(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】ジオールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 493/10 20060101AFI20230110BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230110BHJP
【FI】
C07D493/10 F
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019559595
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2018044978
(87)【国際公開番号】W WO2019117019
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2017240303
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英之
(72)【発明者】
【氏名】長谷見 隆司
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-083172(JP,A)
【文献】特開2008-297327(JP,A)
【文献】特開2005-029563(JP,A)
【文献】特表2009-512724(JP,A)
【文献】国際公開第16/052476(WO,A1)
【文献】特開2014-166980(JP,A)
【文献】米国特許第03092640(US,A)
【文献】国際公開第2018/074305(WO,A1)
【文献】ALDER, R. W., and REDDY, B. S. R.,Attempted equilibration of an insoluble spiran polymer with monomers and oligomers through reversible chemical reactions: transketalization route to spiropolymers from 1,4-cyclohexanedione and pentaerythritol,Polymer,1994年04月18日,Vol.35, No. 26,pp. 5765-5772
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 493/10
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体と、下記一般式(3)で表されるトリオールとを脱水環化反応させて下記一般式(1)で表されるジオールを製造する際に、水を溶媒として反応させることを含む、一般式(1)で表されるジオールの製造方法;
【化1】
一般式(2)中、R
4は、それぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含む基、ハロゲン原子を含む基、炭素数1~6の直鎖のアルキル基、炭素数3~6の分岐したアルキル基または、アリール基を含み、炭素数が6~12である基を表す;
【化2】
一般式(3)中、R
5は、炭化水素基を表す;
【化3】
一般式(1)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、炭化水素基を表し、R
3は、それぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含む基、ハロゲン原子を含む基、炭素数1~6の直鎖のアルキル基、炭素数3~6の分岐したアルキル基または、アリール基を含み、炭素数が6~12である基を表す。
【請求項2】
前記一般式(2)におけるR
4が、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の直鎖のアルキル基、炭素数3~6の分岐したアルキル基または、アリール基を含み、炭素数が6~12である基である、請求項1に記載のジオールの製造方法。
【請求項3】
前記一般式(2)におけるR
4が、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基である、請求項1に記載のジオールの製造方法。
【請求項4】
前記一般式(3)におけるR
5が、炭素数1~7の直鎖のアルキル基、炭素数3~7の分岐したアルキル基またはアリール基を表す、請求項1~3のいずれか1項に記載のジオールの製造方法。
【請求項5】
前記一般式(3)におけるR
5が、炭素数1~7の直鎖のアルキル基またはアリール基である、請求項1~3のいずれか1項に記載のジオールの製造方法。
【請求項6】
前記一般式(2)におけるR
4が、水素原子であり、前記一般式(3)におけるR
5が、エチル基、メチル基またはフェニル基である、請求項1に記載のジオールの製造方法。
【請求項7】
前記脱水環化反応を80℃以下で行う、請求項1~6のいずれか1項に記載のジオールの製造方法。
【請求項8】
一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体と一般式(3)で表されるトリオールの添加量から算出される一般式(1)で表されるジオールの理論収量が、前記溶媒としての水の添加量と前記理論収量の合計の3質量%以上となるように、前記溶媒としての水を添加する、請求項1~7のいずれか1項に記載のジオールの製造方法。
【請求項9】
前記脱水環化反応を、酸触媒の存在下で行う、請求項1~8のいずれか1項に記載のジオールの製造方法。
【請求項10】
前記酸触媒が、メタンスルホン酸およびパラトルエンスルホン酸の少なくとも1種を含む、請求項9に記載のジオールの製造方法。
【請求項11】
前記一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体が、1,4-シクロヘキサンジオンであり、前記一般式(3)で表されるトリオールが、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンおよびトリス(ヒドロキシメチル)トルエンの少なくとも1種である、請求項1~10のいずれか1項に記載のジオールの製造方法。
【請求項12】
前記脱水環化反応後の反応液をろ過し、ろ液に、一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体および一般式(3)で表されるトリオールを添加し、再度、脱水環化反応を行うことを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のジオールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジスピロ構造を有するジオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スピログリコール(3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)が検討されている。例えば、特許文献1~3には、スピログリコール等の環式アセタールを有する多価アルコールの製造方法であって、高純度の環式アセタールを有する多価アルコールの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭59-148776号公報
【文献】特開2000-44570号公報
【文献】特開2005-29563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1~3に記載されているスピログリコールは、優れた材料であるが、近年、より高い熱安定性が求められる。そこで、本発明者は、より高い熱安定性を有する新規ジオールとして、後述する一般式(1)で表されるジオールを見出した。一方で、有機溶媒を用いる化学品の製造の場合、一般的には溶媒の回収設備を設けなくてはならない。新規ジオールについて、無溶媒もしくは反応溶媒として回収設備の要らない溶媒を用いて製造できれば、製造設備を簡略化することができ、工業的に有益である。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、反応溶媒として、有機溶媒を用いずに製造可能なジオールの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、下記手段<1>により、好ましくは<2>~<12>により、上記課題は解決された。
<1>下記一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体と、下記一般式(3)で表されるトリオールとを脱水環化反応させて下記一般式(1)で表されるジオールを製造する際に、水を溶媒として反応させることを含む、一般式(1)で表されるジオールの製造方法;
【化1】
一般式(2)中、R
4は、それぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含む基、ハロゲン原子を含む基、炭素数1~6の直鎖のアルキル基、炭素数3~6の分岐したアルキル基または、アリール基を含み、炭素数が6~12である基を表す;
【化2】
一般式(3)中、R
5は、炭化水素基を表す;
【化3】
一般式(1)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、炭化水素基を表し、R
3は、それぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含む基、ハロゲン原子を含む基、炭素数1~6の直鎖のアルキル基、炭素数3~6の分岐したアルキル基または、アリール基を含み、炭素数が6~12である基を表す。
<2>前記一般式(2)におけるR
4が、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の直鎖のアルキル基、炭素数3~6の分岐したアルキル基または、アリール基を含み、炭素数が6~12である基である、<1>に記載のジオールの製造方法。
<3>前記一般式(2)におけるR
4が、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基である、<1>に記載のジオールの製造方法。
<4>前記一般式(3)におけるR
5が、炭素数1~7の直鎖のアルキル基、炭素数3~7の分岐したアルキル基またはアリール基を表す、<1>~<3>のいずれか1つに記載のジオールの製造方法。
<5>前記一般式(3)におけるR
5が、炭素数1~7の直鎖のアルキル基またはアリール基である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のジオールの製造方法。
<6>前記一般式(2)におけるR
4が、水素原子であり、前記一般式(3)におけるR
5が、エチル基、メチル基またはフェニル基である、<1>に記載のジオールの製造方法。
<7>前記脱水環化反応を80℃以下で行う、<1>~<6>のいずれか1つに記載のジオールの製造方法。
<8>一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体と一般式(3)で表されるトリオールの添加量から算出される一般式(1)で表されるジオールの理論収量が、前記溶媒としての水の添加量と前記理論収量の合計の3質量%以上となるように、前記溶媒としての水を添加する、<1>~<7>のいずれか1つに記載のジオールの製造方法。
<9>前記脱水環化反応を、酸触媒の存在下で行う、<1>~<8>のいずれか1つに記載のジオールの製造方法。
<10>前記酸触媒が、メタンスルホン酸およびパラトルエンスルホン酸の少なくとも1種を含む、<9>に記載のジオールの製造方法。
<11>前記一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体が、1,4-シクロヘキサンジオンであり、前記一般式(3)で表されるトリオールが、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンおよびトリス(ヒドロキシメチル)トルエンの少なくとも1種である、<1>~<10>のいずれか1つに記載のジオールの製造方法。
<12>前記脱水環化反応後の反応液をろ過し、ろ液に、一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体および一般式(3)で表されるトリオールを添加し、再度、脱水環化反応を行うことを含む、<1>~<11>のいずれか1つに記載のジオールの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、反応溶媒として、有機溶媒を用いずに製造可能なジオールの製造方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの両方を意味する。(メタ)アクリル酸等についても同様である。
【0008】
本発明のジオールの製造方法は、下記一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体と、下記一般式(3)で表されるトリオールとを脱水環化反応させて下記一般式(1)で表されるジオールを製造する際に、水を溶媒として反応させることを含む、一般式(1)で表されるジオールの製造方法。
【化4】
一般式(2)中、R
4は、それぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含む基、ハロゲン原子を含む基、炭素数1~6の直鎖のアルキル基、炭素数3~6の分岐したアルキル基または、アリール基を含み、炭素数が6~12である基を表す。
【化5】
一般式(3)中、R
5は、炭化水素基を表す。
【化6】
一般式(1)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、炭化水素基を表し、R
3は、それぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含む基、ハロゲン原子を含む基、炭素数1~6の直鎖のアルキル基、炭素数3~6の分岐したアルキル基または、アリール基を含み、炭素数が6~12である基を表す。
【0009】
本発明では、一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体と、一般式(3)で表されるトリオールとを、水を溶媒として、脱水環化反応させる。水を反応溶媒として用いることにより、環境問題に対応した製造方法とすることができる。さらに、有機溶媒の回収設備を持つ必要が無く、工業的に有利である。
本発明において、水を溶媒として反応させるとは、脱水環化反応の反応溶媒のうち、最も含有量が多い成分が水であることをいい、反応溶媒の好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、一層好ましくは98質量%以上が水であることをいう。また、本発明の実施形態の一例として、反応溶媒として、積極的に有機溶媒を用いない態様が挙げられる。積極的に有機溶媒を用いないとは、意図して有機溶媒を用いないことを意味し、原料由来の不純物としての有機溶媒などが混入するものまでを排除しないことをいう。
【0010】
本発明における脱水環化反応で用いる水は、イオン交換水、蒸留水、RO水および水道水が好ましく、イオン交換水および蒸留水がより好ましい。水は1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0011】
本発明における脱水環化反応の反応温度は、例えば、100℃以下であり、好ましくは80以下であり、より好ましくは70℃以下であり、さらに好ましくは55℃以下、一層好ましくは50℃以下である。反応温度を低く(特に、50℃以下に)することにより、一般式(1)で表されるジオールがスラリー状に析出しやすく、反応生成物からの分離精製が容易になる。下限値については、例えば、10℃以上、15℃以上、30℃以上、35℃以上、38℃以上であってもよい。
ここで、脱水環化反応に際し、通常は、反応液を加熱して、所定の反応温度とし、反応を進行させる。上記脱水環化反応の反応温度とは、上記加熱をして、定常的に反応が進行するようになったときの温度のことをいう。脱水環化反応を釜内で行う場合等、反応が定常的に進行するようになった際の温度も上下しうるが、加熱および撹拌により、温度変化が通常20℃以内、好ましくは15℃以内、より好ましくは10℃以内となるように調整する。本発明では、上記脱水環化反応の反応温度とは、例えば、脱水環化反応が進行中の釜内の任意の一点の温度であり、脱水環化反応が進行中の釜内の温度のうち、最も高い温度が上記反応温度の上限値以下であり、最も低い温度が上記反応温度の下限値以上であることが好ましい。
また脱水環化反応の反応圧力は、上記反応温度において、脱水環化反応が進行するような圧力であれば特に限定されず、常圧であってもよく、場合によっては減圧下で反応を行うことも有効である。この反応時の反応系周囲の雰囲気は特に限定されず、例えば、空気雰囲気下、窒素雰囲気下、窒素流通下のいずれであってもよい。反応時間は触媒量や反応温度によって適宜調整すればよいが、通常2~48時間で行うのが好ましく、5~20時間で行うのがより好ましい。
【0012】
本発明では、溶媒としての水を、一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体と一般式(3)で表されるトリオールの添加量から算出される一般式(1)で表されるジオールの理論収量が前記溶媒としての水の添加量と前記理論収量の合計の3質量%以上となるように添加することが好ましく、前記理論収量が5質量%を超えることがより好ましく、前記理論収量が7質量%以上であることがさらに好ましく、前記理論収量が10質量%以上であることが一層好ましく、前記理論収量が15質量%以上であることがより一層好ましく、前記理論収量が18質量%以上であることがさらに一層好ましい。理論収量が高くなるように、すなわち、反応液の濃度を高くすると、一般式(1)で表されるジオールがスラリー状に析出しやすく、分離精製が容易になる。また、溶媒としての水は、前記理論収量が50質量%以下となる範囲で用いることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、35質量%以下であってもよい。
理論収量とは、原料である一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体と、一般式(3)で表されるトリオールの添加量から、理論上得ることが可能な一般式(1)で表されるジオールの最大量をいう。
【0013】
本発明における脱水環化反応において、一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体の使用量に対する上記一般式(3)で表されるトリオールの使用量は、所望のジスピロ構造を有するジオールを生成できる量であれば特に限定されない。但し、未反応分が少ない方が工業的に有利であることから、一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体の使用量に対する一般式(3)で表されるトリオールの使用量は、モル基準で、下限値が、2.00当量以上であることが好ましく、2.05当量以上であることがより好ましく、2.08当量以上であることがさらに好ましく、2.10当量以上であることが一層好ましい。上記使用量の上限値は、5.00当量以下であることが好ましく、3.00当量以下であることがより好ましく、2.50当量以下であることがさらに好ましく、2.30当量以下であることが一層好ましい。
【0014】
本発明における脱水環化反応(アセタール化反応)は、酸触媒の存在下で行うことが好ましい。酸触媒としては公知の酸触媒を使用すればよく、特に制限はない。そのような酸触媒として、具体的にはパラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などの有機酸類や、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸といった鉱酸類、ナフィオン(Sigma-Aldrich、登録商標)や陽イオン交換樹脂といった固体酸触媒を用いることができる。但し、本発明では反応生成物が、通常、固体として反応液中に析出してくることから、反応後処理の簡便性という観点からは有機酸類または鉱酸類を用いることが好ましい。特に、本発明で用いる酸触媒としては、有機酸類が好ましい。また、酸触媒は、均一系酸触媒であることが好ましい。さらに、酸触媒は、水和物であってもよい。
本発明では、酸触媒が、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、硫酸、塩酸、硝酸およびリン酸の少なくとも1種を含むことが好ましく、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸および硫酸の少なくとも1種を含むことがより好ましく、メタンスルホン酸およびパラトルエンスルホン酸の少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。酸触媒は2種以上を併用してもよい。
酸触媒の使用量としては特に限定されないが、一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体の量に対してモル基準で0.00001~0.1当量が好ましい。反応時間の観点からは0.00005当量以上がより好ましく、0.0001当量以上がさらに好ましく、副生物の生成抑制や触媒除去の観点からは0.1当量以下がより好ましく、0.05当量以下がさらに好ましい。
【0015】
本発明では、脱水環化反応後の反応液をろ過し、ろ物を水洗いすることが好ましい。本発明では、原料(一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体および一般式(3)で表されるトリオール)の水に対する溶解度が高く、生成物である一般式(1)で表されるジオールの溶解度が低いため、水を溶媒として脱水環化反応を進行させると、生成物である一般式(1)で表されるジオールを固体として析出させることが可能になる。固体で析出させると、一般式(1)で表されるジオールを容易に分離精製できる。ろ過の温度は、特に定めるものではなく、例えば、10~100℃までの範囲で任意に定めることができる。工業的には、例えば、反応温度程度(例えば、反応温度から反応温度-20℃の範囲)で行うことが生産効率の観点から好ましい。また、反応温度から室温程度(例えば、10~45℃)に冷却してからろ過してもよい。
従って、本発明のジオールの製造方法は、脱水環化反応後の反応液をろ過し、ろ過後のろ物を水洗いして一般式(1)で表されるジオールを分離することを含むことがより好ましい。さらに、反応触媒として、酸触媒を用いた場合、中和する工程を含んでいてもよい。中和には、アルカリ、例えば、苛性ソーダを用いることができる。
本発明では、例えば、一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体および一般式(3)で表されるトリオールの25℃における水に対する溶解度をそれぞれ、100g/L以上(好ましくは100~1000g/L)とすることができ、一般式(1)で表されるジオールの25℃における水に対する溶解度を0.5g/L以下(好ましくは0.0001~0.5g/L)とすることができる。
【0016】
本発明では、原料(一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体および一般式(3)で表されるトリオール)のうち、最も溶解度が低い成分の25℃における水に対する溶解度と、一般式(1)で表されるジオール(ジオールが複数種合成される場合は、最も溶解度が高い成分)の25℃における水に対する溶解度の差が、90g/L以上であることが好ましい。このような範囲とすることにより、生成物である一般式(1)で表されるジオールの分離精製がより容易になる。
尚、本発明では、一般式(1)で表されるジオールを固体として析出させることは必須ではなく、後述する実施例で示す様に、スラリーが殆ど生成しない条件で製造してもよいことは言うまでもない。
本発明の製造方法によって得られるジオールは、中和、ろ過(好ましくは水によるリンス)、洗浄、濃縮等の適当な後処理を行ったのち、公知の精製方法によって単離することができる。具体的には晶析、蒸留、吸着処理、カラムクロマトグラフィー、分取HPLC(液体クロマトグラフィー)、分取ガスクロマトグラフィー等があげられる。また、次反応の用途によっては、本発明の製造方法における後処理のみで、特に単離操作を行うことなく未精製のまま使用することもできる。
【0017】
本発明の製造方法では、得られる一般式(1)で表されるジオールのGC分析(GC分析での測定が困難な場合はHPLC分析)による純度を95質量%以上とすることもできる。また、得られる一般式(1)で表されるジオールの単離収率を90質量%以上とすることもできる。
【0018】
本発明では、また、前記脱水環化反応後の反応液(スラリー液)をろ過し、ろ液に、一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体および一般式(3)で表されるトリオールを添加し、再度、脱水環化反応を行うことを含む、実施形態とすることもできる。本実施形態では、反応液(反応スラリー液)をろ過した後、ろ液に、原料である、一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体および一般式(3)で表されるトリオールに加えて、必要に応じて水を添加してもよい。さらに、水と共に酸触媒を添加してもよい。このようにろ過母液をそのまま次反応へリサイクルすることで、母液中に残存している未反応原料の回収工程を設けることなく再使用できるという利点がある。
【0019】
次に、本発明で用いる一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体について説明する。
【化7】
一般式(2)中、R
4は、それぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含む基、ハロゲン原子を含む基、炭素数1~6の直鎖のアルキル基、炭素数3~6の分岐したアルキル基または、アリール基を含み、炭素数が6~12である基を表す。
【0020】
一般式(2)におけるR4は、それぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含む基、ハロゲン原子を含む基(好ましくはハロゲン原子)、炭素数1~6の直鎖のアルキル基、炭素数3~6の分岐したアルキル基または、アリール基を含み、炭素数が6~12である基を表し、水素原子、炭素数1~6の直鎖のアルキル基、炭素数3~6の分岐したアルキル基または、アリール基を含み、炭素数が6~12である基であることが好ましく、水素原子、炭素数1~6の直鎖のアルキル基または炭素数3~6の分岐したアルキル基であることがより好ましく、水素原子またはメチル基であることがさらに好ましく、水素原子が一層好ましい。
ヘテロ原子を含む基に含まれるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子が例示される。
ヘテロ原子を含む基は、アルコキシ基、アルキルチオエーテル基、アミノ基、ニトロ基が好ましい例として挙げられる。また、アルコキシ基またはアルキルチオエーテル基を構成するアルキル鎖は、炭素数1~6の直鎖のアルキル鎖が好ましく、炭素数1~3の直鎖のアルキル鎖がより好ましい。
炭素数1~6の直鎖のアルキル基は、炭素数1~5の直鎖のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3の直鎖のアルキル基であることがより好ましく、メチル基またはエチル基であることがさらに好ましい。
炭素数3~6の分岐したアルキル基は、炭素数3~5の分岐したアルキル基であることが好ましく、炭素数3または4の分岐したアルキル基であることがより好ましく、炭素数3の分岐したアルキル基であることがさらに好ましい。
アリール基を含み、炭素数が6~12である基は、フェニル基、フェニル基で置換されたアルキル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。フェニル基で置換されたアルキル基を構成するアルキル基の炭素数は、1~3が好ましく、1または2がより好ましく、1がさらに好ましい。
【0021】
上記一般式(2)におけるR4としては、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、1,1-ジメチルエチル基(tert-ブチル基)、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基(ネオペンチル基)、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メトキシ基、エトキシ基、プロプルオキシ基、ブトキシ基、メチルチオエーテル基、エチルチオエーテル基、アミノ基、ニトロ基、フェニル基、およびベンジル基が挙げられる。
これらの中ではR4は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基であるとより好ましい。また、工業的に入手が容易であるという観点から、R4が水素原子である場合が特に好ましい。
【0022】
本発明で用いる、一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体の製造方法については、特に制限は無く、従来公知の方法で製造されたものを用いることができる。例えば、Organic Syntheses, Coll. Vol. 5, p.288(1973)およびVol. 45, p.25(1965)にはコハク酸ジエステルから2段階での1,4-シクロヘキサンジオンの合成方法が報告されている。また、J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1979, p3095にはカルボニルのα位へアルキル基を導入した1,4-シクロヘキサンジオン誘導体の合成方法がある。より簡便に使用する際には、工業製品として流通しているものを精製して用いてもよいし、もしくは未精製のまま使用してもよい。
【0023】
本発明者は、1,4-シクロヘキサンジオン以外のシクロヘキサンジオン異性体(1,2-体、1,3-体)を用いて本発明と同様な検討を試みた。結果、各異性体に対応した1,2-ジスピロ体および1,3-ジスピロ体の生成が確認できたが、反応収率は著しく低かった。同様の事例が、WO2016/052476号公報の段落0021にも記載されていることから、本発明において、ジスピロ構造を有するジオールの原料として、工業的に容易に高収量を得るためには1,4-シクロヘキサンジオン誘導体を用いることが好ましい。
【0024】
一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体は、1,4-シクロヘキサンジオンであることが好ましい。
一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0025】
次に、一般式(3)で表されるトリオールについて説明する。
【化8】
一般式(3)中、R
5は、炭化水素基を表す
。
【0026】
一般式(3)におけるR5としては、炭化水素基であり、好ましくは、炭素数1~7の直鎖のアルキル基、炭素数3~7の分岐したアルキル基またはアリール基を表し、より好ましくは、炭素数1~7の直鎖のアルキル基またはアリール基を表し、炭素数1~7の直鎖のアルキル基がさらに好ましい。
本発明におけるR5の好ましい実施形態の一例は、エチル基、メチル基またはフェニル基である。この場合、一般式(2)におけるR4が、水素原子であることが好ましい。
【0027】
炭素数1~7の直鎖のアルキル基は、炭素数1~5の直鎖のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3の直鎖のアルキル基であることがより好ましく、メチル基またはエチル基であることがさらに好ましい。
炭素数3~7の分岐したアルキル基は、炭素数3~5の分岐したアルキル基であることが好ましく、炭素数3または4の分岐したアルキル基であることがより好ましく、炭素数3の分岐したアルキル基であることがさらに好ましい。
アリール基は、炭素数6~20のアリール基が好ましく、炭素数6~14のアリール基がより好ましく、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基がさらに好ましく、フェニル基が一層好ましい。
【0028】
一般式(3)におけるR5としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、1,1-ジメチルエチル基(tert-ブチル基)、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基(ネオペンチル基)、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、n-ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1,1-ジメチルペンチル基、1,2-ジメチルペンチル基、1,3-ジメチルペンチル基、1,4-ジメチルペンチル基、1,5-ジメチルペンチル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、3,4-ジメチルペンチル基、4,4-ジメチルペンチル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、1-プロピルブチル基、2-プロピルブチル基、3-プロピルブチル基、1-エチル-1-メチルブチル基、1-エチル-2-メチルブチル基、1-エチル-3-メチルブチル基、2-エチル-1-メチルブチル基、2-エチル-2-メチルブチル基、2-エチル-3-メチルブチル基、および1,2,3-トリメチルブチル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基などが挙げられる。
これらの中ではR5が、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、フェニル基であることがより好ましく、メチル基、エチル基またはフェニル基がさらに好ましい。
【0029】
一般式(3)で表されるトリオールは、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンおよびトリス(ヒドロキシメチル)トルエンの少なくとも1種であることが好ましい。
一般式(3)で表されるトリオールは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0030】
本発明では、一般式(2)で表される1,4-シクロヘキサンジオン誘導体が、1,4-シクロヘキサンジオンであり、一般式(3)で表されるトリオールが、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンおよびトリス(ヒドロキシメチル)トルエンの少なくとも1種(好ましくは、トリメチロールプロパンおよびトリメチロールエタンの少なくとも1種)である場合が特に好ましい。
【0031】
次に、一般式(1)で表されるジオールについて説明する。
【化9】
一般式(1)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、炭化水素基を表し、R
3は、それぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含む基、ハロゲン原子を含む基、炭素数1~6の直鎖のアルキル基、炭素数3~6の分岐したアルキル基または、アリール基を含み、炭素数が6~12である基を表す。
このような構成のジオールとすることにより、熱安定性に優れたジオールが得られる。さらに、一般式(1)で表されるジオールは、スピログリコールよりも、通常、低い融点を有する傾向にあり、ハンドリング性が高い。さらに、一般式(1)で表される構造とすることにより、剛直な材料が得られる。
本発明における一般式(1)で表されるジオールの融点は、例えば、220℃以下とすることができ、さらには218℃以下、200℃以下、180℃以下とすることもできる。一般式(1)で表されるジオールの融点の下限値は、特に定めるものではないが、例えば、150℃以上、さらには160℃以上であっても十分にハンドリング性に優れる。
また、本発明の一般式(1)で表されるジオールは、2つの水酸基のβ位が水素原子を持たないネオ構造であり、β脱離によるオレフィンの生成が本質的に起こりにくいという利点もある。
【0032】
一般式(1)で表されるジオールは、2つの6員環アセタール構造に起因する複数の幾何異性体を有してもよく、本発明では幾何異性体のいずれか一つまたは複数の混合物を示す。また3つの連続した6員環構造のそれぞれの立体配座も固定されておらず、可能な配座を自由に取ることができる。一般式(1)で表されるジオールの幾何異性体の生成比率は、反応条件(反応溶媒種、反応触媒種、反応温度)などによって変化し、特に制限は無い。本発明で得られるジスピロ構造を有するジオールの幾何異性体の混合物は、混合物のまま、あるいは従来公知の方法によって、各幾何異性体に分離して利用することができる。
【0033】
一般式(1)において、R1およびR2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、一般式(3)におけるR5と同義であり、好ましい範囲も同様である。また、製造方法が特に簡便になるという観点から、R1とR2が同一であることが好ましく、R1とR2が同一であって、メチル基、エチル基またはフェニル基である態様がより好ましい。
【0034】
一般式(1)において、R3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、一般式(2)におけるR4と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0035】
一般式(1)で表されるジオールの好ましい実施形態として、一般式(1)におけるR
1およびR
2が、それぞれ独立に、エチル基、メチル基またはフェニル基であり、R
3が水素原子であるジオールが例示される。
以下に、本発明で好ましく用いられるジオールを示す。本発明がこれらに限定されるものではないことは言うまでもない。尚、Meはメチル基を、Etはエチル基を、Prはプロピル基を、Buはブチル基を表す。
【化10】
【化11】
【0036】
【0037】
一般式(1)で表されるジオールの分子量は、300~550が好ましく、300~500がより好ましい。
【0038】
本発明のジオールは、各種工業材料の原料として用いることができる。例えば、本発明のジオールは、熱可塑性樹脂の原料や(メタ)アクリレートの原料として用いることができる。
(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイルオキシ基を1つ有する単官能(メタ)アクリレートであってもよいし、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ有するジ(メタ)アクリレートであってもよい。
ジ(メタ)アクリレートは、反応性希釈剤や粘度調節剤として塗料、コーティング剤、ハードコート剤、インキ、接着剤、粘着剤、レジスト材料、成形材料、および表面加工剤等の用途に使用することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。例中の「%」の表示は、特記しない限り、質量基準である。
【0040】
実施例中の物性等の分析方法は以下の通りである。
反応収率および生成物の純度
反応収率および生成物の純度はガスクロマトグラフィー(GC、装置名:Agilent 6850、アジレント・テクノロジー社製)もしくは高速液体クロマトグラフィー(HPLC、装置名:Chromaster、日立ハイテクサイエンス社製)にて、内部標準法で定量した。
【0041】
実施例1
1,4-シクロヘキサンジオン(東京化成工業株式会社製試薬、25℃における水に対する溶解度は750g/L)360gと、トリメチロールプロパン(三菱ガス化学株式会社製、25℃における水に対する溶解度は100g/L以上)905gと、イオン交換水2500g(化合物Aの理論収量に対し30質量%相当(水の添加量と理論収量の合計に対する、理論収量の割合(単位:質量%)が30質量%相当であることを意味する、以下の実施例でも同様に考える))と、メタンスルホン酸(東京化成工業株式会社製試薬)6.17gとを5リットルの丸底セパラブルフラスコに収容し、常圧下で釜内温度が40℃~50℃となるように加熱撹拌して脱水環化反応を行った。反応初期は一旦全ての原料が完全に溶解し、透明な均一溶液となるが、反応が進行すると生成物がスラリー状に析出し始めた。スラリー液を引き続きその温度にて7時間加熱撹拌させた。反応スラリー液を25℃まで冷却したのち、ろ過操作によって生成物をウェットケーキとして回収した。さらにウェットケーキに含まれる反応液を水260gにて押し流した。この段階の反応ろ液は1900gだった。得られたウェットケーキに苛性ソーダ水を通液することで中和、水にてリンス、減圧乾燥をすることで化合物A884gを得た(GC純度99.2%、単離収率80%)。得られた化合物Aの25℃における水に対する溶解度は0.5g/L以下であった。
下記に実施例1の反応スキームを示す。
【化15】
【0042】
実施例2(反応ろ液のリサイクル実験1)
実施例1で得られた反応ろ液1900gを5リットルセパラブルフラスコに戻し、リサイクル反応を行った。1,4-シクロヘキサンジオン(東京化成工業株式会社製試薬)360gと、トリメチロールプロパン(三菱ガス化学株式会社製)905gと、イオン交換水900gと、メタンスルホン酸(東京化成工業株式会社製試薬)0.62gとを5リットルセパラブルフラスコに追加で収容し、実施例1と同様に常圧下で釜内温度が40℃~50℃となるように加熱撹拌して脱水環化反応を行った。13.5時間の撹拌ののち、反応スラリー液を25℃まで冷却、ろ過操作によって生成物をウェットケーキとして回収した。さらにウェットケーキに含まれる反応液を水400gにて押し流した。この段階の反応ろ液は2300gだった。得られたウェットケーキに苛性ソーダ水を通液することで中和、水にてリンス、減圧乾燥をすることで化合物A1155gを得た(GC純度99.5%、実施例1から合わせた単離収率92%)。
【0043】
実施例3(反応ろ液のリサイクル実験2)
実施例2で得られた反応ろ液2300gを5リットルセパラブルフラスコに戻し、2回目のリサイクル反応を行った。1,4-シクロヘキサンジオン(東京化成工業株式会社製試薬)360gと、トリメチロールプロパン(三菱ガス化学株式会社製)905gと、イオン交換水400gと、メタンスルホン酸(東京化成工業株式会社製試薬)0.62gとを5リットルセパラブルフラスコに追加で収容し、実施例1と同様に常圧下で釜内温度が40℃~50℃となるように加熱撹拌して脱水環化反応を行った。11.5時間の撹拌ののち、反応スラリー液を25℃まで冷却、ろ過操作によって生成物をウェットケーキとして回収した。さらにウェットケーキに含まれる反応液を水400gにて押し流した。この段階の反応ろ液は2300gだった。得られたウェットケーキに苛性ソーダ水を通液することで中和、水にてリンス、減圧乾燥をすることで化合物A996gを得た(GC純度99.5%、実施例1から合わせた単離収率91%)。
【0044】
実施例4
トリメチロールプロパン905gをトリメチロールエタン(三菱ガス化学株式会社製、25℃における水に対する溶解度は100g/L以上)810gに変更し、イオン交換水を2500gから900gに減量した以外は実施例1と同様の条件にて、3時間脱水環化反応を行った。減圧乾燥後に得られた化合物Bは684g(GC純度98.4%、単離収率67%)であった。下記に実施例4の反応スキームを示す。得られた化合物Bの25℃における水に対する溶解度は0.5g/L以下であった。
【化16】
【0045】
実施例5
1,4-シクロヘキサンジオン(東京化成工業株式会社製試薬)1.44kgと、トリメチロールプロパン(三菱ガス化学株式会社製)3.53kgと、イオン交換水17.2kg(化合物Aの理論収量に対し20質量%相当)と、メタンスルホン酸(東京化成工業株式会社製試薬)24.7gとを30リットルのフラスコに収容し、常圧下で釜内温度が40℃~50℃となるように加熱撹拌して脱水環化反応を行った。反応初期は一旦全ての原料が完全に溶解し、透明な均一溶液となるが、反応が進行すると生成物がスラリー状に析出し始めた。スラリー液を引き続きその温度にて8時間加熱撹拌させた。反応スラリー液を25℃まで冷却したのち、ろ過操作によって生成物をウェットケーキとして回収した。得られたウェットケーキに苛性ソーダ水を通液することで中和、水にてリンス、減圧乾燥をすることで化合物A2.34kgを得た(GC純度99.2%、単離収率52%)。
【0046】
実施例6
反応温度を85~90℃にした以外は実施例1と同様の条件で反応を行った。20時間加熱撹拌しても生成物スラリーは析出しなかったが、同反応液をGC分析したところ、化合物Aの生成を確認した(GC収率15.7%)。
【0047】
実施例7
1,4-シクロヘキサンジオン(東京化成工業株式会社製試薬)10gと、トリメチロールプロパン(三菱ガス化学株式会社製)25gと、イオン交換水580g(化合物Aの理論収量に対し5質量%相当)と、メタンスルホン酸(東京化成工業株式会社製試薬)0.17gとを1リットルの丸底セパラブルフラスコに収容し、常圧下で釜内温度が40℃~50℃となるように加熱撹拌して脱水環化反応を行った。全ての原料が完全に溶解し、透明な均一溶液となったのちに、引き続き20時間加熱撹拌させたが、スラリーはほとんど生成しなかった。同反応液をGC分析したところ、化合物Aの生成を確認した(GC収率18.0%)。
【0048】
実施例8
1,4-シクロヘキサンジオン(東京化成工業株式会社製、試薬)1.51gと、α,α,α-トリス(ヒドロキシメチル)トルエン(TORONTO RESEACH CHEMICALS社製)5.0gと、イオン交換水6.0gと、メタンスルホン酸(東京化成工業株式会社製試薬)0.04gとを100ミリリットルの丸底フラスコに収容し、常圧下で釜内温度が25~30℃となるように加熱撹拌して脱水環化反応を行った。反応初期は一端全ての原料が完全に溶解し、透明な均一溶液となるが、反応が進行すると生成物がスラリー状に析出し始めた。スラリー液を引き続きその温度にて24時間加熱撹拌させた。反応スラリー液を25℃まで冷却したのち、ろ過操作によって生成物をウェットケーキとして回収した。さらにウェットケーキに含まれる反応液を水30gにて押し流した。得られたウェットケーキに苛性ソーダ水を通液することで中和、水にてリンス、減圧乾燥をすることで化合物Dを含む混合物2.7gを得た(HPLC純度60%、単離収率27%)。
【化17】
【0049】
実施例9
実施例1において、メタンスルホン酸を等モル量のパラトルエンスルホン酸1水和物(富士フイルム和光純薬工業社製、特級試薬)に変更し、他は同様に行った。実施例1と同様に化合物Aが得られた。
【0050】
実施例10
1,4-シクロヘキサンジオン(東京化成工業株式会社製、試薬)20gと、トリメチロールプロパン(三菱ガス化学株式会社製)25.1gと、トリメチロールエタン(三菱ガス化学株式会社製)22.5gと、イオン交換水100g(全て化合物Cとした場合の理論収量に対し35質量%相当)と、メタンスルホン酸(東京化成工業株式会社製、試薬)0.34gとを300mLのフラスコに収容し、常圧下で釜内温度が40℃~50℃となるように加熱撹拌して脱水環化反応を行った。反応初期は一端全ての原料が完全に溶解し、透明な均一溶液となるが、反応が進行すると生成物がスラリー状に析出し始めた。スラリー液を引き続きその温度にて3時間加熱撹拌させた。反応スラリー液を25℃まで冷却したのち、ろ過操作によって生成物をウェットケーキとして回収した。得られたウェットケーキに苛性ソーダ水を通液することで中和、水にてリンス、減圧乾燥をすることで16.0g(GC純度98.0%、化合物A:化合物B:化合物C=62:2:36(GCの面積比)、収率27%を得た。
【化18】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明で得られるジスピロ構造を有するジオールは、スピログリコールよりも熱安定性が高く、かつ、融点が低い傾向にあり、ハンドリング性が向上している。よって、ジオール成分を原料に用いる各種樹脂(熱可塑性樹脂)の製造において、生産効率や作業性の改善が見込まれる。また、剛直な構造を有するモノマージオールなので、得られる各種樹脂(熱可塑性樹脂)の物性向上(高硬度や耐擦性、透明性や耐熱性、耐候性、光学特性)も期待できる。よって本発明の産業上の利用可能性は大きい。