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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】電子線照射装置および電子線照射方法
(51)【国際特許分類】
   B65B 55/08 20060101AFI20230110BHJP
   G21K 5/10 20060101ALI20230110BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20230110BHJP
   B65B 55/04 20060101ALI20230110BHJP
   A61L 2/08 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B65B55/08 B
G21K5/10 C
G21K5/04 E
B65B55/04 M
B65B55/04 K
A61L2/08 108
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019147245
(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公開番号】P2021028228
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-07-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503237806
【氏名又は名称】株式会社NHVコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】星 康久
(72)【発明者】
【氏名】矢田 洋三
(72)【発明者】
【氏名】森本 雅史
【審査官】佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-78780(JP,A)
【文献】特開2002-211520(JP,A)
【文献】特開2008-30783(JP,A)
【文献】特開2012-247378(JP,A)
【文献】特開2013-215579(JP,A)
【文献】特開2016-129677(JP,A)
【文献】特許第6313544(JP,B2)
【文献】国際公開第2001/023007(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65B 55/00
G21K 5/00
A61L 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状の容器に向けて電子線を照射する電子線照射装置であって、
前記容器を側面が前記電子線の照射方向と相対するように保持して、上流側から下流側に向けて搬送する搬送路を備える搬送手段と、
前記搬送路を搬送される前記容器に向けて電子を加速して照射する電子線照射部を備える電子線照射手段とが備えられており、
前記搬送手段は、回転しながら搬送方向に移動する複数のローラーが、搬送方向に対して傾斜して、一定間隔をおいて配置されて、隣接する2つの前記ローラー間に配置された前記容器を回転させながら搬送するように構成されており、
前記ローラーには、長手方向の一方の端部に側面の全周に亘って前記側面から径方向に突出する鍔部が設けられていると共に、前記ローラーの回転軸の鉛直方向に対する傾斜角度を変更することができる角度可変機構が備えられており、
前記傾斜角度を調節することにより、前記容器に対する前記電子線の照射角度を調節するように構成されていることを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
前記鍔部の突出幅が、前記容器の側面と前記容器の回転中心との間の距離より小さいことを特徴とする請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記鍔部の前記容器と接触する面が、鏡面加工されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子線照射装置。
【請求項4】
前記鍔部の前記容器と接触する面が、金属を用いて形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電子線照射装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電子線照射装置を用いて、有底筒状の容器に向けて電子線を照射する電子線照射方法であって、
前記ローラーの傾斜角度を調節して載置した前記容器を、側面が前記電子線の照射方向と所定の角度で相対するように保持して、上流側から下流側に向けて搬送する搬送工程と、
前記搬送路を搬送される前記容器の側面に向けて電子を加速して照射する電子線照射工程とを備えており、
前記搬送工程において、隣接する2つの前記ローラー間に配置された前記容器を回転させながら搬送することを特徴とする電子線照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線照射装置および電子線照射方法に関し、詳しくは、回転搬送機構を伴う電子線照射装置および電子線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、化粧品および飲料などの包装容器に対しては、内容物を充填する前に容器を滅菌して無菌状態にし、その後、無菌室内で内容物を充填して密封するように義務付けられている。
【0003】
具体的な滅菌方法としては、高温高圧水蒸気を用いる高圧蒸気滅菌、エチレンオキシドガス(EOG)を用いるEOG滅菌、γ線や電子線等の放射線を用いる放射線照射滅菌等が知られている。
【0004】
これらの内、高圧蒸気滅菌は、高温高圧水蒸気を用いるため、高圧のチャンバーを必要とし、また、対象物が高温高圧に耐える必要がある。このため、高圧蒸気滅菌は、近年広く用いられているプラスチック製の容器に適した滅菌方法とは言えない。
【0005】
また、EOG滅菌は、低温での滅菌が可能であるが、滅菌処理および残留ガス除去に要する時間が比較的大きい。また、EOGが発がん性を有することから、規制の強化が求められている。
【0006】
このため、近年は、放射線照射滅菌が広く採用されるようになっているが、その内でも、放射性物質を使用する必要がない電子線照射滅菌の採用が増えてきている。そして、このような電子線照射滅菌では、容器の外面を滅菌するだけでなく、容器の材質、肉厚の大きさによっては容器の内面を滅菌することもできる。
【0007】
従来の電子線照射滅菌は、容器を梱包した状態で、梱包の外側から透過力の高い高エネルギーの電子線を照射して電子線を梱包及び容器肉厚等を透過させることにより容器全面を滅菌している(特許文献1、2参照)。この方法は、容器を梱包しているため、滅菌した後、ユーザーの下に搬送することが可能である。
【0008】
しかし、上記の方法を採用した場合には、梱包を開封したときから内容物を充填するまでの間に、容器の外面が汚染されるリスクがある。このため、内容物の充填ラインにおいて、滅菌と内容物の充填とを連続して行うことができるインラインタイプの電子線照射技術が求められている。また、高エネルギー電子線で梱包した状態で滅菌した後に梱包を開放する際の再汚染を防ぐために、2重包装にすることや、内容物を充填するまでの間に容器の外面を滅菌する技術も求められている。
【0009】
このようなインラインでの電子線照射を行うためには、装置が小型であることが求められるが、上記した従来の高エネルギー電子線照射装置では装置規模が大きく、また、発生するX線を遮蔽するためには、コンクリートシールドなどの大型のシールド設備を必要とする。このため、高エネルギー電子線照射装置は、インラインでの電子線照射に適した設備とは言えない。
【0010】
一方、低エネルギーおよび中エネルギーの電子線照射装置は、装置規模が小さく、シールド設備としても、鉛シールドを用いた小型の自己シールドでよいため(特許文献3参照)、インラインでの電子線照射に適した設備と言うことができる。
【0011】
しかしながら、滅菌の対象となる容器は、一般的に有底筒状の形状を有している。このため、透過力の小さい低エネルギーおよび中エネルギーの電子線を、容器の一方向、例えば、側面側から照射したのでは、背面側や底面には電子線を照射することができず、照射のムラを生じてしまう。
【0012】
そこで、このような照射ムラの発生をなくす方法として、例えば、筒状の容器の側面を支持して搬送しながら底面部側から電子線を照射する第1電子線加速器と、筒状の容器を底面部側から支持して自転させながら側面部側から電子線を照射する第2電子線加速器とを配置して、第1電子線加速器による照射と第2電子線加速器による照射とを連続して行う連続滅菌装置が提案されている(特許文献4参照)。
【0013】
しかしながら、このような連続滅菌装置は、容器の底面および側面の全周に亘って電子線を照射することはできるものの、容器の搬送手段および電子線加速器をそれぞれ2台必要とするため、設備の大型化が避けられない。また、電子線の照射を2回に分けて行う必要があるため、効率的な処理とは言えず、生産性の向上を図る上で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平11-130172号公報
【文献】特開2018-95257号公報
【文献】実開平5-62900号公報
【文献】国際公開WO2013/062006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記した従来の電子線照射滅菌における諸問題に鑑みて、低エネルギーまたは中エネルギーの電子線を用いながらも、1台の電子線照射装置で、さらに、1回の照射で、有底筒状の容器の外面全体に電子線を照射することができる電子線照射技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題の解決について鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
請求項1に記載の発明は、
有底筒状の容器に向けて電子線を照射する電子線照射装置であって、
前記容器を側面が前記電子線の照射方向と相対するように保持して、上流側から下流側に向けて搬送する搬送路を備える搬送手段と、
前記搬送路を搬送される前記容器に向けて電子を加速して照射する電子線照射部を備える電子線照射手段とが備えられており、
前記搬送手段は、回転しながら搬送方向に移動する複数のローラーが、搬送方向に対して傾斜して、一定間隔をおいて配置されて、隣接する2つの前記ローラー間に配置された前記容器を回転させながら搬送するように構成されており、
前記ローラーには、長手方向の一方の端部に側面の全周に亘って前記側面から径方向に突出する鍔部が設けられていると共に、前記ローラーの回転軸の鉛直方向に対する傾斜角度を変更することができる角度可変機構が備えられており、
前記傾斜角度を調節することにより、前記容器に対する前記電子線の照射角度を調節するように構成されていることを特徴とする電子線照射装置である。
【0018】
請求項2に記載の発明は、
前記鍔部の突出幅が、前記容器の側面と前記容器の回転中心との間の距離より小さいことを特徴とする請求項1に記載の電子線照射装置である。
【0019】
請求項3に記載の発明は、
前記鍔部の前記容器と接触する面が、鏡面加工されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子線照射装置である。
【0020】
請求項4に記載の発明は、
前記鍔部の前記容器と接触する面が、金属を用いて形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電子線照射装置である。
【0021】
請求項5に記載の発明は、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電子線照射装置を用いて、有底筒状の容器に向けて電子線を照射する電子線照射方法であって、
前記ローラーの傾斜角度を調節して載置した前記容器を、側面が前記電子線の照射方向と所定の角度で相対するように保持して、上流側から下流側に向けて搬送する搬送工程と、
前記搬送路を搬送される前記容器の側面に向けて電子を加速して照射する電子線照射工程とを備えており、
前記搬送工程において、隣接する2つの前記ローラー間に配置された前記容器を回転させながら搬送することを特徴とする電子線照射方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低エネルギーまたは中エネルギーの電子線を用いながら、1台の電子線照射装置で、1回の照射で筒状の容器の外面全体に電子線を照射することができる電子線照射技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1A】本発明の一実施の形態に係る電子線照射装置の基本的な態様を示す模式図である。
図1B図1AのA-A矢視図である。
図2】本発明の他の一実施の形態に係る電子線照射装置の態様を示す模式図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る電子線照射装置のローラー支持装置の構成を示す斜視図である。
図4】角度可変機構を説明する図である。
図5】ローラーの回転機構を説明する模式図である。
図6】ローラーの好ましい態様および後方散乱電子線の利用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
【0025】
[1]電子線照射装置
1.基本的な態様
はじめに、本実施の形態の電子線照射装置の基本的な態様について説明する。図1Aは、本実施の形態に係る電子線照射装置の基本的な態様を示す模式図であって、容器の搬送方向における矢視図である。図1Bは、図1AのA-A矢視図である。
【0026】
図1A図1Bにおいて、1はインラインに設けられた電子線照射装置であり、電子線を容器Cに向けて放射して照射する電子線照射部11が、傾斜して支持された容器Cと相対するように、搬送路12の上方に傾斜して配置されている。なお、本実施の形態において、電子線照射部11は、例えば、加速電圧1MV以下の低エネルギーまたは中エネルギーで電子を加速する。
【0027】
搬送路12は、回転軸が傾斜した状態でローラー支持装置22に支持された複数のローラー21から構成されており、ローラー21の端部に設けられた鍔部21cで容器Cを支持して、回転する複数のローラー21の隣接する2つのローラー間に容器Cを載置して回転させながら、下流側に搬送するように構成されている。
【0028】
そして、本実施の形態においては、ローラー21の回転軸の鉛直方向に対する傾斜角度を変更することができる角度可変機構を備えている。なお、図1Aにおいて、CLはローラー21の回転軸の中心線であり、θは回転軸の鉛直方向に対する傾斜角度である。
【0029】
以上のような構成とすることにより、傾斜した状態で容器Cを搬送しても、容器Cは鍔部21cにより支えられるため、装置より落下させずに搬送することができる。そして、傾斜した状態で容器を搬送することにより、容器を完全に直立していない状態、あるいは完全に水平にしていない状態で搬送することができ、前後の工程、特に容器への内容物の充填などの工程と組み合わせることが容易となる。また、装置の高さや幅を抑制することができ、装置を小型化することが可能である。
【0030】
そして、ローラー21上に傾斜して載置され、回転しながら輸送される容器Cの側面に向けて、傾斜して配置された電子線照射部11から放射電子線11aを照射することにより、容器の側面全周に電子線を照射することができる。また、放射電子線11aの一部は容器Cの底面Bや頂部Tに向けても回り込むため、低エネルギーまたは中エネルギーの電子線照射装置を用いながらも、1台の電子線照射装置で、しかも、1回の照射で、有底筒状の容器の外面全体に電子線を照射して十分な滅菌を行うことができる。
【0031】
そして、低エネルギーまたは中エネルギーの電子を加速して照射する電子線照射部11は小型であるため、電子線照射装置1全体も小型化でき、インラインに設ける滅菌設備として好ましい。
【0032】
また、本実施の形態では、容器Cを、ガイドとローラーで挟持したり、チャック等で把持したりすることなく、ローラー21上で回転させながら搬送することができるため、電子線照射に際して容器Cに電子線が照射されない陰の部分が生じない。また、電子線照射時の回り込み電子線に対する鍔部21cによる陰の部分についても、ローラー21の回転により容器の陰の部分が移動するため、底面Bや頂部Tの全面に電子線を照射することができる。
【0033】
さらに、本実施の形態においては、前記の通り、角度可変機構が設けられているため、傾斜角度θを調節することにより、容器Cに対する放射電子線11aの角度を変更させることができるため、容器Cの形状によって電子線が照射され難く、陰になる部分が生じる恐れがある場合でも、傾斜角度θを変更することで、容器の姿勢を自在に調節し、電子線の照射箇所を調整して陰の部分に照射することが可能となる。なお、具体的な傾斜角度θとしては15~90°が好ましい。
【0034】
また、本実施の形態においては、必要に応じて、低エネルギーの電子線を用いて、電子線照射前に予め内容物が充填された容器に対して、内容物に電子線を照射せずに容器の外面だけを照射することもできる。
【0035】
2.電子線照射装置の特徴部
次に、本実施の形態の電子線照射装置の特徴部について説明する。
【0036】
(1)ローラー
図1Aに示すように、本実施の形態においては、電子線の照射方向と相対するように配置された搬送路12に、回転しながら搬送方向に移動する複数のローラー21が、回転軸が傾斜した状態、即ち、回転軸の鉛直方向に対して鋭角が形成される傾斜角度θでローラー支持装置22に支持されて、一定間隔をおいて配置されている。そして、前記したように、ローラー21の端部には鍔部21cが設けられて、傾斜した容器Cを底面B側から支持している。
【0037】
この結果、容器Cを、ガイドとローラーで挟持したり、チャック等で把持したりすることなく、ローラー21上で回転させながら搬送することができるため、電子線照射に際して容器Cに陰の部分が生じない。このため、1台の電子線照射装置で、1回の照射であっても、底面B、頂部T等に対して放射電子線11aの回り込みを利用して、容器Cの外面全体に電子線を照射することができる。
【0038】
しかし、容器に対する電子線の照射方向および容器の姿勢が固定されている場合、容器Cの形状によっては電子線が照射され難く、陰になる部分が生じる恐れがある。このような陰の発生は、電子線の照射方向、または容器の姿勢のいずれかを調節することで抑制することができるが、電子線の照射方向を調節する方法は、電子線照射部11の位置を変えなければならないため、大きなスペースや複雑な機構を必要とし好ましいことではない。
【0039】
これに対して、本実施の形態のように、複雑な機構を必要としない角度可変機構を設けてローラー21の傾斜角度θを可変にした場合には、傾斜角度θを簡易な機構により自在に変更することができるため、容器の姿勢を容易に自在に調節することが可能となり、大きなスペースも必要としない。
【0040】
本実施の形態において、ローラー21の容器Cと接触する部分21aの少なくとも一部の側面では、全周に亘って、ローレット加工または梨地加工が施されていることが好ましい。このような加工を施すことにより、容器Cとローラー21の側面との間の摩擦力が高められるため、容器Cがローラー21に対して滑りにくくなり、回転するローラー21に合わせて、確実に、容器Cを回転させることができる。
【0041】
なお、具体的なローレット加工の形態としては、アヤ目加工やローラー21の軸方向に沿って目が形成されたヒラ目加工を挙げることができる。また、梨地加工の形態としては、エッチング、サンドブラスト、ホーニングなど公知の表面処理加工を挙げることができる。ローレット加工の目の大きさおよび梨地における粗度は、容器の材質、側面の曲率の大きさ、表面粗度等に応じて適宜決定される。
【0042】
また、ローラー21の容器Cと接触しない部分21bの少なくとも一部の側面では、全周に亘って、鏡面加工が施されていることが好ましい。具体的には、図1Aに示すように、ローラー21の長さを容器Cの高さより大きくし、容器Cと接触しない部分21bの一部の側面に鏡面加工が施されていることが好ましい。
【0043】
これにより、鏡面加工が施されている部分では、放射電子線11aが反射されて、容器Cに向けて後方散乱するため、放射電子線11aの照射線量が少ない容器Cの頂部Tの蓋部などについても、ローラー21の鏡面加工された側面から後方散乱された電子線を照射して、滅菌することができる。
【0044】
そして、このような効果を得るためには、ローラー21の少なくとも側面部分は、電子線に対する後方散乱の機能に優れる金属を用いて形成されていることが好ましい。
【0045】
好ましい金属としては、例えば、タングステン(W)や金(Au)などの重金属が挙げられる。これらの金属は、ローラー21の内部まで、所謂バルク状態で使用してもよいが、表面被覆して薄膜を形成させる等、後方散乱に関与する表面部分のみに使用してもよい。
【0046】
(2)鍔部
本実施の形態においては、上記したように、ローラー21の端部には鍔部21cが設けられており、傾斜した状態で搬送される容器Cを支えている。
【0047】
(a)鍔部の突出幅
このため、鍔部21cの突出幅は、ローラー21を傾斜させた状態において容器Cを鍔部21cで支持できる幅であることを基本とするが、容器Cの側面と容器Cの回転中心との間の距離より小さいことが好ましい。具体的には、例えば、容器Cが円筒形である場合には、容器Cの半径より小さくすることが好ましく、また、非円筒形、例えば横断面が楕円形の筒状容器のように距離が一定でない容器の場合には、最小の距離より小さいことが好ましい。
【0048】
容器Cの底面Bの一部では、鍔部21cによって一時的に陰が形成されるが、鍔部21cの突出幅を上記のように設定した場合、容器Cの回転に合わせて、陰となる部分が移動していくため、底面Bの全体に対して、十分に放射電子線を照射することができる。
【0049】
(b)鍔部の表面状態及び材質
鍔部21cの容器Cと接触する面は鏡面加工されていることが好ましい。これによりローラー21および容器Cを回転させたときの鍔部21cと容器Cとの間の摩擦力が低減されるため、容器Cをスムーズに回転させることができる。また、このような鏡面加工は、鍔部21cの電子線の後方散乱機能を向上させることができる。
【0050】
また、少なくとも、容器Cと接触する面は、電子線に対する後方散乱の機能に優れる、例えば、タングステン(W)や金(Au)等の重金属を用いて形成されていることが好ましい。
【0051】
(3)ローラー支持装置
図3はローラー支持装置22の構成を示す斜視図であり、図4は角度可変機構を説明する図である。
【0052】
図3に示すように、ローラー支持装置22は、金属製の固定部材22a、支持部材22b、およびローラー保持部材22cを有している。支持部材22bは、2枚の板材からなり、2枚の板材が所定の間隔で平行に且つ鉛直に配置され、固定部材22aの外側の面に垂直に立設されている。ローラー保持部材22cは、ローラー21の回転軸を保持する軸受け部と、軸受け部の固定部材22aとの対向面に垂直に且つローラー21の回転軸と同じ向きに立設された板材とを有している。
【0053】
そして、ローラー保持部材22cの板材は、支持部材22bの2枚の板材の間に挿入され、支持部材22bの2枚の板材と共に、支点22dを中心として旋回可能に支持されている。これにより、図4に示すように、ローラー21を、支点22dを中心として鉛直な面に沿って旋回可能として、傾斜角度θを変更することができる角度可変機構を構成させることができる。
【0054】
そして、このような角度可変機構を設けて、ローラー21の傾斜角度θを可変とすることにより、放射電子線11aの放射方向と容器Cの軸とのなす角度、即ち容器Cに対する照射角度を好ましい角度に合わせて調節することができる。
【0055】
なお、ローラー支持装置22の上下には突出部が設けられており、上側の突出部にローラー21が取り付けられ、下側の突出部にピニオン24aが取り付けられている。
【0056】
(4)ローラー回転機構
図5は、ローラーの回転機構を説明する模式図である。図5において、24bはラックであり、搬送路に沿って平行に配置されている。図5に示すように、ローラー支持装置22が搬送路に搬入されたときピニオン24aがラック24bと噛み合い、ローラー支持装置22が搬送方向に移動することでローラー21が回転する。これにより、容器Cを回転させながら電子線を照射することができる。
【0057】
このように、ピニオン24aとラック24bを組み合わせることにより、回転機構を簡素な構成にすることができ、また故障のリスクが低減される。また、ローラー21の回転数は、ピニオン24aとラック24bの歯数の比によって決まるため、搬送スピードが変動してもローラー21の回転数が変動することがない。このため、例えば照射線量を調整するため、搬送スピードを変えた場合でも回転数を一定に保つことができる。
【0058】
3.より好ましい態様
次に、本実施の形態において、より好ましい態様について説明する。
【0059】
(1)反射板
図6は、ローラーの好ましい態様および後方散乱電子線の利用を説明する図である。図6において、21aはローラーの容器Cと接触する部分であり、21bは接触しない部分である。また13は反射板である。
【0060】
図6に示すように、本実施の形態においては、必要に応じて、反射板13を配置し、反射板13で後方散乱させた後方散乱電子線11bを容器Cに照射してもよい。反射板13は、設置位置および散乱方向の自由度が高い。このため、ローラーの後方散乱では照射しにくい箇所に対しても照射することができ好ましい。
【0061】
(2)電子線照射部
電子線照射部11は、長手方向が搬送路に対して垂直な面と平行に設置される。このとき、図1Aに示すように、長手方向を鉛直方向に対して例えば15~90°の角度でローラー21の回転軸と同じ向きに傾斜させることにより、電子線照射部11の高さ方向、および幅方向における設置スペースを小さくすることができる。
【0062】
また、電子線照射部11は、搬送路に対して垂直な面上における高さ方向および水平方向の位置を調節する位置調節機構および電子線の放射方向を調節する放射方向調節機構を備える支持装置によって支持されていることが好ましい。角度可変機構と位置調節機構および放射方向調節機構を用いることで、照射条件に対して高い自由度が得られるため、多様な形状およびサイズの容器に対してより好適な条件の下で電子線を照射することができる。
【0063】
(3)搬送手段
電子線を照射する際には、前記のように容器Cは、鉛直方向に対して傾斜角度θ傾斜した傾斜状態で保持される。一方、電子線を照射する前後には、容器Cに内容物を充填するなど、容器Cを直立状態で保持することが好ましい工程が設けられる。このため、搬送手段は、電子線照射領域の上流側で直立状態で保持されている容器を傾斜状態に変え、一方、電子線照射領域の下流側に傾斜状態から直立状態に戻すように構成されていることが好ましい。
【0064】
具体的には例えば、搬送手段の上流側端部に搬入される容器Cを上工程の搬送手段からローラー21に移し換える公知の機構を設置し、一方、搬送手段の下流側端部に搬出される容器Cをローラー21から下工程の搬送手段に移し換える機構を設置するなどの構成が用いられる。
【0065】
[2]電子線照射方法
次に、上記した電子線照射装置を用いて、有底筒状の容器に向けて電子線を照射する電子線照射方法について説明する。
【0066】
本実施の形態においては、上記した電子線照射装置を用いて、以下の2つの工程を経ることにより、容器に電子線を照射して滅菌を行うことができる。
【0067】
即ち、傾斜状態にある容器を、側面が電子線の照射方向と相対するように保持して、上流側から下流側に向けて搬送する搬送工程と、搬送路を搬送される容器に向けて電子線を放射して照射する電子線照射工程との2つの工程である。
【0068】
そして、このような工程を経て、有底筒状の容器に向けて電子線を照射することにより、上記した電子線照射装置の説明において記載したように、容器の側面だけでなく、底面や頂部に対しても十分に電子線を照射することができる。この結果、加速電圧1MV以下で低エネルギーまたは中エネルギーの電子線を照射する小型の電子線照射部を用いながらも、1回の照射で筒状の容器の外面全体に電子線を効率良く照射することができる。
【0069】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 電子線照射装置
11 電子線照射部
11a 放射電子線
11b 後方散乱電子線
12 搬送路
13 反射板
21 ローラー
21a 容器と接触する部分
21b 容器と接触しない部分
21c 鍔部
22 ローラー支持装置
22a 固定部材
22b 支持部材
22c ローラー保持部材
22d 支点
24 回転機構
24a ピニオン
24b ラック
C 容器
B 底面
T 頂部
θ 傾斜角度
CL 回転軸の中心線
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6