(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】エレベーターシステム
(51)【国際特許分類】
B66B 5/02 20060101AFI20230110BHJP
G01V 1/00 20060101ALI20230110BHJP
B66B 3/00 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B66B5/02 P
G01V1/00 D
B66B3/00 L
(21)【出願番号】P 2022551325
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2022015683
【審査請求日】2022-08-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國武 和広
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智史
(72)【発明者】
【氏名】大森 陽太
(72)【発明者】
【氏名】宮川 健
(72)【発明者】
【氏名】平井 敬秀
(72)【発明者】
【氏名】安井 琢也
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-200177(JP,A)
【文献】特開2017-15604(JP,A)
【文献】特開2019-89620(JP,A)
【文献】特開2016-78944(JP,A)
【文献】特開2012-56701(JP,A)
【文献】特開2012-121710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/02
B66B 3/00
G01V 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度センサを有し、発生した地震の揺れの大きさを前記加速度センサによって測定する地震計と、
昇降路の内部のかごの運行を制御し、前記地震計の前記加速度センサの測定値からオフセット誤差の影響を除いた値に基づいて地震の揺れの大きさを検出する制御盤と、
を備え、
前記制御盤は、
前記かごの運行
状態を示す第1の運行情報と、前記かごの内部の物体の移動状況を示す第2の運行情報と、を用いて、前記かごの運行に関する複数の条件が満されているか否かを判定する判定部と、
前記判定部によって前記複数の条件が満たされていると判定された時に前記地震計の前記加速度センサが測定した測定値に基づいて、前記オフセット誤差の値を演算する処理部と、
を有するエレベーターシステム。
【請求項2】
前記複数の条件には、第1条件と第2条件と第3条件とが含まれ、
前記第1条件は、前記かごの運行が通常運行であるときに成立し、
前記第2条件は、前記かごが停止しているときに成立し
前記第3条件は、物体が前記かごに乗車している途中でないとき、かつ物体が前記かごから降車している途中でないときに成立し、
前記判定部は、前記第1条件、前記第2条件、および前記第3条件の全てが成立している場合に、前記複数の条件が満たされていると判定する請求項1に記載のエレベーターシステム。
【請求項3】
前記判定部は、前記地震計の前記加速度センサの測定値の情報を用いずに前記複数の条件を満たすか否かを判定する請求項1または請求項2に記載のエレベーターシステム。
【請求項4】
前記地震計は、前記昇降路の内壁と連結された昇降路機器に取り付けられた請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のエレベーターシステム。
【請求項5】
前記地震計は、前記かごまたは釣合おもりの移動を案内するガイドレールに取り付けられた請求項4に記載のエレベーターシステム。
【請求項6】
前記地震計は、巻上機が載せられた台であって前記かごまたは釣合おもりの移動を案内するガイドレールに支持された機械台に取り付けられた請求項4に記載のエレベーターシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレベーターシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、エレベーターシステムを開示する。当該エレベーターシステムにおいて、地震計は、加速度を測定することで振動を検出する。地震計は、検出した振動が地震による振動でなくノイズであると判定した場合に、検出した振動に基づいてオフセット補正を行う。地震計は、オフセット補正が行われた測定値に基づいて、地震による振動を検出し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のエレベーターシステムにおいて、ノイズと判定される振動の原因は、複数の種類の事象が想定される。当該振動の種類は、原因となる事象の種類に応じて異なる。このため、原因となる事象の種類によっては、その後行われるオフセット補正の精度が低下する恐れがある。
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされた。本開示の目的は、オフセット補正の精度を向上させることができるエレベーターシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るエレベーターシステムは、加速度センサを有し、発生した地震の揺れの大きさを前記加速度センサによって測定する地震計と、昇降路の内部のかごの運行を制御し、前記地震計の前記加速度センサの測定値からオフセット誤差の影響を除いた値に基づいて地震の揺れの大きさを検出する制御盤と、を備え、前記制御盤は、前記かごの運行状態を示す第1の運行情報と、前記かごの内部の物体の移動状況を示す第2の運行情報と、を用いて、前記かごの運行に関する複数の条件が満されているか否かを判定する判定部と、前記判定部によって前記複数の条件が満たされていると判定された時に前記地震計の前記加速度センサが測定した測定値に基づいて、前記オフセット誤差の値を演算する処理部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、複数の条件が満たされたと判定された場合に、オフセット誤差の情報が作成される。このため、オフセット補正の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1におけるエレベーターシステムが設置された建物の概要を示す図である。
【
図2】実施の形態1におけるエレベーターシステムの地震計が測定する加速度の出力値を示す図である。
【
図3】実施の形態1におけるエレベーターシステムのブロック図である。
【
図4】実施の形態1におけるエレベーターシステムの制御盤が行う補正処理の概要を説明するためのフローチャートである。
【
図5】実施の形態1におけるエレベーターシステムの制御盤の動作の概要を説明するためのフローチャートである。
【
図6】実施の形態1におけるエレベーターシステムの制御盤のハードウェア構成図である。
【
図7】実施の形態1におけるエレベーターシステムが設置された建物の別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示を実施するための形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には同一の符号が付される。当該部分の重複説明は適宜に簡略化ないし省略される。
【0010】
実施の形態1.
図1は実施の形態1におけるエレベーターシステムが設置された建物の概要を示す図である。
【0011】
図1に示されるように、エレベーターシステム1は、建物2に設けられる。昇降路3は、建物2の各階を貫く。
【0012】
複数のガイドレール4は、昇降路機器として、昇降路3の内部に設けられる。具体的には、複数のガイドレール4の各々は、昇降路3の床面に支持される。複数のガイドレール4の各々は、昇降路3の床面から昇降路3の上部まで延びる。複数のガイドレール4の各々は、昇降路3の内壁に連結されることで固定される。
【0013】
なお、昇降路機器は、昇降路3の内壁に直接的または間接的に連結された機器である。即ち、昇降路機器は、昇降路3の内壁とボルト等によって直接的に連結された機器、または昇降路3の内壁に直接的に連結された機器とボルト等によって連結された機器である。
【0014】
機械台5は、昇降路機器として、昇降路3の内部に設けられる。機械台5は、複数のガイドレール4の各々に設けられる。機械台5は、複数のガイドレール4の各々に鉛直方向に支持される。なお、機械台5は、さらに昇降路3の内壁に固定されることで、水平方向に支持されてもよい。
【0015】
巻上機6は、機械台5の上面に載せられる。巻上機6は、鉛直方向において機械台5に支持される。即ち、機械台5は、巻上機6を支持する台である。主ロープ7は、巻上機6に巻き掛けられる。
【0016】
かご8は、昇降路3の内部において、主ロープ7の一側に吊られる。かご8は、複数のガイドレール4のうちの複数のかご用ガイドレール4aに隣接する。釣合おもり9は、昇降路3の内部において、主ロープ7の他側に吊られる。釣合おもり9は、複数のガイドレール4のうちの複数のおもり用ガイドレール4bに隣接する。
【0017】
制御盤10は、機械台5などに設けられる。制御盤10は、エレベーターシステム1を全体的に制御し得る。
【0018】
2つの地震計11の各々は、地震が発生したこと、および地震による揺れの大きさを検出する機器である。2つの地震計11の各々は、同様の構成を備える。地震計11は、加速度センサを有する。地震計11は、加速度センサの測定値の情報を制御盤10へ出力し得る。この際、地震計11は、測定値が規定の閾値を超えたこと、即ち地震が発生したことを示す情報を併せて出力してもよい。
【0019】
2つの地震計のうちの第1地震計11aは、複数のガイドレール4のうちの1つの側面に固定される。2つの地震計のうちの第2地震計11bは、機械台5に設けられる。
【0020】
なお、図示されないが、昇降路3の床面には、床面地震計が更に設けられてもよい。この場合、床面地震計は、地震計11と同様の構成を備えていてもよい。床面地震計は、建物2が建てられた地盤の揺れを2つの地震計11よりも正確に検出し得る。第1地震計11aおよび第2地震計11bは、床面地震計が検出する周波数とは異なる周波数の揺れ、および建物2の共振による揺れ、等の床面地震計が測定できない揺れをより正確に測定し得る。
【0021】
エレベーターシステム1の運行状態が通常運行の状態である場合、制御盤10は、巻上機6を回転させる。主ロープ7は、巻上機6の回転に追従して移動する。かご8と釣合おもり9とは、主ロープ7の移動に追従して互いに反対方向に昇降する。
【0022】
この際、かご8は、複数のかご用ガイドレール4aに案内されながら昇降する。具体的には、かご8は、複数のかご用ガイドレール4aのいずれかと接触しながら、またはかご用ガイドレール4aのいずれかに対して離れた状態と接触した状態とを繰り返しながら、複数のかご用ガイドレール4aの長手方向に沿って移動する。釣合おもり9は、かご8が複数のかご用ガイドレール4aに案内される場合と同様に、複数のおもり用ガイドレール4bに案内されながら昇降する。また、かご8が規定の時間以上可動しない場合、制御盤10は、かご8を通常運行における休止状態とする。
【0023】
建物2が建てられた地域で地震が発生した場合、2つの地震計11は、当該地震によって発生した揺れの加速度を測定する。この際、2つの地震計11の各々は、測定した加速度に基づいて、地震が発生したことを検出してもよい。2つの地震計11の各々は、測定した揺れの加速度の値を含む地震情報を制御盤10に送信する。制御盤10は、地震情報に基づいて、地震が発生したことを検出する。制御盤10は、地震情報に含まれる地震計11の測定値から予め記憶するオフセット誤差の影響を除いた値が閾値を超えた場合、運行状態を通常運行から非常運行に切り換える。この場合、例えば、制御盤10は、非常運行の運転としてかご8を非常停止させる。この際、制御盤10は、非常運行の運転として管制運転を行い、かご8を最寄りの階へ非常停止させる。
【0024】
その後、制御盤10は、自動診断運転を実施するか否かを判定する。地震情報に含まれる地震計11の測定値からオフセット誤差の影響を除いた補正後の測定値が自動診断運転の閾値以下である場合、制御盤10は、非常運行の状態から通常運行の状態に移行するための自動診断運転を行う。一方、当該補正後の測定値が自動診断運転の閾値を超える場合、制御盤10は、自動診断運転を行わない。これは、既にエレベーターシステム1の機器が自動診断運転を行うべきでないほど故障している可能性があるためである。
【0025】
次に、
図2を用いて、オフセット誤差を説明する。
図2は実施の形態1におけるエレベーターシステムの地震計が測定する加速度の出力値を示す図である。
【0026】
図2は、時間と地震計11の加速度センサの出力値との関係を表すグラフgである。また、
図2には、定常状態において加速度センサが本来出力すべき理想的な加速度の値である真値が破線lで示される。
【0027】
図2に示されるように、グラフgに示される加速度センサの出力値gは、常に真値lであるとは限らない。加速度センサの出力値gは、様々な要因の影響を受けて変動する。例えば、加速度センサの出力値gは、地震計11に発生する振動、加速度センサの周囲の温度変化、加速度センサの取付角度、等の要因の影響を受ける。具体的には、加速度センサの取付角度によって、加速度センサの出力値と真値との間には、定常的に一定の差が存在する。
【0028】
また、地震計11に発生する振動には、ガイドレール4がかご8を案内する際に地震計11に伝搬する振動、かご8に物体が乗車するまたはかご8から物体が降車する際にかご8から主ロープ7またはガイドレール4を介して地震計11に伝搬する振動、かご8のドアが開閉移動する際に発生して地震計11に伝搬する振動、等の種類の振動がある。当該振動は、ガイドレール4、機械台5、その他の躯体、等を介して第1地震計11aおよび第2地震計11bのいずれにも伝搬し得る。
【0029】
オフセット誤差Eは、このような要因の影響によって発生する差であって、真値lに対する出力値gの差である。制御盤10は、予めオフセット誤差の値の情報を記憶する。例えば、制御盤10は、地震計11から地震情報を受信した場合、地震情報に含まれる加速度センサの出力値からオフセット誤差を減算した値を真値とみなして、補正後の測定値とする。
【0030】
次に、
図3を用いて、制御盤10を説明する。
図3は実施の形態1におけるエレベーターシステムのブロック図である。
【0031】
図3に示されるように、制御盤10は、記憶部12と補正演算部13と全体制御部14と判定部15と処理部16とを備える。
【0032】
記憶部12は、オフセット誤差の値の情報を記憶する。
【0033】
補正演算部13は、地震情報に含まれる加速度センサの測定値からオフセット誤差の影響を除いた補正後の測定値を演算することで、加速度センサの測定値を補正する。具体的には、補正演算部13は、地震計11から地震情報を受信した場合、加速度センサの測定値から記憶部12に含まれるオフセット誤差の値を減算することで補正後の測定値を演算する。
【0034】
全体制御部14は、エレベーターシステム1を全体的に制御する。例えば、全体制御部14は、運行状態を制御する。全体制御部14は、エレベーターシステム1の運行に関係する複数の運行情報を作成する。
【0035】
全体制御部14は、地震情報に基づいて、地震が発生した際、地震からの復帰運転を制御する。具体的には、まず、全体制御部14は、地震計11から地震情報を受信した場合、地震が発生したことを検出し、運行状態を非常運行に切り換える。その後、全体制御部14は、補正演算部13によって演算された補正後の測定値に基づいて、復帰運転を制御する。例えば補正後の測定値が自動診断運転の閾値を超えている場合、全体制御部14は、自動診断運転を行わない。
【0036】
判定部15は、オフセット誤差の値を作成するか否かを判定するために、かご8の運行に関する複数の条件が満たされているか否かを判定する。この際、判定部15は、全体制御部14が作成するかご8の運行に関する複数の運行情報に基づいて、当該複数の条件を満たすか否かを判定する。当該複数の条件の各々は、地震計11において発生する振動に起因するオフセット誤差が小さくなる条件である。特に、当該複数の条件の各々は、かご8から地震計11に伝搬する振動が小さくなる条件である。
【0037】
当該複数の条件のうちの第1条件は、エレベーターシステム1の運行状態であるかご8の運行状態が通常運行であるときに成立する。判定部15は、複数の運行情報のうちのかご8の運行状態を示す1または複数の運行情報に基づいて、第1条件が成立しているか否かを判定する。例えば、かご8が非常停止した状態、かご8が非常停止した後に管制運転を行っている状態、等の状態にある場合、判定部15は、第1条件が成立していないと判定する。
【0038】
当該複数の条件のうちの第2条件は、かご8が停止しているときに成立する。判定部15は、複数の運行情報のうちのかご8が停止しているか否かを示す1または複数の運行情報またはかご8が移動しているか否かを示す1または複数の運行情報に基づいて、第2条件が成立しているか否かを判定する。
【0039】
当該複数の条件のうちの第3条件は、かご8に人、ロボット、等の物体が乗車している途中でなく、かつ当該物体がかご8から降車している途中でないときに成立する。判定部15は、複数の運行情報のうちのかご8の内部の物体の移動状況を示す1または複数の運行情報に基づいて、第3条件が成立しているか否かを判定する。
【0040】
具体的には、例えば、判定部15は、かご8に設けられた図示されない秤装置の測定値の情報に基づいて、かご8の内部で重量変化が発生していないと判定した場合に、第3条件が成立していると判定する。例えば、判定部15は、かご8の内部を撮影するカメラからの撮像情報に基づいて、かご8の内部に移動する物体が存在しないと判定した場合に、第3条件が成立していると判定する。例えば、判定部15は、かご8に設けられたかごドアの開閉情報に基づいて、かごドアが全閉状態にある時間が規定の時間を超えている場合に、第3条件が成立していると判定する。例えば、判定部15は、かご8の内部の照明が消えていることを示す情報、等のかご8が休止中であることを示す情報に基づいて、かご8が通常運転における休止中であると判定した場合に、第3条件が成立していると判定する。
【0041】
判定部15は、第1条件が成立している、かつ第2条件が成立している、かつ第3条件が成立していると判定した場合に、当該複数の条件が満たされていると判定する。
【0042】
なお、複数の条件には、更に条件が追加されてもよい。この場合、判定部15は、複数の条件に含まれる全ての条件が満たされているか否かを判定する。例えば、複数の条件のうちの第4条件は、かごドアが全開中または全閉中であるときに成立する。判定部15は、かごドアの開閉状態を示す情報に基づいて、かごドアが全開中または全閉中であると判定した場合に、第4条件が成立していると判定する。
【0043】
処理部16は、オフセット誤差の補正処理を行う。具体的には、処理部16は、判定部によって当該複数の条件が満たされていると判定された場合、その時点で地震計11の加速度センサが測定した測定値の情報を取得する。処理部16は、補正処理として、取得した測定値の情報に基づいて、オフセット誤差の値を演算し、オフセット誤差の値の情報を作成する。処理部16は、作成したオフセット誤差の値の情報を記憶部12に記憶させる。記憶部12が既にオフセット誤差の値の情報を記憶している場合、処理部16は、記憶部12が記憶しているオフセット誤差の値の情報を最新のオフセット誤差の値の情報に更新する。
【0044】
補正処理の一例として、処理部16は、加速度センサの測定値のうちの水平方向の加速度成分がいずれも0となるようなオフセット誤差の値を演算する。補正処理の一例として、処理部16は、加速度センサの測定値のうちの鉛直方向の加速度成分が1Gとなるようなオフセット誤差の値を演算する。
【0045】
次に、
図4を用いて、補正処理を説明する。
図4は実施の形態1におけるエレベーターシステムの制御盤が行う補正処理の概要を説明するためのフローチャートである。
【0046】
図4に示される補正処理の動作は、任意のタイミングで実行され得る。例えば、補正処理の動作は、規定の時刻に開始される。
【0047】
ステップS01において、制御盤10の判定部15は、全体制御部14からエレベーターシステム1の複数の運行情報を取得する。
【0048】
その後、ステップS02の動作が行われる。ステップS02において、判定部15は、複数の条件が全て満たされているか否かを判定する。
【0049】
ステップS02で、複数の条件が全て満たされていると判定された場合、ステップS03の動作が行われる。ステップS03において、制御盤10の処理部16は、オフセット誤差の値を演算する。
【0050】
その後、ステップS04の動作が行われる。ステップS04において、処理部16は、演算したオフセット誤差の値の情報を、記憶部12に記憶させる、または記憶部12に記憶されたオフセット誤差の値の情報を更新する。
【0051】
その後、制御盤10は、フローチャートの動作を終了する。
【0052】
ステップS02で、複数の条件のうち少なくとも1つが満たされていないと判定された場合、制御盤10は、フローチャートの動作を終了する。
【0053】
次に、
図5を用いて、地震発生時に制御盤10が行う動作を説明する。
図5は実施の形態1におけるエレベーターシステムの制御盤の動作の概要を説明するためのフローチャートである。
【0054】
図5のフローチャートにおいて、制御盤10は、常に地震計11から地震情報が送信されたか否かを監視する。
【0055】
ステップS11において、制御盤10の全体制御部14は、地震計11から地震情報を受信したか否かを判定する。
【0056】
ステップS11で、地震情報を受信していない場合、ステップS11の動作が繰り返される。
【0057】
ステップS11で、地震情報を受信した場合、ステップS12の動作が行われる。ステップS12において、制御盤10の補正演算部13は、地震情報に含まれる加速度センサの測定値と記憶部12が記憶するオフセット誤差の値とに基づいて、補正後の測定値を演算する。
【0058】
その後、ステップS13の動作が行われる。全体制御部14は、補正演算部13から補正後の測定値の情報を取得する。全体制御部14は、補正後の測定値に基づいて、管制運転を行うか、地震からの復帰運転の際に自動診断運転を行うか、等の運行状態を決定する。
【0059】
その後、制御盤10は、フローチャートの動作を終了する。
【0060】
以上で説明した実施の形態1によれば、エレベーターシステム1は、地震計11と制御盤10とを備える。制御盤10は、判定部15と処理部16とを備える。制御盤10は、かご8の運行に関する複数の運行情報に基づいてかご8の運行に関する複数の条件が満たされているか否かを判定する。制御盤10は、複数の条件が満たされていると判定した場合に、オフセット誤差の値を演算する。制御盤10は、地震計11からの加速度センサの測定値からオフセット誤差の影響を除いた値に基づいて、地震の揺れの大きさを検出する。ここで、オフセット誤差の影響は、複数の条件が満たされている場合に演算される値である。このため、当該オフセット誤差が用いられたオフセット補正の精度を向上させることができる。
【0061】
また、制御盤10は、第1条件、第2条件、および第3条件の全てが成立している場合に、複数の条件が満たされていると判定する。第1条件、第2条件、および第3条件は、かご8に起因して発生する振動が小さくなるような条件である。このため、制御盤10は、エレベーターシステム1の運行に伴う振動に起因する外乱の影響が小さいオフセット誤差を演算することができる。その結果、オフセット補正の精度を向上させることができる。
【0062】
また、制御盤10は、複数の条件が満たされているか否かを判定する際に、地震計11の加速度センサの測定値の情報を用いない。即ち、制御盤10は、エレベーターシステム1の運行情報に関する情報のみを用いて複数の条件が満たされているか否かを判定する。仮に、当該加速度センサの測定値の情報を当該判定に反映させる場合、例えば、満たされるべき条件として、当該加速度センサの測定値が規定の閾値を下回るまたは上回るという条件が設定され得る。しかしながら、当該加速度センサの測定値には既にオフセット誤差の影響が含まれているため、当該条件が設定された場合、オフセット補正の精度が低下する可能性がある。一方で、本実施の形態において、加速度センサの測定値の情報には条件が設定されないため、オフセット補正の精度を向上させることができる。
【0063】
また、地震計11は、建物2に直接取り付けられるのではなく、昇降路機器に設けられる。具体的には、第1地震計11aは、ガイドレール4に設けられる。第2地震計11bは、複数のガイドレール4に支持された機械台5に設けられる。昇降路機器は、エレベーターシステム1の運行に伴う振動による振動を地震計11へ伝搬する。即ち、この場合、地震計11の加速度センサの測定値は、振動によるオフセット誤差の影響を大きく受け得る。制御盤10は、このような振動によるオフセット誤差の影響を小さくし得るようなオフセット誤差の値を演算することができる。
【0064】
なお、地震計11は、1つであってもよい。この場合、地震計11は、図示されない床面地震計とは別に、ガイドレール4、機械台5、等の昇降路機器に設けられる。
【0065】
なお、補正演算部13の演算は、地震情報を受信した場合でなく、任意のタイミングで行われてもよい。全体制御部14は、地震情報を受信した場合でないタイミングで地震計11の測定値を参照する場合に、補正演算部13に補正後の測定値を演算させ、当該補正後の測定値を参照してもよい。
【0066】
次に、
図6を用いて、制御盤10を構成するハードウェアの例を説明する。
図6は実施の形態1におけるエレベーターシステムの制御盤のハードウェア構成図である。
【0067】
制御盤10の各機能は、処理回路により実現し得る。例えば、処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える。例えば、処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェア200を備える。
【0068】
処理回路が少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える場合、制御盤10の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせで実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、少なくとも1つのメモリ100bに格納される。少なくとも1つのプロセッサ100aは、少なくとも1つのメモリ100bに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、制御盤10の各機能を実現する。少なくとも1つのプロセッサ100aは、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPともいう。例えば、少なくとも1つのメモリ100bは、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等である。
【0069】
処理回路が少なくとも1つの専用のハードウェア200を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、またはこれらの組み合わせで実現される。例えば、制御盤10の各機能は、それぞれ処理回路で実現される。例えば、制御盤10の各機能は、まとめて処理回路で実現される。
【0070】
制御盤10の各機能について、一部を専用のハードウェア200で実現し、他部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。例えば、処理部16が実行する機能については専用のハードウェア200としての処理回路で実現し、処理部16が実行する機能以外の機能については少なくとも1つのプロセッサ100aが少なくとも1つのメモリ100bに格納されたプログラムを読み出して実行することにより実現してもよい。
【0071】
このように、処理回路は、ハードウェア200、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせで制御盤10の各機能を実現する。
【0072】
次に、
図7を用いて、地震計11が別の場所に設けられる例を説明する。
図7は実施の形態1におけるエレベーターシステムが設置された建物の別の例を示す図である。
【0073】
図1では図示が省略されていたが、複数のガイドレール4の各々は、複数のブラケット20によって固定される。
図7には、複数のガイドレール4のうちの2つのガイドレール4に設けられたブラケット20が図示される。複数のブラケット20の各々は、同様の構成を備える。
【0074】
ブラケット20は、昇降路機器として、昇降路3の内壁と直接的に連結される。ブラケット20は、ガイドレール4に固定される。
【0075】
本例において、地震計11は、ブラケット20のうちの1つに固定される。例えば、地震計11は、複数のブラケット20のうちの最も上部に存在するブラケット20に固定される。なお、さらに別の地震計11が、複数のブラケット20のうち、建物2の中間階に相当する高さに存在するブラケット20に固定されてもよい。
【0076】
ブラケット20には、ガイドレール4を介してかご8に起因する振動が伝搬し得る。以上のように、地震計11がブラケット20に固定された場合においても、オフセット誤差が用いられたオフセット補正の精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本開示に係るエレベーターシステムは、地震計が設けられたエレベーターに利用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 エレベーターシステム、 2 建物、 3 昇降路、 4 ガイドレール、 4a かご用ガイドレール、 4b おもり用ガイドレール、 5 機械台、 6 巻上機、 7 主ロープ、 8 かご、 9 釣合おもり、 10 制御盤、 11 地震計、 11a 第1地震計、 11b 第2地震計、 12 記憶部、 13 補正演算部、 14 全体制御部、 15 判定部、 16 処理部、 20 ブラケット、 100a プロセッサ、 100b メモリ、 200 ハードウェア
【要約】
オフセット補正の精度を向上させることができるエレベーターシステムを提供する。エレベーターシステムは、加速度センサを有し、発生した地震の揺れの大きさを加速度センサによって測定する地震計と、昇降路の内部のかごの運行を制御し、地震計の加速度センサの測定値からオフセット誤差の影響を除いた値に基づいて地震の揺れの大きさを検出する制御盤と、を備え、制御盤は、かごの運行に関する複数の運行情報に基づいて、かごの運行に関する複数の条件が満されているか否かを判定する判定部と、判定部によって複数の条件が満たされていると判定された時に地震計の加速度センサが測定した測定値に基づいて、オフセット誤差の値を演算する処理部と、を有する。