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特許7205691抗イヌプロカルシトニン抗体及びこれを用いた検査用キット
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  • 特許-抗イヌプロカルシトニン抗体及びこれを用いた検査用キット 図1
  • 特許-抗イヌプロカルシトニン抗体及びこれを用いた検査用キット 図2
  • 特許-抗イヌプロカルシトニン抗体及びこれを用いた検査用キット 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】抗イヌプロカルシトニン抗体及びこれを用いた検査用キット
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230110BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230110BHJP
   C07K 16/26 20060101ALI20230110BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230110BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230110BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
G01N33/53 B
C07K16/26
C12P21/08
C07K14/47
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019009693
(22)【出願日】2019-01-23
(65)【公開番号】P2020115780
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 駿
【審査官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-525568(JP,A)
【文献】国際公開第2007/119685(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0082364(US,A1)
【文献】特表平08-501151(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106399294(CN,A)
【文献】BMC Veterinary Research, 2018, 14:111, https://doi.org/10.1186/s12917-018-1427-y
【文献】科学研究費助成事業 研究成果報告書、平成26年6月18日現在、研究期間:2012~2013,課題番号:24780310,研究課題名:犬におけるSIRSの重症度・予後評価法の確立ならびに血液浄化療法の検討,オンライン検索日:2022年7月28日、<URL: https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-24780310/24780310seika.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
C07K 14/47
C07K 16/26
G01N 33/53
C12P 21/08
CAplus/REGISTRY(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌプロカルシトニンに対するモノクローナル抗体又はその抗原結合断片であって、イヌプロカルシトニンの26-47位のアミノ酸配列(配列番号1)に含まれる少なくとも一つのエピトープに結合し、
重鎖及び軽鎖の可変領域が、
(A)Kabatらにより規定されるCDRとして以下のCDRを有する、
配列番号3のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、
配列番号4のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、
配列番号5のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3、
配列番号6のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、
配列番号7のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び
配列番号8のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3;又は、
(B)IMGTにより規定されるCDRとして以下のCDRを有する、
配列番号15のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、
配列番号16のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、
配列番号17のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3、
配列番号18のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、
配列番号19のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び
配列番号20のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3;
抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
標識又はタグが付加された、請求項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
イヌプロカルシトニンに対するモノクローナル抗体又はその抗原結合断片であって、イヌプロカルシトニンの121-130位のアミノ酸配列(配列番号2)に含まれる少なくとも1つのエピトープに結合し、
重鎖及び軽鎖の可変領域が、
(C)Kabatらにより規定されるCDRとして以下のCDRを有する、
配列番号9のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、
配列番号10のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、
配列番号11のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3、
配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、
配列番号13のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び
配列番号14のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3;又は、
(D)IMGTにより規定されるCDRとして以下のCDRを有する、
配列番号21のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、
配列番号22のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、
配列番号23のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3、
配列番号24のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、
配列番号25のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び
配列番号26のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3;
抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
標識又はタグが付加された、請求項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片の重鎖及び/又は軽鎖の可変領域をコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項6】
イヌ細胞組織又は生検材料におけるイヌプロカルシトニンの検出又は測定のための、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片の使用。
【請求項7】
前記検出又は測定が、イムノクロマトグラフィーにより行われることを特徴とする、請求項に記載の使用。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む、イヌプロカルシトニンの検出又は測定用キット。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む、イヌの敗血症又は全身性炎症反応症候群の検査用キット。
【請求項10】
異なるエピトープを認識する2種以上の抗体を含む、請求項又はに記載のキット。
【請求項11】
イムノクロマトグラフィーキットである、請求項10のいずれか一項に記載のキット。
【請求項12】
測定可能なイヌプロカルシトニンの濃度の下限値が、0.05ng/mL以下である、請求項11のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヌプロカルシトニン(cPCT)の特定のエピトープに結合するモノクローナル抗体又はその機能性断片に関する。また、本発明は、該抗体又はその機能性断片の可変領域をコードするポリヌクレオチド、イヌプロカルシトニン測定のための該抗体又はその機能性断片の使用、並びに、イヌプロカルシトニン測定用キット及びイヌの敗血症若しくは全身性炎症反応症候群の検査用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
敗血症は、無治療ではショック、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全等から死に至る急性の疾患である。また、敗血症のような感染症起因の全身性炎症反応の他に、外傷、熱傷、膵炎等によっても類似した全身性炎症反応が引き起こされる。このような感染症及び非感染症の両方の侵襲に起因する全身性炎症反応は、全身性炎症反応症候群(SIRS)と呼ばれる。これらの疾患は迅速に進行するため、その治療のための診断には迅速性が求められる。
【0003】
ヒトにおいては、血中のプロカルシトニン濃度が、敗血症やSIRSの重篤度の程度や予後(あるいは死亡リスク)を評価できることが示されている(非特許文献1)。実際に、米国FDAにより、ヒト血中プロカルシトニンは敗血症の重篤度の程度を予測できるマーカーとして承認されている。
【0004】
ペットや家畜においても敗血症及びSIRSは重篤かつ処置に緊急性を要する疾患である。イヌ等では敗血症及びSIRSの進行がヒトより早く、迅速診断の要求度も高い。また、現状のイヌにおけるこれら疾病の診断基準は、心拍、体温等の医師の直接診断を要求するものであり、基準の明確化や診断スループットの向上に課題がある。そこで、イヌにおいてもヒトと同様に敗血症やSIRSのマーカーとしてプロカルシトニンを測定して敗血症の重症度を判定する手段が提唱されている(非特許文献2)。
【0005】
他方、これらの動物は動物病院で診察及び治療を受けることが多いが、ヒトに比べて一般的に施設の規模が小さいことから、診断用の情報を得る手法は簡便なものであることが要求される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Harbarth S. et al. American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine (2001), vol.164, p.396-402.
【文献】Troia R et al. BMC Veterinary Research (2018) 14:111(URL:https://doi.org/10.1186/s12917-018-1427-y)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献2では低濃度のイヌの血中プロカルシトニンをELISAによって定量している。しかし、使用されている抗体はポリクローナル抗体であり、抗原との結合性の低さや抗体ロット間の品質のバラつきに起因して、測定感度の悪化やバラつきが生じうる。
【0008】
そして、イヌの血中のプロカルシトニンの濃度は、健常時(40pg/mL程度)及び敗血症罹患時(100pg/mL程度)ともにヒトの場合に比べて数分の一程度と低く、健常時と罹患時の間の濃度変化量も小さい。そのためイヌの敗血症又はSIRSの診断には、ヒトの場合より高感度で血中プロカルシトニンの定量できることが要求される。
【0009】
そこで本発明は、イヌの血中に低濃度で含まれるイヌプロカルシトニンに対して高い結合性を有するモノクローナル抗体を提供すること、さらには当該抗体を用いてイヌプロカルシトニンを、簡易で迅速かつ高感度で測定するための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、イヌプロカルシトニンに特有のアミノ酸配列を有するN末端プロカルシトニン領域又はカタカルシン領域を抗原として動物に投与することにより、イヌプロカルシトニンに対して高い結合性を持つモノクローナル抗体が得られることを見出し、本発明に至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の抗イヌプロカルシトニン抗体又はその機能性断片を提供する。
イヌプロカルシトニンに対するモノクローナル抗体又はその機能性断片であって、イヌプロカルシトニンの26-47位のアミノ酸配列(配列番号1)又は121-130位のアミノ酸配列(配列番号2)に含まれる少なくとも一つのエピトープに結合する、抗体又はその機能性断片。
【0012】
本発明の抗イヌプロカルシトニン抗体又はその機能性断片は、イヌプロカルシトニンに対する解離定数(K)が2×10-9M以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の抗イヌプロカルシトニン抗体又はその機能性断片は、標識及び/又はタグが付加されてもよい。
【0014】
また本発明は、抗イヌプロカルシトニン抗体又はその機能性断片の重鎖及び/又は軽鎖の可変領域をコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチドを提供する。
【0015】
さらに本発明は、イヌプロカルシトニンを検出又は測定するための抗イヌプロカルシトニン抗体又はその機能性断片の使用を提供する。中でも、抗体の高い結合性を利用して、迅速かつ高感度の測定を実現する観点から、イムノクロマトグラフィー又はELISAによる測定に用いられることが好ましい。
【0016】
さらに本発明は、抗イヌプロカルシトニン抗体又はその機能性断片を含むイヌプロカルシトニンの検出又は測定用キット、及びイヌの敗血症又はSIRSの検査用キットを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の抗体又はその機能性断片は、イヌプロカルシトニンへの結合性が高いため、微量のイヌプロカルシトニンを高感度で検出又は測定することができる。
さらに、本発明の抗体又はその機能性断片は、イムノクロマトグラフィー法に適用することができる。係る適用によって、血液等に含まれるイヌプロカルシトニンを検出又は測定することができ、イヌの敗血症又はSIRSの検査に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】抗イヌプロカルシトニンモノクローナル抗体を用いたイムノクロマトグラフィーによる、0~0.5ng/mLのイヌプロカルシトニンの測定結果を示すグラフである。縦軸は波長525nmの吸光度、横軸はイヌプロカルシトニンの濃度(ng/mL)を表す。
図2】抗イヌプロカルシトニンモノクローナル抗体を用いたイムノクロマトグラフィーによる、0~100pg/mLのイヌプロカルシトニンの測定結果を示すグラフである。縦軸は波長525nmの吸光度、横軸はイヌプロカルシトニンの濃度(pg/mL)を表す。
図3】抗イヌプロカルシトニンモノクローナル抗体を用いたELISAによるイヌプロカルシトニンの測定結果を示すグラフである。縦軸は波長450nmの吸光度、横軸はイヌプロカルシトニンの濃度(ng/mL)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[抗イヌプロカルシトニン抗体及びその機能性断片]
本発明の抗イヌプロカルシトニン(cPCT)抗体は、cPCTのN末端プロカルシトニン領域の26-47位のアミノ酸配列(配列番号1)又はカタカルシン領域の121-130位のアミノ酸配列(配列番号2)に含まれる、少なくとも一つのエピトープに結合するモノクローナル抗体であり、cPCTに対する結合性を有する。
【0020】
(抗原)
本発明の抗体の抗原であるイヌプロカルシトニン(cPCT)は、130アミノ酸残基からなるペプチドである、プレカルシトニン(NCBIアクセッション番号:NP_001003266)の1-25位の分泌シグナルペプチドが切断されて生じる、105アミノ酸残基からなるペプチドである。本明細書において、cPCTの残基番号は、その前駆体であるプレカルシトニンの残基番号で表す。即ち、cPCT全長は26位から始まり130位で終わる。
【0021】
本明細書において、cPCTの26-82位を「N末端プロカルシトニン領域」、83-120位を「カルシトニン領域」、121-130位を「カタカルシン(Katacalcin)領域」と呼ぶ。N末端プロカルシトニン領域及びカタカルシン領域を含むペプチドは、健常時は少ないが、敗血症やSIRS等の炎症状態において、血中へのプロカルシトニンの分泌により増加することとなる。また、イヌカルシトニンは、カルシトニン領域が切り出された後さらにプロセッシングされて得られる85位-116位までからなるペプチドである。
【0022】
(モノクローナル抗体)
本発明のモノクローナル抗体のクラスは特に限定されないが、好ましくはIgGクラスの抗体である。
【0023】
本発明のモノクローナル抗体の由来は、特に限定されず、例えば、ウサギ、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、モルモット等が挙げられるが、抗原に対する結合性を高める観点から、好ましくはウサギである。
【0024】
本発明のモノクローナル抗体は、全長のcPCTに結合する。一方、本発明のモノクローナル抗体は、特に限定されないが、血中のcPCTをイヌカルシトニンと区別して高感度で検出する観点から、イヌカルシトニンには結合しないことが好ましい。また、本発明の抗体は、特に限定されないが、全長のヒトカルシトニンに結合しないことが好ましい。
【0025】
本発明のモノクローナル抗体の特定の実施形態は、重鎖及び軽鎖の可変領域が、Kabatらにより規定されるCDR(相補性決定領域)として、配列番号3のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号4のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、配列番号5のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3、配列番号6のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号7のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号8のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む抗体である。係る抗体(本明細書中でAb-cPCT(26-47)Kabatと呼ぶ)は、cPCTのN末端プロカルシトニン領域の26-47位のアミノ酸配列に含まれる少なくとも一つのエピトープに結合する。
【0026】
本発明のモノクローナル抗体の特定の実施形態は、重鎖及び軽鎖の可変領域が、Kabatらにより規定されるCDRとして、配列番号9のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、配列番号11のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3、配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号13のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号14のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む抗体である。係る抗体(本明細書中でAb-cPCT(121-130)Kabatと呼ぶ)は、cPCTのカタカルシン領域の121-130位のアミノ酸配列に含まれる少なくとも一つのエピトープに結合する。
【0027】
本発明のモノクローナル抗体の特定の実施形態は、重鎖及び軽鎖の可変領域が、IMGTにより規定されるCDRとして、配列番号15のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号16のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、配列番号17のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3、配列番号18のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号19のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号20のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む抗体である。係る抗体(本明細書中でAb-cPCT(26-47)IMGTと呼ぶ)は、cPCTのN末端プロカルシトニン領域の26-47位のアミノ酸配列に含まれる少なくとも一つのエピトープに結合する。
【0028】
本発明のモノクローナル抗体の特定の実施形態は、重鎖及び軽鎖の可変領域が、IMGTにより規定されるCDRとして、配列番号21のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号22のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、配列番号23のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3、配列番号24のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号25のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号26のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む抗体である。係る抗体(本明細書中でAb-cPCT(121-130)IMGTと呼ぶ)は、cPCTのカタカルシン領域の121-130位のアミノ酸配列に含まれる少なくとも一つのエピトープに結合する。
【0029】
本明細書において、「Kabatらにより規定されるCDR」とは、Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991), NIH Publication 91-3242に基づいて規定されるCDRを意味する。
また、本明細書において、「IMGTにより規定されるCDR」とは、Lefranc M.-P., Immunology Today 18, 509 (1997); Lefranc M.-P., The Immunologist, 7, 132-136 (1999); Lefranc, M.-P. et al., Dev. Comp. Immunol., 27, 55-77 (2003)に基づいて規定されるCDRを意味する。
【0030】
本発明のモノクローナル抗体の特定の実施形態は、重鎖及び軽鎖の可変領域が、上記のAb-cPCT(26-47)Kabat、Ab-cPCT(121-130)Kabat、Ab-cPCT(26-47)IMGT、又はAb-cPCT(121-130)IMGTのいずれかの重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3のアミノ酸配列のセットの全アミノ酸残基のうち、1又は2箇所のアミノ酸残基が置換、欠失又は挿入された重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3を含み、cPCTに対する結合性を有する抗体である。このとき、置換、欠失又は挿入されるアミノ酸残基は単独のCDRに存在しても、複数のCDRに存在してもよい。
【0031】
本発明のモノクローナル抗体の特定の実施形態は、重鎖の可変領域が配列番号27、軽鎖の可変領域が配列番号28のアミノ酸配列を有する抗体である。
【0032】
本発明のモノクローナル抗体の特定の実施形態は、重鎖の可変領域が配列番号29、軽鎖の可変領域が配列番号30のアミノ酸配列を有する抗体である。
【0033】
本発明のモノクローナル抗体の可変領域におけるフレームワーク領域及び定常領域の配列は、cPCTへの結合性が失われない限りにおいて、特に限定されず、例えばヒト化抗体、マウスキメラ抗体、ヒトキメラ抗体等であってもよい。
【0034】
(モノクローナル抗体の機能性断片)
本発明のモノクローナル抗体の機能性断片とは、上記モノクローナル抗体の重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3の組み合わせを有し、cPCTに対する結合性を有する抗体断片を指す。
【0035】
抗体断片の種類は、特に限定されないが、例えばFab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、Fv断片、ScFv断片等が挙げられる。これらの抗体断片の概要については、Hudson, P.J. et al., Nat. Med. 9 (2003) 129-134及びPlueckthun, A., In: The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore (eds.), Springer-Verlag, New York (1994), pp. 269-315に記載されている。
【0036】
(抗体又はその機能性断片の修飾)
本発明の抗体又はその機能性断片は、cPCTの検出用に用いる観点から、微小粒子、蛍光物質、酵素、ビオチン、放射性標識体、磁性粒子等の標識が付加されることが好ましい。
【0037】
微小粒子としては、抗体又はその機能性断片の抗原結合性を損なわない限りにおいて特に限定されず、例えば、金コロイドのような金属コロイド粒子、着色ラテックス粒子のような着色粒子等が挙げられる。
【0038】
蛍光物質としては、抗体又はその機能性断片の抗原結合性を損なわない限りにおいて特に限定されず、例えば、ローダミン系、クマリン系、オキサジン系、カルボピロニン系、シアニン系、ピロメセン系、ナフタレン系、ビフェニル系、アントラセン系、フェナントレン系、ピレン系、カルバゾール系、Cy系、EvoBlue系、フルオレセイン系又はこれらの誘導体等が挙げられる。
【0039】
酵素としては、抗体又はその機能性断片の抗原結合性を損なわない限りにおいて特に限定されず、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ等が挙げられる。
【0040】
放射性標識体としては、特に限定されないが、例えば、H、14C、15N、35S、90Y、99Tc、111In、125I、131I等が挙げられる。
【0041】
本発明の抗体又はその機能性断片は、タグを付加することができる。このようなタグとしては、例えば、FLAG、HA(ヘマグルチニン)、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、Myc、ポリヒスチジン(6×Hisタグ等)等が挙げられる。これらのタグは抗体の固相化、精製、検出等に用いることができる。タグ化された抗体又は機能性断片は、例えば、本発明の抗体又はその機能性断片をコードするポリヌクレオチドに、タグをコードするポリヌクレオチドを付加したものを作製し、動物細胞等のin vivo又は無細胞翻訳系等のin vitroのタンパク質発現システムに導入することにより製造することができる。
【0042】
(解離定数)
本発明の抗体又はその機能性断片の全長cPCTに対する解離定数(K)は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、好ましくは2×10-9M以下、より好ましくは1.1×10-9M以下、更に好ましくは1×10-9M以下、特に好ましくは5×10-10M以下、最も好ましくは1×10-10M以下である。係る解離定数は、表面プラズモン共鳴(SPR)により測定される。具体的には、装置として例えばBiacore3000(登録商標、GEヘルスケア社製)を用い、N末端に6×Hisタグが付加した全長イヌプロカルシトニンを抗原としてアミンカップリング法を用いてセンサーチップに固相化したものを用い、ランニング緩衝液にPBST(PBSに0.005%Tween 20を添加したもの)を用い、温度25℃、流速20μL/分の条件において測定を行う。得られたデータ(センサーグラム)に対して1:1 Langmuir bindingの反応モデルに基づいてフィッティングを行い、結合速度定数(k)及び解離速度定数(k)を求め、k/kから解離定数(K)が得られる。
【0043】
(用途)
本発明の抗体又はその機能性断片は、特に限定されないが、cPCTの検出又は測定に使用される。
【0044】
本明細書において、「検出」とは、抗原の有無を検出する定性的な判別を表す。また、本明細書において、「測定」とは、抗原の量の大小を判別する(相対的定量)、又は抗原の絶対量を定量することを表す。
【0045】
検出又は測定する対象となるcPCTは、特に限定されないが、例えば、イヌ細胞組織又は生検材料中に含まれるcPCTである。生検材料としては、特に限定されず、例えば、血液、尿、唾液、リンパ液、精液、涙液、眼内液、硝子体液、糞便、汗、若しくは他の体液又はそれらの分離物若しくは抽出物(血清等)が挙げられるが、好ましくは血液又はその分離物若しくは抽出物であり、より好ましくは血清である。
【0046】
検出又は測定の手法としては、特に限定されず、例えば、イムノクロマトグラフィー(ラテラルフローイムノアッセイ、ストリップテスト)法、ELISA法、表面プラズモン共鳴法、ラテックス凝集法、免疫拡散法、ウェスタンブロット法、ドットブロット法、免疫沈降法(Ouchterlony法等)、免疫電気泳動法(Mancini法)、免疫電気拡散法(ロケット法)等が挙げられるが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、好ましくはイムノクロマトグラフィー法、ELISA法、又は表面プラズモン共鳴法であり、より好ましくはイムノクロマトグラフィー法又はELISA法であり、更に好ましくはイムノクロマトグラフィー法である。
【0047】
検出又は測定方法がイムノクロマトグラフィー法又はELISA法の場合、抗cPCT抗体又はその機能性断片は、異なるエピトープを認識する2以上の抗体若しくはその機能性断片を含むことが好ましい。中でも、Ab-cPCT(26-47)Kabat、Ab-cPCT(26-47)IMGT及びこれらの機能性断片からなる群より選択される1種以上の抗体又は機能性断片と、Ab-cPCT(121-130)Kabat、Ab-cPCT(121-130)IMGT及びこれらの機能性断片からなる群より選択される1種以上の抗体又は機能性断片とを、標識抗体及び抗原捕捉抗体として含むことがより好ましい。中でも、検出感度を高める観点から、Ab-cPCT(26-47)Kabat、Ab-cPCT(26-47)IMGT及びそれらの機能性断片からなる群より選択される1種以上の抗体又はその機能性断片を標識抗体に、Ab-cPCT(121-130)Kabat、Ab-cPCT(121-130)IMGT及びそれらの機能性断片からなる群より選択される1種以上の抗体又はその機能性断片を抗原捕捉抗体に用いることが、更に好ましい。
【0048】
本明細書において、標識抗体とは、標識された抗体又はその機能性断片を指す。また、抗原捕捉抗体とは、固相に固定化され、抗原と結合性のある抗体又はその機能性断片を指す。
【0049】
本発明の抗体又はその機能性断片は、特に限定されないが、例えば、イヌの敗血症又は全身性炎症反応症候群の検査に用いられ、好ましくはイヌの敗血症の検査用に用いられる。
【0050】
本発明の抗体又はその機能性断片を用いたcPCTの測定において、測定可能なcPCTの濃度の下限値は、特に限定されないが、本発明の効果を顕著に奏する観点及びイヌの敗血症又は全身性炎症反応症候群の検査に用いる観点から、好ましくは、0.05ng/mL以下、より好ましくは0.03ng/mL以下であり、更に好ましくは0.02ng/mL以下、特に好ましくは0.01ng/mL以下である。
【0051】
(製造方法)
本発明の抗体は、例えば、cPCT中の26-47位のアミノ酸配列を含むペプチド又は121-130位のアミノ酸配列を含むペプチドを、動物に免疫して得られるBリンパ球細胞由来のハイブリドーマから産生することができる。
【0052】
免疫に用いられる動物は、特に限定されず、例えば、ウサギ、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、モルモット等が挙げられるが、好ましくはウサギである。
【0053】
また、本発明の抗体又はその機能性断片は、後述の抗体の可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを、特に限定されないが、例えば、動物細胞(チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、サル腎臓細胞(COS)、HEK 293細胞、NSO細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、ヒト肝細胞ガン細胞(例えば、Hep G2)等)、非動物真核細胞(昆虫細胞等)、細菌(大腸菌等)、酵母、昆虫、植物、トランスジェニック動物(ウシ、ニワトリ等)又はin vitro翻訳系(真核生物由来、大腸菌由来無細胞翻訳系等)に導入し、抗体を発現させる方法によっても産生することができる。ウサギ由来抗体、マウスキメラ抗体、ヒトキメラ抗体、ヒト化抗体又はこれらの機能性断片の製造においては、このようなポリヌクレオチド導入によって抗体を製造することが好ましい。
【0054】
[ポリヌクレオチド]
本発明のポリヌクレオチドは、上記モノクローナル抗体の重鎖及び/又は軽鎖の可変領域をコードする塩基配列を含む。本発明のポリヌクレオチドは、DNA又はmRNAであることが好ましい。
【0055】
本発明のポリヌクレオチドの特定の実施形態として、Ab-cPCT(26-47)Kabatの重鎖CDR1~3を含む重鎖可変領域及び/又はAb-cPCT(26-47)Kabatの軽鎖CDR1~3を含む軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
本発明のポリヌクレオチドの特定の実施形態として、Ab-cPCT(121-130)Kabatの重鎖CDR1~3を含む重鎖可変領域及び/又はAb-cPCT(121-130)Kabatの軽鎖CDR1~3を含む軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
本発明のポリヌクレオチドの特定の実施形態として、Ab-cPCT(26-47)IMGTの重鎖CDR1~3を含む重鎖可変領域及び/又はAb-cPCT(26-47)IMGTの軽鎖CDR1~3を含む軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
本発明のポリヌクレオチドの特定の実施形態として、Ab-cPCT(121-130)IMGTの重鎖CDR1~3を含む重鎖可変領域及び/又はAb-cPCT(121-130)IMGTの軽鎖CDR1~3を含む軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0056】
本発明のポリヌクレオチドは、例えば、cPCT中の26-47位のアミノ酸配列を含むペプチド又は121-130位のアミノ酸配列を含むペプチドを動物に免疫して得られるBリンパ球細胞由来のmRNAから逆転写して得ることができる。あるいは、化学合成、切断、ライゲーション、PCR等の公知の遺伝子組換え手法により得ることもできる。
【0057】
本発明のポリヌクレオチドは、上記抗体又はその機能性断片の製造に用いることができる。係る用途において本発明のポリヌクレオチドは、制御配列(転写又は翻訳調節配列、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合部位等)、複製起点、及び選択用遺伝子(抗生物質耐性遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子等)から選択される1以上の要素を含むことが好ましい。
【0058】
[抗イヌプロカルシトニン抗体又はその機能性断片を含むキット]
本発明のキットは、抗イヌプロカルシトニン抗体又はその機能性断片を含み、イヌプロカルシトニンの検出又は測定に用いられる。
【0059】
cPCTの検出又は測定の対象、検出又は測定の特徴等、並びに好適な抗体又は機能性断片の態様については、[抗イヌプロカルシトニン抗体及びその機能性断片]の項に記載したとおりである。
【0060】
本発明のキットには、特に限定されず、用いる検出又は測定方法によって適宜選択し得るが、抗cPCT抗体及びその機能性断片以外に、さらに測定対象の前処理用、検出用又は測定用の測定用器具及び/又は試薬を含むことが好ましい。
【0061】
検出又は測定方法がイムノクロマトグラフィー法又はELISA法の場合、測定用器具は、捕捉抗体を担持する固相基材を含むことが好ましい。
【0062】
検出又は測定方法がイムノクロマトグラフィー法又はELISA法の場合は、標識抗体は、測定用器具に含まれても良いし、測定用器具とは別に、例えばサンプル用チューブ等に含まれても良い。
【0063】
イムノクロマトグラフィーキットの態様において、測定用器具としては、特に限定されないが、1種以上の抗イヌプロカルシトニン抗体若しくはその機能性断片が固定化された、吸水性の固相基材を含むことが好ましい。固相基材の材質としては、例えば、ニトロセルロースが挙げられる。固相基材は、特に限定されないが、例えば特開第2014-190926号公報のケースのような、検体注入用の開口部を有するカートリッジに収容されていることが好ましい。
【0064】
ELISAキットの態様において、測定用器具としては、例えば、抗cPCT抗体若しくはその機能性断片でコーティング処理をしたプレート(例えば、96ウェルプレート)を含むことが好ましい。その他、特に限定されないが、洗浄用緩衝液、プレート用シール等を含むことが好ましい。
【0065】
本発明のキットには、その他の試薬として、上記の抗cPCT抗体及びその機能性断片の他に、水、cPCT(組換えタンパク質を含む)、pH緩衝成分、界面活性剤、塩類(塩化ナトリウム、塩化カリウム等)、糖類(スクロース等)、ブロッキング剤(ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、血清等)、発色又は蛍光検出用基質等から選択される1種以上を含んでもよい。これらの成分は液体(水溶液)の形態で供されるのが好ましい。
【0066】
pH緩衝成分としては、特に限定されないが、例えば、リン酸、ホウ酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、カコジル酸等の酸又はこれらの塩;グリシン等のアミノ酸;トリスヒドロキシアミノメタン(Tris);HEPES、MES等のグッドバッファー等が挙げられる。
【0067】
界面活性剤としては、特に限定されないが、非イオン性界面活性剤が好ましく、エステルエーテル型、エステル型、エーテル型のいずれも用いることができる。より具体的にはTween20、Tween40、Tween80、Triton-X100、ポリオキシエチレン(60)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(65)ソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレン(80)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ノニデットP-40、CHAPS等が挙げられる。これらの界面活性剤は、いずれかを単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせても良い。
【0068】
本発明のキットには、測定用器具以外の器具として、例えば、スポイト、シリンジ、キャップ付きチューブ等を含むことができる。
【0069】
(用途、その他)
本発明のキットは、cPCTの検出又は測定、イヌの敗血症又は全身性炎症反応症候群の検査に用いることができる。
【0070】
本発明のキットのその他の具体的な態様については、上記の[抗イヌプロカルシトニン抗体及びその機能性断片]の項の、用途の項で記載したとおりである。
【実施例
【0071】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。
【0072】
[実施例1.抗イヌプロカルシトニン抗体の調製]
(抗原の調製)
表1に示すように、免疫刺激用の抗原として、cPCTの26-47位のアミノ酸配列(配列番号1)を有するペプチド(cPCT(26-47))、及び121-130位のアミノ酸配列(配列番号2)を有するペプチド(cPCT(121-130))を、ペプチド合成によりそれぞれ純度81.9%, 86.5%で調製した。ペプチド合成は、株式会社細胞工学研究所に委託した。また、結合性評価用抗原として、それぞれのN末端又はC末端に6×Hisタグを付加したものを、動物細胞で組換えタンパク質として発現させ、Niカラムで精製して調製した。これらの抗原を、N-His-cPCT、C-His-cPCTと呼ぶ。
【0073】
cPCT(26-47)及びcPCT(121-130)に対して、キャリアタンパク質としてキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)又はウシ血清アルブミン(BSA)と架橋剤であるMBS (m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル)を反応させ、結合させた。
【0074】
【表1】
【0075】
(動物への免疫)
KLH結合cPCT(26-47)又はKLH結合cPCT(121-130)とアジュバント(Difco社製、製品コード263810)を体積比1:1で混合したものをウサギ(Slc:JW/CSK、13週齢)各1匹に、開始時(0日後)2.5 mg投与した。さらに追加免疫抗原として、開始時と同じ抗原ペプチドをアジュバント(フナコシ:CYT,G-1)と体積比1:1で混合したものを14日後、28日後、42日後にそれぞれ2.5mgずつ投与し、免疫した。46日後に、抗体価が上昇していることを確認するため、ウサギから血液を採取し、血清及びリンパ球を回収した。リンパ球については培養し、培養上清を分離した。得られた血清及び培養上清に対して、BSA結合cPCT(26-47)又はBSA結合cPCT(121-130)を固相化したプレートを用いて、ELISA法で抗体価を測定した。
【0076】
(陽性細胞の単離及び抗体遺伝子の単離)
抗体価の上昇が確認されたウサギの脾臓由来リンパ球を得た。cPCT(26-47)又はcPCT(121-130)を固相化したSingle-cell ELISAプレートに、RPMI培地(10% FBS)で希釈したリンパ球を1ウェルに1細胞のみが含まれるように加え、45分インキュベートした。プレートの抗原と結合した抗cPCT抗体を、標識された抗ウサギIgG抗体で検出することで、陽性クローンを特定した。cPCT(26-47)、cPCT(121-130)を抗原として免疫して得られた各2×105個のリンパ球をスクリーニングし、それぞれ15個、13個の陽性クローンを得た。得られた陽性クローンから、PCR法を用いて各細胞のIgG重鎖及び軽鎖遺伝子を増幅した。
【0077】
(HEK293細胞での抗体の産生と抗原特異性の確認)
得られた各細胞の重鎖及び軽鎖遺伝子に、PCRを用いてCAGプロモーターを付加した。得られた重鎖及び軽鎖遺伝子を含むポリヌクレオチドを、HEK293細胞に導入し、RPMI培地で3日培養した。そして、モノクローナル抗体を含む培養上清を回収した。
【0078】
得られた各クローンの培地上清中の抗イヌプロカルシトニン抗体価をELISAにより測定した。プレートにはcPCT、N-His-cPCT、又はC-His-cPCTでコーティングしたELISAプレートを、二次抗体には抗ウサギIgG抗体を用いた。
【0079】
その結果、cPCT(26-47)を抗原として得られたモノクローナル抗体が4クローン、cPCT(120-130)を抗原として得られたモノクローナル抗体が9クローン得られた。いずれもcPCT、N-His-cPCT及びC-His-cPCTに結合性があった。
【0080】
[実施例2.抗体のイムノクロマトグラフィー(IC)への利用可能性の検証]
N-His-cPCT又はC-His-cPCTを1、0.1、又は0.01 mg/mLとなるようにリン酸緩衝液に加えたものを調製した。得られた溶液を、それぞれイムノクロマトグラフィー(IC)用ストリップ(25 mm×5 mm、ミリポア社製)の端から10 mmの位置に抗体塗布機(武蔵エンジニアリング社製)を用いて線状に塗布し、90分減圧乾燥させて固相化した。
【0081】
実施例1で最終的に得られた陽性クローン(N末端プロカルシトニン領域結合性抗体4クローン、カタカルシン領域結合性抗体9クローンの全13クローン)に対応するHEK293細胞の培養上清に、金コロイド標識マウス由来抗ウサギIgG抗体(細胞工学研究所社製)を2μg/mLとなるように加えたものを調製し、サンプルとした。これにより、cPCT結合性のモノクローナル抗体が金コロイド標識された形になる。
【0082】
各濃度の抗原を塗布したストリップの端を上記の13種類の抗体のいずれかを含むサンプルに浸し、30分程度サンプルを吸わせた。N末端プロカルシトニン領域結合性抗体に対してはC-His-cPCTを塗布したストリップ、カタカルシン領域結合性抗体に対してはN-His-cPCTを塗布したストリップを使用した。対照として、抗体を含まない培地をストリップに吸わせたものを作製した。ストリップを乾燥させてから、抗原塗布部に凝集する金コロイド由来の紫色の着色を目視で評価した。結果を表2、3に示す。実施例1で得られた、N-His-cPCT又はC-His-PCTを抗原としたときのELISAの測定値も同時に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
N末端プロカルシトニン領域と結合するモノクローナル抗体は、4種類全てが、またカタカルシン領域と結合するモノクローナル抗体は、9種類中5種類が、0.01mg/mLの抗原濃度で検出が可能であった。また、ELISAの測定値の大きさと、イムノクロマトグラフィーでの評価は必ずしも相関しないことがわかった。即ち、イムノクロマトグラフィーに適した抗体としては、抗原への結合の強さに加えて、ストリップとの相互作用や抗体の安定性等の別の要因も分析感度に影響することが推測される。
【0086】
[実施例3.モノクローナル抗体のイムノクロマトグラフィーへの応用]
上記で得られたcPCT(26-47)結合性クローンNo.4の抗体(以下、RAb-cPCT(26-47)-4と呼ぶ)及びcPCT(121-130)結合性クローンNo.6の抗体(以下、RAb-cPCT (120-131)-6と呼ぶ)を物理吸着により金コロイド標識した。
【0087】
抗原捕捉抗体として0.5 mg/mLのRAb-cPCT(120-131)-6を含むリン酸緩衝液を調製した。特開第2014-190926号公報の図3の帯状層15のように、幅25 mm×長さ5 mmのニトロセルロース製メンブレンの第一の端から10 mmの位置に、抗体塗布機を用いて26μL/cmの塗布量でこの抗体を含む緩衝液を線状に塗布し、55℃、30分乾燥させた。次に、メンブレンの第一の端に、コンジュゲートパッドとして、あらかじめ0.16μgの金コロイド標識RAb-cPCT(26-47)-4を浸み込ませて乾燥させた幅5 mm×長さ5mmのグラスファイバー製のパッド(ミリポア社製)を設置した。さらにコンジュゲートパッドの上にサンプルをしみこませるためのグラスファイバー製のサンプルパッド(幅5 mm×長さ20 mm、ミリポア社製)を重層した。これらを特開第2014-190926号公報の図4に示されるような2つの開口(試料注入口と観察窓)が設けられたケースに挟み込んで試験用デバイスを作製した。このとき、一方の開口に抗体塗布部が、もう一方の開口にサンプルパッドが露出するように配置した。また、標識抗体と抗原捕捉抗体の組み合わせを逆にした試験用デバイスを同様に作製した。
【0088】
N-His-cPCTを0.5、0.25、0.125、0.0625、0.0312、0 ng/mL含む正常ビーグル犬プール血清を調製し、試験用デバイスの試料注入口に100μL滴下した。15分経過した後で、帯状層部分の着色を、ポイントリーダー(登録商標、ウシオ電機株式会社製)を用いて波長525 nmの吸光度を測定することにより、定量した。
【0089】
また、N-His-cPCTを100、50、25、12.5、0 pg/mL含む正常ビーグル犬プール血清を作成し、上記同様にイムノクロマトグラフィー試験を行い、525 nmの吸光度を測定して定量した。
【0090】
抗原捕捉抗体としてRAb-cPCT(120-131)-6を、標識抗体として金コロイド標識RAb-cPCT(26-47)-4を用いた場合の測定結果を図1及び図2に示す。抗原濃度12.5 pg/mLでもバックグラウンドよりも十分に高い測定値を示した。測定した抗原濃度全体にわたって定量性がみられたが、特に抗原濃度0~0.125 ng/mLの間で吸光度との間に高い直線性があることが示された。以上から、イムノクロマトグラフィーによって低濃度のcPCTを測定できることが示された。
【0091】
抗原捕捉抗体と標識抗体の組み合わせを逆にした場合は、図1及び図2の場合よりも感度が低下した。即ち、抗原標識抗体をカタカルシン領域と結合する抗体、標識抗体をN末端プロカルシトニン領域と結合する抗体とすることで、cPCTの検出感度が高まることが示された。
【0092】
[実施例4.モノクローナル抗体のELISAへの応用]
上記の試験で得られた抗体を用いたELISAプレートを作製した。RAb-cPCT(120-131)-6を含むリン酸緩衝液(3μg/mL)を50μL用いて、96ウェルプレートの底面をコーティングした。その後、ブロッキングを行った。
【0093】
二次抗体として、RAb-cPCT(26-47)-4を、Peroxidase Labeling Kit-SH (同仁化学研究所製)を用いてHRP標識した。
【0094】
得られたプレートのウェルに、N-His-cPCTを0.5、0.25、0.125、0.0625、0.0312、0 ng/mL含むリン酸緩衝液をそれぞれ50μLずつ加え、60分インキュベートして抗原を結合させた。マニュアルに従って洗浄後、二次抗体溶液(0.03μg/mL)50μLを加えて60分インキュベートした。洗浄後、マニュアルに従って検出試薬を加え、波長450 nmの吸光度を測定した。
【0095】
結果を図3に示す。抗原濃度が0.0312 ng/mLでもバックグラウンドよりも十分に大きい吸光度が測定された。さらに、0.25 ng/mLまで定量性が認められた。
【0096】
[実施例5.抗体遺伝子の配列決定]
得られた抗cPCTモノクローナル抗体のうち、RAb-cPCT(26-47)-4及びRAb-cPCT(120-131)-6の重鎖及び軽鎖遺伝子の塩基配列を決定した。得られたコード領域の塩基配列から、重鎖及び軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を得た。RAb-cPCT(26-47)-4の重鎖可変領域は配列番号27、軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号28のアミノ酸配列であった。RAb-cPCT(120-131)-6の重鎖可変領域は配列番号29、軽鎖可変領域は配列番号30のアミノ酸配列であった。また、それぞれの可変領域のアミノ酸配列から得られるKabatらにより規定されるCDR及びIMGTにより規定されるCDRは、表4の通りである。
【0097】
【表4】
【0098】
[実施例6.抗体のイヌプロカルシトニンに対する解離定数の決定]
RAb-cPCT(26-47)-4及びRAb-cPCT(120-131)-6の解離定数を、表面プラズモン共鳴 (SPR) 法により決定した。装置はBiacore3000(GEヘルスケア社製)を用いた。1190RUのN-His-c-PCをアミンカップリング法でセンサーチップ(Sensor Chip CM5(GEヘルスケア社製))に固定化し、1.0 Mエタノールアミン-HCl(pH 8.5) でブロッキングした。ランニング緩衝液にPBST(PBSに0.005%のTween 20を加えたもの)を用い、抗体をランニング緩衝液で50 nMから1/2の希釈系列(50、25、12.5、6.13、3.13、1.56、0.781 nM)でRAb-cPCT(26-47)-4又はRAb-cPCT(120-131)-6を希釈した溶液をサンプルとした。サンプルを流速20μL/minで流してSPRに供し、センサーグラムを取得した。得られたセンサーグラムから、1:1 Langmuir Bindingモデルによるフィッティングを用いて、結合速度定数(ka)及び解離速度定数(k)を求め、kd/kaを解離定数(KD)とした。
【0099】
その結果、RAb-cPCT(26-47)-4の解離定数は2.82×10-11 M (ka=2.74×105M-1・s-1、kd=7.74×10-6 s-1)、RAb-cPCT(120-131)-6の解離定数は1.07×10-9 M (ka=1.20×105 M-1・s-1、kd=1.29×10-4 s-1)であった。
【0100】
(配列番号27:RAb-cPCT(26-47)-4重鎖可変領域;アミノ酸配列)
QSVEESGGRLVTPGTPLTLTCTVSGFSLNRYAINWVRQAPGKGLEWIAYISIRGGSSYASWAKGRFTISKTSTTVDLRITSPTTEDTATYFCVRGPTYQIEDIWGPGTLVTVSSGQPKAPSVFPLAPCCGDTPSSTVTLGCLVKGYLPEPVTVTWNSGTLTNGVRTFPSVRQSSGLYSLSSVVSVTSSSQPVTCNVAHPATNTKVDKTVAPSTCSKPTCPPPELLGGPSVFIFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQDDPEVQFTWYINNEQVRTARPPLREQQFNSTIRVVSTLPIAHQDWLRGKEFKCKVHNKALPAPIEKTISKARGQPLEPKVYTMGPPREELSSRSVSLTCMINGFYPSDISVEWEKNGKAEDNYKTTPAVLDSDGSYFLYSKLSVPTSEWQRGDVFTCSVMHEALHNHYTQKSISRSPGK
【0101】
(配列番号28:RAb-cPCT(26-47)-4軽鎖可変領域;アミノ酸配列)
DPVLTQTPSSVSAALGGTVTINCQASQSLYNNNFLSWYQQKPGQPPKLLIYQASKLASGVPSRFSGSGSGTQFTLTISGVQCDDAATYYCAGGIDIDGWYFGFGGGTEVVVKGDPVAPTVLIFPPAADQVATGTVTIVCVANKYFPDVTVTWEVDGTTQTTGIENSKTPQNSADCTYNLSSTLTLTSTQYNSHKEYTCKVTQGTTSVVQSFNRGDC
【0102】
(配列番号29:RAb-cPCT(120-131)-6重鎖可変領域;アミノ酸配列)
QSLEESGGDLVKPGASLTLTCTASGFSFSSSYWAYWVRQAPGKGLEWIGCIVTDTGTPYYASWAKGRFTISKTSSTTVTLQMTSLTAADTATYFCTRGLLIWGPGTLVTVSSGQPKAPSVFPLAPCCGDTPSSTVTLGCLVKGYLPEPVTVTWNSGTLTNGVRTFPSVRQSSGLYSLSSVVSVTSSSQPVTCNVAHPATNTKVDKTVAPSTCSKPTCPPPELLGGPSVFIFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQDDPEVQFTWYINNEQVRTARPPLREQQFNSTIRVVSTLPIAHQDWLRGKEFKCKVHNKALPAPIEKTISKARGQPLEPKVYTMGPPREELSSRSVSLTCMINGFYPSDISVEWEKNGKAEDNYKTTPAVLDSDGSYFLYSKLSVPTSEWQRGDVFTCSVMHEALHNHYTQKSISRSPGK
【0103】
(配列番号30:RAb-cPCT(120-131)-6軽鎖可変領域;アミノ酸配列)
AQVLTQTPSPVSAAVGGTVTINCQSSQSVFGGNYLAWYQQKPGQPPKQLIYDASTLASGVPSRFEGSGSGTQFTLTISGVQCDDAATYYCLGGFSCNSADCNAFGGGTEVVVKGDPVAPTVLIFPPAADQVATGTVTIVCVANKYFPDVTVTWEVDGTTQTTGIENSKTPQNSADCTYNLSSTLTLTSTQYNSHKEYTCKVTQGTTSVVQSFNRGDC
図1
図2
図3
【配列表】
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