形成されている。錘部材wt1とフェースプレート122との間に、空間160が形成されている。錘部材wt1の前面wt11は、空間160に面している。空間160は、錘部材wt1の前面wt11とプレート後面142との間に形成されている。錘部材wt1のフェース側に、ヘッド本体120は存在しない。前面wt11は、錘部材wt1のフェース側の面である。
【0035】
空間160は、ヘッド外部に繋がっている。空間160は、バックキャビティ112の一部を構成している。空間160は、アンダーカットキャビティを形成している。本願においてアンダーカットキャビティとは、バックキャビティ112の一部であって、互いに対向するフェース側の面とバック側の面との間に形成された部分を意味する。
【0036】
錘部材wt1の全体が、フェースセンターよりもトウ側に位置する。錘部材wt1の全体が、フェースセンターよりも下側に位置する。錘部材wt1の重心は、フェースセンターよりもトウ側に位置する。錘部材wt1の重心は、ヘッド100の重心よりもトウ側に位置する。錘部材wt1の重心は、ヘッド100の重心よりも下側に位置する。この錘部材wt1の配置は、スイートスポットをフェースセンターに近づけるのに寄与する。
【0037】
錘部材wt1の比重は、フェースプレート122の比重よりも大きい。錘部材wt1の比重は、ヘッド本体120の比重よりも大きい。錘部材wt1の比重は、第1部材130の比重よりも大きい。錘部材wt1の比重は、第2部材132の比重よりも大きい。錘部材wt1に起因するヘッド重心移動効果の観点から、錘部材wt1の比重は、9以上が好ましく、10以上がより好ましく、11以上がより好ましい。コストの観点から、錘部材wt1の比重は、18以下が好ましく、17以下がより好ましい。
【0038】
図6が示すように、ヘッド本体120(第1部材130)は、フェースプレート122をバック側から支持するバック支持部170を有している。バック支持部170は、上下方向に沿って延びる凸部(壁)である。バック支持部170は、ソール104の内面から上側に向かって突出している。バック支持部170は、トップ面106の内側から下側に向かって突出している。
【0039】
バック支持部170は、バック受け面172を有する。バック受け面172は、バック支持部170の前面(フェース側の面)である。バック受け面172は、プレート後面142の外周縁部146(周縁凸部148)に当接している。バック受け面172は、プレート後面142の外周縁部146(周縁凸部148)に面接触している。本実施形態では、バック受け面172は平面である。
【0040】
バック支持部170は、リア面174を有する。リア面174は、バック支持部170の後面である。リア面174は、バック受け面172とは反対側の面である。本実施形態では、リア面174は平面である。リア面174は、空間176に面している。空間176は、前記空間160に繋がっている。空間176は、アンダーカットキャビティを形成している。
【0041】
図7は、第2実施形態のヘッド200の断面図である。ヘッド200は、ヘッド本体120が第1部材130と第2部材132とに分かれていない。ヘッド200では、ヘッド本体120が全体として一体成形されている。この点を除き、ヘッド200は、ヘッド100と同じである。本開示のヘッドは、このような構成であってもよい。
【0042】
第1実施形態に係るヘッド100の製造方法は、以下のステップ(1a)から(3a)を含みうる。
(1a)第2部材132の本体凹み部150に錘部材wt1を挿入し、加熱より溶融部を形成して、錘部材wt1を第2部材132に固定する第1ステップ。
(2a)錘部材wt1が固定された第2部材132を第1部材130に接合する第2ステップ。
(3a)前記第2ステップで得られた第1部材130にフェースプレート122を接合する第3ステップ。
【0043】
第1実施形態に係るヘッド100の製造方法は、以下のステップ(1b)から(3b)を含みうる。
(1b)第2部材132を第1部材130に接合する第1ステップ。
(2b)第1部材130が固定された第2部材132の本体凹み部150に錘部材wt1を挿入し、加熱により溶融部を形成して、錘部材wt1を第2部材132に固定する第2ステップ。
(3b)前記第2ステップで得られた第1部材130にフェースプレート122を接合する第3ステップ。
【0044】
第1実施形態に係るヘッド100の製造方法は、以下のステップ(1c)から(3c)を含みうる。
(1c)第2部材132の本体凹み部150に錘部材wt1を挿入し、加熱により溶融部を形成して、錘部材wt1を第2部材132に固定するステップ。
(2c)第1部材130にフェースプレート122を接合するステップ。
(3c)錘部材wt1が固定された第2部材132と、フェースプレート122が固定された第1部材130とを接合するステップ。
【0045】
ヘッド100では、フェースプレート122が無い状態では、開口152が前方に開放されている。ヘッド100では、フェースプレート122が無い状態では、開口152の前方に何もない。フェースプレート122が無い状態では、錘部材wt1を容易に挿入することができ、かつ溶融部を形成することができる。よって、錘部材wt1を容易且つ確実に固定することができる。
【0046】
また、ヘッド100では、単独の第2部材132に錘部材wt1を固定することができる。即ち、第1部材130が接合されていない状態の第2部材132に錘部材wt1を固定することができる。よって、仮に第1部材130のいずれかの部分(例えばバック支持部170)が開口152の前方に掛かる場合であっても、錘部材wt1を容易に固定することができる。
【0047】
ヘッド本体120は、第1部材130と第2部材132とを有するため、前述の通りヘッド100の製造工程の自由度が高い。よって、より生産性の高い製造工程を選択することができる。
【0048】
第2実施形態に係るヘッド200の場合、その製造方法は、以下のステップ(1d)及び(2d)を含みうる。
(1d)ヘッド本体120の本体凹み部150に錘部材wt1を挿入し、加熱により溶融部を形成して、錘部材wt1をヘッド本体120に固定するステップ。
(2d)錘部材wt1が固定されたヘッド本体120にフェースプレート122を接合するステップ。
【0049】
ヘッド200でも、フェースプレート122が無い状態では、開口152が前方に開放されている。ヘッド200でも、フェースプレート122が無い状態では、開口152の前方に何もない。ヘッド本体120は、開口152の前方に位置する部分を有さない。このヘッド本体120に、錘部材wt1を挿入し且つ溶接することができる。フェースプレート122が接合される前であれば、障害なく、錘部材wt1を本体凹み部150に挿入することができ、且つ溶融部を形成することができる。よって、錘部材wt1を容易に固定することができる。
【0050】
図8は、
図6の一部が拡大された部分断面図である。
図8では、溶融部210の断面が黒塗りで示されている。
【0051】
図6では記載が省略されているが、ヘッド100は、ヘッド本体120(第1部材130)に錘部材wt1を固定する溶融部を備えている。同じく、
図7では記載が省略されているが、ヘッド200は、ヘッド本体120(第1部材130)に錘部材wt1を固定する溶融部を備えている。
図6及び
図7では、溶融部(溶接部)が形成される前における錘部材wt1の断面図が示されている。溶融部が形成される前において、錘部材wt1は、溝形成部wt12を有する。溝形成部wt12は、錘部材wt1の前面wt11の周縁部に設けられている。溝形成部wt12は、錘部材wt1が本体凹み部150に挿入されたときに、本体凹み部150の内面と共に溝を形成する。この溝に、溶融部が流れ込みうる。本実施形態では、溝形成部wt12は、段差部である。溝形成部wt12は、例えば、錘部材wt1の角を面取りすることで形成されてもよい。
【0052】
「溶融部」とは、本願で定義される用語である。「溶融部」とは、錘部材wt1が本体凹み部150に挿入された後において、加熱により溶融した後に凝固して形成された部分である。溶融部は、錘部材wt1とヘッド本体120との境界に形成される。溶融部は、以下の構成a、構成b、構成c及び構成dを含む概念である。
(構成a)ヘッド本体120が溶融後に凝固して形成された部分
(構成b)ヘッド本体120及び錘部材wt1が溶融して一体化した後に凝固して形成された部分。
(構成c)ヘッド本体120及び溶加材が溶融して一体化した後に凝固して形成された部分。
(構成d)ヘッド本体120、錘部材wt1及び溶加材が溶融して一体化した後に凝固して形成された部分。
【0053】
典型的な溶融部は、溶接部である。この場合、溶融部は、ヘッド本体120及び錘部材wt1と一体化している。この場合、溶接部は、上記構成b及び上記構成dに該当する。溶融部が溶接部である場合、この溶融部は、「溶接ビード」とも称される。ただし、溶融部は、溶接部でなくてもよい。溶接部でない形態も含む上位概念として、「溶融部」との文言が定義される。錘部材wt1の材質がヘッド本体120に溶接できないものである場合を考慮して、「溶融部」が定義される。
【0054】
溶融部は、必要に応じて溶加材を用いつつ、局部的に加熱することで形成される。溶融部の形成方法は、溶接の方法と同じである。
【0055】
少なくとも、溶融部は、ヘッド本体120と一体化している。溶融部は、ヘッド本体120と一体的に繋がっている。したがって、溶融部は、溶接部でなくても、錘部材wt1を固定しうる。すなわち、溶融部が錘部材wt1の前方に延在していれば、この溶融部は、物理的に錘部材wt1を本体凹み部150に固定することができる。
【0056】
図8の実施形態では、溶融部210の断面が黒塗りで示されている。
【0057】
この溶融部210は、上記構成a又は構成cに該当する。この溶融部210は、溶接部ではない。溶融部210は、ヘッド本体120(開口縁部154)と一体的に繋がっている。溶融部210は、溝形成部wt12(
図6参照)に流れ込んでいる。配置されている。溶融部210は、錘部材wt1のフェース側を覆う前方被覆部212を有している。この溶融部210は、溶接部ではないが、錘部材wt1を固定している。前方被覆部212は、ヘッド本体120と一体化した部分を含み且つ錘部材wt1のフェース側を覆っている。前方被覆部212は、ヘッド本体120と一体化した部分として、錘部材wt1のフェース側への脱落を物理的に阻止する。溝形成部wt12に流れ込んだ溶融部210は、前方被覆部212となる。
【0058】
溶融部210は、錘部材wt1の上側における開口縁部154aよりもフェース側に突出していない。溶融部210は、錘部材wt1の上側における端面156aよりもフェース側に突出していない。錘部材wt1(溶融部210以外の部分)も、錘部材wt1の上側における開口縁部154aよりもフェース側に突出していない。
【0059】
ヘッド100において、溶融部210は、外部から見えない。ヘッド100において、錘部材wt1は、外部から見えない。
【0060】
図8の断面図では、溶融部210の前面が平坦であるが、実際には、溶融部210の前面には、不規則な凹凸が形成される。この凹凸が視認されると、ヘッド100の外観性が低下する。しかし、この凹凸を有する溶融部210は、外部から見えない。
【0061】
図9は、溶融部の他の実施形態を示す。
図9では、溶融部220の断面が黒塗りで示されている。この溶融部220は、ヘッド本体120及び錘部材wt1と一体的に繋がっている。
【0062】
この溶融部220は、上記構成b又は構成dに該当する。この溶融部220は、溶接部である。溶融部220は、ヘッド本体120(開口縁部154)及び錘部材wt1と一体化している。溶融部220は、ヘッド本体120(開口縁部154)及び錘部材wt1と一体的に繋がっている。溶融部220は、溝形成部wt12(
図6参照)に配置されている。溝形成部wt12は、溶接における開先として機能する。溶融部220は、錘部材wt1のフェース側を覆う前方被覆部222を有している。前方被覆部222は、ヘッド本体120と一体化した部分を含み且つ錘部材wt1のフェース側を覆っている。
【0063】
溶融部220は、錘部材wt1の上側における開口縁部154aよりもフェース側に突出していない。錘部材wt1は、錘部材wt1の上側における端面156aよりもフェース側に突出していない。
【0064】
錘部材wt1の上側における開口縁部154aは、溶融部220よりもフェース側に突出している。錘部材wt1の上側における開口縁部154aは、錘部材wt1よりもフェース側に突出している。
【0065】
ヘッド100において、溶融部220は、外部から見えない。ヘッド100において、錘部材wt1は、外部から見えない。
【0066】
ヘッド100及びヘッド200は、以下の効果を奏する。
【0067】
ヘッド100及びヘッド200では、本体凹み部150がフェース側に開口している。このため、錘部材wt1を打撃フェース102の近くに配置することができ、ヘッド100の重心を打撃フェース102に近づけることができる。換言すれば、ヘッド100の重心深度を小さくすることができる。重心深度が小さい(重心が浅い)ヘッドでは、スイートスポットの位置を低くしやすく、且つギア効果が小さくされうる。この結果、上下方向における打点のバラツキに伴うバックスピン量のバラツキを減らすことができる。バックスピン量のバラツキが減ることで、飛距離のバラツキを小さくすることができる。
【0068】
錘部材wt1とヘッド本体120との接合部がソール外面及びバックフェースの外面に露出しないので、ヘッドデザインの自由度が向上する。
【0069】
溶融部210,220が開口縁部154よりも突出しておらず、溶融部210,220がヘッド外部から見えない。よって、ヘッド100の外観性が向上する。外観への影響がないため、溶融部210,220に研磨等の仕上げ処理を施すことも不要である。
【0070】
開口縁部154と錘部材wt1の露出面との間の溝形成部wt12に溶融部210,220を侵入させることができるため、溶接作業性が高い。また、溝形成部wt12に侵入した溶融部210,220による物理的な係合で、錘部材wt1の固定強度が向上する。
【0071】
図9において両矢印T1で示されるのは、開口縁部154の端面156の上下方向幅である。熱による開口縁部154の変形を抑制する観点から、幅T1は1.0mm以上が好ましく、1.3mm以上がより好ましく、1.5mm以上がより好ましい。ヘッド本体120の重量を抑制する観点から、幅T1は、4.0mm以下が好ましく、3.0mm以下がより好ましい。
【0072】
錘部材wt1の上側において、開口縁部154は錘部材wt1に対して0.3mm以上突出しているのが好ましい。すなわち、下記突出高さH1は、0.3mm以上であるのが好ましい。この突出により、溶融部が盛り上がった場合でも、溶融部が外部から見えることを抑制することができる。
図9において両矢印H1で示されるのは、錘部材wt1の前面wt11からの開口縁部154の突出高さである。突出高さH1は、フェース-バック方向に沿って測定される。溶融部をヘッド外部から見えなくする観点から、突出高さH1は、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましい。ヘッドの重心深度を小さくする観点から、突出高さH1は、3mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましく、1mm以下がより好ましい。
【実施例】
【0073】
[実施例1]
第1実施形態のヘッド100と同じヘッドを作成した。第1部材130は、鋳造(ロストワックス精密鋳造)により作製された。第1部材130の材質はステンレス鋼とされた。フェースプレート122は、圧延材にNC加工を施すことで作製された。フェースプレート122の材質はチタン合金とされた。第2部材132は鋳造(ロストワックス精密鋳造)により作製された。第2部材132の材質はステンレス鋼とされた。錘部材wt1は、粉末焼結により作製された。錘部材wt1の材質は、タングステンニッケル合金とされた。錘部材wt1は、第2部材132に設けられた本体凹み部150に固定された。ヘッドの製造工程は、前述したステップ(1c)から(3c)により実施された。
【0074】
溶融部は、
図8の実施形態の通りとされた。溶融部210の構成は、前述の構成cであった。溶融部210は、開口152の全周に亘って形成された。本体凹み部150の前側には、溶融部210の形成作業を邪魔するものがなく、当該作業の作業性は良好であった。
【0075】
錘部材wt1はヘッド本体120に対して難溶接性の材質であったが、前方被覆部212を有する溶融部210によって本体凹み部150に確実に固定することができた。また、溶融部210及び錘部材wt1はヘッド100の外部から視認できない位置にあり、ヘッド100の外観は良好であった。溶融部210の表面仕上げ加工は不要であった。
【0076】
[実施例2]
溶融部が
図9に示される形態とされた。また、錘部材wt1の材質が鉄を多く含有するタングステンニッケル合金であり、ヘッド本体120に溶接できる材質とされた。この錘部材wt1は鋳造で作製された。上記以外は実施例1と同様にして、実施例2のヘッドを得た。
【0077】
溶融部220の構成は、前述の構成dであった。溶融部220は、溶接部であった。溶融部220は、開口152の全周に亘って形成された。溶融部220により、錘部材wt1は本体凹み部150に強固に溶接された。本体凹み部150の前側には、溶接作業を邪魔するものがなく、当該溶接作業の作業性は良好であった。溶融部220及び錘部材wt1はヘッド100の外部から視認できない位置にあり、ヘッド100の外観は良好であった。溶融部220の表面仕上げ加工は不要であった。
【0078】
上述した実施形態に関して、以下の付記を開示する。
[付記1]
ヘッド本体と、前記ヘッド本体に固定されたフェースプレートと、前記ヘッド本体及び前記フェースプレートよりも大きな比重を有する錘部材とを備えており、
前記ヘッド本体が、フェース側に開口する本体凹み部と、前記開口の周囲に形成された開口縁部とを有しており、
前記本体凹み部に、前記錘部材が挿入されており、
前記錘部材の前面が、ヘッド外部に繋がる空間に面しており、
前記ヘッド本体に前記錘部材を固定する溶融部を更に備えており、
前記錘部材及び前記溶融部が、前記錘部材の上側における前記開口縁部よりもフェース側に突出していないゴルフクラブヘッド。
[付記2]
ヘッド本体と、前記ヘッド本体に固定されたフェースプレートと、前記ヘッド本体及び前記フェースプレートよりも大きな比重を有する錘部材とを備えており、
前記ヘッド本体が、フェース側に開口する本体凹み部と、前記開口の周囲に形成された開口縁部とを有しており、
前記本体凹み部に、前記錘部材が挿入されており、
前記錘部材の前面が、ヘッド外部に繋がる空間に面しており、
前記ヘッド本体に前記錘部材を固定する溶融部を更に備えており、
前記錘部材の上側における前記開口縁部が、前記錘部材及び前記溶融部よりもフェース側に突出しているゴルフクラブヘッド。
[付記3]
前記溶融部が、前記ヘッド本体及び前記錘部材と一体化した部分を含む溶接部である付記1又は2に記載のゴルフクラブヘッド。
[付記4]
前記溶融部が、前記ヘッド本体と一体化した部分を含み且つ前記錘部材のフェース側を覆う前方被覆部を有する付記1から3のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
[付記5]
前記開口縁部の端面の上下方向幅が1.0mm以上である付記1から4のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
[付記6]
前記錘部材の上側において、前記開口縁部が前記錘部材に対して0.3mm以上突出している付記1から5のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
[付記7]
前記ヘッドがバックキャビティを有しており、
前記空間が前記バックキャビティの一部を構成している付記1から6のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
[付記8]
前記ヘッド本体の比重が、前記フェースプレートの比重よりも大きい付記1から7のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【符号の説明】
【0079】
100・・・ゴルフクラブヘッド
102・・・打撃フェース
104・・・ソール
106・・・トップ面
108・・・ホーゼル
112・・・バックキャビティ
120・・・ヘッド本体
122・・・フェースプレート
130・・・ヘッド本体の第1部材
132・・・ヘッド本体の第2部材
140・・・プレート前面
142・・・プレート後面
150・・・本体凹み部
154・・・開口縁部
156・・・開口縁部の端面
160・・・空間(ヘッド外部に繋がる空間)
172・・・バック受け面
210・・・溶融部(非溶接部)
212・・・前方被覆部
220・・・溶融部(溶接部)
222・・・前方被覆部
wt1・・・錘部材