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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/13 20060101AFI20230110BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230110BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20230110BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B60C11/13 B
B60C1/00 A
B60C11/00 B
B60C11/00 D
B60C11/03 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022532287
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006171
(87)【国際公開番号】W WO2021261010
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2020108986
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 秀一朗
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-38341(JP,A)
【文献】特開2019-98998(JP,A)
【文献】特表2017-505261(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0174008(US,A1)
【文献】特開2008-222162(JP,A)
【文献】特開2020-79336(JP,A)
【文献】特開2008-49958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/13
B60C 1/00
B60C 11/00
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の主溝が設けられ;
タイヤ新品時のトレッド接地面におけるシー比をS0(%)、前記主溝の深さがタイヤ新品時の50%にトレッド部が摩耗したときのシー比をS50(%)としたとき、S50/S0が1.05~1.40であり;
タイヤ新品時におけるタイヤの赤道面に一番近い陸部からタイヤ半径方向にトレッド部を構成するゴム全てを切り出したゴム片を、JIS K 6253-3:2012に準拠して23℃でタイプAデュロメータを接地面側から押し付けて測定したゴム硬度をHs0、前記ゴム片を80℃の雰囲気下で168時間熱老化し、23℃まで放冷した後にタイプAデュロメータを接地面側から押し付けて測定したゴム硬度をHs50としたとき、Hs50/Hs0が1.10~1.25であるタイヤ。
【請求項2】
前記トレッド部が、少なくともトレッド面を構成する第一のゴム層および前記第一のゴム層の半径方向内側に隣接する第二のゴム層を有する、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記第一のゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AETと前記第二のゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AEBとの差(AET-AEB)が5~20質量%である、請求項2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記第一のゴム層を構成するゴム組成物が液状ポリマーを含有する、請求項2または3記載のタイヤ。
【請求項5】
少なくとも1つの前記主溝の溝壁に、前記トレッド部の踏面に表れる溝縁よりも溝幅方向の外側に凹む凹部が設けられ、
前記主溝の合計凹み量は、前記主溝の前記溝縁間の長さである溝幅の0.10~0.90倍である、請求項1~4のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記主溝の一方の溝壁である第1溝壁に、前記トレッド部の踏面に表れる溝縁よりも溝幅方向の外側に凹む第1凹部が少なくとも1つ設けられ、
前記第1凹部は、最も溝幅方向の外側に凹んだ最深部からタイヤ周方向の両側に向かって、前記溝縁からの凹み量が漸減している、請求項1~5のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記最深部における前記凹み量は、前記主溝の前記溝縁間の長さである溝幅の0.10~0.50倍である、請求項6記載のタイヤ。
【請求項8】
前記第1溝壁には、前記溝縁よりも溝幅方向の外側に凹み、かつ、前記溝縁からの凹み量がタイヤ周方向に一定である第2凹部が少なくとも1つ設けられている、請求項6または7記載のタイヤ。
【請求項9】
前記第2凹部の最大の前記凹み量は、前記第1凹部の前記最深部の前記凹み量よりも小さい、請求項8記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部に主溝が設けられたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および2には、トレッド部に主溝が設けられたタイヤが記載されている。上記主溝の一方の溝壁は、トレッド部の踏面側から溝底側に向かって、トレッド部の踏面の法線に対して溝外側に傾斜している。このような溝壁を有する主溝は、トレッド部の摩耗後の排水性を維持するのに有利となり、ウェット性能が改善する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-124442号公報
【文献】特開2019-26241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記タイヤは、トレッド部の摩耗後の操縦安定性能について改善の余地がある。
【0005】
本発明は、摩耗後の操縦安定性能に優れ、かつ摩耗後のウェット性能の低下が抑制されたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、熱劣化後の硬度変化を所定の範囲としたゴム層により構成され、かつタイヤ新品時のシー比に対する摩耗後のシー比が所定の範囲である溝形状を有するトレッドを備えたタイヤとすることにより、摩耗後のウェット性能および操縦安定性能が改善されることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
〔1〕トレッド部を有するタイヤであって、前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の主溝が設けられ;タイヤ新品時のトレッド接地面におけるシー比をS0(%)、前記主溝の深さがタイヤ新品時の50%にトレッド部が摩耗したときのシー比をS50(%)としたとき、S50/S0が1.05~1.40であり;タイヤ新品時におけるタイヤの赤道面に一番近い陸部からタイヤ半径方向にトレッド部を構成するゴム全てを切り出したゴム片を、JIS K 6253-3:2012に準拠して23℃でタイプAデュロメータを接地面側から押し付けて測定したゴム硬度をHs0、前記ゴム片を80℃の雰囲気下で168時間熱老化し、23℃まで放冷した後にタイプAデュロメータを接地面側から押し付けて測定したゴム硬度をHs50としたとき、Hs50/Hs0が1.10~1.25であるタイヤ、
〔2〕前記トレッド部が、少なくともトレッド面を構成する第一のゴム層および前記第一のゴム層の半径方向内側に隣接する第二のゴム層を有する、上記〔1〕記載のタイヤ、
〔3〕前記第一のゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AETと前記第二のゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AEBとの差(AET-AEB)が5~20質量%である、上記〔2〕記載のタイヤ、
〔4〕前記第一のゴム層を構成するゴム組成物が液状ポリマーを含有する、上記〔2〕または〔3〕記載のタイヤ、
〔5〕少なくとも1つの前記主溝の溝壁に、前記トレッド部の踏面に表れる溝縁よりも溝幅方向の外側に凹む凹部が設けられ、前記主溝の合計凹み量は、前記主溝の前記溝縁間の長さである溝幅の0.10~0.90倍である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔6〕前記主溝の一方の溝壁である第1溝壁に、前記トレッド部の踏面に表れる溝縁よりも溝幅方向の外側に凹む第1凹部が少なくとも1つ設けられ、前記第1凹部は、最も溝幅方向の外側に凹んだ最深部からタイヤ周方向の両側に向かって、前記溝縁からの凹み量が漸減している、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔7〕前記最深部における前記凹み量は、前記主溝の前記溝縁間の長さである溝幅の0.10~0.50倍である、上記〔6〕記載のタイヤ、
〔8〕前記第1溝壁には、前記溝縁よりも溝幅方向の外側に凹み、かつ、前記溝縁からの凹み量がタイヤ周方向に一定である第2凹部が少なくとも1つ設けられている、上記〔6〕または〔7〕記載のタイヤ、
〔9〕前記第2凹部の最大の前記凹み量は、前記第1凹部の前記最深部の前記凹み量よりも小さい、上記〔8〕記載のタイヤ、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱劣化後の硬度変化を所定の範囲としたゴム層により構成され、かつタイヤ新品時のシー比に対する摩耗後のシー比が所定の範囲である溝形状を有するトレッドを備えたタイヤとすることにより、摩耗後の操縦安定性能に優れ、かつ摩耗後のウェット性能の低下が抑制されたタイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係るタイヤのトレッド部の横断面図である。
図2】本開示の一実施形態に係る主溝の拡大平面図である。
図3図2のA-A線断面図である。
図4】本開示に係る他の主溝の拡大平面図である。
図5】(a)は、図4のB-B線断面図であり、(b)は、図4のC-C線断面図である。
図6】本開示に係る他の主溝の拡大平面図である。
図7図6のD-D線断面図である。
図8】本開示の他の実施形態に係るタイヤのトレッド部の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一実施形態であるタイヤは、トレッド部を有するタイヤであって、前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の主溝が設けられ;タイヤ新品時のトレッド接地面におけるシー比をS0(%)、前記主溝の深さがタイヤ新品時の50%にトレッド部が摩耗したときのシー比をS50(%)としたとき、S50/S0が1.05~1.40、好ましくは1.07~1.37、より好ましくは1.10~1.35、さらに好ましくは1.15~1.33、特に好ましくは1.18~1.31であり;タイヤ新品時におけるタイヤの赤道面に一番近い陸部からタイヤ半径方向にトレッド部を構成するゴム全てを切り出したゴム片を、JIS K 6253-3:2012に準拠して23℃でタイプAデュロメータを接地面側から押し付けて測定したゴム硬度をHs0、前記ゴム片を80℃の雰囲気下で168時間熱老化し、23℃まで放冷した後にタイプAデュロメータを接地面側から押し付けて測定したゴム硬度をHs50としたとき、Hs50/Hs0が1.10~1.25、より好ましくは1.10~1.22、さらに好ましくは1.10~1.19、特に好ましくは1.10~1.17である。
【0011】
なお、本明細書において「シー比S0」とは、タイヤ新品時のトレッド部2の全ての溝を埋めた状態でのトレッド接地面積の合計に対する、主溝を50%摩耗させた際に残っていることが可能な全ての溝についての溝面積の合計の比(%)を意味する。すなわち、主溝を50%摩耗させた際に残っていない溝についての溝面積は、前記溝面積の合計には含めないものとする。また「シー比S50」とは、主溝を50%摩耗させた際のトレッド部2の全ての溝を埋めた状態でのトレッド接地面積の合計に対する、その際に残っている全ての溝についての溝面積の合計の比(%)を意味する。また、ここで言う「主溝」とは、トレッド部2に深さが異なる複数本の主溝が設けられた場合には、そのうち最も深いものを指し、主溝を50%摩耗させた状態とは、主溝が50%になる厚さ分だけ、接地面内における各陸部が摩耗した状態を指す。
【0012】
前記シー比S0およびシー比S50の確認方法としては、特に限定されないが、例えば以下の方法により算出することができる。タイヤを正規リムに装着させた後、乗用車タイヤについては230kPa、ライトトラックやVAN用トラックについては正規内圧(最大内圧)を保持させた後、トレッド部2にインクを塗布し、乗用車タイヤについては最大負荷能力の70%、ライトトラックやVAN用トラックについては最大負荷能力の80%の荷重を加えて紙等に垂直に押し付け、トレッド部2に塗布されたインクを転写することにより、タイヤの接地形状を得ることができる。得られた接地形状の外輪により得られる面積を、全ての溝を埋めた状態でのトレッド接地面積の合計とし、インクが付いていない部分のうち、主溝を50%摩耗させた際に残っていることが可能な全ての溝についての溝面積の合計を求めることにより、シー比S0を算出することができる。また、上記と同様の手法で、主溝を50%摩耗させた際のトレッド部2の全ての溝を埋めた状態でのトレッド接地面積の合計、およびその際に残っている全ての溝についての溝面積の合計を求めることにより、シー比S50を算出することができる。
【0013】
トレッド摩耗前後のシー比の変化およびトレッドを構成するゴム層の硬度変化が上記の要件を満たすことで、得られたタイヤは、長期にわたってウェット性能および操縦安定性能を発揮し得る。その理由については、理論に拘束されることは意図しないが、以下のように考えられる。
【0014】
トレッド摩耗前後のシー比の変化を上記の範囲とすることで、トレッド部が摩耗しても、トレッド部の踏面における主溝の開口面積を確保することができるため、優れたウェット性能が長期にわたって発揮されるものと考えられる。
【0015】
また、摩耗により溝面積が増えることで、トレッド面の剛性が低下するが、走行による発熱でゴムが硬化することにより、トレッド部全体の剛性低下を抑制できるため、長期にわたって排水性および操縦安定性能を維持することができるものと考えられる。
【0016】
本開示のタイヤにおいて、前記トレッド部が、少なくともトレッド面を構成する第一のゴム層および前記第一のゴム層の半径方向内側に隣接する第二のゴム層を有することが好ましい。
【0017】
本開示のタイヤにおいて、前記第一のゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AETと前記第二のゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AEBとの差(AET-AEB)が5~20質量%であることが好ましい。
【0018】
本開示のタイヤにおいて、前記第一のゴム層を構成するゴム組成物が液状ポリマーを含有することが好ましい。
【0019】
本開示のタイヤにおいて、タイヤ新品時のトレッド接地面におけるシー比S0は、10~40%が好ましく、20~35%がより好ましい。
【0020】
本開示のタイヤにおいて、少なくとも1つの前記主溝の溝壁には、前記トレッド部の踏面に表れる溝縁よりも溝幅方向の外側に凹む凹部が設けられ、前記主溝の合計凹み量は、前記主溝の前記溝縁間の長さである溝幅の0.10~0.90倍であることが好ましい。
【0021】
本開示のタイヤにおいて、前記主溝の一方の溝壁である第1溝壁には、前記トレッド部の踏面に表れる溝縁よりも溝幅方向の外側に凹む第1凹部が少なくとも1つ設けられ、前記第1凹部は、最も溝幅方向の外側に凹んだ最深部からタイヤ周方向の両側に向かって、前記溝縁からの凹み量が漸減していることが好ましい。
【0022】
本開示のタイヤにおいて、前記第1凹部は、前記溝壁の溝底側に設けられていることが好ましい。
【0023】
本開示のタイヤにおいて、前記第1凹部は、前記最深部を通りかつ前記踏面に沿った断面において、円弧状の輪郭部分を有することが好ましい。
【0024】
本開示のタイヤにおいて、前記第1凹部は、前記最深部を通る溝横断面において、前記凹み量が前記最深部からタイヤ半径方向外側に向かって漸減していることが好ましい。
【0025】
本開示のタイヤにおいて、前記最深部における前記凹み量は、前記主溝の前記溝縁間の長さである溝幅の0.10~0.50倍であることが好ましい。
【0026】
本開示のタイヤにおいて、前記第1溝壁には、前記溝縁よりも溝幅方向の外側に凹み、かつ、前記溝縁からの凹み量がタイヤ周方向に一定である第2凹部が少なくとも1つ設けられていることが好ましい。
【0027】
本開示のタイヤにおいて、前記第2凹部の最大の前記凹み量は、前記第1凹部の前記最深部の前記凹み量よりも小さいことが好ましい。
【0028】
本開示のタイヤにおいて、前記第1溝壁には、前記第1凹部と前記第2凹部とがタイヤ周方向に交互に設けられていることが好ましい。
【0029】
本開示のタイヤにおいて、前記主溝の他方の溝壁である第2溝壁には、前記第1凹部が少なくとも1つ設けられていることが好ましい。
【0030】
本開示のタイヤにおいて、前記第1溝壁および前記第2溝壁には、それぞれ、複数の前記第1凹部が設けられ、前記第1溝壁に設けられた前記第1凹部と、前記第2溝壁に設けられた前記第1凹部とは、タイヤ周方向に交互に設けられていることが好ましい。
【0031】
本開示の一実施形態であるタイヤの作製手順について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本開示を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0032】
[トレッドパターン]
図1に、本開示の一実施形態に係るタイヤを例示するが、これに限定されるものではない。図1には、本開示のタイヤ1のトレッド部2の横断面図が示されている。なお、図1は、タイヤ1の正規状態におけるタイヤ回転軸を含む子午線断面図である。本開示のタイヤ1は、例えば、乗用車用の空気入りタイヤとして好適に用いられる。但し、このような態様に限定されるものではなく、本開示のタイヤ1は、例えば、重荷重用として用いられてもよい。
【0033】
本開示では、特に言及された場合を除き、タイヤの各部材の寸法および角度は、タイヤが正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤに空気が充填された状態で測定される。なお、測定時には、タイヤには荷重がかけられない。
【0034】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、JATMAであれば“標準リム”、TRAであれば“Design Rim”、ETRTOであれば“Measuring Rim”である。なお、前記の規格体系において定めを持たないサイズのタイヤの場合は、そのタイヤにリム組可能であり、リム/タイヤの間でエア漏れを発生させない最小径のリムのうち、最も幅の狭いものを指すものとする。
【0035】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば“最高空気圧”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”である。なお、前記の規格体系において定めを持たないサイズのタイヤの場合は、正規内圧を250kPaとする。
【0036】
「正規状態」は、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。なお、前記の規格体系において定めを持たないサイズのタイヤの場合は、そのタイヤが前記の最小リムにリム組みされかつ250kPaが充填され、しかも、無負荷の状態をいうものとする。
【0037】
「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば“最大負荷能力”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”である。なお、前記の規格体系において定めを持たないサイズのタイヤの場合、正規荷重WL(kg)は、正規状態で測定されたタイヤ断面幅をWt(mm)、タイヤ断面高さをH1(mm)、タイヤ外径をDt(mm)としたとき、下記式(4)および(5)により見積もることが可能である。
V={(Dt/2)2-(Dt/2-H1)2}×π×Wt ・・・(4)
L=0.000011×V+175 ・・・(5)
【0038】
図1に示されるように、トレッド部2には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の主溝3が設けられている。本開示では、タイヤ赤道Cと各トレッド端Teとの間に、タイヤ軸方向で互いに隣り合う主溝3が設けられ、計4本の主溝3が設けられているが、このような態様に限定されるものではない。なお、トレッド端Teとは、前記シー比S0を求めた際のトレッド接地面のタイヤ軸方向の最大位置である。
【0039】
本開示のタイヤのトレッドパターンは、トレッド部2の摩耗前後のシー比の変化(S50/S0)が前記に範囲にある溝形状を有するものであれば特に制限されない。
【0040】
各主溝3の溝幅W1は、例えば、トレッド幅TWの3.0~6.0%であることが好ましい。なお、本明細書において、特に断りの無い限り、主溝の溝幅とは、トレッド部2の踏面に表れる溝縁間の長さを意味する。トレッド幅TWは、前記正規状態における一方のトレッド端Teから他方のトレッド端Teまでのタイヤ軸方向の距離である。各主溝3の溝深さは、乗用車用の空気入りタイヤの場合、例えば、5~10mmであることが好ましい。
【0041】
本開示の一実施形態に係るタイヤにおいて、少なくとも1つの主溝3の溝壁には、前記トレッド部2の踏面に表れる溝縁6よりも溝幅方向の外側に凹む凹部が設けられている。
【0042】
図2には、本開示に係る主溝3の拡大平面図が示されている。図2において、主溝3の溝縁6は、実線で示され、トレッド部2を平面視したとき溝壁の輪郭7は、破線で示されている。また、主溝3の溝縁6と溝壁の輪郭7との間の凹んだ領域は、着色されている。
【0043】
図3には、図2で示された主溝3のA-A線断面図が示されている。図3に示されるように、主溝3は、両側の溝壁に、凹み量がタイヤ周方向に一定の凹部9が設けられている。凹部9は、例えば、最深部13と溝縁6との間に平面15が構成されているが、このような態様に限定されない。
【0044】
主溝3の溝容積を確保するために、最深部13における溝縁6からの凹み量c1およびc2は、それぞれ独立して、主溝3の溝縁間の長さである溝幅W1の0.05~0.45倍が好ましく、0.07~0.40倍がより好ましく、0.10~0.35倍がさらに好ましい。
【0045】
図4には、本開示に係る他の主溝3の拡大平面図が示されている。図4に示されるように、主溝3の一方の溝壁である第1溝壁10には、第1凹部11が少なくとも1つ設けられている。本開示の第1溝壁10には、複数の第1凹部11が設けられている。
【0046】
図4において、主溝3の溝縁6は、実線で示され、トレッド部2を平面視したとき溝壁の輪郭7は、破線で示されている。また、主溝3の溝縁6と溝壁の輪郭7との間の凹んだ領域は、着色されている。第1凹部11は、トレッド部2の踏面に表れる溝縁6よりも溝幅方向の外側に凹んでいる。第1凹部11は、トレッド部2が摩耗するに従って、主溝3の開口面積が大きくなるため、優れたウェット性能が長期にわたって発揮される。
【0047】
第1凹部11は、最も溝幅方向の外側に凹んだ最深部13からタイヤ周方向の両側に向かって、溝縁6からの凹み量が漸減している。これにより、上記最深部13のタイヤ周方向の両側において、上記主溝3に区分された陸部の剛性が確保され、陸部の溝縁側部分8(図1に示す)が主溝3の溝中心側に倒れ込むのを抑制することができる。また、第1凹部11は、陸部の剛性をタイヤ周方向に滑らかに変化させるため、上記溝縁側部分8が局
部的に変形するのを抑制する。従って、優れた操縦安定性能が得られる。
【0048】
一般に、タイヤ周方向に連続して延びる主溝は、ウェット走行時、水をタイヤ進行方向の後方に排出するが、路面上の水の量が多い場合には、水の一部をタイヤ進行方向の前方に押し退ける傾向がある。本開示の主溝3は、上述の第1凹部11によって、水の一部をタイヤ進行方向の前方かつタイヤ軸方向の外側に押し退けることができ、ひいては押し退けた水がトレッド部2と路面との間に入り込むことを抑制する。また、摩耗するに従って、溝面積が大きくなるため、従来の溝と比較して、摩耗の進行に伴う溝容積の減少を遅らせることができる。
【0049】
第1凹部11は、トレッド部2の踏面に沿った断面における円弧状の輪郭部分7について、その曲率がタイヤ半径方向内側に向かって漸増していることが好ましい。このような第1凹部11は、溝縁側部分8の変形を抑制しつつ、主溝3の溝容積を大きく確保できる。
【0050】
本開示では、上記輪郭部分7の曲率半径r1は、溝幅W1の1.5~3.0倍が好ましい。また、第1凹部11のタイヤ周方向の長さL1は、主溝3の溝幅W1の2.0~3.0倍が好ましい。
【0051】
図5(a)は、図4のB-B線断面図であり、第1溝壁10に設けられた第1凹部11の最深部13を通る溝横断面図に相当する。図5(a)に示されるように、第1凹部11は、主溝3の溝壁の溝底側に設けられていることが好ましい。
【0052】
本開示の第1凹部11は、例えば、溝幅方向の外側に凹んだ凹面部17と、凹面部17のタイヤ半径方向外側に連なり、主溝3の溝中心線側に凸となる凸面部18とを含む。凹面部17および凸面部18は、それぞれ、滑らかな円弧状に湾曲していることが好ましい。但し、第1凹部11は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、最深部13と溝縁6との間に平面が構成されるものでも良い。
【0053】
第1凹部11は、最深部13を通る溝横断面において、凹み量が最深部13からタイヤ半径方向外側に向かって漸減していることが好ましい。主溝3の溝容積を確保するために、最深部13における溝縁6からの凹み量d1は、主溝3の溝縁間の長さである溝幅W1の0.10倍以上が好ましく、0.20倍以上がより好ましく、0.30倍以上がさらに好ましい。また、上記凹み量d1は特に制限されないが、加硫金型の主溝形成用のリブをトレッド部から取り出し易くする観点から、溝幅W1の0.50倍以下が好ましい。
【0054】
図4に示されるように、第1溝壁10には、さらに、少なくとも1つの第2凹部12が設けられていることが好ましい。好ましい態様では、第1溝壁10には、複数の第2凹部12が設けられている。さらに好ましい態様として、本開示の第1溝壁10には、第1凹部11と第2凹部12とがタイヤ周方向に交互に設けられている。第2凹部12は、溝縁6よりも溝幅方向の外側に凹み、かつ、溝縁6からの凹み量がタイヤ周方向に一定である。
【0055】
第2凹部12は、例えば、第1凹部11よりも小さいタイヤ周方向の長さを有していることが好ましい。第2凹部12のタイヤ周方向の長さL2は、例えば、第1凹部11のタイヤ周方向の長さL1の0.45~0.60倍が好ましい。このような第2凹部12は、操縦安定性能とウェット性能とをバランス良く高めることができる。
【0056】
図5(b)は、図2のC-C線断面図であり、第1溝壁10に設けられた第2凹部12を通る溝横断面図に相当する。図5(b)に示されるように、第2凹部12は、例えば、最深部14と溝縁6との間に平面15が構成されているが、このような態様に限定されない。
【0057】
第2凹部12の平面15の角度θ1は、例えば、5~15°であることが好ましい。なお、角度θ1は、溝縁6を通るトレッド法線と平面15との間の角度である。このような第2凹部12は、トレッド部が摩耗した後のウェット性能を向上させることができる。
【0058】
同様の観点から、第2凹部12の最大の凹み量d2は、第1凹部11の最深部13の凹み量d1よりも小さいことが好ましい。また、第2凹部12の上記凹み量d2は、主溝3の溝幅W1の0.01~0.25倍が好ましく、0.03~0.20倍がより好ましく、0.05~0.15倍がさらに好ましい。
【0059】
図4に示されるように、主溝3の他方の溝壁である第2溝壁20には、上述した第1凹部11が少なくとも1つ設けられている。さらに、第2溝壁20には、上述した第2凹部12が少なくとも1つ設けられている。なお、図5(a)には、第2溝壁20に設けられた第2凹部12の溝横断面図が示され、図5(b)には、第2溝壁20に設けられた第1凹部11の溝横断面図が示されている。
【0060】
図4に示されるように、好ましい態様では、第2溝壁20には、第1凹部11および第2凹部12がそれぞれ複数設けられている。さらに好ましい態様として、本開示の第2溝壁20には、第1凹部11と第2凹部12とがタイヤ周方向に交互に設けられている。これにより、トレッド部が摩耗した後の操縦安定性能およびウェット性能がバランスよく改善される。
【0061】
本開示では、第2溝壁20に設けられた第1凹部11は、例えば、第1溝壁10に設けられた第2凹部12と向き合っている。第2溝壁20に設けられた第2凹部12は、例えば、第1溝壁10に設けられた第1凹部11と向き合っている。これにより、第1溝壁10に設けられた第1凹部11と、第2溝壁20に設けられた第1凹部11とは、例えば、タイヤ周方向に交互に設けられている。このような凹部の配置により、主溝の気柱共鳴音が大きくなるのを抑制することができる。
【0062】
図6には、本開示に係る他の主溝3の拡大平面図が示されている。図7には、図6で示された主溝3のD-D線断面図が示されている。図6および図7に示されるように、主溝3は、例えば、溝縁6からタイヤ半径方向内側に向かって溝幅が漸減する溝幅漸減部21を有している。また、第1凹部11は、溝幅漸減部21よりもタイヤ半径方向内側に配されている。このような主溝3は、タイヤ新品時において陸部の溝縁側部分8が変形するのをさらに抑制でき、優れた操縦安定性が得られる。
【0063】
溝幅漸減部21は、例えば、一定の断面形状でタイヤ周方向に延びている。溝幅漸減部21の深さd4は、例えば、主溝3の深さd3の0.30~0.50倍が好ましい。
【0064】
第1凹部11は、例えば、溝幅漸減部21のタイヤ半径方向内側において、タイヤ周方向に複数設けられている。この実施形態では、第1溝壁10に設けられた第1凹部11と、第2溝壁20に設けられた第1凹部11とが、溝幅漸減部21のタイヤ半径方向内側において、タイヤ周方向に交互に設けられている。このような主溝3は、陸部の局部的な変形を抑制し、優れた操縦安定性を確保しつつ、ウェット性能を長期に亘って発揮することができる。
【0065】
主溝3の溝容積を確保するために、主溝3の合計凹み量は、主溝3の溝幅W1の0.10~0.90倍が好ましく、0.15~0.80倍がより好ましく、0.20~0.70倍がさらに好ましい。なお、本明細書において「主溝の合計凹み量」とは、主溝3が図3の態様である場合はc1+c2を指し、主溝3が図5の態様である場合は、d1+d2を指し、主溝3が図7の態様である場合は、d1を指す。
【0066】
図8には、本開示の他の実施形態に係るタイヤのトレッド部2の横断面図が示されている。図8に示されるように、主溝3の間には、トレッド部2が摩耗すると出現する隠れ溝4が設けられている。このような態様によっても、トレッド部2の摩耗後のシー比S50/S0を大きくすることができる。隠れ溝4は、タイヤ周方向に連続していることが好ましい。
【0067】
図8において、隠れ溝4は、溝幅が2mm未満のサイプ5を通じてトレッド面と連通しているが、このような態様に限定されず、ジグザグ状や湾曲して連通していてもよい。また、隠れ溝4は、トレッド面との連結部を設けずに、タイヤ半径方向内側に予め空隙が生じるようにチューブ状のゴムを埋設してもよい。
【0068】
図8において、主溝3の溝幅W1はタイヤ半径方向に一定であるが、このような態様に限定されない。例えば、図2図7に示すように、主溝3の溝壁には、トレッド部2の踏面に表れる溝縁6よりも溝幅方向の外側に凹む凹部が設けられていてもよい。
【0069】
本開示のトレッドは、少なくともトレッド面を構成する第一のゴム層および第一のゴム層の半径方向内側に隣接する第二のゴム層を有することが好ましい。第一のゴム層は、典型的にはキャップトレッドに相当する。第二のゴム層は、典型的にはベーストレッドまたはアンダートレッドに相当する。また、本開示の目的が達成される限り、第二のゴム層とベルトの外側層との間に、さらに1または2以上のゴム層を有していてもよい。
【0070】
[第一のゴム層]
第一のゴム層を構成するゴム組成物について以下に説明する。
【0071】
<ゴム成分>
第一のゴム層を構成するゴム組成物は、ゴム成分としてイソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。ゴム成分は、SBRおよびBRを含むゴム成分としてもよく、イソプレン系ゴム、SBR、およびBRを含むゴム成分としてもよい。またゴム成分は、SBRおよびBRのみからなるゴム成分としてもよく、イソプレン系ゴム、SBR、およびBRのみからなるゴム成分としてもよい。
【0072】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ業界において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0074】
イソプレン系ゴム(好ましくは天然ゴム、より好ましくは、非改質天然ゴム(NR))を含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、ウェット性能の観点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましい。また、イソプレン系ゴムを含有する場合の含有量の下限値は特に制限されないが、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上とすることができる。
【0075】
(SBR)
SBRとしては特に限定されず、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。さらに、これらSBRの水素添加物(水素添加SBR)等も使用することができる。なかでもS-SBRが好ましく、変性S-SBRがより好ましい。
【0076】
変性SBRとしては、通常この分野で使用される官能基が導入された変性SBRが挙げられる。上記官能基としては、例えば、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1~6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、アミノ基、アミド基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、水酸基等の官能基が挙げられる。また、変性SBRとしては、水素添加されたもの、エポキシ化されたもの、スズ変性されたもの等を挙げることができる。
【0077】
SBRとしては油展SBRを用いることもできるし、非油展SBRを用いることもできる。油展SBRを用いる場合、SBRの油展量、すなわち、SBRに含まれる油展オイルの含有量は、SBRのゴム固形分100質量部に対して、10~50質量部であることが好ましい。
【0078】
前記で列挙されたSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記で列挙されたSBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)、ZSエラストマー(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0079】
SBRのスチレン含量は、トレッド部での減衰性の確保およびウェットグリップ性能の観点から、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましい。また、グリップ性能の温度依存性および耐摩耗性能の観点からは、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのスチレン含量は、1H-NMR測定により算出される。
【0080】
SBRのビニル含量は、シリカとの反応性の担保、ゴム強度や耐摩耗性能の観点から10モル%以上が好ましく、13モル%以上がより好ましく、16モル%以上がさらに好ましい。また、SBRのビニル含量は、温度依存性の増大防止、ウェットグリップ性能、破断伸び、および耐摩耗性能の観点から、70モル%以下が好ましく、65モル%以下がより好ましく、60モル%以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される。
【0081】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から15万以上が好ましく、20万以上がより好ましく、25万以上がさらに好ましい。また、Mwは、架橋均一性等の観点から、250万以下が好ましく、200万以下がより好ましく、150万以下がさらに好ましい。なお、SBRのMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(例えば、東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0082】
SBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、ウェット性能の観点から、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、45質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上が特に好ましい。また、SBRのゴム成分中の含有量の上限値は特に制限されず、100質量%としてもよい。
【0083】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス含量が50質量%未満のBR(ローシスBR)、シス含量が90質量%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。変性BRとしては、上記SBRで説明したのと同様の官能基等で変性されたBRが挙げられる。これらのBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)、宇部興産(株)、JSR(株)等より市販されているものを使用することができる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。シス含量は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは96質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。なお、本明細書において、シス含量(シス-1,4-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析により算出される値である。
【0085】
希土類系BRとしては、希土類元素系触媒を用いて合成され、ビニル含量が、好ましくは1.8モル%以下、より好ましくは1.0モル%以下、さらに好ましくは0.8%モル以下であり、シス含量が、好ましくは95質量%以上、より好ましくは96質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0086】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0087】
変性BRとしては、末端および/または主鎖がケイ素、窒素および酸素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含む官能基によって変性された変性ブタジエンゴム(変性BR)が好適に用いられる。
【0088】
その他の変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)等が挙げられる。また、変性BRは、水素添加されていないもの、水素添加されているもののいずれであってもよい。
【0089】
前記で列挙されたBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
BRのガラス転移温度(Tg)は、低温脆性防止の観点から、-14℃以下が好ましく、-17℃以下がより好ましく、-20℃以下がさらに好ましい。一方、該Tgの下限値は特に制限されないが、耐摩耗性の観点から、-150℃以上が好ましく、-120℃以上がより好ましく、-110℃以上がさらに好ましい。なお、BRのガラス転移温度は、JIS K 7121に従い、昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量測定(DSC)を行って測定される値である。
【0091】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から、30万以上が好ましく、35万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性等の観点からは、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(例えば、東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0092】
BRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、ウェット性能の観点から、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、35質量%以下が特に好ましい。また、BRを含有する場合の含有量の下限値は特に制限されないが、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上とすることができる。
【0093】
(その他のゴム成分)
本開示に係るゴム成分として、前記のイソプレン系ゴム、SBR、およびBR以外のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、タイヤ工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等が挙げられる。これらその他のゴム成分は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
<フィラー>
第一のゴム層を構成するゴム組成物は、フィラーとして、カーボンブラックおよび/またはシリカを含有することが好ましい。また、フィラーは、カーボンブラックおよびシリカのみからなるフィラーとしてもよい。
【0095】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、タイヤ工業において一般的なものを適宜利用することができる、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等が挙げられる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0096】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、破断時伸びの観点から、50m2/g以上が好ましく、70m2/g以上がより好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、200m2/g以下が好ましく、150m2/g以下がより好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定された値である。
【0097】
カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸油量は、補強性の観点から、30mL/100g以上が好ましく、50mL/100g以上がより好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、400mL/100g以下が好ましく、350mL/100g以下がより好ましい。なお、カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K 6221に準じて測定される値である。
【0098】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐候性や補強性の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、低燃費性能や耐摩耗性能の観点からは、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましく、20質量部以下が特に好ましい。
【0099】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。シリカは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0100】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、低燃費性能および耐摩耗性能の観点から、140m2/g以上が好ましく、170m2/g以上がより好ましく、200m2/g以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0101】
シリカの平均一次粒子径は、20nm以下が好ましく、18nm以下がより好ましい。該平均一次粒子径の下限は特に限定されないが、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、5nm以上がさらに好ましい。シリカの平均一次粒子径が前期の範囲であることによって、シリカの分散性をより改善でき、補強性、破壊特性、耐摩耗性をさらに改善できる。なお、シリカの平均一次粒子径は、透過型または走査型電子顕微鏡により観察し、視野内に観察されたシリカの一次粒子を400個以上測定し、その平均により求めることができる。
【0102】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェット性能の観点から、30質量部以上が好ましく、40質量部以上がより好ましく、50質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、130質量部以下が好ましく、110質量部以下がより好ましく、95質量部以下がさらに好ましい。
【0103】
(その他のフィラー)
フィラーとしては、カーボンブラック、シリカ以外に、さらにその他のフィラーを用いてもよい。そのようなフィラーとしては、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、タルク、クレー等この分野で一般的に使用されるフィラーをいずれも用いることができる。これらのフィラーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0104】
フィラー全体のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェット性能の観点から、40質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、60質量部以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および破断時伸びの観点からは、150質量部以下が好ましく、130質量部以下がより好ましく、110質量部以下がさらに好ましい。
【0105】
シリカおよびカーボンブラックの合計100質量%中のシリカの含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上が特に好ましい。また、該シリカの含有率は、99質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましい。
【0106】
(シランカップリング剤)
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、タイヤ工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができるが、例えば、下記のメルカプト系シランカップリング剤;ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル系シランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系シランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系シランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系シランカップリング剤;等が挙げられる。なかでも、スルフィド系シランカップリング剤および/またはメルカプト系シランカップリング剤を含有することが好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0107】
メルカプト系シランカップリング剤は、下記式(1)で表される化合物、および/または下記式(2)で表される結合単位Aと下記式(3)で表される結合単位Bとを含む化合物であることが好ましい。
【化1】
(式中、R101、R102、およびR103は、それぞれ独立して、炭素数1~12のアルキル、炭素数1~12のアルコキシ、または-O-(R111-O)z-R112(z個のR111は、それぞれ独立して、炭素数1~30の2価の炭化水素基を表し;R112は、炭素数1~30のアルキル、炭素数2~30のアルケニル、炭素数6~30のアリール、または炭素数7~30のアラルキルを表し;zは、1~30の整数を表す。)で表される基を表し;R104は、炭素数1~6のアルキレンを表す。)
【化2】
【化3】
(式中、xは0以上の整数を表し;yは1以上の整数を表し;R201は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシルもしくはカルボキシルで置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル、炭素数2~30のアルケニル、または炭素数2~30のアルキニルを表し;R202は、炭素数1~30のアルキレン、炭素数2~30のアルケニレン、または炭素数2~30のアルキニレンを表し;ここにおいて、R201とR202とで環構造を形成してもよい。)
【0108】
式(1)で表される化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシランや、下記式(4)で表される化合物(エボニックデグザ社製のSi363)等が挙げられ、下記式(4)で表される化合物を好適に使用することができる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【化4】
【0109】
式(2)で示される結合単位Aと式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物としては、例えば、モメンティブ社等により市販されているものが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0110】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0111】
上記のフィラーおよびシランカップリング剤の種類および含有量を変化させることにより、ゴム層の熱劣化後の硬度変化を適宜調整することができる。
【0112】
<可塑剤>
第一のゴム層を構成するゴム組成物は、高いウェット性能を得るために、可塑剤を配合することが好ましい。軟化剤としては、例えば、樹脂成分、オイル、液状ポリマー、エステル系可塑剤等が挙げられる。
【0113】
樹脂成分としては、特に限定されないが、タイヤ工業で慣用される石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられ、これらの樹脂成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0114】
石油樹脂としては、例えば、C5系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、C5C9系石油樹脂が挙げられる。これらの石油樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0115】
本明細書において「C5系石油樹脂」とは、C5留分を重合することにより得られる樹脂をいう。C5留分としては、例えば、シクロペンタジエン、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等の炭素数4~5個相当の石油留分が挙げられる。C5系石油樹脂しては、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)が好適に用いられる。
【0116】
本明細書において「芳香族系石油樹脂」とは、C9留分を重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C9留分としては、例えば、ビニルトルエン、アルキルスチレン、インデン、メチルインデン等の炭素数8~10個相当の石油留分が挙げられる。芳香族系石油樹脂の具体例としては、例えば、
クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、および芳香族ビニル系樹脂が好適に用いられる。芳香族ビニル系樹脂としては、経済的で、加工しやすく、発熱性に優れているという理由から、α-メチルスチレンもしくはスチレンの単独重合体またはα-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましく、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。芳香族ビニル系樹脂としては、例えば、クレイトン社、イーストマンケミカル社等より市販されているものを使用することができる。
【0117】
本明細書において「C5C9系石油樹脂」とは、前記C5留分と前記C9留分を共重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C5留分およびC9留分としては、前記の石油留分が挙げられる。C5C9系石油樹脂としては、例えば、東ソー(株)、LUHUA社等より市販されているものを使用することができる。
【0118】
テルペン系樹脂としては、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種からなるポリテルペン樹脂;前記テルペン化合物と芳香族化合物とを原料とする芳香族変性テルペン樹脂;テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料とするテルペンフェノール樹脂;並びにこれらのテルペン系樹脂に水素添加処理を行ったもの(水素添加されたテルペン系樹脂)が挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂の原料となる芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン等が挙げられる。テルペンフェノール樹脂の原料となるフェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノール等が挙げられる。
【0119】
ロジン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化等で変性したロジン変性樹脂等が挙げられる。
【0120】
フェノール系樹脂としては、特に限定されないが、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールアセチレン樹脂、オイル変性フェノールホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0121】
樹脂成分の軟化点は、グリップ性能の観点から、60℃以上が好ましく、65℃以上がより好ましい。また、加工性、ゴム成分とフィラーとの分散性向上という観点からは、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度として定義され得る。
【0122】
樹脂成分を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、乗り心地性能およびウェット性能の観点から、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましく、20質量部以下が特に好ましい。
【0123】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、動物油脂等が挙げられる。前記プロセスオイルとしてはパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルが挙げられる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、オイル芳香族系プロセスオイルを再抽出したTreated Distillate Aromatic Extract(TDAE)、アスファルトとナフテン油の混合油であるアロマ代替オイル、軽度抽出溶媒和物(mild extraction solvates)(MES)、および重ナフテン系オイル等が挙げられる。
【0124】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および耐久性能の観点からは、90質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、75質量部以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0125】
液状ポリマーとしては、例えば、液状スチレンブタジエンポリマー、液状ブタジエンポリマー、液状イソプレンポリマー、液状スチレンイソプレンポリマー、液状ファルネセンゴム等が挙げられ、液状ファルネセンゴムが好ましい。これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0126】
液状ファルネセンゴムは、ファルネセンの単独重合体(ファルネセン単独重合体)であってもよいし、ファルネセンとビニルモノマーとの共重合体(ファルネセン-ビニルモノマー共重合体)であってもよい。ビニルモノマーとしては、スチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、tert-ブトキシスチレン、ビニルベンジルジメチルアミン、(4-ビニルベンジル)ジメチルアミノエチルエーテル、N,N-ジメチルアミノエチルスチレン、N,N-ジメチルアミノメチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、2-t-ブチルスチレン、3-t-ブチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、ビニルピリジン、ジフェニルエチレン、3級アミノ基含有ジフェニルエチレンなどの芳香族ビニル化合物や、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン化合物などが挙げられる。なかでも、スチレン、ブタジエンが好ましい。すなわち、ファルネセン-ビニルモノマー共重合体としては、ファルネセンとスチレンとの共重合体(ファルネセン-スチレン共重合体)、ファルネセンとブタジエンとの共重合体(ファルネセン-ブタジエン共重合体)が好ましい。ファルネセン-スチレン共重合体を配合することで、ウェット性能の改善効果を高めることができ、ファルネセン-ブタジエン共重合体を配合することで、低燃費性および耐摩耗性の改善効果を高めることができる。
【0127】
液状ポリマーを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましく、20質量部以上が特に好ましい。また、液状ポリマーの含有量は、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましい。
【0128】
可塑剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量(複数の可塑剤を併用する場合は全ての合計量)は、ウェット性能の観点から、10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましく、35質量部以上が特に好ましい。また、加工性の観点からは、130質量部以下が好ましく、110質量部以下がより好ましく、95質量部以下がさらに好ましい。
【0129】
<その他の成分>
第一のゴム層を構成するゴム組成物は、前記成分以外にも、タイヤ工業において一般的に使用される配合剤、例えば、老化防止剤、ワックス、ステアリン酸、酸化亜鉛、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0130】
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられ、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0131】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能やウェット性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0132】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化防止の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0133】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加硫速度の観点から、0.2質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加工性の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0134】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加硫速度の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0135】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0136】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。また、劣化防止の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下がさらに好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0137】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0138】
加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤が挙げられ、なかでも、所望の効果がより好適に得られる点から、スルフェンアミド系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、およびグアニジン系加硫促進剤が好ましい。
【0139】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N-(tert-ブチル)-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等が挙げられる。チアゾール系加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。グアニジン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアニジン(DPG)、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等が挙げられる。これらの加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0140】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8.0質量部以下が好ましく、7.0質量部以下がより好ましく、6.0質量部以下がさらに好ましく、5.0質量部以下が特に好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0141】
上記の加硫剤および加硫促進剤の種類および含有量を変化させることにより、ゴム層の熱劣化後の硬度変化を適宜調整することができる。
【0142】
[第二のゴム層]
第二のゴム層を構成するゴム組成物について以下に説明する。
【0143】
<ゴム成分>
第二のゴム層を構成するゴム組成物は、ゴム成分としてイソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。ゴム成分は、イソプレン系ゴムおよびBRを含むゴム成分としてもよく、イソプレン系ゴム、SBR、およびBRを含むゴム成分としてもよい。またゴム成分は、イソプレン系ゴムおよびBRのみからなるゴム成分としてもよく、イソプレン系ゴム、SBR、およびBRのみからなるゴム成分としてもよい。
【0144】
イソプレン系ゴムを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、操縦安定性能の観点から、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。また、イソプレン系ゴムのゴム成分中の含有量は、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
【0145】
SBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、35質量%以下が特に好ましい。また、BRを含有する場合の含有量の下限値は特に制限されないが、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上とすることができる。
【0146】
BRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、35質量%以下が特に好ましい。また、BRを含有する場合の含有量の下限値は特に制限されないが、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上とすることができる。
【0147】
<フィラー>
第二のゴム層を構成するゴム組成物は、フィラーとして、カーボンブラックおよび/またはシリカを含有することが好ましい。また、フィラーは、カーボンブラックおよびシリカのみからなるフィラーとしてもよく、カーボンブラックのみからなるフィラーとしてもよい。さらに、フィラーとしてカーボンブラックおよびシリカ以外のその他のフィラーを用いてもよい。カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、およびその他のフィラーとしては、第一のゴム層を構成するゴム組成物と同様のものを同様の態様で好適に使用できる。
【0148】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、対候性や補強性の観点から、20質量部以上が好ましく、25質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましく、35質量部以上が特に好ましい。また、カーボンブラックの含有量の上限は特に限定されないが、低燃費性能や加工性の観点から、120質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、90質量部以下がさらに好ましい。
【0149】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。また、シリカを含有する場合の含有量の下限値は特に制限されないが、例えば、1質量部以上、3質量部以上、5質量部以上、10質量部以上、15質量部以上とすることができる。
【0150】
<その他の成分>
第二のゴム層を構成するゴム組成物は、上記のゴム成分およびフィラー以外にも、従来、タイヤ工業に使用される配合剤や添加剤、例えば、可塑剤、老化防止剤、ワックス、ステアリン酸、酸化亜鉛、加硫剤、加硫促進剤等を必要に応じて適宜含有することができる。前記の配合剤や添加剤は、第一のゴム層を構成するゴム組成物と同様のものを同様の態様で好適に使用できる。
【0151】
第一のゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AETと前記第二のゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AEBとの差(AET-AEB)は、3~20質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましく、10~20質量%がさらに好ましく、12~16質量%が特に好ましい。アセトン抽出量の差を前記の範囲とすることにより、濃度勾配により走行中に第一のゴム層から第二のゴム層へとオイル等のアセトン抽出成分を移行させやすくし、第一のゴム層を硬化させやすくすることができると考えられる。
【0152】
第二のゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AEBに対する前記第一のゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AETの比(AET/AEB)は、1.25~5.0が好ましく、1.5~5.0がより好ましい。アセトン抽出量の比を前記の範囲とすることにより、濃度勾配により走行中に第一のゴム層から第二のゴム層へとオイル等のアセトン抽出成分を移行させやすくし、第一のゴム層を硬化させやすくすることができると考えられる。
【0153】
なお、該アセトン抽出量は、上記加硫ゴム組成物に含有される可塑剤中の有機低分子化合物の濃度の指標となるものである。アセトン抽出量は、JIS K 6229-3:2015に準拠して各加硫ゴム試験片を24時間アセトンに浸漬して可溶成分を抽出し、抽出前後の各試験片の質量を測定し、下記式により求めることができる。
アセトン抽出量(%)={(抽出前のゴム試験片の質量-抽出後のゴム試験片の質量)/(抽出前のゴム試験片の質量)}×100
【0154】
第一のゴム層を構成するゴム成分100質量部に対する可塑剤の含有量は、第二のゴム層を構成するゴム成分100質量部に対する可塑剤の含有量よりも多いことが好ましい。第一のゴム層における可塑剤の含有量を多くすることにより、走行中に可塑剤が第二のゴム層に移行しやすくなり、走行によるゴム層の硬化を好適に発現させることができる。
【0155】
本開示に係るゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。
【0156】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、ファイナル練り工程では、70~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。
【0157】
[タイヤ]
本開示に係るタイヤは、好ましくは前記第一のゴム層および第二のゴム層を含むトレッドを備えるものであり、空気入りタイヤ、非空気入りタイヤを問わない。また、空気入りタイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、高性能タイヤ等が挙げられる。なお、本明細書における高性能タイヤとは、グリップ性能に特に優れたタイヤであり、競技車両に使用する競技用タイヤをも含む概念である。
【0158】
第一のゴム層および第二のゴム層を含むトレッドを備えたタイヤは、前記のゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、ゴム成分に対して上記各成分を必要に応じて配合した未加硫のゴム組成物を、トレッドの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。
【実施例
【0159】
本開示を実施例に基づいて説明するが、本開示は、実施例のみに限定されるものではない。
【0160】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20
SBR:旭化成(株)製のタフデン4850(未変性S-SBR、スチレン含量:40質量%、ビニル含量:46モル%、Mw:35万、ゴム固形分100質量部に対してオイル分50質量部含有)
BR:宇部興産(株)製のUBEPOL BR(登録商標)150B(ビニル含量:1.5モル%、シス含量:97質量%、Tg:-108℃、Mw:44万)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製ショウブラックN330(N2SA:75m2/g、DBP給油量:102mL/100g)
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g、平均一次粒子径:15nm)
シランカップリング剤:モメンティブ社製のNXT-Z45(メルカプト系シランカップリング剤)
樹脂成分:東ソー(株)製のペトロタック100V(C5C9系石油樹脂、軟化点:96℃、Mw:3800、SP値:8.3)
液状ポリマー:(株)クラレ製のFB-823(ファルネセン-ブタジエン共重合体、質量基準の共重合比:ファルネセン/ブタジエン=80/20、Mw:50000、Tg:-78℃)
オイル:H&R(株)製のVivaTec500(TDAEオイル)
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華2種
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0161】
(実施例および比較例)
表1および表2に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150~160℃になるまで1~10分間混練りし、混練物を得た。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を用いて、キャップトレッド(第一のゴム層、厚さ:7mm)およびベーストレッド(第二のゴム層、厚さ:3mm)の形状に合わせて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃で加硫して試験用タイヤ(サイズ:205/65R15、リム:15×6.0J、内圧:230kPa)を得た。表3は、トレッド部2が隠れ溝を有さず、主溝3の平面視の形状および断面形状が図2図7のいずれかであるタイヤである。表4は、トレッド部2が隠れ溝4およびサイプ5を有するタイヤ(図8参照)である。各タイヤにおいて、主溝および隠れ溝の形状を変更することでS50/S0を調整した。
【0162】
各試験用タイヤを正規リムに装着させた後、トレッド部にインクを塗布し、最大負荷能力の70%の荷重を加えて紙に垂直に押し付け、トレッド部に塗布されたインクを転写することにより、タイヤの接地形状を得た。得られた接地形状の外輪により得られる面積を、全ての溝を埋めた状態でのトレッド接地面積の合計とし、インクが付いていない部分のうち、主溝を50%摩耗させた際に残っていることが可能な溝についての溝面積の合計を求めることにより、シー比S0を算出した。また、上記と同様の手法で、主溝を50%摩耗させた際のトレッド部の全ての溝を埋めた状態でのトレッド接地面積の合計、およびその際に残っている溝面積の合計を求めることにより、シー比S50を算出した。なお、主溝を50%摩耗させた際にベーストレッド(第二のゴム層)は露出していない。
【0163】
<第一のゴム層および第二のゴム層のアセトン抽出量(AE量)の測定>
加硫後の各ゴム試験片を24時間アセトンに浸漬し、可溶成分を抽出した。抽出前後の各試験片の質量を測定し、下記計算式によりアセトン抽出量を求めた。
アセトン抽出量(%)={(抽出前のゴム試験片の質量-抽出後のゴム試験片の質量)/(抽出前のゴム試験片の質量)}×100
【0164】
なお、前記第一のゴム層および第二のゴム層の各ゴム試験片は、各試験用タイヤのトレッドから切り出したものを用いた。第一のゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AETと第二のゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AEBとの差(AET-AEB)の値を表3および表4に示す。
【0165】
<タイヤ新品時および熱劣化後のゴム硬度の測定>
タイヤ新品時におけるタイヤの赤道面に一番近い陸部からタイヤ半径方向にトレッド部を構成するゴム全てを切り出したゴム片を、JIS K 6253-3:2012に準拠して23℃でタイプAデュロメータを接地面(トレッド表面)側から押し付けてゴム硬度Hs0を測定した。また、前記ゴム片を80℃の雰囲気下で168時間熱老化し、23℃まで放冷した後にタイプAデュロメータを接地面(トレッド表面)側から押し付けてゴム硬度Hs50を測定した。各試験用タイヤのHs50/Hs0の値を表3および表4に示す。
【0166】
<摩耗後の操縦安定性能>
新品時の各試験用タイヤおよび摩耗後の各試験用タイヤを、排気量2000ccのFF乗用車の四輪にそれぞれ装着し、ドライアスファルト面のテストコースにて実車走行を行った。テストドライバーによる120km/h走行時の、直進、車線変更、加減速時の各々のフィーリングに基づいてハンドリング特性を評価した。評価は1点~10点の整数値で行い、評点が高いほどハンドリング特性に優れる評価基準のもと、テストドライバー10名の合計点を算出した。対照タイヤ(表3では比較例2、表4では比較例11)の新品時の合計点を基準値(100)に換算し、摩耗後の各試験用タイヤの評価結果を、合計点に比例するように指数化して表示した。
【0167】
なお、摩耗後の各試験用タイヤは、新品タイヤの最も深い主溝の深さが新品時の50%となるようにトレッド部を摩耗させた後、このタイヤを80℃で7日間熱劣化させることにより作製した(以下同じ)。
【0168】
<摩耗後のウェット性能維持性能>
新品時の各試験用タイヤおよび摩耗後の各試験用タイヤを、排気量2000ccのFF乗用車の四輪にそれぞれ装着し、湿潤アスファルト面のテストコースにて実車走行を行った。テストドライバーによる120km/h走行時のウェットグリップおよび排水性(ハイドロプレーニング)につき、各々のフィーリングに基づいてウェット性能を評価した。評価は1点~10点の整数値で行い、評点が高いほどウェット性能に優れる評価基準のもと、テストドライバー10名の合計点を算出した。各試験タイヤについて、下記式により摩耗前後でウェット性能の評点の維持指数を計算し、対照タイヤ(表3では比較例2、表4では比較例11)の維持指数を100として換算し、各試験タイヤの摩耗後のウェット性能維持性能とした。数値が高いほど、摩耗前後でのウェット性能の変化が少なく、新品時のウェット性能が維持されており、良好であることを示す。
(対照タイヤのウェット性能維持指数)=(対照タイヤの摩耗後のウェット性能評点)/(対照タイヤの新品時のウェット性能評点)
(各試験用タイヤのウェット性能維持指数)=(各試験用タイヤの摩耗後のウェット性能評点)/(各試験用タイヤの新品時のウェット性能評点)
(各試験用タイヤのウェット性能維持性能)=(各試験用タイヤのウェット性能維持指数)/(対照タイヤのウェット性能維持指数)×100
【0169】
摩耗後の操縦安定性能および摩耗後のウェット性能維持性能の総合性能(摩耗後の操縦安定性能指数および摩耗後のウェット性能維持性能指数の総和)は、200超を性能目標値とする。
【0170】
【表1】
【0171】
【表2】
【0172】
【表3】
【0173】
【表4】
【0174】
表1~表4の結果より、熱劣化後の硬度変化を所定の範囲としたゴム層により構成され、かつタイヤ新品時のシー比に対する摩耗後のシー比が所定の範囲である溝形状を有するトレッドを備えた本開示のタイヤは、摩耗後の操縦安定性能に優れ、かつ摩耗後のウェット性能の低下が抑制されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本開示のタイヤは、摩耗後の操縦安定性能に優れ、かつ摩耗後のウェット性能の低下が少ないことから、長期にわたって操縦安定性能およびウェット性能を発揮し得るタイヤとして有用である。
【符号の説明】
【0176】
1・・・タイヤ
2・・・トレッド部
3・・・主溝
4・・・隠れ溝
5・・・サイプ
6・・・溝縁
7・・・溝壁の輪郭
8・・・陸部の溝縁側部分
9・・・凹部
10・・・第1溝壁
11・・・第1凹部
12・・・第2凹部
13、14・・・最深部
15・・・平面
17・・・凹面部
18・・・凸面部
20・・・第2溝壁
21・・・溝幅漸減部
図1
図2
図3
図4
図5
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図8