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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】段付ボルト
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/284 20060101AFI20230110BHJP
   F16B 31/02 20060101ALI20230110BHJP
   F16B 35/00 20060101ALI20230110BHJP
   F16B 39/282 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
F16B39/284 Z
F16B31/02 H
F16B35/00 Q
F16B39/282 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019208525
(22)【出願日】2019-11-19
(65)【公開番号】P2021080995
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 圭介
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】実公昭46-009135(JP,Y1)
【文献】特開2018-021640(JP,A)
【文献】特表2007-510110(JP,A)
【文献】特開2016-133148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 39/284
F16B 39/282
F16B 31/02
F16B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側におねじ部と、他方側に頭部と、前記おねじ部と前記頭部との間に、前記頭部の外径よりも小さく、かつ、前記おねじ部の外径よりも大きな外径を有する大径軸部と、を備える段付ボルトであって、
前記大径軸部の中心軸線は、前記おねじ部の中心軸線と同一とされており、
前記大径軸部は、前記おねじ部側の端面である大径軸部端面から所定深さ窪んで前記おねじ部の周囲を連続して一周する溝である周溝部を有し、
周囲が前記周溝部に囲まれた前記大径軸部の一部分である自由連結柱部の径は、前記大径軸部端面の位置において、前記おねじ部の谷径以下の径とされている、
段付ボルト。
【請求項2】
請求項1に記載の段付ボルトであって、
前記自由連結柱部の径は、前記大径軸部端面の位置から所定長さにわたって同一径、かつ、前記おねじ部の谷径よりも小さい径、とされている、
段付ボルト。
【請求項3】
請求項1または2に記載の段付ボルトであって、
前記大径軸部端面の位置において、前記周溝部の径方向の幅は、前記周溝部の外縁から前記大径軸部の外縁までの径方向の幅よりも小さい幅とされている、
段付ボルト。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の段付ボルトであって、
前記周溝部の前記大径軸部の軸方向の深さは、前記大径軸部の軸方向の長さよりも短い、
段付ボルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は段付ボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
2つの被締結物を締結するために段付ボルトが用いられている。例えば、特許文献1には、図11に示すように、内燃機関に関して、被締結物である樹脂カバー100Aと被締結物である金属ハウジング200Aとの2つの被締結物を、段付ボルト500Aを用いて締結することが記載されている。特許文献1に記載の段付ボルト500Aは、一方側におねじ部510と、他方側に頭部520と、おねじ部510と頭部520との間に、大径軸部530を備える。外径は、頭部520が一番大きく、次に大径軸部530が大きく、おねじ部510が一番小さい。また、樹脂カバー100Aには大径軸部を挿通できる貫通孔101Aが設けられており、金属ハウジング200Aにはおねじ部520が螺合できるねじ孔201Aが設けられている。樹脂カバー100Aの厚みL100Aは大径軸部530の軸方向の長さL530よりも短く、金属ハウジング200Aの厚みL200Aは、おねじ部510の軸方向の長さよりも長い。
【0003】
そして、段付ボルト500Aの大径軸部530を樹脂カバー100Aの貫通孔101Aに挿通し、さらに、段付ボルト500Aのおねじ部510を金属ハウジング200Aのねじ孔201Aに螺合させる。これにより、樹脂カバー100Aを段付ボルト500Aの頭部520と金属ハウジング200Aで挟んで、樹脂カバー100Aと金属ハウジング200Aとを段付ボルト500Aで締結することが特許文献1に記載されている。ここで、段付ボルト500Aの大径軸部530のおねじ部510側の端面530Aおよびおねじ部510が、金属ハウジング200Aに密着することで、段付ボルト500Aが金属ハウジング200Aに固定されている。
【0004】
なお、図11に示す様に、樹脂カバー100Aには、段付ボルト500Aの頭部520に対向する面に、大径軸部530の周囲を連続して一周する溝111Aが設けられている。溝111Aには、溝111Aの深さよりも径が大きいリング状弾性体301Aが嵌められている。また、樹脂カバー100Aの金属ハウジング200Aに対向する面に、段付ボルト500Aの大径軸部530の周囲を連続して一周する溝112Aが設けられ、リング状弾性体301Aと同様のリング状弾性体302Aが嵌められている。
【0005】
リング状弾性体301Aおよびリング状弾性体302Aは、樹脂カバー100Aにおいて、段付ボルト500Aの頭部520側の面と、金属ハウジング200A側の面との両面それぞれに嵌められており、弾性を備えている。内燃機関から伝わる振動により、段付ボルト500A、樹脂カバー100A、金属ハウジング200Bが振動して、樹脂カバー100Aが段付ボルト500Aにより損傷を受けることを、リング状弾性体301Aおよびリング状弾性体302Aが抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-44608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載の上記の締結では、図11に示すように、段付ボルト500Aの大径軸部530のおねじ部510側の端面530Aおよびおねじ部510を、金属ハウジング200Aに密着させているため、樹脂カバー100Aおよび金属ハウジング200Aの熱膨張や振動により、段付ボルト500Aのおねじ部510と金属ハウジング200Aのねじ孔201との螺合が緩む場合がある。
【0008】
そこで、おねじ部510Bの緩みを防止する従来の締結構造として、図12に示す構造がある。図12に示すように、段付ボルト500Bでは、おねじ部510Bの緩み防止のために、金属ハウジング200Bのねじ孔201Bは、大径軸部530の側において、長さL232Bにわたって拡径して、拡径空間K232Bが形成されている。さらに、図11のねじ孔201Aにおけるおねじ部510と螺合する長さL510を確保するために、図12に示す締結構造のねじ孔201Bには、長さL232Bの拡径空間K232Bの下方に、螺合用の長さL510のねじ孔が形成されている。すなわち、おねじ部510Bに必要な長さL510Bは、拡径空間K232Bの長さL232Bと、螺合用の長さL510との和(L510B=L232B+L510)とされている。
【0009】
ここで図12に示す、おねじ部510Bにおける拡径空間K232Bに囲まれた個所を、自由連結柱部532Bとする。自由連結柱部532Bは、拡径空間K232Bに囲まれており、拡径空間K232Bの側からは力が加わらない。従って、熱膨張による伸縮や振動等によって自由連結柱部532Bに力(引張力または圧縮力)が加えられたときに、自由連結柱部532Bの有する弾性により、自由連結柱部532Bは伸縮することができる。これにより、図12に示す締結構造では、おねじ部510Bの緩みが防止される。
【0010】
以上より、図11に示す従来の締結構造では、ねじ孔201Aに必要な深さは、長さL510だけであるが、おねじ部510の緩みが発生する可能性があるので好ましくない。また図12に示す従来の締結構造では、おねじ部510の緩みは防止できるが、ねじ孔201Bに必要な深さL510Bは、長さL232B+長さL510となり(L510B=L232B+L510)、ねじ孔の長さL510Bが、図11に示す締結構造よりも長くなるので好ましくない。例えば図12における金属ハウジング200Bがシリンダヘッドの場合、ねじ孔201Bの長さと、おねじ部510Bの長さを長くすることにより、ねじ孔201Bが、厚みL200Bの金属ハウジング200Bの反対側の面まで達してしまう場合や、金属ハウジング200Bの剛性が低下する可能性があるので、好ましくない。
【0011】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、貫通孔が形成された第1被締結物と、ねじ孔が形成された第2被締結物とを固定する段付ボルトにおいて、緩みを防止し、かつ、第2被締結物のねじ孔の長さをより短くすることができる段付ボルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、第1の発明は、一方側におねじ部と、他方側に頭部と、前記おねじ部と前記頭部との間に、前記頭部の外径よりも小さく、かつ、前記おねじ部の外径よりも大きな外径を有する大径軸部と、を備える段付ボルトであって、前記大径軸部の中心軸線は、前記おねじ部の中心軸線と同一とされており、前記大径軸部は、前記おねじ部側の端面である大径軸部端面から所定深さ窪んで前記おねじ部の周囲を連続して一周する溝である周溝部を有し、周囲が前記周溝部に囲まれた前記大径軸部の一部分である自由連結柱部の径は、前記大径軸部端面の位置において、前記おねじ部の谷径以下の径とされている、段付ボルトである。
【0013】
次に、第2の発明は、上記第1の発明に係る液段付ボルトであって、前記自由連結柱部の径は、前記大径軸部端面の位置から所定長さにわたって同一径、かつ、前記おねじ部の谷径よりも小さい径、とされている、段付ボルトである。
【0014】
次に、第3の発明は、上記第1の発明または第2の発明に係る段付ボルトであって、前記大径軸部端面の位置において、前記周溝部の径方向の幅は、前記周溝部の外縁から前記大径軸部の外縁までの径方向の幅よりも小さい幅とされている、段付ボルトである。
【0015】
次に、第4の発明は、上記第1の発明から第3の発明のいずれか1つに係る段付ボルトであって、前記周溝部の前記大径軸部の軸方向の深さは、前記大径軸部の軸方向の長さよりも短い、段付ボルトである。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、段付ボルトは、大径軸部のおねじ部側にある大径軸部端面から所定深さ窪み、おねじ部の周囲を一周する溝である周溝部を有する。大径軸部のおねじ部側において、周囲が周溝部に囲まれた大径軸部の一部分である自由連結柱部は、周溝部の中心軸側壁面を側面とする柱状に形成されており、周溝部の内側にあるおねじ部と一体に連結されている。自由連結柱部は、周溝部内の空間に囲まれており、周溝部内の空間の側からは力が加わることはない。
【0017】
貫通孔が形成された第1被締結物と、ねじ孔が形成された第2被締結物とは、段付ボルトを用いて次の様に固定できる。すなわち、第1被締結物の貫通孔に大径軸部を挿通し、さらに、段付ボルトのおねじ部を第2被締結物のねじ孔に螺合させることにより、第1被締結物を段付ボルトの頭部と第2被締結物で挟んで、第1被締結物と、第2被締結物とを段付ボルトで固定できる。なお、自由連結柱部の径は、大径軸部端面の位置において、おねじ部の谷径以下の径とされていることにより、自由連結柱部が第被締結物を押圧することは抑制されている。
【0018】
上記の様に、自由連結柱部は、おねじ部と一体に連結されており、周溝部内の空間に囲まれている。自由連結柱部は、周溝部内の空間の側からは力が加わることはないため、熱膨張による伸縮や振動等によって自由連結柱部に力(引張力または圧縮力)が加えられたときに、自由連結柱部の有する弾性により、自由連結柱部は伸縮することができる。これにより、おねじ部と第2被締結物のねじ孔とが緩むことを防止できる。ここで、上記の様に、緩みを防止するために設けられた自由連結柱部は、大径軸部に設けられている。
【0019】
図12を用いて上述した従来の緩み防止するための締結構造では、上述した様に、緩みを防止するために、おねじ部510Bの長さが、金属ハウジング200Bのねじ孔201Bとおねじ部510Bとを螺合するための長さL510と、拡径空間K232Bに囲まれた個所である自由連結柱部532Bを設けるための長さL232Bとを加えた長さ(L510B=L232B+L510)が必要となる。そこで、従来の緩み防止するための締結構造では、緩みを防止するために、金属ハウジング200Bのねじ孔201Bの長さを、金属ハウジング200Bのねじ孔201Bとおねじ部510Bとを螺合するための長さL510からL232B伸長させている。
【0020】
これに対して、上記の様に、段付ボルトでは、緩みを防止するために設けられた自由連結柱部は、大径軸部に設けられており、おねじ部には設けられていない。このため、段付ボルトを用いる場合には、緩みを防止するために、第2被締結物のねじ孔を伸長させる必要がない。従って、図12を用いて上述した従来の緩み防止するための締結構造を基準にすれば、段付ボルトは、緩みを防止したうえで、第2被締結物のねじ孔の長さをより短くすることができる。すなわち、段付ボルトは、貫通孔が形成された第1被締結物と、ねじ孔が形成された第2被締結物とを固定する段付ボルトにおいて、緩みを防止し、かつ、第2被締結物のねじ孔の長さをより短くすることができる。
【0021】
第2の発明によれば、自由連結柱部の径は、大径軸部端面の位置から所定長さにわたって同一径、かつ、おねじ部の谷径よりも小さい径、とされている。これにより、自由連結柱部の径は、確実におねじ部の谷径よりも小さい径に設定されている。ここで、自由連結柱部は、径が小さい程より容易に伸縮できる。従って、自由連結柱部の径が谷径よりも確実に小さい径に設定されているため、自由連結柱部はより確実に伸縮できる。これにより、おねじ部と第2被締結物のねじ孔とが緩むことをより確実に防止できる。
【0022】
第3の発明によれば、大径軸部端面の位置において、周溝部の径方向の幅は、周溝部の外縁から大径軸部の外縁までの径方向の幅よりも小さい幅とされている。これにより、周溝部よりも外側にある大径軸部端面の面積を、充分大きく確保できる。ここで、大径軸部端面は、段付ボルトが第2被締結物に締結されたときに、第2被締結物に密着する部分である。大径軸部端面の面積が充分大きく確保されているため、段付ボルトが第2被締結物に締結されたときに、大径軸部が大径軸部端面から第2被締結物に陥没することをより確実に抑制できる。
【0023】
第4の発明によれば、周溝部の大径軸部の軸方向の深さは、大径軸部の軸方向の長さよりも短い。これにより、周溝部の底面が頭部の内部に達することはない。仮に、周溝部の底面が頭部まで達すれば、頭部内にも、内部が空間となっている周溝部が存在することになり、頭部の強度が低下する。以上より、頭部内に周溝部がないため、頭部の強度をより確実に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態の段付ボルトの概略斜視図である。
図2】実施形態の段付ボルトの概略断面図である。
図3図2のIII-III断面図である。
図4】実施形態の段付ボルトが締結に用いられたときの概略断面図である。
図5】他の実施形態の段付ボルトの断面図である。
図6】他の実施形態の段付ボルトの断面図である。
図7】他の実施形態の段付ボルトの断面図である。
図8】他の実施形態の段付ボルトの断面図である。
図9】他の実施形態の段付ボルトの断面図である。
図10】他の実施形態の段付ボルトの概略側面図である。
図11】従来の段付ボルトが締結に用いられたときの概略断面図である。
図12】従来の段付ボルトが締結に用いられたときの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態の段付ボルト1について、図面を用いて説明する。図1に示すように、段付ボルト1は、一方側におねじ部10と、他方側に頭部20と、おねじ部10と頭部20との間に大径軸部30と、を備える。ここで、おねじ部10、頭部20、大径軸部30は、同軸に形成されており、これらすべての中心軸線は同一の中心軸線C1となる。以下、中心軸線C1を段付ボルト1の中心軸線とする。なお、図中および以下の説明において、先端方向とは、段付ボルト1の中心軸線C1上でおねじ部10の先端に向かう方向を示し、後端方向とは先端方向の反対方向を示す。
【0026】
●[段付ボルト1の全体構成(図1図3)]
まず、図1図3を用いて、本発明に係る段付ボルト1の全体構成について説明する。図1は、段付ボルト1の概略斜視図である。図2は、段付ボルト1の概略断面図である。図3は、図2のIII-III断面図である。上述したが、図1に示すように、段付ボルト1は、先端(一方)側におねじ部10と、後端(他方)側に頭部20と、おねじ部10と頭部20との間に大径軸部30と、を備えている。おねじ部10、頭部20、大径軸部30との配置は同軸となっている。また、段付ボルト1は、アルミニウム合金で形成されている。
【0027】
おねじ部10は、図1に示すように、軸部11と、軸部11の側面に設けられたねじ山部12と、を備えている。おねじ部10は、外径D10が5~10[mm]程度で、中心軸線C1方向の長さL10が5~10[mm]程度に形成されている。
【0028】
頭部20は、後端側に六角柱状の部分を有する六角頭状のねじ頭部21と、先端側にフランジ部22を備えている。フランジ部22は、外径D20が20~30[mm]程度に形成されている。
【0029】
大径軸部30は、円柱状に形成された本体部31と、本体部31のおねじ部10側の端面である大径軸部端面31Aから後端側に窪んでおねじ部10の周囲を連続して一周する溝である周溝部32と、を有している。
【0030】
図2に示すように、本体部31の外径は、大径軸部30の外径D30である。本体部31(大径軸部30)は、外径D30が10~20[mm]程度に形成されており、中心軸線C1方向の長さL30が5~15[mm]程度に形成されている。上述したが、図2に示すように、大径軸部30は、その中心軸線C30が、おねじ部10の中心軸線C10と同一とされており、また、段付ボルト1の中心軸線C1と同一である。そして、図2に示すように、本体部31(大径軸部30)の外径D30(10~20[mm]程度)は、頭部20の外径D20(20~30[mm]程度)よりも小さく、かつ、おねじ部10の外径D10(5~10[mm]程度)よりも大きい。本体部31のおねじ部10側の端面は、大径軸部30のおねじ部10側の端面である大径軸部端面31Aである。
【0031】
周溝部32は、大径軸部30(本体部31)のおねじ部10側の端面である大径軸部端面31Aから所定深さL32窪んでおねじ部10の周囲を連続して一周する(図1参照)溝である。図2に示すように、周溝部32は、中心軸側壁面32A、外側壁面32B、底面32Cを備え、断面が矩形に形成されている。ここで、周溝部32の深さL32(周溝部32の長さL32)は、大径軸部30(本体部31)の長さL30よりも小さい。
【0032】
周溝部32は、大径軸部30の中心軸線C30(C1)方向の深さL32が2~3[mm]程度であり、中心軸側壁面32Aの径D31Bは5~8[mm]程度であり、幅W32が1~2[mm]程度である。周溝部32の中心軸線C30(C1)方向の深さL32(2~3[mm]程度)は、大径軸部30の中心軸線C30(C1)方向の長さL30(5~15[mm]程度)よりも短い。
【0033】
周溝部32の中心軸側壁面32Aの径D31Bは、大径軸部端面31Aの位置31APにおいて、おねじ部10の谷径DR10以下の径とされている。谷径DR10とは、おねじ部10のねじ山部12の谷底に接する仮想的な円筒の直径である。周溝部32は、断面が矩形に形成されており、周溝部32の中心軸側壁面32Aの径D31Bは、大径軸部端面31Aから所定深さL32にわたって同一径、かつ、おねじ部10の谷径DR10よりも小さい径、とされている。なお、おねじ部10の外径D10とは、おねじ部10のねじ山部12の山の頂に接する仮想的な円筒の直径である。
【0034】
図2に示すように、本体部31において、周溝部32よりも中心軸線C1側(中心軸線C30側)にある、周囲が周溝部32に囲まれた大径軸部30(本体部31)の一部分を自由連結柱部31Bとする。自由連結柱部31Bは、周溝部32に囲まれた円柱状に形成されている。自由連結柱部31Bの中心軸線C1方向の長さは、周溝部32の深さ(長さ)L32(2~3[mm]程度)である。また、自由連結柱部31Bの径は、周溝部32の中心軸側壁面32Aの径D31Bに等しい。上記の様に、中心軸側壁面32Aの径D31Bは、おねじ部10の谷径DR10以下である。従って、自由連結柱部31Bの径は、大径軸部端面31Aの位置31APにおいて、おねじ部10の谷径DR10以下の径とされている。
【0035】
図3には、図2のIII-III断面図を示した。すなわち、図3には、大径軸部30(本体部31)のおねじ部10側の端面である大径軸部端面31Aと、大径軸部端面31Aの位置31APにおける自由連結柱部31Bの断面とが示されている。上述した様に、自由連結柱部31Bの径D31Bは、大径軸部端面31Aの位置31APにおいて、おねじ部10の谷径DR10であるため、自由連結柱部31Bの径D31Bは、大径軸部端面31Aの位置31APにおいて谷径DR10以下の径とされている。周溝部32の径方向の幅W32は、周溝部32の外縁32BEから大径軸部30(本体部31)の外縁30Eまでの径方向の幅W31よりも小さい幅とされている。これにより、周溝部32よりも外側にある大径軸部端面31Aの面積を、後述する様に、充分大きく確保できる。
【0036】
●[段付ボルト1が締結に用いられたときの状態と段付ボルト1の作用効果について(図3図4図12)]
次に、図3図4図12を用いて、段付ボルト1が締結に用いられたときの状態と段付ボルト1の作用効果について説明する。図4は、段付ボルト1が第1被締結物100と第2被締結物200との締結に用いられたときの概略断面図である。
【0037】
図4に示すように、第1被締結物100は、厚みL100が大径軸部30(本体部31)の中心軸線C1方向の長さよりも短く、段付ボルト1の大径軸部30(本体部31)が挿通された貫通孔101を有している。貫通孔101の径の大きさは、大径軸部30(本体部31)の外径D30よりも大きく、頭部20のフランジ部22の外径D20よりも小さい。第2被締結物200は、段付ボルト1のおねじ部10が螺合しているねじ孔201を有している。第2被締結物200の厚みL200の長さは、おねじ部10の軸方向の長さL10よりも長い。以上の様に、段付ボルト1による第1被締結物100と第2被締結物200との締結構造では、段付ボルト1の大径軸部30が第1被締結物100の貫通孔101に挿通され、さらに、段付ボルト1のおねじ部10が第2被締結物200のねじ孔201に螺合されている。
【0038】
また、図4に示す様に、第1被締結物100には、段付ボルト1の頭部20に対向する面に、大径軸部30の周囲を連続して一周する溝111が設けられている。溝111には、溝111の深さよりも径が大きいリング状弾性体301が嵌められている。また、第1被締結物100の第2被締結物200に対向する面に、段付ボルト1の大径軸部30の周囲を連続して一周する溝112が設けられ、リング状弾性体301と同様のリング状弾性体302が嵌められている。リング状弾性体301およびリング状弾性体302は、第1被締結物100において、段付ボルト1の頭部20側の面と、第2被締結物200側の面との両面それぞれに嵌められており、弾性を備えている。外部から伝わる振動により、段付ボルト1、第1被締結物100、第2被締結物200が振動して、第1被締結物100が段付ボルト1により損傷を受けることを、リング状弾性体301およびリング状弾性体302が抑制している。
【0039】
段付ボルト1は、大径軸部30(本体部31)のおねじ部10側にある大径軸部端面31Aから所定深さ(長さ)L32窪み、おねじ部10の周囲を一周する溝である周溝部32を有する。大径軸部30のおねじ部10側において、周囲が周溝部32に囲まれた大径軸部30の一部分である自由連結柱部31Bは、周溝部32の中心軸側壁面32Aを側面とする柱状に形成されており、周溝部32の内側にあるおねじ部10と一体に連結されている。自由連結柱部31Bは、周溝部32内の空間K32に囲まれており、周溝部32内の空間K32の側からは力が加わることはない。
【0040】
貫通孔101が形成された第1被締結物100と、ねじ孔201が形成された第2被締結物200とは、段付ボルト1を用いて次の様に固定できる。すなわち、第1被締結物100の貫通孔101に大径軸部30を挿通し、さらに、段付ボルト1のおねじ部10を第2被締結物200のねじ孔201に螺合させることにより、第1被締結物100を段付ボルト1の頭部20と第2被締結物200で挟んで、第1被締結物100と、第2被締結物200とを段付ボルト1で固定できる。なお、自由連結柱部31Bの径D31Bは、大径軸部端面31Aの位置31APにおいて、おねじ部10の谷径DR10以下の径とされていることにより、自由連結柱部31Bが第2被締結物200を押圧することは抑制されている。
【0041】
上記の様に、自由連結柱部31Bは、おねじ部10と一体に連結されており、周溝部32内の空間K32に囲まれている。自由連結柱部31Bは、周溝部32内の空間K32の側からは力が加わることはないため、熱膨張による伸縮や振動等によって自由連結柱部31Bに力(引張力または圧縮力)が加えられたときに、自由連結柱部31Bの有する弾性により、自由連結柱部31Bは伸縮することができる。これにより、おねじ部10と第2被締結物200のねじ孔201とが緩むことを防止できる。ここで、上記の様に、緩みを防止するために設けられた自由連結柱部31Bは、大径軸部30に設けられている。
【0042】
図12を用いて上述した従来の緩み防止するための締結構造では、上述した様に、緩みを防止するために、おねじ部510Bの長さが、金属ハウジング200Bのねじ孔201Bとおねじ部510Bとを螺合するための長さL510と、拡径空間K232Bに囲まれた個所である自由連結柱部532Bを設けるための長さL232Bとを加えた長さ(L510B=L232B+L510)が必要となる。そこで、従来の緩み防止するための締結構造では、緩みを防止するために、金属ハウジング200Bのねじ孔201Bの長さを、金属ハウジング200Bのねじ孔201Bとおねじ部510Bとを螺合するための長さL510から長さL232B伸長させている。
【0043】
これに対して、上記の様に、段付ボルト1では、緩みを防止するために設けられた自由連結柱部31Bは、大径軸部30に設けられており、おねじ部10には設けられていない。このため、段付ボルト1を用いる場合には、緩みを防止するために、第2被締結物200のねじ孔201を伸長させる必要がない。従って、図12を用いて上述した従来の緩み防止するための締結構造を基準にすれば、段付ボルト1は、緩みを防止したうえで、第2被締結物200のねじ孔201の長さをより短くすることができる。すなわち、段付ボルト1は、貫通孔101が形成された第1被締結物100と、ねじ孔201が形成された第2被締結物200とを固定する段付ボルトにおいて、緩みを防止し、かつ、第2被締結物200のねじ孔201の長さをより短くすることができる。
【0044】
また、自由連結柱部31Bの径D31Bは、大径軸部端面31Aの位置31APから所定長さL32にわたって同一径、かつ、おねじ部10の谷径DR10よりも小さい径、とされている。これにより、自由連結柱部31Bの径は、確実におねじ部10の谷径DR10よりも小さい径に設定されている。ここで、自由連結柱部31Bは、径が小さい程より容易に伸縮できる。従って、自由連結柱部31Bの径が谷径DR10よりも確実に小さい径に設定されているため、自由連結柱部31Bはより確実に伸縮できる。これにより、おねじ部10と第2被締結物200のねじ孔201とが緩むことをより確実に防止できる。
【0045】
図3に示すように、大径軸部端面31Aの位置31APにおいて、周溝部32の径方向の幅W32は、周溝部32の外縁32BEから大径軸部30の外縁30Eまでの径方向の幅W31よりも小さい幅とされている。これにより、周溝部32よりも外側にある大径軸部端面31Aの面積を、充分大きく確保できる。ここで、図4に示すように、大径軸部端面31Aは、段付ボルト1が第2被締結物200に締結されたときに、第2被締結物200に密着する部分である。大径軸部端面31Aの面積が充分大きく確保されているため、段付ボルト1が第2被締結物200に締結されたときに、大径軸部30が大径軸部端面31Aから第2被締結物200に陥没することをより確実に抑制できる。
【0046】
また、図4に示すように、周溝部32の大径軸部30の軸方向の深さ(長さ)L32は、大径軸部30の軸方向の長さL30よりも短い。これにより、周溝部32の底面32Cが頭部20の内部に達することはない。仮に、周溝部32の底面32Cが頭部20まで達すれば、頭部20内にも、内部が空間となっている周溝部32が存在することになり、頭部20の強度が低下する。以上より、頭部20内に周溝部32がないため、頭部20の強度をより確実に確保できる。
【0047】
●[他の実施の形態]
本発明の段付ボルトは、上述した実施形態で説明した段付ボルト1の構成、形状、構造等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。段付ボルト1の材質は、アルミニウム合金に限らず、ステンレス鋼などの金属や、樹脂を用いてもよい。
【0048】
上述した実施形態の段付ボルト1では、周溝部32は、図2に示すように、断面が矩形に形成されている。周溝部32の形状は、これに限らず適宜変更できる。周溝部32の断面形状を、例えば、図5に示す様に台形状にしてもよく、図6に示すように後端側の中央部が尖がった形状にしてもよく、図7に示すように三角形状にしてもよく、図8に示すように上に頂点をもち円弧に類似するなだらかに膨らむ曲線形状(例えば、放物線の頂点付近等の形状や楕円弧状といった2次曲線、ペジエ曲線、スプライン曲線)や円弧状にしてもよい。また、図9に示すように、周溝部32の断面形状を、後端側(頭部20側)が膨らみ、先端側(おねじ部10側)がすぼんだ形状にしてもよい。さらに、周溝部32の外側壁面32B(図2参照)の形状を、図10に示すように、曲面32BAを設けてもよく、凹凸32BB、三角状32BCを設けてもよく、さらに、凹凸32BB、三角状32BCの角を丸めた形状にしてもよい。
【0049】
上述した実施形態の段付ボルト1では、ねじ頭部21の形状を六角柱状の部分を有する六角頭状としたが、これに限らずねじ頭部21の形状を、適宜変更できる。また、頭部20は、フランジ部22を備えなくともよく、頭部20の形状を適宜変更できる。例えば、頭部20がフランジ部22を備えない場合は、ねじ頭部21を、外径を大径軸部30の外径よりも大きく形成すればよい。また、例えば、ねじ頭部21の形状を六角穴付きのフランジ状にしてもよく、なべ頭状にしてもよく、皿頭状にしてもよく、トラス頭状にしてもよい。
【0050】
また、おねじ部10をテーパ状に形成してもよい。おねじ部10をテーパ状に形成した場合、おねじ部10の後端部の外径を、おねじ部10の外径D10とし、おねじ部10の後端部の谷径を、おねじ部10の谷径DR10とする。
【符号の説明】
【0051】
1 段付ボルト
10 おねじ部
11 軸部
12 ねじ山部
20 頭部
21 ねじ頭部
22 フランジ部
30 大径軸部
30E 外縁
31 本体部
31A 大径軸部端面
31AP 大径軸部端面の位置
31B 自由連結柱部
32 周溝部
32A 中心軸側壁面
32B 外側壁面
32BE 外縁
32C 底面
K32 空間
100 第1被締結物
100A 樹脂カバー(第1被締結物)
101、101A 貫通孔
111、112、111A、112A 溝
200 第2被締結物
200A、200B 金属ハウジング(第2被締結物)
201、201A、201B ねじ孔
K232B 拡径空間
301、302、301A、302A リング状弾性体
500A、500B 段付ボルト
510、510B おねじ部
520 頭部
530 大径軸部
530A 端面
532B 自由連結柱部
C1、C10、C30 中心軸線
D10、D20、D30 外径
D31B 径
DR10 谷径
L10、L30、L32 長さ
L100、L100A、L200、L200A、L200B 厚み
L232B、L510、L510B 長さ
W31、W32 幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12