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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】移植機
(51)【国際特許分類】
   A01C 11/02 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
A01C11/02 301B
A01C11/02 302D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019216219
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021083410
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】村並 昌実
(72)【発明者】
【氏名】大久保 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】山根 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】東 幸太
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 昭雄
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-148671(JP,A)
【文献】特開2016-116529(JP,A)
【文献】実開昭48-069716(JP,U)
【文献】実開平03-079616(JP,U)
【文献】特開2002-223613(JP,A)
【文献】特開2011-067136(JP,A)
【文献】特開2018-068206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場を走行可能な走行車体(10)と、
前記走行車体(10)の後部に設けられ、圃場に接近して通過するよう周回する周回機構(21)に間隔をあけて取り付けられた複数の苗ホルダ(22)に苗をセットして搬送する苗搬送装置(20)と、
前記走行車体(10)の後部に設けられ、前記苗搬送装置(20)の苗ホルダ(22)に保持された苗を圃場の近くで取り出して圃場に植え付ける植付け装置(40)と
を備え、
前記植付け装置(40)は、下端部に苗取り具(41)が取り付けられた植付けアーム(42)と、前記苗取り具(41)および植付けアーム(42)を作動させる動力を伝動する機構(43)を内装した植付け伝動ケース(44)とを有し、
前記植付けアーム(42)と前記植付け伝動ケース(44)が前記走行車体(10)の後部と前記苗搬送装置(20)の下部との間の空間に配置され、前記植付け伝動ケース(44)が前記走行車体(10)の後部に昇降リンク機構(18)を介して昇降可能に取り付けられており、
前記苗搬送装置(20)は、前記周回機構(21)の周回する経路が前傾姿勢になる状態で搬送部フレーム(25)に支持されて設けられており、前記前傾姿勢で周回する経路のうち上端側の経路部分が前記苗ホルダ(22)に苗をセットして供給する苗供給部(23)として構成され、前記搬送部フレーム(25)が前記植付け伝動ケース(44)の後部に設ける支持フレーム(47)に支持されていることを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記周回機構(21)は、上端側および下端側で左右方向に直線状に移動する経路部分(S1,S2)を有して周回するとともに、所定の間隔で停止と移動を繰り返して間欠駆動することを特徴とする請求項1に記載の移植機。
【請求項3】
前記苗搬送装置(20)は、前記搬送部フレーム(25)が、前記植付け伝動ケース(44)における支持フレーム(47)に前記前傾姿勢の傾斜角度(α)を変更するため前後方向に回動可能に支持されており、
前記植付け装置(40)は、苗の圃場に対する植付け姿勢が、前記苗搬送装置(20)の前記傾斜角度(α)を変更することで変更されることを特徴とする請求項1又は2に記載の移植機。
【請求項4】
前記周回機構(21)は、下端側で直線状に移動する経路部分(S2)を有しているとともに、当該周回部分(S2)を前記植付け装置(40)の苗取出し可能範囲(26)として構成されており、
前記植付け装置(40)は、前記苗取出し可能範囲(26)の範囲内で移動して苗の取出し位置が変更されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の移植機。
【請求項5】
前記周回機構(21)は、周回する方向(H)が切り替え可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の移植機。
【請求項6】
前記植付け伝動ケース(44)に、前記植付けアーム(42)の作動に連動させて上下動する苗植付け後の圃場面を打撃して鎮圧する鎮圧装置(50)が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の移植機。
【請求項7】
前記苗搬送装置(20)の周回機構(21)は、前記搬送部フレーム(25)の左右両
側の部位に回転可能に設けられる左右の回転体(32A,32B)と、前記左右の回転体(32A,32B)に無端状に架け回されるとともに前記複数の苗ホルダ(22)が所定の間隔をあけて配置されるホルダ搬送部材(34)と、前記左右の回転体(32A,32B)又はホルダ搬送部材(34)に回転動力を付与する駆動回転体(36)とを有しており、
前記植付け伝動ケース(44)に、前記駆動回転体(36)に接続して回転動力を伝動する搬送伝動軸(48)が設けられていることを特徴とする請求項乃至6のいずれか1項に記載の移植機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜等の苗を圃場に移植する移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、移植機としては、走行装置と操縦ハンドルを備えた機体(走行車体)に、甘しょ苗等の蔓状の苗を搬送する苗搬送装置と、その苗搬送装置によって搬送された苗を圃場に植え付ける植付け装置とを備えた苗移植機が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この苗移植機は、苗搬送装置について、走行車体の上部側で作業者から供給される苗を収容した苗収容体を左右方向の一方に送る上部横送り部と、上部横送り部から搬送された苗収容体を機体の下方に搬送する下降送り部と、その下降送り部から搬送された苗収容体を機体の上方に搬送して上部横送り部の搬送始端側に戻す上昇送り部とを備えた苗搬送ベルトで構成している。また、この苗移植機は、その苗搬送装置について、その搬送経路を側面視でみると上部横送り部が後側に位置するように傾斜しており、苗搬送装置の後側にいる作業者の近い位置に上部横送り部の苗収容体が配置されている。これにより、作業者が上部横送り部の苗収容体への苗の供給作業を容易に行えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-158425号公報(段落0026、0057、図1図18など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の苗移植機においては、作業者が苗搬送装置の前側にいる状態で苗を苗収容体にセットして供給しようとした場合、その作業が行いにくいという問題があった。
【0006】
本発明の課題は、作業者が苗搬送装置の前側にいる状態でも苗を苗搬送装置にセットして供給する作業を容易に行うことができる移植機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は、以下の手段により解決される。
すなわち、請求項1に記載の発明は、圃場を走行可能な走行車体(10)と、前記走行車体(10)の後部に設けられ、圃場に接近して通過するよう周回する周回機構(21)に間隔をあけて取り付けられた複数の苗ホルダ(22)に苗をセットして搬送する苗搬送装置(20)と、前記走行車体(10)の後部に設けられ、前記苗搬送装置(20)の苗ホルダ(22)に保持された苗を圃場の近くで取り出して圃場に植え付ける植付け装置(40)とを備え、
前記植付け装置(40)は、下端部に苗取り具(41)が取り付けられた植付けアーム(42)と、前記苗取り具(41)および植付けアーム(42)を作動させる動力を伝動する機構(43)を内装した植付け伝動ケース(44)とを有し、
前記植付けアーム(42)と前記植付け伝動ケース(44)が前記走行車体(10)の後部と前記苗搬送装置(20)の下部との間の空間に配置され、前記植付け伝動ケース(44)が前記走行車体(10)の後部に昇降リンク機構(18)を介して昇降可能に取り付けられており、
前記苗搬送装置(20)は、前記周回機構(21)の周回する経路が前傾姿勢になる状態で搬送部フレーム(25)に支持されて設けられており、前記前傾姿勢で周回する経路のうち上端側の経路部分が前記苗ホルダ(22)に苗をセットして供給する苗供給部(23)として構成され、前記搬送部フレーム(25)が前記植付け伝動ケース(44)の後部に設ける支持フレーム(47)に支持されていることを特徴とする移植機である。
【0009】
請求項に記載の発明は、上記請求項1に記載の移植機において、前記周回機構(21)は、上端側および下端側で左右方向に直線状に移動する経路部分(S1,S2)を有して周回するとともに、所定の間隔で停止と移動を繰り返して間欠駆動することを特徴とする移植機である。
【0010】
請求項に記載の発明は、上記請求項又はに記載の移植機において、前記苗搬送装置(20)は、前記搬送部フレーム(25)が、前記植付け伝動ケース(44)における支持フレーム(47)に前記前傾姿勢の傾斜角度(α)を変更するため前後方向に回動可能に支持されており、前記植付け装置(40)は、苗の圃場に対する植付け姿勢が、前記苗搬送装置(20)の前記傾斜角度(α)を変更することで変更されることを特徴とする移植機である。
【0011】
請求項に記載の発明は、上記請求項1乃至のいずれか1項に記載の移植機において、前記周回機構(21)は、下端側で直線状に移動する経路部分(S2)を有しているとともに、当該周回部分(S2)を前記植付け装置(40)の苗取出し可能範囲(26)として構成されており、前記植付け装置(40)は、前記苗取出し可能範囲(26)の範囲内で移動して苗の取出し位置が変更されることを特徴とする移植機である。
【0012】
請求項に記載の発明は、上記請求項1乃至のいずれか1項に記載の移植機において、前記周回機構(21)は、周回する方向(H)が切り替え可能に構成されていることを特徴とする移植機である。
【0013】
請求項に記載の発明は、上記請求項乃至のいずれか1項に記載の移植機において、前記植付け伝動ケース(44)に、前記植付けアーム(42)の作動に連動させて上下動する苗植付け後の圃場面を打撃して鎮圧する鎮圧装置(50)が設けられていることを特徴とする移植機である。
【0014】
請求項に記載の発明は、上記請求項乃至のいずれか1項に記載の移植機において、前記苗搬送装置(20)の周回機構(21)は、前記搬送部フレーム(25)の左右両側の部位に回転可能に設けられる左右の回転体(32A,32B)と、前記左右の回転体(32A,32B)に無端状に架け回されるとともに前記複数の苗ホルダ(22)が所定の間隔をあけて配置されるホルダ搬送部材(34)と、前記左右の回転体(32A,32B)又はホルダ搬送部材(34)に回転動力を付与する駆動回転体(36)とを有しており、前記植付け伝動ケース(44)に、前記駆動回転体(36)に接続して回転動力を伝動する搬送伝動軸(48)が設けられていることを特徴とする移植機である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、走行車体の後部(10b)と苗搬送装置(20)の上端部との前後方向における間隔を小さくすることが可能になり、この結果、作業者が苗搬送装置(20)の前側にいる状態でも苗を苗搬送装置(20)にセットして供給する作業を容易に行うことができる。
また、請求項1に記載の発明によれば、植付け装置(40)の植付けアーム(42)および植付け伝動ケース(44)を移植機の大型化を招くことなく有効に配置することができる。また、植付け装置(40)による苗の植付け深さを調節する場合には、走行車体(10)の車高を調節する必要がなく、植付け装置(40)の植付け伝動ケース(44)を昇降動させるだけで苗搬送装置(20)も一括で昇降動させて容易に調節することができる。
【0017】
請求項に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加えて、周回機構(21)の上端側で左右方向に直線状に移動する部分を苗供給部として構成することが可能になり、間欠的な周回移動と相まって、苗の供給作業を効率よく正確に行うことができる。また、その下端側で左右方向に直線状に移動する部分の一部を苗取出し位置として構成することが可能になり、間欠的な周回移動と相まって、苗の取り出し作業ひいては一連の作業になる苗の植付け作業も効率よく正確に行うことができる。
【0018】
請求項に記載の発明によれば、請求項又はに記載の発明の効果に加えて、苗搬送装置(20)の傾斜角度(α)を変更すれば植付け装置による苗の圃場に対する植付け姿勢を変更することが可能になる。これにより、例えば、苗搬送装置(20)の傾斜角度(α)を小さい角度に変更すれば、苗を圃場面に対して垂直な状態に近づけた状態にして植え付けることが可能になり、この結果、斜め植えを行うことができる。反対に、苗搬送装置(20)の傾斜角度(α)を大きい角度に変更すれば、苗を圃場面に対して水平な状態に近づけた状態にして植え付けることが可能になり、この結果、船底植えを行うことができる。したがって、この発明では、1台の移植機により、複数の異なる植付け姿勢で苗の植付けを行うことが可能になる。
【0019】
請求項に記載の発明によれば、請求項1乃至のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、植付け装置(40)による苗の取出し位置を周回機構(21)の下端側で直線状に左右方向に移動する経路部分(S2)からなる苗取出し可能範囲(26)の範囲内での移動により容易に変更することでき、これにより植付けに適した位置に苗を植え付けることができる。
【0020】
請求項に記載の発明によれば、請求項1乃至のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、周回機構(21)の回転方向(H)を苗の供給作業を行う作業者の利き手に合わせて変更することが可能になる。これにより、作業者の作業効率を向上させることや、作業者の作業ミス(苗のセットミス)の発生を抑制することができる。
【0021】
請求項に記載の発明によれば、請求項乃至のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、植付け伝動ケース(44)の昇降動に連動させて鎮圧具(50)も一括して昇降動させることができる。また鎮圧具(50)を上下動させる動力を植付け伝動ケース(44)から伝動させることができるので、その動力を植付け伝動ケース(44)以外の別の経路から伝動させる場合に比べると、動力の伝動経路を簡略化させることができる。
【0022】
請求項に記載の発明によれば、請求項乃至のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、苗搬送装置(20)の周回機構(21)を比較的簡易な構造にすることができる。また、その周回機構(21)における駆動回転体(36)が植付け伝動ケース(44)
に設けられた駆動伝動軸(48)を介して回動動力が伝動されるので、その動力を植付け伝動ケース(44)以外の別の経路から伝動させる場合に比べると、動力の伝動経路を簡略化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】苗移植機の側面概要図である。
図2】苗移植機の後方部分を拡大して示す側面概要図である。
図3】苗移植機における苗搬送装置を後方斜め上から見たときの概要図である。
図4】苗移植機における植付け装置の一部を後方から見たときの概念図である。
図5】苗移植機の後方部分の平面概念図である。
図6】(A)は苗移植機の搬送部フレームの傾斜角度を小さい角度に変更した場合の状態を示す側面概要図、(B)は(A)の傾斜角度での苗植付け作業の一状態と斜め植えされた苗の一例を示す概念図である。
図7】(A)は苗移植機の搬送部フレームの傾斜角度を大きい角度に変更した場合の状態を示す側面概要図、(B)は(A)の傾斜角度での苗植付け作業の一状態と船底植えされた苗の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1には、実施の形態に係る移植機の一例である乗用型の苗移植機1が示されている。
本実施形態に係る苗移植機1は、特に甘しょ(さつまいも)苗等の蔓状の苗を圃場100に植え付けるのに好適な移植機である。以下の説明では他の説明をしない限り、前後とは苗移植機1が前進するときの前側および後側をいい、左右とはその前進するときの右側および左側をいうものとする。
【0026】
苗移植機1は、圃場100を走行することが可能な走行車体10と、植え付けの対象となる苗9を供給して圃場100に近づけるよう搬送する苗搬送装置20と、苗搬送装置20で搬送される苗9を圃場100に植え付ける植付け装置40等を備えている。
【0027】
まず、走行車体10は、図1に示されるように、車体フレーム11に、左右の前輪12および後輪13や、その前輪12と後輪13の少なくとも一方に回転動力を伝動するエンジン14、駆動伝動装置15等からなる駆動装置や、操縦席16等が設けられている。また走行車体10は、車体フレーム11のうち外部から覆う必要がある部分にカバー類17が設けられている。
【0028】
このうち前輪12および後輪13は、例えば圃場100等の走行する地面から車体フレーム11までの距離である車高を比較的高くするような観点から、車輪の径、車軸の取付け方等の条件が設定されている。操縦席16は、走行車体10を操縦する運転者が座る座席16aや、前輪12の操舵を行うステアリングハンドル16bや、図示しないメータパネル、操作レバーおよび操作ボタン等が設けられて構成されている。
【0029】
このような走行車体10は、例えば畝102を形成した圃場100でも、左右の前輪12と左右の後輪13によって畝102を跨いだ状態で走行することができる。図1等における符号101は、圃場100のうち前輪12や後輪13が転動して走行する走行面を示している。
【0030】
次に、苗搬送装置20は、圃場100に接近して通過するよう周回する周回機構21に取り付けられた複数の苗ホルダ22に苗9をセットして供給し、その苗9を植付け装置40の所定の位置(苗取出し位置)まで搬送するよう構成された装置である。
【0031】
苗搬送装置20は、苗ホルダ22が取り付けられた周回機構21で主に構成されているが、その周回機構21や苗ホルダ22の詳細については後述する。
この苗搬送装置20は、走行車体10の後部(後方側の端部)10bに、植付け装置40の一部を介して設けられている。
【0032】
また、苗搬送装置20は、図2等に示されるように、周回機構21の周回する経路(周回経路)が前傾姿勢になる状態で設けられている。前傾姿勢とは、上部が下部よりも走行車体10の前進する側に傾いた状態の姿勢である。また、この前傾姿勢は、換言すれば、その周回経路に囲まれる仮想の平面(図2中の一点鎖線K)が圃場100のほぼ垂直な面に対して前進方向の前側に倒れ込むよう傾いた状態の姿勢である。本実施形態における周回機構21は、その全体が前傾姿勢になる状態で設置されている。
【0033】
さらに、苗搬送装置20は、周回機構21において前傾姿勢で周回する経路のうち上端側の経路部分が苗ホルダ22に苗をセットして供給する作業を行う苗供給部23として構成され、その下端側の経路部分が植付け装置40による苗9の取り出しが行われる苗取出し位置24として構成されている。
【0034】
苗移植機1では、苗9を苗ホルダ22にセットして供給する作業を運転者以外の作業者が行うよう構成されている。このため、走行車体10の後部10bの上部には、操縦席16の座席16aとは別に作業席28が設けられている。
【0035】
作業席28は、例えば操縦席16の座席16aの左右側方の一方になる位置(図5)において、車体フレーム11から延設された支柱29に取り付けられた状態で設置されている。また、作業席28の下方には作業者の足を乗せる足場30が設けられている。これにより、作業者は、苗9の供給作業を作業席28に座って安定して行うことができる。なお、作業席28は、その横や前(走行車体10の後方)の部分には、安全性や良好な作業性を確保するため図示しない柵や、セット前の苗9を置く棚等が設けられている。
【0036】
次に、植付け装置40は、苗搬送装置20における苗ホルダ22に保持されて搬送される苗9を圃場100(の畝102)の近くで取り出して圃場100(の畝102)に植え付けるよう構成された装置である。
【0037】
この植付け装置40は、図2等に示されるように、苗取り具41が取り付けられた植付けアーム42と、その苗取り具41および植付けアーム42を作動させる動力を伝動する伝動機構43を内装した植付け伝動ケース44とを有している。
【0038】
このうち苗取り具41は、苗ホルダ22に保持されて突出している苗9の一端部(蔓や茎の根部など)9aを左右両側から挟んで掴むよう作動する左右一対の挟持爪41a,41b(図3図4)を有した部材であり、植付けアーム42の下端部に取り付けられている。
植付けアーム42は、苗取り具41を苗9の取り出し動作と植え付け動作のために予め定めた所定の動作軌跡(図2等に二点鎖線Tで例示する軌跡)に沿って移動させることと、苗取り具41の挟持およびその解除の動作を所要の時期に行うことを実現するものである。
【0039】
伝動機構43は、走行車体10の後部10bに設けられるPTO軸19と連結されて得られる回動動力を苗取り具41や植付けアーム42を作動させる動力に変換して伝動するよう構成されている。
伝動機構43は、箱形状からなる植付け伝動ケース44の内部に収容されている。
【0040】
伝動機構43は、PTO軸19から伝動されるエンジン14の動力により動く図示しないカム機構等の作動部品を作動させることで、苗取り具41の挟持、その解除等の動作を実行するようになっている。
【0041】
また、伝動機構43は、植付け伝動ケース44の上部から突出して揺動する揺動アーム45を備えており、その揺動アーム45の上端部に植付けアーム42の上端部を回動可能に接続して植付けアーム42を動かすようになっている。揺動アーム45は、植付け伝動ケース44の内部において左右に延びる状態で配置された植付け作動軸46を中心にして前後方向D1,D2に揺動する。
植付けアーム42は、揺動アーム45の揺動による移動時に苗取り具41が配置される下端部が所定の動作軌跡に沿って移動するよう、例えば、前記植付け作動軸46と揺動アーム45の基部に一対の不等円ギア又は偏心ギアをそれぞれ設け、その一対の不等円ギア又は偏心ギアを噛み合せて揺動アーム45が揺動する際に緩急を付ける構成や、図示しないガイドによる案内作用を受けながら動くようにする構成を採用している。
【0042】
また、植付け装置40は、図1図2に示されるように、植付けアーム42と植付け伝動ケース44が、走行車体10の後部10bと苗搬送装置20の下部との間に存在する空間に配置されている。
【0043】
このときの空間は、苗搬送装置20の周回機構21が前傾姿勢になる状態で設置されているので、その周回機構21における上端部よりもその下端部の方が走行車体10の後部10bから相対的に離れた状態になって比較的広い空きスペースとして形成される。
これにより、植付け装置40は、植付けアーム42や植付け伝動ケース44を、移植機1の大型化を招くことなく、空きスペースを有効に利用して配置することができる。
【0044】
さらに、植付け装置40は、植付け伝動ケース44が、走行車体10の後部10bに昇降リンク機構18を介して昇降可能に取り付けられている。
【0045】
昇降リンク機構18は、植付け伝動ケース44を上下方向C1,C2に所望の距離だけ昇降動させることができるものであり、苗9の植付け作業を開始および終了させるとき、苗9の植付け深さを調節するとき等の必要な時期に使用される。
この昇降リンク機構18は、走行車体10に設置される図示しない昇降駆動装置からの動力を受けて動くリンク機構で構成されており、また操縦席16等の所定の場所に設けられる操作レバー又はスイッチを運転者又は作業者が操作することにより作動させることができるようになっている。
【0046】
苗搬送装置20は、図1等に示されるように、周回機構21を支持する搬送部フレーム25を有している。また、搬送部フレーム25は、植付け伝動ケース44の後部に設ける支持フレーム47に支持されている。
これにより、搬送部フレーム25は、植付け伝動ケース44が昇降リンク機構18で上下方向C1,C2に降動すると、それに連動して上下方向C1,C2に昇降動するようになっている。
【0047】
苗搬送装置20における周回機構21は、図3等に示されるように、搬送部フレーム25の左右両側の部位に回転可能に設けられる左右の回転体32A,32Bと、左右の回転体32A,32Bに無端状に架け回されるとともに複数の苗ホルダ22が所定の間隔をあけて配置されるホルダ搬送部材34と、左右の回転体32A,32Bに回転動力を付与する駆動回転体36とを有している。図3では、周回機構21を苗移植機1の後方斜め上から見たときの状態で概念的に示している。
【0048】
このうち搬送部フレーム25は、全体が左右の方向に長い形状の外観を有するフレームとして形成されており、板状の部材、角棒状の部材、カバー部材等の各種の部材を組み合わせて構成されている。
左右の回転体32A,32Bは、無端状の形態からなるホルダ搬送部材34を所望の周回する方向(H)に回転させるよう支持するものである。
【0049】
本実施形態における回転体32A,32Bは、所要の直径からなる左右一対の計2個の回転体が適用されている。これにより、回転体32A,32Bに架け回されたホルダ搬送部材34は、その周回する経路が長円形(長方形の短辺両側に半円を加えた形状)を描く形状になり、その周回する経路の上端側および下端側で左右方向に直線状に移動する経路部分S1,S2を有して周回するようになっている。
【0050】
回転体32A,32Bの直径については、例えば、ホルダ搬送部材34に取り付けられる苗ホルダ22を、上端側の経路部分で構成する苗供給部23とその下端側の経路部分で構成する苗出し位置24との双方を通過させることができる程度の大きさの直径に設定される。
また、本実施形態における回転体32A,32Bとしては、ホルダ搬送部材34が後述するようにチェーン形式で構成されているので、チェーンに挿し込まれる所定数の突起(ギア歯)323が形成されたスプロケットが適用されている。
【0051】
ホルダ搬送部材34は、所定の間隔Mで配置される複数の苗ホルダ22をチェーンで連結してなる無端状の部材である。苗ホルダ22の数、配置の間隔M等は、植付け装置40による苗取出し位置24の位置、その数等の条件に応じて適宜選定される。
【0052】
苗ホルダ22は、苗9の植え付ける側の一端部9aの一部を保持するために両端が開放された凹溝を設けた形状の部材で構成されている。
また、苗ホルダ22は、例えば、その凹溝における左右の側壁にスポンジ、植毛部材等の弾性部材を凹溝の中央で向き合う状態で設けている。
これにより、苗ホルダ22は、その向き合う弾性部材の隙間に苗9の一端部9aを押し込んで挟み入れ、そのときに弾性変形した弾性部材で発生する復元力を利用して苗9の一端部9aを引き抜き可能に柔軟に挟持して保持する構成になっている。
【0053】
さらに、苗ホルダ22は、その凹溝が、ホルダ搬送部材34の周回する方向と直交した姿勢で、かつ走行車体10の後部10bとは反対側の方向(後方)に向く姿勢になる状態でホルダ搬送部材34に取り付けられている。
これにより、苗ホルダ22は、図3等に示されるように、上端側および下端側で左右方向に直線状に移動する経路部分S1,S2では、凹溝が上下方向に向いた姿勢のままで移動し続ける。また苗ホルダ22は、経路部分S1,S2をつなぐ左右両側の半円弧状に移動する経路部分では、徐々に傾く姿勢になり始めた後に中間地点で完全に横倒しの姿勢になり、しかる後に再度徐々に反対側に傾く姿勢になって移動する。
【0054】
本実施形態における駆動回転体36は、図3に示されるように、回転体32A,32Bを回転可能に支持する左右の回転軸31A,31Bに同軸状に固定させて設けた左右の従動回転体33A,33Bに無端状に架け回される駆動伝動部材35に接触して回転動力を付与することで、回転体32A,32Bを回転駆動させるよう構成されている。
これにより、周回機構21では、駆動伝動部材35からの回転動力が駆動伝動部材35および従動回転体33A,33Bを介して回転体32A,32Bに伝動され、この結果、ホルダ搬送部材34が所望の方向Hに周回する。
【0055】
ここで、回転体32A,32Bと従動回転体33A,33Bは、その両者が別体のものである場合は、搬送部フレーム25に回転可能に設けた左右の回転軸31A,31Bに対して互いに固定した状態で設けられる。なお、回転体32A,32Bと従動回転体33A,33Bは、その両者が2段ギアのように一体物として構成される場合は、搬送部フレーム25に固定して設けた左右の回転軸31A,31Bに対して回転可能に設ければよい。
また、従動回転体33A,33Bは、回転体32A,32Bよりも走行車体10の後部10b寄りに配置されるが、これに限定されない。
【0056】
また、駆動回転体36は、駆動伝動部材35がチェーン形式の無端状の部材として構成されているので、図示しない突起(ギア歯)が形成されたスプロケットを適用している。また、本実施形態における駆動回転体36は、例えば、図2に示されるように、左右の従動回転体33A,33Bの中間位置において駆動伝動部材35の下方側を通過する部分を下方から押し上げるように接触してチェーン形式の駆動伝動部材35と噛み合う状態に配置される。
【0057】
さらに、駆動回転体36は、図3に示されるように回転軸37を中心にして回転するものであるが、図2に示されるように植付け伝動ケース44の後部に設けられた搬送伝動軸48とユニバーサルジョイントで(回転軸37に)接続されることで、回転動力が伝動される。また、上記搬送伝動軸48は、植付け伝動ケース44の内部にある伝動機構43における図示しない出力軸とユニバーサルジョイントで連結されている。本実施形態における搬送伝動軸48は、支持フレーム47の内部に収容された状態になるよう設けられている。
【0058】
周回機構21は、ホルダ搬送部材34が所定の間隔で停止と移動を繰り返して間欠駆動するよう構成されている。
この間欠駆動は、例えば、駆動回転体36又は搬送伝動軸48に動力の伝動の接続および切断が切り替えられる図示しない間欠クラッチを設けることで行うことができる。また、この間欠駆動は、例えば、ホルダ搬送部材34における苗ホルダ22が周回の移動により植付け装置40による苗取出し位置24に達した時点でその移動を停止し、その苗取出し位置24における苗9の取出しが完了した時点でその移動が再開されるという間隔で繰り返して行われる。
【0059】
苗搬送装置20は、図2に示されるように、周回機構21の搬送部フレーム25が、植付け伝動ケース44における支持フレーム47に前傾姿勢の傾斜角度α(図6図7)を変更するため回動軸27を中心にして前後方向D1,D2に回動可能に支持されている。また、植付け装置40は、図6図7に例示されるように、苗搬送装置20の傾斜角度αを変更することで、苗9の圃場100に対する植付け姿勢を変更できるよう構成されている。
搬送部フレーム25は、例えば手動で前後方向D1,D2に回動させることが可能になっているとともに、所望の位置で図示しない固定手段によって位置が固定されるようになっている。なお搬送部フレーム25の回動は、上記手動で行う場合でもクランクハンドルを回転させて搬送部フレーム25を傾斜させる傾斜調節用のロッドを伸縮させる機構を付加して行うよう構成してもよく、また、回動用の駆動装置により自動で行うように構成しても勿論よい。
【0060】
また、本実施形態における植付け装置40は、2条植えとして構成されている。
このため、植付け装置40は、図4に示されるように、1つの植付け伝動ケース44に、左右に間隔をあけて存在する2組の苗取り具41A,41B、植付けアーム42A,42Bおよび揺動アーム45A,45Bが設けられている。また、植付け伝動ケース44には、1つの共用型の伝動機構43が配置されている。なお植付け伝動ケース44については、左右に独立して配置する1条植え用の植付け伝動ケース44を2組適用するよう構成してもよい。
【0061】
また、苗搬送装置20は、図3に示されるように、周回機構21の下端側で左右の方向に直線状に移動する経路部分S2を植付け装置40の苗取出し可能範囲26として構成しており、また植付け装置40は、図4に示されるように、苗取出し可能範囲26の範囲内で苗取り具41、植付けアーム42および揺動アーム45を一体で左右の方向に所要の量だけ移動して苗取出し位置24を変更することができるよう構成されている。
【0062】
本実施形態における植付け装置40は、図4に示されるように、揺動アーム45を植付け作動軸46に対して移動可能に装着する構造を採用し、その揺動アーム45を植付け作動軸46に対してスライドさせることで苗取り具41および植付けアーム42も一体で左右の方向に移動可能にしている。また、揺動アーム45は、植付け伝動ケース44の上部に対してボルト締め等の固定解除可能な固定手段で固定される位置決めガイド部材49を固定手段の固定を解除してから移動可能になっている。植付け作動軸46については、周回機構21の上記直線状に移動する経路部分S2と平行した位置関係になるよう植付け伝動ケース44の内部に配置される。
【0063】
苗移植機1では、苗取出し可能範囲26として上記経路部分S2を採用しているので、苗取り具41、植付けアーム42および揺動アーム45を左右の方向に移動させて苗取出し位置24の調整を行った場合でも、苗取出し位置24の高さが相対的にほぼ変化しないので、苗9の植付け深さもほぼ一定に保たれるようになり、植付け精度を確保することができる。
【0064】
また、植付け装置40は、図1図2等に示されるように、植付け伝動ケース44に、苗植付け後の圃場100(畝102)面を打撃して鎮圧する鎮圧装置50が設けられている。
鎮圧装置50は、円柱形状からなる鎮圧輪等の鎮圧具51が、植付け伝動ケース44の下部に設けられた鎮圧駆動装置52の可動軸と接続されて延びる支持アーム53の端部に回転可能に取り付けられている。支持アーム53については、便宜上、1本のストレートな形状のアームを例示しているが、この構成に何ら限定されない。
【0065】
この鎮圧装置50は、鎮圧駆動装置52が植付けアーム42の作動に連動させて可動軸を中心にして支持アーム53を矢印P1,P2で示す方向に上下動させる。これにより、支持アーム53の端部にある鎮圧具51が、植付け装置40の苗取出し位置24よりも後方の位置で苗植付け後の圃場面を打撃して苗9の一端部9aを覆う土をその衝撃で軽く圧して固めた後、上昇して次の苗の植付けが完了するまで待機する。
【0066】
鎮圧装置50は、植付け伝動ケース44において鎮圧駆動装置52が揺動アーム45、植付けアーム42等と同様に左右の方向に一体で移動するように構成するとよい。
これにより、植付け装置40における苗取出し位置24が左右の方向への移動により調整された場合でも、鎮圧装置50も一体で移動するようになり、調整された苗取出し位置24とほぼ一致する苗植付け位置の圃場面を確実に鎮圧することができる。
【0067】
次に、苗移植機1の動作について説明する。
【0068】
はじめに、苗移植機1は、乗用型の移植機であるため、圃場100で苗の植付け作業を行う場合、操縦席16の座席16aに座る運転者が圃場100内での走行操作を行い、作業席28に座る作業者が苗搬送装置20における苗供給部23で苗9の供給作業を行うように使用される。
【0069】
この場合、苗移植機1は、図1図2に示されるように、苗搬送装置20における周回機構21が前傾姿勢になる状態で設けられているので、走行車体の後部10b(の作業席28)と苗搬送装置20における周回機構21の上端部との前後方向における間隔が比較的小さく接近した状態になる。このため、苗移植機1では、作業者が作業席28に座って苗搬送装置20の前側にいる状態でも、苗9を苗搬送装置20における苗ホルダ22にセットして供給する作業を容易に行うことができる。
【0070】
苗移植機1においては、畝102の高さや苗9の植付け深さに適合させるように、昇降リンク機構18を作動させて植付け装置40における植付け伝動ケース44を走行車体10に対して所要の量だけ上昇又は下降させる。これにより、植付け作業を行うことが可能な状態になる。
【0071】
続いて、苗移植機1は、2条の植付けが可能であることから、苗の植付けをする2列の畝102を左右の前輪12および後輪13で跨ぐ状態で走行を開始するとともに、苗搬送装置20と植付け装置40を始動させる。これにより、苗移植機1による植付け作業が開始される。
【0072】
この際、苗搬送装置20においては、植付け伝動ケース44の伝動機構43から搬送伝動軸48を通して周回機構21における駆動回転体36に矢印F1で示す方向に回転する回転動力が伝動される。
これにより、周回機構21では、駆動回転体36の回転駆動により駆動伝動部材35が矢印G1で示す方向に回転させられるので、駆動伝動部材35が架け回された左右の従動回転体33A,33Bが同じ方向に回転して回転軸31A,31Bを介して左右の回転体32A,32Bも同じ方向に回転し、最後に回転体32A,32Bに架け回されたホルダ搬送部材34が矢印H1で示す周回方向に移動するように回転する。この結果、周回機構21では、ホルダ搬送部材34に間隔Mをあけて取り付けられた複数の苗ホルダ22が矢印H1で示す方向に周回して移動する。
【0073】
また、この苗搬送装置20においては、周回機構21の駆動回転体36が所定の間隔で間欠駆動するので、ホルダ搬送部材34が所定の間隔で停止および移動を繰り返して間欠的に移動するよう回転する。これにより、複数の苗ホルダ22もホルダ搬送部材34と同様に間欠的に移動する。
【0074】
このため、苗搬送装置20の苗供給部23では、複数の苗ホルダ22が、周回機構21の上端部で左右の方向に直線状に移動する経路部分S1に沿って矢印H1の方向に間欠的に移動することになる。
また、この苗供給部23では、作業席28に座る作業者が、図2図3に二点鎖線で例示されるように苗9をその根部等の一端部9aを上方に向けてかつ一部突出させた状態で苗ホルダ22にセットして供給する作業を行う。この際、苗ホルダ22にセットされた苗9は、図2図3に二点鎖線で例示されるように、その葉部や茎等がある他端部9bが苗ホルダ22の下端部から下方に垂れ下がった状態に保たれる。
【0075】
ちなみに、苗搬送装置20における搬送部フレーム25には、周回機構21の周回経路の内部を外から覆い隠す図示しない保護カバー板などが取り付けられている。これにより、周回経路の内側に存在する苗9の他端部9bが、搬送過程で周回機構21との不要な接触や巻き込み等により損傷しないよう保護されている。
【0076】
続いて、苗搬送装置20では、苗ホルダ22にセットされた苗9がホルダ搬送部材34の矢印H1の方向への間欠的な移動に伴って搬送され、半円弧状の経路部分を通過した後に周回機構21の下端部で左右の方向に直線状に移動する経路部分S2に進入するよう搬送される。
この苗ホルダ22にセットされて搬送される苗9は、図3に示されるように、周回機構21の下端側の経路部分S2に進入する頃には、その根部等の一端部9aを苗ホルダ22の下端部から下方に向いてかつ一部突出させた状態に自動的に変更され、苗供給部23のセット時とは上下が逆転した状態になる。
また、この苗搬送装置20では、苗9がセットされた苗ホルダ22が経路部分S2に進入して植付け装置40の左側の苗取出し位置24Aや右側の苗取出し位置24Bに到達する時点で停止する。
【0077】
そして、植付け装置40では、ホルダ搬送部材34および苗ホルダ22が停止するタイミングに合わせて、伝動機構43が駆動して揺動アーム45や植付けアーム42および苗取り具41を作動させる。これにより、以下のごとき苗9の取外し動作および植付け動作が行われる。
【0078】
すなわち、植付け装置40では、苗取り具41が、植付けアーム42の作動により、図2の二点鎖線Tで示すような動作軌跡に沿って移動させられる。
この際、苗取り具41は、まず、挟持爪41a,41b(図3図4)が停止している苗ホルダ22の下方の位置を通過するよう移動して、その苗ホルダ22にセットされた苗9の下方に突出した状態にある一端部9aを左右から挟持して保持し、しかる後、苗ホルダ22の凹溝から引き抜くよう移動させる。これにより、苗ホルダ22にセットされて搬送された苗9が、苗ホルダ22の凹溝から引き抜かれるようにして取り外される。
引き続いて、苗取り具41は、挟持爪41a,41bが苗9を挟んだ状態のまままで畝102に向けて移動して地中に一時的に突き刺されるように移動する。これにより、挟持爪41a,41bに挟持されていた苗9の一端部9aが、畝102の地中に挿し込まれ、しかる後、挟持爪41a,41bの挟持が解除されることで畝102に植え付けられる。苗9の植付けが終了した後の苗取り具41は、畝102の地中から抜け出してホームポジションに戻るよう移動する。
【0079】
またこの際、植付け装置40における植付け伝動ケース44の下部に設けられた鎮圧装置50が植付けアーム42の作動と連動して上下動する。
これにより、鎮圧装置50の鎮圧具51が苗9の植え付けられた畝102の表面部分に下降して衝突し、その表面部分の土壌の鎮圧が行われる。この鎮圧が行われる結果、植え付けられた苗9は、外気の影響や鳥獣の害を受けることから守られるようになり、良好に生育するための環境が整えられる。
【0080】
特にこの苗移植機1では、植付け装置40における苗取り具41の挟持爪41a,41bが苗9を苗ホルダ22から取り外す際、苗搬送装置20の搬送が停止するので、苗9を確実に取り出すことができるとともにその後の植え付け動作にスムーズに移行することができ、この結果、植付け不良が発生することがほぼ防止される。また、このときの苗9の取外し動作では、苗9が搬送方向(周回の方向H1)に引っ張られながら苗ホルダ22から抜き抜かれることがないので、苗9が取外し作業のときに千切れたり、傷つくおそれがない。
【0081】
苗搬送装置20は、植付け装置40による苗9の苗ホルダ22からの取り出し作業が完了とすると、周回機構21の周回移動が再開される。また、周回機構21の周回移動は、苗9がセットされた後続の苗ホルダ22が植付け装置40における左右の苗取出し位置24A,24Bに到達する時点で再び停止する。
一方、苗9が取り外されて空になった苗ホルダ22は、間欠移動するホルダ搬送部材34により苗供給部23に戻されるよう間欠的に順次搬送され、苗供給部23において作業者により新たな苗9がセットされる。
【0082】
これ以降は、上記した動作が同様に繰り返すように行われて苗9の植付け作業が続行される。なお、苗移植機1による植付け作業は、畝102の終端部に達した時点で一旦終了する。また、その植付け作業は、次の畝102があれば、その畝102のある場所に移動して再開される。
【0083】
そして、この苗移植機1においては、図6(A)に例示されるように、苗搬送装置20における搬送部フレーム25を矢印E2(図2)で示す方向(起こす方向)に回動させて搬送部フレーム25の前傾姿勢の傾斜角度αを比較的小さい傾斜角度α1にさせることができる。
【0084】
この場合は、図6(B)に例示されるように、周回機構21における苗ホルダ22が圃場の畝102に対して少し傾いた状態で植付け装置40による苗取出し位置24に搬送されるようになる。これにより、その苗ホルダ22に保持されている苗9は、植付け装置40の苗取り具41により苗ホルダ22に保持された姿勢のままで挟持されて取り出された後、畝102に少し傾いた程度の軌跡を描くよう移動して植え付けられる。
このときの苗9の植付け姿勢は、図6(B)に例示されるように、畝102に対して少し傾いた程度の植付け姿勢になる。また、このときの植付けアーム42による苗取り具41の動作軌跡Tについても、図6(A)に例示されるように傾斜角度α1に適合した動作軌跡T1が適用される。
したがって、このときの苗9は、圃場100に少し傾いた姿勢で植え付けられる、いわゆる斜め植えにされた苗9Nになる。
【0085】
また、この苗移植機1においては、図7(A)に例示されるように、苗搬送装置20における搬送部フレーム25を矢印E1(図2)で示す方向(前に倒す方向)に回動させて搬送部フレーム25の前傾姿勢の傾斜角度αを比較的大きな傾斜角度α2(>α1)にさせることができる。
【0086】
この場合は、図7(B)に例示されるように、周回機構21における苗ホルダ22が圃場の畝102に対して比較的大きく傾いた状態で植付け装置40による苗取出し位置24に搬送されるようになる。これにより、その苗ホルダ22に保持されている苗9は、植付け装置40の苗取り具41により苗ホルダ22に保持された姿勢のままで挟持されて取り出された後、畝102に対して多めに傾いた程度で移動して植え付けられる。
このときの苗9の植付け姿勢は、図7(B)に例示されるように、畝102に対して横倒しに近い状態になるよう大きく傾いた植付け姿勢になる。また、このときの植付けアーム42による苗取り具41の動作軌跡Tについても、図7(A)に例示されるように、傾斜角度α2に適合した動作軌跡T2が適用される。
したがって、このときの苗9は、圃場100に対して大きく傾いた姿勢で植え付けられる、いわゆる船底植えにされた苗9Lなる。
【0087】
このように本実施形態に係る苗移植機1では、1台の移植機により、複数の異なる植付け姿勢で苗の植付けを容易に行うことが可能になる。これにより、例えば、1台の移植機において苗の植付け姿勢を変更するため苗搬送装置20や植付け装置40における部品の交換や組み換えの煩雑な作業を行う必要がなくなる。また、斜め植え専用の苗移植機や船底植え専用の苗移植機を別々に用意しなければならないという必要もなくなる。
【0088】
さらに、この苗移植機1においては、図4に例示されるように、植付け装置40における苗取出し位置24の調整を苗取出し可能範囲26内での移動により容易に行うことできる。これにより、苗移植機1では、植付けに適した位置に苗9を確実に植え付けることができる。また、本実施形態における植付け装置40のように2条植え等の複数条の植付けを行う場合には、その植付け位置の左右の間隔(条間)を作業条件や生育条件に合わせて設定することができ、苗9をより良好に生育させることが可能になる。
【0089】
[変形例]
本発明は、上記実施形態で例示した構成に限定されるものでなく、例えば、以下に示す変形例も含むものである。
【0090】
苗搬送装置20における周回機構21は、その周回する方向Hを切り替えることが可能な構成を採用することができる。
この構成を採用した場合は、上記実施形態における周回機構21のホルダ搬送部材34と苗ホルダ22を矢印H1で示す方向とは反対の矢印H2で示す方向に周回させるよう切り替えることが可能になる。上記実施形態における周回機構21において矢印H2で示す方向に周回させるためには、駆動回転体36を矢印F2で示す方向に回転駆動させればよい。これにより、周回機構21では、駆動伝動部材35が矢印G2で示す方向に回転するのでホルダ搬送部材34が矢印H2で示す方向に周回するようになる。
【0091】
ちなみに、図3に例示する矢印H1で示す方向に周回させた場合は、右利きの作業者の作業効率等を向上させることができる。一方、矢印H2で示す方向に周回させた場合は、左利きの作業者の作業効率等を向上させることができる。
また、この周回する方向Hを切り替える手段としては、べベルギア(かさ歯車)の組み換え、ギアボックスの交換、周回機構21の駆動源として電動モータを適用する場合は正逆回転可能なモータの使用等の手段を採用することが可能である。
【0092】
上記実施形態では、周回機構21におけるホルダ搬送部材34に回動動力を付与するために、ホルダ搬送部材34の一部に駆動回転体36を接触させて付与する構成を採用してもよい。
また、ホルダ搬送部材34や駆動伝動部材35としては、チェーン形式に代えて、例えば歯付きベルト等の他の部材を適用してもよい。歯付きベルトを適用する場合、回転体32や従動回転体33として歯付きプーリ等を使用すればよい。
【0093】
周回機構21におけるホルダ搬送部材34を回転支持する回転体32は、4つ以上使用してもよい。この場合は、周回経路が長円形以外の形状になるが、その場合でも周回経路の形状については上端部および下端部で左右の方向に直線状に移動する経路部分S1,S2を有する形状になるよう構成することが好ましい。
【0094】
植付け装置40としては、2条植えに代えて、1条植えの植付け装置を適用してもよい。また、図5に例示されるように4つの苗取出し位置24A,24B,24C,24Dを備えた4条植えの植付け装置を適用してもよい。
植付けの条の数を変更する場合、必要であれば、例えば周回機構21における周回移動の位相等の調整を行えばよい。
【0095】
上記実施形態の苗移植機1における作業席28は、操縦席16の座席16aと苗搬送装置20の上部との間の位置に空きスペースがあれば、機体の左右のバランスを良好に保つ観点から、その間の位置に設置するとよい。2条植えの植付け装置40の場合は、例えば、左右の苗取出し位置24A,24Bの中間位置に作業席28を配置するとよい。
また、4条植えの植付け装置40を適用する場合には、作業席28については、機体の左右のバランスを良好にする観点から、図5に例示するように操縦席16の座席16aの左右側方に左右の作業席28A,28Bを設置するとよい。この場合は、作業者として左右の作業席28A,28Bにそれぞれ座って作業する2名が必要になる。
【0096】
この他、本発明の移植機は、上記実施形態で例示した(完全)乗用型の苗移植機1に限らず、非乗用型の移植機であっても構わない。この非乗用型(歩行型)の移植機としては、操縦席16および作業席28の双方がない完全歩行型の移植機か、あるいは操縦席16はあるが作業席28がない準歩行型の移植機にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、蔓状の苗の移植を行う移植機として有用であるが、他の形態の苗を移植する移植機として適用することもできる。
【符号の説明】
【0098】
1 …苗移植機(移植機)
10…走行車体
20…苗搬送装置
21…周回機構
22…苗ホルダ
23…苗供給部
25…搬送部フレーム
26…苗取出し可能範囲
31A,31B…左右の回転軸
32A,32B…左右の回転体
34…ホルダ搬送部材
35…駆動伝動部材
36…駆動回転体
40…植付け装置
41…苗取り具
42…植付けアーム
44…植付け伝動ケース
47…支持フレーム
48…搬送伝動軸
50…鎮圧装置
S1…上端側で左右方向に直線状に移動する経路部分
S2…下端側で左右方向に直線状に移動する経路部分
α …傾斜角度
H …周回する方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7