(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】工具本体
(51)【国際特許分類】
B23B 27/16 20060101AFI20230110BHJP
B23B 27/04 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B23B27/16 A
B23B27/04
(21)【出願番号】P 2019028207
(22)【出願日】2019-02-20
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】武藤 敬大
(72)【発明者】
【氏名】小川 篤
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05167473(US,A)
【文献】実公昭45-003513(JP,Y1)
【文献】実開昭61-035706(JP,U)
【文献】国際公開第2013/151137(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00 - 29/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削インサートと組み合わせて旋削工具を構成する工具本体であって、
前記切削インサートは、第1面と、該第1面とは反対側の第2面と、前記第1面及び前記第2面を繋ぐ側面と、前記第1面及び前記第2面を貫通する貫通孔と、を有し、
前記工具本体は、前記切削インサートが装着されるチップ座が設けられたボデーと、前記切削インサートが前記チップ座に拘束される第1角度と前記切削インサート及び前記チップ座の拘束が解除される第2角度との間で旋回可能なレバーと、を有し、
前記チップ座は、前記第1面又は前記第2面が着座する取付座面と、前記側面に対向する拘束壁と、を有し、
前記レバーは、前記ボデーに軸支された軸部と、前記貫通孔に挿入された摺接部と、を有し、
前記軸部の中心軸を回転中心にして前記レバーを前記第2角度から前記第1角度へ旋回させると、前記摺接部は、前記貫通孔に摺接しながら前記貫通孔内で自転するとともに、前記軸部の周りを公転することによって、前記切削インサートを前記拘束壁に向かって押圧
し、
前記拘束壁の少なくとも一部は、前記工具本体の長手方向において、前記切削インサートに向かって突出した爪の先端に設けられ、
前記爪の少なくとも一部は、前記軸部の軸方向において、前記第1角度における前記レバーに重畳している、
工具本体。
【請求項2】
切削インサートと組み合わせて旋削工具を構成する工具本体であって、
前記切削インサートは、第1面と、該第1面とは反対側の第2面と、前記第1面及び前記第2面を繋ぐ側面と、前記第1面及び前記第2面を貫通する貫通孔と、を有し、
前記工具本体は、前記切削インサートが装着されるチップ座が設けられたボデーと、前記切削インサートが前記チップ座に拘束される第1角度と前記切削インサート及び前記チップ座の拘束が解除される第2角度との間で旋回可能なレバーと、を有し、
前記チップ座は、前記第1面又は前記第2面が着座する取付座面と、前記側面に対向する拘束壁と、を有し、
前記レバーは、前記ボデーに軸支された軸部と、前記貫通孔に挿入された摺接部と、を有し、
前記軸部の中心軸を回転中心にして前記レバーを前記第2角度から前記第1角度へ旋回させると、前記摺接部は、前記貫通孔に摺接しながら前記貫通孔内で自転するとともに、前記軸部の周りを公転することによって、前記切削インサートを前記拘束壁に向かって押圧
し、
前記レバーは、前記軸部が設けられた基端部と、該基端部とは反対側の先端部と、前記基端部及び前記先端部を繋ぐ胴部と、をさらに有し、
前記チップ座は、前記工具本体の長手方向に対して傾斜した形状で且つ前記胴部の少なくとも一部を収容可能な傾斜溝をさらに有し、
前記傾斜溝は、前記レバーに当接することによって前記第1角度を規制する規制部を含んでいる、
工具本体。
【請求項3】
前記貫通孔の軸方向において、前記軸部の少なくとも一部は、前記貫通孔に重畳する位置に設けられている、
請求項1
又は2に記載の工具本体。
【請求項4】
前記摺接部は、前記軸部の中心軸とは異なる中心軸に沿って延びる円柱状に形成されている、
請求項1
乃至3のいずれか一項に記載の工具本体。
【請求項5】
前記レバーは、前記軸部と前記摺接部との間に挟まれ、前記軸部と中心軸を共有し該軸部よりも直径が大きい拡径部をさらに有し、
前記チップ座は、前記拡径部に倣う形状の案内溝をさらに有し、
前記レバーを前記第1角度と前記第2角度との間で旋回させるとき、前記拡径部は前記案内溝内で自転する、
請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の工具本体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサートと組み合わせて旋削工具を構成する工具本体に関する。
【背景技術】
【0002】
製造ラインにおいて、機械設備を停止させて行う交換作業(内段取り)の作業時間をできるだけ短縮したいという要望がある。切削インサートの主な固定方法として、ねじ止め式(例えば、特許文献1参照)、レバーロック式(例えば、特許文献2参照)、クランプオン式(例えば、特許文献3参照)等が知られている。
【0003】
ねじ止め式は、切削インサートの貫通孔に締付けねじを挿通して切削インサートの上面を直に押さえ付ける。レバーロック式は、チップ座の底面に埋設されたレバーと呼ばれるL字形の金具を用いる。締付けねじを締めてレバーの一端を押し下げると、切削インサートの貫通孔に挿入されているレバーの他端が該切削インサートをチップ座の壁面に向かって押し付ける。クランプオン式は、チップ座に隣接した押え駒と呼ばれる爪を用いる。押え駒の基端に挿通されている締付けねじを締めると、押え駒の先端が貫通孔を引き込むとともに切削インサートの上面を押さえ付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-183829号公報
【文献】特開2014-147977号公報
【文献】特許第4811753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1乃至3に記載の固定方法はいずれも、切削インサートの交換作業において、締付けねじをスパナで緩めたり絞めたりするため作業時間が長くなる傾向がある。特許文献1に記載の固定方法の場合、作業時間の課題に加えて、さらにトルク管理の課題もある。各々の切削工具には推奨される締付けトルクがある。しかしながら、トルクレンチを使わずに切削インサートが交換されることもあり得る。締付けトルクが不足していると、締付けねじが緩んで切削インサートが脱落するおそれがある。締付けトルクが過大であると、切削インサートが割れてしまうおそれがある。微小な締付けねじを紛失しやすいため、予備の在庫も必要になる。
【0006】
そこで、本発明は、切削インサートを簡単に着脱でき、切削インサートを適正な力で拘束できる工具本体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る工具本体は、切削インサートと組み合わせて旋削工具を構成する。切削インサートは、第1面と、該第1面とは反対側の第2面と、第1面及び第2面を繋ぐ側面と、第1面及び第2面を貫通する貫通孔と、を有している。工具本体は、切削インサートが装着されるチップ座が設けられたボデーと、レバーと、を有している。レバーは、切削インサートがチップ座に拘束される第1角度と、切削インサート及びチップ座の拘束が解除される第2角度との間で旋回可能である。チップ座は、第1面又は第2面が着座する取付座面と、側面に対向する拘束壁と、を有している。レバーは、ボデーに軸支された軸部と、貫通孔に挿入された摺接部と、を有している。軸部の中心軸を回転中心にしてレバーを第2角度から第1角度へ旋回させると、摺接部は、貫通孔に摺接しながら貫通孔内で自転するとともに、軸部の周りを公転することによって、切削インサートを拘束壁に向かって押圧する。
【0008】
この態様によれば、レバーを第2角度から第1角度へ旋回させて切削インサートをチップ座に拘束できる。逆に、レバーを第1角度から第2角度へ旋回させて切削インサートとチップ座との拘束を解除できる。スパナで締付けねじを緩めたり締めたりする必要がないため、切削インサートの交換作業において、作業時間を短縮できる。また、あらかじめ設定された第1角度に応じてボデーやレバーの撓み量が決まるため、常に適正な力で切削インサートをチップ座に拘束できる。
【0009】
上記態様において、軸部の少なくとも一部は、貫通孔の軸方向において貫通孔に重畳する位置に設けられていることが好ましい。
【0010】
この態様は、軸部と摺接部との偏心量が小さい。レバーの旋回角度に応じた切削インサートの変位量が小さくなり、切削インサートの微小移動を精密に調整できるようになるため、より適正な力で切削インサートをチップ座に拘束できる。
【0011】
上記態様において、摺接部は、軸部の中心軸とは異なる中心軸に沿って延びる円柱状が好ましい。
【0012】
この態様によれば、摺接部は、略同一形状の貫通孔内で滑らかに摺動する。ただし、円柱状とは、厳密な円柱形に限定されない。円形の突出面が面取りされていてもよい。また、摺接部の形状は、円柱状に限定されない。円柱状が好ましいものの、例えば、軸部とは異なる中心軸の楕円柱状であってもよいし、軸部とは異なる中心軸の正角柱(正多角形の底面を有する角柱)状であってもよい。例えば、断面の輪郭が半円であってもよいし、インボリュート曲線であってもよい。それらを組み合わせた形状であってもよい。
【0013】
レバーは、拡径部をさらに有している。拡径部は、軸部と摺接部との間に挟まれ、軸部と中心軸を共有し該軸部よりも直径が大きい。チップ座は、拡径部に倣う形状の案内溝をさらに有している。レバーを第1角度と第2角度との間で旋回させるとき、拡径部は案内溝内で自転する。
【0014】
この態様によれば、拡径部が案内溝に案内される分、レバーがボデーに軸支される面が増えるため、レバーの動きが安定する。なお、拡径部は、円柱状であってもよいし、円錐台状であってもよいし、トーラス(ドーナツ形)状であってもよいし、それらを組み合わせた形状であってもよい。
【0015】
上記態様において、拘束壁の少なくとも一部は、工具本体の長手方向において、切削インサートに向かって突出した爪の先端に設けられていてもよい。爪の少なくとも一部は、軸部の軸方向において、第1角度におけるレバーに重畳していてもよい。
【0016】
この態様によれば、胴部の一部が爪の裏側に隠れて保護される。また、旋削加工中に不測の力が作用してレバーが浮き上がっても爪の側面で押さえ付けることができる。そのため、レバーが外乱によって外れにくくなる。
【0017】
上記態様において、レバーは、軸部が設けられた基端部と、該基端部とは反対側の先端部と、基端部及び先端部を繋ぐ胴部と、をさらに有している。チップ座は、胴部の少なくとも一部を収容可能な傾斜溝をさらに有している。傾斜溝は、工具本体の長手方向に対して傾斜した形状で、レバーに当接することによって第1角度を規制する規制部を含んでいる。規制部は、例えば、ボデーの側面と傾斜溝との稜線であってもよいし、傾斜溝の内部に設けられた突起等であってもよい。
【0018】
この態様によれば、規制部に当接するとレバーがそれ以上動かなくなる。第1角度を正確に規制することができるため、常に適正な力で切削インサートをチップ座に拘束できる。
【0019】
本発明によれば、切削インサートを簡単に着脱でき、切削インサートを適正な力で拘束できる工具本体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る旋削工具の一例を示す斜視図であり、切削インサートがチップ座に拘束された状態を示している。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る旋削工具の一例を示す斜視図であり、切削インサートとチップ座との拘束が解除された状態を示している。
【
図3】
図3は、
図2に示された旋削工具を分解して示す斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3に示されたレバーの一例を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、
図4に示された軸部及び摺接部の中心軸を示す平面図である。
【
図6】
図6は、
図3に示されたチップ座の一例を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、レバーが第2角度に位置している状態を示す正面図である。
【
図8】
図8は、レバーが第1角度に位置している状態を示す正面図である。
【
図9】
図9は、
図5に示されたレバーの変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。本発明の一実施形態の工具本体3は、摺接部55によって切削インサート2をチップ座40に拘束する点が特徴の一つである。切削インサート2の貫通孔24には、レバー5の摺接部55が挿入されている(
図3参照)。レバー5を旋回させると(
図1及び
図2参照)、摺接部55は、貫通孔24に摺接しながら貫通孔24内で自転するとともに、軸部54の周りを公転し、切削インサート2をチップ座40に向かって押圧する(
図7及び
図8参照)。
【0022】
本実施形態によれば、レバー5を旋回させるだけで、切削インサート2を簡単に着脱できる。締付けねじをスパナで緩めたり絞めたりする必要がない。また、本実施形態では、設計された第1角度θ1に応じてボデー4やレバー5の撓み量が決まるため、常に適正な力で切削インサート2をチップ座40に拘束できる。締付けねじのトルク管理の手間を省略できるため、作業者の負担を軽減できる。以下、
図1から
図9を参照して各構成について詳しく説明する。
【0023】
図1及び
図2は、本発明の一実施形態に係る旋削工具1の一例を示す斜視図である。
図1は、切削インサート2がチップ座40に拘束された状態を示し、
図2は、切削インサート2とチップ座40との拘束が解除された状態を示している。旋削工具1は、切削インサート2をチップ座40に装着し、軸部54を回転中心にレバー5を第2角度θ2から第1角度θ1へ旋回させると、切削インサート2がチップ座40に拘束されるように構成されている。また、旋削工具1は、軸部54を回転中心にレバー5を第1角度θ1から第2角度θ2へ旋回させると、切削インサート2とチップ座40との拘束が解除されるように構成されている。
【0024】
図3は、
図2に示された旋削工具1を分解して示す斜視図である。
図3に示すように、旋削工具1は、交換可能な切削インサート2と、該切削インサート2を固定する工具本体3と、を備えている。切削インサート2は、例えば、第1面21と、第1面21とは反対側の第2面22と、第1及び第2面21,22を繋ぐ側面(インサート側面)23と、を有している。切削インサート2には、第1及び第2面21,22を切削インサート2の厚み方向に貫通する円形の貫通孔24が設けられている。
【0025】
図示した例では、第1面21の一部がチップ座40に着座する着座面になっている。なお、第1及び第2面21,22は、略同一の形状及び機能を有している。旋削工具1において、第2面22の一部が着座面になってもよい。側面23の一部は、拘束壁46に着座する着座面25、被削物を削る切れ刃26及び被削物の切りくずが流出するすくい面27として構成されている。
【0026】
工具本体3は、工具本体3の長手方向Dxに沿って延在するボデー4と、ボデー4に対して旋回可能に軸支されたレバー5と、を備えている。ボデー4の先端には、切削インサート2が着座するチップ座40が設けられている。レバー5を軸支する軸受け41は、チップ座40の内部に設けられている。なお、チップ座40の外部に軸受け41を設けてもよい。
【0027】
軸受け41の少なくとも一部は、切削インサート2の貫通孔24の中心軸Z3の軸方向において、切削インサート2の着座面(例えば、第1面21)に重畳する位置に設けられていることが好ましい。図示した例では、軸受け41の少なくとも一部が、中心軸Z3の軸方向において、貫通孔24に重畳する位置に設けられている。
【0028】
図4は、レバー5の一例を示す斜視図である。
図4に示すようにレバー5は、例えば棒状に形成され、基端部51と、基端部51とは反対側の先端部52と、基端部51及び先端部52を繋ぐ胴部53と、を有している。先端部52には、作業者がレバー5を持ち上げるための指掛環56が形成されている。基端部51には、前述の軸受け41に軸支される軸部54が設けられている。
【0029】
軸部54は、基端部51の一側から突出した円柱状に形成されている。つまり、一対の底面と、側面(周面)と、を有し、一方の底面が基端部に固定されている。本明細書において、円柱状とは、厳密な円柱形に限定されない。軸部54の側面の輪郭が円形であればよい。図示した例では、他方の底面(突出面)の縁が面取りされている。図示しないが、ボデー4の軸受け41を円柱状(円形の凸部)に形成し、レバー5の軸部54を円筒状(円形の凹部)に形成してもよい。
【0030】
図示した例では、基端部51が、軸部54と中心軸Z1を共有し軸部54よりも直径が大きい拡径部として構成されている。ただし、基端部51は、軸部54よりも拡径に限定されない。軸部54と同径であってもよいし、軸部54よりも縮径であってもよい。図示した例では、拡径部が、軸部54よりも拡径の円柱状に形成されている。
【0031】
拡径部の形状は、円柱状に限定されない。例えば、円錐台状であってもよいし、トーラス(ドーナツ形)状であってもよいし、それらを組み合わせた形状であってもよい。基端部51には、軸部54に加えて摺接部55がさらに設けられている。摺接部55は、基端部51の他側から軸部54とは反対側に突出している。つまり、摺接部55は、拡径部を挟んで軸部54の反対側に位置している。
【0032】
図5は、
図4に示された軸部54及び摺接部55の中心軸Z1,Z2を示す平面図である。図示した例では、摺接部55が、軸部54の中心軸Z1とは異なる中心軸Z2に沿って延びる円柱状に形成されている。より詳しくは、摺接部55が、軸部54の中心軸Z1に平行で該中心軸Z1から僅かに離れた位置の中心軸Z2に沿って延びる円柱状に形成されている。換言すると、摺接部55は、軸部54の中心軸Z1から偏心した位置の偏心軸(中心軸Z2)を有している。
【0033】
ただし、摺接部55の形状は、円柱状に限定されない。円柱状が好ましいものの、例えば、軸部54とは異なる中心軸Z2の楕円柱状であってもよいし、中心軸Z2の正角柱(正多角形の底面を有する角柱)状であってもよい。例えば、断面の輪郭が半円であってもよいし、インボリュート曲線であってもよい。それらを組み合わせた形状であってもよい。
【0034】
図6は、チップ座40の一例を示す斜視図である。
図6に示すように、チップ座40には、前述の軸受け41に加えて、切削インサート2の第1面21又は第2面22が着座する取付座面45と、側面23に対向する拘束壁46と、がさらに設けられている。図示した例では、拘束壁46の一部が、爪47の先端に設けられている。
【0035】
図1に示すように、爪47は、第1角度θ1におけるレバー5の胴部53に沿って工具本体3の長手方向Dxに延びる平板状に形成され、切削インサート2に向かって突出している。換言すると、爪47の側面の少なくとも一部は、軸部54の軸方向Dzにおいて、第1角度θ1におけるレバー5の胴部53に重畳している。
【0036】
以下の説明において、
図1に示された切削インサート2の着座面(例えば第1面21)を下面とし、反対側の面(例えば、第2面22)を上面とする。工具本体3の高さ方向且つチップ座40の深さ方向、すなわち軸部54の軸方向Dzにおいて、切削インサート2の下面から上面への向きを上向きとし、上面から下面への向きを下向きとする。
【0037】
図6に示すように、チップ座40には、案内溝42と、傾斜溝43と、規制部44と、がさらに設けられている。軸部54の軸方向Dzにおいて、案内溝42は、取付座面45の下側に位置している。軸受け41は、案内溝42よりもさらに下側に位置している。傾斜溝43及び規制部44は、案内溝42と同じ高さに位置している。爪47は、取付座面45の上側に位置し、上方から傾斜溝43に対向している。
【0038】
案内溝42は、レバー5の拡径部(基端部51)に倣う形状に形成されている。つまり、案内溝42は、軸受け41と中心軸を共有し、軸受け41よりも拡径に形成されている。傾斜溝43は、工具本体3の長手方向Dxに対して傾斜するように形成され、案内溝42に連通している。より詳しくは、傾斜溝43は、ボデー4の基端に向かうに従って、工具本体3の短手方向Dyに浅くなるように形成されている。傾斜溝43は、レバー5の胴部53の一部を収容可能に構成されている。
【0039】
規制部44は、レバー5を第2角度θ2から第1角度θ1への向きに旋回させたとき、レバー5に当接して第1角度θ1を規制する部位である。図示した例では、ボデー4の側面と傾斜溝43との稜線が規制部44として構成されている。なお、規制部44は、傾斜溝43の内部に設けられた突起等であってもよい。レバー5の指掛環56を大きく形成し、指掛環56と該指掛環56に当接されるボデー4とを規制部44として構成してもよい。
【0040】
図7は、レバー5が第2角度θ2に位置している状態を示す正面図であり、
図8は、レバー5が第1角度θ1に位置している状態を示す正面図である。図示した例では、工具本体3の長手方向Dxを基準(0,2π)にした角変位で第1及び第2角度θ1,θ2を表している。なお、工具本体3の短手方向Dyを基準に第1及び第2角度θ1,θ2を表してもよいし、第1角度θ1を基準にして第2角度θ2を表してもよい。角変位が
図8に示された第1角度θ1から
図7に示された第2角度θ2に近づくに従って、チップ座40に切削インサート2を拘束する力が徐々に弱くなる。角変位が
図7に示された第2角度θ2以上になると、切削インサート2とチップ座40との拘束が完全に解除される。
【0041】
一方、角変位が
図7に示された第2角度θ2から
図8に示された第1角度θ1に近づくに従って、摺接部55は、切削インサート2の貫通孔24に摺接しながら貫通孔24内で自転するとともに、レバー5の軸部54の周りを公転することによって、切削インサート2をチップ座40の拘束壁46に向かって押圧する。切削インサート2からの反力によってボデー4及びレバー5が徐々に撓んでゆき、角変位が
図8に示された第1角度θ1になったとき、切削インサート2は、適正な力で拘束されるように構成されている。
【0042】
図8に示す例では、摺接部55が円柱状に形成されている。工具本体3の長手方向Dxにおいて、摺接部55の中心軸Z2は、軸部54の中心軸Z1よりもボデー4の基端側に位置している。図示した例では、摺接部55の中心軸Z2が軸部54の中心軸Z1から見て時計の文字盤の三時の方向に位置している。換言すると、軸部54の中心軸Z1と摺接部55の中心軸Z2とが、工具本体3の長手方向Dxに並んでいる。
【0043】
レバー5が第1角度θ1に位置している状態において、摺接部55の中心軸Z2は、軸部54の中心軸Z1から見て、時計の文字盤の三時から四時半までの1/4πの範囲内に位置していることが好ましい。中心軸Z1から偏心した中心軸Z2がこの範囲内に位置していれば、レバー5の旋回角度に応じた切削インサート2の微小移動によって、切削インサート2をチップ座40の拘束壁46の隅に押し込んで締め付けることができる。
【0044】
図9は、レバー5の変形例を示す平面図である。
図9に示すように、摺接部55は、軸部54の中心軸Z1とは異なる中心軸Z2に沿って延びる円柱状に形成されている。ただし、
図9に示す例では、中心軸Z2が、中心軸Z1と平行ではなく、中心軸Z1に対して傾斜している。中心軸Z1,Z2は、交点があってもよいし、交点がなくてもよい。
【0045】
摺接部55の上側の底面(突出面)と中心軸Z1との交点を点Aとし、摺接部55の上側の底面と中心軸Z2との交点を点Bとすると、
図8に示された第1角度θ1の状態において、点Bは、点Aから見て時計の文字盤の三時から四時半までの1/4πの範囲内に位置している。
【0046】
以上のように構成された本実施形態の工具本体3によれば、
図1に示すように、レバー5を第2角度θ2から第1角度θ1へ旋回させて切削インサート2をチップ座40に拘束できる。
図2に示すように、レバー5を第1角度θ1から第2角度θ2へ旋回させて切削インサート2とチップ座40との拘束を解除できる。スパナで締付けねじを緩めたり締めたりする必要がないため、切削インサート2の交換作業において、作業時間を短縮できる。
【0047】
図8に示すように、第1角度θ1に応じてボデーやレバーの撓み量が決まるため、中心軸Z1,Z2の位置関係と、該位置関係から導き出される第1角度θ1とを設定すれば、常に適正な力で切削インサート2をチップ座40に拘束できる。
図3に示すように、軸部54の少なくとも一部が、貫通孔24の中心軸Z3の軸方向において貫通孔24に重畳する位置に設けられている場合、軸部54に対する摺接部55の偏心量が小さい。レバー5の旋回角度に応じた切削インサート2の変位量が小さくなり、切削インサート2の微小移動を精密に調整できるようになるため、より適正な力で切削インサート2をチップ座40に拘束できる。
【0048】
図4に示すように、摺接部55の形状は円柱状が好ましい。摺接部55が円柱状であると、略同一形状の貫通孔24内で滑らかに摺動する。
図4に示すように、レバー5の基端部51は、拡径部すなわち軸部54よりも拡径に形成されることが好ましい。拡径部がチップ座40の案内溝42に案内される分、レバー5がボデー4に軸支される面が増えるため、レバー5の動きが安定する。
【0049】
図8に示すように、爪47の側面の少なくとも一部が、第1角度θ1におけるレバー5に上方から重畳していると、レバー5の胴部53の一部が爪47の裏側に隠れて保護される。また、旋削加工中に不測の力が作用してレバー5が浮き上がっても爪47の側面で押さえ付けることができる。そのため、レバー5が外乱によって外れにくくなる。
図8に示すように、傾斜溝43が規制部44を含んでいると、第1角度θ1を正確に規制することができるため、常に適正な力で切削インサート2をチップ座40に拘束できる。
【0050】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【0051】
例えば、チップ座40の取付座面45に交換可能な敷き金(shim)を追加してもよい。例えば、レバー5の位置を第1角度θ1に固定するロックピンを追加してもよい。例えば、レバー5の基端部51が切削インサート2の下側ではなく上側に位置してもよい。つまり、まずチップ座40にレバー5を装着し、次いでレバー5に切削インサート2を装着する組立て順ではなく、まずチップ座40に切削インサート2を装着し、次いで切削インサート2にレバー5を装着する組立て順であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…旋削工具、2…切削インサート、3…工具本体、4…ボデー、5…レバー、21…第1面、22…第2面、23…側面、24…貫通孔、25…着座面、26…切れ刃、27…すくい面、40…チップ座、41…軸受け、42…案内溝、43…傾斜溝、44…規制部、45…取付座面、46…拘束壁、47…爪、51…基端部(拡径部の一例)、52…先端部、53…胴部、54…軸部、55…摺接部、56…指掛環、A,B…交点、Dx…工具本体の長手方向、Dy…工具本体の短手方向、Dz…軸部の軸方向(工具本体の高さ方向)、Dθ…レバーの回転方向、Z1…軸部の中心軸、Z2…摺接部の中心軸、Z3…貫通孔の中心軸、θ1…第1角度、θ2…第2角度。