(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】プレスフィット端子
(51)【国際特許分類】
H01R 12/58 20110101AFI20230110BHJP
【FI】
H01R12/58
(21)【出願番号】P 2018246779
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】飯星 真治
(72)【発明者】
【氏名】平井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】外崎 貴志
(72)【発明者】
【氏名】古谷 貢
(72)【発明者】
【氏名】島田 茂樹
【審査官】濱田 莉菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-166556(JP,A)
【文献】特開2012-169190(JP,A)
【文献】特開2016-139552(JP,A)
【文献】特開2016-201329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 12/00-12/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板に設けられたスルーホールに、挿入方向に沿って挿入されるプレスフィット端子であって、
前記挿入方向に沿って延びる基部と、
前記基部よりも前記挿入方向の前方に設けられると共に、先端部側角部を有する先端部と、
前記基部と前記先端部とを連結すると共に、前記スルーホールの内壁と接触して弾性変形する一対の変形部と、を備え、
前記一対の変形部は変形部側角部を有し、
前記一対の変形部は、前記変形部側角部のうち前記挿入方向と交差する方向において、外側の変形部側角部に設けられた曲面の曲率半径が、前記先端部側角部に設けられた曲面の曲率半径よりも大きい容易変形部を有する、プレスフィット端子。
【請求項2】
前記挿入方向と交差する方向について前記一対の変形部の差し渡し寸法が最大となる部分に、前記容易変形部が設けられている、請求項1に記載のプレスフィット端子。
【請求項3】
前記挿入方向と交差する方向について前記一対の変形部の差し渡し寸法が最大となる部分よりも前記挿入方向について後方の位置に、前記容易変形部が設けられている、請求項2に記載のプレスフィット端子。
【請求項4】
前記一対の変形部には、前記先端部と前記容易変形部との間に中間部が設けられており、
前記中間部は中間部側角部を有しており、前記中間部側角部に設けられた曲面の曲率半径は、前記先端部側角部の前記曲率半径から前記変形部側角部の前記曲率半径に緩やかに変化している、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のプレスフィット端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示された技術は、プレスフィット端子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、回路基板に設けられたスルーホールに圧入され、回路基板に設けられた導電回路と半田付けを行うことなく導通接続されると共に、回路基板に機械的に接触固定されるプレスフィット端子が知られている(特開2004-127610号公報参照)。プレスフィット端子は、互いに間隔を空けて配された一対の弾性接触部を備える。一対の弾性接触部を互いに接近する方向に弾性変位させつつスルーホールに挿入すると、弾性接触部が弾性復元力によってスルーホールの内周面に形成された導体層に接触し、導通接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の構成のプレスフィット端子において、接続信頼性を確保するためには、弾性接触部と、スルーホールの内壁に設けられた導体層とを確実に接触させることが望ましい。しかし、スルーホールの内壁に対して弾性接触部から加えられる荷重を大きくしすぎると、端子に大きなひずみが生じるおそれがあるので好ましくない。特に、プレスフィット端子の挿入先端側において、一対の弾性接触部が分岐する箇所には比較的に大きなひずみが発生しやすい傾向にある。
【0005】
本明細書に開示された技術は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、接続信頼性を維持しつつ、スルーホールへの挿入時における挿入力が低減されたプレスフィット端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示された技術は、回路基板に設けられたスルーホールに、挿入方向に沿って挿入されるプレスフィット端子であって、前記挿入方向に沿って延びる基部と、前記基部よりも前記挿入方向の前方に設けられると共に先端部側角部を有する先端部と、前記基部と前記先端部とを連結すると共に、前記スルーホールの内壁と接触して弾性変形する一対の変形部と、を備え、前記一対の変形部は変形部側角部を有し、前記一対の変形部は、前記変形部側角部のうち前記挿入方向と交差する方向において外側の変形部側角部に設けられた曲面の曲率半径が、前記先端部側角部に設けられた曲面の曲率半径よりも大きい容易変形部を有する。
【0007】
上記の構成によれば、一対の変形部のうち容易変形部においては、変形部側角部に設けられた曲面の曲率半径が比較的に大きいので、スルーホールの内壁に接近しやすくなっている。これにより、一対の変形部の弾性変形量が小さくなるので、プレスフィット端子をスルーホール内に挿入する際の挿入力を低減させることができる。
【0008】
また、上記の構成によれば、先端部側角部に設けられた曲面の曲率半径は比較的に小さいので、先端部の断面積は比較的に大きくなっている。これにより、先端部の剛性は比較的に大きくなるので、スルーホールの内壁に対して一対の変形部が加える接触荷重を維持することができる。この結果、プレスフィット端子の保持力が低下することを抑制することができる。
【0009】
本明細書に開示された技術の実施態様としては以下の態様が好ましい。
【0010】
前記挿入方向と交差する方向について前記一対の変形部の差し渡し寸法が最大となる部分に、前記容易変形部が設けられている。
【0011】
上記の構成によれば、挿入方向と交差する方向について一対の変形部の差し渡し寸法が最大となる部分は、スルーホールの内壁と確実に接触するようになっている。この部分に容易変形部を設けるので、一対の変形部の変形量を確実に減少させることができる。これにより、プレスフィット端子の挿入力を確実に低減させることができる。
【0012】
前記挿入方向と交差する方向について前記一対の変形部の差し渡し寸法が最大となる部分よりも前記挿入方向について後方の位置に、前記容易変形部が設けられている。
【0013】
上記の構成によれば、挿入方向と交差する方向について一対の変形部の差し渡し寸法が最大となる部分よりも挿入方向について後方の部分についても、一対の変形部の変形量を更に減少させることができる。これにより、プレスフィット端子の挿入力を更に低減させることができる。
【0014】
前記一対の変形部には、前記先端部と前記容易変形部との間に中間部が設けられており、前記中間部は中間部側角部を有しており、前記中間部側角部に設けられた曲面の曲率半径は、前記先端部側角部の前記曲率半径から前記変形部側角部の前記曲率半径に緩やかに変化している。
【0015】
上記の構成によれば、先端部側角部から変形部側角部に至る部分には緩やかに曲率半径が変化する曲面が形成されている。これにより、スルーホールの内面が傷付くことが抑制されるので、プレスフィット端子の接続信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0016】
本明細書に開示された技術によれば、接続信頼性を維持しつつ、スルーホールへの挿入時における挿入力が低減されたプレスフィット端子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態1に係るプレスフィット端子と回路基板のスルーホールとを示す一部拡大断面図
【
図5】プレスフィット端子が回路基板のスルーホール内に挿入された状態を示す一部拡大断面図
【
図6】実施例1、比較例1、及び比較例2を模式的に示す一部拡大断面図
【
図7】挿入長さに対する挿入荷重の関係を示すグラフ
【
図9】引き抜き長さに対する引き抜き荷重の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施形態1>
本明細書に開示された技術の実施形態1を
図1から
図9を参照しつつ説明する。本実施形態に係るプレスフィット端子10は、回路基板30に設けられたスルーホール31に、挿入方向(矢線Aで示す方向)に沿って挿入された状態で保持されるようになっている。以下の説明において、
図1における下方を挿入方向の前方とし、
図1における上方を挿入方向の後方とする。
【0019】
回路基板30
図1に示すように、回路基板30は、ガラス基材、ガラス不織布基材等の絶縁材料からなる絶縁板の表裏両面に、プリント配線技術により導電路(図示せず)が形成された、一般的な構成のプリント基板である。回路基板30は複数のスルーホール31を有している。各スルーホール31は、回路基板30の一面から他面まで貫通する孔である。スルーホール31の内周面には、メッキ等の公知の手法により、導電路と電気的に接続された導体層(図示せず)が形成されている。
【0020】
プレスフィット端子10
図1に示すように、プレスフィット端子10は、銅、銅合金等の導電性に優れた金属板をプレス加工することによって形成される。プレスフィット端子10は、概ね角棒状の基部11と、挿入方向について基部11の前方に位置する概ね角棒状をなす先端部12と、基部11と先端部12とを連結する一対の変形部13と、を有する。基部11には、プレスフィット端子10を回路基板30へ挿入する際に図示しない治具等から印加される荷重を受ける係止部20が、挿入方向と直交する方向に突出して設けられている。
【0021】
一対の変形部13のそれぞれは、概ね細い角棒状をなしている。一対の変形部13は、スルーホール31への挿入方向と交差する方向について互いに離間する方向に広がって形成されている。
【0022】
一対の変形部13は、互いに近づく方向に弾性変形可能となっている。自然状態(一対の変形部13に力が加えられていない状態)では、挿入方向と交差する方向についての、一対の変形部13の最大の差し渡し寸法W(両変形部13の外縁間の寸法)は、スルーホール31の直径Dよりも大きく設定されている。
【0023】
先端部12は、挿入方向の前端(変形部13と反対側の端部)が先細りとなっており、挿入方向に沿って延びている。
【0024】
図2に示すように、先端部12は、挿入方向に沿って延びる4つの先端部側角部14を有し、この先端部側角部14には曲面が形成されている。
図2に示すように、先端部12の断面形状は、角が丸められた四角形状をなしている。
【0025】
図3に示すように、一対の変形部13のそれぞれは、挿入方向に沿って延びる4つの変形部側角部15を有する。各変形部13に設けられた4つの変形部側角部15のうち、挿入方向と交差する方向について外側に位置する2つの変形部側角部15Aには曲面が形成されている。
【0026】
図1に示すように、挿入方向について、一対の変形部13のうち後端部から約三分の二の領域においては、変形部側角部15Aに設けられた曲面の曲率半径RLが、先端部側角部14に設けられた曲面の曲率半径RSよりも、大きく設定されている。これにより、一対の変形部13の断面形状は、全体として丸みを帯びた形状をなしている。
【0027】
一対の変形部13のうち曲率半径RLが、先端部12の曲率半径RSよりも大きく設定されている部分は、容易変形部16とされる。
図1に示すように、容易変形部16は、一対の変形部13のうち、挿入方向と交差する方向についての差し渡し寸法Wが最大となっている領域に形成されている。更に、容易変形部16は、挿入方向と交差する方向についての差し渡し寸法Wが最大となっている領域よりも、挿入方向について後方の領域にも形成されている。
【0028】
一対の変形部13のうち挿入方向についての前端部から約三分の一の領域は、中間部17とされる。
図4に示すように、各中間部17は、挿入方向に沿って延びる4つの中間部側角部18を有する。中間部側角部18のうち挿入方向と子往査する方向について外側の中間部側角部18Aには曲面が形成されている。中間部側角部18Aに形成された曲面の曲率半径RMは、先端部12の先端部側角部14に設けられた曲面の曲率半径RSから、容易変形部16の変形部側角部15Aに設けられた曲面の曲率半径RLまで緩やかに変化するように設定されている。
【0029】
プレスフィット端子10の挿入工程
次に、プレスフィット端子10をスルーホール31に挿入する工程について説明する。プレスフィット端子10の先端部12をスルーホール31に位置合わせし、先端部12をスルーホール31の内部に挿入する。
【0030】
更にプレスフィット端子10を挿入方向の前方に押圧すると、一対の変形部13の外縁がスルーホール31の孔縁部に摺接する。これにより、一対の変形部13がスルーホール31の内部に案内され、一対の変形部13が互いに接近するように弾性変形しつつスルーホール31内に挿入される。
【0031】
変形部13が正規位置(
図5に示す位置)まで挿入されると、挿入方向と交差する方向についての差し渡し寸法Wが最大となる部分がスルーホール31の内壁(導体層の内面)に接触する。すると、一対の変形部13の弾発力により、一対の変形部13がスルーホール31の内壁に押圧される。これにより、プレスフィット端子10と導体層とが電気的に接続される。
【0032】
実施例及び比較例の説明
続いて、実施例及び比較例により、本明細書に開示された技術について詳細に説明する。
図6を参照しつつ、実施例1、比較例1、及び比較例2に係るプレスフィット端子10について説明する。
【0033】
実施例1においては、変形部側角部15Aに形成された曲面の曲率半径RLは、先端部側角部14に形成された曲面の曲率半径RSよりも大きく設定されている。
【0034】
比較例1及び比較例2においては、変形部側角部15Aに形成された曲面の曲率半径と、先端部側角部14に形成された曲面の曲率半径とは、同じ大きさに設定されている。比較例1の変形部側角部15A及び先端部側角部14に形成された曲面の曲率半径は、実施例1の先端部側角部14に形成された曲面の曲率半径と同じに設定されている。比較例2の変形部側角部15A及び先端部側角部14に形成された曲面の曲率半径は、実施例1の変形部側角部15Aに形成された曲面の曲率半径と同じに設定されている。
【0035】
実施例1、比較例1、及び比較例2について、挿入力、及び保持力のCAE(Computer Aided Engineering)解析を行った。挿入力についての結果を
図7に示し、保持力についての結果を
図9に示す。
【0036】
挿入荷重について
図7には、プレスフィット端子10をスルーホール31に挿入する際における、挿入長さ(ストローク)に対する挿入荷重の関係を示す。実線E1は実施例1の解析結果を示し、比較的に粗い破線C1は比較例1の解析結果を示し、比較的に細かな破線C2は比較例2の解析結果を示す。なお、挿入長さの値は一例であって、本明細書の記載に限定されない。
【0037】
実施例1、比較例1、及び比較例2に共通する傾向について説明する。挿入長さが0mmから約0.5mmに至るまでは、挿入荷重は単調に増加し、挿入長さが0.5mmを超えると単調に減少する。これにより、挿入荷重は、挿入長さが概ね0.5mmの近傍で第1ピークを有する。
【0038】
挿入長さが1mmから1.5mmの領域では、挿入荷重は再び単調に増加し、挿入荷重が1.5mmを超えると単調に減少する。これにより、挿入荷重は、挿入長さが概ね1.5mmの近傍で第2ピークを有する。挿入長さが1.5mmから2mmの間で、プレスフィット端子10は、スルーホール31内への挿入が完了するようになっている。
【0039】
挿入荷重(挿入力)は、一対の変形部13の弾発力に抗してプレスフィット端子10を挿入方向の前方に押圧する力である。このため、挿入荷重の大小は、一対の変形部13の変形量に依存する。
【0040】
図6に示すように、比較例1においては、変形部側角部15Aに形成された曲面の曲率半径は、実施例1及び比較例2に係る変形部側角部15Aに形成された曲面の曲率半径よりも小さく設定されている。これにより、一対の変形部13の外縁は、スルーホール31内に挿入された状態において、スルーホール31の内壁から離間した位置にまで弾性変形する。つまり、比較例1に係る一対の変形部13の弾性変形量は、実施例1及び比較例2に係る一対の変形部13の弾性変形量よりも大きくなっている。この結果、比較例1の挿入荷重は、実施例1及び比較例2よりも大きくなっている。
【0041】
なお、比較例2の挿入荷重は、実施例1よりも小さくなっている。これは、比較例2の先端部側角部14に形成された曲面の曲率半径が、実施例1の先端部側角部14に形成された曲面の曲率半径よりも大きいため、比較例2の先端部12の断面積が実施例1の先端部12の断面積よりも小さくなっていることに起因する。比較例2の挿入荷重が実施例1よりも小さいことにより、後述するように保持力が低下してしまうので、好ましくない。
【0042】
図8には、スルーホール31内の正規位置に挿入された状態における、実施例1、比較例1、及び比較例2の先端部12に生じたひずみを示す。図中、ひずみが大きい部分ほど、色が濃くなるようになっている。上記したように、比較例1に係る一対の変形部13は、互いに接近する方向について比較的に大きく弾性変形する。このため、比較例1の先端部12においては、挿入方向と交差する方向の外縁部が、挿入方向について互いに反対方向に引っ張られるようなひずみが生じる。
【0043】
比較例2の変形部側角部15Aに形成された曲面の曲率半径は、比較例1の変形部側角部15Aに形成された曲面の曲率半径よりも大きく設定されているので、比較例2に係る一対の変形部13の変形量は、比較例1よりも小さい。このため、比較例2の先端部12に生じるひずみは、比較例1よりも小さくなっている。
【0044】
実施例1の変形部側角部15Aに形成された曲面の曲率半径RLは、比較例1の変形部側角部15Aに形成された曲面の曲率半径よりも大きく設定されているので、実施例1に係る一対の変形部13の変形量は、比較例1よりも小さい。更に、実施例1の先端部側角部14に形成された曲面の曲率半径RSは、比較例2の先端部側角部14に形成された曲面の曲率半径よりも小さいので、実施例1の先端部12の断面積は、比較例2の先端部12の断面積よりも大きい。この結果、実施例1の先端部12は、比較例2の先端部12に比べてひずみにくくなっている。
【0045】
保持力について
図9には、プレスフィット端子10をスルーホール31から引き抜く際における、引き抜き長さ(ストローク)に対する引き抜き荷重(保持力)の関係を示す。実線E1は実施例1の解析結果を示し、比較的に粗い破線C1は比較例1の解析結果を示し、比較的に細かな破線C2は比較例2の解析結果を示す。なお、挿入引き抜き長さの値は一例であって、本明細書の記載に限定されない。
【0046】
引き抜き長さが0mmにおいては、引き抜き荷重は0である。引き抜き長さが0mmを超えると引き抜き荷重は急激に上昇し、最大値となる。以後は、引き抜き長さの増大とともに単調に減少し、引き抜き長さが約1mmを超えると、スルーホール31の内壁から一対の変形部13が離間するので、引き抜き荷重は0となる。
【0047】
上記したように、比較例1及び実施例1の先端部12の断面積は、比較例2の先端部12の断面積よりも大きい。このため、比較例1及び実施例1に係るプレスフィット端子10の引き抜き荷重は、比較例2に比べて大きい。これにより、実施例1は、比較例1と同程度の保持力を得ることができる。一方で、比較例2に係るプレスフィット端子10においては、先端部12の断面積が比較的に小さいために、十分な保持力を得ることが難しいという問題が生じる。
【0048】
本実施形態の作用効果の説明
続いて、本実施形態の作用効果について説明する。本実施形態に係るプレスフィット端子10は、回路基板30に設けられたスルーホール31に、挿入方向に沿って挿入されるプレスフィット端子10であって、挿入方向に沿って延びる基部11と、基部11よりも挿入方向の前方に設けられると共に先端部側角部14を有する先端部12と、基部11と先端部12とを連結すると共に、スルーホール31の内壁と接触して弾性変形する一対の変形部13と、を備え、一対の変形部13には変形部側角部15が設けられており、一対の変形部13は、変形部側角部15のうち挿入方向と交差する方向について外側の変形部側角部15Aに設けられた曲面の曲率半径RLが、先端部側角部14に設けられた曲面の曲率半径RSよりも大きく設定された容易変形部16を有する。
【0049】
上記の構成によれば、一対の変形部13のうち容易変形部16においては、変形部側角部15Aに設けられた曲面の曲率半径RLが比較的に大きいので、スルーホール31の内壁に接近しやすくなっている。これにより、一対の変形部13の弾性変形量が小さくなるので、プレスフィット端子10をスルーホール31内に挿入する際の挿入力を低減させることができる。
【0050】
また、上記の構成によれば、先端部側角部14に設けられた曲面の曲率半径RSは比較的に小さいので、先端部12の断面積は比較的に大きくなっている。これにより、先端部12の剛性は比較的に大きくなるので、スルーホール31の内壁に対して一対の変形部13が加える荷重を維持することができる。この結果、プレスフィット端子10の保持力が低下することを抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、挿入方向と交差する方向について一対の変形部13の差し渡し寸法Wが最大となる部分に、容易変形部16が設けられている。
【0052】
上記の構成によれば、挿入方向と交差する方向について一対の変形部13の差し渡し寸法Wが最大となる部分は、スルーホール31の内壁と確実に接触するようになっている。この部分に容易変形部16を設けるので、一対の変形部13の変形量を確実に減少させることができる。これにより、プレスフィット端子10の挿入力を確実に低減させることができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、挿入方向と交差する方向について一対の変形部13の差し渡し寸法Wが最大となる部分よりも挿入方向について後方の位置に、容易変形部16が設けられている。
【0054】
上記の構成によれば、挿入方向と交差する方向について一対の変形部13の差し渡し寸法Wが最大となる部分よりも挿入方向について後方の部分についても、一対の変形部13の変形量を更に減少させることができる。これにより、プレスフィット端子10の挿入力を更に低減させることができる。
【0055】
また、本実施形態によれば、一対の変形部13には、先端部12と容易変形部16との間に中間部17が設けられており、中間部17は中間部側角部18Aを有しており、中間部側角部18Aに設けられた曲面の曲率半径RMは、先端部側角部14の曲率半径RSから変形部側角部15Aの曲率半径に緩やかに変化している。
【0056】
上記の構成によれば、先端部側角部14から変形部側角部15Aに至る部分には緩やかに曲率半径RMが変化する曲面が形成されている。これにより、スルーホール31の内面が傷付くことが抑制されるので、プレスフィット端子10の接続信頼性が向上する。
【0057】
<他の実施形態>
本明細書に開示された技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本明細書に開示された技術の技術的範囲に含まれる。
【0058】
(1)プレスフィット端子10は、中間部17を有さず、一対の変形部13の全部が容易変形部16とされる構成であってもよい。
【0059】
(2)挿入方向と交差する方向について一対の変形部13の差し渡し寸法Wが最大となる部分と異なる部分に、容易変形部16が設けられていてもよい。
【0060】
(3)中間部側角部18に設けられた曲面の曲率半径RMは、先端部側角部14の曲率半径から変形部側角部15Aの曲率半径に緩やかに変化していなくてもよく、例えば、中間部側角部18に設けられた曲面の曲率半径RMは、先端部側角部14の曲率半径RSと同じでもよいし、また、変形部側角部15Aの曲率半径RLと同じでもよいし、また、中間部側角部18に設けられた曲面の曲率半径RMが、先端部側角部14の曲率半径RS及び変形部側角部15Aの曲率半径RLと異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10:プレスフィット端子
11:基部
12:先端部
13:変形部
14:先端部側角部
15,15A:変形部側角部
16:容易変形部
17:中間部
18,18A:中間部側角部
30:回路基板
31:スルーホール
A:挿入方向
W:差し渡し寸法
RL:変形部側角部に形成された曲面の曲率半径
RS:先端部側角部に設けられた曲面の曲率半径
RM:中間部側角部に設けられた曲面の曲率半径