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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】把持機構及び運搬物搬送装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20230110BHJP
   B25J 15/00 20060101ALI20230110BHJP
   B64D 1/22 20060101ALI20230110BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B25J15/08 C
B25J15/00 C
B64D1/22
B64C39/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018228167
(22)【出願日】2018-12-05
(65)【公開番号】P2020089941
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000226507
【氏名又は名称】株式会社ニックス
(73)【特許権者】
【識別番号】399037405
【氏名又は名称】楽天グループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 克郎
(72)【発明者】
【氏名】李 顕一
(72)【発明者】
【氏名】大和 拓海
(72)【発明者】
【氏名】井沼 孝慈
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 治
(72)【発明者】
【氏名】山岡 匡太
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-061583(JP,A)
【文献】実開昭52-122475(JP,U)
【文献】特開昭61-004687(JP,A)
【文献】特開2005-091862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/08
B25J 15/00
B64D 1/22
B64C 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運搬物を把持して搬送するために移動体に取り付けられる把持機構であって、
回転軸を中心に回転可能に設けられた回転体と、
前記運搬物を把持するために、前記回転軸を中心として、前記回転軸から同一距離離間するように配設される第1アーム及び第2アームと、
前記回転体、前記第1アーム及び前記第2アームと係合し、前記回転体が前記回転軸を中心に所定方向に回転すると、前記第1アーム及び前記第2アームが、前記回転軸に近づく方向に移動し、前記回転体が前記回転軸を中心に前記所定方向と反対方向に回転すると、前記第1アーム及び前記第2アームが、前記回転軸から遠ざかる方向に移動するように構成される幅調整機構と、
第2回転軸を中心に、前記回転体と独立して手動で回転可能に設けられた第2回転体と、
前記運搬物を把持するために、前記第2回転軸を中心として、前記第2回転軸から同一距離離間するように配設される第3アーム及び第4アームと、
前記第2回転体、前記第3アーム及び前記第4アームと係合し、前記第2回転体が前記第2回転軸を中心に所定方向に回転すると、前記第3アーム及び前記第4アームが、前記回転軸に近づく方向に移動し、前記第2回転体が前記第2回転軸を中心に前記所定方向と反対方向に回転すると、前記第3アーム及び前記第4アームが、前記回転軸から遠ざかる方向に移動するように構成される第2幅調整機構とを更に備え、
前記第1アーム及び前記第2アームの移動方向と、前記第3アーム及び前記第4アームの移動方向は、垂直の関係にあることを特徴とする把持機構。
【請求項2】
前記回転体は、ピニオンギヤが形成されるピニオンを備え、
前記幅調整機構は、前記ピニオンギヤに噛合する第1ラックギヤが形成され、前記第1アームと接続する第1ラックと、前記ピニオンギヤに噛合する第2ラックギヤが形成され、前記第2アームと接続する第2ラックと、を備えることを特徴とする請求項1に記載の把持機構。
【請求項3】
前記第1アーム及び前記第2アームの前記回転軸から遠ざかる方向への移動を抑制するための係止手段を更に備えることを特徴とする請求項2に記載の把持機構。
【請求項4】
前記係止手段は、前記第1ラックと係合する第1係合部と、前記第2ラックと係合する第2係合部と、前記第1係合部及び前記第2係合部で前記第1ラック及び前記第2ラックを、前記第1アーム及び前記第2アームの移動方向と垂直な方向に押圧するための弾性体と、を備えることを特徴とする請求項3に記載の把持機構。
【請求項5】
前記第1係合部には、前記第1アームが前記回転軸に近づく方向を向いた第1垂直面が形成され、
前記第2係合部には、前記第2アームが前記回転軸に近づく方向を向いた第2垂直が形成され、
前記第1ラックには、前記第1垂直面と対向するために、前記第1アームが前記回転軸から遠ざかる方向を向いた複数の面が周期的に形成され、
前記第2ラックには、前記第2垂直面と対向するために、前記第2アームが前記回転軸から遠ざかる方向を向いた複数の面が周期的に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の把持機構。
【請求項6】
前記回転体を、前記回転軸を中心に回転させるためのモータを更に備えることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の把持機構。
【請求項7】
前記第1アームに取り付けられ、前記運搬物を支持する第1支持部と、前記第1支持部で、前記運搬物を、前記回転軸に向かう方向に押圧するための第1弾性体と、前記第2アームに取り付けられ、前記運搬物を支持する第2支持部と、前記第2支持部で、前記運搬物を、前記回転軸に向かう方向に押圧するための第2弾性体と、を更に備えることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の把持機構。
【請求項8】
前記第1支持部の前記回転軸を向いた面は、前記第1アーム及び前記第2アームが移動する第1方向に垂直に形成され、
前記第2支持部の前記回転軸を向いた面は、前記第1方向に垂直に形成されている請求項7に記載の把持機構。
【請求項9】
前記回転軸及び前記第2回転軸は、同軸であることを特徴とする請求項1から8の何れか一項に記載の把持機構。
【請求項10】
前記回転軸と前記第2回転軸は、垂直の関係にあり、前記第2回転体は、前記第1アーム又は前記第2アームに取り付けられていることを特徴とする請求項1から8の何れか一項に記載の把持機構。
【請求項11】
無人航空機からなる前記移動体と、
前記無人航空機の下方に取り付けられる請求項1から10の何れか一項に記載の把持機構と、を備える運搬物搬送装置。
【請求項12】
前記把持機構は、前記無人航空機の重心を通過し鉛直方向に向かう直線と、前記回転軸が一致するように取り付けられることを特徴とする請求項11に記載の運搬物搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、把持機構及び運搬物搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ドローン、マルチロータ、あるいは、マルチコプター等と呼ばれる、遠隔操作または自動操縦によって自律制御される無人航空機(機械学習をする人工知能を搭載することによって自律制御する無人航空機を含む)を使って荷物などの運搬物を配送する運搬物の搬送方法及びキャッチャーと呼ばれる運搬物の把持機構が提案されている。
【0003】
特許文献1には、軽量で消費電力の少ない運搬物の把持装置が記載されている。この文献には、通電されているときに磁力が消失し、通電されていないときに磁力が発生する永電磁式マグネット装置を用いて運搬物を磁力で吸着して把持する技術が記載されている。
【0004】
特許文献2には、目標地点に対して運搬物を鉛直下方に投下可能な装置が記載されている。この文献には、鉛直方向に向かって傾斜する二つの底板を、同時に、かつ対称的な軌跡で回転させることにより、二つの底板で支持されていた運搬物を投下する技術が記載されている。
【0005】
特許文献3には、浮揚している無人航空機から垂下した可撓性部材に運搬物を取り付ける操作に伴って無人航空機の姿勢が不安定化されにくい運搬装置が記載されている。この文献には、長尺の可撓性部材からなる主ワイヤに、更に、長尺の補助ワイヤを接続し、この補助ワイヤに運搬物を取り付ける技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-114822号公報
【文献】特開2017-196949号公報
【文献】特開2017-87898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、マグネットの電磁力が及ぶ程度の大きさの運搬物しか吸着することができないので、様々な大きさの運搬物を把持することに適していない。また、特許文献2記載の技術は、傾斜されている二つの底板で運搬物を支持しなければならないから、直方体状の運搬物を安定して搬送することに適していない。また、特許文献3記載の技術は、長尺のワイヤで運搬物を吊り下げて運搬するものだから、運搬物が風などを受けた場合に、安定性が大きく損なわれる可能性がある。
【0008】
そこで本発明は、様々な大きさの運搬物を安定的に把持することが可能となる把持機構及び運搬物搬送装置を提供することを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一側面に係る把持機構は、運搬物を把持して搬送するために移動体に取り付けられる。そして、回転軸を中心に回転可能に設けられた回転体と、運搬物を把持するために、回転軸を中心として、回転軸から同一距離離間するように配設される第1アーム及び第2アームと、回転体、第1アーム及び第2アームと係合し、回転体が回転軸を中心に所定方向に回転すると、第1アーム及び第2アームが、回転軸に近づく方向に移動し、回転体が回転軸を中心に所定方向と反対方向に回転すると、第1アーム及び第2アームが、回転軸から遠ざかる方向に移動するように構成される幅調整機構とを備える。
【0010】
回転体は、ピニオンギヤが形成されるピニオンを備え、幅調整機構は、ピニオンギヤに噛合する第1ラックギヤが形成され、第1アームと接続する第1ラックと、ピニオンギヤに噛合する第2ラックギヤが形成され、第2アームと接続する第2ラックを備えてもよい。
【0011】
また、第1アーム及び第2アームの回転軸から遠ざかる方向への移動を抑制するためのラチェット(係止手段であり、ストッパーと呼んでもよい)を更に備えてもよい。ラチェットは、第1ラックと係合する第1係合部と、第2ラックと係合する第2係合部と、第1係合部及び第2係合部で第1ラック及び第2ラックを、第1アーム及び第2アームの移動方向と垂直な方向に押圧するための弾性体を備えることができる。
【0012】
また、第2回転軸を中心に、回転体と独立して手動で回転可能に設けられた回転可能に設けられた第2回転体と、運搬物を把持するために、第2回転軸を中心として、第2回転軸から同一距離離間するように配設される第3アーム及び第4アームと、第2回転体、第3アーム及び第4アームと係合し、第2回転体が第2回転軸を中心に所定方向に回転すると、第3アーム及び第4アームが、回転軸に近づく方向に移動し、第2回転体が第2回転軸を中心に所定方向と反対方向に回転すると、第3アーム及び第4アームが、回転軸から遠ざかる方向に移動するように構成される第2幅調整機構とを更に備え、第1アーム及び第2アームの移動方向と、第3アーム及び第4アームの移動方向は、垂直の関係にあるように構成してもよい。
【0013】
また、本開示は、無人航空機からなる移動体と、無人航空機の下方に取り付けられる把持機構と、を備える運搬物搬送装置を含む。把持機構は、無人航空機の重心を通過し鉛直方向に向かう直線と、回転体の回転軸が一致するように取り付けることができる。特に、無人航空機が所定の中心軸に対して回転対称な複数のフレームと各フレームに取り付けられたプロペラを有するときに、その中心軸に対して回転対称なフレーム上の位置で、把持機構が支持されるように、無人航空機に取り付けられることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】把持機構10の斜視図
図2】把持機構10の正面図
図3】把持機構10の右側面図
図4】把持機構10の平面図
図5A】第1方向に平行で回転軸AXを通過する把持機構10の断面図
図5B】運搬物を把持しているときの同断面図
図6】第1ラック22の側面及び第2ラック24の側面を通過する断面図
図7】第1ラック22の側面を通過する断面図
図8図2におけるD-D断面図
図9】把持機構50の斜視図
図10】取付フレーム60が取り付けられた把持機構10の斜視図
図11】ドローンDに把持機構10が取り付けられた様子を示す図
図12】把持機構50の機能ブロック図
図13】把持機構50の動作フローチャート
図14】把持機構70の斜視図
図15】把持機構80の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施形態のみに限定する趣旨ではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。たとえば、当業者の通常の創作能力の範囲内で、ある実施形態における一部の構成要素を、他の実施形態に組み合わせることもできる。
【0016】
図1は、本実施形態に係る把持機構10の斜視図である。図2図3及び図4は、それぞれ、把持機構10の正面図、右側面図及び平面図である。ただし、わかりやすくするため、図2及び図4は、粉塵等から幅調整機構を保護するための蓋体34Aを取り外した状態における把持機構10の正面図及び平面図をそれぞれ示している。
【0017】
これら図面に示されるように、把持機構10は、荷物などの運搬物を把持するための第1アーム12、第2アーム14、第3アーム16及び第4アーム18を備える。また、把持機構10の中心には、鉛直方向と平行な回転軸AXを中心に回転可能に設けられたピニオン20(図4)が設けられている。更に、第1アーム12と第2アーム14の幅調整機構として、把持機構10は、第1アーム12とピニオン20に係合する第1ラック22及び第2アーム14とピニオン20に係合する第2ラック24を備える。また、第3アーム16と第4アーム18の幅調整機構として、把持機構10は、第3アーム16及びピニオン21(図5A)(図8)に、それぞれ係合する第3ラック26と、第4アーム18及びピニオン21に、それぞれ係合する第4ラック28と、を備えている。後に詳述するが、ピニオン20が時計回りに回転すると、第1アーム12及び第2アーム14は、回転軸AXから遠ざかるように移動し、ピニオン20が反時計回りに回転すると、第1アーム12及び第2アーム14は、回転軸AXに近づくように移動する。このため、第1アーム12と回転軸AXの距離と、第2アーム14と回転軸AXの距離は、各アームの位置によらずほぼ同一となる。
【0018】
同様に、ピニオン21が時計回りに回転すると、第3アーム16及び第4アーム18は回転軸AXから遠ざかるように移動し、ピニオン21が反時計回りに回転すると、第3アーム16及び第4アーム18は、回転軸AXに近づくように移動する。このため、第3アーム16と回転軸AXの距離と、第4アーム18と回転軸AXの距離は、各アームの位置によらずほぼ同一となる。
【0019】
以下では、便宜的に、第1アーム12及び第2アーム14が移動する方向を第1方向とし、第3アーム16及び第4アーム18が移動する方向を第2方向とし、回転軸AXと平行な方向を第3方向とする。第1方向、第2方向及び第3方向は、互いに垂直の関係を有する。また、回転軸AXが鉛直方向と平行になるとき、第1方向及び第2方向は水平方向と平行になる。
【0020】
把持機構10の各部品は、例えば、樹脂成形により製造することができる。しかしながら、これに限られるものではなく、把持機構10の一部、又は、全ての部品を、他の材質、例えば、アルミニウムなどの金属から製造してもよい。また、把持機構10の部品同士は、必要に応じて、ボルトによって接続することができる。しかしながら、これに限られるものではなく、例えば、接着などの他の手段で接続してもよいし、又は、一体的に設けてもよい。例えば、第3アーム16と第3ラック26、及び、第4アーム18と第4ラック28をそれぞれ一体的に製造してもよい。
【0021】
第1アーム12は、運搬物と当接し、これを把持するための部品である。第1アーム12は、第2方向に所定の幅を有し、第3方向に所定の高さを有するように形成されている。第2方向の幅は、運搬物を安定して搬送することが可能なように、第1ラック22よりも幅広に形成されている。第3方向の高さは、想定される運搬物の最大高さよりも大きくなるように形成されている。第1アーム12の第3方向下端には、第2方向に所定の幅を有し、第1方向に回転軸AXに向かって突出する突出部12Aが形成されている。突出部12Aは、第3方向上方を向いた水平面を有するので、この面を当接されることにより、運搬物の下面を好適に支持することができる。また、第1アーム12には、第1方向に垂直で、回転軸AX方向を向いた当接面12Bが形成されているので、この当接面12Bを運搬物の側面に当接させることにより、好適に運搬物を支持することができる。なお、図1に示されるように、軽量化を図るために、第1アーム12の中央部分を繰りぬいてもよい。また、第1アーム12は、第2方向に垂直で、回転軸AXを通過する面に対して対称に形成されている。なお、第1乃至第4アーム12~18の幅、高さ及び形状は、把持対象である運搬物の大きさや形状に応じて適宜設計可能である。例えば、第1アーム12及び第2アーム14の幅及び高さをそれぞれ100から150mm並びに200から300mmに設定することができる。ただし、搬送する運搬物の大きさ等に応じて、第1アーム12及び第2アーム14を取り外して、別の第1アーム及び第2アームを取り付けてもよい。
【0022】
図5A及び図5Bに示されるように、第1アーム12は、更に、運搬物を回転軸AX方向に押圧するための押圧機構12Cを備えている。押圧機構12Cは、運搬物の搬送中に、第1アーム12に対向する運搬物の側面を押圧する。また、目的地に到達して運搬物をリリースするために第1アーム12が回転軸AXから遠ざかる方向に移動して運搬物の側面から離間する際に、第1アーム12の当接面12Bから突出し、運搬物の押圧を継続する。
【0023】
図5Aは、把持機構10を、第1方向に平行で回転軸AXを通過する平面で切った断面図である。図5Bは、把持機構10が運搬物を把持している様子を示す同断面図である。押圧機構12Cは、第1アーム12のうち、第2方向及び第3方向の中央付近に設けられている直方体状の押圧部品12C1と、この押圧部品12C1に係合するばね12C2を有する。押圧部品12C1の回転軸AXを向いた面は、第1方向に垂直に形成されているため、運搬物の側面を好適に押圧することができる。ばね12C2は、第1方向に伸縮することで、これに係合する押圧部品12C1が第1アーム12の他の部分に対して第1方向に相対的に移動可能なように設けられている。具体的には、図5Aに示されるように、運搬物を把持していない場面では、ばね12C2は自然長を有し、押圧部品12C1が当接面12Bに対して第1方向すなわち回転軸AX方向に突出するように支持する。一方で、図5Bに示されるように、運搬物を把持している場面では、ばね12C2は圧縮しており、押圧部品12C1が運搬物の側面に当接した状態で、当接面12Bと面一となるように又はわずかに第1方向すなわち回転軸AX方向に突出するように支持する。そして、目的地に到達して運搬物をリリースする場面では、第1アーム12が回転軸AXから遠ざかる方向に移動するため、当接面12Bは運搬物の側面から離間するが、一方で押圧部品12C1は、ばね12C2によって当接面12Bから突出するように相対的に移動する。このため、ばね12C2が自然長になるまで、押圧部品12C1は、運搬物の押圧を継続する。なお、ばね12C2の弾性定数は、運搬物の外箱の強度等を考慮して適宜設定することができる。例えば、外箱が段ボールのように側面方向の強度が高くない部材から形成されている場合は、ばね12C2の弾性定数を小さくし過ぎると、底箱を損傷してしまう場合があるので、ばね12C2の弾性定数を大きく設計することが好ましい。同様に、押圧部品12C1の運搬物に当接する部分の面積についても、外箱を損傷しない程度の面積を有するように設計することが好ましい。なお、必ずしも、当接面12Bを、運搬物の側面と密着させなければならないことはない。例えば、搬送中に運搬物の第1方向への移動を拘束できる程度に、運搬物の側面と離間対向するように構成してもよい。
【0024】
第2アーム14は、第1アーム12と同様の構造を有しているため、説明を簡略化する。第2アーム14も、第1アームと同様に、運搬物の下面を支持するために第3方向上方を向いた水平面を有する突出部14Aと、運搬物の側面を支持するための第1方向に垂直で回転軸AX方向を向いた当接面14Bを備える。更に、運搬物の搬送中に、第2アーム14に対向する運搬物の側面の中央部を押圧し、目的地に到達して運搬物をリリースするために第2アーム14が回転軸AXから遠ざかる方向に移動して運搬物の側面から離間する際に、第2アーム14の当接面14Bから突出し、運搬物の押圧を継続する、押圧部品14C1及びばね14C2を含む押圧機構14Cを備える。また、第2アーム14も、第1方向に垂直で、回転軸AXを通過する面に対して対称に形成されている。
【0025】
続いて、幅調整機構が備える第1ラック22及び第2ラック24について、図面を用いて説明する。図1等に示されるように、第1ラック22及び第2ラック24は、水平に配置される2枚の板材である蓋体34Aとベース板34Bの間隙に挿入されて支持される。図6は、右半分は、第3方向に垂直で、第1ラック22の側面を通過し、左半分は、第2ラック24の側面を通過する断面図である。第1ラック22は、第1方向の一端部で第1アーム12を支持し、他端部でピニオン20のピニオンギヤと噛合することにより、ピニオン20の回転に伴って、第1アーム12を第1方向に移動させるための部品である。図に示されるように、第1ラック22は、第1方向に長手方向を有し、第2方向に短手方向を有する板状の部材である。第1方向の回転軸AX側端部は、第1ラック22が回転軸AX側に移動しても、ピニオン20の通過を可能とするために、短辺側に開口し、第1方向に延在する長孔が形成されている。従って、第1ラック22は、第1アーム12に接続される第1アーム12側端部を含むベース部分22Aと、ベース部分22Aから二又に分かれ、平面視において、ピニオン20を挟み込むように、第1方向に沿って延在する第1端部22Bと、ピニオン20が配置される長孔を隔てて第1端部22Bと対向するように、第1方向に沿って延在する第2端部22Cを備える。
【0026】
図1及び図6に示されるように、ベース部分22Aの第1アーム12側端部は、第1アーム12と、ボルトを用いて接続されている。従って、運搬物の大きさや形状等にあわせて、第1アーム12を取り外し、異なるアームを取り付けることができる。また、ベース部分22Aの第2方向両端には、第3方向に突出し、第1方向に平行な二本のレール部が形成されている。従って、蓋体34Aに、この2本のレール部にそれぞれ係合する2本のガイド溝を形成して、ベース板34Bとの間で第1ラック22を第3方向から挟むことによって、第1ラック22が第1方向に平行に移動することを案内することができる。また、図6に示されるように、ベース部分22Aには、回転軸AXを通過し、第1方向に垂直で、回転軸AXを通過する面に対して対称な位置に、合計10個の貫通孔が形成されている。従って、バランスを損なうことなく部品の軽量化を図ることができる。
【0027】
図6に示されるように、第2端部22Cは、第1端部22Bと回転軸AXを隔てて離間する第1方向に延在する部材である。第2端部22Cの回転軸AXを向いた側面には、ピニオン20のピニオンギヤと噛合するためのラック歯車22C1(以下、ラックギヤを「ラック歯車」という)が形成されている。ラック歯車22C1のピッチ及び歯形等は、ピニオン20のピニオンギヤと好適に噛合できるように設計されている。第2端部22Cの反対側、すなわち、回転軸AXと反対の第2方向を向いた側面には、第2方向に突出する凸部22C2が形成されている。この凸部22C2は、第1ラック22を第1方向に回転軸AXから遠ざかる方向に移動させた際に、第1ラック22を支持するベースのストッパーと当接する。同様に、凸部22C2は、第1ラック22を第1方向に回転軸AXと近づく方向に移動させた際に、第1ラック22を支持するベース板34Bのストッパーと当接する。このため、凸部22C2の形成位置及び幅を調整することにより、第1ラック22に接続する第1アーム12が回転軸AXと最も遠ざかる位置及び最も近づく位置を規定することができる。本実施形態においては、例えば、第1アーム12と第2アーム14の間隔は、最小で185mm、最大で320mmである。
【0028】
次いで、図6及び図7を用いて、運搬物の搬送中に、第1アーム12及び第2アーム14の間隔が大きくなることを抑制するためのラッチ機構について説明する。図7は、係止手段であるラチェット32により、第1アーム12の移動が抑制されている状態における、第3方向に垂直で、第1ラック22の側面を通過する断面図である。一方で、図6は、ラチェット32が解除され、第1アーム12の移動が抑制されていない状態を示している。
【0029】
図6及び図7に示されるように、第1ラック22の第1端部22Bの回転軸AXを向いた側面22B1には、ピニオン20と接触しないように、ピニオン20からわずかに離間して対向する第2方向に垂直な平面が形成される。一方で、第1端部22Bの反対側、すなわち、回転軸AXと反対の第2方向を向いた側面22B2には、鋸歯状波、すなわち、平面視において、第1アーム12に近づくほど回転軸AXから第2方向に遠ざかる傾斜面と、傾斜面と比較して第1方向に対し十分に大きな傾き、又は、90度の角度をもって、第1アーム12に近づくほど回転軸AXに第2方向に近づく垂直面とが、第1方向に沿って交互に周期的に形成されている。一方で後述するラチェット32には、第1端部22Bの側面22B2に形成される鋸歯状波と噛合する垂直面及び傾斜面を備える鋸歯状波が形成される。従って、両者を噛合させることにより、第1アーム12が第1方向に移動することを抑制することができる。特に、第1端部22Bの側面22B2に形成される垂直面は、第1方向にほぼ垂直で第1アーム12が回転軸AXから遠ざかる方向を向いた面であるから、この垂直面と、ラチェット32に形成される鋸歯状波の垂直面とを対向させることにより、第1アーム12並びに第1ラック22が回転軸AXから遠ざかる方向に移動することを妨げることができる。一方で、第1端部22Bの側面22B2に形成される傾斜面は、第1アーム12の移動方向である第1方向に対して大きく傾斜している。このため、第1アーム12並びに第1ラック22は、ラチェット32によって、回転軸AXから遠ざかる方向には移動しにくく、又は、移動することができず、一方で、回転軸AXに近づく方向には、相対的に移動しやすいように構成されている。なお、鋸歯状波をなす垂直面又は傾斜面の第1方向に対する傾斜角度を調整することにより、移動を拘束する力を調整することができる。ただし、第1方向に対する垂直面の角度を、第1方向に対する傾斜面の角度より大きくすることによって、回転軸AXに遠ざかる方向への拘束力を相対的に大きくし、近づく方向への拘束力を相対的に小さくすることができる。例えば、ラチェット32が第1ラック22に係合した状態において、人力では第1アーム12を回転軸AXから遠ざかる方向に移動することはできないが、回転軸AXに近づく方向には移動することができる程度に、後述するラチェット32のばね35の圧縮力、傾斜面の角度等を設定することが好ましい。
【0030】
ラチェット32は、第1ラック22と第2ラック24の間に挿入される板状の部材である。ラチェット32は、第1ラック22及び第2ラック24と係合することにより、第1ラック22及びこれに接続される第1アーム12、並びに、第2ラック24及びこれに接続される第2アーム14の第1方向への移動を抑制するための部品である。
【0031】
ラチェット32の中央部には、第2方向に移動しても、ピニオン20と干渉することがないように貫通孔が形成されている。また、図6及び図7に示されるように、第2方向を向いた側面の中央部には、第2方向に突出する円筒状の凸部32Aが形成される。この凸部32Aと対向するように、ベース板34Bには、回転軸AX方向を向いた円筒状の凸部34B1が形成される。凸部32Aと凸部34B1は同軸及び同径に形成されているので、両者と係合するようにばね35を圧縮状態で挿入することによって、ラチェット32の凸部32Aが形成される側面を回転軸AXに向かう方向に押圧することができる。
【0032】
また、図6及び図7に示されるように、ラチェット32の第2方向端部には、第1ラック22と同じ高さとなるように、ラチェット32の主面から第3方向に立ち上がるように壁部32Bが形成される。壁部32Bの回転軸AX方向を向いた側面には、第1ラック22の第1端部22Bに形成される鋸歯状波と噛合可能なように、これと同ピッチで形成される鋸歯状波が形成される。
【0033】
更に、ラチェット32の第2方向を向いた他方の側面には、第2方向に突出する押圧部32Cが形成されている。この押圧部32Cは、ベース板34Bの表面から突出し、外部に露出する。
【0034】
以上のようなラッチ機構を備える結果、ラチェット32は、通常時は、ばね35によって、第2方向に押圧される。従って、ラチェット32の壁部32Bに形成された垂直面及び傾斜面が第1ラック22に形成された垂直面及び傾斜面とそれぞれ対向した状態で、ラチェット32は、第1ラック22に押し付けられる。その結果、第1ラック22の第1方向への移動、特に、第1アーム12が回転軸AXから離れる方向への移動が抑制される。このため、運搬物の搬送中に、第1アーム12が回転軸AXから離れる方向に移動することを抑制することができる。一方で、第1アーム12が回転軸AXに近づく方向への拘束力は相対的に小さいため、ラチェット32が第1ラック22に係合した状態であっても、人力で、第1アーム12を運搬物の側面に近づくように移動させることが可能になる。また、ばね35の圧縮力を上回る力で押圧部32Cを第2方向に押圧すれば、ラチェット32が第2方向に移動して、第1ラック22との係合が解除されるため、第1アーム12を回転軸AXから離れる方向に移動させ、運搬物をリリース等することが可能になる。
【0035】
第2ラック24は、第1ラック22と同様の機能を有する。このため、以下では、当業者に合理的に理解される部分について重複する説明を省略し、第1ラック22と異なる部分を中心に説明する。
【0036】
第2ラック24は、第1方向の一端部で第2アーム14を支持し、他端部でピニオン20のピニオンギヤと噛合することにより、ピニオン20の回転に伴って第2アーム14を第1方向に移動させるための部品である。第1ラック22と同様に、第2ラック24は、蓋体34Aとベース板34Bの間隙に挿入されるように支持される。ただし、互いに干渉しないように、第3方向について、第1ラック22と第2ラック24は異なる位置に挿入される。更に、第1ラック22と同様に、第2アーム14に接続される端部を含むベース部分24Aと、ベース部分24Aから二又に分かれ、平面視において、ピニオン20を挟み込むように、第1方向に沿って延在する第1端部24Bと、ピニオン20が配置される長孔を隔てて第1端部24Bと対向するように、第1方向に沿って延在する第2端部24Cを備える。ただし、第1ラック22と異なり、第1端部24Bに、ピニオン20のピニオンギヤと噛合するラック歯車24B1が形成されるので、ピニオン20の回転に伴う第1アーム12の移動方向と第2アーム14の移動方向を反対にすることができるとともに、第1方向に平行で回転軸AXを通過する平面に対する対称性を向上することができる。
【0037】
また、第1端部24Bの回転軸AXとは反対側を向いた面には、第1端部22Bと同様に、垂直面と傾斜面が周期的に設けられる鋸歯状波が側面24B2に形成される。ただし、図6に示されるとおり、第2アーム14並びに第2ラック24が回転軸AXから遠ざかる方向に移動することを妨げるために、垂直面は、第1ラック22に形成される鋸歯状波とは反対方向、即ち、第1方向にほぼ垂直で第2アーム14が回転軸AXから遠ざかる方向を向いた垂直面と、隣接する垂直面を接続する傾斜面を有するように形成される。
【0038】
同図に示されるように第2ラック24の側面24B2に形成される鋸歯状波と噛合するために、ラチェット32の第2方向端部には、第2ラック24と同じ高さとなるように、ラチェット32の主面から第3方向下方に立ち下がるように壁部32Dが形成され、壁部の回転軸AX方向を向いた側面には、第2ラック24の側面24B2に形成される鋸歯状波と噛合するように対応する傾斜角度及びピッチを有する鋸歯状波が形成される。
【0039】
また、第1端部24Cには、第1ラック22と同様に、第2ラック24に接続する第2アーム14が回転軸AXと最も遠ざかる位置及び最も近づく位置を規定するための、第2方向に突出する凸部24C1が形成されている。
【0040】
以上のような構成の結果、ラチェット32は、第1ラック22と同様に、第2ラック24が移動する第1方向と垂直な第2方向に押圧するので、第1ラック24の第1方向への移動、特に、第2アーム14が回転軸AXから離れる方向への移動を抑制する拘束力を強めることができる。このため、第1アーム12及び第2アーム14の間隔が広がりにくく、狭まりやすい構成を実現することができる。
【0041】
なお、第1ラック22と第2ラック24は、第3方向において異なる位置に配置されるため、ラック歯車22C1及びラック歯車24B1が形成される位置も、第3方向において異なる位置となる。このため、図5A及び図5Bに示されるように、ピニオン20の歯車が形成される部分20Aは、両者に噛合するために、第3方向に所定の厚みを有する。しかしながら、これに限られるものではなく、ラック歯車22C1及びラック歯車24B1を、第3方向について同じ位置に形成することにより、ピニオン20の歯車が形成される部分20Aの厚みを薄くしてもよい。また、歯車が形成される部分20Aを第3方向に二つに分離し、各部分に歯車を形成するようにしてもよい。
【0042】
また、ピニオン20は、第3方向に突出する軸部20Bを備える。このため、この軸部20Bをモータ等に接続することにより、ピニオン20を自動的に回転させることや、軸部20Bをハンドルに接続することにより、ピニオン20を手動で回転させるように構成することができる。なお、図4に示されるように、ピニオン20の周囲への粉塵等の混入を一層抑制するために、ピニオン20との干渉を回避するために第1ラック22に形成される長孔の面積は、上面側の方が、下面側よりも小さくなるように形成される。
【0043】
続いて、第3アーム16及び第4アーム18の間隔を調整する幅調整機構について説明する。但し、第1アーム12及び第2アーム14と同様の機能を発揮すると当業者に理解される部分については、説明を省略、又は、簡略化し、第1アーム12及び第2アーム14と異ななる部分を中心に説明する。なお、本実施形態においては、第1アーム12及び第2アーム14と、第3アーム16及び第4アーム18は、連動しておらず、それぞれ独立に移動することができる。ただし、これに限られるものではなく、全てのアームを同一、又は、連動して動作する複数の部品と係合させることにより、連動して動作するように構成してもよい。
【0044】
第3アーム16及び第4アーム18は、第1アーム12及び第2アーム14による運搬物の把持を補助し、特に運搬物が第2方向に移動することを抑制するために用いられる。このため、図1に示されるように、第3アーム16及び第4アーム18は、運搬物の第2方向を向いた側面に当接、又は、僅かな間隙で対向するための当接面を有する。
【0045】
図8は、第3方向に垂直で、第3アーム16に接続される第3ラック26及び第4アーム18に接続される第4ラック28の側面を通過する断面図(図2におけるD-D断面)である。図1に示されるように、第3ラック26及び第4ラック28は、水平に配置される2枚の板材であるベース板34Bとベース板34Cの間隙に挿入、支持される。
【0046】
第3ラック26は、第2方向の一端部で第3アーム16を支持し、他端部でピニオン21のピニオンギヤと噛合することにより、ピニオン21の回転に伴って、第3アーム16を第2方向に移動させるための部品である。同様に、第4ラック28は、第2方向の一端部で第4アーム18を支持し、他端部でピニオン21のピニオンギヤと噛合することにより、ピニオン21の回転に伴って、第4アーム18を第2方向に移動させるための部品である。ここで、ピニオン21は、ピニオン20の軸と、軸受け等を介して回転自在に支持されるため、回転軸AXを中心に、ピニオン20と独立して回転することができる。図に示されるように、第3ラック26は、第1方向に長手方向を有し、第2方向に短手方向を有する板状の部材であって、第3アーム16に接続される第3アーム16側端部を含むベース部分26Aと、他端部26Bを有する。他端部26Bの第1方向を向いた回転軸AXに対向する側面には、ピニオン21と噛合するためのラック歯車26Cが形成され、反対の側面には、ラチェット32の壁部32Eに形成される鋸歯状刃と噛合するための鋸歯状波が形成される。同様に、第4ラック28は、第4アーム18に接続される第4アーム18側端部を含むベース部分28Aと、他端部28Bを有する。他端部26Bの第1方向を向いた回転軸AXに対向する側面には、ピニオン21と噛合するためのラック歯車28Cが形成される。第4ラック28には、ラチェット32と係合するための鋸歯状波が形成されないが、第3ラック26の移動が抑制されると、ピニオン21が回転せずに静止し、第4ラック28の移動も抑制されるため、必ずしも双方のラックにラチェット32と係合するための構成を備える必要はない。また、回転軸AXを通過し第2方向に平行な平面で分割される一方の領域に第3ラック26を配置し、他方の領域に第4ラック28を配置するようにしたから、両者を第3方向について同じ位置に配置することができる。そのため、ピニオン21の第3方向の厚みを小さくすることができるとともに、上記平面に対する対称性を高め、把持機構10の重心を回転軸AXに近づけることができる。
【0047】
なお、ラチェット32は、押圧部32Cの押圧による第2方向への移動を、第1方向への移動に変換して、壁部32Eを第1方向に移動させるための機構を備えている。例えば、第3方向に突出するピンと、第2方向への移動が拘束され、第1方向にのみ移動可能な板状部材とを設けるとともに、この板状部材に、ピンに係合する貫通孔を第1方向並びに第2方向に対して傾斜する方向に延びるように形成すれば、ピンの第2方向への移動に伴って、板状部材を第1方向に移動させることができる。本実施形態では、このような板状部材を第3ラック26及び第4ラック28の第3方向下方に配置し、この板状部材から第3方向上方に突出するように壁部32Eを設けることにより、このような動作を実現した。このため、第3アーム16及び第4アーム18についても、広がりにくく、狭まりやすい構成を実現することができる。ただし、これに限られるものではなく、各移動方向に対して、別途ラチェットを設けるようにしてもよいし、ラチェットを設けなくてもよい。
【0048】
以上のような構成の把持機構10であれば、ピニオン20の回転により、第1アーム12と回転軸AXの距離及び第2アーム14と回転軸AXの距離を同一に維持したまま、両者の間隔を変更することが可能になる。このため、把持機構10の重心を大きく変動させず、回転軸AX付近に維持したまま、様々な大きさの運搬物を安定的に把持することが可能となる。なお、アームを移動させるための機構として、ラック・ピニオン機構以外の、回転運動を直線運動に変換する他の機構を適用してもよい。
【0049】
図9は、ピニオン20を回転駆動するためのモータ52を搭載した把持機構50を示している。ただし、その他の部分については、把持機構10と同様の構成を備えているため、同様の符号を付して詳細な説明は省略する。図10は、把持機構10及び把持機構50を無人航空機の一例であるドローンに取り付けるための取付フレーム60を示している。図11は、取付フレーム60を用いて、運搬物Pを把持する把持機構10をドローンDに取り付けた様子を示している。
【0050】
図9に示されるように、把持機構50は、ピニオン20の軸部20Bに接続されるモータ52を蓋体34A上に搭載している。また、ラチェット32の押圧部32Cを押圧するためのプランジャー54がベース板34B上に設置されている。そして、ドローンからの制御命令に従って、プランジャー54のピン54Aで押圧部32Cを押圧することによりラチェット32によるロックを解除し、また、モータ52を駆動して軸部20Bならびにピニオン20を回転駆動させることにより、第1アーム12及び第2アーム14を回転軸AXから離れる方向に移動するように構成されている。モータ52は、例えば、サーボ・モータならびに回転角度を検出するための角度センサ、モータ・ドライバや、ドローンと信号を送受信するためのインタフェース回路等が搭載された制御基板等を備えている。ただし、モータ52は、サーボ・モータに限られず、ステッピング・モータやDCモータ等を用いてもよい。また、モータ52を駆動するためのボタンを別途設け、運搬物を受け取る人がボタンを押圧することによっても、モータ52が駆動するように構成してもよい。例えば、押圧部32Cが押圧されて移動する位置(例えば、押圧部32Cの内壁に対向する蓋体34Aの側面)にそのようなボタンを設けておき、ラチェット32によるロックが解除されたときにのみ、第1アーム12及び第2アーム14が広がるように構成してもよい。
【0051】
図10は、取付フレーム60をドローンDのフレームD1及びD2に取り付けた様子を示す斜視図である。取付フレームの形状や構造は、使用する無人航空機の形態に応じて適宜変更可能である。本実施形態においては、ドローンDがフレームD1及びD2のような円柱状のフレームを備える場合に、そのフレームD1及びD2を4か所において、上下からボルトで固定することにより、取付フレーム60をドローンDに取り付けている。ここで、取付フレーム60は、回転軸AXを通過し、第1方向に平行な面に対して対称となるように、かつ、回転軸AXを通過し、第2方向に平行な面に対して対称となるように、第3方向に延びる4本の支柱60A乃至60D及び支柱同士を接続する梁60E乃至60Hを形成している。また、ドローンDとの4か所の取付位置並びに把持機構10のベース板34B上の取付位置も、同様に2つの平面に対し対称性を有している。このため、取付フレーム60を取り付けても、把持機構10又は把持機構50の重心位置が回転軸AX上から大きく離れることがない。
【0052】
図11は、このような取付フレーム60を用いて、運搬物Pを把持する把持機構10をドローンDに取り付けた様子を示している。静止時において、ドローンDの重心が回転軸AXを通過し、すなわち、ドローンDの重心を通過する鉛直線が回転軸AXと一致するように、把持機構10を取り付けることにより、重心が大きく損なわれることを抑制することができる。特に、ドローンDの取付冶具との取り付け位置がドローンDの重心を通過し、前方方向に平行な平面に対して、又は、ドローンDの重心を通過し、左右方向に平行な平面に対して、対称な位置となるようにすることで、ドローンDの飛行の安定性を向上させることができる。なお、一致とは完全に一致する場合に限られず、合理的な範囲で、一致する場合も含まれる。例えば、ドローンDが所定の中心軸に対して回転対称な複数のフレームと各フレームに取り付けられたプロペラを有するときに、その中心軸と回転軸AXが、合理的な範囲で概ね一致するような場合を含む。
【0053】
図12は、把持機構50をドローンに代表される無人航空機に取り付けてなる運搬物搬送装置における把持機構50の機能ブロック図を示している。図13は、このような運搬物搬送装置を用いて運搬物を運搬する際の把持機構50の動作フローチャートを示している。
【0054】
まず、ステップS1として、第1アーム12、第2アーム14、第3アーム16及び第4アーム18を最大限に開き、これらアーム間に運搬物を配置する。このステップについては、作業者が人力でラチェット32を解除し、アームを開くことも可能であるが、上述したように、モータ52を駆動するためのボタンを把持機構50に設置し、作業者がこのボタンを押し下げてモータ52を駆動させることにより第1アーム12及び第2アーム14を最大限に開くように構成してもよい。
【0055】
続いてステップS2として、運搬物の把持並びにラチェット32によるロックがなされる。このとき、たとえ、ステップS1において運搬物の中心が、回転軸AXからずれて配置されていたとしても、回転軸AXに対して等距離を維持したまま移動する第1アーム12及び第2アーム14で挟まれることにより、第1方向に対し、運搬物の中心が回転軸AXと概ね同じ位置となるように、運搬物が動かされる。同様に、第3アーム16及び第4アーム18によって、第2方向に対しても中心合わせがなされる。このステップは、ラチェット32が第1ラック22等と係合した状態で、人力により作業者が第1アーム12又は第2アーム18を回転軸AX方向に動かすことにより実行してもよいが、モータ52を駆動するためのボタン、又は、ドローンDからの命令に基づいて実行するようにしてもよい。そして、把持が完了した際に、ラッチ機構によりラチェット32が第1ラック22等と係合しているため、第1ラック22及びこれに接続される第1アーム12等の固定(ロック)も完了する。その後、自動運転の下、ドローンDは目的地に出発する。
【0056】
ステップS3に示されるとおり、モータ52の回転角センサにより、ピニオン20の回転角度は、検出される。たとえば、所定期間ごとに検出結果をドローンDに送信することにより、運搬物の運送中に、第1アーム12と第2アーム14の間隔が広がることを検出可能なように構成してもよい。
【0057】
ドローンDが目的地に到着すると、ステップS4の判断ステップにおいて、運搬物のリリースが許可され、ドローンDからの命令を受信するステップS5に移行する。
【0058】
そして、ステップS6において、ドローンDからの命令に基づいて、運搬物の把持及びロックが解除され、運搬物がリリースされる。具体的には、ドローンDからの命令に従ってプランジャー54のピン54Aが押圧部32Cを押下してラチェット32によるロックを解除し、また、モータ52を駆動して軸部20Bならびにピニオン20を回転駆動させることにより、第1アーム12及び第2アーム14を回転軸AXから離れる方向に移動させる。
【0059】
このとき、第1アーム12の当接面12B及び第2アーム14の当接面14Bは、運搬物の側面から離間するが、一方で押圧部品12C1及び14C1は、ばね12C2及び14C2によって当接面12B及び14Bから突出するように相対的に移動する。このため、ばね12C2及び14C2が自然長になるまで、押圧部品12C1及び14C1は、運搬物の押圧を継続する。例えば、運搬中の突発的な風の影響など、何らかの事情により運搬物の中心が回転軸AX上に位置しなくなると、第1アーム12等が離れた際に、運搬物が重い方に傾いてしまうため、第1アーム12及び第2アーム14が最大限に開いても、運搬物が把持機構50から分離せずに、なおも、第1アーム12等に接触してリリースすることができない可能性が生じる。運搬物の重心が回転軸AX上に存在しない場合も同様のリスクが生じる。しかしながら、本実施形態に係る把持機構50においては、押圧部品12C1及び14C1が、運搬物を回転軸AXが存在する中心側に押圧し、強制的にセンタリングするから、リリース時に運搬物が傾く現象を抑制することができる。
【0060】
以上のようなステップを経ることにより、運搬物を安定して運搬し、無人でリリースすることが可能になる。なお、第3アーム16及び第4アーム18は、運搬物の底面を支持していないので、運搬物が把持機構50からリリースされることを妨げることはない。
【0061】
なお、把持機構10等の把持機構は、無人の航空機に取り付けられる場合のほか、例えば、工場内を無人で移動して、荷物や部品等を搬送する自動運転車両に取り付けられてもよい。また、用途は、荷物の宅配等に限られるものではなく、例えば、人体に危害を及ぼす可能性がある危険地域や被災地における救援物資等の運搬に用いてもよい。
[変形例1]
【0062】
図14は、第1実施形態に示す把持機構10の変形例に係る把持機構70の斜視図である。ただし、同一若しくは同様の機能を発揮する構成要素については、一部共通する符号又は同様の名称を付して詳細な説明は割愛する。
【0063】
把持機構70は、第1アーム12-1に取り付けられる第3ラック26-1及び第4ラック28-1を備える。これら第3ラック26-1及び第4ラック28-1は、回転軸AX―2を中心に回転する不図示のピニオンに噛合するラック歯車を備えている。回転軸AX-2は、第1方向に平行であり、かつ、回転軸AXと垂直に交わる。このため、ピニオンを回転させることにより、回転軸AX-2と第3アーム16の距離と、回転軸AX-2と第4アーム18の距離を同一に維持しながら、これらアームを第2方向に移動させることができる。
【0064】
また、ピニオンの軸部20B-1に取り付けられるハンドル20C-1を備える。このため、作業者はハンドル20C-1を回転させることにより、容易に第1アーム12-1等を開閉することができる。なお、同様にピニオン21-1の軸部21B-1に同様にハンドルを設けてもよい。
【0065】
なお、回転軸AX-2に垂直で回転軸AXを通過する平面に対する対称性を向上させるために、第2アーム14-1を第1アーム12-1と同一構造とし、かつ、第3アーム16-1及び第4アーム18-1と同様に第2方向に移動して運搬物を把持するための第5アーム及び第6アームならびにこれらの幅調整機構を備えるようにしてもよい。また、ハンドル20C-1の下方に、軸部20B-1に接続するモータを配設し、、手動のみならず、モータでも、ピニオンを回転可能に構成してもよい。
[変形例2]
【0066】
図15は、第1実施形態に示す把持機構10の変形例に係る把持機構80の斜視図である。ただし、同一若しくは同様の機能を発揮する構成要素については、一部共通する符号又は同様の名称を付して詳細な説明は割愛する。
【0067】
把持機構80は、第3アーム及び第4アームを備えておらず、代わりに、不図示のベルトを用いて運搬物の底面を支持することができる。ベルトの長さは、運搬物の大きさに応じて変更することができる。ベルトを用いて運搬物の底面を支持することが可能になるので、運搬物をより安定して保持することができる。また、運搬物の形状が直方体ではない場合であっても、形状にあわせて運搬物を保持することができる。
【0068】
把持機構80は、ベルトを保持するためのベルトホルダ82及び84と、ベルトホルダ84を把持機構80に取り付けるためのラッチ機構86を備えている。ベルトホルダ82には、ベルトの幅にあわせた幅を有する孔82Hが形成されているので、ベルトの一端を孔82Hに通して固定することができる。同様にベルトホルダ84に形成された孔84H1にベルトの他端を通して固定することができる。ラッチ機構86には、ばねによって、第3方向下方に向かう力が作用する第1ピンと、第1方向の外側に向かう力が作用する第2ピンが内蔵されている。第1ピンには、ベルトホルダ84の挿入を容易にするために傾斜面が形成されている。従って、ベルトホルダ84の先端をラッチ機構86内に挿入すると、ベルトホルダ84先端の傾斜面が第1ピンの傾斜面に接触し、第1ピンは、ばねの弾性力に抗して、第3方向上方に押し上げられる。更に、ベルトホルダ84を挿入すると、第3方向に押し上げられた第1ピンが、ばねによって第3方向下方に移動し、孔84H2を貫通するように挿入される。このとき、第1ピンの先端は、第2ピンによって、第1方向外側に押圧されるように構成される。このため、ベルトホルダ84を把持機構80に取り付けることが可能になる。なお、ベルトホルダ84を取り外す際には、ベルトホルダ84を更に挿入して第2ピンを押し下げた状態で、第1ピンの係合が開放されるように、ベルトホルダ84を下方に動かせばよい。
【0069】
以上のような構成の把持機構70又は80においても、ハンドルならびにこれと一体的に回転するピニオンの回転により、第1アームと回転軸AXの距離及び第2アームと回転軸AXの距離を同一に維持したまま、両者の間隔を変更することが可能になる。このため、把持機構10の重心を大きく変動させず、回転軸AX付近に維持したまま、様々な大きさの運搬物を安定的に把持することが可能となる。
【0070】
なお、第1アーム及び第2アームを上方向に移動するようにしてもよい。このような構成として、第1アーム及び第2アームと、運搬物の上面をベース板34Cに近接して対向させることにより、高さが異なる運搬物でも、高さ方向について好適に運搬物を保持することができる。
【符号の説明】
【0071】
AX…回転軸、10…把持機構、12…第1アーム、14…第2アーム、16…第3アーム、18…第4アーム、20…ピニオン、20C…ハンドル、21…ピニオン、22…第1ラック、24…第2ラック、26…第3ラック、28…第4ラック、32…ラチェット、34A…蓋体、34B…ベース板、34C…ベース板、50…把持機構、52…モータ、54…プランジャー、60…取付フレーム、60…取付フレーム、70…把持機構、80…把持機構、82…ベルトホルダ、84…ベルトホルダ、86…ラッチ機構
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15