(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】溶接機
(51)【国際特許分類】
B23K 37/04 20060101AFI20230110BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20230110BHJP
【FI】
B23K37/04 D
B23K26/21 F
(21)【出願番号】P 2019110177
(22)【出願日】2019-06-13
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100174942
【氏名又は名称】平方 伸治
(72)【発明者】
【氏名】宇都 久隆
(72)【発明者】
【氏名】栗屋 大樹
(72)【発明者】
【氏名】環 一穂
(72)【発明者】
【氏名】大塚 純
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-043766(JP,A)
【文献】実開昭63-025263(JP,U)
【文献】特開平11-347792(JP,A)
【文献】特開2004-17108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 37/04
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の鋼板の対向する縁部を切断するための切断シャーと、
前記一対の鋼板を保持するための一対のクランプ装置と、
前記一対の鋼板の切断された縁部を接合するための接合手段と、
を備えた、一対の鋼板を接合するための溶接機であって、
前記一対のクランプ装置の各々が、前記切断シャーに近い側の端部である先端と、前記切断シャーから離れた側の端部である後端と、を有し、且つ、前記鋼板を挟むための上側クランプ及び下側クランプを有し、
前記上側クランプ及び前記下側クランプの各々が、
本体と、
前記鋼板を押圧する、リッジと、
を有し、
前記リッジは、前記先端において前記本体に対して取り付けられており、
前記一対のクランプ装置の各々において、前記上側クランプと前記下側クランプの少なくともいずれか一方が、前記本体と前記リッジとの間に、スペーサを有しており、前記スペーサは、前記先端に近い領域に配置されており、前記先端から離れた領域に空隙を形成している、溶接機。
【請求項2】
前記スペーサは、前記本体及び前記リッジとは別個のライナとして形成されている、請求項1に記載の溶接機。
【請求項3】
前記スペーサは、前記鋼板の幅方向において、複数の分割スペーサに分割されている、請求項2に記載の溶接機。
【請求項4】
前記上側クランプ又は前記下側クランプを上昇または下降させる一対のクランプシリンダーを更に備え、
前記一対のクランプシリンダーは、前記鋼板の幅方向において、前記上側クランプ又は前記下側クランプの両端部に連結されており、
前記スペーサは、前記鋼板の幅方向の中央部において、最も厚い、請求項2又は3に記載の溶接機。
【請求項5】
前記接合手段がレーザー照射装置である、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶接機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、鋼板を接合するための溶接機に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接機では、溶接前に、鋼板の溶接されるべき端部がシャーによって切断される場合がある。端部が適切に切断されない場合、溶接部の品質が低下する可能性がある。したがって、このような溶接機の分野においては、溶接部の品質を向上するために、鋼板の切断に関する様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1は、鋼板の長手方向における、切断基準線に対する実切断線のずれ量を測定するための監視方法及び装置を開示している。この装置は、上部シャー及び下部シャーを有するダブルカットシャー装置を備えている。鋼板の端部を切断する際に、下部シャーが鋼板の下面まで上昇し、上部シャーが下降される。特許文献1の監視方法では、下部シャーの上昇時に、切断基準線に対する実切断線のずれ量が検出され、このずれ量に基づいて溶接部の品質が判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような溶接機では、一般的に、切断の際に、鋼板がクランプ装置によって保持される。鋼板が適切に保持されていない場合、切断シャーからの力によって鋼板が動いてしまい、実際の切断位置が所望の切断位置からずれてしまうことがある。この場合、溶接工程において、鋼板が適切に接合されない可能性がある。したがって、実際の切断位置が所望の切断位置からずれた場合には、溶接前に、オペレータがマニュアルで鋼板の位置を調整する必要がある。このような作業を避けるためには、クランプ装置によって鋼板を適切に保持する必要がある。
【0005】
鋼板を適切に保持するためには、クランプ装置によって押圧される鋼板の領域内において、切断位置になるべく近い領域で高い圧力が得られるような面圧分布を形成することが好ましい。この場合、クランプ装置は、切断シャーからの力に対抗して鋼板をしっかりと保持することができる。同時に、鋼板を適切に保持するためには、切断位置に近い領域において、鋼板のなるべく広い領域をクランプ装置によって幅方向に均一に押圧することが好ましい。この場合、クランプ装置から鋼板に局所的な過度な面圧がかかることを防止できる。
【0006】
したがって、本開示は、鋼板の切断位置により近い領域に付与される面圧を、鋼板の切断位置から離れた領域に付与される面圧よりも高くすることができる溶接機を提供することを目的とする。また、本開示は、鋼板の切断位置により近い領域に付与される面圧を、幅方向に均一にすることができる溶接機を提供することを更なる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、一対の鋼板を接合するための溶接機であって、一対の鋼板の対向する縁部を切断するための切断シャーと、一対の鋼板を保持するための一対のクランプ装置と、一対の鋼板の切断された縁部を接合するための接合手段と、を備えた、一対の鋼板を接合するための溶接機であって、一対のクランプ装置の各々が、切断シャーに近い側の端部である先端と、切断シャーから離れた側の端部である後端と、を有し、且つ、鋼板を挟むための上側クランプ及び下側クランプを有し、上側クランプ及び下側クランプの各々が、本体と、鋼板を押圧する、リッジと、を有し、リッジは、先端において本体に対して取り付けられており、一対のクランプ装置の各々において、上側クランプと下側クランプの少なくともいずれか一方が、本体とリッジとの間に、スペーサを有しており、スペーサは、先端に近い領域に配置されており、先端から離れた領域に空隙を形成している、溶接機である。
【0008】
本開示の溶接機では、上側クランプ及び下側クランプのリッジによって鋼板が保持される。また、上側クランプと下側クランプの少なくともいずれか一方が、本体とリッジとの間に、先端から離れた領域に空隙を形成するスペーサを有している。したがって、先端に近い領域(空隙が設けられていない領域)では、本体からの押圧力は空隙を介さずにスペーサを介して直接的に鋼板に伝わる一方で、先端から離れた領域(空隙が設けられた領域)では、本体からの押圧力は空隙を迂回してスペーサを介して間接的に鋼板に伝わる。したがって、先端に近い領域(すなわち、鋼板の切断位置により近い領域)において、より高い面圧が得られる。よって、鋼板の切断位置により近い領域に付与される面圧を、鋼板の切断位置から離れた領域に付与される面圧よりも高くすることができる。
【0009】
スペーサは、本体及びリッジとは別個のライナとして形成されていてもよい。この場合、例えば、使用によってリッジが摩耗したときに、スペーサをより厚いライナに交換することによって、摩耗したリッジを鋼板に十分に押し付ける事ができる。したがって、リッジを長期間に亘って使用することができる。
【0010】
スペーサは、鋼板の幅方向において、複数の分割スペーサに分割されていてもよい。この場合、例えば、厚さの異なる複数の分割スペーサを用いることによって、リッジと鋼板との間の面圧分布を幅方向において調節することができる。したがって、鋼板の切断位置により近い領域に付与される面圧を、幅方向に均一にすることができる。
【0011】
溶接機は、上側クランプ又は下側クランプを上昇または下降させる一対のクランプシリンダーを更に備えてもよく、一対のクランプシリンダーは、鋼板の幅方向において、上側クランプ又は下側クランプの両端部に連結されていてもよく、スペーサは、鋼板の幅方向の中央部において、最も厚くてもよい。本態様では、クランプシリンダーが、鋼板の幅方向においてクランプ装置の両側に配置されている。この場合、クランプシリンダーからの力が鋼板の両端部に集中して、リッジと鋼板との間の面圧分布が、鋼板の幅方向において、中央部で低くなる傾向がある。本態様では、スペーサが中央部において最も厚いため、鋼板の切断位置により近い領域に付与される面圧を、幅方向に均一にすることができる。
【0012】
接合手段がレーザー接合手段であってもよい。レーザー接合手段においては、溶接の際に、鋼板の高い突き合わせ精度が要求される。本態様の溶接機によれば、鋼板を適切に保持することができるため、鋼板の高い突き合わせ精度を得ることが可能である。したがって、例えば、レーザー溶接の前に、オペレータによるマニュアルでの鋼板の位置調整を避ける事ができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一態様によれば、鋼板の切断位置により近い領域に付与される面圧を、鋼板の切断位置から離れた領域に付与される面圧よりも高くすることができる。また、本開示の更なる態様によれば、鋼板の切断位置により近い領域に付与される面圧を、幅方向に均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る溶接機を示す概略的な正面図である。
【
図2】切断工程におけるクランプ装置の先端を示す概略的な拡大正面図である。
【
図3】溶接工程におけるクランプ装置の先端を示す概略的な拡大正面図である。
【
図4】
図4(a)はクランプ装置の先端を示す概略的な拡大斜視図であり、
図4(b)は
図4(a)中のx方向から見た矢視図である。
【
図5】他の実施形態に係る溶接機のクランプ装置の先端を示す概略的な拡大正面図である。
【
図6】他の実施形態に係る溶接機のクランプ装置の先端を示す概略的な拡大正面図である。
【
図7】
図7(a)は他の実施形態に係る溶接機のクランプ装置の先端を示す概略的な拡大斜視図であり、
図7(b)は
図7(a)中のx方向から見た矢視図である。
【
図8】
図8(a)は
図7のクランプ装置において厚さの異なる複数のライナを用いることを示す概略的な拡大斜視図であり、
図8(b)は
図8(a)中のx方向から見た矢視図である。
【
図9】従来の溶接機の切断工程におけるクランプ装置の先端を示す概略的な拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る溶接機を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺は変更されている場合がある。「左」「右」の方向を示す用語は、図における方向を意味しており、溶接機及びその構成要素の特定の方向を限定することは意図されていない。
【0016】
図1は、実施形態に係る溶接機を示す概略的な正面図であり、
図2は、切断工程におけるクランプ装置の先端を示す概略的な拡大正面図であり、
図3は、溶接工程におけるクランプ装置の先端を示す概略的な拡大正面図である。
【0017】
図2を参照して、溶接機100は、搬送ラインL1に沿って順番に搬送される、一対の鋼板S1、S2を溶接するように構成されている。鋼板S1、S2に関する方向について、搬送ラインL1に沿った方向が長手方向であり、搬送ラインL1に垂直な水平方向(
図2において紙面に垂直な方向)が幅方向である。溶接機100では、長手方向において、一対の鋼板S1、S2の対向する端部が互いに溶接され、これによって、連続する複数の鋼板が長手方向に接合される。
【0018】
溶接機100は、切断シャー10と、一対のクランプ装置20R、20Lと、を備えている。切断シャー10は、鋼板S1、S2の対向する縁部を切断するように構成されている。切断シャー10は、例えば、基準線L2上に配置されることができる。切断シャー10は、例えば、一対の鋼板S1、S2の縁部を同時に切断するダブルカットシャーであることができる。具体的には、切断シャー10は、上側シャー11と、下側シャー12と、を有する。上側シャー11及び下側シャー12は、共通の土台に設置されている。上側シャー11と下側シャー12の少なくともいずれか一方は、上側シャー11及び下側シャー12が互いに近づくように及び互いに離れるように、上昇及び下降するように構成されている。上側シャー11は、一方の鋼板S1を切断するための第1の上刃11Rと、他方の鋼板S2を切断するための第2の上刃11Lと、を含んでいる。同様に、下側シャー12は、一方の鋼板S1を切断するための第1の下刃12Rと、他方の鋼板S2を切断するための第2の下刃12Lと、を含んでいる。上側シャー11と下側シャー12の少なくともいずれか一方を互いに近づけるように移動することによって、クランプ装置20Rによって保持された鋼板S1の縁部が、第1の上刃11R及び第1の下刃12Rによって切断され、同時に、クランプ装置20Lによって保持された鋼板S2の縁部が、第2の上刃11L及び第2の下刃12Lによって切断される。上側シャー11及び下側シャー12は、切断工程では鋼板S1、S2の上下に配置され、他の工程では別の場所で待機するように、移動可能に構成されている。
【0019】
図1を参照して、クランプ装置20R、20Lは、それぞれ、鋼板S1、S2を保持するように構成されている。クランプ装置20R、20Lは、例えば、基準線L2を中心にして、搬送ラインL1に沿って対称に配置されることができる。クランプ装置20R、20L及びその構成要素に関する方向について、切断シャー10(基準線L2)に近い側の端部が先端であり、切断シャー10から離れた側の端部が後端である。例えば、
図1において、右側のクランプ装置20Rでは、右端が後端であり、左端が先端である。対照的に、左側のクランプ装置20Lでは、右端が先端であり、左端が後端である。
【0020】
クランプ装置20R、20Lの各々は、上側クランプ50と、下側クランプ60と、幅方向に沿って配置された複数(例えば、一対)のクランプシリンダー70と、を有している。なお、
図1では、幅方向に沿って配置された複数のクランプシリンダー70の一つのみが示されていることに留意されたい。
【0021】
上側クランプ50及び下側クランプ60は、鋼板S1、S2を挟むように構成されている。具体的には、上側クランプ50は、本体51と、先端のリッジ52と、後端のリッジ53と、を含んでいる。同様にして、下側クランプ60は、本体61と、先端のリッジ62と、後端のリッジ63と、を含んでいる。リッジ52、53、62、63は、例えばバナジウム又はマンガンを含む合金等、耐摩耗性を有する様々な材料で形成されることができる。リッジ52、53、62、63は、例えば、ボルト等の固定手段によって、本体51、61に取り付けられることができる。
【0022】
クランプシリンダー70は、例えば、上側クランプ50を上昇または下降させるように、本体51に連結されることができる。一対のクランプシリンダー70は、幅方向において、本体51の両端部に連結されている。また、クランプシリンダー70は、長手方向において、本体51の略中央部に配置されている。クランプシリンダー70によって上側クランプ50を下降させることにより、リッジ52、53、62、63は、鋼板S1、S2を押圧する。このような構成によって、鋼板S1、S2の各々は、先端のリッジ52、62と、後端のリッジ53、63とによって、2箇所で挟まれる。
【0023】
図3を参照して、溶接機100は、接合手段30と、一対のサポートロール40R、40Lと、を更に備えている。接合手段30は、例えば、レーザー接合手段であることができる。接合手段30から発せられたレーザーLaは、鋼板S1、S2の突き合せられた縁部に照射され、これによって、鋼板S1、S2の縁部が接合される。鋼板S1、S2の縁部の間にレーザーLaの直径よりも大きな隙間がある場合、鋼板S1、S2が適切に溶接されない可能性がある。よって、特に、接合手段30がレーザー接合手段である場合には、鋼板S1、S2の高い突き合せ精度を得るために、切断工程において、鋼板S1、S2の縁部を高い精度で切断する必要がある。なお、レーザーLaを接合手段30から溶接位置に導くために、接合手段30と溶接位置との間には、例えばミラー等の1つ又は複数の光学要素が適宜配置されてもよい。
【0024】
サポートロール40R、40Lは、レーザー溶接の際に、長手方向においてクランプ装置20L、20Rの間で、鋼板S1、S2の突き合せられた縁部の近傍を更に保持するように構成されている。サポートロール40R、40Lの各々は、鋼板S1、S2を挟むように構成された上側ロール41及び下側ロール42を有している。上側ロール41及び下側ロール42は、溶接工程では鋼板S1、S2の上下に配置され、他の工程では別の場所で待機するように、移動可能に構成されている。
【0025】
次に、先端のリッジ52について詳細に説明する。
【0026】
図2を参照して、上側クランプ50において、先端のリッジ52は、スペーサ54を介して本体51に取り付けられている。スペーサ54は、本体51の先端51aに近い領域に配置されている。具体的には、例えば、スペーサ54は、長手方向における本体51とリッジ52との重複領域A1において、重複領域A1の先端(本実施形態では、本体51の先端51a)から、鋼板S1、S2の長手方向に沿って後端に向かって所定の距離(例えば、重複領域A1の約半分の長さ)だけ延在している。なお、
図2に示されるように、スペーサ54は、重複領域A1の先端から重複領域A1外にはみだしてもよい。また、対照的に、スペーサ54は、重複領域A1の先端から離れた位置から、後端に向かって所定の距離だけ延在していてもよい。これによって、本体51とリッジ52との間において、本体51の先端51aから離れた領域(スペーサ54の後端から重複領域A1の後端までの領域)に、空隙Gが形成されている。スペーサ54及び空隙Gは、以下で説明されるように、鋼板S1、S2の切断位置により近い領域に付与される面圧を、鋼板S1、S2の切断位置から離れた領域に付与される面圧よりも高くすることができる、という利点をもたらす。
【0027】
図9は、従来の溶接機の切断工程におけるクランプ装置の先端を示す概略的な拡大正面図である。従来の溶接機500は、上側クランプ50がスペーサ54を有しておらず、本体51とリッジ52との間に空隙Gが形成されていない点で、上記の溶接機100と異なる。詳細部Fは、従来の溶接機500におけるリッジ52と鋼板S1、S2との間の面圧分布を示しており、横軸が長手方向における位置を示し、縦軸が面圧を示している。溶接機500では、クランプシリンダー(
図9において不図示)は、溶接機100と同様に、長手方向において本体51の略中央部に配置されている。したがって、クランプシリンダーからの力は、リッジ52、53、62、63において、他の位置よりもクランプシリンダー寄りの位置により加わることになる。よって、先端のリッジ52では、クランプシリンダーからの力は、本体51の先端51aから離れた領域により加わる。したがって、詳細部Fに示されるように、リッジ52と鋼板S1、S2との間では、先端51aから離れた領域(すなわち、切断位置から離れた領域)において高い面圧が得られ、切断位置に近い領域では面圧が低いことがわかる。したがって、従来の溶接機500では、リッジ52が切断位置に近い領域で鋼板S1、S2を十分に押圧できずに、切断シャー10からの力によって鋼板S1、S2が動いてしまう可能性がある。この場合、実際の切断位置は、所望の切断位置からずれてしまう。
【0028】
図2を参照して、詳細部Eは、本開示に係る溶接機100におけるリッジ52と鋼板S1、S2との間の面圧分布を示しており、横軸が長手方向における位置を示し、縦軸が面圧を示している。溶接機100では、先端のリッジ52と本体51との間において、先端51aから離れた領域に空隙Gが形成されることによって、先端51aから離れた領域では、クランプシリンダー70からの力は空隙Gを迂回してスペーサ54を介して間接的に鋼板S1、S2に伝わる一方で、先端51aに近い領域(すなわち、空隙Gが設けられていない領域)では、クランプシリンダー70からの力は空隙Gを介さずにスペーサ54を介して直接的に鋼板S1、S2に伝わる。したがって、詳細部Eに示されるように、リッジ52と鋼板S2との間では、先端51aに最も近い位置(すなわち、切断位置に最も近い位置)において、最大面圧が得られる。よって、溶接機100では、リッジ52が切断位置に近い領域で鋼板S1、S2を十分に押圧することができる。また、鋼板S2はリッジ52の全面によって押圧され、面圧はリッジ52に沿って分布する。
【0029】
本実施形態では、スペーサ54は、本体51及びリッジ52とは別個のライナとして形成されている。ライナとして形成されたスペーサ54は本体51とリッジ52とによって挟持されており、本体51とリッジ52は、ボルトによって締結されている。なお、本実施形態ではボルトを用いて締結した場合について示したが、他の固定手段が用いられてもよい。ライナとして形成されたスペーサ54は、以下のような利点をもたらす。鋼板S1、S2の搬送によってリッジ52、62(特に、下側のリッジ62)が摩耗した場合、クランプ装置20R、20Lは、リッジ52、62を十分に鋼板S1、S2に押し付けることができない可能性がある。この場合、クランプ装置20R、20Lが鋼板S1、S2を適切に保持できず、実際の切断位置が所望の切断位置からずれてしまうことがある。しかしながら、スペーサ54が本体51及びリッジ52とは別個のライナとして形成されている場合、スペーサ54をより厚いライナに交換することによって、摩耗したリッジ52、62を十分に鋼板S1、S2に押し付けることができる。したがって、摩耗したリッジ52、62を使用しながら鋼板S1、S2を適切に保持することができ、これによって、リッジ52、62を長期間に亘って使用することができる。
【0030】
ライナは、例えば金属(例えば、ステンレス)等、様々な材料で形成されることができる。鋼板S1、S2の長手方向におけるスペーサ54の幅w1は、リッジ52の幅w2よりも小さい。スペーサ54の幅w1は、先端51aに近い位置において高い面圧が得られるように、適宜決定され得る。
【0031】
図4の(a)はクランプ装置の先端を示す概略的な拡大斜視図であり、(b)は(a)中のx方向から見た矢視図である。
図4の(b)に示されるように、本実施形態では、ライナの厚みt1は、鋼板S1、S2の幅方向(
図4の(b)において左右方向)に沿って変化しており、幅方向の中央部において最も厚い。ライナの厚みt1は、鋼板S1、S2の幅方向において、一定であってもよい。ライナの厚みt1は、幅w1と同様に、先端51aに近い領域において高い面圧が得られるように、適宜決定され得る。例えば、ライナの厚みt1は100μm~1000μm程度であることができ、リッジ52の厚みt2は10mm~25mm程度であることができる。
【0032】
次に、溶接機100の動作について説明する。
【0033】
図2に示されるように、溶接機100では、鋼板S1、S2が、搬送ラインL1に沿って矢印Arの方向に搬送される。鋼板S1は、下流側の端部がクランプ装置20Rから突き出るように、クランプ装置20Rによって保持される。鋼板S2は、上流側の端部がクランプ装置20Lから突き出るように、クランプ装置20Lによって保持される。続いて、切断シャー10が切断位置に移動され、鋼板S1の下流側の縁部と鋼板S2の上流側の縁部とが、切断シャー10によって同時に切断される。切断が完了すると、切断シャー10は、待機位置に戻る。
【0034】
図3に示されるように、続いて、鋼板S1、S2の切断された縁部が互いに突き合うように、鋼板S1、S2の位置が搬送ラインL1に沿って調整される。続いて、サポートロール40R、40Lが保持位置に移動され、鋼板S1、S2が、突き合せられた縁部の近傍において、サポートロール40R、40Lによって保持される。続いて、接合手段30から鋼板S1、S2の突き合せられた縁部に向かってレーザーLaが照射され、鋼板S1、S2の縁部が溶接される。溶接が完了すると、サポートロール40R、40Lは、待機位置に戻る。以上によって、一連の動作が終了する。その後、溶接された鋼板は、焼鈍等の他の工程に送られてもよい。
【0035】
以上のような溶接機100では、クランプ装置20R、20Lの先端において、上側クランプ50及び下側クランプ60のリッジ52、62によって、鋼板S1、S2が保持される。そして、上側クランプ50が、本体51とリッジ52との間において、本体51の先端51aから離れた領域に空隙Gを形成するスペーサ54を有している。したがって、先端51aに近い領域(すなわち、空隙Gが設けられていない領域)では、本体51からの押圧力は空隙Gを介さずにスペーサ54を介して直接的に鋼板S1、S2に伝わる一方で、先端51aから離れた領域(すなわち、空隙Gが設けられた領域)では、本体51からの押圧力は空隙Gを迂回してスペーサ54を介して間接的に鋼板S1、S2に伝わる。したがって、先端51aに近い領域(すなわち、切断位置により近い領域)において、高い面圧が得られる。よって、鋼板S1、S2の切断位置により近い領域に付与される面圧を、鋼板S1、S2の切断位置から離れた領域に付与される面圧よりも高くすることができる。
【0036】
また、溶接機100では、スペーサ54は、本体51及びリッジ52とは別個のライナとして形成されている。したがって、例えば、リッジ52、62が摩耗したときに、スペーサ54をより厚いライナに交換することによって、摩耗したリッジ52、62を鋼板S1、S2に十分に押し付ける事ができる。したがって、リッジ52、62を長期間に亘って使用することができる。
【0037】
また、溶接機100は、上側クランプ50を上昇または下降させる一対のクランプシリンダー70を更に備えており、一対のクランプシリンダー70は、鋼板S1、S2の幅方向において、上側クランプ50の両端部に連結されており、スペーサ54は、鋼板S1、S2の幅方向の中央部において、最も厚い。上記のように、溶接機100では、一対のクランプシリンダー70が、鋼板S1、S2の幅方向において、クランプ装置20R、20Lの両側に配置されている。したがって、クランプシリンダー70からの力が両側に集中して、リッジ52、62と鋼板S1、S2との間の面圧分布が、中央部において低くなる傾向がある。しかしながら、溶接機100では、スペーサ54が中央部において最も厚いため、鋼板S1、S2の切断位置により近い領域に付与される面圧を、幅方向に均一にすることができる。
【0038】
また、溶接機100では、接合手段30がレーザー照射装置である。レーザー照射装置においては、上記のように、溶接の際に、鋼板S1、S2の高い突き合わせ精度が要求される。溶接機100によれば、鋼板S1、S2を適切に保持することができるため、鋼板S1、S2の高い突き合わせ精度を得ることが可能である。したがって、例えば、レーザー溶接の前に、オペレータによるマニュアルでの鋼板S1、S2の位置調整を避ける事ができる。
【0039】
続いて、他の実施形態について説明する。
【0040】
図5は、他の実施形態に係る溶接機のクランプ装置の先端を示す概略的な拡大正面図である。なお、
図5においては、一方のクランプ装置20Lのみが示されていることに留意されたい。この溶接機200は、スペーサ54が、本体51と一体に形成されている点で、上記の溶接機100と異なる。他の点においては、溶接機200は、溶接機100と同様である。
【0041】
また、
図6は、他の実施形態に係る溶接機のクランプ装置の先端を示す概略的な拡大正面図である。なお、
図6においても、一方のクランプ装置20Lのみが示されていることに留意されたい。この溶接機300は、スペーサ54が、リッジ52と一体に形成されている点で、上記の溶接機100と異なる。他の点においては、溶接機300は、溶接機100と同様である。
【0042】
以上のような溶接機200、300においても、先端51aに近い領域では、本体51からの押圧力は空隙Gを介さずにスペーサ54を介して直接的に鋼板S2に伝わる一方で、先端51aから離れた領域では、本体51からの押圧力は空隙Gを迂回してスペーサ54を介して間接的に鋼板S2に伝わる。したがって、先端51aに近い領域(すなわち、切断位置により近い領域)において、高い面圧が得られる。よって、鋼板S1、S2の切断位置により近い領域に付与される面圧を、鋼板S1、S2の切断位置から離れた領域に付与される面圧よりも高くすることができる。
【0043】
次に、
図7の(a)は他の実施形態に係る溶接機のクランプ装置の先端を示す概略的な拡大斜視図であり、(b)は(a)中のx方向から見た矢視図である。また、
図8の(a)は
図7のクランプ装置において厚さの異なる複数のライナを用いることを示す概略的な拡大斜視図であり、(b)は(a)中のx方向から見た矢視図である。
【0044】
図7を参照して、溶接機400は、スペーサ54が、鋼板S1、S2の幅方向において複数の分割スペーサ54aに分割されている点で、上記の溶接機100と異なる。また、溶接機400では、複数の分割スペーサ54aの厚さt3は同じである。他の点においては、溶接機400は、溶接機100と同様である。分割スペーサ54aの数は、鋼板S1、S2及び溶接機400の大きさ等の様々な要因に応じて適宜決定され得る。
【0045】
このような溶接機400においても、上記と同様な理由によって、鋼板S1、S2の切断位置により近い領域に付与される面圧を、鋼板S1、S2の切断位置から離れた領域に付与される面圧よりも高くすることができる。
【0046】
また、溶接機400では、スペーサ54が複数の分割スペーサ54aに分割されているため、
図8に示されるように、厚さの異なる複数の分割スペーサ54aを用いることができる。したがって、例えば、幅方向の中央部により厚い分割スペーサ54aを用いることによって、上記のようなリッジ52、62と鋼板S1、S2との間の面圧分布が中央部において低くなる傾向に対処することができる。また、例えば、使用によってリッジ52、62が摩耗したときに、摩耗が大きい箇所により厚い分割スペーサ54aを用いることによって、リッジ52、62と鋼板S1、S2との間の面圧分布を均一に調節することができる。よって、鋼板S1、S2の切断位置により近い領域に付与される面圧を、幅方向に均一にすることができる。
【0047】
溶接機の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者であれば、上記の実施形態の様々な変形が可能であることを理解するだろう。例えば、上記の実施形態では、スペーサ54は、上側クランプ50に設けられている。代替的に又は付加的に、スペーサは、下側クランプ60に設けられてもよい。
【0048】
また、例えば、上記の実施形態では、レーザー溶接機の場合について説明したため、接合手段30は、レーザー接合手段である。しかしながら、他の実施形態では、例えば、フラッシュバット溶接機の場合、接合手段30は、例えば、一対の電極であってもよい。
【0049】
また、例えば、上記の実施形態では、切断シャー10は、一対の鋼板S1、S2の縁部を同時に切断するダブルカットシャーである。しかしながら、他の実施形態では、切断シャー10は、例えば、一対の鋼板S1、S2を別個に切断する2つのロータリーシャー等の他のタイプであってもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 切断シャー
11 上側シャー
12 下側シャー
20L、20R クランプ装置
30 接合手段
50 上側クランプ
51 上側クランプの本体
51a 上側クランプの先端
52 上側クランプの先端のリッジ
54 スペーサ
54a 分割スペーサ
60 下側クランプ
61 下側クランプの本体
62 下側クランプの先端のリッジ
100、200、300、400、500 溶接機
G 空隙
S1、S2 鋼板