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特許7205409中空屈曲部品の製造方法及び中空屈曲部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】中空屈曲部品の製造方法及び中空屈曲部品
(51)【国際特許分類】
   B21D 7/16 20060101AFI20230110BHJP
   B21D 51/02 20060101ALI20230110BHJP
   B21C 37/15 20060101ALI20230110BHJP
   B21D 7/00 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B21D7/16
B21D51/02
B21C37/15 B
B21D7/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019134900
(22)【出願日】2019-07-22
(65)【公開番号】P2021016890
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】富澤 淳
(72)【発明者】
【氏名】植松 一夫
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/24741(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/186102(WO,A1)
【文献】特開昭61-229425(JP,A)
【文献】特開昭56-11111(JP,A)
【文献】特開昭63-293394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 7/16
B21D 51/02
B21C 37/15
B21D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の長尺な中空素材を、その長手方向に沿った送り方向へ送りながら第1の位置で支持し、
前記送り方向に沿って前記第1の位置よりも下流の第2の位置に配置された加熱手段で前記中空素材を被加熱部において部分的に加熱し、
前記送り方向に沿って前記第2の位置よりも下流の第3の位置に配置された冷却手段で前記中空素材を冷却し、
前記送り方向に沿って前記第3の位置よりも下流の第4の位置で前記中空素材を支持して支持位置を二次元方向又は三次元方向に移動させることにより、前記中空素材の前記被加熱部にせん断力を与える、
中空屈曲部品の製造方法であって、
前記中空素材の、前記送り方向に対し前記せん断力の付与後に形成されるせん断角度をθ(度)とし、前記送り方向に対する前記加熱手段及び前記冷却手段の傾斜角度をα(度)としたときに、下式(1)を満たす
ことを特徴とする中空屈曲部品の製造方法。
【数1】
【請求項2】
金属製で中空かつ曲がり部を有する一体部品であって、
前記曲がり部が、前記曲がり部の内周側の外形と前記曲がり部の外周側の外形との間の寸法である幅の2倍以下の曲げ半径を有し、
熱処理された前記曲がり部における板厚が、前記曲がり部に隣接する他の部分の板厚よりも大きい
ことを特徴とする中空屈曲部品。
【請求項3】
前記曲がり部の断面形状が矩形の閉断面形状であり、
前記曲がり部における曲げの外周側壁部の板厚と、前記曲がり部における曲げの内周側壁部の板厚とが略同じでかつ、前記隣接する他の部分の板厚よりも大きい
ことを特徴とする請求項2に記載の中空屈曲部品。
【請求項4】
鋼製であり、
前記曲がり部のマルテンサイト量が50%以上である、
ことを特徴とする請求項2または3に記載の中空屈曲部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲がり部を有する中空屈曲部品の製造方法および同製造方法により製造された中空屈曲部品に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、自動車や各種機械等に用いられる、中空の屈曲した形状を有する金属製の強度部材、補強部材または構造部材には、軽量かつ高強度であること等が求められる。従来、この種の中空屈曲部品は、例えば、冷間の曲げ加工、プレス加工品の溶接、厚板の打ち抜き、さらには鍛造等により製造されてきた。しかし、これらの製造方法により製造される中空屈曲部品の軽量化および高強度化には限界があり、その実現は容易なことではなかった。
【0003】
近年では、例えば非特許文献1に開示されるように、いわゆるチューブハイドロフォーミング工法によりこの種の中空屈曲部品を製造することも積極的に検討されている。しかし、非特許文献1の28頁にも記載されているように、チューブハイドロフォーミング工法には、素材となる材料の開発や成形可能な形状の自由度の拡大等といった課題があり、今後より一層の開発が必要である。
【0004】
このような現状に鑑み、本発明者らは、先に特許文献1により曲げ加工装置に係る発明を開示した。図6は、この曲げ加工装置100の概略を模式的に示す説明図である。
図6に示すように、この曲げ加工装置100では、一対の支持手段101,101によりその軸方向へ移動自在に支持された鋼管(以下、中空素材Pm)を上流側から下流側へ向けて矢印F方向へ図示しない送り装置により送りながら、支持手段101,101の下流位置で曲げ加工を行って、鋼製の中空屈曲部品Ppを製造する。すなわち、支持手段101,101の下流位置で高周波加熱コイル102によって中空素材Pmを部分的に焼入れ可能な温度域に急速加熱するとともに、高周波加熱コイル102の下流に配置される水冷装置103により中空素材Pmを急冷する。そして、中空素材Pmを支持しながら送るロール対104a,104aを少なくとも一組有する可動ローラダイス104の位置を三次元方向(場合によっては二次元方向)に変更して中空素材Pmの加熱された部分に曲げモーメントを付与することにより、中空素材Pmに曲げ加工を行う。この曲げ加工装置100によれば、高い作業効率で高強度の中空屈曲部品Ppを製造することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2006/093006号
【文献】国際公開第2011/024741号
【非特許文献】
【0006】
【文献】自動車技術 Vol.57,No.6,2003 23~28頁
【文献】チューブフォーミング,コロナ社,初版第3刷 2002年11月25日, 51~55頁
【文献】Journal of Materials Processing Technology, Volume 177, Issues 1-3, 3 July 2006, Pages 360-363
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車や各種機械等に用いられる中空屈曲部品には、種々の形状を持つものが存在する。中でも、曲がり部の曲げ半径が例えば金属管の直径(矩形断面の場合には曲げ方向の辺の長さ)の1~2倍あるいは、それ以下の、極めて小さな曲がり部を有する中空屈曲部品が多く存在する。
しかしながら、特許文献1の方法により、曲げ半径が例えば金属管の直径(矩形断面の場合には曲げ方向の辺の長さ)の1~2倍あるいはそれ以下の曲げ半径を持つように曲げ加工をした場合、曲がり部の内周側にしわや折れこみを生じたり、あるいは曲がり部の外周側の板厚が大きく減少して破断が発生したりするおそれがある。そのため、小さな曲がり部を有する中空屈曲部品を製造することは困難であった。
さらに、中空屈曲部品の冷間曲げ加工においては、非特許文献2に記載されているように、曲がり部の外周側に引張応力が作用するため、板厚が減少する。同様に、特許文献1の方法も曲げ加工であるため、曲がり部の外周側の板厚減少は避けらない。
【0008】
そこで、これらの課題解決に応えるために、本発明者らは、特許文献2によりせん断曲げ加工装置に係る発明を開示した。
図7に示すように、このせん断曲げ加工装置200は、第1の支持手段201と、加熱手段202と、冷却手段203と、把持手段204と、を備える。第1の支持手段201は、金属製の中空素材Pmを、その長手方向へ相対的に送りながら、第1の位置Aにおいて支持する。加熱手段202は、中空素材Pmの送り方向に沿った第1の位置Aよりも下流にある第2の位置Bにおいて中空素材Pmを部分的に加熱する。冷却手段203は、中空素材Pmの送り方向に沿った第2の位置Bよりも下流にある第3の位置Cにおいて中空素材Pmの加熱部分を冷却(強制冷却または自然冷却)する。把持手段204は、中空素材Pmの送り方向に沿った第2の位置Cよりも下流にある第3の位置Dにおいて中空素材Pmを位置決めしながら二次元方向または三次元方向に移動させることによって、中空素材Pmの加熱部分にせん断力を与える。よって、このせん断曲げ加工装置200によれば、中空素材Pmの加熱部分に対しせん断加工と熱処理とを加えることが可能になる。そして、このせん断曲げ加工装置200によれば、金属管の直径(矩形断面の場合には曲げ方向の辺の長さ)の1~2倍、あるいは、それ以下の曲げ半径の曲がり部を有する高強度の中空屈曲部品を、低コストで確実に量産可能である。
【0009】
さらに、特許文献2には、図8のせん断曲げ加工装置300に示すように、誘導加熱コイル301、冷却水噴射ノズル302、およびロール303を、角管である中空素材Pmに対して傾斜して配置することによって、中空素材Pmの肉厚減少を防ぐことが開示されている。すなわち、図8に示すように、加工前の中空素材Pmの板厚をtとし、中空素材Pmのせん断曲げ加工前後でのせん断角度をθとした場合、通常の加熱コイルの設定で加工を行うと、せん断曲げ加工後の板厚はt・cosθとなるが、誘導加熱コイル301を傾斜させることにより、せん断曲げ加工後の板厚をtのままとして、加工後の板厚減少を防ぐことが開示されている。
【0010】
特許文献2に記載の製造方法によれば、高強度でありながら小さな曲げ半径を有する中空屈曲部品の製造が可能となり、しかも、中空屈曲部品の板厚減少も生じないため、自動車をはじめとする多数の機械部品の大幅な軽量化が可能となった。
一方、機械部品として一体型の中空屈曲部品を設計する場合、設計上で必要となる強度や剛性や耐腐食性などを確保するために、部分的に強度を高めたり、部分的に製品板厚を増加させることが必要な部位が存在する。これらの要求に対し、非特許文献3に示すように、いわゆるテーラードブランクあるいはテーラードロールドブランクと呼ばれる、板厚や強度の異なる板を前もって溶接や圧延して素管とする方法が実用化されている。この方法は多くの部品で採用され、軽量化に大きく貢献している。ただし、板厚や強度の異なる板を前もって溶接や圧延する工程が煩雑であることは否めない。
このような理由により、テーラードブランクあるいはテーラードロールドブランクを用いずに、素材板厚が一定である中空金属管を使用することも考えられる。しかし、この場合、これまでの製造方法では、設計上で最も強度等が必要となる部位に合わせて他の部位の板厚を設定せざるを得ないため、得られる中空屈曲部品には、さらなる軽量化の余地が残されていた。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、製品板厚を部分的に増しながらも、多様な設計ニーズに合わせて軽量化もなし得る、中空屈曲部品の製造方法の提供を目的とする。また、本発明は、同製造方法により製造された中空屈曲部品の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明は以下の態様を採用している。
[1]本発明の一態様は、金属製の長尺な中空素材を、その長手方向に沿った送り方向へ送りながら第1の位置で支持し、前記送り方向に沿って前記第1の位置よりも下流の第2の位置に配置された加熱手段で前記中空素材を被加熱部において部分的に加熱し、前記送り方向に沿って前記第2の位置よりも下流の第3の位置に配置された冷却手段で前記中空素材を冷却し、前記送り方向に沿って前記第3の位置よりも下流の第4の位置で前記中空素材を支持して支持位置を二次元方向又は三次元方向に移動させることにより、前記中空素材の前記被加熱部にせん断力を与える、中空屈曲部品の製造方法であって、前記中空素材の、前記送り方向に対し前記せん断力の付与後に形成されるせん断角度をθ(度)とし、前記送り方向に対する前記加熱手段及び前記冷却手段の傾斜角度をα(度)としたときに、下式(1)を満たす。
【0013】
【数1】
【0014】
[2]本発明の他の態様は、金属製で中空かつ曲がり部を有する一体部品であって、前記曲がり部が、前記曲がり部の内周側の外形と前記曲がり部の外周側の外形との間の寸法である幅の2倍以下の曲げ半径を有し、熱処理された前記曲がり部における板厚が、前記曲がり部に隣接する他の部分の板厚よりも大きい中空屈曲部品である。さらには、前記曲がり部が、前記幅の0.2倍~2倍の曲げ半径を有してもよい。
【0015】
[3]上記[2]の態様において以下の構成を採用しても良い:前記曲がり部の断面形状が矩形の閉断面形状であり;前記曲がり部における曲げの外周側壁部の板厚と、前記曲がり部における曲げの内周側壁部の板厚とが略同じでかつ、前記隣接する他の部分の板厚よりも大きい。
【0016】
[4]上記[2]または上記[3]の態様において以下の構成を採用しても良い:鋼製であり;前記曲がり部のマルテンサイト量が50%以上である。
【発明の効果】
【0017】
上記態様に係る中空屈曲部品の製造方法によれば、製品板厚を部分的に増しながらも、多様な設計ニーズに合わせて軽量化もなし得ることが可能となる。また、同製造方法により製造された中空屈曲部品の提供も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る中空屈曲部品の製造装置を模式的に示す縦断面図である。
図2】同製造装置を用いた中空屈曲部品の製造方法を説明するための図であって、図1のX1部における部分拡大断面図である。
図3】同製造装置を用いた中空屈曲部品の製造方法を説明するための図であって、図1のY1-Y1線における断面図である。
図4】本発明の実施例で加工された中空屈曲部品の外形を示す図である。
図5】同実施例で加工された中空屈曲部品を示す図であって、焼き入れ部をハッチングで示している。
図6】特許文献1に開示された曲げ加工装置の概略構成を示す説明図である。
図7】特許文献2に開示されたせん断曲げ加工装置の概略構成を示す説明図である。
図8】特許文献2に開示されたせん断曲げ加工装置の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る中空屈曲部品の製造方法、及び、同製造方法により製造された中空屈曲部品を、図面を参照しながら説明する。以降の説明では、本発明により製造される中空屈曲部品が、鋼製であって矩形の横断面形状を有する中空の角管を素材(以下、中空素材Pm)とし、自動車や各種機械に用いられる強度部品、補強部品または構造部品等の製品(以下、中空屈曲部品Pp)を製造する場合を例示して説明する。まず、本製造方法を適用する中空屈曲部品の製造装置(以下、製造装置10)を先に説明し、続いて、本製造方法を説明する。
【0020】
[中空屈曲部品の製造装置]
図1は、本実施形態に係る中空屈曲部品の製造装置10を模式的に示す説明図である。
この製造装置10により、中空素材Pmをせん断曲げ加工して中空屈曲部品Ppを得る。中空素材Pmは、その長手方向に垂直な断面が中空矩形の閉断面形状を有する長尺な角管である。なお、本実施形態の加工対象は、角管に限定されるものではなく、例えば、円形、楕円形、さらには各種異形の横断面形状を有するその他の鋼管にも適用可能である。また、矩形断面を持つ中空素材Pmとしては、その横断面形状が正方形、長方形の何れにも適用可能である。さらに言うと、鋼管以外の金属管を中空素材Pmとしてもよい。
【0021】
図1に示すように、この製造装置10は、支持装置11と、加熱装置12と、冷却装置13と、せん断力付与装置14と、を備える。
(1)支持装置11
図1の矢印Fに示すように、支持装置11においては、中空素材Pmを図示しない送り装置によりその長手方向へ送る。
前記送り装置は、電動サーボシリンダーを用いたタイプが例示されるが、特定型式のものに限らず、ボールネジを用いたタイプやタイミングベルトやチェーンを用いたタイプ等、公知のものが採用できる。
【0022】
中空素材Pmは、前記送り装置によって所定の送り速度でその軸方向(矢印Fに沿った紙面左手方向)へ送られる。中空素材Pmは、第1の位置Aにおいて支持装置11により支持される。すなわち、支持装置11は、前記送り装置によってその軸方向へ送られる中空素材Pmを、第1の位置Aにおいて支持する。
【0023】
本実施形態では、支持装置11としてブロックを用いている。ブロックは、中空素材Pmが隙間を有して挿通することができる貫通穴11aを有する。図示を省略するが、ブロックを複数分割し、油圧シリンダーやエアシリンダーを接続し、中空素材Pmを挟持して支持する構成としてもよい。また、支持装置11は、特定型式のものに限定されず、この種の支持装置として公知のものが採用できる。例えばその他の構成として、互いに対向配置される一対の孔型のロールを1組もしくは2組以上並設して用いることが可能である。
支持装置11は、図示されない搭載台上に固定配置されている。しかし、この態様のみに限定されるものではなく、支持装置11を産業用ロボットのエンドエフェクター(図示略)によって支持してもよい。
中空素材Pmは、支持装置11が設置された第1の位置Aを通過した後、さらに矢印F方向へ送られる。
【0024】
(2)加熱装置12
加熱装置12は、中空素材Pmの送り方向に沿った第1の位置Aよりも下流にある第2の位置Bに配置されている。加熱装置12は、支持装置11から送られてくる中空素材Pmの長手方向の一部分における横断面の全周を加熱する。加熱装置12として誘導加熱装置を用いる。この誘導加熱装置は、中空素材Pmを例えば高周波誘導加熱することができるコイルを有するものであればよく、公知のものが採用できる。
加熱装置12の加熱コイル12aは、中空素材Pmの外表面から所定の距離だけ離れて、中空素材Pmの長手方向の一部における横断面の全周を囲むように、配置される。そして、中空素材Pmは、加熱装置12により部分的に急速加熱される。
【0025】
加熱装置12の設置手段(不図示)は、加熱コイル12aを第2の位置Bにおいて傾斜角度調整自在に配置できる。すなわち、加熱装置12の前記設置手段は、加熱コイル12aを、中空素材Pmの送り方向に対して設定した角度に傾斜させることができる。図1の例では、中空素材Pmの長手方向(矢印Fに示す、中空素材Pmの送り方向)に対し、側面視で傾斜角度αをもって交差するように、加熱コイル12aが傾斜配置されている。より具体的には、図1に示すように加熱コイル12aの中心線を含む断面で見て、加熱コイル12aの上側にある断面での幅方向中央位置と、加熱コイル12aの下側にある断面での幅方向中央位置とを結ぶ直線L1とする。そして、加熱コイル12aに至る前の中空素材Pmの中心軸線を直線L2とする。このとき、直線L1と直線L2とがなす角を前記傾斜角度αとした場合、この傾斜角度αを90°以下の鋭角とすることで、加熱コイル12aを傾斜配置することができる。
【0026】
加熱装置12の設置手段としては、例えば周知慣用の産業用ロボットのエンドエフェクターを例示することができるが、前記傾斜角度αを指定通り調整可能であればよく、公知のものが採用できる。加熱装置12の設置手段による傾斜角度αの調整は、製造装置10に備わる制御装置15からの制御信号を前記設置手段が受けて、自動制御する構成としてもよい。この場合、中空素材Pmの長手方向において、せん断曲げ加工を行う位置と、同位置において設定すべき傾斜角度αとの関係を予め制御装置15に保存しておき、中空素材Pmの送り量が所定の送り量に達した際の加熱コイル12aの傾斜角度αが、所定の角度をなすように制御することが一例として考えられる。
【0027】
図示していないが、中空素材Pmの送り方向に沿った加熱装置12の上流側位置に、中空素材Pmを予熱できる予熱装置(例えば小型の高周波加熱装置)を一つ以上配置しておき、この予熱手段を加熱装置12と併用して中空素材Pmを加熱することもできる。この場合、中空素材Pmを複数回加熱することが可能になる。
【0028】
(3)冷却装置13
冷却装置13は、中空素材Pmの送り方向に沿った第2の位置Bよりも下流にある第3の位置Cに配置される。冷却装置13は、中空素材Pmのうち、第2の位置Bで加熱された部分を急速に冷却する。中空素材Pmは、冷却装置13で冷却されることによって、加熱装置12により加熱された第1の部分と、冷却装置13により冷却された第2の部分との間の部分が、高温であって変形抵抗が大幅に低下した状態となる。
【0029】
冷却装置13は、所望の冷却速度が得られるものであればよく、特定方式の冷却装置に限定されない。一般的には、冷却水を中空素材Pmの外周面の所定位置へ向けて噴射することによって中空素材Pmを冷却する水冷装置を用いることが望ましい。本実施形態では、多数の冷却水噴射ノズル13aを、加熱装置12の直ぐ下流側に、中空素材Pmの長手方向の一部の横断面を囲むように、中空素材Pmの外表面から離して配置している。そして、これら冷却水噴射ノズル13aからの冷却水を中空素材Pmの外表面へ向けて噴射する。
冷却水は、中空素材Pmが送り出される方向へ向けて斜めに吹き付けることが、加熱装置12による中空素材Pmの加熱を阻害しない上で望ましい。また、中空素材Pmの軸方向と直交する断面において、各冷却水噴射ノズル13aと、中空素材Pmとの間の距離を変更して設定すれば、中空素材Pmの冷却される軸方向の領域を調整することができる。
【0030】
中空素材Pmにおいて加熱装置12により加熱された部分は、水冷装置13により、急速に冷却される。
冷却装置13による水冷の開始温度および冷却速度を適宜調整することにより、中空素材Pmにおける急速冷却部の一部または全部を焼入れたり、あるいは焼き鈍ますことが可能になる。これにより、例えば、中空素材Pmの曲がり部の一部または全部の強度を、例えば1500MPa以上と大幅に高めることも可能である。
【0031】
冷却装置13の設置手段は、冷却装置13を第3の位置Cに配置できる手段であればよく、特定の設置手段のみに限定されない。ただし、本実施形態の製造装置10により高い寸法精度を有する中空屈曲部品Ppを製造するためには、第2の位置B及び第3の位置C間の距離をできる限り短く設定することによって、加熱装置12により加熱された第1の部分と、冷却装置13により冷却された第2の部分との間の領域をできるだけ小さく設定することが望ましい。このためには、冷却水噴射ノズル13aを加熱コイル12aに近接配置することが望ましい。そのため、冷却水噴射ノズル13aを加熱コイル12aの直後の位置に配置することが望ましい。さらには、前記加熱装置12の設置手段に対し、冷却装置13を固定してもよい。この場合、各冷却水噴射ノズル13aと加熱コイル12aとの相対位置関係を保ったまま、これら冷却水噴射ノズル13a及び加熱コイル12aの双方が同じ傾斜角度αで傾斜させることが可能になる。
【0032】
しかし、この構成のみに限らず、冷却装置13の設置手段を、前記加熱装置12の設置手段とは別に備えてもよい。冷却装置13の設置手段(不図示)は、各冷却水噴射ノズル13aを第3の位置Cにおいて傾斜角度調整自在に配置できる。すなわち、冷却装置13の前記設置手段は、冷却装置13を、中空素材Pmの送り方向に対して設定した角度に傾斜させることができる。例えば図1に示すように、中空素材Pmの長手方向(矢印Fに示す、中空素材Pmの送り方向)に対し、側面視で傾斜角度αをもって交差するように、各冷却水噴射ノズル13aを傾斜配置できる。そして、各冷却水噴射ノズル13aの傾斜角度を、加熱コイル12aの傾斜角度と同期させて常に同じとすることにより、各冷却水噴射ノズル13aを、加熱コイル12aと干渉させることなく隣接配置することが可能になる。
【0033】
この場合の冷却装置13の設置手段としては、例えば周知慣用の産業用ロボットのエンドエフェクターを例示することができるが、前記傾斜角度αを指定通り調整可能であればよく、公知のものが採用できる。冷却装置13の設置手段による傾斜角度αの調整は、制御装置15からの制御信号を冷却装置13の設置手段が受けて、自動制御する構成としてもよい。この場合、制御装置15から加熱装置12の設置手段に送られる制御信号を参照して、同じ傾斜角度αをもって同期傾斜できるように制御することが一例として考えられる。
【0034】
(4)せん断力付与装置14
せん断力付与装置14は、中空素材Pmの送り方向に沿った第3の位置Cよりも下流にある第4の位置Dに配置される。せん断力付与装置14は、中空素材Pmを位置決めしながら二次元方向または三次元方向に移動する。これにより、せん断力付与装置14は、中空素材Pmにおける、加熱装置12により加熱された第1の部分と、冷却装置13により冷却された第2の部分との間の領域に、せん断力を与えて中空素材Pmにせん断曲げ加工を行う。
【0035】
図1に示す例では、せん断力付与装置14として上下一対の把持手段14a,14bを備える。これら把持手段14a,14bは、中空素材Pmの外表面あるいは内表面に接触することによって中空素材Pmの支持位置を決めながらその位置を移動する。そして、その支持位置の調整により、図1に示すせん断角度θを調整することができる。このせん断角度θは、上述した直線L1,L2を含む仮想平面上における、中空素材Pmの送り方向(より具体的には直線L2に沿った方向)と、冷却装置13を経た後の中空素材Pmの外表面との間の角度である。
【0036】
上下一対の把持手段14a,14bは、二次元方向または三次元方向に移動自在に保持する移動機構(同じく図示しない)により保持される。
【0037】
中空素材Pmの長手方向の一部における横断面は、加熱装置12により加熱されて変形抵抗が大幅に低下する。このため、中空素材Pmの送り方向に沿った第3の位置Cよりも下流にある第4の位置Dにおいて上下一対の把持手段14a,14bの位置を三次元方向に移動させることによって、図1に示すように、中空素材Pmにおける、加熱装置12により加熱された第1の部分と、冷却装置13により冷却された第2の部分との間の領域にせん断力Wsを与えることができる。
中空素材Pmにせん断力Wsが作用することにより、曲がり部が形成される。本実施形態では、特許文献1により開示された発明のように中空素材Pmの加熱された部分に曲げモーメントを与えるのではなく、せん断力を与える。このため、曲げ半径が曲がり部の内周側の外形曲線と外周側の外形曲線との間の間隔である幅W(製品幅)の0.2倍~2倍といった、極めて小さい曲げ半径の曲がり部を持つ中空屈曲部品Ppを製造することができる。
本実施形態の制御装置10を用いた製造方法は、せん断角度θと傾斜角度αの組み合わせを適宜設定することにより、曲げ半径の加工可能範囲を広くとることができる。そのため、前記曲げ半径が2倍を超える大きな曲げ半径の加工も可能である。一方、製品設計上の理由により小さな曲げ半径が求められる場合も、従来技術では難しかった0.2倍以上2倍以下の極めて小さい曲げ半径を得ることも可能としている。
なお、ここで言う幅Wと曲げ半径の詳細については、中空屈曲部品Ppの説明において後述する。
【0038】
せん断力付与装置14は、上下一対の把持手段14a,14bを、上述したように二次元方向または三次元方向に移動自在に配置することができる機構を介して、設置されればよい。そのような機構は特に限定を要さない。例えば、周知の産業用ロボットのエンドエフェクターにより、把持手段14a,14bを保持してもよい。例えば、図示しないリニアガイドとサーボモータを組み合わせた移動装置などを利用してもよい。
【0039】
[中空屈曲部品の製造方法]
続いて、上記製造装置10を用いて、中空素材Pmより中空屈曲部品Ppを製造する方法について以下に説明する。この製造方法では、中空素材Pmにせん断曲げ加工を加えることにより、その長手方向に沿って見て、部分的な板厚増加を可能としている。
すなわち、本実施形態の製造方法によれば、(1)素材である中空素材Pmの送り方向と製品である中空屈曲部品Ppとの間における進行方向の角度(せん断角θ)と、(2)素材である中空素材Pmの送り方向と加熱装置12との間における角度(加熱コイル12aの傾きである傾斜角度α)とを適切に選ぶことによって、せん断曲げ加工を受けた後の中空屈曲部品Ppの板厚を増加させることが可能となる。
【0040】
この点について、図2及び図3を用いて以下に説明する。図2は、せん断曲げ加工中の中空素材Pmの板厚増加を説明する図であって、図1のX1部における部分拡大断面図である。また、図3は、図1のY1-Y1線における断面図である。
厳密には、図1に示す加工中における実際変形は純粋なせん断変形とはならず、中空素材Pmの寸法(外形寸法や板厚など)、加熱装置12及び冷却装置13の各寸法や、せん断力付与装置14の構造によって若干異なる場合がある。しかし、ここでは説明のために、理想的な純粋なせん断変形を仮定して説明する。
【0041】
以下、板厚tで寸法W×寸法Hの矩形断面を持つ中空素材Pmを図1に示したように2次元方向にせん断曲げ加工した場合を説明する。以下においては説明のため、せん断曲げ加工を受けて曲がり部の内周側となる壁部の板厚をtin、外周側となる壁部の板厚をtoutとする。また、これら一対の壁部間を繋ぐ他の一対の壁部の板厚をそれぞれt、tとする。これらtin、tout、t、tは、せん断曲げ加工を受ける前は互いに等しく板厚tである。
【0042】
まず、せん断曲げ加工を受けた後の内周側壁部の板厚tin、外周側壁部の板厚toutをtと書くと、図2の幾何学形状より下式(2)が得られる。
【0043】
【数2】
【0044】
加えて、板厚がtからtに増すためには下式(3)を満たす必要がある。
【0045】
【数3】
【0046】
そして、これら式(2),(3)より下式(4)が得られる。
【0047】
【数4】
【0048】
すなわち、目標の製品形状が与えられた場合、個々の部分におけるせん断角θを算出し、上式(4)を満たす範囲の傾斜角度αとすることにより板厚を増加させることが出来る。より具体的には、上式(2)により板厚tを決定できる。ここで、傾斜角度αの数値範囲は、設備的な観点から、10度~80度であり、好ましくは20度~60度である。
【0049】
以上より、中空素材Pmの板厚をtとし、加熱コイル12aの傾斜角度をαとし、中空屈曲部品Ppの曲げ形状であるせん断角をθとした場合、加熱コイル12aの傾きである傾斜角度αを、上式(4)の範囲に設定すれば、せん断曲げ加工を受けた後の内周側壁部の板厚tin、外周側壁部の板厚toutを、共に、元のtよりも積極的に増して板厚tにすることができる。
【0050】
一方、せん断曲げ加工を受けた後の上壁部の板厚t、下壁部の板厚tは、共に等しく、下式(5)で得られる板厚t(tのまま)となる。
【0051】
【数5】
【0052】
上述したように、上記各式は理想的な純粋せん断変形を仮定したものであるため、実際には中空素材Pmの寸法(外形寸法や板厚など)、加熱装置12及び冷却装置13の各寸法や、せん断力付与装置14の構造によって若干変化する場合がある。したがって、生産準備の段階で、実際の中空素材Pmと加熱装置12と冷却装置13とを用いて、事前に加熱コイル12aの傾斜角度αを変更させた場合の、せん断角θと板厚比t/tとの関係を求めておくことが望ましい。これらの事前データを活用して実際の製品生産を行うことによって、よりスムーズな生産が可能となる。
【0053】
上記生産準備によって、上式(2)を満たす、傾斜角度α及びせん断角θと板厚比t/tとの関係を得た後、本実施形態の製造方法は以下の工程を経て中空屈曲部品Ppを製造する。
すなわち、図1において、始めに、鋼製で長尺な中空素材Pmを、前記送り装置によりその長手方向へ相対的に送りながら、第1の位置Aに配置された支持装置11により支持する。
【0054】
次に、加熱装置12により、送られてくる中空素材Pmを部分的に急速加熱する。その前に、加熱コイル12aの傾きを傾斜角度αとし、冷却装置13も同じ傾斜角度αとしておく。
中空素材Pmの加熱温度は、鋼を素材とした場合には、中空素材Pmを構成する鋼のAc3点以上とすることが望ましい。Ac3点以上とすることにより、加熱に続いて行われる冷却時の冷却速度を適宜設定することによって中空素材Pmの曲がり部を焼入れことができる。しかも、中空素材Pmの前記第1の部分と前記第2の部分との間の変形抵抗を、所望の小さな曲げ半径を有する加工を行うことができる程度に、十分に低下させることが可能になる。
【0055】
中空素材Pmの送り方向に沿った第2の位置Bよりも下流にある第3の位置Cに配置された冷却装置13の冷却水噴射ノズル13aから、冷却水を中空素材Pmへ向けて噴射する。これにより、加熱された部分を第3の位置Cで冷却する。中空素材Pmの鋼種にもよるが、この冷却時の冷却速度を100℃/秒以上とすることにより、曲がり部に焼入れを行ってその強度を高めることができる。
【0056】
この冷却によって、中空素材Pmに、加熱装置12により加熱された第1の部分と、冷却装置13により冷却された第2の部分とが形成される。中空素材Pmの第1の部分と第2の部分との間は、高温状態にあってその変形抵抗が大幅に低下する。
【0057】
中空素材Pmのせん断曲げ加工予定部の先端部が、せん断力付与装置14の一対の把持手段14a,14bに到達した時に、把持手段14a,14bを、その原位置を起点として、中空素材Pmの送り方向、および、加熱装置12により加熱された中空素材Pmの長手方向における横断面と略平行な方向の2方向が合成された方向(図1における紙面左斜め下方向)へ、上下一対の把持手段14a,14bを移動させる。この時、せん断力付与装置14によるせん断角度がθとなるようにする。
このようにして、中空素材Pmの前記第1の部分と前記第2の部分との間に、せん断力Wsが与えられ、中空素材Pmにせん断曲げ加工が行われ、中空屈曲部品Ppが得られる。
【0058】
[中空屈曲部品]
中空屈曲部品Ppは、鋼製の中空かつ長尺部材であり、閉断面形状を有し、長手方向へ一体に構成された曲がり部を有する。本実施形態の中空屈曲部品Ppは、その曲がり部における曲げ半径が、曲がり部の内周側の外形曲線と外周側の外形曲線との間の間隔である幅Wの0.2倍~2倍以下といった、極めて小さい曲げ半径の曲がり部を少なくとも一箇所有することができる。すなわち、曲がり部が複数箇所有る場合、それらのうちの一箇所以上において、上述のような極めて小さい曲げ半径を得ることができる。
【0059】
前記幅Wは、中空屈曲部品Ppの曲がり部をその曲げ方向に沿って見た場合に、曲がり部の曲がり方向に沿った中心線に対して直交する方向での、内周側の外形曲線と外周側の外形曲線との間の製品幅である。また、この幅Wが曲がり部の曲げ方向に沿った各位置で異なる場合には、曲がり部内での最大値をもって幅Wとする。
前記曲げ半径は、内周側の外形曲線について求めた値でもよいし、外周側の外形線について求めた値でもよい。曲がり部がせん断変形により形成されたものであるため、通常の曲げ変形の場合と異なり、内周側の外形曲線について求めた曲げ半径と、外周側の外形曲線について求めた曲げ半径とが略同じになるからである。実際の加工において、内周側の外形曲線について求めた曲げ半径と、外周側の外形曲線について求めた曲げ半径との間で多少の違いが出る可能性もある。その場合には、それらのうちの小さい方をもって曲げ半径とすればよい。
【0060】
上記規定のもと、中空屈曲部品Ppが円形断面の金属管の場合、その曲がり部における曲げ半径を、円形断面の直径(外径)の1~2倍あるいはそれ以下(0.2倍~2倍)の極めて小さい曲げ半径とすることができる。同様に、中空屈曲部品Ppが矩形の金属管の場合も、その曲がり部における曲げ半径を、矩形断面の曲げ方向の辺の長さの1~2倍あるいはそれ以下(0.2倍~2倍)の極めて小さい曲げ半径とすることができる。
【0061】
加えて、この中空屈曲部品Ppでは、せん断曲げ加工された部分の板厚tを、素材である中空素材Pmの板厚tよりも増している。より具体的には、曲がり部の内周側壁部と外周側壁部とが板厚tに増加し、上壁部及び下壁部は元の板厚tを維持している。このようにして得られた中空屈曲部品Ppにおいて、鋼を素材とした製品においては、せん断曲げ加工を受けた曲がり部では、その鋼材のミクロ組織におけるマルテンサイトの比率(体積比率)が50%以上となり高強度な部材が得られる。
【0062】
以下に本実施形態の骨子を述べる。
[1]金属製の長尺な中空素材を、その長手方向に沿った送り方向へ送りながら第1の位置で支持し、前記送り方向に沿って前記第1の位置よりも下流の第2の位置に配置された加熱手段で前記中空素材を被加熱部において部分的に加熱し、前記送り方向に沿って前記第2の位置よりも下流の第3の位置に配置された冷却手段で前記中空素材を冷却し、前記送り方向に沿って前記第3の位置よりも下流の第4の位置で前記中空素材を支持して支持位置を二次元方向又は三次元方向に移動させることにより、前記中空素材の前記被加熱部にせん断力を与える、中空屈曲部品の製造方法であって、前記中空素材の、前記送り方向に対し前記せん断力の付与後に形成されるせん断角度をθ(度)とし、前記送り方向に対する前記加熱手段及び前記冷却手段の傾斜角度をα(度)としたときに、下式(6)を満たす。
【0063】
【数6】
【0064】
[2]本実施形態の製造方法により得られた中空屈曲部品Ppは、金属製で中空かつ曲がり部を有する一体部品であって、前記曲がり部が、前記曲がり部の内周側の外形と前記曲がり部の外周側の外形との間の寸法である幅の2倍以下の曲げ半径を有し、熱処理された前記曲がり部における板厚が、前記曲がり部に隣接する他の部分の板厚よりも大きい。
【0065】
[3]本実施形態の製造方法により得られた中空屈曲部品Ppは、上記[2]において、前記曲がり部の断面形状が矩形の閉断面形状であり、前記曲がり部における曲げの外周側壁部の板厚と、前記曲がり部における曲げの内周側壁部の板厚とが略同じでかつ、前記隣接する他の部分の板厚よりも大きい。
【0066】
[4]本実施形態の製造方法により得られた鋼製の中空屈曲部品Ppは、上記[1]~[3]の何れか1項において、前記曲がり部のマルテンサイト量が50%以上である。
【実施例
【0067】
以下、実施例に基づいて本発明の効果を説明する。製造対象は、図4に示す、せん断角θを有する中空屈曲部品Ppである。この中空屈曲部品Ppでは、図4に示す領域I及び領域IIIが直管のままであり、これらの間にある領域IIがせん断曲げ加工で増肉された部分となる。
以下、従来例1~4と本発明例1~4とのそれぞれについて、表1~8に、製造時の傾斜角度αとせん断角θを示す。これら製造条件に対し、上式(2)及び上式(4)で算出した、製品板厚t(図3におけるtin、tout、t、t)を中空素材Pmの板厚tで除算した比率を示す。
【0068】
[従来例1]
従来例1では、中空素材Pmの送り方向に対して、加熱コイル12aを垂直に設定した上で、領域Iではせん断力を付与せずに真っ直ぐに送りながら焼入れする。続いて、領域IIではせん断角θ=45°でせん断曲げ加工を行いつつ焼入れする。続いて、領域IIIでは、せん断力を付与せず真っ直ぐに送りながら焼入れを実施する。計算結果を下表1に示す。
特許文献2に開示された従来法では、せん断曲げ加工を受けた領域IIにおける曲げの外周側と内周側の製品板厚が約29%減少した。
【0069】
【表1】
【0070】
[従来例2]
従来例2では、中空素材Pmの送り方向に対して加熱コイル12aを垂直(90度)に設定した上で、領域Iではせん断力を付与せず真っ直ぐに送りながら焼入れする。続く領域IIでは、せん断角θ=60度でせん断曲げ加工を行いつつ焼入れする。続く領域IIIでは、せん断力を付与せずに真っ直ぐに送りながら焼入れを実施する。計算結果を下表2に示す。
特許文献2に開示された従来法では、せん断曲げ加工を受けた領域IIにおける曲げの外周側と内周側の製品板厚が約50%減少した。
【0071】
【表2】
【0072】
[従来例3]
従来例3も、特許文献2に開示された製造方法を用いる。中空素材Pm素材の送り方向に対して加熱コイル12aの傾斜角度をα=67.4度に傾斜させた設定で、領域Iではせん断力を付与せず真っ直ぐに送りながら焼入れする。続く領域IIでは、せん断角θ=45度でせん断加工を行いつつ焼入れする。続く領域IIIでは、せん断力を付与せずに真っ直ぐに送りながら焼入れを実施する。計算結果を下表3に示す。
特許文献2により開示された従来法では、板厚を減少させずに中空素材Pmの板厚tを維持している。
【0073】
【表3】
【0074】
[従来例4]
従来例4も、特許文献2に開示された製造方法を用いた。中空素材Pmの送り方向に対して加熱コイル12aの傾斜角度をα=60度に傾斜させた設定で、領域Iではせん断力を付与せず真っ直ぐに送りながら焼入れする。続く領域IIでは、せん断角θ=60度でせん断曲げ加工を行いつつ焼入れする。続く領域IIIでは、せん断力を付与せずに真っ直ぐに送りながら焼入れを実施する。計算結果を下表4に示す。
特許文献2に開示された従来法では、せん断曲げ加工を受けた領域IIの曲げの外周側壁部と内周側壁部の板厚を減少させず、中空素材Pmの板厚tを維持している。
【0075】
【表4】
【0076】
[本発明例1]
本発明の製造方法を用いた実施例を説明する。
本例では、中空素材Pmの送り方向に対して加熱コイル12aを傾斜角度α=50度に傾斜させた設定で、領域Iではせん断力を付与せずに真っ直ぐに送りながら焼入れする。続く領域IIでは、せん断角θ=45度でせん断曲げ加工を行いつつ焼入れする。続く領域IIIでは、せん断力を付与せずに真っ直ぐに送りながら焼入れを実施する。計算結果を下表5に示す。
本発明例1によれば、せん断加工を受けた領域IIの曲げの外周側壁部と内周側壁部の製品板厚が約30%増加した。
【0077】
【表5】
【0078】
[本発明例2]
本発明の製造方法を用いた実施例を説明する。
本例では、中空素材Pmの送り方向に対して加熱コイル12aを傾斜角度α=45度に傾斜させた設定で、領域Iではせん断力を付与せずに真っ直ぐに送りながら焼入れする。続く領域IIでは、せん断角θ=45度でせん断加工を行いつつ焼入れする。続く領域IIIでは、せん断力を付与せずに真っ直ぐに送りながら焼入れを実施する。計算結果を下表6に示す。
本発明例2によれば、せん断曲げ加工を受けた領域IIの曲げの外周側壁部と内周側壁部の製品板厚が約44%と大きく増加した。
【0079】
【表6】
【0080】
[本発明例3]
本例では、中空素材Pmの送り方向に対して加熱コイル12aを傾斜角度α=45度に傾斜させた設定で、領域Iではせん断力を付与せずに真っ直ぐに送りながら焼入れする。続く領域IIでは、せん断角θ=60度でせん断加工を行いつつ焼入れする。続く領域IIIでは、せん断力を付与せずに真っ直ぐに送りながら焼入れを実施する。計算結果を下表7に示す。
本発明例3によれば、せん断曲げ加工を受けた領域IIの曲げの外周側壁部と内周側壁部の製品板厚が約36%と大きく増加した。
【0081】
【表7】
【0082】
[本発明例4]
本例では、中空素材Pmの送り方向に対して加熱コイル12aを傾斜角度α=40度に傾斜させた設定で、領域Iではせん断力を付与せずに真っ直ぐに送りながら焼入れする。続く領域IIでは、せん断角θ=60度でせん断加工を行いつつ焼入れする。続く領域IIIでは、せん断力を付与せずに真っ直ぐに送りながら焼入れを実施する。計算結果を下表8に示す。
本発明例4によれば、せん断曲げ加工を受けた領域IIの曲げの外周側壁部と内周側壁部の製品板厚が約53%と大きく増加した。
【0083】
【表8】
【0084】
[本発明の効果確認]
表1~8に示す傾斜角度αとせん断角度θの設定で、上述の従来例1~4と本発明例1~4の製造法を実施した。
製造に用いた中空素材Pmは、0.2%炭素鋼からなり、高さH=40mmで、幅W=50mmで、板厚t=1.2mmで、全長L=1000mmである。加熱コイル12aによる被加熱部の加熱温度を950℃として、各ケース毎に50本ずつ製造した。それら製品の板厚を測定したところ、表1~8に示した板厚比に対し、±5%以内の誤差で一致した。また、製品の引張強度は全長に亘り1470MPa以上となり、100%のマルテンサイト組織が得られていた。
【0085】
[本発明例1]
設計上、領域IIの部分において、図3に示すtin、toutの最低板厚が1.47mm必要である場合、従来の製造方法では、中空素材Pmの矩形断面における板厚が1.47mmのものを選んで製造する必要がある。一方、本発明例1では、中空素材Pmの矩形断面における板厚が1.2mmのものを選んで製造しても、tin、toutを1.47mmにすることが可能である。そのため、約18%の軽量化が可能となる。
【0086】
[本発明例2]
設計上、領域IIの部分において、図3に示すtin、toutの最低板厚が1.64mm必要である場合、従来の製造方法では、中空素材Pmの矩形断面における板厚が1.64mmのものを選んで製造する必要がある。一方、本発明例2では、中空素材Pmの矩形断面における板厚が1.2mmのものを選んで製造しても、tin、toutを1.64mmにすることが可能である。そのため、約26%の軽量化が可能となる。
【0087】
[本発明例3]
設計上、領域IIの部分において、図3に示すtin、toutの最低板厚が1.55mm必要である場合、従来の製造方法では、中空素材Pmの矩形断面における板厚が1.55mmのものを選んで製造する必要がある。一方、本発明例3では、中空素材Pmの矩形断面における板厚が1.2mmのものを選んで製造しても、tin、toutを1.55mmにすることが可能である。そのため、約23%の軽量化が可能となる。
【0088】
[本発明例4]
設計上、領域IIの部分において、図3に示すtin、toutの最低板厚が1.74mm必要である場合、従来の製造方法では、中空素材Pmの矩形断面における板厚が1.74mmのものを選んで製造する必要がある。一方、本発明例4では、中空素材Pmの矩形断面における板厚が1.2mmのものを選んで製造しても、tin、toutを1.74mmにすることが可能である。そのため、約31%の軽量化が可能となる。
【0089】
以上の結果に示すように、それぞれの設計に必要な製品寸法の条件に対して、上式(2)及び上式(4)を目安として事前に実験を行ない、その結果を用いて中空素材Pmの寸法を適正化することにより、中空屈曲部品Ppの軽量化が可能となる。
【0090】
以上説明の実施例に示される通り、本実施形態によれば、曲がり部の曲げ半径が例えば曲げ方向の辺の長さ(円管の場合には外径)の1~2倍あるいはそれ以下の、極めて小さい曲がり部を有する高強度の中空屈曲部品Ppが、低コストで確実に提供できる。しかも、板厚が均一な中空素材Pmを用いているにもかかわらず、長手方向の途中部分を増肉して、設計上で必要とされる板厚を付与できるため、これまで以上の軽量化が可能である。
また、製品強度についても、図5のハッチングに示す様に、部分的に焼き入れを施すことが可能である。中空素材Pmにおける被加熱部の加熱温度や中空素材Pmの成分組成を組み合わせることにより、中空屈曲部品Ppの焼き入れ部におけるマルテンサイト量を制御できる。好適な様態として、焼入れ部のマルテンサイト量が50%以上の組成で、比較的高強度な鋼製の中空屈曲部品Ppを得ることができる。このため、本実施形態によれば、自動車の各種の車体構成部材の設計自由度を高めるとともに、これら各種部品のさらなる低コスト化および軽量化を図ることができる。
【0091】
なお、以上の説明では、せん断変形を、矩形断面を有する金属製の中空素材Pmに与える場合を例示したが、本発明はこの態様のみに限定されない。すなわち、金属製の中空素材の断面形状が矩形以外である丸管や多角形管あるいは任意の曲面形状を持つ管であっても、同様に加熱コイル12aの傾斜角度αとせん断角θとを変更することにより、せん断曲げ加工を受ける部分の板厚を増すことができる。
【0092】
また、従来の曲げ変形にせん断力による変形を付加することにより、板厚を増すことが可能であるため、せん断力による変形成分を含む加工が本発明の対象である。
本発明に係る中空屈曲部品Ppは、せん断力による加工時に同時に熱処理(例えば焼入れ)が行われて製造される。そのため、冷間でせん断曲げ加工が行われてその後に熱処理(例えば焼入れ)を行った中空屈曲部品に比較して、例えば1470MPa以上の高強度の部分を有する中空屈曲部品Ppを、より単純な工程かつ高い加工精度で製造することができる。
【0093】
本発明に係る製造方法により製造される中空屈曲部品Ppは、例えば以下に例示する用途(i)~(vii)に対して適用可能である。
(i)例えば、フロントサイドメンバー、クロスメンバー、サイドメンバー、サスペンションメンバー、ルーフメンバー、Aピラーのレインフォース、Bピラーのレインフォース、バンパーのレインフォース等といった自動車車体の構造部材
(ii)例えば、シートフレーム、シートクロスメンバー等といった自動車の強度部材や補強部材
(iii)自動車の排気管等の排気系部品
(iv)自転車や自動二輪車のフレームやクランク
(v)電車等の車輛の補強部材、台車部品(台車枠、各種梁等)
(vi)船体等のフレーム部品、補強部材
(vii)家電製品の強度部材、補強部材または構造部材
【0094】
[付記]
(a)金属製の中空の素材を、その長手方向へ相対的に送りながら第1の位置に配置された第1の支持手段により支持し、この素材の送り方向について第1の位置よりも下流の第2の位置に配置された加熱手段により送られる素材を部分的に加熱し、素材の送り方向について第2の位置よりも下流の第3の位置に配置された冷却手段により第2の位置で加熱された部分を冷却(強制冷却または自然冷却)するとともに、素材の送り方向について第3の位置よりも下流の領域に配置された、素材を位置決めするせん断力付与手段であるクランプを二次元方向または三次元方向に移動させることにより、素材における加熱された部分にせん断力を与えることによって、素材に加工を行う、中空屈曲部品の製造方法であって、加工された製品の進行方向のなす角度θに対して、該加熱手段および該冷却手段を、上式(4)を満たす範囲で、金属製の中空の素材の長手方向に対してα傾斜設定あるいは変更することによりせん断加工による曲げ外周側と内周側の板厚を増加させることを特徴とする中空屈曲部品の製造方法。
【0095】
(b)金属製の中空一体部品であって、肉厚が部分的に素管と異なり、曲げ外周側と内周側で板厚が略同じであって、部品の一部が熱処理され、部分的に製品の板厚が異なることを特徴とする一体型中空屈曲部品。
【0096】
(c)上記(b)に記載の金属製の中空一体部品において、該中空部品が鋼製であり、部分的に熱処理された部分のマルテンサイト量が50%以上であることを特徴とする一体型中空屈曲部品。
【符号の説明】
【0097】
12 加熱装置(加熱手段)
13 冷却装置(冷却手段)
A 第1の位置
B 第2の位置
C 第3の位置
D 第4の位置
Pm 中空素材
Pp 中空屈曲部品
α 傾斜角度
θ せん断角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8