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  • 特許-ブラスト加工に用いられるショット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】ブラスト加工に用いられるショット
(51)【国際特許分類】
   B24C 11/00 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
B24C11/00 C
B24C11/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020509793
(86)(22)【出願日】2019-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2019009328
(87)【国際公開番号】W WO2019188120
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2018061997
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 佑人
(72)【発明者】
【氏名】石川 政行
(72)【発明者】
【氏名】田沼 直也
(72)【発明者】
【氏名】谷口 隼人
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-228448(JP,A)
【文献】特開昭57-009855(JP,A)
【文献】特開昭56-152909(JP,A)
【文献】米国特許第02670281(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 11/00
B22F 1/00
C22C 38/00
C21D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラスト加工に用いられるショットであって、
添加元素としてC:0.35~0.50質量%、Si:0.50~1.10質量%、及びMn:0.50~1.15質量%を含む鉄基合金からなり、
前記Siに対する前記Cの質量比が0.30~0.75、前記Mnに対する前記Cの質量比が0.30~0.75、及び前記Mnに対する前記Siの質量比が0.70~1.60であり、
前記Cと前記Siと前記Mnの合計含有量が1.80~2.40質量%であり、
ビッカース硬さがHV400~800である、ショット。
【請求項2】
前記鉄基合金が、さらにCr、Ni、Cu、Mo、Al、B、V、Nb及びTiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を0.30~1.0質量%含む、請求項1に記載のショット。
【請求項3】
実質的に焼戻マルテンサイト相から形成される、請求項1又は2に記載のショット。
【請求項4】
ブローホールを有する粒子の数がショット全体の5%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載のショット。
【請求項5】
粒子の長手方向の長さをL、前記長手方向に直行する方向における最大径をSとした場合に、L/Sが2.0以上となる粒子の数がショット全体の5%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載のショット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブラスト加工に用いられるショットに関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造後の鋳造物の砂落とし、金属製品のバリ取り、錆等のスケールの除去、などに、ショットブラストは用いられている。ショットブラストはショットと呼ばれる粒子を被加工物に向けて投射する加工方法である。ショットとしては、鉄系の粒子を用いることが多い。
【0003】
特許文献1には、添加元素としてC:0.80~1.10質量%、Si:0.50~1.00質量%、Mn:0.50~1.00質量%、Cr:0.10~0.30質量%を含み、残部がFe(不可避不純物を含む)であるショットが開示されている。ショットは、ショットブラストに適さないサイズに損耗されるまで繰り返し使用されるため、より損耗の少ない(寿命が長い)ショットの登場が望まれている。
【0004】
また、ショットの硬さは、ワークの物性やショットブラストの目的に合わせて選択されている。多様な硬さを持つショットを製造する製造方法の確立が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭53―75156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、研掃効率が損なわれ難いため寿命が長く、かつ多様な硬さを有するショットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一形態に係るショットは、ブラスト加工に用いられるショットである。当該ショットは、添加元素としてC:0.20~0.50質量%、Si:0.50~1.10質量%、及びMn:0.50~1.15質量%を含む鉄基合金からなる。また、当該ショットにおいて、Siに対するCの質量比(C/Si)は0.30~0.75、Mnに対するCの質量比(C/Mn)が0.30~0.75、Mnに対するSiの質量比(Si/Mn)が0.70~1.60、である。そして、当該ショットのビッカース硬さはHV400~800(JIS Z 2244:2009にて規定)である。
【0008】
一実施形態において、CとSiとMnの合計含有量(C+Si+Mn)は1.80~2.40質量%であってもよい。
【0009】
一実施形態において、鉄基合金は、さらにCr、Ni、Cu、Mo、Al、B、V、Nb及びTiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を0.30~1.0質量%含んでいてもよい。
【0010】
一実施形態において、ショットは実質的に焼戻マルテンサイト相から形成されていてもよい。
【0011】
一実施形態において、ブローホールを有する粒子の数はショット全体の5%以下であってもよい。
【0012】
一実施形態において、粒子の長手方向の長さをL、長手方向に直行する方向における最大径をSとした場合に、L/Sが2.0以上となる粒子の数は、ショット全体の5%以下であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一形態により、研掃効率が損なわれ難いため寿命が長く、かつ多様な硬さを有するショットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、参考例1及び比較例それぞれのショットの断面を走査型電子顕微鏡にて観察した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の一形態に係るショットは、添加元素としてC、Si及びMnを含む4成分系の鉄基合金からなるショットである。あるいは、本開示の一形態に係るショットは、鉄基合金からなる粒子を含み、当該鉄基合金が添加元素としてC、Si及びMnを含む、ショットである、ということもできる。当該ショット(鉄基合金)には、その他の不可避不純物が含まれていてもよい。
【0016】
以下に、水アトマイズ法にてショットを製造する場合を例に、一実施形態のショットについて詳しく説明する。なお、以下の説明における%は特に断りのない限り、質量%を示す。
【0017】
<溶融工程>
所定の組成となるように秤量したショットの原料(Fe、C、Si、Mn等)を溶解炉に投入し、1600~1750℃に加熱して溶解して溶湯とする。
【0018】
Feはショットの基となる元素である。
【0019】
Cは、硬さに影響を及ぼす元素である。C濃度が高くなるとショットが硬くなるため研掃能力が高くなるが、Cの濃度に比例して靱性が低下する。靱性の低下は寿命の低下に繋がる。ショットとして求められる硬さと寿命を考慮し、鉄基合金中のCの含有量は0.20~0.50質量%であるが、0.30~0.45質量%であってもよく、0.35~0.45質量%であってもよい。
【0020】
Siには原料溶湯中の酸素を除去する効果がある。原料溶湯中に含まれる酸素は、アトマイズ法による造粒時に、粒子の球状化を阻害する。Si濃度が高いと脱酸効果が高くなるため球状の粒子を得やすくなるが、Siの濃度に比例して靱性が低下する。また、原料溶湯中の酸素を除去することで、ブローホールと呼ばれる内部欠陥を減少させることができる。Cにも脱酸効果はあるが、寿命を考慮すると、脱酸効果を十分に得られる量のCを添加することは困難である。脱酸効果と寿命を考慮し、鉄基合金中のSiの含有量は0.50~1.10質量%であるが、0.55~1.05質量%であってもよく、0.60~1.00質量%であってもよい。
【0021】
Mnには造粒した粒子の焼き入れ性を向上させる効果と、TTT線図におけるパーライトノーズを右側にシフトさせて臨界冷却速度を下げる効果とがある。焼き入れを行うことで、ショットとして求められる硬さを得ることができる。焼き入れによって粒子の組織が変態するが、この際に均質かつ微細な結晶粒を有する組織にすることが求められる。このような組織が得られるよう焼き入れ条件を調整するが、ショットのような細かい粒子の場合は、繊細な焼き入れ条件の調整が必要とされている。合金中にMnを添加することで、焼き入れ条件の許容値が広がり、条件の調整がし易くなる。これにより、造粒した粒子の全体に亘って、均質かつ微細(例えば、2~10μm)な結晶粒を有する組織を導入し易くなる。その結果、靱性に優れた粒子となるため、ショットの寿命が向上する。しかし、Mnは高価な金属の為、濃度を高くするとショットの製造コストの増大に繋がる。焼き入れ効果とコストを考慮し、鉄基合金中のMnの含有量は0.50~1.15質量%であるが、0.55~1.00質量%であってもよく、0.60~0.95質量%であってもよい。
【0022】
さらに、鉄基合金中のCの含有量をa質量%、Siの含有量をb質量%、Mnの含有量をc質量%とした時に、添加元素であるC、Si及びMnのそれぞれの相乗効果を考慮すると、各質量比等は以下のとおりである。
a/b(Siに対するCの質量比)は0.30~0.75であるが、0.35~0.60であってもよく、0.40~0.50であってもよい。
a/c(Mnに対するCの質量比)は0.30~0.75であるが、0.35~0.60であってもよく、0.40~0.50であってもよい。
b/c(Mnに対するSiの質量比)は0.70~1.60であるが、0.80~1.40であってもよく、0.90~1.20であってもよい。
a+b+c(CとSiとMnの合計含有量)は1.80~2.40質量%であることが好ましいが、1.85~2.25質量%であってもよく、1.90~2.10質量%であってもよい。
【0023】
前記鉄基合金は、さらにCr、Ni、Cu、Mo、Al、B、V、Nb及びTiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでいてもよい。これら他の添加元素はSi及びMnの効果を補完する目的で添加され、添加によって以下に示す効果が得られる。ただし、これら他の添加元素濃度が高すぎると、硬さの低下、寿命の低下、球状化の不足、などの不具合が発生する傾向がある。そのため、鉄基合金中のこれら他の添加元素の含有量(複数の元素を添加した場合はその合計含有量)を0.30~1.0質量%となるように調整してもよい。
【0024】
Crには、焼き入れ性を向上させる効果と、TTT線図におけるパーライトノーズを右側にシフトさせて臨界冷却速度を下げる効果とがある。Crの濃度が低すぎるとこれらの効果が十分に得られず、高すぎるとショットの靱性が低下する傾向がある。これらを考慮して、鉄基合金中のCrの含有量を0.3~1.0質量%となるように調整してもよい。
【0025】
Ni及びCuには、酸素による球状化阻害を抑制しつつ、焼き入れ性及び寿命を向上させる効果がある。Ni及びCuの濃度が低すぎるとこれらの効果が十分に得られず、高すぎると靱性が低下する傾向がある。これらを考慮して、鉄基合金中のNi及びCuの合計含有量を0.4~1.0質量%となるように調整してもよい。なお、Cuに比べてNiの方が上記効果の発現に若干優れるが、高価な材料であるため、効果とコストを考慮してNiとCuの組成比は決定される。
【0026】
Moには、組織や硬さの粒子毎のばらつきを低減させる効果と、焼き入れ性の向上の効果と、TTT線図におけるパーライトノーズを右側にシフトさせて臨界冷却速度を下げる効果と、がある。Moの濃度が低すぎるとこれらの効果が十分に得られない傾向がある。また、Moは高価な材料であるため、Moの濃度が高すぎると、コストの上昇によるデメリットの方が、これらの効果が得られるメリットよりも大きくなる。これらを考慮して、鉄基合金中のMoの含有量を0.1~0.3質量%となるように調整してもよい。
【0027】
Alには、原料溶湯中の酸素を除去して粒子の球状化を促進する効果と、ブローホールを低減させる効果と、がある。Alの濃度が低すぎるとこれらの効果が十分に得られず、高すぎると逆に球状化が阻害される傾向がある。これらを考慮して、鉄基合金中のAlの含有量を0.04~0.12質量%となるように調整してもよい。
【0028】
Bには、焼き入れ性を向上させる効果と、寿命を向上させる効果と、がある。Bの濃度が低すぎるとこれらの効果が十分に得られず、高すぎると逆に寿命が低下する傾向がある。これらを考慮して、鉄基合金中のBの含有量を0.01~0.05質量%となるように調整してもよい。
【0029】
V、Nb及びTiには、寿命を向上させる効果がある。これらの元素の濃度が低すぎると当該効果が十分に得られず、高すぎると逆に寿命が低下する傾向がある。これらを考慮して、鉄基合金中のV、Nb及びTiの合計含有量を0.05~0.5質量%となるように調整してもよい。
【0030】
<造粒工程>
原料溶湯を溶解槽底部のノズルから落下させ、この溶湯に向けて高圧水を噴射することで、造粒物(球状体)を得る。
【0031】
原料溶湯中の酸素は、造粒の際に粒子の球状化を阻害する要因となる。一実施形態のショットは、原料としてSiを含む溶湯から形成される。Siによって原料溶湯中の酸素が除去されるため、そのような原料を用いることで粒子の球状化を促進することができる。
【0032】
また、原料溶湯中の酸素は、ブローホールの原因となる。ブローホールとは、原料溶湯中の酸素が原料の凝固時に大気中に放出されず、粒子の内部に気泡として内包されることで生じるものである。原料としてSiを用いることで、原料溶湯中の酸素が除去され、ブローホールを低減させることができる。
【0033】
<焼き入れ工程>
上記のとおり生成される造粒物にはCが含有されているため、Feに比べて硬い。しかし、ショットとして用いるにはさらに硬さを向上させる必要がある。造粒工程で製造した造粒物をロータリーキルン等により乾燥させた後に、800~900℃に加熱し、1時間程度保持した後、水中に投下して焼入れを行う。これにより、造粒物の硬さを増大させることができる。
【0034】
造粒物にはMnが含有されているため、焼き入れ性が改善されている。また、当該造粒物では、TTT線図におけるパーライトノーズが右側にシフトしているため臨界冷却速度が低下している。さらに、焼き入れを行った際、造粒物の組織が微細化するため靱性が向上する。即ち、このような造粒物は、損耗の少ない(寿命が長い)ショットとして用ることができる。
【0035】
<焼き戻し工程>
焼き入れ工程を経た造粒物を300~600℃で0.5~2.0時間程度加熱し、その後徐冷することにより焼き戻しを行う。これにより、造粒物を所望の硬度に調整することができるとともに、焼入れ工程により低下した造粒物の靭性を向上させることができる。
【0036】
焼き入れ工程及び焼き戻し工程を経ることで、造粒物には微細で且つ均一な組織が導入される。特に、一実施形態のショットに含まれる粒子の組織は、実質的に焼戻マルテンサイト相から主として形成される。焼戻マルテンサイト相における結晶粒サイズは0.5~10μm程度である。このような組織を持つ粒子は、ブラスト加工の際に衝撃荷重が繰り返し加えられても、靱性が高いため損耗が抑制される。
【0037】
<分級工程>
振動篩等を用いて焼き入れ工程後の造粒物を篩にかける。これにより所定の径を有する粒子を分級する。
【0038】
<回収工程>
分級された粒子の形状や硬度等を検査する工程を経て、所定の径を有する粒子を含むショットが得られる。
【0039】
一実施形態のショット(粒子)のビッカース硬さは、HV400~800である。なお、ブラスト加工性及び寿命の観点から、HVは400~650であってもよく、400~500であってもよい。HVの標準偏差はHV50以下とすることができる。一実施形態のショットは特定の組成を有するため、ショットとして十分な硬さを有し、かつ粒子毎の硬さのばらつきが極めて小さい。硬さのばらつきが極めて小さいことにより、ブラスト加工の際に仕上がり品質が安定する。
【0040】
一実施形態のショットにおいて、粒子の長手方向の長さをL、前記長手方向に直行する方向における最大径をSとした場合に、L/Sが2.0以上となる粒子の数はショット全体の5%以下であってもよい。一実施形態のショットは特定の組成を有するため、均等に球状化された粒子が多く含まれており、ブラスト加工の際に仕上がり品質が安定する。当該粒子の数は、ショット全体の1%以下であってもよく、0.1%以下であってもよい。
【0041】
一実施形態のショットにおいて、ブローホールを有する粒子の数はショット全体の5%以下であってもよい。ここで、ブローホールを有する粒子とは、断面における気泡の面積割合が断面の面積の10%以上であり、且つ気泡の壁面がなだらかなものを指す。ブローホールはブラスト加工の際にショットが破損する起点となる。一実施形態のショットは特定の組成を有するため、ブローホールを有する粒子の数が極めて少なく寿命が長い。当該粒子の数は、ショット全体の3%以下であってもよく、1%以下であってもよい。
【0042】
一実施形態のショットにおいて、クラックを有する粒子の数はショット全体の5%以下であってもよい。ここで、クラックを有する粒子とは、断面における亀裂の長さが亀裂の幅の3倍以上であり、且つ亀裂の長さが断面における最少直径の20%以上の長さであるものを指す。クラックはブラスト加工の際にショットが破損する起点となる。一実施形態のショットは特定の組成を有するため、クラックを有する粒子の数が極めて少なく寿命が長い。当該粒子の数は、ショット全体の3%以下であってもよく、1%以下であってもよい。
【0043】
一実施形態のショットにおいて、含まれる粒子の平均粒子径は0.1~1.5mmであってもよい。平均粒子径がこの範囲内であるとショットの寿命が長くなる傾向がある。ここで、平均粒子径とは、JIS Z 8801基準ふるいを使用したふるい分けにより測定される値である。平均粒子径は、0.1~1.0mmであってもよく、0.15~0.75mmであってもよく、0.2~0.45mmであってもよい。
【0044】
一実施形態のショットの見かけ密度は7.45g/cm以上であってもよい。これにより、ブラスト加工の際における被加工物への衝突エネルギーを得易くなるため、被加工物を十分に研掃し易い。
【0045】
[実施例]
次に、一実施形態のショットの効果を確認するための試験結果について説明する。
まず、表1の配合比を有する鉄基合金からなる種々のショットを、水アトマイズ法を用いて作製した。表1におけるXは、Cr、Ni、Cu、Mo、Al、B、V、Nb及びTiからなる群より選択される添加元素の含有量(合計の含有量)を示す。
【0046】
得られた粒子を分級して所望の粒子径(φ0.3mm、φ0.6mm、φ1.0mm)を有するショットを得た。なお、各粒子径を有するショットはそれぞれ下記のようにして準備した。
φ0.3mm:0.425mmの篩を通過し、0.355mmの篩上に残留したもの。
φ0.6mm:0.710mmの篩を通過し、0.600mmの篩上に残留したもの。
φ1.0mm:1.180mmの篩を通過し、1.000mmの篩上に残留したもの。
【0047】
(1)ビッカース硬さの測定
ショットの粒子を樹脂に埋め込んだ後、断面中心が表面に露出するように研磨した。10個のショットに対して前述の規格(JIS Z 2244:2009)に準じてビッカース硬さを測定し、その平均値をショットの硬さとした。結果を表2に示す。
【0048】
(2)見かけ密度の測定
JIS Z0311:2004に準じて測定した。具体的には、比重瓶(容積:50ml)にショットを約10g装入し、質量を測定した。次いで、比重瓶に蒸留水を装入し、内部の気泡を除去した後、質量を測定した。これらの質量から見かけ密度を演算した。この操作を2回行い、その平均値をショットの見かけ密度とした。結果を表2に示す。
【0049】
(3)欠陥(ブローホール)の検証
ショットの粒子を樹脂に埋め込んだ後、断面中心が表面に露出するように研磨した。100個のショットに対して断面を投影機によって観察し、欠陥として前述のブローホールが存在するショットの数を計測してその割合を算出した。結果を表2に示す。
【0050】
(4)真球度の検証
ショットの粒子をガラス平板に広げた後、100個のショットに対して、粒子の長手方向の長さL、前記長手方向に直行する方向における最大径Sをマイクロスコープにより観察した。そして、L/Sが2.0以上となる粒子の数を計測し、その割合(粒子形状不良率)を算出した。結果を表2に示す。
【0051】
(5)寿命の評価
製造したショット100gを寿命試験装置(Ervin製:The Test Ervin Machine)に投入し、投射速度60m/sで鋼材(HRC65)に向けて投射した。投射後のショットを回収し、回収したショットを篩(0.300mm、0.500mm又は0.850mm)で分級し、篩に残ったショットの重さを秤量した。篩上に残ったショットが10gとなるまでこの操作を繰り返し、この試験により得られた衝突回数とショットの残留率の関係を示す曲線を積分し、この数値を寿命値とした。結果を表2に示す。
【0052】
比較例は、従来の組成をもつショットである。参考例1及び実施例~10のショットは、比較例のショットに比べて長寿命であることがわかった。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
また、参考例1及び比較例それぞれのショットの断面を走査型電子顕微鏡にて観察した。図1に示すように、実施例のショットにおいては、微細化された焼戻マルテンサイト相から主として形成された組織が観察されたのに対し、比較例のショットにおいては、微細化されていないマルテンサイト相から主として形成された組織が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
一実施形態のショットは、研掃に必要な硬さを有しており、且つ寿命が長いため、工業的価値は極めて大である。このショットは、あらゆるブラスト加工に用いることができる。
【0057】
一実施形態のショットの製造方法として水アトマイズ法を例に説明したが、ガスアトマイズ法やディスクアトマイズ法等の別の方法を採用してもよい。
図1